JP2004352644A - 抗ピロリ菌組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた抗ピロリ菌作用を有し、しかも安全性の高い月見草由来の抗ピロリ菌組成物を提供する。
【解決手段】本発明の抗ピロリ菌組成物は、月見草の溶媒抽出物を含有することを特徴とする。前記抗ピロリ菌組成物は、月見草種子望ましくは脱脂月見草種子の溶媒抽出物であるとよい。前記抗ピロリ菌組成物は、前記溶媒抽出物がエタノール濃度40〜90%(wt/wt)の含水エタノール抽出物であるとよい。本発明の抗ピロリ菌組成物は、月見草由来のポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする。前記ポリフェノールは、エラグ酸、ペンタガロイルグルコース、没食子酸、カテキン、プロシアニジン、プロアントシアニジンから選ばれる1種または2種以上を含むとよい。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、月見草由来の抗ピロリ菌組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の疾病には、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori、以下ピロリ菌という。)が関与することが知られている。ピロリ菌は、グラム陰性の微好気性細菌で、ウレアーゼ活性によりアンモニアを産生し、胃酸を中和することから胃の中でも生きられるという性質をもつ。ピロリ菌が胃や十二指腸の粘膜などに定着(寄生)すると、胃粘膜の襞の中に入り込で取り除くことが困難になるため、ピロリ菌感染に対する早期の治療および予防が重要である。
【0003】
ピロリ菌除菌治療法としては、ビスマス、メトロニダゾール、テトラサイクリン等の抗菌剤と、酸分泌抑制作用を有するプロトンポンプ阻害剤(抗消化性潰瘍薬、PPI)との組み合わせによる多剤併用治療が行われているが、このような多剤併用治療では、副作用や薬剤耐性菌の出現等の問題がある。このため、最近では、安全性の高い植物由来の抗ピロリ菌組成物が研究・開発されている。
【0004】
従来の植物由来の抗ピロリ菌組成物としては、オウレン、ビンロウジ、カンゾウなどの薬草抽出物を有効成分とするもの(特許文献1)、茶葉抽出物(茶ポリフェノール)を有効成分とするもの(非特許文献1)、バラ科果実の抽出物(リンゴポリフェノール等)を有効成分とするもの(特許文献2)、イネ科タケ類植物の抽出物を有効成分とするもの(特許文献3)等が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平8−295632号公報
【特許文献2】
特開平11−180888号公報
【特許文献3】
特開2002−322079号公報
【特許文献4】
特開2000−159669号公報
【非特許文献1】
1996年度日本農芸化学会大会要旨集、P8
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような背景の下、本発明者らは、種々の植物由来の抽出物について、ポリフェノール含量、SOD様活性等を調査し、月見草抽出物に着目するに至った。そして、各種の実験を行った結果、月見草抽出物、特に、月見草種子の抽出物にピロリ菌に対して優れた抗菌作用があることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
本発明の目的は、優れた抗ピロリ菌作用を有し、しかも安全性の高い月見草由来の抗ピロリ菌組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、月見草由来の抗ピロリ菌組成物を含有する飲食品および薬品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための本発明の抗ピロリ菌組成物は、月見草の溶媒抽出物を含有することを特徴とする。
また、本発明の抗ピロリ菌組成物は、月見草種子の溶媒抽出物を含有することを特徴とする。
さらに、本発明の抗ピロリ菌組成物は、脱脂月見草種子の溶媒抽出物を含有することを特徴とする。
さらに、本発明の抗ピロリ菌組成物は、前記溶媒抽出物がエタノール濃度40〜90%(wt/wt)の含水エタノール抽出物であることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ピロリ菌に対して極めて高い抗菌作用をもつ成分を月見草由来の抽出物として服用することができる。これにより、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の疾病を効果的に予防し、または治療することができる。
