JP2005005883A - 指向性アンテナ及びそのアンテナを用いた無線通信機並びにアンテナの指向性改善方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】使用者による無線通信機の取扱いによって影響を受けるアンテナの指向特性や利得の劣化を低減する。
【解決手段】グランド板10の上に誘電体部材14を介して給電放射電極11を配置し、給電放射電極11には給電手段12により励振電力を供給する。また、誘電体部材15は、比誘電率が5.5以上の値となる高い比誘電率の材料で構成し、グランド板10の裏側に比べて給電放射電極11を設置したグランド板10の表側の電波に強い指向性を持たせる。
【選択図】 図1
【解決手段】グランド板10の上に誘電体部材14を介して給電放射電極11を配置し、給電放射電極11には給電手段12により励振電力を供給する。また、誘電体部材15は、比誘電率が5.5以上の値となる高い比誘電率の材料で構成し、グランド板10の裏側に比べて給電放射電極11を設置したグランド板10の表側の電波に強い指向性を持たせる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、指向性アンテナ及びそのアンテナを用いた無線通信機並びにアンテナの指向性改善方法に関するものである。
【0002】
【背景技術】
携帯電話機等の移動体無線通信機には、逆F型アンテナ、ホイップアンテナ、ヘリカルアンテナ等が汎用されている。逆F型アンテナ3は、λ/4(λは使用周波数の波長)の電気長を有するアンテナとして、図15に示すように、回路基板1の表側(Front側)に設置して使用される。このアンテナ3は、接地電位となる回路基板1の一方の基板面にのみ設置されるため、例えば、900MHzの共振周波数に於ける指向特性は、図16に示すように、回路基板1の裏側(Back側)と比べて、表側(Front側)の指向性がほんの僅か強くなる傾向を示す。
【0003】
一方、ホイップアンテナ及びヘリカルアンテナは、無線通信機の筐体の外に突出して使用されるので、電波の放射方向に指向性の差異は殆ど認められない。このアンテナ2の共振周波数900MHzに於ける指向特性は、図17から明らかなように、回路基板の表側(Front側)と裏側(Back側)に於ける指向性は均等である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平8−250917号公報(第4−5頁、図1、図2,図4)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、無線通信機の使用時に、使用者による無線通信機の取扱いによって、使用者がアンテナの指向特性やアンテナの利得等に大きな影響を与えることがあった。この影響は、特に、ホイップアンテナ及びヘリカルアンテナに於いて顕著であり、逆F型アンテナ3に於いては、回路基板1の裏側(Back側)の指向性がより小さいことが望ましい。
【0006】
本発明は上述の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、使用周波数に於ける十分な帯域幅を確保しながら指向特性を改善したアンテナ及びそれを用いた無線通信機を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、アンテナから放射される電波の指向性を高めるアンテナの指向性改善方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明は次に示す構成をもって課題を解決する手段としている。即ち、第1の発明の指向性アンテナは、接地電位となるグランド板と、このグランド板から離間してグランド板と向かい合わせに配置された少なくとも1つの給電放射電極と、この給電放射電極に励振電力を供給する給電電極と、給電放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材を備えるアンテナであって、誘電体部材の比誘電率を5.5以上の値に設定することによりグランド板の裏側に比べて給電放射電極を設置したグランド板の表側の電波を強い指向性とする構成をもって課題を解決する手段としている。
【0009】
上述の発明によれば、給電放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材の比誘電率を5.5以上の高い比誘電率に設定するので、給電放射電極とグランド板との間に電界が集中し、給電放射電極に於ける放射エネルギー密度が高くなる。このため、グランド板を境にしてグランド板の裏側に比べて給電放射電極を設置したグランド板の表側に放射エネルギーが偏倚し、給電放射電極側の電波の指向性が強くなる。そして、放射エネルギーの偏倚は、放射エネルギーの損失なしに行われるので、アンテナの利得効率に影響を与えることはない。
【0010】
第2の発明の指向性アンテナは、上述の第1の発明に於いて、複数の給電放射電極を備え、各給電放射電極は、給電電極を共通にして分岐した分岐放射電極であって、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長と、互いに異なる周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長との何れか一方の実効線路長を備えることを特徴として構成されている。
【0011】
この構成に於いて、給電放射電極である各分岐放射電極は、同じ周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長を備えることも、また、異なる周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長を備えることも可能であり、単バンド、マルチバンドの何れのアンテナも構成できる。従って、各分岐放射電極を同一周波数帯域に於いて複共振させたときには、誘電体部材の比誘電率を高い値に設定しても、必要とする周波数帯域幅を確保することができ、また、夫々異なる周波数帯域に於いて共振させたときには、誘電体部材の比誘電率を必要な周波数帯域幅を確保する範囲に設定することにより、グランド板に対する給電放射電極側で強い指向性を示すものとなる。
【0012】
第3の発明の指向性アンテナは、上述の第1又は第2の発明に於いて、複数の無給電放射電極と、この無給電放射電極を接地するグランド電極とを備え、給電放射電極に少なくとも1つの無給電放射電極を近接して配置すると共に、近接配置された給電放射電極及び無給電放射電極は、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長を備えることを特徴として構成されている。
【0013】
この構成の採用により、夫々の給電放射電極と無給電放射電極は、同一周波数帯域に於いて複共振するので、広い周波数帯域幅を有する単バンドアンテナ又はマルチバンドアンテナが得られる。ここに、必要最小限度の周波数帯域幅を確保しつつ誘電体部材の比誘電率を大きくしてグランド板に於ける放射電極側の指向性を可能な限り強くしたアンテナとすることができる。
【0014】
また、マルチバンドアンテナに於いて、1つの給電放射電極に複数の無給電放射電極が近接配置された構成では、例えば、給電放射電極の基本波の共振周波数と高次高調波の共振周波数が利用され、複数の無給電放射電極は、基本波の共振周波数及び高次高調波の共振周波数と複共振するように、それらの実効線路長が調整される。
【0015】
第4の発明の指向性アンテナは、上述の何れかの発明に於いて、全部の放射電極の放射面をグランド板の表面に対して傾斜して設置することを特徴として構成されている。
【0016】
上述の構成としても、放射電極とグランド板の電界は放射電極の開放端の付近に集中するので、グランド板に対する放射電極の開放端側の高さを、放射電極とグランド板を平行に配設した場合と同じ高さに設定することで、電波の指向性及び周波数帯域幅は放射電極を傾斜させない場合と殆ど同じになる。また、放射電極とグランド板の間に誘電体部材を介在すると、放射電極とグランド板の間の電界集中が強くなるが、放射電極の開放端側に於ける誘電体部材の実行比誘電率に応じて、グランド板を境にした放射電極側の電波の指向性を制御することができる。
【0017】
第5の発明の指向性アンテナは、上述の何れかの発明に於いて、誘電体部材を、セラミック材料又は複合誘電体材料で形成することを特徴として構成されている。
【0018】
アンテナの誘電体部材は、比誘電率が5.5以上の高い比誘電率を有する電気的絶縁材料で有れば良く、合成樹脂材、特に、複合誘電体材料を用いる場合には、射出成形により任意の形状に構成することができる。例えば、放射電極を配設する誘電体部材の主面を傾斜面や曲面に形成したり、或いは、誘電体部材を中空に形成する等、アンテナを搭載する無線通信機の筐体設計等に於ける要求に容易に適合させることが可能となり、また、アンテナを安価に作ることができる。
【0019】
また、誘電体部材にセラミック材料を用いる場合には、誘電体部材の比誘電率を自由に且つ広範囲に設定することが可能であるので、電波の指向性を最優先にして誘電体部材の比誘電率を5.5以上に定めることができ、アンテナ設計の自由度が大きくなる利点がある。
【0020】
ここに、複合誘電体材料は、ベースとなる樹脂材に、この樹脂材よりも比誘電率の高い誘電体材料、例えば、セラミック粉末を混合して所定の比誘電率を有する誘電体材料としたものである。また、セラミック材料は主成分とする粉末の種類、配合比により所定の比誘電率を有する誘電体材料となる。
【0021】
第6の発明の指向性アンテナでは、上述の第5の発明に於いて、誘電体部材は、中空部を備えることを特徴として構成されている。
【0022】
この構成の採用により、誘電体部材は中空部の容積の分、軽量になる。また、誘電体部材を無線通信機の回路基板に搭載したとき、中空部直下の基板面に空間的な余裕が生じるので、この基板面にも電子部品を配置することができ、回路設計が容易になる。
【0023】
第7の発明の指向性アンテナは、上述の何れかの発明に於いて、給電放射電極及び無給電放射電極からなる複数の放射電極の内、少なくとも1つの放射電極の開放端に開放端容量を装荷することを特徴として構成されている。
【0024】
この構成によれば、電界の強い開放端に開放端容量を装荷することで、グランド板を境にした放射電極側に於ける電波の指向性をより一層強くすることができると共に、開放端容量に誘電体部材の比誘電率の影響が加わることで、更にその効果は強まる。また、給電放射電極と無給電放射電極の間の電界結合量を、開放端容量の容量値を変えることにより調整することができ、給電素子と無給電素子の複共振マッチングが容易になる。
【0025】
第8の発明の無線通信機は、無線周波の高周波回路を形成した回路基板を有し、この回路基板に高周波回路を被覆するシールドケースを設け、回路基板又はシールドケースをグランド板として兼用することにより上述の第1乃至第7に記載の指向性アンテナを備えることを特徴として構成されている。この構成により、アンテナの放射電極は回路基板と機能的に一体となる。
【0026】
