JP2005024245A - Abcタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】少量のサンプルを用いても、データ変動が小さく再現性も良好で、多くのサンプルを同時にかつ簡便に測定することができるABCタンパク質のトランスポーター活性の測定方法や、かかる測定方法を利用したABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法や、それら方法に有利に用いることができるABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キットを提供すること。
【解決手段】バナジン酸と[H]ATPとを含む反応緩衝液にヒトP糖タンパク質が発現した昆虫細胞膜を添加してプレインキュベーションを行い、次いで、被験化合物を添加して反応させ、反応終了後の反応液を96ウェルタイプのグラスフィルターに添加し、吸引洗浄法を用いて1ステップによるP糖タンパク質発現メンブレンへの[H]ADP吸着量を測定する。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ABC(ATP Binding Cassette)タンパク質(ABCトランスポーター)と相互作用する物質のスクリーニング方法や、ABCタンパク質のトランスポーター活性の測定方法や、これらスクリーニング方法や測定方法に有利に用いることができるABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞は形質膜や小胞体,ミトコンドリアなどの細胞内小器官膜を介してイオンや栄養素の輸送ならびに老廃物や毒素の排出を行うことにより細胞機能を維持している。これらの物質輸送は、チャネル,トランスポーターと呼ばれる膜輸送タンパク質により選択的に行われている。イオンや栄養素等の物質が細胞膜を透過するための機構としていくつか知られているが、その一つとしてABCタンパク質が知られている(例えば、非特許文献1参照)。ABCタンパク質は、トランスポーター,チャネル,受容体(レギュレーター)という多様な機能に分化し、それぞれの生物で重要な生理機能を果たしており、いずれも類似の2次構造をもち、膜貫通ドメインを含むATP結合ドメインを共通に有する膜タンパク質ファミリーであり、細胞内ATP、ADPによって駆動あるいは制御されている。ABCタンパク質は、細菌から酵母、植物、哺乳類に至る広い生物種に分布する最も大きい遺伝子ファミリーの一つである。ヒトでは現在約50以上のABCタンパク質遺伝子が同定されてこれらのタンパク質の大部分は、膜間の分子の能動輸送に関連していることから、ABCタンパク質はABCトランスポーターとも呼ばれている。
【0003】
ABCタンパク質は、ATP加水分解のエネルギーをタンパク質分子の構造変化に変換し、それとカップリングすることによって薬剤を細胞の中から外へ輸送することから、薬物の体内動態プロファイル(吸収、分布、代謝、排泄、ターゲット部位での薬剤実効濃度)を規定し、ひいては薬物の全体的な薬理効果をも左右するといわれており、例えば、小腸上皮細胞や脳血管内皮細胞に発現したABCトランスポーターは、経口投与した薬物のバイオアベイラビリティーや中枢神経系への薬物移行に大きく影響を与える。また、ABCタンパク質遺伝子の異常が病気と関連しているといわれており、特にヒトにおいては、ABCタンパク質の異常がさまざまな疾病を引き起こすことが明らかになり、ABCタンパク質の生体防御機構としての重要性が理解されつつある。例えば、ABCタンパク質ファミリーに属するP−糖タンパク質(MDR1)やMRP1が過剰発現すると、多くの制癌剤を細胞外へ排出することによって癌細胞が耐性になることが、癌の化学療法の分野では良く知られている。
【0004】
そして、ABCタンパク質がトランスポーターとして細胞膜を介して薬物を輸送する機構は次のように考えられている。
(1)ABCタンパク質は細胞膜の両面(細胞の内側及び外側)にわたって膜中に存在する。
(2)このABCタンパク質に、細胞の内側から、エネルギー源としての1分子のATP及び輸送されるべき1分子の薬物が結合し、ATPはABCタンパク質のATPアーゼ活性によりADPとリン酸とに加水分解され、この際に放出されるエネルギーによるABCタンパク質の変形により薬物は細胞の内側から外側に輸送される。
(3)前記薬物は細胞の内側に放出されると共に、(2)において生成したリン酸もABCタンパク質から開放される。
(4)ABCタンパク質に、細胞の内側から、新たなATP分子が結合し、このATPがADPとリン酸とに分解し、エネルギーが開放され、このエネルギーにより前記(2)において変形したABCタンパク質の形状が復旧する。
(5)前記(4)において生成したADP及びリン酸がABCタンパク質から開放され、輸送系は前記(1)の状態に戻る。
【0005】
現在、ABCトランスポーターの中で最も注目を浴びているP−糖タンパク質のアッセイにおいて、P−糖タンパク質が発現している膜に基質を添加した際のATPアーゼ活性を測定する方法が多くの製薬会社等で採用されている。具体的には、上記のサイクルにおいて、上記(2)の段階において輸送されるべき薬物の存在によりATPがABCタンパク質に結合し、ADPに分解されることから、ABCタンパク質に結合した状態のADPを測定すれば、ABCタンパク質により認識される薬物を検出することができる。従って、ATPに標識を付しておき、標識が結合したABCタンパク質(すなわち標識されたADPが結合しているABCタンパク質)を測定すれば、ABCタンパク質によって輸送される薬物又は阻害剤を検出することができる。この手法の長所としては、試薬代が非常に安価であること、大量の検体を処理することが可能であること等の長所を有する。しかしながら、上記輸送系は酵素回転しており動的状態にあるので、標識されたABCタンパク質を測定することは事実上困難である。また、膜自体の持つ内因性ATPアーゼ活性により若干バックグラウンドが高くなる場合があることや、リン酸濃度の分解量を測定することから、感度が比較的低いといった弱点があった。
【0006】
