JP2004508010A - mRNA増幅 - Google Patents

mRNA増幅 Download PDF

Info

Publication number
JP2004508010A
JP2004508010A JP2001569407A JP2001569407A JP2004508010A JP 2004508010 A JP2004508010 A JP 2004508010A JP 2001569407 A JP2001569407 A JP 2001569407A JP 2001569407 A JP2001569407 A JP 2001569407A JP 2004508010 A JP2004508010 A JP 2004508010A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cells
cdna
cell
primer
tissue
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2001569407A
Other languages
English (en)
Inventor
ツォールンヘーフェル,ディートリンド
クレイン,クリストフ
Original Assignee
マイクロメット アーゲー
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by マイクロメット アーゲー filed Critical マイクロメット アーゲー
Publication of JP2004508010A publication Critical patent/JP2004508010A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N15/00Mutation or genetic engineering; DNA or RNA concerning genetic engineering, vectors, e.g. plasmids, or their isolation, preparation or purification; Use of hosts therefor
    • C12N15/09Recombinant DNA-technology
    • C12N15/10Processes for the isolation, preparation or purification of DNA or RNA
    • C12N15/1096Processes for the isolation, preparation or purification of DNA or RNA cDNA Synthesis; Subtracted cDNA library construction, e.g. RT, RT-PCR
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12QMEASURING OR TESTING PROCESSES INVOLVING ENZYMES, NUCLEIC ACIDS OR MICROORGANISMS; COMPOSITIONS OR TEST PAPERS THEREFOR; PROCESSES OF PREPARING SUCH COMPOSITIONS; CONDITION-RESPONSIVE CONTROL IN MICROBIOLOGICAL OR ENZYMOLOGICAL PROCESSES
    • C12Q1/00Measuring or testing processes involving enzymes, nucleic acids or microorganisms; Compositions therefor; Processes of preparing such compositions
    • C12Q1/68Measuring or testing processes involving enzymes, nucleic acids or microorganisms; Compositions therefor; Processes of preparing such compositions involving nucleic acids
    • C12Q1/6844Nucleic acid amplification reactions
    • C12Q1/6853Nucleic acid amplification reactions using modified primers or templates
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12QMEASURING OR TESTING PROCESSES INVOLVING ENZYMES, NUCLEIC ACIDS OR MICROORGANISMS; COMPOSITIONS OR TEST PAPERS THEREFOR; PROCESSES OF PREPARING SUCH COMPOSITIONS; CONDITION-RESPONSIVE CONTROL IN MICROBIOLOGICAL OR ENZYMOLOGICAL PROCESSES
    • C12Q2600/00Oligonucleotides characterized by their use
    • C12Q2600/158Expression markers

Landscapes

  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Zoology (AREA)
  • Wood Science & Technology (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • General Engineering & Computer Science (AREA)
  • Biotechnology (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Biophysics (AREA)
  • Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
  • Biomedical Technology (AREA)
  • Microbiology (AREA)
  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • Bioinformatics & Computational Biology (AREA)
  • Crystallography & Structural Chemistry (AREA)
  • Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
  • Analytical Chemistry (AREA)
  • Plant Pathology (AREA)
  • Immunology (AREA)
  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Saccharide Compounds (AREA)
  • Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Abstract

本発明は,試料のmRNAを増幅する方法に関し,該方法は,i.)ポリアデニル化RNAにハイブリダイズし,かつ5’ポリ(C)または5’ポリ(G)フランクを含む少なくとも1つのプライマーを用いてポリアデニル化RNAからcDNAを生成し;ii.)(aa)ハイブリダイズしていない余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPが存在する場合にはこれを除去し;ii.)(ab)前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,または工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルを用いて3’テイリングを行い;またはii.)(b)余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPの存在または非存在にかかわらず,前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,または工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルを用いて,RNA−リガーゼを用いて3’テイリングを行い;iii.)テイリングしたcDNAを,工程ii(ab)またはii(b)において生成したテイルにハイブリダイズしたプライマーを用いて増幅する,の各工程を含む。本発明はさらに,mRNAの増幅の前記方法を用いて,試験試料において発現されている遺伝子を同定するために,病理学的状態の治療のための薬剤候補物を同定するために,および病理学的状態をインビトロで検出するために,インビトロ代用物を製造する方法に関する。本発明はさらに,本発明の方法により得られた増幅されたcDNAを,ハイブリダイゼーション,相互作用および/または酵素アレイにおいて用いることに関する。

