JP2004359557A - シラノール基含有化合物、その製造方法、シラノール基含有化合物の水溶液、表面処理剤およびガラス繊維 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の課題は、水溶液の状態で長期間保存した場合であっても、シラノール基含有化合物同士の縮合が一定割合以上進行することなく安定な状態を保持し得るシラノール基含有化合物を提供することである。また、中和反応によって得られる化合物の水溶液を酸性にすることなく、該中和反応によって得られる化合物を完全に加水分解することが可能なシラノール基含有化合物の製造方法を提供することである。
【解決手段】一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物。
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立にH、水酸基または炭素数1〜4のアルキルであるけれども、R1およびR2がともに水酸基であることはなく、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
【選択図】 なし。
【解決手段】一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物。
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立にH、水酸基または炭素数1〜4のアルキルであるけれども、R1およびR2がともに水酸基であることはなく、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
【選択図】 なし。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シラノール基含有化合物とその製造方法、シラノール基含有化合物の水溶液、シラノール基含有化合物を含有する表面処理剤、さらに該表面処理剤で表面処理されたガラス繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
加水分解性シラン化合物は、各種基材の表面処理剤(シランカップリング剤など)として広く使用されており、通常その使用時には、それらが有する加水分解性基は予め加水分解される。
【0003】
一般に、加水分解性シラン化合物を加水分解すると、ケイ素原子に結合している加水分解性基に由来する揮発性有機化合物が発生する。したがって、加水分解後の加水分解性シラン化合物含有液は揮発性有機化合物を多量に含有することから、その取り扱い時には、有機溶剤中毒、引火、爆発等の危険性があるばかりでなく、該揮発性有機化合物が大気中に揮散して環境に負荷を与える可能性が高い。
【0004】
そのため、該加水分解性シラン化合物含有液の取り扱いにあたっては、作業者の健康を守り爆発等の災害を防ぐための教育を実施せねばならないし、取り扱うための特別な設備を必要とする。さらに、該取り扱いに伴って発生する廃水中にも揮発性有機化合物が含まれるので、これを処理するために大がかりな廃水処理設備を必要とする。
【0005】
そこでこれらの問題点を解決する手段として、加水分解性シラン化合物を予め水と反応させて加水分解し、発生する揮発性有機化合物を除去する方法が考えられた。例えば、アルコキシシランを加水分解し、発生するアルコールを除去した縮合物が開示されている(特許文献1参照。)。しかしながら、このアルコキシシランは、完全に加水分解しようとすると、該アルコキシシラン水溶液の粘度が高くなる。さらに場合によっては固化することもあるため、完全に加水分解されていながら安定である水溶液を得ることは困難であった。
【0006】
一方、該水溶液を酸性状態にすると、高粘度化もしくは固化させることなく該アルコキシシランを完全に加水分解することも可能である。しかし、該水溶液中における完全加水分解後のアルコキシシラン同士の縮合により、該水溶液の安定性が低下し、経時変化とともに白濁していた。すなわち、長時間安定した状態で保存することが困難であった。
【特許文献1】
特開2000−53683号公報
【0007】
【本発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の課題は、使用時に揮発性有機化合物が発生せず、かつ、水溶液の状態で長期間保存した場合であってもシラノール基含有化合物同士の縮合が一定割合以上進行することなく安定な状態を保持し得るシラノール基含有化合物を提供することである。また、中和反応によって得られる化合物の水溶液を酸性にすることなく、該中和反応によって得られる化合物を完全に加水分解することが可能なシラノール基含有化合物の製造方法を提供することである。さらには、該化合物の水溶液を提供することである。また、該化合物または該水溶液を含有する表面処理剤および該表面処理剤で表面処理されたガラス繊維を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前述の従来技術の課題に鑑み鋭意研究を重ねた。その結果、
下記一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物であれば、水溶液の状態で長期間保存した場合であっても、シラノール基含有化合物同士の縮合が一定割合以上進行することなく安定な状態を保持し、かつその使用時に揮発性有機化合物の発生しないシラン化合物が得られること、
さらに、下記一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物を、下記一般式(3)で表される化合物で中和した後、該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基を加水分解するシラノール基含有化合物の製造方法であれば、該中和反応によって得られる化合物の水溶液を酸性にすることなく、該中和反応によって得られる化合物を完全に加水分解することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の構成を有する。
(1) 一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物。
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立にH、水酸基または炭素数1〜4のアルキルであるけれども、R1およびR2がともに水酸基であることはなく、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
好ましくは、一般式(1−1)で表されるシラノール基含有化合物。
(式中、R1はHまたは炭素数1〜4のアルキルであり、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
【0010】
(2) 一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和することを特徴とする前記第1項記載の一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法。
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立にH、水酸基または炭素数1〜4のアルキルであるけれども、R1およびR2がともに水酸基であることはなく、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
好ましくは、一般式(2−1)で表されるシラノール基含有化合物を、一般式(3−1)で表される化合物で中和することを特徴とする前記第1項記載の一般式(1−1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法。
(式中、R1はHまたは炭素数1〜4のアルキルであり、R3炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
【0011】
(3) 一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物を、前記第2項記載の一般式(3)で表される化合物で中和した後、該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基を加水分解し、副生するアルコールを除去することを特徴とする前記第1項記載の一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法。
(式中、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、R4は炭素数1〜4のアルキルであり、pは1〜6の整数であり、nは0または1である。)
【0012】
(4)前記第1項記載のシラノール基含有化合物の水溶液。
(5)水溶液に対するシラノール基含有化合物の含有割合が、0.1〜70重量%の範囲である前記第4項記載の水溶液。
(6)水溶液に対するアルコール成分の含有割合が4重量%未満である前記第4項または第5項記載の水溶液。
【0013】
(7)前記第1項記載のシラノール基含有化合物を含有する表面処理剤。
(8)前記第4項〜第6項の何れか1項記載の水溶液を含有する表面処理剤。
(9)前記第7項または第8項記載の表面処理剤で表面処理されたガラス繊維。
【0014】
【発明実施の形態】
以下本発明を更に詳細に説明する。
【0015】
