JP2004347064A - ベルト式無段変速機の変速制御フィードバック系の設計方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ベルト式無段変速機の変速制御フィードバック系を容易に設計する。
【解決手段】設計方法は、CVT簡易モデルのステップ応答を求めて、定常ゲインa、立上り時定数Tを測定するステップ(S100)と、ステップ状に目標プライマリプーリ回転数NINを変化させたときに追従するまでの目標応答時間Trを設定するステップ(S200)と、定常ゲインaと立上り時定数Tと目標応答時間Trとに基づいて、比例ゲインKpと積分時間Kiとを算出するステップ(S300)と、算出された比例ゲインKpおよび積分時間Kiを用いて、積分先行型フィードバック系を設計するステップ(S400)とを含む。
【選択図】 図7
【解決手段】設計方法は、CVT簡易モデルのステップ応答を求めて、定常ゲインa、立上り時定数Tを測定するステップ(S100)と、ステップ状に目標プライマリプーリ回転数NINを変化させたときに追従するまでの目標応答時間Trを設定するステップ(S200)と、定常ゲインaと立上り時定数Tと目標応答時間Trとに基づいて、比例ゲインKpと積分時間Kiとを算出するステップ(S300)と、算出された比例ゲインKpおよび積分時間Kiを用いて、積分先行型フィードバック系を設計するステップ(S400)とを含む。
【選択図】 図7
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機の制御系の設計方法に関し、特に、自動変速機としてベルト式無段変速機の変速制御フィードバック系の設計方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両においては、トランスミッションの変速比を車両の走行状況に応じて調整する自動変速機として、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)が搭載されることがある。
【0003】
このCVTは、エンジン出力を効率的に引き出すことが可能であり、燃費および走行性能の向上に優れる。実用化されたCVTの1つとして、金属ベルトと一対のプーリとを用いて、油圧によってプーリの有効径を変化させることで連続的に無段階の変速を実現するものがある。無端金属ベルトが、入力軸に取付けられた入力側プーリ(プライマリプーリ)および出力軸に取付けられた出力側プーリ(セカンダリプーリ)に巻き掛けられて使用される。
【0004】
入力側プーリおよび出力側プーリは、溝幅を無段階に変えられる1対のシーブをそれぞれ備え、溝幅を変えることで、無端金属ベルトの入力側プーリおよび出力側プーリに対する巻付け半径が変わり、これにより入力軸と出力軸との間の回転数比、すなわち変速比を連続的に無段階に変化させることができる。
【0005】
さらに詳しく説明すると、まず、無段変速機を制御するECU(Electronic Control Unit)は、アクセル開度と車速とから、運転者が必要とする目標エンジン出力を決定して、目標エンジン出力をエンジンの最適燃費線上で実現できるようにプライマリプーリの目標回転数を決定する。ECUは、プライマリプーリ回転数センサで検知される実際のプライマリプーリの回転数が、目標回転数になるように(すなわち、実際のプライマリプーリの回転数と目標回転数との差である偏差がゼロになるように)フィードバック制御を実行する。このようなフィードバック制御に基づいて、ECUがCVTの油圧回路を制御して無段階の変速を実行する。エンジンを制御するECUは、目標エンジン出力とエンジン回転数とにより、目標エンジントルクを決定しスロットル開度を制御してエンジンを制御する。このように、制御されるので、エンジン出力を効率的に引き出すことが可能であり、燃費および走行性能の向上に優れるという特徴を有する。
【0006】
したがって、CVTにおいては、目標エンジン出力をエンジンの最適燃費線上で実現するプライマリプーリの回転数を目標値とするフィードバック制御系が構築される。
【0007】
特開平11−82701号公報(特許文献1)は、外乱を補償しながら、正確な変速比制御を行なう無段変速機の変速比制御装置を開示する。この無段変速機の変速比制御装置は、アクチュエータに駆動される変速制御弁からの油圧に基づいて変速比が無段階に可変制御される無段変速機と、車両の運転状態または運転者からの指令に応じて無段変速機の目標変速比を設定する目標変速比設定部と、実際の変速比を検出する実変速比検出部と、無段変速機に加わる外乱を補償して所定の動特性となるよう目標変速比に基づいて変速比指令値を演算する外乱補償部と、実変速比が変速比指令値に一致するようにアクチュエータ駆動する駆動部とを備えた無段変速機の変速比制御装置において、外乱補償部は、外乱補償後の変速比指令値と外乱補償前の変速比指令値から変速制御弁の開口量を推定演算し、この開口量の推定値に基づいて動特性を決定する時定数を変更する。
【0008】
この無段変速機の変速比制御装置によると、外乱補償後の変速比指令値と、外乱補償前の変速比指令値から変速制御弁の開口量を推定演算することで、例えば、変速制御弁とアクチュエータをリンクによって連結して、アクチュエータの駆動量と変速比の関係が非線形となる場合、推定演算した変速制御弁の開口量と実際の開口量の偏差を縮小することが可能となる。そのため、従来のように制御対象の動特性と制御対象時定数が一致しなくなるのを防いで、制御対象のモデル化誤差を低減することにより、アクチュエータの駆動量のずれ(脱調)やリンクのガタ等に起因する変速比のふらつきを防止して予め設定した変速比応答を得ることができる。その結果、運転者に与える違和感を抑制して無段変速機を備えた車両の運転性を向上させることが可能となる。
【0009】
特開2000−240780号公報(特許文献2)は、変速比機構部の動作が制限された場合に目標変速比と実変速比との偏差を減少させて、目標とする変速比応答を実現する無段変速機の変速比制御システムを開示する。この無段変速機の変速比制御システムは、運転状態に応じて決まる到達変速比と、所定の動特性を表す時定数と、推定された無段変速機の動特性を表す時定数とに基づき変速比指令値を演算する変速比指令値演算部と、到達変速比と、所定の動特性を表す時定数とに基づき目標変速比を演算する目標変速比演算部と、目標変速比と実変速比との偏差に基づき変速比指令値の補正量を演算する補正量演算部と、補正量に基づき変速比指令値を補正する変速比指令値補正部と、補正後の変速比指令値に基づき無段変速機を制御する制御部とを備える。
【0010】
この無段変速機の変速比制御システムによると、実変速比が所定の動特性をもって運転条件に応じて決まる到達変速比に近づくように無段変速機が制御される。実変速比は所定の動特性と到達変速比に基づき演算される目標変速比に追従する。ステップモータの駆動速度制限や角位置制限等を受けて実変速比が所定の動特性で到達変速比に近づかず、目標変速比と実変速比とに偏差が生じた場合には、変速比指令値にその偏差に応じた補正が施される。これにより、目標変速比と実変速比との偏差を縮小することができ、ステップモータの駆動速度制限や角位置制限を受けたとしてもそれによって変速比応答性能が悪化するのを抑えることができる。
【0011】
【特許文献1】
特開平11−82701号公報
【0012】
【特許文献2】
特開2000−240780号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した公報においては、以下に示す問題点がある。
【0014】
特許文献1に開示された無段変速機の変速比制御装置においては、プライマリプーリとセカンダリプーリのV字状プーリ溝の幅を変化させるために、プライマリプーリシリンダ室への油圧を制御する。変速比制御装置は、油圧コントロールバルブの変速制御弁を駆動するステップモータを制御する。このとき、制御対象である無段変速機の変速機構の動特性を一次遅れと無駄時間で表わし、安定性を考慮して、制御パラメータをチューニングする。このとき、外乱補償部が、変速制御弁の開口量を推定演算し、この開口量の推定値に基づいて動特性を決定する時定数を変更する。このように時定数を変更するので、推定演算した変速制御弁の開口量と実際の開口量の偏差を縮小して制御対象の動特性と制御対象時定数が一致しなくなるのを防いで、制御対象のモデル化誤差を低減できる。しかし、このようなモデル化誤差を低減するだけでは良好な制御特性を得ることができず、制御パラメータを種々の方法でチューニングしなければならない。このチューニングは、試行錯誤的な処理となり設計者の作業負担が高い。さらに、開口量に起因する以外の無段変速機の動特性が変化した場合には、再設計が必要になる。
