JP2005030567A - ピストンリング及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 鋳鉄材からなる母材を用い、良好な耐外周スカッフ性及び耐外周摩耗性を有し、かつ良好な耐側面摩耗性を有するフルフェースタイプの溶射ピストンリング、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 鋳鉄からなる母材を有する本発明のピストンリングは、外周面の全面に溶射皮膜が形成され、かつ前記外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜が形成されていることを特徴とする。
【選択図】 なし
【解決手段】 鋳鉄からなる母材を有する本発明のピストンリングは、外周面の全面に溶射皮膜が形成され、かつ前記外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜が形成されていることを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
本発明は、溶射皮膜及び無電解メッキ皮膜を有し、耐外周スカッフ性、耐外周摩耗性及び耐側面摩耗性に優れ、かつ低コストのピストンリング及びその製造方法に関する。
内燃機関の高出力化、高速化に伴い、ピストンリングの耐スカッフ性、耐摩耗性等の摺動特性を向上させるため、ピストンリングの外周摺動面にCrメッキ皮膜、多層Crメッキ皮膜、複合分散メッキ皮膜、溶射皮膜、イオンプレーティング皮膜、窒化処理等の表面処理が施されるようになっている。特に舶用、発電機用等の大径のディーゼルエンジン用のピストンリングの場合、製造の容易さとコストの観点から、球状黒鉛鋳鉄母材に溶射皮膜を施したインレイドタイプのピストンリングが多く用いられている。しかしながら、インレイドタイプのピストンリングは外周中央部に溝を加工し、その部分に溶射層を形成する構造になっているため、摺動時にリングが軸方向に傾いたときは外周面母材部分とシリンダライナー内面が直接接触し、焼付を起こすという問題がある。
この対策として、特開昭60-187741号(特許文献1)は母材の外周部を窒化する方法を開示している。しかし、外周部を窒化した後に溶射すると、溶射前のブラスト処理により窒化層に微細亀裂が多数発生し、形成された溶射皮膜と母材との密着性が低下するという問題がある。一方、溶射後に窒化する場合は窒化処理時にアンモニアガスが溶射皮膜内に侵入し、皮膜を劣化させるという問題がある。このため、特開昭62-032266号(特許文献2)は、溶射皮膜が窒化による影響を受けないように溶射する母材部分にNiメッキを施してから窒化処理を施し、その後に溶射する方法を開示している。しかしながら、この方法は工程が多くなるためコスト高となり実用的でない。
上記の問題の本質は溶射部分がインレイド形状である点にあるため、本発明者らは特願2002-174022号において、母材が窒化鋼からなりフルフェースの溶射皮膜が形成されたピストンリングを提案した。このピストンリングの場合、溶射皮膜として密度が非常に高い高速フレーム溶射皮膜を形成することにより、窒化処理においてアンモニアガスが皮膜内に浸透するのを阻止し、溶射皮膜の劣化を防止することができる。また、フルフェースの溶射皮膜が形成されたピストンリングでは、外周部に母材が露出しないので外周部の耐スカッフ性や耐摩耗性が向上し、さらに側面も窒化するので側面の耐摩耗性も向上する。しかしながら、このピストンリングは窒化鋼の母材を使用するためコスト高となる。また、インレイドタイプのピストンリングであれば外周部に露出する母材を窒化するため窒化鋼を使用する必然性があるが、フルフェースタイプのピストンリングでは外周部に母材が露出しないため、側面の耐摩耗性のためだけに母材を窒化鋼にするのは必然性に乏しい。
母材として安価な鋳鉄を用い、外周部にフルフェースタイプの溶射皮膜を形成すれば、外周部の耐摩耗性とコストの問題をともに解決することが可能である。しかし、鋳鉄からなる母材はさらなる高出力化及び高速化の要求に対応できず、側面摩耗が発生するという問題が生じる。
特開昭57-046048号(特許文献3)は、インレイドタイプのピストンリングにおいて、側面に電気メッキ法によりCrメッキ皮膜を形成することにより、側面耐摩耗性を向上させる方法を開示している。しかしながら、溶射後にCrメッキ処理を施す場合は、処理に用いる酸が溶射皮膜中に入り込んで水素を吸収し、その水素が凝集することにより脆化する、いわゆる水素脆性の問題が発生する。このため、溶射皮膜形成前にメッキ処理を行わなければならない。インレイドタイプの溶射リングの場合、溶射時にリング同士の側面が密着しているため、Crメッキが施された側面に溶射皮膜が付着することはない。一方、フルフェース溶射リングの場合は、スペーサを挟むことによりリング間に隙間を開けて溶射処理を行う必要があるため、必然的に側面のCrメッキ上に溶射皮膜が付着する。このため、側面加工により付着した溶射皮膜を除去する必要が生じるが、溶射皮膜を除去する際にCrメッキ皮膜も同時に除去されるため、Crメッキの膜厚管理等が困難になるとともに、側面の耐摩耗性が不均一になるという問題がある。
