JP2004502276A - 飛行時間型質量分析計配列装置 - Google Patents

飛行時間型質量分析計配列装置 Download PDF

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Abstract

飛行時間型質量分析計(TOF−MS)配列装置を提供する。配列装置の各TOF−MSは、(1)メンテナンスフリーの設計にて非常に高い抽出エネルギーを使用することが可能なグリッドレス、フォーカスイオン化抽出装置、(2)ロール状のフレキシブル回路板材料を使用した金属被膜ガラス繊維フレキシブル回路板反射器、および(3)同軸設計に固有のノイズ(または「共鳴」)を著しく減少させる中心孔マイクロチャネルプレート検出装置としての低ノイズを含んでいる。多様なデータ収集工程によってアレイの各TOF−MSの処理能力を非常に高めるために、小型TOF−MSは複数の質量分析器、例えば複数のTOF−MSを平行方式で稼動する単一のアレイに束ねることができる。TOF−MS配列装置のより好ましい実施形態は、16のTOF−MSユニットを一体としたものであり、これは8ユニットの群を鏡像として配置したものである。

Description

(発明の背景)
1.発明の分野
本発明は、飛行時間型質量分析計(TOF−MS)配列装置に関する。配列装置の各分析計は、(1)グリッドレス(gridless)、メンテナンスフリーの設計で非常に高い抽出エネルギーを使用することができるフォーカスイオン化抽出装置(focusing ionization extraction device)と(2)低ノイズ(low−noise)、同軸設計固有のノイズ(または「共鳴」)を著しく減少させる中心孔マイクロチャネルプレート検出装置(center−hole microchannel plate detector assembly)と(3)製造が容易であり非常に頑丈な設計である金属被膜ガラス繊維フレキシブル回路板反射器(fiberglass−clad flexible circuitboard reflector)とを含んでいる。回路板反射器は、従来の反射型TOF−MSデザインと比べて、配列されたTOF質量分析器の構成のための技術の簡易化を可能にする。
【0001】
2.関連技術の説明
小型の飛行時間型質量分析計(TOF−MS)は、本来有する容易性および高耐久化の可能性により、多様な分野での携帯使用や遠隔試料採取アプリケーション(remote sampling applications)使用の可能性を有している。しかしながら、従来の知識では、小型のTOF−MSは、優れた分解能あるいは生成イオンの検出能力および同定能力による測定といった高い性能を実現するための十分なドリフト長を得ることができない。
【0002】
拡張されたドリフト領域(および、それによる長い飛行時間)の利点が無いと、小型TOF−MSの優れた分解能は、イオンピークが非常に狭い場合にしか実現できない。従って、イオンピークの幅に影響する小型分析器およびイオン化工程の全ての局面において、フィールドポータブル小型TOF−MSの全ての性能を改善するために広幅化している最小ピークを最適化しなければならない。
【0003】
市販のショートパルスレーザおよび高速瞬間デジタル装置(fast transient digitizer)は、とても狭いイオン信号の生成および測定が可能である。しかし、イオン源領域、反射器の性能、および検出器の応答は、共に最終ピーク幅に寄与する。このために、全ての性能を改良した小型TOF−MSを開発するための構成部分が必要である。
【0004】
さらに、高い処理能力のために、TOF質量分析計は、自動分析に使用する主要な分析技術となっている。しかしながら、大きく単一分析器のTOF−MSは、サンプル担体、主として数百または数千の試料部位のアレイを有するシリコンチップまたは膜、を「読み取る」ためのみに使用されている。これら市販の大きいTOS−MSは、高価であると共に遅く、単一の質量分析器だけに、1つのTOF−MSにつき一つのサンプル基板である。
【0005】
従って、多様なデータ収集工程によってTOF−MSアレイの処理能力をかなり高めるために、複数の質量分析器、例えば複数のTOS−MS、を並列方法で可動する単一のアレイに束ねることのできるTOF−MS装置が必要である。このように配列されたTOF−MSの構成は、上述した上記構成部分の利用によりとても容易となる。
【0006】
(発明の概要)
