JP2004325191A - キャピラリー電気泳動方法、キャピラリー電気泳動プログラム、そのプログラムを記憶した記録媒体及びキャピラリー電気泳動装置 - Google Patents

キャピラリー電気泳動方法、キャピラリー電気泳動プログラム、そのプログラムを記憶した記録媒体及びキャピラリー電気泳動装置 Download PDF

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Abstract

【課題】キャピラリーゾーン電気泳動において、簡便で高感度な分析を可能とする。
【解決手段】コントローラは、初期設定(S100)、電解液及び試料のキャピラリーへの充填(S101)を行う。泳動電圧を付与後、コントローラは、試料内の成分が分離される分離ウィンドウ部分において検出感度を上げ、分離ウィンドウデータ(吸光度)及び泳動時間を測定する(S103)。データ処理部は、測定したデータを入力し、記憶する(S105)。コントローラは、再度測定するか判断する(S107)。例えば、充填した試料量が試料注入限界か判断する。再度測定する場合(S107)、コントローラは、試料注入時間、濃度、pH等を変更する(S108)。再度測定をしない場合(S107)、データ処理部は、記憶したデータを実効移動度に換算し(S109)、表示部に表示する(S111)。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、キャピラリー電気泳動方法、キャピラリー電気泳動プログラム、そのプログラムを記憶した記録媒体及びキャピラリー電気泳動装置に係り、特に、低濃度の試料を高感度で測定する過渡的等速電気泳動前濃縮付きキャピラリー電気泳動方法、キャピラリー電気泳動プログラム及びそのプログラムを記憶した記録媒体及びキャピラリー電気泳動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE:Capillary zone electrophoresis)は、イオンクロマトグラフィーと比較して濃度感度の点で劣っているといわれてきた。これは、CZEでは分析時にキャピラリー内に充填できる試料量が微量なためである。そのため、高い濃度感度を得るにはレーザー蛍光検出や質量分析などの高感度な検出器を用いたり、等速電気泳動(ITP:isotachophoresis)のような前濃縮技術を併用したりしていた。CZE−LIF(Capillary zone electrophoresis −laser−induced fluorescence detection、キャピラリーゾーン電気泳動−レーザー励起蛍光検出)、CZE−MS(Capillary zone electrophoresis−mass spectrometry、キャピラリーゾーン電気泳動−質量分析)や、ITP装置とCZE装置を単に直列に接続し、試料が等速電気泳動分離したものをキャピラリーゾーン電気泳動させ分離感度を高めたITP−CZE装置も市販されて入手可能となっている。しかし、これらの装置は非常に高価であるため、簡易型の装置に使用されているUV/VIS(Ultraviolet and Visible light spectrometry、紫外可視分光分析法)検出器を備えた従来型のCE(Capillary Electrophoresis)装置を用いて、簡便で高感度な分析が可能となる方法が渇望されている。
【0003】
キャピラリー電気泳動による分析方法としては、例えば、未知試料に標準物質を添加しそれぞれの泳動時間を変換して実効移動度を求めることにより未知試料を高い精度で迅速に測定する電気泳動分析方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】
特開2002−5886号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来型のCE(Capillary Electrophoresis)装置を用いて、簡便で高感度な分析のためには、低濃度試料のキャピラリー内への大量導入とオンライン前濃縮が不可欠である。CZEでは、前濃縮法としてスタッキングおよび過渡的等速電気泳動(tr−ITP)が提案されており、実際に多くの試料に対して使用されてきている。しかし、スタッキングを用いる場合でも検出濃度限界(LLDC)はさほど低くはならない。これは、試料プラグ長の増加と共に分離能が悪くなるので、本質的に試料負荷が制限されるためである。また、試料プラグと支持電解液(SE)の間の電気浸透流(EOF:electroosmoticflow)のミスマッチによるだけでなく、SEでの電位勾配が低くなることおよびEOF速度が大きくなることにより、分離ウィンドウが狭くなるためである。
【0005】
それゆえ、前濃縮法としてはもう一方の手法、すなわち過渡的等速電気泳動前濃縮の使用がCZEによる高感度分析には有用である。等速電気泳動の重要な特徴として、希薄な試料がリーディングイオン濃度にあわせて濃縮されること、および、ゾーン界面が自己保持されるということがあげられる。
【0006】
また、上述したように、従来のキャピラリーゾーン電気泳動法(CZE)では、充填試料量が微量なので通常の検出器(例えば、UV、VIS)では高感度検出に難点がある。さらに、泳動後分離されたフラクションを分取するのにも適していない。等速電気泳動法(ITP)では、CZEに比較すると試料量を多く注入することが出来るが、リーディング液前で低い濃度の成分は濃縮されるものの、高い濃度の成分は希釈されてしまうので、高濃度のフラクションを分取するのには適していない。
【0007】
また、ITPとCZEを組み合わせた方法では、ITP部分で分離可能な量の試料を注入するのでCZE分析時よりは多量の試料を注入でき、ITP部で分離された各成分はCZE部分で濃縮されるので、上記二者の欠点はある程度改善されフラクション分取も可能になるが、注入試料量に限界があり、例えば、河川水中の微量成分の分析分取等には適用できるものではない。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、簡便で高感度な分析が可能なキャピラリー電気泳動方法を提供することを目的とする。また、本発明は、低濃度試料のキャピラリー内への大量導入とオンライン前濃縮が可能なキャピラリー電気泳動方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、注入する試料の濃縮限界を自動的に判断し、電気泳動分離および分析を自動で行うためのキャピラリー電気泳動方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような課題は、キャピラリー電気泳動装置において、電気泳動部分を等速電気泳動(ITP)とキャプラリーゾーン電気泳動(CZE)させる構成とし、ITPを過渡的電気泳動(tr−ITP)として動作させ、試料注入を電気的試料注入(EKI:Electro Kinetic Injection)によって行う本発明に係るキャピラリー電気泳動方法を使用することよって解決される。
【0010】
なお、本方法を実現するためには、試料および電解液を注入するための電気的試料注入装置と、試料を等速電気泳動(ITP)によって分離する部分と、該等速電気泳動によって分離された試料を濃縮分離させるキャピラリー電気泳動(CZE)する部分とを備えるキャピラリー電気泳動装置において、例えば、EKIによる電解液および試料注入時にITPとCZE境界部でVISまたはUV検出装置によって検出された信号に基づき、EKIから注入される試料の濃縮限界に近づいたと判定された時点で注入を打ち切り、電気泳動分離をさせることが可能なように装置を構成する。ここで、試料の濃縮限界の判定方法については、後に述べるように、個々の実情にあわせて判定条件を設定する。
【0011】
このような操作を簡易に実現するために、次のような操作を自動的に行えるコンピュータをさらに備えた装置を提供する。すなわち、上記装置であって、装置制御およびデータ収録用コンピュータをさらに備えたものにおいて、該コンピュータの制御によって、順次、リーディング液充填操作、EKIによる試料充填、ターミナル液充填、および、泳動電圧付与開始を行った後、リーディング液吸光度増加開始を判断することにより、分離ウィンドウデータ採取を行い、ターミナル液吸光度減少開始を判断した後、分離ウィンドウデータ採取を終了する操作を行わせる電気泳動測定装置を構成する。
【0012】
本発明の解決手段による効果として後述するように、移動度差が小さく移動度差が広い希土類イオン15種とアルカリ金属3種からなる18種類のカチオン(移動度は70×10−5〜8×10−5(cm−1−1))を試料とし、スタッキングの限界、過渡的等速電気泳動前濃縮(tr−ITP)の効果、tr−ITPを用いるときの試料溶液(S)、リーディング(L)およびターミナル(T)電解液の充填順序を変えた場合などの挙動を比較して示している。また、試料注入法として、従来通常使用されている加圧法(落差法、吸引法)の他にキャピラリー内への試料導入法としての電気的試料注入(EKI)、および、EKIと過渡的等速電気泳動前濃縮を併用する方法(Electrokinetic supercharging)の濃度感度向上への効果についても示している。
