JP2005018352A - 温度制御装置およびその方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】循環式恒温水槽によって温度制御された熱媒体を用いて太陽電池の温度を制御する方法は、必要とする照射面積が大面積になるにつれて問題が発生する。
【解決手段】循環式恒温水槽101は熱媒体の温度を制御する。熱媒体は、水槽101から供給経路102aおよび102bを経て加熱/冷却盤104aおよび104bそれぞれへ供給され、回収経路103aおよび103bを経て水槽101へ戻る。供給経路102aの一部に設けらた水槽107により、周囲環境と供給経路102aの間の熱交換を調整して、二つの太陽電池セル105aおよび105bの温度を揃える。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は温度制御装置およびその方法に関し、例えば、温度制御された熱媒体を供給して、熱媒体との熱交換により複数の対象物の温度を制御する温度制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体素子を所定温度に制御した状態で各種の試験や加工を実施しようとする場合、下記の方法などがよく利用される。
(1) 加熱にヒータを、冷却に自然放熱を利用する方法
(2) ペルチェ素子の発熱/吸熱効果を用いる方法
(3) 循環式恒温水槽によって温度制御された恒温水を用いる方法
【0003】
どの方法を用いるかは、目的とする温度範囲や制御精度、対象とする半導体素子の大きさや熱容量、その系における半導体素子温度を変動させる要因、用いる方法のコストなどに着目して選択する必要がある。
【0004】
ここでコストについて着目すると、ひとつの温度制御装置で複数の対象物の温度を制御する方法が実現できれば、同時大量処理による製品開発のスピードアップや製造における処理能力アップ、制御装置の台数削減による制御装置のコスト削減、制御装置の設置スペースの削減などが実現され、その分、コストダウンが可能である。ただし、この場合、ひとつの制御装置で複数の対象物の温度を制御するため、その結果生じる、複数の対象物間の温度のばらつきという問題を解決しなければならない。また、この問題を解決したにしても、少ないコストで解決しなければ、結局、コストダウンが実現されないことになる。
【0005】
近年、太陽電池に関しても、製品開発のスピードアップや製造における処理能力アップの要求がますます高まっているが、加えて、製品の大型化の要求も高まっている。製品を大型化すれば、その製品を処理する試験機や加工機の大型化も同時に必要になり、それに起因する温度制御をより困難にする問題が発生する。そのため、複合した問題全体を総合的に解決するのは容易ではない。
【0006】
例えば、平面状の太陽電池セルに擬似太陽光を照射して各種試験を実施しようとする場合に、循環式恒温水槽により温度制御された恒温水を加熱/冷却盤に供給して加熱/冷却盤を所定温度に維持し、その加熱/冷却盤上に太陽電池セルを保持して太陽電池セルの温度を制御する方法がある。この方法は、次のような場合に適すると考えられる。
(1) 太陽電池セルの大きさおよび試験機の光照射面積が比較的小さい
(2) 加熱/冷却盤に与える照射光による光エネルギ量が比較的小さい
(3) 加熱/冷却盤の自然放熱効果が充分ある
【0007】
つまり、循環式恒温水槽の温度制御に高い冷却性能を要しない場合や、温度制御が主に加熱によって行える場合には適した方法と考えられる。例えば、10cm角程度の比較的小さい照射面積をもつ光照射試験装置において、照射面積よりやや広い20cm角程度の加熱/冷却盤を用いて、室温条件に近い25℃や室温より高い45℃に温度制御する場合などが挙げられる。このような場合は、冷却性能の低い、例えば40℃以下でしか冷却機が動作しない仕様の、言い換えれば、加熱性能に重点を置いた安価な循環式恒温水槽も選定することができる。つまり、室温条件に近い25℃では熱の交換量自体が比較的小さく、循環させる恒温水の温度も25℃近傍であるから、加熱機および冷却機(40℃以下でしか動作しない)でも温度を制御することができる。
【0008】
一方、室温よりだいぶ高い45℃においては、冷却効果として加熱/冷却盤自体の放熱効果を利用できる。その際、光照射面積が比較的小さく光エネルギによる昇温も比較的小さければ、恒温水は加熱/冷却盤に熱を供給する媒体になり、熱を供給して循環式恒温水槽に戻ってくる循環水は供給側の温度以下になり、加熱機を用いて恒温水を再度昇温することにより温度制御を行うことができる。
【0009】
しかし、上記の方法は、必要とする照射面積が大面積になるにつれて温度制御に関連する問題が発生する。具体的には、被照射物の大面積化や複数同時処理の必要性に伴い、光照射試験機の大型化を試みる際、光源自体の発熱量が増大する、試験機近傍や被照射物に供給される光エネルギ量が大幅に増大するなどにより、周囲環境温度や対象物の温度が上昇して、対象物の温度制御をより困難にする。
【0010】
大型の光照射試験機において前記の循環式恒温水槽方式を用いる場合、例えば、2m角程度の照射面積をもつ光照射試験機の中に、25cm角程度の太陽電池セルと、太陽電池セルよりやや広い30cm角程度の加熱/冷却盤を置き、試験条件の45℃に制御しようとすると、太陽電池セルおよび加熱/冷却盤全体に光が照射されるため光エネルギによる昇温が大きく、加熱/冷却盤自体の放熱では追いつかない。従って、恒温水は加熱/冷却盤から熱を奪う媒体になり、熱を奪って循環式恒温水槽に戻ってくる循環水は供給側の温度以上になり、冷却機を用いて恒温水を冷却する必要が生じる。こうなれば、40℃以下でしか冷却機が動作しない、加熱性能に重点を置いた安価な循環式恒温水槽では冷却能力が不足し、温度を制御することができない。
【0011】
上記の事例のように、目的の温度条件に制御できない場合が発生するが、上記の問題に限定すれば、例えば70〜80℃の温度でも冷却機が動作する充分な冷却性能と加熱性能を有する高価な循環式恒温水槽を用いれば(コストを無視すれば)、解決することが可能である。勿論、複数の被照射物を同時に試験しようとすれば、被照射物ひとつ一つに高価な循環式恒温水槽を用いることになり、潤沢な資金が必要になる。さらに、設置台数が増えれば増えるほど、循環式恒温水槽を複数併置するためのスペースが必要になる上、循環水を供給する配管の引き回しをどうするかなど、様々な問題が発生し、これらを同時に解決する必要が生じる。
【0012】
【非特許文献】
JIS C 8911 二次基準結晶系太陽電池セル、JIS C 8931 二次基準アモルファス太陽電池セル
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の問題を個々にまたはまとめて解決するためのもので、複数の対象物の温度をそれぞれ精度よく制御することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の目的を達成する一手段として、以下の構成を備える。
【0015】
本発明の、温度制御された熱媒体を供給して、熱媒体との熱交換により複数の対象物の温度を制御する温度制御は、熱媒体の温度を制御し、複数の対象物それぞれへ熱媒体を供給する供給経路の少なくとも一部において、供給経路と周囲環境の間の熱交換量を調整することを特徴とする。
