JP2004509091A - α−ヒドロキシ酸の工業的規模での精製方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、α−ヒドロキシ酸、特に乳酸またはグリコール酸を工業的規模で精製する方法に、並びにこの方法により得ることができる最高のキラル純度の製品に、及びこれらの用途に関する。
【0002】
乳酸は、分子間エステル(ダイマー及びポリマー形の乳酸)を形成する傾向が強いために、通常、希薄あるいは濃縮溶液として販売されている。加えて、乳酸(極めて純粋な乳酸でも)は極めて吸湿性である。乳酸(ラセミ混合物と特に乳酸のエナンチオマー)の工業的規模での精製は、従来技術に従うと複雑で困難な方法である。
【0003】
乳酸、2−ヒドロキシプロピオン酸を発酵法で製造する方法は既知である。一般に、乳酸の発酵法による製造は、最初に好適な微生物によりグルコースまたはショ糖などの炭水化物を含有する基質を乳酸に転換する醗酵段階を含む。(S)−乳酸を生産する既知の微生物は、例えば、ラクトバチルス カセイ(Lactobacillus casei)などのラクトバチルス(Lactobacillus)属の種々のバクテリアである。加えて、(R)−乳酸を選択的に生産する微生物も知られている。次に、この水性の醗酵製品を処理して乳酸を得る。この通常の工業的な処理経路は、概ね、このバイオマスを分離し、続いて酸性化、精製及び濃縮することからなる。
【0004】
(S)−乳酸の場合には、このように得られる乳酸は、人間の消費する食品での加工には充分に純粋である。この通常の方法により最終的に得られる(S)−あるいは(R)−乳酸は、エナンチオマーとして98%、あるいは更に高い純度とすることができる(すなわち、存在する乳酸の98%あるいはそれ以上が(S)あるいは(R)エナンチオマーからなる)。しかしながら、この製品は残存砂糖をなお含有する。また、この製品は黄色に着色していて、加熱すると不純物の分解により褐色から黒色となる。更には、(S)−乳酸の場合には、この感覚刺激に反応する性質は、時には、希望すべき事項を残している。このように、このエナンチオマーは食品用途には適度に好適であるが、医薬品用途とキラル化合物の合成には全体的に好適でない。
【0005】
エステル化とそれに続く加水分解により、医薬品用途に好適であるように製品の純度を増大させることができる。しかしながら、エステル化/加水分解の結果として、エナンチオマー純度は低下し、この乳酸はエステル化に使用した少量のアルコールをなお含有する。乳酸の精製用の他の方法の例は、乳酸水溶液を一つあるいはそれ以上の抽出、(水蒸気)蒸留及び/または蒸発段階、電気透析段階及び結晶化にかけることを含む(例えばUllmans Ency1dopadie der Technischen Chemie,Verlag Chemie GmbH,Weinheim,fourth edition,Part 17,pages 1−7(1979);H.Benninga,「History of Lactic Acid Making」, Kluwer Academic Publishers,Dordrecht−Boston−London(1990);C.H.Holten,「Lactic Acid;Properties and Chemistry of Lactic Acid and Derivatives」,Verlag Chemie GmbH Weinheirn(1971);The Merck Index,Merck & Co.,Inc.,eleventh edition,page842(1989);RommpChemie Lexicon,G.Thieme Verlag,Stuttgart and NewYork,ninth edition,Part4,pages2792−2893(1991)及びthe Netherlands patent applications 1013265及び1013682を参照されたい)。
【0006】
独逸特許593,657(1934年2月15日に付与)においては、(S)成分の過剰を含有し、実際的には乳酸無水物を含有しない乳酸水溶液を必要ならば減圧で薄膜蒸発法により濃縮する実験室の実験が記述されている。次に、この濃縮乳酸溶液を迅速に冷却し、結晶を形成させた。その後、結晶を母液から分離し、エーテルにより洗浄し、そしてこの結晶が53℃のシャープな融点を示すまで、酢酸エチルまたはクロロホルムまたは匹敵する溶媒から繰り返して再結晶化した。このキラル純度またはエナンチオマー過剰及び色は報告されていない。
【0007】
