JP2005013606A - 塗装ゴルフボール - Google Patents
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Abstract
【課題】密着性、耐久性、および、耐候性に優れる塗膜を有する塗装ゴルフボールを提供する。
【解決手段】ゴルフボール表面に塗膜が設けられているゴルフボールであって、前記塗膜は、樹脂成分100質量部に対して、0.05〜10質量部の酸化セリウムを含有することを特徴とする。
【選択図】 図1
【解決手段】ゴルフボール表面に塗膜が設けられているゴルフボールであって、前記塗膜は、樹脂成分100質量部に対して、0.05〜10質量部の酸化セリウムを含有することを特徴とする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴルフボール表面に塗膜が設けられている塗装ゴルフボールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ゴルフボールの表面には、光沢を付与して外観を向上したり、マークやゴルフボール本体を保護するために塗膜が設けられている。前記塗膜には、打撃時の衝撃によっても剥離しない密着性や、紫外線(太陽光)や雨などに対しても変色や劣化をしない耐候性などが要求されている。特に、紫外線は、塗膜の樹脂成分を劣化させて、塗膜を剥離させる原因になるばかりでなく、さらには、ゴルフボール本体の樹脂成分も分解して、ゴルフボールの性能の低下させる場合がある。また、例えば、練習場で使用されるゴルフボールは、繰返し打撃され繰返し洗浄されて使用されることから、耐候性や密着性についての耐久性も必要とされる。
【0003】
このような課題を解決すべく、例えば、特許文献1には、耐候性の塗膜を有するゴルフボールとして、酸化防止剤および/または光安定剤を含有するクリアー塗膜を有するゴルフボールが開示され、特許文献2には、蛍光増白剤および紫外線吸収剤を含有するクリアー塗膜を有するゴルフボールが開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特許第3292694号
【特許文献2】
特開2001−17576号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来のゴルフボールの塗膜には、有機系の酸化防止剤や紫外線吸収剤が使用されているのが一般的であるが、これらの有機系安定剤は、加水分解したり、或いは、紫外線によって発生したラジカルなどの攻撃を受けてそれ自体が分解し、酸化防止機能や紫外線吸収機能を長期に亘って持続できないという問題がある。これらの安定剤が機能しなくなると上述したように、塗膜を構成する基材樹脂が紫外線で分解されて、さらには、ゴルフボール本体の樹脂成分も劣化して、ゴルフボールの飛行性能が低下する場合もある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐候性及び密着性に優れると同時に、これらの特性を持続する耐久性のある塗膜を有するゴルフボールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明のゴルフボールは、ゴルフボール表面に塗膜が設けられている塗装ゴルフボールであって、前記塗膜は、塗膜の樹脂成分100質量部に対して、0.05〜10質量部の酸化セリウムを含有することを特徴とする。酸化セリウムは、紫外線を吸収し、これを熱エネルギーとして放出することによって紫外線吸収剤として作用し、ゴルフボール本体や塗膜が紫外線で劣化されるのを防止できる。また、理由は明らかではないが、塗膜に酸化セリウムを含有させることによって、ゴルフボールに対する塗膜の密着性も向上する。さらに、酸化セリウムは無機成分からなるので、有機系安定剤のような物質変化がほとんどなく、これを塗膜中に配合させておけば、塗膜の耐候性や密着性を長期間(半永久的)持続させることができる。
【0008】
本発明のゴルフボールの塗膜は、酸化セリウムからなる微粒子を非晶質シリカで被覆した粒子の形態で、酸化セリウムを含有することが好ましい。酸化セリウムは、酸化触媒活性を有する場合があり、非晶質シリカで被覆されていれば、この酸化触媒活性を低下させることができる。本発明のゴルフボールの塗膜の樹脂成分としては、例えば、ウレタン樹脂が好適である。また、前記塗膜は、単層構造であることが好ましい。本発明のゴルフボールの塗膜は、単層構造であっても密着性が良好であり、単層構造とすることによって、塗膜形成工程を簡素化することができる。
【0009】
本発明のゴルフボールがカバーを有するゴルフボールの場合には、カバーを構成する材料(以下、単に『カバー材料』という場合がある)として好ましいのは、アイオノマー樹脂、又は、ウレタン樹脂である。本発明のゴルフボールの塗膜は、アイオノマー樹脂カバー又はウレタン樹脂カバーに対しても優れた密着性を示す。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール表面に塗膜が設けられている塗装ゴルフボールであって、前記塗膜が、樹脂成分と酸化セリウムとを含有し、前記樹脂成分100質量部に対して、0.05〜10質量部の酸化セリウムを含有することを特徴とする。
【0011】
まず、前記酸化セリウムについて説明する。酸化セリウム(CeO2)は、その電子の働きにより、紫外線を吸収して熱エネルギーに変換して放出し、無機系の紫外線吸収剤として作用することができる。この際、酸化セリウム自体は物質変化を起こさないので、塗膜中に配合しておくことにより、紫外線吸収作用を恒久的に持続することができる。酸化セリウムの紫外線吸収機構は、次のように考えられている(日本電工株式会社、「セリガード」カタログ)。酸化セリウムが紫外線を吸収すると、価電子帯に存在する電子が励起されて、正孔(h+)と電子(e−)とを有する状態に変化する(式1)。このようにして生成した正孔(h+)と電子(e−)は、酸化セリウム内を移動することができ、電子は、酸化セリウム表面に存在する他の分子、例えば、水分子を還元し、正孔は他の分子(例えば、水分子)を酸化することができる(式2)。これらの酸化・還元反応と同時に電子と正孔との再結合も起こり、熱或いは光エネルギーが放出される(式3及び4)。その結果、最初に吸収された紫外線エネルギーの一部が、熱エネルギーに変換されるとともに酸化・還元反応などに消費されるので、塗膜やゴルフボール本体の樹脂成分が紫外線に直接曝されて分解されるのを抑制できる。
【0012】
【化1】
【0013】
本発明のゴルフボールに設けられている塗膜は、上述した酸化セリウムを、塗膜の樹脂成分100質量部に対して、0.05質量部以上、好ましくは0.06質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上であって、10質量部以下、好ましくは9質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下含有する。酸化セリウムの含有量が0.05質量部未満であると、耐候性および密着性の向上効果が十分とは言えない。また、酸化セリウムの含有量が10質量部を超えると、塗膜の密着性が低下する傾向があるからである。
【0014】
本発明のゴルフボールに設けられている塗膜が酸化セリウムを含有する態様は、特に限定されないが、例えば、酸化セリウム単体からなる微粒子の形態で含有する態様;図1に示すように酸化セリウムからなる微粒子1(微粒子の集合体・凝集体を含む)を非晶質シリカ2で被覆した粒子の形態で含有する態様;酸化セリウムからなる微粒子(微粒子の集合体・凝集体を含む)を窒化ホウ素で被覆した粒子の形態で含有する態様;及び、図2に示すようにシリカ、タルクなどのベース顔料3を核材とし、前記核材を被覆する酸化セリウム微粒子1からなる中間層と、前記中間層を被覆する非晶質シリカ2からなる最外層とを有する粒子の形態で含有する態様などを挙げることができ、これらの中でも、前記塗膜が、酸化セリウムからなる微粒子が非晶質シリカで被覆された粒子の形態で酸化セリウムを含有する態様が好ましい。酸化セリウムは、酸化触媒活性を有する場合があり、非晶質シリカで被覆されていれば、この酸化触媒活性を低下させることができるからである。
【0015】
前記酸化セリウムからなる微粒子が非晶質シリカで被覆された粒子としては、例えば、日本電工株式会社製のセリガードSC−4060(酸化セリウム含有量38.5%)、S−3018−02(酸化セリウム含有量23.0%)、SC−6832(酸化セリウム含有量65.5%)、T−3018−02(酸化セリウム含有量56.5%)などを挙げることができる。
【0016】
また、酸化セリウムからなる微粒子が非晶質シリカで被覆された無機系粒子の表面をシランカップリング剤で表面処理しておくことも好ましい態様である。シランカップリング剤で表面処理しておくことにより、塗膜の樹脂成分と無機系粒子との界面密着性が高まって、塗膜が無機成分によって補強され、塗膜の強度を一層高めることができるからである。
【0017】
前記シランカップリング剤として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニルシラン;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノシラン;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのエポキシシラン;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどのメタクリロキシシラン;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)などのメルカプトシランなどを挙げることができる。
【0018】
前記シランカップリング剤は、後述する塗膜の樹脂成分に応じて、適宜選択して使用することができ、例えば、塗膜の樹脂成分がウレタン樹脂の場合には、アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランなどが好適であり、塗膜の樹脂成分がアクリル樹脂の場合には、ビニルシラン、メタクリロキシシランなどが好適である。
【0019】