従って本発明の目的は、鋳鉄材からなる母材を用い、良好な耐外周スカッフ性及び耐外周摩耗性を有し、かつ良好な耐側面摩耗性を有するフルフェースタイプの溶射ピストンリング、及びその製造方法を提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、鋳鉄母材を有するピストンリングの外周摺動面の全面に溶射皮膜を形成し、側面に付着した溶射皮膜を除去した後外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ処理を施すことにより、溶射皮膜にメッキ処理による脆化が発生せず、溶射皮膜の強度を保持したままピストンリングの側面に良好な耐摩耗性を有するメッキ皮膜を形成することができ、摺動特性及び耐久性に優れ、かつ良好なシール性及び耐側面摩耗性を有するピストンリングが得られることを発見し、本発明に想到した。
すなわち、鋳鉄からなる母材を有する本発明のピストンリングは、外周面の全面に溶射皮膜が形成され、かつ前記外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜が形成されていることを特徴とする。
一般にピストンリングの側面摩耗が進行すると以下の不具合が生じる。
(i) 側面摩耗によりピストンリングのがたつきが大きくなり、ピストンリングに叩き荷重が発生し、最終的に折損が生じる。
(ii) 側面摩耗が大きくなると、ピストンリングの荒れた側面によりリング溝を攻撃するため、ピストンリング側面のシール性が低下してガス漏れが生じ、出力低下を引き起こす。
(iii) 側面摩耗が進行するとクリアランスが大きくなるため、ピストンリングがリング溝側面と平行な状態から傾斜した状態になりピストンリングの上面のみがリング溝側面に当たり、ピストンリングが上昇するときにオイルを掻き上げてオイルが燃焼室に入り、オイル消費が増大する。
本発明のピストンリングは側面に無電解メッキ皮膜が形成されているため、耐側面摩耗性が向上し、上記の不具合を防止することができる。
(i) 側面摩耗によりピストンリングのがたつきが大きくなり、ピストンリングに叩き荷重が発生し、最終的に折損が生じる。
(ii) 側面摩耗が大きくなると、ピストンリングの荒れた側面によりリング溝を攻撃するため、ピストンリング側面のシール性が低下してガス漏れが生じ、出力低下を引き起こす。
(iii) 側面摩耗が進行するとクリアランスが大きくなるため、ピストンリングがリング溝側面と平行な状態から傾斜した状態になりピストンリングの上面のみがリング溝側面に当たり、ピストンリングが上昇するときにオイルを掻き上げてオイルが燃焼室に入り、オイル消費が増大する。
本発明のピストンリングは側面に無電解メッキ皮膜が形成されているため、耐側面摩耗性が向上し、上記の不具合を防止することができる。
無電解メッキ皮膜はNi又はNiを50質量%以上含有するNi合金からなるのが好ましく、無電解メッキ皮膜の厚さは10〜100μmであるのが好ましい。
本発明の好ましい実施例では、母材は球状黒鉛が均一に分散した切欠効果の少ない鋳鉄からなり、溶射皮膜はピストンリングの外周面の全面に被覆されており、溶射皮膜は密着性確保のため高速酸素フレーム溶射又は高速空気フレーム溶射により形成されている。溶射皮膜は炭化クロム粒子とNi-Cr合金粒子からなるのが好ましく、溶射皮膜の面積率を100%としたとき、前記炭化クロム粒子の面積率が40〜80%及び前記Ni-Cr合金粒子の面積率が20〜60%であるのがより好ましい。このような溶射皮膜を形成することにより、外周摺動面の耐摩耗性及び耐スカッフ性を向上させることができる。
本発明のピストンリング製造方法は、鋳鉄からなる母材及び溶射皮膜を有するピストンリングの製造方法であって、(a)前記母材を円筒状に鋳造し、(b)焼入焼戻処理を施し、(c)カム形状に加工し、(d)突っ切り加工及び合口切断によりピストンリング形状とし、(e)前記ピストンリング形状の母材の外周面をブラスト処理し、(f)高速フレーム溶射により前記外周面の全面に溶射皮膜を形成し、(g)前記母材の側面に付着した溶射皮膜を除去し、(h)前記母材の少なくとも側面に無電解メッキ処理を施し、(i)外周形状を最終形状に加工することを特徴とする。
無電解メッキ処理を施す前に外周形状を最終形状に近似した形状に加工し、その後にメッキ処理を行い、外周形状を最終形状に仕上げてもよい。
本発明のピストンリングは、コスト的に有利な鋳鉄母材を用いるとともに、外周摺動面の全面に溶射皮膜が形成されているため外周摺動面の耐摩耗性及び耐焼付性が良好である。さらに側面に無電解メッキ処理が施されているため、側面摩耗を減少させることができる。これによりピストンリングのがたつきをなくし安定した摺動材とすることができ、外周摺動面の耐摩耗性及び耐焼付性を一層向上させることができる。さらに、ブローバイ量を低減させることも可能である。本発明のピストンリングは、特に高負荷エンジン用のピストンリングに好適である。
[1] ピストンリング
(A) 構造