本発明は、飛行時間型質量分析計(TOF−MS)アレイ装置を提供する。アレイ装置の各TOF−MSは、(1)グリッドレス、メンテナンスフリーの設計で非常に高い抽出エネルギーを使用することができるフォーカスイオン化抽出装置と(2)ガラス繊維殻に包まれ、ロール状のフレキシブル回路板材料を使用しているフレキシブル回路板反射器と(3)低ノイズ、同軸設計固有のノイズ(または「共鳴」)を著しく減少させる中心孔マイクロプレート検出装置とを含んでいる。ここに記載した構成部分は、TOF−MS全体の性能を改良する。これら構成部分は、耐久性とTOF−MS操作のための構成容易性に対して払われる特定の特別な労力を持って開発された。
【0007】
TOF−MS配列装置は、多様なデータ収集工程によってTOF−MSアレイの処理能力をかなり高めるために、複数の質量分析器、例えば複数のTOF−MS、を並列方法で可動する単一のアレイに束ねることが可能である。TOF−MS配列装置の可能な実施形態は、8ユニットの鏡像束において配置されている16個のTOF−MSユニットが一体となっている。
【0008】
(好ましい実施形態の説明)
小型飛行時間型質量分析計(TOF−MS)(セクションI)の発明の構成部分を第1に記述する。発明の構成部分は、(1)グリッドレス、フォーカスイオン化抽出装置と、(2)ガラス繊維が金属被覆されたフレキシブル回路板反射器と、(3)ピンアノードに使用する中心孔マイクロチャネルプレート検出装置とを含んでいる。セクションIIにおいては、製造され発明の構成部分の性能の評価に使用された実験用TOF−MSについて記述する。セクションIIIにおいては、セクションIにて記述したTOF−MSと同様のTOF−MSを複数備えたTOF−MSアレイ装置について記述する。セクションIVには結論を記述する。
【0009】
I.計器類
A.グリッドレス、フォーカスイオン化抽出装置
表面からレーザ脱離されたイオンの収集効率上昇のために、本発明のグリッドレスフォーカスイオン化抽出装置を記述する。イオン化抽出装置は図1Aに示されており、参照数字100により一般的に描かれている。装置100は、約17〜25mmの好ましい長さを有しており、ハウジング115により定義された、遮るもののない中央容器105内に装備された一連の密接に配置されたマイクロシリンダ110a〜cを備えている。ハウジングは、一種または数種の絶縁材料、例えばセラミック、テフロン(登録商標)、プラスチック、より好ましくはPEEKプラスチックのような絶縁材料から構成されている。
【0010】
マイクロシリンダ110a〜cは、ステンレス鋼等の金属材料から構成されており、厚さの範囲を変えることができる。さらに、各マイクロシリンダは異なる厚さを有していてもよい。マイクロシリンダ110は、図1Bにより描写されたポテンシャルエネルギープロットにより示されるように、非常に高いイオン加速/抽出フィールド(10kV/mmまで)を、平らなサンプルプローブ130および抽出マイクロシリンダ110aの間の領域120に生成する。
【0011】
イオンは、レーザ切断またはレーザ脱離/イオン化補助マトリクス(MALDI)によって、領域120で生成される。そして、イオンは、領域120においてイオン加速/抽出フィールドによって加速される。
【0012】
イオンは、抽出マイクロシリンダ110aおよび中央のマイクロシリンダ110b間の遅延フィールド領域150において遅くなる。遅延フィールド領域150は、イオンビームの平行化およびイオン速度の減速の双方の役目をする。イオンは、中央のマイクロシリンダ110bをまっすぐ通過し、イオンは再び加速される(図1Bにより示されるように3kV/mmまで)。
【0013】
マイクロシリンダ110a〜cを通過した後、イオンは容器105のドリフト領域160に入る。ドリフト領域のポテンシャルエネルギーは、図1Bにより描写され、数字160’により参照されるポテンシャルエネルギープロットによって示されるように、約0kV/mmである。図1Bの参照数字170は、装置100を通過するイオンの軌道を示している。
【0014】
一連のマイクロシリンダ110a〜cは、脱離工程の間に発生するイオンの放射状の分散による損失を最小化する。本発明のイオン化抽出装置100は、非常に高い抽出フィールド120を利用しているにもかかわらず、イオンはドリフト領域160に入る前に遅くなり、従って、より長いドリフト時間(あるいは飛行時間)となり、それゆえにドリフト領域160中のイオンの分散が増加する。
【0015】
さらに、イオン化抽出装置100の性能は、例えばグリッドのような、イオンの経路に障害となる要素を使用しないことで達成され、従来技術においては、定期的なメンテナンスが必要であるとともに、特に抽出マイクロシリンダ110aの前で、グリッド線に起因したフィールドの不均等性を原因とする透過損および信号損を除いている。