次に本発明のゴルフボールに設けられている塗膜が含有する樹脂成分について説明する。前記樹脂成分は、ゴルフボールの塗膜成分として使用される樹脂であれば、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂などを使用することができ、後述する2液硬化型ウレタン樹脂を使用することが好ましい。2液硬化型ウレタン樹脂を樹脂成分として使用すれば、耐磨耗性に優れる塗膜が得られるからである。
【0020】
前記2液硬化型ウレタン樹脂は、主剤と硬化剤とを反応し硬化させてなるウレタン樹脂であり、例えば、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを含有する主剤を、活性水素を有する硬化剤で硬化させたものや、ポリオール成分を含有する主剤をポリイソシアネート又はその誘導体で硬化させたもの等が挙げられる。
【0021】
本発明では、ポリオール成分を含有する主剤をポリイソシアネートまたはその誘導体などの硬化剤で硬化させる2液硬化型ウレタン樹脂を塗膜の樹脂成分とすることが特に好ましい態様である。
【0022】
ポリオール成分を含有する主剤としては、例えば、以下に示すような特定のウレタンポリオールを使用することが好ましい。ウレタンポリオールは、ウレタン結合と、少なくとも2以上のヒドロキシル基を(好ましくは末端に)有するポリオールであれば特に限定されず、例えば、ポリオール成分のヒドロキシル基がポリイソシアネートのイソシアネート基に対してモル比で過剰になるような割合で、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。
【0023】
前記ウレタンポリオールを構成するポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)等の芳香族ポリイソシアネート;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環式ポリイソシアネート又は脂肪族ポリイソシアネート等のうちの1種または2種以上の混合物を使用できる。これらのうち、耐候性の観点から、非黄変性のポリイソシアネート(TMXDI、XDI、HDI、H6XDI、IPDI、H12MDIなど)が好ましく使用される。尚、上記ポリイソシアネートは、ウレタンポリオールを硬化させるための硬化剤としても使用することができる。
【0024】
ウレタンポリオールの製造に使用されるポリオールとしては、ヒドロキシル基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、低分子量のポリオールや高分子量のポリオールなどを使用することができる。低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。高分子量のポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジぺート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;及びアクリルポリオールなどが挙げられる。以上のようなポリオールのうち、重量平均分子量50〜2,000を有するもの、特に100〜1,000程度のポリオールが好ましく用いられる。尚、これらのポリオールは、1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
前記ウレタンポリオールは、ウレタンポリオール中のウレタン結合の比率が、ウレタンポリオール1g中0.1〜5mmolであることが好ましい。ウレタン結合の比率は、形成される塗膜の剛性と関係があり、0.1mmol/g未満では、形成される塗膜中のウレタン結合濃度が低いため、耐擦過傷性が不足気味になるからである。一方、5mmol/gを上回ると、塗膜が硬くなりすぎる傾向がある。
【0026】
前記ウレタンポリオールの重量平均分子量は、4,000以上、好ましくは4,500以上で、10,000未満、好ましくは9,000以下であることが望ましい。4,000未満では乾燥に時間がかかって作業性、生産性が低下する傾向がある。一方、10,000以上の高分子量のウレタンポリオールでは、相対的にウレタンポリオールの水酸基価が小さくなり、塗布後の反応量が少なくなって下地との密着性が低下する傾向がある。また、重量平均分子量が9,000以下であれば、水に濡れるような状態にあっても密着性の低下が少ない緻密な塗膜を形成できるからである。
【0027】
また、前記ウレタンポリオールの水酸基価(mgKOH/g)は、15以上、より好ましくは73以上で、130以下、より好ましくは120以下であることが望ましい。15(mgKOH/g)未満では、硬化剤との反応量が不足するため、ボール本体との密着性が低下する傾向があるからである。一方、130(mgKOH/g)を上回ると、硬化剤との反応に時間がかかり、乾燥時間が長くなって生産性が低下するからである。
【0028】
上述したウレタンポリオールは、例えば、上述したポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるが、反応に際しては、溶剤やウレタン化反応に公知の触媒(ジブチル錫ジラウリレートなど)を使用することができる。尚、ウレタン結合の比率は、原料となるポリオールの分子量、ポリオールとポリイソシアネートとの配合比率などを調整することにより行うことができる。
【0029】
前記ポリオール成分を含有する主剤は、上記特定のウレタンポリオールのみを含有する態様、すなわち、前記ポリオール成分を含有する主剤として、実質的に上記特定のウレタンポリオールのみを使用することが好ましいが、前記ウレタンポリオール以外にもウレタンポリオールと相溶可能でウレタン結合を有しないポリオールを含有していても良い。この場合のウレタン結合を有しないポリオールは、特に限定されず、上述したウレタンポリオール合成用の原料ポリオールを使用することができる。また、主剤中にウレタン結合を有しないポリオールが含まれる場合には、主剤中のウレタンポリオールの含有量が50質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上となるようにすることが好ましい。主剤中のウレタンポリオールの含有率が50質量%未満では、相対的にウレタンポリオールの含有率が少なくなるため、乾燥時間が長くなるからである。
【0030】
本発明のゴルフボールに設けられている塗膜には、上述した樹脂成分と酸化セリウムのほかに、更に、有機系紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、ブロッキング防止剤、顔料などの一般のゴルフボールの塗膜に含有され得る添加剤が含まれていてもよい。また、前記塗膜が、実質的に顔料を含まないクリアー塗膜であることも好ましい態様である。
【0031】
前記塗膜は、上述した樹脂成分と酸化セリウム、さらに必要に応じて、溶剤および上記添加剤などを含有する塗料組成物をゴルフボール本体表面に塗布して乾燥することにより、ゴルフボール表面に設けることができる。前記塗膜は、例えば、単層構造または多層構造であってもよいが、好ましくは単層構造である。本発明の塗膜は、ゴルフボール本体表面への密着性および耐久性に優れるので、単層構造でも十分な塗膜性能を発揮できるからである。
【0032】
また、塗膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、5〜20μmであることが好ましい。5μm未満であると、塗膜の性能を十分に発揮することができず、20μm超であると、ディンプルの大きさが変化して、飛行性能が低下する虞があるからである。
【0033】
本発明のゴルフボールの構造は、特に限定されず、例えば、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、スリーピースゴルフボール以上のマルチピースゴルフボール、或いは、糸巻きゴルフボールであってもよい。特に、ツーピースゴルフボール、マルチピースゴルフボール、糸巻きゴルフボールの如くカバーを有するゴルフボールの場合、前記カバー材料としては、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂若しくは2液硬化型ウレタン樹脂等のウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂、或いは、これらの樹脂の2種以上を混合物を挙げることができる。特に、カバー材料として、熱可塑性ウレタン樹脂若しくは2液硬化型ウレタン樹脂などのウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、又は、ウレタン樹脂とアイオノマー樹脂との混合物を、50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有するものを使用することも好ましい態様である。ウレタン樹脂やアイオノマー樹脂の含有率を高めることによって、カバーの耐久性や打球感を向上させることができ、酸化セリウムを含有する塗膜は、これらのカバーに対しても優れた密着性および耐久性を示す。
【0034】
カバーを構成するアイオノマー樹脂としては、従来よりゴルフボール用のカバー材料として使用されているアイオノマー樹脂、すなわち、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも1部を金属イオンで中和したもの、または、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの等を挙げることができる。
【0035】
前記中和用の金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等の1価金属イオン;亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、銅イオン、マンガンイオンなどの2価金属イオン;アルミニウムイオン、ネオジムイオンなどの3価金属イオンなどが挙げられるが、特に亜鉛イオンが金属イオンの凝集体の結合力が大きく、架橋ジエン系ゴム粒子の分散に基づく機械的強度の低下が小さいことから好ましい。
【0036】
