JP2005022570A - 船舶用プロペラ - Google Patents
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Abstract
【課題】特に高速大型船において、キャビテーションに起因する船尾振動や翼面エロージョンの低減を図ることのできる船舶用プロペラを提供する。
【解決手段】本発明によれば、複数の翼の各々のピッチ角を、翼面上でキャビテーションの発生し易い位置(Θ=0°付近)にあるときには小さくし、翼面上でキャビテーションの発生し難い位置(Θ=120°又は240°付近)にあるときには大きくする。これにより、船尾伴流の大きい水深の浅い位置におけるキャビテーションの発生を格段に抑制できるとともに、Θ=0°〜180°にかけて迎角の変動幅をなだらかにでき、発生したキャビテーションも穏やかに消滅させることができる。そのため、大きな船尾振動の発生やエロージョンの発生を低減することができる。
【選択図】 図2
【解決手段】本発明によれば、複数の翼の各々のピッチ角を、翼面上でキャビテーションの発生し易い位置(Θ=0°付近)にあるときには小さくし、翼面上でキャビテーションの発生し難い位置(Θ=120°又は240°付近)にあるときには大きくする。これにより、船尾伴流の大きい水深の浅い位置におけるキャビテーションの発生を格段に抑制できるとともに、Θ=0°〜180°にかけて迎角の変動幅をなだらかにでき、発生したキャビテーションも穏やかに消滅させることができる。そのため、大きな船尾振動の発生やエロージョンの発生を低減することができる。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶の推進器として用いられる船舶用プロペラに関する。特には、キャビテーションに起因する船尾振動や翼面エロージョン(Erosion;侵食、壊食)の低減を図ることのできる船舶用プロペラに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、超大型のコンテナ船やフェリーの高速化が進んでいる。具体的には、コンテナ船は25ノット、高速フェリーは30ノット程度(1ノット=1.85km/h)の高速船が実現されている。コンテナ船については、最近の船体の超大型化に伴い、推進器である船舶用プロペラも大型化しており、一例では直径10m近いものも用いられている。このため、プロペラが水深の深いところと浅いところでは、水圧成分だけで1気圧もの変化がプロペラ翼面で生じる。フェリーは、プロペラ軸が船体から斜めに突き出ているため、プロペラ1回転中にプロペラ翼に流れ込む角度(迎角)が変化する。
【0003】
ところで、高速化された超大型船においては、プロペラの受け持つ荷重が大きく、これが前述のプロペラの大型化によるプロペラ翼端での回転速度の高速化と相俟って、プロペラ翼面でキャビテーションを発生させる大きな要因となっている。プロペラ翼面でキャビテーションが発生すると、船尾振動が引き起こされたり、プロペラ翼面上及び舵面上でエロージョンが発生し易くなったりするため、その対策が望まれている。
なお、船舶用プロペラのキャビテーションに関するより詳しい説明は、例えば後記の非特許文献1に記載されている。
【0004】
大型プロペラにおけるキャビテーションの発生の具体的な要因としては、船尾伴流の影響を挙げることができる。すなわち、船舶用プロペラは、一般に船体の後方(船尾)に配置されるため、後述するように、船尾伴流の中で作動する。そして、船尾伴流中で作動するプロペラは、翼に流入する流速、すなわち、流れの向きが1回転中に周期的に変動し、大型プロペラにおいては、時計の12時の位置にプロペラ翼がきたときに、迎角が大きくなり水圧も低いため、翼面上の広い範囲でキャビテーションが発生し易くなるのである。
【0005】
このような船尾伴流とキャビテーションとの関係を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図6は、船体の船尾部分を模式的に示す側面図である。
図7は、プロペラ翼の1回転中の翼角度に対する迎角と静圧の状態を説明するための説明図である。
図8(A)、(B)、(C)は、プロペラ翼の迎角やピッチ角等を説明するための説明図である。
図9は、一般的なコンテナ船のプロペラに対応する、或る半径位置の各翼角度位置におけるプロペラ翼の迎角変動分布を示すグラフである。
【0006】
図6に示すように、船尾1Aの底の部分である船体浸水部3には、プロペラ5が取り付けられている。プロペラ5は、プロペラシャフト7を介して、船体1中の図示せぬエンジン(駆動部)により回転駆動される。プロペラ5は、プロペラシャフト7に連結されるボス5aと、このボス5aの外周から半径方向に延びる複数の翼5bを備えている。
【0007】
図7には、プロペラ翼5bの一つが仮想的に示されている。プロペラ翼が鉛直上方位置(すなわち時計の針の12時の位置)にあるときを翼角度Θ=0°(=360°)とする。これに倣って、船の後方から見て時計の3時の位置にあるときを翼角度Θ=90°、時計の6時の位置にあるときを翼角度Θ=180°(=−180°)、時計の9時の位置にあるときを翼角度Θ=270°(=−90°)とする。
【0008】
図8(A)には、プロペラの或る半径位置における翼5bの断面が示されている。一般に、翼の迎角(迎え角)αとは翼弦線ch(翼の前縁と後縁とを結ぶ線)と流入流速ベクトルVとのなす角度をいい、翼の反りfとは翼弦線chに立てた垂線と反り線ca(翼上面と下面に内接する円群の中心を結ぶ線)との交わった点までの長さをいう。
【0009】
図8(B)、(C)に示すように、翼5bに対する流入流速ベクトルVは、軸方向ベクトルVa(船体の進行方向Aと逆方向)と周方向ベクトルVt(プロペラ回転方向Tと逆方向)との合成ベクトル(V2=Va2+Vt2)である。前述の通り、この流入流速ベクトルVと翼弦線chとのなす角度が迎角αであり、プロペラの回転進行方向Aと翼弦線chとのなす角度を翼のピッチ角βという。
