JP2005009648A - 直動型軸受装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】固体潤滑膜のはく離に起因する発塵が少なく、クリーンルーム等の特殊な環境下でも長期に渡り安定して使用することのできる直動型軸受装置を提供する。
【解決手段】直動型軸受装置における各軌道溝1v,21vの表面およびリターン孔21hの内周面と、ボール3の表面の少なくとも一方に、ビスアリルナジイミド(BANI)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とからなる被膜4を形成する。この被膜4は、均一で薄く、かつ、強固で耐摩耗性に優れる固体潤滑膜として機能する。以上の構成により、この直動型軸受装置は、従来の直動型軸受装置に比べ、発塵量を低減できるとともに、発塵寿命を向上させることができる。従って、この直動型軸受装置は、真空中やクリーンルーム内など特殊な環境下でも、長期に渡り安定して使用することができる。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、真空中やクリーンルーム内など特殊な環境下での使用においても発塵が少なく、長期に渡りその性能を維持することのできる直動型軸受装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体製造装置等、所要の清浄度が要求される環境においては、物品の搬送や位置決め等に用いられている直動型軸受装置の潤滑にグリース等の潤滑油を用いると、この油分が飛散や蒸発することによる潤滑機能の低下や使用環境の汚染といった不具合が生じる。従来、このような環境で使用される直動型軸受装置には、グリースの代わりに、軌道溝や転動体の表面(転動部位)に金、銀、鉛などの軟質金属、あるいはカーボングラファイトや二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略称する)等の固体潤滑剤等をコーティングした直動型軸受装置が使用されている(例えば、特許文献1あるいは特許文献2等を参照。)。
【0003】
この固体潤滑剤の中でも、PTFEと樹脂バインダーとからなる被膜(固体潤滑膜)は、その優れた潤滑性・耐摩耗性と形成の容易さによって、真空中やクリーンルーム内など特殊な環境で使用する軸受装置に広く応用されている。この固体潤滑膜は、PTFEとバインダーとなる樹脂を有機溶媒中に分散・混合させた溶液を、部材の軌道溝や転動体の表面に、スプレー等を用いて塗布し、その後加熱処理を行なうことによって硬化させたものである(ボンデッドフィルム法)。有機バインダーには、一般的に、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの熱硬化性合成樹脂が使用される。
【0004】
この手法は、PTFEの優れた潤滑性や転走部への転着性を利用したものであって、直動型軸受装置の転走部に形成された被膜あるいは転がり運動によって転着した被膜粒子により、直動型軸受装置の潤滑が維持される。また、単独では軸受部材(軸受材料)に対する密着力の弱いPTFEに、バインダーを添加することにより、PTFEの被コーティング面への密着力を高めるとともに、後述する加熱処理を経ることによってPTFE間の結合力が高まり、この軸受装置からの発塵を低減することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平8−312645号公報
【特許文献2】特開2000−170736号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、PTFEを用いた固体潤滑膜は、従来スプレー(吹き付け)によるコーティングが主流であり、その被膜を均質なものとするため、ある程度(具体的には、5μm〜数十μm)の膜厚が必要とされている。しかしながら、この手法によって形成された固体潤滑膜は、膜厚が厚いため、潤滑に寄与しない被膜粒子が発塵量を増加させてしまうという問題があった。
【0007】
また、スプレー法で膜厚5μm以下の被膜を形成しようとした場合、膜厚のばらつきが大きく、まったくコーティングされていない領域や極端に厚い箇所が混在して潤滑が不十分になったり、被膜の欠落やはく離等によって発塵量が増加してしまう恐れがある。
【0008】
本発明は、上記する課題に対処するためになされたものであり、固体潤滑膜のはく離に起因する発塵が少なく、クリーンルーム等の特殊な環境下でも長期に渡り安定して使用することのできる直動型軸受装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