【0015】
特許文献2に開示された無段変速機の変速比制御システムにおいても、特許文献1と同じように、制御対象である無段変速機の変速機構の動特性を一次遅れと無駄時間で表わし、安定性を考慮して、制御パラメータをチューニングする。このとき、実変速比が所定の動特性で到達変速比に近づかず、目標変速比と実変速比とに偏差が生じた場合には、変速比指令値にその偏差に応じた補正が行なわれる。しかし、このような変速比指令値に対する補正を行なうだけでは良好な制御特性を得ることができず、制御パラメータを種々の方法でチューニングしなければならない。このチューニングは、試行錯誤的な処理となり設計者の作業負担が高い。さらに、無段変速機の動特性が変化した場合には、再設計が必要になる。
【0016】
このように、特許文献1および特許文献2に開示された技術では、上述したように、いずれも制御パラメータ(たとえば、PID制御系における比例ゲイン、積分時間、微分時間など)をチューニングするために多大な作業が必要である。このようなチューニングを簡易にするために、限界感度法などの設計手法もあるが、チューニングの作業負荷を十分に軽減するに至っていない。
【0017】
また、制御対象の動特性を状態方程式で内部表現して、目標値のステップ状変化に対する定常偏差を0にするために、補償器として積分器を用いる、状態フィードバック制御という制御系がある。このような制御系として、積分型最適レギュレータやLQI(Linear Quadratic Integral)制御といわれるものがある。これは、評価関数のパラメータとして状態変数に対する重み行列Q、操作量に対する重み行列Rを設定して、評価関数を最小にするように、行列方程式を解いてフィードバックゲインを算出する。このようなLQI制御は、従来の制御系に対する利点もあるが、重み行列Qおよび重み行列Rの設定が煩雑であること、行列式を解かなければならないことから、車両の無段変速機の制御系に実装するためには、作業負荷が高い。
【0018】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、制御パラメータを設定して、積分先行型フィードバック制御系を容易に設計できるベルト式無段変速機の変速制御フィードバック系の設計方法を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
第1の発明に係る設計方法は、ベルト式無段変速装置の変速制御フィードバック系の設計方法である。フィードバック系はプライマリプーリの回転数を目標回転数に追従させる積分先行型フィードバック制御系を構成する。この設計方法は、ベルト式無段変速機を一次遅れ系のモデルで近似して、定常ゲインと立上り時定数とを算出する算出ステップと、プライマリプーリの目標回転数をステップ状に変化させたときの、目標とする応答時間を設定する設定ステップと、定常ゲインと立上り時定数と応答時間とに基づいて、積分先行型フィードバック制御系における比例ゲインと積分時間とを算出するパラメータ算出ステップとを含む。
【0020】
第1の発明によると、直列補償型ではなく積分器を分離させた積分先行型の変速制御フィードバック系を設計するにあたり、たとえば、CVTモデルを簡易化して、最適化問題をLQI制御におけるリカッチ方程式に帰着させる。このようにすると、良好な追従性を実現できる制御パラメータである比例ゲインと積分時間とを、行列式ではない算術式で算出することができる。特に、ベルト式無段変速機の伝達関数を一次遅れ系で近似することにより、このような手法を実現している。その上で、算出ステップにて、その一次遅れ系のステップ応答における定常ゲインと立上り時定数とを算出して、設定ステップにて、プライマリプーリの目標回転数をステップ状に変化させたときの、目標とする応答時間を設定する。パラメータ算出ステップは、追従性が良いように設定された定常ゲインと立上り時定数と応答時間とに基づく比例ゲインと積分時間とを算出する。その結果、LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、制御パラメータを設定して、積分先行型フィードバック制御系を容易に設計できる。この制御系は、ベルト式無段変速機の変速制御フィードバック系に適用できる。
【0021】
第2の発明に係る設計方法においては、第1の発明の構成に加えて、設定ステップは、プライマリプーリの回転数が目標回転数の予め定められた値に到達する時間を応答時間として設定するステップを含む。
【0022】
第2の発明によると、プライマリプーリの回転数が、たとえば目標回転数の99%に到達する時間を応答時間として設定して、ステップ応答の目標応答時間を設定して、制御パラメータである比例ゲインと積分時間とを算出することができる。
【0023】
第3の発明に係る設計方法においては、第1または2の発明の構成に加えて、パラメータ算出ステップは、定常ゲインと立上り時定数と応答時間とを用いた関数により比例ゲインを算出するステップと、応答時間を用いた関数により積分時間とを算出するステップとを含む。
【0024】
第3の発明によると、比例ゲインは、定常ゲインと立上り時定数と応答時間とを用いた関数により算出され、積分時間は、応答時間を用いた関数により算出される。LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、このような関数で制御パラメータを設定することができる。
【0025】
第4の発明に係る設計方法においては、第3の発明の構成に加えて、関数は、LQI制御における行列方程式に基づいて算出される関数である。
【0026】
第4の発明によると、LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、制御パラメータを設定することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0028】
本発明は、ベルト式無段変速機を制御する変速制御フィードバック制御系の設計方法に係るものであるが、このフィードバック制御系の設計方法を詳細に説明する前に、無段変速機の構造について説明する。
【0029】
図1を参照して、本実施の形態に係る設計方法が適用されるベルト式無段変速機の制御装置を含む車両のパワートレーンについて説明する。本実施の形態に係る設計方法により設計されたフィードバック制御系は、図1に示すECU1000により実行される。
【0030】
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、トルクコンバータ200と、前後進切換え装置290と、ベルト式無段変速機(CVT) 300と、デファレンシャルギヤ800と、ECU1000と、油圧制御部1100とから構成される。
【0031】
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサにより検知されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
【0032】
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプ羽根車220と、出力軸側のタービン羽根車230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。トルクコンバータ200とCVT300とは、回転軸により接続される。トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ400により検知される。
【0033】