本発明は一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物である。
R1およびR2はそれぞれ独立にH、水酸基または炭素数1〜4のアルキルであるけれども、R1およびR2がともに水酸基であることはない。炭素数1〜4のアルキルは、直鎖のものであっても、分岐のものであってもよい。炭素数1〜4のアルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチルが挙げられる。R1およびR2としては、H、水酸基、メチルおよびエチルが好ましい。
【0016】
R1およびR2の具体的な態様を、後述の中和反応の一方の化合物である一般式(3)で表される化合物を用いて説明すると、ベンゼンスルホン酸、2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、3−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、2,4−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、2−メチルベンゼンスルホン酸、3−メチルベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2−エチルベンゼンスルホン酸、3−エチルベンゼンスルホン酸、4−エチルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。これらのうち、ベンゼンスルホン酸、2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、3−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸が好ましい。特に、ベンゼンスルホン酸および4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0017】
R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基である。R3は炭素数1〜8のアルキルが好ましい。炭素数1〜8のアルキルは、直鎖のものであっても、分岐のものであってもよいが、直鎖のアルキルであることが好ましい。炭素数1〜8のアルキルの具体例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルなどが挙げられる。これらのうち、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピルが好ましい。特に、メチルが好ましい。また炭素数6〜12の芳香族基は、フェニル、トルイル、キシリル、エチルフェニル、カルボキシフェニルなどが挙げられる。これらのうちフェニルが好ましい。
【0018】
pは1〜6の整数であるが、原料入手の容易さを考慮すると2〜4の整数であることが好ましい。特に好ましくは、pは3である。
mは0<m≦3の範囲の値である。但し、ここでいうmとは平均組成としての値を示すものである。本発明の一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物が単量体として存在する場合には、mは(3−n)の値をとり、整数となる。しかし、2量体、3量体等の多量体として存在する場合には、mは0<m<3の範囲の値となる。本発明の一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物は単量体または多量体として存在することは勿論、単量体と多量体との混合物としても存在する。また、縮合反応と加水分解反応が協奏的に起こるため、mは常に一定の整数値をとるわけではない。なお、mの値は一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液中の濃度により平均組成としてある一定値にあり、濃度が高くなるとmは小さくなり、濃度が低くなるとmは大きくなる。
nは0または1であるが、好ましくnは0である。なお、mが3の場合には、nは常に0である。
【0019】
本発明である一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物は、強酸であるスルホン酸と一級アミンとがイオン結合した化合物である。そのイオン結合強度は大きく、表面処理剤として使用したときには、表面処理剤の耐水性がよくなる。また、スルホン酸がイオン結合した化合物であるから、表面処理剤の耐酸性もよくなる。
【0020】
一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法は特に限定されるものではない。例えば、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和する方法を挙げることができる。また、一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和した後、該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基を加水分解し、副生するアルコールを除去する方法を挙げることもできる。
【0021】
一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法は、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和する方法であることが好ましい。具体的には、一級アミンとスルホン酸との中和反応(反応式1)である。
【0022】
一般式(2)で表される化合物に対する一般式(3)で表される化合物の割合(一般式(3)で表される化合物/一般式(2)で表される化合物)は、モル比で0.5〜1の範囲であることが好ましい。該割合が0.5以上であれば一般式(3)で表される化合物に由来する官能基の含有量が必要量を満たすため、官能性シランとしての性能を十分に発揮することができる。また、該割合が1以下であれば、一般式(3)で表される化合物の過剰分が残存しないため、表面処理剤としての性能が低下することはない。さらには、官能性シランとしての性能および中和後のpHを考慮すると、一般式(2)で表される化合物に対する一般式(3)で表される化合物の割合は、特に好ましくは0.7〜1の範囲であり、更に好ましくは0.9〜1の範囲である。
【0023】
(反応式1)で示される中和反応時の温度は0〜100℃の範囲であることが好ましい。温度は0〜80℃の範囲であることが特に好ましく、0〜60℃の範囲であることが更に好ましい。
(反応式1)で示される中和反応では中和熱が発生し温度が上昇することから、反応器を水浴等で冷却することが好ましい。また、中和熱の発生を押さえるため、一般式(2)で表される化合物に一般式(3)で表される化合物を少量ずつ滴下するという方法も好ましい。
【0024】
一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物は、一般式(4)で表されるアミノアルコキシシランと水とを反応させ、該反応において副生する揮発性有機化合物を留去する方法により製造することができる。なお、一般式(4)で表されるアミノアルコキシシランは、一般試薬として入手することができる。
【0025】
OR4が加水分解性基として作用するものであれば、R4は特に限定されるものではない。加水分解により生成する揮発性有機化合物の沸点が比較的低く、反応液からの該揮発性有機化合物の除去が容易であるという観点から、R4は炭素数1〜4のアルキルであることが好ましい。具体的には、メチル、エチル、i−プロピル、i−ブチルなどが挙げられる。特に好ましくは、メチルおよびエチルである。
【0026】
したがって、一般式(4)で表される化合物の具体例としては、4−アミノブチルメチルジメトキシシラン、4−アミノブチルメチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。これらのうち、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。特に3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0027】
一般式(4)で表されるアミノアルコキシシランと水との反応(加水分解反応)において、アミノアルコキシシランに対する水の割合(水(モル数)/アミノアルコキシシラン(モル数))はモル比で1.5〜10の範囲であることが好ましい。水の割合がアミノアルコキシシラン1モルに対し1.5モル以上であれば、該反応が充分に進行するので加水分解性基が残ることはない。また、該割合がアミノアルコキシシラン1モルに対し10モル以下であれば、加水分解反応後に実施する揮発性有機化合物の留去においてその効率が悪化することはない。
【0028】
該加水分解反応は0〜100℃の範囲内で行うことが好ましく、0〜80℃の範囲内で行うことが特に好ましく、0〜60℃の範囲で行うことが更に好ましい。
【0029】
該加水分解反応によって揮発性有機化合物が副生するが、本発明において使用する一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物は、該揮発性有機化合物の含有割合が低いものであることが好ましい。該含有割合は、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液に対して4重量%未満であることが特に好ましい。該割合が4重量%未満であれば、アルコール成分の蒸気圧を元に計算すると、米国産業専門家会議(ACGIH:American Conference of Governmental Industrial Hygienists)が勧告している、常温、常圧下で大気中へ放出される揮発性有機化合物量が許容濃度である1000ppm(0.1MPa、25℃)以下となる。