【0016】
B.フレキシブル、回路板反射器
イオン反射器は、30年前に開発されて以来、多くのTOF−MSの標準的な部材となっている。反射器の性能は電位勾配の修正により改良される一方で、機械的製作は、ほとんどの場合、実験器具である積み重ねられたリングに基づいている。このような設計において、金属のリングは、各リングと隣のリングとを分離する絶縁スペーサであるセラミックロッドに沿って積み重ねられている。これは、大きな反射器の構成には満足するものであることを証明する一方、遠隔TOF質量分析器の新しい応用には、小型化された構成部分、高耐久化された構成、低重量材料、および質量生成のためのポテンシャルが必要される。
【0017】
このため、図2Aおよび2Bに示され、また参照数字200により一般的に表された本発明のイオン反射器は、プリント回路板技術の精度や薄く可動な基板の物理的多様性を利用して開発された。一連の薄い銅トレース(幅0.203mmで厚さ0.025mm)210は、平らにエッチングされ、2つの末端から突出しているツメ225を有するフレキシブル回路基板220となる(図2B)。回路基板220は、反射器体を形成するために、銅トレース210が内側を向くようにチューブ230(図2A)に巻かれ、電位勾配を定義する隔離されたリングを形成する。
【0018】
銅トレース210の厚みおよび間隔は、エッチング工程の間に基板シート220のコンダクタパターンを単に変化させることにより修正することができる。この特徴は、正確に反転した非直線電位勾配の生成に特に有用であり、放物線状または曲線状フィールドの反射器に欠かせないものである。図2Aおよび2Bに示された回路基板220のトレースパターンは、トレース210の間隔における正確な勾配を表している。このように、結果として生じる反射器において、曲線状のポテンシャル勾配は、電圧分配回路網のために同じ値の抵抗器を使用することによって生成される。
【0019】
本研究(セクションII参照)にて報告されたデータに関する反射器は、同間隔の銅トレース210を有する回路板から構成される。
【0020】
一度エッチングされると、回路基板220は、図2Aに示すようなチューブ状を形成するために回転軸(図示せず)の周囲に巻かれる。5層のガラス繊維シート(各厚さは約0,25mm)は、ロール状回路基板220の周囲に包まれる。基板220の曲線状端部の長さは、回転軸の外周とほぼ等しい。シートがロール状回路板の周囲に包まれると、伸長可能な回路板内部の接続部端240を通して僅かな開口部が残る。各連続的なシートの位置は、前のシートに関して僅かにオフセットする。その結果、次第に昇る「傾斜路」が形成され、フレキシブル回路基板220を回転軸から離して案内する。
【0021】
反射装置は、回転軸の移動に伴って、150℃の加圧下で約2時間加熱される。完成したロール状反射装置の壁の厚さは、約1.5mmである。マルチピン(好ましくは50ピン)のリボンケーブル接続部250は、突出している回路板ツメ260とはんだとで付けられ、電圧分配抵抗回路網は、反射器と接続することができる。表面実装された抵抗器のためにはんだで付けられたパッドは、回路板配置に設計することができ、電圧分配回路網を直接的に反射装置上に組み入れることが可能である。
【0022】
最後に、ポリカーボネートエンドキャッププラグ(図示せず)が、装置を支持すると共にグリッド端部を加えるための面を形成するために、ロール状反射器チューブ230の端部にはめ込まれる。減圧試験は、回路板およびガラス繊維集合が、10−7(torr)範囲で減圧レベルに達することで適合することを示している。
【0023】
反射器200は、本出願と共通の代理人によって1999年8月16日に出願された、米国仮特許出願番号60/149,103に開示されている。
【0024】
C.中心孔マイクロチャネルプレート検出装置
小型TOF質量分析計にとって、中心孔(同軸)形状は、非常に望ましい配置である。それは全体設計の簡素化を可能とし、最もコンパクトな分析器を可能とするからである。しかしながら、従来の中心孔マイクロチャネルプレート検出装置の乏しい信号出力特性(特に信号の「共鳴」の問題)は、ベースラインを乱れさせ、結果として逆に装置のダイナミックレンジに影響する。この制限は、高性能の小型TOF装置の実現機会を著しく減少させ、ベースラインノイズによって低強度のイオンピークが不明瞭となる。それゆえに、中心孔チャネルプレート検出器のアナログ信号特性の改善は、特にダイナミックレンジにおける質量分析計の最高性能を上昇させる。
【0025】