CVT300は、前後進切換え装置290を介してトルクコンバータ200に接続される。CVT300は、入力側のプライマリプーリ500と、出力側のセカンダリプーリ600と、プライマリプーリ500とセカンダリプーリ600とに巻き掛けられた金属製のベルト700とから構成される。プライマリプーリ500は、プライマリシャフトに固定された固定シーブおよびプライマリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。セカンダリプーリ700は、セカンダリシャフトに固定されている固定シーブおよびセカンダリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。CVT300の、プライマリプーリの回転数NINは、プライマリプーリ回転数センサ410により、セカンダリプーリの回転数NOUTは、セカンダリプーリ回転数センサ420により、検知される。
【0034】
これら回転数センサは、プライマリプーリやセカンダリプーリの回転軸やこれに繋がるドライブシャフトに取り付けられた回転検出用ギヤの歯に対向して設けられている。これらの回転数センサは、CVT300の、入力軸であるプライマリプーリや出力軸であるセカンダリプーリの僅かな回転の検出も可能なセンサであり、たとえば、一般的に半導体式センサと称される磁気抵抗素子を使用したセンサである。
【0035】
前後進切換え装置290は、ダブルピニオンプラネタリギヤ、リバース(後進用)ブレーキB1および入力クラッチC1を有している。プラネタリギヤは、そのサンギヤが入力軸に連結されており、第1および第2のピニオンP1,P2を支持するキャリヤCRがプライマリ側固定シーブに連結されており、そしてリングギヤRが後進用摩擦係合要素となるリバースブレーキB1に連結されており、またキャリヤCRとリングギヤRとの間に入力クラッチC1が介在している。この入力クラッチ310は、前進クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ、パーキング(P)ポジション、Rポジション、Nポジション以外の車両が前進するときに必ず係合状態で使用される。
【0036】
Dポジションであって、車両の状態が予め定められた条件を満足して停止した場合に、入力クラッチ310を解放して所定のスリップ状態にして、ニュートラルに近い状態にする制御をニュートラル制御という。
【0037】
図2を参照して、これらのパワートレーンを制御するECU1000および油圧制御部1100について説明する。
【0038】
図2に示すように、ECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)_ECU1020には、タービン回転数センサ400からタービン回転数NTを表わす信号が、プライマリプーリ回転数センサ410からプライマリプーリ回転数NINを表わす信号が、セカンダリプーリ回転数センサ420からセカンダリプーリ回転数NOUTを表わす信号が、それぞれ入力される。
【0039】
図1および図2に示すように、油圧制御部1100は、変速速度制御部1110と、ベルト挟圧力制御部1120と、ロックアップ係合圧制御部1130と、クラッチ圧制御部1140と、マニュアルバルブ1150とを含む。ECU1000から、油圧制御部1100の変速制御用デューティソレノイド(1)1200と、変速制御用デューティソレノイド(2)1210と、ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220と、ロックアップソレノイド1230と、ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド1240に制御信号が出力される。この油圧回路の詳細は、特開2002−181175号公報に開示されているので、詳細な説明はここでは繰返さない。
【0040】
図2を参照して、これらのパワートレーンを制御するECU1000の構造をさらに詳しく説明する。図2に示すように、ECU1000は、エンジン100を制御するエンジンECU1010と、CVT300を制御するECT_ECU1020と、VSC(Vehicle Stability Control)_ECU1030とを含む。
【0041】
図1に示した入出力信号に加えて、ECT_ECU1020には、ストップランプスイッチから、運転者によりブレーキペダルが踏まれていることを表わす信号、Gセンサから、車両が登坂路などに停車した際の登坂路の傾斜度を表わす信号が、それぞれ入力される。さらに、エンジンECU1010には、アクセル開度センサから、運転者により踏まれているアクセルの開度を表わす信号、スロットルポジションセンサから、電磁スロットルの開度を表わす信号、エンジン回転数センサから、エンジン100の回転数(NE)を表わす信号が、それぞれ入力される。エンジンECU1010とECT_ECU1020とは、相互に接続されている。さらに、ECT_ECU1020には、VSC_ECU1030から、ブレーキ油圧を表わすブレーキ圧信号とが入力される。
【0042】
図1および図2に示されるような無段変速機300を含むパワートレーンにおいては、前述の説明のようにECU1000において無段変速機300の変速制御のためのフィードバック制御系が構成される。ECU1000は、アクセル開度と車速とから、運転者が必要とする目標エンジン出力を決定して、目標エンジン出力をエンジンの最適燃費線上で実現できるようにプライマリプーリの目標回転数が決定される。プライマリプーリ回転数センサ410で検知される実際のプライマリプーリの回転数が、この目標回転数になるようにする(すなわち、実際のプライマリプーリの回転数と目標回転数との差である偏差がゼロになるようにする)フィードバック制御系が構成される。このようなフィードバック制御に基づいて、ECUがCVTの油圧回路を制御して無段階の変速を実行する。
【0043】
図3にこのフィードバック制御系のブロック線図を示す。このフィードバック制御系は、直列補償型のPID制御系ではなく、積分制御を分離させた、積分先行型フィードバック制御系を構成している。目標値は、プライマリプーリの回転数であって、目標値をステップ状に変化させたときの応答性に基づいて制御パラメータを算出してフィードバック制御系を設計する。操作量は、変速制御用デューティソレノイド(1)1200(DS1)と、変速制御用デューティソレノイド(2)1210(DS2)とのそれぞれのオン時間の比率をであるデューティ比である。
【0044】
図3に示すように、図1に示す無段変速機300をモデル化した場合の伝達関数は、二次遅れ系で表わされる。このフィードバック制御系において、目標値であるプライマリプーリの回転数をステップ状に変化(具体的には、入力デューティ比を単位ステップ変化させた場合に出力されるプライマリプーリの回転数変化を図4に示す。
【0045】
本実施の形態に係るフィードバック制御系の設計方法においては、プライマリプーリ回転数(NIN)のフィードバック制御系を設計する際において、図5に示す無段変速機300の簡易モデル(一次遅れ系モデル)に対するステップ応答における、定常ゲインaと時定数Tとを算出する。そのような簡易モデルを用いて、目標回転数のステップ変化に対して目標とする応答時間Tr(たとえば、実回転数が目標回転数の99%に到達する間での時間を応答時間Trとして設定する)をパラメータとして、定常ゲインaおよび時定数Tとに基づいて、比例ゲインKpと積分時間Kiとを算出するものである。
【0046】
このような設計方法を最適に実現するために、図5に示すように無段変速機300のモデルを簡易的に一次遅れ系で表わし、評価関数を最小にすることにより、一次遅れ系のステップ応答であるプライマリプーリの回転数をオーバーシュートなく所定の時間内に収束させることを考える。この評価関数を最適化する際に、無段変速機のモデルを状態空間モデルで表現することにより最適化問題をLQI制御形式で表現して、非線形微分方程式をリカッチ型微分方程式に帰結させて、リカッチ方程式の解から制御パラメータである、比例ゲインKpと積分時間Kiとを算出する。以下、数式を用いて説明する。
【0047】
CVTモデルを図5のような一次遅れ形で簡易化して、yをプライマリプーリの実回転数、uをデューティ比とすると以下の式(1)のようにCVTモデルの伝達関数を表わすことができる。
【0048】
【数1】
【0049】
この式(1)において、目標プライマリプーリ回転数のステップ変化に対して実プライマリプーリ回転数の応答が、オーバシュートを発生させることなく、所定の時間(Tr)内に追従させる(たとえば、目標値の99%に収束させる)ことを考える。