半導体製造工程においては、製造環境の清浄度が製品の歩留まり(ひいては製造コスト)に影響するため、このような特殊な環境で使用される直動型軸受装置は、更なる低発塵化が求められている。また、半導体製造装置のみならず、製品の製造に使用する装置類に用いられる軸受は、工程の稼働率向上のために、メンテナンスフリーで、かつ、寿命が長いことが望まれている。
【0010】
このような要望に応えるため、本願の発明者らは、固体潤滑膜を形成した直動型軸受装置について、種々研究を重ねてきた。そして、固体潤滑膜の膜厚のばらつきが発塵量に関与していることに注目し、PTFEを固定化するのに最適なバインダー種を検討した結果、ビスアリルナジイミド(以下、BANIと略称する)を用いることによって、均一で薄く、かつ、耐摩耗性に優れる固体潤滑膜が形成可能であることを見出した。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明によれば、直線状のガイド部材と、このガイド部材に組み付けられたスライドユニットと、前記ガイド部材とスライドユニットとの間に形成されたループ状軌道に組み込まれ、これらガイド部材とスライドユニットの相対的なスライド動作により転動循環する複数のボールとを備える直動型軸受装置において、前記ループ状軌道の軌道溝表面と前記ボールの表面の少なくとも一方に、ビスアリルナジイミドとポリテトラフルオロエチレンとからなる固体潤滑膜を形成することにより、特殊な環境下での使用においても発塵が少なく、かつ、寿命の長い直動型軸受装置とすることができる。
【0012】
本発明において固体潤滑膜形成のバインダーに使用されるビスアリルナジイミド(BisAllylNadic Imide)は、一般式(1)で表されるモノマー単位を有するポリイミド樹脂である。
【0013】
【化1】
Figure 2005009648
【0014】
一般式(1)中のRは脂肪族系または芳香族系の2価の炭化水素連結基を表す。このような2価の炭化水素連結基Rとしては、例えばC〜C20アルキレン基、C〜Cシクロアルキレン基、C〜C12芳香族基、−Aa−C−A’(aは0または1で、AおよびA’はそれぞれ独立してC〜Cのアルキレン基を示す)で表されるアルキレン・フェニレン基、−C−T−C−(Tは、メチレン基,エチリデン基,プロピリデン基を示す)で表される基等が挙げられる。中でも、下記式(2)、(3)、(4)で表される2価の炭化水素連結基が好ましい。
【0015】
【化2】
Figure 2005009648
【0016】
このBANIは、熱硬化性イミド樹脂の一種であり、以下のような特徴を備えている。イ.硬化前のBANIは、脂肪族アルコール,脂肪族炭化水素を除く殆どの有機溶剤に可溶で、特に、汎用溶剤に高い溶解性を示す。ロ.フッ素樹脂を含む多くの樹脂との相溶性に優れる。ハ.溶液状態での貯蔵安定性に優れる。ニ.金属だけでなく、エンジニアリングプラスチックへの密着性も良好。ホ.硬化後のBANIは、ガラス転移点が300℃以上と高い耐熱性を示し、機械的特性(曲げ強さ,弾性率,硬度,破壊靭性値等)にも優れる。
【0017】
また、固体潤滑膜の形成に用いられるPTFEは、一般に、平均分子量数十万から数百万のポリマーまたは2500以下のテルマーのいずれかで、粒子径が10〜20μmのものが広く用いられている。しかしながら、本発明に使用されるPTFEは、薄く均一な被膜を得るために、平均粒子径3μm以下(平均分子量1000〜10000)のポリマーを使用することが好ましく、更に好ましくは、平均粒子径1μmのポリマーを用いる。
【0018】
本発明における固体潤滑膜の膜厚は、好ましくは0.1〜5μm、更に好ましくは1〜3μmである。また、この固体潤滑膜の表面粗さは、±1μmとすることが望ましい。このように平滑で強固な被膜を可能な限り薄く形成することにより、この直動型軸受装置は、低発塵性と長寿命とを両立させることができる。
【0019】
なお、この固体潤滑膜の塗布方法は、特に限定されるものではないが、例えば、溶媒に所要量のBANIとPTFEを溶解させた処理溶液中に、被コーティング部材を浸漬(ディッピング)する方法が好適である。また、この方法は、固体潤滑膜の膜厚を、溶媒に溶解させたBANIおよびPTFEの濃度によって、容易に調節することができるというメリットもある。
【0020】
また、本発明のおける直動型軸受装置とは、断面が略角状のガイドレールに跨った鞍状スライドユニットを備えたタイプ(いわゆる直動ガイド、あるいはリニアウェイ,スライドシフターと呼ばれることもある)や、軸状ガイドシャフトの周囲に円筒状スライドユニットを備えたタイプの軸受装置を包含する。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつこの発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態において例に挙げた直動型軸受装置は、ガイドレール1に跨った鞍状スライドユニット2を備えたタイプの直動型軸受装置である。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態における直動型軸受装置の構造を示す一部断面図であり、図2は軸直交方向の模式的断面図である。なお、図2において、各部材の表面に形成された被膜4は、その厚みを誇張して描かれている。