【0009】
また、前記課題を解決するための抗ピロリ菌組成物は、月見草種子由来のポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする。
本発明の抗ピロリ菌組成物は、前記ポリフェノールがエラグ酸、ペンタガロイルグルコース、没食子酸、カテキン、プロシアニジン、プロアントシアニジンから選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする。
本発明の抗ピロリ菌組成物は、エラグ酸を有効成分とすることを特徴とする。
本発明の抗ピロリ菌組成物は、ペンタガロイルグルコースを有効成分とすることを特徴とする。
本発明の抗ピロリ菌組成物は、没食子酸を有効成分とすることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、月見草種子に比較的多量に含まれるポリフェノール成分によりピロリ菌に起因する胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の疾病を効果的に予防し、または治療することができる。また、これらのポリフェノール成分を単離・精製することにより、安全で効果の高い抗ピロリ菌組成物を効率よく製造することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
月見草は、マツヨイグサ属の1〜2年草または多年草である。まれに茎は木質化し低木状をなすこともある。代表種は次の4種である。
(1)コマツヨイグサ(Oenothera laciniata)
(2)マツヨイグサ(Oenothera striata)
(3)メマツヨイグサ(Oenothera biennis)
(4)オオマツヨイグサ(Oenothera erythrosepala)
本発明では、月見草の種類は限定されず、いずれを用いてもよい。
従来、月見草は、その種子から採取される月見草油が広く知られている。月見草油にはγ−リノレン酸が多く含まれており、その効能としては、肥満、糖尿病、高コレステロール血症、多量アルコール飲用者、加齢、ビタミンB不足に有効とされている。また、ウイルス感染の場合に生ずるリノール酸からγ−リノレン酸への転換阻害、喘息、アトピー性湿疹患者の治療に対して月見草油が有効なことも知られている。
月見草種子の脂溶性成分については生理活性が研究されているが、脂溶性成分以外の物質の生理活性についての報告は少ない。
【0012】
また、月見草油の製造過程で生じる圧搾粕は、一部が飼料として利用される他、産業廃棄物として処理されるのが現状である。
本発明によれば、月見草種子の脂溶性成分以外の成分について、新たな用途を与えるとともに、月見草油の分離後の圧搾粕から抗ピロリ菌組成物を抽出することができる。圧搾粕から付加価値の高い抗ピロリ菌組成物を抽出し、資源の有効利用を図ることは、きわめて有意義なことである。
【0013】
本発明の抗ピロリ菌組成物を抽出するための溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、酢酸エチル等を使用することができる。これらの溶媒を2種以上混合してもよい。望ましくは、水またはエタノールを抽出溶媒として用いると、月見草ポリフェノールを含む有効成分が効率よく抽出される。特に、含水エタノールは、抽出の際に有効成分の活性を低下させにくく、抽出物の食品使用における安全面の上でも好ましい抽出溶媒である。抽出用の水の種類は、特に限定されず、水道水、蒸留水、ミネラル水、アルカリイオン水、深層水等を使用することができる。
【0014】
本発明の抗ピロリ菌組成物を抽出する場合の抽出温度としては、例えば含水エタノールを使用する場合、抽出温度20〜80℃、望ましくは40〜50℃程度で行うとよい。抽出温度が低すぎると、有効成分が抽出されにくくなり、また、抽出温度が高すぎると、有効成分の活性が低下しやすくなるためである。
【0015】
抽出溶媒としての含水エタノールは、エタノール濃度40〜90%(wt/wt)、望ましくはエタノール濃度60〜80%(wt/wt)であるとよい。エタノール濃度が40%(wt/wt)未満であると、有効成分の抽出量が不十分になり、また、90%(wt/wt)を超えると、月見草種子の油分が溶媒中に溶け出しやすくなるからである。なお、エタノール抽出は、有効成分の含有率を向上させるため、種々の濃度で繰り返すとよい。
【0016】
また、月見草種子には、脱脂月見草種子を使用するのが望ましい。これは、種子中の油分を除くことにより、有効成分が脱脂物中に濃縮されるためである。脱脂方法としては、例えば、月見草種子を圧搾して油分を分離した後、圧搾物の残留油分を脂溶性有機溶媒により抽出分離するとよい。