【0050】
ここでは、rからyへの応答が式(2)に近くなるように制御パラメータを設定する。
【0051】
【数2】
【0052】
この式(2)において、r=r0/Sとして(すなわち、ステップ応答と仮定して)、以下の式(3)を得る。
【0053】
【数3】
【0054】
この式(3)を時間領域に変換して、式(4)を得る。
【0055】
【数4】
【0056】
この式(4)において、t=Trのときy=0.99r0である。すなわち、ここでは、実回転数が目標回転数の99%に到達する間での時間を応答時間Trとして設定したということである。
【0057】
yの応答が、以下の式(5)に近くなるとき、式(6)、(7)および式(8)が成立する。
【0058】
【数5】
【0059】
【数6】
【0060】
【数7】
【0061】
【数8】
【0062】
これらの式(6)、(7)および式(8)は、式(9)の形式で表わすことができる。
【0063】
【数9】
【0064】
ただし、この式(9)を導出するにあたり、e=r−yとした。
そこで、式(10)で表わされるように、評価関数Jを最小化することで、yの応答は、{1/(0.2TrS+1)}に近づくものと考えられる。
【0065】
【数10】
【0066】
ここで、CVTモデルを状態空間モデルで表現すると、式(11)のようになる。
【0067】
【数11】
【0068】
式(11)の左側は、式(12)のように表わされる。
【0069】
【数12】
【0070】
このような式(12)で表わされることから、上述した最適化問題は、LQI制御形式で表わすことができる。すなわち、式(13)のように表わされる。
【0071】
【数13】
【0072】
LQI制御においては、この最適化問題の解は、式(14)で与えられる。
【0073】
【数14】
【0074】
ただし、この式(14)におけるPは、式(15)、(16)で表わされるリカッチ方程式の解である。
【0075】
【数15】
【0076】
【数16】
【0077】
ここで、上述したリカッチ方程式は、以下の式(17)と等価である。
【0078】
【数17】
【0079】
この式(17)を解くと、P1は式(18)で、P2は式(19)で表わされる。
【0080】
【数18】
【0081】
【数19】
【0082】
よって、式(20)の両辺を積分すると式(21)になる。
【0083】
【数20】
【0084】
【数21】
【0085】
式(18)で表わされるP1および式(19)で表わされるP2を代入して、KpとKiとについて解くと、比例ゲインKpおよび積分時間Kiは、式(22)で表わされる。
【0086】
【数22】
【0087】
このようにして求められた比例ゲインKpおよび積分時間Kiを図6に示す。この図6に示す比例ゲインKpおよび積分時間Kiは、上述した式を用いて算出したものである。
【0088】
図6に示すように、このフィードバック制御系の制御パラメータである比例ゲインKpは、無段変速機300の簡易モデル(一次遅れ系モデル)に対するステップ応答における、定常ゲインaと時定数Tと目標応答時間Trとの関数で表わされている。また、積分時間Kiは、目標応答時間Trの関数で表わされている。
【0089】
図5に示す制御系の定常ゲインaと時定数Tとを算出して、たとえば、定常ゲインa=1、時定数T=0.2が算出されると、目標応答時間Trをパラメータとして、Tr=1とすると、比例ゲインKp=1000、積分時間Ki=5000、Tr=2とすると、比例ゲインKp=999.5、積分時間Ki=2500と算出できる。
【0090】
図7を参照して、制御系の設計方法を説明する。図7に示すフローチャートにおける計算は、一般的なコンピュータを用いて行なうことができる。その結果、CVTの変速制御フィードバック制御系の比例ゲインKpと積分時間Kiとが算出され、これをECU1000のメモリに記憶させておいて、積分先行型フィードバック制御系を設計する。
【0091】
ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、図5に示すCVT簡易モデルのステップ応答を求める。制御対象であるCVTの定常ゲインa、立上り時定数Tを測定する。S200にて、ステップ状に目標プライマリプーリ回転数NINを変化させたときに追従するまでの時間Trを設定する。
【0092】
S300にて、図6に示すテーブル(比例ゲインKpと積分時間Kiとの算出式を規定)を参照して、比例ゲインKp、積分時間Kiを算出する。S400にて、S300にて算出した比例ゲインKpおよび積分時間Kiを用いて、積分先行型フィードバック系を設計する。
【0093】
以上のようにして、算出された比例ゲインKpと積分時間Kiとを用いて、シミュレーションした結果を図8に示す。
【0094】
図8には、Tr=1とTr=2の場合を示す(Tr=1の場合、比例ゲインKp=1000、積分時間Ki=5000、Tr=2の場合、比例ゲインKp=999.5、積分時間Ki=2500)。いずれの場合においても、目標プライマリプーリ回転数のステップ状変化に対して、設定した目標応答時間Tr(目標値の99%に収束する時間)である1秒と2秒とに十分に追従していることがわかる。このことは、積分先行型フィードバック制御系の制御パラメータの設定が好適であることを示す。
【0095】
したがって、他のCVTにおいても、1次遅れ系でCVTの伝達関数を近似してステップ応答を求め、そのCVTの定常ゲインa、立上り時定数Tとに基づいて、制御パラメータである比例ゲインKpおよび積分時間Kiを算出しても、図8と同様に、応答性の良好なフィードバック制御系の設計を行なうことができる。
【0096】
以上のようにして、本実施の形態に係る変速制御フィードバック系の設計方法によると、従来は、限界感度法などの設計手法を用いても制御パラメータの算出が的確でないために、チューニングするために多大な作業が必要であったが、LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、制御パラメータを容易に設定できるように簡易モデルを用いた。そのようにして算出した制御パラメータを用いて積分先行型フィードバック制御系を容易に設計できる。
【0097】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御ブロック図である。
【図2】図1に示すECUの詳細図である。
【図3】無段変速機の変速制御ブロック図(その1)である。
【図4】図3のブロック図により表わされる制御系のステップ応答を示す図である。
【図5】無段変速機の変速制御ブロック図(その2)である。
【図6】図5に対応する制御パラメータを規定するテーブルを表わす図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る変速制御フィードバック系の設計方法を表わすフローチャートである。
【図8】図5のブロック図により表わされる制御系のステップ応答を示す図である。
【符号の説明】
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプ羽根車、230 タービン羽根車、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、290 前後進切換え装置、300 CVT、310入力クラッチ、400 タービン回転数センサ、410 プライマリプーリ回転数センサ、420 セカンダリプーリ回転数センサ、500 プライマリプーリ、600 セカンダリプーリ、700 ベルト、800 デファレンシャルギヤ、1000 ECU、1010 エンジンECU、1020 ECT_ECU、1100 油圧制御部、1110 変速速度制御部、1120 ベルト挟圧力制御部、1130 ロックアップ係合圧制御部、1140 クラッチ圧力制御部、1150 マニュアルバルブ、1200 変速制御用デューティソレノイド(1)、1210 変速制御用デューティソレノイド(2)、1220 ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド、1230 ロックアップソレノイド、1240 ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド。