Description

【0001】
本発明は試料のmRNAを増幅する方法に関し,該方法は,i.)ポリアデニル化RNAにハイブリダイズし,5’ポリ(C)または5’ポリ(G)フランクを含む少なくとも1つのプライマーを用いてポリアデニル化RNAからcDNAを生成し;ii.)(aa)ハイブリダイズしていない余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPが存在する場合にはこれを除去し;ii.)(ab)前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,または工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルを用いて3’テイリングを行い;またはii.)(b)余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPの存在または非存在にかかわらず,前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,または工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルを用いて,RNA−リガーゼを用いて3’テイリングを行い;iii.)テイリングしたcDNAを,工程ii(ab)またはii(b)において生成したテイルにハイブリダイズするプライマーを用いて増幅する,の各工程を含む。本発明はさらに,mRNAの増幅の前記方法を用いて,試験試料において発現されている遺伝子を同定するために,病理学的状態の治療のための薬剤候補物を同定するために,および病理学的状態をインビトロで検出するために,インビトロ代用物を製造する方法に関する。本発明はさらに,本発明の方法により得られた増幅されたcDNAを,ハイブリダイゼーション,相互作用および/または酵素アレイにおいて用いることに関する。
【0002】
本明細書のテキストの全体においていくつかの文献が引用される。これらの文献のそれぞれの開示内容(製造元の仕様書,指示等を含む)を本明細書の一部としてここに引用する。
【0003】
遺伝子発現および遺伝子発現パターンの研究は,最近,cDNAフィルターアッセイまたはcDNAマイクロアレイによるmRNA発現の広範な分析により大きく変革してきた(特に,Southern,Trends Genet.12(1996),110−115;Debouck,Nat.Genet.21:48−50(1999);Hacia,Nat.Genet.,21,42−7(1999);Cole,Nat.Genet.21,3841(1999);BowtellDD.,Nat.Genet.,21,25−32(1999);Cheung,Nat.Genet.,21,15−19(1999);Duggan,Nat.Genet.,21,10−14(1999);Southern,Nat.Genet.,21,5−9(1999)を参照)。例えば,Lockhart(Nature Biotechnology 14(1996),1675−1680)は,多数のmRNAを数万種類の合成オリゴヌクレオチドを含む小さな高密度アレイにハイブリダイズさせて,数万種類の(発現された)遺伝子を同時にモニタリングすることに基づく方法を記載する。遺伝子発現用の別のマイクロアレイは,Shalon(Pathol.Biol.46(1998),107−109),Lockhardt(Nuc.AcidsSymp.Ser.38(1998),11−12)またはSchena(Trends Biotech.16(1998),301−306)に記載されている。しかし,上述のcDNA−アレイ技術の主な欠点の1つは,これらの技術が,mRNA,逆転写されたRNAまたは増幅されたcDNAのいずれの形においても,2.5−10μgの量の核酸プローブを試験することが必要であることである(特に,Schena(Science 270(1995),467−470およびPNAS U.S.A.93(1996),10614−10619)またはLockhardt(1996)上掲を参照)。この量の材料は,通常は多数の,例えば10個の細胞から得る。Bryant(PNAS U.S.A.96(1999),5559−5564)またはMahadevappa(Nat.Biotech.17(1999),1134−1136)は,少なくとも50000個の細胞を用いるそのような方法を報告した。これまでにエクスビボ組織分析および対応する遺伝子発現に用いられた細胞の最小数は1,000個であった(Luo,Nat.Medicine 5(1999),117−122)。しかし,多くの生理学的および/または病理学的状態は,より少ない数の細胞の,あるいは単一の細胞の遺伝子発現パターンもしくは”トランスクリプトーム”(所与の生物学的試料におけるmRNA分子全体として定義される(Velculescu,Cell,88,243−251(1997))を調べることを必要とするであろう。例えば,胚形成において空間的かつ過渡的に制御される遺伝子発現の研究は,少数の細胞,特に単一の細胞を演繹することができる方法から明らかに利益を得るであろう。同様に,成人組織,とりわけ血液または神経(幹)細胞に由来する個々の細胞または少数の細胞の遺伝子発現パターン/トランスクリプトームを研究することは非常に興味が持たれるであろう。さらに,多数の病理学的状態を明らかにすることができ,例えば,異型性増殖,化生,新生物発生前病巣および/またはインシトゥー癌腫における制御解除された遺伝子発現を記述することができる。研究することができる,局所的に限定された病理学的プロセスの別の例には,限定されないが,再狭窄,アルツハイマー病,パーキンソン病,対宿主性移植片病または自己免疫における炎症が含まれる。さらに,小さい癌に由来する不顕性微小転移巣は,散在性腫瘍細胞が遠位臓器で生存し,増殖して転移として現れる場合,悲惨な結果となる。原発性腫瘍の切除後に残存する腫瘍細胞は,現在,骨髄吸引物においてサイトケラチンに対する抗体を用いる免疫細胞化学的染色により検出されている(概説として,Pantel,J.Natl.Canc.Inst.91,1113−1124(1999))。いくつかの研究により,骨髄におけるサイトケラチン−ポジティブ微小転移性細胞の予後的意義が確立されているが(Braun,N.Engl.J.Med.342,525−533(2000);Pantel,J.Natl.Canc.Inst.91,1113−1124(1999)),これらの細胞の生物学は,10−5−10−6の範囲の非常に低い頻度のために,不可解なままである。
【0004】
癌細胞が全身に広がるためには,細胞が固体腫瘍から外に出て,血管またはリンパ管を通じて分布し,内皮および組織バリアを横切り,そして異所的に単一細胞として生存する必要がある。これらの段階に伴う表現型の変化は,発生的プロセス,すなわちいわゆる上皮−間葉変換(EMT)であると考えられる(Hay,Acta Anatomica,154,8−20,(1995);Birchmeier,Acta Anatomica,156,217−226(1996))。腫瘍から散在する細胞のわずかに少ない割合のみがEMTに関連する特徴を獲得することができる(Boyer,Acta Anatomica,156,227−239(1996))。EMTにつながる後成性変化はこれまでに知られていないが,将来の治療法の開発に重要な意味を有するかもしれない。
【0005】
例えば,散在性腫瘍細胞または病理学的に変更した組織の後成的変化の研究における主な技術的ハードルは,単一細胞レベルまたは少数の細胞でのアクセス可能性,低頻度,明白な識別,および続くトランスクリプトーム分析が限定されていることである。”単一細胞cDNAライブラリ”の生成および個々の細胞からのmRNAの包括的増幅のために種々のプロトコルが開発されている(Belyavsky,Nucl.Acid.Res.,17,2919−2932(1989);Brady,Methods in Enzymology,225,611−623(1993);およびKarrer,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,38143818(1995)を参照)。しかし,これらの方法は,明らかな欠点,例えば,3’末端に限定されることおよびPCR増幅産物をcDNAアレイにハイブリダイズさせたときの感度が不十分である等の欠点を有する。
【0006】
これらの方法においては,逆転写の間にcDNAの長さを制限することにより,cDNAフラグメントの増幅の間に導入される変動を減少させていた。これはリバーストランスクリプターゼに対して低い基質条件を用いる,すなわち,低濃度のオリゴd(T)プライマーおよび低いdNTP濃度を用いることにより行われた。しかし,逆転写および続くPCRの効率を低くさせるリスクがあり,これは細胞/単一細胞のトランスクリプトーム/遺伝子発現パターンを調べるべき場合に,恣意的な結果につながるかもしれない。さらに,PCR増幅にオリゴ(dT)プライマーを用いると,高いアニーリング温度が制限され,したがってストリンジェントなアニーリング条件が制限される。典型的には,アニーリングは42℃で行う(Brail,Mut.Res.Genomics 406(1999),45−54)。本明細書において指摘するように,そのような方法は,3’限定cDNA合成に適しているであろう。しかし,より高いアニーリング温度は,増幅物をcDNA分子と比較して短くさせるであろうcDNAにおける二次構造の存在およびcDNAの内部配列に対する非特異的アニーリングの可能性を低下させる。本発明の方法のアニーリング温度は,好ましくは45℃より高く,より好ましくは55℃より高く,さらにより好ましくは65℃より高い。
【0007】
上述したように,少数の細胞または単一の細胞中のmRNAの量は,直接包括的分析において用いるのには不十分である。したがって,少数の細胞または個別の単一の細胞から発現されたmRNAの(”トランスクリプトーム”の)包括的分析には,抽出されたおよび/または逆転写されたポリアデニル化mRNAの増幅が必要である。これまで,少量のmRNAのPCR増幅によっては,特定の時点,特定の発達段階および/または特定の生理学的状態においてある種の細胞/少数の細胞に存在するmRNAの相対的発現を信頼性をもって表すことはできなかった(Brail,Mut.Res.Genomes 406(1999),45−54)。Brail(1999),(上掲)は,Brady(Brady(1993)(上掲)により記載されるような方法は,テイリング反応またはPCR増幅工程において変動を導入するようであると結論づけている。特に,Brailの分析(Brail(1999),上掲)は,非常に多量のハウスキーピング遺伝子についてさえも5倍の変動があることを示している(GAPDHとリボソーム遺伝子L32との直接比較)。
【0008】
本発明の技術的課題は,少数の細胞または単一の細胞のmRNA,特にトランスクリプトームの包括的かつ均一な増幅の必要性を満たす手段および方法を提供することである。この技術的課題は,特許請求の範囲に記載される態様を提供することにより解決される。
【0009】
したがって,本発明は,試料のmRNAを増幅する方法に関し,該方法は,以下の工程を含む:(i)ポリアデニル化RNAにハイブリダイズしかつ5’ポリ(C)または5’ポリ(G)フランクを含む少なくとも1つのプライマーを用いてポリアデニル化RNAからcDNAを生成し;(ii)(aa)ハイブリダイズしていない余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPが存在する場合には,これを除去し;(ab)前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルにより,工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルにより,3’テイリングを行い;または(b)余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPの存在または非存在にかかわらず,前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,または工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルを用いて,RNAリガーゼを用いて3’テイリングを行い;そして(iii)テイリングしたcDNAを,工程(ii)(ab)または(ii)(b)で生成したテイルにハイブリダイズするプライマーを用いて増幅する。
【0010】
ポリアデニル化RNAは,当該技術分野において知られる方法により試料から得ることができる。これらの方法には,オリゴ(dT)選択工程が含まれる。試料は動物または植物起源のものであることができ,組織または細胞試料であることができる。前記試料はまた,培養した組織または培養した細胞を含んでいてもよい。特に好ましいものはヒト起源の試料である。試料は当該技術分野において知られる方法により得ることができ,これには,限定されないが,アテレクトミー,減量手術,生検,レーザー切開または肉眼外科手術法が含まれる。
【0011】
本明細書に記載される,前記試料からmRNAを増幅する技術および方法は,試料から得られた前記ポリアデニル化RNAを用いて,5’−オリゴ(dC)/ポリ(C)(または5’−オリゴ(dG)/ポリ(G))フランキング領域を含むプライマーを用いて第1のcDNA産物を生成する工程を含む。前記5’−オリゴ(dC)または5’−オリゴ(dG)プライマーは,好ましくは8−20個のシトシン(またはグアニン)ヌクレオチド,より好ましくは10個のシトシン(またはグアニン)ヌクレオチドを含み,より好ましくは前記プライマーは11個の,さらにより好ましくは前記プライマーは13個の,最も好ましくは前記プライマーは15個のシトシン(またはグアニン)ヌクレオチドを含む。第1のcDNA合成は,潜在的に夾雑しているtRNAまたはrRNAを除去した後に行うことが好ましい。このような除去は,当業者に知られる方法により行うことができ,例えば,ポリアデニル化mRNAをオリゴ(dT)/ポリ(T)−被覆固体支持体(本明細書において定義される)に結合させ,次に洗浄する工程により行うことができる。
【0012】
さらに,この第1のcDNA合成工程は,好ましくは,先の研究において用いられるプライマー濃度(例えば,Trumper,Blood 81(1993),3097−3115において用いられた10nM)より2,000−8,000倍高い濃度で存在するランダムプライマーを含む。さらに,前記第1のcDNA合成,すなわち,ポリアデニル化RNAからcDNAの生成は,対応して高い濃度のdNTP,好ましくは0.5mMの濃度のdNTP中で行うことが好ましい。この第1のcDNA調製工程(工程”i”)はまた,得られるcDNAを標識する手段を含んでいてもよい。標識は,当業者に知られる方法により導入することができ(特に,”Current Protocols in Molecular Biology”,Ausubel et al.,John Wiley&Sons,USA(1988)を参照),標識dNTP(例えばビオチン標識,放射性標識またはフルオレセイン標識dNTP)を用いることを含んでいてもよい。好ましくはランダムプライマーを用いるこの第1のcDNA合成工程(逆転写)は,標準的な酵素,好ましくはRNAseH欠陥リバーストランスクリプターゼ,例えばSuperscriptIIリバーストランスクリプターゼ(GIBCO)を用いることを含んでいてもよい。
【0013】
高いdNTP濃度は前記第1のcDNA合成を改良するが,続く反応のいずれか(例えばテイリング反応)を妨害するかもしれないため,(本発明の方法の次の反応および/または工程を行う前に)余剰の遊離のdNTPを除去することが好ましい。好ましくは,過剰の,ハイブリダイズしていないプライマーもまた,次の工程を行う前に除去する。前記除去は,とりわけ,洗浄工程,例えば緩衝液交換(後述の実施例に示されるように)により,または濾過法(すなわち,オーバーサイズ選択膜)により,行うことができる。しかし,前記除去工程は,余剰のdNTPおよび/またはプライマーが存在しない場合には省略することもできる。さらに,続く”テイリング−工程”をRNA−リガーゼ工程により行う場合には,除去工程を行わなくてもよい。
【0014】
本発明の方法の3’−テイリング反応(本発明の方法の工程(ii)(ab)または(ii)(b)を参照)は,工程”i”において5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いる場合にはポリ(G)により,工程”i”において5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いる場合にはポリ(C)により,テイリングすることを含む。後述の実施例に示されるように,驚くべきことに,とりわけポリ(G)−テイルに結合するポリ(C)プライマーは,従来技術において提案されているポリ(A)テイルに結合するポリ(T)プライマー(Brady(1993),上掲;Trumper,Blood,81,3097−3115(1993))より少なくとも100倍感度が高いことが見いだされた。
【0015】
テイリング反応は,3’末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ活性を有する酵素を用いて,好ましくは非カコジル酸含有保存緩衝液中で,例えば末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(MBI Fermentas;Pharmacia)を用いて行うことができる。しかし,前記”テイリング”工程はまた,RNA−リガーゼにより行うこともできることに注意すべきである(Edwards,Nucl.Acids Res.,19,5227−5232(1991)を参照)。この場合には,前記RNAリガーゼにより,オリゴ(dC)またはオリゴ(dG)フランキング領域を一本鎖cDNA分子の3’末端にライゲーションすることができる。フランキング領域の配列は,cDNA合成プライマーのフランキング領域にハイブリダイズすることができる(Edwards,Nucl.Acid Res.19(1991),5227−5232)。
【0016】
最後に,ポリG/ポリC−テイル付加cDNAをさらに増幅することができる。これらのcDNAは5’プライマーにより導入されたオリゴ(C)(またはG)ストレッチ,および例えばターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼにより導入された3’オリゴ(G)(またはC)ストレッチを含むためである。この第2のPCR反応は,標識ヌクレオチドの存在下で行うことができる。好ましいものはビオチン標識,フルオレセイン標識,ジオキシゲニン標識または放射性標識ヌクレオチドであり,これらは当該技術分野において知られている。さらに,1つのcDNA種あたり1つのタグ/標識を得るために,”タグ付き”オリゴヌクレオチドプライマー(例えば,ビオチン−,フルオレセイン−,ジオキシゲニン−,または放射性−標識オリゴヌクレオチドプライマー)を用いることも,本発明の範囲内である。
【0017】
本発明の方法の好ましい態様においては,工程”i”における前記少なくとも1つのプライマーは,ランダムプライマー,オリゴ(dT)プライマーまたはこれらの組み合わせである。前記ランダムプライマーは,4−10個のランダムヌクレオチドのストレッチ,好ましくは5−9個のランダムヌクレオチドのストレッチを含んでいてもよい。最も好ましくは,前記ランダムプライマーは,ランダムヘキサマーまたはランダムオクタマーオリゴヌクレオチドを含む。前記ランダムプライマーが配列番号1−8に示される配列を有することが特に好ましい。さらにより特に好ましいものは,後述の実施例において用いられる,ヌクレオチド5’−(CCC)GTCTAG−A(N)(配列番号8)を含むランダムプライマーである。
【0018】
後述の実施例に示されるように,前記ランダムプライマーはまた,他のランダムプライマーまたはオリゴ(dT)プライマーと組み合わせて用いることもできる。例えば,本発明の工程”i”においては,プライマー対(CFI5c8,配列番号9に対応)および(CFI5cT,配列番号10に対応)を用いることができ,これは配列5’−(CCC)GTCTAGA(N)および5’−(CCC)GTCTAGATT(TTT)TVN(式中,”V”はG,CまたはAを表し,NはG,T,CまたはAを表す)を含む。したがって,オクタマー(例えば配列番号9を参照)を含むポリd(C)/(G)プライマーの組み合わせをオリゴ(dT)プライマー(配列番号10を参照)と組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0019】
したがって,本発明の方法のさらに別の好ましい態様においては,工程”i”において用いるべきオリゴ(dT)プライマーは,配列番号10に示される配列を有し,配列5’−(CCC)GTCTAGATT(TTT)TVNを含む。上述したように,本発明の方法の工程”i”において用いるべき前記オリゴ(dT)プライマーは,単独で用いてもよく,上述したようにランダムプライマーと組み合わせて用いてもよい。前記オリゴ(dT)プライマーは,好ましくはオリゴ(dT)ストレッチを含むプライマーである。
【0020】
本発明の方法の別の好ましい態様においては,工程”i”における前記少なくとも1つのプライマーの濃度は,0.01μMから500μMの範囲内,好ましくは0.1μMから200μMの範囲内,より好ましくは1μMから100μMの範囲内,さらにより好ましくは10μMから60μMの範囲内である。下記の実施例に示されるように,最も好ましい濃度は約50μMである。
【0021】
本発明の方法のさらに別の好ましい態様においては,工程”iii”における前記プライマーは,工程”ii(ab)”または”ii(b)”において生成したテイルにハイブリダイズすることができる,少なくとも10,好ましくは少なくとも12,最も好ましくは少なくとも15ヌクレオチドのストレッチを含む。前記プライマーが本発明の方法の工程”ii(ab)”または”ii(b)”において生成したテイルとハイブリダイズしうる20より長いヌクレオチドを含まないことが好ましい。好ましい態様においては,工程”iii”における前記プライマーは,配列番号11,12,13,14または15に示される配列を有する。後述の実施例に示されるように,工程”iii”における特に好ましいプライマーは,ヌクレオチド配列5’TCAGAATTCATG(CCC)(配列番号14を参照)を含むプライマー”CP2”であり,この”包括的増幅”工程においてこれを用いて特に良好な結果が得られた。したがって,この工程において単一のプライマーを用いる場合,工程”ii(ab)”または”ii(b)”においてポリ(G)−テイリングを行うならば,上述の”CP2”プライマーが特に好ましい。本発明の工程”iv”において単一のプライマーのみを用いることの利点は,潜在的な”プライマー−プライマー”相互作用を回避することができ,比較的高いプライマー濃度,好ましくは0.2μMより高い,より好ましくは0.8μMより高い,さらにより好ましくは1.0μMより高い濃度を用いることができる点である。1.0μMまたは1.2μMより高い,より高いプライマー濃度を用いることもできる。
【0022】
本発明の方法の別の好ましい態様においては,前記ポリアデニル化RNA(および/または増幅すべきmRNA)は固体支持体に結合させる。前記固体支持体は,とりわけ,ビーズ,膜,フィルター,ウエル,チップまたはチューブであることができる。特に好ましいものは,磁気ビーズ,ラテックスビーズまたはコロイド金属ビーズである。しかし,前記ポリアデニル化RNAは,固体支持体,例えばポリスチレンビーズに結合させてもよい。当該技術分野において知られる固相にはまた,ガラスおよび/またはシリコン表面,ニトロセルロースのストリップまたは膜,およびプラスチック(試験)管が含まれる。核酸を固定化する,特にポリアデニル化RNAを固相に固定化する適当な方法には,限定されないが,イオン的,疎水的,共有結合的相互作用などが含まれる。固相は1またはそれ以上の追加のレセプター,例えば,ポリ(T)ストレッチを保持していてもよく,これは,ポリアデニル化RNAを誘因し固定化する能力を有する。このレセプターはまた,核酸とは逆に荷電した荷電物質を含むことができる。したがって,本発明の方法の最も好ましい態様においては,固体支持体(前記の磁気ビーズなど)はオリゴ(dT)ストレッチを含む。
【0023】
後述の実施例において示されるように,本発明の方法により増幅すべきmRNA/ポリアデニル化RNAは,オリゴ(dT)被覆固体支持体,例えばオリゴ(dT)被覆磁気ビーズで容易に単離することができる。
【0024】
本発明のさらに別の態様においては,増幅すべきmRNAは,組織,少数の細胞または単一の細胞に由来する。前記少数の細胞は,10−2個の範囲の細胞であることができる。前記組織,細胞または単一の細胞は,植物または動物起源のものであることができる。前記組織,細胞または単一の細胞はヒト起源のものであることが特に好ましい。前記組織,細胞または単一の細胞は,さらに,病理学的試料および/または病理学的であることが疑われる試料であってもよい。病理学的であるか,病理学的であると疑われるか,または正常/健康のいずれであっても,前記組織,(少数の)細胞または単一の細胞は,体液に,または固体組織に由来するものであってもよい。体液には,血液,リンパ液,腹膜液,脊髄/脳脊髄液,羊膜液,尿または糞便が含まれる。前記固体組織は,すべての動物/ヒト臓器または腺に由来するものであることができる。さらに,前記組織には,腫瘍などの悪性形質転換または再狭窄組織が含まれる。したがって,前記組織,(少数の)細胞,または単一の細胞はまた,癌腫,肉腫,リンパ腫,白血病または神経膠腫に由来するものであってもよい。しかし,本発明の方法は,良性組織,正常組織ならびに培養試料,たとえば培養組織および/または培養細胞に由来する試料についても適用しうることに注意すべきである。組織,少数の細胞および/または単一の細胞は,当該技術分野において知られる方法により得ることができ,これには,限定されないが,生検,吸引物または希釈物が含まれる。試料はまた,FACSソーティングまたは免疫学的方法または”レセプター/リガンド”結合方法により分離し入手することができる。後述の実施例に示されるように,試料はまた,動脈切除,例えば動脈切除用のらせん装置(X−サイザー,Endicor)により得ることができる。
【0025】
本発明の方法の別の好ましい態様においては,前記組織,少数の細胞または単一の細胞は,化学的に固定した組織,化学的に固定した少数の細胞または化学的に固定した細胞である。前記固定は,(パラ)ホルムアルデヒド中で行うことができる。好ましい濃度は0.1−1%の範囲であるが,最も好ましくは0.1%の濃度である。前記固定は,好ましくは,30分間未満で行う(1%より低い濃度を用いる場合)。最も好ましくは,前記固定は0.1%の濃度の(パラ)ホルムアルデヒド中で5分間行う。
【0026】
別の好ましい態様においては,本発明の方法はさらに,生成した増幅されたcDNAをさらに修飾する工程”iv”を含む。前記修飾は,検出手段の導入,例えば,単数または複数の発色団,蛍光染料,放射性ヌクレオチド,ビオチンまたはDIGとカップリングさせたヌクレオチド類似体を導入することを含む。増幅されたcDNAの標識は,後述の実施例に記載されるように,または,とりわけ,Spirin(1999),Invest.Opthalmol.Vis.Sci.40,3108−3115に記載されるように行うことができる。
【0027】
さらに,得られた増幅されたcDNAを固体支持体(上で定義したとおりである)に結合させることが好ましい。
【0028】
標準的なカコジル酸含有緩衝液(ある種のcDNA合成緩衝液など)は本発明の方法の個々の工程(”テイリング反応”など)を妨害するかもしれないため,すべてのまたは個々の工程を非カコジル酸緩衝液中で行うことが好ましい。特に好ましいものはリン酸緩衝液であり,最も好ましいものは後述の実施例において用いられているようなKHPO緩衝液である。好ましくは,前記緩衝液は,低イオン強度の緩衝液である(Nelson,Methods in Enzymology,68,41−50(1979)を参照)。さらに,”テイリング”反応においてdGTPまたはdCTPを用いると15−30ヌクレオチドの短い伸長が得られるが,dATPまたはdTTPを用いると70から数百ヌクレオチドの範囲の長い伸長が得られる(Nelson(1979),上掲;MBI Fermentas 1998/1999カタログ,p.125);Deng,Methods Enzymology,100,96−116,(1983))。しかし,長いポリ(dA)/(dT)テイルを用いると,種々のハイブリダイゼーション/アニーリング部位が存在するため,増幅の間に非均一的なcDNAの集団が生ずる。これに対し,短い(10−30塩基)5’プライマーおよび3’テイリングにより導入されたオリゴ(dC)またはオリゴ(dG)フランキング領域を用いる本発明の方法は,増幅されたcDNAの均一な集団を生成し,元のcDNA分子のコーディング領域を優先的に増幅する。
【0029】
本発明の方法のさらに別のより好ましい態様においては,増幅すべきmRNA/ポリアデニル化RNAを含む試料は,細胞および/または組織に由来するものであり(または細胞および/または組織であり),その遺伝的同一性は,比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)により明確にされている。実施例に示されるように,最近,単一の細胞のCGHを含む方法(SCOMP;Klein(1999),PNAS USA96,4494−4499)を参照)が記載されており,これは,単一の細胞の明白な同定を可能とする。この方法を用いて,とりわけ,腫瘍細胞および/または腫瘍起源の細胞を染色体異常により同定することが可能である。したがって,本明細書に記載されるmRNA増幅の方法を用いて,前記方法をSCOMPと組み合わせることにより,同じ単一の細胞からゲノムDNAおよびmRNAを単離することが可能である。
【0030】
本発明はまた,病理学的に変更されている細胞または組織のインビトロ代用物を製造する方法に関する。該方法は,以下の工程を含む:
(a)前記病理学的に変更されている細胞または組織のをmRNAを,上述の方法の工程にしたがって増幅し;
(b)得られたcDNAおよび/またはその転写産物の量,および任意に生物物理学的特性を評価し,このことにより前記病理学的に変更されている細胞または組織の遺伝子発現パターンを決定し;
(c)その遺伝子発現パターンが前記病理学的に変更されている細胞または組織の遺伝子発現パターンと似ているインビトロ細胞を選択し;そして
(d)前記インビトロ細胞の遺伝子発現パターンを病理学的に変更されている細胞または組織の遺伝子発現パターンに適合させる。
【0031】
本明細書において用いる場合,”インビトロ代用物”との用語は,病理学的状況または病理学的状態を模倣しうる細胞または細胞株を意味する。前記代用物は,とりわけ,医学,薬理学または化学的実験において有用であり,薬剤スクリーニングの目的に用いることができる。特に,このような代用細胞/細胞株は,潜在的薬剤および/または医薬品を同定するために用いることができる。そのような同定は,化学物質および/または生物学的製剤のライブラリをスクリーニングすることにより行うことができ,好ましくは,前記代用物はハイスループットスクリーニングにおいて用いられる。
【0032】
得られたcDNAおよび/またはその転写産物の量,および任意に生物物理学的特性の評価は,当業者に知られる方法および/または本明細書に記載される方法により行うことができる。
【0033】
本発明にしたがって用いる場合,”インビトロ細胞”との用語は,好ましくは,培養中で維持することができる細胞に関する。前記細胞は,好ましくは,少なくとも1時間,より好ましくは少なくとも6時間,より好ましくは少なくとも12時間,より好ましくは少なくとも1日間,より好ましくは少なくとも2日間,より好ましくは少なくとも3日間,より好ましくは少なくとも1週間,最も好ましくは数週間の間培養中で維持される。
【0034】
前記代用物/インビトロ代用物が,病理学的に変更されている細胞または組織のトランスクリプトーム/遺伝子発現パターンを忠実に反映することが特に好ましい。前記代用物は,病理学的に変更されている組織または病理学的に変更されている細胞と非常に似ているべきである。したがって,上述の工程cに記載される”インビトロ細胞”が病理学的に変更されている組織/細胞と類似していることが好ましい。例えば,”インビトロ細胞”は,病理学的に変更されている/患部組織と類似する組織または臓器に由来するものであることができる。とりわけ,冠状動脈平滑筋細胞を”インビトロ細胞”として用いることができ,この遺伝子発現パターンは再狭窄組織の遺伝子発現パターンと似ている。同様に,肝臓細胞(例えばHepG2)は,病理学的に変更されている肝臓組織の,培養腎臓細胞(例えば,ATCC45505)は腎臓患部組織の,心臓筋芽細胞(例えばラット心筋細胞)は心筋患部組織の,またはRoss,Nat.Genetics 24(2000),227−235に記載されるNCI細胞株は腫瘍性疾病,新生物疾病または癌の,それぞれ代用物を得るために用いることができる。
【0035】
上述の工程(d)の前記”適合”は,選択された”インビトロ細胞”の遺伝子発現パターンを,病理学的に変更されている組織/細胞の遺伝子発現パターンをより密接に反映する遺伝子発現パターンに適合させるために行う。特に,(上述の方法の工程(a)および(b)において),特定の転写産物/発現遺伝子(または特定の転写産物/発現遺伝子の群)が前記”インビトロ細胞”(または対照細胞)と比較してダウンレギュレートされていることが見いだされた場合,前記”インビトロ細胞”における前記転写産物/発現遺伝子(または前記転写産物/発現遺伝子の群)の発現をアップレギュレートすることを試み留べきである。したがって,特定の転写産物/発現遺伝子(または特定の転写産物/発現遺伝子の群)が前記”インビトロ細胞”(または対照細胞)と比較してアップレギュレートされている場合,前記”インビトロ細胞”における前記転写産物/発現遺伝子(またはこれらの群)をダウンレギュレートさせることを試みるべきである。前記インビトロ細胞の遺伝子発現パターンを適合させるのに有用であろう特定の方法,因子,化合物および/または物質は,以下に記載される。
【0036】
1つの態様においては,前記適合工程は,前記インビトロ細胞を少なくとも1つの化合物,因子,物質,複数の化合物,因子,物質またはこれらの組み合わせと接触させ,前記接触により前記インビトロ細胞における遺伝子発現パターン/トランスクリプトームが変更されるか否かを評価することを含むことが好ましい。遺伝子発現パターンの評価は本発明の方法により行うことができるが,当該技術分野において知られる他の分析方法,例えば生化学的または生物物理学的方法を含んでいてもよい。本発明において特に好ましい方法は,一次元または二次元(ゲル)電気泳動,高速液体クロマトグラフィー,質量分析または抗体に基づく検出方法(ブロッティングまたはアレイシステム)を含むプロテオーム分析の方法である。
【0037】
上述の病理学的に変更されている細胞または組織および/またはインビトロ細胞は,好ましくは動物起源のものである。特に好ましいものは,霊長類,齧歯類または偶蹄目類に由来するか,および/またはこれらから得られた細胞または組織である。さらにより好ましいものは,ヒト,サル,ブタ,ウシ,ラットまたはマウスからの細胞および/または組織である。
【0038】
さらに別の態様においては,病理学的に変更されている細胞または組織用のインビトロ代用物を製造する方法は,以下の工程を含む:
b(1).対照細胞または対照組織の遺伝子発現パターンを決定し;そして
b(2).病理学的に変更されている細胞または組織と前記対照細胞または組織とにおいて異なるように発現されている遺伝子を決定する。
【0039】
ここで述べる対照細胞または対照組織は,当業者が容易に決定することができる。例えば,健康なドナーから得た類似する組織を用いることができる。例えば,後述の実施例に示されるように,再狭窄組織の対照組織は,健康な冠状動脈の中膜または中膜/内膜であることができる。さらに,対照細胞または対照組織は,肝臓組織,腎臓組織,前立腺,子宮頚部組織等の生検の間に得ることができる。
【0040】
前記対照細胞または対照組織の遺伝子発現パターン,すなわち”トランスクリプトーム”はまた,本明細書に記載される試料のmRNAの増幅方法を用いて決定することが特に好ましい。好ましくは,試料,例えば病理学的に変更されている細胞または組織,対照細胞または対照組織の前記トランスクリプトーム分析は,以下の工程を含む:
i.ポリアデニル化RNAにハイブリダイズし,かつ5’ポリ(C)または5’ポリ(G)フランクを含む少なくとも1つのプライマーを用いて,前記病理学的に変更されている細胞または組織,前記対照細胞または組織および/または前記インビトロ細胞のポリアデニル化RNAからcDNAを生成し;
ii.(aa)ハイブリダイズしていない余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPが存在する場合にはこれを除去し;
(ab)前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはまたはポリ(C)テイルを用いて,3’テイリングを行い;または
(b)余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPの存在または非存在にかかわらず,前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,または工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルを用いて,RNAリガーゼを用いて3’テイリングを行い;
iii.テイリングしたcDNAを工程ii(ab)またはii(b)において生成したテイルにハイブリダイズするプライマーにより増幅し;
iv.増幅されたcDNAをハイブリダイゼーションアッセイにおいて用い;そして
v.前記病理学的に変更されている細胞または組織,前記対照細胞または組織および/または前記インビトロ細胞の遺伝子発現パターンの相違性および/または類似性を検出する。
【0041】
本発明の方法の上述の態様は,前記病理学的に変更されている細胞または組織,対照細胞または対照組織および/または前記インビトロ細胞の前記トランスクリプトーム分析に適用することができる。
【0042】
インビトロ代用物を製造する上述の方法は,とりわけ,再狭窄組織または再狭窄細胞に用いることができる。前記対照細胞または前記対照組織は,(健康な)冠状動脈の平滑筋細胞,中膜/内膜および(健康な)末梢動脈の中膜/内膜からなる群より選択することができる。
【0043】
病理学的に変更されている細胞または組織の遺伝子発現パターンに適合させるるべき”インビトロ細胞”は,初代培養細胞,二次培養細胞,組織培養または細胞株に由来するものでありうる。好ましくは,これらの細胞および/または培養細胞は,限定されないが,培養筋肉細胞,培養平滑筋細胞,培養冠状動脈平滑筋細胞,HepG2細胞,Jurkat細胞,THP−1細胞,Monomac−6細胞またはU937−細胞でありうる。そのような細胞は,当該技術分野において知られる起源,例えばDSMZ(ATCC,USAの支社)から容易に入手することができる。さらに,心臓筋芽細胞を”インビトロ細胞”として”代用物”に適合させるために用いることができる。
【0044】
前記適合工程(インビトロ代用物を製造するための上述の方法の工程d)は,前記インビトロ細胞を物理学的および/または化学的変化に暴露することを含んでいてもよい。ここで,前記物理学的変化は,温度シフト,光変化,圧力,pH変化,イオン強度の変化または気相の組成の変化(例えばO,N,CO,CO)を含むことができ,前記化学的変化は,培地交換,培地置換,培地涸渇および/または培地添加を含むことができる。前記化学的変化が,化合物,例えば成長因子,ホルモン,ビタミン,抗体またはこれらのフラグメントおよび/または誘導体,小分子リガンド,サイトカイン,転写因子,キナーゼ,抗生物質,天然のおよび/または非天然のレセプターリガンド,またはシグナル伝達経路の構成成分に暴露することを含むことが特に好ましい。前記適合工程はまた,他の細胞/細胞株との共培養,例えば血液細胞,グリア細胞,樹状細胞または破骨細胞との共培養を含んでいてもよい。前記血液細胞は,単球およびT−リンパ球を含んでいてもよい。
【0045】
インビトロ代用物を製造するための方法のさらに好ましい態様においては,前記サイトカインはIFN−γ(またはその機能的誘導体)であり,前記天然のおよび/または非天然のレセプターリガンドはIFN−γレセプター(aおよび/またはb鎖)のリガンドであり,前記転写因子はIRF−1またはISGF3−γ−(p48)であり,前記キナーゼはチロシンキナーゼPyk2であり,前記シグナル伝達経路の構成成分はDap−1,BAG−1,Pim−1またはIFN−γ−誘導性蛋白質9−27であり,前記成長因子は血小板成長因子AA,アンジオテンシンまたは線維芽細胞成長因子であり,または前記抗生物質はラパマイシンである。
【0046】
この文脈において,IFN−γの”機能的誘導体”との用語は,天然のIFN−γの生物学的特性を保持するか本質的に保持する誘導体に関連する。そのような誘導体の例はムテインである。同じことは,本明細書において言及される他の成分についても,必要な変更を加えて適用される。
【0047】
上述の方法により得られるインビトロ代用物は,薬剤スクリーニング方法および/または毒物学的分析において特に有用である。そのような方法は,限定されないが,前記インビトロ代用物を試験物質および/または潜在的薬剤候補物と接触させた後に,変更された遺伝子発現パターンを検出することを含む。そのようなスクリーニング方法は当該技術分野においてよく知られており,とりわけ,Scherf,Nat.Genetics 24(2000),236−244;Ross,Nat.Genetics 24(2000),227−235に記載されている。ハイスループットスクリーニングは,Sundberg,Curr.Opin.Biotechnol.11(2000),47−53;Hopfinger,Curr.Opin.Biotechnol.11(2000),97−103;Vidal,Trends Biotechnol.17(1999),374−381;Gonzales,Curr.Opin.Biotechnol.9(1989),624−631;Fernandes,Curr.Opin.Chem.Biol.2(1998),597−603に記載および/または概説されている。
【0048】
