光偏向素子に関する技術について、まず、特許文献1では、光空間スイッチの光の損失を低減することを目的に、人工複屈折板からなる光ビームシフタが提案されている。内容的には、2枚のくさび形の透明基板を互いに逆向きに配置し、該透明基板間に液晶層を挟んだ光ビームシフタ、及びマトリクス形偏向制御素子の後面に前記光ビームシフタを接続した光ビームシフタが提案され、併せて、2枚のくさび形の透明基板を互いに逆向きに配置し、該透明基板間にマトリクス駆動が可能で、入射光ビームを半セルシフトする液晶層を挟んだ光ビームシフタを半セルずらして多段接続した光ビームシフタが提案されている。
また、特許文献2には、大きな偏向を得ることが可能で、偏向効率が高く、しかも、偏向角と偏向距離とを任意に設定することができる光偏向スイッチが提案されている。具体的には、2枚の透明基板を所定の間隔で対向配置させ、対向させた面に垂直配向処理を施し、透明基板間にスメクチックA相の強誘電性液晶を封入し、前記透明基板に対して垂直配向させ、スメクチック層と平行に交流電界を印加できるように電極対を配置し、電極対に交流電界を印加する駆動装置を備えた液晶素子である。即ち、スメクチックA相の強誘電性液晶による電傾効果を用い、液晶分子の傾斜による複屈折によって、液晶層に入射する偏光の屈折角と変位する方向を変化できるようにしたものである。
特許文献1の技術においては、液晶材料にネマチック液晶を用いているため、応答速度をサブミリ秒にまで速めることは困難であり、高速なスイッチングが必要な用途には用いることはできない。また、特許文献2の技術においては、スメクチックA相強誘電液晶を用いて電傾効果によるスイッチングを提案しているが、電傾効果は、温度依存性が高く安定したシフトが望めない。
そこで、特許文献3においては、光学的に透明な共通電極を有する第1窓と、電気的に束ねた平行ストライプ形状をした多数の透明導電電極を有する第2窓と、第1窓と第2窓の中間に設けられた液晶分子層とを含む光学要素を備え、光学装置は、光学ビームが第1窓に入射して第2窓により反射又は透過されるように位置決めされ、さらに、制御信号を各セルの外側の電極に個々に印加する手段を備えることにより、接合電極に沿い、また、セル領域を通して直線情報の電圧傾度を発生させ、それにより、LCの電子光学特性の直線又は非直線部分により液晶層に屈折率の局部的な変化を生ぜしめす様に構成されていることを特徴とする光学ビームを波面変調する装置を提案している。また、その請求項4において、0度と3度間の予め定めた傾斜角度でCL層のLC電子光学特性の直線部分内からの電圧で活性区域をアドレスすることにより、透過又は反射光学波面からなるブレーズ効果をもつ相特性を発生することによって光学ビームを偏向するのに使用される事を特徴とする装置を提案している。
この特許文献3の技術によれば、液晶としてやはりネマチック液晶を使用しているため、特許文献1のものと同様、高速応答性を必要とする用途には適さない。また、特許文献3においては、平行ストライプ形状をした透明導電電極について記載されているが、この構造においては、本発明の課題として述べている電界の局所的な変動が発生する可能性があり、均一な光偏向量を得にくい。
次に、ピクセルシフト素子に関する技術について、まず、特許文献4には、表示素子に表示された画像を投写光学系によりスクリーン上に拡大投影する投影表示装置において、前記表示素子から前記スクリーンに至る光路の途中に透過光の偏光方向を旋回できる光学素子を少なくとも1個以上と複屈折効果を有する透明素子を少なくとも1個以上を有してなる投影画像をシフトする手段と、前記表示素子の開口率を実効的に低減させ、表示素子の各画素の投影領域が前記スクリーン上で離散的に投影される手段と、を備えた投影表示装置が開示されている。
この特許文献4においては、偏光方向を旋回できる光学素子(旋光素子と呼ぶ)を少なくとも1個以上と複屈折効果を有する透明素子(複屈折素子と呼ぶ)を少なくとも1個以上を有してなる投影画像シフト手段(ピクセルシフト手段)によりピクセルシフトを行っているが、問題点として、旋光素子と複屈折素子とを組合せて使用するため、光量損失が大きいこと、光の波長によりピクセルシフト量が変動し解像度が低下しやすいこと、旋光素子と複屈折素子との光学特性のミスマッチから本来画像が形成されないピクセルシフト外の位置に漏れ光によるゴースト等の光学ノイズが発生しやすいこと、素子化のためのコストが大きいことが挙げられる。特に、複屈折素子に前述したような、KH2PO4(KDP),NH4H2PO4(ADP),LiNbO3,LiTaO3,GaAs,CdTeなど、第1次電気光学効果(ポッケルス効果)の大きな材料を使用した場合、顕著である。
また、特許文献5に開示されている投影機においては、制御回路により、画像蓄積回路に蓄積した本来表示すべき画像を市松状に画素選択回路へサンプリングして順次空間光変調器に表示し、投影させ、さらに、制御回路により、この表示に対応させてパネル揺動機構を制御して空間光変調器の隣接画素ピッチ距離を整数分の一ずつ移動させることで、本来表示すべき画像を時間的な合成により再現するようにしている。これにより、空間光変調器の画素の整数倍の分解能で画像を表示可能にするとともに、画素の粗い空間光変調器と簡単な光学系を用いて安価に投影機を構成可能としている。
ところが、特許文献5においては、画像表示用素子自体を画素ピッチよりも小さい距離だけ高速に揺動させるピクセルシフト方式が記載されており、この方式では、光学系は固定されているので諸収差の発生が少ないが、画像表示素子自体を正確かつ高速に平行移動させる必要があるため、可動部の精度や耐久性が要求され、振動や音が問題となる。
さらに、特許文献6に開示の技術によれば、LCD等の画像表示装置の画素数を増加させることなく、表示画像の解像度を、見掛け上、向上させるため、縦方向及び横方向に配列された複数個の画素の各々が、表示画素パターンに応じて発光することにより、画像が表示される画像表示装置と、観測者又はスクリーンとの間に、光路をフィールド毎に変更する光学部材を配し、また、フィールド毎に、前記光路の変更に応じて表示位置がずれている状態の表示画素パターンを画像表示装置に表示させるようにしている。ここに、屈折率が異なる部位が、画像情報のフィールド毎に、交互に、画像表示装置と観測者又はスクリーンとの間の光路中に現れるようにすることで、前記光路の変更が行われるものである。