【0023】
この直動型軸受装置は、ガイドレール1と、スライドユニット2と、多数のボール3とを主体として構成されている。ガイドレール1は、軸方向に伸びる略四角柱状部材であり、その両側面には、ボール3の案内溝となる断面略V字状の軌道溝1vが形成されている。
【0024】
スライドユニット2は、ケーシング21とこのケーシング21を軸方向両側から挟み込む側板22,22とから形成されている。鞍状の断面を有するケーシング6は、その内側側面の前記ガイドレール1の軌道溝1vに対向する位置に、断面略V字状の軌道溝21v,21vが形成されているとともに、この軌道溝21vの外側厚肉部には、ボール3の直径より大径のリターン孔21h,21hがそれぞれ形成されている。
【0025】
なお、側板22,22内には、ケーシング21の軸方向端部に達したボール3を、軌道溝21vからリターン孔21h(あるいはその逆)に送るU字状のターン孔(図示省略)が設けられており、このターン孔と上記軌道溝1v,21vおよびリターン孔21hによって構成されるループ状軌道に、複数のボール3が配置されている。また、これらのボール3は、スライドユニット2のスライド動作によって、このループ状軌道上を転動循環することとなる。
【0026】
これらガイドレール1、スライドユニット2を形成する材料には、ステンレス鋼、軸受鋼等を使用することができる。また、ボール3を形成する材料は、ステンレス鋼、軸受鋼の他、セラミックスとすることもできる。
【0027】
本実施の形態における直動型軸受装置の特徴は、図2の模式的断面図に示すように、ガイドレール1,ボール3の全表面と、リターン孔21hの内面を含むスライドユニット2の表面に、ビスアリルナジイミド(BANI)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とからなる被膜4が形成されている点である。この被膜4は、その成分であるPTFEの潤滑作用によって、固体潤滑膜として機能する。
【0028】
次に、この固体潤滑膜の形成方法の一例を説明する。
固体潤滑膜を形成するBANIとPTFEを溶解させる溶媒には、メタノール(メチルアルコール)が好適に使用される。まず、この溶媒に対し例えば5wt%の割合で、上記のBANIとPTFE(樹脂の割合=1:1)を分散・溶解させ、これらの樹脂を直動型軸受装置に付着させるための処理溶液とする。そして、組み立てられた完成状態の直動型軸受装置を、この処理溶液に浸漬してスライドユニット2を回転させ、軸方向に数回移動させることにより、ガイドレール1・スライドユニット2・ボール3の全表面およびリターン孔21hの内面に液状膜を付着させる(付着処理)。その後、この処理溶液から引き上げた直動型軸受装置を、40〜50℃で約1分間加熱し、液状膜に含まれている溶媒を除去する(乾燥処理)。そして、液状膜が付着した直動型軸受装置を、100〜200℃において数十分間加熱することにより、強固な被膜が形成される(硬化処理)。
【0029】
バインダーであるBANIの特徴は、溶媒に対する溶解性の高さと、薄膜状で硬化させる場合、比較的温和な条件で硬化させることができる点である。従って、このBANIを用いることによって、非常に薄く均一で強固な被膜を、容易に形成することが可能になった。
【0030】
このBANIとPTFEとを溶解させる溶媒には、脂肪族アルコール,脂肪族炭化水素を除く殆どの有機溶剤を使用することが可能である。本実施の形態で用いたメタノールの他に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP),ジメチルホルムアミド(DMF)等の非プロトン系極性溶剤類、アセトン,シクロヘキサン等のケトン類、酢酸メチル,酢酸エチル等のエステル類、トルエン,キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルクロロホルム,トリクロロエチレン等の有機ハロゲン化合物類を使用することができる。
【0031】
また、本実施の形態におけるBANIの好適な具体例としては、一般式(1)においてRが式(3)の構造のモノマー単位を有するポリイミド樹脂(丸善石油化学社製の「BANI−H(商品名)」)あるいは、一般式(1)においてRが式(4)の構造のモノマー単位を有するポリイミド樹脂(丸善石油化学社製の「BANI−X(商品名)」)を挙げることができる。
【0032】
【化3】
Figure 2005009648
【0033】
【化4】
Figure 2005009648
