JP2004353025A - 腐食抑止用マイクロカプセル及びそれを用いた水系の金属の腐食抑止方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止する。
【解決手段】水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包した腐食抑止用マイクロカプセル。このマイクロカプセルは、水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出する。この腐食抑止用マイクロカプセルを水系に添加して、水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法。
【選択図】 図3
【解決手段】水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包した腐食抑止用マイクロカプセル。このマイクロカプセルは、水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出する。この腐食抑止用マイクロカプセルを水系に添加して、水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水系における炭素鋼、ステンレス鋼、銅、銅合金などの金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される腐食抑止用マイクロカプセルと、この腐食抑止用マイクロカプセルを用いて水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水系における金属の局部腐食の進行を抑止するために、水系に防食剤を添加することが広く行われている。しかしながら、この方法では、大量の防食剤を添加することが必要であり、しかも腐食反応のカソード、アノード部位と防食剤とを長期間接触させることが必要であった。また、防食剤の大量添加によりスケール障害を引き起こす可能性もあるため、他の共存イオンとの反応を考慮する必要もある。従って、スケール障害等の問題を引き起こすことなく、金属の局部腐食の進行を確実に抑止するためには、製造プラントの操業を停止して防食剤を大量に添加し、スケール障害等を起こさない水質に管理した上で長期間防食剤を添加した水を系内に循環させる必要があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止することができる腐食抑止用マイクロカプセルと、この腐食抑止用マイクロカプセルを用いた水系の金属の腐食抑止方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包した腐食抑止用マイクロカプセルであって、該水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出することを特徴とする。
【0005】
本発明の水系の金属の腐食抑止方法は、水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法において、該水系にこのような本発明の腐食抑止用マイクロカプセルを添加することを特徴とする。
【0006】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、添加された水系のpHに応答して内包した防食剤を放出する。即ち、局部腐食が進行する環境のpH条件において防食剤を放出し、局部腐食の進行しないpH条件では防食剤を放出しない。このように、局部腐食が進行する環境下においてのみ防食剤を放出するため、この局部腐食進行領域において防食剤を高濃度に存在させることができ、これにより防食剤を局部腐食の抑止のために有効に作用させて局部腐食の進行を確実に抑止することができる。一方で、局部腐食が進行しない領域では、防食剤によるスケール障害等の問題を引き起こすことがなく、また、防食剤が無駄に消費されることもない。
【0007】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系のpHが中性又は酸性であるときに防食剤を放出するものであることが好ましく、マイクロカプセル本体がポリビニルピリジンよりなることが好ましい。また、マイクロカプセルの粒径は30μm以下であることが好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0009】
本発明の水系の金属の腐食抑止方法は、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包し、水系のpHに応答して防食剤を放出するものである。
【0010】
水系においては、金属の局部腐食の進行と共に、金属の孔食部分の表面を覆うように形成されたさび膜内の水、即ち、局部腐食内部水のpHが低下することが知られている。本発明では、この局部腐食内部水以外の水系と局部腐食内部水とのpHの違いを利用し、pHの低下に対応して防食剤を放出するマイクロカプセルを用いて孔食の進行を抑止する。
【0011】