そこで、上述のATPアーゼ活性を測定する手法に変わる方法として、バナデート法を応用したアッセイが考案された。バナデート法は、1995年以降に論文に報告されるようになった方法であり、ABCトランスポーターがATPを分解する際、リン酸イオンがバナデートに置換されることによって、ADPがトランスポーターに結合するという現象を利用するものである。すなわち、ATPとして予めラジオアイソトープ等で標識したATPを用い、上記輸送系にバナジン酸を存在させれば、上記(2)の段階で、バナジン酸がリン酸と置き換わり、上記輸送系の回転が停止し、標識されたADPがABCタンパク質に結合した状態に留まり、ABCタンパク質に結合したADPの量を定量することができ、間接的にABCタンパク質のトランスポーター活性を測定することが可能となる。
【0007】
この測定において、従来は、細胞膜から膜タンパク質及びABCタンパク質を遊離せしめ、遊離したABCタンパク質を電気泳動により他のタンパク質から分離し、ABCタンパク質に結合している標識(すなわち標識されたADP)を測定していた。この方法によれば被験薬物がABCタンパク質の基質又は阻害剤であるか否かを決定することが可能であるが、多量の被験物質を短時間に試験することは不可能であった。
【0008】
そこで、本発明者らは、ABC−結合カセット(ABC)蛋白質に対する基質のスクリーニング方法において、ABC蛋白質が発現している細胞膜画分、標識されたATP及びバナジン酸、並びに被験試料を混合してインキュベートし、この混合物を、ABC蛋白質に対する抗体が固定化された支持体に添加する、又はその支持体上で標識試薬及び被験試料等を混合してインキュベートし、そして固定化された標識又は固定化されなかった標識を測定するABC蛋白質の基質のスクリーニング方法を提案した(特許文献1参照)。かかるスクリーニング方法によれば、ABCトランスポーターが発現した細胞膜画分を、抗体を介して支持体(例えば96ウェルマイクロプレート)に結合させ、ABCトランスポーターに結合した[32P]ATP(ADP)の結合量を測定することによりABCトランスポーターに対する基質又は阻害剤を極めて効率よくスクリーニング可能であり、ハイスループットスクリーニングへの応用が可能となる。しかしながら、上記の方法及びキットでは、抗体を介して支持体に固定化した後のABCトランスポーターが発現している細胞膜画分は生理活性が不安定であること、1ウェルあたりに吸着可能な細胞膜画分の量に制限があり、実験データの再現性に問題がある等の不都合があり、安定したデータ解析の可能なより実用的な実験系の構築に迫られていた。
【0009】
【特許文献1】
国際公開第02/052262号パンフレット
【非特許文献1】
C. F. Higgins, Ann. Rev. Cell Biol., 8, 67 (1992)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、少量のサンプルを用いても、データ変動が小さく再現性も良好で、多くのサンプルを同時にかつ簡便に測定することができるABCタンパク質のトランスポーター活性の測定方法や、かかる測定方法を利用したABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法や、それら方法に有利に用いることができるABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キットを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、本発明者らによる既存のバナデート法(特許文献1参照)の改良に着手し、バナジン酸と[H]ATPとを含む反応緩衝液にヒトP糖タンパク質が発現した昆虫細胞膜を添加してプレインキュベーションを行い、次いで、被験化合物を添加して反応させ、反応終了後の反応液を96ウェルタイプのグラスフィルターに添加し、吸引洗浄法を用いて1ステップによるP糖タンパク質発現メンブレンへの[H]ADP吸着量を測定したところ、少量のサンプルを用いても、データ変動が小さく再現性も良好で、多くのサンプルを同時にかつ簡便に測定することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、ABC(ATP Binding Cassette)タンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、被験物質とを接触させる工程と、前記膜タンパク質が発現している膜画分を洗浄液で洗浄し、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体をフィルターにより濾過して分離する工程と、フィルター上の標識及び/又は濾液中の標識を測定する工程とを有することを特徴とするABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項1)や、フィルターにより濾過して分離する工程が、フィルターにより吸引濾過及び/又は遠心濾過して分離する工程であることを特徴とする請求項1記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項2)や、ヌクレオシド二リン酸不動化物質が、バナジン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項3)や、ヌクレオシド三リン酸が、ATPであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項4)や、標識が、放射性標識,蛍光標識又は光親和基標識であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項5)や、放射性標識が、32P,33P,35S,14C又はHであることを特徴とする請求項5記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項6)や、ABCタンパク質が発現している膜画分が、ABCタンパク質が発現している哺乳類又は昆虫の細胞膜画分であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項7)や、ABCタンパク質と相互作用する物質が、ABCタンパク質に対する基質であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項8)や、ABCタンパク質と相互作用する物質が、ABCタンパク質の阻害物質であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項9)や、ABCタンパク質が、ABCAサブファミリー,ABCBサブファミリー,ABCCサブファミリー,ABCDサブファミリー,ABCEサブファミリー,ABCFサブファミリー又はABCGサブファミリーに属するヒトABCタンパク質であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法(請求項10)に関する。