【0010】
船尾伴流は、船体と水との間の粘性抵抗に起因するものであり、船体の表面近くでは大きく、船体から離れるに連れて小さくなる。したがって、船尾伴流中におけるプロペラの翼と水との間の相対的速度は、図6に黒矢印で示すように、一般的にプロペラ5の上部(Θ=0°)は遅く、下部(Θ=180°)でも遅く、船の後方から見て3〜4時(Θ=90°〜120°)と8〜9時(Θ=240°〜270°)では速い。
【0011】
図8(B)には、時計の12時の位置(Θ=0°、一番上)におけるプロペラと流入流速ベクトルVとの関係を示す。この状態では、翼が船体の表面に近いために伴流が大きく、軸方向ベクトルVaが小さくなり、合成ベクトルVは図中で横に寝た形となるので、迎角αが最も大きく、揚力が大きくなる。翼上面(翼背面)の圧力は、迎角αが大きくなるほど低くなる。さらに、この12時の位置においては、翼の水深が浅く翼に加わる静水圧が他の位置にあるときよりも低くなるため、翼背面上の圧力が低くなり、キャビテーションが発生し易くなる。なお、図8(B)に示すように、翼背面とは船体進行方向(スラストの向き)の翼面をいう。そして、プロペラの回転に連れて翼が2時〜3時の位置にくるとき、キャビテーションは急速に消滅する。この際のキャビテーションの消滅度合いが激しい場合は、大きな船尾振動を引き起こし、エロージョンも発生し易くなる。
【0012】
一方、図8(C)には、時計の4時と8時の位置(Θ=120°と240°)におけるプロペラと流入流速ベクトルVとの関係を示す。この状態では、翼が船体から離れるために伴流が小さく、軸方向ベクトルVaが大きくなり、合成ベクトルVは図中で縦に立った形となるので、迎角αが小さくなる。また、翼の水深が12時のときより深くなり、翼に加わる静水圧が高くなるため、キャビテーションは発生し難くなる。
【0013】
ここで、或る半径位置における翼が、図9に示すような迎角変動分布Dで作動するプロペラ(直径約10m程度の大型プロペラ)を考える。このような迎角変動分布Dは、一般的なコンテナ船のプロペラに対応するものである。
図9は、縦軸が翼の迎角α(単位°)を示し、横軸がプロペラ1回転中の翼角度Θ(単位°)を示す。このような迎角変動分布Dを有するプロペラにおいては、Θ=0°(時計周りの12時の位置)で最も迎角が大きく(α=約8°)、Θ=120°と240°(時計周りの4時と8時の位置)附近では迎角α=約0°となっている。
【0014】
さらに、プロペラの直径が大きいため、プロペラの各翼が受ける静水圧も回転中に相当変化する。その静水圧は、Θ=0°の位置で一番低く、Θ=180°の位置で一番高くなる。なお、直径10mのプロペラでは、Θ=0°の位置とΘ=180°で約1気圧の圧力差が生じる。これら迎角αの違いと静水圧の違いとの双方の要素が組み合わさり、大型プロペラでは特にΘ=0°付近でキャビテーションが発生し易くなるのである。
【0015】
図8(B)に示す迎角αをコントロールするには、翼のピッチ角βをコントロールするとよい(これを変節と呼ぶ)。従来より、船速の変化に応じてプロペラの変節の可能な可変ピッチプロペラ装置が提案されている。しかし、従来の可変ピッチプロペラ装置は、プロペラの翼の回転位置に応じて翼のピッチ角を変えるという観点に立つものではない。
【0016】
【非特許文献1】
新版キャビテーション 基礎と最近の進歩、加藤洋治編著、槇書店刊
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特に高速大型船において、キャビテーションに起因する船尾振動や翼面エロージョンの低減を図ることのできる船舶用プロペラを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するため、本発明の船舶用プロペラは、プロペラシャフトの外周から半径方向に延びる翼を備える船舶用プロペラであって、 プロペラ回転中に、前記複数の翼の各々のピッチ角を変化させる可変ピッチ機構を有し、 前記各翼が回転中の、流れの遅く水深の浅い位置にあるときにはピッチ角を相対的に小さくし、流れの速く水深の深い位置にあるときにはピッチ角を相対的に大きくすることを特徴とする。なお、ピッチ角の大小はすなわち迎角の大小に比例する。本発明の可変ピッチ機構は、翼の各々のピッチ角をプロペラ翼角度位置に対応して変化させる。
【0019】
本発明の船舶用プロペラにおいては、図2のC1のように、各翼が回転中の、流れの遅く水深の浅い位置にあるときにはピッチ角を相対的に小さくし、流れの速く水深の深い位置にあるときにはピッチ角を相対的に大きくし、必要なスラストを発生させるために必要な1周平均ピッチ角、すなわち、平均迎角を一定とする。そのため、前記各翼の水深の変化に伴う、該各翼にかかる静水圧の作用をも加味して、有害なキャビテーションの発生しない限度で前記ピッチ角を設定することができる。
【0020】
本発明によれば、複数の翼の各々のピッチ角を、翼面上でキャビテーションの発生し易い位置(Θ=0°付近)にあるときには小さくし、翼面上でキャビテーションの発生し難い位置(Θ=120°又は240°付近)にあるときには大きくする。これにより、船尾伴流の大きい水深の浅い位置におけるキャビテーションの発生を格段に抑制できるとともに、1回転中における迎角の変動幅を小さくなだらかにでき、発生したキャビテーションも穏やかに消滅させることができる。そのため、大きな船尾振動の発生やエロージョンの発生を低減することができる。また、水深の深い部分での迎角を大きくすることにより、同部分でプロペラの推進力を稼ぐことができ、キャビテーションを発生させず、推進力及び効率のアップも図れる。
【0021】