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機の制御系の設計方法に関し、特に、自動変速機としてベルト式無段変速機の変速制御フィードバック系の設計方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両においては、トランスミッションの変速比を車両の走行状況に応じて調整する自動変速機として、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)が搭載されることがある。
【0003】
このCVTは、エンジン出力を効率的に引き出すことが可能であり、燃費および走行性能の向上に優れる。実用化されたCVTの1つとして、金属ベルトと一対のプーリとを用いて、油圧によってプーリの有効径を変化させることで連続的に無段階の変速を実現するものがある。無端金属ベルトが、入力軸に取付けられた入力側プーリ(プライマリプーリ)および出力軸に取付けられた出力側プーリ(セカンダリプーリ)に巻き掛けられて使用される。
【0004】
入力側プーリおよび出力側プーリは、溝幅を無段階に変えられる1対のシーブをそれぞれ備え、溝幅を変えることで、無端金属ベルトの入力側プーリおよび出力側プーリに対する巻付け半径が変わり、これにより入力軸と出力軸との間の回転数比、すなわち変速比を連続的に無段階に変化させることができる。
【0005】
さらに詳しく説明すると、まず、無段変速機を制御するECU(Electronic Control Unit)は、アクセル開度と車速とから、運転者が必要とする目標エンジン出力を決定して、目標エンジン出力をエンジンの最適燃費線上で実現できるようにプライマリプーリの目標回転数を決定する。ECUは、プライマリプーリ回転数センサで検知される実際のプライマリプーリの回転数が、目標回転数になるように(すなわち、実際のプライマリプーリの回転数と目標回転数との差である偏差がゼロになるように)フィードバック制御を実行する。このようなフィードバック制御に基づいて、ECUがCVTの油圧回路を制御して無段階の変速を実行する。エンジンを制御するECUは、目標エンジン出力とエンジン回転数とにより、目標エンジントルクを決定しスロットル開度を制御してエンジンを制御する。このように、制御されるので、エンジン出力を効率的に引き出すことが可能であり、燃費および走行性能の向上に優れるという特徴を有する。
【0006】
したがって、CVTにおいては、目標エンジン出力をエンジンの最適燃費線上で実現するプライマリプーリの回転数を目標値とするフィードバック制御系が構築される。
【0007】
特開平11−82701号公報(特許文献1)は、外乱を補償しながら、正確な変速比制御を行なう無段変速機の変速比制御装置を開示する。この無段変速機の変速比制御装置は、アクチュエータに駆動される変速制御弁からの油圧に基づいて変速比が無段階に可変制御される無段変速機と、車両の運転状態または運転者からの指令に応じて無段変速機の目標変速比を設定する目標変速比設定部と、実際の変速比を検出する実変速比検出部と、無段変速機に加わる外乱を補償して所定の動特性となるよう目標変速比に基づいて変速比指令値を演算する外乱補償部と、実変速比が変速比指令値に一致するようにアクチュエータ駆動する駆動部とを備えた無段変速機の変速比制御装置において、外乱補償部は、外乱補償後の変速比指令値と外乱補償前の変速比指令値から変速制御弁の開口量を推定演算し、この開口量の推定値に基づいて動特性を決定する時定数を変更する。
【0008】
この無段変速機の変速比制御装置によると、外乱補償後の変速比指令値と、外乱補償前の変速比指令値から変速制御弁の開口量を推定演算することで、例えば、変速制御弁とアクチュエータをリンクによって連結して、アクチュエータの駆動量と変速比の関係が非線形となる場合、推定演算した変速制御弁の開口量と実際の開口量の偏差を縮小することが可能となる。そのため、従来のように制御対象の動特性と制御対象時定数が一致しなくなるのを防いで、制御対象のモデル化誤差を低減することにより、アクチュエータの駆動量のずれ(脱調)やリンクのガタ等に起因する変速比のふらつきを防止して予め設定した変速比応答を得ることができる。その結果、運転者に与える違和感を抑制して無段変速機を備えた車両の運転性を向上させることが可能となる。
【0009】
特開2000−240780号公報(特許文献2)は、変速比機構部の動作が制限された場合に目標変速比と実変速比との偏差を減少させて、目標とする変速比応答を実現する無段変速機の変速比制御システムを開示する。この無段変速機の変速比制御システムは、運転状態に応じて決まる到達変速比と、所定の動特性を表す時定数と、推定された無段変速機の動特性を表す時定数とに基づき変速比指令値を演算する変速比指令値演算部と、到達変速比と、所定の動特性を表す時定数とに基づき目標変速比を演算する目標変速比演算部と、目標変速比と実変速比との偏差に基づき変速比指令値の補正量を演算する補正量演算部と、補正量に基づき変速比指令値を補正する変速比指令値補正部と、補正後の変速比指令値に基づき無段変速機を制御する制御部とを備える。
【0010】
この無段変速機の変速比制御システムによると、実変速比が所定の動特性をもって運転条件に応じて決まる到達変速比に近づくように無段変速機が制御される。実変速比は所定の動特性と到達変速比に基づき演算される目標変速比に追従する。ステップモータの駆動速度制限や角位置制限等を受けて実変速比が所定の動特性で到達変速比に近づかず、目標変速比と実変速比とに偏差が生じた場合には、変速比指令値にその偏差に応じた補正が施される。これにより、目標変速比と実変速比との偏差を縮小することができ、ステップモータの駆動速度制限や角位置制限を受けたとしてもそれによって変速比応答性能が悪化するのを抑えることができる。
【0011】
【特許文献1】
特開平11−82701号公報
【0012】
【特許文献2】
特開2000−240780号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した公報においては、以下に示す問題点がある。
【0014】
特許文献1に開示された無段変速機の変速比制御装置においては、プライマリプーリとセカンダリプーリのV字状プーリ溝の幅を変化させるために、プライマリプーリシリンダ室への油圧を制御する。変速比制御装置は、油圧コントロールバルブの変速制御弁を駆動するステップモータを制御する。このとき、制御対象である無段変速機の変速機構の動特性を一次遅れと無駄時間で表わし、安定性を考慮して、制御パラメータをチューニングする。このとき、外乱補償部が、変速制御弁の開口量を推定演算し、この開口量の推定値に基づいて動特性を決定する時定数を変更する。このように時定数を変更するので、推定演算した変速制御弁の開口量と実際の開口量の偏差を縮小して制御対象の動特性と制御対象時定数が一致しなくなるのを防いで、制御対象のモデル化誤差を低減できる。しかし、このようなモデル化誤差を低減するだけでは良好な制御特性を得ることができず、制御パラメータを種々の方法でチューニングしなければならない。このチューニングは、試行錯誤的な処理となり設計者の作業負担が高い。さらに、開口量に起因する以外の無段変速機の動特性が変化した場合には、再設計が必要になる。
【0015】
特許文献2に開示された無段変速機の変速比制御システムにおいても、特許文献1と同じように、制御対象である無段変速機の変速機構の動特性を一次遅れと無駄時間で表わし、安定性を考慮して、制御パラメータをチューニングする。このとき、実変速比が所定の動特性で到達変速比に近づかず、目標変速比と実変速比とに偏差が生じた場合には、変速比指令値にその偏差に応じた補正が行なわれる。しかし、このような変速比指令値に対する補正を行なうだけでは良好な制御特性を得ることができず、制御パラメータを種々の方法でチューニングしなければならない。このチューニングは、試行錯誤的な処理となり設計者の作業負担が高い。さらに、無段変速機の動特性が変化した場合には、再設計が必要になる。
【0016】
このように、特許文献1および特許文献2に開示された技術では、上述したように、いずれも制御パラメータ(たとえば、PID制御系における比例ゲイン、積分時間、微分時間など)をチューニングするために多大な作業が必要である。このようなチューニングを簡易にするために、限界感度法などの設計手法もあるが、チューニングの作業負荷を十分に軽減するに至っていない。