前記アイオノマー樹脂の具体例としては、三井デュポンポリケミカル株式会社製のハイミラン1605(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1707(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1706(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミランAM7315(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミランAM7317(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1555(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1557(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、エクソンケミカル株式会社製のアイオテック8000(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、アイオテック7010(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、デュポン社製のサーリン7930(リチウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、サーリン9945(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、サーリン8945(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)などが挙げられる。
【0037】
前記カバーを構成するウレタン樹脂としては、例えば、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを芳香族ポリアミンで硬化させる2液硬化型ウレタン樹脂、或いは、熱可塑性ウレタン樹脂などを挙げることができる。前記ウレタン樹脂のポリイソシアネート成分およびポリオール成分は、特に限定されず、塗膜用のウレタン樹脂成分として上述したポリイソシアネートおよびポリオールと同一のものを使用できるが、例えば、イソシアネート成分としてTDIを、ポリオール成分としてPTMGを使用するウレタン樹脂が好適である。また、前記芳香族ポリアミンとしては、例えば、少なくとも2以上のアミノ基が芳香環に直接又は間接的に結合している化合物であれば、特に限定されず、例えば、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミンなどのアミノ基が芳香環に直接結合しているタイプ;ジメチルチオトルエンジアミンのようなアミノ基がスルフィド結合を介して芳香環に結合しているタイプ;キシリレンジアミンのようなアミノ基が低級アルキレン基を介して芳香環に結合しているタイプ;又は、4,4’−ジアミノジフェニルメタン及びその誘導体などが挙げられる。
【0038】
また、ゴム組成物を加硫成形してなるワンピースゴルフボールも本発明の好ましい態様の一つであり、酸化セリウムを含有する塗膜は、ワンピースゴルフボール本体に対しても優れた密着性および耐久性を示す。前記ゴム組成物としては、例えば、基材ゴムとしてのジエン系ゴム、共架橋剤、及び架橋開始剤を含むゴム組成物を挙げることができる。前記ジエン系ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤は、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸又はその金属塩、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸の金属塩が用いられ、前記金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛が用いられる。
【0039】
前記共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部あたり20〜50質量部が好ましい。また、架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。有機過酸化物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して0.2〜1.5質量部が好ましく、より好ましくは0.3〜1.0質量部である。前記ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、160℃で30分間加熱することが好ましい。
【0040】
上述したカバー材料やゴム組成物には、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウム等の比重調整剤、老化防止剤、酸化チタンなどの顔料、色粉等を適宜配合することができる。
【0041】
次に、本発明のゴルフボールを製造する方法について、ツーピースゴルフボールの態様を例にとって説明するが、本発明は、かかる製造方法に限定されるものではない。ツーピースゴルフボールのコアとしては、従来より公知のコアを使用することができ、例えば、基材ゴムとしてのジエン系ゴム、共架橋剤、及び架橋開始剤を含むコア用ゴム組成物を加熱プレスして成形したものであることが好ましい。前記コア用ゴム組成物としては、例えば、上述したワンピースゴルフボール用のゴム組成物と同一のものを使用することができ、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウム等の比重調整剤、老化防止剤、色粉等を適宜配合することができる。前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130〜200℃で10〜60分間加熱することが好ましい。また、130〜150℃で20〜40分間加熱した後、160〜180℃で5〜15分間加熱する2段階加熱を採用してもよい。
【0042】
上記のようにして得られたコアをカバー材料を含有するカバー用組成物で被覆して、ゴルフボール本体を作製する。カバー材料として熱硬化性ポリウレタンを使用する場合には、例えば、得られたコアを半球状の金型に保持させた状態で、この金型内にカバー用組成物を注入し、次にこれを反転させて、カバー用組成物を注入した別の半球状の金型と合わせて硬化反応を行なって、カバーを成形すればよい。前記熱硬化性ポリウレタンを含有するカバー用組成物の硬化反応は、30℃〜120℃、好ましくは50℃〜80℃で、2〜60分間、好ましくは5〜30分間行うことが望ましい。
【0043】
また、カバー材料として、熱可塑性ポリウレタン、アイオノマー樹脂、熱可塑性エラストマーなどを使用する場合には、例えば、まずカバー用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに形成し、これを2枚用いてコアを包み、130〜170℃で1〜5分間加圧成形する方法;コアを被覆するようにカバー用組成物を射出成形する方法などが適用される。コアをカバー材料で被覆してゴルフボール本体を作製する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。さらに、ゴルフボール本体表面は、塗膜との密着性を一層向上させるために、サンドブラスト処理のような研磨処理がなされてもよい。
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
[評価方法]
▲1▼耐候性
JIS−D0205に準じて、スガ試験機株式会社製サンシャインスーパーロングライフウェザオメーター(WEL−SUN−HC/B型)を用いて槽内温度63℃、湿度50%、60分中12分間降雨条件下で120時間照射して、耐候試験を行った。照射前後のゴルフボールの同一箇所の色調(L値、a値、b値)を色差計(ミノルタ製CR−221)を用いて測定し、得られたL値、a値、b値のそれぞれについての照射前後の差(ΔL、Δa、Δb)を求め、下記式によりΔEを算出した。ΔEは、変色度合を示すものでり、ΔEの値が大きいほど変色度合が大きいことを示している。また、変色度合が大きいことは、塗膜の樹脂成分の劣化度合が大きいことを示唆する。
ΔE=[(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2]1/2
【0045】
▲2▼打撃に対する耐久密着性
ツルーテンパー社製スイングロボットに、5番アイアンを装着させ、ヘッドスピード34m/秒で150回繰返し打撃した後、塗膜、マークの剥離状態を観察し、以下の評価基準により密着性を評価した。
塗膜についての評価基準
◎:塗膜の剥離なし。
○:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の5%以下である。
△:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の5%超20%以下である。
×:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の20%超である。
マークについての評価基準
◎:マークの剥離なし。
○:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の5%以下である
△:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の5%超20%以下である。
×:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の20%超である。
【0046】
▲3▼ブラッシング洗浄に対する耐久密着性
内表面をブラシで覆ったポテトピラー内にゴルフボールを入れ、1時間ブラッシング洗浄を行い、塗膜およびマークの剥離状態を観察し、下記の評価基準により、密着性を評価した。
塗膜についての評価基準
◎:塗膜の剥離なし。
○:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の5%以下である。
△:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の5%超20%以下である。
×:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の20%超である。
マークについての評価基準
◎:マークの剥離なし。
○:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の5%以下である。
△:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の5%超20%以下である。
×:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の20%超である。
【0047】
[ワンピースゴルフボール本体の作製]
表1に示すゴム組成物を混練し、160℃30分間加圧成形し、ワンピースゴルフボール本体を得た。
【0048】
【表1】
【0049】
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製のBR11
[ツーピースゴルフボール本体の作成]
▲1▼コアの作製
表2に示す配合のコア用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で160℃で25分間加熱プレスすることにより直径39.3mmの球状コアを得た。
【0050】
【表2】
【0051】
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製のBR11
▲2▼カバーの作製
表3、表4に示した各種カバー用組成物を、上述のようにして得られたコア上に被覆して、カバーを形成し、直径42.7mmを有するツーピースゴルフボール本体を作製した。
【0052】
【表3】
【0053】
ハイミラン1605:三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミラン1706:三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
【0054】
【表4】
【0055】
エラストランXNY90A:BASFジャパン(株)製の4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI:水添MDI)を使用した熱可塑性ポリウレタン系エラストマー
エラストランXNY97A:BASFジャパン(株)製の4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI:水添MDI)を使用した熱可塑性ポリウレタン系エラストマー
ペバックス5533SN00:エルフ・アトケム・ジャパン(株)製の熱可塑性ポリエーテルポリアミド系エラストマー
[マークおよび塗膜の形成]
得られたゴルフボール本体表面に、表5に示したマーク印刷用インク組成物を用いて、幅8mm×高8mm×線幅2mmのマーク「X」をパッドスタンプで印刷後、下記のように調製した塗料組成物をエアガンで塗布して、40℃で乾燥させてゴルフボールの表面にマークおよび塗膜(膜厚約10μm)を形成した。
【0056】
【表5】
【0057】
[塗料組成物の調製]
▲1▼主剤:ウレタンポリオールの調製
116質量部のPTMG650(保土ヶ谷化学製 分子量650のポリオキシテトラメチレングリコール)、16質量部の1,2,6−ヘキサントリオールを溶剤120質量部(トルエン及びメチルエチルケトン)に溶解し、これにジブチル錫ジラウリレートを主剤全体に対して0.1質量%となるように添加した。このポリオールを80℃に保持しながら、48質量部のイソホロンジイソシアネートを滴下して、ウレタンポリオール(固形分60質量%、水酸基価87mgKOH/g、分子量7850)を調製した。
▲2▼硬化剤:イソホロンジイソシアネート(住友バイエルウレタン)
▲3▼配合比:硬化剤のNCO/主剤のOH=1.2(モル比)
▲4▼上記2液硬化型ウレタン樹脂塗料に、下記の無機系紫外線吸収剤、有機系紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光増白剤などを添加して塗料組成物を調製した。尚、ウレタン樹脂成分100質量部に対する無機系紫外線吸収剤、有機系紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光増白剤などの添加量を表6〜8に併せて示した。
無機系紫外線吸収剤:日本電工社製「セリガードSC4060:酸化セリウムからなる微粒子を非晶質シリカで被覆したタイプ、酸化セリウム含有率38.5質量%、シリカ含有率57質量%」
有機系紫外線吸収剤:チバガイギー社製「チヌビン900」
光安定剤:三共社製「サノールLS770」
蛍光増白剤:チバガイギー社製「ユビテックスOB」
得られたゴルフボールについて、耐候性、密着性について評価した結果を表6〜8に示した。
【0058】
【表6】
【0059】
表6には、ワンピースゴルフボールについての塗膜性状等の評価結果を示した。
【0060】
ゴルフボールNo.1〜3は、ゴルフボール表面に設けられている塗膜が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、酸化セリウムを0.06〜9質量部含有する場合であり、耐候性、密着性の全てに優れていることが分かる。特に、酸化セリウムの含有量を増加させるにつれて、ΔE(変色度合)が小さくなり、塗膜の耐候性が向上していることが分かる。また、一般に耐候性テストは、長期の耐候性を調べるための促進試験であることから、ΔEが小さいということは、酸化セリウムによる耐候性改善効果の持続性が高いことを意味する。一方、ゴルフボールNo.11は、塗膜が酸化セリウムを含有していない場合であり、ΔEが大きく耐候性が低かった。また、打撃や洗浄に対する密着性も良くなかった。
【0061】
ゴルフボールNo.12は、塗膜に含有される酸化セリウムの含有量が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、0.04質量部と少ない場合である。酸化セリウムを0.06〜9質量部使用したゴルフボールNo.1〜3に比べて、
ΔE(変色度合)が大きく、耐候性の改善効果が十分でなかった。また、塗膜の密着性も低下した。
【0062】
ゴルフボールNo.13は、酸化セリウムの含有量が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して13質量部と過剰な場合である。ΔE(変色度合)が小さく、塗膜は、耐候性に優れるものの、塗膜やマークの密着性が著しく低下した。
【0063】
これらの結果より、酸化セリウムを塗膜に適量配合することによって、塗膜の耐候性が改善されるとともに、ゴム組成物を加硫成形してなるワンピースゴルフボールに対して優れた密着性を示す塗膜が得られていることが分かる。
【0064】
【表7】
【0065】
表7には、カバー材料としてアイオノマー樹脂を使用したカバーを有するゴルフボールについての塗膜性状の評価結果を示した。
【0066】
ゴルフボールNo.4〜6は、ゴルフボール表面に設けられている塗膜が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、酸化セリウムを0.06〜9質量部含有する場合であり、耐候性、及び、密着性の全てに優れていることが分かる。特に、酸化セリウムの含有量を増加させるにつれて、ΔE(変色度合)が小さくなり、塗膜の耐候性が向上していることが分かる。また、上述したように、ΔEが小さいということは、酸化セリウムによる耐候性改善効果の持続性が高いことを意味する。
【0067】
一方、ゴルフボールNo.14は、塗膜が酸化セリウムを含有していない場合であり、ΔEが大きく耐候性が低かった。また、打撃や洗浄に対する密着性も良くなかった。ゴルフボールNo.15は、塗膜に含有される酸化セリウムの含有量が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、0.04質量部と少ない場合である。酸化セリウムを0.06〜9質量部使用したゴルフボールNo.4〜6に比べて、ΔE(変色度合)が大きく、耐候性が低下していることが分かる。また、塗膜の密着性も低下した。ゴルフボールNo.16は、酸化セリウムの含有量がウレタン樹脂成分100質量部に対して13質量部と過剰な場合である。ΔE(変色度合)が小さく、塗膜は、耐候性に優れるものの、塗膜やマークの密着性が著しく低下した。
【0068】
これらの結果より、酸化セリウムを塗膜に適量配合することによって、塗膜の耐候性が改善されるとともに、カバー材料としてアイオノマー樹脂を使用したカバーに対して優れた密着性を示す塗膜が得られていることが分かる。
【0069】
【表8】
【0070】
表8には、カバー材料としてウレタン樹脂を主成分として使用したカバーを有するゴルフボールについての塗膜性状の評価結果を示した。ゴルフボールNo.7〜9は、ゴルフボール表面に設けられている塗膜が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、酸化セリウムをを0.06〜9質量部含有する場合であり、耐候性、及び、密着性の全てに優れていることが分かる。一方、ゴルフボールNo.17は、酸化セリウムを含まず、No.18は、酸化セリウムの含有量が少なすぎる場合であり、No.19は、酸化セリウムの含有量が過剰な場合であり、アイノマオー樹脂を使用したカバーの場合と同様の結果が得られた。
【0071】
これらの結果より、酸化セリウムを塗膜に適量配合することによって、塗膜の耐候性が改善されるとともに、カバー材料としてウレタン樹脂を使用したカバーに対して優れた密着性を示す塗膜が得られていることが明らかになった。
【0072】
【発明の効果】
本発明によれば、耐候性及び密着性に優れると同時に、それらの良好な特性を持続性に優れる塗装ゴルフボールが得られる。特に、ゴム、アイオノマー樹脂、ウレタン樹脂などで構成されるゴルフボール表面に対して、密着性、耐久性に優れる塗装ゴルフボールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸化セリウムからなる微粒子含有粒子の粒子構造の一例の模式図である。
【図2】酸化セリウムからなる微粒子含有粒子の粒子構造の別例の模式図である。
【符号の説明】
1:酸化セリウム微粒子、2:非晶質シリカ、3:顔料ベース