【0017】
好ましい脱脂用溶媒としては、ヘキサンが挙げられる。ヘキサンを使用すると、抽出油分を食用油として使用し得るとともに、脱脂月見草種子の抽出物を食品素材等に利用しやすくなる。なお、月見草種子抽出物を食品以外の用途に用いる場合は、ヘキサンに限ることなく、その他の非極性溶媒を用いることも可能である。
【0018】
本発明の抗ピロリ菌組成物の抽出方法としては、連続抽出、浸漬抽出、向流抽出、超臨界抽出など任意の方法を採用することができ、室温ないし還流加熱下において任意の装置を使用することができる。
【0019】
具体的な方法としては、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料(月見草種子の脱脂物)を投入し、攪拌しながら有効成分を溶出させる。例えば、抽出溶媒として含水エタノールを用いる場合には、抽出原料の5〜100倍量程度(重量比)の極性溶媒を使用し、30分〜2時間程度に抽出を行う。溶媒中に有効成分を溶出させた後、ろ過して抽出残渣を除くことによって抽出液を得る。その後、常法に従って抽出液に希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施し、抗ピロリ菌組成物とする。
なお、精製方法としては、例えば、活性炭処理、樹脂吸着処理、イオン交換樹脂、液−液向流分配等の方法が挙げられるが、食品等に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままで使用してもよい。
【0020】
発明者らの調査によれば、月見草種子抽出物には、エラグ酸、ペンタガロイルグルコース、没食子酸、カテキン、プロシアニジン、プロアントシアニジン等が比較的多量に含まれる。発明者らの研究によれば、これらのポリフェノールを1種または2種以上を含む抽出物には、ピロリ菌に対する抗菌作用がみられる。
【0021】
月見草種子抽出物に含まれるポリフェノール成分のうち、カテキン、プロシアニジンおよびプロアントシアニジンについては、既に、抗ピロリ菌作用の報告がある(非特許文献1、特許文献4)。しかしながら、エラグ酸、ペンタガロイルグルコースおよび没食子酸については、抗ピロリ菌作用は知られていない。特に、エラグ酸およびペンタガロイルグルコースは、月見草種子抽出物の他のポリフェノール成分に比べて極めて高い抗ピロリ菌作用を示す。月見草抽出物(特に月見草種子抽出物)がカテキン等に比較して格段に高い抗ピロリ菌作用を発揮するのは、エラグ酸やペンタガロイルグルコース等の従来抗ピロリ菌作用の知られていないポリフェノール成分の活性に起因するものと考えられる。
【0022】
本発明において抗ピロリ菌組成物の有効成分としてエラグ酸、ペンタガロイルグルコースまたは没食子酸を使用する場合は、月見草種子に限ることなく、月見草の全草、例えば葉や茎からこれらの成分を精製してもよい。また、月見草に限ることなく、茶、シャクヤク、ボタン、柿等の植物からエラグ酸、ペンタガロイルグルコースまたは没食子酸を抽出・精製するか、その他の方法によって得ることもできる。
【0023】
本発明の抗ピロリ菌組成物に含まれるエラグ酸、ペンタガロイルグルコースまたは没食子酸は、これらの誘導体の形であってもよい。詳細にはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、アルミニウムといった金属類やアンモニウム等によって生じる塩類、アルコールや脂肪酸、アルキルハロゲナイド類などとの反応によって得られるアルキルエステルの如くのエステル類およびそれらの塩類、また、リン酸基を導入したリン酸化化合物、硫酸基を導入した硫酸化化合物、さらに、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールのようなC〜Cの程度の炭素鎖を有するアルキレンオキサイド類との反応によってられるアルキルエーテル誘導体、グリシジルトリアルキルアンモニウムハロゲナイドの如く第4級アミンを分子内に有する基質との反応に生じる第4級アルキルアミン誘導体およびその塩類といった形で利用することもできる。
【0024】
本発明の抗ピロリ菌組成物は、各種飲食品の素材として使用することができる。
飲食品としては、例えば、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や、健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)が挙げられる。これらの飲食品に月見草ポリフェノールを適宜配合するとよい。
【0025】