第9の発明のアンテナの指向性改善方法は、接地電位となるグランド板と、このグランド板から離間して前記グランド板と向かい合わせに配置された少なくとも1つの放射電極と、この放射電極に励振電力を供給する給電手段と、放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材を備えるアンテナであって、誘電体部材の比誘電率を5.5以上の比誘電率に設定すると共に、誘電体部材の比誘電率の値に応じて、グランド板の放射電極を設置した表側に発生する電波に、グランド板の裏側に発生する電波よりも強い指向性を与えることを特徴としている。
【0027】
この方法によれば、誘電体部材の比誘電率をパラメータとして、グランド板の裏側に於ける電波の指向性に対する放射電極を設置したグランド板の表側に於ける電波の指向性の強さを制御することができる。即ち、誘電体部材の比誘電率を5.5以上としたとき、グランド板の裏側に比べてグランド板の表側に於いて電波の指向性の強さが顕在化するので、比誘電率5.5を起点として、誘電体部材の比誘電率を次第に増大することにより、グランド板の裏側に於ける電波の指向性を次第に弱くし、グランド板の表側に於ける電波の指向性を次第に強くする調整が可能となる。
【0028】
第10の発明のアンテナの指向性改善方法は、上述の第9の発明に於いて、同じ周波数帯域に於いて複共振する実効線路長を有する複数の放射電極を備え、それら放射電極の複共振により、必要とする周波数帯域幅を確保する範囲に於いて誘電体部材の比誘電率を高く設定することを特徴としている。
【0029】
上述の方法によれば、複数の放射電極を同じ周波数帯域に於いて複共振させることにより、必要とする周波数帯域幅を確保しながら誘電体部材の比誘電率の値を自由に設定して、アンテナの指向特性を制御することができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る実施形態例を図面に基づいて説明する。図1を用いて本発明に係る指向性アンテナの原理を説明する。
【0031】
図1に於いて、10はグランド板で、高周波電流に対して接地電位となっている。具体的には、グランド板10は、金属導体板又は電子部品を用いて電子回路が形成される回路基板である。11はアンテナの放射電極で、グランド板10の表面から一定間隔離し且つグランド板10の何れかの端縁に寄せて配置されている。放射電極11は、給電手段12によりインピーダンス整合回路13を介して高周波の信号源14、例えば、無線通信機の送受信回路(RF回路)に接続されている。15は比誘電率εrが5.5以上(εr≧5.5)となる高い誘電率を有する誘電体部材で、グランド板10と放射電極11の間に介在し且つ放射電極11に密着して設けられる。
【0032】
この構成に於いて、放射電極11に信号源14から高周波電流を供給すると、放射電極11は、その実効線路長(λ/4√εr)で定まる共振周波数fで励振され、放射電極11に共振電流が流れると共に、グランド板10には、その端縁に沿って筐体電流が流れる。このとき、放射電極11とグランド板10の間の電界結合は、誘電体部材15を挿入した部分、特に、放射電極11の開放端近傍に於いて強くなる。
【0033】
この電界結合の強さは、誘電体部材15の比誘電率εrが高くなる程大きくなる。換言すれば、誘電体部材15の比誘電率εrを高くするにつれて放射電極11を流れる高周波電流の電流量が増大し、逆にグランド板10を流れる筐体電流が減少する。そして、グランド板10から放射電極11への電流の偏倚はアンテナに於ける放射エネルギーの損失なく行われる。
【0034】
この結果、放射電極11及びグランド板10から放射される電波の電界強度は、放射電極11を設置したグランド板10の表側(Front 側)が放射電極11を設置していないグランド板10の裏側(Back 側)よりも強くなる。
【0035】
従って、グランド板10の長手方向をZ軸とし、グランド板10の板面と垂直な方向をX軸としたときのZX面に於ける指向特性16は、図1のように、グランド板10の表側に大きく片寄った形態となる。斯くして、電波の指向特性は、グランド板10と放射電極11の間に介在する誘電体部材15の比誘電率εrの値が大きくなるにつれて、グランド板10の表側がグランド板10の裏側よりも強い指向性を示すようになる。
【0036】
このことから、無線通信機の使用時に、使用者が手等をグランド板10の裏側に近づけたとき、使用者に起因してアンテナの指向特性及びアンテナの利得が影響を受けうる割合が小さくなる。
【0037】
図2を用いて、上述したアンテナの原理を用いた指向性アンテナの第1実施形態例を説明する。アンテナのグランド板には、電子回路を形成することができる回路基板20が用いられる。指向性アンテナは、回路基板20と、回路基板20の表面に貼着された直方体の誘電体部材21と、この誘電体部材21の表面に貼り付けられた導電板22と、この導電板22に励振電力を供給する給電ピン23を有して構成される。
【0038】
誘電体部材21は、例えば、比誘電率が5.5以上の高い比誘電率を有する、合成樹脂材料、複合誘電体材料、セラミック材料等を用いて形成される。誘電体部材21の厚みは、回路基板20から表主面26までの高さhで示される。導電板22は、銅、銅合金、アルミニウム等の薄い導電板をL字形に折り曲げて形成されており、電波を放射する放射電極24と、この放射電極24を接地するグランド電極25とを有して構成されている。放射電極24は、誘電体部材21の表主面26に接着されて回路基板20から高さhだけ離れて設置され、グランド電極25は、誘電体部材21の側面27に接着固定されている。グランド電極25の下端は、回路基板20の接地ランド28に半田付けされている。
【0039】
また、給電ピン23は、回路基板20の給電ランド29に接続されると共に、接地ランド28から電気的に絶縁された状態で回路基板20に植立されており、誘電体部材21に設けた貫通孔30を通して放射電極24まで延び、その先端は、放射電極24の入力インピーダンスがほぼ50Ωとなる付近に接続されている。
【0040】
上述の構成に於いて、導電板22の放射電極24は、使用周波数の波長λ、例えば、900MHzの周波数の波長に対し、λ/4√εrの実効線路長に設定され、誘電体部材21の比誘電率εrによる波長短縮効果により、誘電体部材21が無い場合の実効線路長に比べて短い寸法に構成されている。また、回路基板20は、高周波電流に対しては、接地ランド28を設けなくてもグランドとして機能するので、接地ランド28は、グランド電極25との半田接続に必要な範囲で設けても良い。
【0041】
導電板22の放射電極24に給電ピン23を介して高周波の励振電力を供給すると、誘電体部材21の存在により、放射電極24と回路基板20の間に電界が集中し、放射電極24に於ける放射エネルギー密度が高くなる。この結果、回路基板20に於ける放射電極24を設置した側の電波の指向性が強くなる。
【0042】
なお、上述のアンテナに於いて、回路基板20にRF回路を形成し、このRF回路をシールドケースで覆ったときには、シールドケースは回路基板20と共に高周波電流に対して接地電位となるので、アンテナのグランド板としてシールドケースの上面が利用できる。この場合、導電板22への給電は、給電ピン23に代えて同軸ケーブルが使用される。
【0043】
図3及び図4を用いて、図2示す構成の指向性アンテナを用いて行った実験結果を説明する。図3は、回路基板20の長手方向をZ軸とし、回路基板20の短手方向をY軸とし、回路基板20の基板面と直交する方向をX軸としときのZX面に於ける指向特性である。Z軸を中心として左側が放射電極24を設置した回路基板20の表側の指向性を示し、右側が回路基板20の裏側の指向性を示す。また、図4は、誘電体部材21の比誘電率εrを変数として変化させたときのF/B比(Front 側の指向性/Back 側の指向性)を示す。なお、指向特性は、アンテナの利得を実測して求めた。
【0044】
図3(A)は、εr=1のとき、即ち、空気の誘電率の場合、換言すれば、誘電体部材21を装荷せず、導電板22を単独で用いた場合に於ける電波の指向特性を示す。図3(A)のFront 側の−90°方向の利得が−0.5dBdで、Back 側の+90°方向の利得が−1.3dBdとなるので、F/B比は、図4のA点に示すように、F/B=0.8dBdとなり、僅かにFront 側の指向性が高くなる傾向を示す。導電板22に誘電体部材21を装荷し、誘電体部材21の比誘電率εrを徐々に高くしたとき、比誘電率がεr=5.5の点で有為なF/B比になった(εr=1:空気層時に比べて電波暗室の測定誤差±0.5dBd分以上のF/B比上昇が認められた)と判断できた。
【0045】
誘電体部材21の比誘電率εrをεr=5.5から僅かに高くしてεr=6とすると、図4のB点に示すように、F/B比は、ほぼF/B=2dBdとなり、電波の指向特性は、図3(B)に示すように、回路基板20のBack 側に比べて導電板22側(Front 側)の指向性が強くなることが理解できる。また、誘電体部材21の比誘電率εrをεr=6から大きく増大してεr=38とすると、F/B比は、図4のC点に示すように、ほぼF/B=2.8dBdとなり、電波の指向特性は、図3(C)に示すように、回路基板20のFront 側に強い指向性を示し、Back 側の指向性が顕著に縮小することが理解できる。
【0046】
また、図4から明らかなように、誘電体部材21の比誘電率εrを徐々に高くすると、εr=1からεr=6の間でF/B比は急激に上昇するが、比誘電率εrがεr=6以上では、比誘電率εrの増加の割合に比べてF/B比の上昇が緩やかな特性曲線となる。ここに、F/B比の特性曲線は、ほぼF/B=2dBdを変更点として飽和状態となることが理解できる。
【0047】
上述のように、導電板22の放射電極24と回路基板20の間に介在する誘電体部材21の比誘電率εrを高くするほど、回路基板20のFront 側に放射される電波の指向性が強くなり、逆に、回路基板20のBack 側に放射される電波の指向性が縮小する。しかし、放射電極24と回路基板20の間に誘電体部材21を挿入すると、放射電極24の共振時に於けるQ値が高くなり、共振周波数に於けるリターンロス特性が深くなって、図5に示すように、共振周波数が属する周波数帯域の帯域幅が狭くなる。
【0048】
図5は、図2示す構成の指向性アンテナを用いて行った実測値である。図5から明らかなように、放射電極24と回路基板20の間に誘電体部材21を装荷しない比誘電率εr=1のとき、アンテナの共振周波数が属する周波数帯域に於ける帯域幅 Bw が最も広くなり、ほぼ Bw =170MHzの帯域幅となる。そして、誘電体部材21の比誘電率εrを増大すると、Bw =170MHzの帯域幅を起点として、アンテナの帯域幅 Bw は指数関数的に狭くなる。
【0049】
即ち、誘電体部材21の比誘電率εrをεr=6とすれば、ほぼ Bw =125MHzの帯域幅が得られるの対し、Bw =70MHzの帯域幅を確保しようとすれば、誘電体部材21の比誘電率εrは、εr=18程度に制限され、アンテナの指向特性の改善も制約される。アンテナの指向特性を優先してεr=38とすれば、帯域幅 Bw は、Bw =35MHz程度となり、実用に供しないアンテナとなる。
