以下、添付図面を参照して、本発明に係る反応室、高温トラップ及び処理装置の一実施例を説明する。なお、各図において同一の参照符号は同一部材を表している。図1は、本発明の処理装置の一態様としての例示的な成膜装置100のブロック図である(排気装置を除く)。図2は、図1に示す成膜装置100に適用可能な例示的な反応室200の概略断面図である。また、図3は、図2に示す反応室200の一部拡大断面図である。
以下、本実施例では成膜装置100が反応ガスの例としてCu(hfac)TMVSを使用する場合について説明するが、本発明の適用可能な反応ガスはCu(hfac)TMVSに限定されるものではない。例えば、本発明は金属(例えば、銅)のβ−ジケトン錯体に適用できる。例えば、銅のβ−ジケトン錯体は、Cu(hfac)ATMS、[トリメチルビニリシリル]へキサフルオロアセチルアセトン酸塩銅、[3−ヘキチン]へキサフルオロアセチルアセトン酸塩銅、[2−ブチン]へキサフルオロアセチルアセトン酸塩銅、[トリメチルフォスフィン]へキサフルオロアセチルアセトン酸塩銅を含んでいる。
図1に示すように、成膜装置100は、貯留槽108と、流量計110と、気化器140と、反応室200とを有しており、Cu(hfac)TMVS(常温常圧で液体である有機金属化合物)を減圧気化させて得たガスを使用している。
貯留槽108は、図1中、符号「L」が付されている液体状態のCu(hfac)TMVS(液体原料)を貯蔵している。貯留槽108は、バルブ118を有するノズル117と、バルブ120を有するノズル119に接続されている。ノズル117の下端はCu(hfac)TMVSの液面上方に配置され、ノズル119の下端は液中に配置されている。ノズル117の上端に配置された口金115には加圧用気体としてのヘリウム(He)ガスを供給するHeガス源104が通路105を介して接続されている。Heガスは、例えば、0.5kg/cm2程度に圧力調整されており、貯留槽108に導入されることによってCu(hfac)TMVSの液面を加圧することができる。また、通路105にはHeガスの給排を制御するバルブ112が設けられている。
ノズル119上端に配置された口金121は、気化器140(の液体導入口140Aと)通路123により接続されている。図1に示すように、通路123にはバルブ122及び126が取り付けられ、成膜装置100の保守時その他の必要時に閉じられる。
流量計110は、貯留槽108から気化器140に供給されるCu(hfac)TMVSの質量流量を検出することができる。図1では、貯留槽108と気化器140の間に流量計110が設けられているが、流量計110は気化器140と一体であってもよい。選択的に、流量計110を流量制御バルブの役割を果たすことができる流量制御装置に置換して、気化器140をかかる機能を有しない通常の気化器に置換してもよい。本実施例の成膜装置100に適用可能な気化器140の構造は限定されない。
気化器140は、液体状態のCu(hfac)TMVSを受け取る液体導入部140Aと、通常は気化状態であるCu(hfac)TMVSを排出する蒸気出部140Bと、Cu(hfac)TMVSの減圧気化を促進するために導入されるキャリアガスを受け取るガス導入部140Cとを有している。気化器140は、流量制御されたCu(hfac)TMVSの減圧気化時に生じた吸熱を補うことができる加熱部を含んでいる。上述したように、液体導入部140Aは通路123を介して貯留槽108に接続されている。出口部140Bは通路(配管)135を介して(あるいは選択的に直接に)後述する反応室200(のシャワーヘッド210)に接続されている。ガス導入部140Cは通路103を介してキャリアガス源102に接続されている。本実施例では、例示的に、キャリアガスは圧力が0.5kg/cm2程度の流量制御された60℃乃至70℃の温度を有するHe又はH2ガスである。なお、気化器140はキャリアガス源102によって加圧されてもよいし減圧状態に保たれていてもよい。なお、通路103には保守時又は必要時にキャリアガスを遮断するのに使用されるバルブ130が設けられている。
気化器140は、図示しない流量制御バルブと蒸気バルブを含んでいる。流量制御バルブは、流量計110の検出結果に従って図示しないコントローラがその開閉を制御する。例えば、かかるコントローラは、バルブ孔を流れる液体状態のCu(hfac)TMVSの質量流量が、例えば、毎秒0.1乃至1mlとなるように、流量制御バルブを制御することができる。蒸気バルブはバルブ本体に上下運動可能に取り付けられており、キャリアガスの流量を制御する。従って、流量制御バルブ及び蒸気バルブの位置を制御することにより液体材料が流速の速いキャリアガスにより反応室200に向かって流れて行く。
