JP2005020872A - 超電導磁気勾配浮上システム - Google Patents

超電導磁気勾配浮上システム Download PDF

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Eiji Suzuki
栄司 鈴木
Michiaki Kubota
通彰 久保田
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Abstract

【課題】レールに沿って浮上体を浮上させて移動させる搬送システムへ適用される超電導磁気勾配浮上システムにおいて、浮上力特性を向上させ、システムの性能を向上させる。
【解決手段】レーストラック形状の超電導コイル2が左右に対向配置され、各超電導コイル2は、上下に平行に配置された上方直線部2a及び下方直線部2bと、それら上下方の直線部2a,2bの両端同士を接続する端部2cによって構成されている。左右の超電導コイル2の上方直線部2a間には磁気遮蔽体3が対向配置されており、その対向配置された磁気遮蔽体3の間に強磁性体レール1が配置されているが、下方直線部2bの間には磁気遮蔽体3は存在せず、また強磁性体レール1も存在しない。したがって、超電導コイル2の端部2cと強磁性体レール1との間での吸引力を浮上力として有効利用できる。
【選択図】図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーストラック形状の磁界発生コイルによる磁場発生源と超電導材料からなる磁気遮蔽体を組み合わせて構成する超電導磁気勾配浮上システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
超電導材料の特徴の一つとして、外部からの磁場を遮蔽する機能がある。これは、例えば超電導材料によって形成した板を超電導状態にした後、外部から磁場を増加させると、磁場の侵入を妨げるために超電導板内部に発生した誘導電流が減衰しないために、磁気遮蔽効果が継続するためである。
【0003】
このような磁気遮蔽効果を有効に利用する特殊なシステムとして、磁気勾配浮上システム(別名ミックスドミュー[Mixed−μ]浮上システム)がある。磁気勾配浮上システムは、一般に強力な磁場を発生する超電導磁石と超電導材料からなる磁気遮蔽体を組み合わせることによって、対象となる空間に特殊な磁場分布を形成し、これによって該空間に強磁性体を浮上体として浮上させたり、あるいは逆に超電導磁石と超電導磁気遮蔽体を備える構成を浮上体として空間に浮上させることのできるシステムである。
一般に強磁性体は、磁場中に置くとより磁場の強い方向に引き寄せられ、結果的に磁場発生源に吸着してしまうものであるが、本システムでは、上記超電導磁気遮蔽体の効果により、空間内に特殊な磁場分布を作ることができ、アクティブな制御を要することなく、浮上体を安定的に三次元浮上させることが可能となる。
【0004】
図6及び図7に、磁気勾配浮上システムに関する代表的な構成例を示す。この磁気勾配浮上システムは、左右に対向して配置されたレーストラック形状の磁場発生用の超電導磁界発生コイル(以下、超電導コイルと称す)102と、それら左右に対向配置された超電導コイル102の上方直線部102a間にやはり対向して配置された磁気遮蔽体103a及び下方直線部102bの間に対向して配置された磁気遮蔽体103bと、それら対向配置された磁気遮蔽体103a,103b間に配置された2本の強磁性体レール101a,101bとを備えるものである。
【0005】
超電導コイル102によって強力な磁場が発生するが、磁気遮蔽体103a,103bを貫通しようとする磁場はその磁気遮蔽機能によって遮蔽される。これによって、対向配置されている磁気遮蔽体103a,103bの間(超電導コイル102の内側)の領域では、磁気遮蔽体103a,103bに近い領域ほど磁場の弱い領域が形成され、その領域に配置された強磁性体レール101a,101bは、中央位置から磁気遮蔽体103a,103bの方向に近づくと、中央に戻る方向へ磁気力が働くこととなり、左右方向の安定性が確保できる。また、上下方向については磁気遮蔽体103a,103bが無くても、強磁性体レール101a,101bの安定位置は中央になる。これによって、超電導コイル102、磁気遮蔽体103a,103bを備える浮上体は、中央に配置された強磁性体レール101a,101bとの相互電磁力作用により、安定的に空間に完全に浮上することができる。これが磁気勾配浮上である(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
【非特許文献1】