【0013】
また本発明は、ABC(ATP Binding Cassette)タンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体を濾過・分離しうるフィルターとを有することを特徴とするABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項11)や、濾過・分離しうるフィルターが、吸引濾過及び/又は遠心濾過手段を備えていることを有することを特徴とする請求項11記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項12)や、ヌクレオシド二リン酸不動化物質が、バナジン酸であることを特徴とする請求項11又は12記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項13)や、ヌクレオシド三リン酸が、ATPであることを特徴とする請求項11〜13のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項14)や、標識が、放射性標識,蛍光標識又は光親和基標識であることを特徴とする請求項11〜14のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項15)や、放射性標識が、32P,33P,35S,14C又はHであることを特徴とする請求項15記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項16)や、ABCタンパク質が発現している膜画分が、ABCタンパク質が発現している哺乳類又は昆虫の細胞膜画分であることを特徴とする請求項11〜16のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項17)や、ABCタンパク質と相互作用する物質が、ABCタンパク質に対する基質であることを特徴とする請求項11〜17のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項18)や、ABCタンパク質と相互作用する物質が、ABCタンパク質の阻害物質であることを特徴とする請求項11〜17のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項19)や、ABCタンパク質が、ABCAサブファミリー,ABCBサブファミリー,ABCCサブファミリー,ABCDサブファミリー,ABCEサブファミリー,ABCFサブファミリー又はABCGサブファミリーに属するヒトABCタンパク質であることを特徴とする請求項11〜19のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット(請求項20)に関する。
【0014】
さらに本発明は、ABC(ATP Binding Cassette)タンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、ABCタンパク質の基質とを接触させる工程と、前記膜タンパク質が発現している膜画分を洗浄液で洗浄し、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体をフィルターにより濾過して分離する工程と、フィルター上の標識及び/又は濾液中の標識を測定する工程とを有することを特徴とするABCタンパク質のトランスポーター活性の測定方法(請求項21)に関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法としては、ABCタンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、被験物質とを接触させる工程と、前記膜タンパク質が発現している膜画分を洗浄液で洗浄し、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体をフィルターにより濾過して分離する工程と、フィルター上の標識及び/又は濾液中の標識を測定する工程とを有するスクリーニング方法であれば特に制限されるものではなく、また、本発明のABCタンパク質のトランスポーター活性の測定方法としては、ABCタンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、ABCタンパク質の基質とを接触させる工程と、前記膜タンパク質が発現している膜画分を洗浄液で洗浄し、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体をフィルターにより濾過して分離する工程と、フィルター上の標識及び/又は濾液中の標識を測定する工程とを有する測定方法であれば特に制限されるものではなく、そしてまた、本発明のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キットとしては、ABCタンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体を濾過・分離しうるフィルターとを有する測定用キットであれば特に制限されるものではない。
【0016】
ABCタンパク質は、ATPの加水分解によって得られるエネルギーを駆動力として物質を輸送したり、チャンネルを制御する。ABCタンパク質は、特徴的なATP−結合部位を持ち、その1次構造はABCタンパク質の種類を超えて、また生物種を超え、進化を通してよく保持されている。特に、ABCタンパク質のATP結合部位は、膜貫通部等の部分の1次構造と比較してアミノ酸残基配列が保存されている。WalkerAとWalkerBモチーフ(Walker, J. E., Saraste, M., Runswick,M.J., Gay, N. J. (1982) EMBO J 1, 945−941)及びABC signatureモチーフ(Higgins, C. F. (1992) Annu. Rev. Cell Biol.8,67−113)が、そのATP結合部位に共通のアミノ酸残基配列としてほぼ例外なく存在する。
【0017】