【0013】
本発明の第1の解決手段によると、
電気的試料注入により試料をキャピラリーに注入する試料注入時間を設定するステップと、
キャピラリーへのリーディング電解液の充填と、設定された試料注入時間に応じた電気的試料注入による試料の充填と、ターミナル電解液の充填とを所定の順序で行うステップと、
リーディング電解液、試料、ターミナル電解液の順に分離して電気泳動するように泳動電圧を付与するステップと、
電気泳動した各電解液及び試料の吸光度及び泳動時間を測定するステップと、所定の吸光度感度で測定した吸光度が、予め定められたしきい値以上増加したことを判断することにより、吸光度感度を増加し、試料の分離ウィンドウの吸光度を示す分離ウィンドウデータの取得を開始するステップと、
吸光度が予め定められたしきい値以上減少したことを判断することにより、分離ウィンドウデータの取得を終了するステップと、
取得した分離ウィンドウデータと泳動時間とを対応させて記憶するステップと、
分離ウィンドウデータ及び泳動時間に基づき、充填した試料の試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHが、測定感度が飽和状態となる条件で測定したか、又は、試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHについての予め定められた複数の条件で測定したかを判断するステップと、
判断結果に応じて測定条件を変更し、分離ウィンドウデータとそれに対応する泳動時間を再度取得することを繰り返すためのステップと
を含むキャピラリー電気泳動方法、これら各処理をコンピュータに実行させるためのキャピラリー電気泳動プログラム及びそのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【0014】
本発明の第2の解決手段によると、
被検物質を有する試料を含むバイアルと、
リーディング電解液及びターミナル電解液をそれぞれ含む、又は、これらの混合液を含む複数のリザーバーと、
電気泳動を行うためのキャピラリーと、
電気的試料注入及び電気泳動をさせるための電源ユニットと、
各電解液及び試料に含まれる物質の吸光度及び泳動時間を検出するための検出器と、
前記バイアル、前記リザーバー、前記キャピラリー及び前記電源ユニットを制御する制御部と、
キャピラリー電気泳動による泳動時間から被検物質の実効移動度を求めるための演算部と
を備え、
前記制御部は、
電気的試料注入により試料を前記キャピラリーに注入する試料注入時間を設定する手段と、
前記キャピラリーへのリーディング電解液の充填と、設定された試料注入時間に応じた電気的試料注入による試料の充填と、ターミナル電解液の充填とを所定の順序で行う手段と、
リーディング電解液、試料、ターミナル電解液の順に分離して電気泳動するように泳動電圧を付与する手段と、
電気泳動した各電解液及び試料の吸光度及び泳動時間を測定する手段と、
所定の吸光度感度で測定した吸光度が、予め定められたしきい値以上増加したことを判断することにより、吸光度感度を増加し、試料の分離ウィンドウの吸光度を示す分離ウィンドウデータの取得を開始する手段と、
吸光度が予め定められたしきい値以上減少したことを判断することにより、分離ウィンドウデータの取得を終了する手段と、
分離ウィンドウデータ及び泳動時間に基づき、充填した試料の試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHが、測定感度が飽和状態となる条件で測定したか、又は、試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHについての予め定められた複数の条件で測定したかを判断する手段と、
判断結果に応じて測定条件を変更し、分離ウィンドウデータとそれに対応する泳動時間を再度取得することを繰り返すための手段と、
前記演算部は、
取得した分離ウィンドウデータと泳動時間とを対応させて記憶する手段と、
を有するキャピラリー電気泳動装置が提供される。
【0015】
【発明の実施の形態】
0.各種電気泳動法とその理論
本発明の内容を理解し易くするために、まず、本発明に関連する電気泳動法の原理について説明し、電気泳動法における従来の課題を明確にする。
【0016】
溶液中に存在するイオン性物質(例えばNa、Clの様な小さな電離イオンや、タンパク質、コロイド粒子のような巨大粒子など)に電離を与えられた時、イオン性物質はその電荷や分子の大きさ、分子量などによって正または負の電極に向かって溶媒中(支持電解液中)を泳動する。このような現象を電気泳動といい、これを用いた電気泳動法の分析の対象となるのはイオンとして分離できる物に限られる。電気泳動分析法は、電場におけるイオンの移動のしやすさ(移動度)によりイオン性物質を分離分析する手法であり、等速電気泳動(ITP)、キャピラリー電気泳動(CZE)、等電点電気泳動(IEF:isoelectric focusing)、動電クロマトグラフィー(EKC:electrokinetic chromatography)などに分類される。いずれの方法においても最も重要な基礎的概念は移動度であり、分離最適化を行うに当たっては、どのようにして移動度の差を最大にするような実験条件下を選ぶかが重要な課題になる。分析の対象となる無機イオンや有機化合物の多くは弱酸、弱塩基、または両性電解質であり、これらの物質の水溶液中での解離は濃度やpH(水素イオン濃度)等により影響を受ける。
【0017】
A.移動度
A−1絶対移動度
電気泳動法は、試料の移動度の相違を利用する分析法である。移動度は、電位勾配(E)の電場の中にあるイオンの泳動速度で定義される。
【0018】
【数1】
Figure 2004325191
【0019】
ここで、mは移動度(cm・V−1・s−1)、Vは泳動するときの速度(cm・s−1)、Eは電位勾配(V・cm−1)である。
【0020】
移動度には、絶対移動度mと実効移動度mがある。絶対移動度(Absolute mobility)は無限希釈(イオン強度は0)の溶液における完全解離状態の移動度のことであり、実効移動度(Effective mobility)はイオン間の相互作用がある実溶液中の移動度のことである。この絶対移動度は、イオンのサイズ、拡散係数などそのイオン特有の性質および溶媒の粘度や温度等によって決まる物理定数である。すなわち、その値はイオン種によって固有の値を示す。なお、mの値は25℃で通常10−4(cm・V−1・s−1)のオーダーである。また、mには1℃あたり約2%の温度依存性がある。
【0021】
水和しているイオンの半径をStokes半径とみなすと、Stokesの法則に従って絶対移動度は次式で与えられる。
【0022】
【数2】
Figure 2004325191
【0023】
ここで、Zは電荷、eは電子素量1.6022×10−19(C)、rは球状粒子の水和半径、ηは媒体の粘度である。いくつかの有機イオン種の移動度は数式1によって計算することができる。また、逆に水和半径が正確にわかっている場合にはその絶対移動度は非常に精度よく求めることができる。
【0024】
しかし、複雑な多原子分子イオンにおいてこの概念は当てはまらない。そこでJoklは、有機イオンや錯イオンの絶対移動度は√Mに反比例するとした次式の経験式を導いた。
【0025】
【数3】
Figure 2004325191
【0026】
ここで、Zは電荷、Mは錯体の式量、kは比例定数である。この経験式によって多くの複雑な錯イオンの絶対移動度が計算された。
【0027】
A−2 実効移動度
移動度を考える上で重要なことは、実際の溶液中で影響するファクターを考慮しなければならないことである。ここで、実際の溶液中での移動度を実効移動度mという。mは一定でなく、例えば、溶媒の誘電率、イオン強度、pHなどによって大きく変化する。ここで、実際の溶液中での移動度を実効移動度、いま溶液中でイオン化しうる物質をAとする。この物質Aは、中性分子および各イオン種A、A、A、……A全体を表しており、これらが速くて動的な化学平衡状態にあり、巨視的な視野では実在しているものとしてふるまう。例えば、リン酸塩は、水溶液中で中性分子HPOおよび各イオン種HPO4−、HPO 2−、PO 3−の形で存在している。
電気泳動的な視野においては、全粒子をA、A、A、……A、各種の移動度をm、m、m、……m、そして各濃度をc、c、c、……cとすると、それらは電場中で同一の物質として実効移動度mで泳動し、次式で表される。
【0028】
【数4】
Figure 2004325191
【0029】
ここで、xはイオンiのモル分率であり、cは物質Aの全濃度である。
【0030】
【数5】
Figure 2004325191
【0031】
これにより、リン酸塩の実効移動度は次のように表される。
【0032】
【数6】
Figure 2004325191
【0033】
化学平衡がpHの影響を受けることから、実効移動度も当然pHの影響を受ける。pHと1価の弱酸および弱塩基の実効移動度mとの依存関係は、それぞれ弱酸の解離曲線、弱塩基のプロトン化曲線に対応しているような特徴的な関係をもつ。弱酸HAについて、実効移動度は次式で表される。