H.Borsook,H.M.Huffman,Y−P.Liu,J.Biol.Chem.102,449−460(1933)においては、(S)−乳酸の過剰と共に50パーセントの乳酸を含有する水性混合物、30パーセントの乳酸無水物及び乳酸ダイマーと15パーセントの水をほぼ0.13ミリバール及び105℃で分別蒸留にかける研究室の実験が記述されている。次に、この中間溜分を再度蒸留し、その後氷/塩浴中で冷却し、固体結晶を形成させた。大量の場合には長い加熱時間の結果として製品の損失が大きいために、この蒸留を少量で行なわなければないことが報告されている。次に、この固体結晶を等容量のジエチルエーテルとジイソプロピルエーテル(同量の)から3回再結晶化させ、そして結晶を単離し、真空乾燥器中室温で乾燥した。このようにして、水、乳酸無水物または乳酸ダイマーなどの0.1パーセント未満の不純物を含有する52.7−52.8℃の融点の(S)−乳酸を得ることが可能であった。(S)−乳酸のキラル純度またはエナンチオマー過剰及び色は報告されていない。
【0008】
L.B.Lockwood,D.E.Yoder,M.Zienty,Ann.N.Y.Acad.Sci.119,854(1965)においては、工業的規模での乳酸の蒸留と結晶化も記述されていて、得られる光学的に純粋な乳酸の融点は54℃である。この色は報告されていない。
【0009】
1934年に乳酸の結晶化がBoehringw Ingelheimzにより研究されたが、精製と更なる処理の問題のためにこの方法は良好な結果を与えないことが判明した。しかしながら、第2次世界大戦の後、Boehringer Ingelheimは、月当り約12ないし15トンの規模で医薬品用途に乳酸を約77ないし86パーセントの収率で製造することが可能であることが判明した。このプロセスにおいては、減圧(約13ミリバール)で水蒸気蒸留し、続いて−25℃で結晶化し、その後この結晶を水に溶解し、この溶液をフェロシアン化カリウム(重金属を除去するために)と活性炭により処理することにより乳酸水溶液を精製した。このように製造される(S)−乳酸のキラル純度またはエナンチオマー過剰または色と臭いなどの他の性質は知られていない(H.Benninga,「History of Lactic Acid Making」,Kluwer Academic Publishers,Dordrecht−Boston−London,pages347−350(1990)を参照されたい)。
【0010】
結晶性(S)−乳酸は、例えば、Fluke and Sigmaにより99%以上の純度で販売されてきた(例えば、M.L.Buszko,E.R.Andrew,Mol.Phys.76,83−87(1992)及びT.S.Ing,A.W.Yu,V.Nagaraja,N.A.Amin,S.Ayache,V.C.Gandhi,J.T.Daugirdas,Int.J.Artif.Organs 17,70−73(1990)を参照されたい)。1重量パーセント未満の水含量の結晶性(S)乳酸はEPA563,455で既知である(実施例1を参照)。乳酸の結晶構造はA.Schouten,J.A.Kanters,J.vanKrieken,J.Mol.Struct.323,165−168(1994)で記述されている。
【0011】
合成的な方法でも乳酸を得ることができる。これは既知である。しかしながら、合成的製造方法の製品は、(S)−乳酸と(R)−乳酸を等量で含有するラセミ体混合物である。この別々のエナンチオマーをエナンチオマーの一つを塩として晶出させ、次にこの塩をエナンチオマー形の乳酸に戻すジアステレオマー分離法などの既知の手法で分離することができるのは事実であるが、最終的に得られるエナンチオマー形の製品は著しい量の他のエナンチオマーをなお含有する。
【0012】
欧州特許出願552,255においては、この溶液をフリーザー中に入れて、結晶を生じさせ、これを濾別することにより、工業用品質のグリコール酸を結晶化することができることが報告されている。この方法は工業的規模での実施には不適であることが明らかであろう。このような方法は、また、DEA2,810,975でも適用されている。
【0013】
WO00/56693においては、乳酸を工業的規模で精製する方法であって、(a)濃縮乳酸溶液に関して計算して少なくとも95重量%の総酸含量と少なくとも80重量%のモノマー形の乳酸含量で、そして1に等しくない乳酸エナンチオマーの比の濃縮乳酸溶液を減圧下で蒸留し、そして(b)この蒸留された乳酸溶液を結晶化にかけることを含み、純粋な乳酸の全量に関して計算して少なくとも99重量%の総酸含量、少なくとも98重量%のモノマー形の乳酸含量、99%あるいはそれ以上のキラル純度、10APHA単位以下の色及び許容できる臭いを有する純粋な乳酸を形成する方法が記述されている。
【0014】
この方法の難点は、段階(a)がこのフィード中に存在する乳酸の全量の5−10重量%のオーダーの量の残渣を生成するということである。この収率は低くはないが、改善可能である。この方法の段階(b)は、段階(a)のフィードに関して計算して約45重量%の最終製品と相対的に純粋であるほぼ45重量%の母液を提供する。
【0015】
本発明は、WO00/56693に従った方法の収率、特に段階(a)の収率を改善することを目的とする。加えて、乳酸のみならず、グリコール酸などの他のα−ヒドロキシ酸を本発明に従った方法により極めて有効に精製することができることが判明した。