【0030】
該含有割合を下げる方法は特に限定されるものではないが、100Pa〜10KPaの圧力下、該揮発性有機化合物を留去することが好ましい。
その際の温度は特に限定されるものではないが、40〜100℃の範囲であることが好ましく、特に好ましくは40〜80℃の範囲であり、更に好ましくは40〜60℃の範囲である。
【0031】
さらに、該揮発性有機化合物を留去する際には、加水分解後の水溶液(一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液)から留去される揮発性有機化合物の重量と同じ重量の水を反応液に添加することが好ましい。これにより、該水溶液が濃縮され粘度が上昇し、蒸留効率が低下する事を防止できる。
【0032】
さらに、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物の合成に使用する一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物の水溶液は、そのケイ素含有量が17重量%以下の範囲であることが好ましい。ケイ素の含有割合が17重量%以下であれば、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液の粘度が非常に高くなり流動性が低くなることはなく、品質を一定に保つことが容易である。
【0033】
また、該揮発性有機化合物の留去が終了した後、該水溶液の一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物濃度を測定し、必要に応じ、水により希釈あるいは再度蒸留による濃縮操作を行い所定の濃度に調整してもよい。
【0034】
本発明は、一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和した後、該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基を加水分解し、副生するアルコールを除去することを特徴とする一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法である。一般式(3)で表される化合物が中和後微量残存した場合でもアルコールとともに除去できる。
【0035】
一般式(4)で表される化合物と、一般式(3)で表される化合物との反応は、具体的には一級アミンとスルホン酸との中和反応(反応式2)である。
【0036】
一般式(4)で表される化合物に対する一般式(3)で表される化合物の割合(一般式(3)で表される化合物/一般式(4)で表される化合物)は、モル比で0.5〜1の範囲であることが好ましい。該割合が0.5以上であれば一般式(3)で表される化合物に由来する官能基の含有量が必要量を満たすため、官能性シランとしての性能を十分に発揮することができる。また、該割合が1以下であれば、一般式(3)で表される化合物の過剰分が残存しないため、表面処理剤としての性能が低下することはない。さらには、官能性シランとしての性能および中和後のpHを考慮すると、一般式(4)で表される化合物に対する一般式(3)で表される化合物の割合は、特に好ましくは0.7〜1の範囲であり、更に好ましくは0.9〜1の範囲である。
【0037】
(反応式2)で示される中和反応時の温度は0〜100℃の範囲であることが好ましい。温度は0〜80℃の範囲であることが特に好ましく、0〜60℃の範囲であることが更に好ましい。(反応式2)で示される中和反応では中和熱が発生し温度が上昇することから、反応器を水浴等で冷却することが好ましい。また、中和熱の発生を押さえるため、一般式(4)で表される化合物に一般式(3)で表される化合物を少量ずつ添加するという方法も好ましい。
【0038】
該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基の加水分解において、該化合物に対する水の割合(水(モル数)/アミノアルコキシシラン(モル数))は、モル比で1.5〜10の範囲であることが好ましい。水の割合が該化合物1モルに対し1.5モル以上であれば、該反応が充分に進行するので加水分解性基が残ることはない。また、該割合が該化合物1モルに対し10モル以下であれば、加水分解反応後に実施する揮発性有機化合物の除去においてその効率が悪化することはない。
【0039】
該加水分解反応は0〜100℃の範囲内で行うことが好ましく、特に好ましくは0〜80℃の範囲であり、更に好ましくは0〜60℃の範囲である。
【0040】
該加水分解反応によって副生する揮発性有機化合物の除去方法は特に限定されるものではないが、留去することが好ましく、その留去条件は揮発性有機化合物の沸点によって決定されるため、特に限定されるものではないが、100Pa〜10KPaの範囲の圧力下で、蒸留することが好ましい。その際の温度は40〜100℃の範囲であることが好ましく、特に好ましくは40〜80℃の範囲であり、更に好ましくは40〜60℃の範囲である。
【0041】
該揮発性有機化合物の含有割合は特に限定されるものではないが、一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液に対して4重量%未満であることが好ましい。該割合が4重量%未満であれば、アルコール成分の蒸気圧を元に計算すると、米国産業専門家会議(ACGIH:American Conference of Governmental Industrial Hygienists)が勧告している、常温、常圧下で大気中へ放出される揮発性有機化合物量が許容濃度である1000ppm(0.1MPa、25℃)以下となる。
【0042】
さらに、該揮発性有機化合物を留去する際には、一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液から留去される揮発性有機化合物の重量と同じ重量の水を反応液に添加することが好ましい。これにより該水溶液が濃縮され粘度が上昇し、蒸留効率が低下する事を防止できる。
【0043】
本発明のシラノール基含有化合物の水溶液において、シラノール基含有化合物の含有割合(シラノール基含有化合物の重量/(シラノール基含有化合物の重量+水の重量))は、特に制限されるものではないが、0.1〜70重量%の範囲であることが好ましい。保存時に該水溶液の粘度が高くなり流動性が低くなることを避けるため、シラノール基含有化合物の含有割合が70重量%以下であることが好ましい。したがって、必要に応じて再濃縮するかまたは水により希釈して所定の濃度に調整するのが好ましい。
【0044】
本発明は、一般式(1)で示されるシラノール基含有化合物、または該シラノール基含有化合物の水溶液を含有する表面処理剤である。これら化合物または水溶液を含有するものであれば、その組成や物性などは特に限定されるものではない。
【0045】
本発明の表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、一般式(1)で示される本発明のシラノール基含有化合物に加えて、顔料、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、pH調節剤、フィルム形成剤、帯電防止剤、抗菌剤、界面活性剤、および染料などから選択される他の添加剤の1種以上を含有するものであっても良い。
【0046】
本発明の表面処理剤に含まれる一般式(1)で示されるシラノール基含有化合物の割合は特に限定されるものではないが、表面処理剤に対して0.1〜60重量%の範囲であることが好ましい。
【0047】
本発明の表面処理剤の用途は特に限定されるものではないが、具体的には、ガラス繊維の表面処理、タルク、マイカ等のフィラーの表面処理、鋳物用鋳型、レジンコンクリート、樹脂の表面改質および水系塗料の添加剤などを挙げることができる。その中でも特にガラス繊維の表面処理に使用した場合には、ガラス/樹脂界面を強固に結びつけることができるため、FRPなどの複合材料の性能を向上することができる。
【0048】
本発明は、前記表面処理剤で表面処理されたガラス繊維である。ガラス繊維を表面処理する方法は、一般的に用いられる方法が採用できる。例えば、一般式(1)で示されるシラノール基含有化合物または該シラノール基含有化合物の水溶液を含有する表面処理剤を希釈したものに、ガラス繊維を浸漬させた後、乾燥させることにより製造することができる。また、この表面処理剤を希釈したものを吹き付けた後に乾燥させることにより製造することができる。
本発明のガラス繊維は、その製品形態に限定されない。ガラス繊維製品は多岐にわたるが、例を挙げると単繊維、チョップトストランド、ロービング、ヤーン、ガラスクロスなどが示される。
【0049】
【実施例】
以下の実験例における水酸基の平均値については、29Si−NMRを測定することにより、T0構造(一般式(2)においてm=3)、T1構造(一般式(2)においてm=2)、T2構造(一般式(2)においてm=1)、T3構造(一般式(2)においてm=0)の存在比(%)を算出し、これから(T0存在比×3+T1存在比×2+T2存在比×1+T3存在比×0)/100の計算式により平均組成mを求めた。