【0034】
【数7】
Figure 2004325191
【0035】
ここで、KHAは、酸HAの解離定数であり、次式で表される。
HA=[H][A]/[HA]
【0036】
図34は、酢酸におけるpHと実効移動度との関係を示す図である。図34に示す曲線は、イオン移動度mAc=40×10−9(m・V−1・s−1)であり、pK(酸解離定数)=4.76の酢酸塩の移動度曲線を表している。すなわち、pH>8においては、40×10−9(m・V−1・s−1)、pH=4.76において20×10−9(m・V−1・s−1)、pH<2では0になっている。
【0037】
もう1つの例として、アミノ酸やタンパク質のような両性電解質について説明する。これらの化合物は、周囲のpHによってカチオンやアニオンとして存在する。例えば、β‐アラニンの両性イオンの形は次のようである。
CH−CH−COO

NH
アミノ酸の両性電解質としての特徴は、酸性領域から塩基性領域にうつるときの解離定数によって表される。第1の解離定数pKの値は、酸性領域におけるカルボキシル基のプロトン化、すなわち両性イオンがカチオンを構成する過程を示す。
【0038】
【数8】
Figure 2004325191
【0039】
一方、第2の解離定数pKは、アミノ基のプロトンが解離し、両性イオンがアニオンを構成する過程を示している。
【0040】
【数9】
Figure 2004325191
【0041】
β−アラニンは、pK=3.8のときカチオン(+)として存在し、その移動度は36×10−9(m・V−1・s−1)、pK=9.6のときはアニオン(−)として存在して、その移動度は−31×1O−9(m・V−1・s−1)となる。
【0042】
図35は、β−アラニンでの実効移動度とpHとの関係を示している。すなわち、pH>11において−31×1O−9(m・V−1・s−1)、7.5>pH>5において0、pH<2において36×10−9(m・V−1・s−1)、となっているので、β−アラニンをpH>7.5の電解液中で電気泳動させるとマイナス側にβアラニンイオンが移動し、5>pHの電解液中で電気泳動させるとプラス側に移動する。したがって、pH>7.5の電解液と5>pHの電解液を隣接させた状態で、この電解液中にβ−アラニンを存在させ電気泳動させるとβ−アラニンは両電解液の境界面に濃縮されるか、境界面から反対側に離散していく。
【0043】
図中のpK1、pK2は、それぞれ酸解離定数で、アミノ酸のアミノ基部分が半分解離(移動度が絶対移動度約+40の半分約+20)した時のpH値、カルボン酸部分が半分解離した時のpH値をあらわしている。また、pIは等電点で、pHがこの値のときイオンの電荷は0(したがってイオンの移動度0)となる。pIは次のようにあらわすことができる。
pI=(pK1+pK2)/2
【0044】
A−3 相対移動度
相対移動度は次式で定義される。
【0045】
【数10】
Figure 2004325191
【0046】
ナトリウムイオンは参照イオンで、25℃における移動度は次の式で与えられる。
【0047】
【数11】
Figure 2004325191
【0048】
上式は参照濃度cを基準としたイオン強度として表され、mは10−5(cm・V−1・s−1)のオーダーで与えられる。また、zは電荷である。
【0049】
A−4 移動度と伝導度
図36は、イオンの電気泳動と電流のモデルを示す図である。微視的視点から見ると、溶液中でのイオンの電気泳動は電解質溶液による電流の伝導と見なされる。電流I、イオン移動の平面幅の面積S、電流密度iには次の関係がある。
【0050】
【数12】
Figure 2004325191
【0051】
個々のイオン種がそれらの濃度、電荷、泳動速度に比例するかたちで電流密度に寄与する。その式は次式で表される。
【0052】
【数13】
Figure 2004325191
【0053】
ここで、cはイオン種jの濃度で単位は(mol・m−3)、Fはファラデー定数(96487(C・mol−1))である。電流密度iはオームの法則により、電場強度Eと次の関係がある。
【0054】
【数14】
Figure 2004325191
【0055】
これにより、物性値である伝導度κと移動度には次の関係がある。
【0056】
【数15】
Figure 2004325191
【0057】
図中のvは、ある電位勾配(E)下でのイオンの電気泳動速度である。FcのFはファラデー定数、cはイオンのモル濃度である。Fcでイオン種jの運ぶ電気量を表す。なお、イオン種jがZの価数を持つときは、Zを乗じてZFcがイオン種jの電気量を表す。
【0058】
A−5 pH効果
混合試料の相互分離を可能にするには、各成分の実効移動度に適当な差が生じる必要がある。このためには適切な電解液条件を選択することが重要であり、特に、弱電解質を含む試料に対してはpHの選択が重要である。
【0059】
電気泳動法による弱酸、弱塩基物質および両性物質の分離には、これらの物質の絶対移動度はあまり差がないので、解離度定数の差を利用して分離することがより効果的である。電解液のpHを調整して、イオン種の解離度を変えることにより実効移動度を変えることができる。解離度αとpHおよび酸解離定数pKaの関係は次式で与えられる。
【0060】
【数16】
Figure 2004325191
【0061】
与えられた試料イオンを相互分離するには、リーディング電解液のpHをどのような値にするかがまず必要であり、絶対移動度やpKaが分かれば、コンピュータによるシミュレーションの手法により分離最適条件を見つけることが可能となる。逆に、各試料の実効移動度を測定し、シミュレーションによってその実効移動度にベストフィットするよう安定度定数や絶対移動度を計算することが可能である。図34は、コンピューターシミュレーションを用いて有機酸の実効移動度のpH依存性曲線を示したものである。このようなグラフを作成し、分離を対象とするイオン種の実効移動度差が大きくなるようにpH領域を設定して実験を行えば容易に分離が達成される。
【0062】
B キャピラリー電気泳動
B−1 概要
キャピラリー電気泳動CEとは、溶液中で電荷を持つ物質が電場の影響を受けて、電荷の種類により正負いずれかの電極方向へ一定速度で移動する電気泳動をキャピラリー中で行う分析法である。CEは、1970年代終わりから80年代初めにかけて開発された手法で、内径100μm以下程度のキャピラリーを用いる電気泳動である。キャピラリーを利用することで多くの利点が得られる。特に、ジュール熱がおよぼす悪影響を減少させることができるのが大きな特徴である。キャピラリーは電気抵抗が高いので、非常に強い電場(100〜500(V/cm))を印加しても、流れる電流は小さく、熱の発生を最小限に抑えられる。また、キャピラリーは内容積に対して表面積の比率が大きく、発生する熱を効率良く放散できる。これにより、高電圧をかけることができるので、分析時間は短くなり高い分離効率と分離能が得られる。高電圧を印加したときに、キャピラリー内で溶液の流れ、すなわち電気浸透流が発生するが、この流れは、層流ではなく平面的な流れをもつので、しばしば10(段/m)を越える理論段数が得られる。この電気浸透流により、電荷の種類に関係なく全ての溶質を同時に分析することができる。その他、CEは、様々な分離メカニズムや選択性をもつ多くの分離モードを有する、必要試料量が微小で済む、オンキャピラリーでの検出および定量分析が可能である、さらに分離系が単純であるので理論的取り扱いが容易であるなどの優れた特徴をもつ。その半面、試料注入量が少ないため、注入方法・再現性に課題がある。一般に、CEは、分析目的に限られ、分取には利用できないことが多い。また、タンパク質のようなキャピラリー内壁に吸着する物質の取り扱いが困難であるなどの点が指摘されている。
【0063】
B−2 電気浸透流
電気浸透流EOFは、CEにとって非常に重要な要素である。EOFはキャピラリー中の液全体の流れであり、キャピラリー内壁の表面電荷がその基になっている。電解質溶液中では、通常固体の表面は固体表面のイオン化(すなわち酸一塩基平衡)または固体表面へのイオン種の吸着、またはその両方によって生じる過剰の負電荷を帯びている。フューズドシリカキャピラリーについてもこの両方の現象が起きているものと予想され、内壁の多数のシラノール基(SiOH)のイオン化(SiO)が内壁において電気二重層を形成し、これに対して電圧をかけるとEOFが生じる。この電気二重層によって壁面に近いところでは電位差が生じる。この電位差をゼータ電位(zeta potential;ζ)という。EOFが発生する過程としては電圧をキャピラリーの両端に加えると、電気二重層を形成している陽イオンは陰極の方へ引かれるが、陰イオンであるシラノール基は管壁に固定されているので移動できない。しかし、陽イオンは溶液に溶解しているので、陽イオンの移動によってキャピラリー中の全溶液は陰極の方へ引っ張られる。これがEOFである。
【0064】
電気浸透流速度vEOFは、支持電解液の誘電率εと粘性率η、ゼータ電位ζおよびキャピラリーに沿ってかけられている電場の強さEの関数として以下の式(Smoluchowskiの式)で与えられる。
【0065】
【数17】
Figure 2004325191
【0066】