【0016】
それゆえ、本発明は、α−ヒドロキシ酸を工業的規模(すなわち、年当り少なくとも1000トンの規模)で精製する方法であって、
(a)主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]を抽出段階にかけ、主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]を形成させ、
(b)主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]を減圧下での水の蒸発により濃縮して、水中のα−ヒドロキシ酸濃縮溶液[3]を形成し、そして
(c)このα−ヒドロキシ酸濃縮溶液[3]を結晶化にかけ、純粋なα−ヒドロキシ酸の全量に関して計算して、少なくとも99重量%の総酸含量、少なくとも98重量%のモノマー形のα−ヒドロキシ酸含量及び適用可能な場合には99%あるいはそれ以上のキラル純度、及び10APHA単位以下の色及び許容できる臭いを有する純粋なα−ヒドロキシ酸[4]を形成させる方法に関する。
【0017】
α−ヒドロキシ酸は炭素原子上でα−ヒドロキシ基により置換された炭酸を意味する。それゆえ、α−ヒドロキシ酸の一般式は
【0018】
【化1】
【0019】
であり、ここで、Rは水素原子、C1−C5アルキル基(好ましくはメチル基)、C6−C12アリール基またはヘテロ環シクロアルキルあるいは−アリール基である。本発明に従ったα−ヒドロキシ酸は、好ましくは乳酸(Rはメチルである)またはグリコール酸(Rは水素である)であり、そして特に乳酸である。
【0020】
この方法の収率は、WO00/56693に従ったものよりも高いことが判明した。本発明に従った方法の段階(a)においては、WO00/56693に従った方法の段階(a)におけるよりも損失はかなり少なく、総フィードに関して計算してフィードの5重量%未満のα−ヒドロキシ酸がラフィネートとして失われる。本発明の方法の段階(b)は、また、WO00/56693で記述されている方法の段階(a)のフィードを製造するためにその中でも記述されている。加えて、本発明の方法の段階(c)は、相対的に純粋で低純度の製品を必要とする用途、例えば食品にはα−ヒドロキシ酸に容易に精製することができる母液を生成する。他方、本発明の方法により得られるα−ヒドロキシ酸は、極めて純粋であり、医薬品用途に極めて好適である。
【0021】
本発明に従えば、段階(a)は
(i)主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]を第1の抽出段階にかけ、ここで、該主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]を主として水に不溶であり、そして抽出剤を含有する流れ[5]と接触させて、主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]と主に不純物を含有する第1の水相[7]を形成させ、そして
(ii)主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]を第2の抽出段階にかけ、ここで主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]を水流[8]と接触させて、主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]と主に抽出剤を含有する有機相[9]を形成し、主に抽出剤を含有する有機相[9]を段階(i)に戻す
素段階を含んでなる。
【0022】
この主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[1]は、流れ全体に関して計算して0.1ないし25重量%のα−ヒドロキシ酸を含有する。
【0023】
この主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]は、流れ全体に関して計算して0.1ないし25重量%のα−ヒドロキシ酸を含有し、そして100APHA単位以下、特に60APHA単位以下である色を有する。他方、流れ[2]は、この流れ全体に関して計算して30ないし80重量%の、好ましくは30ないし50重量%のα−ヒドロキシ酸を含有する濃縮された流れであることができて、この流れは、好ましくは200APHA単位以下である色を有する。このような濃縮された流れ[2]を適用する場合には、これは主に不純物を含有する第1の水相[7]を更なる精製または更なる処理なしに排出することができるという利点を有する。
【0024】
このα−ヒドロキシ酸濃縮溶液[3]は、α−ヒドロキシ酸濃縮溶液[3]全体に関して計算して好ましくは少なくとも70重量%の、更に好ましくは少なくとも80重量%の、そして特に少なくとも85ないし95重量%の全酸含量を有する。
【0025】