本発明においてABCタンパク質とは、WalkerAモチーフ(Gly−X−X−Gly−X−Gly−Lys−Ser−[Ser, Thr, Gln](配列番号1)とWalkerBモチーフ([Leu, Ile, Phe]−[Ile, Leu, Val]−X−Asp−[Glu, Asp, Ser])(配列番号2)であり、且つ以下のABC signatureモチーフ ([Leu, Ile, Val, Met, Phe, Tyr, Cys]−[Ser, Ala]−[Ser, Ala, Pro, Gly, Leu, Val, Phe, Tyr, Lys, Gln, His]−Gly−[Asp, Glu, Asn, Gln, Met, Trp]−[Lys, Arg, Gln, Ala, Ser, Pro, Cys, Leu, Ile, Met, Phe, Trp]−[Lys, Arg, Asn, Gln, Ser, Thr, Ala, Val, Met]−[Leu, Ile, Val, Met, Phe, Tyr, Pro, Ala, Asn]−[Pro, His, Tyr]−[Leu, Ile, Val, Met, Phe, Trp]−[Ser, Ala, Gly, Cys, Leu, Ile, Val, Phe]−[Phe, Tyr, Trp, His, Pro]−[Lys, Arg, His, Pro]−[Leu, Ile, Val, Met, Phe, Tyr, Trp, Ser, Thr, Ala](ただしXは不特定のアミノ酸を意味する。)(配列番号3)を有するタンパク質及びそれに類似するタンパク質をいい、その由来は細菌、酵母、植物及び動物など、特に制限されない。
【0018】
かかるABCタンパク質としては、ABCA1(別名ABC1,TGD,HDLDT1),ABCA2(別名ABC2),ABCA3(別名ABC3,ABC−C,EST111653),ABCA4(別名STGD1,RP19,FFM,STGD),ABCA5(別名EST90625),ABCA6(別名EST155051),ABCA7,ABCA8,ABCA9,ABCA10(別名EST698739),ABCA11(別名EST1133530),ABCA12(DKFZP434G232)等のABCAサブファミリー(別名ABC1サブファミリー)に属するヒトABCタンパク質や、ABCB1(別名MDR1,P−gp,PGY1),TAP1(別名PSF1,RING4,D6S114E),TAP2(別名PSF2,RING11,D6S217E),ABCB4(別名MDR2/3,PFIC−3,PGY3),ABCB5(別名EST422562),ABCB6(別名EST45597,umat,Hs.107911),ABCB7(別名EST140535,Atmlp,ABC7),ABCB8(別名EST328128,M−ABC1),ABCB9(別名EST122234),ABCB10(別名EST20237),ABCB10P(別名M−ABC2,MABC2),ABCB11(別名SPGP,PFIC−2,BSEP,PGY4)等のABCBサブファミリー(別名MDR/TAPサブファミリー)に属するヒトABCタンパク質や、ABCC1(別名MRP1,MRP,GS−X),ABCC2(別名MRP2,cMOAT,cMRP),ABCC3(別名MRP3,cMOAT2,EST90757,MLP2,MOAT−D),ABCC4(別名MRP4,EST170205,MOAT−B),ABCC5(別名MRP5,SMRP,EST277145,MOAT−C),ABCC6(別名MRP6,EST349056,MLP1,ARA),CFTR(別名CF,MRP7,ABCC7),ABCC8(別名SUR1,MRP8,PHHI,HI,HRINS),ABCC9(別名SUR2),ABCC10(別名EST182763),ABCC11,ABCC12(別名MRP9),ABCC13(別名PRED6,C21orf73)等のABCCサブファミリー(別名CFTR/MRPサブファミリー)に属するヒトABCタンパク質や、ABCD1(別名ALDP,ALD,AMN),ABCD1P1,ABCD1P2,ABCD1P3,ABCD1P4,ABCD2(別名ALDR,ALDRP,ALDL1),ABCD3(別名PMP70,PXMP1),ABCD4(別名P70R,EST352188,PXMP1L,PMP69)等のABCDサブファミリー(別名ALDサブファミリー)に属するABCタンパク質や、ABCE1(別名RNS4I,RL1,OABP,RNASELI)等のABCEサブファミリー(別名OABPサブファミリー)に属するABCタンパク質や、ABCF1(別名EST123147,ABC50),ABCF2(別名EST133090,Hs.153612),ABCF3(別名EST201864)等のABCFサブファミリー(別名GCN20サブファミリー)に属するヒトABCタンパク質や、ABCG1(別名WHITE,ABC8),ABCG2(別名EST157481,MXR,BCRP,ABCP),ABCG3(別名Abcp2,Mxr2),ABCG4(別名WHITE2),ABCG5,ABCG8等のABCGサブファミリー(別名WHITEサブファミリー)に属するヒトABCタンパク質などを挙げることができるが、これらの中でも、P糖タンパク質(P−gp),MRP1,MRP2,CFTR,SUR1,ABC1,TAP1等を好適に例示することができる。
【0019】
上記のABCタンパク質が発現している膜画分としては、ABCタンパク質遺伝子が導入され、ABCタンパク質が発現している生体膜の画分であればどのようなものでもよく、かかる生体膜としては細胞膜や小胞体,ミトコンドリアなどの細胞内小器官膜を挙げることができる。これら生体膜の由来としては特に制限されるものではないが、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真核細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞、BHK21細胞、HEK293細胞、VERO細胞、CV−1細胞、MDCK細胞、Bowesメラノーマ細胞、アフリカツメガエル等の卵母細胞等の動植物細胞などを挙げることができるが、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞が好ましい。
【0020】