【0050】
従って、図2示すような単共振のアンテナに於いて、70MHzから125MHz程度の帯域幅 Bw を確保しようとすれば、誘電体部材21の比誘電率εrをεr=6〜18の範囲に設定する必要がある。ここに、アンテナの指向特性を最優先してアンテナを作製するときには、誘電体部材21の比誘電率εrはεr=18以上の設定となり、このような一段と高い比誘電率εrの場合に於いても十分な帯域幅 Bw を確保するためには、複共振のアンテナを構成する必要がある。
【0051】
図6に示す指向性アンテナの第2実施形態例は、図1の原理を用いた単バンド複共振のアンテナである。このアンテナでは、例えば、銅、銅合金等の薄い導電板を打ち抜いて形成した給電素子35と無給電素子36が用意される。給電素子35は、板状の給電放射電極37と、この給電放射電極37の端縁の角部に於いて後述する如く折り曲げて形成したストリップ状の給電電極38とを有して構成され、また、無給電素子36は、板状の無給電放射電極39と、この無給電放射電極39の端縁の角部に於いて後述する如く折り曲げて形成したストリップ状のグランド電極40とを有して構成されている。
【0052】
給電素子35及び無給電素子36は、注型金型の中に並べて配置され、例えば、複合誘電体材料を用いた射出成形によりアウトサート成形される。即ち、給電放射電極37及び無給電放射電極39の放射面と、給電電極38及びグランド電極40の表面は、誘電体部材41の表面と面一の状態で露出している。給電素子35及び無給電素子36を一体に注型した断面四角形の誘電体部材41は、回路基板45の表面に、その基板端45aに寄せ且つ基板端45a側に給電電極38及びグランド電極40を向けて固定されている。
【0053】
また、給電放射電極37及び無給電放射電極39を配置した誘電体部材41の表主面42は、回路基板45の表面に対し、誘電体部材41を設置した回路基板45の基板端45aに向かって所定の傾斜角度θで傾いており、これに伴って、給電放射電極37及び無給電放射電極39も、それらの開放端37a,39aから給電電極38及びグランド電極40に向けて俯角θで傾いた形態となっている。給電放射電極37及び無給電放射電極39に対する給電電極38及びグランド電極40の折り曲げ角度は、鈍角(90°+θ)となる。
【0054】
誘電体部材41の垂直な側面43に位置する給電電極38及びグランド電極40は、誘電体部材41の裏主面44側から表主面42側へ近接して平行に延びた配置となっており、給電素子35の給電電極38の下端は、回路基板45に設けた給電ランド46に半田付けされ、同様に、無給電素子36のグランド電極40の下端は、接地ランド47に半田付けされている。給電ランド46と接地ランド47は電気的に絶縁されている。
【0055】
上述の構成に於いて、給電素子35の給電放射電極37は、例えば、900MHzの周波数帯域に属する周波数f1で共振する実効線路長に設定され、無給電素子36の無給電放射電極39は、給電素子35と同じ周波数帯域に属し且つ給電素子35の共振周波数f1に近接した周波数f2で共振する実効線路長に設定されている。
【0056】
従って、給電ランド46から給電電極38を介して給電放射電極37に励振電力を供給することにより、給電電極38とグランド電極40の磁界結合と、給電放射電極37と無給電放射電極39の電界結合により無給電素子36に共振エネルギーが供給され、給電素子35と無給電素子36は、図7に示すように、共振周波数f1,f2に於いて複共振する。
【0057】
このような複共振のアンテナとすることにより、使用周波数の帯域幅 Bw を2倍以上に広げることができる。このため、指向特性を重視したアンテナを設計するとき、アンテナの誘電体部材41の比誘電率εrを、図5に於いて、アンテナの帯域幅 Bw が最も狭くなるεr=38に設定することができる。この場合にも、帯域幅 Bw は70MHz以上を確保できるので、単バンドのアンテナとして十分に実用に供することができる。
【0058】
また、給電放射電極37及び無給電放射電極39を励振したとき、給電放射電極37及び無給電放射電極39と回路基板45との間の電界は、給電放射電極37及び無給電放射電極39の開放端37a,39aの付近に集中するので、開放端37a,39a側に於いて誘電体部材41の比誘電率εrの影響を強く受け、給電放射電極37及び無給電放射電極39の開放端37a,39aに於ける放射エネルギー密度が高くなる。
【0059】
よって、誘電体部材41の比誘電率εrと、回路基板45から給電放射電極37及び無給電放射電極39の開放端37a,39aまでの高さh1とを図2に示すアンテナ同じに設定すれば、アンテナの指向特性及び帯域幅は、表主面26を傾斜させない長方体の誘電体部材21を用いた図2のアンテナの指向特性及び帯域幅と殆ど同じになる。換言すれば、給電放射電極37及び無給電放射電極39を傾斜させても、誘電体部材41の比誘電率εrに応じて回路基板45のBack 側に比べて回路基板45のFront 側に於ける電波の指向性が強くなる。
【0060】
そして、表主面26を傾斜させたことで、図2のアンテナに比べて、誘電体部材41の体積が小さくなってアンテナが小型、軽量になる。また、表主面26を傾斜させたアンテナを携帯端末に用いるとき、そのアンテナは、回路基板45の基板端45aに固定されて図示しない端末ケースに収納され、端末ケースのトップ側の丸みを帯びた先端部に配置されても、給電側がケース内壁と接触することはなく、ケースデザインとの親和性が良好となる。
【0061】
なお、図8に示すように、誘電体部材48は、裏主面側から開口して誘電体部材48の内部を中空49にしても良い。このような誘電体部材48であっても、その実効比誘電率を大きくすることにより、上述と同様に、電波の指向特性を改善できる。
【0062】
誘電体部材48の内部を中空49とすることにより、誘電体部材48の高い比誘電率を保持しながら、誘電体部材48を軽量化することができる。特に、誘電体部材48をセラミック材料で形成するときには、誘電体部材48の軽量化が顕著になる。また、中空49を形成した誘電体部材48を回路基板45に搭載したとき、誘電体部材48の中空部分に於ける回路基板45のスペースを利用して電子部品を配置することができる。
【0063】
図9は、図1の原理を用いて指向特性を改善した指向性アンテナの第3実施形態例を示す。このアンテナは、単共振の一対の給電素子を備えたデュアルバンドアンテナとして構成されている。
【0064】
図9に於いて、アンテナは、誘電体部材となる高比誘電率εrの基体50と、この基体50の表面に、例えば、銅、銅合金等の良導電体をスクリーン印刷法等を用いて形成される一対の給電素子51,52及び給電電極59,60と、基体50を設置する回路基板53とを有して構成される。基体50は、例えば、セラミック材料を用いて形成され、傾斜した表主面54と、これと対向する水平な裏主面55と、垂直な側面56とを有して構成されている。
【0065】
一対の給電素子51,52は、夫々、基体50の傾斜した表主面54に並べて形成した給電放射電極57,58と、基体50の側面56に形成され裏主面55側から表主面54側へ平行に延びる給電電極59,60とを有して構成されている。給電電極59,60は、傾斜した表主面54が下降した側の高さ寸法が短寸の側面56aに形成されている。そして、給電電極59の上端は、給電放射電極57に直接接続され、また、給電電極60の上端は、給電放射電極58に直接接続され、それらの下端は、回路基板53に形成されたRF回路の入出力端子となる共通の給電ランド61に接続されている。
【0066】
回路基板53は、グランド板として用いており、無線通信機に内蔵されている長方形の回路基板が兼用される。給電ランド61は回路基板53の端縁53aに設けられており、給電素子51,52を形成した基体50は、給電電極59,60を端縁53aに向けて回路基板53の長手方向の一方端縁53aに寄せて配置されている。
【0067】
上述のように、給電放射電極57,58を形成した基体50の表主面54は、アンテナを設置した回路基板53の端縁53aに向けて傾斜しており、給電放射電極57,58は、給電電極59,60側に比べて給電放射電極57,58の開放端57a,58a側が回路基板53の表面から離れるように傾いた配置となっている。また、給電電極59,60を形成した基体50の側面56aの幅は、回路基板53の短手方向の幅よりも若干狭く、給電電極59,60は、短寸の側面56aの略中央部分に配設されている。
【0068】
また、給電素子51の給電放射電極57には、面中に側縁から切り込んだスリット57bが設けられて長い実効線路長に形成されており、例えば、900MHzの周波数帯域の周波数f3で共振する実効線路長に設定され、もう一方の給電素子52の給電放射電極58は、例えば、1800MHzの周波数帯域の周波数f4で共振する実効線路長に形成されている。
【0069】
上述の構成に於いて、給電素子51,52に給電ランド61を介して励振電力を供給すると、給電素子51,52は、図10に示すように、異なる周波数帯域で共振する。この場合、給電素子51,52は単共振であるので、上述したように、アンテナの指向特性を現すF/B比を2dBd以上(F/B≧2dBd)に改善し且つアンテナの周波数帯域幅 Bw として、例えば、Bw =70MHz以上の帯域幅を確保しようとすれば、図4及び図5の実測値から判断して、基体50の比誘電率εrは、εr=6からεr=18程度の範囲に設定される。
【0070】
また、基体50の表主面を傾けたことにより、給電素子51,52の給電放射電極57,58の法線方向への放射特性が良くなり電波の指向性が強くなる。
【0071】
更に、給電素子51,52の給電放射電極57,58は、給電電極59,60側に比べて開放端57a,58a側が接地電位となる回路基板53の表面から離れた構成となっているので、給電放射電極57,58の開放端57a,58a側と回路基板53の電界結合を弱める如く作用し、共振周波数f3,f4の帯域幅の減少を緩和する。
【0072】
図11は、図1の原理を用いて指向特性を改善した指向性アンテナの第4実施形態例を示す。このアンテナは、図9の第3実施形態例の基体よりも高い比誘電率の基体を用いると共に複共振する給電素子と無給電素子を備えたデュアルバンドアンテナとして構成されている。なお、第3実施形態例と同一構成部分には同一符号を付し、その共通部分の重複説明は省略する。
【0073】
図11に於いて、基体50の表面には、給電素子63と、この給電素子63の両側に配置されて無給電素子64,65が形成されている。具体的に述べると、基体50の傾斜した表主面54には、給電素子63の分岐放射電極66,67が並べて形成されており、分岐放射電極66,67は、基体50の短寸側面56aに形成された共通の給電電極68に接続されている。この給電電極68は、回路基板53の図示しないRF回路の入出力端子となる給電ランド61に接続されている。
【0074】
分岐放射電極66の面中には、その側縁から切り込んで開放端側に向けて延びるスリット69が設けられており、分岐放射電極66は、例えば、900MHzの周波数帯域に属する周波数f5で共振する実効線路長に形成されている。また、分岐放射電極67は、分岐放射電極66の共振周波数f5とは異なる周波数帯域、例えば、1800MHz帯に属する周波数f6で共振する実効線路長に設定されている。
