JP2005060923A - 絹様ポリエステル繊維及び布帛並びにそれらの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】絹と同様に優れた風合と外観を有する布帛。
【解決手段】溶液ヘイズが15以下のアルカリ溶液難溶解性ポリエステル成分A1とA1よりアルカリ溶解速度が若干大きな共重合ポリエステル成分A2とをブレンドしたアルカリ難溶解性ポリエステル成分A、及び成分Aの2倍以上の速度でアルカリに溶解される成分Bを複合紡糸して、断面が偏平度1.5〜3.5の楕円、断面における成分A領域が偏平度1.3〜6の楕円のポリエステル複合繊維を製造する。この複合繊維を布帛に加工してアルカリ処理を施し、成分Bを溶解・除去し成分A2を溶出させ、断面が偏平度1.3〜6の楕円、透過光量が190%以上のポリエステル繊維を30重量%以上含む布帛を製造する。布帛は絹様の色の深み、優雅なつや、きしみなど優れた風合を有する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、絹様ポリエステル繊維及びポリエステル布帛並びにそれらの製造方法に関する。詳しくは、優れた特性をもつポリエステル繊維もしくはポリエステル布帛に、天然の絹が有する風合いに同等、もしくは優れるとも劣らない魅力的な風合いを付加しようとするものである。
従来から、絹様のポリエステル繊維もしくは布帛を得るために、絹のもつ優雅な真珠様のつや(光沢)、きしみ(絹布帛同志の接触によって発生する特有の摩擦音、絹鳴り)、高発色性などを付与する様々な試みがなされた。たとえば、つやを絹に近付ける手段としては、前記布帛に使用されるポリエステル繊維に透明な基質を用い、絹に近い三角断面糸にする手段がとられた。また、絹様のきしみ感を得るために花弁の頂点に1μm程度の微小な切込みを入れた三花弁断面糸が登場した。微粒子を添加して繊維表面を粗面化したり、表面に樹脂加工を施して低屈折率化したり、細繊度糸を用いたりして布帛の色の深みを増すことも行われている。さらに、鮮やかな発色を得るためにはカチオン可染糸やアニオン可染糸を用いる手段も提案された。
特開昭59−021723号公報 繊維学会編.「繊維便覧」.第2版.丸善(株).平成6年3月. p132−135
前記の各手段により、ポリエステル繊維もしくは布帛は可なり改良されて絹の感性に近いものが得られるようになってきた。しかし、いずれも満足な光沢が得られなかったり、反射光が強すぎたり、また、十分なきしみ感が得られなかったり、つやがなくなったり、色が浅すぎたり、強度低下により耐磨耗性が劣化するなどの問題があって、風合や外観などの点でまだまだ絹に及ぶものではなかった。本発明者は、絹と同様に、もしくはそれ以上に優れた風合や外観などを有するポリエステル布帛を課題に研究した結果、本発明を完成したものである。
本発明は、前記の課題を解決する手段として、実質的に溶液ヘイズ(ポリマーの曇値パラメータ)が15を超えないポリエステル成分(A1)を用いて製造された、繊維断面が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円に形成され、透過光量が少なくとも190%であるポリエステル繊維及び前記繊維を含むポリエステル布帛が絹様であって優れた風合いを有することを見出し、それらの製造方法とともに完成されたものである。本発明における偏平度に関し、「実質的に」の意味は、断面形状が完全な楕円形状を形成しているとは限らないので、その形状を楕円に近似させて求めた偏平度を意味する。
具体的には、本発明の絹様ポリエステル繊維は、繊維断面が、溶液ヘイズが15を超えないアルカリ難溶解性のポリエステル成分(A1)と前記成分(A1)に比較すればアルカリ溶解速度が若干大きな難溶解性の共重合ポリエステル成分(A2)とをブレンドした、アルカリ難溶解性成分(A)からなる領域、及び前記アルカリ難溶解性成分(A)の少なくとも2倍の速度でアルカリに溶解され除去されるアルカリ易溶性成分(B)からなる領域から構成され、かつ、断面形状が実質的に偏平度1.5ないし3.5の楕円であって、アルカリ難溶解性成分(A)領域の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円に形成されたポリエステル複合繊維から、成分(B)を溶解・除去し共重合ポリエステル成分(A2)を溶出することによって得られる、繊維断面の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円であって透過光量が少なくとも190%であることを特徴とする絹様ポリエステル繊維である。また、絹様の布帛は、前記の絹様ポリエステル繊維を30重量%以上含む布帛である。前記ポリエステル複合繊維の断面形状は、成分(B)の領域が連続相を形成する中に、前記楕円形状の成分(A)領域が複数に分散して形成されていてもよい。なお、本発明でいうアルカリ溶解・除去、アルカリ易溶性等の意には、アルカリによるポリエステエルの加水分解を含む。