市販の同軸チャネルプレート検出器は、マイクロチャネルプレートによって生成された電子のパルスを収集するためのディスク形状の中心孔アノードに依存している。このアノードは、通常はチャネルプレートの直径と一致しており、それによって、理論上は電子収集効率を最大化する。しかしながら、中心孔アノードは、接地して配置された封入物(grounded mounting enclosure)の中に異質のキャパシタンスを生成する。中心孔アノードは、デジタルオシロスコープの50Ω信号ケーブルに接続されると、不適当な組み合わせの重大なインピーダンスをも生成する。結果として生じる共鳴は、ベースライン信号の高周波数成分の添加によって、飛行時間型のスペクトルを分解し複雑化する。さらに、ディスク形状のアノードは、例えばターボ分子ポンプ制御装置により生成されるように、周辺環境から離れた高周波数を収集するためのアンテナとして作用する。
【0026】
図3Aおよび3Bに示され、参照数字300によって一般的に表されるように、本発明の中心孔マイクロチャネルプレート検出装置のピンアノード設計は、検出装置300の全体性能を実質的に改良するために作られている。感度を高めるために、装置300は、グランドレベルに維持されたエントランスグリッド310を有するクランプリング305を含んでいる一方で、中心孔マイクロチャネルプレートアセンブリ320(図3B)の前面313を約−5kVに設定し、後段加速されたイオンを5kVに設定する。プレートアセンブリ320は、4つの構成部分を含んでおり、それらは、後部伝導性リング320a、後部チャネルプレート320b、前部チャネルプレート320c、および前部伝導性リング320dである。伝導性リング320a・320dは、当然に、チャネルプレート320b・320cに電圧を印加する電極として作用する。
【0027】
クランプリング305は、内側のリング325にボルトで留められている。内側のリング325は、中心から伸びているチューブ332と外側面336を取り囲んでいるシールド34とを有する円柱形台330にボルトで留められている。シールド334は、例えばアルミニウムやステンレス鋼箔といった、いくつかのタイプの伝導性材料から製造される。後部伝導性リング320aは、円柱形台330によって定義されるリップ338の上に載っている。チューブ332は、検出装置300の中心軸340に沿って位置している。
【0028】
電圧分配抵抗器を使用することで、後部伝導性リング320aは、図3Bに示されるように約−3kVに維持される。収集ピンアノード350が検出装置300から絶縁されているので、電位はオシロスコープの前端増幅器により決められる(名目上グランド)。このように、プレート集合320の後部伝導性リング320aから放出された電子は、アノードの大きさ、形状、または位置に関係なく接地したアノード350に向かって加速され、ピンアノード350によって収集される。ピンアノード350は、後部伝導性リング320aの後側約5mmに位置されている。
【0029】
ピンアノード350は、検出装置320aの全体性能を著しく改善するということが実証されている。ピンアノード350は、オシロスコープの50オーム信号ケーブルおよびピンアノード350間のインピーダンスの不一致をほぼ完全に除去する。
【0030】
図4は、従来のディスクアノード形状とピンアノード構造とにおける単一イオン検出器の反応を比較している。図4から明らかなように、共鳴は著しく減少し、また単一イオンパルス幅は、本発明のピンアノード構造を使用したときには、アノードキャパシタンスの減少によって500ps/pulse未満の値に減少し、測定値(1.5GHz:8Gsamples/sec)を用いたオシロスコープのアナログ帯域幅によって制限される。さらに、不要ノイズを原因として生じる飛行時間データにおけるバックグラウンド信号は、ピンアノード構造を使用すると非常に静かになることが分かる。
【0031】
II.結果
図5は、参照数字500により一般的に描かれたTOF−MSを示しており、これは発明の構成部分、すなわちフォーカスイオン化抽出装置100、フレキシブル回路板検出器200、およびマイクロチャネルプレート検出装置300を有している。全体のTOF−MSの全長は、約25cmである。例えば窒素レーザのようなレーザ510は、獲得MALDIおよびレーザ切断スペクトルに使用される。レーザ510は、レーザビーム520を出射し、レーザビームは、2つの鏡530a・530bを使用しているTOF−MS500をまっすぐ通り抜ける。TOF−MS500は、減圧容器525に包まれている。また、TOF−MS500は、レーザビーム520が発明の構成部分により決められた中心の軌道を通り抜けるような位置に、金具/ロッド一式によって備え付けられている。実証研究において、飛行時間データは、スペクトル獲得ソフトと組み合わせて使用されたLeCroy9384デジタルオシロスコープ(1GHz:2Gsam/s)から得られた。