特許文献6の技術においては、光路を変更する手段として、電気光学素子と複屈折材料の組合せ機構、レンズシフト機構、バリアングルプリズム、回転ミラー、回転ガラス等が記述されており、上記旋光素子と複屈折素子を組合せてなる方式の他に、ボイスコイル、圧電素子等によりレンズ、反射板、複屈折板等の光学素子を変位(平行移動、傾斜)させ光路を切り替える方式が提案されているが、この方式においては、光学素子を駆動するために構成が複雑となりコストが高くなる。
また、特許文献7の技術によれば、回転機械要素を不要化でき、全体の小型化、高精度・高分解能化を実現でき、しかも外部からの振動の影響を受け難い光ビーム偏向装置が提案されている。具体的には、光ビームの進行路上に配置される透光性の圧電素子と、この圧電素子の表面に設けられた透明の電極と、圧電素子の光ビーム入射面Aと光ビーム出射面Bとの間の光路長を変化させて光ビームの光軸を偏向させるために電極を介して圧電素子に電圧を印加する電圧印加手段とを備えている。
この技術では、透光性の圧電素子を透明の電極で挟み、電圧を印加することで厚みを変化させて光路をシフトさせる方式が提案されているが、比較的大きな透明圧電素子を必要とし、装置コストがアップする等、前述の特許文献6の場合と同様の問題点がある。
上述した従来技術の課題を整理すると、従来のピクセルシフト素子において問題となっているのは、
1.構成が複雑であることに伴う高コスト、装置大型化、光量損失、ゴースト等の光学ノイズ又は解像度低下
2.特に可動部を有する構成の場合の位置精度や耐久性、振動や音の問題
3.ネマチック液晶などにおける応答速度
である。
そこで、本発明者らは特許文献8において、透明な一対の基板と、基板間に充填されたホメオトロピック配向をなすキラルスメクチックC相よりなる液晶と、この液晶に電界を作用させる少なくとも1組以上の電界印加手段と、を備える光偏向素子を提案している。
この光偏向素子によれば、キラルスメクチックC相よりなる液晶を利用しているので、従前の光偏向素子に比して、構成が複雑であることに伴う高製造コスト、装置の大型化、光量損失、光学ノイズなどの不具合を改善でき、かつ、従来のスメクチックA液晶やネマチック液晶などにおける応答性の鈍さも改善でき、高速応答が可能となる。
特許文献8の光偏向素子では、キラルスメクチックC相の螺旋軸に直角方向、すなわちスメクチック層の水平方向に電界を印加すると、液晶分子がスメクチック層内でコーン状の仮想面内を回転運動すると考えられる。このとき、液晶層の螺旋ピッチや自発分極などの特性に応じて、同一方向に配向する液晶分子の割合が変化し、液晶分子の平均的配向方向に対応した液晶層の光学軸の傾斜方向が変化する。十分に大きな電界が印加された場合、各スメクチック層内の液晶分子の配向方向は揃い、螺旋が解けた状態となる。電界方向を反転させると液晶層の光学軸の傾斜方向も反転するため、動的な複屈折板として機能し、光偏向素子などに応用できることになる。
しかし、電界方向の反転により液晶分子が反転する際、配向状態の乱れによる過渡的な光の散乱現象が観測されることが知られ、過渡光散乱(Transient-scatterring mode:TSM)型電気光学効果と呼ばれている。そして、このような現象を透明状態と光散乱状態の変化を表示装置などに応用することも提案されてはいるが、キラルスメクチックC相からなる液晶を光偏向素子として応用する場合には、光散乱強度が小さく、散乱時間が短いことが望ましいので、このような電界反転に伴う過渡光散乱現象の低減は大きな課題となる。
この過渡光散乱現象の詳細な原因は明らかではないが、液晶分子が反転する際のコーン状仮想面内での回転方向の違いやスメクチック層の歪などによりドメインが発生し、このドメイン界面で光散乱が生じると考えられる。液晶分子の反転が完全に終了すれば、均一ドメインとなり光散乱は無くなる。
本発明の目的は、過渡光散乱を従来に比べて低減することである。
請求項1に記載の発明は、透明な一対の基板間に、ホメオトロピック配向をなすキラルスメクチックC相よりなる液晶を含む液晶層を設け、前記液晶層に対して前記基板の板面方向の電界を印加する電極が形成されてなり、前記液晶層を透過する光の光路を偏向する光偏向素子と、前記液晶層内に形成したスメクチック層の層平面が前記基板の面に常に平行となる電界を発生する交流電圧を前記液晶層に対して印加して前記液晶を駆動する液晶駆動装置と、を備えている光偏向装置である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光偏向装置において、前記液晶駆動装置は、前記交流電圧として30Hz以上の電圧を印加する。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の光偏向装置において、前記液晶駆動装置は、前記交流電圧として60Hz以上の電圧を印加する。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの一に記載の光偏向装置において、前記基板の前記液晶層と接する面にポリイミド化合物からなるホメオトロピック配向膜が形成されている。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかの一に記載の光偏向装置において、前記液晶層は、前記液晶が使用する温度におけるキラルスメクチックC相の螺旋ピッチが10μm以下である。
請求項6に記載の発明は、画像フィールドを時間的に更に細分割した複数個の画像サブフィールドごとに照明光を画像情報に基づいて空間光変調して画像光として出射する画像表示素子と、この画像表示素子と同期し前記光路の偏向により前記画像サブフィールドごとに駆動される前記画像表示素子の各画素から入射されてくる画像光の光路を偏向して前記画像表示素子の見かけ上の画素数を増倍して表示する請求項1〜5のいずれかの一に記載の光偏向装置と、を備えている画像表示装置である。