図10は船舶用プロペラの翼面の圧力分布を表すグラフであって、縦軸の−Cpはプロペラ翼面の圧力を示し、横軸のCは翼弦長方向の位置を表す。なお、図10において圧力が−Cpと表示されている理由は、翼面への流入流速が速いと圧力はマイナス値となるため、これを上方として表示するためである。さらに、図10中のσのラインは、このラインよりも上側ではキャビテーションが発生し易く、下側はキャビテーションが消滅し始める境界線を示す。なお、通常のプロペラでは、ラインσよりも上方の面積A1と下方の面積A2とがほぼ等しくなるような長さで、キャビテーションが発生することが経験的に知られている。
【0022】
プロペラ翼面の圧力Cpは、迎角αに比例する圧力成分Cpaと、翼の反りや翼厚に比例する翼形状で決定される圧力成分Cpcを用いて、大略
Cp=Cpa・α+Cpc
で与えられる。図10に示すように、キャビテーションはσ+Cp<0のところ(時)で発生することから、プロペラ翼面上でσ+Cpを1回転中に常に正とすれば、キャビテーションは全く発生しない。一方、σ+Cpが負となる場合でも、この値が最小(ゼロに近い値)となるようにコントロールすることで、キャビテーションの発生を減少させることができる。このようにして、大きな船尾振動の発生やエロージョンの発生を低減することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ説明する。
図1(A)は本発明の一実施の形態に係る船舶用プロペラの或る半径方向位置における翼先端側から見た断面図であり、図1(B)は同船舶用プロペラの模式的構成を示す正面図である。
図1(B)に示すように、本実施の形態に係る船舶用プロペラ10は、ボス11と、このボス11の外周から半径方向に延びる複数(この例では4枚)の翼15A〜15Dとを備えている。ボス11の内部には、これらの翼15A〜15Dの各々のピッチ角を各々別個に変化させるための可変ピッチ機構17が内蔵されている。可変ピッチ機構17は、サーボモータピストンロッドの往復運動を、翼15A〜15Dに滑り金、クランクピンを介して、変節のための回転運動として伝える機構である。
【0024】
ピストンロッドの動きと同方向に滑り金が移動すると、図1(B)に示す翼15Aと15Cが矢印方向に動く。但し、クランクピンは、翼15Aでは後縁側で、翼15Cでは前縁側で繋がれている。この場合は、図2(A)に示すような変節が可能となる。さらに翼15Bと15Dをピストンロッドの動きと逆位相に移動させた場合、図2(B)の変節が可能となる。
なお、可変ピッチ機構のより詳細な説明については、例えば、社団法人海洋水産システム協会のジャーナル『海洋水産エンジニアリング』、第三巻、第二十号、平成十五年四月十日発行、中の31〜41ページに掲載されている「可変ピッチプロペラの構造、制御及び特徴」を参照されたい。
【0025】
各翼15A〜15Dは、可変ピッチ機構17を作動させることで、回転方向Θ(図7参照)へのプロペラ回転中に、ピッチ角を基準ピッチ角βから±Δβ/2変化させることができる。これにより、従来は迎角α(図9参照)が0°から8°の範囲で変動していたもの(図2(A)参照)を、ピッチ角を2°振幅で変節させると、迎角は2°から6°の変動に調整できる(図2(B)参照)。
なお、可変ピッチ機構の構造がより複雑にはなるが、ここで述べた変動角以外にも、理想的に全ての翼を変動することができる。
【0026】
このような本発明に係る船舶用プロペラと従来の可変ピッチプロペラとのキャビテーション低減効果の比較について述べる。
図2(A)は従来の迎角変動分布(図9)に対して翼のピッチ角を±2°変節する場合を示すグラフであり、図2(B)は図2(A)の変節後の迎角変動分布を表すグラフである。
図3(A)は従来の迎角変動分布(図9)に対して翼のピッチ角を±4°変節する場合を示すグラフであり、図3(B)は図3(A)の変節後の迎角変動分布を表すグラフである。
【0027】
図2は、縦軸が翼の迎角α(単位°)を示し、横軸がプロペラ1回転中の翼角度Θ(単位°)を示す。
図2(A)の実線カーブDは図9で説明した従来の迎角変動分布を表し、図2(A)の破線カーブC1は設計で与えられたプロペラ翼のピッチ角を±2°の振幅でプロペラの回転と同一の周期で変節させた正弦波を表し、図2(B)の実線カーブD′は図2(A)の実線カーブDから破線カーブC1を引いた本発明のプロペラの実質迎角変動分布の状態を表す。
【0028】
図2(A)に示すように、図9で説明した従来の迎角変動分布Dに対して、設計で与えられたプロペラ翼のピッチ角を±2°の振幅の正弦波C1状に変節させる。すると、プロペラ1回転中に、12時の位置(Θ=0°)では翼の迎角がα=8°からα=6°に減少し、6時の位置(Θ=180°)では翼の迎角がα=2°からα=4°に増加し、図2(B)に示すような迎角変動分布D´に変化する。
【0029】
前述の通り、12時の位置(Θ=0°)では翼面上にキャビテーションが発生し易いが、この位置で迎角αを8°から6°に減少させることで、キャビテーションの発生を抑制することができる。そして、Θ=0°〜180°にかけて迎角の変動幅が8°から4°に減ってなだらかになり、キャビテーションの消滅も穏やかにすることができる。
【0030】
一方、6時の位置(Θ=180°)では迎角αが2°から4°に増加するが、この位置では静水圧が高いためキャビテーションは発生し難く、もし仮に発生したとしても、6時の位置では翼が船体から離れているので、キャビテーションの発生が船尾振動の発生に繋がる可能性は極めて低い。このようにして、船尾振動の発生を抑制でき、エロージョンの発生も低減することができる。
【0031】
図3は、縦軸が翼の迎角α(単位°)を示し、横軸がプロペラ1回転中の翼角度Θ(単位°)を示す。
図3(A)の実線カーブDは図9で説明した従来の迎角変動分布を表し、図3(A)の破線カーブC2は設計で与えられたプロペラ翼のピッチ角を±4°の振幅で変節させた正弦波を表し、図3(B)の実線カーブD″は図3(A)の実線カーブDから破線カーブC2を引いた迎角変動分布の状態を表す。