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴルフボール表面に塗膜が設けられている塗装ゴルフボールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ゴルフボールの表面には、光沢を付与して外観を向上したり、マークやゴルフボール本体を保護するために塗膜が設けられている。前記塗膜には、打撃時の衝撃によっても剥離しない密着性や、紫外線(太陽光)や雨などに対しても変色や劣化をしない耐候性などが要求されている。特に、紫外線は、塗膜の樹脂成分を劣化させて、塗膜を剥離させる原因になるばかりでなく、さらには、ゴルフボール本体の樹脂成分も分解して、ゴルフボールの性能の低下させる場合がある。また、例えば、練習場で使用されるゴルフボールは、繰返し打撃され繰返し洗浄されて使用されることから、耐候性や密着性についての耐久性も必要とされる。
【0003】
このような課題を解決すべく、例えば、特許文献1には、耐候性の塗膜を有するゴルフボールとして、酸化防止剤および/または光安定剤を含有するクリアー塗膜を有するゴルフボールが開示され、特許文献2には、蛍光増白剤および紫外線吸収剤を含有するクリアー塗膜を有するゴルフボールが開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特許第3292694号
【特許文献2】
特開2001−17576号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来のゴルフボールの塗膜には、有機系の酸化防止剤や紫外線吸収剤が使用されているのが一般的であるが、これらの有機系安定剤は、加水分解したり、或いは、紫外線によって発生したラジカルなどの攻撃を受けてそれ自体が分解し、酸化防止機能や紫外線吸収機能を長期に亘って持続できないという問題がある。これらの安定剤が機能しなくなると上述したように、塗膜を構成する基材樹脂が紫外線で分解されて、さらには、ゴルフボール本体の樹脂成分も劣化して、ゴルフボールの飛行性能が低下する場合もある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐候性及び密着性に優れると同時に、これらの特性を持続する耐久性のある塗膜を有するゴルフボールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明のゴルフボールは、ゴルフボール表面に塗膜が設けられている塗装ゴルフボールであって、前記塗膜は、塗膜の樹脂成分100質量部に対して、0.05〜10質量部の酸化セリウムを含有することを特徴とする。酸化セリウムは、紫外線を吸収し、これを熱エネルギーとして放出することによって紫外線吸収剤として作用し、ゴルフボール本体や塗膜が紫外線で劣化されるのを防止できる。また、理由は明らかではないが、塗膜に酸化セリウムを含有させることによって、ゴルフボールに対する塗膜の密着性も向上する。さらに、酸化セリウムは無機成分からなるので、有機系安定剤のような物質変化がほとんどなく、これを塗膜中に配合させておけば、塗膜の耐候性や密着性を長期間(半永久的)持続させることができる。
【0008】
本発明のゴルフボールの塗膜は、酸化セリウムからなる微粒子を非晶質シリカで被覆した粒子の形態で、酸化セリウムを含有することが好ましい。酸化セリウムは、酸化触媒活性を有する場合があり、非晶質シリカで被覆されていれば、この酸化触媒活性を低下させることができる。本発明のゴルフボールの塗膜の樹脂成分としては、例えば、ウレタン樹脂が好適である。また、前記塗膜は、単層構造であることが好ましい。本発明のゴルフボールの塗膜は、単層構造であっても密着性が良好であり、単層構造とすることによって、塗膜形成工程を簡素化することができる。
【0009】
本発明のゴルフボールがカバーを有するゴルフボールの場合には、カバーを構成する材料(以下、単に『カバー材料』という場合がある)として好ましいのは、アイオノマー樹脂、又は、ウレタン樹脂である。本発明のゴルフボールの塗膜は、アイオノマー樹脂カバー又はウレタン樹脂カバーに対しても優れた密着性を示す。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール表面に塗膜が設けられている塗装ゴルフボールであって、前記塗膜が、樹脂成分と酸化セリウムとを含有し、前記樹脂成分100質量部に対して、0.05〜10質量部の酸化セリウムを含有することを特徴とする。
【0011】
まず、前記酸化セリウムについて説明する。酸化セリウム(CeO2)は、その電子の働きにより、紫外線を吸収して熱エネルギーに変換して放出し、無機系の紫外線吸収剤として作用することができる。この際、酸化セリウム自体は物質変化を起こさないので、塗膜中に配合しておくことにより、紫外線吸収作用を恒久的に持続することができる。酸化セリウムの紫外線吸収機構は、次のように考えられている(日本電工株式会社、「セリガード」カタログ)。酸化セリウムが紫外線を吸収すると、価電子帯に存在する電子が励起されて、正孔(h+)と電子(e−)とを有する状態に変化する(式1)。このようにして生成した正孔(h+)と電子(e−)は、酸化セリウム内を移動することができ、電子は、酸化セリウム表面に存在する他の分子、例えば、水分子を還元し、正孔は他の分子(例えば、水分子)を酸化することができる(式2)。これらの酸化・還元反応と同時に電子と正孔との再結合も起こり、熱或いは光エネルギーが放出される(式3及び4)。その結果、最初に吸収された紫外線エネルギーの一部が、熱エネルギーに変換されるとともに酸化・還元反応などに消費されるので、塗膜やゴルフボール本体の樹脂成分が紫外線に直接曝されて分解されるのを抑制できる。
【0012】
【化1】
【0013】
本発明のゴルフボールに設けられている塗膜は、上述した酸化セリウムを、塗膜の樹脂成分100質量部に対して、0.05質量部以上、好ましくは0.06質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上であって、10質量部以下、好ましくは9質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下含有する。酸化セリウムの含有量が0.05質量部未満であると、耐候性および密着性の向上効果が十分とは言えない。また、酸化セリウムの含有量が10質量部を超えると、塗膜の密着性が低下する傾向があるからである。
【0014】
本発明のゴルフボールに設けられている塗膜が酸化セリウムを含有する態様は、特に限定されないが、例えば、酸化セリウム単体からなる微粒子の形態で含有する態様;図1に示すように酸化セリウムからなる微粒子1(微粒子の集合体・凝集体を含む)を非晶質シリカ2で被覆した粒子の形態で含有する態様;酸化セリウムからなる微粒子(微粒子の集合体・凝集体を含む)を窒化ホウ素で被覆した粒子の形態で含有する態様;及び、図2に示すようにシリカ、タルクなどのベース顔料3を核材とし、前記核材を被覆する酸化セリウム微粒子1からなる中間層と、前記中間層を被覆する非晶質シリカ2からなる最外層とを有する粒子の形態で含有する態様などを挙げることができ、これらの中でも、前記塗膜が、酸化セリウムからなる微粒子が非晶質シリカで被覆された粒子の形態で酸化セリウムを含有する態様が好ましい。酸化セリウムは、酸化触媒活性を有する場合があり、非晶質シリカで被覆されていれば、この酸化触媒活性を低下させることができるからである。
【0015】
前記酸化セリウムからなる微粒子が非晶質シリカで被覆された粒子としては、例えば、日本電工株式会社製のセリガードSC−4060(酸化セリウム含有量38.5%)、S−3018−02(酸化セリウム含有量23.0%)、SC−6832(酸化セリウム含有量65.5%)、T−3018−02(酸化セリウム含有量56.5%)などを挙げることができる。
【0016】
また、酸化セリウムからなる微粒子が非晶質シリカで被覆された無機系粒子の表面をシランカップリング剤で表面処理しておくことも好ましい態様である。シランカップリング剤で表面処理しておくことにより、塗膜の樹脂成分と無機系粒子との界面密着性が高まって、塗膜が無機成分によって補強され、塗膜の強度を一層高めることができるからである。
【0017】
前記シランカップリング剤として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニルシラン;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノシラン;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのエポキシシラン;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどのメタクリロキシシラン;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)などのメルカプトシランなどを挙げることができる。
【0018】
前記シランカップリング剤は、後述する塗膜の樹脂成分に応じて、適宜選択して使用することができ、例えば、塗膜の樹脂成分がウレタン樹脂の場合には、アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランなどが好適であり、塗膜の樹脂成分がアクリル樹脂の場合には、ビニルシラン、メタクリロキシシランなどが好適である。
【0019】
次に本発明のゴルフボールに設けられている塗膜が含有する樹脂成分について説明する。前記樹脂成分は、ゴルフボールの塗膜成分として使用される樹脂であれば、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂などを使用することができ、後述する2液硬化型ウレタン樹脂を使用することが好ましい。2液硬化型ウレタン樹脂を樹脂成分として使用すれば、耐磨耗性に優れる塗膜が得られるからである。
【0020】
前記2液硬化型ウレタン樹脂は、主剤と硬化剤とを反応し硬化させてなるウレタン樹脂であり、例えば、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを含有する主剤を、活性水素を有する硬化剤で硬化させたものや、ポリオール成分を含有する主剤をポリイソシアネート又はその誘導体で硬化させたもの等が挙げられる。