請求項7に記載の発明は、画像フィールドを時間的に更に細分割した複数個の画像サブフィールドごとに照明光を画像情報に基づいて空間光変調して画像光として出射する画像表示素子と、この画像表示素子と同期し前記光路の偏向により前記画像サブフィールドごとに駆動される前記画像表示素子の各画素から入射されてくる画像光の光路を偏向して前記画像表示素子の見かけ上の画素数を増倍して表示する請求項3に記載の光偏向装置と、を備え、前記光偏向素子は、互いに前記光路偏向の方向が直交するものが前記光路に対して2つ直列に設けられている、画像表示装置である。
請求項1に記載の発明によれば、ホメオトロピック配向をなすキラルスメクチックC相よりなる液晶に交流電界を印加する場合、スメクチック層構造の歪に関連していると考えられる光散乱が発生するので、液晶層内に形成したスメクチック層構造の層平面が基板面に常に平行となるような電界印加条件を設定することで、液晶層内に発生する流動を低減して、過渡光散乱を低減することができる。
請求項2に記載の発明によれば、交流電界の周波数を30Hzと比較的高く設定することで、交流電界中で電界が一定となる直流成分の時間を短くして、液晶層内のイオン伝導距離を短くすることができるで、電界反転時の液晶の流動、すなわちスメクチック層内の歪を低減して、過渡光散乱を低減することができる。
請求項3に記載の発明によれば、交流電界の周波数を60Hzとさらに高く設定することで、スメクチック層内の歪を低減して、過渡光散乱をさらに低減することができる。
請求項4に記載の発明によれば、ポリイミド化合物からなるホメオトロピック配向膜を用いることで、液晶分子の配向規制力が強くなりスメクチック層の構造が安定し、高電界あるいは低周波の電界印加時にもスメクチック層の歪が発生し難くなり、その歪に起因する光散乱を確実に低減することができる。
請求項5に記載の発明によれば、キラルスメクチックC相の螺旋ピッチが比較的短い液晶はスメクチック層間での分子間相互作用が比較的強く、スメクチック層構造が比較的安定であると考えられるので、高電界あるいは低周波の電界印加時にもスメクチック層の歪が発生し難くなり、その歪に起因する光散乱を確実に低減することができる。
請求項6に記載の発明によれば、請求項1〜5のいずれかの一に記載の発明と同様の作用、効果を奏する画像表示装置を提供できる。
請求項7に記載の発明によれば、駆動周波数を60Hz以上としたので、電界反転時の過渡光散乱の発生を防止できると共に、1フレーム画像の周波数が1/2の30Hz以上となるので、フリッカーも防止できる。また、サブフィールド画像切換え時の光散乱の発生を抑えることで、見かけ上の画素のボケや、表示コントラストの低下を防止することができる。
[定義]
以下では、本明細書で用いる主要な用語について説明する。
(1)光偏向素子
「光偏向素子」とは、透過する光の光路を外部からの電気信号により偏向、即ち、入射光に対して出射光を平行にシフトさせるか、或る角度を持って回転させるか、或いは、その両者を組合せて光路を切換えることが可能な光学素子を意味する。この説明において、平行シフトによる光偏向に対してそのシフトの大きさを「シフト量」と呼び、回転による光偏向に対してその回転量を「回転角」と呼ぶものとする。「光偏向デバイス」とは、このような光偏向素子を含み、光の光路を偏向させるデバイスを意味する。
(2)光偏向切替時間
光偏向切替時間とは、光路切替えに要する時間であり、液晶スイッチング時間に相当する時間である。
(3)サブフィールド
通常液晶プロジェクタ等の画像表示装置においては、ある周期で画像を順次書き換え表示している。その1枚当たりの画像をフィールドと呼ぶ。時分割で光路シフトを行うことで画素を倍増して表示する際に、その時分割され表示される画像をサブフィールドと呼ぶ。従って例えば分割数を2、すなわち光路シフトを2つの位置でスイッチングする場合は、2つのサブフィールドで1フィールドの画像を形成することになる。
サブフィールド切替時は光路をシフトさせている時間であり、サブフィールド表示時は光路シフトが完了し、1つのサブフィールドを表示する時間である。
(4)ピクセルシフト素子
「ピクセルシフト素子」とは、少なくとも画像情報に従って光を制御可能な複数の画素を二次元的に配列した画像表示素子と、画像表示素子を照明する光源と、画像表示素子に表示した画像パターンを観察するための光学部材と、画像フィールドを時間的に分割した複数のサブフィールド毎に画像表示素子と光学部材の間の光路を偏向する光偏向手段とを有し、光偏向手段によりサブフィールド毎の光路の偏向に応じて表示位置がずれている状態の画像パターンを表示させることで、画像表示素子の見掛け上の画素数を増倍して表示する画像表示装置における光偏向手段を意味する。従って、基本的には、上記定義による光偏向素子や光偏向デバイスを光偏向手段として応用することが可能といえる。
[発明を実施するための最良の形態]
本発明を実施するための最良の一形態について説明する。
図1は、本発明を実施するための最良の一形態である画像表示装置101の概要を示す概念図である。図1において、符号111は、照明用の光源であり、白色あるいは任意の色の光を高速にON、OFFできるものであるならば、いかなる種類や型の光源であっても利用することができる。たとえば、LEDランプやレーザ光源、あるいは、白色のランプ光源などを2次元アレイ状に配列して、かかる光源に対して高速動作するシャッタを組合せたものなどを照明用の光源として用いることができる。
符号112は、光源から出た光を均一に画像表示素子113に照射させるための照明装置であり、拡散板112a、コンデンサレンズ112bなどから構成される。
符号113は、照明装置111から入射した均一の照明光を、画像フィールドを時間的に更に細分割した複数個の画像サブフィールドごとに、画像情報に基づいて空間光変調して、画像光として出射する画像表示素子である。画像表示素子113としては、透過型液晶ライトバルブ、反射型液晶ライトバルブ、DMD素子などを用いることができる。
符号301は、前記画像サブフィールドごとに、画像表示素子113から出射される画像光の光路を偏向して、偏向画像光として出射する光偏向素子であり、該光偏向素子301により、画像サブフィールドごとの光路の偏向量に応じて、スクリーン116上に投射される画像表示位置がずらされる状態となる画像パターンを表示させることが可能となり、画像表示素子3の実際の画素数を見かけ上増倍した画素数として、画像表示させることができる。