本発明に係る絹様のポリエステル繊維及び布帛は、ポリエステル繊維の優れた特性を維持しつつ、天然の絹に優れるとも劣らない優雅な風合、外観的な良さを有する。とくに、絹様の色の深みや鮮やかさ、優雅なつや、きしみなどに特長がある。
はじめに、本発明を説明するに際して用いる、布帛もしくは布帛を構成する繊維等の特性値の内容を以下に説明しておく。
(1)溶液ヘイズ
ポリエステルチップまたはポリエステル繊維を十分に洗浄して油剤を除去した試料1gを、フェノール:四塩化炭素の容量比が3:2の混合液10mlに100℃で溶解し、直読式のヘイズメータ(スガ試験機(株)製)で10mmのセルを用いて測定した数値から次式により算出した。
HAZE=(Td/Tk)×100
ただし、Td:拡散光透過率 Tk:全光線透過率
(2)アルカリ溶解速度
ホモポリマーからなるポリエステル糸または布帛を基準物質とした。秤量した基準物質および測定対象物質のサンプルを、液温度98℃に保持した3重量%水酸化ナトリウム水溶液中に、浴比1:50で90分間、浸漬し、浸漬開始後10分ごとにサンプルを取り出して水洗、乾燥、秤量してサンプルの減量を測定した。10分単位でサンプルの減量速度を求め、各時間単位ごとに基準物質の減量速度を100%として測定物質の減量速度を%で表示し、90分間の平均値を測定物質の減量速度とした。
(3)透過光量
40mmに切断した未染色のポリエステル単糸(原糸または布帛の分解糸)を10本準備し、デニール当り0.1gの荷重をかけた状態で、両端を40mm角、中抜部が30mm角の紙枠に並べて接着した。顕微光沢計(MODEL JSL−11:城南製作所(株)製)を用いて単糸の表面に光を当てて通過させ、通過光量(%)を1本ごとに測定した。10本の平均値を透過光量とした。
(4)偏平度
顕微鏡を用いて測定した単糸断面の短軸長さに対する長軸長さの比率を偏平度とした。対象断面形状が完全な楕円でない場合には、楕円に近似させて測定した。
さて、本発明に係る絹様ポリエステル繊維及び絹様の布帛並びにそれらの製造方法を実施形態例をあげつつ、具体的に説明する。本発明に係る絹様ポリエステル繊維及び布帛は、所要のポリマーを直接紡糸して製造し布帛に加工するのではなく、以下に説明する製造方法、すなわち一旦複数のポリエステル成分からなるポリエステル複合繊維を紡糸して本発明ポリエステル繊維の基本的形態を形成した後、必要があればさらにポリエステル複合繊維のまま布帛に加工した後、紡糸に利用した複合繊維の不要部分を溶解・除去して製造することにより、容易に製造することができる。
まず、前記のポリエステル複合繊維は、繊維断面が、溶液ヘイズが15を超えないアルカリ難溶解性のポリエステル成分A1と前記成分A1に比較すればアルカリ溶解速度が若干大きなアルカリ難溶解性の共重合ポリエステル成分A2とをブレンドした、アルカリ難溶解性成分Aからなる領域、及び前記アルカリ難溶解性成分Aの少なくとも2倍の速度でアルカリに溶解され除去されるアルカリ易溶性成分Bからなる領域から構成されている。そして、前記複合繊維の断面形状は実質的に偏平度1.5ないし3.5の楕円であって、アルカリ難溶解性成分A領域の形状は実質的に偏平度1.3ないし6の楕円に形成されている。
このポリエステル複合繊維から、アルカリ溶液を用いて成分Bを溶解・除去し共重合ポリエステル成分(A2)を溶出するすることによって、繊維断面の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円であって透過光量が少なくとも190%の絹様ポリエステル繊維を製造することができる。