また、以下の実験例における水溶液に揮発性有機溶媒が含まれているか否かは、攪拌終了後の反応液(水溶液)をバイアルビンに入れて、ヘッドスペース部をガスクロマトグラフ(CG)により分析することで確認した。
【0050】
実験例1:シラノール基含有水溶性アミノ化合物水溶液の合成
内部温度測定器、攪拌装置、液体配量装置および搭頂部温度測定器を備えた蒸留塔、冷却器並びに蒸留生成物受器を備えた容量2リットルのフラスコに、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(チッソ(株)製サイラエースS330(商品名))1000gを仕込み、次いで配量装置から純水500gを投入し、3−アミノプロピルトリエトキシシランの加水分解を行った。ガスクロマトグラフで3−アミノプロピルトリエトキシシランのピークが消失した点を加水分解の終了とした。その後減圧(2KPa)下60℃で、副生したエタノール500gを留去した。微量の残存エタノールを留去するためさらに蒸留を続け、さらに250g留去し、次いで留去したエタノールと同重量の純水を該フラスコに加えて濃度および粘度を調整した。
蒸留終了後の反応液(水溶液)をガスクロマトグラフにより分析すると、そのエタノール含有割合は0.1重量%以下であった。該反応液(水溶液)をアルミカップに計量し、熱風オーブン中105℃で3時間加熱乾固させたところ、不揮発分は50重量%であった。ケイ素含有量は12.7重量%であり粘度は25℃で150mm2/sであった。また、29Si−NMRを測定することにより、該水溶液中のケイ素原子が有する水酸基の平均値、すなわち一般式(2)におけるmの値を求めるとm=0.75であった。
【0051】
実験例2:シラノール基含有化合物水溶液の製造
容量50ミリリットルのスクリュー管中に、実験例1で得られたシラノール基含有水溶性アミノシラン化合物水溶液20.0gを入れ、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながらベンゼンスルホン酸14.2gを添加した。添加終了後も、そのまま3時間攪拌を継続した。攪拌終了後、内容物は完全に溶解しており、均一透明な溶液(シラノール基含有化合物水溶液、以降「処理剤A」ということがある。)が得られた。pH試験紙を用いて液性を確認したところ、pHはおよそ7であった。また、揮発性有機溶媒のピークは観測されなかった。処理剤Aは1週間以上放置しておいても白濁せず、保存安定性に優れた水溶液であることがわかった。
【0052】
実験例3:シラノール基およびフェノール性水酸基含有化合物水溶液の製造
実験例2におけるベンゼンスルホン酸に代えて4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸15.6gとした以外は実験例2に準じて操作を行った。攪拌終了後、内容物は完全に溶解しており、均一透明な溶液(シラノール基およびフェノール性水酸基含有化合物水溶液、以降「処理剤B」ということがある。)が得られた。pH試験紙を用いて水溶液の液性を確認したところ、pHはおよそ7であった。また、揮発性有機溶媒のピークは観測されなかった。処理剤Bは1週間以上放置しておいても白濁せず、保存安定性に優れた水溶液であることがわかった。
【0053】
実験例4:シラノール基含有化合物水溶液の製造
実験例2におけるベンゼンスルホン酸に代えて硫酸4.48gとした以外は実験例2に準じて操作を行った。攪拌終了後、内容物は完全に溶解しており、均一透明な溶液(シラノール基含有化合物水溶液、以降「処理剤C」ということがある。)が得られた。
【0054】
実験例5:シラノール基含有化合物水溶液によるガラス繊維の表面処理
1リットルのビーカーに実験例2で得た処理剤Aを16.0g、純水を984.0g入れ、マグネティックスターラーを用いて室温下5時間攪拌し、均一に溶解させて表面処理剤を得た。この表面処理剤中に約30cmの長さに切断したガラス繊維(直径約16μm)を30秒間浸漬させ、オーブン中で100℃にて20分乾燥させることによって表面処理されたガラス繊維Aを得た。
【0055】
実験例6:シラノール基およびフェノール性水酸基含有化合物水溶液によるガラス繊維の表面処理
実験例5における「処理剤Aを16.0g、純水を984.0g」を、「処理剤Bを16.7g、純水を983.3g」とした以外は、実験例5に準じて操作を行って、表面処理されたガラス繊維Bを得た。
【0056】
実験例7:シラノール基含有化合物水溶液によるガラス繊維の表面処理
実験例5における「処理剤Aを16.0g、純水を984.0g」を、「処理剤Bを11.4g、純水を988.6g」とした以外は、実験例5に準じて操作を行って、表面処理されたガラス繊維Cを得た。これは比較例としての実験である。
【0057】
実験例8:エポキシ基含有アルコキシシラン水溶液によるガラス繊維の表面処理
実験例5における「処理剤Aを16.0g、純水を984.0g」を、「3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ(株)製S510(商品名))を10.0g、純水を990.0g」、および「室温下5時間攪拌」を、「室温下45分攪拌」とした以外は、実験例5に準じて操作を行って、表面処理されたガラス繊維Dを得た。
【0058】
実験例9:マイクロドロップレット測定用試験サンプル作成
実験例4〜8にて得られた表面処理されたガラス繊維A〜Dの各1本をそれぞれ台紙に接着剤で固定した。300mlポリエチレン製カップにビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製 エピコート828(商品名))50.0g、および4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化(株)製 リカシッドMH−700(商品名))43.0gを入れた。これに硬化促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(試薬)0.5gを加えて、室温にて5分間撹拌した。ミクロスパーテルを用いてガラス繊維に樹脂を少量塗布することにより、ガラス繊維に樹脂の微小ドロップを付着させた。これを120℃にて5時間、150℃にて15時間加熱し樹脂を硬化させて、マイクロドロップレット測定用試験サンプルを得た。以降、これらのサンプルを各々ガラス繊維Aサンプル、ガラス繊維Bサンプル、ガラス繊維Cサンプルおよびガラス繊維Dサンプルということがある。
【0059】
実験例10:マイクロドロップレット測定用試験サンプル作成
表面処理を行わずにガラス繊維をそのまま用いた以外は実験例9に準じて比較用のマイクロドロップレット測定用試験サンプルを得た。以降、このサンプルを無処理ガラス繊維サンプルということがある。
【0060】
実験例11:マイクロドロップレット測定用試験サンプルの耐湿試験
実施例9および10にて得られたサンプルを、60℃の温水に5時間浸漬させた。その後、測定するまでの間にサンプルが乾いてしまわないようにするために、温水で濡れたままのサンプルを、予め飽和硫酸ナトリウム水溶液を入れることで湿度90%に保っておいたデシケータに移し、保存した。その結果、耐湿試験を行った状態のままのサンプルを得ることができた。
【0061】
実験例12:マイクロドロップレット測定
複合材界面特性評価装置HM410(東栄産業(株)製)を用いて実験例9〜11にて得られたサンプルのマイクロドロップレット測定を行った。マイクロドロップレット測定とは、ガラス繊維に付着した樹脂ドロップを固定し、ガラス繊維を引き抜くときの最大荷重を求め、これからガラス/樹脂界面の界面せん断強度を評価するものである。測定の概念を図1に示した。
この無処理ガラス繊維サンプルを用いて得られた界面せん断強度を100とした場合における、ガラス繊維A〜Dサンプル、並びに耐湿試験後の無処理ガラス繊維サンプルおよびガラス繊維A〜Dサンプルを用いたときの界面せん断強度の相対値を表1に示した。また表1には、各処理剤(水溶液)の安定性も示した。
【0062】
【表1】
水溶液の安定性のおける「○」は一週間以上水溶液が安定で、白濁しなかったことを示す。「×」は一週間未満で、水溶液が安定せずに白濁したことを示す。
【0063】
表1の結果は、本発明であるシラノール基含有化合物により、ガラス繊維と樹脂との界面の接着強度が増していることを示しており、表面処理剤として有効に機能していることがわかる。
また、水溶液の安定性には劣るものの、その接着強度の大きさゆえ従来からよく使用されているエポキシタイプのシランカップリング剤(比較例としての実験例8:ガラス繊維Dサンプル)と比較しても、本発明のシラノール基含有化合物は遜色ない性能(接着強度)を示すことが、表1の結果からわかる。さらに、本発明のシラノール基含有化合物により強化された、ガラス繊維と樹脂との界面は水分におかされにくいこともわかる。この性能はエポキシタイプのシランカップリング剤と同等以上である。
【0064】
【発明の効果】
本願発明により提供されるシラノール基含有化合物水溶液は、水溶液の状態で長期間保存した場合であっても、シラノール基含有化合物同士の縮合が一定割合以上進行することなく安定な状態を保持し、かつ使用する際に揮発性有機化合物を発生することがない。また、エポキシタイプのシランカップリング剤と同等以上の接着強度を示す。
ガラス繊維の処理をはじめ、タルク、マイカ等のフィラーの表面処理、鋳物用鋳型、レジンコンクリート、樹脂の表面改質および水系塗料の添加剤などへも好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】マイクロドロップレット測定の概念図