従って、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系のpHがアルカリ性であるときには防食剤を放出せず、中性又は酸性であるときに防食剤を放出するものが好ましい。このような腐食抑止用マイクロカプセルとしては、マイクロカプセル本体を構成する物質が、pHに応答して溶解ないし破壊するもの、例えば、pHアルカリ性で溶解せず、中性又は酸性で水溶性となるものであることが好ましい。
【0012】
アルカリ性で溶解せず、中性又は酸性で溶解する物質としては、ポリビニルピリジン、ポリメチルビニルピリジン等のピリジン系物質、ポリビニルイミダゾール、ポリメチルビニルイミダゾール等のイミダゾール類、或いはアミノ酸を側鎖にもつポリマー等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。従って、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルのマイクロカプセル本体は、これらの物質で構成されていることが好ましい。局部腐食内部水のpHに対する溶解性の点から、マイクロカプセル本体はポリビニルピリジンで構成されていることが好ましい。
【0013】
このような本発明のマイクロカプセルを製造する方法としては、次のような方法が挙げられる。即ち、まず、水に不溶な溶媒にマイクロカプセル本体の構成物質を溶解させ、そこに防食剤を滴下する。そうすると溶液中に防食剤の液滴が形成されるため、この防食剤の液滴を、マイクロカプセル本体構成物質が溶解しないpH、例えばpH8以上のアルカリ性の水溶液に滴下することにより、防食剤を内包したマイクロカプセルを作製することができる。
【0014】
ここで、マイクロカプセル本体構成物質を溶解させる、水に不溶な溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。このような溶媒に対するマイクロカプセル本体構成物質の溶解濃度には特に制限はないが、過度に低濃度であっても過度に高濃度であっても安定なマイクロカプセルを形成し得ないことから、作製時の作業性、マイクロカプセルの安定性の点で、5〜10g/L−溶媒程度であることが好ましい。
【0015】
防食剤としては通常水系の防食剤として用いられている一般的な防食剤で良く、例えば、リン酸、クロム酸、タングステン酸、モリブデン酸の水溶性塩等が挙げられる。これらの防食剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。防食剤は、飽和水溶液として、マイクロカプセル本体構成物質の溶液に滴下される。この防食剤水溶液の濃度が低いと水系内で腐食抑止用マイクロカプセルから放出される防食剤濃度が低く、防食効果を十分に得ることができない。
【0016】
前述の如く、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは水系に添加され、局部腐食内部水のpHに応答して防食剤を放出するために、その粒径は、各種金属のさび膜の中に浸透する大きさであることが好ましい。従って、マイクロカプセルの粒径は各種金属のさび膜の細孔の大きさによるが、例えば、淡水系における炭素鋼ではさび膜の細孔径が20〜30μmであるため、この細孔径よりも小さいことが好ましく、例えば、30μm以下、特に0.1〜10μmであることが好ましく、さらに好ましくは1〜5μm程度であることが望ましい。
【0017】
なお、マイクロカプセルの粒径の制御法としては種々あるが、例えば、上記マイクロカプセルの製造方法において、マイクロカプセル本体構成物質の溶液に滴下する防食剤の液滴の径を制御することにより、マイクロカプセルの粒径を制御することができる。
【0018】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系に添加されると、金属孔食部分の表面に形成されたさび膜内に浸透し、pH中性又は酸性の局部腐食内部水に接触してマイクロカプセル本体が溶解ないし破壊して内部の防食剤を放出する。このさび膜内で放出された防食剤が金属の孔食部分に直接作用して局部腐食の進行を効果的に抑止する。
【0019】
なお、水系に添加された本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、さび膜内に浸透する前の循環水系内に存在するときは、マイクロカプセル本体が溶解ないし破壊することはなく、従って、防食剤が放出されることはないため、防食剤が無駄に消費されることはなく、また、水系内で放出された防食剤により、スケール障害等の他の障害を引き起こすことはない。従って、プラントの操業を停止することなく、水質の制御等を必要とすることなく、適量の腐食抑止用マイクロカプセルの添加により、水系の金属の局部腐食の進行を確実に防止することができる。
【0020】
なお、水系への腐食抑止用マイクロカプセルの添加量は、処理対象水系の状況に応じて十分な局部腐食の進行抑止効果が発揮されるように適宜決定されるが、通常、内包された防食剤添加量(有効成分量)として20〜100mg/Lの範囲で添加制御を行うことが好ましい。
【0021】
【実施例】
以下に実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0022】
実験例1
図1に示す透過実験装置を用いて、ポリビニルピリジンで作製した膜がpHに応答して防食剤を透過することを確認する実験を行った。