符号115は、画像表示素子113に表示された画像パターンを観察するための光学部材であり、符号116はスクリーンである。さらに、符号117は光源111を駆動するための光源駆動手段であり、符号118は画像表示素子113を駆動するための表示駆動回路であり、符号119は光偏向素子301を駆動するための液晶駆動装置となる光路偏向駆動回路である。また、符号120は、光源駆動回路117、表示駆動回路118、光路変更駆動回路119などを含め画像表示装置の全体を制御するための画像表示制御回路である。
次に、図1に示す画像表示装置101の基本的な動作について説明する。光源駆動回路117で制御されて光源111から放射された光は、拡散板112aにより均一化された照明光となり、コンデンサレンズ112bにより、光源駆動回路117と同期して動作する表示駆動回路118により制御されている画像表示素子113をクリティカルに照明する。ここでは、画像表示素子113の例として、透過型液晶パネル、すなわち、透過型液晶ライトバルブを用いている。透過型液晶ライトバルブからなる画像表示素子113により空間光変調された照明光は、画像光として光偏向素子301に入射され、光偏向素子301から出射された出射光は、偏向画像光として、投射レンズ115で拡大された後、スクリーン116に投射される。すなわち、透過型液晶ライトバルブからなる画像表示素子113の画像光の出射側に配置されている光偏向素子301によって、画像光は、光路変更駆動回路119からの駆動信号に応じて、画素の配列方向に任意の距離だけシフト(偏向)された偏向画像光として出射されて、投射レンズ115を介して、スクリーン116上に投射される。光偏向素子301により投射光路を一方向の二位置にシフトさせるタイミングと、このシフト位置に対応した2つサブフィールド画像を画像表示素子113に順次表示するタイミングを画像表示制御回路120で同期することで、見掛け上2倍に画素数が増倍した高精細な画像を表示することができる。
なお、図1においては、透過型液晶ライトバルブからなる画像表示素子113の直後に、光偏向素子1を配置しているが、光偏向素子301の配置位置はかかる場合に限定されるものではなく、スクリーン116の直前などに配置することとしても良い。ただし、スクリーン116付近に配置する場合、光偏向素子301を形成する光偏向素子の大きさや、更には、光偏向素子を形成する透明電極の配設ピッチなどを、光偏向素子301の配置位置における画面サイズや画素サイズに応じて設定することが必要になる。
しかし、いかなる配置位置に光偏向素子301を配置する場合であっても、前記偏向画像光の光路のシフト(偏向)量は、画素ピッチの整数分の1であることが望ましい。すなわち、画素の配列方向に対して2倍の画素増倍を行なう場合は、偏向画像光の光路のシフト量は、画素ピッチの1/2とし、配列方向に対して3倍の画素増倍を行なう場合は、画素ピッチの1/3とすることが望ましい。また、光偏向素子301の構成によって、偏向画像光の光路のシフト量が画素ピッチよりも大きくなる場合には、光路のシフト量を画素ピッチの(整数倍+整数分の1)の距離に設定してもよい。
以下では、光偏向素子301及び光路偏向駆動回路119により構成される光偏向装置について詳細に説明する。
まず、光偏向素子301の構成について説明する。図2は、光偏向素子301の概略構成を示す説明図である。光偏向素子301は、一対の透明な基板303が対向配置させて設けられている。透明な基板303を備えている。この材料としては、ガラス、石英、プラスチックなどを用いることができるが、複屈折性の無い透明材料が望ましい。基板303の厚みは一般に数十μm〜数mm程度である。各基板303の内側面には垂直配向膜305が形成されている。垂直配向膜305は基板303表面に対して液晶分子311を垂直配向(ホメオトロピック配向)させる材料ならば特に限定する必要はないが、例えば、液晶ディスプレイ用の垂直配向剤やシランカップリング剤、SiO2蒸着膜などを用いることができる。ここで言う垂直配向(ホメオトロピック配向)とは、基板303面に対して液晶分子311が垂直に配向した状態だけではなく、数十度程度までチルトした配向状態も含む。両基板303の間にはスペーサ(図示せず)を挟んで規定し、基板303間に、基板303の両側に配置された一対の電極307と、基板303間に充填された液晶層304とを形成する。スペーサとしては数μm〜数mm程度の厚みを持つシート部材あるいは同程度の粒径の粒子などが用いられ、光偏向素子301の有効領域外に設けられることが望ましい。電極307としては、アルミ、銅、クロムなどの金属、ITOなどの透明電極などが用いられるが、液晶層304内に均一な水平電界を印加するためには、液晶層304の厚みと同程度の厚みを持つ金属シートを電極307を用いることが好ましく、素子の有効領域外に設けられる。図1では、より望ましい例として、金属シート状の電極307がスペーサの一部を兼ねており、金属シート状の電極307の厚みにより液晶層304の厚みが規定されている。液晶層304の液晶としてはホメオトロピック配向をなすキラルスメクチックC相を形成可能な液晶が用いられる。そして、電極307間に電圧を印加することで、液晶層304の幅方向(図1の水平方向)に電界が印加される。
また、より大面積に均一な水平電界を印加するために、図3のように基板303面上に複数本のライン状の透明電極である電極308を設け、各電極308に一方向に段階的に変化する電圧値を印加することにより基板303の板面方向に強制的に電位勾配を形成し、均一な水平電界を形成するようにしても良い。さらに、電極308を設けた面と液晶層304との間に透明な誘電体層309を設けても良い。図3のような構成では、有効面積を数センチ角程度まで大きくすることができるので、比較的大面積が必要な用途に適用する場合に望ましい。