ゼータ電位ζは、キャピラリー内壁の荷電状態に応じて正負いずれの符号もとりうるが、通常の状態(フューズドシリカ素管に中性からアルカリ性の支持電解液を充填して用いる場合など)では負になるため、電気浸透流速度vEOFは正となり、従って電気浸透流は陽極から陰極へ向かう。εやηは、支持電解液の電解質濃度、pH、温度などに支配される。設定された条件下では、誘電率ε、粘性率ηおよびゼータ電位ζは一定となるので、vEOFは電位勾配Eに依存し両者は比例関係にある。Eはキャピラリーの長さLに対する印加電圧Vの比であり、従ってVに比例する。結局、電気浸透流速度vEOFもVとともに増加し、高電圧をかけるほど電気浸透流速度は速くなる。
【0067】
キャピラリー中で起きるEOFの独特の特徴として以下に示す2つが挙げられる。
(1)流れが平面的であるので試料ゾーンの拡散を起こさない
(2)電荷に関係なくほとんど全ての種を同じ方向に移動させる
それぞれの特徴について説明すると、1つめについては流れの駆動力はキャピラリーに沿って(すなわち内壁面で)一様に分布しているため、キャピラリー内での圧力降下がおきないので流れが均一になる。2つめについては通常の条件下(すなわち負に帯電したキャピラリー表面)では流れは陽極から陰極に向かう。EOFの速度は陰イオンの電気泳動速度よりも1桁以上大きいため、陰イオンも陰極へ向かって押し流される。従って陽イオン、中性物質、および陰イオンは全て同じ方向に移動することになり、1回の測定で、電気泳動分析を行うことができる。移動速度を考えると陽イオンは泳動方向と同じため最も早く、中性物質は互いに分離されないがすべてEOFと同じであり、陰イオンは電気泳動の方向がEOFと逆であるがEOFによって陰極側へ最も遅く泳動する。
【0068】
様々な理由から、キャピラリーの材質はフューズドシリカが頻繁に用いられている。フューズドシリカキャピラリーを用いる場合、支持電解液のpHが低いと内壁のシラノール基の電離が抑えられるために帯電が弱く、ζが小さくなりvEOFが減少する。逆にpHが高くなるとζの絶対値は増加し、vEOFが上昇する。
【0069】
B−3 ゾーン電気泳動
図37は、キャピラリーゾーン電気泳動法(CZE)の原理図である。図37に示す図は、実効移動度の異なる試料をゾーン電気泳動分離した場合について、キャピラリー中における各ゾーン状態の模式図と電位勾配(E)の関係を示す。
【0070】
ゾーン電気泳動法は、使用する電解液に1つの支持電解液(SE)を用いる。よって、電位勾配(E)はキャピラリーを通して一定になる。緩衝能を持つカウンターイオン(Q)を含む電解液(支持電解液:SE)をキャピラリーに充填し、その間に試料を注入する。通電を開始すると試料中のアニオン、カチオン成分はそれぞれ対極に向かって固有の速度(実効移動度)で泳動するが、電気浸透流により全ての成分は陰極方向に向かって泳動する。ゾーン電気泳動法では試料ゾーンの界面自己保持作用がないため、試料ゾーンは不連続である。
【0071】
各ゾーンの泳動速度(vmig)は、以下の式のように電気泳動速度(vep)と電気浸透流速度(vEOF)の和として表される。
【0072】
【数18】
Figure 2004325191
【0073】
ここでmは、ある試料成分イオンの実効移動度、Eは電位勾配、ε、ζ、ηはそれぞれ溶媒の誘電率、キャピラリー内壁のゼータ電位、溶媒の粘度である。なお、キャピラリー全体で電気浸透流速度は一定である。イオンSE、A、B、Cの実効移動度は
【0074】
【数19】
Figure 2004325191
【0075】
なので、電位勾配が一定であれば、泳動速度vは次の関係が成立する。
【0076】
【数20】
Figure 2004325191
【0077】
試料はキャピラリー末端に固定された検出器まで移動した後検出される。
【0078】
B−4 等速電気泳動法
(原理)
等速電気泳動では、分析試料のいずれのイオンよりも移動度の大きいイオンを含む電解液(リーディング電解液)と、移動度の小さいイオンを含む電解液(ターミナル電解液)の2種類の電解液を用い、この両者の境界面に試料を注入し、通電することにより泳動を行うことが特徴である。定常状態になると分離された各イオンは等速で泳動するためこのような名がついている。
【0079】
図38は、等速電気泳動分離の原理図を表している。カチオン分析では陰極側にはリーディング電解液、陽極側にはターミナル電解液とし、両電解液の界面付近に分離を目的とする実効移動度の異なる陽イオン混合試料S(例えば、イオンA、Bを含む)を注入する(a)。この系に通電すると各陽イオンは泳動を開始し、実効移動度に差があるAとBのイオンは分離し始めるが、この状態ではAとBの混合ゾーンMが存在し分離は不完全である(b)。さらに、通電することにより混合ゾーンはなくなり、分離が完了すると各試料ゾーンは鋭い界面(界面の自己保持効果)で隔てられ、原則的に実効移動度の順に配列して泳動する(c)。分離されたAとBのゾーンは、このままの状態(定常状態)を保ち陰極側へと移動していく。図のclのグラフはcの各ゾーンの実効移動度、c2のグラフはcの各ゾーンの電位勾配、c3のグラフはcの各ゾーンの温度を表している。
【0080】
極希であるが、泳動順が逆転することがある。試料イオンがA、Bの順に泳動するとき、その泳動順を決定する必要十分条件はm>mではなく次式で表される2条件である。
【数21】
Figure 2004325191
【0081】
ここで、mB,AはゾーンA中のBの移動度であり、他も同様である。すなわち、試料イオンBは、Aゾーン内においてはAイオンよりも遅く、試料イオンAはBゾーン内においてはBイオンよりも速いことが必要十分条件である。
【0082】
イオンL、A、B、Tの実効移動度をそれぞれm、m、m、m、各ゾーンの電位勾配をそれぞれE、E、E、E、各ゾーンの電導度をκ、κ、κ、κ、とすると、定常状態においては等速で泳動しているので、次の関係式が成り立つ。
【0083】
【数22】
Figure 2004325191
【0084】
また、各イオンの実効移動度には次の関係がある。
【0085】
【数23】
Figure 2004325191
【0086】
よって、各ゾーンの電位勾配は次の関係となる。
【0087】
【数24】
Figure 2004325191
【0088】
等速電気泳動法においては泳動電流が一定であるので、修正オームの法則によると各ゾーンの電導度(κ)は次の関係となる。
【0089】
【数25】
Figure 2004325191
【0090】
このように、電位勾配(E)が測定できる電位勾配検出器、電導度(κ)が測定できる電導度検出器が等速電気泳動では用いられる。
【0091】
等速電気泳動は、リーディングイオンの濃度によって薄い試料成分が分離過程で濃縮され、逆に濃い試料成分が薄められるという特徴がある。このことはマトリックス中の微量成分の分析には利点である。また試料イオンは、リーディングとターミナルの間を泳動する成分においては100%の回収率であり、また多量の試料を注入することができ無駄なフラクションはないので、等速電気泳動は分離分取に優れている。
【0092】
(濃縮効果)
通常、あるリーディング電解質のある濃度で行われる等速電気泳動分析の定常状態において、ある試料の濃度は一定に調整され泳動前の濃度には依存しない。このことからある試料ゾーンの体積を定量パラメータとして用いることができる。もし、調整された濃度よりも濃い試料を泳動させれば試料は希釈され、逆に調整された濃度より薄い試料を泳動させれば試料は濃縮される。この効果を利用すれば、試料中の微量構成要素であっても分析可能となるので実際の分析には重要である。
【0093】
1.キャピラリーゾーン電気泳動装置
図1は、キャピラリーゾーン電気泳動装置の構成図である。この装置は、電源ユニット201、各種電解液を充填するリザーバー202および202’、被検物質を含む試料(以下単に試料ということがある)を充填するバイアル203、電気泳動を発生させるためのキャピラリー204、リザーバー等を載置するターンテーブル206および206’、前記ターンテーブルを上下・左右・回転駆動させる駆動部207および207’、吸光度検出部210、前記各部、手段等を制御するコントローラ220、データ処理部230を備える。キャピラリーゾーン電気泳動装置は、吸引ポンプ205、プリアンプ221、A/Dコンバータ222をさらに備えてもよい。
【0094】
また、吸光度検出部210は、例えば、ランプ(例えば、UVランプ)、アパーチャ(絞り)、シャッター、分光器スリット、グリーティング(回折格子)、検出器215(例えば、512chのフォトダイオードアレイ)を有する。データ処理部230は、演算部231、インタフェース232、記憶部233、表示部234、出力部235を有する。なお、コントローラ220と演算部231は、例えばマイクロコンピューター等により兼用することができる。
【0095】
電源ユニット201は、例えば、出力0〜30kVの高電圧電源を含み、配線を介して支持電解液を充填したリザーバー202、202’および試料を充填したバイアル203にそれぞれ接続されている。
【0096】