さらに,本発明は,試験試料において異なるように発現されている遺伝子を同定する方法に関する。該方法は,以下の工程を含む:(a)それぞれポリアデニル化RNAを含む試験試料および対照試料を用意し;(b)本発明のmRNAの増幅の方法の工程を前記試験試料および対照試料に対して用い;そして(c)前記試験試料の得られた増幅されたcDNAを,前記対照試料の得られた増幅されたcDNAと比較する。試験試料および対照試料は,同じ生物に由来するものであってもよく,異なる生物/個体に由来するものであってもよい。さらに,前記試験試料は,組織培養または培養細胞を含んでいてもよい。さらに,前記試験および/または対照試料は,好ましくは,同じ種類の細胞および/または組織を含む。工程(c)の比較は,例えば,後述の実施例に記載されるように実施することができ,得られた増幅されたcDNAをcDNAアレイにハイブリダイズさせることを含むことができる。したがって,異なるように発現されている遺伝子を同定する方法は,異なる起源の組織,(少数の)細胞または単一の細胞の比較を含むことができる。例えば,病理学的および非病理学的組織,(少数の)細胞または単一の細胞をトランスクリプトームレベルで比較することができる。
【0049】
本発明はまた,病理学的状態または病理学的疾患を予防または治療するための薬剤候補物を同定する方法に関する。該方法は,以下の工程を含む:(a)ポリアデニル化RNAを含む試料を前記薬剤候補物と接触させ;(b)本発明のmRNAの増幅の方法の工程を前記試料に対して用い;そして(c)前記試料において発現されている特定の遺伝子の存在,非存在,増加または減少を検出する。前記薬剤候補物と接触させるべき試料は,単離された臓器,組織,(少数の)細胞または単一の細胞でありうる。前記試料はまた,組織または培養細胞試料であってもよい。さらに,実験動物および/または被検者を前記薬剤候補物と接触させ,前記接触の後(またはその間)に,対応する試料を生検等により得ることも考えられる。
【0050】
さらに,本発明は,被検者において病理学的状態または病理学的状態の疑いをインビトロで検出する方法を提供する。該方法は以下の工程を含む:(a)前記被験者からのポリアデニル化RNAを含む試料を用意し;(b)本発明のmRNAの増幅の方法を前記試料に対して用い;そして(c)前記試料において発現されている遺伝子の存在,非存在,増加,減少または量に基づいて,病理学的状態または病理学的状態の疑いを検出する。存在,非存在,増加または減少または量は,とりわけ,得られたcDNAを健康な対照試料から得られたcDNAと比較することにより検出することができる。試料はヒト起源のものであってもよい。
【0051】
さらに,本発明は,本発明の方法により得られた増幅されたcDNAを,インビトロおよび/またはインビボ発現に使用することに関する。インビトロおよび/またはインビボ発現の方法は当該技術分野においてよく知られており,とりわけ”Current Protocols in Molecular Biology”,Ausubel et al.,John Wiley&Sons,USA(1988);Schoelke,Nature Biotech.,18,233−234(2000))または”Biotechnology”;Rehn and Reed,VCM Verlagsgesellschaft mbH,Weinheim,FRG,(1993)に記載されている。さらに,植物細胞におけるインビトロ発現は,Weissbach,”Methods for Plant Molecular Biology”,Academic Press,San Diego,U.S.A.(1988)に記載されている。インビトロ発現の特に好ましい系は,当該技術分野において知られる翻訳系,例えば,転写/翻訳の組み合わせのためのE.coli溶解物(Basset,J.Bacteriol.,(1983)156,1359−1362),小麦胚芽翻訳系または網状赤血球溶解物(Walter,Methods Enzymol.,93,682−691(1983);Dasnahapatra,Methods Enzymol.,217,143−151(1993);Hancock,Methods Enzymol,255,60−65(1995);Wilson,Methods Enzymol.,250,79−91(1995))である。前記増幅されたcDNAの前記インビトロおよび/またはインビボ発現は,転写ならびに翻訳事象を含み,したがって,mRNAならびに,所望の場合には蛋白質および/またはペプチドの生成を含む。したがって,本発明はまた,本発明の方法により得られた増幅されたcDNAを,mRNA転写産物のインビトロおよび/またはインビボ調製に使用することに関する。
【0052】
本発明はまた,本発明の方法により得られた増幅されたcDNA,または上で定義され,本発明の方法により得られたcDNAのインビトロおよび/またはインビボ発現により得られたmRNA転写産物を,ハイブリダイゼーションアッセイ,および/または相互作用アッセイにおいて使用することに関する。
【0053】
好ましくは,前記ハイブリダイゼーションアッセイは,規定された条件下で行う。最も好ましくは,前記ハイブリダイゼーション条件はストリンジェントな条件である。しかし,本発明にしたがって用いる場合,”ハイブリダイズする”との用語は,ストリンジェントなまたは非ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件に関連する。前記ハイブリダイゼーション条件は,例えば,Sambrook,”Molecular Cloning,A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)N.Y.,Ausubel,”Current Protocols in Molecular Biology”,Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989),またはHiggins and Hames(eds)”Nucleic acid hybridization,a practical approach”IRL Press Oxford,Washington DC,(1985)に記載される慣用のプロトコルにしたがって確立することができる。
【0054】
好ましい態様においては,前記ハイブリダイゼーションアッセイは,オリゴヌクレオチドアレイ,cDNAアレイ,および/またはPNAアレイにハイブリダイズさせることを含み,前記相互作用アッセイは,炭水化物,レクチン,リボザイム,蛋白質,ペプチド,抗体またはそれらのフラグメント,および/またはアプタマーとの相互作用を含む。上述のアレイは当該技術分野においてよく知られている(とりわけ,Debouck,Nat.Genet.21:48−50(1999);Hacia,Nat.Genet.,21,42−7(1999);Cole,Nat.Genet.21,3841(1999);BowtellDD.,Nat.Genet.,21,25−32(1999);Cheung,Nat.Genet.,21,15−19(1999);Duggan,Nat.Genet.,21,10−14(1999);Southern,Nat.Genet.,21,5−9(1999)を参照)。特に,cDNAアレイは,Clontech,Palo Alto;Research Genetics,Huntsvilleから入手することができ,cDNAマイクロアレイを含み,およびオリゴヌクレオチドアレイはAffymetrix,Santa Claraから入手することができる。とりわけ,cDNAアレイは,DeRisi,Nat.Genet.(1996),14,457−460;Lashkari,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,94,13057−13062(1997);Winzeler,Methods Enzymol.306,3−18(1999);またはSchena(1995)(上掲)に記載される方法にしたがって,オリゴヌクレオチドアレイは,Southern(1999)(上掲);Chee,Science,274,610−614(1996)にしたがって,調製することができる。上述のアレイは,マクロアレイならびにマイクロアレイを含むことができる。
【0055】
実施例に示されるように,本発明の方法により得られたcDNA(または前記cDNAのmRNA転写産物)は,ポリアデニル化RNAを含む(試験)試料の遺伝子発現パターン/トランスクリプトームを推定するために,cDNAアレイ/cDNAマイクロアレイで用いることができる。
【0056】
上述のハイブリダイゼーションアッセイは,とりわけ,医療,診断,薬学ならびに科学的設定において有用である。後述の実施例において示されるように,病理学的に変更されている細胞および/または組織,例えば腫瘍性(細胞)組織,再狭窄組織の(遺伝子)発現パターンを推定するために,本発明の方法により得られたDNAを用いることが可能である。
【0057】
後述の実施例は,とりわけ,本発明の方法を用いて再狭窄組織において異なるように発現されている遺伝子を推定することができることを示す。このようにして,再狭窄において異なるように発現されている224種類の遺伝子が同定され,このうち,167種類の遺伝子は対照と比較して過剰発現しており,56種類の遺伝子は過小発現していた。したがって,特定の,異なるように発現されている遺伝子または遺伝子発現パターンの検出は,とりわけ再狭窄組織を明らかにするために,診断方法においても用いることができる。さらに,後述の実施例に記載されるように,本発明の方法は,新生物疾病,癌の診断においても有用である。
【0058】
したがって,本発明の方法により得られた増幅されたcDNAは,組織および/または細胞の遺伝子発現プロファイルを確立するのに特に有用である。そのような遺伝子発現プロファイル/遺伝子発現パターンは,薬剤発見スクリーニングにおいて特に有用でありかつ重要であろう。そのような遺伝子発現プロファイリングにより得られるデータを,薬剤活性パターンと組み合わせて用いることが特に好ましい(とりわけ,Weinstein,Science 275(1997),343−349;Weinstein,Science 258(1992),447451,vanOsdol,J.Natl.Cancer Inst.86(1994),1853−1859またはPauli,J.Natl.Cancer Inst.81(1989),1088−1092)を参照)。さらに,本発明の方法により得られたcDNAおよび/またはそのmRNA転写産物を,Scherf,Nat.Genetics 24(2000),236−244およびRoss,Nat.Genetics 24(2000),227−235に記載されるように,遺伝子発現パターンと薬剤活性プロファイルとが相関しているアッセイにおいて用いることが考えられる。さらに,上述するように本発明の方法により得られた”トランスクリプトーム”のデータはまた,後述の実施例に示されるように,蛋白質レベルとも相関しているであろう。
【0059】
本発明はまた,本発明の方法により得られた増幅されたcDNAを,配列特異的PCR,cDNAクローニング,サブトラクティブハイブリダイゼーションクローニング,および/または発現クローニングに使用することに関する。特異的PCRを用いて,例えば,所与の試料中のおよび試料間の転写産物の相対的量を決定することができる。本発明により生成したcDNAはまた,サブトラクティブハイブリダイゼーションクローニングに適用して,試料に特異的なまたは存在しないcDNAを選択することができ,これは後述の実施例に示される(Rothstein,Methods Enzymol.225,587−610(1993);Diatchenko,Methods Enzymol.,303,349−380(1999))。
【0060】
好ましい態様においては,アダプター−プライマーEco44I:5’−GTAATACGACTCACTATAGGGCTCGAGCGGCTCGCCCGGGCAGG−3’(配列番号31),Eco12I:5’−AATTCCTGCCCG−3’(配列番号32),Eco43il:5’−TGTAGCGTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGTGGTGCGGAGGGCG−3’(配列番号33)またはEco12il:5’−AATTCGCCCTCC−3’(配列番号34)を,上述の方法,すなわちサブトラクティブハイブリダイゼーション分析とともに用いることができる。さらに別の好ましい態様においては,上述のサブトラクティブハイブリダイゼーション分析により得られたcDNA集団を増幅するときに,プライマーP1−30:5’−GTAATACGACTCACTATAGGGCTCGAGCGG−3’(配列番号35),P2−30:5’−TGTAGCGTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGT−3’(配列番号36),P1−33:5’−GTAATACGACTCACTATAGGGCTCGAGCGGCTC−3’(配列番号37),P2−33:5’−TGTAGCGTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGTGGT−3’(配列番号38),PN1−30:5’−CGACTCACTATAGGGCTCGAGCGGCTCGCC−3’(配列番号39)またはPN2−30:5’−GTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGTGGTGCG−3’(配列番号40)を用いることができる。より好ましい態様においては,実施例において示されるように,プライマーP1−30:5’−GTAATACGACTCACTATAGGGCTCGAGCGG−3’(配列番号35),P2−30:5’−TGTAGCGTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGT−3’(配列番号36)を上述の方法において用いることができる。
【0061】
本発明はまた,上で規定される少なくとも1つのプライマーを含むキットを提供する。好都合には,本発明のキットは,前記プライマー/プライマーに加えて,任意に固体支持体(例えば磁気ビーズ),酵素,例えばリバーストランスクリプターゼ,RNA−リガーゼまたは末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ,ならびに反応緩衝液(例えばcDNA”洗浄緩衝液”または”テイリング緩衝液”)および/または保存溶液を含むことができる。さらに,本発明のキットの部品は,バイアル中に個々に包装してもよく,または容器または多容器ユニット中に組み合わせて包装してもよい。本発明のキットは,本発明の方法を実施するために都合よく使用することができ,とりわけ,上述した種々の応用において,例えば診断キット中でまたは研究ツールとして用いることができる。さらに,本発明のキットは科学的および/または診断目的に適した検出手段を含んでいてもよい。キットの製造業者は,好ましくは当業者に知られる標準的方法にしたがうであろう。
【0062】
図面の簡単な説明
図1は,増幅の成功を判定するパラメータを示す。
a)20種類のHT29結腸癌腫細胞((ATCC:HTB−38)レーン1−20)は個々に単離し,異なる濃度のランダムヘキサマープライマーの存在下でmRNAを逆転写した(レーン1−5,80μM;レーン6−10,8μM;レーン11−15,0.8μM;レーン16−20,0.08μM)。次に,cDNAの1/10を遺伝子特異的PCRによりki−ras転写産物の検出について試験した。
b)感度に及ぼすホモポリマーテイルの影響
350bpのTGF−αフラグメントを単離し,希釈し,dAまたはdGテイルを付加した。それぞれポリ−dTまたはポリ−dC含有プライマーおよびTGF−α配列中のプライマーを用いるPCRにより一連の希釈物を試験した。有益な希釈物は二重に示されている(レーン1+2,陰性対照;レーン3+4,10−3希釈;レーン5+6,10−5希釈)。
c)FL4−N6でプライミングし逆転写したmRNAにdG−テイルを付加し,CP3+FL4プライマー(レーン1−3)またはCP2+FL4プライマーを,異なるアニーリング温度(レーン1+4,68℃,レーン2+5,65℃,レーン3+6,陰性対照)で用いて増幅した。
d)c)と同量のmRNAをCFL5cN6プライマーを用いて逆転写し,CP2プライマーを用いて増幅した。c)と同量のcDNA(レーン3+4)により,広範な範囲のcDNAフラグメントが増幅され,1:200希釈(レーン1+2)で異なるアニーリング温度(レーン1+3,68℃;レーン2+4,65℃;レーン5,陰性対照)を用いた場合にも同様であった。
【0063】
図2は,A431細胞の増幅していないプールcDNAを陽性対照(+)として,包括的PCRの前に半分ずつ(a+b)に分けたβ−アクチンおよび種々のMAGE転写産物および単一のA431細胞の増幅物(レーン2−4および6−8)についての遺伝子特異的PCRを示す。2回の独立した実験を行い(レーン1−4および5−8),レーン1およびレーン5は包括的PCRの陰性対照である。
【0064】
図3は,2個の正常白血球(赤)および2個のMCF−7乳癌細胞(青)のCGHプロファイルを示す。このゲノムDNAはmRNAを単離した後に上清から単離した。正常細胞の染色体比は点線の範囲内にあって有意の閾値を与え,癌細胞のプロファイルはその染色体欠失および増幅に関して類似していた。
【0065】
図4は,非常に小さい原発性腫瘍(ステージT1a)を有する乳癌患者に由来する細胞BのCGHプロファイルを示す。染色体欠失は染色体記号の左に赤棒で,染色体獲得は右に緑棒で示される。
【0066】
図5は,細胞B,CおよびLにおいて,共通におよび異なるように発現されている遺伝子を示す図である。
【0067】
図6は,細胞L(左)のハイブリダイゼーションおよび固定化されたcDNAの位置および名前のマトリクスを示す。遺伝子は斜め方向に2重にスポットした。青い遺伝子記号は左上から右下の方向であり,赤い遺伝子記号は右上から左下の方向である。
【0068】
図7は,ヒト冠状動脈インステント再狭窄からの新脈管内膜の免疫組織化学的染色:フォンゲッソン(左パネル)および平滑筋アルファ−アクチン(右パネル)を示す。示される実験は,3回の独立した標本の代表例である。棒は100μmを示す。
【0069】
図8は,微小組織標本から生成した第1鎖cDNAのPCR増幅の成功の対照としての,β−アクチン(レーン1),EF−1α(レーン2)およびα−アクチン(レーン3)の遺伝子特異的プライマーを用いるPCRを示す。図に示されるものは,各実験群からの1つの代表例である(右パネル:患者B;左パネル:対照ドナーb)。3つのサイズマーカー(M)の位置が示される。
【0070】
図9はcDNAアレイ分析を示す。同じアレイで新脈管内膜(パネルA)または対照血管(パネルB)から単離したmRNA,および生物学的試料なし(パネルC)を比較した3つの独立したハイブリダイゼーション実験が示される。cDNAアレイは9種類のハウスキーピング遺伝子および3種類の陰性対照を含む588種類の遺伝子を含んでいた[M13mp18(+)鎖DNA;ラムダDNA;pUC18DNA]。ここに示される実験は,10個の新脈管内膜および10個の対照標本を用いたハイブリダイゼーション実験の代表例である。丸は再狭窄と対照との間で異なるように発現されている4つのハイブリダイゼーションシグナル(A−D)を示す。
【0071】
図10は,ヒトインステント新脈管内膜および対照血管からの微小試料の転写プロファイルを示す。各カラムは,単一標本の53種類の選択された遺伝子についての遺伝子発現分析を示す。矢印は新脈管内膜において対照に対して有意なアップまたはダウンレギュレーションを示す遺伝子を表す。8種類の高度に発現されているハウスキーピング遺伝子が最後に示されている。図の下に示されるように,1つの灰色の値はシグナル強度に対応する。
【0072】
図11は,cDNAアレイからの異なるように発現されているmRNAの遺伝子特異的PCRによる確認を示す。予測されるPCRフラグメントのサイズが右に示される。
【0073】
図12は,頸動脈再狭窄からの新脈管内膜の,FKBP12蛋白質についての免疫組織化学的染色を示す。示される実験は,3回の独立した実験の代表例である。棒は100μmの距離を示す。パネルAは,ヘマトキシリンエオシン染色を示し,パネルB−Dは,健康な中膜と新脈管内膜との境界領域(パネルB),健康な対照中膜(パネルC)および新脈管内膜組織(パネルD)のFKBP12の染色を示す。
【0074】
図13は,遺伝子発現のcDNAアレイ分析を示す。合計で2435種類のヒトcDNAを含む4つのClontech Atlasマイクロアレイを,材料および方法に記載されるようにして,インステント新脈管内膜(n=10)および対照中膜/内膜(n=11)からのRNAから調製したDig−dUPT標識cDNAとハイブリダイズさせた。スポットは2つの試験群の相対的発現の平均を示す。パネルAは,この実験で試験したすべての遺伝子の発現を示す。パネルBは,新脈管内膜において2.5倍以上誘導されているか減少しており,ウイルコキソン試験においてp<0.03の統計学的有意性を示した,224種類の異なるように発現されている遺伝子の発現を示す。ゼロ値は対数目盛で表せないため,この表示のために,ゼロ値を0.0001の値で置き換えた。
【0075】
図14は,そのmRNAレベルが新脈管内膜と対照との間で異なる224種類の遺伝子の異なるクラスの遺伝子発現プロファイルを示すクラスター画像を示す。この遺伝子のサブセットを,異なる細胞タイプにおけるその発現に基づいて4つの群にクラスター化した。ここでは,このセットの各遺伝子の発現パターンは,水平なストリップとして表されている。各カラムは,試験した群の平均mRNA発現レベルを表す。各遺伝子について,ハウスキーピング遺伝子のmRNA発現レベルに対して標準化した,新脈管内膜(n=10),対照(n=11),増殖しているCASMC(n=2)および血液試料(n=10)のmRNAレベルの平均が下に示される色等級で表されている。群Iは,新脈管内膜標本においてのみ発現されている遺伝子を含む(図14A)。群IIは,新脈管内膜と増殖しているCASMCにおいて同時に発現されている遺伝子を含む(図14B)。群IIIは,そのmRNAが新脈管内膜ならびに血液において発現されている遺伝子からなる(図14C)。群IVは,そのmRNAが対照標本において過剰発現されている遺伝子を含む(図14D)。
【0076】
図15は,新脈管内膜において対照に対してアップレギュレートされていた14個の遺伝子および新脈管内膜においてダウンレギュレートされていた3個の転写因子を含む転写因子クラスターの拡大図である。この場合には,各列は単一の標本を表し,各行は単一の遺伝子を表す。
【0077】
図16は,新脈管内膜において対照に対してアップレギュレートされていた32個の遺伝子を含むIFN−γ−関連クラスターの拡大図である。この場合には,各列は単一の標本を表し,各行は単一の遺伝子を表す。
【0078】
図17は,頸動脈再狭窄からの新脈管内膜および健康な対照の中膜の,IRF−1蛋白質についての免疫組織化学的染色を示す(左パネル:対照中膜;右パネル:新脈管内膜)。示される実験は,6回の独立した実験の代表例である。
【0079】
図18は,冠状動脈インステントからの新脈管内膜のIRF−1蛋白質についての免疫組織化学的染色を示す。パネルAは,インステント再狭窄からの新脈管内膜の標本のヘマトキシリンエオシン染色を示し,パネルBは,平滑筋細胞マーカーであるβ−アクチンの染色を示し,パネルCは,インステント再狭窄からの新脈管内膜における転写因子IRF−1の免疫組織化学的染色を示し,パネルDは,CD3の免疫組織化学的染色を示す。ここに示される実験は,3回の独立した実験の代表例である。
【0080】
図19は,新脈管内膜において対照に対してアップレギュレートされていた32個の遺伝子を含むIFN−γ−関連クラスターを,培養CASMC,および1000U/mLのIFN−γで16時間刺激した培養CASMCにおける発現と比較した図を示す。この場合には,各列は単一の標本を表し,各行は単一の遺伝子を表す。下部に示されるように1つの灰色の値は図のシグナル強度に対応する。
【0081】
図20は,骨髄中の散在性腫瘍細胞の二重染色を示す。上パネルの小さい凝集物中の細胞(7個の細胞および2個の細胞)および2人の異なる患者の骨髄において検出された1つの単一細胞をサイトケラチン(赤蛍光)およびエムプリン(青)について染色した。
【0082】
図21は,腫瘍細胞におけるトランスフェリンレセプター(CD71)のディファレンシャル発現を示す。細胞核のDAPI染色(左パネル)。アップレギュレートされたCD71発現が腫瘍組織において見られる(右パネル)。
【0083】
図22は,培養SMCの生存に及ぼすIFN−γの影響を示す。自発的(パネルAおよびC)およびH誘導性アポトーシス(パネルBおよびD)のフローサイトメトリ分析。細胞は,100μmol/lのHで処理した6時間後にFlTC−標識アネキシンVおよびPIで二重染色した。5回の独立した実験の代表的分析が示されている。
【0084】
図23は,再狭窄のマウスモデルにおける新脈管内膜の発達に及ぼす無IFN−γレセプター変異の影響を示す。(A−D)結紮の4週間後の未処理動脈(対照)および反対側の結紮動脈(結紮)について,野生型(wt)およびIFN−γR−/−ノックアウト(ko)マウスからのマウス頸動脈動脈の切片の代表的顕微鏡写真が示される。ファンゲッソン染色の方法を用いた。バーは100μmの長さを表す。(E)16個の野生型および11個のIFN−γR−/−マウスからのデータが,非対試料についてのt−テストにより分析した平均±SEM(バー)として示される。目盛りは中膜および新脈管内膜の厚さをμmで示す。白カラム:頸動脈結紮の前および後の対照動物;黒カラム:頸動脈結紮の前および後のノックアウト動物。影をつけた面積は新脈管内膜の厚さを表す。
【0085】
図24は,単一の細胞または少量の細胞試料で行ったSSH分析のフローチャートを示す。
【0086】
図25は,標識したドライバーおよびテスターをプローブとして用いるサザンブロットによるコロニーのスクリーニングを示す。レーン1−9;サブトラクション後に得られたコロニー。コロニー#4はESE1(上皮特異的転写因子)であると同定された。M=分子量マーカー。
【0087】
図26は,PCRおよびゲル電気泳動により分析した,腫瘍細胞におけるESE1の差異的発現を示す。レーン1−4:単一乳癌細胞,5−7:健康なドナーの骨髄。M=分子量マーカー。
【0088】
以下に生物学的実施例を参照して本発明を説明するが,これは例示にすぎず,本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0089】
実施例I:単一細胞cDNAの生成および包括的増幅
単一の細胞からのmRNAの量は,アレイに基づくトランスクリプトーム分析に直接用いるには少なすぎる。直接標識法では50,000個の細胞からの全RNA(10μg)が検出限界であると報告されている(Mahadevappa,Nat.Biotechnol.,17,1134−1136(1999))。直線的増幅工程を用いると,この数は1000個の細胞まで低下させることができるが(Luo,Nat.Med.,5,117−122(1999)),これでもなお,微小転移性細胞の研究に適用するにははるかに少なすぎる。すなわち,mRNAの逆転写およびcDNAの増幅が必要である。鍵となるものは,偏りのない包括的増幅方法の開発である。簡単に記載すると,この方法は以下の4つの基本的工程からなる:(1)オリゴ−dT−で被覆した固体支持体でのmRNAの単離,(2)5’−オリゴ−dC(またはdG)フランキング領域を含むランダムプライマーを用いるcDNA合成,(3)dGTP(またはdCTP)を用いる3’テイリング反応による3’−オリゴ−dGフランキング領域の生成,次に(4)cDNA分子のオリゴ−dG(または−dC)フランキング領域にハイブリダイズするプライマーを用いる単一プライマーに基づく増幅。これらの4つの基本的工程を実現し,感度および信頼性の高いcDNA合成,3’−テイリングおよびpCR増幅を得るためには,tRNAおよびrRNAを除いておかなければならない。
【0090】
さらに,cDNA合成についてのランダムプライマーの濃度は,先に記載されているオリゴ−dT−に基づく方法(Brady,Methods.Enzymol.,225,611−623(1993);Trumper,Blood,81,3097−3115(1993),10nMのcDNA合成プライマーを用いる)より2000−8000倍高かった。20個のHT29結腸癌腫細胞(ATCC:HTB−38)を個別に単離し,処理した。界面活性剤Igepalを含むcDNA合成緩衝液中で細胞を溶解した後,5個の細胞の群を作成し,4つの異なる濃度のランダムcDNA合成プライマーを用いて逆転写した。各濃度について遺伝子特異的RT−PCRによりcDNA合成を試験した。図1aは,cDNA合成においてより高い濃度のランダムプライマーを用いると特異的転写産物(例えばki−ras)の検出比率が増加することを示す。余剰のプライマーは続くテイリングおよび増幅反応における有効な競合剤であり,したがって,これらの工程の前に除去することが好ましい。同様に,高いdNTP濃度はcDNA合成を改良するが,続くテイリング反応を妨害し,除去する必要がある。標準的カコジル酸含有テイリング緩衝液は後のPCRを妨害するため,低イオン強度のKHPO緩衝液で置き換えた(Nelson,Methods Enzymol.,68,41−50(1979)。オリゴ−dT被覆磁気ビーズでのmRNAの捕捉は,mRNA単離および緩衝液交換工程の間の操作を簡単にした。以下において,単一の細胞の単離,mRNA単離,cDNA合成および3’−テイリングを簡単に説明し,例示する。
【0091】
腫瘍細胞は記載されるようにして骨髄から単離した(Klein,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,4494−4499(1999))。簡単には,生存能力のある骨髄試料を,5%AB血清の存在下で10μg/mlのモノクローナル抗体3B10−C9で10分間染色して,非特異的結合を防止した。3B10−ポジティブ細胞をマウスIgGに対するB−フィコエリスリンコンジュゲート化ヤギ抗体(The Jackson Laboratory)で検出し,氷上のPCRチューブに移した。オリゴ−dTビーズを加え,細胞を10μlの溶解緩衝液(Dynal)で溶解し,チューブを30分間回転させた。mRNAの捕捉のためには,0.5%Igepal(Sigma)を含む10μlのcDNA洗浄緩衝液−1(Dynal)を加え,ビーズに結合したmRNAをcDNA洗浄緩衝液−2(50mMTris−HCI,pH8,3,75mMKCI,3mMMgCl,10mMDTT,0.5%Tween−20(Sigma)を補充)で洗浄し,新たなチューブに移し,cDNA洗浄緩衝液−1中で再び洗浄して痕跡LiDSおよびゲノムDNAを除去した。mRNAは,SuperscriptIIリバーストランスクリプターゼ(Gibco BRL)で,製造元から供給される緩衝液に500μMdNTP,0.25%Igepal,30μMのCff5c8プライマー(5’−(CCC)GTCTAGANN(N)−3’)および15μMのCFL5cT(5’−(CCC)GTCTAGATT(TTT)TVNを補充して用いて,44℃で45分間逆転写させた。試料は反応の間回転させてビーズの沈殿を回避した。cDNAはmRNAを介して常磁性ビーズに結合したままであり,テイリング洗浄緩衝液(50mMKHPO,pH7.0,1mMDTT,0.25%Igepal)中で1回洗浄した。ビーズをテイリング緩衝液(10mMKHPO,pH7.0,4mMMgCl,0.1mMDTT,200μMGTP)中に再懸濁し,cDNA−mRNAハイブリッドを94℃で4分間変性させ,氷上で冷却し,10UのTdT(MBI−Fermentas)を加え,37℃で60分間または37℃で60分間および22℃で一夜インキュベートした。テイリング酵素を不活性化した後(70℃,5分間),4μlの緩衝液1(Roche,Taqロングテンプレート),3%脱イオン化ホルムアミド(Sigma)を35μlの容量中に含むPCR−MixIを加えた。プローブをPCRサイクラー(Perkin Elmer 2400)中で78℃に加熱し,ホットスタート法用に容量5μl中で最終濃度350μMのdNTP,CP2プライマー(5’−TCA−GAA−TTC−ATG−CCC−CCC−CCC−CCC−CCC−3’,最終濃度1.2μM)および5ユニットのDNAPoly−Mixを含むPCRMixII(Roche,Taqロングテンプレート)を加えた。40サイクルを走らせ,最初の20サイクルについては94℃,15秒間,65℃,30℃,68℃,2分間で,残りの20サイクルについては,各サイクルの伸長時間を10秒間長くし,最終伸長工程は68℃で7分間行った。これらのPCR増幅条件は実質的にBrail,Mut.Res.Genomes,406,45−54(1999)とは異なる。Brailにおけるアニーリング温度はわずか42℃で2分間であり,これに対して本発明の方法のこの例においては65℃が適用される。
【0092】
続くポリ−dA−およびポリG−テイル付加配列のPCRのテイリング効率ならびに感度を,ポリ−dAまたはポリ−dTのいずれかのホモポリマーテイルを有する規定のcDNAフラグメントを用いて評価した。ポリ−(dA)およびポリ−(dG)−テイル付加フラグメントを希釈し,次にそれぞれ等量のポリ(dT)およびポリ(dC)プライマーを用いてPCRにより増幅した。これらの実験においては,ポリ−Cプライマーのポリ−Gテイルへの結合は,ポリTプライマーのポリ−dAテイルへの結合より少なくとも100倍感度が高いことが見いだされた(図1b,レーン1,2を3,4と比較されたい)。
【0093】
同じポリ−dCフランキング領域を共有する種々のcDNA合成プライマーと,ランダムヘキサマー(N6),オクタマー(N8),オリゴ−dT(dT)15単独または組み合わせとの組み合わせを比較した。すべて良好かつ信頼性をもって作動した。ポリ−dC−N8およびポリ−dC−(dT)15プライマーの組み合わせを用いたときに最もよい結果が得られた(データ示さず)。
【0094】
最も劇的な改良は,包括的PCRのために2つのプライマー(図1d)ではなく1つのプライマー(図1c)のみを用いたときに得られた。cDNA合成プライマーは,3’ランダムヘキサマーおよび,ポリ−dCストレッチ(CFI5c)または4つすべての塩基のフランキング配列(Fl4N6)のいずれかのフランキング領域から構成された。2つのポリ−dC結合プライマーを,FI4相補配列に結合する追加のプライマーとの組み合わせで試験した(図1c)。ポリ−dC結合プライマー(CP2,CP3)の他に追加のプライマー(FL4)を用いると増幅が妨害された(図1c,レーン1,2および4,5)。これは,最適な感度には高いプライマー濃度が必要であるためであろう。CP2プライマー単独を用いた場合は,広範な範囲のcDNA分子(0.2−3kB)が増幅された。さらに高度に希釈したcDNA(1:200)であっても包括的増幅には十分であった(図1d)。
【0095】
実施例II:単一の細胞のトランスクリプトーム分析:cDNAアレイ分析の特異性,再現性,感度,および適合性
培養細胞株から単離された単一の細胞を,cDNA合成,テイリングおよび増幅について最適化されたプロトコルにより分析した。これまでに合計で100個の単一の細胞について,遺伝子特異的PCRによるβ−アクチンおよびEF−1cc発現の試験に成功している(データ示さず)。ハウスキーピング遺伝子のcDNAは,二次PCRにおいて特異的増幅に用いた領域にはあまり関係なく,細胞あたり十分なコピー数で見いだされた。より少ない量の転写産物については,選択されたコーディング配列のサイズが検出比率を決定することが見いだされた。最も高い感度は,200bpより短い距離の2つのプライマーを用いたときに得られた(データ示さず)。
【0096】
単一細胞からのPCR増幅物をcDNAアレイ分析の適合性について試験した。この目的のために,得られたcDNAをDig(ジゴキシゲニン)標識した。Dig−UTPはPCRにより取り込ませた。発現プロファイリングのため,PCRにより増幅した元のcDNAフラグメントの0.1−1μlを,ジゴキシゲニン標識dUTP(Boehringer Mannheim),50μMdig−dUTP,300μMdTTP,および最終濃度350μMの他のdNTPの存在下で再増幅に用いた。再増幅条件は,本質的には上述のとおりであるが,2.5ユニットのDNA PolyMixを用いるよう改変した。最初に94℃で2分間変性させ,次に12サイクルの94℃,15秒間,68℃,3分間を行い,最終伸長時間は7分間であった。特異的転写産物は,元のPCRを最終容量10μlで1/10に希釈し,その1μlを用いて検出した。
【0097】
表1は,異なる組織発生学的起源の単一細胞からの遺伝子の発現パターンを示す,ジゴキシゲニン標識プローブのハイブリダイゼーションの特異性を示す。細胞は,MCF−7(ATCC番号HTB−22),A431(ATCC番号CRL1555),K−562(ATCC番号CCL−243),JY(International Histocompatibility Workshop:IHW9287)であった。MCF−7およびA431細胞のみがサイトケラチン遺伝子(これらが上皮起源であることのマーカー)を発現しており,一方,赤白血病K562細胞およびEBV形質転換B細胞JYは造血起源の遺伝子,例えば,CD33,CD37,CD38,およびB細胞中のカッパ軽鎖を発現していた。さらに,精巣および腫瘍特異的MAGE遺伝子はすべての癌細胞で高度に発現していたが,ウイルス形質転換B細胞ではそうではなかった。これらのデータは,単一細胞PCR増幅物がcDNAアレイ分析に有用であり,単一細胞の細胞タイプ特異的遺伝子発現パターンを生ずることを示す。
【0098】
表1:種々の組織に由来する単一細胞による,組織発生学的情報を与える遺伝子の発現
【表1】
Figure 2004508010
【0099】
培養により成長させた個々の細胞を単離し,cDNAを合成し,増幅し,組織発生学的情報を与える遺伝子のアレイにハイブリダイズさせた。細胞は以下の細胞株から得た:MCF−7(乳癌);A431(類表皮癌腫);K562(慢性骨髄性白血病);JY(エプスタインバーウイルス形質転換B細胞株)。
【0100】
再現性を評価するために,110種類の異なる遺伝子を有する第4世代のcDNAアレイを用いて4つのMCF−7細胞の発現パターンを比較した(表2)。特別注文のcDNAアレイは以下のようにして製造した。cDNAを遺伝子特異的プライマーでヒトcDNAからPCR増幅し,PCR増幅物をゲル精製し,増幅物1種類あたり15ngのDNAを,BioGridスポッティングロボット装置(Biorobotics)を用いてナイロン膜(Boehringer)上にスポットした。DNAマクロアレイ第4世代および第5世代と名付けた(下記を参照)。
【0101】
第4世代フィルター:スポットした遺伝子は以下のとおりであった:
【表2】
Figure 2004508010
【0102】
【表3】
Figure 2004508010
【0103】
【表4】
Figure 2004508010
【0104】
表2:4個の単一MCF−7細胞において共通におよび異なるように発現されている遺伝子
【表5】
Figure 2004508010
【0105】
同じ細胞クローンに由来する個別の細胞の遺伝子発現の不均一性
培養細胞から単離された4個のMCF−7細胞を,遺伝子発現の単一細胞分析により分析した。4つの単一細胞すべてにおいて(4/4),4つのうち3つ(3/4),4つのうち2つ(2/4),および4つのうち1つ(1/4)で検出された転写産物が示される。発現されている遺伝子の18/46(39%)がすべての細胞で検出された。61%の遺伝子は,4つの細胞の一部においてのみ認められた。63種の遺伝子は試験したすべての細胞についてネガティブであった。
【0106】
46種の遺伝子(42%)が少なくとも1つの細胞で発現され,63種(58%)は4個すべての細胞においてネガティブであった。46(39%)種の発現された遺伝子のうちの18種は4すべての細胞において検出されたが,残りの29種(61%)は不均一に発現されていることが見いだされた。この不均一性が細胞間変動によるものかまたは技術上のアルチファクトであるかを評価するために,2つの別々のPCR増幅用に分割した単一のA431細胞のcDNAについても,不均一が観察されるか否かを試験した。最初の実験においては,単一細胞cDNAの50%から得られた包括的増幅されたPCR産物を用いて遺伝子特異的PCRを行った(図2)。比較のために,500,000個のA431細胞のプールから単離されたcDNAを,β−アクチンバンドの強度が単一の細胞のcDNAの50%から得られる強度と同様になるように希釈した。32サイクル後,cDNA量は約10,000個の細胞に対応し,プール対照のβ−アクチンシグナルおよび単一細胞cDNAの50%は増幅のプラトー段階に達した。図2に示されるように,同じ細胞の2つの半分のcDNAの変動は非常に低かった。2つの独立した実験において,6個のA431細胞からの各半分(a+b)から同様の強度のβ−アクチンバンドが得られた。
【0107】
cDNAの包括的増幅の信頼性を試験するために,第2の遺伝子配列特異的PCR増幅を行った。遺伝子特異的PCR増幅の効率はプライマー配列に依存することが知られているため,プライマー設計についての要求が非常に厳しいMAGE転写産物の増幅を試験した(Kufer,WO98/46788(1998);Serrano,Int.J.Cancer 83,664−669(1999))。配列特異的PCRにより決定されたMAGE発現のレベルは,一貫してベータ−アクチンの発現より低かった。cDNAの包括的PCR増幅後の分割された単一細胞試料におけるMAGE転写産物の相対量(図2,レーン2−4および6−8)は,プールされた細胞からの増幅されていないcDNAに由来する対照試料(図2,+)の量と匹敵するものであった。6個のうち4個の場合において,結果はcDNAの両方の半分について同一であった。半分の細胞7aおよび8bにおいてMAGE転写産物が存在しなかったことは,おそらく,2つの半分の間でcDNAの分布が偏っていたことを示す。
【0108】
観察される配列非依存的増幅は,15個のシトシン残基を含みしたがって同等に高いCG含量を有するプライマー結合部位を導入するポリ−dCプライマーの特徴的な点である。そのようなプライマーに適合した実験条件,すなわち3%変性ホルムアミドの存在下での高いアニーリング温度(65℃)は顕著な再現性につながり,単一細胞トランスクリプトームに対して大きな量的変化をもたらさなかった。
【0109】
分割した単一細胞cDNAからの増幅産物,および対照として5,000個のプールした細胞からのcDNAを標識し,193種の異なる遺伝子を表すcDNAアレイにハイブリダイズさせた。単一細胞増幅産物の両方の半分からほとんどの転写産物を検出することができた(表3)。
