JP2005000238A - 殺菌剤水溶液充填容器の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】次亜塩素酸ナトリウムやジクロロイソシアヌール酸ナトリウムなどの中性〜アルカリ性を示す塩素系殺菌剤水溶液のPHを3.0〜6.5の範囲に調整して、殺菌力の強い次亜塩素酸を充填した可搬容易な殺菌剤水溶液を簡便に製造する。
【解決手段】次亜塩素酸ナトリウムやジクロロイソシアヌール酸ナトリウムなどの中性〜アルカリ性を示す塩素系殺菌剤水溶液を密閉容器にいれて、炭酸ガスを充填ガスとして加圧充填してPHを調整する。また、炭酸ガスや炭酸水でPH調整した塩素系殺菌剤水溶液を充填ガスを用いて密閉容器に充填しても良い。
【選択図】 なし
【解決手段】次亜塩素酸ナトリウムやジクロロイソシアヌール酸ナトリウムなどの中性〜アルカリ性を示す塩素系殺菌剤水溶液を密閉容器にいれて、炭酸ガスを充填ガスとして加圧充填してPHを調整する。また、炭酸ガスや炭酸水でPH調整した塩素系殺菌剤水溶液を充填ガスを用いて密閉容器に充填しても良い。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は塩素系殺菌剤水溶液を充填した可搬容易な殺菌剤水溶液充填容器の製造方法に関し、医療分野、食品分野等殺菌が必要とされる各種産業分野並びに一般家庭用に適用される。
【0002】
【従来の技術】
次亜塩素酸ナトリウムで代表される塩素系殺菌剤はその有効塩素濃度にもよるが、大腸菌などの一般細菌、酵母様や糸状真菌、結核菌やウイルスなどを効率よく殺菌あるいは不活性化するので広く用いられているが、その殺菌力は次亜塩素酸(HClO)の強い酸化作用によるものである。一方、次亜塩素酸は弱酸であるため、アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液では次亜塩素酸イオン(ClO−)に解離しているため、次亜塩素酸の状態に比べて殺菌力が80〜100分の一に減少すると言われている。
そのために、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を水素型イオン交換樹脂でイオン交換して次亜塩素酸にして用いる方法(特許文献1参照)、や次亜塩素酸ナトリウム等の塩素剤水溶液に酸性物質を溶解してPHを5.5以下にして用いる方法(特許文献2参照)が提案されている。さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に炭酸ガスをバブリングして弱酸性の塩素系殺菌水を製造する方法も提案されている(特許文献3参照)。また、殺菌剤水溶液を可搬容易なタイプとするため有機酸や無機酸でPHを4〜8に調整した次亜塩素酸水溶液を炭酸ガスや圧縮性ガス等で耐圧容器に充填してスプレー方式で使用する殺菌水貯蔵缶が最近提案されている(特許文献4参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平6−206076号公報(第2頁、図3)
【特許文献2】
特開平10−81610号公報(第2頁、図2)
【特許文献3】
特開平10−24294号公報(第2頁、図5)
【特許文献4】
特開2003−34375号公報(第2頁、第4頁、図1)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の技術では次亜塩素酸ナトリウム等のアルカリ性の塩素系殺菌剤水溶液のPHを下げて殺菌作用の強い次亜塩素酸(HClO)にするためにイオン交換樹脂で処理したり、酢酸や酒石酸等の有機酸、硫酸や塩酸などの無機酸を使用していた。イオン交換樹脂などを使用する方法はイオン交換装置など特別な装置が必要になり、必要な時に少量でも使える可搬容易な殺菌水を製造するには難点があった。また、有機酸を使用する場合は余分な添加物を加えることになり殺菌剤を使用する対象によっては制限されたり、有機酸によっては有効塩素を消費してしまう場合もあった。さらに硫酸や塩酸のような強酸では次亜塩素酸(HClO)の存在比率が90%以上と高くなるPHが3〜6.5の範囲(特許文献1の図3参照)に調整するのに定量的な添加を行なう必要があった。即ち、強酸を用いた場合、添加量が少し過剰になるとPHが3以下に低下してしまい、有効塩素は塩素ガスに変化してしまう危険性があった。
【0005】
特許文献3の方法は次亜塩素酸ナトリウム水溶液のPHを下げるのに炭酸ガスを用いている点、それまでの技術の課題を一部解決しているが、図面に開示されている方法はやはり大型の装置を用いた製造方法である。同明細書の図面5に開示されている携帯可能な方法でもドライアイス等を準備する必要があり使用したいときに必要量の殺菌水を簡便に用いる方法ではない。また、最近公開された特許文献4に開示されているスプレー缶方式は可搬容易な殺菌水としては優れているが、その製造方法で採用されているPHの低下手段としては有機酸や無機酸という従来技術の方法である。本発明の課題は上記従来技術の欠点を解決することで、特別な装置を必要とすることなく、また有効塩素を消耗するような有機酸などの添加物を使用することが無い簡便な方法で、塩素系殺菌剤のPHを調整して殺菌作用の強い次亜塩素酸水溶液を充填した可搬容易な容器の製造法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは次亜塩素酸ナトリウム等のアルカリ性塩素系殺菌剤水溶液を用いて可搬容易な密閉容器にそれを充填する際に充填ガスとして炭酸ガスを用いれば、その水溶液のPHが低下して次亜塩素酸が生成するPH範囲に容易に調整できることを発見して本発明を完成した。即ち、本発明は次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌール酸ナトリウムの群より選ばれる塩素剤水溶液を密閉容器に充填する際に、炭酸ガスを充填ガスとして用いることにより充填水溶液のPHを3.0以上6.5以下にすることを特徴とする殺菌剤水溶液充填容器の製造方法である。この方法において、水溶液を充填する場合に充填ガスとして炭酸ガスと圧縮性ガス又は/及び液化ガスの混合ガスを用いても良い。
【0007】
また、本発明は次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌール酸ナトリウムの群より選ばれる塩素剤水溶液に炭酸ガスを溶解するか又は炭酸水を混合して、前記水溶液のPHを3.0以上6.5以下に調整した後、前記水溶液を充填ガスと共に密閉容器に充填することを特徴とする殺菌剤水溶液充填容器の製造方法であり、充填ガスとして炭酸ガス、圧縮性ガス若しくは液化ガスのいずれかを用いることが出来る。このようにして充填された殺菌剤水溶液中の遊離炭酸の濃度は300ppm以上、好ましくは500ppm以上存在しているのが良い。
【0008】
【発明の実施の形態】
炭酸ガスは水に対して大きな溶解度を有しており、25℃ 0.1MPaの炭酸ガス圧力での飽和溶解度は体積で0.76ml/1ml水、重量換算で約1500ppmである。水に溶解した炭酸ガスは水と反応し炭酸となり(化学式1)、炭酸は炭酸イオンに解離して弱酸性を示す。水溶液のPHが5以下では炭酸の解離はほとんど起こらず炭酸ガスは化学式1の平衡を保ち、CO2あるいはH2CO3の状態で水中に存在するが、CO2の状態が大部分である。本発明ではこの状態の炭酸ガス若しくは炭酸を遊離の炭酸と呼ぶことにする。炭酸ガスを溶解した炭酸水は遊離の炭酸濃度に依存してPHが低下し、例えばイオン交換水に0.2MPaの炭酸ガス圧力、20℃で溶解させて得られた炭酸水はPHが4以下の値を示す。
【0009】
【化1】
【0010】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液のようなアルカリ性を示す水溶液中では、水溶液に溶解した炭酸ガスはまず化学式1の反応が起こり、次に化学式2で示される反応が起こり次亜塩素酸ナトリウムを中和するのに消費される。