【0016】
好ましくは、さらに、対象物の少なくとも一つと熱媒体の間の熱交換量を調整することを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態を説明するが、本発明は実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[周囲環境]
周囲環境は、熱媒体の供給経路の少なくとも一部と熱量を交換する必要があり、例えば全経路に亘って真空で暗黒のケースなどは除外される。熱量のやり取りは、周囲環境と熱媒体の間の温度差を利用してもよいし、周囲環境に存在する光エネルギを利用してもよい。
【0019】
温度制御系の周囲に他の目的の熱源や光源がある場合、周囲温度が上昇したり周囲環境が不均一になるなど、一般に、温度制御がより難しくして問題解決のコストが増加する。しかし、本発明は、それら熱源や光源から発せられ、周囲環境に存在するエネルギやエネルギ分布なども温度制御に積極的に利用し、温度制御用の余分なエネルギコストの追加を不要として、コストダウンが大幅に可能な温度制御系を実現する。
【0020】
例えば、太陽電池セルや太陽電池モジュールの連続光照射試験用の大型光照射試験機などは、大型のランプを複数有するから発生する熱や光が膨大になり、従来、温度制御が困難な周囲環境のひとつと考えられてきた。しかし、それらの熱や光を有効に活用する本発明の温度制御系には、好適な周囲環境のひとつである。
【0021】
[熱媒体の温度制御装置]
熱媒体の温度制御装置自体の温度モニタ方式および温度制御方式は、温度制御装置内で熱媒体の温度をモニタして熱媒体の温度を制御する方式、対象物近傍の熱媒体の温度をモニタして熱媒体の温度を制御する方式、あるいは、対象物自体の温度をモニタして熱媒体の温度を制御する方式などを用いることができる。
【0022】
温度制御装置の熱媒体の加熱/冷却方式は、温度制御装置内に加熱機器と冷却機器を備える方式、温度制御装置内に加熱機器を備え、冷却は自然放熱を利用する方式、温度制御装置内に冷却機器を備え、加熱は自然吸熱を利用する方式、あるいは、制御温度範囲によって上記の幾つかを使い分ける方式などを用いることができる。
【0023】
本発明によれば、ひとつの温度制御装置で複数の対象物の温度制御が行え、安価な温度制御装置を用いれば、対象物ひとつ当たりの温度制御コストを大幅に削減することができる。たとえ、比較的高価な温度制御装置を用いても、対象物ひとつ当たりの温度制御コストを低く抑えることができる。
【0024】
[熱媒体]
熱媒体には、供給経路を通して対象物まで供給できる流動性のある物質、つまり各種の液体や気体または粒状/粉状の固体もしくはその混合物などを用いる。具体的には、目標とする温度範囲、必要とする制御スピード、周囲環境の温度要因や光要因などから、熱媒体の熱容量や粘性、吸光性などの特性を考慮し選択することが好ましい。例えば、水、エチレングリコール、オイルなどの液体、あるいは、空気、窒素、ヘリウムなどの気体などが好ましい。
【0025】
平面状の太陽電池セルに擬似太陽光を照射して各種試験を実施しようとする場合、目標とする温度は室温近傍や室温より若干高め、かつ、100℃以下が多い。この温度範囲内で液体で、光エネルギ供給による対象物の昇温効果も大きいことから、ある程度の熱容量を有する水を主成分とした熱媒体が好ましい。さらに、継続使用におけるメンテナンス性を考慮し、純水または薬品を混合した水を用いることが、汚れの蓄積や藻の発生などを防いで、より好ましい。また、光エネルギが存在する系では、水に吸光材を混合して吸光性を高めた着色水を用いると、光エネルギを利用した、供給経路での熱交換が効率的になり、より好ましい。
【0026】
[熱媒体の供給経路]
熱媒体の供給経路の材質には、断熱効果の高いまたは低いもの、吸熱効果の高いまたは低いもの、熱容量の大きいまたは小さいもの、吸光効果の高いまたは低いもの、光透過性の高いまたは低いものなどを用いることができる。例えば、各種の透明または非透明のプラスチック管またはガラス管、あるいは、金属管などを使い分けることができる。具体的には、周囲環境の温度分布や光エネルギ分布などを考慮して、選択し、適宜組み合せながら配管することが好ましい。勿論、「高いもの」と「低いもの」をその使用割合を調整して組み合わせて使用することもできる。
【0027】
配管時は、周囲環境の温度分布や光エネルギ分布などに合わせて供給経路の経路長や配置位置を調整することも、周囲環境との熱交換(以下「周囲−経路熱交換」と呼ぶ)を効率よく調整するために好ましい。
【0028】
また、配管への断熱材や放熱板、光吸収材や光反射材の取り付け、着色などの追加加工を適宜実施することは、周囲−経路熱交換を効率よく調整することができて好ましい。
【0029】
また、周囲環境に悪影響を与えずに周囲環境と熱量を交換する、配管よりは少し大きなユニットを供給経路上に設ければ、まず周囲環境とそのユニットの間で熱量が交換され、そしてユニットと供給経路の間で熱量が交換され、熱交換を効率よく調整することができて、より好ましい。例えば、供給経路を、周囲環境に放置され温度がほぼ安定した水槽や金属ブロックなどを通せば、周囲−経路熱交換を行う際の熱容量を変更する効果がある。また、供給径路を、光吸収材を外周に取り付けた金属ブロックなどを通せば、光エネルギの利用率を向上させる効果がある。
【0030】
[温度制御の対象物]
温度制御の対象物は、熱媒体と熱を交換することで加熱および/または冷却される物品または物体である。ある目的で、ある物体の温度を制御する場合、その物体が直接熱媒体と熱的に接触する機構を設けて熱交換させてもよいし、熱媒体と熱交換を行う別の物体に対象物を熱的に接触させて間接的に熱交換させてもよい。例えば「JIS C 8911 二次基準結晶系太陽電池セル」や「JIS C 8931 二次基準アモルファス太陽電池セル」に例示されている二次基準太陽電池セルは、それ自体に熱媒体を内部に循環させる機構を有する。これは前者の例に当たる。
【0031】
また、平面状の太陽電池セルの温度を加熱/冷却盤を用いて制御する場合、まず加熱/冷却盤と熱媒体との間で熱交換させて加熱/冷却盤の温度を制御し、加熱/冷却盤に熱的に接触する太陽電池セルの温度を間接的に制御する方法もある。これは後者の例である。
【0032】
[熱交換量の調整]
本発明によれば、ひとつの温度制御装置で複数の対象物の温度制御を行うことができる。ひとつの温度制御装置で温度制御することによって生じる、複数の対象物における目標温度からのばらつきは、熱交換量の調整により抑制する。熱交換量の調整は、温度が高い対象物の温度を下げる調整、温度が低い対象物の温度を上げる調整、あるいは、中間温度を想定して、温度が高い対象物の温度を半分程度(中間温度に)下げ、温度が低い対象物の温度を半分程度(中間温度に)上げるなどである。
【0033】
複数の対象物の温度ばらつきを許容範囲に抑えることができれば、ひとつの温度制御装置で、温度制御装置内の熱媒体の温度を適切に制御して、系全体の温度を適切に制御することができる。
【0034】