このα−ヒドロキシ酸が乳酸である場合には、流れ[3]は、好ましくは少なくとも80重量%の、更に好ましくは少なくとも90重量%の、そして特に90ないし95重量%の総酸含量を有する。そこで、この溶液のキラル純度は、少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、そして特に少なくとも98%である。
【0026】
このα−ヒドロキシ酸がグリコール酸である場合には、流れ[3]は、好ましくは少なくとも70重量%の、更に好ましくは少なくとも80重量%の、そして特に85ないし95重量%の総酸含量を有する。当業者には明らかであるように、グリコール酸の場合にはこのキラリティは重要でない。
【0027】
総酸含量(TA)は、過剰の塩基により分子間エステル結合をけん化した後の酸含量であり、酸による逆滴定により定量される。このように、総酸含量は、モノマー形、ダイマー形及びポリマー形の乳酸の量を与え、モノマー形の乳酸の重量パーセントとして表わされる。この遊離酸含量(FA)は、塩基による直接滴定により、すなわち、この分子間エステル基のけん化の前に求められる。モノマー形乳酸(MM)の含量はこの明細書では
MM=TA−2×(TA−FA)
(但し、TA−FA<10%である)
として定義される。
これは、極めて多量のダイマーあるいはポリマー形の乳酸が存在することができないことを意味する。この非モノマー形の乳酸は乳酸ラクトイル(ダイマー)の形で存在することも推測される。キラル純度(過剰の(S)−異性体に対する)は、この明細書では
キラル純度=100%×{((S)−異性体)/((R)−異性体+(S)−異性体)}
として定義される。
【0028】
本発明に従った方法によれば、無色で、キラル純度の高いα−ヒドロキシ酸を得ることができる。着色度はASTMD5386−93に従って求められ、「APHA単位」で表わされる。この方法は透明な液体の着色を求めるのに好適である。少なくとも10APHA単位の着色は、関連の液体が視覚的に感知できない着色を有し、従って肉眼で観察して無色であることを意味する。この着色は、また、加熱(還流下でほぼ2時間)後でも求められる。
【0029】
本発明の利点は、高純度及び時間単位当り供給されるフィードの重量単位当り高収率でα−ヒドロキシ酸を得ることができることである。加えて、本発明に従った方法によれば、50APHA以下の、好ましくは25APHA以下の、そして特に10APHA以下の着色(還流冷却下2時間の加熱後)でα−ヒドロキシ酸を得ることができる(これらの値は92重量%純度のα−ヒドロキシ酸を含有するα−ヒドロキシ酸溶液に当てはまる)。本発明の別な利点は、段階(a)の第1の抽出段階(i)を大気圧下で行なうことができることである。抽出時に大気圧で作業する更なる利点は、短い応答時間(この系が平衡に迅速に達する)であり、結果としてこの方法は有効にモニター及びコントロール可能であり、干渉を受けにくい。加えて、この方法を大規模な工業的な方法にスケールアップすることがより容易である。最後に、液体/液体系のみが関与するためにこの抽出は、従来技術から知られている対応する抽出よりも単純であり、そして、この方法によってα−ヒドロキシ酸を含有する相対的に不純な水流、すなわち、例えば大量の残存砂糖を含有する流れの効率的な精製ができることが判明した。
【0030】
図1は本発明に従った方法の好ましい態様を示す。
【0031】
図1に従えば、主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]は第1の抽出にかけられ、抽出剤を含有する流れ[5]を形成する。このように、α−ヒドロキシ酸は水相から有機相(流れ[6])へと抽出され、主に不純物と少量のα−ヒドロキシ酸を含有する水相(流れ[7])を形成する。流れ[6]は第2の抽出にかけられ、主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相(流れ[2])と主に抽出剤を含有する有機相[9]を形成する。最後に、流れ[2]は水の蒸発により濃縮され、水中の濃縮されたα−ヒドロキシ溶液[3]を形成する。
【0032】
図1に従えば、流れ[6]は水による洗浄段階にかけられ、ここで、水に可溶のいかなる残存不純物もα−ヒドロキシ酸を含有する有機相から除去される。この洗浄段階においては、少量のα−ヒドロキシ酸も有機相(流れ[6])から洗い出されることが不可避であり、そこで好ましくは流れ[10]は特に本発明の方法の段階(a)の前に工程に戻される。更には、第2の抽出の後に形成される主に抽出剤を含有する有機相(流れ[9])は、好ましくはアルカリ金属の無機塩、好ましくは水酸化ナトリウムの水溶液により洗浄されて、なお存在するいかなる酸と他の不純物も流れ[9]から除去する。このように精製される流れ[9]を急速な抽出に対して再度使用すること、すなわち流れ[5]に対するフィードとして適用することができる。流れ[9]の精製において、水流[11]は放出され、廃液流として排出される。
【0033】