【0110】
表3:5000個の細胞のプールされたcDNAと比較した,包括的PCRの前にcDNAの2つのプールに分割された単一細胞の遺伝子発現パターン
【表6】
Figure 2004508010
【0111】
【表7】
Figure 2004508010
【0112】
【表8】
Figure 2004508010
【0113】
PCR増幅の前に2つの単一細胞のcDNAを分割し,5000個の細胞から得たcDNAプールと比較した。すべてのcDNAを包括的PCRにより増幅し,cDNAアレイに対するハイブリダイゼーションにより分析した。対応する半分ずつ(1.1および1.2;2.1および2.2)の遺伝子発現プロファイルを細胞プール(+)と並置させた。遺伝子はシグナル強度(濃いほど強い)および同じ細胞の両方の半分ずつにおける検出にしたがって一覧に記載される。用いたフィルターは第5世代であり,遺伝子および蛋白質の名前は以下に示される(前記第5世代フィルターの調製については上述を参照(第4世代フィルター))。
【0114】
第5世代フィルター:
【表9】
Figure 2004508010
【0115】
【表10】
Figure 2004508010
【0116】
【表11】
Figure 2004508010
【0117】
【表12】
Figure 2004508010
【0118】
【表13】
Figure 2004508010
【0119】
半分ずつのcDNA4個について合計で148個のシグナルが得られた。これらのうち,95個(64%)は対応する半分ずつにおいて認められたが,53個(36%)は一方の半分にのみ認められた。53個の単一ポジティブシグナルのうち,プールした細胞の対照においては,46個(87%)は非常に低量の転写産物であり,26個(49%)は検出できず,20個(37%)は弱くしか発現していなかった。7種類の遺伝子(AXL,BAG1,BCL2L1,SHGC−74292,B61,TGFBR2およびABCC1)はプールされた試料においてのみ検出されたが,シグナルはいくぶん弱かった。これに対し,33種類の遺伝子は,半分の細胞の実験においてのみ認められたが,対照においては認められなかった。両方の半分ずつのシグナル強度は非常に類似しており,シグナルの55%および76%が対応する半分ずつにおいて同じ強度であった。2つの対応する半分ずつにおいて同一ではなかったシグナルは,PCRの前にcDNAフラグメントの分布がランダムでないことから生じたのかもしれない。特に,低い(<10)コピー数で存在する転写産物はそのような分布効果を受けるためであろうが,試料を分割しない場合には得られないであろう。
【0120】
実施例III:単一細胞からのトランスクリプトームおよびゲノム分析の組み合わせ
最近,単一細胞(SCOMP)のCGH(比較ゲノムハイブリダイゼーション)分析の方法が記載された(Klein,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,4494−4499(1999))。この方法を用いて,腫瘍細胞をその染色体異常により明白に識別することができる。したがって,同じ細胞からのゲノムDNAおよびmRNAの両方を単離することを試みた。単離された単一細胞を10μlの溶解緩衝液(Dynal)中で溶解させ,チューブを30分間回転させてmRNAを捕捉した。10μlのcDNA洗浄緩衝液−1(50mMTris−HCI,pH8,3.75mMKCl,3mMMgCl,10mMDTT,0.5%Igepal(Sigma)を含む)を加え,ビーズに結合したmRNAをcDNA洗浄緩衝液−2(50mMTris−HCl,pH8,3.75mMKCl,3mMMgCl,10mMDTT,0.5%Tween−20(Sigma)を補充)中で洗浄し,新たなチューブに移し,cDNA洗浄緩衝液−1中で再び洗浄して残留LiDSおよびゲノムDNAを除去した。mRNAは,SuperscriptIIリバーストランスクリプターゼ(GibcoBRL)で,製造元により供給される緩衝液中で500μMdNTP,0.25%Igepal,30μMのCfl5c8プライマー(5’−(CCC)GTCTAGANN(N)−3’)および15μMのCFL5cT(5’−(CCC)GTCTAGATT(TTT)TVNを補充して,44℃で45分間逆転写した。試料は反応の間回転させて,ビーズの沈殿を回避した。図1cおよびdに示される用いたプライマーは,Cfl5cN6(5’−(CCC)GTCTAGANN(N)−3’)およびFL4N6(5’−TTTCTCCTTAATGTCACAGATCTCGAGGATTTC(N)−3’)であった。cDNAは常磁性ビーズにmRNAを介して結合したままであり,テイリング洗浄緩衝液(50mMKHPO,pH7.0,1mMDTT,0.25%Igepal)中で1回洗浄した。ビーズをテイリング緩衝液(10mMKHPO,pH7.0,4mMMgCl,0.1mMDTT,200μMGTP)に懸濁し,cDNA−mRNAハイブリッドを94℃で4分間変性し,氷上で冷却し,10UのTdT(MBI−Fermentas)を加え,37℃で60分間,または37℃で60分間および22℃で一夜インキュベートした。テイリング酵素を不活性化した後(70℃,5分間),4μlの緩衝液1(Roche,Taqロングテンプレート),35μlの容量中の3%脱イオン化ホルムアミド(Sigma)からなるPCR−MixIを加えた。プローブをPCRサイクラー(Perkin Elmer 2400)中で78℃に加熱し,ホットスタート法用に5μlの容量中dNTPを最終濃度350μMで含むPCR−MixII,CP2プライマー(5’−TCA−GAA−TTC−ATG−CCC−CCC−CCC−CCC−CCC−3’,最終濃度1.2μM)および5ユニットのDNAPoly−Mixを加えた(Roche,Taqロングテンプレート)。最初の20サイクルについては94℃,15秒間,65℃,30℃,68℃,2分間で,残りの20サイクルについては各サイクルの伸長時間を10秒間延長して,40サイクルを行い,最後の伸長工程を68℃で7分間行った。図1cにおいて用いたPCRプライマーは次のとおりであった:CP3(5’−GCTGAAGTGGCGAATTCCGATGCC(C)12−3’)およびFL4(5’−CTCCTTAATGTCACAGATCTCGAGGATTTC−3’)。
【0121】
細胞溶解物からの上清およびmRNA単離のすべての洗浄工程(cDNA洗浄緩衝液1および2)を回収した(総容量60μl)。ゲノムDNAはシラン化チューブに写した後,20μgのグリコゲン(Roche)の存在下で−20℃で一夜エタノール沈澱した。続くすべての工程は公表されているようにして行った(Klein,(1999),上掲)。
【0122】
主な懸念は,ゲノムDNAの不完全な沈澱が最終的に癌性細胞における染色体欠失において見られるようなDNAの欠失につながるかもしれないことである。しかし,明確な核型の細胞を用いる実験は,細胞性DNAは完全に失われるか(30%の場合)または完全に沈澱する(70%)(データ示さず)のいずれかであることを明確に示した。ゲノムDNAが完全に回収されるのは,間期の染色体は非常に絡み合っており,全てが沈澱するかまたは何も沈澱しないという事実のためであろう。全DNAの喪失はおそらく,ゲノムDNAとmRNAとの分離の間に反応チューブを交換することによりもたらされたものである。DNAを沈殿させた2種類の正常細胞および2種類のMCF−7乳癌細胞の核型が図3に示されている。2種類の正常細胞のプロファイルは中線から有意な偏差を示さなかったが,2種類のMCF−F7細胞の多数のゲノム異常はほぼ同一であった。したがって,悪性のEpCAM−ポジティブ細胞は,そのゲノム表現型により,骨髄中の正常EpCAM−ポジティブ細胞から明白に区別することができる。EpCAM−発現は骨髄試料における腫瘍細胞の(悪性の)識別の証拠としては不十分なであるため,このことは特に重要である。免疫蛍光法により判定したとき,健康なドナーも0.5−5%の”3 3B10−C9−ポジティブ細胞(3B10−C9,Prof.Judy Johnson,Institute for Immunology,Munich)EpCAMに対する高親和性mAbである)を示すことに注意しなければならない。
【0123】
実施例IV:3種類の微小転移性細胞における活性関連遺伝子発現
異なる腫瘍および疾病段階の3名の患者から単一の腫瘍細胞を単離した。第1の患者(C)は子宮頚部癌腫の10年間の歴史を有し,胸部x腺で疑わしい知見を有していた。第2の患者(L)においては,最近肺の腺癌が診断され,これは手術後にpT2,N3,M0の段階であると判定された。骨髄試料は手術前の麻酔の間に採取した。第3の試料は,疾病がpT1a,pN1a(1/18),M0の段階である31歳の乳癌患者(B)から吸引した。局所的再発,組織学的なG3の等級付け,および骨髄における1つのサイトケラチン−ポジティブ細胞の知見のため,この患者は高容量の化学療法(HD)を受けた。骨髄試料はHD完了の1ヶ月後に採取した。3つすべての細胞についてSCOMPを実施し,細胞が癌性起源であることが確認される多数の染色体異常を示した(表4)。
【0124】
表4:子宮頚部癌腫(C),肺癌(L)および乳癌(B)を有する3人の患者の骨髄から単離された3B10−C9−ポジティブ細胞のゲノム異常
【表14】
Figure 2004508010
【0125】
3種類の微小転移性細胞から得られたCGHデータのまとめ。各細胞について,各染色体の短腕(p)および長腕(q)の喪失(L)および獲得(G)が示されている。
【0126】
最も進行の程度の低い疾病を有していた患者Bからの細胞は,最も低い程度の染色体変化を示した(図4)。
【0127】
3つすべての細胞からmRNAを単離し,上述したようにSCAGE用の試料を調製した。対照として,細胞を加えずに同じ方法を実施した。cDNA増幅物を合計で1,300種類の遺伝子を含む,ClontechのCancer1.2フィルターおよび新たに作成したアレイ(AxximaA6,Martinsreid)にハイブリダイズさせた。
【0128】
ナイロンフィルターへの非放射性ハイブリダイゼーションは以下のように行った:15ngのPCR増幅しサブクローンした種々のcDNAフラグメントをAxxima AG(Martinsried)により正に荷電したナイロンフィルターにスポットした。フィルターを6mlのDig−easyHyb緩衝液(Roche Biochemicals)中で,50μg/mlのE.coliおよび50μg/mlのpBSDNAの存在下で一夜プレハイブリダイズさせた。単一の細胞からの9μgの標識PCR産物を100μgのニシン精子,300μgのE.coliゲノムDNAおよび300μgと混合し,94℃で5分間変性させ,6mlのDig−easyハイブリダイゼーション緩衝液に加え,36時間ハイブリダイズさせた。Rocheジゴキシゲニンハイブリダイゼーションプロトコルにしたがって2回ストリンジェント洗浄を行い,さらに0.1xSSC+0.1%SDS中で68℃で15分間追加の2回のストリンジェント洗浄を行った。フィルターに結合したプローブの検出は,キットとともに提供されるジゴキシゲニン検出システムプロトコル(Roche)にしたがって行った。
【0129】
3種類の遺伝子のみが,陰性対照の少なくとも1つからシグナルが得られたために分析から除く必要があった。これらの遺伝子は,VHL−結合蛋白質,カスパーゼ10,TGF−βおよびヘモグロビンαであった。陽性シグナルの数は,それぞれ患者B,C,およびLからの細胞について,5.3%(70/1313),7.0%(92/1313)から11.8%(155/1313)の範囲であった。これらの数は,単一のインビトロで成長した癌腫細胞からの数(シグナルは10−20%の遺伝子(データ示さず)から得られた)より有意に低かった。3つの腫瘍細胞はすべて,増殖,複製または成長休止の制御において役割を果たすことが知られている遺伝子を発現していた(図5;表5)。
【0130】
表5:細胞C,LおよびBにおいて細胞サイクル状態に関与することが示唆されるアップレギュレートされた遺伝子
【表15】
Figure 2004508010
【0131】
細胞CおよびBは細胞サイクルのいくつかのポジティブレギュレータを発現していたが,BおよびLのみが細胞サイクル阻害剤を発現していた。
【0132】
細胞Cは,細胞サイクル進行に重要な遺伝子,例えば,サイクリンA(CCNA),EB1,RC2,P2G4,PIN1,RBBP4およびCENPFを最も多数発現していた。これらの遺伝子のほとんどは厳密に転写的に制御されており,そのmRNAは細胞分裂が進行するにつれて急速に分解されるため,その発現は,細胞Cがサイクル進行に関わることのみならず,SCAGEによりこの活性に正確に捕獲されうることを示す。
【0133】
細胞Bは複製ならびに細胞サイクル阻害に重要な多数の遺伝子を発現していた。転写産物のパターンは,細胞がDNA修復の段階にあったことを示唆する。GADD45(DDIT1)およびp21(CDKN1A)の共発現は,成長休止を示す(Smith,Science,266,1376−1380(1994))。同様に,正の細胞サイクルレギュレータ,例えば,DNA−PK,RFC2,LIG1,ADPRTおよびPRIM1の発現がDNA修復に関与することが示唆されている(Lindahl,Science,286,1897−1905(1999);Barnes,Cell,69,495−503(1992),Mossi,Eur.J.Biochem.,254,209−216(1998);Lee,Mol.CellBiol.17,1425−1433(1997))。この細胞はアルキル化剤による遺伝子毒性高用量化学療法から生存したため,その発現プロファイルは,細胞サイクルへに再び入ることが回避されたように解釈することができる。この解釈は,プロ−アポトーシス遺伝子,例えば,カスパーゼ−6およびBADの発現がこの細胞においてのみ見いだされることにより支持される。しかし,この細胞におけるアポトーシスの完成は,サービビン(AP14)の発現により妨げられるであろう(図5;表5)。
【0134】
細胞Lから得られたトランスクリプトームは,これが散在およびEMTに関与していることと一致する特徴を示した。細胞Lの遺伝子発現はサイクリングまたはDNA修復細胞の発現と似ていなかったが(上述を参照),その84種類の異なるように発現されている遺伝子は主として細胞骨格再編成,細胞接着および細胞外蛋白質分解活性に関与する(表6;図6)。
【0135】
表6:侵襲性表現型を示す細胞Lにおいてアップレギュレートされている遺伝子
【表16】
Figure 2004508010
【0136】
本研究は,癌患者の骨髄に由来する個々の腫瘍細胞の細胞活性を始めて分析したものである。細胞Cは,10年間の潜伏期間の後に肺転移を示した子宮頚部癌腫患者に由来するものであった。この細胞は増殖していることが見いだされた。細胞Bは,いくぶん小さい原発性癌を有し,その腫瘍が見かけ上攻撃的であったために高用量の化学療法を受けた乳癌患者の骨髄に由来する。この細胞は,比較的少なくかつ別々のゲノム変化を示し,この知見は,散在に必要なゲノム変化に関して特に興味深い。さらに,この細胞は,アルキル化剤を含む高用量化学療法投与計画にエピルビシンおよびタキソールを加えた通常の化学療法の4サイクルから生き残ったはずである。得られた発現プロファイルは成長休止および進行しつつあるDNA修復に特徴的である。
【0137】
散在のプロセスに関連する情報を最も与えるものは細胞Lのトランスクリプトームであった。この細胞は,臨床的に明白な転移を有しない気管支癌患者において検出され,活発な遊走および侵襲に関与する蛋白質をコードする多くの遺伝子を発現していた。uPAシステムのほとんどの活性化カスケード,すなわちカテプシンB,D,L,uPAレセプターおよびuPA自身が発現していることが見いだされた。同様に,糸状足,ラメリポディウムおよび張線維の組織化に関与する遺伝子,RhoファミリーメンバーであるRhoAおよびB,Rac1,Cdc42およびp160rock,およびいくつかの接着分子をコードする遺伝子がこの細胞中でアップレギュレートされていた。多くのサイトケラチンおよびEMTのマーカーであるビメンチンの発現により示されるように,その細胞骨格はリモデリングが進行していたようである。
【0138】
培養細胞株から単離された単一の細胞における転写産物の数は,患者由来腫瘍細胞のものより著しく低かったことに注目すべきである。この相違は,転写のインビボ制御がより密集しており,これは,細胞が培養細胞中で成長すると,DNA脱メチル化等のためにより緩和されることを示すのかもしれない。したがって,エクスビボ標本の発現分析は,細胞株を用いる研究よりはるかに多くの情報を与えるであろう。これまでにcDNAアレイ分析に用いられてきた最少数の細胞は,1,000細胞(Luo(1999),上掲)の範囲であった。アレイハイブリダイゼーションの感度は,より長い固定化cDNAフラグメント(Clontechアレイのフラグメント長さは約200bpである),およびより密度が高く複雑なガラスチップを用いて得られた情報の量により,さらに高くなるであろう。本実験は1,300種類の遺伝子のみを分析したが,微小転移性細胞については,これまでにわずか9種類の蛋白質の発現しか報告されていなかったことを考慮しなければならない。
これらの蛋白質は,ErbB2,トランスフェリンレセプター,MHCクラス1,EpCAM,ICAM−1,プラコグロビン,Ki−67,p120およびuPAレセプター/CD87である(Pantel,J.Natl.Canc.Inst.91,1113−1124(1999))。
【0139】
本明細書に記載される方法は,多くの他の分野において少数の細胞による遺伝子発現の研究の可能性を有する(以下の例えばヒト再狭窄組織の実験に示される)。例えば,胚発生において空間的にかつ過渡的に制御されている遺伝子発現の研究および成人組織における幹細胞および分化した細胞の分析を行うことができる。単一細胞分析は,異型性増殖,化生,プレ新生物性病巣およびインシトゥー癌腫の理解を大きく進歩させるであろう。
【0140】
同じ細胞のゲノム異常と発現プロファイルとの一覧は,腫瘍細胞集団中の異なる遺伝子型および表現型の偶発性を明らかにする。
【0141】
高用量化学療法,外科手術,および抗新脈管形成療法は,急速に分裂している細胞および大きな腫瘍塊を標的とすることができるが,レムナント細胞の排除には効果的ではなく,最小残留疾病につながる。アジュバント療法,例えば抗体に基づく方法(Riethmuller,J.Clin.Oncol.,16,1788−1794(1998))は,やはり原発性腫瘍において同定される蛋白質標的に基づいている。本明細書に示される方法は,微小転移性細胞を直接分析することにより,最小残留疾病に対する標的を発見する機会を提供する。
【0142】
実施例V:ヒト再狭窄組織における異常な遺伝子発現
さらに,上述の方法を用いて,ヒト再狭窄組織において異なるように発現されている遺伝子を検出した。
【0143】
再狭窄の割合が高いため,冠状動脈アテローム性動脈硬化症の疾病に頻繁に用いられる治療としての経皮,経管腔冠状動脈血管形成術および続くステント移植の成功が著しく制限されている.インステント再狭窄の発達においていくつかの細胞および分子メカニズムが同定されているが,再狭窄の有効な治療的予防の特異的標的はまだ不足している。この実験においては,ヒトインステント再狭窄からの微小アテレクトミー標本において,異なるように発現されている遺伝子を同定した。免疫組織化学は,再狭窄材料が主として平滑筋細胞(SMC)から構成されており,単核細胞の浸潤はほとんどないことを示した。再狭窄標本から調製したcDNA試料(n=10),および対照として健康な筋性動脈の内膜および中膜からのcDNA試料(n=10)を,新規ポリメラーゼ連鎖反応プロトコルを用いて増幅し,異なるように発現されている遺伝子を同定するためにcDNAアレイにハイブリダイズさせた。デスミンおよび乳由来成長阻害剤の発現はダウンレギュレートされていたが,FK506結合蛋白質12(FKBP12),トロンボスポンジン−1,プロスタグランジンG/Hシンターゼ−1,および70−kDa熱ショック蛋白質Bの発現は,ヒト新脈管内膜において高い統計学的有意性をもってアップレギュレートされていることが認められた。免疫組織化学を用いて,TGF−シグナリングの負のレギュレータであるFKBP12もまた,新脈管内膜において蛋白質レベルでアップレギュレートされており,これはブタ再狭窄モデルの治療におけるFKBP12リガンドであるラパマイシンの治療効果の理論的根拠を与える。
【0144】
平滑筋細胞遊走,増殖および細胞外マトリクスの合成を支配する転写およびシグナリング事象についてさらなる洞察を得るために,ヒト再狭窄組織の顕微鏡標本から生成したプローブを用いるcDNAアレイ技術を用いてディファレンシャル遺伝子発現スクリーニングを行った。この技術の力は,1つの試料に対して数千種類の遺伝子の発現を同時に調べることができることである(Kurian,(1999)JPathol187:267−271)。この方法を用いることの以前のハードルは,通常は10−10個の細胞からなる試料からの数マイクログラムのmRNAまたはcRNAが必要であることであった。ここでは,上述した本発明の新規な技術を用いた。このことにより,単一の細胞または少数の細胞から包括的cDNAアレイハイブリダイゼーションに十分な量の代表的cDNA増幅物を生成することが可能となった。
【0145】
各新脈管内膜および静止性中膜の10標本を,機能が知られている2,435種類の遺伝子の発現について調べた。ハウスキーピング遺伝子の発現は正常組織と再狭窄組織との間でほぼ同等であったが,実験した遺伝子の10パーセント近くは,増加したかまたは減少したレベルの発現を示した。この研究においては,これまでに再狭窄と関連づけられている選択された遺伝子に注目した。ヒト新脈管内膜過形成において,デスミンおよび乳由来成長因子阻害剤(MDGI)の発現は選択的にダウンレギュレートされたが,プロスタグランジンG/Hシンターゼ−1(COX−1),トロンボスポンジン−1(TSP−1),熱ショック蛋白質−70B(hsp70B)およびFK506−結合蛋白質12(FKBP12)の発現はアップレギュレートされていることが認められた。これらの知見はすべて,遺伝子特異的PCRにより確認した。新脈管内膜における遺伝子発現の増加の有意性を調べるために,mRNAレベルの増加が蛋白質レベルの増加に反映されているか否かを調べた。免疫組織化学を用いるFKBP12に例示されるように,再狭窄組織においてTGF−シグナリングのこのレギュレータの大きな過剰発現が実際に認められた。この研究は,非常に少ない量の材料しか入手可能でない場合であっても,cDNAアレイ技術を用いて健康なおよび疾病を有するヒト組織において異なるように発現されている遺伝子を信頼性をもって同定しうることを示す。
【0146】
インステント再狭窄実験群は,一次ステント移植の4−23か月後に再び狭窄したステント中におけるらせんカッター装置動脈切除(X−サイザー,Endicor)による別々のアテレクトミー法を受けた13人の患者から構成されるものであった。すべての患者はこの方法についてのインフォームドコンセントを受け,術前に15,000単位のヘパリンを投与し,次に標準的な療法としてシートを除去した後の最初の12時間1,000単位/時間の静脈内ヘパリンを注入した。すべての患者に焼灼(catherisation)前にアスピリン500mgを静脈内投与し,術後の抗トロンビン療法は実験の全体を通してチクロピジン(250mgbds)およびアスピリン(100mgbds)からなるものであった。
【0147】
試料の調製は以下のように行った:
アテレクトミー標本は,病巣の減量手術後直ちに液体窒素中で凍結し,記載されるようにしてmRNA調製を行うまで液体窒素中に保存した。冠状動脈からのインステント再狭窄組織(n=3)の組織学および免疫組織化学のためには,試料を記載されるように4%パラホルムアルデヒド中で固定し,パラフィン中に包埋した。
【0148】
対照群は,5人の異なる患者からの胃腸管の筋性動脈の5標本および心臓移植を受けた3人の異なる患者からの冠状動脈の5標本からなるものであった。対照標本は直ちに液体窒素中で凍結した。mRNA調製の前に,対照動脈の中膜および内膜を調製し,免疫組織化学によりアテローム性動脈硬化症の変化について調べた。血管形態にアテローム性動脈硬化症の変化がなければ,標本(約1x1mm)を健康な対照試料として用い,mRNAおよびcDNAの調製は記載されるようにして行った。
【0149】
FKBP12の免疫組織化学のためには,頸動脈再狭窄動脈の新脈管内膜標本(n=2)をアテレクトミーにより採取し,除去後直ちに液体窒素中で凍結した。試料の3つの3μmの連続凍結切片をDAKO Chem Mate キャピラリーギャップ顕微鏡スライド(100μm)上にマウントした。
【0150】
mRNA調製およびcDNA増幅は以下のようにして行った:静止性血管またはインステント再狭窄組織の標本を急速に冷凍し,mRNA調製およびcDNA合成を行うまで液体窒素中で保存した。凍結組織を液体窒素中ですりつぶし,凍結粉末を溶解/結合緩衝液(100mMTris−HCI,pH7.5,500mMLiCl,10mMEDTA,pH8.0,1%LiDS,5mMジチオスレイトール(DTT))に溶解し,完全に溶解するまでホモジナイズした。溶解物を4℃で10,000gで5分間遠心分離して,細胞破片を除去した。mRNAは,Dynbeads(登録商標)mRNA DirectKit(登録商標)(Dynal,Germany)を用いて製造元の推奨にしたがって調製した。簡単には,溶解物を1試料につき50μLのあらかじめ洗浄したDynabeads Oligo(dT)25に加え,ミキサー上で4℃で30分間回転させることによりmRNAをアニーリングさせた。上清を除去し,Dynabeads Oligo(dT)25/mRNA複合体をIgepalを含む洗浄緩衝液(50mMTris−HCl,pH8.0,75mMKCl,10mMDTT,025%Igepal)で2回,Tween−20を含む洗浄緩衝液(50mMTrisHCI,pH8.0,75mMKCl,10mMDTT,0.5%Tween−20)で1回洗浄した。cDNAは上述した方法を用いてPCRにより増幅した。第1鎖cDNA合成は,固相cDNA合成として行った。ヘキサヌクレオチドプライマーによるランダムプライミングを用いて逆転写反応を行った。mRNAはそれぞれ,1x第1鎖緩衝液(Gibco),0.01MDTT(Gibco),0.25%Igepal,50μMのCFL5c−プライマー5(CCC)GTCTAGA(NNN)−3’],各0.5mMのdNTP(MBI Fermentas)および200UのSuperscriptII(Gibco)を含む20μLの反応容量中で逆転写し,44℃で45分間インキュベートした。続くテイリング反応は,4mMMgCl,0.1mMDTT,0.2mMdGTP,10mMKHPOおよび10Uのターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(MBI Fermentas)を含む10μLの反応容量中で行った。混合物は37℃で24分間インキュベートした。
【0151】
cDNAは,1x緩衝液1(Expand(登録商標)ロングテンプレートPCRキット,Boehringer Mannheim),3%脱イオン化ホルムアミド,1,2μMCP2−プライマー[5’−TCAGAATTCATG(CCC)−3’],350μMdNTPおよび4.5UDNAポリメラーゼミックス(エクスパンドロングテンプレートPCRキット,Roche Diagnostics,Mannhein)を含む50μLの反応容量中でPCRにより増幅した。PCR反応は以下のサイクルパラメータで20サイクル行った:94℃で15秒間,65℃で0:30分間,68℃で2分間。次の20サイクルは,94℃で15秒間,65℃で30秒間,68℃で2:30+0:10/サイクル分間;68℃で7分間;その後4℃。25ngの各cDNAをPCRの間にジゴキシゲニン−11−dUTP(Dig−dUTP)(Roche Diagnostics)で標識した。PCRは,50μLの反応容量で,1xPuffer1,120μMCP2プライマー,3%脱イオン化ホルムアミド,300μMdTTP,350μMdATP,350μMdGTP,350μMdCTP,50μMDig−dUTP,4.5UDNA−ポリメラーゼミックスを用いて行った。サイクルパラメータは以下のとおりであった:1サイクル:94℃で2分間;15サイクル:94℃で15秒間,63℃で15秒間,68℃で2分間;10サイクル:94℃で15秒間,68℃で3分間+5秒間/サイクル;1サイクル:68℃で7分間,その後4℃。
【0152】
dUTP標識cDNAプローブを用いるClontechc DNAアレイのハイブリダイゼーションは以下のように行った:cDNAアレイを,50mg/LのDNAsel(Roche Diagnostics)消化ゲノムE.coliDNA,50mg/LのpBluescriptプラスミドDNAおよび15mg/Lのニシン精子DNA(Life Technologies)を含むDigEASYHyb溶液(Roche Diagnostics)中で44℃で12時間プレハイブリダイズさせて,膜上の非特異的核酸結合部位をブロックすることにより,バックグラウンドを低下させた。ハイブリダイゼーション溶液を,癌,心臓血管およびストレス応答に関連する(Clontech)選択された遺伝子を有する市販のcDNAアレイにハイブリダイズさせた。各cDNAテンプレートを変性させ,5μg/mlDig−dUTP−標識cDNAの濃度でプレハイブリダイゼーション溶液に加えた。ハイブリダイゼーションは44℃で48時間行った。
【0153】
次に,ブロットを2xSSC/0.1%SDSで1回,1xSSC/0.1%SDSで68℃で1回すすぎ,次に0.5xSSC/0.1%SDSで1回15分間および0.1xSSC/0.1%SDSで1回30分間68℃で洗浄した。アレイにハイブリダイズしたDig標識cDNAの検出のためには,Dig発光検出キット(Boehringer,Mannheim)をユーザマニュアルに記載のように用いた。化学発光シグナルの検出のためには,アレイを化学発光フィルムに室温で30分間露光させた。アレイデータの定量は,フィルムをスキャニングし,Arrayvisionソフトウエア(Imaging Research Inc.,St.Catharines,Canada)で分析することにより行った。バックグラウンドを差し引き,シグナルを各フィルター上に存在する9種類のハウスキーピング遺伝子に対して標準化し,このことによりハウスキーピング遺伝子発現シグナルの平均を1に設定し,バックグラウンドを0に設定した。パイロット実験においては,2つのプローブの1つが豊富である6個のクローンをRT−PCRによりさらに分析した。
【0154】
実験の結果は,実験群または対照群の10個の実験標本の平均発現値として表す。2つの患者群の間の相違はウイルコキソンテストにより分析した(SPSSバージョン8.0)。0.03より低いP値を有意であると見なした。
【0155】
ディファレンシャルハイブリダイゼーションシグナルの選択は,遺伝子特異的プライマーを用いるPCRにより確認した。PCR反応は,2.5ngの各cDNAを用いて,1xPCR緩衝液(Sigma),200μMdNTP,0.1μMの各プライマーおよび0.75UのTaqポリメラーゼ(Sigma)を含む25μlの反応液中で行った。以下のプライマーを用いた:デスミン,5’−ACGATTCCCTGATGAGGCAG−3’および5’−CCATCTTCACGTTGAGCAGG−3’;トロンボスポンジン−1,5’−CTGAGACGCCATCTGTAGGCGGTG−3’および5’−GTCTTTGGCTACCAGTCCAGCAGC−5’;乳房由来成長阻害剤,5’−AAGAGACCACACTTGTGCGG−3’および5’−AATGTGGTGCTGAGTCGAGG−5’;プロスタグランジンG/Hシンターゼ−1,5’−CGGTGTCCAGTTCCAATACC−3’および5’−CCCCATAGTCCACCAACATG−3’;FKBP12,5’−ATGCCACTCTCGTCTTCGAT−3’および5’−GGAACATCAGGAAAAGCTCC−3’;熱ショック蛋白質70B,5’−TACAAGGCTGAGGATGAGGC−3’および5’−CTTCCCGACACTTGTCTTGC−3’,およびβ−アクチン,5’−CTACGTCGCCCTGGACTTCGAGC−3’および5’−GATGGAGCCGCCGATCCACACGG−3’。PCR産物は,TAE緩衝液(20mMTris/HCI,10mM酢酸,1mMEDTA)中に臭化エチジウム(0.5μg/mlアガロース溶液)を含む2%アガロースゲルで電気泳動を行った。
【0156】
免疫組織化学は以下のように実施した:
細胞のタイピングのための免疫組織化学は,冠状動脈インステント再狭窄からの3つの新脈管内膜標本のパラフィン包埋切片について行い,FKBP12の検出のためには頸動脈再狭窄からの4つの新脈管内膜標本の凍結切片を用いた。3μmの連続切片をDAKO Chem Mate(登録商標)キャピラリーギャップ顕微鏡スライド(100μm)上にマウントし,65℃で一夜焼結し,脱パラフィン化して,標準的プロトコルにしたがって脱水した。抗原の回収のためには,標本を圧力釜中でクエン酸緩衝液(10mM,pH6.0)中で4分間煮沸した。内因性ペルオキシダーゼは1%H/メタノールで15分間ブロッキングした。一次抗体の非特異的結合は,スライドを抗体希釈液(DAKO,Denmark)中の4%乾燥スキムミルクでプレインキュベートすることにより低下させた。免疫染色は,ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ手法によりChem Mate検出キットHRP/Redウサギ/マウス(DAKO,Denmark)を用いて製造元の記載にしたがって行った。この方法はDAKO Tech Mate(登録商標)500Plus自動化染色システム中で行った。平滑筋アクチン(M0635,DAKO,Denmark;1:300),CD3(A0452,DAKO,Denmark;1:80),MAC387(E026,Camon,Germany;1:20)およびFKBP12(SA−218,Biomol,Germany,1:20)に対する一次抗体を抗体希釈液中で希釈し,室温で1時間インキュベートした。核をヘマトキシリンで対比染色した後,スライドを脱水し,Pertex(Medite,Germany)でカバーした。
【0157】
FKBP12免疫組織化学のためには,頸動脈再狭窄からの新脈管内膜標本の3μmの凍結連続切片をDAKO Chem Mate(登録商標)キャピラリーギャップ顕微鏡スライド(100μm)上にマウントした。
【0158】
以下の結果が得られた:
(a)減量したインステント再狭窄材料の細胞組成
新脈管内膜過形成のx−サイザー処置から得られた代表的試料を,その細胞組成を決定するために免疫組織化学により分析した。分析した再狭窄組織は,PTCAおよびステント移植の2ヶ月以上後に冠状動脈からx−サイザー減量手術により除去した。この方法により生成した組織の量は非常に少なく,およそ300−10000個の細胞が含まれていた。図7Aは,減量再狭窄材料からの小さい試料からの切片のファンゲッソン(E.−van−Giesson)染色を示す。この染色法を用いると,コラーゲン繊維は赤色に染色され,フィブリンは黄色に染色され,平滑筋細胞の細胞質は暗黄茶色に染色される。減量手術した材料の体積の大部分はゆるい細胞外マトリクス様コラーゲンファイバーから構成され,明るい赤色に染色された。黄色のフィブリン染色はほとんど検出されなかった。紡錘形状の核および黄色/茶色に染色された細胞質を有する細胞の頻度が高かった。これらが平滑筋細胞であること,およびこれらが再狭窄材料において大量に存在することは,平滑筋α−アクチン(図7B)に対する抗体を用いる免疫染色により裏付けられた。ここでは,遺伝子発現分析に用いた全標本からの切片の染色パターンが示される。以下に記載されるように,そのような試料はまた,強い平滑筋特異的α−アクチンmRNAシグナルを生じた(図8を参照)。これらの結果は,先の実験からの知見を裏付け(Komatsu,(1998),Circulation 98:224−233;Strauss(1992),J.Am.Coll.Cardiol.20:1465−1473;Kearney(1997),Circulation 95:1998−2002),新脈管内膜において見いだされる主な細胞タイプが平滑筋細胞に由来するものであることを示す。文献に記載されるように,減量手術した再狭窄組織標本のある領域における単核浸潤も識別することができた(データ示さず)。これらの浸潤は,主としてマクロファージから,およびより少ない程度でtリンパ球から構成されていた。再狭窄組織においては,CD20に対する抗体を用いる免疫組織学的染色ではb−リンパ球は検出できなかった(データ示さず)。
【0159】
(b)微小ヒト組織試料における特異的遺伝子の発現
インシトゥーのmRNAレベルを最適に保存するために,再狭窄および対照標本を採取した後液体窒素中で急速に冷凍し,上述するように注意深く溶解した。合成されたcDNAのPCR増幅後,ドットブロットアッセイにより増幅されたcDNAの量を測定し,200−300ng/μlであることがわかった。すべての増幅されたcDNA試料の量は,β−アクチン,平滑筋細胞α−アクチンおよび偏在性伸長因子EF−lαのcDNAを検出するプライマーを用いる遺伝子特異的PCRにより試験した。図8は,患者Bからの材料およびドナーbからの対照中膜を用いた代表的結果を示す。いずれの標本においても,ハウスキーピング遺伝子であるβ−アクチンおよびEF−1αからの正しいサイズのPCRシグナルが同等の量で検出可能であった(レーン1と2をレーン4と5と比較されたい)。さらに,各標本から平滑筋細胞のマーカーとしてのα−アクチンシグナルが得られた(レーン3および6)。これらの結果は,微小ヒト再狭窄試料を用いてmRNA調製,cDNA合成およびcDNAのPCR増幅が実行可能であることを示す。
【0160】
(c)微小ヒト組織試料を用いる比較遺伝子発現プロファイリング
再狭窄と健康な標本とにおいて異なるように発現されているmRNAを同定するために,上述したようにPCR増幅の間にジゴキシゲニン標識dUTPでcDNAを標識した。この標識により,写真フィルム上でcDNAアレイのハイブリダイゼーションシグナルを高い感度で化学発光に基づいて検出することが可能となる。cDNAアレイを有するナイロンフィルターをDNAsel−消化ゲノムE.coliDNAと,およびDNAsel−消化pBluescriptプラスミドDNAとプレハイブリダイズさせた。この方法は,アレイに対する非特異的DNA結合を最大限に低下させるために用いた。各標識プローブを3つの異なる市販のcDNAアレイにハイブリダイズさせ,このことにより合計で2,435種類の既知遺伝子の発現分析が可能であった。図9は,患者Bの再狭窄組織から(パネルA),およびドナーbの中膜から(パネルB)調製したプローブを用いて,1つのアレイで得られた代表的ハイブリダイゼーションパターンを示す。図8に示される遺伝子特異的分析と一致して,アレイの右および下レーンにスポットしたヒトゲノムcDNAの陽性対照および種々のハウスキーピング遺伝子のcDNAスポットを用いて,匹敵するハイブリダイゼーションシグナルが得られた(例えば,スポットDを参照)。cDNA合成およびPCR増幅反応から生物学的標本を除くと,ハイブリダイゼーションシグナルはほとんど得られなかった(図9,パネルC)。このことは,ハイブリダイゼーションシグナルがもっぱら加えた試料に由来し,用いた試薬または材料中のDNA夾雑物に由来するものではないことを示す。
【0161】
ハイブリダイゼーションパターンを肉眼で調べることにより,健康な組織と患部組織とで異なっている多数のシグナルを容易に同定することができる(例えば,シグナルA,BおよびC,図9AおよびB)。再狭窄組織からの試料は一貫して対照組織より大きいシグナルを与えた。3つの異なるcDNAアレイを用いて10個の再狭窄患者試料および10個の正常中膜試料から得られたハイブリダイゼーションシグナルは,写真フィルムの密度分析により定量化し,データを電子的にコンパイルして,統計学的にさらに分析した。2,435種類の遺伝子のうち53の発現レベルが図10に示されており,図の凡例に示されるように,1つの灰色の値がシグナル強度に対応する。遺伝子発現の顕著な変動が,ここに示される患者とドナーとの遺伝的および生理学的相違を反映するかもしれないほとんどの遺伝子について明らかである。遺伝子特異的PCRによるさらなる分析および確認のためには,ウイルコキソンテストにより少なくともp=0.03の統計学的な相違で異なる発現を示す遺伝子のみを考慮した。6種類のそのような遺伝子は一覧において強調されている(図10)。2435種類の既知の遺伝子のうち合計で224種類の遺伝子が,新脈管内膜において高い統計学的有意性をもって異なるように制御されていることが見いだされた。これらの包括的な徹底的な分析は別途公表されるであろう。匹敵する試料の質を示すように,20個すべての試料において8種類のハウスキーピング遺伝子は非常に類似したハイブリダイゼーションシグナル強度を示した(図10,下)。
【0162】
(d)遺伝子特異的PCRによるcDNAアレイデータの確認
図10に挙げられるものの中から,6種類の異なるように制御されている遺伝子および1種類のハウスキーピング遺伝子を選択して,遺伝子特異的プライマーを用いるPCRによりハイブリダイゼーションシグナルを確認した。得られたすべてのPCRシグナルは,予測されたサイズを有していた。試料の質が同等であることの裏付けとして,20個すべての試料についてβ−アクチンシグナル(下)は非常に類似する強度を示した。遺伝子特異的PCRシグナル(図11)とcDNAアレイから得られたハイブリダイゼーションシグナル(図11)とを比較することにより,140シグナルのうち135が強度に関してマッチすることがわかった。これは,cDNAアレイからのハイブリダイゼーションシグナルの96%の忠実度に対応し,ここで用いた遺伝子発現プロファイリング法が,質および感度に関して遺伝子特異的PCRに匹敵することを示す。
【0163】
(e)ヒト再狭窄組織における異常な遺伝子発現