D.I.Jones, A.W.Pattullo, R.J.A.Paul:Assessment of eddy−current effects in the mixed−mu levitation system, Proc 10th Int.Conf.on Magnetically Levitated Systems, Hamburg, Germany,(1988)pp.361−370.この浮上方式は、前記強磁性体レール101a,101bを地上側に設置することで、レーストラック形状の超電導コイル102と磁気遮蔽体103a,103bとを備えた浮上体を、安定的に浮上させ、レールに沿って移動させる搬送システムに応用することが可能である。このような現象は、超電導体による磁気遮蔽体を使用しない限り発生させることは不可能な事柄であり、超電導磁気勾配浮上システムは今後の発展が期待される新しいシステムである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このシステムについて上述した搬送システムへの適用を考えた場合、強磁性体レール101a,101bに沿って移動する浮上体側のレーストラック形状の超電導コイル102及び磁気遮蔽体103a,103bの配置としては、図6及び図7を参照して上述したように、上下2本の強磁性体レール101a,101bを左右から挟む形(4重極構成)が考えられる。つまり、対向して配置したレーストラック形状の超電導コイル102の上方直線部102a間に、上方の強磁性体レール101aを当該上方直線部102aの長手方向に沿うよう配置し、同様に、下方直線部102b間に、下方の強磁性体レール101bを当該下方直線部102bの長手方向に沿うよう配置する構成が提案されている。
【0008】
しかしながら、この構成における強磁性体レール101a,101bと超電導コイル102との間で働く力を分析すると以下のような問題が生じる。つまり、図8に示すように、レーストラック形状の超電導コイル102の略円弧状の端部102cと上方の強磁性体レール101aとの間に働く吸引力は、浮上体を持ち上げる方向に作用するが、超電導コイル102の端部102cと下方の強磁性体レール101bとの間に働く吸引力は、浮上体を引き下げる方向に作用する。その結果、これらの力が打ち消し合って浮上体全体に作用する浮上力は小さくなってしまい、実際の移動浮上システムの実現に際して十分な浮上力を確保する観点でマイナス要因となっていた。つまり、安定浮上実現のためには改善すべき課題であった。
【0009】
そこで本発明では、レールに沿って浮上体を浮上させて移動させる搬送システムへ適用される超電導磁気勾配浮上システムにおいて、浮上力特性を向上させ、システムの性能を向上させることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記の目的を達成するためになされた請求項1に係る超電導磁気勾配浮上システムは、磁場発生源と超電導材料からなる磁気遮蔽体を組み合わせて特殊な磁場分布空間を構成する浮上体と、鉄などの強磁性体レールとの間に安定的な相互電磁力作用を作り出すことにより、浮上体を空間に浮上させ、強磁性体レールに沿って移動させる超電導磁気勾配浮上システムであるが、磁場発生源と強磁性体レールに関して次のような工夫を施した。
【0011】
すなわち、磁場発生源については、互いに逆向きの電流を流した一組のレーストラック形状の磁界発生コイルを、各磁界発生コイルが上下にループし且つ各磁界発生コイルの上下直線部がそれぞれ互いに対向するよう配置して構成した。そして、この一組の磁界発生コイルの上方直線部の間にのみ、当該直線部に沿うように強磁性体レールを配置したのである。
【0012】
従来は、図6及び図7を参照して説明したように、対向配置したレーストラック形状の超電導コイル102の間に、超電導コイル102の上方直線部102a及び下方直線部102bの間にそれぞれ上方強磁性体レール101a及び下方強磁性体レール101bを配置させていたのに対して、本発明の構成であれば、従来は超電導コイル102の下方直線部102bに沿って配置されていた下方の強磁性体レール101bが存在しない。そのため、従来構成であれば図8に示すように超電導コイル102の端部102cと下方強磁性体レール101bとの間で浮上体を引き下げる方向に作用していた吸引力が本願発明の場合にはなくなり、超電導コイル102の端部102cと上方強磁性体レール101aとの間で浮上体を引き上げる方向に作用する吸引力が打ち消されずにそのまま浮上力として利用できるので、浮上体に作用する浮上力を大幅に増大させることができる。つまり、浮上力特性を向上させ、超電導磁気勾配浮上システムの性能を向上させることができる。
【0013】