【発明の属する技術分野】
本発明は、シラノール基含有化合物とその製造方法、シラノール基含有化合物の水溶液、シラノール基含有化合物を含有する表面処理剤、さらに該表面処理剤で表面処理されたガラス繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
加水分解性シラン化合物は、各種基材の表面処理剤(シランカップリング剤など)として広く使用されており、通常その使用時には、それらが有する加水分解性基は予め加水分解される。
【0003】
一般に、加水分解性シラン化合物を加水分解すると、ケイ素原子に結合している加水分解性基に由来する揮発性有機化合物が発生する。したがって、加水分解後の加水分解性シラン化合物含有液は揮発性有機化合物を多量に含有することから、その取り扱い時には、有機溶剤中毒、引火、爆発等の危険性があるばかりでなく、該揮発性有機化合物が大気中に揮散して環境に負荷を与える可能性が高い。
【0004】
そのため、該加水分解性シラン化合物含有液の取り扱いにあたっては、作業者の健康を守り爆発等の災害を防ぐための教育を実施せねばならないし、取り扱うための特別な設備を必要とする。さらに、該取り扱いに伴って発生する廃水中にも揮発性有機化合物が含まれるので、これを処理するために大がかりな廃水処理設備を必要とする。
【0005】
そこでこれらの問題点を解決する手段として、加水分解性シラン化合物を予め水と反応させて加水分解し、発生する揮発性有機化合物を除去する方法が考えられた。例えば、アルコキシシランを加水分解し、発生するアルコールを除去した縮合物が開示されている(特許文献1参照。)。しかしながら、このアルコキシシランは、完全に加水分解しようとすると、該アルコキシシラン水溶液の粘度が高くなる。さらに場合によっては固化することもあるため、完全に加水分解されていながら安定である水溶液を得ることは困難であった。
【0006】
一方、該水溶液を酸性状態にすると、高粘度化もしくは固化させることなく該アルコキシシランを完全に加水分解することも可能である。しかし、該水溶液中における完全加水分解後のアルコキシシラン同士の縮合により、該水溶液の安定性が低下し、経時変化とともに白濁していた。すなわち、長時間安定した状態で保存することが困難であった。
【特許文献1】
特開2000−53683号公報
【0007】
【本発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の課題は、使用時に揮発性有機化合物が発生せず、かつ、水溶液の状態で長期間保存した場合であってもシラノール基含有化合物同士の縮合が一定割合以上進行することなく安定な状態を保持し得るシラノール基含有化合物を提供することである。また、中和反応によって得られる化合物の水溶液を酸性にすることなく、該中和反応によって得られる化合物を完全に加水分解することが可能なシラノール基含有化合物の製造方法を提供することである。さらには、該化合物の水溶液を提供することである。また、該化合物または該水溶液を含有する表面処理剤および該表面処理剤で表面処理されたガラス繊維を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前述の従来技術の課題に鑑み鋭意研究を重ねた。その結果、
下記一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物であれば、水溶液の状態で長期間保存した場合であっても、シラノール基含有化合物同士の縮合が一定割合以上進行することなく安定な状態を保持し、かつその使用時に揮発性有機化合物の発生しないシラン化合物が得られること、
さらに、下記一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物を、下記一般式(3)で表される化合物で中和した後、該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基を加水分解するシラノール基含有化合物の製造方法であれば、該中和反応によって得られる化合物の水溶液を酸性にすることなく、該中和反応によって得られる化合物を完全に加水分解することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の構成を有する。
(1) 一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物。
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立にH、水酸基または炭素数1〜4のアルキルであるけれども、R1およびR2がともに水酸基であることはなく、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
好ましくは、一般式(1−1)で表されるシラノール基含有化合物。
(式中、R1はHまたは炭素数1〜4のアルキルであり、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
【0010】
(2) 一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和することを特徴とする前記第1項記載の一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法。
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立にH、水酸基または炭素数1〜4のアルキルであるけれども、R1およびR2がともに水酸基であることはなく、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
好ましくは、一般式(2−1)で表されるシラノール基含有化合物を、一般式(3−1)で表される化合物で中和することを特徴とする前記第1項記載の一般式(1−1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法。
(式中、R1はHまたは炭素数1〜4のアルキルであり、R3炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、pは1〜6の整数であり、mは0<m≦3の範囲の値であり、nは0または1であり、かつ0<m+n≦3を満たす。)
【0011】
(3) 一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物を、前記第2項記載の一般式(3)で表される化合物で中和した後、該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基を加水分解し、副生するアルコールを除去することを特徴とする前記第1項記載の一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法。
(式中、R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基であり、R4は炭素数1〜4のアルキルであり、pは1〜6の整数であり、nは0または1である。)
【0012】
(4)前記第1項記載のシラノール基含有化合物の水溶液。
(5)水溶液に対するシラノール基含有化合物の含有割合が、0.1〜70重量%の範囲である前記第4項記載の水溶液。
(6)水溶液に対するアルコール成分の含有割合が4重量%未満である前記第4項または第5項記載の水溶液。
【0013】
(7)前記第1項記載のシラノール基含有化合物を含有する表面処理剤。
(8)前記第4項〜第6項の何れか1項記載の水溶液を含有する表面処理剤。
(9)前記第7項または第8項記載の表面処理剤で表面処理されたガラス繊維。
【0014】
【発明実施の形態】
以下本発明を更に詳細に説明する。
【0015】
本発明は一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物である。
R1およびR2はそれぞれ独立にH、水酸基または炭素数1〜4のアルキルであるけれども、R1およびR2がともに水酸基であることはない。炭素数1〜4のアルキルは、直鎖のものであっても、分岐のものであってもよい。炭素数1〜4のアルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチルが挙げられる。R1およびR2としては、H、水酸基、メチルおよびエチルが好ましい。
【0016】
R1およびR2の具体的な態様を、後述の中和反応の一方の化合物である一般式(3)で表される化合物を用いて説明すると、ベンゼンスルホン酸、2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、3−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、2,4−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸、2−メチルベンゼンスルホン酸、3−メチルベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2−エチルベンゼンスルホン酸、3−エチルベンゼンスルホン酸、4−エチルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。これらのうち、ベンゼンスルホン酸、2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、3−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸が好ましい。特に、ベンゼンスルホン酸および4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0017】