【0011】
【化2】
【0012】
この反応で殺菌力の強い次亜塩素酸が生成する。本発明者らは当初、化学式2の反応が進行するためアルカリ性の次亜塩素酸ナトリウムを中和して次亜塩素酸を生成するには炭酸ガスがかなりの量必要であると考えたが(特許文献3では炭酸ガスをバブリングしている)、後の実施例1で示すように次亜塩素酸ナトリウムの濃度(実際には有効塩素濃度)が大きくても化学式2で消費される炭酸ガスは少量であることを実験で発見し本発明を完成させるヒントを得た。即ち実施例1ではイオン交換水(DI水)と200ppmの有効塩素を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液に炭酸ガスを加圧してガスを溶解させ、水溶液の重量変化とPH変化を測定したが、炭酸ガスの溶解に伴う重量増加は二つの水溶液ではほとんど変わらないにも拘わらず、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のPHは2時間後には5.09まで低下して化学式2の反応により次亜塩素酸が生成していることを発見した。さらに実施例で示すように溶解した炭酸ガスはかなりの量が遊離の炭酸として次亜塩素酸水溶液に存在することも解った。
【0013】
このような実験事実より、金属性の缶やプラスチック性ボトルなどの密閉容器にアルカリ性の塩素系殺菌剤を充填して、可搬容易な次亜塩素酸水溶液を充填した殺菌剤水溶液充填容器を製造するに際して、予めPHを調整する必要はなく充填ガスとして炭酸ガスを用いれば、その炭酸ガスがアルカリ性の水溶液に溶解して次亜塩素酸を生成させるのに十分であることを見出した。この方法は特許文献4の方法に比べて工程が1工程で済むので非常に効率的であるといえる。
【0014】
さて、炭酸は次亜塩素酸よりも強酸であるため化学式2の逆反応は起こりにくい。即ち炭酸(あるいは炭酸ガス)が過剰にあれば、次亜塩素酸ナトリウムはすべて次亜塩素酸に変化し、余分の炭酸ガスは遊離の炭酸となって水溶液中に溶解している。したがって、過剰の炭酸ガスを次亜塩素酸ナトリウム水溶液に溶解させ、遊離の炭酸が存在するように調整すれば次亜塩素酸が常に存在することになり、殺菌剤水溶液のPH管理が容易となる。この過剰の炭酸ガスを溶解させるためには密閉容器が必要であり、また密閉容器とすることで可搬容易な殺菌剤水溶液とすることが出来る。
【0015】
本発明では特許文献1に記載されている次亜塩素酸の解離曲線が解り易いためにPHで管理するように設定したが、その場合はPHが3.0以上6.5以下、好ましくは3.5〜6.0、さらに好ましくは4.0〜5.5である。また、遊離の炭酸の観点から言えば、300ppm以上、好ましくは500ppm以上、さらに好ましくは1000ppm以上水溶液中にあればよい。遊離の炭酸はその濃度が高いほど好ましく、炭酸ガスを0.1MPa以上の圧力で溶解させるとほぼヘンリーの法則にしたがって溶解度は上昇する。このような遊離の炭酸を過剰に含む殺菌水は使用時に常圧に戻した時、発泡が起こり殺菌作用に加えて洗浄作用も加味されて好ましい殺菌剤水溶液となる。
【0016】
本発明の次亜塩素酸塩とは次亜塩素酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩でナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が用いられるが、ナトリウム塩、カルシウム塩(さらし粉)が入手容易で好ましい。これらのアルカリ(土類)金属塩の水溶液は低濃度の有効塩素濃度水溶液でもPHは8以上を示す。本発明の製造法で製造される塩素系殺菌剤の有効塩素濃度は強い殺菌作用を示す観点から0.5ppm以上、好ましくは1ppm以上、さらに好ましくは3ppm以上で上限は約2000ppmである。市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液は約12%の有効塩素水溶液であるが、これをイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度が3ppmまで稀釈した水溶液のPHは8.1であった。これ以上の濃度ではPHは上昇し2000ppmではPHは約11.8となる。2000ppm以上の有効塩素濃度ではPHはさらに上昇するため炭酸ガスを充填ガスとして用いるだけではPHを6.0以下に低下させることは困難である。
【0017】
このようなPHが8以上のアルカリ性塩素剤水溶液を金属製の缶やPETボトルなどのプラスチック容器に所定量充填し炭酸ガスで加圧して密閉する。その場合、容器の上部空間に炭酸ガスが充填される空間を残す必要がある。この空間の体積(V0)は充填水溶液の体積(V1)の関係で重要である。前述の通り炭酸ガスは0.1MPaでの水への飽和溶解度は25℃で0.76ml/1ml水である。実施例1の実験から次亜塩素酸ナトリウム水溶液の場合についても炭酸ガスの溶解度は水の場合とほとんど変わらなかった。したがって0.76mlを1mlと近似すると0.1MPaではほぼ水溶液と同じ体積の炭酸ガスが溶解すると考えられる。
【0018】
説明を解りやすくするためにV0=V1とすればV0の空間に0.2MPaの炭酸ガスを加圧して充填すると、炭酸ガスの溶解がV1の水溶液へ平衡するまで起るが平衡時は近似的にV0の圧力は0.1MPaになると考えられる。容器の効率から言えばV1を大きくしてV0を小さくするのが望ましいが、V0を小さくするとそれに比例して炭酸ガスの圧力を大きくする必要がある。また、密閉容器の先端にスプレー式ノズルを装着して使用する場合、スプレー状態を最後まで保つためには内容物が全部消費できるまで内圧を高く保持する必要がある。これらの要因に加えて容器全体の大きさ、耐圧強度を考慮してV0とV1の体積を決める必要がある。本発明の場合、可搬容易な殺菌水容器の観点から密閉容器全体の体積の上限は約2L程度である。V0/V1は1以下で1/4より大きく取ることが望ましい。
【0019】
なお、ガスの水溶液への溶解は気液界面を通して進行するので密閉容器に充填する際に容器を振動させて気液界面を更新させるとガスの溶解平衡に至るまでの時間は短くなるが、実施例5で示すように充填後保管している間も溶解は進行するので必ずしも必要ではない。
【0020】
充填炭酸ガスの充填圧力を高くしてガス溶解に伴う内圧の低下を防止するのは有効であるが、高圧の操作は安全性の面から限界があり炭酸ガス単独の場合は1.5MPaまでが限度である。このような炭酸ガスの水溶液への溶解に伴う内圧の低下を防ぐには炭酸ガスに他の圧縮性ガスや液化ガスを混合した充填ガスを用いることが出来る。他の圧縮性ガスとしては窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、空気、ヘリウムなどを用いることが出来る。また、液化ガスとしては液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)、プロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル等が単独または混合体として使用される。
【0021】
内圧低下を防いだり、高濃度の有効塩素を含む水溶液の場合は予め炭酸ガスあるいは炭酸水で次亜塩素酸ナトリウム水溶液のPHを3〜6.5の間に調整しておき、その水溶液を密閉容器に充填ガスを用いて充填することも出来る。この方法は2工程を必要とし特許文献4の方法に類似するが、PHの調整に炭酸ガスもしくは炭酸水を用いる点で優れている。PH調整にクエン酸や酒石酸などの有機酸を用いた場合、有機酸が塩素と反応するためかPH調整後の水溶液の有効塩素はほとんど0にまで低下して殺菌剤としての効能は期待できない(比較例参照)。また、炭酸ガスは過剰に溶解させても硫酸や塩酸などの無機酸の場合と異なりPHが3以下に低下することがないので安全である。
【0022】