ABCタンパク質が発現している膜画分の調製方法としては、ABCタンパク質を発現している細胞の調製し、ABCタンパク質を発現している細胞からの膜画分の調製する方法を挙げることができる。上記ABCタンパク質を発現している細胞の調製方法としては、例えば、ABCタンパク質をコードするcDNAを選択マーカーを有する発現ベクターに組み込み、哺乳類細胞,昆虫細胞,酵母,細菌等の培養細胞にトランスフェクションする方法を挙げることができる。選択マーカーを有する発現ベクターとして、例えば、ネオマイシン,ピューロマイシン,ハイグロマイシン等の特定の抗生物質に対して耐性を付与する遺伝子を持つベクターを使用し、トランスフェクションした細胞を抗生物質の存在下で培養することによって、ABCタンパク質の発現ベクターを持つ細胞のみを選択する。ABCタンパク質の発現をRT−PCR又は特異的抗体によって確認することが好ましい。かくして得られたABCタンパク質発現細胞を大量に培養する。また、ABCタンパク質を発現している細胞からの膜画分の調製方法としては、例えば、上記ABCタンパク質発現細胞の培養物を遠心分離し、ABCタンパク質を発現する細胞を集め、細胞を超音波、浸透圧処理等によって破砕して、遠心によって膜画分を採取し、採取した膜画分を緩衝液中に懸濁して、ショ糖濃度勾配遠心によって細胞膜画分を単離精製する方法を挙げることができる。調製後の細胞膜画分は、そのタンパク質濃度を測定した後、液体窒素温度で瞬時凍結して摂氏−80℃で保存することが好ましい。
【0021】
標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体における標識としては、検出可能なものであれば特に限定されないが、32P,33P,35S,14C,H等の放射性同位体を用いる放射性標識や、フルオレスセインイソチオシアネート,フィコビリタンパク,希土類金属キレート,ダンシルクロライド,テトラメチルローダミンイソチオシアネート等を用いる蛍光標識や、アジド基,ベンゾフェノン等を用いる光親和基標識や、ペルオキシダーゼ,アルカリフォスファターゼ等を用いる酵素標識などを挙げることができ、中でも放射性標識を特に好適に例示することができる。
【0022】
標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体におけるヌクレオシド三リン酸としては、ATP,GTP,ITP,UTP,CTP等を例示することができるが、中でもATPを特に好適に例示することができる。また、ヌクレオシド三リン酸の誘導体、例えば、ATPの誘導体としては、〔35S〕ATPγS,α、β−メチレンATP,8−アジドATP等を挙げることができる。
【0023】
本発明におけるヌクレオシド二リン酸不動化物質としては、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持する化学物質であれば特に制限されるものではなく、バナジン酸やその塩等を挙げることができる。バナジン酸塩としては、バナジン酸ナトリウム(オルトバナジン酸ナトリウムNaVO,ピロバナジン酸ナトリウムNa,メタバナジン酸ナトリウムNaVO),バナジン酸カリウム(オルトバナジン酸カリウムKVO,ピロバナジン酸カリウムK,メタバナジン酸カリウムKVO),バナジン酸カルシウム(オルトバナジン酸カルシウムCa(VO,ピロバナジン酸カルシウムCa,メタバナジン酸カルシウムCa(VO)等を例示することができる。
【0024】
本発明において用いられるフィルターとしては、未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体を濾過・分離しうるフィルターであれば特に制限されるものではないが、吸引濾過手段,遠心濾過手段,限外濾過手段等を備えているものが濾過・分離効率の点で好ましく、中でも底部にフィルターが内蔵されたプレートとフィルター下方に吸引濾過手段を備えたものが好ましく、例えば、底部にフィルターが内蔵されたマイクロプレート「ユニフィルタ」(No.7700−3303、Whatman社製)、マルチスクリーンプレート(MultiScreen Plate;MILLIPORE社製)、サイレントスクリーンプレート(Silent Screen Plate;Nalge Nunc社製)などを具体的に挙げることができる。
【0025】
本発明のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法における被験物質としては、抗腫瘍剤等の薬剤の候補物質を好適に例示することができ、また、本発明のABCタンパク質のトランスポーター活性の測定方法におけるABCタンパク質の基質としては、ABCタンパク質がP糖タンパク質の場合、ベラパミル(ワソラン),キニジン,ローダミン123,ドキソルビシン,ジゴキシン,ビンクリスチン,ビンブラスチン,ダウノルビシン,フォレート,コルチゾール,アルドステロン等の一部のステロイド等を挙げることができ、ABCタンパク質がMRP2の場合、β−エストラジオール−17−(β−D−グルクロニド),スルフォブロモフタレイン等を挙げることができる。
【0026】
本発明のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法[ABCタンパク質のトランスポーター活性の測定方法]について、ABCタンパク質がP糖タンパク質、標識されたヌクレオシド三リン酸が放射性標識ATP、ヌクレオシド二リン酸不動化物質がバナジン酸の場合について説明する。P糖タンパク質が発現している膜画分と、放射性標識されたATPと、バナジン酸と、被験物質[P糖タンパク質の基質]とをTris−HCl,リン酸緩衝液等の反応緩衝液中で反応させる。反応緩衝液のpHは6〜8、特にpH7〜7.5が好ましい。反応時間は10秒〜3時間、例えば1〜30分程度とすることが好ましい。反応は、例えば0℃に冷却した緩衝液を過剰量(例えば、反応液の20〜100倍量)反応液に加えて混合することにより停止させる。次いで、反応終了後の反応液を、例えば96ウェルグラスフィルターに添加して吸引洗浄を行う。洗浄液としては、緩衝液をあらかじめ4℃に氷冷したものを使用し、1ウェル当たり50〜500μl、例えば200μlの洗浄液で複数回吸引洗浄する。この吸引洗浄操作により、反応液中の未反応のATP,バナジン酸,被験物質[P糖タンパク質の基質]がフィルターにより濾過・分離され除去することができる。次に、膜画分が存する洗浄後のプレート1ウェル当たり30〜100μl、例えば50μlの液体シンチレーションカクテルを添加し、約1時間プレートを室温で静置した後、液体シンチレーションやベーターカウンターを用いて放射性標識を測定する。この測定値と被験物質[P糖タンパク質の基質]未添加の場合の測定値とを比較し、P糖タンパク質のトランスポーター活性が大きい場合はP糖タンパク質に対する基質であると判断し、P糖タンパク質のトランスポーター活性が小さい場合はP糖タンパク質の阻害物質であると判断することができる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1