これら飲食品には、その種類に応じて種々の成分を配合することができ、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の食品素材を使用することができる。
【0026】
具体的には、月見草抽出物を粉末セルロースとともにスプレードライまたは凍結乾燥したものを、粉末、顆粒、打錠または溶液にすることで容易に飲食品(インスタント食品等)に含有させることができる。また、月見草抽出物を、例えば、油脂、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンあるいはこれらの混合物に溶解して液状にし、飲料に添加するか、固形食品に添加することが可能である。必要に応じてアラビアガム、デキストリン等のバインダーと混合して粉末状あるいは顆粒状にし、飲料に添加するか固形食品に添加することも可能である。
【0027】
本発明の抗ピロリ菌組成物を飲食品に適用する場合の添加量としては、病気予防や健康維持が目的であるので、飲食品に対して有効成分の含量が合計1〜20w%以下であるのが好ましい。
【0028】
本発明の抗ピロリ菌組成物は、薬品(医薬品および医薬部外品を含む。)に適用してもよい。薬品製剤用の原料に、有効成分である月見草ポリフェノールを適宜配合して製造することができる。本発明の抗ピロリ菌組成物に配合しうる製剤原料としては、例えば、賦形剤(ブドウ糖、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等)、結合剤(蒸留水、生理食塩水、エタノール水、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(アルギン酸ナトリウム、カンテン、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖、アラビアゴム末、ゼラチン、エタノール等)、崩壊抑制剤(白糖、ステアリン、カカオ脂、水素添加油等)、吸収促進剤(第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等)、吸着剤(グリセリン、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、硅酸等)、滑沢剤(精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコール等)などが挙げられる。
【0029】
また、本発明の抗ピロリ菌組成物は、抗菌作用等を発揮する他の薬理剤と併用することができる。例えば月見草抽出物に、抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン等)、抗原虫剤(チニダゾール、メトロニダゾール等)、抗腫瘍剤(ビスマス製剤、ソファルコン、プロウノトール等)、プロトンポンプ阻害剤(オメプラゾール、ランソプラゾール等)などを適宜配合してもよい。
【0030】
本発明による抗ピロリ菌組成物の投与方法は、一般的には、錠剤、丸剤、軟・硬カプセル剤、細粒剤、散剤、顆粒剤、液剤等の形態で経口投与することができるが、非経口投与であってもよい。非経口剤として投与する場合は、溶液の状態、または分散剤、懸濁剤、安定剤などを添加した状態で、局所組織内投与、皮内、皮下、筋肉内および静脈内注射などによることができる。また、坐剤などの形態としてもよい。
【0031】
投与量は、投与方法、病状、患者の年齢等によって変化し得るが、大人では、通常、1日当たり有効成分として0.5〜5000mg、子供では通常0.5〜3000mg程度投与することができる。
抗ピロリ菌組成物の配合比については、剤型によって適宜変更することが可能であるが、通常、経口または粘膜吸収により投与される場合は約0.3〜15.0wt%、非経口投与による場合は、0.01〜10wt%程度にするとよい。なお、投与量は種々の条件で異なるので、前記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要のある場合もある。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、次のような優れた効果を奏する。
(a) 月見草由来の抽出物を摂取することにより、ピロリ菌に起因する胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の疾病を効果的に予防し、または治療することができる。
(b) 月見草由来の安全な抽出物であるから、飲食品や薬品の素材として安心して使用することができる。
(c) 脱脂月見草種子を原料として付加価値の高い抗ピロリ菌組成物を得ることができるため、資源の有効利用に役立つ。