炭酸ガスの水あるいは塩素系殺菌剤水溶液への溶解方法は処理量によっていくつか方法が選択される。小量の処理を行なう場合は加圧容器内に被処理水を入れて容器上部空間に炭酸ガスをボンベより導入して溶解させる。被処理液は攪拌機を用いて攪拌することが好ましい。また、スタティックミキサーを用いてガスを溶解させたり、炭酸ガス透過膜を用いて液体に溶解させることも出来るがこれらの方法は中容量の処理に適している。大容量の処理を行なうにはスプレー方式がある。これは炭酸ガスを充満した密閉タンク中に被処理水を適切なノズルを使用してスプレーし微小液滴を炭酸ガスと接触させてガスを吸収させる方法である。炭酸水を塩素系殺菌剤水溶液と混合してPH調整を行なう場合は、炭酸水中の遊離の炭酸濃度を出来るだけ高くしてそのPHを4.5以下、好ましくは4.2以下の炭酸水を用いるのが好ましい。
【0023】
このようにしてPHを3.0以上6.5以下に調整した塩素系殺菌剤水溶液は充填ガスとして炭酸ガス、圧縮性ガス、液化ガスのいずれか一つ以上を用いて密閉容器に充填される。この場合はPHが既に調整されているので充填ガスとして炭酸ガスを用いる必要は必ずしもない。
【0024】
次に充填する密閉容器について説明する。密閉容器は炭酸ガスの逃散が起こらない、耐薬品性のある、且つ光を遮断する構造のものが好ましい。プラスチック容器は耐圧性はあまり期待できないが耐薬品性に優れるので、比較的低圧の充填容器として用いることが出来る。黒く着色したりアルミなどの金属を蒸着した光遮断性のもので、炭酸ガスの透過しにくい素材を用いたものが好ましい。ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル共重合体、塩化ビニリデン樹脂などは炭酸ガスの透過が少なく好ましい素材である。PETボトルは各種の炭酸飲料用の容器に使用され水溶液中の炭酸ガスの保持特性には優れた容器である。このような容器に本発明の殺菌剤水溶液を充填して使用時に開封して適量の水溶液をガーゼや不織布に染込ませて使用することができる。また、散布の必要な場合は、容器の蓋を外して手動式のポンプノズルを装着して被殺菌対象物に散布することもできる。
【0025】
金属製の缶やガラス瓶も用いることが出来る。金属製の缶は耐圧性や光遮断性に優れるので好ましいが、塩素に対する耐腐食性に難点がある。これを解決する方法として缶の内壁部をプラスチックでコーティングした缶を用いることが出来る。耐圧性のある金属製の缶を密閉容器に用いる場合、使用時に殺菌剤水溶液がノズルで噴射可能なように初期の充填圧力として0.5MPa以上の高圧を用いることが望ましいが、場合によっては圧縮性のガスや液化ガスを充填ガスとして用いることができる。
【0026】
上記のプラスチックや金属製の殺菌剤水溶液充填容器の容量は持ち運びが容易なように100ml〜2l程度のものが好ましいが、100mlより小容量のもので開封後1回で使用してしまうようなものでも良い。
【0027】
以上の説明は塩素系殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウムを中心に説明したが他の塩素系殺菌剤であるジクロロイソシアヌール酸ナトリウム(DCIと略記する)、次亜塩素酸カルシュウムが主成分であるさらし粉について説明する。これら2種類の殺菌剤はいずれも固体状態で入手できるので所定量の有効塩素を有する水溶液を調整する。DCIの有効塩素濃度は約60%で、これをイオン交換水に溶解して有効塩素濃度が2ppmから2000ppmの水溶液を調整するとPHは6.3〜6.5の間で変化する。このPH範囲では塩素は90%以上次亜塩素酸の状態で存在しうるが、さらに100%近い存在状態に保つためにはPHが4〜5.5の範囲が好ましい。従って次亜塩素酸ナトリウム水溶液で説明したように炭酸ガスを充填ガスとして密閉容器に充填することで容易にPHが4〜5.5の範囲に調整することが出来る。同様に予め炭酸ガスや炭酸水でPHをこの範囲に調整したDCI水溶液を充填ガスを用いて密閉容器に充填することもできる。
【0028】
さらし粉も有効塩素濃度が約60%を有する高度さらし粉が市販されている。これをイオン交換水に溶解すると石灰を遊離して白濁の水溶液となる。有効塩素濃度が2ppm〜2000ppmの範囲では水溶液のPHは8.9〜12.3まで変化する。即ち、高度さらし粉の水溶液は次亜塩素酸ナトリウム水溶液よりも同じ有効塩素濃度で比較するとアルカリ性であり、塩素はClO− の形で大部分存在していることになる。この場合も次亜塩素酸ナトリウムの場合と同様にして密閉容器に充填して水溶液のPHを3.0〜6.5の範囲に調整した水溶液を製造することが出来る。 以下に実施例を援用して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例で用いた測定法について説明する。
【0029】
1)有効塩素濃度の測定:オルガノクイック(オルガノ製の水質検査用簡易キット)を用いて標準比色板による分析法を採用した。但し、測定濃度範囲は0.1ppm〜5ppmの範囲のため高濃度の水溶液は適宜イオン交換水で希釈して測定した。
【0030】
2)塩素共存系水溶液中の遊離炭酸濃度の測定:塩素を含んだ水溶液の場合、ガスクロマト法が装置腐食の危険性があるため使えないので、先に本発明者が開発した膜法(特開2002−214106号公報)で行った。即ち、疎水性の多孔質中空糸膜をもちいてモジュールを作成し、ガス溶解水溶液にモジュールを浸漬して、水溶液中のガス成分を膜を通して中空糸の中空部に透過させその透過量を測定する原理である。検量線は所定濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液を酸性側にして所定濃度の炭酸ガスを発生させた水溶液を用いて測定し作成した。本測定法を膜法と呼ぶことにする。
【0031】
【実施例1】
イオン交換水約1Kgを1.5L容量のPETボトルに攪拌子と共にいれマグネチックスターラー上で攪拌した。ボトルの蓋部分に炭酸ガスが導入できる冶具を取り付け、炭酸ガスボンベより炭酸ガスをボトルに0.2MPaの圧力で連続して加圧供給しこの圧力を保った。このときの水の温度は21℃であった。水は時間と共に炭酸ガスを溶解して重量が増加すると共にPHが低下した。同様の実験を試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素約12%)をイオン交換水で稀釈して有効塩素が200ppmの水溶液を調整し、この水溶液で炭酸ガスの溶解実験を行った。表1に加圧時間とそれぞれPETボトルの重量増加率及び2時間後のPHを示した。
【0032】
また、2時間後の液に含まれる遊離の炭酸ガス濃度をイオン交換水についてはガスクロマトグラフで次亜塩素酸ナトリウム水溶液については膜法で測定したところそれぞれ4500ppm、2700ppmであった。炭酸ガス溶解後の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をPETボトルに入れて密閉し、4日間室温で暗所に放置した後に有効塩素濃度を測定したが200ppmの値を示し溶解前と変化が無かった。
【0033】
表1の重量増加率はPETボトル全体の重量(ガス+水溶液)を測定して求めたものである。従がって水溶液に溶解された炭酸ガスのみを求めるには、ボトル上部空間(約0.5L)の炭酸ガスの重量を減じる必要がある。理想気体と考えて PV=nRT の式(P:圧力、V:体積、n:モル数、R:気体定数、T:絶対温度)より T=293K、V=0.5Lを用いて計算すると
W(炭酸ガスの重量、g)=9.0xP(MPa) (1)
となる。従がって0.2MPaの圧力でWは1.8gであるから水溶液1Kgに対する重量増加率は0.18wt%となる。
【0034】