【0023】
まず、ポリビニルピリジンをメタノールに溶解させて湿式製膜法でポリビニルピリジン膜を作製した。図1に示す如く、内部に液を収容し得る断面コ字形の透過実験装置の中央に、作製したポリビニルピリジン膜1を固定し、供給側2にリン酸水素二ナトリウム水溶液(1000mg/L as PO4 3−)を、透過側3にpH緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、酢酸−酢酸Na水溶液)を入れ、pH緩衝液のpHを変化させて24時間後のリン酸イオンの透過量を測定した。結果を図2に示す。
【0024】
図2より、pH9では24時間後もリン酸イオンは殆ど透過していないが、pH6とすると緩衝液中のリン酸イオン濃度は約50mg/L as PO4 3−となり、リン酸イオンが透過することが確認された。また、pH5とした場合はポリビニルピリジン膜が溶解し、リン酸イオンが完全に透過することが確認された。
【0025】
実施例1
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルを以下の製造方法で作製した。
【0026】
まず、ジクロロメタン100mLにポリビニルピリジン5gを溶解させた。そこに25重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を滴下してヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を内包したカプセルを形成させた。それをポリビニルピリジンが溶解しないpH9程度の水溶液に滴下することによりヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液内包ポリビニルピリジン膜マイクロカプセルを作製した。得られた腐食抑止用マイクロカプセルの粒径は約5μmであった。
【0027】
実施例2
図3に示すようなモデル熱交試験装置を用いて、実施例1で作製した腐食抑止用マイクロカプセルの局部腐食進行抑止効果を評価した。
【0028】
図3の装置において、11はチューブ側通水熱交換器であり、冷却塔12のピット12Aからの冷却水がポンプ13により配管14より通水され、戻り配管15により循環される。16は流量計、17は補給水供給配管である。熱交換器11のチューブ11Aの管材としては炭素鋼管(STB−340)を用いた。この熱交チューブ11A内の冷却水流速は0.5m/sとし、蒸気加熱により熱交換器11の入口11aと出口11bの冷却水温度差が20℃となるようにした。熱交換器11で暖められた冷却水は、冷却塔12にて冷却され、水温が30℃となるようにした。熱交チューブ11Aの炭素鋼管はリン亜鉛高濃縮による皮膜形成を行った。即ち、合成水に全リン酸濃度100mg/L、全亜鉛濃度20mg/Lとなるように腐食抑制剤を添加し、室温レベルの水温で循環させ、熱交換器11の炭素鋼表面に防食皮膜を形成させた。皮膜形成期間は1日間とした。
【0029】
また、冷却水としては表1に示す水質の模擬冷却水を用いた。この模擬冷却水においてはスケール抑制のために高分子を添加している。この模擬冷却水のpHは約8.8である。
【0030】
【表1】
【0031】
試験期間中の水質は一定となるように冷却水のブロー、合成水の補給を行いながら濃縮管理を行った。試験開始5日後からブロー量に応じて、実施例1で作製した腐食抑止用マイクロカプセルを100mg/L(as PO4 3−)添加し、経時毎に、熱交換器11のチューブ11Aの炭素鋼管表面に認められた局部腐食の最大深さを調べ、結果を表2に示した。
【0032】
比較例1
実施例2において、腐食抑止用マイクロカプセルを添加しなかったこと以外は同様にして試験を行い、結果を表2に示した。
【0033】
【表2】
【0034】
表2より明らかなように、腐食抑止用マイクロカプセルを添加しなかった比較例1の場合よりも、腐食抑止用マイクロカプセルを添加した実施例2の場合の方が明らかに局部腐食の最大深さが浅く、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルによる局部腐食の進行抑止効果が確認された。
【0035】
試験終了後、循環水を採取し、遠心分離機にかけ、腐食抑止用マイクロカプセルを沈殿させた後、上澄みのリン酸イオン濃度を測定したところリン酸イオン濃度は0mg/Lであり、循環水系内では、防食剤が放出されていないことが確認された。
【0036】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、水系のpHに応答して内包する防食剤を放出する腐食抑止用マイクロカプセルにより、金属の孔色部分の表面に形成されたさび膜内で防食剤を放出させることにより、プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実験例1で用いた透過実験装置を示す構成図である。
【図2】実験例1の結果を示すグラフである。
【図3】実施例2で用いたモデル熱交試験装置を示す構成図である。
【符号の説明】
1 ポリビニルピリジン膜
2 供給側
3 透過側
11 熱交換器
11A チューブ
12 冷却塔
13 ポンプ