【0033】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明による月見草抽出物の抗ピロリ菌作用の確認のために説明するもので、これらの製品および製法に限定されるものではない。
【0034】
[抗ピロリ菌組成物の製造]
月見草油の製造過程で得られる圧搾粕を抗ピロリ菌組成物の原料とした。まず、月見草種子の圧搾粕1kgを破砕し、ヘキサンで還流し、圧搾粕に残存する油分を除いて脱脂物とした。次いで、この脱脂物をエタノール濃度60wt%の含水エタノールで還流し、エタノール抽出液を乾固させて月見草エキス(実施例1)60gを得た。なお、月見草エキス(実施例1)のポリフェノール濃度は約60wt%であった。
【0035】
[MICの測定による評価]
得られた月見草エキス(実施例1)について、最小発育阻止濃度(MIC;Minimum Inhibitory Concentration)を測定することにより、抗ピロリ菌作用を確認した。
【0036】
(1)被検菌の調整
ピロリ菌の臨床分離株15種(KR2008、KR2009、KR2093、KR2007、NCTC11638、ATCC43579、TK1402、TK1029、KR2063、ATCC43504、ATCC43503、KR2067、KR2005、TK1023、KR2002)を7%ウマ脱繊維血加ブレインハートインフュージョン(Brain Heart Infusion;BHI)寒天培地に接種して継代培養した後、10%ウシ胎児血清(FCS)添加ブレインハートインフュージョン(Brain Heart Infusion;BHI)液体培地を用いて微好気培養(37℃、O:5%、CO:10%、N:85%)したものを被検菌とした。
なお、これらの臨床分離株15種に加えて、宿主がラットやマウスであるヘリコバクター・ムステラ菌(Helicobacter mustelae)についても、同様な方法で培養し被検菌とした。
【0037】
(2)MICの測定
10%ウシ胎児血清(FCS)添加BHI寒天培地に、終濃度1、2、4、8、16、32、64、128μg/mlとなるように月見草エキス(実施例1)を添加し、次いで、これらの寒天培地に被検菌をそれぞれ接種して微好気培養(37℃、O:5%、CO:10%、N:85%)で4日間培養した後、菌株の生育状況を調べた。対照として月見草エキス(実施例1)を添加しないものについても、同様な条件で菌株の生育状況を調べた。
【0038】
月見草エキス(実施例1)の他、エラグ酸(実施例2)、ペンタガロイルグルコース(実施例3)および没食子酸(実施例4)の各精製物についても、同様な条件で最小発育阻止濃度を調査した。
また、比較例として、従来より抗ピロリ菌作用の報告されているリンゴポリフェノール(比較例1)とカテキン(比較例2)についても、同様な条件で最小発育阻止濃度を調査した。
【0039】
(3)結果
実施例1〜4、比較例1および2の各濃度におけるピロリ菌の生育状況を表1〜6に示した。
【表1】
Figure 2004352644
【表2】
Figure 2004352644
【表3】
Figure 2004352644
【表4】
Figure 2004352644
【表5】
Figure 2004352644
【表6】
Figure 2004352644
各表において、菌の増殖が見られるものを増殖の程度に応じて「+」、「++」および「+++」の3段階で評価し、菌の増殖が見られないものを「−」で示した。
表1に示すように、月見草エキス(実施例1)は、全種類のピロリ菌に対し優れた抗ピロリ菌作用があり、最小発育阻止濃度は64μg/ml(菌株KR2067を除く。)であった。これは、表5に示すリンゴポリフェノール(比較例1)と比較しても極めて強い。
【0040】
表2および表3に示すように、エラグ酸(実施例2)およびペンタガロイルグルコース(実施例3)は、月見草エキス(実施例1)よりも最小発育阻止濃度が低く、エラグ酸(実施例2)の最小発育阻止濃度は32μg/ml、ペンタガロイルグルコース(実施例3)の最小発育阻止濃度は16μg/mlであった。すなわち、月見草エキス(実施例1)よりも強い抗ピロリ菌作用があることが判る。
また、表4に示すように、没食子酸(実施例4)についても、一部の被検菌を除き十分に菌株の生育を抑制した。没食子酸(実施例4)の抗ピロリ菌作用は、表6に示すカテキン(比較例2)と比較しても、遜色ないものであった。
なお、実施例1〜3については、ピロリ菌に加えて、ヘリコバクター・ムステラ菌に対しても優れた抗菌作用が見られることから、ヘリコバクター属の菌株に対して広く抗菌効果を発揮しうることが推察される。
【0041】
[生存曲線による評価]
ピロリ菌の経時的な生存率を調べることにより、月見草エキス(実施例1)の抗ピロリ菌作用を確認した。