ここで、スメクチックC相を形成可能な液晶層304に関して詳細に説明する。「スメクチック液晶」は液晶分子311の長軸方向を層状(スメクチック層)に配列してなる液晶層である。このような液晶に関し、スメクチック層の法線方向(層法線方向)と液晶分子311の長軸方向とが一致している液晶を「スメクチックA相」、法線方向と一致していない液晶を「スメクチックC相」と呼んでいる。スメクチックC相よりなる強誘電液晶は、一般的に外部電界が働かない状態においてスメクチック層毎に液晶ダイレクタ方向が螺旋的に回転しているいわゆる螺旋構造をとり、「キラルスメクチックC相」と呼ばれる。また、キラルスメクチックC相反強誘電液晶はスメクチック層毎に液晶ダイレクタが対向する方向を向く。これらのキラルスメクチックC相よりなる液晶は、不斉炭素を分子構造に有し、これによって自発分極しているため、この自発分極Psと外部電界Eにより定まる方向に液晶分子311が再配列することで光学特性が制御される。なお、本例等では、液晶層304として強誘電液晶を例にとり光偏向素子301の説明を行うが、反強誘電液晶の場合にも同様に使用することができる。
図4は、光偏向素子301の液晶層304に生ずる電界の方向と液晶分子311の傾斜方向とを示す模式図、図5は、電界方向が反転した場合の光偏向素子301の液晶層304に生ずる電界の方向と液晶分子311の傾斜方向とを示す模式図、図6は、液晶層304における液晶分子311の配向状態を示す模式図、図7は、電界方向が反転した場合の液晶層304における液晶分子311の配向状態を示す模式図である。
図4(a)及び図5(a)は、光偏向素子301を出射面側から見た図であり、液晶分子311の幅が広く描いてある側が紙面手前側、幅が狭く描かれている側が紙面奥側に液晶ダイレクタが傾いている様子を示している。また、液晶の自発分極Psの方向を矢印で示している。図5(a)に示すように、電界の向きが反転すると、略垂直配向した液晶分子311のチルト角の方向が反転する。ここでは、自発分極が正の液晶の場合について電界印加方向と液晶分子311のチルト方向との関係を図示している。ここで、チルト角の方向が反転する際、スメクチック層内の液晶分子311は、図4(b)及び図5(b)に示すような仮想的なコーン状の面内を回転運動すると考えられる。
図6及び図7では、基板303、垂直配向膜305等を省略して示している。図6及び図7では、便宜上、紙面表裏方向に電圧印加されるように示され、電界は紙面表裏方向に作用する。電界方向は、目的とする光の偏向方向に対応して図示しない光路偏向駆動回路119により切換えられ、これによって、図5に示す状態と図6に示す状態とがスイッチングされる。
図6に示すように、紙面手前側への電界が印加された場合、液晶分子311の自発分極が正ならば液晶ダイレクタが図5中右上に傾斜した分子数が増加し、液晶層304としての平均的な光学軸も図5中右上方向に傾斜して複屈折板として機能する。キラルスメクチックC相の螺旋構造が解ける閾値電界以上では、すべての液晶ダイレクタがチルト角θを示し、光学軸が上側に角度θで傾斜した複屈折板となる。異常光として左側から入射した直線偏光は上側に平行シフトする。ここで、液晶分子311の長軸方向の屈折率をne、短軸方向の屈折率をno、液晶層4の厚み(ギャップ)をdとすると、シフト量Sは、次の(1)式で表される(「結晶光学」応用物理学会、光学懇話会編、第198頁参照)。
S=[(1/no)2−(1/ne)2]sin(2θ)・d
÷[2((1/ne)2sin2θ+(1/no)2cos2θ)] ……… (1)
同様に、電極対307への印加電圧を反転して紙面奥側への電界が印加された場合、図7に示すように、液晶分子311の自発分極が正ならば液晶ダイレクタは図7中右下に傾斜し、光学軸が下側に角度θで傾斜した複屈折板として機能する。異常光として左側から入射した直線偏光は、図7中下側に平行シフトする。したがって、電界方向の反転によって、2S分の光路偏向量が得られる。
図4〜図7では、液晶分子311が反転して再配向した後の安定状態について説明しているが、液晶分子311が反転する過程で配向状態が大きく乱れ、過渡光散乱が発生する。過渡光散乱のモデルを図8に示す。図8は図4、図5と同様に光偏向素子301内の液晶分子311の傾斜状態を示した図である。キラルスメクチックC相の螺旋構造が解ける閾値電界以上では、図8(a)のように、液晶分子311が均一に配向している。この状態から液晶の応答時間より短時間で印加電界を反転させると、液晶分子311は図5に示したようなコーン状の仮想面内に沿って反転し始める。この時、図8(b)のように右回りに回転する領域と左回りに回転し始める領域があると推測される。この回転方向の異なるドメイン間の界面で強い過渡光散乱が生じると考えられる。その後、図8(c)のように液晶分子311が反対側に均一に傾斜した状態に再配向されると光散乱は消滅する。
さらに、本発明者らの検討の結果、過渡光散乱の大小は駆動周波数に依存し、それは、基板303の面に対するスメクチック層の傾斜や歪の量が関係している可能性を見出した。
一般に、空間変調された白黒コントラストを有する光が過渡光散乱の影響を受けると黒部が散乱光によって明るくなり、コントラストが低下してしまう。この黒部の輝度変化を観測し過渡光散乱強度を定量化した。
図9に、過渡光散乱強度および光路シフト量の測定装置401の概略図を示す。光源402からの光を偏光板403を通して微小開口マスク404に照明した。微小開口マスク404の開口部の大きさは4μm、開口部のピッチは10μmとした。PC406で駆動される高速度カメラ405によって光偏向素子301を介して開口マスク面に焦点を合わせ、開口部を撮影した。高圧電源408、パルスジェネレータ407により矩形波交流電圧を光偏向素子301に印加し、その駆動周波数を1Hz〜120Hz程度まで変化させると、矩形波交流電圧の印加によって光シフトが生じ、開口部の位置が変位する様子が観察された。その変位量から光路シフト量を求め、変位中の開口部周辺域の黒色レベルの時間変化から過渡光散乱強度を算出した。
この測定により得られた電圧極性の切換えタイミングの前後における微小開口マスク404の開口部の位置変化(光路シフト量A)と、その開口部の周辺部の黒色輝度レベルの変化(B)を、図10に示す。電圧極性切換えは十分に速く、切換え終了と同時に液晶分子311の反転が始まり光路シフトが開始される。図10の例で、約5msec後に約8μmの光路シフトが完了している。一方、開口部周辺の黒色輝度レベルは光路シフト開始と同時に増加し始め、シフト動作半ばで最大輝度を示した後に減少し、光路シフト完了と同時にシフト前のレベルに戻る。この黒部輝度レベルの一時的な増加が光偏向素子301の過渡光散乱によるものであり、図11のように輝度が増加した部分Cの面積を「過渡光散乱強度」として定量化した。