周囲−経路熱交換における熱交換量(以下「周囲−経路熱交換量」と呼ぶ)は、前述したように、供給経路の材質、形状、経路長、配置位置、供給経路に取り付ける補材、熱媒体の性質などにより調整することができる。周囲−経路熱交換量の調整を、供給経路に用いる部材の断熱性、吸熱性、熱容量、吸光性および光透過性、供給経路の全長および形状、並びに、熱媒体の吸光性のどれか一つもしくは組み合わせで行えば、対象物と熱媒体の間の熱交換量(以下「対象物−媒体熱交換」「対象物−媒体熱交換量」と呼ぶ)への影響が小さく、周囲−経路熱交換量を主に調整することができ、一次方程式を解くが如く、調整手順や複合要因への対処負荷が少なく、より好ましい。
【0035】
対象物−媒体熱交換量は、対象物と熱媒体の間の材質、形状、経路長および配置位置、対象物と熱媒体の間に取り付ける補材、並びに、熱媒体の性質などによって調整することができる。
【0036】
対象物−媒体熱交換量の調整を、対象物と熱媒体の間に用いる部材の断熱性および熱容量、並びに、対象物と熱媒体が接する経路の全長および形状のどれか一つもしくは組み合わせで行えば、周囲−経路熱交換量への影響が小さく、対象物−媒体熱交換量を主に調整することができ、一次方程式を解くが如く、調整手順や複合要因への対処負荷が少なく、より好ましい。
【0037】
また、対象物−媒体熱交換量を熱媒体の流量および熱容量のどれか一つもしくは組み合わせで調整する場合、周囲−経路熱交換量への影響が無視できなることも多く、二次方程式を解くが如く、調整手順がやや複雑になり複合要因への対処負荷が増加することも多い。しかし、前述した他の項目と組み合わせて、周囲−経路熱交換量を調整すれば、必要とする最適な調整を行うことができる。
【0038】
温度制御系の使用条件や周囲環境が時間的に変化しない場合、熱交換量の調整には、使用する系全体の他の要因も考慮し、最適な方法を適宜選択すればよい。
【0039】
また、時間の経過とともに、温度制御系の使用条件や周囲環境が変化する場合、熱交換量の調整には、どの状態においても目標温度からのずれが小さくなるように、最適な方法を適宜選択するのが望ましい。その際、どの状態においても複数の対象物の目標温度からのずれがほぼ同等になるように調整すれば、複数の対象物の目標温度からの平均的なずれ分のフィードバックを温度制御装置内の熱媒体温度に与えることで、系全体の温度を適切に制御することができて好ましい。
【0040】
また、時間の経過とともに、温度制御装置の熱媒体制御温度と周囲環境温度との差分が変化する場合、対象物の温度変動にも上記差分の変化に比例する成分が存在する。例えば、対象物を複数の温度条件で試験するために温度を変更する場合や、温度制御系を配置した室温条件が悪く不安定な場合など、対象物の温度は上記差分の変化に比例して変化する。本発明は、周囲−経路熱交換量の変化を、上記差分の変化にほぼ比例するように調整することができる(例えば、供給経路に用いる部材の断熱性、吸熱性および熱容量、並びに、供給経路の全長および形状などによって調整することができる)。その結果、複数の対象物に生じる温度変化のばらつきを、どの状態においても相殺することができ、どの状態においても、複数の対象物の目標温度からのずれをほぼ同一にすることができる。
【0041】
また、時間の経過とともに、周囲環境光量が変化する場合、対象物の温度変動にも周囲環境光量の変化に比例する成分が存在する。例えば、対象物を複数の光量条件で試験するために光量を変更する場合、対象物の温度は光量の変化に比例して変化する。本発明は、周囲−経路熱交換量の変化や対象物−熱媒体熱交換量の変化を周囲環境光量の変化にほぼ比例するように調整することができる(例えば、供給経路に用いる部材の吸光性および光透過性、供給経路の全長および形状、熱媒体の吸光性、対象物と熱媒体の間に用いる部材の断熱性および熱容量、対象物と熱媒体が接する経路の全長および形状、並びに、熱媒体の流量および熱容量などによって調整することができる)。その結果、複数の対象物に生じる温度変化のばらつきを、どの状態においても相殺することができ、どの状態においても、複数の対象物の目標温度からのずれをほぼ同一にすることができる。
【0042】
また、時間の経過とともに、温度制御系の使用条件や周囲環境の複数の要因が変化する、より複雑な系の場合、前述の方法を拡張して調整すれば、どの状態においても、複数の対象物の目標温度からのずれをほぼ同一にすることができる。具体的な手順としては(総工程数は増える可能性はある)、(1) その変化に対応して生じる複数の対象物の温度変化のばらつきを調整する、(2) あるひとつの状態における複数の対象物の温度差が複数の対象物の目標温度差に近づくように調整する、を繰り返す方法を用いると、単純な繰返作業によって、許容する範囲内に調整することができる。そうすれば、どの状態においても、複数の対象物の目標温度からのずれをほぼ同一にすることができる。
【0043】
なお、以下の実施例の説明ではとくに明記しないが、温度の測定は、温度制御系が熱的な平衡状態に達した後に行ったことは言うまでもない。
【0044】
【実施例1】
図1は実施例1の温度制御系を示すブロック図である。
【0045】
図1には、複数の光源106(図1では三つ)を有する大型の光照射試験機により、二つの太陽電池セル105aおよび105bの光劣化試験を同時に行う場合の温度制御系を示す。太陽電池セルの光劣化試験は、約1000W/mという強い光を連続的に照射し続ける条件下で数百時間行われる。この例では、太陽電池セル105a、105bを45℃近傍に制御する。
【0046】
図1において、光源106から供給される光は、太陽電池セル105aおよび105bに連続的に照射される。循環式恒温水槽101は、その内部において熱媒体の温度をモニタし、熱媒体の温度をほぼ一定に制御する。熱媒体には、メンテナンス性を考慮して純水を用いる。熱媒体は、供給経路102から102aおよび102bを通って加熱/冷却盤104aおよび104bに供給され、回収経路103aおよび103bから103を通って循環式恒温水槽101に戻る。供給経路102、102aおよび102bには半透明プラスチックチューブを用いる。太陽電池セル105a、105bはそれぞれ、加熱/冷却盤104a、104b上に熱的に接触するように載置され、ほぼ一定温度に制御される。
【0047】
図7は上記の構成における、設定状態と各部の温度を示す図である。なお、以下では手順をわかり易く説明するために、順を追って説明するが、温度制御系全体の情報が蓄積され、熱に寄与する項目の分布状態や、変更項目および変更量と熱交換量や温度の変化量との関係などの把握が進めば、より少ない手順で目標温度に到達することができる。
【0048】
まず、最初の状態として、供給経路102および102aの合計経路長、並びに、供給経路102および102bの合計経路長を3m、循環式恒温水槽101内の熱媒体の温度を45℃に設定した後、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を測定するとそれぞれ48℃および47℃であった。この設定では、光源106から太陽電池セル105aおよび105bに連続的に大きな光エネルギが供給されるため、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度(45℃)よりも太陽電池セル105aおよび105bの温度が高くなったと考えられる。
【0049】