リザーバー202、202’は、ターンテーブル206、206’に複数載置されている。リザーバー202、202’には、UV吸収のある適宜の支持電解液、分析試料のいずれのイオンよりも移動度の大きいイオンを含むリーディング電解液、移動度の小さいイオンを含むターミナル電解液がそれぞれ充填される。バイアル203は、分析対象となる試料(例えばUV吸収のない試料)が充填され、ターンテーブル206または206’に載置することができる。また、例えば、濃度やpHの異なる試料を充填するための複数のバイアル203を備えてもよい。
【0097】
なお、リザーバーとは、キャピラリー204の体積に対して十分大きく、電圧の印加やキャピラリー204内の液が少々流れ込んできても元々あった状態が変化しない液溜めと、場合によってはリザーバー中に充填されている電解液のことを言う。一方、バイアルとは、単に液体を充填する液溜めを言い、上述の例では、バイアル203には試料が充填されている。しかしながら、液体を充填するための液溜め容器そのものとしてはリザーバーとバイアルを区別する必要はない。
【0098】
キャピラリー204は、適宜の内径および長さ(例えば、内径75μm、長さ100cm)を有する管であり、例えば、キャピラリー204の一端はリザーバー202に挿入され、他端はリザーバー202’に挿入されている。
【0099】
本実施の形態おける電気泳動装置は、キャピラリー204を使用するために、例えば、ナノリットルオーダーのサンプルで分析が可能であり、高電圧を印加できるため短時間分析が可能である。一方、高電圧を印加する場合ジュール熱が発生するため、その影響を考慮する必要がある。例えば、異種の導体または半導体に流す電流を制御することで熱の発生、吸収のコントロールすることができるペルチェ素子を用いることにより、キャピラリー温度を調整することができる。なお、ペルチェ素子による制御以外にもキャピラリー204のオープンになっている部分が温度に与える影響も大きい。
【0100】
ターンテーブル206および206’は、上下、左右および回転動し、キャピラリー204に充填する電解液等を切り替えるための切り替え手段である。ターンテーブル206および206’には、測定に必要な電解液および試料等を充填するリザーバ202、202’およびバイアル203が載置される。なお、図1に示すターンテーブル206および206’は、回転動することによりキャピラリー204に充填する電解液に切り替えるものであるが、例えば、左右または縦横方向に移動するものであってもよい。
【0101】
駆動部207および207’は、ターンテーブル206および206’を上下、左右および回転動させるための駆動手段であり、コントローラ220により制御される。
【0102】
吸光度検出部210のランプはUV光(または白色光)を発行し、発光した光は、アパーチャ、シャッターを介してキャピラリー204に入射する。分光器スリットは、ランプから照射される紫外線の幅を制限するための隙間を有し、キャピラリー204近傍に配置され、又は、取り付けられている。キャピラリー204を透過した光は、分光器スリットを介してグリーティングに達し、例えば190〜600nmの光に分光され、検出器215上に結像される。
【0103】
検出器215は、例えば、紫外から近赤外までの広範囲にわたってダイナミックレンジを有するフォトダイオードアレイを512個配列したもので、512chの各波長ごとの光量に比例したビデオ信号として分光された光を検出する。フォトダイオードアレイは、PN接合または整流性を示す金属と半導体との接触の逆方向電流が光の照射による高起電力効果で増加する事を利用した光電変換装置である。これを512個用いる事によって高精度な多波長同時検出が可能である。
【0104】
プリアンプ221は、検出器215からの出力を増幅する。A/Dコンバータ222は、増幅された信号をデジタル信号に変換し、コントローラ220およびデータ処理部230に出力する。
【0105】
コントローラ220は、電源ユニット201、駆動部207および207’等を制御して試料分析の動作を制御する。例えば、コントローラ220は、各電解液および試料の充填、電気泳動させるための電圧付与、吸光度感度の調整、電気的試料注入による電圧印加の時間を示す試料注入時間の調整等を行う。コントローラ220による検出感度や試料注入時間の調整によって、より高精度な試料分析が可能となり、低濃度試料の分析が可能となる。また、コントローラ220およびターンテーブル206、206’を備えることにより、分析による個人差がなくなり再現性の高いデータが得られる。また、多検体をセットするだけで容易な操作により自動測定が可能である。
【0106】
データ処理部230の演算部231は、検出器215によって信号化された吸光度をインタフェース232を介して入力する。また、演算部231は、入力した吸光度に基づき、電気泳動を開始してから検出器215が出力を発信するまでに要した時間を、被検物質の泳動時間として把握し記録する。演算部231は、泳動時間に基づき、後述するTCDT方法によって実効移動度計算等の適宜のデータ処理を行い、処理結果を表示部234または出力部235に出力する。演算部231は、実効移動度に基づき、例えば、実効移動度と物質名が予め対応して記憶されたファイルを参照し、試料に含まれる成分を同定してもよい。
【0107】
2.電気泳動法及び動作
図2は、試料分析のメインフローチャートである。
まず、初期設定を行う(S100)。例えば、試料の入ったバイアル203、支持電解液、リーディング電解液、ターミナル電解液がそれぞれ入ったリザーバー202をターンテーブル206にセットし、また、支持電解液の入ったリザーバー202’をターンテーブル206’にセットする。なお、ターンテーブル206には、濃度またはpHの異なる試料の入った複数のバイアル203がセットされてもよい。コントローラ220は、試料注入時間を設定する。試料注入時間は、例えば、予め上限と下限の時間が設定されており、コントローラ220は上限又は下限の時間を試料注入時間として設定することができる。
【0108】
次に、コントローラ220は、駆動部207、207’および電源ユニット201等を制御し、電解液および試料をキャピラリー204に充填する(S101)。コントローラ220は、電圧をキャピラリー204の両端に印加して電気泳動を開始させ、リーディング電解液と試料とターミナル電解液が電気泳動し分離された状態において、試料のウィンドウである分離ウィンドウ部分の吸光度(分離ウィンドウデータ)および泳動時間を測定する(S103)。コントローラ220は、検出器215からの出力に基づき試料内の成分が分離される分離ウィンドウを検出し、分離ウィンドウデータを採取する。
【0109】
また、コントローラ220は、採取した分離ウィンドウデータおよび泳動時間をデータ処理部230の演算部231に出力する。なお、コントローラ220は、電気泳動開始を示す信号および分離ウィンドウの検出を示す適宜の信号を演算部231に出力し、演算部231が泳動時間を測定し、検出器215から分離ウィンドウデータを入力するようにしてもよい。なお、充填動作、吸光度の測定の詳細については後述する。
【0110】
演算部231は、インタフェース232を介して分離ウィンドウデータおよび泳動時間を入力し、記憶部233に記憶する(S105)。なお、演算部231は、ステップS103での測定中分離ウィンドウデータを採取するたびにデータを入力および記憶するようにしてもよい。
【0111】
次に、コントローラ220は、条件を変えてもう一度測定するか判断する(S107)。例えば、コントローラは、分離ウィンドウデータ及び泳動時間に基づき、充填した試料量が、さらに試料を注入しても測定感度が向上しない試料注入限界かによりもう一度測定するか判断することができる。または、コントローラ220は、予め記憶部233に記憶された複数の測定条件について全て測定するまで、もう一度測定すると判断することもできる。
【0112】
一例として、まず、コントローラ220は、分離ウィンドウデータおよび泳動時間に基づき所定成分の吸光度ピーク面積(ピーク部分の吸光度変化と時間軸で囲まれる面積)を算出し、試料注入時間または試料の濃度に対応して内部に備えられたメモリ等に蓄積する。コントローラ220は、蓄積された吸光度ピーク面積に基づきピーク面積の増加の直線性を判断する。例えば、コントローラ220は、蓄積された適宜の数のデータから傾き(変化量)を求め、傾きの変化がしきい値以下であることにより直線性を判断することができる。また、コントローラ220は直線近似や多項式近似を行い、直線性を判断してもよい。
【0113】
コントローラ220は、ピーク面積増加の直線性が保たれている場合には「もう一度測定する」と判断し、一方、直線性が保たれていない場合には「もう一度測定しない」と判断することができる。また、例えば、コントローラ220は、所定回数測定したか、試料注入時間が予め定められたしきい値を超えたか等の条件により、もう一度測定するか判断してもよい。
【0114】
コントローラ220は、「もう一度測定する」と判断した場合(S107)、測定条件を変更し(S108)、ステップS101の処理へ戻る。測定条件の変更として、コントローラ220は、例えば、試料注入時間を所定時間大きく設定する、異なる濃度またはpHの試料が入ったバイアル203を指定する、試料のpHを調整する、リーディング電解液相当の物質を試料に混入させる等の処理を行う。また、各電解液にpHを調整する又は浸透流速度を抑える物質を混入してもよい。