表1の重量増加率から0.18wt%を減じると2時間後のDI水、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は0.44wt%の炭酸ガスを実際には吸収したことになる。0.2MPaの炭酸ガスは20℃ではヘンリーの法則に従うとすれば水に対して約3500ppmの飽和溶解度であるが、本実験では4500ppmの溶解量であった。これは炭酸ガスが過飽和の状態で溶解したものと思われる。DI水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液における遊離炭酸濃度の差約1800ppmは、次亜塩素酸ナトリウムを中和するのに要した炭酸ガスである。
【0035】
【0036】
【実施例2】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素約12%)をイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度が20ppmの水溶液を調整した。この水溶液約1Kgを1.5L容量のPETボトルにいれて、実施例1と同様にして炭酸ガスの溶解実験を行なった。このときの水溶液の温度は21℃であった。水溶液は時間と共に炭酸ガスを溶解して重量が増加すると共にPHが低下した。表2に加圧時間とPETボトルの重量増加率並びに水溶液のPHを示した。また、炭酸ガス溶解後の水溶液の有効塩素濃度を密閉容器に入れて4日間室温で暗所に放置した後に測定したが20ppmの値を示し溶解前と変化が無かった。なお、水溶液中の遊離炭酸濃度は2500ppmであった。
【0037】
【0038】
【実施例3】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素約12%)をイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度が2000ppmの水溶液を調整した。この水溶液を用いて実施例1と同様にして炭酸ガスを溶解させた。炭酸ガスの加圧溶解時間とPETボトルの重量増加率並びに2時間後のPHを表3に示した。また、炭酸ガス溶解後の水溶液の有効塩素濃度を密閉容器に入れて4日間室温で暗所に放置した後に測定したが2000ppmの値を示し溶解前と変化が無かった。なお、水溶液中の遊離炭酸濃度は2600ppmであった。
【0039】
【0040】
【実施例4】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液をイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度200ppmの水溶液を調整した。この水溶液に実施例1と同様にして炭酸ガスを溶解させた。この実施例ではガスの圧力の効果を調べるために溶解時間を1時間に固定して圧力を変化させた。1時間後のPETボトル重量増加率並びに実施例1の(1)式でガス重量を減じて求めた水溶液の重量増加率、PHを表4に示した。また水溶液中に含まれる遊離炭酸濃度を膜法で測定しその結果も併せて示した。
【0041】
【0042】
【実施例5】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液をDI水で稀釈して有効塩素20ppm水溶液を調整した。この水溶液を1.5LのPETボトルに約1Kg充填して上部に約0.5Lの空間部を残した。ボトルの蓋部に実施例1で用いた冶具を装着して炭酸ガスボンベより炭酸ガスを導入した。この場合、ボトルの内圧を測定するために冶具に圧力計を装着した。ボトルの上部空間圧力が0.40MPaに到達すると同時に冶具のガス導入部を遮断してPETボトルを加圧密閉状態にして室温で(約25℃)静置した。静置時間と共に空間部の炭酸ガスは水溶液に吸収されて徐々に圧力は低下した。25時間後に内圧は0.14MPaまで低下しほぼ一定値になったので、この時点で実験を中止してボトルを開封して水溶液を分析した。なお、ボトルの全重量増加率は0.42wt%で実験開始時と終了時で変化は無くガス漏れは無かった。分析結果は水溶液のPHは4.35、遊離炭酸濃度は2100ppm、有効塩素濃度は20ppmであった。
【0043】
一方、圧力低下の値から理想気体を仮定すると、炭酸ガスは水溶液に約2.6g溶解したことになり、水溶液の重量増加は0.26wt%となる。一方、実施例2の表2の重量増加でガスの重量補正を行なうと、30分の攪拌溶解で水溶液の重量増加は0.39−0.18=0.21wt%になる。このときの水溶液のPHが4.19であったが、上記PHと比較的良い一致を示した。このことは水溶液を攪拌すると炭酸ガスの溶解は早いが、攪拌なしで静置していても1日前後でガスの溶解はほぼ平衡状態まで進行することを示している。
【0044】
【実施例6】
内容積300ml、内壁部を塩化ビニル樹脂でコーティングしたアルミ製の耐圧缶を用意した。この缶に有効塩素濃度が20ppm、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液をそれぞれ200ml、充填ガスとして炭酸ガスを用いて1.2MPaの充填圧力で充填した。充填後には容器のキャップ部にスプレー式ノズルを装着し密閉した。充填後4日経過後及び6ヵ月経過後、密閉容器のノズルから水溶液をビーカーに約10ml採取してそのPHを測定したところ、時間経過に伴う変化は無くそれぞれ4.01(20ppm液)、4.64(200ppm液)であり、有効塩素濃度はいずれの場合も変化が無かった。また、スプレー式ノズルより内容物を噴射させたところほぼ最後まで噴射が可能であった。
【0045】
【実施例7】
実施例1で調整した炭酸水(PH=3.74)と200ppm有効塩素を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液を80/20の容量比で混合した。この混合液のPHは4.73で有効塩素は40ppmであった。この混合液を実施例6で用いたアルミ製の耐圧缶に200ml注入し窒素を充填ガスとして0.8MPaで封入し容器のキャップ部にスプレー式ノズルを装着した。ノズルより内容物を噴射させたが最後まで噴射が可能であった。
【0046】
【実施例8】
試薬ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム(DCI)(有効塩素60%)及び高度さらし粉(有効塩素60%)をそれぞれイオン交換水で稀釈して有効塩素20ppmの水溶液を調整した。高度さらし粉の場合、石灰分が少し残存するため液は少し白濁していた。この水溶液を用いて実施例1で行なったと同様の実験を行い、炭酸ガスの溶解に伴うPETボトルの重量増加率及びPHを測定した。結果を表5に纏めて示した。この結果からDCI及び高度さらし粉水溶液の場合も次亜塩素酸ナトリウム水溶液とほぼ同じ量の炭酸ガスを溶解するものと判断された。PHの変化はDCIの場合は初期のPHが中性のため低下率は大きく、高度さらし粉の場合は次亜塩素酸ナトリウムの場合と大きな差は無かった。
【0047】
【0048】
【比較例】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液をイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度200ppm、PHが10.79の水溶液を調整した。この水溶液に酒石酸水素ナトリウム並びにクエン酸をそれぞれ添加してPHを4.74、4.70に調整した。4日間密閉容器に入れて室温で暗所に放置後、有効塩素濃度を測定したところいずれの水溶液も0.1ppm以下に減少していた。
【0049】
【発明の効果】
次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系殺菌剤水溶液を密閉容器に充填する際に炭酸ガスを充填ガスとして用いることにより、水溶液のPHが容易に6.5以下に低下して殺菌力の強い次亜塩素酸を90%以上含む水溶液を調整することが出来た。この方法は密閉容器に充填する前にPHの調整を必要としないため、1回の工程で次亜塩素酸水溶液を充填した容器を製造できる。このように調整された水溶液はPETボトルや耐圧容器などの密閉容器に充填されているので可搬容易な殺菌剤水溶液となり必要な時に必要な量を使用することができ消毒による衛生向上が期待される。