【0042】
(1)被検菌の調整
ピロリ菌の臨床分離株(TK1402)を7%ウマ脱繊維血加BHI寒天培地に接種して微好気条件下(37℃、O:5%、CO:10%、N:85%)で培養したものを被検菌とした。
【0043】
(2)試験方法
ハンクス液(栄養がない条件:生理食塩水懸濁時)に被検菌7×10CFU/mlを浮遊させ、各種濃度(32、64、128、256、512μg/ml)に調製した月見草エキス(実施例1)を添加した。次いで、被検菌を微好気条件下(37℃、O:5%、CO:10%、N:85%)で培養し、培養開始後、1時間、4時間、および24時間後に被検菌の生存状況を調べた。対照として月見草エキス(実施例1)を添加しないものについても、同様な条件で被検菌の生存状況を調べた。
【0044】
(3)結果
図1に示すように、月見草エキス(実施例1)を添加しないもの(対照)に対し、月見草エキス(実施例1)を添加した被検菌は、24時間後には検出限界以下となった。また、被検菌は、濃度依存的に減少した。これらの結果からも、月見草エキス(実施例1)には優れた抗ピロリ菌作用があることが判る。
【0045】
[フローサイトメイトリーによるピロリ菌の付着抑制の評価]
ピロリ菌のヒト胃癌由来上皮細胞株(MKN45細胞)への付着性をフローサイトメトリー(FCM)にて解析することにより、月見草エキス(実施例1)の付着抑制作用を確認した。
【0046】
(1)被検菌の標識
ピロリ菌の臨床分離株(TK1402)を7%ウマ脱繊維血加BHI寒天培地に接種して微好気条件下(37℃、O:5%、CO:10%、N:85%)で3日間培養したものを被検菌とした。この被検菌を集菌した後、親脂性蛍光色素PKH−2に懸濁し、室温にて撹拌しながらラベルした。
【0047】
(2)被検菌とMKN45細胞の前処理
PKH−2でラベルした被検菌(5×10CFU/ml)とMKN45細胞(4.9×10cell/ml)とを、それぞれ各濃度16、32、64μg/mlに調製した月見草エキス(実施例1)に室温にて30分間前処理した。
【0048】
(3)付着の解析
前処理したMKN45細胞および被検菌を、それぞれ等しい月見草エキス濃度毎に混和し、1時間室温で反応させた。反応後、菌細胞混合液を15%sucrose加PBSに加えて転倒混和した後、1000Gで5分間遠心分離し、上清を除去することによりMKN45細胞に付着していない被検菌を取り除いた。そして、沈殿物(細胞分)をセルストレーナーに移し、FCMにより細胞の蛍光強度を測定した。なお、対照として月見草エキス(実施例1)による前処理をしないで同様な条件でMKN45細胞と被検菌とを反応させたもの(positive control)と、被検菌を加えずにMKN45細胞のみを用いるもの(negative control)とについても、同様に蛍光強度を測定した。結果を図2および表7に示す。
【表7】
Figure 2004352644
【0049】
(4)結果
表7に見られるように、月見草エキスによる前処理をしないでMKN45細胞と被検菌とを反応させたpositive controlでは、平均蛍光強度が795.03であるのに対し(図2のC0参照)、月見草エキス(実施例1)による前処理をした場合には、その濃度が高くなるに従い平均蛍光強度が低下した(図2のP1、P2、P3参照)。すなわち、月見草エキス(実施例1)が濃度依存的にMKN45細胞へのピロリ菌の付着を抑制していることが判る。また、表7に示すように、ピロリ菌の付着抑制率は、月見草エキス濃度16μg/mlのとき80%を超え、月見草エキス濃度32μg/mlのとき98%以上であった。
【0050】
[in vivoにおけるピロリ菌の定着抑制の評価]
月見草エキス(実施例1)のin vivo(スナネズミ)におけるピロリ菌の定着抑制作用を確認した。
(1)被検菌の調整
ピロリ菌の臨床分離株(TK1402)を7%ウマ脱繊維血加BHI寒天培地に接種し、微好気条件下(37℃、O:5%、CO:10%、N:85%)で培養したものを被検菌とした。
【0051】
(2)ピロリ菌の接種
被検菌(1〜3×10CFU/ml)に月見草エキスが1mg/mlの終濃度となるように添加し、スナネズミ(MGS/Sea、9週齢、オス)に経口接種(1ml/匹、1日1回、連続2回)した。対照群のスナネズミには、月見草エキス(実施例1)を与えずに被検菌のみを経口接種した。
【0052】
(3)RT−PCRによる遺伝子の検出
一週間後開腹し、胃粘膜を剥離後、ハンクス液に懸濁して被検菌および細胞中のトータルRNAを抽出した。抽出したRNAに混入する染色体DNAを除去するためDNase処理した後(DNA−free;Ambion)、このRNAをRT(逆転写)によりcDNAに変換した。