まず、前記のポリエステル複合繊維を構成する各成分について説明する。本発明のポリエステル複合繊維に成分Aとして使用するポリエステル成分A1は、実質的に本発明のポリエステル繊維あるいはポリエステル布帛を構成する成分でもある。ポリエステル成分A1としては、通常、要求されるのと同様の製糸性、強度特性などのほかに、他方の複合成分Bに較べてアルカリ処理により溶解され難く、溶液ヘイズが15を超えないものを使用する。溶液ヘイズの下限は一般的に1程度である。溶液ヘイズは低いほど、繊維あるいは布帛に加工した後、鮮やかな色に染色される傾向があり、一般的には鮮明性やつやがよくなる10以下のホモポリマーポリエステルを好ましく用いることができる。代表的なポリエステル成分A1として具体的には、ポリエステルフィルムやペットボトルの素材に使用される高透明性のポリエステルがあげられる。
つぎに、ポリエステル成分A1にポリマーブレンドして用いられることのできる共重合系ポリエステルポリマーA2としては、ポリエステル成分A1と比較して若干アルカリ溶解速度が速い他は同じ様な特性が求められ、従って成分Bに較べてアルカリ溶解速度が半分以下の共重合ポリエステルの殆どを使用することができる。とくに、ポリエステル成分A1との相溶性にすぐれ、製糸性、糸物性が安定する点において、ナトリウムスルホイソフタル酸またはポリテトラメチレングリコールをポリエチレンテレフタレートに対し4〜8モル%含む共重合ポリエステルが好適である。ブレンドには通常のポリマーメルトブレンド方式、チップブレンド方式などを利用すればよい。ポリエステル成分A1に、成分A1よりもアルカリ溶解速度が若干速いポリエステルポリマーA2をブレンドすることにより、アルカリ処理によってポリエステルポリマーA2部分が溶出し、得られるポリエステル繊維の表面に繊維軸方向のシャープな条痕を形成することができる。透過光量は大きい程よいが、通常、ブレンド量が少ないので、ポリエステル成分A1程には高透明度でなくともよい。
また、ポリエステル複合繊維を構成する他方の複合成分Bは、アルカリ溶解速度において同時に使用する成分Aの少なくとも2倍必要であり(ただし、成分Bが複数の場合には成分A中アルカリ溶解速度の最も早い成分に対する成分B中の最も遅い成分の倍率)、4倍以上が好ましい。複合成分Bの成分Aに対するアルカリ溶解速度の上限は1000倍程度である。成分Bとして具体的には、たとえば、ナトリウムスルホイソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、アゼライン酸などの酸成分、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ブタンジオールなどのジオール、ビスフェノールなどを、ポリエステルに対して、少なくとも2モル%共重合させた共重合ポリエステルをあげることができる。これらの共重合ポリエステルは、他のポリエステル成分と複合紡糸しやすい点から好ましく用いられる。とくにナトリウムスルホイソフタル酸またはポリエチレングリコールを3〜8モル%共重合したものが、製糸性、強度、伸度の点で好ましく用いられる。これらの共重合ポリエステルの複数種を混合して用いることもできる。
前記のポリエステル複合繊維には、必要により、本発明に係るポリエステル繊維の透過光量が190%を下回るようなことのない範囲で、他の成分を添加することもできる。
次に、前記ポリエステル複合繊維の代表的な断面形状について、図面を参照して説明する。図1ないし図4は、いずれもポリエステル複合繊維の断面を示す模式図である。ポリエステル複合繊維の断面形状は、実質的に偏平度が1.5ないし3.5の楕円である。好ましくは1.6ないし3の楕円に形成する。楕円形状を採用することにより、繊維断面に方向性を生じ、図5(a)に示されるように、織物などの布帛に加工した際、長軸方向が布帛面に平行になりやすく繊維断面を所望の方向を揃えることができるからである。偏平度が小さすぎると繊維断面の方向を揃えるのが困難になり、深い色も得られにくく、大きすぎると偏平な風合になって好ましくない。
ポリエステル複合繊維の単糸繊度は、通常、2ないし10デニールであり、好ましくは、3ないし8デニールである。繊度が小さすぎると十分な発色性が得られにくく、風合も通常の用途には柔らか過ぎる。繊度が大きすぎると、風合が硬くなって好ましくない。これらのポリエステル複合繊維は、一般にマルチフィラメントとして使用される。