【0032】
様々な異なるタイプのサンプルがTOF−MS500の性能試験に使用された。サンプルは、滑らかな脱離面を保証するために調製された。図6Aは、20の連続的なレーザショットが得られ平均される、きれいな鉛はんだ箔面から得られたまっすぐなレーザ脱離信号を示している。多量の鉛および少量のスズ成分の等方性分布は、きれいに分離する。最大半減は、5nsレーザパルス幅(分解能m/Δm=1000)とほぼ等しい。
【0033】
図6Bは、マトリクスとしてα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸を使用したアンジオテンシンIIの平均化されたMALDIスペクトル(25レーザショット)を示している。1074DaでのMHピークの等方性分離は、1500以上の分解能を表している。
【0034】
III.TOF−MSアレイ
図7には、8個のTOF−MS710のアレイを有するTOF−MSアレイ装置の透視幻影図が示されている。各TOF−MS710は、TOF−MS500と同様の構成部分を有している。すなわち、各TOF−MS710は、好ましくは、上述のイオン化抽出装置、ピンアノードを有するマイクロチャネルプレート検出装置、および金属被膜ガラス繊維フレキシブル回路板反射器を備えている。
【0035】
TOF−MS710は、当然に、減圧ポンプ式システムによって作動する減圧容器720に包まれている。シリコンチップまたは膜730のアレイ、または他のタイプのマルチサンプル基板は、減圧容器720の内側面に備えられている。TOF−MSアレイ装置700は、別の8個のTOF−MS710アレイ(図7に示す8個のアレイ)の鏡像を含んでいてもよく、これにより連続的なアレイを提供できる。
【0036】
各TOF−MS710は、ロッド754、ロッド固定具756および前部壁750aから突出している取付具前部758aを有する取付部品752により減圧容器720の前部壁750aの位置に保持されている。
【0037】
当然に、レーザおよび光学システムにより生成されたレーザビーム760は、TOF−MSアレイ装置700の稼動の間、前部壁750aの中央開口部を介して減圧容器720に入る。レーザビーム760は、複数のビームに分かれる。各ビームは、対応するTOF−MS710の中心軸を通って、例えば鏡やレンズといった光学によって定方向とされ、全てのTOF−MS710を同時に稼動させる。レーザおよび光学システムは、微細なサンプルの検査のために、短いレーザおよびきちんと焦束されたビームを生成することが可能なNi−YAGレーザシステムからエネルギーが供給されたダイオードであることが好ましい。
【0038】
上記アレイから得られた飛行時間データは、複数の並列処理装置を有するデータを取得および分析するハードウェア(すなわち配列過渡デジタル装置(arrayed transient digitizers))並びにデータの獲得および処理のために設計されたソフトウェアモジュールによって並列処理される。第1に、複数のTOF−MS710のそれぞれのTOF−MS710に対応する獲得データが、複数の並列処理装置の対応する処理装置から供給される。第2に、複数のTOF−MS710のそれぞれに対応する獲得データは、複数の並列処理装置によって同時に処理される。
【0039】
図8は、参照数字800にて一般的に表された4つのチャネルのTOF−MSアレイ装置を示す断面図である。各TOF質量分析器805は、TOF−MS500と同様である。すなわち、各TOF−MSは、好ましくは、図7を参照しながら上述したイオン化抽出装置830、ピンアノード850を有するマイクロチャネルプレート検出装置、および金属被膜ガラス繊維フレキシブル回路板反射器860を備えている。
【0040】
この「クオードアレイ(quad array)」構造において、4つのサンプル基板は、減圧容器815内の減圧コンパチブルXY変換台820上に備え付けられたサンプルキャリア810上に設置される。各質量分析器805は、サンプルキャリア810の4区分のうちの一つを分析するように調整される。レーザ870、好ましくは355nmの光を生成するために調整されたNd−YAGレーザは、回路板反射器860の中心に集中し、マイクロチャネルプレート検出器850、減圧分離弁840、グリッドレスを通過し、イオン源830に焦点を合わせてサンプル基板上に焦束する。
【0041】