本発明のピストンリングは、外周面に溶射皮膜が形成され、外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜が形成されている。外周部の耐摩耗性及び耐焼付性を向上させる観点から、溶射皮膜はピストンリングの外周面の全面に形成されるフルフェースタイプの皮膜とする。これにより、従来のインレイドタイプのピストンリングのように外周面の耐摩耗性及び耐焼付性を補うため窒化処理を施す必要がない。ピストンリングの外周形状は特に制限されず、外周研磨等で作製可能な形状であればバレルフェース形状、偏心バレルフェース形状、テーパ形状等のいかなる形状であってもよい。
(A) 構造
本発明のピストンリングは、外周面に溶射皮膜が形成され、外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜が形成されている。外周部の耐摩耗性及び耐焼付性を向上させる観点から、溶射皮膜はピストンリングの外周面の全面に形成されるフルフェースタイプの皮膜とする。これにより、従来のインレイドタイプのピストンリングのように外周面の耐摩耗性及び耐焼付性を補うため窒化処理を施す必要がない。ピストンリングの外周形状は特に制限されず、外周研磨等で作製可能な形状であればバレルフェース形状、偏心バレルフェース形状、テーパ形状等のいかなる形状であってもよい。
(B) 母材
本発明のピストンリングは、コスト及び加工性の観点から鋳鉄からなる母材を用いる。鋳鉄の中でも切欠効果の少ない球状黒鉛鋳鉄が特に好ましい。
本発明のピストンリングは、コスト及び加工性の観点から鋳鉄からなる母材を用いる。鋳鉄の中でも切欠効果の少ない球状黒鉛鋳鉄が特に好ましい。
(C) 溶射皮膜
溶射皮膜は特に限定されず、公知の溶射皮膜が形成されていてよい。溶射皮膜の例としては、金属(合金)溶射皮膜、セラミックス溶射皮膜、セラミックス-金属混合溶射皮膜等が挙げられる。金属(合金)溶射皮膜としては、Ni、Cr、Fe、Mo、Co、Cu等の金属を含有する溶射皮膜が挙げられ、好ましい例としてはNi、Ni-Cr合金、Co、Co-Cr合金、Mo、Ni-Mo合金、Co-Mo合金等からなる溶射皮膜が挙げられる。セラミックス溶射皮膜としては酸化クロム(Cr2O3)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、炭化クロム(Cr3C2)、タングステンカーバイト(WC)等からなる溶射皮膜が挙げられる。セラミックス-金属混合溶射皮膜としては、上記のセラミックスとNi、Cr、Mo、Co、Fe等の金属からなるサーメット溶射皮膜が挙げられ、好ましい例としてはCr2O3とMo合金、Cr3C2とNi-Cr合金、WCとCo等からなる溶射皮膜が挙げられる。
溶射皮膜は特に限定されず、公知の溶射皮膜が形成されていてよい。溶射皮膜の例としては、金属(合金)溶射皮膜、セラミックス溶射皮膜、セラミックス-金属混合溶射皮膜等が挙げられる。金属(合金)溶射皮膜としては、Ni、Cr、Fe、Mo、Co、Cu等の金属を含有する溶射皮膜が挙げられ、好ましい例としてはNi、Ni-Cr合金、Co、Co-Cr合金、Mo、Ni-Mo合金、Co-Mo合金等からなる溶射皮膜が挙げられる。セラミックス溶射皮膜としては酸化クロム(Cr2O3)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、炭化クロム(Cr3C2)、タングステンカーバイト(WC)等からなる溶射皮膜が挙げられる。セラミックス-金属混合溶射皮膜としては、上記のセラミックスとNi、Cr、Mo、Co、Fe等の金属からなるサーメット溶射皮膜が挙げられ、好ましい例としてはCr2O3とMo合金、Cr3C2とNi-Cr合金、WCとCo等からなる溶射皮膜が挙げられる。
本発明のピストンリングに用いる溶射皮膜の好ましい例として、炭化クロム粒子とNi-Cr合金粒子からなる溶射皮膜について説明する。この溶射皮膜は、炭化クロムの微細粒子がNi-Cr合金素地に均一に分散しており、炭化クロム粒子により溶射皮膜の耐摩耗性を向上させるとともに、炭化クロム粒子をNi-Cr合金で保持することにより相手材の摩耗を低減することができる。皮膜を構成する粒子の平均一次粒子径は10μm以下であるのが好ましく、3〜5μmであるのがより好ましい。平均一次粒子径が10μmを超えると、摺動中に脱落した皮膜粒子による面荒れが顕著になり、スカッフや摩耗を生じやすい。さらに脱落した粒子自身の相手攻撃性が高く、スカッフや摩耗を助長する結果になり好ましくない。平均一次粒子径が10μm以下であると、粒子が脱落しても摺動面は平滑であり脱落粒子による相手攻撃性が少ないため、スカッフや摩耗が生じにくくなる。平均一次粒子径が3μm未満であると、炭化クロム粒子による耐スカッフ性を向上させる効果が低下し、耐スカッフ性が不足する場合があるため、より好ましくは平均一次粒子径が3μm以上である。
溶射皮膜の面積率を100%としたとき、溶射皮膜中に含まれる炭化クロム粒子の面積率は40〜80%であるのが好ましく、Ni-Cr合金粒子の面積率は60〜20%であるのが好ましい。炭化クロムの面積率が40%より低いとNi-Cr合金成分が多くなるため、凝着摩耗を起こし相手材を多く摩耗させてしまう。一方、炭化クロムの面積率が80%を超えると、炭化クロム成分が多過ぎてNi-Cr合金により炭化クロムを保持できなくなり、炭化クロム粒子が多く脱落し、結果としてアブレシブ摩耗を起こし相手材を多く摩耗させてしまう。
