JP2005021750A - 水素吸蔵材料、水素貯蔵装置、水素貯蔵システム、燃料電池車両、及び水素吸蔵材料の製造方法 - Google Patents

水素吸蔵材料、水素貯蔵装置、水素貯蔵システム、燃料電池車両、及び水素吸蔵材料の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高い水素吸蔵能を有する水素吸蔵材料、水素貯蔵装置、水素貯蔵システム、燃料電池車両、及び水素吸蔵材料の製造方法を提供する。
【解決手段】原料にモノマー及び塩化亜鉛を含浸、焼成することにより水素吸蔵材料。水素吸蔵材料を製造し、得られた水素吸蔵材料の炭素原子(C)に対する水素原子(H)のモル比(H/C)が、0.079〜0.090である。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、水素吸蔵材料、水素貯蔵装置、水素貯蔵システム、燃料電池車両、及び水素吸蔵材料の製造方法に関し、特に水素吸蔵に適した活性炭等の細孔を有する多孔性炭素系材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、深刻化する地球環境問題を解決するために、クリーンなエネルギー源として水素が着目されており、水素製造、貯蔵、利用技術の開発が活発に進められている。中でも、水素吸蔵材料を用いた水素貯蔵システムの現状においては、水素吸蔵合金が最も実用化に近いレベルにあると考えられている。
【0003】
しかし、水素吸蔵材料として最も良く知られているLaNi系水素吸蔵合金の水素吸蔵能は1.4wt%である。また、最近注目されているバナジウム系水素吸蔵合金でも2.4wt%(いずれも常温、水素圧力1MPa下において)であり、水素吸蔵材料の水素吸蔵能は未だ実用のレベルに達していないと考えられている。特に、水素吸蔵合金の場合には、コストが高いレアメタルを用いる必要があり、また、精製度の高い金属を用いる必要があることから、コストを上昇させる更なる原因となっている。このため、自動車のように大量に金属を用いる用途に対しては、水素吸蔵合金を用いた水素貯蔵システムは一般化されてはいない。
【0004】
また、炭素を基材とするいわゆる炭素系材料も、水素吸蔵材料として検討されている。炭素系材料としては、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ等が知られている。しかし、グラファイトはほとんど水素吸蔵能を示さず、活性炭は水素吸蔵能を示すが、その値は1wt%未満であり、わずかである。カーボンナノチューブに関しては、まだ正確な数字が明らかにされていない他、製造コストがきわめて高いことから、現時点においては一般化されてはいない。
【0005】
その他の水素吸蔵材料として、平面状分子または環状分子から構成され、さらに球状分子をスペーサとして共存させて分子間を水素吸着に適当な距離に保持した材料が記載されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−24495号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特許文献1に記載された方法で、平面状分子間の層間距離を確保する構造を作製する場合、平面状分子を1層ずつ積層しなければならず、製造方法としては現実的ではない。また、平面状分子自体の層間は利用されないため、体積・重量の割には吸蔵量が小さいという問題がある。
【0008】
そこで、我々は、大量に用いることを前提に、将来的にコストが安くなる材料として炭素系材料に着目し検討を進めてきた。中でも、炭素系材料の中でも原料が安く、製法が容易である活性炭は、特にコストが安くなる可能性を秘めており魅力的である。
【0009】
活性炭は、水素吸蔵に適した細孔を有する多孔性の炭素系材料である。活性炭は原料としておが屑、木炭、泥炭、石炭、ヤシ殻などの木質原料が使われ、焼成によりそれらを炭化した後、更に焼成を行うことにより製造する。この焼成は賦活と呼ばれ、これによって原料の炭素骨格が壊れていき、活性炭の細孔構造が発達し、多孔質化、高比表面積化して、吸着性能が付与される。ただし、原料は同じでも賦活の方法によって活性炭の性質が変わったり、賦活法が同じでも原料によって活性炭の性質が変わったりすることがある。
【0010】
賦活方法は、ガス賦活法と薬品賦活法の2種類に大別する事ができる。図7には、薬品賦活法を示す。薬品賦活法では、活性炭は、原料に脱水作用のある塩化亜鉛、リン酸、硫酸等の化学薬品の高濃度溶液を含浸させて混合し、400℃以上に加熱することにより賦活されて製造される。