【0017】
また、制御対象の動特性を状態方程式で内部表現して、目標値のステップ状変化に対する定常偏差を0にするために、補償器として積分器を用いる、状態フィードバック制御という制御系がある。このような制御系として、積分型最適レギュレータやLQI(Linear Quadratic Integral)制御といわれるものがある。これは、評価関数のパラメータとして状態変数に対する重み行列Q、操作量に対する重み行列Rを設定して、評価関数を最小にするように、行列方程式を解いてフィードバックゲインを算出する。このようなLQI制御は、従来の制御系に対する利点もあるが、重み行列Qおよび重み行列Rの設定が煩雑であること、行列式を解かなければならないことから、車両の無段変速機の制御系に実装するためには、作業負荷が高い。
【0018】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、制御パラメータを設定して、積分先行型フィードバック制御系を容易に設計できるベルト式無段変速機の変速制御フィードバック系の設計方法を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
第1の発明に係る設計方法は、ベルト式無段変速装置の変速制御フィードバック系の設計方法である。フィードバック系はプライマリプーリの回転数を目標回転数に追従させる積分先行型フィードバック制御系を構成する。この設計方法は、ベルト式無段変速機を一次遅れ系のモデルで近似して、定常ゲインと立上り時定数とを算出する算出ステップと、プライマリプーリの目標回転数をステップ状に変化させたときの、目標とする応答時間を設定する設定ステップと、定常ゲインと立上り時定数と応答時間とに基づいて、積分先行型フィードバック制御系における比例ゲインと積分時間とを算出するパラメータ算出ステップとを含む。
【0020】
第1の発明によると、直列補償型ではなく積分器を分離させた積分先行型の変速制御フィードバック系を設計するにあたり、たとえば、CVTモデルを簡易化して、最適化問題をLQI制御におけるリカッチ方程式に帰着させる。このようにすると、良好な追従性を実現できる制御パラメータである比例ゲインと積分時間とを、行列式ではない算術式で算出することができる。特に、ベルト式無段変速機の伝達関数を一次遅れ系で近似することにより、このような手法を実現している。その上で、算出ステップにて、その一次遅れ系のステップ応答における定常ゲインと立上り時定数とを算出して、設定ステップにて、プライマリプーリの目標回転数をステップ状に変化させたときの、目標とする応答時間を設定する。パラメータ算出ステップは、追従性が良いように設定された定常ゲインと立上り時定数と応答時間とに基づく比例ゲインと積分時間とを算出する。その結果、LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、制御パラメータを設定して、積分先行型フィードバック制御系を容易に設計できる。この制御系は、ベルト式無段変速機の変速制御フィードバック系に適用できる。
【0021】
第2の発明に係る設計方法においては、第1の発明の構成に加えて、設定ステップは、プライマリプーリの回転数が目標回転数の予め定められた値に到達する時間を応答時間として設定するステップを含む。
【0022】
第2の発明によると、プライマリプーリの回転数が、たとえば目標回転数の99%に到達する時間を応答時間として設定して、ステップ応答の目標応答時間を設定して、制御パラメータである比例ゲインと積分時間とを算出することができる。
【0023】
第3の発明に係る設計方法においては、第1または2の発明の構成に加えて、パラメータ算出ステップは、定常ゲインと立上り時定数と応答時間とを用いた関数により比例ゲインを算出するステップと、応答時間を用いた関数により積分時間とを算出するステップとを含む。
【0024】
第3の発明によると、比例ゲインは、定常ゲインと立上り時定数と応答時間とを用いた関数により算出され、積分時間は、応答時間を用いた関数により算出される。LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、このような関数で制御パラメータを設定することができる。
【0025】
第4の発明に係る設計方法においては、第3の発明の構成に加えて、関数は、LQI制御における行列方程式に基づいて算出される関数である。
【0026】
第4の発明によると、LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、制御パラメータを設定することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0028】
本発明は、ベルト式無段変速機を制御する変速制御フィードバック制御系の設計方法に係るものであるが、このフィードバック制御系の設計方法を詳細に説明する前に、無段変速機の構造について説明する。
【0029】
図1を参照して、本実施の形態に係る設計方法が適用されるベルト式無段変速機の制御装置を含む車両のパワートレーンについて説明する。本実施の形態に係る設計方法により設計されたフィードバック制御系は、図1に示すECU1000により実行される。
【0030】
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、トルクコンバータ200と、前後進切換え装置290と、ベルト式無段変速機(CVT) 300と、デファレンシャルギヤ800と、ECU1000と、油圧制御部1100とから構成される。
【0031】
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサにより検知されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
【0032】
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプ羽根車220と、出力軸側のタービン羽根車230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。トルクコンバータ200とCVT300とは、回転軸により接続される。トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ400により検知される。
【0033】
CVT300は、前後進切換え装置290を介してトルクコンバータ200に接続される。CVT300は、入力側のプライマリプーリ500と、出力側のセカンダリプーリ600と、プライマリプーリ500とセカンダリプーリ600とに巻き掛けられた金属製のベルト700とから構成される。プライマリプーリ500は、プライマリシャフトに固定された固定シーブおよびプライマリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。セカンダリプーリ700は、セカンダリシャフトに固定されている固定シーブおよびセカンダリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。CVT300の、プライマリプーリの回転数NINは、プライマリプーリ回転数センサ410により、セカンダリプーリの回転数NOUTは、セカンダリプーリ回転数センサ420により、検知される。
【0034】
これら回転数センサは、プライマリプーリやセカンダリプーリの回転軸やこれに繋がるドライブシャフトに取り付けられた回転検出用ギヤの歯に対向して設けられている。これらの回転数センサは、CVT300の、入力軸であるプライマリプーリや出力軸であるセカンダリプーリの僅かな回転の検出も可能なセンサであり、たとえば、一般的に半導体式センサと称される磁気抵抗素子を使用したセンサである。
【0035】