第1の抽出段階(前方の抽出)時に形成される水流[7]は、好ましくは、完全な混合物に関して計算して少なくとも90重量%の水、特に、少なくとも95重量%水を含有する。加えて、流れ[7]は、好ましくは5重量%以下のα−ヒドロキシ酸を含有する。それゆえ、効率的な抽出のためには、流れ[7]は段階(a)の前の工程の中に戻される。加えて、主として不純物[7]を含有する第1の水相は、この流れを廃液流またはフィードバック流のいずれかとして更に処理する前に水の蒸発により濃縮される。
【0034】
本発明の別な好ましい態様に従えば、流れ[7]の濃縮を除外することができる。この場合には、濃縮段階は段階(a)の前に行なわれ、流れ[1]は濃縮されて、流れ全体に関して計算して40ないし50重量%のα−ヒドロキシ酸を含有する濃縮α−ヒドロキシ酸を含有する水流が得られる。次に、濃縮α−ヒドロキシ酸を含有するこの水流は、第1の抽出段階にかけられ、主に水と不純物のみを含有する流れ[7]が形成される。
【0035】
本発明に従った方法の段階(i)は、好ましくは大気圧で、そして0°ないし60℃の温度、特に10°及び50°の温度で行なわれる。しかしながら、この抽出剤がいかなるアルコール及び/またはケトンも含有しない場合には、段階(i)は、好ましくは大気圧で、そして60°ないし100℃の温度で行なわれる。この主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]と抽出剤[5]を含有する主に水不溶の流れの容量比は、好ましくは20:1と1:20の間、更に好ましくは3:1と1:7の間、そして特に2:1と1:5の間である。
【0036】
本発明に従った方法の段階(ii)は、好ましくは1ないし10バールの圧力、特に2ないし9バールの圧力で、そして100°ないし180℃の温度、特に120°及び160°の温度で行なわれる。主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]と水流[8]の容量比−段階(ii)−は、好ましくは20:1と1:20の間、更に好ましくは3:1と1:7の間、そして特に1:2と1:4の間である。
【0037】
本発明に従った方法の段階(i)で使用される抽出剤は、好ましくはアミン(1)と炭化水素(2)を含んでなる。この抽出剤は、好ましくはアルコール及び/またはケトン(3)も含んでなる。更には、引用することにより本明細書の内容となる例えば米国特許第1,906,068号で記述されているように、イソプロピルエーテルによっても良好な結果を得ることができることが判明した。特記したように、本発明に従った方法の段階(i)を行なう条件はさまざまである。この抽出剤がいかなるアルコール及び/またはケトンも含有しない場合には、段階(i)は、好ましくは大気圧で、そして60°ないし100℃の温度で行なわれる。そうでない場合には、段階(i)は、好ましくは大気圧で、そして60°ないし100℃の温度、特に10°ないし50℃の温度で行なわれる。
【0038】
このアミンは、好ましくは少なくとも18個の炭素原子を持つ3級アミンであり、そして好ましくは24ないし42個の炭素原子を含有する。この抽出剤が好ましいものであるアルコールを含有する場合には、このアルコールはC8−C12アルコールである。
【0039】
この炭化水素は、好ましくは飽和アルケンからなり、好ましくは、少なくとも40℃の、更に好ましくは少なくとも70℃の引火点、そして特に少なくとも90℃の引火点を有する石油溜分である。高引火点は段階(a)で使用される装置に対してさほど厳格な安全条件を設定する必要がないという利点を有する。この炭化水素の沸点範囲は、好ましくは150°ないし275℃、特に170°ないし260℃である。この炭化水素は特にIsoparKTMまたはIsoparMTMである。
【0040】
この抽出剤は、好ましくは40ないし75重量%の(1)、5ないし60重量%の(2)及び0ないし25重量%の(3)を含有し、そして特に45ないし55重量%の(1)、45ないし55重量%の(2)及び0ないし10重量%の(3)を含有する。
【0041】
本発明に従った方法の段階(b)は、好ましくは一つあるいはそれ以上の落下型膜蒸発装置及び/または薄膜蒸発装置及び/または塗り付け型膜蒸発装置で行なわれ、段階(b)は、好ましくは大気圧ないし10バールの圧力、特に0.8ないし0.2バールの圧力で、そして25°ないし140℃の、更に好ましくは40°及び100°の、そして特に60°ないし85℃の温度で行なわれる。
流れ[2]は、好ましくは0.5から1バールまでの、特に0.7から0.9バールまでの圧力と50°ないし100℃の、特に70°から90℃までの温度にある。
【0042】
既知の結晶化手法が段階(c)で原理的に適用可能である。このような手法の例は、融解結晶化(または冷却結晶化)であり、この場合には、例えば(S)−α−ヒドロキシ酸または(R)−α−ヒドロキシ酸を溶融状態で含有する凝縮液体濃縮物または蒸留物は、直接に冷却されて、この(S)−あるいは(R)−α−ヒドロキシ酸が晶出する。結晶化が起こる温度(結晶化温度)を可能な限り低く保ち、このα−ヒドロキシ酸のオリゴマーとポリマーの形成を可能な限り制限することが好ましい。