【0075】
給電素子63の分岐放射電極66の隣には、近接して無給電素子64の無給電放射電極70が形成され、基体50の短寸側面56aに形成されたストリップ状のグランド電極71を介して回路基板53の図示しない接地ランドに接続されている。また、無給電放射電極70の面中には、グランド電極71を接続した部分から開放端70a側に向けて延び且つ開放端70a側で折り返した鉤形のスリット72が設けられ、給電素子63の分岐放射電極66の共振周波数f5よりも若干低い周波数f7で共振する実効線路長に設定されている。
【0076】
また、無給電放射電極70の開放端70aは、基体50の表主面54が上昇した側の高さ寸法が長寸の側面(長寸側面)56bに形成された容量装荷電極73に接続されている。容量装荷電極73は、基体50の長寸側面56bに形成された容量装荷グランド電極74と向かい合っており、容量装荷電極73と容量装荷グランド電極74により無給電素子64に開放端容量が装荷される。
【0077】
更に、給電素子63の分岐放射電極67の隣には、無給電素子65の無給電放射電極75が形成されており、無給電放射電極70と同様に、ストリップ状のグランド電極76を介して回路基板53の接地ランドに接続されている。そして、無給電放射電極75は、分岐放射電極67の共振周波数f6よりも少し低い周波数f8で共振する実効線路長に設定されている。
【0078】
上述の給電素子63の分岐放射電極66と無給電素子64の無給電放射電極70は、対の放射電極となって、図12に示すように、同じ周波数帯域、例えば、900MHzの周波数帯域に於いて複共振する。このとき、例えば、無給電素子64の開放端容量の容量値を調整することにより良好な複共振の整合を得ることができる。
【0079】
同様に、給電素子63の分岐放射電極67と無給電素子65の無給電放射電極75は、対の放射電極を形成し、それらの実効線路長は、分岐放射電極66と無給電放射電極70が複共振する周波数帯域から離れた高い周波数帯域、例えば、1800MHzの周波数帯域に於いて複共振する如く調整されている。
【0080】
上述の構成に於いて、アンテナの体積を図9に示す第3実施形態例と同等に構成するときには、基体50の比誘電率εrを、εr=18からεr=38の範囲に定め、波長短縮効果を利用して分岐放射電極66,67と無給電放射電極70,75の実効線路長を設定する。分岐放射電極66,67及び無給電放射電極70,75と回路基板53の間の電界は、基体50の比誘電率εrを高く設定したことにより、分岐放射電極66,67及び無給電放射電極70,75の夫々の開放端付近に集中する度合い強くなり、アンテナの電波の指向性は、図4の実測値を参照すると、F/B比が2.5dBd以上(F/B≧2.5dBd)と強くなる。
【0081】
また、対となる放射電極66,70及び放射電極67,75を複共振させるので、第3実施形態例の単共振の場合に比べて、図12に示すように、夫々の周波数帯域に於いて帯域幅 Bw が2倍以上に広がり、最小限度、70MHz以上の実用に供する帯域幅を確保することができる。このように、各周波数帯域に於いて複数の放射電極による複共振を実現すれば、アンテナに於ける放射電極を設置した側の指向性を強めても、実用に供する十分な広さの帯域幅を確保することができる。
【0082】
上述した第3及び第4実施形態例に於いて、基体50の比誘電率εrが5.5以上であれば、基体50の内部は中空であっても良い。例えば、基体50を、図8に示すように、裏主面側から開口した箱形状としても良く、また、図13に示すように、基体80の傾斜した表主面81と、短寸側面82と、長寸側面83を残し、両側側面と裏主面を除いて断面略U字形としても良く、更に、図14に示すように、基体85の傾斜した表主面86と、短寸側面87と、両側側面88を残し、裏主面と長寸側面を除いて内部を中空とした構成としても良い。
【0083】
【発明の効果】
請求項1の指向性アンテナによれば、給電放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材の比誘電率を5.5以上の高い比誘電率に設定することにより、誘電体部材の比誘電率の値に応じて、グランド板の裏側に於ける電波の指向性を縮小し、給電放射電極側の電波の指向性を強めることができる。従って、無線通信機の使用者の手等がグランド板の裏側から近づいてもアンテナ特性の劣化を抑えることができる。
【0084】
また、アンテナの給電放射電極側に於ける電波の指向性の改善が、給電放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材の比誘電率の値により行われ、例えば、八木アンテナのように、導波器や反射器を必要としないので、アンテナの小型化ができ、更には、無線通信機の小型化、薄型化に資することができる。
【0085】
請求項2の指向性アンテナによれば、複数の給電放射電極が、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長を備えるときは、それら給電放射電極を複共振させることができ、グランド板を境にして給電放射電極側に於ける電波の指向性を強く構成しても実用に供する周波数帯域幅を確実に確保することができる。また、複数の給電放射電極が、互いに異なる周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長を備えるときは、マルチバンドの指向性アンテナを得ることができる。
【0086】
請求項3の指向性アンテナによれば、給電放射電極及び無給電放射電極は、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長を備えるので、給電放射電極及び無給電放射電極の複共振により広い周波数帯域幅を確保したマルチバンドの指向性アンテナを得ることができる。
【0087】
請求項4の指向性アンテナによれば、全部の放射電極の放射面をグランド板の表面に対して傾斜して設置するが、放射電極とグランド板の間の電界は放射電極の開放端付近に集中するので、電波の指向性及び帯域幅は、放射電極の放射面をグランド板の表面に対し平行に設置したアンテナと殆ど同じになり、誘電体部材の比誘電率によって指向特性を設定することができる。また、放射電極の放射面が傾斜している分、誘電体部材の体積が小さくなり小型のアンテナとすることができる。
【0088】
請求項5の指向性アンテナによれば、誘電体部材を、セラミック材料又は複合誘電体材料で形成するので、誘電体部材の比誘電率を自由に設定してアンテナの電波の指向性を改善することができる。
【0089】
請求項6の指向性アンテナによれば、誘電体部材は中空部を備えるので、アンテナの軽量化、ひいては無線通信機の軽量化に資することができる。また、無線通信機の回路基板面を有効に活用することができる。
【0090】
請求項7の指向性アンテナによれば、放射電極の開放端に開放端容量が装荷されるので、給電素子と無給電素子の複共振を容易に実現することができる。
【0091】
請求項8の無線通信機によれば、指向特性の良いアンテナを用いるので、良好な無線通信を行うことができる。
【0092】
請求項9のアンテナの指向性改善方法によれば、比誘電率を5.5以上とする誘電体部材の比誘電率の値に応じて、グランド板の放射電極を設置した表側に発生する電波に、グランド板の裏側に発生する電波よりも強い指向性を与えるので、誘電体部材の比誘電率の値によりアンテナの指向特性の強弱を制御することができる。
【0093】
請求項10のアンテナの指向性改善方法によれば、複数の放射電極の複共振により、必要とする周波数帯域幅を確保する範囲に於いて誘電体部材の比誘電率を高く設定するので、指向特性を改善した実用的なアンテナが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る指向性アンテナの原理を説明する概略構成図である。
【図2】本発明に係る指向性アンテナの第1実施形態例を説明する一部断面斜視図である。
【図3】図2の指向性アンテナに於ける電波の指向特性の実測図で、(A)は比誘電率が1のときの実測図、(B)は比誘電率が6のときの実測図、(C)は比誘電率が38のときの実測図である。
【図4】図2の指向性アンテナに於ける比誘電率に対するF/B比を示す特性図である。
【図5】図2の指向性アンテナに於ける比誘電率に対する周波数帯域幅を示す特性図である。
【図6】本発明に係る指向性アンテナの第2実施形態例を説明する一部斜視図である。
【図7】図6の指向性アンテナの周波数に対するリターンロス特性図である。
【図8】図6の指向性アンテナに於ける誘電体部材の他の実施形態例を示す一部断面側面図である。
【図9】本発明に係る指向性アンテナの第3実施形態例を説明する斜視図である。
【図10】図9の指向性アンテナの周波数に対するリターンロス特性図である。
【図11】本発明に係る指向性アンテナの第4実施形態例を説明する斜視図で、(A)は正面斜視図、(B)は背面斜視図である。
【図12】図11の指向性アンテナの周波数に対するリターンロス特性図である。
【図13】図9及び図11の指向性アンテナに於ける基体の他の実施形態例を示す斜視図である。
【図14】図9及び図11の指向性アンテナに於ける基体の更に他の実施形態例を示す斜視図である。
【図15】従来の逆F型アンテナを示す斜視図である。
【図16】図15の逆F型アンテナの比誘電率に対する電波の指向特性図である。
【図17】従来周知のヘリカルアンテナの比誘電率に対する電波の指向特性図である。
【符号の説明】
10 グランド板
11,24 放射電極
12 給電手段
15,21,41,48 誘電体部材
20,45,53 回路基板
22 導電板
23 給電ピン
25,40,71,76 グランド電極
37,57,58 給電放射電極
38,59,60,68 給電電極
39,70,75 無給電放射電極
50,80,85 基体
66,67 分岐放射電極
73 容量装荷電極
74 容量装荷グランド電極
【発明の属する技術分野】
本発明は、指向性アンテナ及びそのアンテナを用いた無線通信機並びにアンテナの指向性改善方法に関するものである。
【0002】
【背景技術】
携帯電話機等の移動体無線通信機には、逆F型アンテナ、ホイップアンテナ、ヘリカルアンテナ等が汎用されている。逆F型アンテナ3は、λ/4(λは使用周波数の波長)の電気長を有するアンテナとして、図15に示すように、回路基板1の表側(Front側)に設置して使用される。このアンテナ3は、接地電位となる回路基板1の一方の基板面にのみ設置されるため、例えば、900MHzの共振周波数に於ける指向特性は、図16に示すように、回路基板1の裏側(Back側)と比べて、表側(Front側)の指向性がほんの僅か強くなる傾向を示す。
【0003】