間葉のマーカーであるデスミンは,対照中膜において強く発現されていることが見いだされたが,再狭窄標本においては弱いシグナルのみが見られた(図10および11)。デスミンは,静止期の分化したSMCにおいて高度に発現されているSMCのマーカーである。その発現は,脱分化した増殖しているSMC,例えばアテローム性動脈硬化症のプラークのSMC(Ueda(1991),Circulation 83:1327−1332)において減少している。再狭窄組織におけるデスミンのダウンレギュレーションは,再狭窄材料中の紡錘形状の細胞が脱分化した増殖SMCであることを示唆する。反対に,TGFR活性化およびSMC遊走および増殖において重要な細胞外マトリクス蛋白質であるTSP−1(Yehualaeshet(1999),Am J Pathol 155:841−851;Scott(1988),Biochem.Biophys.Res.Commun.150:278286)は,新脈管内膜標本の大部分において対照試料と比較して顕著にアップレギュレートされていた。COX−1,ストレス誘導性hsp70Bおよび偏在的に発現されているFKBP12遺伝子は,ほぼすべての新脈管内膜過形成において顕著にアップレギュレートされており,対照標本ではほとんどまたは全く発現されていなかった(図10および11)。腫瘍サプレッサーであるMDGIは,静止期の平滑筋において強く発現されていたが,いくつかの新脈管内膜過形成試料においてはほとんど発現が見られなかった。デスミンは,いずれの再狭窄病巣でも発現されていないが(0/0),対照では100%(10/10)であり,MDGIは新脈管内膜標本のわずか30%(3/10)で非常にわずかに発現されていたのに対し,対照の8/10(80%)で発現されていた。他の点では,TSP−1(7/10),COX−1(9/10),hsp70B(8/10)およびFKBP12(10/10)は,新脈管内膜においては対照標本(TSP−1[0/10],hsp70B[0/10],COX−1[0/10],FKBP12[1/10])に対して著しくアップレギュレートされていた。
【0164】
(f)FKBP12蛋白質の発現はヒト再狭窄組織においてアップレギュレートされている
mRNAレベルのアップレギュレーションは,厳密には蛋白質のレベルの増加を示さない。ヒト新脈管内膜においてアップレギュレートされている遺伝子のうち,FKBP12は,TGF−f3シグナリングのレギュレータであり,FK506およびラパマイシン薬剤の標的であるため,特に興味深い。再狭窄の齧歯類モデルにおけるラパマイシンの治療効果(Gallo(1999),Circulation 99:2164−2170)はほとんど理解されていないが,FKBP12の発現レベルの変化と関連しているであろう。FKBP12に特異的な抗体を用いて,頸動脈再狭窄からのヒト再狭窄組織(n=3)および対照組織(n=3)を蛋白質の発現について分析した。図12に示されるように,再狭窄病巣からのSMCの細胞質において,紡錘形状の核により示されるようにFKBP12蛋白質の増加が検出された(図12BおよびD)。一方,健康な中膜の対照SMCではFKBP12は検出できず(図12C),新脈管内膜のSMCでは独特の染色が見られた(図12D)。興味深いことに,特に再狭窄血管の新脈管内膜と健康な中膜との境界領域に存在する平滑筋細胞は高レベルのFKBP12蛋白質を発現していた(図11B)。
【0165】
実施例VI:ヒト再狭窄組織のトランスクリプトームの特徴づけ
インステント再狭窄を有する10人の患者のアテレクトミー標本,10人の患者の血液細胞,11人のドナーの正常冠状動脈標本,および培養ヒト冠状動脈平滑筋細胞において,機能の知られている2,435種類の遺伝子の発現(実施例Vを参照)を調べた。224種類の遺伝子が,新脈管内膜と対照組織との間で高い統計学的有意性(p<0.03)をもって異なるように発現されていた。これらの遺伝子は以下のように分類することができる:(1)新脈管内膜においてのみ発現されている遺伝子;(2)新脈管内膜および増殖平滑筋細胞の両方で発現されている遺伝子;(3)新脈管内膜および血液試料の両方で発現されている遺伝子;および(4)対照組織において発現されているが新脈管内膜においてはほとんど発現されていない遺伝子。ヒト新脈管内膜のトランスクリプトームは,増殖,アポトーシス,炎症,細胞骨格再編成および組織リモデリングに関連する顕著な変化を示した。さらに,新脈管内膜においてインターフェロン−γシグナリングに関与する32種類のアップレギュレートされている遺伝子が同定された。
【0166】
この実験においては,新脈管内膜の10個の標本および静止性内膜/中膜の11個の標本について,機能の知られている2,435種類のヒト遺伝子の発現を分析した。ハウスキーピング遺伝子の発現は,正常組織と再狭窄組織との間でほぼ同等であったが,印象的な数の遺伝子(n=224)は発現レベルの増加または減少を示した。新脈管内膜における遺伝子発現パターンは予期された増殖的応答を示し,主としてG1/S期において発現されている遺伝子が誘導され,平滑筋表現型が収縮から合成SMCに変化し,細胞外マトリクス蛋白質の合成が変化していた。さらに,マクロファージおよびTリンパ球のマーカーの存在により,およびIFNに対する細胞応答における機能が知られている多数の遺伝子の発現により特徴づけられるプロ炎症発現パターンが観察された。IFN−γシグナリングにおける中枢的な転写因子であるIRF−1蛋白質は,ヒト新脈管内膜のSMCにおいて過剰発現していることが見いだされた。
【0167】
この実施例の実験群の患者の臨床的特性は表7に示される。
【0168】
表7.13人の患者の臨床データ
【表17】
Figure 2004508010
【0169】
すべてのアテレクトミー標本は,病巣の減量手術後液体窒素中で急速に冷凍し,上述するようにmRNA調製を実施するまで液体窒素中に保存した。
【0170】
対照群は,5人の患者からの腸の筋性動脈の5個の標本および心臓移植を受けた3人の患者からの冠状動脈の6個の標本から構成された。対照標本は液体窒素中で急速に冷凍した。mRNA調製の前に,動脈の中膜および内膜を調製した。標本の小さい断片(約1mm)を急速に溶解し,残りをアテローム性動脈硬化症的な変化について組織学的に調べた。アテローム性動脈硬化症的な血管形態学の変化が存在しない場合,標本を”健康な”対照試料として用い,上述のようにmRNAおよびcDNA調製を行った。
【0171】
頸動脈(n=3)および大腿(femoralis)動脈(n=3)の新脈管内膜組織は,再狭窄中のアテレクトミーにより調製し,切除した後液体窒素中で急速に冷凍した。冠状動脈(n=3)および再狭窄末梢動脈の新脈管内膜(n=6)からのインステント再狭窄組織の組織学的評価および免疫組織化学のためには,記載されるように,試料を4%パラホルムアルデヒド中で固定し,パラフィン中に包埋した。
【0172】
血液試料は,再狭窄血管の血管再生の直後に得た。8mlの血液試料を回収して35mlのTri Reagent Blood(MBI Fermentas,Germany)中に加え,次に,製造元のプロトコルに記載されるようにRNA調製を実施するまで−80℃で凍結した。血液細胞の1μgの全RNAを1000μlの溶解/結合緩衝液に溶解し,mRNAおよびcDNA合成は上述するように行った。
【0173】
細胞培養は以下のように行った:
初代ヒト冠状動脈平滑筋細胞(CASMC)は,Cell Systems(St.Kathrinen,Germany)から入手し,5%ウシ胎児血清(Cell Systems,St.Kathrinen,Germany)を含む平滑筋細胞成長培地(Cell Systems,St.Kathrinen,Germany)中で37℃で5%COの湿潤雰囲気下で成長させた。実験には2−4継代のCASMCを用いた。増殖しているCASMCのcDNA合成のためには,細胞を氷冷リン酸緩衝化食塩水中で3回洗浄し,次に1x10個の細胞を1000μlの溶解/結合緩衝液中で溶解させた後に,上述するようにmRNAを調製した。
【0174】
遺伝子発現パターンの判定は以下のように行った:
試料mRNAの調製,cDNA合成,PCR増幅およびプローブ標識,cDNAアレイハイブリダイゼーションおよびデータ分析は,上述したように,特に実施例Vに記載されるようにして実施した。得られたcDNAプローブを,機能が知られている合計2,435種類の遺伝子を有するHuman1.2,Cancer1.2,心臓血管およびストレスcDNAアレイ(Clontech,Heidelberg,Germany)にハイブリダイズさせた。cDNAアレイ間では約20%の遺伝子の重複があった。単一の細胞レベル程度の微小ヒト組織試料の分析のためには,本明細書に記載されるcDNA合成およびPCR増幅の新規方法を用いた(実施例I−Vを参照)。
【0175】
アレイデータの定量化は,フィルムをスキャンし,Array visionソフトウエア(Imaging Research Inc.,St.Catharines,Canada)で分析することにより行った。バックグラウンドを差し引き,シグナルを各フィルターに存在する9種類のハウスキーピング遺伝子について標準化した。このことにより,ハウスキーピング遺伝子発現シグナルの平均を1に設定し,バックグラウンドを0に設定した。図1に示される対数表示のためには,値を1000倍した。1つの群のすべての試料の平均で平均値>0.05をポジティブシグナルとみなした。実験群と対照群との間の平均発現レベルが2.5倍以上相違するものについてさらに統計学的に分析した。
【0176】
実験的分析の結果は,実験群の実験した10個の標本または対照群の実験した11の標本の平均発現値として示される。患者群とドナー群との間の相違は,ウイルコキソンテスト(Wilcoxon−test:SPSSバージョン8.0)により分析した。遺伝子は,2つの群の間でウイルコキソンテストにおいてp値が<0.03であり,かつ,1つの実験群で10個の試料中少なくとも5個で異なる発現が観察されるが他の群中では10個のうち0である場合,または1つの群中で10個の試料のうち少なくとも7個で観察されるが,他の群中で10個のうち最大3個である場合にのみ,異なるように発現されているとみなした。
【0177】
免疫組織化学は以下のように実施した:免疫組織化学は,冠状動脈インステント再狭窄からの3つの新脈管内膜標本,大腿動脈からの3つの新脈管内膜標本および頸動脈新脈管内膜標本からの3つの新脈管内膜標本からのパラフィン包埋切片について行った。3μmの連続切片をDAKO Chem Mate(登録商標)キャピラリーギャップ顕微鏡スライド(100μm)上にマウントし,日常的なプロトコルにしたがって,65℃で一夜焼結し,脱パラフィン化し,脱水した。抗原の回収のために,標本をクエン酸緩衝液(10mMol,pH6.0)中で圧力容器中で4分間煮沸した。1%H/メタノールで15分間,内因性ペルオキシダーゼをブロックした。スライドを抗体希釈液(DAKO,Denmark)中4%ドライスキムミルク中でインキュベートすることにより一次抗体の非特異的結合を低下させた。免疫染色は,Dako Chem Mate検出キットHRP/Redウサギ/マウス(DAKO Denmark)を用いて,製造元の説明書にしたがって,ストレプトアビジンペルオキシダーゼ手法により行った。この方法は,DAKO Tech Mate(登録商標)500 Plus自動化染色システム中で行った。平滑筋アクチン(M0635,DAKO,Denmark;1:300),CD3(A0452,DAKO,Denmark;1:80),MAC387(E026,Camon,Germany;1:20)およびIRF−1(sc−497,SantaCruz,U.S.A.)に対する一次抗体は,抗体希釈液で希釈し,室温で1時間インキュベートした。核をヘマトキシリンで対比染色した後,スライドを脱水し,Pertex(Medite,Germany)を用いてカバーグラスをかぶせた。
【0178】
以下の結果が得られた:
(a)ヒト新脈管内膜における遺伝子発現の差異
2,435種のうち合計で1,186種の遺伝子(48.7%)が,新脈管内膜および対照試料を用いたcDNAアレイで20倍の発現レベルの範囲で検出可能なハイブリダイゼーションシグナルを生じた(図13A)。これらのうち,352種の遺伝子(14.5%)は,再狭窄と対照試料との間で2.5倍以上の差で発現しているようであった。しかし,発現レベルは個々の試料によりかなり変動していた(例えば図15を参照)。したがって,統計学的な分析を用いて,実験群と対照群との間で高い有意性をもって異なるように発現されている遺伝子を同定した(方法の節を参照)。このようにして,再狭窄実験群と対照群との間でウイルコキソンテストのp<0.03の有意性で少なくとも2.5倍の差異で発現されている224種の遺伝子(9.6%)を単離した。このうち167種(75%)の遺伝子は再狭窄実験群で対照群と比較して過剰発現しており,56種の遺伝子(25%)は過小発現していた(図13B)。
【0179】
統計学的有意性に加え,発現データの妥当性は,用いた4種類のアレイ上のcDNA要素の20%重複によっても支持された。このようにして,独立したハイブリダイゼーション実験において,実質的な数のハイブリダイゼーションシグナルを二重または三重に決定した。二重の決定の4つの例が図16(上)に示されており,これはすべて高い再現性を示した。ハイブリダイゼーションシグナルをさらに確認するために,異なるように発現されている遺伝子のうち38種を,遺伝子特異的プライマーを用いるcDNA試料のPCR分析用に選択した。38種の遺伝子のうち35種(92%)のハイブリダイゼーションシグナルを遺伝子特異的PCRにより確認することができ,予測されたサイズおよび相対的量のシグナルが得られた(データ示さず)。これらのデータは,用いたcDNAアレイによる方法が,質および感度に関して遺伝子特異的PCRに匹敵することを示す。最後に,新脈管内膜において異常に発現している224種の遺伝子のうち112種類はこれまでに,新脈管内膜,SMC,線維芽細胞,内皮細胞または間葉において発現されていることが文献に記載されている(図14で#で示す)。
【0180】
新脈管内膜発現に関しては,224種の異常に制御されている遺伝子は4個のサブグループに分類された(図14)。グループIは,新脈管内膜で過剰発現され,対照血管,CASMCまたは血液細胞においては高度にもしくは検出可能なように発現されていない62種の遺伝子を含む(図14A)。グループIIは,新脈管内膜とCASMCとで同様に発現されている43遺伝子を含み,これは,新脈管内膜のこの遺伝子クラスターはSMCの増殖に起因するものであることを示唆する(図14B)。グループIIIは,新脈管内膜と血液細胞とで同様に発現されている62種の遺伝子を含み,これは,この遺伝子クラスターが浸潤した血液細胞による新脈管内膜のものに起因するものであることを示唆する(図14C)。この概念は,4つすべての群のうち,群IIIににおいて最も数の多い炎症関連遺伝子が発現されていることにより裏付けられる。最後に,群IVにおいては,56種類の遺伝子が新脈管内膜において対照群と比較してダウンレギュレートされている(図14D)。以下に,新脈管内膜における選択された遺伝子の異常な発現について,その遺伝子機能の文脈で議論する。
【0181】
まとめると,ヒト新脈管内膜において異なるように発現されている以下の遺伝子が検出された:
【表18】
Figure 2004508010
【0182】
【表19】
Figure 2004508010
【0183】
【表20】
Figure 2004508010
【0184】
【表21】
Figure 2004508010
【0185】
【表22】
Figure 2004508010
【0186】
【表23】
Figure 2004508010
【0187】
【表24】
Figure 2004508010
【0188】
【表25】
Figure 2004508010
【0189】
【表26】
Figure 2004508010
【0190】
【表27】
Figure 2004508010
【0191】
【表28】
Figure 2004508010
【0192】
【表29】
Figure 2004508010
【0193】
【表30】
Figure 2004508010
【0194】
【表31】
Figure 2004508010
【0195】
例えば,ヒト新脈管内膜において異なるように発現されている遺伝子のうち17種類が,転写的レギュレータをコードすることが見いだされた。14種類の転写因子のmRNAレベルが新脈管内膜において誘導されており,3種類は発現の低下を示した(図15)。前者の群のいくつかの転写因子は,これまでにSMCの増殖およびアポトーシスと(例えば,HMG−1,E2F1,(RF−1,Fli−1),およびヒト新脈管内膜におけるプロ炎症シグナリングと(例えば,IRF−1,IRF−7およびRelB)と関連づけられている。以下の転写因子がアップレギュレートされていた:E2F1,エストロゲン関連レセプターアルファ,etsドメイン蛋白質elk−3,fli−1オンコジン,HMG−1,インターフェロンレギュレータ因子1,インターフェロンレギュレータ因子7,ISGF3−ガンマ,核レセプター関連1,RELB,転写因子Spi−B,vavオンコジン,v−erbA関連蛋白質,ビタミンD3レセプター。一方,以下の遺伝子がダウンレギュレートされていた:ホメオボックス蛋白質HOXB7,初期成長応答蛋白質1,血清応答因子。
【0196】
Etsファミリーの転写因子の発現に顕著な変化が生じているようである。一方,Spi−B,fli−オンコジン,およびEts−リプレッサーElk−3は,新脈管内膜において誘導され,Ets転写因子Egr−1は抑制されていた(図14および15)。
【0197】
さらに,増殖的応答の制御または媒介に関与する多数の遺伝子が,新脈管内膜と対照群とで異なるように発現されていた。血小板由来成長因子(PDGF)−Aおよびアンジオテンシノーゲン遺伝子(その産物は有糸分裂促進物質としてSMCに作用する)は新脈管内膜においてのみ発現されていた(図14)。アンジオテンシンは,インスリンによりアップレギュレートされ,SMCにおいてPDGF−Aの発現を誘導することが知られている。進行中の増殖のサインとして,細胞サイクルのG1/S移行に伴って発現されることが知られているいくつかの遺伝子が,新脈管内膜においてアップレギュレートされていることが見いだされた。これらには,転写因子E2F1,70−kDa複製蛋白質A,オンコジン産物Pim−1およびゲラニルゲラニルトランスフェラーゼが含まれる。さらに,細胞サイクルのG/S1期およびS期において発現され,ヒト新脈管内膜における進行中の増殖を示す細胞−サイクル制御性ヒストンH4のアップレギュレーションが観察された。
【0198】
新脈管内膜における細胞成長の再プログラミングは,明らかに,新脈管内膜において種々のシグナル伝達経路において機能を有する蛋白質をコードするいくつかの遺伝子,例えば,細胞表面レセプターEDG−1,EDG−4,インスリンレセプターおよびP2Xプリノセプター5,および他のシグナリング蛋白質,例えば,リボソーム蛋白質S6キナーゼ11アルファ1,ファルネシルトランスフェラーゼ,ホスホリパーゼCベータ2,成長因子レセプター結合蛋白質2,および小さいG蛋白質CDC42,RhoG,p21−Rac2およびRalBを誘導する。酵素ファルネシルトランスフェラーゼは,Rasおよびいくつかの他のシグナル伝達G蛋白質の必須の翻訳後脂質化を触媒する。G蛋白質,例えば,p21−Rac2,CDC42およびRhoGは,シグナル伝達経路において中枢的役割を果たし,細胞遊走および細胞増殖につながる。同様に,平滑筋におけるホスホリパーゼCベータ2によるアゴニスト刺激性1,4,5−三リン酸(IP3)産生には,G蛋白質活性化,および活性化Rac,およびp70S6キナーゼの活性化において重要な役割を果たすPi3キナーゼと結合したCdc42が必要である。p70S6キナーゼ(p70S6K)は,成長因子および有糸分裂促進物質に応答して細胞サイクルがG1期に入りS期に進むための重要なレギュレータである。これは,新脈管内膜形成において中枢的役割を果たすことが知られている多数の成長因子関連シグナル伝達経路,例えばアンジオテンシン,エンドセリンおよびPDGFに関与する。p70S6キナーゼのアップレギュレーションと調和して,新脈管内膜におけるFK506結合蛋白質(FKBP)12のmRNAレベル(図14)および蛋白質レベルでの有意なアップレギュレーションが認められた。
【0199】
細胞サイクル進行の阻害剤をコードする多数の遺伝子が休止期の中膜において発現されるが,新脈管内膜においては有意にダウンレギュレートされる(図14)ことが観察された。これらには,CIP1,p16−INK4,メタロチオネイン,TGF−ベータ3,乳房由来成長阻害剤,FrzBおよびGadd45ベータおよびガンマサブユニットが含まれる。
【0200】
さらに,ヒト新脈管内膜においてプロアポトーシス機能を有する蛋白質をコードする遺伝子のアップレギュレーション,例えば,カスパーゼ−1,DAP−1およびAPO−2リガンド,ならびに抗アポソーシス機能を有する蛋白質をコードする遺伝子のアップレギュレーション,例えば,BAG−1,BCL−2−関連蛋白質A1およびトレイルレセプター3(図14)が認められた。
【0201】
最後に,ヒト新脈管内膜トランスクリプトームは,IFN−γシグナリングに関連する32種類の遺伝子のアップレギュレーションを示した(図16)。IFN−γレセプターアルファは新脈管内膜,増殖しているCASMCおよび,より低い程度で血液細胞中で発現していた。一方,IFN−γレセプターベータは主として新脈管内膜標本で発現していた。同様に,Pyk2のアップレギュレーションが観察された。
【0202】
IFN−γにより制御されるカスパーゼ−1,カスパーゼ−8およびDAP−1の遺伝子のアップレギュレーションがヒト新脈管内膜において認められた。しかし,抗アポトーシス蛋白質BAG−1,Pim−1(いずれもIFN−γにより制御される)およびBCL−2−関連蛋白質A1のmRNAもまた対照と比較して新脈管内膜においてアップレギュレートされていた(図14)。
【0203】
炎症応答において機能を有する多数の遺伝子がヒト新脈管内膜において活性化されていることが見いだされた。浸潤性炎症性細胞,例えばマクロファージおよびTリンパ球(例えば,CD11b,CD3)(図14C)または新脈管内膜SMC(例えば,プロスタグランジンG/Hシンターゼ1,ホスホリパーゼA2,熱ショック蛋白質70,C5aアナフィラトキシンレセプター,IFN−レセプター)(図14AおよびB)からは,炎症前遺伝子パターンが得られた。新脈管内膜におけるCD40の選択的発現は注目に値する(図14A)。CD40は最初はB細胞の表面にあると記述されたTNFレセプターファミリーのメンバーである。
【0204】
新脈管内膜において,細胞骨格,細胞外マトリクスおよび細胞接着の以下の変化が認められた:
増殖しているCASMCにおいて新脈管内膜におけるコネキシン43およびサイトケラチン−18のアップレギュレーションが見られたが(図14B,上パネル),デスミンの発現は新脈管内膜において非常に減少していた(図14D,上パネル)。
【0205】
新脈管内膜において異なるコラーゲンサブタイプおよびテナシンの転写が減少していたが(図14D,上パネル),トロンボスポンジン−1およびベルシカンの発現はアップレギュレートされていた(図14B,上パネル)。
【0206】
接着分子,例えばP−セレクチン,ICAM2およびカドヘリン16をコードする多数の遺伝子は,新脈管内膜において高度に発現していることが認められたが,SMC,血液細胞または対照血管では認められなかった(図14A,上パネル)。他の多くの接着分子は,新脈管内膜,培養SMC(図14B)および血液細胞(図14C)において同様に発現されていた。新脈管内膜は,動脈の中膜/内膜で通常発現されているある種の接着分子,例えばインテグリンa7B,a3またはMUC18の発現をダウンレギュレートするようである。
【0207】
実施例Vll:IFN−γシグナリング経路においてアップレギュレートされている遺伝子
上述したように,インステント再狭窄を有する10人の患者のアテレクトミー標本,10人の患者の血液細胞,11人のドナーからの正常冠状動脈標本および培養ヒト冠状動脈平滑筋細胞における機能既知の2,435種類の遺伝子の発現を調べ,新脈管内膜と対照組織との間で高い統計学的有意差(p<0.03)をもって異なるように発現されていた224種類の遺伝子を同定した。特に,インターフェロン−γシグナリングに関連する32種のアップレギュレートされた遺伝子が新脈管内膜において同定された。
【0208】
IFN−γレセプターアルファは,新脈管内膜,増殖CASMC,およびより程度は低いが血液細胞において発現されていた。これに対し,IFN−γレセプターベータは主として新脈管内膜の標本において発現されていた。
【0209】
IFN−γは,αおよびβレセプター鎖を含有する高親和性レセプターを介してシグナルを伝える。興味深いことに,TH1細胞は,レセプターの修飾を用いてIFN−γ−耐性状態を達成する(Pernis,Science269(1995),245−247)。タイプ1およびタイプ2Tヘルパー細胞のIFN−γシグナリング経路の活性化におけるサブタイプ特異的相違は,タイプ1T細胞におけるIFNγレセプターβの欠失のためである。したがって,ここに提供されるデータは,両方の鎖を含有する高親和性IFN−γレセプターが主として新脈管内膜の平滑筋細胞において発現されることを主張するであろう。
【0210】
IFN−シグナリングの活性化と一致して,新脈管内膜においてIFNシグナリングに必須の2つの転写因子:IRF−1およびISGF3γ(p48)のアップレギュレーションが見いだされた。これらの転写因子は,IFN−γにより転写的にアップレギュレートされることが知られており(Der,Proc.Natl.Acad.Sci.95(1998),15623−15628),いずれもIFN−γシグナリングにおいて鍵となる役割を果たす(Matsumoto,Biol.Chem.380(1999),699−703;Kimuar,Genes Cells1(1996),115−124;Kirchhoff,Nucleic Acids Res.21(1993),2881−2889;Kano,Biochem.Biophys.Res.Commun.257(1999),672−677)。同様に,チロシンキナーゼPyk2のアップレギュレーションが認められた。これはSMCにおいてアンジオテンシンによるシグナル伝達に役割を果たすことが知られている(Sabri,Circ.Res.83(1998),841−851)。Pyk2はIFN−γにより選択的に活性化され,NIH3T3細胞においてPyk2を阻害すると,MAPKおよびSTAT1のIFN−γ誘導性活性化が強く阻害される(Takaoka,EMBO J.18(1999),2480−2488)。
【0211】
IFN−γ誘導性成長阻害およびアポトーシスにおいて鍵となる事象はカスパーゼの誘導である(Dai,Blood 93(1999),3309−3316)。IRF−1が血管SMCにおいてカスパーゼ−1の発現を誘導し,アポトーシスにつながること(Horiuchi,Hypertension 33(1999),162−166),およびアテローム性動脈硬化症においてアポトーシス性SMCおよびマクロファージがカスパーゼ−1とともに局在すること(Geng,Am.J.Pathol.147(1995),251−266)が示されている。この実験においては,ヒト新脈管内膜において,カスパーゼ−1のIFN−γ制御性遺伝子であるカスパーゼ−8およびDAP1のアップレギュレーションが見いだされた。しかし,抗アポトーシス蛋白質であるBAG−1,Pim−1(いずれもIFN−γにより制御される)およびBCL−2−関連蛋白質A1のmRNAもまた,新脈管内膜において対照と比較してアップレギュレートされた(図16)。このことは,ヒト新脈管内膜においては増殖およびアポトーシスが同時に生じ,増殖が優勢であるという概念を支持する。
【0212】
その産物が新脈管内膜プロセスの異なる工程において作用する遺伝子の協調的制御は,我々の遺伝子発現分析の繰り返しのテーマであった。IFN−γ経路に関しては,完全なレセプター,主な転写因子,シグナル伝達経路の構成成分(Dap−1,BAG−1,Pim−1,IFN−γ−誘導性蛋白質,IFN−誘導性蛋白質9−27)の遺伝子のみならず,IFN−γ経路のいくつかの標的遺伝子,例えばCD40,CD13およびトロンボスポンジン−1も誘導される(図16)。
【0213】
IFN−γ制御性遺伝子のクラスターは新脈管内膜標本において発現されていたが,関連性のある遺伝子のいくつか,例えばIRF−1は血液試料においても発現されていた。IFN−γにより制御されるパターンに主として起因する細胞タイプを識別するために,冠状インステント再狭窄(n=3)および末梢動脈の再狭窄(n=6)からの新脈管内膜標本の凍結切片をIRF−1に特異的な抗体で染色した。この蛋白質は,IFN−γシグナル伝達経路に必須であり(Kimura,上掲),クラスター中の他の遺伝子と協調的に発現されるために選択した(図16)。免疫組織化学分析は,頸動脈再狭窄(図17)および冠状インステント再狭窄(図18)の新脈管内膜SMCにおいて,紡錘形状の核および平滑筋細胞マーカーであるアルファ−アクチンによる染色により示されるように(図18),IRF−1の強い核および細胞質染色を示した。インステント再狭窄におけるIRF−1の核染色(図18)は,IRF−1転写因子もまた活性化されていることを示した。頸動脈動脈の対照中膜のSMCはIRF−1染色を示さなかった(図17)。CD3−ポジティブ細胞の量は,標本(図18)においてSMC(図18)よりはるかに少なく,このことは,SMCがヒト新脈管内膜において主としてIRF−1発現の増加に寄与していることを示す。
【0214】
ヒトアテローム性動脈硬化症の病巣におけるIFN−γの存在はよく確立されている(Ross,N.Engl.J.Med.340(1999),115−126)が,その役割はまだ不明である。IFN−γはインビトロでSMCにおいて増殖を阻害しアポトーシスを誘導するが(Horiuchi,上掲;Warner,J.Clin.Invest83(1989),1174−1182),IFN−γが存在しないと,アテローム性および移植性動脈硬化症のマウスモデルにおいて内膜過形成が減少する(Gupta,J.Clin.Invest99(1997),2752−2761;Raisanen−Sokolowski,Am.J.Pathol.152(1998),359−365)。この知見と一致して,ブタおよびヒト動脈組織においてIFN−γが白血球の非存在下で免疫不全マウスの大動脈内への白血球の挿入により動脈硬化症を誘導することが示された(Tellides,Nature403(2000),207−211)。
【0215】
インステント再狭窄の新脈管内膜における浸潤Tリンパ球の役割はまだ調べられていない。本研究においては,4個の新脈管内膜試料のうち3個において免疫生化学者によりCD3−ポジティブ細胞が検出されることが示され(図18を参照),10個の新脈管内膜標本のうち7個においてcDNAアレイ上でCD3特異的ハイブリダイゼーションシグナルが得られた(図18)。いずれの方法により調べた場合でも,CD3についてネガティブの試料においても,IFN−γ−関連発現パターンが認められ,このことは,サイトカインが広範囲のT細胞浸潤を必要とせずにある距離を越えてパラクライン様式で新脈管内膜に作用しうることを示唆する。T細胞およびプロ炎症サイトカインIFN−γはアテローム性動脈硬化症において重要な役割を果たすことが知られているが(Ross,上掲),新脈管内膜の発達におけるこれらの役割はほとんど研究されていない。本発明により提供されるデータは,新脈管内膜過形成の病態生理学におけるIFN−γの重要な役割を示唆する。
【0216】
実施例VIII:代用細胞株の調製
病理学的に変更されている細胞および/または組織用の代用細胞株は,以下の工程により調製することができる:
a)患部組織のトランスクリプトーム/遺伝子発現パターンの明確化:
患部組織の顕微鏡標本は,アテレクトミー,減量手術,生検,患部組織のレーザー切除または患部組織の肉眼手術による切開のいずれかにより得ることができる。顕微鏡標本は,試料のトランスクリプトームのインビボの状態を保存するために,入手後速やかに液体窒素中で凍結し,mRNA調製を行うまで液体窒素中に保存する。
【0217】
そのような試料の細胞は特定の組の遺伝子を発現し,これは種々の濃度で生ずる特定のmRNA分子の存在により反映される。所与の臨床試料におけるmRNA分子全体およびその相対的量はトランスクリプトームと称される。患部組織のトランスクリプトームは健康な組織とは異なることが予測される。この相違は,組織の疾病状態を引き起こし,これを維持しまたはこれを示すことに関与する遺伝子のアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた発現と関連する。トランスクリプトームの分析は,典型的には特定のアレイがもつcDNA要素の数により制限される。
【0218】
mRNA調製および増幅は,本発明の方法にしたがって実施し,上述されている。
【0219】
特に,患部組織の顕微鏡標本は,急速に冷凍し,上述するようにmRNA調製およびcDNA合成を行うまで液体窒素中に保存する。RNA調製の方法にしたがって,凍結組織を液体窒素中ですりつぶし,凍結粉体を溶解緩衝液中に溶解する。溶解物を10,000gで4℃で5分間遠心分離して,細胞破片を除去する。RNAは,以下に記載されるように,全RNAとしてまたはmRNAとして調製することができる:(Schena,Science270(1995),467−470),Current Protocols,ClontechのAtlas cDNA発現アレイのマニュアル,(Spirin,invest.Ophtalmol.Vis.Sci.40(1999),3108−3115),(Chee,Science274(1996),610−614;Alon,Proc.Natl.Acad.Sci.96(1999),6745−6750;Fidanza,Nucleosides Nucleotides 18(1999),1293−1295;Mahadevappa,Nat.Biotechnol.17(1999),1134−1136;AffymetrixアレイについてのLipshutz,Nat.Genet.21(1999),20−24),またはQiagen。
【0220】
cDNAの調製および標識は,ClontechまたはAffymetrixのアレイハイブリダイゼーションキット用のユーザーマニュアルに記載されるように,または文献(Spirin,上掲;Chee,上掲;Alon,上掲;Fidanza,上掲;Mahadevappa,上掲;Lipshutz,上掲)に記載されるように行うことができる。さらに,増幅したcDNAを用いることができる。cDNA増幅物の調製および増幅したcDNAの標識は,上述したように,またはSpirin(上掲)に記載されるように行うことができる。
【0221】
入手し標識したcDNAは,ハイブリダイゼーションアッセイにおいて用いることができる。標識cDNAのハイブリダイゼーションおよびデータ分析は,Clontech Atlas(登録商標)cDNA発現アレイからのユーザーマニュアル,またはAffymetrixの製造元のマニュアルに記載されるような,または(Spirin,上掲;Chee,上掲;Alon,上掲;Fidanza,上掲;Mahadevappa,上掲;Lipshutz,上掲)に記載されるような条件下で行うことができる。
【0222】
b)対照組織のトランスクリプトーム/遺伝子発現パターンの明確化
疾病特異的遺伝子発現パターンを同定するために,患部組織の遺伝子発現パターンを健康なドナーからの対照材料と比較することができる。アテレクトミー材料の場合には,これは健康な媒体および弾力のない,例えば筋の動脈の内膜でありうる。心筋生検または腎臓生検の場合には,手術の間に回収された健康な対照組織を用いることができる。さらに,隣接する影響を受けていない組織の細胞または浸潤細胞,例えば血液細胞の遺伝子発現パターンを分析することができる。細胞マーカー蛋白質に対する抗体を用いる免疫組織化学的分析による組織の細胞の特性決定に基づいて,同じタイプの培養ヒト細胞株からトランスクリプトームを判定することができる。(例:動脈は平滑筋細胞および内皮細胞についてポジティブに染色される;したがって,培養ヒト平滑筋細胞および内皮細胞からトランスクリプトームを得る)。
【0223】
mRNAの調製および増幅は,上述するように,および本発明の方法にしたがって実施することができる。得られた(標識された)cDNAは,上述するようにハイブリダイゼーションアッセイにおいて使用することができる。
【0224】
c)疾病特異的遺伝子の関連性のある組の決定
疾病特異的遺伝子発現パターンを決定するために,最初に患部組織の遺伝子発現パターンを健康な対照組織の遺伝子発現パターンと比較しなければならない。比較のためには,十分な数の疾病標本(例えば10個)と同じ数の対照標本の平均発現値を比較すべきである。2つの群の発現比が2.5倍より高い遺伝子について,1つの群におけるその相対的発現について分析すべきである:すなわち,1つの群において5/10より高いポジティブがあり,他の群において0/10である場合,または1つの群において少なくとも7/10であり,他の群において最大で3/10ポジティブである場合。さらに,これらのデータを統計学的に分析して,SPSS8.0のマニュアルに記載されるようなウイルコキソンテストでp<0.05である遺伝子を明らかにすべきである。
【0225】
2.5倍の顕著な過剰または過小発現に基づいて選択された遺伝子は,患部組織において異常に制御されているか,または疾病関連遺伝子であるとみなされる。次に,疾病関連遺伝子をコードする蛋白質の機能にしたがって分類する。例えば,シグナリング経路の蛋白質,サイトカイン,ケモカイン,ホルモン,それらのレセプター,浸潤細胞に特異的な蛋白質,または細胞外マトリクス,細胞接着,遊走,細胞分裂,細胞サイクル休止に関与する蛋白質をコードする遺伝子等である。同様に,公表されているESTデータベースから入手可能な遺伝子のような,機能が知られていない遺伝子は,疾病に関連するとして識別することができる。
【0226】
d)患部組織に最も似たトランスクリプトームを有する細胞株のスクリーニング 疾病遺伝子の発現を制御しうる可能性のある薬剤は,化学物質または生物学的物質の大きなライブラリをスクリーニングすることにより発見することができる。そのような薬剤を同定するために,患部組織のトランスクリプトームを忠実に反映するスクリーニング細胞株が入手可能でなければならず,これは包括的薬剤スクリーニングを行うために大量に入手可能である。さらに,薬剤候補物がどのようにして患部組織のトランスクリプトームの特徴を有する細胞株のトランスクリプトームを変化させるかについての情報が必要である。この情報は健康な対照組織のトランスクリプトームから得られる。薬剤は,”健康な”トランスクリプトームの特徴を再び確立することができるはずである。
【0227】
患部組織の細胞起源と最も類似するヒト細胞株,例えば,アテレクトミーに対しては冠状動脈平滑筋細胞,肝臓疾病に対してはHepG2細胞,腎臓疾病に対しては腎臓細胞,または心筋疾病に対しては心臓筋芽細胞を用いるべきである。細胞は,製造元のマニュアル,例えばATCCからのマニュアルに記載されているように,標準的な条件下で成長させるべきである。
【0228】
トランスクリプトーム分析/遺伝子発現パターン分析は,疾病組織および対照組織について記載されるように実施することができ,遺伝子発現パターンを疾病組織および健康な組織の遺伝子発現パターンと比較すべきである。代用物スクリーニング細胞株を生成するためには,疾病状態のトランスクリプトームに最も類似するトランスクリプトームを示す細胞株を選択すべきである。
【0229】
e)疾病状態トランスクリプトーム/遺伝子発現パターンを模倣するための細胞 株の適合化
患部組織のための代用物スクリーニング細胞株を作成するために,選択された細胞株のトランスクリプトームを患部組織のトランスクリプトームに適合させることが必要であろう。これは,1つには,細胞株を患部組織の遺伝子発現パターンに重要な役割を果たすことが示されている化合物,例えば,サイトカインまたはホルモンとともにインキュベートすることにより行うことができる。同様に,そのような化合物は,インターフェロン−ガンマの役割の証拠が得られた新脈管内膜の例に見られるように,患部組織のトランスクリプトーム分析により同定することができる。スクリーニング細胞株は,疾病に関連性を有する化合物を加える代わりに,疾病の病態生理学に関連する他の種類の細胞と共培養することにより条件づけてもよい。そのような細胞は,例えば,炎症細胞,例えば患部組織中に移動し,放出因子または細胞−細胞接触により疾病特異的遺伝子発現パターンに寄与するマクロファージまたはT細胞であってもよい。いずれの場合も,代用細胞株のトランスクリプトーム分析疾病特異的発現パターンを生ずるための最適な添加を識別しなければならない。
【0230】
代用細胞株のトランスクリプトームを疾病状態に適合させるために用いることができる化合物には,サイトカイン,成長因子,小分子化合物(薬剤),またはペプチドおよびペプチド模倣体が含まれる。そのような適合に用いることができる細胞株には,ヒト単球細胞株,例えばU937,THP−1またはMonomac−6,またはヒトT−細胞株,例えばJurkatが含まれる。
【0231】
薬剤スクリーニングのために,代用細胞株を疾病トランスクリプトームにきわめて近い状態にする共培養/処置条件を選択する。
【0232】
以下の特定の実施例は代用物の製造を記述する。特に,再狭窄組織の代用細胞(株)は,以下の工程により調製する:
【0233】
a)インステント再狭窄組織の入手
患者
インステント再狭窄実験群は,一次ステント移植の4−23か月後に再び狭窄したステント中でX−サイザーによる別々のアテレクトミー法を受けた13人の患者から構成されるものであった。すべての患者はこの方法についてのインフォームドコンセントを受け,術前に15,000単位のヘパリンを投与し,次に標準的な療法としてシートを除去した後の最初の12時間1,000単位/時間の静脈内ヘパリンを注入した。すべての患者に焼灼(catherisation)前にアスピリン500mgを静脈内投与し,術後の抗トロンビン療法は実験の全体を通してチクロピジン(250mgbds)およびアスピリン(100mgbds)からなるものであった。
【0234】
試料調製
アテレクトミー標本は,病巣の減量手術後に液体窒素中で急速に凍結し,記載されるようにmRNA調製を行うまで液体窒素中に保存した。冠状動脈からのインステント再狭窄組織(n=3)の組織学および免疫組織化学のためには,試料を4%パラホルムアルデヒド中で固定し,記載されるようにパラフィン中に包埋した。
【0235】
再狭窄組織の形態学的特徴付け
免疫組織化学は,細胞タイピングのためには冠状動脈インステント再狭窄からの3つの新脈管内膜標本のパラフィン包埋切片について,FKBP12の検出のためには頸動脈再狭窄からの4つの新脈管内膜標本の凍結切片について行った。3μmの連続切片をDAKO Chem Mate(登録商標)キャピラリーギャップ顕微鏡スライド(100μm)上にマウントし,標準的プロトコルにしたがって,65℃で一夜焼結し,脱パラフィン化し,脱水した。抗原の回収のためには,標本をクエン酸緩衝液(10mM,pH6.0)中で圧力釜中で4分間煮沸した。内在性ペルオキシダーゼは,1%H/メタノールで15分間でブロッキングした。一次抗体の非特異的結合は,スライドを抗体希釈液中4%乾燥スキムミルク(DAKO,Denmark)とともにプレインキュベートすることにより低下させた。免疫染色は,ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ手法により,Chem Mate検出キットHRP/Redラビット/マウス(DAKO,Denmark)を用いて,製造元の記載にしたがって行った。この方法は,DAKO Tech Mate(登録商標)500Plus自動化染色システム中で行った。