さらに、成分A領域の好ましい断面形状や配列について説明する。本発明のポリエステル複合繊維では、通常、成分B領域を連続相に、成分A領域を分散相に形成する。成分A領域の断面形状は、好ましくは、実質的に偏平度1.3ないし6の、さらに好ましくは1.5ないし4.5の楕円形状に形成する。成分A領域は、一ヶ所に設けても(図4に例示)、数ヶ所に分散して設けても(図1ないし3に例示)よい。これらの断面形状や配列を適宜に選択し、設計することにより、後述のように、ポリエステル複合繊維から、成分Bを溶解、除去して得られるポリエステル繊維あるいはポリエステル布帛に、所望の絹様の風合を付与することができるのである。なかでも、図1又は図4に例示される形態のものが、絹様の風合を付与するのに好適である。
たとえば、成分B領域を連続相として複数の成分A領域を分散して繊維断面の長軸方向と成分A領域の長軸方向とが交差するように配列したポリエステル複合繊維を用いて製織し、成分B領域を除去することにより、細繊度による光学的な効果を得つつ、腰のある絹様のポリエステル織物にすることができる。すなわち、図5に模式的に示されるように、楕円形状のポリエステル複合繊維を使用して製織すると、織物中の楕円断面繊維は自然に長軸を織物面に平行な状態にして落着く性質がある。従って、成分A領域を楕円に形成してその長軸方向をポリエステル複合繊維断面の長軸方向に交差して配列しておけば、アルカリ処理を施して、成分Bを溶解、除去することにより、楕円形状のA成分が長軸方向を織物面に交差した状態で残され、絹様であって曲げに対し腰のあるポリエステル織物にすることができる。本発明ポリエステル繊維は、断面が楕円形状であるためソフトな割に腰のある布帛を得ることができる。
本発明ポリエステル繊維の偏平度は1.3ないし6であって、なかでも1.5ないし4.5が好適である。偏平度が小さすぎると深い色が得られにくく、大きすぎると偏平な風合になる。単糸繊度は、通常、1.5ないし8デニール、好ましくは2.5ないし6.5デニールのものを用いる。繊度が小さすぎると発色性が十分でなくなり、柔らかすぎる風合になる。大きすぎると剛性が大きくなって硬い風合になる。前記の範囲内では風合が絹に近くなる特長があり、絹様の布帛を得るのに好適である。前記のポリエステル複合繊維を利用して構成成分のうちの成分Bの部分をアルカリ処理により除去すれば、この様なポリエステル繊維を容易に製造することができる。
また、絹様のポリエステル繊維として好ましく利用するためには、透過光量が少なくとも190%であることが望ましい。一般に透過光量が高ければ染色した色が鮮やかになる傾向がある。220%に達するものは鮮明性とつやにすぐれ、とくに230ないし250%のものが好ましい。
さらに絹様の風合いを強くするために、前記のポリエステル繊維の表面に幅が0.08ないし1.5μm、深さが0.08ないし0.9μmの、好ましくは、幅が0.15ないし1μm、深さが0.18ないし0.7μmの条痕を繊維軸方向に形成しておくことが望ましい。絹のきしみ感を生じやすくする。布帛に加工し使用したときに単糸が相互に触れ合う際のミクロ的な摩擦効果が増大するためと考えられる。表面に前記の条痕を形成するには、成分Aに、ポリエステルA1と共重合ポリエステルA2とをブレンドした成分を用いたポリエステル複合繊維を利用し、適当なアルカリ処理を施して、成分Bを溶解・除去し領域A表面部分の成分A2を溶出させれば、容易に製造することができる。きしみ感・条痕の程度は、多くの場合経験的に、ブレンド成分A1、A2及び成分Bの種類、成分Aにおける成分A2の含有率、アルカリ処理条件等を調整することによって決められる。本発明ポリエステル繊維は、短繊維としても、長繊維としても利用することができるが、通常、マルチフィラメントの形態で布帛にする。
布帛に前記の本発明絹様ポリエステル繊維を用いて絹様の風合いを奏させるためには、布帛の少なくとも30重量%、好ましくは40ないし100重量%含有させるとよい。本発明ポリエステル布帛は、絹様の風合とポリエステルの機能性とを併せもつので、極めて優れた布帛として各種の用途に広く使用することができる。残りの繊維としては、合成繊維、天然繊維を問わず、使用目的によって、従来のポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、綿、羊毛、絹などの中から選んで用いることができる。
本発明のポリエステル繊維、もしくは布帛を製造するには、まず、溶液ヘイズが15を超えないアルカリ溶液には難溶解性のポリエステル成分A1と前記成分A1に比較すればアルカリ溶解速度が若干大きな共重合ポリエステルA2とをブレンドした、アルカリ処理により溶解され難いポリエステル成分A、及び前記成分Aの少なくとも2倍の速度でアルカリに溶解される成分Bを複合紡糸して、ポリエステル複合繊維を製造する。前記のポリエステル複合繊維は、断面形状を実質的に偏平度1.5ないし3.5の楕円とし、繊維断面における成分A領域の形状を実質的に偏平度1.3ないし6の楕円に形成しておく。前記複合繊維の製造方法に特別な制限はない。