この好ましい実施形態において、高パワーパルスレーザは、ビーム分配器880を使用して4つのビームに分けられる。4つ全てのビームは、4区分のそれぞれに位置するサンプル面に同時に衝突する。CCDカメラ890は、優れた調整および診断上の有用性のためのレーザサンプル相互作用領域を監視するために置かれている。減圧は、減圧容器815の反射領域内において、サンプルキャリア810の変更作業の間、分離ボール弁840を閉じることにより維持される。XY変換台820が増加して移動するにつれて、4つのTOF測定は、TOF−MSアレイ装置700について上述した方法と同様に4つのサンプルアレイ区分を同時に実行および分析することができる。すなわち、各4区分から得られたデータは、複数の並列処理装置の対応する処理装置に供給される。複数の質量分析器805の対応するそれぞれの取得データは、複数の並列処理装置によって同時に処理される。
【0042】
TOF−MS710・805は、共に一つのコンパクト装置に束ねられ、並列処理利用に関して知られた技術の制御エレクトロニクスによって同時に稼動される。装置700・800は、当然に、シリコンチップ、膜またはいくつかのサンプル基板のアレイ上に析出した生物系サンプル(例えばDNA、蛋白質またはペプチド)の非常に高い分析処理能力のために設計されており、多チャネル分析の極めて望ましい特徴を可能にする。著しい製造費用節約は、単一の装置に高価な構成部分をより効率的に使用しているTOF−MSアレイ装置700・800によって実現される。これらは減圧容器システム、レーザおよび光学システム、減圧コンパチブル変換台、データ取得および分析ハードウェア、並びに制御エレクトロニクスを含んでおり、これらの全てはTOF−MSアレイ装置700・800を補助するためのハードウェア単体として必要である。
【0043】
さらに、配列TOF−MSアレイ装置700・800の非常に望ましい性能は、特定のサンプルの分析の分析信頼水準を大きく上昇させる可能性である。並列データ収集の1つのモードにおいて、各分析器710・805は、単一のサンプルの多様な析出を同時に行うことができるような異なる実験条件に調節される。例えば、1つの分析器710・805を、ポジティブイオンモードにてデータ収集できるように構成し、第2の分析器710・805を、ネガティブイオンモードにてデータ収集できるように調節する。第3および第4分析器710・805の組は、同様にポジティブモードおよびネガティブモードに調節することができるが、異なるMALDIマトリクス調製下でのサンプルの検査に使用することができる。
【0044】
このように、多種多様の実験条件は、単一スペクトルを収集するための従来のTOF−MS分析器によって必要とされた同時期に単一サンプルの多様な析出を急速に行うことができる。主な時間節約は、並列データ収集および多数の連続的測定値のための単一チャネル質量分析器の構成変更の際に必要とされた時間の完全な削減と同様に達成される。
【0045】
いくつかの応用において、分析の冗長性は、分子種の同定において高い信頼レベルを確実にすることが要求される。このケースのために、全てまたは多数の分析器は、特定化合物の質量スペクトルデータの多数のコピーを生成するために同じ実験条件に調節することができる。このように、同定または性質決定の非常に高い信頼性レベルは、単一チャネルTOF−MS装置によって必要とされた時間の分割にて達成される。
【0046】
IV.結論
革新的な小型飛行時間型質量分析計500は、グリッドレス、フォーカスイオン化抽出装置100、金属被膜ガラス繊維フレキシブル回路板イオン反射器200、および中心孔マイクロチャネルプレート検出装置300を使用することにより開発された。TOF−MS500を使用した実証研究は、TOF−MS500が、多くの従来の同軸型TOF−MS装置の問題の特徴である、非常によい分解能および低バックグラウンドノイズでスペクトルを生成することが可能であることを表している。その結果、TOF−MS500にて得られたデータのバックグラウンドノイズが大いに減少し、分解能は改善され、そして安価で頑丈なパッケージのTOF−MS500を大量生産する可能性をも示している。
【0047】
TOF−MS装置700・800は、TOF−MS500と同様の構成部分を有する複数のTOF−MS710・805を有していることが明らかにされた。TOF−MSアレイ装置は、何よりも、複数の質量分析器、例えば複数のTOF−MSを並列方式にて稼動する単一のアレイに束ねることが可能である。これは、データ収集工程が多様となるために、アレイの各TOF−MSの処理能力を非常に高める。しかしながら、並列処理装置のこの配置の最も大きい利点の1つは、決定的な障害であるデータ収集時間の著しい削減である。