この状態で、加熱/冷却盤104aおよび104bの入口部の熱媒体温度を測定するとともに44℃であった。従って、この系における供給経路長3m当りの周囲−経路熱交換量は、温度で表すと1℃になる。また、加熱/冷却盤104aおよび104bにおいて、入口部の熱媒体温度が同一にもかかわらず、太陽電池セル105aおよび105bの中心部温度が異なるのは、何らかのばらつき要因、例えば加熱/冷却盤の製作精度などの要因があると考えられる。このような温度ばらつきは、構造の異なる複数の対象物を同時に制御しようとした場合によく発生する現象である。
【0050】
ここで調整1として、周囲−経路熱交換量を調整するために、供給経路102および102aの合計経路長を変更して6mにした。その結果、加熱/冷却盤104aの入口部の熱媒体温度は1℃下がり、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を47℃に揃えることができた。
【0051】
調整1により、二つの太陽電池セル105aおよび105bの中心部温度を揃えることができたので、調整2として、二つの太陽電池セル105aおよび105bの両方に寄与する循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を45℃から43℃に変更した。その結果、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を45℃に制御することができた。
【0052】
このような温度制御系を用いると、ひとつの温度制御装置により、複数の対象物の温度を制御することができる。その際、対象物の目標温度からのずれは周囲−経路熱交換量で調整することができるため、各対象物の温度を微調整するために個別にヒータや冷却機などを追加することなく、複数の対象物の温度を制御することができる。言い換えれば、各対象物の温度微調整用の個別の電気エネルギや維持コストを消費することなく、複数の対象物の温度を制御することができる。また、一台の温度制御装置で目的を達し、複数の温度制御装置の購入コスト、維持コスト、設置スペースなども削減することができる。
【0053】
【実施例2】
以下、実施例2の温度制御系を説明する。なお、実施例2において、実施例1と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0054】
図2は実施例2の温度制御系を示すブロック図である。
【0055】
実施例2は、実施例1と同様の、複数の光源106を有する大型の光照射試験機により、二つの太陽電池セル105aおよび105bの光劣化試験を同時に行う場合の温度制御系を示す。ただし、供給経路102aが、試験室環境と熱的に平衡状態にある水槽107を経由可能にした点で異なる。
【0056】
図8は上記の構成における、設定状態と各部の温度を示す図である。
【0057】
まず、最初の状態として、供給経路102および102aの合計経路長、並びに、供給経路102および102bの合計経路長を6m、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を45℃に設定した。なお、実施例1に対して供給経路を長く設定したのは、供給経路102aを水槽107の水に浸す際の作業性の考慮、および、調整用に使用する長さの確保のためである。その後、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を測定するとそれぞれ47℃および46℃であった。この状態で、加熱/冷却盤104aおよび104bの入口部の熱媒体温度を測定するとともに43℃であった。
【0058】
ここで調整1として、周囲−経路熱交換量を調整するために、供給経路102aの一部を水槽107の水中に浸した。つまり、供給経路102aの一部の熱容量を変更し、熱容量が変更された経路長を調整することで熱交換量を調整した。供給経路102aの1mを水槽107の水中に浸すと、加熱/冷却盤104aの入口部の熱媒体温度が1℃下がり、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を46℃に揃えることができた。
【0059】
調整1により、二つの太陽電池セル105aおよび105bの中心部温度を揃えることができたので、調整2として、二つの太陽電池セル105aおよび105bの両方に寄与する循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を45℃から44℃に変更した。その結果、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を45℃に制御することができた。
【0060】
このような温度制御系を用いると、実施例1と同様、ひとつの温度制御装置で複数の対象物の温度を制御することができる。その際、周囲−経路熱交換量の調整は水槽の水に浸す経路長を変更すればよく容易である。仮に、別の試験品の試験を実施しようとした際に温度を再調整する必要が生じても、水槽の水に浸す経路長と循環式恒温水槽内の熱媒体の温度を調整すればよく、容易に対象物の温度を最適化することができる。
【0061】
【実施例3】
以下、実施例3の温度制御系を説明する。なお、実施例3において、実施例1、2と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0062】
図3は実施例3の温度制御系を示すブロック図である。
【0063】
実施例3は、実施例1と同様に、複数の光源106を有する大型の光照射試験機により、複数の太陽電池セルの光劣化試験を同時に行う場合の温度制御系を示す。ただし、実施例3では、太陽電池セルの光劣化試験での温度依存性を測定するため、目標温度を50℃近傍および45℃近傍の二条件とし、試験結果の精度をあげるため各温度条件のサンプル数をそれぞれ3にする。
【0064】
図3において、光源106から供給される光は、光照射領域108に置かれた六つの太陽電池セル105a−105fに連続的に照射される。なお、太陽電池セル105a、105c、105eは45℃近傍に、太陽電池セル105b、105d、105fは50℃近傍に制御する。熱媒体は、供給経路102から102aおよび102dを通って加熱/冷却盤104aおよび104bに供給され、回収経路103aおよび103bから103を通って循環式恒温水槽101に戻る。また、供給経路102aおよび102bの熱交換量を調整するために、実施例2と同様の水槽107および光吸収効果のある黒色補材109を用意する。図には示さないが、循環式恒温水槽101と加熱/冷却盤104cおよび104eの間にも供給・回収経路102aおよび103aと同様の供給・回収経路が形成され、循環式恒温水槽101と加熱/冷却盤104dおよび104fの間にも供給・回収経路102bおよび103bと同様の供給・回収経路が形成されている。
【0065】
図9は上記の構成における、設定状態と各部の温度を示す図である。なお、以下では、45℃近傍に制御する太陽電池セル105aと、45℃近傍に制御する太陽電池セル105bを代表例として説明する。
【0066】