このポリエステル複合繊維をアルカリ溶液を用いてアルカリ易溶性成分(B)を溶解、除去し必要な程度に成分A2を溶出させれば、繊維断面の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円であって透過光量が少なくとも190%の本発明ポリエステル繊維を製造し、所要の布帛に加工することができる。しかし、通常は、前記のポリエステル複合繊維を用い必要があれば他の繊維と交織、交編して目的の形状の布帛に加工しておく。そして、加工された布帛にアルカリ水溶液を用い、アルカリ処理を施してアルカリ易溶性成分Bを溶解、除去し必要な程度に成分A2を溶出させれば、実質的にポリエステル成分A1で構成された本発明ポリエステル繊維を含む布帛を製造する。絹様の効果を奏させるためにこれらの布帛における本発明ポリエステル繊維の含有率は30重量%以上にしておくことが望ましい。
さらに、本発明を具体的に、図1ないし4に記載の実施形態例について説明する。なお、各図中、(a)は本発明ポリエステル複合繊維の例、(b)は(a)をアルカリ処理して得られる本発明ポリエステル繊維(ポリエステル布帛として評価した)の断面を示す。また、説明中に示した成分比率などの数値は、発明者が実施した試験例を参考にして示したものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
(1)図1−(a)および(b)
(a)の例は、高透明性ポリエステル成分A1(ホモポリエステル)を90〜60重量%に共重合ポリエステル成分A2を10〜40重量%をポリマブレンドさせたものを成分Aとして80〜60重量部と、A2よりもアルカリ溶解速度が40〜80倍速いアルカリ易溶解性ポリエステルの成分Bを20〜40重量部とを複合紡糸して得られたポリエステル複合繊維であって、平均偏平度は約1.8であった。
(b)は、前記(a)のポリエステル複合繊維を布帛にした後、3重量%水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリ処理し、選択的に成分Bを溶解・除去し成分A2を溶出して得られたポリエステル繊維を示す。なお、A成分領域の偏平度は約1.4であった。本形態例では、成分A領域が2体直立しているので、両者の間に上部からの光が取り入れられ、光のトンネルができることになり、立毛効果(ビロード効果)を生じ、色の深みが最大限に発揮された。なお、高透明性ポリマA1を用いることにより、色の彩やかさと絹様のつやが、また共重合ポリエステルA2をポリマブレンドすることにより、表面に軸方向の微細な条痕が形成されて、絹様のキシミ感、風合を得ることができた。
(2)図2−(a)(b)
図1の例と同様にしてB成分を溶解、除去後のポリエステル布帛(図2−(b))では、平均偏平度が大きく、約2.5であったために、サラサラした清涼感が得られた。
(3)図3−(a)(b)
同様にして得られた本例ではデニールミックス効果により単糸の染色性が異なり、優雅な色合いと微妙な絹様風合を表現できるものが得られた。
(4)図4−(a)(b)
成分A領域表面に0.8〜1.0μmの条痕をもつ13花弁のグループ複合繊維(a)を製造した。成分Bをアルカリ溶解、除去し成分A2を溶出して得られたポリエステル布帛は、この条痕の間に光が吸収され、色の深みが大きく発揮できるものであった。さらに、細かな条痕が形成されているので、キシミ感のほかに真珠様のつやが創出されていた。
さらに本発明の実施例と比較例をあげで具体的に詳しく説明する。まず、これらの実施例において用いた評価方法を説明する。
(1)反射光量
3次元変角光度計(MODEL JSG−21:城南製作所(株)製)を用いて測定した。入射角45度、反射角45度の条件で測定し、マグネシウム白板の反射光量を100%とする、未染色ポリエステル布帛の反射光量(%)を表示した。光沢の度合いが大きい布帛は反射光量が大きくなる。
(2)色の深み
色差計(カラーコンピュータSM−3:スガ試験機(株)製)を用いてポリエステル布帛の明度;L値(%)を測定した。色が深いほど値は小さくなる。
(3)色の鮮かさ