気化器140から反応室200までの配管135においてキャリアガスが混合された液体材料をCu(hfac)TMVSが固体にならないようにヒータ155が配管135を適当な温度制御の下で加熱する。好ましくは、液体状態のCu(hfac)TMVSは気化器140によって気体状態にされた後反応室200に到達するまでの領域において、Cu(hfac)TMVSが蒸発温度より高いが反応室200までは分解反応を生じない範囲の温度で反応室200に安定して運ばれるように多段階の温度制御をされる。気体状態のCu(hfac)TMVSは温度が低いと再液化し、以下のように分解反応を生じて固体生成物が堆積してしまうので注意する必要がある。
2Cu(hfac)TMVS→Cu+Cu(hfac)2+2TMVS
なお、気化器と反応室が直結される場合には有機金属化合物が移送される距離は短いので所定の範囲の温度は変化する場合があることが理解されるだろう。
気化されて温度制御されたCu(hfac)TMVSは、ごく短い時間で効率的に反応室200のシャワーヘッド210に運ばれる。反応室200は被処理体に成膜処理を施す部位であり、例えば、半導体ウェハWに成膜処理を施すCVD装置として構成される。反応室200を真空処理室として構成すれば真空ポンプを設けた真空排気系がこれに接続され、常圧処理室として構成すれば単なる排気系が接続される。なお、配管135には、後述する保守時又は残留液体排出時等に気化器140を孤立させるためのバルブ134が設けられている。
各配管の内部は、例えばフッ化処理又はフッ化樹脂処理による表面処理がなされている(即ち、コーティング層を有する)ことが好ましい。表面処理の目的の一つは配管内面を絶縁性にすることによって配管内面を通じた電子の移動を防止するためである。一般に各配管は金属ベースであり、SUS(ステンレススチール)などの金属から構成されているので配管とフッ素樹脂などの接合性を高めるために樹脂系バインダを使用することができる。
コーティング層を有しない従来の配管についてより詳しく説明する。反応ガスとしてのCu(hfac)TMVSは、配管金属に接触すると以下の反応1)を生じ、その結果、Cu(hfac)が金属配管内面に吸着する。
Cu(hfac)TMVS→Cu(hfac)(吸着)+TMVS 1)
このTMVSは、後述するように、半導体ウェハWの成膜処理に悪影響を及ぼす。また、吸着したCu(hfac)は、以下の反応2)を生じ、配管内にCuが析出すると共に反応室200においてはウェハWの成膜処理には使用されないCu(hfac)2を生成することになる。Cuの析出により配管は詰まり、その断面積は小さくなるから、流量制御良く反応ガスを反応室200に供給することが困難になる。また、反応ガスが配管で消費されることにより所期の成膜処理に必要な十分な量の反応ガスを反応室200に供給することができなくなる。
2Cu(hfac)(吸着)→Cu+Cu(hfac)2 2)
上記2)の分解反応は、吸着している2つのCu(hfac)間で電子が移動することにより生じるため、電子の移動を防止する表面処理を配管内面に施すことが好ましい。
ここで、配管内面を金属弗化物や金属酸化物でコーティングする方法が考えられるが、金属を包含するためにあまり好ましくない。より詳しくは、例えば、金属弗化物や金属酸化物を使用すると金属M(例えば、Al、Fe、Ti及びCu等)とCu(hfac)TMVSとが反応して、M(hfac)x(xはAl、Fe、Tiであれば3、Cuであれば2など)を形成してしまう。これにより、M(hfac)2--が形成されてコーティング層がエッチングされて破壊されてしまうことが理解されるであろう。
そこで、例えば、樹脂系フッ化物(例えば、PTFEやPCTFEなど)を利用することが好ましい。なお、フッ素樹脂処理はHeを透過するので後述するように配管の接合部をフッ素樹脂でコーティングすればキャリアガスとしてのHe抜けを招く恐れがあることに注意しなければならない。なぜなら、キャリアガスが抜けることによりCu(hfac)TMVSの移動速度が減少し、所期の量のCu(hfac)TMVSを反応室200に供給することができなくなるし、また、成膜装置100の外部にHeガスが流出するのは好ましくないからである。
表面処理は、図1の参照番号131で示すような接合部においても重要である。例えば、図5に2つの配管510及び512をシールして接合する典型例としてのクランプシール方法を示す。図5においては、一対のクランプ500を相互に接触する方向に加圧することによって一対のフランジ502をクランプ500と共に移動させ、メタルガスケット(又はオーリング)504を潰してシールを行う。しかし、配管510及び512の各々の内面が表面処理されたライナー(即ち、絶縁コーティング層)520を有しても、接合面530及び532において配管510及び512(そしてフランジ502)の金属面が反応ガスにさらされれば上述した問題を生じる。また、アルミニウム、ニッケル又はメッキ表面処理を施されているメタルガスケット504もその表面で同様の問題を生じる。