一方、ホイップアンテナ及びヘリカルアンテナは、無線通信機の筐体の外に突出して使用されるので、電波の放射方向に指向性の差異は殆ど認められない。このアンテナ2の共振周波数900MHzに於ける指向特性は、図17から明らかなように、回路基板の表側(Front側)と裏側(Back側)に於ける指向性は均等である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平8−250917号公報(第4−5頁、図1、図2,図4)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、無線通信機の使用時に、使用者による無線通信機の取扱いによって、使用者がアンテナの指向特性やアンテナの利得等に大きな影響を与えることがあった。この影響は、特に、ホイップアンテナ及びヘリカルアンテナに於いて顕著であり、逆F型アンテナ3に於いては、回路基板1の裏側(Back側)の指向性がより小さいことが望ましい。
【0006】
本発明は上述の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、使用周波数に於ける十分な帯域幅を確保しながら指向特性を改善したアンテナ及びそれを用いた無線通信機を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、アンテナから放射される電波の指向性を高めるアンテナの指向性改善方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明は次に示す構成をもって課題を解決する手段としている。即ち、第1の発明の指向性アンテナは、接地電位となるグランド板と、このグランド板から離間してグランド板と向かい合わせに配置された少なくとも1つの給電放射電極と、この給電放射電極に励振電力を供給する給電電極と、給電放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材を備えるアンテナであって、誘電体部材の比誘電率を5.5以上の値に設定することによりグランド板の裏側に比べて給電放射電極を設置したグランド板の表側の電波を強い指向性とする構成をもって課題を解決する手段としている。
【0009】
上述の発明によれば、給電放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材の比誘電率を5.5以上の高い比誘電率に設定するので、給電放射電極とグランド板との間に電界が集中し、給電放射電極に於ける放射エネルギー密度が高くなる。このため、グランド板を境にしてグランド板の裏側に比べて給電放射電極を設置したグランド板の表側に放射エネルギーが偏倚し、給電放射電極側の電波の指向性が強くなる。そして、放射エネルギーの偏倚は、放射エネルギーの損失なしに行われるので、アンテナの利得効率に影響を与えることはない。
【0010】
第2の発明の指向性アンテナは、上述の第1の発明に於いて、複数の給電放射電極を備え、各給電放射電極は、給電電極を共通にして分岐した分岐放射電極であって、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長と、互いに異なる周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長との何れか一方の実効線路長を備えることを特徴として構成されている。
【0011】
この構成に於いて、給電放射電極である各分岐放射電極は、同じ周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長を備えることも、また、異なる周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長を備えることも可能であり、単バンド、マルチバンドの何れのアンテナも構成できる。従って、各分岐放射電極を同一周波数帯域に於いて複共振させたときには、誘電体部材の比誘電率を高い値に設定しても、必要とする周波数帯域幅を確保することができ、また、夫々異なる周波数帯域に於いて共振させたときには、誘電体部材の比誘電率を必要な周波数帯域幅を確保する範囲に設定することにより、グランド板に対する給電放射電極側で強い指向性を示すものとなる。
【0012】
第3の発明の指向性アンテナは、上述の第1又は第2の発明に於いて、複数の無給電放射電極と、この無給電放射電極を接地するグランド電極とを備え、給電放射電極に少なくとも1つの無給電放射電極を近接して配置すると共に、近接配置された給電放射電極及び無給電放射電極は、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長を備えることを特徴として構成されている。
【0013】
この構成の採用により、夫々の給電放射電極と無給電放射電極は、同一周波数帯域に於いて複共振するので、広い周波数帯域幅を有する単バンドアンテナ又はマルチバンドアンテナが得られる。ここに、必要最小限度の周波数帯域幅を確保しつつ誘電体部材の比誘電率を大きくしてグランド板に於ける放射電極側の指向性を可能な限り強くしたアンテナとすることができる。
【0014】
また、マルチバンドアンテナに於いて、1つの給電放射電極に複数の無給電放射電極が近接配置された構成では、例えば、給電放射電極の基本波の共振周波数と高次高調波の共振周波数が利用され、複数の無給電放射電極は、基本波の共振周波数及び高次高調波の共振周波数と複共振するように、それらの実効線路長が調整される。
【0015】
第4の発明の指向性アンテナは、上述の何れかの発明に於いて、全部の放射電極の放射面をグランド板の表面に対して傾斜して設置することを特徴として構成されている。
【0016】
上述の構成としても、放射電極とグランド板の電界は放射電極の開放端の付近に集中するので、グランド板に対する放射電極の開放端側の高さを、放射電極とグランド板を平行に配設した場合と同じ高さに設定することで、電波の指向性及び周波数帯域幅は放射電極を傾斜させない場合と殆ど同じになる。また、放射電極とグランド板の間に誘電体部材を介在すると、放射電極とグランド板の間の電界集中が強くなるが、放射電極の開放端側に於ける誘電体部材の実行比誘電率に応じて、グランド板を境にした放射電極側の電波の指向性を制御することができる。
【0017】
第5の発明の指向性アンテナは、上述の何れかの発明に於いて、誘電体部材を、セラミック材料又は複合誘電体材料で形成することを特徴として構成されている。
【0018】
アンテナの誘電体部材は、比誘電率が5.5以上の高い比誘電率を有する電気的絶縁材料で有れば良く、合成樹脂材、特に、複合誘電体材料を用いる場合には、射出成形により任意の形状に構成することができる。例えば、放射電極を配設する誘電体部材の主面を傾斜面や曲面に形成したり、或いは、誘電体部材を中空に形成する等、アンテナを搭載する無線通信機の筐体設計等に於ける要求に容易に適合させることが可能となり、また、アンテナを安価に作ることができる。
【0019】
また、誘電体部材にセラミック材料を用いる場合には、誘電体部材の比誘電率を自由に且つ広範囲に設定することが可能であるので、電波の指向性を最優先にして誘電体部材の比誘電率を5.5以上に定めることができ、アンテナ設計の自由度が大きくなる利点がある。
【0020】
ここに、複合誘電体材料は、ベースとなる樹脂材に、この樹脂材よりも比誘電率の高い誘電体材料、例えば、セラミック粉末を混合して所定の比誘電率を有する誘電体材料としたものである。また、セラミック材料は主成分とする粉末の種類、配合比により所定の比誘電率を有する誘電体材料となる。
【0021】
第6の発明の指向性アンテナでは、上述の第5の発明に於いて、誘電体部材は、中空部を備えることを特徴として構成されている。
【0022】
この構成の採用により、誘電体部材は中空部の容積の分、軽量になる。また、誘電体部材を無線通信機の回路基板に搭載したとき、中空部直下の基板面に空間的な余裕が生じるので、この基板面にも電子部品を配置することができ、回路設計が容易になる。
【0023】
第7の発明の指向性アンテナは、上述の何れかの発明に於いて、給電放射電極及び無給電放射電極からなる複数の放射電極の内、少なくとも1つの放射電極の開放端に開放端容量を装荷することを特徴として構成されている。
【0024】
この構成によれば、電界の強い開放端に開放端容量を装荷することで、グランド板を境にした放射電極側に於ける電波の指向性をより一層強くすることができると共に、開放端容量に誘電体部材の比誘電率の影響が加わることで、更にその効果は強まる。また、給電放射電極と無給電放射電極の間の電界結合量を、開放端容量の容量値を変えることにより調整することができ、給電素子と無給電素子の複共振マッチングが容易になる。
【0025】
第8の発明の無線通信機は、無線周波の高周波回路を形成した回路基板を有し、この回路基板に高周波回路を被覆するシールドケースを設け、回路基板又はシールドケースをグランド板として兼用することにより上述の第1乃至第7に記載の指向性アンテナを備えることを特徴として構成されている。この構成により、アンテナの放射電極は回路基板と機能的に一体となる。
【0026】
第9の発明のアンテナの指向性改善方法は、接地電位となるグランド板と、このグランド板から離間して前記グランド板と向かい合わせに配置された少なくとも1つの放射電極と、この放射電極に励振電力を供給する給電手段と、放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材を備えるアンテナであって、誘電体部材の比誘電率を5.5以上の比誘電率に設定すると共に、誘電体部材の比誘電率の値に応じて、グランド板の放射電極を設置した表側に発生する電波に、グランド板の裏側に発生する電波よりも強い指向性を与えることを特徴としている。
【0027】
この方法によれば、誘電体部材の比誘電率をパラメータとして、グランド板の裏側に於ける電波の指向性に対する放射電極を設置したグランド板の表側に於ける電波の指向性の強さを制御することができる。即ち、誘電体部材の比誘電率を5.5以上としたとき、グランド板の裏側に比べてグランド板の表側に於いて電波の指向性の強さが顕在化するので、比誘電率5.5を起点として、誘電体部材の比誘電率を次第に増大することにより、グランド板の裏側に於ける電波の指向性を次第に弱くし、グランド板の表側に於ける電波の指向性を次第に強くする調整が可能となる。
【0028】
第10の発明のアンテナの指向性改善方法は、上述の第9の発明に於いて、同じ周波数帯域に於いて複共振する実効線路長を有する複数の放射電極を備え、それら放射電極の複共振により、必要とする周波数帯域幅を確保する範囲に於いて誘電体部材の比誘電率を高く設定することを特徴としている。
【0029】
上述の方法によれば、複数の放射電極を同じ周波数帯域に於いて複共振させることにより、必要とする周波数帯域幅を確保しながら誘電体部材の比誘電率の値を自由に設定して、アンテナの指向特性を制御することができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る実施形態例を図面に基づいて説明する。図1を用いて本発明に係る指向性アンテナの原理を説明する。
【0031】