【発明が属する技術分野】
本発明は塩素系殺菌剤水溶液を充填した可搬容易な殺菌剤水溶液充填容器の製造方法に関し、医療分野、食品分野等殺菌が必要とされる各種産業分野並びに一般家庭用に適用される。
【0002】
【従来の技術】
次亜塩素酸ナトリウムで代表される塩素系殺菌剤はその有効塩素濃度にもよるが、大腸菌などの一般細菌、酵母様や糸状真菌、結核菌やウイルスなどを効率よく殺菌あるいは不活性化するので広く用いられているが、その殺菌力は次亜塩素酸(HClO)の強い酸化作用によるものである。一方、次亜塩素酸は弱酸であるため、アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液では次亜塩素酸イオン(ClO−)に解離しているため、次亜塩素酸の状態に比べて殺菌力が80〜100分の一に減少すると言われている。
そのために、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を水素型イオン交換樹脂でイオン交換して次亜塩素酸にして用いる方法(特許文献1参照)、や次亜塩素酸ナトリウム等の塩素剤水溶液に酸性物質を溶解してPHを5.5以下にして用いる方法(特許文献2参照)が提案されている。さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に炭酸ガスをバブリングして弱酸性の塩素系殺菌水を製造する方法も提案されている(特許文献3参照)。また、殺菌剤水溶液を可搬容易なタイプとするため有機酸や無機酸でPHを4〜8に調整した次亜塩素酸水溶液を炭酸ガスや圧縮性ガス等で耐圧容器に充填してスプレー方式で使用する殺菌水貯蔵缶が最近提案されている(特許文献4参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平6−206076号公報(第2頁、図3)
【特許文献2】
特開平10−81610号公報(第2頁、図2)
【特許文献3】
特開平10−24294号公報(第2頁、図5)
【特許文献4】
特開2003−34375号公報(第2頁、第4頁、図1)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の技術では次亜塩素酸ナトリウム等のアルカリ性の塩素系殺菌剤水溶液のPHを下げて殺菌作用の強い次亜塩素酸(HClO)にするためにイオン交換樹脂で処理したり、酢酸や酒石酸等の有機酸、硫酸や塩酸などの無機酸を使用していた。イオン交換樹脂などを使用する方法はイオン交換装置など特別な装置が必要になり、必要な時に少量でも使える可搬容易な殺菌水を製造するには難点があった。また、有機酸を使用する場合は余分な添加物を加えることになり殺菌剤を使用する対象によっては制限されたり、有機酸によっては有効塩素を消費してしまう場合もあった。さらに硫酸や塩酸のような強酸では次亜塩素酸(HClO)の存在比率が90%以上と高くなるPHが3〜6.5の範囲(特許文献1の図3参照)に調整するのに定量的な添加を行なう必要があった。即ち、強酸を用いた場合、添加量が少し過剰になるとPHが3以下に低下してしまい、有効塩素は塩素ガスに変化してしまう危険性があった。
【0005】
特許文献3の方法は次亜塩素酸ナトリウム水溶液のPHを下げるのに炭酸ガスを用いている点、それまでの技術の課題を一部解決しているが、図面に開示されている方法はやはり大型の装置を用いた製造方法である。同明細書の図面5に開示されている携帯可能な方法でもドライアイス等を準備する必要があり使用したいときに必要量の殺菌水を簡便に用いる方法ではない。また、最近公開された特許文献4に開示されているスプレー缶方式は可搬容易な殺菌水としては優れているが、その製造方法で採用されているPHの低下手段としては有機酸や無機酸という従来技術の方法である。本発明の課題は上記従来技術の欠点を解決することで、特別な装置を必要とすることなく、また有効塩素を消耗するような有機酸などの添加物を使用することが無い簡便な方法で、塩素系殺菌剤のPHを調整して殺菌作用の強い次亜塩素酸水溶液を充填した可搬容易な容器の製造法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは次亜塩素酸ナトリウム等のアルカリ性塩素系殺菌剤水溶液を用いて可搬容易な密閉容器にそれを充填する際に充填ガスとして炭酸ガスを用いれば、その水溶液のPHが低下して次亜塩素酸が生成するPH範囲に容易に調整できることを発見して本発明を完成した。即ち、本発明は次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌール酸ナトリウムの群より選ばれる塩素剤水溶液を密閉容器に充填する際に、炭酸ガスを充填ガスとして用いることにより充填水溶液のPHを3.0以上6.5以下にすることを特徴とする殺菌剤水溶液充填容器の製造方法である。この方法において、水溶液を充填する場合に充填ガスとして炭酸ガスと圧縮性ガス又は/及び液化ガスの混合ガスを用いても良い。
【0007】
また、本発明は次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌール酸ナトリウムの群より選ばれる塩素剤水溶液に炭酸ガスを溶解するか又は炭酸水を混合して、前記水溶液のPHを3.0以上6.5以下に調整した後、前記水溶液を充填ガスと共に密閉容器に充填することを特徴とする殺菌剤水溶液充填容器の製造方法であり、充填ガスとして炭酸ガス、圧縮性ガス若しくは液化ガスのいずれかを用いることが出来る。このようにして充填された殺菌剤水溶液中の遊離炭酸の濃度は300ppm以上、好ましくは500ppm以上存在しているのが良い。
【0008】
【発明の実施の形態】
炭酸ガスは水に対して大きな溶解度を有しており、25℃ 0.1MPaの炭酸ガス圧力での飽和溶解度は体積で0.76ml/1ml水、重量換算で約1500ppmである。水に溶解した炭酸ガスは水と反応し炭酸となり(化学式1)、炭酸は炭酸イオンに解離して弱酸性を示す。水溶液のPHが5以下では炭酸の解離はほとんど起こらず炭酸ガスは化学式1の平衡を保ち、CO2あるいはH2CO3の状態で水中に存在するが、CO2の状態が大部分である。本発明ではこの状態の炭酸ガス若しくは炭酸を遊離の炭酸と呼ぶことにする。炭酸ガスを溶解した炭酸水は遊離の炭酸濃度に依存してPHが低下し、例えばイオン交換水に0.2MPaの炭酸ガス圧力、20℃で溶解させて得られた炭酸水はPHが4以下の値を示す。
【0009】
【化1】
【0010】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液のようなアルカリ性を示す水溶液中では、水溶液に溶解した炭酸ガスはまず化学式1の反応が起こり、次に化学式2で示される反応が起こり次亜塩素酸ナトリウムを中和するのに消費される。
【0011】
【化2】
【0012】
この反応で殺菌力の強い次亜塩素酸が生成する。本発明者らは当初、化学式2の反応が進行するためアルカリ性の次亜塩素酸ナトリウムを中和して次亜塩素酸を生成するには炭酸ガスがかなりの量必要であると考えたが(特許文献3では炭酸ガスをバブリングしている)、後の実施例1で示すように次亜塩素酸ナトリウムの濃度(実際には有効塩素濃度)が大きくても化学式2で消費される炭酸ガスは少量であることを実験で発見し本発明を完成させるヒントを得た。即ち実施例1ではイオン交換水(DI水)と200ppmの有効塩素を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液に炭酸ガスを加圧してガスを溶解させ、水溶液の重量変化とPH変化を測定したが、炭酸ガスの溶解に伴う重量増加は二つの水溶液ではほとんど変わらないにも拘わらず、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のPHは2時間後には5.09まで低下して化学式2の反応により次亜塩素酸が生成していることを発見した。さらに実施例で示すように溶解した炭酸ガスはかなりの量が遊離の炭酸として次亜塩素酸水溶液に存在することも解った。