そこで、本発明者等は、図6に概略的に示すように、ライナー522を接合部に形成すると共にメタルガスケット504の代わりにフッ素系ゴムからなるシール材505を使用することによりかかる問題を解決することができることを発見した。フッ素系ゴムからなるシール材505は、例えば、デュポン製バイトンオーリングやカルレッツなど商業的に入手可能なものを使用することができる。(フッ素系ゴム)シール材505はその大きさを大きくとればうまく潰れてシールを達成することが理解されるであろう。更に、概略的に図7に示すように、接合部からのHe漏れを防止するメタルシール材540を選択的に設けてもよい。また、図7によれば配管510の接合面530と配管512の接合面532が、それぞれライナー522に覆われている内側の部分及びその内側の部分の周囲に位置し、ライナー552に覆われていない外側の部分を有している。接合面530では、ライナー522に覆われている内側の面550及び覆われていない外側の面570とを有し、接合面532では522に覆われている内側の面552及び覆われていない外側の面572とを有している。フッ素系ゴムからなる内側シール材505は、接合面530及び接合面532を覆うライナー522の間であって、即ち上記面550及び面552との間に設置されている。また、金属製の外側シール材540は、上記面570及び面572との間に配置されている。よって、クランプ500を稼動させ、接合面530及び接合面532とを接近させると、かかる接合面530及び接合面532とに挟まれた内側シール材505及び外側シール材540をつぶして配管510及び配管512とをシールする。図7に示すような樹脂シールとメタルシールの組合せをNW継ぎ手に適用すれば図8に示すようになるし、VCR継ぎ手に適用すれば図9に示すようになるだろう。図8及び図9においては、メタルシール材540a及び540bとフッ素系ゴムからなる内側シール材505a及び505bが協同してシールしている。この時、図8及び図9では、参照番号はアルファベットのない参照番号に対応する部材と同様な機能を有する部材を示しているので、ここでは詳しく説明しない。よって図8の構成部材で説明すると、メタルシール材540aは、ライナー522aで覆われていない部分、即ち面570a及び面572aから挟まれる構造を有している。そのため、シール材540aは配管510aと配管512aとの金属面に直接挟まれてシールする状態となる。なお、図9では配管510b及び配管512bとに設けられている突起によって、シール材540bは加圧され、シールされることを示している。更に、ライナー520bはフッ素樹脂には限定されないことが理解されるだろう。
以下、図2乃至図4を参照して、図1に示す反応室200の具体的構成例について説明する。なお、図4は、図2において、半導体ウェハW、サセプタ240及びシールドリング250の関係を説明するための平面図である。また、図2及び図3において矢印はガス(即ち、反応ガスと排気ガス)の流路を示している。反応室200は、シャワーヘッド210とハウジング220とを有している。
シャワーヘッド210は、配管135に接続されて反応ガス(即ち、Cu(hfac)TMVS)が配管135から供給される導入部212と反応ガスを処理空間S1に所定の均一な密度で供給する供給部214と、チャンバヒータ234が取り付けられる上部216とを有している。チャンバヒータ234によりシャワーヘッド210は反応ガスの気体状態を維持する程度に加熱される。
ハウジング220はシャワーヘッド210が取り付けられるヘッド取付部221と、後述する圧力調整バルブ(コンダクタンスバルブ)290が取り付けられるバルブ取付部222と、後述するフィードスルー280が取り付けられる下部223と、チャンバヒータ230及び232が取り付けられる側部224及び上部225と、後述するシールドリング250の端部を支持するリング支持部226とを有している。リング支持部226は断面がほぼL字状の段差として構成されているが支持方法は問わないことはいうまでもない。例えば、シールドリング250の一部を切欠いたりすることも可能である。
チャンバヒータ230乃至234は、抵抗加熱式ヒータや放射加熱式ヒータなどを含む当業界で周知のいかなるヒータも適用することができる。例えば、抵抗加熱式ヒータとしては坂口E.H.VOC社のシリコンゴムヒータSSH−16やシースヒータを利用することができる。また、放射加熱式ヒータとしては、遠赤外線セラミックヒータを利用することができる。