図1に於いて、10はグランド板で、高周波電流に対して接地電位となっている。具体的には、グランド板10は、金属導体板又は電子部品を用いて電子回路が形成される回路基板である。11はアンテナの放射電極で、グランド板10の表面から一定間隔離し且つグランド板10の何れかの端縁に寄せて配置されている。放射電極11は、給電手段12によりインピーダンス整合回路13を介して高周波の信号源14、例えば、無線通信機の送受信回路(RF回路)に接続されている。15は比誘電率εrが5.5以上(εr≧5.5)となる高い誘電率を有する誘電体部材で、グランド板10と放射電極11の間に介在し且つ放射電極11に密着して設けられる。
【0032】
この構成に於いて、放射電極11に信号源14から高周波電流を供給すると、放射電極11は、その実効線路長(λ/4√εr)で定まる共振周波数fで励振され、放射電極11に共振電流が流れると共に、グランド板10には、その端縁に沿って筐体電流が流れる。このとき、放射電極11とグランド板10の間の電界結合は、誘電体部材15を挿入した部分、特に、放射電極11の開放端近傍に於いて強くなる。
【0033】
この電界結合の強さは、誘電体部材15の比誘電率εrが高くなる程大きくなる。換言すれば、誘電体部材15の比誘電率εrを高くするにつれて放射電極11を流れる高周波電流の電流量が増大し、逆にグランド板10を流れる筐体電流が減少する。そして、グランド板10から放射電極11への電流の偏倚はアンテナに於ける放射エネルギーの損失なく行われる。
【0034】
この結果、放射電極11及びグランド板10から放射される電波の電界強度は、放射電極11を設置したグランド板10の表側(Front 側)が放射電極11を設置していないグランド板10の裏側(Back 側)よりも強くなる。
【0035】
従って、グランド板10の長手方向をZ軸とし、グランド板10の板面と垂直な方向をX軸としたときのZX面に於ける指向特性16は、図1のように、グランド板10の表側に大きく片寄った形態となる。斯くして、電波の指向特性は、グランド板10と放射電極11の間に介在する誘電体部材15の比誘電率εrの値が大きくなるにつれて、グランド板10の表側がグランド板10の裏側よりも強い指向性を示すようになる。
【0036】
このことから、無線通信機の使用時に、使用者が手等をグランド板10の裏側に近づけたとき、使用者に起因してアンテナの指向特性及びアンテナの利得が影響を受けうる割合が小さくなる。
【0037】
図2を用いて、上述したアンテナの原理を用いた指向性アンテナの第1実施形態例を説明する。アンテナのグランド板には、電子回路を形成することができる回路基板20が用いられる。指向性アンテナは、回路基板20と、回路基板20の表面に貼着された直方体の誘電体部材21と、この誘電体部材21の表面に貼り付けられた導電板22と、この導電板22に励振電力を供給する給電ピン23を有して構成される。
【0038】
誘電体部材21は、例えば、比誘電率が5.5以上の高い比誘電率を有する、合成樹脂材料、複合誘電体材料、セラミック材料等を用いて形成される。誘電体部材21の厚みは、回路基板20から表主面26までの高さhで示される。導電板22は、銅、銅合金、アルミニウム等の薄い導電板をL字形に折り曲げて形成されており、電波を放射する放射電極24と、この放射電極24を接地するグランド電極25とを有して構成されている。放射電極24は、誘電体部材21の表主面26に接着されて回路基板20から高さhだけ離れて設置され、グランド電極25は、誘電体部材21の側面27に接着固定されている。グランド電極25の下端は、回路基板20の接地ランド28に半田付けされている。
【0039】
また、給電ピン23は、回路基板20の給電ランド29に接続されると共に、接地ランド28から電気的に絶縁された状態で回路基板20に植立されており、誘電体部材21に設けた貫通孔30を通して放射電極24まで延び、その先端は、放射電極24の入力インピーダンスがほぼ50Ωとなる付近に接続されている。
【0040】
上述の構成に於いて、導電板22の放射電極24は、使用周波数の波長λ、例えば、900MHzの周波数の波長に対し、λ/4√εrの実効線路長に設定され、誘電体部材21の比誘電率εrによる波長短縮効果により、誘電体部材21が無い場合の実効線路長に比べて短い寸法に構成されている。また、回路基板20は、高周波電流に対しては、接地ランド28を設けなくてもグランドとして機能するので、接地ランド28は、グランド電極25との半田接続に必要な範囲で設けても良い。
【0041】
導電板22の放射電極24に給電ピン23を介して高周波の励振電力を供給すると、誘電体部材21の存在により、放射電極24と回路基板20の間に電界が集中し、放射電極24に於ける放射エネルギー密度が高くなる。この結果、回路基板20に於ける放射電極24を設置した側の電波の指向性が強くなる。
【0042】
なお、上述のアンテナに於いて、回路基板20にRF回路を形成し、このRF回路をシールドケースで覆ったときには、シールドケースは回路基板20と共に高周波電流に対して接地電位となるので、アンテナのグランド板としてシールドケースの上面が利用できる。この場合、導電板22への給電は、給電ピン23に代えて同軸ケーブルが使用される。
【0043】
図3及び図4を用いて、図2示す構成の指向性アンテナを用いて行った実験結果を説明する。図3は、回路基板20の長手方向をZ軸とし、回路基板20の短手方向をY軸とし、回路基板20の基板面と直交する方向をX軸としときのZX面に於ける指向特性である。Z軸を中心として左側が放射電極24を設置した回路基板20の表側の指向性を示し、右側が回路基板20の裏側の指向性を示す。また、図4は、誘電体部材21の比誘電率εrを変数として変化させたときのF/B比(Front 側の指向性/Back 側の指向性)を示す。なお、指向特性は、アンテナの利得を実測して求めた。
【0044】
図3(A)は、εr=1のとき、即ち、空気の誘電率の場合、換言すれば、誘電体部材21を装荷せず、導電板22を単独で用いた場合に於ける電波の指向特性を示す。図3(A)のFront 側の−90°方向の利得が−0.5dBdで、Back 側の+90°方向の利得が−1.3dBdとなるので、F/B比は、図4のA点に示すように、F/B=0.8dBdとなり、僅かにFront 側の指向性が高くなる傾向を示す。導電板22に誘電体部材21を装荷し、誘電体部材21の比誘電率εrを徐々に高くしたとき、比誘電率がεr=5.5の点で有為なF/B比になった(εr=1:空気層時に比べて電波暗室の測定誤差±0.5dBd分以上のF/B比上昇が認められた)と判断できた。
【0045】
誘電体部材21の比誘電率εrをεr=5.5から僅かに高くしてεr=6とすると、図4のB点に示すように、F/B比は、ほぼF/B=2dBdとなり、電波の指向特性は、図3(B)に示すように、回路基板20のBack 側に比べて導電板22側(Front 側)の指向性が強くなることが理解できる。また、誘電体部材21の比誘電率εrをεr=6から大きく増大してεr=38とすると、F/B比は、図4のC点に示すように、ほぼF/B=2.8dBdとなり、電波の指向特性は、図3(C)に示すように、回路基板20のFront 側に強い指向性を示し、Back 側の指向性が顕著に縮小することが理解できる。
【0046】
また、図4から明らかなように、誘電体部材21の比誘電率εrを徐々に高くすると、εr=1からεr=6の間でF/B比は急激に上昇するが、比誘電率εrがεr=6以上では、比誘電率εrの増加の割合に比べてF/B比の上昇が緩やかな特性曲線となる。ここに、F/B比の特性曲線は、ほぼF/B=2dBdを変更点として飽和状態となることが理解できる。
【0047】
上述のように、導電板22の放射電極24と回路基板20の間に介在する誘電体部材21の比誘電率εrを高くするほど、回路基板20のFront 側に放射される電波の指向性が強くなり、逆に、回路基板20のBack 側に放射される電波の指向性が縮小する。しかし、放射電極24と回路基板20の間に誘電体部材21を挿入すると、放射電極24の共振時に於けるQ値が高くなり、共振周波数に於けるリターンロス特性が深くなって、図5に示すように、共振周波数が属する周波数帯域の帯域幅が狭くなる。
【0048】
図5は、図2示す構成の指向性アンテナを用いて行った実測値である。図5から明らかなように、放射電極24と回路基板20の間に誘電体部材21を装荷しない比誘電率εr=1のとき、アンテナの共振周波数が属する周波数帯域に於ける帯域幅 Bw が最も広くなり、ほぼ Bw =170MHzの帯域幅となる。そして、誘電体部材21の比誘電率εrを増大すると、Bw =170MHzの帯域幅を起点として、アンテナの帯域幅 Bw は指数関数的に狭くなる。
【0049】
即ち、誘電体部材21の比誘電率εrをεr=6とすれば、ほぼ Bw =125MHzの帯域幅が得られるの対し、Bw =70MHzの帯域幅を確保しようとすれば、誘電体部材21の比誘電率εrは、εr=18程度に制限され、アンテナの指向特性の改善も制約される。アンテナの指向特性を優先してεr=38とすれば、帯域幅 Bw は、Bw =35MHz程度となり、実用に供しないアンテナとなる。
【0050】
従って、図2示すような単共振のアンテナに於いて、70MHzから125MHz程度の帯域幅 Bw を確保しようとすれば、誘電体部材21の比誘電率εrをεr=6〜18の範囲に設定する必要がある。ここに、アンテナの指向特性を最優先してアンテナを作製するときには、誘電体部材21の比誘電率εrはεr=18以上の設定となり、このような一段と高い比誘電率εrの場合に於いても十分な帯域幅 Bw を確保するためには、複共振のアンテナを構成する必要がある。
【0051】
図6に示す指向性アンテナの第2実施形態例は、図1の原理を用いた単バンド複共振のアンテナである。このアンテナでは、例えば、銅、銅合金等の薄い導電板を打ち抜いて形成した給電素子35と無給電素子36が用意される。給電素子35は、板状の給電放射電極37と、この給電放射電極37の端縁の角部に於いて後述する如く折り曲げて形成したストリップ状の給電電極38とを有して構成され、また、無給電素子36は、板状の無給電放射電極39と、この無給電放射電極39の端縁の角部に於いて後述する如く折り曲げて形成したストリップ状のグランド電極40とを有して構成されている。
【0052】
給電素子35及び無給電素子36は、注型金型の中に並べて配置され、例えば、複合誘電体材料を用いた射出成形によりアウトサート成形される。即ち、給電放射電極37及び無給電放射電極39の放射面と、給電電極38及びグランド電極40の表面は、誘電体部材41の表面と面一の状態で露出している。給電素子35及び無給電素子36を一体に注型した断面四角形の誘電体部材41は、回路基板45の表面に、その基板端45aに寄せ且つ基板端45a側に給電電極38及びグランド電極40を向けて固定されている。
【0053】
また、給電放射電極37及び無給電放射電極39を配置した誘電体部材41の表主面42は、回路基板45の表面に対し、誘電体部材41を設置した回路基板45の基板端45aに向かって所定の傾斜角度θで傾いており、これに伴って、給電放射電極37及び無給電放射電極39も、それらの開放端37a,39aから給電電極38及びグランド電極40に向けて俯角θで傾いた形態となっている。給電放射電極37及び無給電放射電極39に対する給電電極38及びグランド電極40の折り曲げ角度は、鈍角(90°+θ)となる。