【0115】
試料注入時間を大きくすると、後述する実験結果にも示すように低濃度試料を分析することが可能となる。しかし、試料注入時間をあまりに大きくすると分離の場がせまくなり、また、感度向上も期待できないため、試料注入時間を適切に調整することが重要となる。
【0116】
また、異なるバイアル203を指定する例として、ターンテーブル206に予め異なる濃度またはpHに調整した試料または電解液を複数準備しておき、測定ごとにこれらを切り替え、以前の操作で用いた試料または電解液とは異なる濃度またはpHの試料または電解液をキャピラリー204に導入して、同様の操作を繰り返す測定が例示できる。この場合、ステップS108では、コントローラ220は、次の測定でキャピラリー204に充填する試料および電解液の入ったリザーバー202およびバイアル203を指定する。
【0117】
また、pHの調整の例として、例えば、ターンテーブル206および206’上にリザーバーに充填した電解液202またはバイアル203に充填した試料のpHを調整するための酸および/またはアルカリ溶液を充填したバイアルを載置しておき、一回の測定操作を終えた後に、図示しない液体吸引吐出手段を用いてこの酸またはアルカリ溶液をリザーバー202またはバイアル203に添加し、電解液または試料のpHを変化させてから再度上述と同様の操作を行うことも例示できる。
【0118】
一方、コントローラ220は、測定しないと判断した場合(S107)、例えば、演算部231に測定終了の信号を送信し、ステップS109の処理へ移る。演算部231は、コントローラ220から測定終了の信号を受け取ると、記憶部233に記憶した分離ウィンドウデータおよび泳動時間を参照し、最適のデータ又は適当な値を示すひとつ又は複数のデータを求め、その分離ウィンドウデータ及び/又は泳動時間に基づき実効移動度等の各種データを計算する(S109)。例えば、演算部231は、直近に記憶した分離ウィンドウデータおよび泳動時間を記憶部233から読み出し、実効移動度に換算する。なお、実効移動度の計算については後述する。
【0119】
本実施の形態の装置では、後述するように、濃度又はpHの値に従い吸光度のピークの絶対値は大きくなり、またピーク幅は広くなり、ある濃度又はpHに達するとピーク及びピーク幅が飽和する。したがって、演算部231は、記憶部233の複数のデータに基づきピーク、ピーク幅又はピーク面積を計算することにより、最適又は適当なデータを求めることができる。また、本実施の形態の装置では、試料注入時間が長くなるに従い試料の注入量が増大し、吸光度のピークの絶対値が大きくなるが、一方、感度は低くなる。したがって、演算部231は、記憶部233の複数のデータから所定の上限及び/又は下限のしきい値が示す範囲内にピークの絶対値及び/又は感度が含まれるか否かを判断することで最適又は適当なデータを求めることができる。さらに、演算部233は、これら濃度、pH、試料注入時間のいずれか複数の組み合わせにより、最適又は適当なデータを求めてもよい。
【0120】
さらに、実効移動度が既知の物質について、その実効移動度と物質名をデータ処理部230の記憶部233に記憶しておき、演算部231が算出した被検物質の実効移動度ついて前記記憶情報を検索するようなプログラムを実行すれば、被検物質を迅速に同定することも可能になる。むろん、かかる方法による同定以外にも、測定を実施する過程で電気泳動によって各被検物質は分画されるため、キャピラリーに例えば質量分析装置を接続しておけば、質量分析によって各被検物質を同定することも可能である。
【0121】
また、分離ウィンドウデータはベースラインにうねりを生じるので、演算部231は、実効移動度に換算する前に、次のような方法でベースライン補正してもよい。まず、演算部231は、記憶部233に記憶されている泳動時間について、適度な時間間隔をおいてベースライン補正用の分離ウィンドウデータのサンプリングを行う。なお、ベースライン補正用データは、分離ウィンドウデータ採取時に適宜の間隔で演算部231により記憶部233に記憶されるようにしてもよい。次に、演算部231は、ベースライン補正用データをもとに最小自乗法などによってベースラインの多項式近似を行う。演算部231は、求めたベースラインの多項式に基づきベースラインの吸光度を算出し、算出した吸光度と実測値との差を求めることにより、ベースライン補正されたデータとする。
【0122】
演算部231は、換算した実効移動度および/または物質名を表示部234または出力部235に出力する(S111)。また、演算部231は、測定した分離ウィンドウデータを表示部234または出力部235に出力してもよい。
【0123】
図3は、キャピラリーへの試料等の充填のフローチャートである。図3に示すフローチャートは、上述のステップS101のサブフローチャートである。
【0124】
まず、支持電解液をキャピラリー204に充填する(S201)。具体的には、コントローラ220は、駆動部207を制御して、キャピラリー204の左側端の直下に任意のpHに調整した支持電解液を充填したリザーバー202が位置するように、ターンテーブル206を回転させた後上昇させ、キャピラリー204の左端をリザーバー202中に挿入し、支持電解液中に浸らせる。また、コントローラ220は、駆動部207’を制御し、上述と同様にキャピラリー204の右側端の直下に空のリザーバー202’中に挿入する。次に、右側のリザーバー202’を密閉し、コントローラ220は、吸引ポンプ205を所定時間作動させ、キャピラリー204内に支持電解液を充填する。
【0125】
次に、リーディング電解液をキャピラリー204に充填する(S203)。まず、コントローラ220は、駆動部207を制御して左側のターンテーブル206を下降させ、キャピラリー204の左側端をリザーバー202の外に出し、再度駆動部207を制御して、左側のターンテーブル206を回転させ、リーディング電解液を充填したリザーバ202をキャピラリー204の左側端の直下に移動する。この後、コントローラ220は、駆動部207を制御して左側のターンテーブル206を上昇させ、キャピラリー204の左側端をリザーバー220内に挿入し、左側端をリーディング電解液に浸らせる。コントローラ220は、再度吸引ポンプ205を所定時間作動させ、キャピラリー204にリーディング電解液を充填する。
【0126】
次に、EKIにより試料をキャピラリー204に充填する(S205)。コントローラ220は、上述と同様に駆動部207を制御して左側のターンテーブル206を動かし、キャピラリー204の左側端をバイアル203内に挿入し、試料に浸らせる。また、コントローラ220は、駆動部207’を制御してキャピラリー204の右側端を電解液(例えば、キャピラリー204内に充填したのと組成およびpHが同一の支持電解液)を充填したリザーバー202’に挿入し、右側端を電解液に浸らせる。コントローラ220は、電源ユニット201によりキャピラリー204の両端に電圧を印加して、バイアル203の被検試料をキャピラリー204に注入する。なお、コントローラ220は、予め設定されたまたは上述のステップS108で設定した試料注入時間の間、電圧を印加する。
【0127】
次に、ターミナル電解液をキャピラリー204に充填する(S207)。上述のようにしてキャピラリー204にバイアル203の試料を注入した後に、コントローラ220は、駆動部207により左側のターンテーブル206を適宜下降、回転、上昇させ、ターミナル電解液を充填したリザーバー202にキャピラリー204の左側端を挿入する。また、キャピラリー204の右側端には、空のリザーバー202’が挿入されるようにターンテーブル206’を適宜下降、回転、上昇させ、上述の支持電解液の充填と同様にしてターミナル電解液をキャピラリー204に導入する。ターミナル電解液の導入後、図1のステップS103の処理へ移る。
【0128】
以上の操作により、キャピラリー204内は、順に支持電解液、リーディング電解液、試料、ターミナル電解液が並んでいる。なお、ステップS203は、ステップS205の後に行うこともできる。この場合、キャピラリー204内は、順に支持電解液、試料、リーディング電解液、ターミナル電解液が並ぶ。また、ステップS203を省略し、ステップS207においてリーディング液とターミナル液を混合した電解液をキャピラリー204に充填することもできる。
【0129】
なお、試料には、実効移動度を算出するための、泳動時間のよくわかっている標準物質を含むことができる。または、各電解液のいずれかに標準物質が含まれていてもよい。さらに、試料又は電解液に標準物質を含めず、リーディング電解液又はターミナル電解液を基準にして実効移動度を求めるようにしてもよい。
【0130】
図4は、吸光度測定のフローチャートである。図4に示すフローチャートは、上述のステップS103のサブフローチャートである。
【0131】