(資材と材料)
96ウェルタイプのグラスフィルターを使用し、吸引洗浄法を用いて1ステップによるP糖タンパク質発現メンブレンへの[H]ADP吸着量測定法の構築を試みた。96ウェルタイプのグラスフィルターとしては、350μlユニフィルタ(No.7700−3303、Whatman社製)を用いた。反応緩衝液Aとしては、0.2mM NaVO、3mM MgSO、2mM Ouabain、0.1mM EDTA、0.05mM ATP、40mM Tris−HCl(pH7.4)の組成のものを用いた。ラジオアイソトープとしては、[H]ATP(NET−420、PerkinElmer life science社製)を用いた。Sf9メンブレンとしては、ヒトP糖タンパク質(Pgp or MDR1)発現メンブレン(No.453228、第一化学薬品社製)とSf9コントロールメンブレン(No.453200、第一化学薬品社製)を用いた。液体シンチレーションカクテルとしては、MicroScint(登録商標)20(No.6013621、Packard BioScience社製)を用いた。
【0028】
(測定方法)
50μlの上記反応緩衝液AにP糖タンパク質発現メンブレン5μgを添加し、37℃で1分間のプレインキュベーションを行った。次に、被験物質[P糖タンパク質の基質化合物]を上記反応液に添加し、37℃で一定時間(1〜30分間)反応させた。反応終了後、上記反応液を96ウェルグラスフィルターに添加し、吸引洗浄を行った。反応緩衝液Aをあらかじめ4℃に氷冷したものを洗浄液として使用し、1ウェル当たり200μlの洗浄液で5回吸引洗浄を行った。次に、洗浄後のプレート1ウェル当たり50μlの液体シンチレーションカクテルを添加した。約1時間、プレートを室温で静置した後、パッカード社製、TOP COUNT(C990201/42637)を用いてRI活性を測定した。すべての実験は、基本的にN=3で行った。
【0029】
実施例2(経時変化検討)
P糖タンパク質発現メンブレン及びSf9コントロールメンブレンを用いて、バナデート法による[H]ADP結合量の経時変化を測定した。使用化合物(陽性対照)として、P糖タンパク質の代表的基質として知られているベラパミルを使用した。ベラパミルの最終濃度は50μMとした。結果を図1に示す。図1から、コントロールメンブレンにおいては[H]ADPのメンブレンへの結合における経時変化は見られないが、P糖タンパク質発現メンブレンにおいては、ベラパミル添加時において、[H]ADP結合量の上昇が経時的に観察されることがわかった。興味深い点として、P糖タンパク質発現メンブレンにベラパミルを未添加状態であっても、ベースラインが高くなるという若干の[H]ADP結合活性が観察されることが明らかになった。この活性は、P糖タンパク質の内因性の働きに依存した活性ではないかと考えられる。
【0030】
実施例3(メンブレン使用量)
グラスフィルターを利用した吸引洗浄法では、1ウェル当たりの反応メンブレン量を自由に設定できる。そこで、至適反応メンブレン量を探るため、ウェル当たりのメンブレン量を3段階(5μg、2.5μg、1μg)に振り、化合物としてベラパミルを用いて反応を行った。ベラパミルの添加濃度は、最終濃度20μMとした。結果を図2に示す。図2から、メンブレン使用量の増加に従い、検出域が広がることが明らかになった。そこで、今回の条件ではメンブレン使用量5μgが適当であると判断し、以下の実験に用いるP糖タンパク質発現メンブレンの使用量を、1ウェル当たり5μgに設定した。
【0031】
実施例4(ベラパミルとP糖タンパクの基質親和性)
ベラパミルのP糖タンパク質に対する基質親和性(濃度依存性)を測定するため、0〜1000nMの濃度のベラパミルを反応緩衝液Aに添加し、RI活性を測定した。結果を図3に示す。図3からもわかるように、約300nMというKm値が得られた。これは従来法であるP糖タンパク質のATPase活性測定時におけるベラパミルのKm値17μMと比較して、約20分の1という非常に低い値である。ATPase活性測定時ではATPのP糖タンパク質に対する反応は競合的であるが、バナデート法においては、一旦反応したATP(正確にはADP)はバナデートにより非競合的に結合してしまうため、見かけのKm値が低く見積もられるのではないかと考えた。この結果より、本発明によるアッセイ方法は、従来法であるATPase法と比較して、低濃度でアッセイが可能であると考えられる。
【0032】
実施例5(P糖タンパク質の基質特異性)
ベラパミルの他、13種類の化合物におけるバナデート法での[H]ADP結合量の測定を行った。反応条件は、反応時間5分、反応温度37℃、基質添加濃度0.05mMで行った。測定結果は、コントロールメンブレンのバックグラウンドを差し引いてある。結果を図4に示す。図4から、一般的にP糖タンパク質の基質と考えられているベラパミルVerapamil,キニジンQuinidine,ビンブラスチンVinbrastine,ビンクリスチンVincristine,ジゴキシンDigoxin,ローダミン123Rhodamine123,ドクソルビシンDoxorubicin,ダウノルビシンDaunorubicin,メソトリキセートMethotolixate,フォレートFolateにおいて[H]ADP結合活性の有意な上昇が観察された。興味深いことに、ブロモサルファレインBromosulfaleinにおいては、基質未添加のP糖タンパク質発現膜による測定値(Substrate(−))と比較して有意な[H]ADP結合活性の低下が観察されている。この低下分は実施例2で検出されたP糖タンパク質の内因性の働きを阻害した結果と考えられ、この測定値はコントロールメンブレンにおける測定値(Control)とほぼ同等である。ブロモサルファレインは一般にP糖タンパク質の阻害剤と考えられている。よって、このアッセイ系を用いた化合物スクリーニングによりP糖タンパク質の基質(アゴニスト)になるか阻害剤(アンタゴニスト)となるかを同時に検出することができることが分かった。
【0033】
実施例6(洗浄法の検討)