色差計(カラーコンピュータSM−3:スガ試験機(株)製)を用いてポリエステル布帛のa値とb値とを測定し、(a2+b2)1/2の値を算出して、彩度(%)とした。色が鮮やかになるほど彩度は大きくなる。
(4)風合
a)キシミ感
ポリエステル布帛をたて糸方向に、幅4.5cm、長さ12cmに切断した布帛片をサンプルS1とし、幅5cm、長さ15cmに切断した布帛片をサンプルS2とした。サンプルS2を測定台に固定してサンプルS1をのせ、さらにサンプルS1 に1cm当り30gの測定荷重(板)をのせ、荷重をのせたままサンプルS1 をインストロン引張試験機(インストロンジャパン(株)製)を用いて水平方向に5mm/分の速度で引張り、摩擦抵抗応力を測定した。付着(スティック)と滑り(スリップ)とが交互に繰返されるために、摩擦抵抗応力の測定値をチャート上に記録すると鋸歯状の波形になった。波形の安定部分で波の頂部と底部との差、すなわちスティック−スリップ値(g)を測定した。布帛と布帛との間の摩擦、すなわちキシミ感が大きいほど、スティック−スリップ値が大きくなる。
b)触感風合
5人の測定者に、布帛に触ってソフトで高反発性(こし)のある布帛を良とする5段階評価をさせ、その平均値を求めた。
(6)繊維の表面溝の観察
アルカリ処理し仕上げた繊維の表面を走査型電子顕微鏡(SEM−S2300:日立製作所(株)製)を用い、倍率1500〜2000で、10か所における条痕の幅(μm)と深さ(μm)とを測定し、その平均値を求めた。
実施例1
成分Aとして、溶液ヘイズが2.7の高透明性ポリエステルホモポリマーチップ(成分A1)70重量部に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸4.2モル%をポリエチレンテレフタレートに共重合した共重合ポリエステルチップ(成分A2)30重量部をポリマーブレンドしたポリエステルを用いた。この成分A75重量部に、成分A(A1+A2)に対し、アルカリ溶解度が45倍速いアルカリ易溶性ポリエステル(5−ナトリウムスルホイソフタル酸を4.8モル%とイソフタル酸を2.0モル%とをポリエチレンテレフタレートに共重合させた共重合物)を成分Bとして25重量部を用い、複合紡糸して繊維断面が図1−(a)のような複合繊維を得た。複合紡糸には、偏平度が2の楕円断面の口金孔を用い、成分Aを2ヶ個の楕円の吐出口から、成分Bを成分Aの吐出口の周囲から同時に吐出させ(ホール数15)、紡糸温度289℃、紡糸速度1300m/分で複合紡糸した。さらに、紡糸した未延伸糸を、延伸速度800m/分で90℃のホットロールと130℃の熱板の方式により、4倍に延伸した。
延伸したポリエステル複合糸(繊維)の特性は、総繊度75デニール、フィラメント数15、単糸繊度5デニール(ただし、成分A領域の単糸繊度:1.88デニール、フィラメント数:2)であった。また、沸騰水収縮率(JIS−L1013B法による)は8.5%、乾熱収縮率(160℃:JIS−L1013B法による)は12.4%、複合糸の透過光量は238%であった。
ついで、得られたポリエステル複合糸75デニールをたて糸に、よこ糸には得られたポリエステル複合糸を双糸(150デニール)にして、たて糸密度120本/インチ、よこ糸密度82本/インチの平織物に製織した。得られた平織物を常法でリラックス精練して中間セットし、アルカリ減量加工した。アルカリ処理には、水酸化ナトリウム3重量%水溶液を用い、浴比を1:50にして90℃、30分の処理を行い、乾燥し、本発明のポリエステル布帛を製造した。アルカリ減量率は27.2重量%、複合繊維中の成分B(25%含有)は完全に溶解、除去されていた。さらに、製造したポリエステル布帛を、赤の分散染料(Sumikaron Brill. Red S−2BL:住友化学(株)製)4.8%owfを用い、180℃下、60分間染色し、仕上げた。仕上た布帛は、たて密度131本/インチ、よこ密度89本/インチであった。
染色し、仕上げたポリエステル布帛を評価したので、結果を表1に示す。なお、透過光量および反射光量は染色前のポリエステル布帛で評価し、その他は染色仕上後の布帛で評価した。表1から明らかなように、本発明ポリエステル布帛は、透過光量が高く、反射光量が適宜に制御されていて、絹様のつやがあり、また、色が深く、色が鮮やかな素晴らしい発色を呈していた。そして、絹様のキシミ感がありソフトで反発性にすぐれた、機能と風合を兼備する赤色ポリエステル平織物であった。
比較例1