【0236】
平滑筋アクチン(M0635,DAKO,Denmark;1:300),CD3(A0452,DAKO,Denmark;1:80),MAC387(E026,Camon,Germany;1:20)およびFKBP12(SA−218,Biomol,Germany,1:20)に対する一次抗体を抗体希釈液中で希釈し,室温で1時間インキュベートした。核をヘマトキシリンで対比染色した後,スライドを脱水し,Pertex(Medite,Germany)でカバースリップを行った。
【0237】
減量手術インステント再狭窄材料の細胞組成
新脈管内膜の過形成のx−サイザー処理から得られる代表的試料を,その細胞組成を決定するために免疫組織化学により分析した。図7Aは,減量手術再狭窄材料の小さい試料から切り出された切除された切片のファンゲッソン染色を示す。この染色法を用いると,コラーゲン繊維は赤色に染色され,フィブリンは黄色に染色され,平滑筋細胞の細胞質は暗黄茶色に染色される。減量手術材料の体積の大部分はゆるい細胞外マトリクス様コラーゲン繊維から構成され,明るい赤色に染色された。黄色いフィブリン染色はほとんど検出できなかった。紡錘形状の核および黄色/茶色に染色された細胞質を有する細胞の割合が多かった。これらが平滑筋細胞であるということ,および再狭窄材料に大量に存在することは,平滑筋α−アクチンに対する抗体を用いる免疫染色により裏付けられた(図7B)。ここでは,遺伝子発現分析に用いた全標本からの切片の染色パターンが示されている。以下に記載されるように,そのような試料はまた,強い平滑筋特異的α−アクチンmRNAシグナルを生じた(図8を参照)。これらの結果は,新脈管内膜において見いだされる主な細胞タイプは平滑筋細胞に由来するものであることを示す先の実験からの知見を裏付ける(Kearney,Circulation 95(1997),1998−2002;Komatsu,Circulation 98(1998),224−233;Strauss,J.Am.Coll.Cardio.20(1992),1465−1473)。文献(Kearney,上掲;Komatsu,上掲;Strauss,上掲)に記載されるように,減量した再狭窄組織標本のある領域では単核浸潤物も同定することができた。これらの浸潤物は主としてマクロファージから構成されており,より低い程度でt−リンパ球が存在した。再狭窄組織においては,CD20に対する抗体を用いる免疫組織化学染色ではb−リンパ球は検出できなかった。
【0238】
b)再狭窄材料のトランスクリプトーム分析
新脈管内膜のトランスクリプトーム分析は,上述のmRNA増幅の方法を用いて行った。
【0239】
mRNA調製
顕微鏡標本患部組織は急速冷凍し,mRNA調製およびcDNA合成を行うまで液体窒素中に保存した。凍結組織を液体窒素中ですりつぶし,凍結粉体を溶解/結合緩衝液(100mMTris−HCI,pH7.5,500mMLiCl,10mMEDTA,pH8.0,1%LiDS,5mMジチオスレイトール(DTT))に溶解し,完全に溶解するまでホモジナイズした。溶解物を4℃で10,000gで5分間遠心分離して細胞破片を除去した。mRNAはDynbeads(登録商標);mRNA Direct Kit(登録商標)(Dynal,Germany)を用いて,製造元の指針にしたがって調製した。簡単には,溶解物を1試料あたり50μLの予め洗浄したDynabeads Oligo(dT)25に加え,混合器上で4℃で30分間回転させることによりmRNAをアニーリングさせた。上清を除去し,Dynabeads Oligo(dT)25/mRNA複合体をIgepal(50mMTris−HCI,pH8.0,75mMKCl,10mMDTT,025%Igepal)を含有する洗浄緩衝液で2回,Tween−20(50mMTris−HCI,pH8.0,75mMKCl,10mMDTT,0.5%Tween−20)を含有する洗浄緩衝液で1回洗浄した。
【0240】
増幅したcDNAの調製
cDNAは,Klein et al.(C.Kleinetal.)の方法を用いてPCRにより増幅する。第1鎖cDNA合成は固相cDNA合成として行う。逆転写反応にはヘキサヌクレオチドプライマーによりランダムプライミングを用いる。mRNAはそれぞれ,1x第1鎖緩衝液(Gibco),0.01MDTT(Gibco),0.25%lgepal,50μMのCFL5c−プライマー[5’−(CCC)GTCTAGA(NNN)−3’],0.5mMの各dNTP(MBI Fermentas)および200UのSuperscriptII(Gibco)を含む20μLの反応容量中で逆転写し,44℃で45分間インキュベートする。続くテイリング反応は,4mMMgCl,0.1mMDTT,0.2mMdGTP,10mMKHPOおよび10Uのターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(MBI Fermentas)を含む10μLの反応容量中で行う。混合物は37℃で24分間インキュベートする。
【0241】
cDNAは,1x緩衝液1(Expand(登録商標)ロングテンプレートPCRキット,Boehringer Mannheim),3%脱イオン化ホルムアミド,120μMのCP2−プライマー[5’−TCAGAATTCATG(CCC)−3’],350μMdNTPおよび4.5UDNA−ポリメラーゼミックス(Expand(登録商標)ロングテンプレートPCRキット,Roche Diagnostics,Mannhein)を含む50μLの反応容量中でPCRにより増幅する。PCR反応は,以下のサイクルパラメータで20サイクル行う:94℃,15秒間,65℃,0:30分間,68℃,2分間;さらに,以下の20サイクル:1サイクルにつき,94℃,15秒間,65℃,30秒間,68℃,2:30+0:10分間;68℃,7分間;その後4℃。
【0242】
微小ヒト組織試料における特定の遺伝子の発現
インシトゥーのmRNAレベルを最適に保存するため,再狭窄および対照標本は,採取した後液体窒素中で速やかに凍結し,材料および方法において記載したように注意深く溶解した。合成したcDNAをPCR増幅した後,増幅したcDNAの量をドットブロットアッセイにより測定したところ,200−300ng/μlであった。それぞれの増幅したcDNA試料の質を,β−アクチン,平滑筋細胞α−アクチンおよび偏在的な伸長因子EF1αのcDNAを検出するプライマーを用いる遺伝子特異的PCRにより試験した。図8は,患者Bからの材料およびドナーbからの対照中膜を用いた代表的な結果を示す。いずれの標本においても,ハウスキーピング遺伝子であるβ−アクチンおよびEF−1αからの正しいサイズのPCRシグナルが同じ量で検出可能であった(レーン1および2とレーン4および5を比較)。さらに,各標本から平滑筋細胞のマーカーとしてのα−アクチンシグナルが得られた(レーン3および6)。これらの結果は,微小なヒト再狭窄試料を用いてmRNA調製,cDNA合成およびcDNAのPCR増幅が実行可能であることを示す。
【0243】
cDNAプローブのDig−dUTP標識
約25ngの各cDNAを,PCRの間にジゴキシゲニン−11−dUTP(Dig−dUTP)(Roche Diagnostics)で標識する。PCRは,1xPuffer1,120pMCP2プライマー,3%脱イオン化ホルムアミド,300μMdTTP,350μMdATP,350μMdGTP,350μMdCTP,50μMDig−dUTP,4.5U DNA−ポリメラーゼミックスを含む50uL反応中で行う。サイクルパラメータは以下のとおりである:1サイクル:94℃で2分間;15サイクル:94℃で15秒間,63℃で15秒間,68℃で2分間;10サイクル:94℃で15秒間,68℃で3分間+5秒間/サイクル;1サイクル:68℃で7分間,その後4℃。
【0244】
dUTP−標識cDNAプローブを用いるClontechc DNAアレイのハイブリダイゼーション
cDNAアレイは,50mg/LのDNAsel(Roche Diagnostics)消化ゲノムE.coli DNA,50mg/L pBluescriptプラスミドDNAおよび15mg/Lニシン精子DNA(Life Technologies)を含むDig EASY Hyb溶液(Roche Diagnostics)中で44℃で12時間プレハイブリダイズさせて,膜上の非特異的核酸結合部位をブロッキングすることによりバックグラウンドを低下させる。ハイブリダイゼーション溶液を,癌,心臓血管およびストレス応答に関連する選択された遺伝子を有する市販のcDNAアレイ(Clontech)にハイブリダイズさせる。各cDNAテンプレートを変性させ,5μg/mlのDig−dUTP−標識cDNAの濃度でプレハイブリダイゼーション溶液に加える。ハイブリダイゼーションは44℃で48時間行った。
【0245】
次にブロットを68℃で2xSSC/0.1%SDS中で1回,1xSSC/0.1%SDS中で1回すすぎ,次に68℃で0.5xSSC/0.1%SDS中で15分間で1回,0.1xSSC/0.1%SDS中で30分間で2回洗浄する。アレイにハイブリダイズしたDig標識cDNAを検出するためには,Dig化学発光検出キット(Boehringer,Mannheim)をユーザーマニュアルに記載されるように用いた。化学発光シグナルを検出するためには,アレイを化学発光フィルムに室温で30分間暴露する。アレイデータの定量化は,フィルムをスキャンし,array visionソフトウエア(Imaging Research Inc.,St.Catharines,Canada)を用いて分析することにより行った。バックグラウンドを差し引き,シグナルを各フィルター上に存在する9種類のハウスキーピング遺伝子に対して標準化して,ハウスキーピング遺伝子発現シグナルの平均を1と設定し,バックグラウンドを0と設定した。
【0246】
それぞれの標識したプローブを3種類の異なる市販のcDNAアレイにハイブリダイズさせることにより,合計2,435種類の既知の遺伝子の発現を分析した。図9は,患者Bの再狭窄組織(パネルA)およびドナーbの中膜(パネルB)から調製したプローブを用いて1つのアレイで得られた代表的ハイブリダイゼーションパターンを示す。図8に示される遺伝子特異的分析と一致して,アレイの右および下のレーンにスポットしたヒトゲノムcDNAの陽性対照および種々のハウスキーピング遺伝子のcDNAスポットで,匹敵するハイブリダイゼーションシグナルが得られた(例えばスポットDを参照)。cDNA合成およびPCR増幅反応において生物学的標本を加えないと,ハイブリダイゼーションシグナルはほとんど得られなかった(図9,パネルC)。このことは,ハイブリダイゼーションシグナルが,ほぼ加えた試料にのみ由来するものであり,用いた試薬または材料におけるDNA夾雑物からのものではないことを示す。
【0247】
データ分析
アレイデータは,フィルムをスキャンし,array visionソフトウエアを用いて分析することにより定量化した(Imaging Research Inc.,St.Catharines,Canada)。バックグラウンドを差し引き,シグナルを各フィルター上に存在する9種類のハウスキーピング遺伝子に対して標準化して,ハウスキーピング遺伝子発現シグナルの平均を1と設定し,バックグラウンドを0と設定した。図13Aおよび13Bに示される対数表示のためには,値を1000倍した。1つの群のすべての試料の平均で平均値>0,05をポジティブシグナルとみなした。被検群と対照群との間の平均発現レベルの>2.5倍の相違を有するものをさらに統計学的に分析した。
【0248】
c)対照組織の選択
新脈管内膜の主な細胞成分は平滑筋細胞からなるため,健康な冠状動脈の中膜および中膜/内膜を採取するか,または冠状動脈は非弾性であるが筋性動脈に属するため,筋性動脈を対照組織とした。対照群は,心臓移植を行った3人の異なる患者からの冠状動脈からの6個の標本から構成された。さらに,冠状動脈は組織学的に筋性動脈に属するため,5人の異なる患者からの胃腸管の筋性動脈の5個の標本を対照とした。対照標本は液体窒素中で急速に凍結した。mRNA調製の前に,対照動脈の中膜および内膜を調製し,免疫組織化学によりアテローム性動脈硬化症的変化を調べた。血管形態のアテローム性動脈硬化症的変化がない場合,標本(約1x1mm)を健康な対照試料として用いて,新脈管内膜組織について上述したようにmRNAおよびcDNA調製およびトランスクリプトーム分析を行った。
【0249】
d)新脈管内膜特異的遺伝子発現プロファイルの明確化
新脈管内膜および対照試料を用いるcDNAアレイで20倍の範囲の発現レベルで,2,435種類のうち合計で1,186種類の遺伝子(48.7%)から検出可能なハイブリダイゼーションシグナルが得られた(図13A)。このうち352種類の遺伝子(14.5%)は,再狭窄試料と対照試料との間で>2.5倍異なるように発現されているようであった。しかし,発現レベルは個々の試料により著しく変動していた(例えば図9を参照)。したがって,被検群と対照群とで高い有意性(上述を参照)をもって異なるように発現されている遺伝子を同定するために,統計学的な分析を用いた。このようにして,再狭窄被検群と対照群との間で,ウイルコキソン試験でp<0.03の有意性で少なくとも2.5倍異なるように発現されていた224種類の遺伝子(9.6%)が同定された。このうち,167種類(75%)の遺伝子は再狭窄被検群において対照群と比較して過剰発現されていることが認められ,56種類の遺伝子(25%)は過小発現していた(図13B)。
【0250】
e)代用細胞株の選択
ヒト新脈管内膜は異種の細胞集団から構成される。したがって,新脈管内膜で見いだされる特異な統計学的に意味のある遺伝子発現パターンを,患者の末梢血液細胞および培養ヒトCASMC,すなわち,再狭窄組織において最もしばしば見いだされる細胞に最終的に起因するパターンと関連づけることを試みた(Komatsu,上掲)。新脈管内膜発現に関して,224種類の異常に制御されている遺伝子は4個のサブグループに分類された(図14)。
【0251】
群Iには,新脈管内膜において過剰発現され,対照組織,CASMCまたは血液細胞においては高くもしくは検出しうるように発現されていなかった62の遺伝子が含まれる(図14A)。群IIには,新脈管内膜およびCASMCにおいて同様に発現されており,新脈管内膜におけるこの遺伝子クラスターが増殖しているSMCに起因するものであることが示唆される43の遺伝子が含まれる(図5B)。群IIIには,新脈管内膜および血液細胞において同様に発現されており,この遺伝子クラスターが浸潤血液細胞に起因する新脈管内膜のものに起因することが示唆される62の遺伝子が含まれる(図14C)。この概念は,4つすべての群のうち炎症に関連する最大数の遺伝子が群IIIで発現していることにより裏付けられる。最後に,群IVには,新脈管内膜において対照群と比較してダウンレギュレートされている56の遺伝子が含まれる(図14D)。
【0252】
新脈管内膜におけるγ−IFN関連遺伝子のアップレギュレーション
ヒト新脈管内膜トランスクリプトームの驚くべき特徴は,IFN−γシグナリングに関連する32種の遺伝子が見かけ上調和してアップレギュレートされていることであった(図16)。IFN−γレセプターアルファは,新脈管内膜,増殖しているCASMC,およびより低い程度で血液細胞において発現されていた。一方,IFN−γレセプターベータは主として新脈管内膜標本で発現されていた。IFN−シグナリングの活性化と一致して,新脈管内膜における2つの転写因子のアップレギュレーションが見いだされた。これらは,IFNシグナリングに必須のIRF−1およびISGF3γ(p48)である(図14,15,16)。これらの転写因子は,IFN−γにより転写的にアップレギュレートされることが知られており,いずれもIFN−シグナリングにおけるキープレイヤーである。同様に,チロシンキナーゼPyk2のアップレギュレーションが観察された(図16)。これは,SMCにおいてアンジオテンシンによるシグナル伝達に役割を果たすことが知られている(Sabri,Circ.Res.83(1998),841−851)。Pyk2は,IFN−γにより選択的に活性化され,NIH3T3細胞においてはPyk2を阻害するとMAPKおよびSTAT1のIFN−γ誘導性活性化が強く阻害される。IFN−γ誘導性成長阻害およびアポトーシスにおける鍵となる事象は,カスパーゼの誘導である(Dai,Blood 93(1999),3309−3316)。本明細書においては,ヒト新脈管内膜における,カスパーゼ−1,カスパーゼ−8およびDAP−1についてIFN−γ制御遺伝子のアップレギュレーションの分析が示される。しかし,抗アポトーシス蛋白質BAG−1,Pim−1(いずれもIFN−γにより制御される)およびBCL−2関連蛋白質A1のmRNAもまた,新脈管内膜において対照と比較してアップレギュレートされていた(図16)。このことは,ヒト新脈管内膜においては増殖およびアポトーシスが同時に生じ,増殖が優位であるという概念を支持する。
【0253】
その産物が新脈管内膜プロセスにおいて異なる工程で作用する遺伝子の調和した制御は,我々の遺伝子発現分析の繰り返し発生するテーマであった。IFN−γ経路に関しては,完全なレセプター,主要な転写因子,シグナル伝達経路の成分(Dap1,BAG−1,Pim−1,IFN−γ誘導可能蛋白質,IFN−誘導可能蛋白質9−27)の遺伝子のみならず,IFN−γ経路のいくつかの標的遺伝子,例えば,CD40,CD13およびトロンボスポンジン−1が誘導された(図16)。
【0254】
IFN−γにより制御される遺伝子クラスターは,新脈管内膜標本において発現されていたが,関連する遺伝子のいくつか,例えばIRF−1は血液試料においても発現されていた。IFN−により制御されるパターンに主として寄与している細胞タイプを識別するために,結腸インステント再狭窄(n=3)および末梢動脈の再狭窄(n=6)からの新脈管内膜標本の凍結切片をIRF−1に特異的な抗体で染色した。この蛋白質を選択したのは,これがIFN−γシグナル伝達経路の必須の成分であり(Kimura,Genes Cells 1(1996),115−124),クラスターの他の遺伝子と調和して発現されているためである(図17)。免疫組織化学的分析は,そのスピンドル形状の核および平滑筋細胞マーカーであるアルファ−アクチンによる染色から識別して(図18B),頸動脈再狭窄の新脈管内膜のSMC(図17B)および結腸インステント再狭窄(図18C)におけるIRF−1の強い核および細胞質の染色を示した。インステント再狭窄におけるIRF−1の核染色(図18C)は,IRF−1転写因子も活性化されていることを示した。頸動脈動脈の対照媒体中のSMCはIRF−1染色を示さなかった(図17B)。CD3−ポジティブ細胞は,標本(図18C)においてSMC(図18D)と比較してはるかに少なく,このことは,SMCが主としてヒト新脈管内膜におけるIRF−1発現の増加に寄与していることを示す。
【0255】
トランスクリプトームプロファイルを再狭窄組織に適合させるための培養条件の明確化:IFN−γ
培養ヒト冠状動脈平滑筋細胞(CASMC)(Clonetics)の転写プロファイルを新脈管内膜のものと適合させるために,CASMCをIFN−γで刺激し,上述のようにトランスクリプトーム分析を行った。CASMCは,製造元のマニュアルに記載されるように,成長培地で50%コンフルエントに達するまで培養した。その後,細胞を1000U/mlのIFN−γ(R&D,Germany)で37℃で16時間刺激した。細胞をPBSで2回洗浄し,上述のようにRNA調製,cDNA合成および増幅およびトランスクリプトーム分析を行った。
【0256】
図19に示されるように,CASMCを1000U/mlのIFN−γとともにインキュベートすることにより,新脈管内膜特異的IFN−γ遺伝子発現パターンを得ることができた。
【0257】
IFN−γアンタゴニストとともにインキュベートした後の新脈管内膜のトランスクリプトーム/遺伝子発現パターンの明確化
インステント再狭窄組織の顕微鏡標本をIFNのアンタゴニストとともに種々の時間インキュベートし,上述するようにトランスクリプトーム分析を行った。処理した新脈管内膜のトランスクリプトームを処理していない新脈管内膜および健康な対照組織のトランスクリプトームと比較して,IFN−γアンタゴニストの治療効果を測定した。
【0258】
ラパマイシンとともにインキュベートした後の新脈管内膜のトランスクリプトーム/遺伝子発現パターンの明確化
再狭窄のブタモデルにおいて,細胞内蛋白質FKBP12のリガンドであるラパマイシンが平滑筋細胞の遊走および増殖を阻害し,新脈管内膜過形成を減少させることができることが文献から示されている。ラパマイシンの治療効果を評価するために,新脈管内膜特異的トランスクリプトームにおいてFKBP12の有意なアップレギュレーションが認められた。増殖しているCASMCは新脈管内膜と同様にFKBP12を過剰発現するため,ラパマイシンの治療効果に関してこの細胞株を新脈管内膜の代用細胞株の候補として用いることができる。したがって,第1の工程においては,CASMCを100ng/mlのラパマイシン(Sigma)とともに24時間インキュベートし,治療効果をモニターするために,トランスクリプトーム分析を行った。その後,インステント再狭窄組織の顕微鏡標本をラパマイシンとともにインキュベートし,上述したようにトランスクリプトーム分析を行った。ラパマイシンで処理したCASMCのトランスクリプトーム/遺伝子発現パターンをラパマイシンで処理した新脈管内膜のトランスクリプトームと比較して,新脈管内膜の代用細胞株としてのCASMCの有効性を測定した。腫瘍サプレッサー遺伝子および増殖阻害遺伝子はこのCASMC中でアップレギュレートされており,したがって,このCASMCは新脈管内膜の真の代用物であると考えることができる。
【0259】
実施例1X:腫瘍細胞におけるエムプリンおよびトランスフェリンレセプターのアップレギュレートされた蛋白質発現
種々の腫瘍および疾病段階の患者に由来する単一の微小転移性細胞のトランスクリプトーム分析により,細胞サイクル制御,細胞骨格構成,接着および蛋白質分解活性に関与する遺伝子の発現がアップレギュレートされていることが明らかになった。アレイハイブリダイゼーションにおいて,乳癌および前立腺癌患者の骨髄からの26個の微小転移性細胞のうち10個においてエムプリンのmRNA発現の増強が認められ,これらの細胞の侵襲的表現型を示す。エムプリン(細胞外マトリクスメタロプロテイナーゼ誘導物質,CD147)は,腫瘍細胞の表面上に存在するイムノグロブリンスーパーファミリーのメンバーであり,隣接する線維芽細胞を刺激してマトリクスメタロプロテイナーゼを産生させる(MMPs,Guo,J.Biol.Chem.272(1997),24−27およびSameshima,Cancer Lett.157(2000),177−184およびLi,J.Cell Physiol.186(2001),371−379)。結果を遺伝子特異的PCRと照らし合わせて,アレイハイブリダイゼーションと同様の感度であることが明らかとなった。アレイハイブリダイゼーション用に異なるエムプリン特異的プローブを用いると,エムプリンメッセージは16/26(61%)の試料において見られた。これらの結果は,ランダムプライミングした単一細胞のcDNAの転写産物を検出するためのアレイ設計の感度を強調する。
【0260】
腫瘍細胞におけるエムプリン発現のアップレギュレーションをmRNAレベルのみならず蛋白質レベルにおいても関連づけるために,癌患者の骨髄細胞から先に記載されるようにスライドを作製した(Pantel,Lancet 347(1996),649−653)。スライドをPBS中10%ヒトAB血清を用いて20分間ブロッキングした。各試料から100万個の骨髄細胞を上皮細胞のマーカーであるサイトケラチン陽性細胞についてスクリーニングした。エムプリン特異的抗体MEM6/2(Koch,Int.lmmunol.11(1999),777−86)およびいくつかのサイトケラチンファミリーメンバーと反応するビオチンコンジュゲート化A45B/B3抗体を用いる二重染色法を行った。抗体インキュベーションは以下のとおりであった:MEM6/2,45分間,5μg/ml;Z259およびAPAAP複合体,製造元の指針にしたがう(DAKO)。すべての抗体インキュベーションの間にスライドをPBS中で3x3分間洗浄した。A45B/B3−ビオチンF(ab)−フラグメントを加える前に,PBS中10%マウス血清を用いる追加のブロッキング工程を20分間行った。A45B/B3−ビオチンコンジュゲート(2μg/ml;45分間)はストレプトアビジン−Cy3(1.2μg/ml;15分間;Jackson laboratories)により検出した。洗浄した後,FAST−BLUE(Sigma)をアルカリホスファターゼの基質として用いた(10−30分間)。すべてのスライドについて,アイソタイプ対照を用いて同じ方法を行った。
【0261】
エムプリンは,乳,前立腺および肺癌を有する68名の患者に由来する140種のサイトケラチン陽性腫瘍細胞の82%で検出された(表8および図20)。2つの吸引物においてのみ,検出されたサイトケラチン−ポジティブ細胞(n=4)はすべてエムプリンネガティブであった。
【0262】
表8.骨髄の散在性サイトケラチン陽性(CK+)腫瘍細胞におけるエムプリン(EMM)蛋白質発現
【表32】
Figure 2004508010
【0263】
エムプリンの他,腫瘍細胞上のトランスフェリンレセプター(CD71)の発現を蛋白質レベルで調べた。非小細胞肺癌に由来する6個の小さい生検および慢性閉塞性肺を有する患者の対照粘膜の5個の生検のトランスクリプトーム分析は,正常組織と腫瘍組織との間でCD71のシグナル強度が大きく相違することを示した(表9)。
【0264】
表9.アレイハイブリダイゼーション上のトランスフェリンレセプターcDNAのシグナル強度
【表33】
Figure 2004508010
【0265】
腫瘍生検の低温切片Bio10および正常粘膜からの生検(Bio6G)についてディファレンシャル発現を試験した。PBS中10%AB血清で20分間非特異的結合をブロッキングし,CD71−PE(フィコエリスリン)コンジュゲート化抗体(Caltag)とともに45分間インキュベートした。対照としては,抗CD4−PE抗体を用いた。いずれの組織試料においてもCD4抗体の染色は認められなかった。CD71−PE抗体は腫瘍生検の上皮領域を選択的に染色したが,正常粘膜ではトランスフェリンレセプター発現は認められなかった(図21)。
【0266】
実施例X:IFN−γの平滑筋細胞に及ぼす抗アポトーシス効果
培養増殖SMCの生存に及ぼすIFN−γの影響をフローサイトメトリにより分析した。この理由のため,初代ヒト結腸平滑筋細胞をCell Systems(Germany)から入手し,5%ウシ胎児血清(Cell Systems)を含む平滑筋細胞成長培地(Cell Systems)中で,5%COの湿潤雰囲気中で37℃で成長させた。SMCは継代2と4との間で用いた。1000U/mlのrh−IFN−γ(R&D Systems)による処理は16時間行った。細胞死の誘導のためには,SMCを100μmol/lのHおよび100μmol/Iの硫酸第一鉄を含むHBSS中で37℃で1時間インキュベートした。その後,細胞を新たに調製した培養培地中でさらに8時間培養した。細胞をFITC標識アネキシンV(Roche Diagnostics)およびヨウ化プロピジウム(PI)で製造元の指針にしたがって標識した。104回の事象をフローサイトメータ(Becton Dickinson)を用いて分析した。フローサイトメトリ分析によりIFN−γのSMCに及ぼす抗アポトーシス効果が明らかとなった(図22)。PIおよびFITC標識アネキシンVによる二重染色の後のFACS分析は,IFNで処理した後に自発性アポトーシスが10%から6%に減少したことを示した。Hを用いてSMCにおいてアポトーシスを誘導した後,この効果はより顕著になった。IFN−γで処理すると,アポトーシス細胞の数が54%から27%に減少した。これらの結果は,IFN−γがSMCに対して抗アポトーシス効果を及ぼすことを明らかに示す。
【0267】
実施例XI:再狭窄のマウスモデルにおける新脈管内膜形成に及ぼすIFN−γ の阻害的効果
頸動脈結紮後の血管増殖リモデリングを調べるために,マウス血流停止モデル(Kumar,Circulation 96(1997),4333−4342)を用いた。このモデルは,分岐近傍の総頸動脈の結紮に応答してSMCの血管が増殖することを特徴とする。再狭窄のマウスモデルにおいて無IFN−レセプター変異が新脈管内膜の発生に及ぼす影響を調べるために,IFN−γR−/−ノックアウトマウスを用いた。成人雄129/svJマウス(N=16)およびIFN−γR−/−マウス(n=11)をキシラジン(5mg/kg体重)およびケタミン(80mg/kg体重)の溶液の腹膜内注射により麻酔し,左総頸動脈を分岐近くで結紮した。4週間後動物を再び麻酔し,犠牲死させ,0.1mol/lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.3)中4%パラホルムアルデヒドで3分間潅流することにより固定した。左頸動脈を切り出した後,血管を70%エタノール中に浸漬することにより固定した。頸動脈をパラフィン中に包埋し,連続切片を作製した(%μm厚さ)。
【0268】
ライゲーション部位から600μmの距離でファンゲッソン染色切片の形態学的分析を行った。画像分析ソフトウエアSCIONイメージ4.0.2を用いて血管のデジタル化した画像を分析した。中膜の厚さは,外弾性板と内弾性板との間の直径の相違として,新脈管内膜の厚さは内弾性板と内腔直径との相違として求めた。形態学的分析からのデータは,2つの群のマウスの平均±SEMで表し,非対試料のt−テストにより検定した。p値<0.05を有意とみなした。すべての分析はSPSS統計学パッケージを用いて行った(バージョン8.0)。
【0269】
中膜増殖および新脈管内膜形成による実質的な壁の肥厚は,結紮の4週間後に16匹の野生型マウスで観察された(図23)。11匹のIFN−γR−/−マウスの内膜および新脈管内膜肥厚は,平均±SEMで示されるように有意に減少し,非対試料についてのt−テストにより分析した。増殖的応答の減少と対応して,11匹のIFN−γR−/−マウスは処置した頸動脈セグメントの内腔直径が野生型マウスより有意に大きかった(108±15μm対91±24μm,p=0.033)。
【0270】
実施例XII:抑制サブトラクティブハイブリダイゼーション(SSH)分析
SSHはサブトラクトされたcDNAライブラリを生成する新規かつ非常に有効な方法である。サブトラクティブcDNAハイブリダイゼーションは,異なるように発現されている遺伝子のcDNAを同定および単離するための強力な方法である(Duguin,Nucl.Acid.Res.18(1990),2789−2792およびHara,Nucl.Acid.Res.19(1991),7097−7104およびHendrick,Nature(London)308(1984),149−153)。一般に,1つの集団(テスター)からのcDNAを別の集団(ドライバー)からの過剰のmRNA(cDNA)にハイブリダイズさせ,次に,ハイブリダイズしていない画分(標的)をハイブリダイズした共通配列から分離する。SSHを用いて,標的cDNAフラグメント(異なるように発現されている)を選択的に増幅し,同時に非標的DNAの増幅を抑制する。この方法は,PCRの抑制に基づいている。すなわち,長い反転末端反復は,PCR法においてDNAフラグメントに結合したときに望ましくない配列の増幅を選択的に抑制することができる。mRNAの量の相違の問題は,サブトラクションの間に配列の量を等しくするハイブリダイゼーション工程により解決される。異なるように発現されているcDNAを1000倍濃縮するのに1ラウンドのサブトラクティブハイブリダイゼーションが必要である(概説として,Diatchenko,Proc.Natl.Acad.Sci.USA93(1996),6025−30およびDiatchenko,Methods Enzymol.303(1999),349−80を参照)。
【0271】
非常に少ない数の細胞のディファレンシャル遺伝子発現分析のために,標準的SSHプロトコルにいくつかの改変を加えた(図24)。1)本明細書に記載される方法にしたがって生成されたmRNA増幅物を逆転写し,CP2プライマーを用いて増幅した;2)本明細書に記載される方法にしたがって生成されたmRNA増幅物それ自体がpan様構造を形成する;3)制限酵素認識部位(例えばEcoRI)をCP2プライマー中に導入する。
【0272】
a)材料および方法
オリゴヌクレオチド
cDNA合成プライマー:
CP2:5’−TCAGAATTCATGCCCCCCCCCCCCCCCC−3’(配列番号14)
アダプター
アダプター1(A1)
Eco44I:5’−GTAATACGACTCACTATAGGGCTCGAGCGGCTCGCCCGGGCAGG−3’(配列番号31)
Eco12I:5’−AATTCCTGCCCG−3’(配列番号32)
アダプター2(A2)
Eco43II:5’−TGTAGCGTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGTGGTGCGGAGGGCG−3’(配列番号33)
Eco12II:5’−AATTCGCCCTCC−3’(配列番号34)
PCRプライマー:
P1−30:5’−GTAATACGACTCACTATAGGGCTCGAGCGG−3’(配列番号35)
P2−30:5’−TGTAGCGTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGT−3’(配列番号36)
P1−33:5’−GTAATACGACTCACTATAGGGCTCGAGCGGCTC−3’(配列番号37)
P2−33:5’−TGTAGCGTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGTGGT−3’(配列番号38)
PN1−300:5’−CGACTCACTATAGGGCTCGAGCGGCTCGCC−3’(配列番号39)
PN2−30:5’−GTGAAGACGACAGAAAGGTCGCGTGGTGCG−3’(配列番号40)
【0273】
ドライバーの調製
微小な転移性腫瘍細胞において正常骨髄細胞と比較して異なるように発現されている転写産物を検出するために,健康なドナーに由来する骨髄試料からドライバーを調製した。3名の骨髄ドナーから,標準的プロトコルを用いて全RNAを単離した。次に,300,000個の骨髄細胞に対応するRNAを30μlのDynalビーズに加え,mRNA増幅のプロトコルを実施した。
【0274】
ハイブリダイゼーションの速度論は,5μgのドライバーを50ユニットの制限酵素RsaIで,0.75x緩衝液NEB1(New England Biolabs)を含有する50μlの反応液中で90分間消化することにより改良した。試料はMicrocon 10カラム(Millipore)で脱塩した。
【0275】
テスターの調製
50μl中で50UのEcoRlを用いて,EcoRIで消化したテスターを調製した。テスターとしては,4つの異なる乳癌患者から単離した4つの単一の細胞の混合物を選択した。EcoRIで消化した後,テスターを水中で100ng/μlの濃度に希釈した。次に,1つのプローブを5μlのアダプターA1(配列番号31,配列番号32)に,別のプローブをアダプターA2(配列番号33,配列番号34)(50μM)に,2つの独立した10μlのライゲーション反応液中で5ユニットのT4DNAリガーゼ(Roche)を用いて15℃で一夜ライゲーションした。ライゲーション反応は,2μlの0.1MEDTAを加え,70℃で5分間加熱することにより不活性化した。
【0276】
サブトラクティブハイブリダイゼーション
1μlのドライバー(500ng)を,アダプターA1(配列番号31,配列番号32)にライゲーションした2μlのテスターcDNA(約18ng)を含む2つのチューブのそれぞれに加え,ハイブリダイゼーション緩衝液(1MNaCI,50mMHepes,1mMCTAB)中でアダプターA2(配列番号33,配列番号34)にライゲーションした。溶液にミネラルオイルを重層し,98℃で1分間変性させ,次に68℃で10−14時間アニーリングさせた。
【0277】
最初のハイブリダイゼーション後,両方の試料を一緒に混合し,1.5μlのハイブリダイゼーション緩衝液中の約150ngの熱変性ドライバーを加えた。試料を10−14時間ハイブリダイズさせた。200μlの希釈緩衝液(20mMHepes,pH8.3,50mMNaCl,0.2mMEDTA)を加え,68℃で7分間加熱することによりハイブリダイゼーションを停止した。
【0278】
PCR増幅
各サブトラクションについて,容量25μl中で2回のPCR増幅反応を行った。第1のPCRは,1μlの希釈したサブトラクトしたcDNA,1μlのPCRプライマーP1−30(配列番号35)(8pM)および1μlのプライマーP230(配列番号36)(8pM)および0.4mMdNTPを含むTaqロングテンプレート緩衝液1(Roche)中で行った。ホットスタート法でTaqポリメラーゼを加えた。PCR−サイクラーを75℃で7分間(末端のフィルイン)に設定し,27サイクルを行い(94℃,30秒間;66℃,30秒間;72℃,1.5分間),最後に72℃で7分間伸長した。PCR産物を水で10倍に希釈し,1μlを用いて上述のプロトコルにしたがって2回目のPCRを行った。ただし,PCRプライマーPN1−30(配列番号39)およびPN2−30(配列番号40)を用い,12サイクル(94℃,30秒間;68℃,30秒間;72℃,1.5分間)で行った。PCR産物は1.5%アガロースゲルでゲル電気泳動により分析した。
【0279】
サブトラクトしたcDNAのクローニングおよび分析
二次PCRからの産物をT/Aクローニングシステム(Promega)のpGEM−Teasy,にライゲーションした。X−Gal/IPTG/アンピシリンでクローンを選択した後,PN1−30(配列番号39)およびPN2−30(配列番号40)プライマーを用いて,PCRにより挿入物をスクリーニングした。ディファレンシャル発現は,増幅した挿入物を標識テスターおよびドライバーをプローブとして用いてサザンブロット分析することにより確認した。ドライバーおよびテスター試料の標識は,アレイ分析のための標識と同一であった。
【0280】
異なるようにハイブリダイズしたクローンからQlA prep Spin Miniprep Kit(Qiagen)を用いてプラスミドを調製し,配列決定した。核酸ホモロジー検索はBLASTプログラム(NCBI)を用いて行った。
【0281】
結果
PCR増幅は,異なる長さ(30ヌクレオチド:P1−30(配列番号35),P2−30(配列番号36)および33ヌクレオチド:P1−33(配列番号37)およびP2−33(配列番号38))のプライマーセットを用いて行い,いずれも匹敵する結果が得られた。最も好ましいものは,30ヌクレオチド(P1−30(配列番号35)およびP230(配列番号36))からなるプライマーであった。Diatchenko(Proc.Natl.Acad.Sci.USA93(1996))により記載される22ヌクレオチドのより短いプライマー(Clonetech)はPCR反応において作用しなかった。サブトラクション後,コロニーをPCRによりスクリーニングし,生成物をゲル電気泳動しブロッティングした。標識したテスターおよびドライバーをブロットにハイブリダイズさせた。その1例を図25に示す。コロニー#4を上皮特異的遺伝子(Oettgen,Genomics 445,(1997)456−457およびOettgen,Mol.Cell.Biol.17(1997),4419−4433)およびOettgen,Genomics55(1999),35862)と記述される転写因子として同定した。この結果は,ドライバーとテスターを調製した元の試料を用いるPCRにより確認した(図26)。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は,増幅の成功を判定するパラメータを示す。
【図2】図2は,増幅物についての遺伝子特異的PCRを示す。
【図3】図3は,正常白血球(赤)およびMCF−7乳癌細胞(青)のCGHプロファイルを示す。
【図4】図4は,細胞BのCGHプロファイルを示す。
【図5】図5は,細胞B,CおよびLにおいて,共通におよび異なるように発現されている遺伝子を示す。
【図6】図6は,細胞Lのハイブリダイゼーションおよび固定化されたcDNAの位置および名前のマトリクスを示す。
【図7】図7は,ヒト冠状動脈インステント再狭窄からの新脈管内膜の免疫組織化学的染色を示す。
【図8】図8は,遺伝子特異的プライマーを用いるPCRを示す。
【図9】図9はcDNAアレイ分析を示す。
【図10】図10は,ヒトインステント新脈管内膜および対照血管からの微小試料の転写プロファイルを示す。
【図11】図11は,cDNAアレイからの異なるように発現されているmRNAの遺伝子特異的PCRによる確認を示す。
【図12】図12は,頸動脈再狭窄からの新脈管内膜の,FKBP12蛋白質についての免疫組織化学的染色を示す。
【図13】図13は,遺伝子発現のcDNAアレイ分析を示す。
【図14】図14は,224種類の遺伝子の遺伝子発現プロファイルを示すクラスター画像を示す。
【図15】図15は,転写因子クラスターの拡大図を示す。
【図16】図16は,IFN−γ−関連クラスターの拡大図を示す。
【図17】図17は,頸動脈再狭窄からの新脈管内膜および健康な対照の中膜の,IRF−1蛋白質についての免疫組織化学的染色を示す。
【図18】図18は,冠状動脈インステントからの新脈管内膜のIRF−1蛋白質についての免疫組織化学的染色を示す。
【図19】図19は,IFN−γ−関連クラスターの発現を示す。
【図20】図20は,骨髄中の散在性腫瘍細胞の二重染色を示す。
【図21】図21は,腫瘍細胞におけるトランスフェリンレセプター(CD71)のディファレンシャル発現を示す。
【図22】図22は,培養SMCの生存に及ぼすIFN−γの影響を示す。
【図23】図23は,再狭窄のマウスモデルにおける新脈管内膜の発達に及ぼす無IFN−γレセプター変異の影響を示す。
【図24】図24は,単一の細胞または少量の細胞試料で行ったSSH分析のフローチャートを示す。
【図25】図25は,標識したドライバーおよびテスターをプローブとして用いるサザンブロットによるコロニーのスクリーニングを示す。
【図26】図26は,PCRおよびゲル電気泳動により分析した,腫瘍細胞におけるESE1の差異的発現を示す。