測定のバックグラウンドを下げるための手段として、一般に有効と考えられるプレートのPVP(ポリビニルピロリドン)によるブロッキング法及びPBSによる洗浄法を検討した。ベラパミルの最終濃度は20μMとした。PVPによるブロッキング法は、具体的には洗浄用プレート使用直前に、反応緩衝液AにPVPを1%溶解したブロッキング液を1ウェルあたり200μl添加し、室温で1時間放置した。その後、反応緩衝液A200μlで1回洗浄後、使用した。また、PBSによる洗浄法は、1ウェルあたり200μl添加し、5回吸引洗浄を行った。結果を図5に示す。この結果、両手法ともに、劇的な効果は得られなかった。PBSによる洗浄に関しては、特異的な[H]ADPの結合をむしろ抑制する結果であった。測定のバックグラウンドの原因は、プレートへの吸着のみではなく、むしろメンブレンそのものへの内因性の結合の影響が大きいと考えられる。
【0034】
実施例7(ヒトMRP2発現Sf9メンブレンの調製)
PCR法を用いて常法によりクローニングを行ったヒトMRP2をコードするcDNAを、バキュロウイルスベクターpFASTBac1(BAC−TO−BACBaculovirus Expression Systems(Invitrogen,10359−016))に組み込み、Sf9細胞(Sf9 Frozen Cells B825−01、Invitrogen社製)にリポフェクション法によりトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞からバキュロウイルスを回収し、バキュロウイルスを更にSf9細胞に感染させることによりMRP2タンパク質を発現する細胞を得た。また、MRP2の発現をウェスタンブロット法によって確認することにより得られたMRP2発現Sf9細胞を無血清昆虫培地(SF900II−SFM、Invitrogen社製)を用い、27℃で3日間培養した。MRP2発現Sf9細胞を遠心分離(3000rpmで10分)によって集めた後、超音波処理(ソニケーター中で10分間処理)によって破砕して、遠心分離(100,000rpmで30分)によってヒトMRP2発現Sf9細胞膜画分を採取し、分離した膜画分をPBS緩衝液(pH7.4)中に懸濁して、ショ糖濃度勾配遠心によって細胞膜画分を単離精製した。細胞膜画分のタンパク質濃度を測定した後、液体窒素温度で瞬時凍結して摂氏−80℃で保存した。
【0035】
実施例8
MRP2は、肝臓の胆管側に高発現し、多くの薬物を肝臓から大腸側へ排出するという、肝臓の解毒機構に重要な働きを持ったABCトランスポーターの一種である。そこで、96ウェルタイプのグラスフィルターを使用し、吸引洗浄法を用いて1ステップによるヒトMRP2発現メンブレンへの[H]ADP吸着量測定法の構築を試みた。ヒトP糖タンパク質発現メンブレンに代えて実施例7で調製したヒトMRP2発現Sf9メンブレンを用いる他は、実施例1と同様に測定した。MRP2に輸送されることが良く知られている代表的な化合物であるβ−エストラジオール−17−(β−D−グルクロニド)β−Estradiol−17−(β−D−glucuronide)及びスルフォブロモフタレインSulfobromophthalein添加時におけるバナデート法での[H]ADP結合量の測定を行った。反応条件は、反応時間5分、反応温度37℃、基質添加濃度0.1mMで行った。結果を図6に示す。図6中、Aはβ−エストラジオール−17−(β−D−グルクロニド)を、Bはスルフォブロモフタレインを、Cは基質無添加を表す。その結果、上記2種類の化合物において、基質未添加のMRP2発現膜による測定値と比較して、有意な[H]ADP結合活性の上昇が観察され、MRP2においても吸引洗浄法によるスクリーニングシステムの有用性が確認された。
【0036】
【発明の効果】
本発明のグラスフィルターを用いた吸引洗浄法による条件検討の結果、バナデート法によるP糖タンパク質やMRP2検出系の確立に成功した。得られた測定結果は、データ変動が小さく再現性も良好であるため、バナデート法の応用法である本方法は、P糖タンパク質やMRP2等のABCタンパク質の基質認識性測定において、非常に大きなメリットを有している。特に、国際公開第02/052262号パンフレット(特許文献1)に開示されるELISAプレートを用いたバナデート法と比較した場合の利点として、以下の4点を挙げることができる。
1.1ウェル当たりのメンブレン量を自由に増量できる。
2.ELISAプレートへの膜結合ステップを省略できるため、製品の品質をコントロールしやすく、コストも低下することが可能である。
3.従来法のATPase法と比較して、少量の化合物量でアッセイが可能である。
4.アッセイを行う化合物が、ABCトランスポーターへのアゴニストであるか、アンタゴニストであるかを、一度にアッセイ可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】P糖タンパク質発現メンブレンにベラパミルを添加したとき(●:P−gp/Ver.(+))、P糖タンパク質発現メンブレンにベラパミルを添加しなかったとき(○:P−gp/Ver.(−))、Sf9コントロールメンブレンにベラパミルを添加したとき(■:Control/Ver.(+))、並びにSf9コントロールメンブレンにベラパミルを添加しなかったとき(□:Control/Ver.(+))における[H]ATP結合活性の経時変化を示す図である。
【図2】P糖タンパク質発現メンブレンの使用量を検討した図であり、5μg、2.5μg又は1μgのP糖タンパク質発現メンブレンにベラパミルを添加したとき(Verapamil(+))又は添加しなかったとき(Verapamil(−))における[H]ATP結合活性の変化を示す図である。
【図3】ベラパミルのP糖タンパク質に対する濃度依存性を示す図である。
【図4】P糖タンパク質に対する各種被験物質の結合活性を示す図である。
【図5】洗浄条件の検討結果を示す図であり、反応緩衝液Aによる洗浄とPVPによるブロッキング法との組合せ(Buf.A+PVP)、反応緩衝液Aによる洗浄(Buf.A)、PBSによる洗浄とPVPによるブロッキング法との組合せ(PBS+PVP)、及びPBSによる洗浄(PBS)について検討結果を示す図である。
【図6】A;β−エストラジオール−17−(β−D−グルクロニド)及びB;スルフォブロモフタレイン添加時におけるバナデート法でのヒトMRP2発現Sf9メンブレンへの[H]ADP結合量の測定結果を示す図である。

Claims (21)