【0043】
融解結晶化は結晶化される材料の融液から結晶性材料を得る方法である。この手法は、この明細書では参照の目的で示されている例えばKirk−Othmer,「Encyclopedia of Chemical Technology」,fourth edition,Part7,pages 723−727(1993),J.W.Mullin,「Crystallization」,third revised edition,Butterworth−Heinemann Ltd.,pages309−323(1993)及びJ.Ullrich and B.Kallies,「Current Topics in Crystal Growth Research」,1(1994)に詳細に記述されている。蒸留に比較した融解結晶化の主要な利点は、有機化合物の融解エンタルピーが概ね蒸発エンタルピーよりも低いために、極めて少量のエネルギーしか必要としないことである。結晶化エンタルピーは、普通、蒸発エンタルピーよりも低いために、この利点は、また、他の結晶化法について得られる。更に、蒸留に比較しての融解結晶化の別な利点は、概ねこの方法が低い温度で行なわれることであり、これは、この有機化合物が熱的に不安定である場合に有利である。
【0044】
融解結晶化は、必要ならば、洗浄カラムまたは遠心分離、または別な精製法と組み合わせた結晶化または層結晶化を援用して実施可能である。好適な装置と方法の例は、内容を参照のためにこの明細書に記したKirk−Othmer,「Encyclopedia of Chemical Technology」,fourth edition,Part7,pages 723−727(1993),J.W.Mullin,「Crystallization」,third revised edition,Butterworth−HeinemannLtd., pages 309−323(1993)及びJ.Ullrich and B.Kallies,Current Topics in Crystal Growth Research,1(1994)に記述されている。
【0045】
水溶液の結晶化が極めて良好な結果を与えることも判明した。この結晶化処理においては、濃縮乳酸溶液は水により希釈され、次に一つあるいはそれ以上の冷却及び/または蒸発結晶化段階にかけられる。これらの手法においては、濃縮物または蒸留物は直接に冷却される(冷却結晶化)か、あるいは水の蒸発により濃縮される(蒸発結晶化)。冷却結晶化法における結晶化の駆動力は、濃縮乳酸溶液の温度を低下させることにより、濃縮乳酸溶液における過飽和を生じさせることである。この溶液の温度を低下させる結果として、溶解度が減少し、過飽和が起こる。
【0046】
蒸発結晶化法における結晶化の駆動力は、水の蒸発により濃縮乳酸溶液における過飽和を生じさせ、その結果として、温度を一定に保ったまま溶液の濃度を増加させることである。次に、水の蒸発時に乳酸の結晶化が起こる。
【0047】
別な極めて好適な結晶化法は断熱結晶化であり、ここで、結晶化に対する駆動力は熱を供給せずに水の蒸発により濃縮乳酸溶液における過飽和を生じさせることである。
水の蒸発は(a)濃縮乳酸溶液の温度が低下し、そして(b)酸の濃度が増加するという2つの効果を有する。両方の効果は溶解度の減少と過飽和の増加を生じる。結晶化段階(c)は、好ましくは本発明に従って断熱結晶化または冷却結晶化により、特に断熱結晶化により行なわれる。種結晶は好ましくは結晶化中の濃縮乳酸溶液に添加される。
【0048】
次に、残存液体、または母液から固体−液体を分離するのに知られている方法により晶出する乳酸を分離することができる。
【0049】
母液から乳酸結晶を分離するのに好適な分離法の例は、遠心分離、デカンテーション、濾過、一つあるいはそれ以上の洗浄カラムによる分離、またはこれらの手法の2つあるいはそれ以上の組み合わせである。本発明の文脈において、遠心分離と一つあるいはそれ以上の洗浄カラムによる分離が特に適切であることが判明した。
【0050】
得られる母液はかなりの量の乳酸をなお含有する。それゆえ、最適なプロセス管理には、この母液をプロセスに戻すことが好ましい。
【0051】
吸湿性乳酸結晶の凝固が起こるのを防止するために、単離した後、得られる乳酸結晶を好適な溶媒、通常、水に直接に溶解する。このように得られる乳酸溶液の濃度は原理的にはいかなる所望の濃度も有する。実際上、これは普通30から95%まで変わる。市場で普通に出回る濃度は80−90%である。
【0052】
本発明は、また、少なくとも99%のキラル純度と10APHA単位以下の色のα−ヒドロキシ酸またはα−ヒドロキシ酸溶液であって、このα−ヒドロキシ酸またはα−ヒドロキシ酸溶液が特に、医薬品用途に許容される臭いを有するものにも関する。α−ヒドロキシ酸溶液の場合には、この溶媒は好ましくは水である。このキラル純度は、適用可能な場合には、好ましくは少なくとも99%、特に少なくとも99.5%であり、これは99%あるいはそれ以上のエナンチオマーの過剰に相当する。最も好ましいのはキラル純度が少なくとも99.8%(すなわち、少なくとも99.6%)である乳酸、またはこの溶液である。