【0011】
一般に用いられる活性炭は細孔径が1〜20nmの微細孔を有し、その細孔は細孔径が2nm以下のミクロポア、2nm〜50nmのメソポア、50nm以上のマクロポアに分類される。そして、水素が吸着されるのは細孔径2nm以下のミクロポアのみであり、それ以上の大きいサイズの細孔は吸着に寄与しないことが分かっている。しかし、従来の製造方法で製造した活性炭は、実際に水素吸着に寄与するミクロポアの分布は十分ではなく、その多くは水素吸着に寄与しないメソポア及びマクロポアである。
【0012】
また、水素吸着に最適な細孔に関しては、モンテカルロ法と呼ばれる計算手法に基づいたデータがある。モンテカルロ法は、分子の配置をある確率法則の下に乱数を用いて作成していく確率論的手法であり、熱力学的平衡状態にある系のシミュレーションによく用いられている。ここでは、炭素原子と水素分子の間の分子間力すなわちポテンシャルを、既存の実験結果に合わせて2.9kJ/molとして計算してある。図8に、20℃、10MPaにおける細孔径を変えたときの水素吸蔵量(wt%)の変化を示したグラフを示す。0.34nm(図8のA)は活性炭の細孔径(分子間隙)が最も密となった状態であり、グラフより、まったく水素を吸蔵していないことがわかる。細孔径を拡大していくと0.7nmから吸蔵能を示すことがわかる。ここで、細孔径を更に拡大することができた場合、wt%で示した水素吸蔵能は、その後もさらに6wt%程度まで増加する。しかし、図9に示すように、単位体積当たりの吸蔵量(g/cm)は、細孔径が0.7nmをこえた後は細孔径が拡大するにしたがって減少する。
【0013】
一般に、炭素系の水素吸蔵材料はもともと水素吸蔵材料の比重が小さいため、特に自動車のように限られた空間にエンジン、シャシー、ボディー、空調、電装品等の様々な部品を配置しなければならない場合には、吸蔵性能の評価項目として、単位体積当たりの水素吸蔵量を考慮する必要がある。これらを勘案すると、最適な細孔径は0.7〜1.2nmとなる。
【0014】
また、従来法で製造した活性炭では、炭素以外の異元素を残存が少ないことから、分子間隙の狭い構造となり、水素吸蔵に必要な0.7nm以上の間隙が確保されず、十分に水素を吸蔵することができない。
【0015】
そこで、本発明は上述のような問題点に鑑みなされたものであり、その主たる目的は、十分な水素吸蔵能を有し、細孔径が0.7〜1.2nmである細孔を多く有する水素吸蔵材料及び水素吸蔵材料の製造方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明の他の目的は、水素吸蔵能に優れた水素吸蔵材料を用いた水素貯蔵装置、水素貯蔵システム及び燃料電池車両を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の特徴は、水素吸蔵材料であって、原料に、モノマー及び塩化亜鉛を含浸、焼成することにより得られたことを要旨とする。
【0018】
この水素吸蔵材料は、原料は、おが屑、木材チップ、レーヨン、アクリル、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂のいずれかであることが好ましい。また、モノマーは、芳香族キノン及び芳香族カルボン酸二無水物、または、芳香族アミン及び芳香族カルボン酸二無水物のいずれかの組み合わせ、または、アクリル系モノマー、ジカルボン酸アンモニウムのいずれかであることが好ましい。そして、水素吸蔵材料の炭素原子(C)に対する水素原子(H)のモル比(H/C)が、0.079〜0.090であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の第2の特徴は、原料に、塩化亜鉛を含浸させて焼成する水素吸蔵材料の製造方法であって、原料に、塩化亜鉛と共にモノマーを含浸させることことを要旨とする。
【0020】
ここで、原料は、おが屑、木材チップ、レーヨン、アクリル、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂のいずれかであることが好ましい。また、モノマーは、重縮合又は重合によってポリマーを形成することが好ましい。更に、モノマーは、芳香族キノン及び芳香族カルボン酸二無水物、または、芳香族アミン及び芳香族カルボン酸二無水物のいずれかの組み合わせ、または、アクリル系モノマー、ジカルボン酸アンモニウムのいずれかであることが好ましい。そして、焼成を、温度条件を調整して行うことが好ましい。
【0021】
更に、本発明の第3の特徴は、水素貯蔵装置であって、上記第1の特徴に係る水素吸蔵材料のうち少なくともいずれか一つを備えることを要旨とする。