【0032】
図3(A)に示すように、図9で説明した従来の迎角変動分布Dに対して、設計で与えられたプロペラ翼のピッチ角を±4°の振幅の正弦波C2(図中点線で示す)状に変節させる。すると、プロペラ1回転中に、12時の位置(Θ=0°)では翼の迎角がα=8°からα=4°に減少し、6時の位置(Θ=180°)では翼の迎角がα=2°からα=6°に増加し、図3(B)に示すような迎角変動分布D″に変化する。
【0033】
この図3の場合も、キャビテーションの防止に関しては、基本的には図2の場合と同様の効果を得ることができる。すなわち、12時の位置(Θ=0°)では翼面上にキャビテーションが発生し易いが、この位置で迎角αを8°から4°に減少させることで、キャビテーションの発生を大幅に抑制することができる。一方、6時の位置(Θ=180°)では迎角αが2°から6°に増加するが、この位置では静水圧が高いためキャビテーションは発生し難く、仮に発生したとしても、キャビテーションの発生が船尾振動の発生に繋がる可能性は極めて低い。このようにして、船尾振動の発生を抑制でき、エロージョンの発生も低減することができる。
【0034】
前述の場合のほか、翼の変節角を水深の浅い部分で基準ピッチより小さくし、水深の深い部分での基準ピッチより大きくする(例えば前者−2°、後者+4°)ようなこともできる。この場合、プロペラ全体での推進力は、従来と比べて明かにアップすることが期待できる。
【0035】
次に、図4及び図5を参照して、プロペラ回転中におけるピッチ角の変節と翼面上の圧力分布との関係について述べる。
図4(A)(同図に示す破線)は時計回りの12時の位置(Θ=0°)における船舶用プロペラの翼面の圧力分布を示す図であり、図4(B)は従来の固定翼と本実施の形態のピッチ可変翼の迎角の関係を示す説明図である。
図5(A)は時計回りの6時の位置(Θ=180°)における船舶用プロペラの翼面の圧力分布を示す図であり、図5(B)は従来の固定翼と本実施の形態のピッチ可変翼の迎角の関係を示す説明図である。
これらのグラフ(A)では、縦軸の−Cpはプロペラ翼面の圧力を示し、横軸のCは翼弦長方向の位置を表す。なお、前述の図10と同様に、σのラインは、このラインよりも上側ではキャビテーションが発生し易く、下側はキャビテーションが消滅し始める境界線を示す。
【0036】
図4(A)のように、翼が12時の位置(Θ=0°)にあるとき、破線で示す圧力分布はキャビテーションの発生境界ラインσよりも上側の圧力分布の範囲が大きく、図10に示すように、この分に比例してキャビテーションが発生し易く、キャビテーション長さはL0になることを表している。このときは、図4(B)のように、従来のプロペラ翼(図中破線で示す)に対し、実施の形態のプロペラ翼(図中実線で示す)のようにピッチ角を減少させる。これに伴い、図4(A)の実線で示すように、翼面上の圧力分布が減少し、キャビテーション長さはL1と短くなる。
【0037】
一方、図5(A)のように、翼が6時の位置(Θ=180°)にあるとき、破線で示すように、ラインσは12時の位置より上にあるので、ラインσよりも上側の圧力分布の範囲がなく、キャビテーションが発生しないことを表している。従来のプロペラ翼の圧力分布は、ラインσよりずっと下にあり、キャビテーションは発生しないが不必要にマージンがある。このときは、図5(B)のように、従来のプロペラ翼(図中破線で示す)に対し、実施の形態のプロペラ翼(図中実線で示す)のようにピッチ角を増加させる。これに伴い、翼面上の圧力分布は増加するが、前述の通り、この位置では静水圧が高いので、キャビテーションが発生しても長さはL2とわずかであり、キャビテーションの悪影響は回避し得る。
【0038】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、キャビテーションに起因する船尾振動や翼面エロージョンの低減を図ることのできる船舶用プロペラを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(A)は本発明の一実施の形態に係る船舶用プロペラの或る半径方向位置における翼先端側から見た断面図であり、図1(B)は同船舶用プロペラの模式的構成を示す正面図である。
【図2】図2(A)は従来の迎角変動分布(図9)に対して翼のピッチ角を±2°変節する場合を示すグラフであり、図2(B)は図2(A)の変節後の迎角変動分布を表すグラフである。
【図3】図3(A)は従来の迎角変動分布(図9)に対して翼のピッチ角を±4°変節する場合を示すグラフであり、図3(B)は図3(A)の変節後の迎角変動分布を表すグラフである。
【図4】図4(A)は時計回りの12時の位置(Θ=0°)における船舶用プロペラの翼面の圧力分布を示す図であり、図4(B)は従来の固定翼と本実施の形態のピッチ可変翼の迎角の関係を示す説明図である。
【図5】図5(A)は時計回りの6時の位置(Θ=180°)における船舶用プロペラの翼面の圧力分布を示す図であり、図5(B)は従来の固定翼と本実施の形態のピッチ可変翼の迎角の関係を示す説明図である。
【図6】船体の船尾部分を模式的に示す側面図である。
【図7】プロペラ翼の1回転中の翼角度に対する迎角と静圧の状態を説明するための説明図である。
【図8】プロペラ翼の迎角やピッチ角等を説明するための説明図である。
【図9】一般的なコンテナ船のプロペラに対応する、或る半径位置の各翼角度位置におけるプロペラ翼の迎角変動分布を示すグラフである。
【図10】船舶用プロペラの翼面の圧力分布を表すグラフである。
【符号の説明】
1 船体 1A 船尾
3 船体浸水部
10 プロペラ
11 ボス 15A〜15D 翼
17 可変ピッチ機構
Θ 翼角度 α 迎角
β ピッチ角 ca 反り線
ch 翼弦線 f 反り
V 流入流速ベクトル
Va 軸方向ベクトル Vt 周方向ベクトル