まず、最初の状態として、供給経路102および102aの合計経路長、並びに、供給経路102および102bの合計経路長を6m、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を45℃に設定した。なお、実施例1に対して供給経路を長く設定したのは、実施例2と同様に、供給経路102aを水槽107の水に浸す点、および、供給経路102bに黒色補材109を取り付ける点を考慮してである。さらに、光源106から供給される光エネルギの利用を意図して、太陽電池セル105bは循環式恒温水槽101から遠い側に載置して、供給経路102bが光照射領域108の空き領域(太陽電池セルや加熱/冷却盤が載置されていない領域)を通るようにした。
【0067】
その後、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を測定するとそれぞれ46℃、47℃であった。この状態で、加熱/冷却盤104aおよび104bの入口部の熱媒体温度を測定するとそれぞれ43℃、44℃であった。意図したとおり、光源106からの光エネルギによって、相対的に高い温度条件(50℃)で試験を実施する太陽電池セル105bの加熱/冷却盤104bの入口部の熱媒体温度を高くすることができた。
【0068】
ここで調整1として、周囲−経路熱交換量を調整するために、供給経路102bの一部に光吸収効果のある黒色補材109を取り付けた。つまり、供給経路102bの一部の光吸収性を変更し、光吸収性が変更された経路長を調整することで熱交換量を調整した。供給経路102aの2mに亘って黒色補材109を取り付けると、太陽電池セル105bの中心部の温度を目標温度に近い49℃にすることができた。
【0069】
次に、調整2として、すべての太陽電池セルの温度に寄与する循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を45℃から46℃に変更して、太陽電池セル105bの中心部の温度を50℃にした。
【0070】
次に、調整3として、周囲−経路熱交換量を調整するために、供給経路102aの一部を、実施例2と同様に、水槽107の水に浸した。供給経路102aの2mを水槽107の水中に浸すと、加熱/冷却盤104aの入口部の熱媒体温度が2℃下がり、太陽電池セル105aの中心部の温度を45℃にすることができた。
【0071】
なお、他の太陽電池セル、45℃近傍に制御する105cおよび105e、並びに、50℃近傍に制御する105dおよび105fもそれぞれ同様な調整を実施する。ただし、それぞれ若干の温度ずれは生じるので、上記と同じ手順を踏んで、供給経路の配置、黒色補材の取り付けとその長さ、水槽の水中へ浸す長さを微調整して、目標温度に調整する。
【0072】
なお、実施例3では、異なる目標温度の複数の対象物を同時に試験するために、吸熱作用と放熱作用の両方を使用したが、どちらか一方の作用のみで目標温度を達成してもよいことは言うまでもない。
【0073】
このような温度制御系を用いると、ひとつの温度制御装置で異なる目標温度の複数の対象物の温度を制御することができる。その際、対象物の目標温度の差、および、目標温度からのずれは周囲−経路熱交換量で調整することができる。従って、各対象物の温度調整用の個別のヒータや冷却機などを追加することなく、複数の対象物の温度をそれぞれ制御することができる。言い換えれば、複数の対象物の温度調整用に個別の電気エネルギや維持コストを消費することなく、複数の対象物の温度を制御することができる。また、一台の温度制御装置で目的を達し、複数の温度制御装置の購入コスト、維持コスト、設置スペースなども削減することができる。
【0074】
【実施例4】
以下、実施例4の温度制御系を説明する。なお、実施例4において、実施例1−3と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0075】
図4は実施例4の温度制御系を示すブロック図である。
【0076】
実施例4は、実施例3と同様に、複数の光源106を有する大型の光照射試験機により、複数の太陽電池セルの光劣化試験を同時に行う場合の温度制御系を示し、太陽電池セルの光劣化試験での温度依存性を測定するため、目標温度を50℃近傍および45℃近傍の二条件とし、試験結果の精度をあげるため各温度条件のサンプル数をそれぞれ3にする。ただし、供給経路102bには、半透明プラスチックチューブよりも透明度の高いほぼ透明なプラスチックチューブを用い、実施例3のような黒色補材109は用いない。また熱媒体には、純水に着色用固体を溶かした着色水を用いる。
【0077】
図10は上記の構成における、設定状態と各部の温度を示す図である。なお、以下では、45℃近傍に制御する太陽電池セル105aと、45℃近傍に制御する太陽電池セル105bを代表例として説明する。
【0078】
まず、最初の状態として、供給経路102および102aの合計経路長を6m、供給経路102および102bの合計経路長を8m、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を45℃に設定した。なお、実施例3と同様に、光源106から供給される光エネルギの利用を意図して、太陽電池セル105bは循環式恒温水槽101から遠い側に載置して、供給経路102bが光照射領域108の空き領域を通るようにした。さらに、不都合が生じない程度に供給経路102bを極力長くして、加熱/冷却盤105aへ至る供給経路102aを光照射領域108の空き領域に極力長く配置した。
【0079】
その後、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を測定するとそれぞれ46℃、49℃であった。この状態で、加熱/冷却盤104aおよび104bの入口部の熱媒体温度を測定するとそれぞれ43℃、46℃であった。意図したとおり、光源106からの光エネルによって、相対的に高い温度条件(50℃)で試験を実施する太陽電池セル105bの加熱/冷却盤104bの入口部の熱媒体温度を高くすることができた。この状態で既に、周囲−経路熱交換量を調整するために、熱媒体の性質を変更して光吸収性をよくするとともに、供給経路の一部の光透明度を向上して光吸収効果を向上させている。つまり、熱媒体の光吸収性の変更、供給経路の光透明度の変更、および、経路長の変更よって周囲−経路熱交換量を増加させている。
【0080】
次に、調整1として、すべての太陽電池セルの温度に寄与する循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を45℃から46℃に変更して、太陽電池セル105bの中心部の温度を50℃にした。
【0081】
次に、調整2として、周囲−経路熱交換量を調整するために、供給経路102aの一部を、実施例3と同様に、水槽107の水に浸した。供給経路102aの2mを水槽107の水中に浸すと、加熱/冷却盤104aの入口部の熱媒体温度が2℃下がり、太陽電池セル105aの中心部の温度を45℃にすることができた。
【0082】
なお、他の太陽電池セル、45℃近傍に制御する105cおよび105e、並びに、50℃近傍に制御する105dおよび105fもそれぞれ同様な調整を実施する。ただし、それぞれ若干の温度ずれは生じるので、上記と同じ手順を踏んで、供給経路の配置と長さ、水槽の水中へ浸す長さを微調整して、目標温度に調整する。
【0083】