【0048】
さらに、小型マルチチャネル装置のスペース節約は、実験室スペースのより効率的な使用を可能とし、そして有効な製造費用節約は、単一の装置に高価な構成部分をより効果的に使用することにより実現できる。これらは、減圧システム、レーザおよび光学システム、減圧コンパチブル変換台、データ獲得および分析ハードウェア、並びに制御エレクトロニクスを含んでおり、全てが本発明のTOF−MSアレイ装置を補助するためのハードウェア単体に必要である。
【0049】
この中の記述は、単に本発明の原理の応用を説明したものである。例えば、上述の機能や本発明の実施のためのベストモードである装置は、説明するためのみを目的としている。他の配置および方法は、本発明の範囲および精神から離れることなく本技術によって実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1Aは、本発明によるTOF−MSのためのグリッドレス、フォーカスイオン化抽出装置の断面図であり、図1Bは、グリッドレス、フォーカスイオン化抽出装置により生成された電場のポテンシャルエネルギーを示す図である。
【図2】
図2Aは、本発明によるロール形状のフレキシブル回路板反射器の透視図であり、図2Bは、ロール形状でないフレキシブル回路板反射器の平面図である。
【図3】
図3Aは、本発明による中心孔マイクロチャネルプレート検出装置の透視図であり、図3Bは、中心孔マイクロチャネルプレート検出装置の内部構造の断面分解図である。
【図4】
図4は、従来のディスクアノード検出装置からの単一イオン信号による検出反応波形、およびピンアノードを有する中心孔マイクロチャネルプレート検出装置による検出反応波形を示す図である。
【図5】
図5は、本発明によるグリッドレス、フォーカスイオン化抽出装置と、フレキシブル回路板反射器と、中心孔マイクロチャネルプレート検出装置とを備えたTOF−MSの断面図である。
【図6】
図6Aおよび6Bは、発明の構成成分を備えたTOF−MSを使用して収集された、はんだ箔およびアンジオテンシンIIのスペクトルである。
【図7】
図7は、本発明による、8個のTOF−MSを備えたTOF−MSアレイ装置の透視幻影図である。
【図8】
図8は、本発明による、4個のTOF−MSを備えたTOF−MSアレイ装置のより好ましい実施形態を示す模式的断面図である。

Claims (25)

  1. 複数の飛行時間型質量分析計(TOF−MS)のアレイと、
    上記複数のTOF−MSのアレイを囲い、レーザビームが通過するための開口部を定義する減圧容器と、
    上記減圧容器内で複数のTOF−MSのアレイのそれぞれを備え付けるための少なくとも1つの取付部品とを備えた飛行時間型質量分析計配列装置。
  2. 質量分析法によって分析される少なくとも1つの物質を供給する手段をさらに備え、上記供給手段が減圧容器内にある請求項1に記載の飛行時間型質量分析配列装置。
  3. 供給手段は、シリコンチップ、膜、およびマルチサンプル基質から成る分類から選択される請求項2に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  4. 鏡像構造の中で複数のTOF−MSに対して与えられたもう一つの複数のTOF−MSのアレイをさらに備えている請求項1に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  5. 上記複数の各TOF−MSのアレイは、
    イオン化抽出装置と、
    装置の少なくとも一部を通って伸びているチャネルを有するマイクロチャネルプレート検出装置と、
    その中で、上記チャネルを上記イオン化抽出装置の中央軸および上記反射器の中央軸と一直線に配置された回路板反射器とを備えている請求項1に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  6. イオン化抽出装置は、中央容器を通過するようにイオンを案内するためのさえぎるもののない中央容器を定義する請求項5に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  7. 上記マイクロチャネルプレート検出装置は、円柱状台を含んでおり、該円柱状台は、上記装置の少なくとも一部を通じて伸びているセンターチューブと、上記円柱状台から伸びており、センターチューブの近接に位置しているピンアノードとを有している請求項5に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  8. 