反応室200の内部は、処理空間S1と排気空間S2に後述するシールドリング250により分割されている。処理空間S1は、主として、シャワーヘッド210から導入された反応ガスを反応させて半導体ウェハWを処理する空間である。排気空間S2は、主として、半導体ウェハWを反応又は未反応で通過した反応ガスが排気される空間である。排気空間S2は、排気ガスを除害するための後述する高温トラップ260が配置されるトラップ空間S3と高温トラップ260から排出された排気ガスが導入されるポストトラップ空間S4とを含んでいる。処理空間S1と排気空間S2とは以下に説明されるように圧力、温度などの環境が異なる。排気空間S2において、トラップ空間S3とポストトラップ空間S4の環境は同一であるが異なってもよい。
処理空間S1は、シャワーヘッド210の供給部214と、ハウジング220の上部225と、ウェハWを支持すると共に170℃程度にウェハ基板を加熱するサセプタ240と、シールドリング250とによって画定されている。サセプタ240は、ウェハWを支持するウェハ支持部242と、シールドリング250の端部を支持する断面L字状段差のリング支持部244を有する。リング支持部244を有する以外はサセプタ240は、従来のものをそのまま使用することができるので、ここでは詳しい構造や機能の説明は省略する。リング支持部244においてサセプタ240はシールドリング250を支持するが、支持の方法は問わないことはいうまでもない。例えば、シールドリング250の一部を切欠いたりすることも可能である。
図2及び図4に示すように、シールドリング250は、複数の排気孔252を有する薄い中空円筒板形状を有している。シールドリング250は、処理空間S1と排気空間S2とを分離すると共に処理空間S1と排気空間S2の差圧をとる差圧板(バッフル板)として機能している。従来、反応室200には、シールドリング250に類似した形状を有する整流板が設けられているが、整流板は設けられている孔の径が2乃至3mm程度であり、整流板は、例えば、500Torr(66.7×103Pa)と400Torr(53.3×103Pa)という圧力が近接している2つの空間においては差圧機能(この場合であれば400Torr/500Torr=4/5)を有するが、本実施例に適用するとトラップ空間S3で加熱された気体が処理空間S1に逆流して拡散してしまう。本実施例では、例えば、処理空間S1の圧力を500Torr(66.7×103Pa)とすれば、処理空間S2の圧力は50Torr(6.67×103Pa)程度の差圧(即ち、1/10程度)が要求される。
このように、本実施例の反応室200は、特長的に、処理空間S1の圧力P1を排気空間S2の圧力P2よりも大幅に大きくして(例えば、10倍程度)、排気空間S2から処理空間S1への逆流を防止している。
後述する高温トラップ260と排気ガスが反応した際に生じる気体状生成物が通常略一定の圧力に制御される処理空間S1に流入すると反応ガスの分圧が下がり、成膜処理速度が低下する。また、本実施例では、TMVSとH(hfac)が処理反応を阻害する場合もある。より具体的には以下のようになる。
Cu(hfac)TMVS→Cu(hfac)(吸着)+TMVS 1)
2Cu(hfac)(吸着)→Cu+Cu(hfac)2 2)
Cu(hfac)2+H2→Cu+2H(hfac) 3)
2H(hfac)→H2+2hfac 4)
Cu(hfac)(吸着)+hfac→Cu(hfac)2 5)
処理空間S1では、ウェハWにCu(0価)を堆積させるために、1)と2)の反応が生じることが期待されている。従って、反応ガスである(1価の銅原子を含む)Cu(hfac)TMVSが処理空間S1に導入されると、その排気ガスには、未反応のCu(hfac)TMVSと、Cu(hfac)2とTMVSとが含まれている。このうち、(2価の銅原子を含む)Cu(hfac)2は常温では固体で、蒸気圧は9Torr(100℃)であり、300℃以上の温度で3)及び4)に示すように分解する。一方、TMVSは、常温で液体で、沸点は55℃(1気圧)である。
例えば、後述するように、高温トラップ260の温度を300℃以上にすれば高温トラップ260からは、上記1)乃至3)の反応により3種類の気体(即ち、TMVS、Cu(hfac)2及びH(hfac))が生成されることになる。そして、これらの気体がもし空間S1に逆流すれば、TMVSは反応ガスの安定剤であるが多すぎるとウェハW上で1)の逆反応をもたらして1)の反応の進行を抑制する。従って、TMVSは少ない方がウェハ処理を効率的に行うことができる。H(hfac)は、ウェハW上で4)、5)の反応を進行させ、2)の反応によるCu成膜を減少させることになる。なお、上述したように、3)の反応は150℃乃至230℃に設定されるウェハ上では進行しない。