(D) 無電解メッキ皮膜
本発明のピストンリングは、ピストンリング側面の耐摩耗性を向上させるため外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜が形成されている。メッキ皮膜は、ピストンリングの外周摺動面に溶射皮膜が形成され、側面に付着した溶射皮膜が除去された後に形成される。メッキ皮膜を一般的な電気メッキにより形成すると、溶射皮膜表面に存在する気孔からメッキ処理液が侵入し、水素脆性を促進してしまう。このため、メッキ皮膜は無電解メッキ処理により形成する。無電解メッキ処理の場合、溶射皮膜を脆化することなく側面にメッキ皮膜を形成することが可能である。また、一般的な電気メッキでは外周と側面の境界のエッジ部に強電場が発生し、メッキが盛り上がるため除去工程が必要となる。これに対して、無電解メッキでは上記のような強電場が発生しないので、均一な膜厚のメッキ皮膜を得ることが可能である。
本発明のピストンリングは、ピストンリング側面の耐摩耗性を向上させるため外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜が形成されている。メッキ皮膜は、ピストンリングの外周摺動面に溶射皮膜が形成され、側面に付着した溶射皮膜が除去された後に形成される。メッキ皮膜を一般的な電気メッキにより形成すると、溶射皮膜表面に存在する気孔からメッキ処理液が侵入し、水素脆性を促進してしまう。このため、メッキ皮膜は無電解メッキ処理により形成する。無電解メッキ処理の場合、溶射皮膜を脆化することなく側面にメッキ皮膜を形成することが可能である。また、一般的な電気メッキでは外周と側面の境界のエッジ部に強電場が発生し、メッキが盛り上がるため除去工程が必要となる。これに対して、無電解メッキでは上記のような強電場が発生しないので、均一な膜厚のメッキ皮膜を得ることが可能である。
無電解メッキ皮膜は公知の皮膜であってよい。メッキ皮膜を構成する金属としては、Ni、Co、Cu、Fe、Sn、Zn、Ti、W等が挙げられ、これらの金属単体により形成される皮膜であっても、2種以上の金属イオンを共析合金化して得られる合金皮膜(例えばNi-Zn合金、Ni-Sn-Zn合金等からなるメッキ皮膜)であってもよい。さらに硬度、耐蝕性等の特性を改善する目的でセラミックス等の微粒子をメッキ皮膜中に分散、複合化した複合分散メッキ皮膜(例えばNi-P、Ni-B、Ni-W、Ni-P-B、Co-P等からなるメッキ皮膜)であってもよい。
無電解メッキ皮膜は単層構造であっても多層構造であってもよい。例えば異なる組成の皮膜が積層された多層構造の皮膜とすることができる。また、皮膜中にポリテトラフルオロエチレン、フッ化グラファイト(CF)、二硫化モリブデン等が分散したメッキ皮膜であってもよい。
本発明に用いる無電解メッキ皮膜としては、耐摩耗性及び耐蝕性の観点から特にNi系無電解メッキ皮膜が好ましい。Ni系無電解メッキ皮膜は、Niを50質量%以上含有するのが好ましく、70〜100質量%含有するのがより好ましい。Ni系無電解メッキ皮膜の好ましい例としては、Ni-Pメッキ皮膜、Ni-P-SiC複合分散メッキ皮膜、Ni-P-Si3N4複合分散メッキ皮膜、Ni-B複合メッキ皮膜等が挙げられる。
[2] 製造方法
(A) 熱処理
母材をほぼ真円の円柱状に鋳込んだ後、焼入焼戻処理を施す。焼入処理は、母材を910〜930℃で140〜160分間保持し、50〜80℃まで油冷する。焼戻処理は、母材を560〜580℃で290〜310分間保持し、大気中で室温まで徐冷する。焼入焼戻処理を施すことにより機械的特性が向上し、理論形状に非常に近いカム形状に加工することができる。次に、溶射時の熱変形を考慮し、リング内外をカム形状に加工した後、突っ切り加工を行う。さらに、リングの一部を切断して合口隙間sを設け、図1に示すように呼称径d1と二軸差(d2−d3)を設けてカム形状を有する粗加工のピストンリングを作製する。
(A) 熱処理
母材をほぼ真円の円柱状に鋳込んだ後、焼入焼戻処理を施す。焼入処理は、母材を910〜930℃で140〜160分間保持し、50〜80℃まで油冷する。焼戻処理は、母材を560〜580℃で290〜310分間保持し、大気中で室温まで徐冷する。焼入焼戻処理を施すことにより機械的特性が向上し、理論形状に非常に近いカム形状に加工することができる。次に、溶射時の熱変形を考慮し、リング内外をカム形状に加工した後、突っ切り加工を行う。さらに、リングの一部を切断して合口隙間sを設け、図1に示すように呼称径d1と二軸差(d2−d3)を設けてカム形状を有する粗加工のピストンリングを作製する。
(B) 前処理