前後進切換え装置290は、ダブルピニオンプラネタリギヤ、リバース(後進用)ブレーキB1および入力クラッチC1を有している。プラネタリギヤは、そのサンギヤが入力軸に連結されており、第1および第2のピニオンP1,P2を支持するキャリヤCRがプライマリ側固定シーブに連結されており、そしてリングギヤRが後進用摩擦係合要素となるリバースブレーキB1に連結されており、またキャリヤCRとリングギヤRとの間に入力クラッチC1が介在している。この入力クラッチ310は、前進クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ、パーキング(P)ポジション、Rポジション、Nポジション以外の車両が前進するときに必ず係合状態で使用される。
【0036】
Dポジションであって、車両の状態が予め定められた条件を満足して停止した場合に、入力クラッチ310を解放して所定のスリップ状態にして、ニュートラルに近い状態にする制御をニュートラル制御という。
【0037】
図2を参照して、これらのパワートレーンを制御するECU1000および油圧制御部1100について説明する。
【0038】
図2に示すように、ECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)_ECU1020には、タービン回転数センサ400からタービン回転数NTを表わす信号が、プライマリプーリ回転数センサ410からプライマリプーリ回転数NINを表わす信号が、セカンダリプーリ回転数センサ420からセカンダリプーリ回転数NOUTを表わす信号が、それぞれ入力される。
【0039】
図1および図2に示すように、油圧制御部1100は、変速速度制御部1110と、ベルト挟圧力制御部1120と、ロックアップ係合圧制御部1130と、クラッチ圧制御部1140と、マニュアルバルブ1150とを含む。ECU1000から、油圧制御部1100の変速制御用デューティソレノイド(1)1200と、変速制御用デューティソレノイド(2)1210と、ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220と、ロックアップソレノイド1230と、ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド1240に制御信号が出力される。この油圧回路の詳細は、特開2002−181175号公報に開示されているので、詳細な説明はここでは繰返さない。
【0040】
図2を参照して、これらのパワートレーンを制御するECU1000の構造をさらに詳しく説明する。図2に示すように、ECU1000は、エンジン100を制御するエンジンECU1010と、CVT300を制御するECT_ECU1020と、VSC(Vehicle Stability Control)_ECU1030とを含む。
【0041】
図1に示した入出力信号に加えて、ECT_ECU1020には、ストップランプスイッチから、運転者によりブレーキペダルが踏まれていることを表わす信号、Gセンサから、車両が登坂路などに停車した際の登坂路の傾斜度を表わす信号が、それぞれ入力される。さらに、エンジンECU1010には、アクセル開度センサから、運転者により踏まれているアクセルの開度を表わす信号、スロットルポジションセンサから、電磁スロットルの開度を表わす信号、エンジン回転数センサから、エンジン100の回転数(NE)を表わす信号が、それぞれ入力される。エンジンECU1010とECT_ECU1020とは、相互に接続されている。さらに、ECT_ECU1020には、VSC_ECU1030から、ブレーキ油圧を表わすブレーキ圧信号とが入力される。
【0042】
図1および図2に示されるような無段変速機300を含むパワートレーンにおいては、前述の説明のようにECU1000において無段変速機300の変速制御のためのフィードバック制御系が構成される。ECU1000は、アクセル開度と車速とから、運転者が必要とする目標エンジン出力を決定して、目標エンジン出力をエンジンの最適燃費線上で実現できるようにプライマリプーリの目標回転数が決定される。プライマリプーリ回転数センサ410で検知される実際のプライマリプーリの回転数が、この目標回転数になるようにする(すなわち、実際のプライマリプーリの回転数と目標回転数との差である偏差がゼロになるようにする)フィードバック制御系が構成される。このようなフィードバック制御に基づいて、ECUがCVTの油圧回路を制御して無段階の変速を実行する。
【0043】
図3にこのフィードバック制御系のブロック線図を示す。このフィードバック制御系は、直列補償型のPID制御系ではなく、積分制御を分離させた、積分先行型フィードバック制御系を構成している。目標値は、プライマリプーリの回転数であって、目標値をステップ状に変化させたときの応答性に基づいて制御パラメータを算出してフィードバック制御系を設計する。操作量は、変速制御用デューティソレノイド(1)1200(DS1)と、変速制御用デューティソレノイド(2)1210(DS2)とのそれぞれのオン時間の比率をであるデューティ比である。
【0044】
図3に示すように、図1に示す無段変速機300をモデル化した場合の伝達関数は、二次遅れ系で表わされる。このフィードバック制御系において、目標値であるプライマリプーリの回転数をステップ状に変化(具体的には、入力デューティ比を単位ステップ変化させた場合に出力されるプライマリプーリの回転数変化を図4に示す。
【0045】
本実施の形態に係るフィードバック制御系の設計方法においては、プライマリプーリ回転数(NIN)のフィードバック制御系を設計する際において、図5に示す無段変速機300の簡易モデル(一次遅れ系モデル)に対するステップ応答における、定常ゲインaと時定数Tとを算出する。そのような簡易モデルを用いて、目標回転数のステップ変化に対して目標とする応答時間Tr(たとえば、実回転数が目標回転数の99%に到達する間での時間を応答時間Trとして設定する)をパラメータとして、定常ゲインaおよび時定数Tとに基づいて、比例ゲインKpと積分時間Kiとを算出するものである。
【0046】
このような設計方法を最適に実現するために、図5に示すように無段変速機300のモデルを簡易的に一次遅れ系で表わし、評価関数を最小にすることにより、一次遅れ系のステップ応答であるプライマリプーリの回転数をオーバーシュートなく所定の時間内に収束させることを考える。この評価関数を最適化する際に、無段変速機のモデルを状態空間モデルで表現することにより最適化問題をLQI制御形式で表現して、非線形微分方程式をリカッチ型微分方程式に帰結させて、リカッチ方程式の解から制御パラメータである、比例ゲインKpと積分時間Kiとを算出する。以下、数式を用いて説明する。
【0047】
CVTモデルを図5のような一次遅れ形で簡易化して、yをプライマリプーリの実回転数、uをデューティ比とすると以下の式(1)のようにCVTモデルの伝達関数を表わすことができる。
【0048】
【数1】
【0049】
この式(1)において、目標プライマリプーリ回転数のステップ変化に対して実プライマリプーリ回転数の応答が、オーバシュートを発生させることなく、所定の時間(Tr)内に追従させる(たとえば、目標値の99%に収束させる)ことを考える。
【0050】
ここでは、rからyへの応答が式(2)に近くなるように制御パラメータを設定する。
【0051】
【数2】
【0052】
この式(2)において、r=r0/Sとして(すなわち、ステップ応答と仮定して)、以下の式(3)を得る。
【0053】
【数3】
【0054】
この式(3)を時間領域に変換して、式(4)を得る。
【0055】
【数4】
【0056】
この式(4)において、t=Trのときy=0.99r0である。すなわち、ここでは、実回転数が目標回転数の99%に到達する間での時間を応答時間Trとして設定したということである。
【0057】
yの応答が、以下の式(5)に近くなるとき、式(6)、(7)および式(8)が成立する。
【0058】
【数5】
【0059】
【数6】
【0060】
【数7】
【0061】
【数8】
【0062】
これらの式(6)、(7)および式(8)は、式(9)の形式で表わすことができる。
【0063】
【数9】
【0064】
ただし、この式(9)を導出するにあたり、e=r−yとした。
そこで、式(10)で表わされるように、評価関数Jを最小化することで、yの応答は、{1/(0.2TrS+1)}に近づくものと考えられる。
【0065】
【数10】
【0066】
ここで、CVTモデルを状態空間モデルで表現すると、式(11)のようになる。
【0067】
【数11】
【0068】