溶液ヘイズが43のホモポリマーポリエステルを用いて製造した、従来タイプの三角断面のポリエステル単独糸(シルック:東レ(株)製)の75デニール、36フィラメント(単糸繊度2.1デニール)をたて糸に用い、よこ糸にも同じ単独糸を双糸(150デニール)に用いた他は実施例1と同様にしてポリエステル平織物を製織した。ついで、水酸化ナトリウム5重量%水溶液を用い、98℃、45分間アルカリ減量処理を施した以外は、実施例1と同様にして染色し仕上げた。アルカリ減量率は20.2%であった。評価した結果を表1に示す。表1から明らかなように、比較例1で得られた布帛は、ギラギラした金属調の光沢を有し、発色性および風合は平凡なものであった。
実施例2
ポリエステル複合繊維の成分A領域の断面形状を、図5−(a)に示される13花弁にしたことを除いて、実施例1と同じ成分を使用し、複合紡糸した。紡糸し未延伸糸を、延伸速度80m/分、90℃のホットロールと140℃の熱板方式により、3.8倍に延伸した。得られたポリエステル複合繊維の特性は、総繊度50デニール、12フィラメント、単糸繊度4.2デニール、沸騰水収縮率が9.2%、乾熱収縮率が13.4%、透過光量が232%であった。
ついで、得られた50デニールの複合糸をたて糸およびよこ糸に用いてツイル織物に製織した。生機密度はたて糸密度が115本/インチ、よこ糸密度が103本/インチであった。さらに、常法により、リラックス精練、中間セットし、アルカリ減量加工を行った。処理条件は、水酸化ナトリウム3重量%水溶液を用い、98℃、25分、浴比1:50で行い、乾燥し、本発明のポリエステル布帛を製造した。アルカリ減量率は27.3%であった。複合繊維の成分Bは完全に溶解、除去されていることを確認した。
次に、このポリエステル布帛に、黒の分散染料(Dianix Black BG−FS:ダイスタージャパン(株)製)13%owfを用いて、135℃、30分間染色し、洗浄し、仕上げた。仕上げた染色布帛のたて糸密度は129本/インチ、よこ糸密度は113本/インチであった。染色布帛の単糸断面形状は13花弁であって、大きな凹凸部の溝幅は0.92μm、溝の深さは0.98μmであった。大きな凹凸の他に繊維の周囲には微細な条痕が観察された。条痕の寸法を、評価結果とともに表1に併記した。染色したツイル織物は、絹並もしくはそれ以上のつやと高発色性の黒色が得られていた。風合はキシミ感のほかに、花弁断面による清涼なドライな風合で、特長のある織物であった。
比較例2
高透明ポリエステル成分A1のみを用いて成分A領域を形成させた以外は、実施例2と同様にしてポリエステル複合繊維の複合紡糸し、延伸した。得られたポリエステル複合繊維は、沸騰収縮が8.6%、乾燥収縮が12.4%、透過光量が239%であった他は、実施例2で得られたポリエステル繊維と同じであった。実施例2と同様にツイル織物に製織し、得られた布帛にアルカリ減量処理を施した。その結果、アルカリ減量率は26.2%であった。さらに、実施例2と同様にして黒色に染色し、黒色ポリエステルサテン織物に仕上げた。仕上げた染色布帛のたて糸密度は127本/インチ、よこ糸密度は110本/インチであった。
染色布帛の単糸断面形状は13花弁であって、大きな凹凸部の溝幅は0.92μm、溝の深さは0.98μmであった。しかし、実施例2で得られたポリエステル布帛の繊維表面に見られた微細な条痕は観察されなかった。
比較例3
実施例2と同じ成分を使用し、断面形状を実施例2の楕円断面に代えて、丸断面、成分A領域を13花弁としたポリエステル複合繊維を紡糸し、延伸してポリエステル複合繊維を製造した。このポリエステル複合繊維を実施例2と同じようにサテン織物に製織し、アルカリ減量処理を施し、ポリエステルサテン織物に加工した。得られたポリエステルサテン織物に実施例2と同じく黒色染色を行い、仕上げた。布帛の評価結果を表1に示す。
比較例4
成分A領域に成分A1を単独で用いたほかは、比較例3と同様にして、丸断面、成分A領域を13花弁としたポリエステル複合繊維を紡糸し、延伸し、実施例2と同様に製織し、アルカリ減量処理を施し、ポリエステルサテン織物に加工した。得られたポリエステルサテン織物に実施例2と同じく黒色染色を行い、仕上げた。布帛の評価結果を表1に示す。
Figure 2005060923