【0054】
誘電体部材41の垂直な側面43に位置する給電電極38及びグランド電極40は、誘電体部材41の裏主面44側から表主面42側へ近接して平行に延びた配置となっており、給電素子35の給電電極38の下端は、回路基板45に設けた給電ランド46に半田付けされ、同様に、無給電素子36のグランド電極40の下端は、接地ランド47に半田付けされている。給電ランド46と接地ランド47は電気的に絶縁されている。
【0055】
上述の構成に於いて、給電素子35の給電放射電極37は、例えば、900MHzの周波数帯域に属する周波数f1で共振する実効線路長に設定され、無給電素子36の無給電放射電極39は、給電素子35と同じ周波数帯域に属し且つ給電素子35の共振周波数f1に近接した周波数f2で共振する実効線路長に設定されている。
【0056】
従って、給電ランド46から給電電極38を介して給電放射電極37に励振電力を供給することにより、給電電極38とグランド電極40の磁界結合と、給電放射電極37と無給電放射電極39の電界結合により無給電素子36に共振エネルギーが供給され、給電素子35と無給電素子36は、図7に示すように、共振周波数f1,f2に於いて複共振する。
【0057】
このような複共振のアンテナとすることにより、使用周波数の帯域幅 Bw を2倍以上に広げることができる。このため、指向特性を重視したアンテナを設計するとき、アンテナの誘電体部材41の比誘電率εrを、図5に於いて、アンテナの帯域幅 Bw が最も狭くなるεr=38に設定することができる。この場合にも、帯域幅 Bw は70MHz以上を確保できるので、単バンドのアンテナとして十分に実用に供することができる。
【0058】
また、給電放射電極37及び無給電放射電極39を励振したとき、給電放射電極37及び無給電放射電極39と回路基板45との間の電界は、給電放射電極37及び無給電放射電極39の開放端37a,39aの付近に集中するので、開放端37a,39a側に於いて誘電体部材41の比誘電率εrの影響を強く受け、給電放射電極37及び無給電放射電極39の開放端37a,39aに於ける放射エネルギー密度が高くなる。
【0059】
よって、誘電体部材41の比誘電率εrと、回路基板45から給電放射電極37及び無給電放射電極39の開放端37a,39aまでの高さh1とを図2に示すアンテナ同じに設定すれば、アンテナの指向特性及び帯域幅は、表主面26を傾斜させない長方体の誘電体部材21を用いた図2のアンテナの指向特性及び帯域幅と殆ど同じになる。換言すれば、給電放射電極37及び無給電放射電極39を傾斜させても、誘電体部材41の比誘電率εrに応じて回路基板45のBack 側に比べて回路基板45のFront 側に於ける電波の指向性が強くなる。
【0060】
そして、表主面26を傾斜させたことで、図2のアンテナに比べて、誘電体部材41の体積が小さくなってアンテナが小型、軽量になる。また、表主面26を傾斜させたアンテナを携帯端末に用いるとき、そのアンテナは、回路基板45の基板端45aに固定されて図示しない端末ケースに収納され、端末ケースのトップ側の丸みを帯びた先端部に配置されても、給電側がケース内壁と接触することはなく、ケースデザインとの親和性が良好となる。
【0061】
なお、図8に示すように、誘電体部材48は、裏主面側から開口して誘電体部材48の内部を中空49にしても良い。このような誘電体部材48であっても、その実効比誘電率を大きくすることにより、上述と同様に、電波の指向特性を改善できる。
【0062】
誘電体部材48の内部を中空49とすることにより、誘電体部材48の高い比誘電率を保持しながら、誘電体部材48を軽量化することができる。特に、誘電体部材48をセラミック材料で形成するときには、誘電体部材48の軽量化が顕著になる。また、中空49を形成した誘電体部材48を回路基板45に搭載したとき、誘電体部材48の中空部分に於ける回路基板45のスペースを利用して電子部品を配置することができる。
【0063】
図9は、図1の原理を用いて指向特性を改善した指向性アンテナの第3実施形態例を示す。このアンテナは、単共振の一対の給電素子を備えたデュアルバンドアンテナとして構成されている。
【0064】
図9に於いて、アンテナは、誘電体部材となる高比誘電率εrの基体50と、この基体50の表面に、例えば、銅、銅合金等の良導電体をスクリーン印刷法等を用いて形成される一対の給電素子51,52及び給電電極59,60と、基体50を設置する回路基板53とを有して構成される。基体50は、例えば、セラミック材料を用いて形成され、傾斜した表主面54と、これと対向する水平な裏主面55と、垂直な側面56とを有して構成されている。
【0065】
一対の給電素子51,52は、夫々、基体50の傾斜した表主面54に並べて形成した給電放射電極57,58と、基体50の側面56に形成され裏主面55側から表主面54側へ平行に延びる給電電極59,60とを有して構成されている。給電電極59,60は、傾斜した表主面54が下降した側の高さ寸法が短寸の側面56aに形成されている。そして、給電電極59の上端は、給電放射電極57に直接接続され、また、給電電極60の上端は、給電放射電極58に直接接続され、それらの下端は、回路基板53に形成されたRF回路の入出力端子となる共通の給電ランド61に接続されている。
【0066】
回路基板53は、グランド板として用いており、無線通信機に内蔵されている長方形の回路基板が兼用される。給電ランド61は回路基板53の端縁53aに設けられており、給電素子51,52を形成した基体50は、給電電極59,60を端縁53aに向けて回路基板53の長手方向の一方端縁53aに寄せて配置されている。
【0067】
上述のように、給電放射電極57,58を形成した基体50の表主面54は、アンテナを設置した回路基板53の端縁53aに向けて傾斜しており、給電放射電極57,58は、給電電極59,60側に比べて給電放射電極57,58の開放端57a,58a側が回路基板53の表面から離れるように傾いた配置となっている。また、給電電極59,60を形成した基体50の側面56aの幅は、回路基板53の短手方向の幅よりも若干狭く、給電電極59,60は、短寸の側面56aの略中央部分に配設されている。
【0068】
また、給電素子51の給電放射電極57には、面中に側縁から切り込んだスリット57bが設けられて長い実効線路長に形成されており、例えば、900MHzの周波数帯域の周波数f3で共振する実効線路長に設定され、もう一方の給電素子52の給電放射電極58は、例えば、1800MHzの周波数帯域の周波数f4で共振する実効線路長に形成されている。
【0069】
上述の構成に於いて、給電素子51,52に給電ランド61を介して励振電力を供給すると、給電素子51,52は、図10に示すように、異なる周波数帯域で共振する。この場合、給電素子51,52は単共振であるので、上述したように、アンテナの指向特性を現すF/B比を2dBd以上(F/B≧2dBd)に改善し且つアンテナの周波数帯域幅 Bw として、例えば、Bw =70MHz以上の帯域幅を確保しようとすれば、図4及び図5の実測値から判断して、基体50の比誘電率εrは、εr=6からεr=18程度の範囲に設定される。
【0070】
また、基体50の表主面を傾けたことにより、給電素子51,52の給電放射電極57,58の法線方向への放射特性が良くなり電波の指向性が強くなる。
【0071】
更に、給電素子51,52の給電放射電極57,58は、給電電極59,60側に比べて開放端57a,58a側が接地電位となる回路基板53の表面から離れた構成となっているので、給電放射電極57,58の開放端57a,58a側と回路基板53の電界結合を弱める如く作用し、共振周波数f3,f4の帯域幅の減少を緩和する。
【0072】
図11は、図1の原理を用いて指向特性を改善した指向性アンテナの第4実施形態例を示す。このアンテナは、図9の第3実施形態例の基体よりも高い比誘電率の基体を用いると共に複共振する給電素子と無給電素子を備えたデュアルバンドアンテナとして構成されている。なお、第3実施形態例と同一構成部分には同一符号を付し、その共通部分の重複説明は省略する。
【0073】
図11に於いて、基体50の表面には、給電素子63と、この給電素子63の両側に配置されて無給電素子64,65が形成されている。具体的に述べると、基体50の傾斜した表主面54には、給電素子63の分岐放射電極66,67が並べて形成されており、分岐放射電極66,67は、基体50の短寸側面56aに形成された共通の給電電極68に接続されている。この給電電極68は、回路基板53の図示しないRF回路の入出力端子となる給電ランド61に接続されている。
【0074】
分岐放射電極66の面中には、その側縁から切り込んで開放端側に向けて延びるスリット69が設けられており、分岐放射電極66は、例えば、900MHzの周波数帯域に属する周波数f5で共振する実効線路長に形成されている。また、分岐放射電極67は、分岐放射電極66の共振周波数f5とは異なる周波数帯域、例えば、1800MHz帯に属する周波数f6で共振する実効線路長に設定されている。
【0075】
給電素子63の分岐放射電極66の隣には、近接して無給電素子64の無給電放射電極70が形成され、基体50の短寸側面56aに形成されたストリップ状のグランド電極71を介して回路基板53の図示しない接地ランドに接続されている。また、無給電放射電極70の面中には、グランド電極71を接続した部分から開放端70a側に向けて延び且つ開放端70a側で折り返した鉤形のスリット72が設けられ、給電素子63の分岐放射電極66の共振周波数f5よりも若干低い周波数f7で共振する実効線路長に設定されている。
【0076】
また、無給電放射電極70の開放端70aは、基体50の表主面54が上昇した側の高さ寸法が長寸の側面(長寸側面)56bに形成された容量装荷電極73に接続されている。容量装荷電極73は、基体50の長寸側面56bに形成された容量装荷グランド電極74と向かい合っており、容量装荷電極73と容量装荷グランド電極74により無給電素子64に開放端容量が装荷される。
【0077】
更に、給電素子63の分岐放射電極67の隣には、無給電素子65の無給電放射電極75が形成されており、無給電放射電極70と同様に、ストリップ状のグランド電極76を介して回路基板53の接地ランドに接続されている。そして、無給電放射電極75は、分岐放射電極67の共振周波数f6よりも少し低い周波数f8で共振する実効線路長に設定されている。
【0078】
上述の給電素子63の分岐放射電極66と無給電素子64の無給電放射電極70は、対の放射電極となって、図12に示すように、同じ周波数帯域、例えば、900MHzの周波数帯域に於いて複共振する。このとき、例えば、無給電素子64の開放端容量の容量値を調整することにより良好な複共振の整合を得ることができる。
【0079】
同様に、給電素子63の分岐放射電極67と無給電素子65の無給電放射電極75は、対の放射電極を形成し、それらの実効線路長は、分岐放射電極66と無給電放射電極70が複共振する周波数帯域から離れた高い周波数帯域、例えば、1800MHzの周波数帯域に於いて複共振する如く調整されている。
【0080】