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶の推進器として用いられる船舶用プロペラに関する。特には、キャビテーションに起因する船尾振動や翼面エロージョン(Erosion;侵食、壊食)の低減を図ることのできる船舶用プロペラに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、超大型のコンテナ船やフェリーの高速化が進んでいる。具体的には、コンテナ船は25ノット、高速フェリーは30ノット程度(1ノット=1.85km/h)の高速船が実現されている。コンテナ船については、最近の船体の超大型化に伴い、推進器である船舶用プロペラも大型化しており、一例では直径10m近いものも用いられている。このため、プロペラが水深の深いところと浅いところでは、水圧成分だけで1気圧もの変化がプロペラ翼面で生じる。フェリーは、プロペラ軸が船体から斜めに突き出ているため、プロペラ1回転中にプロペラ翼に流れ込む角度(迎角)が変化する。
【0003】
ところで、高速化された超大型船においては、プロペラの受け持つ荷重が大きく、これが前述のプロペラの大型化によるプロペラ翼端での回転速度の高速化と相俟って、プロペラ翼面でキャビテーションを発生させる大きな要因となっている。プロペラ翼面でキャビテーションが発生すると、船尾振動が引き起こされたり、プロペラ翼面上及び舵面上でエロージョンが発生し易くなったりするため、その対策が望まれている。
なお、船舶用プロペラのキャビテーションに関するより詳しい説明は、例えば後記の非特許文献1に記載されている。
【0004】
大型プロペラにおけるキャビテーションの発生の具体的な要因としては、船尾伴流の影響を挙げることができる。すなわち、船舶用プロペラは、一般に船体の後方(船尾)に配置されるため、後述するように、船尾伴流の中で作動する。そして、船尾伴流中で作動するプロペラは、翼に流入する流速、すなわち、流れの向きが1回転中に周期的に変動し、大型プロペラにおいては、時計の12時の位置にプロペラ翼がきたときに、迎角が大きくなり水圧も低いため、翼面上の広い範囲でキャビテーションが発生し易くなるのである。
【0005】
このような船尾伴流とキャビテーションとの関係を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図6は、船体の船尾部分を模式的に示す側面図である。
図7は、プロペラ翼の1回転中の翼角度に対する迎角と静圧の状態を説明するための説明図である。
図8(A)、(B)、(C)は、プロペラ翼の迎角やピッチ角等を説明するための説明図である。
図9は、一般的なコンテナ船のプロペラに対応する、或る半径位置の各翼角度位置におけるプロペラ翼の迎角変動分布を示すグラフである。
【0006】
図6に示すように、船尾1Aの底の部分である船体浸水部3には、プロペラ5が取り付けられている。プロペラ5は、プロペラシャフト7を介して、船体1中の図示せぬエンジン(駆動部)により回転駆動される。プロペラ5は、プロペラシャフト7に連結されるボス5aと、このボス5aの外周から半径方向に延びる複数の翼5bを備えている。
【0007】
図7には、プロペラ翼5bの一つが仮想的に示されている。プロペラ翼が鉛直上方位置(すなわち時計の針の12時の位置)にあるときを翼角度Θ=0°(=360°)とする。これに倣って、船の後方から見て時計の3時の位置にあるときを翼角度Θ=90°、時計の6時の位置にあるときを翼角度Θ=180°(=−180°)、時計の9時の位置にあるときを翼角度Θ=270°(=−90°)とする。
【0008】
図8(A)には、プロペラの或る半径位置における翼5bの断面が示されている。一般に、翼の迎角(迎え角)αとは翼弦線ch(翼の前縁と後縁とを結ぶ線)と流入流速ベクトルVとのなす角度をいい、翼の反りfとは翼弦線chに立てた垂線と反り線ca(翼上面と下面に内接する円群の中心を結ぶ線)との交わった点までの長さをいう。
【0009】
図8(B)、(C)に示すように、翼5bに対する流入流速ベクトルVは、軸方向ベクトルVa(船体の進行方向Aと逆方向)と周方向ベクトルVt(プロペラ回転方向Tと逆方向)との合成ベクトル(V2=Va2+Vt2)である。前述の通り、この流入流速ベクトルVと翼弦線chとのなす角度が迎角αであり、プロペラの回転進行方向Aと翼弦線chとのなす角度を翼のピッチ角βという。
【0010】
船尾伴流は、船体と水との間の粘性抵抗に起因するものであり、船体の表面近くでは大きく、船体から離れるに連れて小さくなる。したがって、船尾伴流中におけるプロペラの翼と水との間の相対的速度は、図6に黒矢印で示すように、一般的にプロペラ5の上部(Θ=0°)は遅く、下部(Θ=180°)でも遅く、船の後方から見て3〜4時(Θ=90°〜120°)と8〜9時(Θ=240°〜270°)では速い。
【0011】
図8(B)には、時計の12時の位置(Θ=0°、一番上)におけるプロペラと流入流速ベクトルVとの関係を示す。この状態では、翼が船体の表面に近いために伴流が大きく、軸方向ベクトルVaが小さくなり、合成ベクトルVは図中で横に寝た形となるので、迎角αが最も大きく、揚力が大きくなる。翼上面(翼背面)の圧力は、迎角αが大きくなるほど低くなる。さらに、この12時の位置においては、翼の水深が浅く翼に加わる静水圧が他の位置にあるときよりも低くなるため、翼背面上の圧力が低くなり、キャビテーションが発生し易くなる。なお、図8(B)に示すように、翼背面とは船体進行方向(スラストの向き)の翼面をいう。そして、プロペラの回転に連れて翼が2時〜3時の位置にくるとき、キャビテーションは急速に消滅する。この際のキャビテーションの消滅度合いが激しい場合は、大きな船尾振動を引き起こし、エロージョンも発生し易くなる。
【0012】