図12に、駆動周波数に対する過渡光散乱強度と光路シフト量の変化の一例を示すグラフである。電界強度は周波数によらず一定とした。駆動周波数が低い場合、過渡光散乱強度は非常に大きく、光路シフト量も大きい。駆動周波数の増加と共に過渡光散乱強度と光路シフト量は低下していく。そして駆動周波数がある値以上になると過渡光散乱は無視できるほど小さくなり、光路シフト量も本来の値でほぼ一定となる。このように過渡光散乱と光路シフト量に相関があることから、過渡光散乱現象は図8のような液晶分子311の回転方向のバラツキだけで無く、スメクチック層の曲がりや歪みが原因である可能性がある。
すなわち、比較的高い周波数の場合には、直流電界が印加されている状態の期間が短いため、図13(a)のように、液晶分子311の反転後のスメクチック層501(符号502がスメクチック層の各層の境界である)は基板303に平行な安定状態を保ったまま、次の液晶反転動作が行われるため、チルト角が反転したスメクチック層501は図13(b)のように常に基板303に平行な安定状態を保ち続けることができると考えられる。したがって、過渡光散乱は比較的少なく、この状態では光路シフト量は上記の(1)式で示したように液晶材料固有の物性値であるチルト角や複屈折と、光偏向素子301の特性値である液晶厚みで与えられる。一方、比較的低い周波数の場合、液晶分子311の反転後に直流電界が印加されている状態の時間が長くなるため、液晶分子311には一方向への静電力が長く与えられる。そのためスメクチック層501自体が図14(a)のように傾きはじめ、基板303の面に対する液晶分子311のチルト角が大きくなっていると考えられる。したがって、駆動周波数の低下と共に光路シフト量が増加することが説明できる。
また、スメクチック層501の傾斜によって図14(b)のようにスメクチック層501が不連続になるドメイン境界面503が発生する。このドメイン境界面503は電界反転によって移動し、図14(b)のように別な位置に生成されるため、ドメイン境界面503の移動に伴い液晶層304内に流動が起こると考えられる。
さらに、低周波時には液晶層304内に混入しているイオン性物質の移動量が大きくなり、液晶層304内に大きな流動を引き起こす原因となる。これらの液晶層304の流動が過渡光散乱を悪化させていると考えられる。さらに、電界強度に比例してスメクチック層501を傾斜させる力も増加するため、応答時間が十分に得られる範囲内で、適度な電界強度で使用することが望ましい。
そこで、光路偏向駆動回路119は、光偏向素子301へ印加する矩形波交流電圧について、液晶層304内に形成したスメクチック層501の層平面502が、液晶の駆動中は基板303の面に常に平行となるような電界印加条件を設定して、液晶層304内に発生する流動を低減し、もって過渡光散乱を低減している。
光偏向素子301に使用する垂直配向膜305としては、基板303の表面に対して液晶分子311を垂直配向(ホメオトロピック配向)させる材料ならば特に限定されないことを前述したが、より望ましくはポリイミド化合物を用いた垂直配向膜305を使用することで過渡光散乱を低減することができる。垂直配向膜305としてシランカップリング剤のような低分子量化合物を用いた場合、基板303表面に十分に固定されていない分子が液晶層304中に混入し、イオン性物質として液晶層304の流動引き起こす原因となる。一方、ポリイミド化合物からなる垂直配向膜305は液晶分子311の配向規制力が強く、液晶層304中への低分子の混入も防止できるため、電界反転時のスメクチック層501の歪や液晶層304の流動を低減できる。
液晶層304の液晶材料としては、使用する温度におけるキラルスメクチックC相の螺旋ピッチが10μm以下の液晶を用いることがより望ましい。螺旋ピッチが比較的大きい液晶材料の場合、電界の印加時に螺旋構造が解けて液晶分子311の傾斜方向が一様となる飽和電界強度が小さくなる傾向がある。これは、スメクチック層501間の液晶分子311の相互作用が小さいためと考えられる。スメクチック層501間の相互作用が小さいということは、スメクチック層501の構造の安定性が比較的低いため、スメクチック層501の傾斜や流動が起こりやすくなる。螺旋ピッチの異なる数種類の液晶材料について過渡光散乱を比較した結果、室温下で螺旋ピッチが5μm程度以下の液晶材料では過渡光散乱は比較的少なく、20μm程度の液晶材料では過渡光散乱が比較的多かった。この結果から、螺旋ピッチの温度変化も考慮すると、螺旋ピッチが10μm以下の液晶を用いることがより望ましいと言える。
このように垂直配向膜305の種類や液晶材料の物性値によっても過渡光散乱強度は変化するが、光偏向素子301に印加する矩形波交流電圧について過渡光散乱が実用上問題とならない駆動周波数として、図12の前述の結果から30Hz以上に設定することが望ましい。
さらに、図12の結果からこの駆動周波数をさらに高い60Hz以上とすることで、確実に過渡光散乱強度を低下させることできる。光偏向素子301の駆動周波数を60Hz以上に設定するということは、画像表示装置101でサブフィールドも60Hz以上の同じ周波数となる。したがって、二つのサブフィールドからなる1フレームの周波数は1/2の周波数になるので、確実に30Hz以上となり、実用上フリッカーの無い画像が得られる。
さらに、図15に示すように、図1を参照して説明した画像表示装置101において、光路シフト方向が直交する二つの光偏向素子301を直列に配置し、第一の光偏向素子301から出射した光の偏光面を回転させて第二の光偏光素子301のシフト方向に一致させる偏光面回転素子611を両光偏向素子301の間に設けることで、XY2方向の四位置への光路シフトが可能になる。この場合、光偏向素子301により投射光路をXY方向の4位置にシフトさせるタイミングと、シフト位置に対応した4つサブフィールド画像を画像表示素子113に順次表示するタイミングを同期することで、見掛け上4倍に画素数が増倍した高精細な画像を表示することができる。