【0022】
更に、本発明の第4の特徴は、水素貯蔵システムであって、上記第3の特徴に係る水素貯蔵装置を備えることを要旨とする。
【0023】
そして、本発明の第5の特徴は、燃料電池車両であって、上記第4の特徴に係る水素貯蔵システムが搭載されていることを要旨とする。
【0024】
【発明の効果】
第1の特徴に係る発明によれば、水素吸蔵材料は、原料にモノマー及び塩化亜鉛を含浸、焼成することにより、水素吸蔵能が高く、細孔径が0.7〜1.2nmである細孔を多く有する水素吸蔵材料を得ることができる。
【0025】
第2の特徴に係る発明によれば、容易に、また安価に水素吸蔵能の高い水素吸蔵材料の製造方法を実現することができる。
【0026】
第3の特徴に係る発明によれば、超高圧を付与せずに、水素吸蔵能の高い水素貯蔵装置を実現することが可能となる。また、水素貯蔵装置を小型化かつ軽量化することが可能となり、車両設置時には設置のための省スペース化、車両重量軽減が可能となる。
【0027】
第4の特徴に係る発明によれば、高圧対策のための特殊部品や検知器などを用いる必要のない水素貯蔵システムを実現することができる。
【0028】
第5の特徴に係る発明によれば、水素貯蔵システムの体積を低下させることができるため、車室内空間をより広く活用でき、レイアウトの自由度が向上する。また、車両重量が低減されて省燃費化が図れ、航続距離の長距離化が図れる等の効果が得られる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る水素吸蔵材料、水素貯蔵装置、水素貯蔵システム、燃料電池車両、及び水素吸蔵材料の製造方法の詳細を実施の形態に基づいて説明する。
【0030】
(水素吸蔵材料)
本発明に係る水素吸蔵材料の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る水素吸蔵材料は、原料に、モノマー及び塩化亜鉛を含浸、焼成することにより得られたことを特徴とする。また、この水素吸蔵材料は、原料は、おが屑、木材チップ、レーヨン、アクリル、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂のいずれかであることを特徴とする。
【0031】
図1に示すように、本発明に係る水素吸蔵材料は、図7に示す従来の活性炭の製造方法と基本的なフローは同一であり、異なる点は、塩化亜鉛を含浸する際にモノマーも同時に溶媒に溶かして原料に含浸させて行う点のみである。このため、製造設備は従来のものをそのまま用いることが可能である。
【0032】
塩化亜鉛と同時に含浸させるモノマーとしては、重縮合又は重合してポリマーを形成するものが好ましい。その中でも、縮合してポリマーを形成する芳香族キノン及び芳香族カルボン酸二無水物、または、芳香族アミン及び芳香族カルボン酸二無水物のいずれかの組み合わせ、または、重合してポリマーを形成するアクリル系モノマー、ジカルボン酸アンモニウムのいずれかを使用することが好ましい。これらのモノマーは、原料の賦活に用いる塩化亜鉛を触媒として、重縮合又は重合が開始する。重縮合又は重合は賦活により生じる細孔部分を埋めるようにして進むことになり、水素吸蔵に適さない細孔径が2nmより大きいメソポア、マクロポアが形成されることを抑制する。この結果、実際に水素吸着に寄与する細孔径2nm以下のミクロポアが多く形成される。
【0033】
また、上記したモノマーには、窒素、酸素原子が多く含まれ、焼成後も窒素、酸素原子を残留させることが可能である。このように、炭素以外の異元素を残留させることにより、それぞれの原子の反発や立体障害が生じるため、分子間隙の狭いグラファイト結晶化を防ぐことになり、水素吸蔵に必要な0.7nm以上の間隙が確保された水素吸蔵材料となる。
【0034】
更に、水素吸蔵材料の炭素原子(C)に対する水素原子(H)のモル比(H/C)が、0.079〜0.090であることが好ましい。モル比(H/C)が0.079より小さい場合ではグラファイト化が進行しすぎている状態、0.090より大きい場合では、高分子の残存が多く、高分子鎖が分子運動する自由体積を有するため水素吸着に適さない。なお、モル比(H/C)を上記した範囲に調整する方法としては、焼成温度、焼成時間、または焼成雰囲気(酸素濃度)等を詳細に設定することにより解決することが可能である。この場合、焼成温度が高い場合、酸素濃度を低く抑えることが可能となり、焼成温度が低い場合、酸素濃度を高くすることが可能であると考えられる。
【0035】