コントローラ220は、電源ユニット201により泳動電圧付与を開始する(S301)。この時、コントローラ220は、まず左右両側のターンテーブル206および206’を適宜下降、回転、上昇させ、キャピラリー204の左側端および右側端を支持電解液(例えば、ステップS200でキャピラリー内に充填したのと組成およびpHが同一の支持電解液)を充填したリザーバー202および202’に挿入する。キャピラリー204の左右の端がリザーバー202および202’に充填された電解液に挿入された後に電源ユニット201によってキャピラリー204の両端に電圧を印加し、電気泳動を開始させる。また、コントローラ220は、電気泳動開始後に吸光度の検出および泳動時間の測定を開始する。例えば、コントローラ220は、シャッターを開かせるための信号を出力し、ランプから発せられる光をキャピラリーに照射させる。
【0132】
試料は、キャピラリー204内を有効長(試料が導入されたキャピラリー204の一端付近からキャピラリー204に沿ったスリットまでの距離)だけ泳動する。この試料中のイオンの泳動方向は、例えば、リザーバー202からリザーバー202’に向かっている。この間に、試料中の各イオンは、各イオンの泳動速度(実効移動度)の差により分離される。この泳動速度(実効移動度)の差により分離された試料は、上述したグリーティングによって、一定時間ごとのスペクトルデータとして検出される。このスペクトルデータは、検出器215によって、吸光度として信号化される。検出器215は、プリアンプ221、A/Dコンバータ222を介して吸光度をコントローラ220およびデータ処理部230に出力する。
【0133】
コントローラ220は、検出された吸光度(ここでは、支持電解液、リーディング電解液の吸光度が検出されている)を監視し、吸光度が予め定められたしきい値以上増加したか判断する(S303)。吸光度の増加は、リーディング電解液がスリット部分を通過し、試料が分離される分離ウィンドウ部分の吸光度が測定可能となったことを示す。コントローラ220は、吸光度が当該しきい値以上増加していない場合(S303)、検出感度を維持し(S305)監視を続ける。一方、コントローラ220は、吸光度が当該しきい値以上増加した場合(S303)、検出感度を増加させる(S307)。分離ウィンドウ部分の吸光度は、リーディング液やターミナル液に比べて大きいため、本実施の形態ではリーディング液の通過を判断して検出感度を増加する。コントローラ220は、感度増加の後に、分離ウィンドウデータの採取を開始する(S309)。
【0134】
コントローラ220は、分離ウィンドウデータの採取中(S311)、採取した吸光度が予め定めれたしきい値以上減少したか判断する(S313)。吸光度の大幅な減少は、分離ウィンドウ部分がスリット部分を通過し、ターミナル電解液の吸光が始まったことを示す。コントローラ220は、吸光度が当該しきい値以上減少していない場合(S313)、ステップS311に戻り分離ウィンドウデータの採取を継続する。一方、コントローラ220は、吸光度が当該しきい値以上減少している場合(S313)、分離ウィンドウデータの採取を終了し(S315)、図2のステップS105の処理へ移る。
【0135】
なお、上述の吸光度の増加、減少の判断に用いるしきい値は、同じ値としてもよいし異なる値とすることもできる。
【0136】
(実効移動度計算)
TCDT法による実効移動度の測定について、概要を以下に説明する(特開2002−5886号公報参照)。
【0137】
泳動時間から実効移動度を求める通常の方法では、実効移動度(m)は下記式(1)のようにして求められる。
m=νion/E=(l/t−νeof)/(V/L) (1)
ここで、Vは印加電圧、Eは電位勾配、lは有効長、Lはキャピラリー全長、νionは被検物質の泳動速度、tは被検物質が検出器215によって検出されるまでの時間(泳動時間)である。また、νeof(電気浸透流速度、electroosmotic flow velocity)は、移動度0の物質の泳動時間またはシステムピークの泳動時間(teof)を用いて下記式(2)から得られる。
νeof=l/teof (2)
従って、式(1)は下記式(1)’のようになる。
m=(l/t−l/teof)/(V/L) (1)’
【0138】
なお、システムピークとは、間接吸収法を用いたとき、電気浸透流によってキャピラリー204内の液体が流され、試料を導入した部分が検出器215に到達した場合に出現する、あたかも何か物質が検出されたかのようなピークをいう。従ってシステムピークの泳動時間(teof)は、システムピークが出現するまでの時間を意味する。ここで間接吸収法とは、例えば、被検物質にUV(紫外線)の吸収がない場合、電解液にUV吸収のある物質を用いると、被検物質の部分だけ電解液が減少し、UVの吸光度が上昇することを利用した検出方法である。電気浸透流とは、例えば、シリカキャピラリーを用いたとき、キャピラリー内壁にあるシラノール基が解離することにより内壁が負に帯電し、キャピラリー内部にある溶液が見かけ上正に帯電することにより、電場を印加すると液体全体が負電極側に流れる現象をいう。なおこの電気浸透流は、キャピラリー204に他の物質を用いても、ほとんどの場合、発生する(ただし、物質や電解液の組成により流れる向きが変わることもある)。
【0139】
前記移動度0の物質の泳動時間(teof)とは、電場の印加により、上述のように、電気浸透流のためにキャピラリー204内の液体全体が押し流されるため、移動度を持たないような(即ち、移動度0)物質(例えば、中性物質)でも検出器215によって検出されるので、このような電場を印加してから検出されるまでの時間を意味する。なお移動度0の物質としては、例えばベンジルアルコールを例示することができる。
【0140】
上記において、温度による移動度の変化を詳しく検討すると、被検物質の実効移動度(m)の温度依存性は、下記式(3)のように、被検物質イオン自身の項(f(T))と支持電解液への温度依存性の項(g(T)=ε/η(ε:誘電率、η:粘性係数))とに分けて考えられる。
m=f(T)・g(T) (3)
【0141】
前記式(3)を基準温度Tの周りでテイラー展開すると、下記式(4)のようになる(ただし、ΔT=T−T、f=f(T)、g=g(T)である)。なお本発明において基準温度Tは任意であるが、一例として、物理化学定数の標準に用いられる25℃が多く用いられる。
m=(f+fΔT+fΔT+・・・)(g+gΔT+gΔT+・・・) (4)
【0142】
前記式(4)において、温度変化によるイオンサイズの変化は、溶媒の粘度や誘電率の温度依存性と比較して非常に小さいため、イオン自身への影響の温度依存性を無視すると、実効移動度(m)は下記式(5)で表される。
Figure 2004325191
【0143】
前記式(5)において、ΔTが小さいところでは二次以降の項を無視することができ、さらに、f=mT0、g/g=αと置き換えると、物質に依らず移動度は下記式(6)で表されることになる。
m=(1+αΔT)・mT0 (6)
【0144】
ここで、mT0は基準温度における被検物質の実効移動度を表し、αは被検物質イオンに依存しない温度係数を表す。一般に、25℃における温度係数αの値は約0.02(例:K 0.0191、Li 0.0228)である。
【0145】
TCDT法における、温度係数を考慮した泳動時間からの実効移動度の測定法を以下に説明する。
標準物質の基準温度(T)での実効移動度(m0、s)は、電気泳動における既知の実効移動度(m)から前記式(1)’を用いて次のように求められる。
0、s=(l/t−l/teof)/{(1+αΔT)E}
【0146】
さらに、前記式(6)よりmとm0、sの関係は下記式(7)のようになる。
1+αΔT=m/m0、s (7)
また、被検物質の基準温度Tにおける実効移動度(mT0)は、前記式(1)’を用いてその実効移動度(m)から次のように求められる。
T0=(l/t−l/teof)/{(1+αΔT)E}
【0147】
ここで、前記mとmT0の間には、前記式(6)から次のような関係が成立する。
1+αΔT=m/mT0
以上の式から、基準温度Tにおける被検物質(イオン)の実効移動度(mT0)は下記式(8)のようにして得られる。
T0=m/(1+αΔT)=(l/t−l/teof)/{(1+αΔT)E}={(teof/t−1)/(teof/t−1)}・m0、s (8)
【0148】
前記式(8)によれば、前記したような、E、V、I、Lといった、キャピラリーゾーン電気泳動装置に依存するパラメータが消去されることになり、装置の条件に依存しない電気泳動データの標準化が可能となる。ここで、前記式(8)は、上述した式1である。
【0149】
キャピラリーゾーン電気泳動の結果から被検物質の実効移動度を求めるために採用し得るTCDT法の第一の態様は、上述した理論を用いて、被検物質および少なくとも標準物質を含む試料について、任意の異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動を実施し、実効移動度が温度のみに影響されるとして補正を行うものであり、電気泳動における移動度を持たない移動度0の物質の泳動時間またはシステムピークの泳動時間(teof)、被検物質の泳動時間(t)、標準物質の泳動時間(t)および標準物質の基準温度Tにおける実効移動度(m0、s)から前記式1(式(8))を用いて被検物質の実効移動度(mT0)を求めるものである。
【0150】