ここで二つの光偏向素子301の駆動タイミングは、図16のグラフに示すように位相を90度ずらすことが望ましい。二つの光偏向素子301を用いる場合も各光偏向素子301の駆動周波数は60Hz以上とする。この場合、4つサブフィールドは光偏向素子301の2倍の周波数である120Hz以上の周波数で書き換えられ、1フレームの周波数はその1/4の周波数であるから、確実に30Hz以上となる。したがって、2倍の画素数増倍の場合も4倍の場合も光偏向素子301の駆動周波数を60Hz以上に設定することで、1フレームの周波数は30Hz以上となり、フリッカーが無く、高コントラストの画像表示装置101が得られる。
なお、図1の画像表示装置101では、単板の透過型液晶ライトバルブと単色LEDランプを用いた単色の画像表示装置を示したが、3原色の光源111と、照明装置111と、3枚の画像表示素子113とを用いて、3原色の画像を混合してフルカラー画像を表示させることもできる。また、単板の画像表示素子113を時間順次に三原色光で照明するフィールドシーケンシャル方式でもフルカラー画像を表示することができる。この場合、三色の光源111からの光路をクロスプリズムで混合して照明しても良いし、白色ランプ光源111と回転カラーフィルターの組合せで、時間順次の三原色光を生成してもよい。
以下では、本発明の実施例について複数例説明する。
[実施例1]
(光偏向素子の作成について)
厚さ1.1mmのガラス基板303の表面に幅10μmの透明のライン電極308を平行に100μmピッチで100本形成した。ライン電極308の長さは有効長さが10mmとし、それ以上の長さの部分は徐々に幅とピッチを広げていき、各ライン電極308との接点が大きくなるように設定した。この透明ライン電極308群の有効面積は10ミリ角であり、この上に厚み150μmのガラスを紫外線硬化接着剤によって張り合わせた。接着剤の厚みは10μm程度とした。これにより、図3の断面図のように透明ガラスの内部に透明ライン電極308が埋め込まれている構造となり、これを基板303とした。
この基板303表面に厚み0.06μmのポリイミド化合物の垂直(ホメオトロピック)配向膜305を形成した。ポリイミドの垂直配向膜305は、ポリアミック酸溶液をスピンコートにより塗布し、約180℃に加熱処理よるイミド化処理を行うことにより得た。40μmのスペーサシートを有効面積外に挟んで、二枚の基板303を対向させて、光偏向素子301の液晶セルを作成した。このとき、上下基板303の有効面積内の透明ライン電極308が上から見て互いに交互の位置になるように張り合わせた。
この液晶セルを約90度に加熱した状態で、基板303間の空間に強誘電性液晶(複屈折Δn=0.15、チルト角θ=25度、室温での螺旋ピッチ20μm、自発分極Ps=−47nC/cm2(チッソ製のCS1024を使用))を毛管法にて注入した。冷却後、接着剤で封止し、液晶厚み50μm、有効面積1cm角の光偏向素子301を作成した。
図17に示すように、基板303の各透明ライン電極308に独立に電圧印加可能なように分割されたフレキシブル基板601を上下それぞれの基板303に接続し、各フレキ基板603の他端を直列抵抗アレイ602の各抵抗603間に接続した。なお、どちらか一方の基板303の両端の透明ライン電極308は抵抗アレイ602の両端に接続し、上下基板303間で交互に配置された透明ライン電極308の位置に対応して電圧値も交互に印加されるように他方の基板303に接続する抵抗アレイ602の端部の抵抗値を調整した。抵抗アレイ602の両端部にパルスジェネレータと高速アンプとからなる交流電源604を接続することで、抵抗アレイ602に電流が流れて電圧が分配され、光偏向素子301の有効面積内部に電位分布が形成される。
(光学軸の観察について)
このようにして作成した光偏向素子301について、無電界の状態で、この光偏向素子301の有効領域内の液晶層304のコノスコープ像を観察したところ、円環状の影が中心部に観察されたが、明確な十字状の影は観察されなかった。これは、液晶厚み対して螺旋ピッチが比較的大きいためと考えられる。しかしながら、円環状の影がほぼ中心に位置していることから、無電界下では螺旋ピッチの軸が液晶層304にほぼ垂直に配向していると考えられる。
次に、電源604で30Hzの矩形波電圧を光偏向素子301に印加すると、円環の位置が上下方向に30Hzで往復にシフトし、十字像が観察されるようになった。このコノスコープ像をビデオカメラで測定した。駆動周波数とビデオカメラのフレーム周波数の同期をずらすことによって画面上のコノスコープ像はゆっくりと動いて見えた。図18に印加電界に対する光学軸のチルト角変化の結果を示す。光学軸チルト角は顕微鏡の対物レンズのNA値と液晶の屈折率と十字位置のシフト量から計算した。電界増加とともにチルト角は急激に増加し、比較的低電界である約50V/mm以上で飽和した。これは螺旋ピッチが比較的長いため螺旋ピッチが完全に解けて一様配向となる螺旋消失電界が小さくなったためと考えられる。この時の光学軸のチルト角は25度で、この液晶材料固有のチルト角θと一致していることが確かめられた。スメクチック層501は基板303とほぼ平行に保たれたまま、螺旋ピッチが完全に解けたことによって、液晶分子311のチルト角と光学軸のチルト角が一致したと考えられる。しかし、更に電界を増加させると約200V/mm以上でチルト角が再び増加し始めた。これは、高電界によりスメクチック層501自体が傾斜し始めたため、見かけ上のチルト角が増加したと考えられる。
(過渡光散乱強度の測定について)
前述の図9のような装置401を用いて過渡光散乱強度を測定した。光源402からの光を偏光板403を通して微小開口マスク404に照明し、顕微鏡付きの高速度カメラ405で微小開口マスク404からの透過光を観察した。開口部の大きさは4μm、開口部のピッチは10μmとし、光偏向素子301の駆動周波数は30Hzとした。光偏向素子301には矩形波交流電圧の印加によって光シフトが生じ、開口部の位置が変位する様子が観察された。ここで、電界強度を変化させ、変位中の開口部周辺域における黒色レベルの変化から過渡光散乱強度を比較した。