【0013】
このような実験事実より、金属性の缶やプラスチック性ボトルなどの密閉容器にアルカリ性の塩素系殺菌剤を充填して、可搬容易な次亜塩素酸水溶液を充填した殺菌剤水溶液充填容器を製造するに際して、予めPHを調整する必要はなく充填ガスとして炭酸ガスを用いれば、その炭酸ガスがアルカリ性の水溶液に溶解して次亜塩素酸を生成させるのに十分であることを見出した。この方法は特許文献4の方法に比べて工程が1工程で済むので非常に効率的であるといえる。
【0014】
さて、炭酸は次亜塩素酸よりも強酸であるため化学式2の逆反応は起こりにくい。即ち炭酸(あるいは炭酸ガス)が過剰にあれば、次亜塩素酸ナトリウムはすべて次亜塩素酸に変化し、余分の炭酸ガスは遊離の炭酸となって水溶液中に溶解している。したがって、過剰の炭酸ガスを次亜塩素酸ナトリウム水溶液に溶解させ、遊離の炭酸が存在するように調整すれば次亜塩素酸が常に存在することになり、殺菌剤水溶液のPH管理が容易となる。この過剰の炭酸ガスを溶解させるためには密閉容器が必要であり、また密閉容器とすることで可搬容易な殺菌剤水溶液とすることが出来る。
【0015】
本発明では特許文献1に記載されている次亜塩素酸の解離曲線が解り易いためにPHで管理するように設定したが、その場合はPHが3.0以上6.5以下、好ましくは3.5〜6.0、さらに好ましくは4.0〜5.5である。また、遊離の炭酸の観点から言えば、300ppm以上、好ましくは500ppm以上、さらに好ましくは1000ppm以上水溶液中にあればよい。遊離の炭酸はその濃度が高いほど好ましく、炭酸ガスを0.1MPa以上の圧力で溶解させるとほぼヘンリーの法則にしたがって溶解度は上昇する。このような遊離の炭酸を過剰に含む殺菌水は使用時に常圧に戻した時、発泡が起こり殺菌作用に加えて洗浄作用も加味されて好ましい殺菌剤水溶液となる。
【0016】
本発明の次亜塩素酸塩とは次亜塩素酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩でナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が用いられるが、ナトリウム塩、カルシウム塩(さらし粉)が入手容易で好ましい。これらのアルカリ(土類)金属塩の水溶液は低濃度の有効塩素濃度水溶液でもPHは8以上を示す。本発明の製造法で製造される塩素系殺菌剤の有効塩素濃度は強い殺菌作用を示す観点から0.5ppm以上、好ましくは1ppm以上、さらに好ましくは3ppm以上で上限は約2000ppmである。市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液は約12%の有効塩素水溶液であるが、これをイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度が3ppmまで稀釈した水溶液のPHは8.1であった。これ以上の濃度ではPHは上昇し2000ppmではPHは約11.8となる。2000ppm以上の有効塩素濃度ではPHはさらに上昇するため炭酸ガスを充填ガスとして用いるだけではPHを6.0以下に低下させることは困難である。
【0017】
このようなPHが8以上のアルカリ性塩素剤水溶液を金属製の缶やPETボトルなどのプラスチック容器に所定量充填し炭酸ガスで加圧して密閉する。その場合、容器の上部空間に炭酸ガスが充填される空間を残す必要がある。この空間の体積(V0)は充填水溶液の体積(V1)の関係で重要である。前述の通り炭酸ガスは0.1MPaでの水への飽和溶解度は25℃で0.76ml/1ml水である。実施例1の実験から次亜塩素酸ナトリウム水溶液の場合についても炭酸ガスの溶解度は水の場合とほとんど変わらなかった。したがって0.76mlを1mlと近似すると0.1MPaではほぼ水溶液と同じ体積の炭酸ガスが溶解すると考えられる。
【0018】
説明を解りやすくするためにV0=V1とすればV0の空間に0.2MPaの炭酸ガスを加圧して充填すると、炭酸ガスの溶解がV1の水溶液へ平衡するまで起るが平衡時は近似的にV0の圧力は0.1MPaになると考えられる。容器の効率から言えばV1を大きくしてV0を小さくするのが望ましいが、V0を小さくするとそれに比例して炭酸ガスの圧力を大きくする必要がある。また、密閉容器の先端にスプレー式ノズルを装着して使用する場合、スプレー状態を最後まで保つためには内容物が全部消費できるまで内圧を高く保持する必要がある。これらの要因に加えて容器全体の大きさ、耐圧強度を考慮してV0とV1の体積を決める必要がある。本発明の場合、可搬容易な殺菌水容器の観点から密閉容器全体の体積の上限は約2L程度である。V0/V1は1以下で1/4より大きく取ることが望ましい。
【0019】
なお、ガスの水溶液への溶解は気液界面を通して進行するので密閉容器に充填する際に容器を振動させて気液界面を更新させるとガスの溶解平衡に至るまでの時間は短くなるが、実施例5で示すように充填後保管している間も溶解は進行するので必ずしも必要ではない。
【0020】
充填炭酸ガスの充填圧力を高くしてガス溶解に伴う内圧の低下を防止するのは有効であるが、高圧の操作は安全性の面から限界があり炭酸ガス単独の場合は1.5MPaまでが限度である。このような炭酸ガスの水溶液への溶解に伴う内圧の低下を防ぐには炭酸ガスに他の圧縮性ガスや液化ガスを混合した充填ガスを用いることが出来る。他の圧縮性ガスとしては窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、空気、ヘリウムなどを用いることが出来る。また、液化ガスとしては液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)、プロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル等が単独または混合体として使用される。
【0021】
内圧低下を防いだり、高濃度の有効塩素を含む水溶液の場合は予め炭酸ガスあるいは炭酸水で次亜塩素酸ナトリウム水溶液のPHを3〜6.5の間に調整しておき、その水溶液を密閉容器に充填ガスを用いて充填することも出来る。この方法は2工程を必要とし特許文献4の方法に類似するが、PHの調整に炭酸ガスもしくは炭酸水を用いる点で優れている。PH調整にクエン酸や酒石酸などの有機酸を用いた場合、有機酸が塩素と反応するためかPH調整後の水溶液の有効塩素はほとんど0にまで低下して殺菌剤としての効能は期待できない(比較例参照)。また、炭酸ガスは過剰に溶解させても硫酸や塩酸などの無機酸の場合と異なりPHが3以下に低下することがないので安全である。
【0022】
炭酸ガスの水あるいは塩素系殺菌剤水溶液への溶解方法は処理量によっていくつか方法が選択される。小量の処理を行なう場合は加圧容器内に被処理水を入れて容器上部空間に炭酸ガスをボンベより導入して溶解させる。被処理液は攪拌機を用いて攪拌することが好ましい。また、スタティックミキサーを用いてガスを溶解させたり、炭酸ガス透過膜を用いて液体に溶解させることも出来るがこれらの方法は中容量の処理に適している。大容量の処理を行なうにはスプレー方式がある。これは炭酸ガスを充満した密閉タンク中に被処理水を適切なノズルを使用してスプレーし微小液滴を炭酸ガスと接触させてガスを吸収させる方法である。炭酸水を塩素系殺菌剤水溶液と混合してPH調整を行なう場合は、炭酸水中の遊離の炭酸濃度を出来るだけ高くしてそのPHを4.5以下、好ましくは4.2以下の炭酸水を用いるのが好ましい。
【0023】
このようにしてPHを3.0以上6.5以下に調整した塩素系殺菌剤水溶液は充填ガスとして炭酸ガス、圧縮性ガス、液化ガスのいずれか一つ以上を用いて密閉容器に充填される。この場合はPHが既に調整されているので充填ガスとして炭酸ガスを用いる必要は必ずしもない。
【0024】