【0053】
このα−ヒドロキシ酸またはα−ヒドロキシ酸溶液は、また、次の条件にも合致する。
□アルコール含量:250ppm以下(アルコールはメタノール、エタノールまたは他のアルコールであり、そのままのアルコールとして、あるいは乳酸エステルの形のものである)
□全窒素:5ppm以下
□全砂糖:100ppm以下
□有機酸(乳酸以外):250ppm以下
臭いに関しては、このα−ヒドロキシ酸またはα−ヒドロキシ酸溶液は、食品における用途に対する相当な改善と従来技術に従った製品よりも高い化学純度を有する。
【0054】
本発明に従ったα−ヒドロキシ酸はこの醗酵で使用される微生物に依って、(S)−α−ヒドロキシ酸と(R)−α−ヒドロキシ酸の両方を有する。
【0055】
キラル純度が高いために、(S)−α−ヒドロキシ酸と(R)−α−ヒドロキシ酸の両方またはこれらの溶液は、キラル合成に極めて好適に適用可能である。キラル純度の高い(S)−α−ヒドロキシ酸またはこの溶液は、また、医薬製剤における用途にも極めて好適である。
【0056】
それゆえ、本発明は、また、上述の(S)−α−ヒドロキシ酸または(S)−α−ヒドロキシ酸を含有する医薬製剤にも関する。本発明を次の実施例によりここで例示する。
【0057】
(実施例1)
オランダ特許出願1013265に記述されている方法により、工業的規模で得られる(S)−乳酸溶液を出発材料として使用する。この方法は、乳酸への醗酵、酸性化によるこの醗酵媒体の処理、及びこのように形成された塩の除去を含んでなる。これにより乳酸溶液が得られ、これは、次に、本発明に従った方法の段階(a)に従った抽出段階にかけられる。この抽出の後、溶液を活性炭により処理して、存在するいかなる抽出剤も除去する。この乳酸溶液の性質は次の通りであった。
【0058】
【表1】
【0059】
次に、KDL−4短経路蒸留装置(条件:油浴130℃,フィード速度10ml/分,圧力100ミリバール,ローター速度250r.p.m.冷却水:水道水である)を用いてこの溶液を濃縮する。この堆積物の乳酸濃度は堆積物に関して計算して約91重量%であった。
【0060】
この結晶化を次のように行った。327gの濃縮乳酸を三つ口の丸底フラスコの中に入れ、このフラスコをサーモスタット浴中に入れた。31℃でこの溶液を極めて小さい乳酸結晶の0.12gのサスペンジョンにより接種した。フラスコを攪拌しながら30℃まで冷却し、そしてこの種結晶を放置して、この温度で20分間成長させた。このサスペンジョンを2時間で30°から26℃まで、続いて3時間で15℃まで更に冷却した。結晶化の後、このサスペンジョンを遠心分離(Sieve laboratory centrifuge(Hermle))して、150gの乳酸結晶を得た。これは収率が54%(乳酸に関して計算して)であることを意味する。この結晶を少量の水に溶解して、90重量%の乳酸溶液を得た。この色(新鮮な)はそれぞれ、8APHA及び5APHA(加熱後)であった。
Claims (24)
- α−ヒドロキシ酸を工業的規模で精製する方法であって、
(a)主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]を抽出段階にかけて、主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]を形成し、
(b)減圧下での水の蒸発により該主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]を濃縮して、水中の濃縮α−ヒドロキシ酸溶液[3]を形成し、そして
(c)該α−ヒドロキシ酸濃縮溶液[3]を結晶化にかけて、純粋なα−ヒドロキシ酸[4]を形成し、ここで、
(i)該α−ヒドロキシ酸濃縮溶液[3]を融解結晶化装置中で直接に冷却し、そして/または
(ii)該濃縮α−ヒドロキシ酸溶液[3]を水により希釈し、そして一つあるいはそれ以上の冷却結晶化装置及び/または蒸発結晶化装置中で結晶化を起こし、そして/または
(iii)一つあるいはそれ以上の断熱結晶化装置中で結晶化を起こす
ことを含む方法。 - 該α−ヒドロキシ酸が乳酸またはグリコール酸である請求項1に記載の方法。
- 該α−ヒドロキシ酸が乳酸である請求項2に記載の方法。
- 該主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]が0.1ないし25重量%のα−ヒドロキシ酸を含有し、そして100APHA単位以下の色を有する先行する請求項の一つに記載の方法。
- 該主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]が100APHA単位以下の色を有する先行する請求項の一つに記載の方法。