溶射皮膜を形成する前にピストンリングを専用治具にセットし、外周面を面粗化するための下地処理を施す。下地処理としてはブラスト処理(ショットブラスト等)、研磨処理等の公知の方法を用いてよく、ブラスト処理を用いるのが好ましい。下地処理後の表面粗さ(Rz)は25μm以上が好ましく、30〜50μmがより好ましい。表面粗さ(Rz)は10点平均粗さを表し、表面粗さ(Rz)が25μmより小さいと溶射皮膜の密着性が低下する。下地処理を施すことにより、溶融粒子が母材の凸部に衝突した際に、凸部が局部溶融を起こして合金化しやすくなり、また機械的にも溶融粒子の凝固収縮応力によるアンカー効果が生じて皮膜の接着が強固となる。このような効果が顕著になるためには、最低25μmの以上の表面粗さ(Rz)が必要である。さらに、溶射直前にピストンリングを約100℃に予熱した後、フレームによりピストンリングの表面をクリーニングするのが好ましい。これによりピストンリングの表面が活性化し、溶射後に母材と皮膜との間に相互拡散層が形成され、母材と皮膜が強固に接合する。
溶射皮膜を形成する前にピストンリングを専用治具にセットし、外周面を面粗化するための下地処理を施す。下地処理としてはブラスト処理(ショットブラスト等)、研磨処理等の公知の方法を用いてよく、ブラスト処理を用いるのが好ましい。下地処理後の表面粗さ(Rz)は25μm以上が好ましく、30〜50μmがより好ましい。表面粗さ(Rz)は10点平均粗さを表し、表面粗さ(Rz)が25μmより小さいと溶射皮膜の密着性が低下する。下地処理を施すことにより、溶融粒子が母材の凸部に衝突した際に、凸部が局部溶融を起こして合金化しやすくなり、また機械的にも溶融粒子の凝固収縮応力によるアンカー効果が生じて皮膜の接着が強固となる。このような効果が顕著になるためには、最低25μmの以上の表面粗さ(Rz)が必要である。さらに、溶射直前にピストンリングを約100℃に予熱した後、フレームによりピストンリングの表面をクリーニングするのが好ましい。これによりピストンリングの表面が活性化し、溶射後に母材と皮膜との間に相互拡散層が形成され、母材と皮膜が強固に接合する。
(C) 溶射皮膜形成
溶射は高速フレーム溶射、プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射等の公知の方法により行うことができる。フルフェース溶射の場合は緻密性及び密着性が要求されるため、高速フレーム溶射により行うのが好ましく、特に高速酸素火炎(HVOF)溶射又は高速空気火炎(HVAF)溶射により行うのが好ましい。高速フレーム溶射はプラズマ溶射に比べフレーム温度が低いため、溶射粉の溶融には不利であるが、原料サイズをほぼ維持したまま溶射できるので平均一次粒子径が3〜10μmの微細で緻密な組織を形成することができる。
溶射は高速フレーム溶射、プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射等の公知の方法により行うことができる。フルフェース溶射の場合は緻密性及び密着性が要求されるため、高速フレーム溶射により行うのが好ましく、特に高速酸素火炎(HVOF)溶射又は高速空気火炎(HVAF)溶射により行うのが好ましい。高速フレーム溶射はプラズマ溶射に比べフレーム温度が低いため、溶射粉の溶融には不利であるが、原料サイズをほぼ維持したまま溶射できるので平均一次粒子径が3〜10μmの微細で緻密な組織を形成することができる。
高速フレーム溶射(高速酸素火炎溶射)の一例として、図2に示すダイヤモンドジェットガン(SULZER METCO社製)により行う場合を説明する。ダイヤモンドジェットガンはパウダーインジェクター4、インサート5、シェル6及びエアキャップ7を備えた4重構造からなる。高速フレーム溶射を行うには、まずエアキャップ7の先端から100〜300 mm離れた位置にピストンリングを設置する。この状態でパウダーインジェクター4とインサート5の間、及びシェル6とエアキャップ7の間に圧縮空気を流し、インサート5とシェル6の間に高圧プロピレンガスと酸素ガスの混合ガスを流し、エアキャップ7の先端に着火することにより混合ガスを燃焼させ、高速かつ高温の高速フレームを形成する。高速フレームの中心に位置するパウダーインジェクター4に所望の組成の皮膜となるように配合した原料粉末を窒素ガスとともに投入し、パウダーインジェクター4の先端から原料粉末を噴射する。原料粉末は高速フレーム中で溶融、加速されて母材に衝突する。衝突した原料粉末は瞬時に偏平化し、母材温度まで急冷凝固して皮膜を形成する。
高速フレーム溶射により溶射皮膜を通常50〜500μmの厚さに形成し、好ましくは100〜300μmの厚さに形成する。50μm未満では耐摩耗性が不足し、500μmを超えると剥離しやすくなる。
溶射粉末は形成する溶射皮膜により適宜選択可能である。例えば、金属粉末又は金属を含有する混合粉末(炭化クロム粉末とNi-Cr合金粉末との混合粉末等)からなる溶射粉末を用いてもよいし、原料微粉末にバインダーを加え、造粒、焼結した造粒焼結粉を用いてもよい。また速凝固微粒化法により炭化クロム等の硬質微粒子を基地中に均一に分散させた溶射粉末を用いてもよい。耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れた溶射皮膜を得るには、微細で均一な組織を形成できる造粒焼結粉又は急速凝固微粒化法により作製した溶射粉末を用いるのが好ましい。