R3は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12の芳香族基である。R3は炭素数1〜8のアルキルが好ましい。炭素数1〜8のアルキルは、直鎖のものであっても、分岐のものであってもよいが、直鎖のアルキルであることが好ましい。炭素数1〜8のアルキルの具体例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルなどが挙げられる。これらのうち、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピルが好ましい。特に、メチルが好ましい。また炭素数6〜12の芳香族基は、フェニル、トルイル、キシリル、エチルフェニル、カルボキシフェニルなどが挙げられる。これらのうちフェニルが好ましい。
【0018】
pは1〜6の整数であるが、原料入手の容易さを考慮すると2〜4の整数であることが好ましい。特に好ましくは、pは3である。
mは0<m≦3の範囲の値である。但し、ここでいうmとは平均組成としての値を示すものである。本発明の一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物が単量体として存在する場合には、mは(3−n)の値をとり、整数となる。しかし、2量体、3量体等の多量体として存在する場合には、mは0<m<3の範囲の値となる。本発明の一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物は単量体または多量体として存在することは勿論、単量体と多量体との混合物としても存在する。また、縮合反応と加水分解反応が協奏的に起こるため、mは常に一定の整数値をとるわけではない。なお、mの値は一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液中の濃度により平均組成としてある一定値にあり、濃度が高くなるとmは小さくなり、濃度が低くなるとmは大きくなる。
nは0または1であるが、好ましくnは0である。なお、mが3の場合には、nは常に0である。
【0019】
本発明である一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物は、強酸であるスルホン酸と一級アミンとがイオン結合した化合物である。そのイオン結合強度は大きく、表面処理剤として使用したときには、表面処理剤の耐水性がよくなる。また、スルホン酸がイオン結合した化合物であるから、表面処理剤の耐酸性もよくなる。
【0020】
一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法は特に限定されるものではない。例えば、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和する方法を挙げることができる。また、一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和した後、該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基を加水分解し、副生するアルコールを除去する方法を挙げることもできる。
【0021】
一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法は、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和する方法であることが好ましい。具体的には、一級アミンとスルホン酸との中和反応(反応式1)である。
【0022】
一般式(2)で表される化合物に対する一般式(3)で表される化合物の割合(一般式(3)で表される化合物/一般式(2)で表される化合物)は、モル比で0.5〜1の範囲であることが好ましい。該割合が0.5以上であれば一般式(3)で表される化合物に由来する官能基の含有量が必要量を満たすため、官能性シランとしての性能を十分に発揮することができる。また、該割合が1以下であれば、一般式(3)で表される化合物の過剰分が残存しないため、表面処理剤としての性能が低下することはない。さらには、官能性シランとしての性能および中和後のpHを考慮すると、一般式(2)で表される化合物に対する一般式(3)で表される化合物の割合は、特に好ましくは0.7〜1の範囲であり、更に好ましくは0.9〜1の範囲である。
【0023】
(反応式1)で示される中和反応時の温度は0〜100℃の範囲であることが好ましい。温度は0〜80℃の範囲であることが特に好ましく、0〜60℃の範囲であることが更に好ましい。
(反応式1)で示される中和反応では中和熱が発生し温度が上昇することから、反応器を水浴等で冷却することが好ましい。また、中和熱の発生を押さえるため、一般式(2)で表される化合物に一般式(3)で表される化合物を少量ずつ滴下するという方法も好ましい。
【0024】
一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物は、一般式(4)で表されるアミノアルコキシシランと水とを反応させ、該反応において副生する揮発性有機化合物を留去する方法により製造することができる。なお、一般式(4)で表されるアミノアルコキシシランは、一般試薬として入手することができる。
【0025】
OR4が加水分解性基として作用するものであれば、R4は特に限定されるものではない。加水分解により生成する揮発性有機化合物の沸点が比較的低く、反応液からの該揮発性有機化合物の除去が容易であるという観点から、R4は炭素数1〜4のアルキルであることが好ましい。具体的には、メチル、エチル、i−プロピル、i−ブチルなどが挙げられる。特に好ましくは、メチルおよびエチルである。
【0026】
したがって、一般式(4)で表される化合物の具体例としては、4−アミノブチルメチルジメトキシシラン、4−アミノブチルメチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。これらのうち、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。特に3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0027】
一般式(4)で表されるアミノアルコキシシランと水との反応(加水分解反応)において、アミノアルコキシシランに対する水の割合(水(モル数)/アミノアルコキシシラン(モル数))はモル比で1.5〜10の範囲であることが好ましい。水の割合がアミノアルコキシシラン1モルに対し1.5モル以上であれば、該反応が充分に進行するので加水分解性基が残ることはない。また、該割合がアミノアルコキシシラン1モルに対し10モル以下であれば、加水分解反応後に実施する揮発性有機化合物の留去においてその効率が悪化することはない。
【0028】
該加水分解反応は0〜100℃の範囲内で行うことが好ましく、0〜80℃の範囲内で行うことが特に好ましく、0〜60℃の範囲で行うことが更に好ましい。
【0029】
該加水分解反応によって揮発性有機化合物が副生するが、本発明において使用する一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物は、該揮発性有機化合物の含有割合が低いものであることが好ましい。該含有割合は、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液に対して4重量%未満であることが特に好ましい。該割合が4重量%未満であれば、アルコール成分の蒸気圧を元に計算すると、米国産業専門家会議(ACGIH:American Conference of Governmental Industrial Hygienists)が勧告している、常温、常圧下で大気中へ放出される揮発性有機化合物量が許容濃度である1000ppm(0.1MPa、25℃)以下となる。
【0030】
該含有割合を下げる方法は特に限定されるものではないが、100Pa〜10KPaの圧力下、該揮発性有機化合物を留去することが好ましい。
その際の温度は特に限定されるものではないが、40〜100℃の範囲であることが好ましく、特に好ましくは40〜80℃の範囲であり、更に好ましくは40〜60℃の範囲である。
【0031】
さらに、該揮発性有機化合物を留去する際には、加水分解後の水溶液(一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液)から留去される揮発性有機化合物の重量と同じ重量の水を反応液に添加することが好ましい。これにより、該水溶液が濃縮され粘度が上昇し、蒸留効率が低下する事を防止できる。
【0032】
さらに、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物の合成に使用する一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物の水溶液は、そのケイ素含有量が17重量%以下の範囲であることが好ましい。ケイ素の含有割合が17重量%以下であれば、一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液の粘度が非常に高くなり流動性が低くなることはなく、品質を一定に保つことが容易である。