そして、水素吸蔵に理想的な細孔径が0.7〜1.2nmである細孔を多く有する水素吸蔵材料を得ることができる。細孔径が0.7nmより小さい場合では、水素分子を細孔内に入れることが不可能であるため、水素分子を水素吸蔵材料に吸着させることができない。一方、細孔径が1.2nmより大きい場合では、水素吸蔵材料の単位重量あたりの吸着量は変わらないが、細孔径が広がることにより水素吸蔵材料の密度が低下するため、単位体積あたりの吸着量の低下を招くため適当ではない。
【0036】
なお、水素吸蔵材料の原料として、工業的に大量使用が可能である、おが屑、木材チップ、レーヨン、アクリル、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂等を用いることが可能であるため、安価に水素吸蔵材料を得ることができ、水素吸蔵材料を大量に必要とする燃料電池車両への適用が可能となる。
【0037】
(水素吸蔵材料の製造方法)
次に、本発明に係る水素吸蔵材料の製造方法の実施の形態について説明する。この水素吸蔵材料の製造方法は、原料に、塩化亜鉛を含浸させて焼成する水素吸蔵材料の製造方法であって、原料に、塩化亜鉛と共にモノマーを含浸させることを特徴とする。
【0038】
ここで、原料は、おが屑、木材チップ、レーヨン、アクリル、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂のいずれかであることが好ましい。また、モノマーは、重縮合又は重合によってポリマーを形成することが好ましい。更に、モノマーは、芳香族キノン及び芳香族カルボン酸二無水物、または、芳香族アミン及び芳香族カルボン酸二無水物のいずれかの組み合わせ、または、アクリル系モノマー、ジカルボン酸アンモニウムのいずれかであることが好ましい。そして、焼成を、温度条件を調整して行うことが好ましい。
【0039】
(実施例1〜実施例5及び比較例)
以下、本発明に係る水素吸蔵材料の実施例1〜実施例5及び比較例について説明する。これらの実施例は、本発明に係る水素吸蔵材料の有効性を調べたもので、異なる原料に対して、異なる条件下で焼成を行った際に生成した水素吸蔵材料の例を示したものである。
【0040】
<試料の調整>
○実施例1の試料調製:原料となる木材チップ100重量部に対し、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOという)に溶解した10%アントラキノン/無水ピロメリット酸(モル費1/1)混合溶液50重量部、塩化亜鉛1重量部を混合し、常温にて木材チップに溶液が十分含浸されるまで攪拌した。次に、120℃で真空加熱乾燥して溶媒を除去した。モノマーが含浸された木材チップを100%窒素の雰囲気下でフローさせながら、電気炉を用いて500℃で1時間焼成し、その後、水で洗浄、120℃で真空乾燥して水素吸蔵材料とした。
【0041】
○実施例2の試料調製:原料として、アクリル繊維を用いた。実施例2では上記実施例1と同様に処理し、水素吸蔵材料とした。なお、電気炉を用いて焼成する温度は500℃とした。
【0042】
○実施例3の試料調製:原料として、上記実施例1と同様に木材チップを用いた。原料である木材チップ100重量部に対し、DMSOに溶解した10%1,2,4,5,−テトラアミノベンゼン/無水ピロメリット酸(モル費1/1)混合溶液50重量部、塩化亜鉛1重量部を混合し、常温にて木材チップに溶液が十分含浸されるまで攪拌した。次に、上記実施例1と同様に処理し、水素吸蔵材料とした。
【0043】
○実施例4の試料調製:原料として、上記実施例1と同様に木材チップを用いた。原料である木材チップ100重量部に対し、DMSOに溶解した10%1,2,4,5,−テトラアミノベンゼン/ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物(モル費1/1)混合溶液50重量部、塩化亜鉛1重量部を混合し、常温にて木材チップに溶液が十分含浸されるまで攪拌した。次に、上記実施例1と同様に処理し、水素吸蔵材料とした。
○実施例5の試料調製:原料として、上記実施例1と同様に木材チップを用いた。原料である木材チップ100重量部に対し、DMSOに溶解した10%シュウ酸ジアンモニウム溶液50重量部、塩化亜鉛1重量部を混合し、常温にて木材チップに溶液が十分含浸されるまで攪拌した。次に、上記実施例1と同様に処理し、水素吸蔵材料とした。
【0044】
○比較例の試料調製:原料として、上記実施例1と同様に木材チップを用いた。木材チップ100重量部に対し、塩化亜鉛1重量部を溶かした水溶液を混合し、その後は、上記実施例1と同様に処理し、水素吸蔵材料とした。
【0045】
<水素吸着性能の評価法>