このような温度制御系を用いると、ひとつの温度制御装置で異なる目標温度の複数の対象物の温度を制御することができる。その際、対象物の目標温度の、差および、目標温度からのずれは周囲−経路熱交換量で調整することができる。従って、各対象物の温度調整用の個別のヒータや冷却機などを追加することなく、複数の対象物の温度をそれぞれ制御することができる。言い換えれば、複数の対象物の温度調整用に個別に電気エネルギや維持コストを消費することなく、複数の対象物の温度を制御することができる。また、一台の温度制御装置で目的を達し、複数の温度制御装置の購入コスト、維持コスト、設置スペースなども削減することができる。
【0084】
【実施例5】
以下、実施例5の温度制御系を説明する。なお、実施例5において、実施例1−4と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0085】
図5は実施例5の温度制御系を示すブロック図である。
【0086】
実施例5は、大型の出力測定機により、太陽電池モジュールの出力測定を行う場合の温度制御系を示す。その際、太陽電池モジュールの出力の温度依存性を測定するため、温度制御条件を25℃近傍、45℃近傍、65℃近傍の三条件として温度依存性を測定する。
【0087】
図5において、太陽電池モジュール110は、五つの太陽電池セル105a−105eを直列接続したモジュールである。太陽電池セル105aおよび105eの裏面(非受光面)は、太陽電池モジュール110から出力を取り出すための部材が組み込まれていて、他の太陽電池セル105b−105dの裏面とは若干異なる。
【0088】
循環式恒温水槽101は、下記の調整後、太陽電池モジュール110の代表点において太陽電池モジュール110の温度をモニタし、熱媒体温度を制御する。熱媒体としてはメンテナンス性を考慮し純水を用いる。熱媒体は、供給経路102から102a−102eを通って加熱/冷却盤104a−104eのぞれぞれに供給され、回収経路103a−103eから103を通って循環式恒温水槽101に戻る。供給経路102および102a−102eには半透明プラスチックチューブを用いる。
【0089】
太陽電池セル105a−105eはそれぞれ、加熱/冷却盤104a−104e上にそれぞれ載置され、裏面の各種構成部材を介して加熱/冷却盤に熱的に接触し、ほぼ一定温度に制御される。なお、加熱/冷却盤を複数、太陽電池セルごとに使用するのは、太陽電池モジュール全体を保持する単体の大型加熱/冷却盤を製作するのが困難なこと、大型の加熱/冷却盤は太陽電池モジュール取付面の温度むら発生が予想されること、さらに、太陽電池モジュールの裏面の構成が一様ではないことに起因する温度むらの発生が予想されることなどが理由である。
【0090】
図11は上記の構成における、設定状態と各部の温度を示す図である。なお、前述した各実施例と同様に、以下では手順をわかり易く説明するために、順を追って説明するが、温度制御系全体の情報が蓄積され、熱に寄与する項目の分布状態や、変更項目および変更量と熱交換量や温度の変化量との関係などの把握が進めば、より少ない手順で目標温度に到達することができる。また、以下では、裏面の構成が若干異なる太陽電池セル105aおよび105bを代表例として説明する。
【0091】
まず、最初の状態として、供給経路102および102aの経路長、並びに、供給経路102および102bの経路長を3mにし、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を順次25℃、45℃および65℃に設定した。熱媒体温度が各設定温度に達した後、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を測定するとそれぞれ図11に示すとおりで、目標温度25℃以外では温度差が生じた。各状態で、加熱/冷却盤104aおよび104bの入口部の熱媒体温度を測定すると同温だった。
【0092】
結果を詳細に観ると、どの温度条件でも加熱/冷却盤104aおよび104bの入口部の熱媒体温度は同温で、かつ、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度とのずれはリニアに変化している。また、試験室温度と異なる熱媒体温度、つまり25℃以外では、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度に差があり、かつ、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度とのずれもリニアに変化している。このような挙動は、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度差は、太陽電池セルの裏面の構成の差に起因し、その結果、加熱/冷却盤と太陽電池セルとの熱交換量に差が生じて、温度平衡後も温度差が生じていると考えられる。
【0093】
ここで調整1として、周囲−経路熱交換量を調整するために、供給経路102および102bの合計経路長を6mにした。その結果、加熱/冷却盤104bの入口部の熱媒体温度が25℃以外で下がり、どの熱媒体温度でも太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を揃えることができた。これは、前記二つのリニアリティがとれているため、どの熱媒体温度でも、調整1の前に生じていた太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度差を相殺することができたことになる。
【0094】
調整1により、各太陽電池セルの中心部の温度を揃えることができたので、中心部の温度と循環式恒温水槽101内の熱媒体温度とのずれを考慮して、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を制御することで、太陽電池モジュール110の全太陽電池セルを目標温度に制御することができる。なお、操作性を考慮して、太陽電池モジュール110の代表点温度をモニタして循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を制御することにして、温度のずれをとくに意識せずに、太陽電池モジュール110の全太陽電池セルを目標温度に制御するように設定した。
【0095】
このような温度制御系を用いると、温度制御条件が複数ある場合も、ひとつの温度制御装置で対象物の複数の部分の温度を制御することができる。つまり、実施例5では、大型の太陽電池モジュールの複数の部分を複数の加熱/冷却盤を介してひとつの温度制御装置で制御可能であることを示した。その際、各部分の目標温度からのずれは周囲−経路熱交換量で調整することができる。従って、各部分の温度調整用の個別のヒータや冷却機などを追加することなく、複数の部分の温度を制御することができる。言い換えれば、各部分の温度調整用に個別の電気エネルギや維持コストを消費することなく、複数の部分の温度を制御することができる。また、一台の温度制御装置で目的を達し、複数の温度制御装置の購入コスト、維持コスト、設置スペースなども削減することができる。
【0096】
図12は、図5に示す温度制御系において、周囲環境の温度条件を15℃近傍、25℃近傍、35℃近傍の三条件とした場合の調整1後の各部の温度を示す図である。つまり、太陽電池モジュール110の出力を測定する際に、周囲環境の温度変化にも対応できることを示している。
【0097】
通常、室内環境は一定温度に空調するが、異なる周囲環境の温度条件でも複数の部分の温度を精度よく制御することができれば、空調への要求性能を軽減することができ、あるいは、空調設備のない試験室や屋外での測定も可能になる。