従って、1)と2)の反応を確保してウェハW上に適当な量のCuを堆積するためには排気空間S2から処理空間S1への気体の逆流を防ぐ必要がある。そこで、本実施例では、シールドリング250は排気孔252の径を0.5乃至1mm程度に設定することによって簡易な方法で空間S1とS2の差圧(コンダクタンス)をとることを可能にしている。シールドリング250の材質は、ステンレス(SUS)、アルミニウム、アルミナなどのセラミックにより構成することができる。なお、要求される差圧の大きさによって排気孔252の大きさや形状などは変更されるが、代替的に、排気孔252の大きさを可変できるように構成してもよい。
シールドリング250は、一方で、トラップ空間S3の温度と処理空間S1の温度を分離している。処理空間S1に配置されるウェハWの温度は150℃乃至230℃程度に、後述する高温トラップ260は300℃乃至350℃程度に加熱される。なお、これについては高温トラップ260と共に更に説明する。
シールドリング250は、本実施例では差圧板としての機能を有するが、差圧維持は気体の逆流を防ぐ一手段でしかないため必ずしも差圧機能は要求されない。即ち、代替的な実施例においては、処理空間S1と排気空間S2とは同圧に維持されることができる。シールドリング250は、差圧機能がなくても両空間S1及びS2を分離すれば気体の逆流を妨げる機能を有する。この場合に、ガスの流路は後述する圧力調整バルブ290と排気装置400により確保されることになる。
次に、図3を参照して高温トラップ260について説明する。高温トラップ260は、ブロックヒータ270に接触支持されて反応室200のトラップ空間S3に配置される。より詳細には、高温トラップ260は、シールドリング250
の排気孔252から排気ガスを受け取るガス導入部262と、当該ガスを除害する導電性除害部264と、除害後の気体をポストトラップ空間S4に排出する排出部266と、ヒータブロック270との接続部267とを有している。
導電性除害部264は、例えば、アルミニウムにより構成され、図3に示すようなほぼU字型断面を有している。また、高温トラップ260は、図4に示すシールドリング250の下に配置されるため、円筒形状を有していることが理解されるであろう。導電性除害部264はヒータブロック270により300℃乃至350℃程度に加熱される。下限温度を300℃程度に設定しているのは、上述したように、Cu(hfac)2を熱分解するためである。また、350℃程度に上限温度を設定しているのはアルミニウムの耐久温度が400℃以下だからである。但し、高温トラップ260にアルミニウム以外の材質を使用すれば上限温度を変更することができるのはいうまでもない。また、反応ガスの種類を変更すれば下限温度を変更することができるのはいうまでもない。
本実施例では、表面の導電性の高い材料(例えば、アルミニウム)を排気ガスに接触する導電性除害部264に使用している。このため、高温トラップ260は、加熱による熱分解のほかにガス間の電子移動により分解反応を促進するという効果も有している。選択的に、高温トラップ260は、必要があれば、所定の制御の下、かかる電子移動の更なる促進のため通電されてもよい。また、導電性除害部264はメッシュ形状に構成されてもよい。本実施例の高温トラップ260は、このように、加熱のみからガスを分解する従来の高温トラップ比べてガスの分解反応速度が高いため、後述する排気装置400に未分解状態のガスが送られることを防止することができる。
また、本実施例の高温トラップ260は、反応室200内に設けられているヒータブロック270により効率良く、かつ、温度制御良く直接加熱されることができる。また、シールドリング250により処理空間S1とトラップ空間S3とは分離されているので高温トラップ260を上記温度に制御することが容易である。本実施例では、処理空間S1とトラップ空間S3の温度環境をシールドリング250により分離すると共に、ヒータブロック270により高温トラップ260を直接加熱しているので、ウェハWの温度を150℃乃至230℃程度に維持しながら高温トラップ260の温度のみを300℃乃至350℃程度に温度制御良く加熱することができる。
ヒータブロック270は、断面が略L字状のトラップ支持部272とヒータ274とを有し、ヒータ274は、フィードスルー280に接続されている。トラップ支持部272を含むヒータブロック270の本体は、例えば、SUSにより構成されている。ヒータ274は、図3においては、例示的にヒータブロック270の内部に配置されているが、その位置は限定されず、例えば、トラップ支持部272に巻かれたヒータ線として構成されたり、トラップ支持部272の外面にねじ止めされたヒータ板として構成されてもよい。ヒータ274には、チャンバヒータ230と同様に当業界で周知のいかなる構造も採用することができ、ヒータブロック270と一体型でもよいし、カートリッジヒータとしてヒータブロック270とは別体として構成されてもよい。