炭化クロム粒子とNi-Cr合金粒子からなる溶射皮膜を造粒焼結粉を用いて形成する場合、溶射皮膜中の炭化クロムの面積率を40〜80%にするためには原料粉末の混合比を炭化クロム粉末/Ni-Cr合金粉末の質量比で40/60〜80/20とするのが好ましい。また、Ni-Cr合金粉末はNi/Crの質量比が90/10〜70/30のものを用いるのが好ましい。バインダーは特に限定されないが、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることができる。バインダーの添加量は原料粉末100質量部に対し、7〜20質量部が好ましい。7質量部未満ではバインダー効果が小さく焼結性が不良となり、十分な結合強度が得られず溶射中に炭化クロム粒子とNi-Cr合金粒子が分離する。その結果均一な炭化クロム組織を得ることができない。また20質量部を超えると焼結時に軟化しやすく粒子の形状を保持することができないだけでなく、焼結後の造粒焼結粉にカーボンが残留し、溶射皮膜に悪い影響を与える。
造粒工程は、スプレードライ造粒、圧縮造粒、解砕造粒等の公知の方法を用いてよく、2種以上の方法を併用してもよい。得られた造粒物を所望の粒度に分級した後焼結するか、焼結した後所望の粒度に分級することにより造粒焼結粉を得ることができる。焼結温度は作製する造粒焼結粉により適宜設定してよい。造粒焼結粉は製造段階で焼結するため一次粒子相互の結合力が向上する。この造粒焼結粉を溶射粉末として用いると、溶射中に炭化クロム粒子とNi-Cr合金粒子の分離が発生しないため、微細で、かつ均一な組織が得られる。また造粒された粒子形状は球状化するので粉末の流動性も良くなる。
(D) 無電解メッキ処理
溶射皮膜を形成した後に側面仕上げ(バフ研磨等による側面研磨)を行う。これによりピストンリングの側面に付着した溶射皮膜を除去し、表面を平滑化することができる。研磨した側面に無電解メッキ処理を施し、メッキ皮膜を形成する。無電解メッキ処理は公知の方法により行ってよく、通常ピストンリングをメッキ浴に浸漬することにより行う。その際、メッキ皮膜を形成しないピストンリングの面に予めマスクを施してもよい。メッキ浴としては、金属塩(金属イオンの供給源)、錯化剤(金属水酸化物生成による沈澱防止、メッキ速度の調節)、還元剤(金属イオンの還元)、pH緩衝剤、促進剤(メッキ速度の促進)、安定剤(メッキ液の分解防止)、皮膜改良剤等を含有する液を用いることができる。
溶射皮膜を形成した後に側面仕上げ(バフ研磨等による側面研磨)を行う。これによりピストンリングの側面に付着した溶射皮膜を除去し、表面を平滑化することができる。研磨した側面に無電解メッキ処理を施し、メッキ皮膜を形成する。無電解メッキ処理は公知の方法により行ってよく、通常ピストンリングをメッキ浴に浸漬することにより行う。その際、メッキ皮膜を形成しないピストンリングの面に予めマスクを施してもよい。メッキ浴としては、金属塩(金属イオンの供給源)、錯化剤(金属水酸化物生成による沈澱防止、メッキ速度の調節)、還元剤(金属イオンの還元)、pH緩衝剤、促進剤(メッキ速度の促進)、安定剤(メッキ液の分解防止)、皮膜改良剤等を含有する液を用いることができる。
本発明の方法は、溶射皮膜形成後にメッキ処理を施すため、メッキ処理後に側面仕上げを行う必要がない。このため、メッキ処理後に溶射皮膜を形成する電気メッキの場合のように、溶射皮膜形成後の研磨により、側面に付着した溶射皮膜とともにメッキ皮膜が脱落するという問題がない。なお、無電解メッキ処理を施す前にピストンリングの外周形状を最終形状に近似した形状に加工しておいてもよい。
メッキ皮膜の厚さは10〜100μm程度とするのが好ましい。10μmより薄いと充分な側面耐摩耗効果が得られず、100μmより厚いとコストが嵩むだけでなく、メッキが剥離しやすくなる。
(E) 仕上げ加工
無電解メッキ処理を行ったピストンリングを、外周研磨仕上げ加工、スキトリ仕上げ加工等を行い最終形状に成形する。無電解メッキ処理によりピストンリングの外周面にも無電解メッキ皮膜を形成した場合には、この工程において仕上げ研磨等により外周面の無電解メッキ皮膜を除去する。溶射皮膜の気孔は適度な油溜りとなるため、溶射皮膜を露出させることにより、無電解メッキ皮膜で溶射皮膜の気孔が塞がれ摺動特性が低下するのを防止することができる。以上の工程により、外周摺動面の耐摩耗性と耐焼付性に優れ、かつ側面耐摩耗性が良好なピストンリングを得ることができる。
無電解メッキ処理を行ったピストンリングを、外周研磨仕上げ加工、スキトリ仕上げ加工等を行い最終形状に成形する。無電解メッキ処理によりピストンリングの外周面にも無電解メッキ皮膜を形成した場合には、この工程において仕上げ研磨等により外周面の無電解メッキ皮膜を除去する。溶射皮膜の気孔は適度な油溜りとなるため、溶射皮膜を露出させることにより、無電解メッキ皮膜で溶射皮膜の気孔が塞がれ摺動特性が低下するのを防止することができる。以上の工程により、外周摺動面の耐摩耗性と耐焼付性に優れ、かつ側面耐摩耗性が良好なピストンリングを得ることができる。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
実施例1、比較例1