水素吸蔵放出測定試験は、JIS H 7201に従った。なお、水素が吸蔵されていない原点を正確に得るため、200℃で3時間真空引きすることにより、残留しているガスを放出させてから測定を行なった。測定温度は25℃とした。
【0046】
<細孔径の評価法>
細孔径の測定には島津細孔分布/比表面積測定装置ASAP−2400を用いた。ミクロポアに相当する領域を液体アルゴンで、メソポアに相当する領域を液体窒素でそれぞれ測定した。
【0047】
実施例1〜実施例5、及び比較例の評価結果、原料、各種処理条件、元素分析結果、分布の極大値を示す細孔径及び水素吸蔵量を下表1に示す。
【0048】
【表1】
Figure 2005021750
(実施例1)
元素分析の結果、実施例1で得られた水素吸蔵材料の炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)のモル比は、C:90.1、H:7.5、O:2.2、N:0.2であった。Cに対するHのモル比(H/C)は、0.083であった。
【0049】
アントラキノン及び無水ピロメリット酸は、塩化亜鉛触媒存在下で以下に示す高分子化反応が起こることが知られている。
【0050】
【化1】
Figure 2005021750
上記した反応により、アントラキノン及び無水ピロメリット酸は、原料の賦活に用いる塩化亜鉛を触媒として、重縮合が開始する。重縮合は賦活により生じる細孔部分を埋めるようにして進むことになり、水素吸蔵に適さない細孔径が2nmより大きいメソポア、マクロポアが形成されることを抑制する。この結果、実際に水素吸着に寄与する細孔径2nm以下のミクロポアが多く形成される。
【0051】
また、アントラキノン及び無水ピロメリット酸には、酸素原子が多く含まれているため、焼成後も酸素原子を残留させることが可能である。そして、触媒である塩化亜鉛をインターカレートさせながら層間が拡大されたヘテログラファイト様の構造も形成される。そして、炭素以外の異元素を残留されること及び、亜鉛原子がヘテログラファイト層間にインターカレートすることにより、酸化グラファイト疑似キレート状態となり、水素吸蔵に必要な0.7nm以上の間隙が確保された水素吸蔵材料となる。
【0052】
(実施例2)
実施例2では、元素分析の結果は、C:84.9、H:12.0、O:2.2、N:0.9であり、H/Cは0.141であった。
【0053】
(実施例3)
実施例3では、元素分析の結果は、C:84.9、H:12.2、O:2.2、N:0.7であり、H/Cは0.144であった。1,2,4,5,−テトラアミノベンゼン/無水ピロメリット酸は塩化亜鉛触媒存在下で以下に示す高分子化反応が起こることが知られている。
【0054】
【化2】
Figure 2005021750
(実施例4)
実施例4では、元素分析の結果は、C:85.3、H:12.4、O:1.8、N:0.5であり、H/Cは0.145であった。1,2,4,5,−テトラアミノベンゼン/ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物は塩化亜鉛触媒存在下で以下に示す高分子化反応が起こることが知られている。
【0055】
【化3】
Figure 2005021750
上記した反応により、実施例3及び4では、焼成後も窒素、酸素原子を残留させることが可能である。そして、触媒である塩化亜鉛をインターカレートさせながら層間が拡大されたヘテログラファイト様の構造も形成され、水素吸蔵に必要な0.7nm以上の間隙が確保された水素吸蔵材料となる。
【0056】
(実施例5)
シュウ酸ジアンモニウムは、塩化亜鉛触媒存在下で以下に示す高分子化反応が起こることが知られている。
【0057】
【化4】
Figure 2005021750
上記した反応により、より多くのヘテロ原子を残留させることが可能となる。
(比較例)
比較例では、元素分析の結果は、C:99.0、H:0.7、O:0.2、N:0.1であり、H/Cは0.007であった。
【0058】
図2、図3に実施例1及び比較例における細孔分布の測定結果を示す。図2にミクロポアに相当する領域の細孔分布を示す。実施例1では、水素吸蔵に関与するミクロポア領域(特に細孔径0.7〜1.3nm)において、細孔容積が比較例に比べて最大1.5倍程度大きくなり、実際に水素吸着に寄与するミクロポアが発達していることが分かった。図3にはメソポアに相当する領域の細孔分布を示すが、実施例1の方が比較例に対して細孔容積が小さく、水素吸蔵に関与しないメソポアが減少していることが判明した。また、図4には、得られた水素吸蔵材料の水素吸着曲線を示す。実施例1で得られた水素吸蔵材料は10MPaにおいて1.5wt%の水素吸着性能を示し、比較例に対して約2倍の水素吸着性能を示すことが分かった。