【0033】
また、該揮発性有機化合物の留去が終了した後、該水溶液の一般式(2)で表されるシラノール基含有化合物濃度を測定し、必要に応じ、水により希釈あるいは再度蒸留による濃縮操作を行い所定の濃度に調整してもよい。
【0034】
本発明は、一般式(4)で表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物を、一般式(3)で表される化合物で中和した後、該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基を加水分解し、副生するアルコールを除去することを特徴とする一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の製造方法である。一般式(3)で表される化合物が中和後微量残存した場合でもアルコールとともに除去できる。
【0035】
一般式(4)で表される化合物と、一般式(3)で表される化合物との反応は、具体的には一級アミンとスルホン酸との中和反応(反応式2)である。
【0036】
一般式(4)で表される化合物に対する一般式(3)で表される化合物の割合(一般式(3)で表される化合物/一般式(4)で表される化合物)は、モル比で0.5〜1の範囲であることが好ましい。該割合が0.5以上であれば一般式(3)で表される化合物に由来する官能基の含有量が必要量を満たすため、官能性シランとしての性能を十分に発揮することができる。また、該割合が1以下であれば、一般式(3)で表される化合物の過剰分が残存しないため、表面処理剤としての性能が低下することはない。さらには、官能性シランとしての性能および中和後のpHを考慮すると、一般式(4)で表される化合物に対する一般式(3)で表される化合物の割合は、特に好ましくは0.7〜1の範囲であり、更に好ましくは0.9〜1の範囲である。
【0037】
(反応式2)で示される中和反応時の温度は0〜100℃の範囲であることが好ましい。温度は0〜80℃の範囲であることが特に好ましく、0〜60℃の範囲であることが更に好ましい。(反応式2)で示される中和反応では中和熱が発生し温度が上昇することから、反応器を水浴等で冷却することが好ましい。また、中和熱の発生を押さえるため、一般式(4)で表される化合物に一般式(3)で表される化合物を少量ずつ添加するという方法も好ましい。
【0038】
該中和反応によって得られる化合物のアルコキシ基の加水分解において、該化合物に対する水の割合(水(モル数)/アミノアルコキシシラン(モル数))は、モル比で1.5〜10の範囲であることが好ましい。水の割合が該化合物1モルに対し1.5モル以上であれば、該反応が充分に進行するので加水分解性基が残ることはない。また、該割合が該化合物1モルに対し10モル以下であれば、加水分解反応後に実施する揮発性有機化合物の除去においてその効率が悪化することはない。
【0039】
該加水分解反応は0〜100℃の範囲内で行うことが好ましく、特に好ましくは0〜80℃の範囲であり、更に好ましくは0〜60℃の範囲である。
【0040】
該加水分解反応によって副生する揮発性有機化合物の除去方法は特に限定されるものではないが、留去することが好ましく、その留去条件は揮発性有機化合物の沸点によって決定されるため、特に限定されるものではないが、100Pa〜10KPaの範囲の圧力下で、蒸留することが好ましい。その際の温度は40〜100℃の範囲であることが好ましく、特に好ましくは40〜80℃の範囲であり、更に好ましくは40〜60℃の範囲である。
【0041】
該揮発性有機化合物の含有割合は特に限定されるものではないが、一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液に対して4重量%未満であることが好ましい。該割合が4重量%未満であれば、アルコール成分の蒸気圧を元に計算すると、米国産業専門家会議(ACGIH:American Conference of Governmental Industrial Hygienists)が勧告している、常温、常圧下で大気中へ放出される揮発性有機化合物量が許容濃度である1000ppm(0.1MPa、25℃)以下となる。
【0042】
さらに、該揮発性有機化合物を留去する際には、一般式(1)で表されるシラノール基含有化合物の水溶液から留去される揮発性有機化合物の重量と同じ重量の水を反応液に添加することが好ましい。これにより該水溶液が濃縮され粘度が上昇し、蒸留効率が低下する事を防止できる。
【0043】
本発明のシラノール基含有化合物の水溶液において、シラノール基含有化合物の含有割合(シラノール基含有化合物の重量/(シラノール基含有化合物の重量+水の重量))は、特に制限されるものではないが、0.1〜70重量%の範囲であることが好ましい。保存時に該水溶液の粘度が高くなり流動性が低くなることを避けるため、シラノール基含有化合物の含有割合が70重量%以下であることが好ましい。したがって、必要に応じて再濃縮するかまたは水により希釈して所定の濃度に調整するのが好ましい。
【0044】
本発明は、一般式(1)で示されるシラノール基含有化合物、または該シラノール基含有化合物の水溶液を含有する表面処理剤である。これら化合物または水溶液を含有するものであれば、その組成や物性などは特に限定されるものではない。
【0045】
本発明の表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、一般式(1)で示される本発明のシラノール基含有化合物に加えて、顔料、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、pH調節剤、フィルム形成剤、帯電防止剤、抗菌剤、界面活性剤、および染料などから選択される他の添加剤の1種以上を含有するものであっても良い。
【0046】
本発明の表面処理剤に含まれる一般式(1)で示されるシラノール基含有化合物の割合は特に限定されるものではないが、表面処理剤に対して0.1〜60重量%の範囲であることが好ましい。
【0047】
本発明の表面処理剤の用途は特に限定されるものではないが、具体的には、ガラス繊維の表面処理、タルク、マイカ等のフィラーの表面処理、鋳物用鋳型、レジンコンクリート、樹脂の表面改質および水系塗料の添加剤などを挙げることができる。その中でも特にガラス繊維の表面処理に使用した場合には、ガラス/樹脂界面を強固に結びつけることができるため、FRPなどの複合材料の性能を向上することができる。
【0048】
本発明は、前記表面処理剤で表面処理されたガラス繊維である。ガラス繊維を表面処理する方法は、一般的に用いられる方法が採用できる。例えば、一般式(1)で示されるシラノール基含有化合物または該シラノール基含有化合物の水溶液を含有する表面処理剤を希釈したものに、ガラス繊維を浸漬させた後、乾燥させることにより製造することができる。また、この表面処理剤を希釈したものを吹き付けた後に乾燥させることにより製造することができる。
本発明のガラス繊維は、その製品形態に限定されない。ガラス繊維製品は多岐にわたるが、例を挙げると単繊維、チョップトストランド、ロービング、ヤーン、ガラスクロスなどが示される。
【0049】
【実施例】
以下の実験例における水酸基の平均値については、29Si−NMRを測定することにより、T0構造(一般式(2)においてm=3)、T1構造(一般式(2)においてm=2)、T2構造(一般式(2)においてm=1)、T3構造(一般式(2)においてm=0)の存在比(%)を算出し、これから(T0存在比×3+T1存在比×2+T2存在比×1+T3存在比×0)/100の計算式により平均組成mを求めた。
また、以下の実験例における水溶液に揮発性有機溶媒が含まれているか否かは、攪拌終了後の反応液(水溶液)をバイアルビンに入れて、ヘッドスペース部をガスクロマトグラフ(CG)により分析することで確認した。
【0050】
実験例1:シラノール基含有水溶性アミノ化合物水溶液の合成
内部温度測定器、攪拌装置、液体配量装置および搭頂部温度測定器を備えた蒸留塔、冷却器並びに蒸留生成物受器を備えた容量2リットルのフラスコに、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(チッソ(株)製サイラエースS330(商品名))1000gを仕込み、次いで配量装置から純水500gを投入し、3−アミノプロピルトリエトキシシランの加水分解を行った。ガスクロマトグラフで3−アミノプロピルトリエトキシシランのピークが消失した点を加水分解の終了とした。その後減圧(2KPa)下60℃で、副生したエタノール500gを留去した。微量の残存エタノールを留去するためさらに蒸留を続け、さらに250g留去し、次いで留去したエタノールと同重量の純水を該フラスコに加えて濃度および粘度を調整した。
蒸留終了後の反応液(水溶液)をガスクロマトグラフにより分析すると、そのエタノール含有割合は0.1重量%以下であった。該反応液(水溶液)をアルミカップに計量し、熱風オーブン中105℃で3時間加熱乾固させたところ、不揮発分は50重量%であった。ケイ素含有量は12.7重量%であり粘度は25℃で150mm2/sであった。また、29Si−NMRを測定することにより、該水溶液中のケイ素原子が有する水酸基の平均値、すなわち一般式(2)におけるmの値を求めるとm=0.75であった。