ピストンリングの母材として表1に示す組成及び硬度を有する球状黒鉛鋳鉄を用いた。母材を外径320 mm、内径284 mmの円筒状に鋳造し、920℃で150分間保持後、油冷却により60℃に冷却して焼入処理を行った。さらに570℃で300分間保持して焼戻処理を行った後、大気中で室温まで徐冷した。母材を長径314 mm、短径308 mmのカム形状に内外周を粗加工した後、8mmの幅で突っ切り加工を行いカム形状のリングを得た。得られたリングの一部を切断し、合口部を有する粗加工のピストンリングを作製した。得られたピストンリングを治具内に積み重ね、合口部を閉じた状態で側面方向から締め付けた後、ピストンリングの外周全面にブラスト処理を行った。ブラスト処理は#30のアルミナ系粉末をブラスト材として用い、ピストンリングの外周面に5kg/cm2の空気圧でブラスト材を吹き付け、外周面の表面粗さ(Rz)を25μm以上にした。
ピストンリングの母材として表1に示す組成及び硬度を有する球状黒鉛鋳鉄を用いた。母材を外径320 mm、内径284 mmの円筒状に鋳造し、920℃で150分間保持後、油冷却により60℃に冷却して焼入処理を行った。さらに570℃で300分間保持して焼戻処理を行った後、大気中で室温まで徐冷した。母材を長径314 mm、短径308 mmのカム形状に内外周を粗加工した後、8mmの幅で突っ切り加工を行いカム形状のリングを得た。得られたリングの一部を切断し、合口部を有する粗加工のピストンリングを作製した。得られたピストンリングを治具内に積み重ね、合口部を閉じた状態で側面方向から締め付けた後、ピストンリングの外周全面にブラスト処理を行った。ブラスト処理は#30のアルミナ系粉末をブラスト材として用い、ピストンリングの外周面に5kg/cm2の空気圧でブラスト材を吹き付け、外周面の表面粗さ(Rz)を25μm以上にした。
Cr3C2粉末75質量%及びNi-Cr合金粉末(Ni/Crの質量比=80/20)25質量%からなる造粒焼結粉を用い、高速酸素火炎(HVOF)溶射機(ダイヤモンドジェットガン、SULZER METCO社製)によりピストンリングの外周面に溶射を行った。溶射条件はフレーム速度1400 m/秒、ワーク回転数30 rpm、ガン移動速度15 mm/分、溶射距離185 mm、パス回数60パス(30往復)、及び空冷とし、外周面の全面に膜厚300μmの溶射皮膜を形成した。溶射皮膜中の炭化クロム粒子の面積率は、溶射皮膜の面積率を100%としたとき75%であり、構成粒子の平均一次粒径は5μm以下であった。
ピストンリング側面に付着した溶射皮膜をバフ研磨で除去し、表面を平滑化した後、Ni-Pメッキ浴に浸漬することにより無電解メッキ処理を施した。メッキ条件は温度90℃、pH5.0とし、メッキ時間は90分とした。Ni-Pメッキ浴はNi塩及び次亜リン酸塩を含有する液を用いた。無電解メッキ処理により、Ni90質量%−P10質量%からなる無電解メッキ皮膜をピストンリングの表面に30μmの厚さで形成した。
無電解メッキ処理したピストンリングの外周面に粗研磨及び仕上研磨を行い、外周面に形成された無電解メッキ皮膜を除去するとともに呼称径300 mmの最終形状のピストンリングを作製した。得られたピストンリングは、外周角部においても欠け、剥離等の溶射皮膜欠陥がなかった。また、本発明の製造方法は溶射後に側面の仕上げ加工(研磨)を行い、その後に無電解メッキ処理を施すため、無電解メッキ処理後に側面加工を行う必要がなく、メッキ厚の管理が容易であるとともに、耐側面摩耗性を確実に保証することができる。
比較用として、Ni-Pメッキ皮膜を形成しない以外実施例1と同一の工程により比較例1のピストンリングを作製した。
比較例2
電気メッキ法により厚さ30μmのNi-Pメッキ皮膜を形成した以外、実施例1と同様にしてピストンリングを作製した。
電気メッキ法により厚さ30μmのNi-Pメッキ皮膜を形成した以外、実施例1と同様にしてピストンリングを作製した。
比較例3
電気メッキ法によりピストンリングの母材に厚さ30μmのNi-Pメッキ皮膜を形成した後、実施例1と同様にして溶射皮膜を形成し仕上加工を行うことにより、外周面に炭化クロム粒子とNi-Cr合金粒子からなる溶射皮膜を有し、側面にNi-Pメッキ皮膜を有するピストンリングを作製した。
電気メッキ法によりピストンリングの母材に厚さ30μmのNi-Pメッキ皮膜を形成した後、実施例1と同様にして溶射皮膜を形成し仕上加工を行うことにより、外周面に炭化クロム粒子とNi-Cr合金粒子からなる溶射皮膜を有し、側面にNi-Pメッキ皮膜を有するピストンリングを作製した。
(評価)
図3にツイスト試験方法を示す。ツイスト試験は、作製したピストンリング1の合口部分を、それぞれ反対方向に開くことで合口反対側1bに捻りを加え、溶射皮膜の剥離を生じさせる試験である。表3にツイスト試験の結果を示す。表中のツイスト角度は、剥離が生じたときのピストンリングの開き角度を示す。実施例1のピストンリングは90°まで開いても、合口反対側に剥離や亀裂等は生じず、比較例1のピストンリングと同様の皮膜密着性を示した。このことから、実施例のピストンリングは溶射後に無電解Ni-P処理を行うことにより溶射皮膜の密着性に悪影響を与えていないことが分かる。これに対し、電気メッキ法を用いた比較例2のピストンリングは45〜50°開いたときに剥離が生じ、溶射皮膜が脆化していることが分かる。