一方、図8(C)には、時計の4時と8時の位置(Θ=120°と240°)におけるプロペラと流入流速ベクトルVとの関係を示す。この状態では、翼が船体から離れるために伴流が小さく、軸方向ベクトルVaが大きくなり、合成ベクトルVは図中で縦に立った形となるので、迎角αが小さくなる。また、翼の水深が12時のときより深くなり、翼に加わる静水圧が高くなるため、キャビテーションは発生し難くなる。
【0013】
ここで、或る半径位置における翼が、図9に示すような迎角変動分布Dで作動するプロペラ(直径約10m程度の大型プロペラ)を考える。このような迎角変動分布Dは、一般的なコンテナ船のプロペラに対応するものである。
図9は、縦軸が翼の迎角α(単位°)を示し、横軸がプロペラ1回転中の翼角度Θ(単位°)を示す。このような迎角変動分布Dを有するプロペラにおいては、Θ=0°(時計周りの12時の位置)で最も迎角が大きく(α=約8°)、Θ=120°と240°(時計周りの4時と8時の位置)附近では迎角α=約0°となっている。
【0014】
さらに、プロペラの直径が大きいため、プロペラの各翼が受ける静水圧も回転中に相当変化する。その静水圧は、Θ=0°の位置で一番低く、Θ=180°の位置で一番高くなる。なお、直径10mのプロペラでは、Θ=0°の位置とΘ=180°で約1気圧の圧力差が生じる。これら迎角αの違いと静水圧の違いとの双方の要素が組み合わさり、大型プロペラでは特にΘ=0°付近でキャビテーションが発生し易くなるのである。
【0015】
図8(B)に示す迎角αをコントロールするには、翼のピッチ角βをコントロールするとよい(これを変節と呼ぶ)。従来より、船速の変化に応じてプロペラの変節の可能な可変ピッチプロペラ装置が提案されている。しかし、従来の可変ピッチプロペラ装置は、プロペラの翼の回転位置に応じて翼のピッチ角を変えるという観点に立つものではない。
【0016】
【非特許文献1】
新版キャビテーション 基礎と最近の進歩、加藤洋治編著、槇書店刊
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特に高速大型船において、キャビテーションに起因する船尾振動や翼面エロージョンの低減を図ることのできる船舶用プロペラを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するため、本発明の船舶用プロペラは、プロペラシャフトの外周から半径方向に延びる翼を備える船舶用プロペラであって、 プロペラ回転中に、前記複数の翼の各々のピッチ角を変化させる可変ピッチ機構を有し、 前記各翼が回転中の、流れの遅く水深の浅い位置にあるときにはピッチ角を相対的に小さくし、流れの速く水深の深い位置にあるときにはピッチ角を相対的に大きくすることを特徴とする。なお、ピッチ角の大小はすなわち迎角の大小に比例する。本発明の可変ピッチ機構は、翼の各々のピッチ角をプロペラ翼角度位置に対応して変化させる。
【0019】
本発明の船舶用プロペラにおいては、図2のC1のように、各翼が回転中の、流れの遅く水深の浅い位置にあるときにはピッチ角を相対的に小さくし、流れの速く水深の深い位置にあるときにはピッチ角を相対的に大きくし、必要なスラストを発生させるために必要な1周平均ピッチ角、すなわち、平均迎角を一定とする。そのため、前記各翼の水深の変化に伴う、該各翼にかかる静水圧の作用をも加味して、有害なキャビテーションの発生しない限度で前記ピッチ角を設定することができる。
【0020】
本発明によれば、複数の翼の各々のピッチ角を、翼面上でキャビテーションの発生し易い位置(Θ=0°付近)にあるときには小さくし、翼面上でキャビテーションの発生し難い位置(Θ=120°又は240°付近)にあるときには大きくする。これにより、船尾伴流の大きい水深の浅い位置におけるキャビテーションの発生を格段に抑制できるとともに、1回転中における迎角の変動幅を小さくなだらかにでき、発生したキャビテーションも穏やかに消滅させることができる。そのため、大きな船尾振動の発生やエロージョンの発生を低減することができる。また、水深の深い部分での迎角を大きくすることにより、同部分でプロペラの推進力を稼ぐことができ、キャビテーションを発生させず、推進力及び効率のアップも図れる。
【0021】
図10は船舶用プロペラの翼面の圧力分布を表すグラフであって、縦軸の−Cpはプロペラ翼面の圧力を示し、横軸のCは翼弦長方向の位置を表す。なお、図10において圧力が−Cpと表示されている理由は、翼面への流入流速が速いと圧力はマイナス値となるため、これを上方として表示するためである。さらに、図10中のσのラインは、このラインよりも上側ではキャビテーションが発生し易く、下側はキャビテーションが消滅し始める境界線を示す。なお、通常のプロペラでは、ラインσよりも上方の面積A1と下方の面積A2とがほぼ等しくなるような長さで、キャビテーションが発生することが経験的に知られている。
【0022】
プロペラ翼面の圧力Cpは、迎角αに比例する圧力成分Cpaと、翼の反りや翼厚に比例する翼形状で決定される圧力成分Cpcを用いて、大略
Cp=Cpa・α+Cpc
で与えられる。図10に示すように、キャビテーションはσ+Cp<0のところ(時)で発生することから、プロペラ翼面上でσ+Cpを1回転中に常に正とすれば、キャビテーションは全く発生しない。一方、σ+Cpが負となる場合でも、この値が最小(ゼロに近い値)となるようにコントロールすることで、キャビテーションの発生を減少させることができる。このようにして、大きな船尾振動の発生やエロージョンの発生を低減することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ説明する。
図1(A)は本発明の一実施の形態に係る船舶用プロペラの或る半径方向位置における翼先端側から見た断面図であり、図1(B)は同船舶用プロペラの模式的構成を示す正面図である。