なお、ここで、磁場発生源としての磁界発生コイルの形状である「レーストラック形状」について補足説明をしておく。
(1)このレーストラック形状は、ループ形状であって、基本的には一組の平行な直線部を有している。直線部を接続する部分は、円弧状であっても良いし直線であってもよい。現実的には直角に折り曲げることは困難であるため、四隅に曲線部を付ける。そして、直線部が上方・下方に位置するよう配置する。
【0014】
(2)上述のように、上方直線部が強磁性体レールとの間で電磁力作用を発揮することとなり、下方直線部は、上方直線部と強磁性体レールとの間の電磁力作用に対して悪影響を及ぼさないようにする必要がある。その観点から、基本的には上方・下方の直線部が平行であることが好ましいが、例えば上方・下方の直線部同士がある程度離れ、下方直線部の形状によっては上方直線部と強磁性体レールとの間の電磁力作用が悪影響を受けないのであれば、下方直線部は直線形状でなくてもよい。つまり、上方に直線部を有するループ形状であれば磁場発生源としてはよいこととなる。
【0015】
(3)直線部の配置を示す上方・下方であるが、「上方」の意味は、重力方向を下方とした場合の上方を意味する。つまり、浮上体の自重による下方への力に対して上方への浮上力を得ることを目的としている。
このように、本発明によれば、浮上力特性を向上させ、超電導磁気勾配浮上システムの性能を向上させることができるのであるが、さらに、従来構成における下方強磁性体レール101b(図6等参照)に相当する構成がなくなったことにより、次の点でも有利となる。
【0016】
つまり、図6,図7等を参照して説明した従来構成の場合には、強磁性体レール101a,101bを挟んで対向配置された超電導コイル102には互いに逆向きの電流が供給されるのであるが、そのため、図9中に太い矢印で示すような磁束の流れが生じ、左右の超電導コイル102間では互いに離れようとする方向へ強大な反発力が生じる。そのため、そのような反発力に耐えて超電導コイル102をそれぞれ所定位置に保持し得る構成が必要となってくる。
【0017】
しかしながら、上下2本の強磁性体レール101a,101bを両側から挟むような構成を採用しているため、図7に示すように、左右それぞれの超電導コイル102及び磁気遮蔽体103a,103bを収納した筐体106の一端のみを支持部107に固定する「片持ち形式」になってしまう。上述した反発力はこの筐体106の他端側、つまり自由端側でも生じるため、その反発力によって筐体106に作用する回転モーメントに耐えるためには、筐体106を支持する支持部107の剛性を高める必要があり、結果として、その固定部分の構造を頑健、複雑あるいは大型化せざるを得ず、相対的に重量が増加してしまっていた。
【0018】
それに対して本発明の場合には、従来構成における下方強磁性体レール101b(図6等参照)に相当する構成がないため、その部分において左右の超電導コイル同士、あるいはその収納筐体同士を接続する構成を採用することも可能となる(図2参照)。その結果、従来構成のような片持ち形式の場合に必要であった剛性までは要求されず、相対的に簡素な構成でよくなる。その結果、浮上体全体の簡素化・軽量化においても有利である。
【0019】
また、強磁性体レールに関しては、請求項2に示すように、その長手方向に沿って強磁性体と常磁性体とを交互に配置し、磁場発生源から発生されて強磁性体を通る磁束が強磁性体レールの長手方向に垂直な方向に形成されるよう構成してもよい。例えば図1においては、磁場発生源として超電導コイル2を用いているが、その直線部2aに関しては、本来その直線部に垂直な面内において磁束が発生する。しかし、鉄は空気に比べて1000倍程度磁束を通し易いため、強磁性体レールが連続体であると、その長手方向に沿って磁束が流れることとなる。
【0020】
それに対して本発明の強磁性体レールを採用したことにより、強磁性体内において「強磁性体レールの長手方向」に流れる磁束を大幅に低減させ、磁束の大部分を、「強磁性体レールの長手方向に垂直な方向」、つまり浮上力や案内力を得るのに必要となる上下、左右方向に流すことが可能となる。この結果、浮上力・案内力特性を大幅に向上させたシステムを実現できる。
【0021】
なお、常磁性体としては種々のものを採用できるが、例えば空気が考えられる。上述したように常磁性体は強磁性体に比べて磁束を通しにくいので、常磁性体を挟んだ2つの強磁性体間では磁束が流れにくくなる。そして、例えば図1で言えば超電導コイル2の上方直線部2aから発生される磁束は、もともと強磁性体レール1の長手方向に垂直な方向に流れようとするものであるため、その方向への磁束の流れを確保できることとなる。
【0022】