- 該主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]が該流れ全体に関して計算して30ないし80重量%のα−ヒドロキシ酸を含有して、この流れが200APHA単位以下である色を有する先行する請求項の一つに記載の方法。
- 段階(a)が(i)主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]を第1の抽出段階にかけ、ここで、該主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]を主として水に不溶であり、そして抽出剤を含有する流れ[5]と接触させて、主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]と主として不純物を含有する第1の水相[7]を形成させ、そして(ii)主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]を第2の抽出段階にかけ、ここで主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]を水流[8]と接触させて、主にα−ヒドロキシ酸を含有する水相[2]と主に抽出剤を含有する有機相[9]を形成し、主に抽出剤を含有する有機相[9]を段階(i)に戻す素段階を含んでなる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]を段階(ii)の前に水による洗浄段階にかけて、主に不純物を含有する水相[10]を形成させる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 主に不純物を含有する水相[10]を段階(a)の前に工程に戻す請求項8に記載の方法。
- 段階(i)が大気圧で、そして0°ないし60℃の温度で行なわれる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 段階(i)が大気圧で、そして60°ないし100℃の温度で行なわれる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 主にα−ヒドロキシ酸を含有する水流[1]と抽出剤を含有する主に水に不溶である流れ[5]の容量比が20:1と1:20の間である先行する請求項の一つに記載の方法。
- 段階(i)が1ないし10バールの圧力で、そして100°ないし180℃の温度で行なわれる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 主にα−ヒドロキシ酸と抽出剤を含有する有機相[6]と該水流[8]の容量比が20:1と1:20の間である先行する請求項の一つに記載の方法。
- 該抽出剤がアミン(1)と炭化水素(2)を含んでなる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 該抽出剤がアルコール及び/またはケトン(3)を含んでなる請求項15に記載の方法。
- 該抽出剤が40ないし75重量%の(1)、5ないし60重量%の(2)及び0ないし25重量%の(3)を含有する請求項16に記載の方法。
- 該濃縮α−ヒドロキシ酸溶液[3]が該フィード流れ全体に関して計算して少なくとも70重量%の総酸含量と少なくとも10重量%のモノマー形のα−ヒドロキシ酸含量と適用可能ならば、1に等しくない該α−ヒドロキシ酸エナンチオマーの比を有する先行する請求項の一つに記載の方法。
- 段階(b)が一つあるいはそれ以上の落下型膜蒸発装置及び/または薄膜蒸発装置及び/または塗り付け型(smeared)膜蒸発装置で行なわれる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 段階(b)が大気圧ないし0.1バールの圧力で、そして25°ないし140℃の温度で行なわれる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 該結晶化段階(c)が一つあるいはそれ以上の冷却結晶化装置、蒸発結晶化装置及び/または断熱結晶化装置で行なわれる先行する請求項の一つに記載の方法。
- 好ましくは遠心分離固体−液体分離または一つあるいはそれ以上の洗浄カラム付き分離により、該結晶化段階(c)からの製品流を母液とα−ヒドロキシ酸結晶に分離する先行する請求項の一つに記載の方法。
- 適用可能ならば、主にα−ヒドロキシ酸[1]を含有する水流中に存在する該モノマー形のヒドロキシ酸のキラル純度が少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%である先行する請求項の一つに記載の方法。
- 主にα−ヒドロキシ酸[1]を含有する水流が発酵により製造されるα−ヒドロキシ酸から得られる先行する請求項の一つに記載の方法。
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