図1(B)に示すように、本実施の形態に係る船舶用プロペラ10は、ボス11と、このボス11の外周から半径方向に延びる複数(この例では4枚)の翼15A〜15Dとを備えている。ボス11の内部には、これらの翼15A〜15Dの各々のピッチ角を各々別個に変化させるための可変ピッチ機構17が内蔵されている。可変ピッチ機構17は、サーボモータピストンロッドの往復運動を、翼15A〜15Dに滑り金、クランクピンを介して、変節のための回転運動として伝える機構である。
【0024】
ピストンロッドの動きと同方向に滑り金が移動すると、図1(B)に示す翼15Aと15Cが矢印方向に動く。但し、クランクピンは、翼15Aでは後縁側で、翼15Cでは前縁側で繋がれている。この場合は、図2(A)に示すような変節が可能となる。さらに翼15Bと15Dをピストンロッドの動きと逆位相に移動させた場合、図2(B)の変節が可能となる。
なお、可変ピッチ機構のより詳細な説明については、例えば、社団法人海洋水産システム協会のジャーナル『海洋水産エンジニアリング』、第三巻、第二十号、平成十五年四月十日発行、中の31〜41ページに掲載されている「可変ピッチプロペラの構造、制御及び特徴」を参照されたい。
【0025】
各翼15A〜15Dは、可変ピッチ機構17を作動させることで、回転方向Θ(図7参照)へのプロペラ回転中に、ピッチ角を基準ピッチ角βから±Δβ/2変化させることができる。これにより、従来は迎角α(図9参照)が0°から8°の範囲で変動していたもの(図2(A)参照)を、ピッチ角を2°振幅で変節させると、迎角は2°から6°の変動に調整できる(図2(B)参照)。
なお、可変ピッチ機構の構造がより複雑にはなるが、ここで述べた変動角以外にも、理想的に全ての翼を変動することができる。
【0026】
このような本発明に係る船舶用プロペラと従来の可変ピッチプロペラとのキャビテーション低減効果の比較について述べる。
図2(A)は従来の迎角変動分布(図9)に対して翼のピッチ角を±2°変節する場合を示すグラフであり、図2(B)は図2(A)の変節後の迎角変動分布を表すグラフである。
図3(A)は従来の迎角変動分布(図9)に対して翼のピッチ角を±4°変節する場合を示すグラフであり、図3(B)は図3(A)の変節後の迎角変動分布を表すグラフである。
【0027】
図2は、縦軸が翼の迎角α(単位°)を示し、横軸がプロペラ1回転中の翼角度Θ(単位°)を示す。
図2(A)の実線カーブDは図9で説明した従来の迎角変動分布を表し、図2(A)の破線カーブC1は設計で与えられたプロペラ翼のピッチ角を±2°の振幅でプロペラの回転と同一の周期で変節させた正弦波を表し、図2(B)の実線カーブD′は図2(A)の実線カーブDから破線カーブC1を引いた本発明のプロペラの実質迎角変動分布の状態を表す。
【0028】
図2(A)に示すように、図9で説明した従来の迎角変動分布Dに対して、設計で与えられたプロペラ翼のピッチ角を±2°の振幅の正弦波C1状に変節させる。すると、プロペラ1回転中に、12時の位置(Θ=0°)では翼の迎角がα=8°からα=6°に減少し、6時の位置(Θ=180°)では翼の迎角がα=2°からα=4°に増加し、図2(B)に示すような迎角変動分布D´に変化する。
【0029】
前述の通り、12時の位置(Θ=0°)では翼面上にキャビテーションが発生し易いが、この位置で迎角αを8°から6°に減少させることで、キャビテーションの発生を抑制することができる。そして、Θ=0°〜180°にかけて迎角の変動幅が8°から4°に減ってなだらかになり、キャビテーションの消滅も穏やかにすることができる。
【0030】
一方、6時の位置(Θ=180°)では迎角αが2°から4°に増加するが、この位置では静水圧が高いためキャビテーションは発生し難く、もし仮に発生したとしても、6時の位置では翼が船体から離れているので、キャビテーションの発生が船尾振動の発生に繋がる可能性は極めて低い。このようにして、船尾振動の発生を抑制でき、エロージョンの発生も低減することができる。
【0031】
図3は、縦軸が翼の迎角α(単位°)を示し、横軸がプロペラ1回転中の翼角度Θ(単位°)を示す。
図3(A)の実線カーブDは図9で説明した従来の迎角変動分布を表し、図3(A)の破線カーブC2は設計で与えられたプロペラ翼のピッチ角を±4°の振幅で変節させた正弦波を表し、図3(B)の実線カーブD″は図3(A)の実線カーブDから破線カーブC2を引いた迎角変動分布の状態を表す。
【0032】
図3(A)に示すように、図9で説明した従来の迎角変動分布Dに対して、設計で与えられたプロペラ翼のピッチ角を±4°の振幅の正弦波C2(図中点線で示す)状に変節させる。すると、プロペラ1回転中に、12時の位置(Θ=0°)では翼の迎角がα=8°からα=4°に減少し、6時の位置(Θ=180°)では翼の迎角がα=2°からα=6°に増加し、図3(B)に示すような迎角変動分布D″に変化する。
【0033】
この図3の場合も、キャビテーションの防止に関しては、基本的には図2の場合と同様の効果を得ることができる。すなわち、12時の位置(Θ=0°)では翼面上にキャビテーションが発生し易いが、この位置で迎角αを8°から4°に減少させることで、キャビテーションの発生を大幅に抑制することができる。一方、6時の位置(Θ=180°)では迎角αが2°から6°に増加するが、この位置では静水圧が高いためキャビテーションは発生し難く、仮に発生したとしても、キャビテーションの発生が船尾振動の発生に繋がる可能性は極めて低い。このようにして、船尾振動の発生を抑制でき、エロージョンの発生も低減することができる。
【0034】
前述の場合のほか、翼の変節角を水深の浅い部分で基準ピッチより小さくし、水深の深い部分での基準ピッチより大きくする(例えば前者−2°、後者+4°)ようなこともできる。この場合、プロペラ全体での推進力は、従来と比べて明かにアップすることが期待できる。
【0035】
次に、図4及び図5を参照して、プロペラ回転中におけるピッチ角の変節と翼面上の圧力分布との関係について述べる。