【0059】
以上より、実施例1では、原料にモノマー及び塩化亜鉛を含浸、焼成することによりミクロポアが発達し、従来法により製造された活性炭よりも優れた吸着能を示していることが分かった。
また、表1より、実施例1〜実施例5では水素吸蔵材料の炭素原子(C)に対する水素原子(H)のモル比(H/C)が、0.079〜0.090の範囲に入っており、更に、細孔径が0.7〜1.2nmであり、水素吸蔵能が高いことを示している。なお、実施例1〜実施例5の結果より、細孔径が0.98〜1.12nmであることが、より好ましい。
【0060】
以上の結果より、容易に、また、安価に水素吸蔵能の高い水素吸蔵材料の製造方法を実現することができる。
【0061】
(水素貯蔵装置及び水素貯蔵システム)
図5は、本発明に係る車載用の水素貯蔵装置の実施の形態を示している。この水素貯蔵装置10は、上記した実施例1〜実施例5に示された水素吸蔵材料11を微粉末状のままタンクバルブ部13を設けた耐圧容器12の内部に封入した構成である。このような水素貯蔵装置10は、車両に搭載して水素貯蔵システムに組み込んで用いることができる。
【0062】
水素貯蔵装置10は、具体的には、耐圧容器12と、この耐圧容器12内に封入された水素吸蔵材料11とからなる。耐圧容器12には、フィルタ14が取り付けられたタンクバルブ部13が設けられており、タンクバルブ部13より耐圧容器12内へ水素が吸蔵放出される。タンクバルブ部13には、水素供給口16と水素放出口17とが接続されており、接続部には圧力調整装置15が設けられて水素を吸蔵放出する際の圧力が調整される。なお、フィルタ14は、耐圧容器12内に封入された水素吸蔵材料11が耐圧容器12外部に放出されないために取り付けられており、水素吸蔵材料11が微粉末で軽量であることからミクロフィルタであることが望ましい。
【0063】
また、耐圧容器12は、本実施の形態では略直方体構造であり、内部に水素貯蔵空間が形成されたステンレス製の容器である。また、水素吸蔵材料11は、上記実施例1〜5に示された範囲にある水素吸蔵材料を微粉末状のまま耐圧容器12の内部に充填されている。なお、耐圧容器12は、単純な閉空間を有する直方体以外に様々な構造を適用でき、内部にリブや柱を設けたものであってもよい。また、耐圧容器12の素材もアルミ、ステンレス、カーボン構造材料等、水素の吸蔵放出に耐えうる強度と化学的安定性を有する素材の中から選び出すことが可能である。また、水素供給口16と水素放出口17は、両者の機能を兼ね備えた水素供給放出口であってもよい。また、水素吸着時に発熱、水素脱着時に吸熱を伴うことから、必要に応じて耐圧容器12外部に温度調整装置18を取り付けることができる。この温度調整装置18により、水素の吸脱着の速度・効率を向上させることが可能となる。
【0064】
水素貯蔵装置10をこのような構成にすることで、水素貯蔵装置10を小型化かつ軽量化することが可能となり、車両設置時には、設置のための省スペース化、車両重量軽減が可能となる。
【0065】
また、現在、水素を貯蔵する耐圧容器12は35MPa、70MPa等、超高圧での使用が前提となっているが、本発明の水素吸蔵材料11を耐圧容器12内部に貯蔵することで、このような高圧を付与しなくても水素貯蔵装置10として機能させることができる。
【0066】
更に、本発明に係る水素貯蔵装置10を用いたシステムを構成することで、高圧対策のための特殊部品や検知器等を用いない水素貯蔵システムとすることができる。
【0067】
(燃料電池車両)
図6は、本発明による水素貯蔵装置10を用いた水素貯蔵システムを用いた料電池車両20の実施の形態を示しており、図5に示すような水素貯蔵装置10を燃料電池車両20のトランクルーム内部に設置搭載したものである。このとき、車両に設置搭載する水素貯蔵装置10は一つ又は二つ以上の複数に分割してあっても良く、複数の水素貯蔵装置の形状はそれぞれ異なったものであっても良い。また、エンジンルームまたはシート下のフロア部等の車室内部の他に、ルーフ上部等の車室外に水素貯蔵装置10を設置することも可能である。
【0068】
このような燃料電池車両20は、燃料供給部の体積や重量を小さくでき、水素貯蔵システムの体積を低下させると共に、車両重量が低減されて省燃費化を図ることができる。このため、車室内空間をより広く活用できてレイアウトの自由度が向上し、航続距離の長距離化が図れる等の効果が得られる。なお、燃料電池21から排出される熱を利用して、水素貯蔵装置10の温度調節を行うことも可能である。
【0069】