フィードスルー(真空電流導入端子)280は、オーリング281によってハウジング220の下部223に取り付けられる。オーリング282の代わりにメタルガスケットなど別の取り付け部材を用いてもよいことはいうまでもない。フィードスルー280は、ヒータ274に接続される電線282と、電線282を保護するセラミック部材283と、任意の金属材料284と、外部のヒータコントローラ300と電線282を接続する接続部286とを有している。フィードスルー280は、反応室200内の減圧環境を破壊することなく反応室200の内部に配置されたヒータ274に電力を供給することができる。なお、本実施例は、フィードスルー280とヒータコントローラ300とは別部材として構成しているが、両者は一体的に構成されてもよい。
ヒータコントローラ300によりヒータ274に供給される電力を制御することにより、ヒータ274(及びその結果ヒータブロック270と高温トラップ260)の温度を制御することができる。ヒータコントローラ300は、ヒータブロック270や高温ブロック260の温度をフィードバック情報として受け取り、これによって制御してもよい。温度情報は、例えば、ヒータブロック270や高温ブロック260に取り付けられる図示しない熱電対、PTCサーミスタ、赤外線センサなどの当業界で周知の温度センサにより生成することができる。ヒータコントローラ300には、当業界で周知の構造を使用することができるのでここでは詳しい説明は省略する。
反応室200のハウジング220のバルブ取付部には圧力調整バルブ290が取り付けられている。圧力調整バルブ290は、コンダクタンスバルブなどの名称で当業界で周知である。圧力調整バルブ290は、外部排気系である排気装置400に接続されている。排気装置400は、配管とドライポンプを含むが、ドライポンプと共にターボポンプなどを含んでいてもよい。圧力調整バルブ290は、その開度を調節することが可能であり、排気装置400によって反応室200内を排気する際に圧力調整バルブ290の開度を調節することにより、反応室200内の圧力を調節することが可能である。圧力調整バルブ290は反応室200内の圧力を測定する圧力計202に接続された圧力コントローラ204に接続されている。圧力コントローラ204が、圧力計の測定に応じて圧力調整バルブ290の開度を調節することにより、反応室200内の圧力が略一定の圧力(所定のプロセス圧力)に制御される。
その他、成膜装置100は、装置の不使用時及び保守時に配管内部に溜まった液体その他の残留物を除去するための排気系を有している。排気系は、バルブ124、128、132、136、排出通路(配管)133、冷却又は高温トラップ150、真空ポンプ152を含んでいる。なお、反応室200に接続されている排気装置400などの排気系は図1では図示が省略されている。これらの詳しい構造は当業界で周知であるためにここでは詳しい説明は省略する。
排出通路133は、気化器140とバルブ134との間の配管135、流量計110と気化器140との間の配管123、及びバルブ122と126との間の配管123にそれぞれバルブ132、128及び124を介して接続されている。また、排出通路133の排出側にはバルブ136、排気中の液体を除去するトラップ150及び真空ポンプ152が設けられている。
排出通路133からの吸引排出だけでは十分に残留物等を除去できない場合を考慮して、本実施例の成膜装置100は配管123に配管107と洗浄液源106を接続している。洗浄液としてはエ夕ノール、メタノール等のアルコール又はへキサン等の有機溶剤若しくは原料に含まれる成分(例えば、TMVSなど)を使用することができる。配管107は、洗浄液の給排を行うバルブ114及び116を有している。
各通路のうち気化器140から出る配管135及び133、並びにそれらの接続通路には、常時加熱して気化ガスの再液化を阻止するための例えばテープヒータ等よりなるヒータ155が設けられている。また、再液化を防止するためには反応室200の圧力に近い状態を得るために配管135及び133、並びに接続通路は大きい口径及び短い通路が望まれる。
成膜装置100には当業界で周知のいかなる配管をも使用することができる。例えば、内径39mm、外径41mmのいわゆる40mmステンレス製配管と、NW40配管継ぎ手やガスケットを使用することができる。代替的に、ICF70配管継ぎ手やISOフランジ継ぎ手やガスケットを使用してもよい。