16 流量計
【発明の属する技術分野】
本発明は、水系における炭素鋼、ステンレス鋼、銅、銅合金などの金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される腐食抑止用マイクロカプセルと、この腐食抑止用マイクロカプセルを用いて水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水系における金属の局部腐食の進行を抑止するために、水系に防食剤を添加することが広く行われている。しかしながら、この方法では、大量の防食剤を添加することが必要であり、しかも腐食反応のカソード、アノード部位と防食剤とを長期間接触させることが必要であった。また、防食剤の大量添加によりスケール障害を引き起こす可能性もあるため、他の共存イオンとの反応を考慮する必要もある。従って、スケール障害等の問題を引き起こすことなく、金属の局部腐食の進行を確実に抑止するためには、製造プラントの操業を停止して防食剤を大量に添加し、スケール障害等を起こさない水質に管理した上で長期間防食剤を添加した水を系内に循環させる必要があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止することができる腐食抑止用マイクロカプセルと、この腐食抑止用マイクロカプセルを用いた水系の金属の腐食抑止方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包した腐食抑止用マイクロカプセルであって、該水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出することを特徴とする。
【0005】
本発明の水系の金属の腐食抑止方法は、水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法において、該水系にこのような本発明の腐食抑止用マイクロカプセルを添加することを特徴とする。
【0006】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、添加された水系のpHに応答して内包した防食剤を放出する。即ち、局部腐食が進行する環境のpH条件において防食剤を放出し、局部腐食の進行しないpH条件では防食剤を放出しない。このように、局部腐食が進行する環境下においてのみ防食剤を放出するため、この局部腐食進行領域において防食剤を高濃度に存在させることができ、これにより防食剤を局部腐食の抑止のために有効に作用させて局部腐食の進行を確実に抑止することができる。一方で、局部腐食が進行しない領域では、防食剤によるスケール障害等の問題を引き起こすことがなく、また、防食剤が無駄に消費されることもない。
【0007】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系のpHが中性又は酸性であるときに防食剤を放出するものであることが好ましく、マイクロカプセル本体がポリビニルピリジンよりなることが好ましい。また、マイクロカプセルの粒径は30μm以下であることが好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0009】
本発明の水系の金属の腐食抑止方法は、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包し、水系のpHに応答して防食剤を放出するものである。
【0010】
水系においては、金属の局部腐食の進行と共に、金属の孔食部分の表面を覆うように形成されたさび膜内の水、即ち、局部腐食内部水のpHが低下することが知られている。本発明では、この局部腐食内部水以外の水系と局部腐食内部水とのpHの違いを利用し、pHの低下に対応して防食剤を放出するマイクロカプセルを用いて孔食の進行を抑止する。
【0011】
従って、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系のpHがアルカリ性であるときには防食剤を放出せず、中性又は酸性であるときに防食剤を放出するものが好ましい。このような腐食抑止用マイクロカプセルとしては、マイクロカプセル本体を構成する物質が、pHに応答して溶解ないし破壊するもの、例えば、pHアルカリ性で溶解せず、中性又は酸性で水溶性となるものであることが好ましい。
【0012】
アルカリ性で溶解せず、中性又は酸性で溶解する物質としては、ポリビニルピリジン、ポリメチルビニルピリジン等のピリジン系物質、ポリビニルイミダゾール、ポリメチルビニルイミダゾール等のイミダゾール類、或いはアミノ酸を側鎖にもつポリマー等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。従って、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルのマイクロカプセル本体は、これらの物質で構成されていることが好ましい。局部腐食内部水のpHに対する溶解性の点から、マイクロカプセル本体はポリビニルピリジンで構成されていることが好ましい。
【0013】