  1. ABC(ATP Binding Cassette)タンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、被験物質とを接触させる工程と、前記膜タンパク質が発現している膜画分を洗浄液で洗浄し、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体をフィルターにより濾過して分離する工程と、フィルター上の標識及び/又は濾液中の標識を測定する工程とを有することを特徴とするABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  2. フィルターにより濾過して分離する工程が、フィルターにより吸引濾過及び/又は遠心濾過して分離する工程であることを特徴とする請求項1記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  3. ヌクレオシド二リン酸不動化物質が、バナジン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  4. ヌクレオシド三リン酸が、ATPであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  5. 標識が、放射性標識,蛍光標識又は光親和基標識であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  6. 放射性標識が、32P,33P,35S,14C又はHであることを特徴とする請求項5記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  7. ABCタンパク質が発現している膜画分が、ABCタンパク質が発現している哺乳類又は昆虫の細胞膜画分であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  8. ABCタンパク質と相互作用する物質が、ABCタンパク質に対する基質であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  9. ABCタンパク質と相互作用する物質が、ABCタンパク質の阻害物質であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  10. ABCタンパク質が、ABCAサブファミリー,ABCBサブファミリー,ABCCサブファミリー,ABCDサブファミリー,ABCEサブファミリー,ABCFサブファミリー又はABCGサブファミリーに属するヒトABCタンパク質であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載のABCタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法。
  11. ABC(ATP Binding Cassette)タンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体を濾過・分離しうるフィルターとを有することを特徴とするABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  12. 濾過・分離しうるフィルターが、吸引濾過及び/又は遠心濾過手段を備えていることを有することを特徴とする請求項11記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  13. ヌクレオシド二リン酸不動化物質が、バナジン酸であることを特徴とする請求項11又は12記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  14. ヌクレオシド三リン酸が、ATPであることを特徴とする請求項11〜13のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  15. 標識が、放射性標識,蛍光標識又は光親和基標識であることを特徴とする請求項11〜14のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  16. 放射性標識が、32P,33P,35S,14C又はHであることを特徴とする請求項15記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  17. ABCタンパク質が発現している膜画分が、ABCタンパク質が発現している哺乳類又は昆虫の細胞膜画分であることを特徴とする請求項11〜16のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  18. ABCタンパク質と相互作用する物質が、ABCタンパク質に対する基質であることを特徴とする請求項11〜17のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  19. ABCタンパク質と相互作用する物質が、ABCタンパク質の阻害物質であることを特徴とする請求項11〜17のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  20. ABCタンパク質が、ABCAサブファミリー,ABCBサブファミリー,ABCCサブファミリー,ABCDサブファミリー,ABCEサブファミリー,ABCFサブファミリー又はABCGサブファミリーに属するヒトABCタンパク質であることを特徴とする請求項11〜19のいずれか記載のABCタンパク質のトランスポーター活性測定用キット。
  21. ABC(ATP Binding Cassette)タンパク質が発現している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシド二リン酸と複合体を形成し、ヌクレオシド二リン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌクレオシド二リン酸不動化物質と、ABCタンパク質の基質とを接触させる工程と、前記膜タンパク質が発現している膜画分を洗浄液で洗浄し、少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体をフィルターにより濾過して分離する工程と、フィルター上の標識及び/又は濾液中の標識を測定する工程とを有することを特徴とするABCタンパク質のトランスポーター活性の測定方法。
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