以上、本実施の形態の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る水素吸蔵材料の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】ミクロポア領域の細孔分布を示すグラフである。
【図3】メソポア領域の細孔分布を示すグラフである。
【図4】水素吸着性能を示すグラフである。
【図5】本発明に係る水素貯蔵装置の実施の形態を示す断面図である。
【図6】本発明に係る燃料電池車両の実施の形態を示す側面図である。
【図7】従来の活性炭の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】シミュレーションによる細孔径と単位重量当たりの水素吸蔵量の関係を示すグラフである。
【図9】シミュレーションによる細孔径と単位体積当たりの水素吸蔵量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1、11 水素吸蔵材料
10 水素貯蔵装置
12 耐圧容器
13 タンクバルブ部
14 フィルタ
15 圧力調整装置
16 水素供給口
17 水素放出口
18 温度調整装置
20 燃料電池車両
21 燃料電池

Claims (12)

  1. 原料に、モノマー及び塩化亜鉛を含浸、焼成することにより得られたことを特徴とする水素吸蔵材料。
  2. 請求項1に記載の水素吸蔵材料であって、
    前記原料は、おが屑、木材チップ、レーヨン、アクリル、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂のいずれかであることを特徴とする水素吸蔵材料。
  3. 請求項1又は請求項2に記載された水素吸蔵材料であって、
    前記モノマーは、芳香族キノン及び芳香族カルボン酸二無水物、または、芳香族アミン及び芳香族カルボン酸二無水物のいずれかの組み合わせ、または、アクリル系モノマー、ジカルボン酸アンモニウムのいずれかであることを特徴とする水素吸蔵材料。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載された水素吸蔵材料であって、
    前記水素吸蔵材料の炭素原子(C)に対する水素原子(H)のモル比(H/C)が、0.079〜0.090であることを特徴とする水素吸蔵材料。
  5. 原料に、塩化亜鉛を含浸させて焼成する水素吸蔵材料の製造方法であって、
    前記原料に、前記塩化亜鉛と共にモノマーを含浸させることを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
  6. 請求項5に記載の水素吸蔵材料の製造方法であって、
    前記原料は、おが屑、木材チップ、レーヨン、アクリル、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂のいずれかであることを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
  7. 請求項5又は請求項6に記載された水素吸蔵材料の製造方法であって、
    前記モノマーは、重縮合又は重合によってポリマーを形成することを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
  8. 請求項7に記載の水素吸蔵材料の製造方法であって、
    前記モノマーは、芳香族キノン及び芳香族カルボン酸二無水物、または、芳香族アミン及び芳香族カルボン酸二無水物のいずれかの組み合わせ、または、アクリル系モノマー、ジカルボン酸アンモニウムのいずれかであることを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
  9. 請求項5乃至請求項8のいずれか一項に記載された水素吸蔵材料の製造方法であって、
    前記焼成を、温度条件を調整して行うことを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
  10. 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載された水素吸蔵材料のうち少なくともいずれか一つを備えることを特徴とする水素貯蔵装置。
  11. 請求項10に記載の水素貯蔵装置を備えることを特徴とする水素貯蔵システム。
  12. 請求項11に記載の水素貯蔵システムを用いたことを特徴とする燃料電池車両。
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