【0021】
本発明では、ポリオール成分を含有する主剤をポリイソシアネートまたはその誘導体などの硬化剤で硬化させる2液硬化型ウレタン樹脂を塗膜の樹脂成分とすることが特に好ましい態様である。
【0022】
ポリオール成分を含有する主剤としては、例えば、以下に示すような特定のウレタンポリオールを使用することが好ましい。ウレタンポリオールは、ウレタン結合と、少なくとも2以上のヒドロキシル基を(好ましくは末端に)有するポリオールであれば特に限定されず、例えば、ポリオール成分のヒドロキシル基がポリイソシアネートのイソシアネート基に対してモル比で過剰になるような割合で、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。
【0023】
前記ウレタンポリオールを構成するポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)等の芳香族ポリイソシアネート;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環式ポリイソシアネート又は脂肪族ポリイソシアネート等のうちの1種または2種以上の混合物を使用できる。これらのうち、耐候性の観点から、非黄変性のポリイソシアネート(TMXDI、XDI、HDI、H6XDI、IPDI、H12MDIなど)が好ましく使用される。尚、上記ポリイソシアネートは、ウレタンポリオールを硬化させるための硬化剤としても使用することができる。
【0024】
ウレタンポリオールの製造に使用されるポリオールとしては、ヒドロキシル基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、低分子量のポリオールや高分子量のポリオールなどを使用することができる。低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。高分子量のポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジぺート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;及びアクリルポリオールなどが挙げられる。以上のようなポリオールのうち、重量平均分子量50〜2,000を有するもの、特に100〜1,000程度のポリオールが好ましく用いられる。尚、これらのポリオールは、1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
前記ウレタンポリオールは、ウレタンポリオール中のウレタン結合の比率が、ウレタンポリオール1g中0.1〜5mmolであることが好ましい。ウレタン結合の比率は、形成される塗膜の剛性と関係があり、0.1mmol/g未満では、形成される塗膜中のウレタン結合濃度が低いため、耐擦過傷性が不足気味になるからである。一方、5mmol/gを上回ると、塗膜が硬くなりすぎる傾向がある。
【0026】
前記ウレタンポリオールの重量平均分子量は、4,000以上、好ましくは4,500以上で、10,000未満、好ましくは9,000以下であることが望ましい。4,000未満では乾燥に時間がかかって作業性、生産性が低下する傾向がある。一方、10,000以上の高分子量のウレタンポリオールでは、相対的にウレタンポリオールの水酸基価が小さくなり、塗布後の反応量が少なくなって下地との密着性が低下する傾向がある。また、重量平均分子量が9,000以下であれば、水に濡れるような状態にあっても密着性の低下が少ない緻密な塗膜を形成できるからである。
【0027】
また、前記ウレタンポリオールの水酸基価(mgKOH/g)は、15以上、より好ましくは73以上で、130以下、より好ましくは120以下であることが望ましい。15(mgKOH/g)未満では、硬化剤との反応量が不足するため、ボール本体との密着性が低下する傾向があるからである。一方、130(mgKOH/g)を上回ると、硬化剤との反応に時間がかかり、乾燥時間が長くなって生産性が低下するからである。
【0028】
上述したウレタンポリオールは、例えば、上述したポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるが、反応に際しては、溶剤やウレタン化反応に公知の触媒(ジブチル錫ジラウリレートなど)を使用することができる。尚、ウレタン結合の比率は、原料となるポリオールの分子量、ポリオールとポリイソシアネートとの配合比率などを調整することにより行うことができる。
【0029】
前記ポリオール成分を含有する主剤は、上記特定のウレタンポリオールのみを含有する態様、すなわち、前記ポリオール成分を含有する主剤として、実質的に上記特定のウレタンポリオールのみを使用することが好ましいが、前記ウレタンポリオール以外にもウレタンポリオールと相溶可能でウレタン結合を有しないポリオールを含有していても良い。この場合のウレタン結合を有しないポリオールは、特に限定されず、上述したウレタンポリオール合成用の原料ポリオールを使用することができる。また、主剤中にウレタン結合を有しないポリオールが含まれる場合には、主剤中のウレタンポリオールの含有量が50質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上となるようにすることが好ましい。主剤中のウレタンポリオールの含有率が50質量%未満では、相対的にウレタンポリオールの含有率が少なくなるため、乾燥時間が長くなるからである。
【0030】
本発明のゴルフボールに設けられている塗膜には、上述した樹脂成分と酸化セリウムのほかに、更に、有機系紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、ブロッキング防止剤、顔料などの一般のゴルフボールの塗膜に含有され得る添加剤が含まれていてもよい。また、前記塗膜が、実質的に顔料を含まないクリアー塗膜であることも好ましい態様である。
【0031】
前記塗膜は、上述した樹脂成分と酸化セリウム、さらに必要に応じて、溶剤および上記添加剤などを含有する塗料組成物をゴルフボール本体表面に塗布して乾燥することにより、ゴルフボール表面に設けることができる。前記塗膜は、例えば、単層構造または多層構造であってもよいが、好ましくは単層構造である。本発明の塗膜は、ゴルフボール本体表面への密着性および耐久性に優れるので、単層構造でも十分な塗膜性能を発揮できるからである。
【0032】
また、塗膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、5〜20μmであることが好ましい。5μm未満であると、塗膜の性能を十分に発揮することができず、20μm超であると、ディンプルの大きさが変化して、飛行性能が低下する虞があるからである。
【0033】
本発明のゴルフボールの構造は、特に限定されず、例えば、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、スリーピースゴルフボール以上のマルチピースゴルフボール、或いは、糸巻きゴルフボールであってもよい。特に、ツーピースゴルフボール、マルチピースゴルフボール、糸巻きゴルフボールの如くカバーを有するゴルフボールの場合、前記カバー材料としては、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂若しくは2液硬化型ウレタン樹脂等のウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂、或いは、これらの樹脂の2種以上を混合物を挙げることができる。特に、カバー材料として、熱可塑性ウレタン樹脂若しくは2液硬化型ウレタン樹脂などのウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、又は、ウレタン樹脂とアイオノマー樹脂との混合物を、50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有するものを使用することも好ましい態様である。ウレタン樹脂やアイオノマー樹脂の含有率を高めることによって、カバーの耐久性や打球感を向上させることができ、酸化セリウムを含有する塗膜は、これらのカバーに対しても優れた密着性および耐久性を示す。
【0034】
カバーを構成するアイオノマー樹脂としては、従来よりゴルフボール用のカバー材料として使用されているアイオノマー樹脂、すなわち、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも1部を金属イオンで中和したもの、または、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの等を挙げることができる。
【0035】
前記中和用の金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等の1価金属イオン;亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、銅イオン、マンガンイオンなどの2価金属イオン;アルミニウムイオン、ネオジムイオンなどの3価金属イオンなどが挙げられるが、特に亜鉛イオンが金属イオンの凝集体の結合力が大きく、架橋ジエン系ゴム粒子の分散に基づく機械的強度の低下が小さいことから好ましい。
【0036】
前記アイオノマー樹脂の具体例としては、三井デュポンポリケミカル株式会社製のハイミラン1605(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1707(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1706(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミランAM7315(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミランAM7317(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1555(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1557(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、エクソンケミカル株式会社製のアイオテック8000(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、アイオテック7010(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、デュポン社製のサーリン7930(リチウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、サーリン9945(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、サーリン8945(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)などが挙げられる。