【0098】
図12に示す結果を詳細に観ると、図11に示す結果と同様に、試験室温度と目標温度に差がある場合は、各太陽電池セルの中心部の温度と加熱/冷却盤の入口部の熱媒体温度とのずれに差が発生する。この差を相殺するように、各加熱/冷却盤の入口部の熱媒体温度と循環式恒温水槽101内の熱媒体温度とのずれを発生させることで、結果的に、各太陽電池セルの中心部の温度を揃えることができる。従って、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度とのずれを考慮して、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を制御すれば、太陽電池モジュール110の全太陽電池セルを目標温度に制御することができる。勿論、操作性をよくするため、太陽電池モジュール110の代表点温度をモニタして循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を制御することにして、温度のずれをとくに意識せずに、太陽電池モジュール110の全太陽電池セルを目標温度に制御するように設定した。
【0099】
このように、図5に示す温度制御系を用いれば、時間とともに周囲環境の温度が変化するような場合でも、ひとつの温度制御装置で複数の部分の温度を制御することができる。
【0100】
【実施例6】
以下、実施例6の温度制御系を説明する。なお、実施例6において、実施例1−5と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0101】
図6は実施例6の温度制御系を示すブロック図である。
【0102】
図6には、複数の光源106(図6では四つ)を有する大型の光照射試験機により、三つの太陽電池セル105a−105cの光劣化試験を同時に行う場合の温度制御系を示す。太陽電池セルの光劣化試験は、約1000W/mという強い光を連続的に照射し続ける条件下で数百時間行われる。この例では、太陽電池セルの光劣化試験での光量の影響を測定するため、光量は約1000W/mおよび約500W/mの二条件を交互に繰り返すことにし、太陽電池セル105a−105cを45℃近傍に制御する。
【0103】
図6において、光源106から供給される光は、太陽電池セル105a−105cに連続的に照射される。循環式恒温水槽101は、下記の調整後、三つの太陽電池セルの代表として太陽電池セル105aの中心部の温度をモニタし、熱媒体をほぼ一定温度に制御する。熱媒体は、メンテナンス性を考慮して純水を用いる。熱媒体は、供給経路102から102a−102cを通って加熱/冷却盤104a−104cそれぞれに供給され、回収経路103a−103cから103を通って循環式恒温水槽101に戻る。供給経路102、102a−102cには半透明プラスチックチューブを用いる。太陽電池セル105a−105cはそれぞれ、加熱/冷却盤104a−104c上に熱的に接触するように載置され、ほぼ一定温度に制御される。また、加熱/冷却盤104a−104cと熱媒体との熱交換量を調整するために、流量調整用のコック111a−111cを用意する。
【0104】
図13は上記の構成における、設定状態と各部の温度を示す図である。なお、以下では手順をわかり易く説明するために、順を追って説明するが、温度制御系全体の情報が蓄積され、熱に寄与する項目の分布状態や、変更項目および変更量と熱交換量や温度の変化量との関係などの把握が進めば、より少ない手順で目標温度に到達することができる。また、以下では、中心部の温度が一番低かった太陽電池セル105aと、一番高かった太陽電池セル105bを代表例として説明する。太陽電池セルの中心部の温度が異なるのは、何らかのばらつき要因、例えば加熱/冷却盤の製作精度などに要因があると考えられる。
【0105】
まず、最初の状態として、供給経路102および102aの合計経路長、並びに、供給経路102および102bの合計経路長を3m、コック111aおよび111bを全開、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を45℃、光量を順次1000W/m、500W/mの二条件に設定した。その後、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を測定するとそれぞれ図13に示すとおりで、温度差があった。この状態で、加熱/冷却盤104aおよび104bの入口部の熱媒体温度を測定すると同温だった。
【0106】
結果を詳細に観ると、二つの光量条件で加熱/冷却盤104aおよび104bの入口部の熱媒体温度は同温で、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度差があり、かつ、光量を変更すると温度差はリニアに変化している。このような挙動は、太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度差は、熱媒体と太陽電池セルの間の熱交換量(以下「媒体−セル熱交換量」と呼ぶ)の差に起因し、その結果、光量、つまり光エネルギ吸収量が異なると熱交換量にも差が生じ、温度平衡後も温度差が生じていると考えられる。
【0107】
ここで、二つの光量条件下で生じる温度差の平均値1.5℃を調整目標値として、例えば実施例1と同様の方法で熱交換量を調整し、その結果、二つの光量条件下で生じる温度差0.5℃が許容される値であれば、実施例1と同様の方法を用いてもよいが、本実施例では別の調整方法を示す。
【0108】
ここで調整1として、媒体−セル熱交換量を調整するために、コック111aの開口度を変更して半開とした。その結果、太陽電池セル105aの媒体−セル熱交換量が減り、二つの光量条件における太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度差を同じ1℃にすることができた。従って、調整2として、周囲−経路熱交換量を調整するために、供給経路102および102bの経路長を変更して6mとした。その結果、加熱/冷却盤104bの入口部の熱媒体温度が1℃下がり、各光量条件における太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を揃えることができた。
【0109】
続いて、調整3として、全太陽電池セルに寄与する循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を変更すれば、各光量条件における太陽電池セル105aおよび105bの中心部の温度を45℃に制御することができるが、操作性よくするために、全太陽電池セルの代表点として太陽電池セル105aの中心部の温度をモニタして、循環式恒温水槽101内の熱媒体温度を制御することにして、温度のずれをとくに意識せずに、全太陽電池セルを目標温度に制御するように設定した。
【0110】
このような温度制御系を用いると、時間とともに、温度制御系を使用する環境条件が変化しても、ひとつの温度制御装置で複数の対象物の温度を制御することができる。その際、対象物の目標温度からのずれは周囲−経路熱交換量および媒体−対象物熱交換量で調整することができるため、各対象物の温度微調整用の個別のヒータや冷却機などを追加することなく、複数の対象物の温度を制御することができる。言い換えれば、各対象物の温度調整用に個別の電気エネルギや維持コストを消費することなく、複数の対象物の温度を制御することができる。また、一台の温度制御装置で目的を達し、複数の温度制御装置の購入コスト、維持コスト、設置スペースなども削減することができる。