Claims (49)

  1. 試料のmRNAを増幅する方法であって,
    i.ポリアデニル化RNAにハイブリダイズし,5’ポリ(C)または5’ポリ(G)フランクを含む少なくとも1つのプライマーを用いてポリアデニル化RNAからcDNAを生成し;
    ii.(aa)ハイブリダイズしていない余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPが存在する場合にはこれを除去し;
    (ab)前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,または工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルを用いて,3’テイリングを行い;または
    (b)余剰のプライマーおよび/または余剰のdNTPの存在または非存在にかかわらず,前記生成したcDNAを,工程iにおいて5’ポリ(C)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(G)テイルを用いて,または工程iにおいて5’ポリ(G)フランクを含むプライマーを用いた場合にはポリ(C)テイルを用いて,RNA−リガーゼを用いて3’テイリングを行い;そして
    iii.テイリングしたcDNAを,工程ii(ab)またはii(b)において生成したテイルにハイブリダイズするプライマーを用いて増幅する
    の各工程を含む方法。
  2. 工程”i”における前記少なくとも1つのプライマーがランダムプライマー,オリゴ(dT)プライマーまたはこれらの組み合わせである,請求項1記載の方法。
  3. 前記ランダムプライマーが,ランダムヘキサマーまたはランダムオクタマーオリゴヌクレオチドを含む,請求項2記載の方法。
  4. 前記ランダムプライマーが配列番号1−9に示される配列を有する,請求項2または3記載の方法。
  5. 前記オリゴ(dT)プライマーが配列番号10に示される配列を有する,請求項2記載の方法。
  6. 工程”i”において,前記少なくとも1つのプライマーの濃度が,0.01μMから500μMの範囲,好ましくは0.1μMから200μMの範囲,より好ましくは1μMから100μMの範囲,さらにより好ましくは10μMから60μMの範囲である,請求項1−5のいずれかに記載の方法。
  7. 工程”iii”における前記プライマーが,工程”ii(ab)”または”ii(b)”において生成したテイルにハイブリダイズしうる,少なくとも10,好ましくは少なくとも12,最も好ましくは少なくとも15ヌクレオチドのストレッチを含む,請求項1−6のいずれかに記載の方法。
  8. 前記プライマーが,配列番号11,12,13,14または15に記載される配列を有する,請求項7記載の方法。
  9. 前記ポリアデニル化RNAが固体支持体に結合されている,請求項1−8のいずれかに記載の方法。
  10. 前記固体支持体が,ビーズ,膜,フィルター,ウエル,チップまたはチューブである,請求項9記載の方法。
  11. 前記ビーズが,磁気ビーズ,ラテックスビーズまたはコロイド金属ビーズである,請求項10記載の方法。
  12. 前記ビーズがオリゴ(dT)ストレッチを含む,請求項10または11記載の方法。
  13. 前記mRNAが,組織,少数の細胞または単一の細胞に由来する,請求項1−12のいずれかに記載の方法。
  14. 前記少数の細胞が10−2個の範囲の細胞である,請求項13記載の方法。
  15. 前記組織,細胞または単一の細胞が植物または動物起源のものである,請求項13または14記載の方法。
  16. 前記動物がヒトである,請求項15記載の方法。
  17. 前記組織,少数の細胞または単一の細胞が化学的に固定された組織,化学的に固定された少数の細胞または化学的に固定された細胞である,請求項13−16のいずれかに記載の方法。
  18. 前記組織,少数の細胞または単一の細胞が体液または固体組織に由来する,請求項13−17のいずれかに記載の方法。
  19. 生成した増幅されたcDNAをさらに修飾する工程”iv”をさらに含む,請求項1−18のいずれかに記載の方法。
  20. 前記修飾が,検出手段の導入を含む,請求項19記載の方法。
  21. 前記検出手段が,発色団,蛍光染料,放射性ヌクレオチド,ビオチンまたはDIGにカップリングされたヌクレオチド類似体の導入を含む,請求項20記載の方法。
  22. 得られた増幅されたcDNAが固体支持体に結合されている,請求項1−21のいずれかに記載の方法。
  23. すべてのまたは個々の工程が非カコジル酸緩衝液中で行われる,請求項1−22のいずれかに記載の方法。
  24. 前記非カコジル酸緩衝液がリン酸緩衝液である,請求項23記載の方法。
  25. 前記リン酸緩衝液がKHPO緩衝液である,請求項24記載の方法。
  26. 前記試料が細胞および/または組織に由来し,その遺伝的同一性が比較ゲノムハイブリダイゼーションにより明確にされている,請求項1−25のいずれかに記載の方法。
  27. 病理学的に変更されている細胞または組織のインビトロ代用物を製造する方法であって,
    (a)前記病理学的に変更されている細胞または組織のmRNAを請求項1−26のいずれかに記載の方法の工程にしたがって増幅し;
    (b)増幅されたcDNAおよび/またはその転写産物の量,および任意に生物物理学的特性を評価し,このことにより前記病理学的に変更されている細胞または組織の遺伝子発現パターンを決定し;
    (c)その遺伝子発現パターンが前記病理学的に変更されている細胞または組織の遺伝子発現パターンと似ているインビトロ細胞を選択し;そして
    (d)前記インビトロ細胞の遺伝子発現パターンを病理学的に変更されている細胞または組織の遺伝子発現パターンに適合させる
    の各工程を含む方法。
  28. b(1)対照細胞または対照組織の遺伝子発現パターンを決定し;そして
    b(2)前記病理学的に変更されている細胞または組織および前記対照細胞または組織において異なるように発現されている遺伝子を決定する
    の工程をさらに含む,請求項27記載の方法。
  29. 対照細胞または対照組織の前記遺伝子発現パターンが,請求項1−26のいずれかに記載の方法を用いて決定される,請求項28記載の方法。
  30. 前記病理学的に変更されている細胞または組織が再狭窄細胞または再狭窄組織である,請求項27−29のいずれかに記載の方法。
  31. 前記対照細胞または組織が,健康な冠状動脈の平滑筋細胞,中膜/内膜からなる群より選択される,請求項28−30のいずれかに記載の方法。
  32. 前記インビトロ細胞が,初代培養細胞,二次培養細胞,組織培養または細胞株に由来する,請求項27−31のいずれかに記載の方法。
  33. 前記インビトロ細胞が,培養冠状動脈平滑筋細胞,HepG2細胞,Jurkat細胞,THP−I細胞,Monomac−6−細胞,U937細胞,ATCC45505細胞,培養心筋細胞,ECV304細胞およびNIH3T3細胞からなる群より選択される,請求項32記載の方法。
  34. 工程cにおける前記適合が,前記インビトロ細胞を物理学的および/または化学的変化に暴露することを含む,請求項27−33のいずれかに記載の方法。
  35. 前記物理学的変化が,温度シフト,光変化,pH変化,イオン強度の変化または気相の変化を含む,請求項34記載の方法。
  36. 前記化学的変化が,培地交換,培地置換,培地涸渇および/または培地添加を含む,請求項34記載の方法。
  37. 前記化学的変化が,成長因子,ホルモン,ビタミン,抗体またはこれらのフラグメントおよび/または誘導体,サイトカイン,転写因子,キナーゼ,抗生物質,天然のおよび/または非天然のレセプターリガンドおよびシグナル伝達経路の成分等の化合物に暴露することを含む,請求項34記載の方法。
  38. 前記サイトカインがIFN−γ(またはその機能的誘導体)であり,前記天然のおよび/または非天然のレセプターリガンドがIFN−γレセプター(aおよび/またはb鎖)のリガンドであり,前記転写因子がIRF−1またはISGF3−γ−(p48)であり,前記キナーゼがチロシンキナーゼPyk2であり,シグナル伝達経路の前記成分がDap−1,BAG−1,Pim−1またはIFN−γ−誘導性蛋白質9−27であり,前記成長因子が血小板成長因子AA,アンジオテンシンまたは線維芽細胞成長因子であり,または前記抗生物質がラパマイシンである,請求項37記載の方法。
  39. 請求項27−38のいずれかに記載の方法により得ることができるインビトロ代用物の薬剤スクリーニング方法における使用。
  40. 試験試料において異なるように発現されている遺伝子を同定する方法であって,
    (a)それぞれがポリアデニル化RNAを含む試験試料および対照試料を用意し;
    (b)前記試料および対照試料について請求項1−26のいずれかに記載の方法の工程を用い;そして
    (c)前記試験試料の得られた増幅されたcDNAを前記対照試料の得られた増幅されたcDNAと比較する
    の各工程を含む方法。
  41. 病理学的状態または病理学的疾患を予防または治療するための薬剤候補物を同定する方法であって,
    (a)ポリアデニル化RNAを含む試料を前記薬剤候補物と接触させ;
    (b)前記試料に,請求項1−26のいずれかに記載の方法の工程を用い;そして
    (c)前記試料における特定の発現された遺伝子の存在,非存在,増加または減少を検出する,
    の各工程を含み,ここで,前記存在,非存在,増加または減少と前記薬剤候補物の存在との相関により,前記薬剤候補物を薬剤として適したものであると認めることを特徴とする方法。
  42. 被験者における病理学的状態または病理学的状態の疑いをインビトロで検出する方法であって,
    (a)前記被験者からのポリアデニル化RNAを含む試料を用意し;
    (b)前記試料に,請求項1−26のいずれかに記載の方法の工程を用い;そして
    (c)前記試料における発現された遺伝子の存在,非存在,増加,減少または量に基づいて,病理学的状態または病理学的状態の疑いを検出する,
    の各工程を含む方法。
  43. 請求項1−26のいずれかに記載の方法により得られる増幅されたcDNAの,インビトロおよび/またはインビボ発現のための使用。
  44. 請求項1−26のいずれかに記載の方法により得られる増幅されたcDNAの,mRNA転写産物のインビトロおよび/またはインビボ製造のための使用。
  45. 請求項1−26のいずれかに記載の方法により得られる増幅されたcDNA,または請求項42記載のmRNA転写産物の,ハイブリダイゼーションアッセイまたは相互作用アッセイにおける使用。
  46. 前記ハイブリダイゼーションアッセイが,オリゴヌクレオチドアレイ,cDNAアレイ,および/またはPNAアレイへのハイブリダイゼーションを含む,請求項44記載の使用。
  47. 前記相互作用アッセイが,炭水化物,レクチン,リボザイム,蛋白質,ペプチド,抗体またはそれらのフラグメント,および/またはアプタマーとの相互作用を含む,請求項44記載の使用。
  48. 請求項1−26のいずれかに記載の方法により得られる増幅されたcDNAの,配列特異的PCR,cDNAクローニング,サブトラクティブハイブリダイゼーションクローニング,および/または発現クローニングのための使用。
  49. 請求項1−5および7−8のいずれかに記載の少なくとも1つのプライマーを含むキット。
JP2001569407A 2000-03-24 2001-03-23 mRNA増幅 Pending JP2004508010A (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
EP00106450 2000-03-24
PCT/EP2001/003311 WO2001071027A2 (en) 2000-03-24 2001-03-23 mRNA AMPLIFICATION