図4(A)(同図に示す破線)は時計回りの12時の位置(Θ=0°)における船舶用プロペラの翼面の圧力分布を示す図であり、図4(B)は従来の固定翼と本実施の形態のピッチ可変翼の迎角の関係を示す説明図である。
図5(A)は時計回りの6時の位置(Θ=180°)における船舶用プロペラの翼面の圧力分布を示す図であり、図5(B)は従来の固定翼と本実施の形態のピッチ可変翼の迎角の関係を示す説明図である。
これらのグラフ(A)では、縦軸の−Cpはプロペラ翼面の圧力を示し、横軸のCは翼弦長方向の位置を表す。なお、前述の図10と同様に、σのラインは、このラインよりも上側ではキャビテーションが発生し易く、下側はキャビテーションが消滅し始める境界線を示す。
【0036】
図4(A)のように、翼が12時の位置(Θ=0°)にあるとき、破線で示す圧力分布はキャビテーションの発生境界ラインσよりも上側の圧力分布の範囲が大きく、図10に示すように、この分に比例してキャビテーションが発生し易く、キャビテーション長さはL0になることを表している。このときは、図4(B)のように、従来のプロペラ翼(図中破線で示す)に対し、実施の形態のプロペラ翼(図中実線で示す)のようにピッチ角を減少させる。これに伴い、図4(A)の実線で示すように、翼面上の圧力分布が減少し、キャビテーション長さはL1と短くなる。
【0037】
一方、図5(A)のように、翼が6時の位置(Θ=180°)にあるとき、破線で示すように、ラインσは12時の位置より上にあるので、ラインσよりも上側の圧力分布の範囲がなく、キャビテーションが発生しないことを表している。従来のプロペラ翼の圧力分布は、ラインσよりずっと下にあり、キャビテーションは発生しないが不必要にマージンがある。このときは、図5(B)のように、従来のプロペラ翼(図中破線で示す)に対し、実施の形態のプロペラ翼(図中実線で示す)のようにピッチ角を増加させる。これに伴い、翼面上の圧力分布は増加するが、前述の通り、この位置では静水圧が高いので、キャビテーションが発生しても長さはL2とわずかであり、キャビテーションの悪影響は回避し得る。
【0038】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、キャビテーションに起因する船尾振動や翼面エロージョンの低減を図ることのできる船舶用プロペラを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(A)は本発明の一実施の形態に係る船舶用プロペラの或る半径方向位置における翼先端側から見た断面図であり、図1(B)は同船舶用プロペラの模式的構成を示す正面図である。
【図2】図2(A)は従来の迎角変動分布(図9)に対して翼のピッチ角を±2°変節する場合を示すグラフであり、図2(B)は図2(A)の変節後の迎角変動分布を表すグラフである。
【図3】図3(A)は従来の迎角変動分布(図9)に対して翼のピッチ角を±4°変節する場合を示すグラフであり、図3(B)は図3(A)の変節後の迎角変動分布を表すグラフである。
【図4】図4(A)は時計回りの12時の位置(Θ=0°)における船舶用プロペラの翼面の圧力分布を示す図であり、図4(B)は従来の固定翼と本実施の形態のピッチ可変翼の迎角の関係を示す説明図である。
【図5】図5(A)は時計回りの6時の位置(Θ=180°)における船舶用プロペラの翼面の圧力分布を示す図であり、図5(B)は従来の固定翼と本実施の形態のピッチ可変翼の迎角の関係を示す説明図である。
【図6】船体の船尾部分を模式的に示す側面図である。
【図7】プロペラ翼の1回転中の翼角度に対する迎角と静圧の状態を説明するための説明図である。
【図8】プロペラ翼の迎角やピッチ角等を説明するための説明図である。
【図9】一般的なコンテナ船のプロペラに対応する、或る半径位置の各翼角度位置におけるプロペラ翼の迎角変動分布を示すグラフである。
【図10】船舶用プロペラの翼面の圧力分布を表すグラフである。
【符号の説明】
1 船体 1A 船尾
3 船体浸水部
10 プロペラ
11 ボス 15A〜15D 翼
17 可変ピッチ機構
Θ 翼角度 α 迎角
β ピッチ角 ca 反り線
ch 翼弦線 f 反り
V 流入流速ベクトル
Va 軸方向ベクトル Vt 周方向ベクトル
Claims (2)
- プロペラシャフトの外周から半径方向に延びる翼を備える船舶用プロペラであって、
プロペラ回転中に、前記複数の翼の各々のピッチ角を変化させる可変ピッチ機構を有し、
前記各翼が回転中の、流れの遅く水深の浅い位置にあるときにはピッチ角を相対的に小さくし、流れの速く水深の深い位置にあるときにはピッチ角を相対的に大きくすることを特徴とする船舶用プロペラ。 - 前記各翼の水深の変化に伴う、該各翼にかかる静水圧の作用をも加味して、有害なキャビテーションの発生しない限度で前記ピッチ角を設定することを特徴とする請求項1記載の船舶用プロペラ。
Priority Applications (1)
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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KR101225683B1 (ko) * | 2010-06-28 | 2013-01-23 | 삼성중공업 주식회사 | 선박용 프로펠러 및 선박용 프로펠러의 피치 조정방법 |
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JPS61193994A (ja) * | 1985-02-22 | 1986-08-28 | Mitsubishi Heavy Ind Ltd | ピツチ調整式プロペラ装置 |
-
2003
- 2003-07-04 JP JP2003191786A patent/JP2005022570A/ja active Pending
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