配管長は、市販のバルブや継ぎ手を使用した場合、気化器140から反応室200まで200mm乃至500mmで接続することが可能である。
次に、成膜装置100の動作について説明する。なお、事前に配管等内の残留物を除去してこれらが反応室200に送られるのを防止しておく。次に、反応室200のサセプタ164上に半導体ウェハWをセットし、このウェハWを所定のプロセス温度(例えば、150乃至230℃)に維持すると共に所定のプロセス圧力(例えば、0.1乃至数Torr(13.3Pa及至数百Pa)を維持するように真空排気系を駆動する。この状態で成膜処理を行う。
バルブ132及び136を開いて気化器140を通路133に接続させる。直後にバルブ112,118,120,122,126,130をそれぞれ開ける。通路133は真空ポンプ152によって常時真空引きされているので、気化器140内の残留物が通路133を介して排除される。気化器140の流体制御バルブ142も開放される。所定時間(数秒)後、バルブ132及び136を閉じてバルブ134を開ける。
これにより、貯留槽108内の液体材料Lは加圧Heガスにより押し出されて僅かずつ配管123を流れて行き、この流量は流量計110と流量制御バルブ142により制御される。液体材料Lは気化器140内の、減圧化された空間に導入されると断熱膨張しながら液体から気体に変化する。この際に気化した有機金属化合物の温度が低下するため気化器140内の減圧空間を構成し、所定の温度に制御された内壁と気化した有機金属化合物との熱交換効率を向上するために減圧下で熱伝導性のよい、He又はH2ガスを通路103から導入する。
また、ここで使用するHe又はH2ガスは気化した有機金属化合物が再液化することを防止する機能を有する。即ち、気化した有機金属化合物間にHe又はH2ガスが配置されることになり有機金属化合物が直接衝突する確立が減少し再付着が防止され、再液化が防止される。このようにHe又はH2は、有機金属化合物の気化により低下した温度の補充と再液化することなく輸送するキャリアガスとしての機能を有する。キャリアガスと気化した有機金属化合物はそのまま通路135を介して反応室200へ導入されて時間Tだけ成膜が行われる。なお、この時、気化器140の気化部(即ち、上述したように、有機金属化合物がキャリアガスと混合して気化される第1の加熱部147を含む気化器140の内部空間)の圧力が、反応室200の圧力の1.5倍乃至5倍以下と近接するように設定することが好ましい。
このように本実施例では、成膜処理前に、成膜装置100の各部の残留物を排除することができるので、成膜ガス供給量を安定的に且つ精度良く供給することができ、従って、品質及び特性の良好な成膜を得ることが可能となる。なお、残留物の排除は、前回の成膜処理終了後今回の成膜処理前に行えば足りることはいうまでもない。
本実施例では反応室200は、Cu(hfac)TMVSが供給される導入部212と、半導体ウェハWを支持可能なサセプタ240と、高温トラップ260を支持可能なヒータブロック270と、半導体ウェハWとCu(hfac)TMVSとが反応する処理空間S1と高温トラップ260が配置されるトラップ空間S3とを分離すると共に、トラップ空間S3から処理空間S1への気体の逆流を防止することができるシールドリング250とを有する。かかる構成を採用しているので、シールドリング250が高温トラップ260における反応によって生成したガス(TMVS、Cu(hfac)2及びH(hfac))がトラップ空間S3から処理空間S1に逆流することを防止する。このため、略一定の圧力に制御される処理空間S1において、反応ガスであるCu(hfac)TMVSの分圧が維持される。また、TMVS及びH(hfac)により成膜反応の逆反応が生じることを防止することができる。この結果、反応室200の処理空間S1では、半導体ウェハWの所期の成膜反応速度を維持することができる。
また、本実施例では反応室200は、Cu(hfac)TMVSが供給される導入部212と、半導体ウェハWを支持可能なサセプタ240と、高温トラップ260を支持可能で減圧環境にあるヒータブロック270と、ヒータブロック270に配置され、高温トラップ260を半導体ウェハWとは独立して加熱可能なヒータ274と、前記減圧環境を維持しつつヒータ274に電力を供給するフィードスルー280とを有する。かかる構成を採用しているので、フィードスルー280は、反応室200内の減圧環境を破壊することなくヒータ274に電力を供給することができる。また、ヒータ274は高温トラップ260を半導体ウェハWとは独立に直接加熱することができるので、半導体ウェハWよりも高い温度設定を容易に、かつ効率良く実現することができる。