【0051】
実験例2:シラノール基含有化合物水溶液の製造
容量50ミリリットルのスクリュー管中に、実験例1で得られたシラノール基含有水溶性アミノシラン化合物水溶液20.0gを入れ、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながらベンゼンスルホン酸14.2gを添加した。添加終了後も、そのまま3時間攪拌を継続した。攪拌終了後、内容物は完全に溶解しており、均一透明な溶液(シラノール基含有化合物水溶液、以降「処理剤A」ということがある。)が得られた。pH試験紙を用いて液性を確認したところ、pHはおよそ7であった。また、揮発性有機溶媒のピークは観測されなかった。処理剤Aは1週間以上放置しておいても白濁せず、保存安定性に優れた水溶液であることがわかった。
【0052】
実験例3:シラノール基およびフェノール性水酸基含有化合物水溶液の製造
実験例2におけるベンゼンスルホン酸に代えて4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸15.6gとした以外は実験例2に準じて操作を行った。攪拌終了後、内容物は完全に溶解しており、均一透明な溶液(シラノール基およびフェノール性水酸基含有化合物水溶液、以降「処理剤B」ということがある。)が得られた。pH試験紙を用いて水溶液の液性を確認したところ、pHはおよそ7であった。また、揮発性有機溶媒のピークは観測されなかった。処理剤Bは1週間以上放置しておいても白濁せず、保存安定性に優れた水溶液であることがわかった。
【0053】
実験例4:シラノール基含有化合物水溶液の製造
実験例2におけるベンゼンスルホン酸に代えて硫酸4.48gとした以外は実験例2に準じて操作を行った。攪拌終了後、内容物は完全に溶解しており、均一透明な溶液(シラノール基含有化合物水溶液、以降「処理剤C」ということがある。)が得られた。
【0054】
実験例5:シラノール基含有化合物水溶液によるガラス繊維の表面処理
1リットルのビーカーに実験例2で得た処理剤Aを16.0g、純水を984.0g入れ、マグネティックスターラーを用いて室温下5時間攪拌し、均一に溶解させて表面処理剤を得た。この表面処理剤中に約30cmの長さに切断したガラス繊維(直径約16μm)を30秒間浸漬させ、オーブン中で100℃にて20分乾燥させることによって表面処理されたガラス繊維Aを得た。
【0055】
実験例6:シラノール基およびフェノール性水酸基含有化合物水溶液によるガラス繊維の表面処理
実験例5における「処理剤Aを16.0g、純水を984.0g」を、「処理剤Bを16.7g、純水を983.3g」とした以外は、実験例5に準じて操作を行って、表面処理されたガラス繊維Bを得た。
【0056】
実験例7:シラノール基含有化合物水溶液によるガラス繊維の表面処理
実験例5における「処理剤Aを16.0g、純水を984.0g」を、「処理剤Bを11.4g、純水を988.6g」とした以外は、実験例5に準じて操作を行って、表面処理されたガラス繊維Cを得た。これは比較例としての実験である。
【0057】
実験例8:エポキシ基含有アルコキシシラン水溶液によるガラス繊維の表面処理
実験例5における「処理剤Aを16.0g、純水を984.0g」を、「3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ(株)製S510(商品名))を10.0g、純水を990.0g」、および「室温下5時間攪拌」を、「室温下45分攪拌」とした以外は、実験例5に準じて操作を行って、表面処理されたガラス繊維Dを得た。
【0058】
実験例9:マイクロドロップレット測定用試験サンプル作成
実験例4〜8にて得られた表面処理されたガラス繊維A〜Dの各1本をそれぞれ台紙に接着剤で固定した。300mlポリエチレン製カップにビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製 エピコート828(商品名))50.0g、および4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化(株)製 リカシッドMH−700(商品名))43.0gを入れた。これに硬化促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(試薬)0.5gを加えて、室温にて5分間撹拌した。ミクロスパーテルを用いてガラス繊維に樹脂を少量塗布することにより、ガラス繊維に樹脂の微小ドロップを付着させた。これを120℃にて5時間、150℃にて15時間加熱し樹脂を硬化させて、マイクロドロップレット測定用試験サンプルを得た。以降、これらのサンプルを各々ガラス繊維Aサンプル、ガラス繊維Bサンプル、ガラス繊維Cサンプルおよびガラス繊維Dサンプルということがある。
【0059】
実験例10:マイクロドロップレット測定用試験サンプル作成
表面処理を行わずにガラス繊維をそのまま用いた以外は実験例9に準じて比較用のマイクロドロップレット測定用試験サンプルを得た。以降、このサンプルを無処理ガラス繊維サンプルということがある。
【0060】
実験例11:マイクロドロップレット測定用試験サンプルの耐湿試験
実施例9および10にて得られたサンプルを、60℃の温水に5時間浸漬させた。その後、測定するまでの間にサンプルが乾いてしまわないようにするために、温水で濡れたままのサンプルを、予め飽和硫酸ナトリウム水溶液を入れることで湿度90%に保っておいたデシケータに移し、保存した。その結果、耐湿試験を行った状態のままのサンプルを得ることができた。
【0061】
実験例12:マイクロドロップレット測定
複合材界面特性評価装置HM410(東栄産業(株)製)を用いて実験例9〜11にて得られたサンプルのマイクロドロップレット測定を行った。マイクロドロップレット測定とは、ガラス繊維に付着した樹脂ドロップを固定し、ガラス繊維を引き抜くときの最大荷重を求め、これからガラス/樹脂界面の界面せん断強度を評価するものである。測定の概念を図1に示した。
この無処理ガラス繊維サンプルを用いて得られた界面せん断強度を100とした場合における、ガラス繊維A〜Dサンプル、並びに耐湿試験後の無処理ガラス繊維サンプルおよびガラス繊維A〜Dサンプルを用いたときの界面せん断強度の相対値を表1に示した。また表1には、各処理剤(水溶液)の安定性も示した。
【0062】
【表1】
水溶液の安定性のおける「○」は一週間以上水溶液が安定で、白濁しなかったことを示す。「×」は一週間未満で、水溶液が安定せずに白濁したことを示す。
【0063】
表1の結果は、本発明であるシラノール基含有化合物により、ガラス繊維と樹脂との界面の接着強度が増していることを示しており、表面処理剤として有効に機能していることがわかる。
また、水溶液の安定性には劣るものの、その接着強度の大きさゆえ従来からよく使用されているエポキシタイプのシランカップリング剤(比較例としての実験例8:ガラス繊維Dサンプル)と比較しても、本発明のシラノール基含有化合物は遜色ない性能(接着強度)を示すことが、表1の結果からわかる。さらに、本発明のシラノール基含有化合物により強化された、ガラス繊維と樹脂との界面は水分におかされにくいこともわかる。この性能はエポキシタイプのシランカップリング剤と同等以上である。
【0064】
【発明の効果】
本願発明により提供されるシラノール基含有化合物水溶液は、水溶液の状態で長期間保存した場合であっても、シラノール基含有化合物同士の縮合が一定割合以上進行することなく安定な状態を保持し、かつ使用する際に揮発性有機化合物を発生することがない。また、エポキシタイプのシランカップリング剤と同等以上の接着強度を示す。
ガラス繊維の処理をはじめ、タルク、マイカ等のフィラーの表面処理、鋳物用鋳型、レジンコンクリート、樹脂の表面改質および水系塗料の添加剤などへも好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】マイクロドロップレット測定の概念図
Claims (9)
- 請求項1記載のシラノール基含有化合物の水溶液。
- 水溶液に対するシラノール基含有化合物の含有割合が、0.1〜70重量%の範囲である請求項4記載の水溶液。
- 水溶液に対するアルコール成分の含有割合が4重量%未満である請求項4または5記載の水溶液。
- 請求項1記載のシラノール基含有化合物を含有する表面処理剤。
- 請求項4〜6の何れか1項記載の水溶液を含有する表面処理剤。
- 請求項7または8記載の表面処理剤で表面処理されたガラス繊維。
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JP2003157364A JP2004359557A (ja) | 2003-06-02 | 2003-06-02 | シラノール基含有化合物、その製造方法、シラノール基含有化合物の水溶液、表面処理剤およびガラス繊維 |
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CN110702500A (zh) * | 2019-11-15 | 2020-01-17 | 西安工程大学 | 一种微滴脱粘测试夹具 |
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- 2003-06-02 JP JP2003157364A patent/JP2004359557A/ja active Pending
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