【0037】
前記カバーを構成するウレタン樹脂としては、例えば、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを芳香族ポリアミンで硬化させる2液硬化型ウレタン樹脂、或いは、熱可塑性ウレタン樹脂などを挙げることができる。前記ウレタン樹脂のポリイソシアネート成分およびポリオール成分は、特に限定されず、塗膜用のウレタン樹脂成分として上述したポリイソシアネートおよびポリオールと同一のものを使用できるが、例えば、イソシアネート成分としてTDIを、ポリオール成分としてPTMGを使用するウレタン樹脂が好適である。また、前記芳香族ポリアミンとしては、例えば、少なくとも2以上のアミノ基が芳香環に直接又は間接的に結合している化合物であれば、特に限定されず、例えば、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミンなどのアミノ基が芳香環に直接結合しているタイプ;ジメチルチオトルエンジアミンのようなアミノ基がスルフィド結合を介して芳香環に結合しているタイプ;キシリレンジアミンのようなアミノ基が低級アルキレン基を介して芳香環に結合しているタイプ;又は、4,4’−ジアミノジフェニルメタン及びその誘導体などが挙げられる。
【0038】
また、ゴム組成物を加硫成形してなるワンピースゴルフボールも本発明の好ましい態様の一つであり、酸化セリウムを含有する塗膜は、ワンピースゴルフボール本体に対しても優れた密着性および耐久性を示す。前記ゴム組成物としては、例えば、基材ゴムとしてのジエン系ゴム、共架橋剤、及び架橋開始剤を含むゴム組成物を挙げることができる。前記ジエン系ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤は、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸又はその金属塩、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸の金属塩が用いられ、前記金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛が用いられる。
【0039】
前記共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部あたり20〜50質量部が好ましい。また、架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。有機過酸化物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して0.2〜1.5質量部が好ましく、より好ましくは0.3〜1.0質量部である。前記ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、160℃で30分間加熱することが好ましい。
【0040】
上述したカバー材料やゴム組成物には、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウム等の比重調整剤、老化防止剤、酸化チタンなどの顔料、色粉等を適宜配合することができる。
【0041】
次に、本発明のゴルフボールを製造する方法について、ツーピースゴルフボールの態様を例にとって説明するが、本発明は、かかる製造方法に限定されるものではない。ツーピースゴルフボールのコアとしては、従来より公知のコアを使用することができ、例えば、基材ゴムとしてのジエン系ゴム、共架橋剤、及び架橋開始剤を含むコア用ゴム組成物を加熱プレスして成形したものであることが好ましい。前記コア用ゴム組成物としては、例えば、上述したワンピースゴルフボール用のゴム組成物と同一のものを使用することができ、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウム等の比重調整剤、老化防止剤、色粉等を適宜配合することができる。前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130〜200℃で10〜60分間加熱することが好ましい。また、130〜150℃で20〜40分間加熱した後、160〜180℃で5〜15分間加熱する2段階加熱を採用してもよい。
【0042】
上記のようにして得られたコアをカバー材料を含有するカバー用組成物で被覆して、ゴルフボール本体を作製する。カバー材料として熱硬化性ポリウレタンを使用する場合には、例えば、得られたコアを半球状の金型に保持させた状態で、この金型内にカバー用組成物を注入し、次にこれを反転させて、カバー用組成物を注入した別の半球状の金型と合わせて硬化反応を行なって、カバーを成形すればよい。前記熱硬化性ポリウレタンを含有するカバー用組成物の硬化反応は、30℃〜120℃、好ましくは50℃〜80℃で、2〜60分間、好ましくは5〜30分間行うことが望ましい。
【0043】
また、カバー材料として、熱可塑性ポリウレタン、アイオノマー樹脂、熱可塑性エラストマーなどを使用する場合には、例えば、まずカバー用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに形成し、これを2枚用いてコアを包み、130〜170℃で1〜5分間加圧成形する方法;コアを被覆するようにカバー用組成物を射出成形する方法などが適用される。コアをカバー材料で被覆してゴルフボール本体を作製する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。さらに、ゴルフボール本体表面は、塗膜との密着性を一層向上させるために、サンドブラスト処理のような研磨処理がなされてもよい。
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
[評価方法]
▲1▼耐候性
JIS−D0205に準じて、スガ試験機株式会社製サンシャインスーパーロングライフウェザオメーター(WEL−SUN−HC/B型)を用いて槽内温度63℃、湿度50%、60分中12分間降雨条件下で120時間照射して、耐候試験を行った。照射前後のゴルフボールの同一箇所の色調(L値、a値、b値)を色差計(ミノルタ製CR−221)を用いて測定し、得られたL値、a値、b値のそれぞれについての照射前後の差(ΔL、Δa、Δb)を求め、下記式によりΔEを算出した。ΔEは、変色度合を示すものでり、ΔEの値が大きいほど変色度合が大きいことを示している。また、変色度合が大きいことは、塗膜の樹脂成分の劣化度合が大きいことを示唆する。
ΔE=[(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2]1/2
【0045】
▲2▼打撃に対する耐久密着性
ツルーテンパー社製スイングロボットに、5番アイアンを装着させ、ヘッドスピード34m/秒で150回繰返し打撃した後、塗膜、マークの剥離状態を観察し、以下の評価基準により密着性を評価した。
塗膜についての評価基準
◎:塗膜の剥離なし。
○:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の5%以下である。
△:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の5%超20%以下である。
×:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の20%超である。
マークについての評価基準
◎:マークの剥離なし。
○:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の5%以下である
△:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の5%超20%以下である。
×:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の20%超である。
【0046】
▲3▼ブラッシング洗浄に対する耐久密着性
内表面をブラシで覆ったポテトピラー内にゴルフボールを入れ、1時間ブラッシング洗浄を行い、塗膜およびマークの剥離状態を観察し、下記の評価基準により、密着性を評価した。
塗膜についての評価基準
◎:塗膜の剥離なし。
○:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の5%以下である。
△:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の5%超20%以下である。
×:塗膜の剥離面積が、塗膜全体の面積の20%超である。
マークについての評価基準
◎:マークの剥離なし。
○:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の5%以下である。
△:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の5%超20%以下である。
×:マークの剥離面積が、マーク全体の面積の20%超である。
【0047】
[ワンピースゴルフボール本体の作製]
表1に示すゴム組成物を混練し、160℃30分間加圧成形し、ワンピースゴルフボール本体を得た。
【0048】
【表1】
【0049】
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製のBR11