上述の構成に於いて、アンテナの体積を図9に示す第3実施形態例と同等に構成するときには、基体50の比誘電率εrを、εr=18からεr=38の範囲に定め、波長短縮効果を利用して分岐放射電極66,67と無給電放射電極70,75の実効線路長を設定する。分岐放射電極66,67及び無給電放射電極70,75と回路基板53の間の電界は、基体50の比誘電率εrを高く設定したことにより、分岐放射電極66,67及び無給電放射電極70,75の夫々の開放端付近に集中する度合い強くなり、アンテナの電波の指向性は、図4の実測値を参照すると、F/B比が2.5dBd以上(F/B≧2.5dBd)と強くなる。
【0081】
また、対となる放射電極66,70及び放射電極67,75を複共振させるので、第3実施形態例の単共振の場合に比べて、図12に示すように、夫々の周波数帯域に於いて帯域幅 Bw が2倍以上に広がり、最小限度、70MHz以上の実用に供する帯域幅を確保することができる。このように、各周波数帯域に於いて複数の放射電極による複共振を実現すれば、アンテナに於ける放射電極を設置した側の指向性を強めても、実用に供する十分な広さの帯域幅を確保することができる。
【0082】
上述した第3及び第4実施形態例に於いて、基体50の比誘電率εrが5.5以上であれば、基体50の内部は中空であっても良い。例えば、基体50を、図8に示すように、裏主面側から開口した箱形状としても良く、また、図13に示すように、基体80の傾斜した表主面81と、短寸側面82と、長寸側面83を残し、両側側面と裏主面を除いて断面略U字形としても良く、更に、図14に示すように、基体85の傾斜した表主面86と、短寸側面87と、両側側面88を残し、裏主面と長寸側面を除いて内部を中空とした構成としても良い。
【0083】
【発明の効果】
請求項1の指向性アンテナによれば、給電放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材の比誘電率を5.5以上の高い比誘電率に設定することにより、誘電体部材の比誘電率の値に応じて、グランド板の裏側に於ける電波の指向性を縮小し、給電放射電極側の電波の指向性を強めることができる。従って、無線通信機の使用者の手等がグランド板の裏側から近づいてもアンテナ特性の劣化を抑えることができる。
【0084】
また、アンテナの給電放射電極側に於ける電波の指向性の改善が、給電放射電極とグランド板との間に介在する誘電体部材の比誘電率の値により行われ、例えば、八木アンテナのように、導波器や反射器を必要としないので、アンテナの小型化ができ、更には、無線通信機の小型化、薄型化に資することができる。
【0085】
請求項2の指向性アンテナによれば、複数の給電放射電極が、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長を備えるときは、それら給電放射電極を複共振させることができ、グランド板を境にして給電放射電極側に於ける電波の指向性を強く構成しても実用に供する周波数帯域幅を確実に確保することができる。また、複数の給電放射電極が、互いに異なる周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長を備えるときは、マルチバンドの指向性アンテナを得ることができる。
【0086】
請求項3の指向性アンテナによれば、給電放射電極及び無給電放射電極は、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長を備えるので、給電放射電極及び無給電放射電極の複共振により広い周波数帯域幅を確保したマルチバンドの指向性アンテナを得ることができる。
【0087】
請求項4の指向性アンテナによれば、全部の放射電極の放射面をグランド板の表面に対して傾斜して設置するが、放射電極とグランド板の間の電界は放射電極の開放端付近に集中するので、電波の指向性及び帯域幅は、放射電極の放射面をグランド板の表面に対し平行に設置したアンテナと殆ど同じになり、誘電体部材の比誘電率によって指向特性を設定することができる。また、放射電極の放射面が傾斜している分、誘電体部材の体積が小さくなり小型のアンテナとすることができる。
【0088】
請求項5の指向性アンテナによれば、誘電体部材を、セラミック材料又は複合誘電体材料で形成するので、誘電体部材の比誘電率を自由に設定してアンテナの電波の指向性を改善することができる。
【0089】
請求項6の指向性アンテナによれば、誘電体部材は中空部を備えるので、アンテナの軽量化、ひいては無線通信機の軽量化に資することができる。また、無線通信機の回路基板面を有効に活用することができる。
【0090】
請求項7の指向性アンテナによれば、放射電極の開放端に開放端容量が装荷されるので、給電素子と無給電素子の複共振を容易に実現することができる。
【0091】
請求項8の無線通信機によれば、指向特性の良いアンテナを用いるので、良好な無線通信を行うことができる。
【0092】
請求項9のアンテナの指向性改善方法によれば、比誘電率を5.5以上とする誘電体部材の比誘電率の値に応じて、グランド板の放射電極を設置した表側に発生する電波に、グランド板の裏側に発生する電波よりも強い指向性を与えるので、誘電体部材の比誘電率の値によりアンテナの指向特性の強弱を制御することができる。
【0093】
請求項10のアンテナの指向性改善方法によれば、複数の放射電極の複共振により、必要とする周波数帯域幅を確保する範囲に於いて誘電体部材の比誘電率を高く設定するので、指向特性を改善した実用的なアンテナが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る指向性アンテナの原理を説明する概略構成図である。
【図2】本発明に係る指向性アンテナの第1実施形態例を説明する一部断面斜視図である。
【図3】図2の指向性アンテナに於ける電波の指向特性の実測図で、(A)は比誘電率が1のときの実測図、(B)は比誘電率が6のときの実測図、(C)は比誘電率が38のときの実測図である。
【図4】図2の指向性アンテナに於ける比誘電率に対するF/B比を示す特性図である。
【図5】図2の指向性アンテナに於ける比誘電率に対する周波数帯域幅を示す特性図である。
【図6】本発明に係る指向性アンテナの第2実施形態例を説明する一部斜視図である。
【図7】図6の指向性アンテナの周波数に対するリターンロス特性図である。
【図8】図6の指向性アンテナに於ける誘電体部材の他の実施形態例を示す一部断面側面図である。
【図9】本発明に係る指向性アンテナの第3実施形態例を説明する斜視図である。
【図10】図9の指向性アンテナの周波数に対するリターンロス特性図である。
【図11】本発明に係る指向性アンテナの第4実施形態例を説明する斜視図で、(A)は正面斜視図、(B)は背面斜視図である。
【図12】図11の指向性アンテナの周波数に対するリターンロス特性図である。
【図13】図9及び図11の指向性アンテナに於ける基体の他の実施形態例を示す斜視図である。
【図14】図9及び図11の指向性アンテナに於ける基体の更に他の実施形態例を示す斜視図である。
【図15】従来の逆F型アンテナを示す斜視図である。
【図16】図15の逆F型アンテナの比誘電率に対する電波の指向特性図である。
【図17】従来周知のヘリカルアンテナの比誘電率に対する電波の指向特性図である。
【符号の説明】
10 グランド板
11,24 放射電極
12 給電手段
15,21,41,48 誘電体部材
20,45,53 回路基板
22 導電板
23 給電ピン
25,40,71,76 グランド電極
37,57,58 給電放射電極
38,59,60,68 給電電極
39,70,75 無給電放射電極
50,80,85 基体
66,67 分岐放射電極
73 容量装荷電極
74 容量装荷グランド電極
Claims (10)
- 接地電位となるグランド板と、該グランド板から離間して前記グランド板と向かい合わせに配置された少なくとも1つの給電放射電極と、該給電放射電極に励振電力を供給する給電電極と、前記給電放射電極と前記グランド板との間に介在する誘電体部材を備えるアンテナであって、前記誘電体部材の比誘電率を5.5以上の値に設定することにより前記グランド板の裏側に比べて前記給電放射電極を設置した前記グランド板の表側の電波を強い指向性とすることを特徴とする指向性アンテナ。
- 複数の給電放射電極を備え、各給電放射電極は、給電電極を共通にして分岐した分岐放射電極であって、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長と、互いに異なる周波数帯域に属する周波数で共振する実効線路長との何れか一方の実効線路長を備えることを特徴とする請求項1に記載の指向性アンテナ。
- 複数の無給電放射電極と、該無給電放射電極を接地するグランド電極とを備え、給電放射電極に少なくとも1つの無給電放射電極を近接して配置すると共に、近接配置された給電放射電極及び無給電放射電極は、同一周波数帯域に於いて近接した共振周波数を有する実効線路長を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の指向性アンテナ。
- 全部の放射電極の放射面をグランド板の表面に対して傾斜して設置することを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の指向性アンテナ。
- 誘電体部材を、セラミック材料又は複合誘電体材料で形成することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の指向性アンテナ。
- 誘電体部材は、中空部を備えることを特徴とする請求項5に記載の指向性アンテナ。
- 給電放射電極及び無給電放射電極からなる複数の放射電極の内、少なくとも1つの放射電極の開放端に開放端容量を装荷することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の指向性アンテナ。
- 無線周波の高周波回路を形成した回路基板を有し、該回路基板に前記高周波回路を被覆するシールドケースを設け、前記回路基板又は前記シールドケースをグランド板として兼用することにより請求項1乃至請求項7の何れか1つに記載の指向性アンテナを備えることを特徴とする無線通信機。
- 接地電位となるグランド板と、該グランド板から離間して前記グランド板と向かい合わせに配置された少なくとも1つの放射電極と、該放射電極に励振電力を供給する給電手段と、前記放射電極と前記グランド板との間に介在する誘電体部材を備えるアンテナであって、前記誘電体部材の比誘電率を5.5以上の比誘電率に設定すると共に、前記誘電体部材の比誘電率の値に応じて、前記グランド板の前記放射電極を設置した表側に発生する電波に、前記グランド板の裏側に発生する電波よりも強い指向性を与えることを特徴とするアンテナの指向性改善方法。
- 同じ周波数帯域に於いて複共振する実効線路長を有する複数の放射電極を備え、それら放射電極の複共振により、必要とする周波数帯域幅を確保する範囲に於いて前記誘電体部材の比誘電率を高く設定することを特徴とする請求項9に記載のアンテナの指向性改善方法。
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