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2004508010A true JP2004508010A (ja) 2004-03-18

Family

ID=8168230

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2001569407A Pending JP2004508010A (ja) 2000-03-24 2001-03-23 mRNA増幅

Country Status (11)

Country Link
US (1) US7229760B2 (ja)
EP (2) EP1370683B1 (ja)
JP (1) JP2004508010A (ja)
AT (1) ATE329060T1 (ja)
AU (2) AU2001242509B2 (ja)
CA (1) CA2402534C (ja)
DE (1) DE60120501T2 (ja)
DK (1) DK1370683T3 (ja)
ES (1) ES2264440T3 (ja)
IL (1) IL151872A0 (ja)
WO (1) WO2001071027A2 (ja)

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2007513399A (ja) * 2003-10-10 2007-05-24 バイオフィジカル コーポレーション 生化学画像の生成及びその使用方法

Families Citing this family (54)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
DE60045247D1 (de) * 1999-07-28 2010-12-30 Genentech Inc Zusammensetzungen und verfahren zur behandlung von tumoren
US7745180B2 (en) * 2002-04-24 2010-06-29 Hitachi Chemical Co., Ltd. Device and method for high-throughput quantification of mRNA from whole blood
US20040058330A1 (en) * 2002-09-20 2004-03-25 Prokaria, Ltd. Methods of use for thermostable RNA ligases
ES2787454T3 (es) * 2004-09-30 2020-10-16 Epigenomics Ag Método para proveer fragmentos de ADN derivados de una muestra archivada
US20080014589A1 (en) 2006-05-11 2008-01-17 Link Darren R Microfluidic devices and methods of use thereof
US9562837B2 (en) 2006-05-11 2017-02-07 Raindance Technologies, Inc. Systems for handling microfludic droplets
US8772046B2 (en) 2007-02-06 2014-07-08 Brandeis University Manipulation of fluids and reactions in microfluidic systems
US8592221B2 (en) 2007-04-19 2013-11-26 Brandeis University Manipulation of fluids, fluid components and reactions in microfluidic systems
US12038438B2 (en) 2008-07-18 2024-07-16 Bio-Rad Laboratories, Inc. Enzyme quantification
WO2010009365A1 (en) 2008-07-18 2010-01-21 Raindance Technologies, Inc. Droplet libraries
WO2011100604A2 (en) 2010-02-12 2011-08-18 Raindance Technologies, Inc. Digital analyte analysis
US9399797B2 (en) 2010-02-12 2016-07-26 Raindance Technologies, Inc. Digital analyte analysis
US20110224088A1 (en) * 2010-03-11 2011-09-15 Heidi Lyng Biomarkers for subtypes of cervical cancer
JP5755326B2 (ja) 2010-06-11 2015-07-29 日立化成株式会社 腎機能の特徴を決定する方法
WO2011156734A2 (en) * 2010-06-11 2011-12-15 Hitachi Chemical Co., Ltd. Method of characterizing vascular diseases
EP3736281A1 (en) 2011-02-18 2020-11-11 Bio-Rad Laboratories, Inc. Compositions and methods for molecular labeling
EP2714970B1 (en) 2011-06-02 2017-04-19 Raindance Technologies, Inc. Enzyme quantification
EP2717989B1 (en) 2011-06-10 2018-05-30 Hitachi Chemical Co., Ltd. Vesicle capturing devices and methods for using same
CN110763842A (zh) 2011-06-29 2020-02-07 中央研究院 使用表面涂层对生物物质的捕获、纯化和释放
US8658430B2 (en) 2011-07-20 2014-02-25 Raindance Technologies, Inc. Manipulating droplet size
US9662649B2 (en) 2013-05-06 2017-05-30 Hitachi Chemical Company America, Ltd. Devices and methods for capturing target molecules
ES2960807T3 (es) 2013-10-11 2024-03-06 Us Health Anticuerpos contra TEM8 y su uso
US9944977B2 (en) 2013-12-12 2018-04-17 Raindance Technologies, Inc. Distinguishing rare variations in a nucleic acid sequence from a sample
WO2015103549A1 (en) 2014-01-03 2015-07-09 The United States Of America, As Represented By The Secretary Department Of Health And Human Services Neutralizing antibodies to hiv-1 env and their use
WO2015153816A2 (en) 2014-04-01 2015-10-08 Academia Sinica Methods and systems for cancer diagnosis and prognosis
CN105381824B (zh) 2014-08-26 2019-04-23 中央研究院 收集器架构布局设计
US10266895B2 (en) 2014-11-05 2019-04-23 Hitachi Chemical Company Ltd. Exosomes and microvesicles in intestinal luminal fluids and stool and use of same for the assessment of inflammatory bowel disease
WO2016077537A1 (en) 2014-11-12 2016-05-19 Hitachi Chemical Co., Ltd. Method and device for diagnosing organ injury
US10160795B2 (en) 2014-11-14 2018-12-25 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Neutralizing antibodies to Ebola virus glycoprotein and their use
KR20170140180A (ko) 2015-02-24 2017-12-20 더 유나이티드 스테이츠 오브 어메리카, 애즈 리프리젠티드 바이 더 세크러테리, 디파트먼트 오브 헬쓰 앤드 휴먼 서비씨즈 중동 호흡기 증후군 코로나 바이러스 면역원, 항체 및 그 용도
SI3271389T1 (sl) 2015-03-20 2020-09-30 The United States Of America, As Represented By The Secretary Department Of Health And Human Services Nevtralizirajoča protitelesa proti GP120 in njihova uporaba
US11028443B2 (en) 2015-08-31 2021-06-08 Showa Denko Materials Co., Ltd. Molecular methods for assessing urothelial disease
AU2016335750B2 (en) 2015-10-07 2023-05-25 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services IL-7R-alpha specific antibodies for treating acute lymphoblastic leukemia
CA3003878A1 (en) 2015-11-03 2017-05-11 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Neutralizing antibodies to hiv-1 gp41 and their use
US10107726B2 (en) 2016-03-16 2018-10-23 Cellmax, Ltd. Collection of suspended cells using a transferable membrane
WO2017192589A1 (en) 2016-05-02 2017-11-09 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Neutralizing antibodies to influenza ha and their use and identification
WO2018148660A1 (en) 2017-02-10 2018-08-16 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Neutralizing antibodies to plasmodium falciparum circumsporozoite protein and their use
EP3724223A1 (en) 2018-01-02 2020-10-21 The United States of America, as represented by The Secretary, Department of Health and Human Services Neutralizing antibodies to ebola virus glycoprotein and their use
CA3091437A1 (en) 2018-02-21 2019-08-29 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Neutralizing antibodies to hiv-1 env and their use
US20220089694A1 (en) 2018-12-20 2022-03-24 The U.S.A., As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Ebola virus glycoprotein-specific monoclonal antibodies and uses thereof
EP3962523A2 (en) 2019-05-03 2022-03-09 The United States of America, as represented by the Secretary, Department of Health and Human Services Neutralizing antibodies to plasmodium falciparum circumsporozoite protein and their use
US20230085439A1 (en) 2019-05-21 2023-03-16 University Of Georgia Research Foundation, Inc. Antibodies that bind human metapneumovirus fusion protein and their use
MX2022000174A (es) 2019-07-02 2022-05-20 Us Health Anticuerpos monoclonales que se enlazan a egfrviii y sus usos.
WO2022132904A1 (en) 2020-12-17 2022-06-23 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Human monoclonal antibodies targeting sars-cov-2
MX2023009244A (es) 2021-02-09 2023-09-11 Us Health Anticuerpos contra la proteina espicular de coronavirus.
WO2022173689A1 (en) 2021-02-09 2022-08-18 University Of Georgia Research Foundation, Inc. Human monoclonal antibodies against pneumococcal antigens
WO2023044272A1 (en) 2021-09-17 2023-03-23 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Synthetic humanized llama nanobody library and use thereof to identify sars-cov-2 neutralizing antibodies
WO2023154824A1 (en) 2022-02-10 2023-08-17 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Human monoclonal antibodies that broadly target coronaviruses
WO2023192881A1 (en) 2022-03-28 2023-10-05 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Neutralizing antibodies to hiv-1 env and their use
WO2024030829A1 (en) 2022-08-01 2024-02-08 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Monoclonal antibodies that bind to the underside of influenza viral neuraminidase
WO2024054822A1 (en) 2022-09-07 2024-03-14 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Engineered sars-cov-2 antibodies with increased neutralization breadth
WO2024064826A1 (en) 2022-09-22 2024-03-28 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Neutralizing antibodies to plasmodium falciparum circumsporozoite protein and their use
WO2024137381A1 (en) 2022-12-19 2024-06-27 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Monoclonal antibodies for treating sars-cov-2 infection
WO2024138151A1 (en) 2022-12-22 2024-06-27 The United States Of America, As Represented By The Secretary, Department Of Health And Human Services Ebolavirus (sudan and zaire) antibodies from non-human primates and human vaccinees

Family Cites Families (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO1990001065A1 (en) * 1988-07-26 1990-02-08 Genelabs Incorporated Rna and dna amplification techniques
ATE122721T1 (de) * 1988-11-21 1995-06-15 Dynal As Verfahren zur herstellung von cdns.
AU6910396A (en) * 1995-08-28 1997-03-19 Alphagene, Inc. Use of a 5' positional primer to produce double-stranded dna from a dna template
WO1997013877A1 (en) * 1995-10-12 1997-04-17 Lynx Therapeutics, Inc. Measurement of gene expression profiles in toxicity determination
AU2253397A (en) * 1996-01-23 1997-08-20 Affymetrix, Inc. Nucleic acid analysis techniques
US5955269A (en) * 1996-06-20 1999-09-21 Rutgers, The State University Of New Jersey Methods of screening foods for nutraceuticals
US5955275A (en) * 1997-02-14 1999-09-21 Arcaris, Inc. Methods for identifying nucleic acid sequences encoding agents that affect cellular phenotypes
US6132997A (en) * 1999-05-28 2000-10-17 Agilent Technologies Method for linear mRNA amplification

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2007513399A (ja) * 2003-10-10 2007-05-24 バイオフィジカル コーポレーション 生化学画像の生成及びその使用方法

Also Published As

Publication number Publication date
WO2001071027A3 (en) 2003-10-09
EP1728874B1 (en) 2012-09-26
EP1370683A2 (en) 2003-12-17
EP1728874A1 (en) 2006-12-06
AU4250901A (en) 2001-10-03
CA2402534C (en) 2011-05-24
ES2264440T3 (es) 2007-01-01
US20040029124A1 (en) 2004-02-12
US7229760B2 (en) 2007-06-12
DE60120501D1 (de) 2006-07-20
ATE329060T1 (de) 2006-06-15
DE60120501T2 (de) 2007-01-11
WO2001071027A2 (en) 2001-09-27
DK1370683T3 (da) 2006-10-02
AU2001242509B2 (en) 2007-08-23
CA2402534A1 (en) 2001-09-27
IL151872A0 (en) 2003-04-10
EP1370683B1 (en) 2006-06-07

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP2004508010A (ja) mRNA増幅
US20210199660A1 (en) Biomarkers of breast cancer
EP1064404B1 (en) P53-regulated genes
Porkka et al. RAD21 and KIAA0196 at 8q24 are amplified and overexpressed in prostate cancer
Qiu et al. Down-regulation of growth arrest DNA damage-inducible gene 45β expression is associated with human hepatocellular carcinoma
US20030138793A1 (en) Molecular signatures of commonly fatal carcinomas
EP0791074B1 (en) Method for the detection of ras oncogenes, in particular the k-ras ancogene
AU2001242509A1 (en) mRNA amplification
JP2006246892A (ja) 成人臓器及び胎児臓器中の発現プロフィール
US6258536B1 (en) Expression monitoring of downstream genes in the BRCA1 pathway
JP2010046073A (ja) 動的遺伝子発現プロファイリング方法及びシステム
US20170298441A1 (en) Use of clonal evolution analysis for ibrutinib resistance in chronic lymphocytic leukemia patients
Neumann et al. Identification of differentially expressed genes in rheumatoid arthritis by a combination of complementary DNA array and RNA arbitrarily primed‐polymerase chain reaction
JP2003245072A (ja) シグナル伝達経路の決定
JP2004517602A (ja) 複雑性の減少した核酸標的およびその使用方法
US20100144555A1 (en) Qualitative differential screening
Cox Applications of nylon membrane arrays to gene expression analysis
Schreuder et al. Mutual exclusion of t (11; 18)(q21; q21) and numerical chromosomal aberrations in the development of different types of primary gastric lymphomas
Aberger et al. Analysis of gene expression using high-density and IFN-γ-specific low-density cDNA arrays
JP2004535776A (ja) ラット毒性関連遺伝子及びその使用
Zogakis et al. Microarray gene expression profiling of angiogenesis inhibitors using the rat aortic ring assay
JP2002505852A (ja) 化合物をスクリーニングするための遺伝子発現方法
US7091033B2 (en) Array of toxicologically relevant canine genes and uses thereof
JP2003528114A (ja) インターフェロンγシグナル伝達経路のモジュレータの同定および再狭窄治療におけるそれらの使用
RU2286798C2 (ru) Способ идентификации хромосомных транслокаций, приводящих к развитию злокачественных заболеваний крови (лейкозов), с использованием олигонуклеотидного биологического микрочипа (биочипа)