次いで、このcDNAにプライマーを混合し、サーマルサイクラー(遺伝子増幅装置)により目的とするcDNAを増幅させた。プライマーには、ピロリ菌16SrRNA(Foward5’−GCTAAGAGATCAGCCTATGTCC−3’、Reverse5’−GGCAATCAGCGTCAGGTAATG−3’)に特異的なものと、ハウスキーピング遺伝子の一つであるG3PDH(Foward5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC−3’、Reverse5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−3’)に特異的なものとを使用した。なお、染色体DNA除去を確認するためRTを行わないものについても同様にPCRを行った。
その後、アガロースゲルによる電気泳動を行い、染色後、紫外線下でバンドを観察した。バンドの確認および判定は、コントロール(G3PDH)のバンド450bpが全て陽性であることを条件にピロリ菌16Sのバンド501bpが確認されてものについて陽性、確認されなかったものを陰性とした。図3にピロリ菌16Sのバンド501bp、図4にコントロール(G3PDH)のバンド450bpを示す電気泳動写真を示した。
【0053】
(3)結果
図3に示すように、月見草エキスを添加していない対照群では、スナネズミ5匹中4匹にピロリ菌の付着がみられたが(No.1,2,3,4)、月見草エキスを添加したものは、ピロリ菌の付着がスナネズミ5匹中1匹に減少した(No.1のみ)。これらの結果から、in vivoにおいても月見草エキスがスナネズミの胃内でピロリ菌の感染・定着を抑制することが判る。
なお、図3には、抗生物質であるアモキシシリンをピロリ菌とともに経口摂取し、同様な条件でRT−PCR法により電気泳動を行った結果も示した。アモキシシリンについても、スナナズミ2匹にピロリ菌の付着はみられず、月見草エキスと同様に定着抑制作用を発揮することが確認された。
【0054】
[配合例]
本発明による抗ピロリ菌組成物の配合例を示す。以下の配合例において、「月見草エキス」には、脱脂月見草種子のエタノール抽出物を用いることが望ましい。
Figure 2004352644
【0055】
Figure 2004352644
【0056】
Figure 2004352644
【0057】
Figure 2004352644
【0058】
Figure 2004352644
【0059】
Figure 2004352644
【0060】
Figure 2004352644

【図面の簡単な説明】
【図1】月見草エキス添加後の経過時間とピロリ菌の生存数と関係(サバイバル曲線)を示すグラフである。
【図2】フローサイトメトリー解析の結果を示すもので、ピロリ菌付着後のMKN45細胞の細胞数と蛍光強度との関係を示すグラフである。
【図3】16SrRNA発現を指標としたRT−PCR法による感染スナネズミ(1週間)の胃粘膜中のピロリ菌検出結果を示す電気泳動写真である。
【図4】コントロール(ハウスキーピング遺伝子G3PDH)の検出結果を示す電気泳動写真である。

Claims (11)

  1. 月見草の溶媒抽出物を含有することを特徴とする抗ピロリ菌組成物。
  2. 前記溶媒抽出物が月見草種子の溶媒抽出物である、請求項1記載の抗ピロリ菌組成物。
  3. 前記溶媒抽出物が脱脂月見草種子の溶媒抽出物である、請求項1記載の抗ピロリ菌組成物。
  4. 前記溶媒抽出物がエタノール濃度40〜90%(wt/wt)の含水エタノール抽出物である、請求項1、2または3記載の抗ピロリ菌組成物。
  5. 月見草由来のポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする抗ピロリ菌組成物。
  6. 前記ポリフェノールがエラグ酸、ペンタガロイルグルコース、没食子酸、カテキン、プロシアニジン、プロアントシアニジンから選ばれる1種または2種以上を含む、請求項5記載の抗ピロリ菌組成物。
  7. エラグ酸を有効成分とすることを特徴とする抗ピロリ菌組成物。
  8. ペンタガロイルグルコースを有効成分とすることを特徴とする抗ピロリ菌組成物。
  9. 没食子酸を有効成分とすることを特徴とする抗ピロリ菌組成物。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項記載の抗ピロリ菌組成物を含有してなる飲食品。
  11. 請求項1〜9のいずれか一項記載の抗ピロリ菌組成物を含有してなる薬品。
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