【0034】
以上の方法により、平均膜厚=1μm、表面粗さRa=0.5μmの固体潤滑膜(被膜4)を、直動型軸受装置の露出面全面に形成することができた。
【0035】
なお、以上の実施の形態においては、側面に各1条の軌道溝(案内溝)1vとそれに対応するボール3列を有するリニアウェイについて詳述したが、本発明は、これら軌道溝とボール列を側面に複数条有するタイプにも適用でき得ることは言うまでもない。また、本発明は、図3の一部断面図に示すような、軸状のガイドシャフト11の周囲に円筒状のスライドユニット12を備えたタイプの直動型軸受装置等にも適用可能である。
【0036】
また、この実施の形態においては、完成状態の直動型軸受装置を処理溶液に浸漬したが、直動型軸受装置を構成する部材を1つずつ単品で付着処理を行ない、その後乾燥処理、硬化処理を行なった上で直動型軸受装置を組み立てても良い。
【0037】
この固体潤滑膜は、必ずしも直動型軸受装置の露出面全体に形成する必要はなく、マスキング等を使用することにより、直動型軸受装置の転動部位、すなわち各軌道溝1v,21vの表面およびリターン孔21h,ターン孔の内面と、ボール3の表面のどちらか一方あるいは両方に形成しても良い。しかしながら、これら部材の全表面に形成すると、この被膜4が、半導体製造工程等で使用される腐食性ガスに対する耐食性を向上させるため、好適である。
【0038】
更にまた、これら固体潤滑膜が形成される各部材の表面には、あらかじめ硬質な被膜を別途形成しておいても良い。この硬質被膜の具体例としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜,TiC(炭化チタン)膜,TiN(窒化チタン)膜あるいはTiCN膜等が好ましい。
【0039】
この硬質被膜の好適な膜厚は、0.1〜5μm程度であり、PVD(物理的蒸着)法またはCVD(化学的蒸着)法等により、前記固体潤滑膜が形成される領域あるいは各部材の全表面に、容易に形成することが可能である。また、この硬質被膜は、前記固体潤滑膜の下地層として、軸受転走面の耐摩耗性を向上させ、直動型軸受装置の更なる長寿命化を図ることもできる。
【0040】
次に、以上の実施の形態における固体潤滑膜の効果を確認すべく、実際に直動型軸受装置の発塵寿命を測定した実験結果について述べる。なお、試料の作製に用いた直動型軸受装置は、呼び番号LWL9で、直径1.6mmのボール列を側面に各1条ずつ有するタイプであり、ガイドレール1とスライドユニット2およびボール3は、JIS規格SUS440Cのステンレス鋼製である。なお、試験には同じ規格の直動型軸受装置を2組使用した。
【0041】
図4と図5は、直動型軸受装置からの発塵量を測定する装置の概略を示す説明図である。図4はアクリル製カバー41の内部を示す側面図であり、図5は同じ装置を上方からみた図である。
【0042】
これら図中の符号1はガイドレール、2はスライドユニットであり、基台31を挟んだ上下面に、それぞれ1セットずつの直動型軸受装置が配置されている。また、2つのスライドユニット2は、ハウジング32によって一体とされており、このハウジング32内に配設された負荷用ばね33によって、図示上下方向に荷重がかけられるように構成されている。これら2つのスライドユニット2は、モータ等の回転駆動源(図示省略)によって往復するベルト34により、図示左右方向にスライド動作を行なう。なお、図中の符号35はモータ等に繋がるプーリ、36はリミットセンサ、37は往復数カウンタ、である。
【0043】
集塵管42には、発塵個数計測装置(パーティクルカウンター)43が接続されており、粒子径0.1μm以上の粒子の個数がカウントされ、その結果がレコーダ等(図示省略)に記録されるようになっている。なお、負荷用ばね32による荷重は、負荷圏にある各ボールの軌道溝に対する面圧が、最大1.6GPaになるように調整されている。
【0044】
発塵寿命試験条件
雰 囲 気:大気中(クリーンベンチ内:クラス10)
または 真空中(5×10−5Pa)
環 境 温 度:室温
ストローク:200mm
往 復 速 度:20〜30mm/sec
なお、スライドユニットの移動開始後、3分あたりの発塵量が1000個/cfに達した時点で試験を終了し、この間の経過時間を発塵寿命とした。
【0045】
発塵寿命の測定は、固体潤滑膜のバインダーの種類を変えて作製した2つの試料について行なった。
実施例1:BANIとPTFEからなる固体潤滑膜が、
膜厚0.5〜1μmに形成された直動型軸受装置を使用。
比較例1:ポリアミドイミドとPTFEからなる固体潤滑膜が、
膜厚5±2μmに形成された直動型軸受装置を使用。
【0046】
これらの試料の発塵寿命を比較した結果を図6に示す。このグラフは、「比較例1」の発塵寿命を基準として、「実施例1」の発塵寿命レベルを比較したものである。
【0047】