式(11)の左側は、式(12)のように表わされる。
【0069】
【数12】
【0070】
このような式(12)で表わされることから、上述した最適化問題は、LQI制御形式で表わすことができる。すなわち、式(13)のように表わされる。
【0071】
【数13】
【0072】
LQI制御においては、この最適化問題の解は、式(14)で与えられる。
【0073】
【数14】
【0074】
ただし、この式(14)におけるPは、式(15)、(16)で表わされるリカッチ方程式の解である。
【0075】
【数15】
【0076】
【数16】
【0077】
ここで、上述したリカッチ方程式は、以下の式(17)と等価である。
【0078】
【数17】
【0079】
この式(17)を解くと、P1は式(18)で、P2は式(19)で表わされる。
【0080】
【数18】
【0081】
【数19】
【0082】
よって、式(20)の両辺を積分すると式(21)になる。
【0083】
【数20】
【0084】
【数21】
【0085】
式(18)で表わされるP1および式(19)で表わされるP2を代入して、KpとKiとについて解くと、比例ゲインKpおよび積分時間Kiは、式(22)で表わされる。
【0086】
【数22】
【0087】
このようにして求められた比例ゲインKpおよび積分時間Kiを図6に示す。この図6に示す比例ゲインKpおよび積分時間Kiは、上述した式を用いて算出したものである。
【0088】
図6に示すように、このフィードバック制御系の制御パラメータである比例ゲインKpは、無段変速機300の簡易モデル(一次遅れ系モデル)に対するステップ応答における、定常ゲインaと時定数Tと目標応答時間Trとの関数で表わされている。また、積分時間Kiは、目標応答時間Trの関数で表わされている。
【0089】
図5に示す制御系の定常ゲインaと時定数Tとを算出して、たとえば、定常ゲインa=1、時定数T=0.2が算出されると、目標応答時間Trをパラメータとして、Tr=1とすると、比例ゲインKp=1000、積分時間Ki=5000、Tr=2とすると、比例ゲインKp=999.5、積分時間Ki=2500と算出できる。
【0090】
図7を参照して、制御系の設計方法を説明する。図7に示すフローチャートにおける計算は、一般的なコンピュータを用いて行なうことができる。その結果、CVTの変速制御フィードバック制御系の比例ゲインKpと積分時間Kiとが算出され、これをECU1000のメモリに記憶させておいて、積分先行型フィードバック制御系を設計する。
【0091】
ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、図5に示すCVT簡易モデルのステップ応答を求める。制御対象であるCVTの定常ゲインa、立上り時定数Tを測定する。S200にて、ステップ状に目標プライマリプーリ回転数NINを変化させたときに追従するまでの時間Trを設定する。
【0092】
S300にて、図6に示すテーブル(比例ゲインKpと積分時間Kiとの算出式を規定)を参照して、比例ゲインKp、積分時間Kiを算出する。S400にて、S300にて算出した比例ゲインKpおよび積分時間Kiを用いて、積分先行型フィードバック系を設計する。
【0093】
以上のようにして、算出された比例ゲインKpと積分時間Kiとを用いて、シミュレーションした結果を図8に示す。
【0094】
図8には、Tr=1とTr=2の場合を示す(Tr=1の場合、比例ゲインKp=1000、積分時間Ki=5000、Tr=2の場合、比例ゲインKp=999.5、積分時間Ki=2500)。いずれの場合においても、目標プライマリプーリ回転数のステップ状変化に対して、設定した目標応答時間Tr(目標値の99%に収束する時間)である1秒と2秒とに十分に追従していることがわかる。このことは、積分先行型フィードバック制御系の制御パラメータの設定が好適であることを示す。
【0095】
したがって、他のCVTにおいても、1次遅れ系でCVTの伝達関数を近似してステップ応答を求め、そのCVTの定常ゲインa、立上り時定数Tとに基づいて、制御パラメータである比例ゲインKpおよび積分時間Kiを算出しても、図8と同様に、応答性の良好なフィードバック制御系の設計を行なうことができる。
【0096】
以上のようにして、本実施の形態に係る変速制御フィードバック系の設計方法によると、従来は、限界感度法などの設計手法を用いても制御パラメータの算出が的確でないために、チューニングするために多大な作業が必要であったが、LQI制御における制御性の良好性を実現しつつ、制御パラメータを容易に設定できるように簡易モデルを用いた。そのようにして算出した制御パラメータを用いて積分先行型フィードバック制御系を容易に設計できる。
【0097】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御ブロック図である。
【図2】図1に示すECUの詳細図である。
【図3】無段変速機の変速制御ブロック図(その1)である。
【図4】図3のブロック図により表わされる制御系のステップ応答を示す図である。
【図5】無段変速機の変速制御ブロック図(その2)である。
【図6】図5に対応する制御パラメータを規定するテーブルを表わす図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る変速制御フィードバック系の設計方法を表わすフローチャートである。
【図8】図5のブロック図により表わされる制御系のステップ応答を示す図である。
【符号の説明】
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプ羽根車、230 タービン羽根車、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、290 前後進切換え装置、300 CVT、310入力クラッチ、400 タービン回転数センサ、410 プライマリプーリ回転数センサ、420 セカンダリプーリ回転数センサ、500 プライマリプーリ、600 セカンダリプーリ、700 ベルト、800 デファレンシャルギヤ、1000 ECU、1010 エンジンECU、1020 ECT_ECU、1100 油圧制御部、1110 変速速度制御部、1120 ベルト挟圧力制御部、1130 ロックアップ係合圧制御部、1140 クラッチ圧力制御部、1150 マニュアルバルブ、1200 変速制御用デューティソレノイド(1)、1210 変速制御用デューティソレノイド(2)、1220 ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド、1230 ロックアップソレノイド、1240 ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド。
Claims (4)
- ベルト式無段変速装置の変速制御フィードバック系の設計方法であって、前記フィードバック系はプライマリプーリの回転数を目標回転数に追従させる積分先行型フィードバック制御系を構成し、
前記ベルト式無段変速機を一次遅れ系のモデルで近似して、定常ゲインと立上り時定数とを算出する算出ステップと、
前記プライマリプーリの目標回転数をステップ状に変化させたときの、目標とする応答時間を設定する設定ステップと、
前記定常ゲインと前記立上り時定数と前記応答時間とに基づいて、前記積分先行型フィードバック制御系における比例ゲインと積分時間とを算出するパラメータ算出ステップとを含む、変速制御フィードバック系の設計方法。 - 前記設定ステップは、前記プライマリプーリの回転数が目標回転数の予め定められた値に到達する時間を応答時間として設定するステップを含む、請求項1に記載の変速制御フィードバック系の設計方法。
- 前記パラメータ算出ステップは、
前記定常ゲインと前記立上り時定数と前記応答時間とを用いた関数により比例ゲインを算出するステップと、
前記応答時間を用いた関数により積分時間とを算出するステップとを含む、請求項1または2に記載の変速制御フィードバック系の設計方法。 - 前記関数は、LQI制御における行列方程式に基づいて算出される関数である、請求項3に記載の変速制御フィードバック系の設計方法。
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