また、本実施例では高温トラップ260は、反応ガス供給装置(参照番号135及びその上段にある部位の全部又は一部)に接続されると共に半導体ウェハWを支持可能で、Cu(hfac)TMVSを利用して半導体ウェハWに成膜処理を施すことができる反応室200内に配置可能であり、半導体ウェハWを通過したCu(hfac)TMVSを含む排気ガスが供給される導入部262と、前記排気ガスを加熱して除害するために当該排気ガスに接触可能な導電性除害部264と、導電性除害部264を経た排気ガスを排出する排出部266とを有する。かかる構成を採用しているので、導電性除害部264は加熱による熱分解により排気ガスを分解するとともにその導電性からガス間の電子移動を促進して分解速度を向上することができる。これにより、高温トラップ260は、高い分解速度を有するため、排気装置400に十分に分解されない排気ガスが大量に移動してしまうことを防止することができる。
本実施例では処理装置100は、高温トラップ260が配置される反応室200と、反応室200に接続され、導入部212にCu(hfac)TMVSを供給する反応ガス供給装置(参照番号135及びその上段にある部位の全部又は一部)と、反応室200に接続され、高温トラップ260を通過したCu(hfac)TMVSを排気する排気装置400とを有する。
また、本実施例では処理装置100は、Cu(hfac)TMVSを運ぶことができる金属ベースの第1及び第2の配管510と512(及びこれらの参照番号にアルファベットを付したものも含む)と、第1及び第2の配管510及び512を接続するクランプ500(及びフランジ502、メタルガスケット504のいずれか又は全部)と、第1及び第2の配管510と512の各々の接合面530と532に設けられた絶縁物であるライナー520、522(及びこれらの参照番号にアルファベットの付したものも含む)とを有する。かかる構成を採用しているので、配管510と512の接合面530と532に設けられたライナー520、522は、反応ガスであるCu(hfac)TMVSが接合面530と532において配管510と512の金属を介して電子移動を行うことを防止する。これにより、配管510と512の接合面530及び532におけるCu(hfac)TMVSの反応に起因するCu(hfac)TMVSの消費を防止して、所期の量のCu(hfac)TMVSを反応室200に供給することができる。また、接合面530と532において成膜反応を妨げるガス(例えば、TMVS)が発生することを防止することができる。
本実施例では処理装置100は、前記反応ガス供給装置(参照番号135及びその上段にある部位の全部又は一部)に接続されて、この反応ガス供給装置から供給されるCu(hfac)TMVSを運ぶHeガスを供給するキャリアガス供給装置(Heガス源102や104)と、第1及び第2の配管510と512に接続されて(具体的には、第1の配管510の接合面530の外側部と第2の配管512の接合面532の外側部との間に配置されて)、第1の配管510の接合面530と第2の配管512の接合面532との間からキャリアガスであるHeガスが漏れることを防止するメタルシール材540とを有する。かかる構成を採用しているので、ライナー520、522がフッ素樹脂等のHeを透過する材質で構成されたとしても、メタルシール材540はキャリアガスであるHeガスの濃度が減少することを防止する。これにより、Cu(hfac)TMVSの移動速度を変えることなく所期の量のCu(hfac)TMVSを反応室200に供給することができる。
また、本実施例では処理装置100はCu(hfac)TMVSを運ぶことができる第1及び第2の配管510及び512(及びこれらの参照番号にアルファベットを付したものも含む)と、第1及び第2の配管510及び512を接続するクランプ500(及びフランジ502、シール材505のいずれか又は全部)と、第1の配管510の接合面530と第2の配管512の接合面532との間に配置されたフッ素系ゴムからなるシール材505(絶縁物であり、その表面は絶縁性である)とを有する。かかる構成を採用しているので、シール材505の表面が絶縁性であることをによってCu(hfac)TMVSがシール部材を介して電子移動することが防止されるので、シール材505に表面においてCu(hfac)TMVSが反応することによるCu(hfac)TMVSの消費を防止して、所期の量のCu(hfac)TMVSを反応室200に供給することができる。
以上の実施例においては、半導体ウェハを例にとって説明したが、被処理体としてはシリコン、ガリウムヒ素等の半導体ウェハに限定されず、他の材料、例えばLCD基板、ガラス基板等も用いることができるのは勿論であり、また、反応室の処理方法としては、枚葉式、バッチ式どちらにも適用することができる。