本発明のポリエステル繊維を少なくとも30重量%、好ましくは40ないし100重量%含有する本発明ポリエステル布帛は、絹様の風合とポリエステルの機能性とを併せもつので、極めて優れた布帛として各種の用途に広く使用することができる。残りの繊維としては、合成繊維、天然繊維を問わず、使用目的のよって、従来のポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、綿、羊毛、絹などの中から選んで用いることができる。
(a)本発明ポリエステル複合繊維の断面形状例 (b)アルカリ減量処理後の断面形状 同上 同上 同上 (a)本発明ポリエステル複合繊維からなる織物の断面形状と(b)アルカ リ減量処理後の織物の断面形状の一例
符号の説明
A:アルカリ処理により溶解され難い成分領域
A1:高透明度ポリエステル
A2:共重合ポリエステル
B:アルカリ処理により溶解され難い成分領域

Claims (5)

  1. 繊維断面が、溶液ヘイズが15を超えないアルカリ難溶解性のポリエステル成分(A1)と前記成分(A1)に比較すればアルカリ溶解速度が大きなアルカリ難溶解性の共重合ポリエステル成分(A2)とをブレンドした、アルカリ難溶解性成分(A)からなる領域、及び前記アルカリ難溶解性成分(A)の少なくとも2倍の速度でアルカリに溶解され除去されるアルカリ易溶性成分(B)からなる領域から構成され、かつ、断面形状が実質的に偏平度1.5ないし3.5の楕円であって、アルカリ難溶解性成分(A)領域の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円に形成されているポリエステル複合繊維から、アルカリ溶液を用いて成分(B)を溶解・除去し、成分(A2)を溶出させることによって得られた、繊維断面の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円であって透過光量が少なくとも190%であることを特徴とする絹様ポリエステル繊維。
  2. 幅が0.08ないし1.5μm、深さが0.08ないし0.9μmの条痕が、繊維表面の繊維軸方向に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の絹様ポリエステル繊維。
  3. 請求項1又は2に記載の絹様ポリエステル繊維が、30重量%以上含まれていることを特徴とする絹様のポリエステル布帛。
  4. 溶液ヘイズが15を超えないアルカリ溶液には難溶解性のポリエステル成分(A1)と前記成分(A1)に比較すればアルカリ溶解速度が若干大きな共重合ポリエステル成分(A2)とをブレンドした、アルカリ処理により溶解され難いポリエステル成分(A)、及び前記成分(A)の少なくとも2倍の速度でアルカリに溶解される成分(B)を複合紡糸して、断面形状が実質的に偏平度1.5ないし3.5の楕円に、繊維断面における成分(A)領域の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円に形成されたポリエステル複合繊維を製造し、前記のポリエステル複合繊維をアルカリ溶液を用いてアルカリ易溶性成分(B)を溶解、除去し共重合ポリエステル(A2)を溶出させて、繊維断面の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円であって透過光量が少なくとも190%の繊維とすることを特徴とする絹様ポリエステル繊維の製造方法。
  5. 溶液ヘイズが15を超えないアルカリ溶液には難溶解性のポリエステル成分(A1)と前記成分(A1)に比較すればアルカリ溶解速度が若干大きな共重合ポリエステル成分(A2)とをブレンドした、アルカリ処理により溶解され難いポリエステル成分(A)、及び前記成分(A)の少なくとも2倍の速度でアルカリに溶解される成分(B)を複合紡糸して、断面形状が実質的に偏平度1.5ないし3.5の楕円に、繊維断面における成分(A)領域の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円に形成されたポリエステル複合繊維を製造し、製造したポリエステル複合繊維を布帛に加工した後、前記布帛にアルカリ処理を施してポリエステル複合繊維中のアルカリ易溶性成分(B)を溶解、除去し共重合ポリエステル成分(A2)を溶出させて、繊維断面の形状が実質的に偏平度1.3ないし6の楕円であって透過光量が少なくとも190%のポリエステル繊維を30重量%以上含む布帛にすることを特徴とする絹様ポリエステル布帛の製造方法。
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