[ツーピースゴルフボール本体の作成]
▲1▼コアの作製
表2に示す配合のコア用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で160℃で25分間加熱プレスすることにより直径39.3mmの球状コアを得た。
【0050】
【表2】
【0051】
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製のBR11
▲2▼カバーの作製
表3、表4に示した各種カバー用組成物を、上述のようにして得られたコア上に被覆して、カバーを形成し、直径42.7mmを有するツーピースゴルフボール本体を作製した。
【0052】
【表3】
【0053】
ハイミラン1605:三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミラン1706:三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
【0054】
【表4】
【0055】
エラストランXNY90A:BASFジャパン(株)製の4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI:水添MDI)を使用した熱可塑性ポリウレタン系エラストマー
エラストランXNY97A:BASFジャパン(株)製の4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI:水添MDI)を使用した熱可塑性ポリウレタン系エラストマー
ペバックス5533SN00:エルフ・アトケム・ジャパン(株)製の熱可塑性ポリエーテルポリアミド系エラストマー
[マークおよび塗膜の形成]
得られたゴルフボール本体表面に、表5に示したマーク印刷用インク組成物を用いて、幅8mm×高8mm×線幅2mmのマーク「X」をパッドスタンプで印刷後、下記のように調製した塗料組成物をエアガンで塗布して、40℃で乾燥させてゴルフボールの表面にマークおよび塗膜(膜厚約10μm)を形成した。
【0056】
【表5】
【0057】
[塗料組成物の調製]
▲1▼主剤:ウレタンポリオールの調製
116質量部のPTMG650(保土ヶ谷化学製 分子量650のポリオキシテトラメチレングリコール)、16質量部の1,2,6−ヘキサントリオールを溶剤120質量部(トルエン及びメチルエチルケトン)に溶解し、これにジブチル錫ジラウリレートを主剤全体に対して0.1質量%となるように添加した。このポリオールを80℃に保持しながら、48質量部のイソホロンジイソシアネートを滴下して、ウレタンポリオール(固形分60質量%、水酸基価87mgKOH/g、分子量7850)を調製した。
▲2▼硬化剤:イソホロンジイソシアネート(住友バイエルウレタン)
▲3▼配合比:硬化剤のNCO/主剤のOH=1.2(モル比)
▲4▼上記2液硬化型ウレタン樹脂塗料に、下記の無機系紫外線吸収剤、有機系紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光増白剤などを添加して塗料組成物を調製した。尚、ウレタン樹脂成分100質量部に対する無機系紫外線吸収剤、有機系紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光増白剤などの添加量を表6〜8に併せて示した。
無機系紫外線吸収剤:日本電工社製「セリガードSC4060:酸化セリウムからなる微粒子を非晶質シリカで被覆したタイプ、酸化セリウム含有率38.5質量%、シリカ含有率57質量%」
有機系紫外線吸収剤:チバガイギー社製「チヌビン900」
光安定剤:三共社製「サノールLS770」
蛍光増白剤:チバガイギー社製「ユビテックスOB」
得られたゴルフボールについて、耐候性、密着性について評価した結果を表6〜8に示した。
【0058】
【表6】
【0059】
表6には、ワンピースゴルフボールについての塗膜性状等の評価結果を示した。
【0060】
ゴルフボールNo.1〜3は、ゴルフボール表面に設けられている塗膜が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、酸化セリウムを0.06〜9質量部含有する場合であり、耐候性、密着性の全てに優れていることが分かる。特に、酸化セリウムの含有量を増加させるにつれて、ΔE(変色度合)が小さくなり、塗膜の耐候性が向上していることが分かる。また、一般に耐候性テストは、長期の耐候性を調べるための促進試験であることから、ΔEが小さいということは、酸化セリウムによる耐候性改善効果の持続性が高いことを意味する。一方、ゴルフボールNo.11は、塗膜が酸化セリウムを含有していない場合であり、ΔEが大きく耐候性が低かった。また、打撃や洗浄に対する密着性も良くなかった。
【0061】
ゴルフボールNo.12は、塗膜に含有される酸化セリウムの含有量が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、0.04質量部と少ない場合である。酸化セリウムを0.06〜9質量部使用したゴルフボールNo.1〜3に比べて、
ΔE(変色度合)が大きく、耐候性の改善効果が十分でなかった。また、塗膜の密着性も低下した。
【0062】
ゴルフボールNo.13は、酸化セリウムの含有量が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して13質量部と過剰な場合である。ΔE(変色度合)が小さく、塗膜は、耐候性に優れるものの、塗膜やマークの密着性が著しく低下した。
【0063】
これらの結果より、酸化セリウムを塗膜に適量配合することによって、塗膜の耐候性が改善されるとともに、ゴム組成物を加硫成形してなるワンピースゴルフボールに対して優れた密着性を示す塗膜が得られていることが分かる。
【0064】
【表7】
【0065】
表7には、カバー材料としてアイオノマー樹脂を使用したカバーを有するゴルフボールについての塗膜性状の評価結果を示した。
【0066】
ゴルフボールNo.4〜6は、ゴルフボール表面に設けられている塗膜が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、酸化セリウムを0.06〜9質量部含有する場合であり、耐候性、及び、密着性の全てに優れていることが分かる。特に、酸化セリウムの含有量を増加させるにつれて、ΔE(変色度合)が小さくなり、塗膜の耐候性が向上していることが分かる。また、上述したように、ΔEが小さいということは、酸化セリウムによる耐候性改善効果の持続性が高いことを意味する。
【0067】
一方、ゴルフボールNo.14は、塗膜が酸化セリウムを含有していない場合であり、ΔEが大きく耐候性が低かった。また、打撃や洗浄に対する密着性も良くなかった。ゴルフボールNo.15は、塗膜に含有される酸化セリウムの含有量が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、0.04質量部と少ない場合である。酸化セリウムを0.06〜9質量部使用したゴルフボールNo.4〜6に比べて、ΔE(変色度合)が大きく、耐候性が低下していることが分かる。また、塗膜の密着性も低下した。ゴルフボールNo.16は、酸化セリウムの含有量がウレタン樹脂成分100質量部に対して13質量部と過剰な場合である。ΔE(変色度合)が小さく、塗膜は、耐候性に優れるものの、塗膜やマークの密着性が著しく低下した。
【0068】
これらの結果より、酸化セリウムを塗膜に適量配合することによって、塗膜の耐候性が改善されるとともに、カバー材料としてアイオノマー樹脂を使用したカバーに対して優れた密着性を示す塗膜が得られていることが分かる。
【0069】
【表8】
【0070】
表8には、カバー材料としてウレタン樹脂を主成分として使用したカバーを有するゴルフボールについての塗膜性状の評価結果を示した。ゴルフボールNo.7〜9は、ゴルフボール表面に設けられている塗膜が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、酸化セリウムをを0.06〜9質量部含有する場合であり、耐候性、及び、密着性の全てに優れていることが分かる。一方、ゴルフボールNo.17は、酸化セリウムを含まず、No.18は、酸化セリウムの含有量が少なすぎる場合であり、No.19は、酸化セリウムの含有量が過剰な場合であり、アイノマオー樹脂を使用したカバーの場合と同様の結果が得られた。
【0071】
これらの結果より、酸化セリウムを塗膜に適量配合することによって、塗膜の耐候性が改善されるとともに、カバー材料としてウレタン樹脂を使用したカバーに対して優れた密着性を示す塗膜が得られていることが明らかになった。
【0072】
【発明の効果】
本発明によれば、耐候性及び密着性に優れると同時に、それらの良好な特性を持続性に優れる塗装ゴルフボールが得られる。特に、ゴム、アイオノマー樹脂、ウレタン樹脂などで構成されるゴルフボール表面に対して、密着性、耐久性に優れる塗装ゴルフボールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸化セリウムからなる微粒子含有粒子の粒子構造の一例の模式図である。
【図2】酸化セリウムからなる微粒子含有粒子の粒子構造の別例の模式図である。
【符号の説明】
1:酸化セリウム微粒子、2:非晶質シリカ、3:顔料ベース
Claims (5)
- ゴルフボール表面に塗膜が設けられている塗装ゴルフボールであって、前記塗膜は、樹脂成分100質量部に対して、0.05〜10質量部の酸化セリウムを含有することを特徴とする塗装ゴルフボール。
- 前記塗膜は、酸化セリウムからなる微粒子を非晶質シリカで被覆した粒子の形態で、前記酸化セリウムを含有するものである請求項1に記載の塗装ゴルフボール。
- 前記塗膜の樹脂成分は、ウレタン樹脂である請求項1又は2に記載の塗装ゴルフボール。
- 前記塗膜は、単層構造である請求項1〜3のいずれかに記載の塗装ゴルフボール。
- 前記ゴルフボールは、カバーを有するゴルフボールであって、前記カバーを構成する材料は、アイオノマー樹脂、又は、ウレタン樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の塗装ゴルフボール。
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