上記マイクロチャネルプレート検出装置は、インナーリングと接続されたエントランスグリッドを有する締め付けリングを備えており、上記インナーリングは、円柱状台の外側面と接続されている請求項7に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  9. 一連のマイクロチャネルプレートを有するマイクロチャネルプレート装置は、円柱状台のインナーリングとセンターチューブとの間に備えられている請求項8に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  10. 上記円柱状台の外側面は、絶縁材料を含んでいる請求項8に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  11. 上記ピンアノードが円柱状台の後部から伸びており、上記ピンアノードが上記マイクロチャネルプレート装置から出射された電子を収集するために構成されている請求項9に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  12. 上記イオン化抽出装置は、イオンを加速する第1領域と、イオンを平行にし、イオン速度を減少させるために、イオンを減速する第2領域とを含んでいる請求項6に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  13. 上記第1領域は、イオンを加速するためのイオン加速/抽出フィールドを形成する請求項12に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  14. 上記生成されたイオン加速/抽出フィールドは、10kV/mmに達する、請求項13に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  15. 上記イオン化抽出装置は、イオンを分散させるための第3領域を含み、約0kV/mmの電場測定値を有している請求項12に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  16. 上記イオン化抽出装置は、第1領域から第2領域へイオンを通過させるための容器内に備えられた複数のマイクロシリンダを備えている請求項12に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  17. 上記マイクロシリンダは、金属製である請求項16に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  18. 上記第1領域および第2領域の間に少なくとも2つの領域をさらに有し、上記少なくとも2つの領域は、第1領域および第2領域と比べて異なる電場測定値を有している請求項12に記載の飛行時間型質量分析計配列装置。
  19. 複数の飛行時間型質量分析計(TOF−MS)のそれぞれに対応するTOF−MSの取得データを複数の並列処理装置の対応する処理装置に供給する工程と、
    上記複数の並列処理装置によって、上記複数のTOF−MSのそれぞれに対応する取得データを同時に並列処理する工程とを含む、
    複数のTOF−MS分析計のアレイを用いて取得されたデータを並列処理する方法。
  20. 複数のTOF−MSのうちの各TOF−MSをサンプルキャリアの複数部分の1つに配置する工程をさらに含む請求項19に記載の方法。
  21. 1つのレーザビームを複数のレーザビームに分光する工程と、
    上記複数のレーザビームのそれぞれを、サンプルキャリアの複数部分の各部分に向ける工程とをさらに含む請求項20に記載の方法。
  22. サンプルキャリアの複数部分の各部分で、上記複数のレーザビームのそれぞれの相互作用をモニタリングする工程をさらに含む請求項21に記載の方法。
  23. 上記モニタリングする工程は、少なくとも1つのカメラを用いて行われる請求項22に記載の方法。
  24. 上記複数のTOF−MSのうち、他のTOF−MSと比べて異なる実験条件となるように、上記複数のTOF−MSのそれぞれを調整する工程をさらに含む請求項19に記載の方法。
  25. ポジティブイオンモードにおいてデータを得るために、上記複数のTOF−MSのうちの少なくとも1つを調整する工程と、
    ネガティブイオンモードにおいてデータを得るために、上記複数のTOF−MSのうちの少なくとも1つを調整する工程とをさらに含む請求項19に記載の方法。
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