次に充填する密閉容器について説明する。密閉容器は炭酸ガスの逃散が起こらない、耐薬品性のある、且つ光を遮断する構造のものが好ましい。プラスチック容器は耐圧性はあまり期待できないが耐薬品性に優れるので、比較的低圧の充填容器として用いることが出来る。黒く着色したりアルミなどの金属を蒸着した光遮断性のもので、炭酸ガスの透過しにくい素材を用いたものが好ましい。ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル共重合体、塩化ビニリデン樹脂などは炭酸ガスの透過が少なく好ましい素材である。PETボトルは各種の炭酸飲料用の容器に使用され水溶液中の炭酸ガスの保持特性には優れた容器である。このような容器に本発明の殺菌剤水溶液を充填して使用時に開封して適量の水溶液をガーゼや不織布に染込ませて使用することができる。また、散布の必要な場合は、容器の蓋を外して手動式のポンプノズルを装着して被殺菌対象物に散布することもできる。
【0025】
金属製の缶やガラス瓶も用いることが出来る。金属製の缶は耐圧性や光遮断性に優れるので好ましいが、塩素に対する耐腐食性に難点がある。これを解決する方法として缶の内壁部をプラスチックでコーティングした缶を用いることが出来る。耐圧性のある金属製の缶を密閉容器に用いる場合、使用時に殺菌剤水溶液がノズルで噴射可能なように初期の充填圧力として0.5MPa以上の高圧を用いることが望ましいが、場合によっては圧縮性のガスや液化ガスを充填ガスとして用いることができる。
【0026】
上記のプラスチックや金属製の殺菌剤水溶液充填容器の容量は持ち運びが容易なように100ml〜2l程度のものが好ましいが、100mlより小容量のもので開封後1回で使用してしまうようなものでも良い。
【0027】
以上の説明は塩素系殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウムを中心に説明したが他の塩素系殺菌剤であるジクロロイソシアヌール酸ナトリウム(DCIと略記する)、次亜塩素酸カルシュウムが主成分であるさらし粉について説明する。これら2種類の殺菌剤はいずれも固体状態で入手できるので所定量の有効塩素を有する水溶液を調整する。DCIの有効塩素濃度は約60%で、これをイオン交換水に溶解して有効塩素濃度が2ppmから2000ppmの水溶液を調整するとPHは6.3〜6.5の間で変化する。このPH範囲では塩素は90%以上次亜塩素酸の状態で存在しうるが、さらに100%近い存在状態に保つためにはPHが4〜5.5の範囲が好ましい。従って次亜塩素酸ナトリウム水溶液で説明したように炭酸ガスを充填ガスとして密閉容器に充填することで容易にPHが4〜5.5の範囲に調整することが出来る。同様に予め炭酸ガスや炭酸水でPHをこの範囲に調整したDCI水溶液を充填ガスを用いて密閉容器に充填することもできる。
【0028】
さらし粉も有効塩素濃度が約60%を有する高度さらし粉が市販されている。これをイオン交換水に溶解すると石灰を遊離して白濁の水溶液となる。有効塩素濃度が2ppm〜2000ppmの範囲では水溶液のPHは8.9〜12.3まで変化する。即ち、高度さらし粉の水溶液は次亜塩素酸ナトリウム水溶液よりも同じ有効塩素濃度で比較するとアルカリ性であり、塩素はClO− の形で大部分存在していることになる。この場合も次亜塩素酸ナトリウムの場合と同様にして密閉容器に充填して水溶液のPHを3.0〜6.5の範囲に調整した水溶液を製造することが出来る。 以下に実施例を援用して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例で用いた測定法について説明する。
【0029】
1)有効塩素濃度の測定:オルガノクイック(オルガノ製の水質検査用簡易キット)を用いて標準比色板による分析法を採用した。但し、測定濃度範囲は0.1ppm〜5ppmの範囲のため高濃度の水溶液は適宜イオン交換水で希釈して測定した。
【0030】
2)塩素共存系水溶液中の遊離炭酸濃度の測定:塩素を含んだ水溶液の場合、ガスクロマト法が装置腐食の危険性があるため使えないので、先に本発明者が開発した膜法(特開2002−214106号公報)で行った。即ち、疎水性の多孔質中空糸膜をもちいてモジュールを作成し、ガス溶解水溶液にモジュールを浸漬して、水溶液中のガス成分を膜を通して中空糸の中空部に透過させその透過量を測定する原理である。検量線は所定濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液を酸性側にして所定濃度の炭酸ガスを発生させた水溶液を用いて測定し作成した。本測定法を膜法と呼ぶことにする。
【0031】
【実施例1】
イオン交換水約1Kgを1.5L容量のPETボトルに攪拌子と共にいれマグネチックスターラー上で攪拌した。ボトルの蓋部分に炭酸ガスが導入できる冶具を取り付け、炭酸ガスボンベより炭酸ガスをボトルに0.2MPaの圧力で連続して加圧供給しこの圧力を保った。このときの水の温度は21℃であった。水は時間と共に炭酸ガスを溶解して重量が増加すると共にPHが低下した。同様の実験を試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素約12%)をイオン交換水で稀釈して有効塩素が200ppmの水溶液を調整し、この水溶液で炭酸ガスの溶解実験を行った。表1に加圧時間とそれぞれPETボトルの重量増加率及び2時間後のPHを示した。
【0032】
また、2時間後の液に含まれる遊離の炭酸ガス濃度をイオン交換水についてはガスクロマトグラフで次亜塩素酸ナトリウム水溶液については膜法で測定したところそれぞれ4500ppm、2700ppmであった。炭酸ガス溶解後の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をPETボトルに入れて密閉し、4日間室温で暗所に放置した後に有効塩素濃度を測定したが200ppmの値を示し溶解前と変化が無かった。
【0033】
表1の重量増加率はPETボトル全体の重量(ガス+水溶液)を測定して求めたものである。従がって水溶液に溶解された炭酸ガスのみを求めるには、ボトル上部空間(約0.5L)の炭酸ガスの重量を減じる必要がある。理想気体と考えて PV=nRT の式(P:圧力、V:体積、n:モル数、R:気体定数、T:絶対温度)より T=293K、V=0.5Lを用いて計算すると
W(炭酸ガスの重量、g)=9.0xP(MPa) (1)
となる。従がって0.2MPaの圧力でWは1.8gであるから水溶液1Kgに対する重量増加率は0.18wt%となる。
【0034】
表1の重量増加率から0.18wt%を減じると2時間後のDI水、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は0.44wt%の炭酸ガスを実際には吸収したことになる。0.2MPaの炭酸ガスは20℃ではヘンリーの法則に従うとすれば水に対して約3500ppmの飽和溶解度であるが、本実験では4500ppmの溶解量であった。これは炭酸ガスが過飽和の状態で溶解したものと思われる。DI水と次亜塩素酸ナトリウム水溶液における遊離炭酸濃度の差約1800ppmは、次亜塩素酸ナトリウムを中和するのに要した炭酸ガスである。
【0035】
【0036】
【実施例2】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素約12%)をイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度が20ppmの水溶液を調整した。この水溶液約1Kgを1.5L容量のPETボトルにいれて、実施例1と同様にして炭酸ガスの溶解実験を行なった。このときの水溶液の温度は21℃であった。水溶液は時間と共に炭酸ガスを溶解して重量が増加すると共にPHが低下した。表2に加圧時間とPETボトルの重量増加率並びに水溶液のPHを示した。また、炭酸ガス溶解後の水溶液の有効塩素濃度を密閉容器に入れて4日間室温で暗所に放置した後に測定したが20ppmの値を示し溶解前と変化が無かった。なお、水溶液中の遊離炭酸濃度は2500ppmであった。
【0037】