このような磁束の流れを確保する観点からは、強磁性体レールの長手方向に隣接する1つの強磁性体と1つの常磁性体とで構成される1ピッチ中における強磁性体の割合として、例えば30%〜80%程度とすることが考えられる。さらに好ましくは、40%〜70%程度とすることが考えられる。
【0023】
例えば渦電流の発生回避といった目的のために強磁性体を分割して間に絶縁体を配置することは公知の技術であるが、そのような目的のためであればその絶縁体は薄くてもかまわない。したがって、例えば強磁性体の割合が90%や95%といった程度で問題なく、また強磁性体部分が多い方が好ましいため、製作が難しいといった理由がなければ極力薄い絶縁体を用いるのが一般的である。
【0024】
しかしながら、本発明の場合は磁束の流れを問題にしているため、常磁性体の割合が少なすぎる場合、逆に言えば強磁性体の割合が多すぎる場合には、間隔があったとしても強磁性体間で磁束が通り易くなり所期の目的を達成できなくなる。そのため、常磁性体を挟んで位置する強磁性体間での磁束の流れがなくなる、あるいは大幅に低減する程度まで常磁性体の割合を確保する必要がある。上述したように強磁性体の割合が90%や95%といった状態では浮上力・案内力特性の向上が見込まれないため、常磁性体の割合を少なくとも20%程度、つまり強磁性体の割合を最大でも80%程度に抑えないと実用性の面で問題があると考えられる。このように、渦電流の発生回避目的のために強磁性体を分割して間に絶縁体を配置する従前技術と本願発明とは、その着眼点から異なり、技術思想的にも異質のものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明が適用された実施例について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の形態を採り得る。
【0026】
図1〜図3は、実施例の超電導磁気勾配浮上システムの概略構成及び原理説明図である。本実施例では、強磁性体レール1に対して浮上した浮上体が、その強磁性体レール1に沿って移動する搬送システムへの適用を前提としており、図4は、搬送システムへ適用した場合の一例を示す概略説明図である。
【0027】
浮上体は、磁場発生源として、互いに逆向きの電流を流した一組のレーストラック形状の超電導磁界発生コイル(超電導コイル)2と、磁気遮蔽体3とを備えている。
[超電導コイル2、磁気遮蔽体3の構成]
この超電導コイル2は、上下にループし且つ一組の超電導コイル2が左右に対向するよう配置されている。より詳しく説明すれば、超電導コイル2は、上下に平行に配置された上方直線部2a及び下方直線部2bと、それら上方直線部2aと下方直線部2bの両端同士を接続する端部2cによって構成されている。そして、左右の超電導コイル2の上方直線部2a同士、下方直線部2b同士は、それぞれ左右に対向するよう配置されている。
【0028】
そして、この一組の超電導コイル2の上方直線部2aの間に、超電導材料によって形成された板又は超電導バルクを用いて形成された長方形状の磁気遮蔽体3が対向して配置されている。そして、その対向配置された磁気遮蔽体3の間に強磁性体レール1が配置されることとなる。なお、下方直線部2bの間には磁気遮蔽体3は存在せず、また強磁性体レール1も存在しない。
【0029】
なお、図1は、主に超電導磁気勾配浮上の作用を発揮する主要部分についてのみ説明したが、実際には、図2に示すように、超電導コイル2及び磁気遮蔽体3は筐体6に収納されている。ここで従来構成との比較を行う。図7を参照して説明したように、従来構成の場合には、左右に存在する超電導コイル102及び磁気遮蔽体103a,103bを左右それぞれの筐体106にて収納し、それら筐体106の端部を支持部107にて支持(片持ち支持)する構成であった。それに対して本実施例の場合には、図2に示すように、1つの筐体6に左右の超電導コイル2及び磁気遮蔽体3を収納している。これは、本実施例の構成の場合には、従来構成における下方強磁性体レール101b(図6等参照)に相当する構成がないからである。そして、本実施例では、図2に示すように、その部分において左右の超電導コイル2同士を接続部材5によって接続している。
【0030】
左右の超電導コイル2間では互いに反発力が生じる。図7に示す従来構成では、筐体106の一端のみを支持部107に固定する「片持ち支持形式」にならざるを得ないため、反発力によって筐体106に作用する回転モーメントに耐えるために、筐体106を支持する支持部107の剛性を高める必要があった。それに対して本実施例の場合には、図2に示すように超電導コイル2の略中央部分同士で接続できるため、従来構成のような片持ち形式の場合に必要であった剛性までは要求されず、相対的に簡素な構成でよくなる。その結果、浮上体全体の簡素化・軽量化においても有利である。なお、超電導コイル2同士を接続するのではなく、左右それぞれの超電導コイル2(及び磁気遮蔽体3)を収納した筐体同士を接続部材5によって接続する構成を採用することも可能である。