このような本発明のマイクロカプセルを製造する方法としては、次のような方法が挙げられる。即ち、まず、水に不溶な溶媒にマイクロカプセル本体の構成物質を溶解させ、そこに防食剤を滴下する。そうすると溶液中に防食剤の液滴が形成されるため、この防食剤の液滴を、マイクロカプセル本体構成物質が溶解しないpH、例えばpH8以上のアルカリ性の水溶液に滴下することにより、防食剤を内包したマイクロカプセルを作製することができる。
【0014】
ここで、マイクロカプセル本体構成物質を溶解させる、水に不溶な溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。このような溶媒に対するマイクロカプセル本体構成物質の溶解濃度には特に制限はないが、過度に低濃度であっても過度に高濃度であっても安定なマイクロカプセルを形成し得ないことから、作製時の作業性、マイクロカプセルの安定性の点で、5〜10g/L−溶媒程度であることが好ましい。
【0015】
防食剤としては通常水系の防食剤として用いられている一般的な防食剤で良く、例えば、リン酸、クロム酸、タングステン酸、モリブデン酸の水溶性塩等が挙げられる。これらの防食剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。防食剤は、飽和水溶液として、マイクロカプセル本体構成物質の溶液に滴下される。この防食剤水溶液の濃度が低いと水系内で腐食抑止用マイクロカプセルから放出される防食剤濃度が低く、防食効果を十分に得ることができない。
【0016】
前述の如く、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは水系に添加され、局部腐食内部水のpHに応答して防食剤を放出するために、その粒径は、各種金属のさび膜の中に浸透する大きさであることが好ましい。従って、マイクロカプセルの粒径は各種金属のさび膜の細孔の大きさによるが、例えば、淡水系における炭素鋼ではさび膜の細孔径が20〜30μmであるため、この細孔径よりも小さいことが好ましく、例えば、30μm以下、特に0.1〜10μmであることが好ましく、さらに好ましくは1〜5μm程度であることが望ましい。
【0017】
なお、マイクロカプセルの粒径の制御法としては種々あるが、例えば、上記マイクロカプセルの製造方法において、マイクロカプセル本体構成物質の溶液に滴下する防食剤の液滴の径を制御することにより、マイクロカプセルの粒径を制御することができる。
【0018】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系に添加されると、金属孔食部分の表面に形成されたさび膜内に浸透し、pH中性又は酸性の局部腐食内部水に接触してマイクロカプセル本体が溶解ないし破壊して内部の防食剤を放出する。このさび膜内で放出された防食剤が金属の孔食部分に直接作用して局部腐食の進行を効果的に抑止する。
【0019】
なお、水系に添加された本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、さび膜内に浸透する前の循環水系内に存在するときは、マイクロカプセル本体が溶解ないし破壊することはなく、従って、防食剤が放出されることはないため、防食剤が無駄に消費されることはなく、また、水系内で放出された防食剤により、スケール障害等の他の障害を引き起こすことはない。従って、プラントの操業を停止することなく、水質の制御等を必要とすることなく、適量の腐食抑止用マイクロカプセルの添加により、水系の金属の局部腐食の進行を確実に防止することができる。
【0020】
なお、水系への腐食抑止用マイクロカプセルの添加量は、処理対象水系の状況に応じて十分な局部腐食の進行抑止効果が発揮されるように適宜決定されるが、通常、内包された防食剤添加量(有効成分量)として20〜100mg/Lの範囲で添加制御を行うことが好ましい。
【0021】
【実施例】
以下に実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0022】
実験例1
図1に示す透過実験装置を用いて、ポリビニルピリジンで作製した膜がpHに応答して防食剤を透過することを確認する実験を行った。
【0023】
まず、ポリビニルピリジンをメタノールに溶解させて湿式製膜法でポリビニルピリジン膜を作製した。図1に示す如く、内部に液を収容し得る断面コ字形の透過実験装置の中央に、作製したポリビニルピリジン膜1を固定し、供給側2にリン酸水素二ナトリウム水溶液(1000mg/L as PO4 3−)を、透過側3にpH緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、酢酸−酢酸Na水溶液)を入れ、pH緩衝液のpHを変化させて24時間後のリン酸イオンの透過量を測定した。結果を図2に示す。
【0024】
図2より、pH9では24時間後もリン酸イオンは殆ど透過していないが、pH6とすると緩衝液中のリン酸イオン濃度は約50mg/L as PO4 3−となり、リン酸イオンが透過することが確認された。また、pH5とした場合はポリビニルピリジン膜が溶解し、リン酸イオンが完全に透過することが確認された。
【0025】
実施例1
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルを以下の製造方法で作製した。
【0026】