チルト角が25度を示す150V/mm以下では、過渡光散乱強度は僅かに発生した。これは螺旋ピッチが大きな液晶はスメクチック層501の安定性が比較的小さく、過渡光散乱が発生しやすい状態であると考えられる。しかし、その発生量は比較的小さく実用上問題無い範囲と判断した。一方、チルト角が更に増加する200V/mm以上では、過渡光散乱強度は比較的大きく、黒部レベルの増加が顕著に観測された。
以上から、スメクチック層501を基板303の面に常に平行に保つことができる駆動周波数と電界強度に設定することで、過渡光散乱強度を小さくできることが確認できた。
[実施例2]
(光偏向装置の作成について)
液晶材料として螺旋ピッチの短い材料を用いた以外は実施例1と同様に光偏向素子301を作成した。ここで用いた液晶は、チッソ製のCS1029で、複屈折Δn=0.16、チルト角θ=25度、室温での螺旋ピッチ2μm、自発分極Ps=−40nC/cm2であった。
(光学軸の観察について)
実施例1と同様にチルト角変化の電界依存性を観測した。図19に30Hzで駆動時の印加電界に対する光学軸のチルト角変化の結果を示す。図19に示す様に、電界増加とともにチルト角が増加し、比較的高電界である約200V/mm以上で飽和した。これは螺旋ピッチが比較的短いためと考えられる。この時の光学軸のチルト角は25度で、この液晶材料固有のチルト角θと一致していることが確かめられた。スメクチック層501は基板303とほぼ平行に保たれたまま、螺旋ピッチが完全に解けたことによって、液晶分子311のチルト角と光学軸のチルト角が一致したと考えられる。しかし、更に電界を増加させると約350V/mm以上の比較的高電界でチルト角が再び増加し始めた。螺旋ピッチが短い液晶ではスメクチック層501の安定性が比較的高いため、スメクチック層自体が傾斜し始める電界強度が比較的大きくなったものと考えられる。
(過渡光散乱強度および光路シフト量の測定について)
前述の図9の装置401を用いて過渡光散乱強度および光路シフト量を測定した。開口マスクや測定方法は実施例1と同様にした。ここでは、光偏向素子301の駆動周波数を1Hz〜120Hz程度まで変化させた。光偏向素子301には矩形波交流電圧の印加によって光シフトが生じ、開口部の位置が変位する様子が観察された。その変位量から光路シフト量を求め、変位中の開口部周辺域の黒色レベルの時間変化から過渡光散乱強度を算出した。図12に駆動周波数に対する過渡光散乱強度と光路シフト量の変化を示す。電界強度は周波数によらず200V/mmで一定とした。
図12から、飽和電界強度における駆動周波数の変化に対して光路シフト量がほぼ一定値となる条件、すなわち、スメクチック層501を基板303面に常に平行に保つことができる条件としたので、過渡光散乱強度を小さくすることができた。特に本実施例1では垂直配向膜305としてポリイミド化合物を用い、スメクチックC相の螺旋ピッチが室温で約2μmと比較的短い液晶材料を用いているため、過渡光散乱強度値はほぼゼロとなった。また、駆動周波数を30Hz以上とすることで確実に過渡光散乱を防止できることが確かめられた。
[実施例3]
図11のような画像表示装置101を作製した。画像表示素子113として対角0.9インチXGA(1024×768ドット)のポリシリコンTFT液晶パネルを用いた。画素ピッチは縦横ともに約18μmである。画素の開口率は約50%である。また、画像表示素子113の光源111側にマイクロレンズアレイ112を設けて照明光の集光率を高める構成とした。本実施例3では、光源111としてRGB三色のLED光源を用い、上記の1枚の液晶パネルである画像表示素子113に照射する光の色を高速に切換えてカラー表示を行う、いわゆるフィールドシーケンシャル方式を採用している。本実施例3では、画像表示のフレーム周波数が30Hz、ピクセルシフトによる2倍の画素増倍のためのサブフィールド周波数が6倍の60Hzとした。一つのサブフレーム内をさらに3色分に分割するため、各色に対応した画像を180Hzで切換える。液晶パネルである画像表示素子113の各色の画像の表示タイミングに合わせて、対応した色のLEDの光源111をON/OFFすることで、観察者にはフルカラー画像が見える。
光偏向素子301の構成は実施例2と同様であるが、光路シフト量を画素ピッチの1/2に一致させるために液晶層304の厚みを55μmに設定した。この素子は、図18のように電界強度が200〜350V/mmの範囲でチルト角が25度で一定値となり、光路シフト量は9μmとなった。また、画像表示素子113を出射した光の偏光方向が光路のシフト方向と同一になるように設置した。また、光偏向素子301への入射光の偏光度を確実にするために、光偏向素子301の入射面側に直線偏光板を設けた。
光偏向素子301の抵抗アレイ602の両端部に±2000V、60Hzの矩形波交流電圧を印加し、光路シフト位置の切換えタイミングに同期して、画像表示素子113に表示するサブフィールド画像を60Hzで書き換えることで、横方向に見かけ上の画素数が2倍に増倍した高精細画像が表示できた。この時、電界強度は200V/mmで、光偏向素子301の切換え時間は約0.4msecであり、充分な光利用効率が得られた。また、フリッカーなどは観測されなかった。また、スクリーン面にCCDを配置して、CCD上に画像を結像させて画素の形状を観察した。ここで、二画素周期のライン/スペース画像(一画素幅の白表示ラインと一画素幅の黒表示ラインが交互に並んだ画像)を表示し、白部の輝度をImax、黒部の輝度をIminとして、コントラスト・トランスファー・ファンクション“(CTF)=(Imax−Imin)/(Imax−Imin)”を求めた。一般に光学素子の変調伝達関数(MTF)の値が小さいと画素の形状が鈍って、隣接した表示画素部と非表示画素部の輝度コントラストが低下し、CTF値が小さくなる。この画像表示装置101では、光偏向素子301での光散乱がコントラスト低下の最も大きな要因となる。本実施例3では、光偏向素子301の駆動周波数を60Hzに設定し、駆動電界を200V/mmとしているので、図12のように過渡光散乱強度を確実に小さくできるため、CTF値は0.8と良い値を得ることができた。したがって、画素形状が比較的シャープな高精細画像が表示できることが確かめられた。