【0031】
[強磁性体レール1の構成]
次に、強磁性体レール1の構成について説明する。本実施例の強磁性体レール1は、図6に示した従来構成の強磁性体レール101a.101bのように強磁性体の連続体ではなく、図1に示すように、分割片となる強磁性体1aが強磁性体レール1の長手方向に所定間隔で配置されて成る構成である。つまり、強磁性体1a間には空気が存在することとなり、これが常磁性体に相当する。つまり、強磁性体レール1の長手方向において強磁性体1aと常磁性体とが交互に配置されるようになっている。そして、本実施例の場合には、強磁性体レール1の長手方向に隣接する1つの強磁性体1aと1つの常磁性体(この場合は空気)とで構成される1ピッチ中における強磁性体1aの割合が50%にされている。例えば厚さが100mmの強磁性体1aであれば、その厚さと同じ100mmの間隔で強磁性体1aを配置する。なお、この100mmという数値は一例であり、適宜、状況に応じた設計変更が可能である。また、1ピッチ中における強磁性体1aの割合に関しても、50%に限らず、例えば30%〜80%程度とすることが考えられる。さらに好ましくは、40%〜70%程度とすることが考えられる。
【0032】
なお、図2〜図4における強磁性体レール1の構成は、図1に示す強磁性体レール1の構成と全く同じであるが、図の簡略化のため、あえて分割した状態では示していない。実際には、図2〜図4における強磁性体レール1も、分割片となる強磁性体1aが強磁性体レール1の長手方向に所定間隔で配置されて成る構成である。
【0033】
[本実施例の作用効果]
本実施例では、上記構成のため、図3に示すように、強磁性体レール1と超電導コイル2の端部2cとの間に作用する吸引力は、浮上体を引き上げる方向に作用する。従来は、図6及び図7を参照して説明したように、対向配置したレーストラック形状の超電導コイル102の上方直線部102a及び下方直線部102bの間にそれぞれ上方強磁性体レール101a及び下方強磁性体レール101bを配置させていたため、図8に示すように超電導コイル102の端部102cと下方強磁性体レール101bとの間に作用する吸引力は浮上体を引き下げる方向に作用していた。しかし、本実施例ではそのような浮上力を打ち消すような吸引力がなくなり、上述した浮上を引き上げる方向に作用する吸引力をそのまま浮上力として利用できる。そのため、浮上体に作用する浮上力を大幅に増大させることができ、浮上力特性を向上させ、超電導磁気勾配浮上システムの性能を向上させることができる。
【0034】
なお、このような作用を発揮する上で、強磁性体1aが常磁性体(本実施例では空気)を間に挟んで配置される構成の強磁性体レール1を採用することは非常に有効である。つまり、このような構成のため、超電導コイル2によって発生した強力な磁場は、強磁性体1a内において「強磁性体レール1の長手方向」に流れる磁束を大幅に低減させ、磁束の大部分を、強磁性体レール1の長手方向に垂直な方向、つまり浮上力や案内力を得るのに必要となる上下、左右方向に流すことができる。これは、常磁性体としての空気は強磁性体としての鉄に比べて1000倍程度磁束を通しにくいので、図1において空気を隔てて存在する2つの強磁性体1a間では磁束が流れにくくなる。そして、磁場発生源である超電導コイル2の上方直線部2aから発生される磁束は、もともと強磁性体レール1の長手方向に垂直な方向に流れようとするものであるため、上述した構成によって強磁性体レール1の長手方向に流れにくくなることで、本来の方向、つまり強磁性体レール1の長手方向に垂直な方向への磁束の流れを確保できることとなる。この結果、浮上力・案内力特性を大幅に向上させたシステムを実現できる。
【0035】
[その他]
(a)搬送システムへ適用した場合の一例を示す図4に関して簡単に補足説明しておく。図4に示す場合には、浮上体の車体部20の屋根部分に、上述の対向配置された超電導コイル2及び磁気遮蔽体3を収納した筐体6が車体幅方向に並行に配置されている。なお、実際には、この筐体6のセットは、車体の長手方向に沿って複数セット設けられている。車体部20内部には例えば座席30等が収納されている。
【0036】
一方、強磁性体レール1は、左右に平行に配置されるよう、地上側に固定された天井部50から下方に延びる釣り下げ部材55によって釣り下げ固定されている。これら左右2本の強磁性体レール1を、浮上体の車体部20の屋根部分に設けられた筐体6内の対向配置された超電導コイル2及び磁気遮蔽体3の間に配置することによって、浮上力を得ることができる。