まず、ジクロロメタン100mLにポリビニルピリジン5gを溶解させた。そこに25重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を滴下してヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を内包したカプセルを形成させた。それをポリビニルピリジンが溶解しないpH9程度の水溶液に滴下することによりヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液内包ポリビニルピリジン膜マイクロカプセルを作製した。得られた腐食抑止用マイクロカプセルの粒径は約5μmであった。
【0027】
実施例2
図3に示すようなモデル熱交試験装置を用いて、実施例1で作製した腐食抑止用マイクロカプセルの局部腐食進行抑止効果を評価した。
【0028】
図3の装置において、11はチューブ側通水熱交換器であり、冷却塔12のピット12Aからの冷却水がポンプ13により配管14より通水され、戻り配管15により循環される。16は流量計、17は補給水供給配管である。熱交換器11のチューブ11Aの管材としては炭素鋼管(STB−340)を用いた。この熱交チューブ11A内の冷却水流速は0.5m/sとし、蒸気加熱により熱交換器11の入口11aと出口11bの冷却水温度差が20℃となるようにした。熱交換器11で暖められた冷却水は、冷却塔12にて冷却され、水温が30℃となるようにした。熱交チューブ11Aの炭素鋼管はリン亜鉛高濃縮による皮膜形成を行った。即ち、合成水に全リン酸濃度100mg/L、全亜鉛濃度20mg/Lとなるように腐食抑制剤を添加し、室温レベルの水温で循環させ、熱交換器11の炭素鋼表面に防食皮膜を形成させた。皮膜形成期間は1日間とした。
【0029】
また、冷却水としては表1に示す水質の模擬冷却水を用いた。この模擬冷却水においてはスケール抑制のために高分子を添加している。この模擬冷却水のpHは約8.8である。
【0030】
【表1】
【0031】
試験期間中の水質は一定となるように冷却水のブロー、合成水の補給を行いながら濃縮管理を行った。試験開始5日後からブロー量に応じて、実施例1で作製した腐食抑止用マイクロカプセルを100mg/L(as PO4 3−)添加し、経時毎に、熱交換器11のチューブ11Aの炭素鋼管表面に認められた局部腐食の最大深さを調べ、結果を表2に示した。
【0032】
比較例1
実施例2において、腐食抑止用マイクロカプセルを添加しなかったこと以外は同様にして試験を行い、結果を表2に示した。
【0033】
【表2】
【0034】
表2より明らかなように、腐食抑止用マイクロカプセルを添加しなかった比較例1の場合よりも、腐食抑止用マイクロカプセルを添加した実施例2の場合の方が明らかに局部腐食の最大深さが浅く、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルによる局部腐食の進行抑止効果が確認された。
【0035】
試験終了後、循環水を採取し、遠心分離機にかけ、腐食抑止用マイクロカプセルを沈殿させた後、上澄みのリン酸イオン濃度を測定したところリン酸イオン濃度は0mg/Lであり、循環水系内では、防食剤が放出されていないことが確認された。
【0036】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、水系のpHに応答して内包する防食剤を放出する腐食抑止用マイクロカプセルにより、金属の孔色部分の表面に形成されたさび膜内で防食剤を放出させることにより、プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実験例1で用いた透過実験装置を示す構成図である。
【図2】実験例1の結果を示すグラフである。
【図3】実施例2で用いたモデル熱交試験装置を示す構成図である。
【符号の説明】
1 ポリビニルピリジン膜
2 供給側
3 透過側
11 熱交換器
11A チューブ
12 冷却塔
13 ポンプ
16 流量計
Claims (5)
- 水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包した腐食抑止用マイクロカプセルであって、
該水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出することを特徴とする腐食抑止用マイクロカプセル。 - 請求項1において、該水系のpHが中性又は酸性であるときに該防食剤を放出することを特徴とする腐食抑止用マイクロカプセル。
- 請求項2において、該マイクロカプセル本体がポリビニルピリジンよりなることを特徴とする腐食抑止用マイクロカプセル。
- 請求項1ないし3のいずれか1項において、該マイクロカプセルの粒径が30μm以下であることを特徴とする腐食抑止用マイクロカプセル。
- 水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法において、該水系に請求項1ないし4のいずれか1項に記載の腐食抑止用マイクロカプセルを添加することを特徴とする水系の金属の腐食抑止方法。
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