【0038】
【実施例3】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素約12%)をイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度が2000ppmの水溶液を調整した。この水溶液を用いて実施例1と同様にして炭酸ガスを溶解させた。炭酸ガスの加圧溶解時間とPETボトルの重量増加率並びに2時間後のPHを表3に示した。また、炭酸ガス溶解後の水溶液の有効塩素濃度を密閉容器に入れて4日間室温で暗所に放置した後に測定したが2000ppmの値を示し溶解前と変化が無かった。なお、水溶液中の遊離炭酸濃度は2600ppmであった。
【0039】
【0040】
【実施例4】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液をイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度200ppmの水溶液を調整した。この水溶液に実施例1と同様にして炭酸ガスを溶解させた。この実施例ではガスの圧力の効果を調べるために溶解時間を1時間に固定して圧力を変化させた。1時間後のPETボトル重量増加率並びに実施例1の(1)式でガス重量を減じて求めた水溶液の重量増加率、PHを表4に示した。また水溶液中に含まれる遊離炭酸濃度を膜法で測定しその結果も併せて示した。
【0041】
【0042】
【実施例5】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液をDI水で稀釈して有効塩素20ppm水溶液を調整した。この水溶液を1.5LのPETボトルに約1Kg充填して上部に約0.5Lの空間部を残した。ボトルの蓋部に実施例1で用いた冶具を装着して炭酸ガスボンベより炭酸ガスを導入した。この場合、ボトルの内圧を測定するために冶具に圧力計を装着した。ボトルの上部空間圧力が0.40MPaに到達すると同時に冶具のガス導入部を遮断してPETボトルを加圧密閉状態にして室温で(約25℃)静置した。静置時間と共に空間部の炭酸ガスは水溶液に吸収されて徐々に圧力は低下した。25時間後に内圧は0.14MPaまで低下しほぼ一定値になったので、この時点で実験を中止してボトルを開封して水溶液を分析した。なお、ボトルの全重量増加率は0.42wt%で実験開始時と終了時で変化は無くガス漏れは無かった。分析結果は水溶液のPHは4.35、遊離炭酸濃度は2100ppm、有効塩素濃度は20ppmであった。
【0043】
一方、圧力低下の値から理想気体を仮定すると、炭酸ガスは水溶液に約2.6g溶解したことになり、水溶液の重量増加は0.26wt%となる。一方、実施例2の表2の重量増加でガスの重量補正を行なうと、30分の攪拌溶解で水溶液の重量増加は0.39−0.18=0.21wt%になる。このときの水溶液のPHが4.19であったが、上記PHと比較的良い一致を示した。このことは水溶液を攪拌すると炭酸ガスの溶解は早いが、攪拌なしで静置していても1日前後でガスの溶解はほぼ平衡状態まで進行することを示している。
【0044】
【実施例6】
内容積300ml、内壁部を塩化ビニル樹脂でコーティングしたアルミ製の耐圧缶を用意した。この缶に有効塩素濃度が20ppm、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液をそれぞれ200ml、充填ガスとして炭酸ガスを用いて1.2MPaの充填圧力で充填した。充填後には容器のキャップ部にスプレー式ノズルを装着し密閉した。充填後4日経過後及び6ヵ月経過後、密閉容器のノズルから水溶液をビーカーに約10ml採取してそのPHを測定したところ、時間経過に伴う変化は無くそれぞれ4.01(20ppm液)、4.64(200ppm液)であり、有効塩素濃度はいずれの場合も変化が無かった。また、スプレー式ノズルより内容物を噴射させたところほぼ最後まで噴射が可能であった。
【0045】
【実施例7】
実施例1で調整した炭酸水(PH=3.74)と200ppm有効塩素を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液を80/20の容量比で混合した。この混合液のPHは4.73で有効塩素は40ppmであった。この混合液を実施例6で用いたアルミ製の耐圧缶に200ml注入し窒素を充填ガスとして0.8MPaで封入し容器のキャップ部にスプレー式ノズルを装着した。ノズルより内容物を噴射させたが最後まで噴射が可能であった。
【0046】
【実施例8】
試薬ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム(DCI)(有効塩素60%)及び高度さらし粉(有効塩素60%)をそれぞれイオン交換水で稀釈して有効塩素20ppmの水溶液を調整した。高度さらし粉の場合、石灰分が少し残存するため液は少し白濁していた。この水溶液を用いて実施例1で行なったと同様の実験を行い、炭酸ガスの溶解に伴うPETボトルの重量増加率及びPHを測定した。結果を表5に纏めて示した。この結果からDCI及び高度さらし粉水溶液の場合も次亜塩素酸ナトリウム水溶液とほぼ同じ量の炭酸ガスを溶解するものと判断された。PHの変化はDCIの場合は初期のPHが中性のため低下率は大きく、高度さらし粉の場合は次亜塩素酸ナトリウムの場合と大きな差は無かった。
【0047】
【0048】
【比較例】
試薬次亜塩素酸ナトリウム水溶液をイオン交換水で稀釈して有効塩素濃度200ppm、PHが10.79の水溶液を調整した。この水溶液に酒石酸水素ナトリウム並びにクエン酸をそれぞれ添加してPHを4.74、4.70に調整した。4日間密閉容器に入れて室温で暗所に放置後、有効塩素濃度を測定したところいずれの水溶液も0.1ppm以下に減少していた。
【0049】
【発明の効果】
次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系殺菌剤水溶液を密閉容器に充填する際に炭酸ガスを充填ガスとして用いることにより、水溶液のPHが容易に6.5以下に低下して殺菌力の強い次亜塩素酸を90%以上含む水溶液を調整することが出来た。この方法は密閉容器に充填する前にPHの調整を必要としないため、1回の工程で次亜塩素酸水溶液を充填した容器を製造できる。このように調整された水溶液はPETボトルや耐圧容器などの密閉容器に充填されているので可搬容易な殺菌剤水溶液となり必要な時に必要な量を使用することができ消毒による衛生向上が期待される。
Claims (5)
- 次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌール酸ナトリウムの群より選ばれる塩素剤水溶液を密閉容器に充填する際に、炭酸ガスを充填ガスとして用いることにより充填水溶液のPHを3.0以上6.5以下にすることを特徴とする殺菌剤水溶液充填容器の製造方法。
- 充填ガスとして炭酸ガスと圧縮性ガス又は/及び液化ガスの混合ガスを用いることを特徴とする請求項1の殺菌剤水溶液充填容器の製造方法。
- 次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌール酸ナトリウムの群より選ばれる塩素剤水溶液に炭酸ガスを溶解するか又は炭酸水を混合して、前記水溶液のPHを3.0以上6.5以下に調整した後、前記水溶液を充填ガスと共に密閉容器に充填することを特徴とする殺菌剤水溶液充填容器の製造方法。
- 充填ガスが炭酸ガス、圧縮性ガス、液化ガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項3の殺菌剤水溶液充填容器の製造方法。
- 殺菌剤水溶液中の遊離の炭酸濃度が300ppm以上含まれるよう炭酸ガスを溶解するか又は炭酸水を混合することを特徴とする請求項1から4に記載の殺菌剤水溶液充填容器の製造方法。
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