このグラフから明らかなように、本発明の直動型軸受装置は、従来の固体潤滑膜を有する直動型軸受装置に比べ、発塵寿命が向上している。特に、真空雰囲気下においては、大気雰囲気下より寿命が低下している比較例1に対し、本発明の実施例1は、大気雰囲気下より発塵寿命が向上していることが見てとれる。
【0048】
次に、BANIとPTFEとからなる固体潤滑膜の膜厚を変化させた場合の初期発塵量について、比較試験を行なった結果について述べる。なお、直動型軸受装置からの発塵量を測定する装置には、前述の発塵寿命試験で用いた装置と同じものを用いた。
【0049】
初期発塵量試験条件
雰 囲 気:大気中(クリーンベンチ内:クラス10)
環 境 温 度:室温
ストローク:250mm
往 復 速 度:20〜30mm/sec
測 定 時 間:スライドユニットの移動開始後、600分間
なお、発塵量は、計測120回の平均値である。
【0050】
初期発塵量の測定は、固体潤滑膜の膜厚を変えて作製した5つの試料について行なった。
実施例2:BANIとPTFEからなる固体潤滑膜が、
膜厚1μm以下に形成された直動型軸受装置を使用。
実施例3:BANIとPTFEからなる固体潤滑膜が、
膜厚1〜3μmに形成された直動型軸受装置を使用。
実施例4:BANIとPTFEからなる固体潤滑膜が、
膜厚3〜5μmに形成された直動型軸受装置を使用。
実施例5:BANIとPTFEからなる固体潤滑膜が、
膜厚5〜10μmに形成された直動型軸受装置を使用。
実施例6:BANIとPTFEからなる固体潤滑膜が、
膜厚10μm以上に形成された直動型軸受装置を使用。
【0051】
これらの試料の初期発塵量を比較した結果を図7に示す。このグラフは、「実施例2」の初期発塵量を基準として、これらの初期発塵レベルを比較したものである。
【0052】
このグラフから明らかなように、膜厚が薄いほど初期発塵量の低減効果が顕著であることが分かる。従って、膜厚のばらつきや形成の容易さ,コスト等も考慮した場合、本発明におけるBANIとPTFEからなる固体潤滑膜の膜厚は、好ましくは5μm以下、更に好ましくは1〜3μmである。
【0053】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、直動型軸受装置の転動部位に、ビスアリルナジイミドとポリテトラフルオロエチレンからなる固体潤滑膜を形成することにより、従来の直動型軸受装置に比べ、その発塵量を低減することができる。従って、この直動型軸受装置は、真空中やクリーンルーム内など特殊な環境下でも、長期に渡り安定して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態における直動型軸受装置の構造を示す一部断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における直動型軸受装置の構造を示す軸直交方向の模式的断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における別の構造の直動型軸受装置を示す一部断面図である。
【図4】直動型軸受装置の発塵量を測定する装置の概略を示す側面図である。
【図5】直動型軸受装置の発塵量を測定する装置の概略を示す上面図である。
【図6】本発明の固体潤滑膜を有する直動型軸受装置と従来の固体潤滑膜を有する直動型軸受装置の発塵寿命を比較するグラフである。
【図7】本発明の直動型軸受装置において、固体潤滑膜の膜厚を変化させた場合の初期発塵量を比較するグラフである。
【符号の説明】
1 ガイドレール
1v 軌道溝(案内溝)
2 スライドユニット
3 ボール
4 被膜
11 ガイドシャフト
12 スライドユニット
21 ケーシング
21h リターン孔
21v 軌道溝
22 側板
31 基台
32 ハウジング
33 負荷用ばね
34 ベルト
35 プーリ
36 リミットセンサ
37 往復数カウンタ
41 カバー
42 集塵管
43 パーティクルカウンター

Claims (2)

  1. 直線状のガイド部材と、このガイド部材に組み付けられたスライドユニットと、前記ガイド部材とスライドユニットとの間に形成されたループ状軌道に組み込まれ、これらガイド部材とスライドユニットの相対的なスライド動作により転動循環する複数のボールとを備える直動型軸受装置において、
    前記ループ状軌道の軌道溝表面と前記ボールの表面の少なくとも一方に、ビスアリルナジイミドとポリテトラフルオロエチレンとからなる被膜が形成されていることを特徴とする直動型軸受装置。
  2. 前記被膜の膜厚が、5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の直動型軸受装置。
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