図3にツイスト試験方法を示す。ツイスト試験は、作製したピストンリング1の合口部分を、それぞれ反対方向に開くことで合口反対側1bに捻りを加え、溶射皮膜の剥離を生じさせる試験である。表3にツイスト試験の結果を示す。表中のツイスト角度は、剥離が生じたときのピストンリングの開き角度を示す。実施例1のピストンリングは90°まで開いても、合口反対側に剥離や亀裂等は生じず、比較例1のピストンリングと同様の皮膜密着性を示した。このことから、実施例のピストンリングは溶射後に無電解Ni-P処理を行うことにより溶射皮膜の密着性に悪影響を与えていないことが分かる。これに対し、電気メッキ法を用いた比較例2のピストンリングは45〜50°開いたときに剥離が生じ、溶射皮膜が脆化していることが分かる。
実施例1と比較例1及び3のピストンリングを最大爆発圧26〜27 MPaとなる6気筒4サイクルのディーゼルエンジンのトップリングに組込み、500時間の台上実機耐久試験を実施した。ピストンリング溝と接触するピストンリング側面の試験後の摩耗量を表4に示す。表4から明らかなように、側面にNi-P皮膜を被覆した実施例1のピストンリングは、比較例1のピストンリングに対し1/4の摩耗量であった。側面に無電解メッキ皮膜を形成した本発明のピストンリングは、外周摺動面にフルフェース溶射皮膜を有するため優れた耐スカッフ性を有するとともに、側面耐摩耗性に優れていることが分かる。これに対し、側面に電気メッキ皮膜を形成した比較例3のピストンリングは、仕上加工によりメッキ皮膜の一部が脱落するため、本発明のピストンリングのように側面耐摩耗性が向上しないことが分かる。
1・・・ピストンリング
1a・・・合口隙間
1b・・・合口反対側
4・・・パウダーインジェクター
5・・・インサート
6・・・シェル
7・・・エアキャップ
1a・・・合口隙間
1b・・・合口反対側
4・・・パウダーインジェクター
5・・・インサート
6・・・シェル
7・・・エアキャップ
Claims (7)
- 鋳鉄からなる母材を有するピストンリングにおいて、外周面の全面に溶射皮膜が形成され、かつ前記外周面を除いた少なくとも側面に無電解メッキ皮膜が形成されていることを特徴とするピストンリング。
- 請求項1に記載のピストンリングにおいて、前記無電解メッキ皮膜が、Ni又はNiを50質量%以上含有するNi合金からなることを特徴とするピストンリング。
- 請求項1又は2に記載のピストンリングにおいて、前記無電解メッキ皮膜の厚さが10〜100μmであることを特徴とするピストンリング。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のピストンリングにおいて、前記鋳鉄が球状黒鉛鋳鉄であることを特徴とするピストンリング。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のピストンリングにおいて、前記溶射皮膜が高速酸素フレーム溶射又は高速空気フレーム溶射により形成されたことを特徴とするピストンリング。
- 鋳鉄からなる母材及び溶射皮膜を有するピストンリングの製造方法であって、(a)前記母材を円筒状に鋳造し、(b)焼入焼戻処理を施し、(c)カム形状に加工し、(d)突っ切り加工及び合口切断によりピストンリング形状とし、(e)前記ピストンリング形状の母材の外周面をブラスト処理し、(f)高速フレーム溶射により前記外周面の全面に溶射皮膜を形成し、(g)前記母材の側面に付着した溶射皮膜を除去し、(h)前記母材の少なくとも側面に無電解メッキ処理を施し、(i)外周形状を最終形状に加工することを特徴とするピストンリングの製造方法。
- 請求項6に記載のピストンリングの製造方法において、前記無電解メッキ処理を施す前に外周形状を最終形状に近似した形状に加工することを特徴とするピストンリングの製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003273547A JP2005030567A (ja) | 2003-07-11 | 2003-07-11 | ピストンリング及びその製造方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2012521489A (ja) * | 2009-03-26 | 2012-09-13 | フェデラル−モーグル ブルシェイド ゲーエムベーハー | 窒化可能な鋼製ピストンリングと鋼製シリンダーライナ及びその製造用鋳造方法 |
JP2016061439A (ja) * | 2014-09-19 | 2016-04-25 | エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド | クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のためのトップピストンリング |
-
2003
- 2003-07-11 JP JP2003273547A patent/JP2005030567A/ja active Pending
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