【0111】
以上説明した実施形態によれば、温度制御された熱媒体を供給し、熱媒体と熱交換させることで対象物の温度を制御する温度制御系において、ひとつの温度制御装置から複数の対象物へ熱媒体を供給し、各対象物へ熱媒体を供給する各供給経路の少なくとも一部に周囲環境との熱量交換を行わせ、供給経路の熱交換量を個別に調整することで各対象物の温度を制御することができる。
【0112】
その結果、ひとつの温度制御装置によって、複数の対象物の温度を精度よく制御することができる。勿論、ひとつの温度制御装置によって複数の対象物の温度を制御するので大幅なコストダウンが実現できる。また、ひとつの温度制御装置によって複数の対象物の温度を制御する際に生じる温度のばらつきを、周囲環境に存在する熱量を有効活用して調整するので、エネルギやコストの追加が不要である。
【0113】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、複数の対象物の温度をそれぞれ精度よく制御することができる。従って、例えば、大光量の擬似太陽光を大面積で照射する必要がある試験などにおいて、温度制御された熱媒体を供給し、熱媒体との熱交換により、複数の被照射物(対象物)の温度をそれぞれ精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の温度制御系を示す図、
【図2】実施例2の温度制御系を示す図、
【図3】実施例3の温度制御系を示す図、
【図4】実施例4の温度制御系を示す図、
【図5】実施例5の温度制御系を示す図、
【図6】実施例6の温度制御系を示す図、
【図7】実施例1における設定状態と各部の温度を示す図、
【図8】実施例2における設定状態と各部の温度を示す図、
【図9】実施例3における設定状態と各部の温度を示す図、
【図10】実施例4における設定状態と各部の温度を示す図、
【図11】実施例5における設定状態と各部の温度を示す図、
【図12】実施例5において周囲温度を変化させた場合の各部の温度を示す図、
【図13】実施例6における設定状態と各部の温度を示す図である。

Claims (15)

  1. 温度制御された熱媒体を供給して、前記熱媒体との熱交換により複数の対象物の温度を制御する温度制御方法であって、
    前記熱媒体の温度を制御し、
    前記複数の対象物それぞれへ前記熱媒体を供給する供給経路の少なくとも一部において、前記供給経路と周囲環境の間の熱交換量を調整する第一の調整を行うことを特徴とする温度制御方法。
  2. さらに、前記対象物の少なくとも一つと前記熱媒体の間の熱交換量を調整する第二の調整を行うことを特徴とする請求項1に記載された温度制御方法。
  3. 前記対象物のうち、少なくとも二つの対象物の目標温度が異なり、前記第一の調整は、少なくとも、前記二つの対象物の目標温度差の半分以上の温度変化を生じさせる熱交換量の調整範囲を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された温度制御方法。
  4. 前記対象物のうち、少なくとも二つの対象物の目標温度が同一であり、前記第一の調整は、前記供給経路と前記周囲環境との間の熱交換がない場合に生じる、前記二つの対象物の温度差の半分以上の温度変化を生じさせる熱交換量の調整範囲を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された温度制御方法。
  5. 前記第一の調整は、前記供給経路に用いる部材の断熱性、吸熱性、熱容量、吸光性および光透過性、前記供給経路の長さおよび形状、並びに、前記熱媒体の吸光性の少なくとも一つによって、前記供給経路と前記周囲環境の間の熱交換量を調整することを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載された温度制御方法。
  6. 前記第二の調整は、前記対象物と前記熱媒体の間に配置する部材の断熱性および熱容量、前記対象物と前記熱媒体の接触部の長さおよび形状、並びに、前記熱媒体の流量および熱容量の少なくとも一つによって、前記対象物と前記熱媒体の間の熱交換量を調整することを特徴とする請求項2から請求項5の何れかに記載された温度制御方法。
  7. 前記周囲環境は、温度分布、熱容量分布および光量分布の少なくとも一つが空間的に不均一であることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載された温度制御方法。
  8. 前記周囲環境の少なくとも一部に熱源もしくは光源を有する機械装置が含まれることを特徴とする請求項7に記載された温度制御方法。
  9. 前記周囲環境の少なくとも一部に太陽電池用の光照射試験機が含まれることを特徴とする請求項7に記載された温度制御方法。
  10. 前記第一の調整は、前記供給経路の配置によって、前記供給経路と前記周囲環境の間の熱交換を調整することを特徴とする請求項7から請求項9の何れかに記載された温度制御方法。
  11. 前記熱媒体の制御温度の変更または前記周囲環境の変更もしくは変化が生じた結果、前記複数の対象物のうち、少なくとも二つの対象物に生じる温度変化量の差分を許容範囲内に調整することを特徴とする請求項2から請求項10の何れかに記載された温度制御方法。
  12. 前記熱媒体の制御温度の変更または前記周囲環境の温度の変更もしくは変化が生じた結果、前記複数の対象物のうち、少なくとも二つの対象物に生じる温度変化量の差分を、前記第一の調整によって、前記供給経路と前記周囲環境の間の熱交換量の変化量が、前記熱媒体の制御温度と前記周囲環境の温度との差分の変化量にほぼ比例するように調整することで、許容範囲内に調整することを特徴とする請求項11に記載された温度制御方法。
  13. 前記周囲環境の光量の変更または変化の結果、前記複数の対象物のうち、少なくとも二つの対象物に生じる温度変化量の差分を、前記第一の調整によって前記供給経路と前記周囲環境の間の熱交換量の変化量、あるいは、前記第二の調整によって前記対象物と前記熱媒体の間の熱交換量の変化量が、前記周囲環境の光量の変化量にほぼ比例するように調整することで、許容範囲内に調整することを特徴とする請求項11に記載の温度制御方法。
  14. 温度制御された熱媒体を供給して、前記熱媒体との熱交換により複数の対象物の温度を制御する温度制御装置であって、
    前記熱媒体の温度を制御する制御手段と、
    前記制御手段から前記複数の対象物それぞれへ前記熱媒体を供給する供給経路と、
    前記供給経路の少なくとも一部に設けられ、前記供給経路と周囲環境の間の熱交換量を調整する第一の調整手段とを有することを特徴とする温度制御装置。
  15. さらに、前記対象物の少なくとも一つと前記熱媒体の間の熱交換量を調整する第二の調整手段を有することを特徴とする請求項14に記載された温度制御装置。
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