【0037】
なお、図4にて例示した搬送システムの場合には、強磁性体レール1が左右方向に2本存在し、車体部20の左右端部付近で浮上機能を発揮させる構成であったが、強磁性体レール1が1本であり車体部20の中央で浮上機能を発揮させる構成であってもよい。もちろん、3本以上の強磁性体レール1との間で浮上機能を発揮させる構成であっても当然実現は可能である。
(b)また、本実施例の構成では、左右の超電導コイル2の下方直線部2bの間に強磁性体レールを位置させないため、その部分を他の用途に利用できる。例えば超電導コイル2等を超電導化させるための冷媒タンク等を収納する空間として有効利用することが可能となる。
【0038】
(c)上記実施例では、磁場発生源としての磁界発生コイルが超電導コイルの場合の例を示したが、例えば常電導コイルを用いて構成する場合であっても基本的な思想・構成は同じである。
(d)超電導コイル2に関しては、例えば図5に示すように2条で構成するものであってもよい。この場合、相対的に大きなレーストラック形状のコイルの内側に相対的に小さなレーストラック形状のコイルを配置することとなるが、その際、上下で対称に配置するのではなく、内側のコイルを相対的に下方にずらして配置することが考えられる。図1に示す構成における上方直線部2aは、上下方向に所定長さを持たせて形成されているが、実際には1条のコイルでこの所定長さを確保することは容易ではない。したがって、2条で構成する場合には、図5に示すように2条のコイルの上方直線部2a間を所定長さ分だけ空けることによって、この上下長さを確保することができる。なお、上方直線部2aに関しては強磁性体レール1との間で安定的な電磁力作用が発揮できるような適切な間隔とする必要があるが、下方直線部2bに関してはそのような考慮をしなくてもよいため、例えば2条の下方直線部2b同士を極力接近させて配置するといったことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の超電導磁気勾配浮上システムの概略斜視図である。
【図2】実施例の超電導磁気勾配浮上システムの概略断面図である。
【図3】実施例の超電導磁気勾配浮上システムにおける強磁性体レールと超電導コイル端部との間に作用する吸引力の説明図である。
【図4】搬送システムへの適用例の概略説明図である。
【図5】別実施例の概略斜視図である。
【図6】従来技術による超電導磁気勾配浮上システムの概略斜視図である。
【図7】従来技術による超電導磁気勾配浮上システムの概略断面図である。
【図8】従来技術による超電導磁気勾配浮上システムにおける強磁性体レールと超電導コイル端部との間に作用する吸引力の説明図である。
【図9】従来技術による超電導磁気勾配浮上システムにおける磁束の流れの概略説明図である。
【符号の説明】
1…強磁性体レール、1a…強磁性体、2…超電導磁界発生コイル、2a…上方直線部、2b…下方直線部、2c…端部、3…磁気遮蔽体、5…接続部材、6…筐体、20…車体部、30…座席、50…天井部、55…釣り下げ部材、101a,101b…(従来の)強磁性体レール、102…(従来の)超電導磁界発生コイル、102a…(従来の)上方直線部、102b…(従来の)下方直線部、103a,103b…(従来の)磁気遮蔽体、106…(従来の)筐体、107…支持部。

Claims (2)

  1. 磁場発生源と超電導材料からなる磁気遮蔽体を組み合わせて特殊な磁場分布空間を構成する浮上体と、鉄などの強磁性体レールとの間に安定的な相互電磁力作用を作り出すことにより、前記浮上体を空間に浮上させ、前記強磁性体レールに沿って移動させる超電導磁気勾配浮上システムにおいて、
    前記磁場発生源は、互いに逆向きの電流を流した一組のレーストラック形状の磁界発生コイルを、各磁界発生コイルが上下にループし且つ各磁界発生コイルの上下直線部がそれぞれ互いに対向するよう配置して構成されており、
    前記一組の磁界発生コイルの上方直線部の間にのみ、当該直線部に沿うように前記強磁性体レールを配置したことを特徴とする超電導磁気勾配浮上システム。
  2. 前記強磁性体レールを、
    長手方向に沿って強磁性体と常磁性体とを交互に配置し、前記磁場発生源から発生されて前記強磁性体を通る磁束が前記強磁性体レールの長手方向に垂直な方向に形成されるよう構成したことを特徴とする請求項1に記載の超電導磁気勾配浮上システム。
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