上述した式1(前記式(8))に含まれるパラメータであるm0、sは、論文や既存データ、更には実施者にける予備実験の結果(フェログラム)等から決定することができる。またteofは、例えば、キャピラリー204内の電解液の濃度のむら等により測定される。さらに、teof、tおよびtは、既存データや実験値、更にはだいたいの見積もり等から、どの検出ピークがどの物質に対応するのか当たりを付けることができるので、実験より得られたフェログラムからそれぞれの泳動時間を決定できる。なお、時間補正をさらに考慮して実効移動度を測定することもできる。
【0151】
3.実験結果
3−1 スタッキング効果を利用したオンライン前濃縮
CEにおける低濃度試料の濃縮現象としてスタッキング効果が知られている。本比較例においては、スタッキングのみを使用したときの希土類試料の分離・検出濃度下限についての実験結果を示す。
【0152】
(スタッキングの原理)
図5は、スタッキングの模式図である。図5の模式図は、スタッキング時のキャピラリー長さに沿った電位勾配および濃度勾配を示す。まず泳動バッファー液(B)をキャピラリー204に注入し、その後低濃度試料液(S)をキャピラリー204内に供給し、電気泳動を開始する。スタッキング効果を発揮させるには試料プラグの電位勾配が支持電解液部分(泳動バッファー液)に比べて相対的に高いことが必要である。この電位勾配の差によって試料プラグと支持電解液の界面で試料が濃縮される。
【0153】
電気泳動開始ともに、試料液中の低濃度試料が泳動し、泳動バッファー液との境界に到達する。試料プラグ中で高い速度で泳動した試料中の各成分が界面に到達するとそこから先は電位勾配が低いので泳動速度が激減し、その結果として試料が界面に停滞し濃縮される。したがって、共存イオンを多量に含み試料プラグの電位勾配が上がらない場合、通常、濃縮は期待できない(非常に実効移動度の高いイオンが共存するときはある程度の濃縮を期待することができる。これについては後述の例を参照)。このような場合には電位勾配差を作るためにきわめて高濃度(高イオン強度)の支持電解液を使う必要がある。試料プラグ中の各成分が界面にすべて到達すると濃縮完了である。
【0154】
(実験条件)
図25にスタッキングにおける実験条件を示す。支持電解液としては発明者らで最適化を行った希土類イオン15種(La〜Lu+Y)の全分離を達成させる組成の電解液を使用した。クレアチニンはUV可視剤でありα−ヒドロキシイソ酪酸(HIBA)とマロン酸は希土類イオンとの錯形成剤として使用している。試料の充填には落差法(25mm)を用いた。代表的な試料充填時間は100s、500s、900s、1300sである。ハーゲンポアジューレの式から試料充填体積は21、107、193、278nl、試料プラグ長は4.8、24、44、63mm、各試料成分の絶対量は0.2ppmの試料に対して0.03、0.13、0.23、0.33pmolとそれぞれ見積もられた。キャピラリー有効長(87.7cm)に対する試料プラグ長の割合は、ハーゲンポアズイユの式からそれぞれ0.6%、3%、5%、7%である。
【0155】
(結果と考察)
図6および図7は、スタッキング効果を用いたランタニドイオンのCZE分離におけるエレクトロフェログラムである。図6および図7のエレクトロフェログラムは、横軸に泳動時間(秒)、縦軸に220nmの波長の吸光度(absorbance)を示している。なお、一般に、光が吸収される現象は、試料が存在する部分の分離用電解液中のUV吸収性試薬の濃度が試料濃度分だけ減少するため、吸光度が減少することによる。よって、本実施の形態は、例えばUV間接吸収法を前提とした方法であって、実測される吸光度の増減の方向が、本実施の形態で図示したものでは実際とは逆になっている。すなわち、実際は、吸光度の目盛はマイナスの絶対値を示すものであり、また、各図で示したエレクトロフェログラムとは上下逆のエレクトロフェログラムが得られる。よって、図中、吸光度が上方向に変化する場合「吸光度が減少する」と表現され、一方、吸光度が下方向に変化する場合「吸光度が増加する」と表現される。以下、本実施の形態において示す吸光度についての図においても同様である。
【0156】
図6は、2ppm希土類試料の試料注入時間を増加させた時に得られたエレクトロフェログラムである。図6−c(試料500s充填:キャピラリー有効長の3%)および図6−d(100s充填:キャピラリー有効長の0.6%)ではピーク分離が確認できるが、より大量の試料を導入すると全分離ができなくなっている(図6−a、b)。これは、希薄試料部の電気浸透流移動度が大きく、結果として試料プラグ長の増大と共に浸透流速度が増大し逆に電気泳動速度は減少した結果、分離ウィンドウが狭くなったためである。また、大量注入するとピーク幅が広がっているが、これは試料プラグの電気浸透流速度とバッファー部分の電気浸透流速度のミスマッチにより、スタッキングによって試料プラグと泳動バッファーの界面で濃縮された試料の撹乱が起こるためである。この実験から、スタッキングのみを通常の方法で用いたのでは、大量の試料を充填できないことが明らかである。
【0157】
図7は、0.2ppm希土類試料について得られたエレクトロフェログラムである。全イオンの分離が確認できた図7−c(500s充填)のErのピークより、S/N=3に対応する検出濃度限界LLDCは120ppbと評価された。ただしS/Nの算出において図7−c中に観測されている周期の大きなべースラインの乱れは考慮しなかった。
【0158】
この結果は、泳動バッファーと試料との境界における吸光度を経時的に追跡することによって、試料の濃縮が飽和に達する時点を知ることができることを示唆している。すなわち、フォトダイオードアレイの信号をある時間間隔でサンプリングしていくと、キャピラリー長さ方向に吸光度がピークを生じながら成長するのを追跡することができる。そのピーク値は、時間とともに成長を続けるがある時間からは成長が停止する。この時間をもってスタッキングによる濃縮が完了したことを知ることができる。
【0159】
3−2 過渡的等速電気泳動前濃縮−CZE
上述の3−1のようにスタッキングのみを用いた場合、ピークの全分離を保てる試料プラグ長はキャピラリー有効長の3%に過ぎなかった(図6−c)。これがピーク全分離の限界であり、5%試料を充填するだけで試料ピークの全分離を達成することができなくなった(図6−b)。濃度感度を向上させるためには、より多くの試料を充填した場合でも試料の全分離を達成することが必要である。過渡的等速電気泳動前濃縮(tr−ITP)の使用がCZEによる高感度分析に有用である。本例では過渡的等速電気泳動前濃縮を行った場合の結果を示す。
【0160】
(過渡的等速電気泳動前濃縮の原理)
図8は、過渡的等速電気泳動前濃縮の模式図である。図8の模式図は、過渡的等速電気泳動前濃縮時のキャピラリー長さに沿った電位勾配および濃度勾配を示す。
【0161】
まず、キャピラリー204にリーディング電解液(L)、希薄試料(S)、ターミナル電解液(T)の順に充填する(図8−上段)。スタッキング過渡的等速電気泳動過程では、電圧を印加すると資料濃度はリーディング電解液の濃度に応じ等速電気泳動の原理で試料プラグとリーディング電解液の界面で試料が濃縮される。ターミナル電解液もこの界面で濃度調整され過渡的な等速電気泳動状態となる(図8−中段)。続いてCZEモードに移行し、キャピラリー204中で分離した各ピークが検出器215で検出される(図8−下段)。
【0162】
過渡的等速電気泳動を用いる利点としては、第一にLとTの存在により濃縮した状態が長続きすることがあげられる。通常のスタッキングのみを用いた場合には、濃縮したピークは検出器に達するまでに拡散してピークが低くなると考えられるが、濃縮状態(過渡的等速電気泳動状態)が長続きしCZEに移行するのが遅ければピークが高い状態で検出できることになる。ピーク分離の問題もあるが、これは濃度感度向上に有効であると考えられる。第二に、EOFのミスマッチによる濃縮したピークの撹乱を抑制する効果があげられる。比較的大量の試料をキャピラリー204内に導入する場合にスタッキングのみを使用すると試料プラグと泳動バッファー界面で濃縮したピークがEOFのミスマッチにより撹乱される(図6−b)が、ターミナル電解液の存在がこの撹乱を抑制すると考えられる。これは濃度感度とピークの全分離という点で重要である。
【0163】
(過渡的等速電気泳動前濃縮の効果)
図26に、過渡的等速電気泳動前濃縮を適用した実験条件を示す。過渡的等速電気泳動前濃縮の効果を確かめるために、スタッキングのみを用いたのでは全分離を達成できなかった場合(図6−b)に対応する実験条件である。
【0164】
図9は、過渡的等速電気泳動前濃縮の実験結果を示すフェログラムである。図9には、過渡的等速電気泳動前濃縮(A)と、比較対象としてスタッキングによるフェログラム(B)も併せて示す。Aにおける各液の注入時間は、L=800s、S=900s、T=80sであり、Bは、L=0s、S=900s、T=0sとして実験した結果である。すなわち、注入時間は図6−bと同じ900sである。
【0165】
図9からわかるように、スタッキングのみでは全分離を達成できなかった場合(図9−B)に対して、過渡的等速電気泳動を適用することで全分離を達成することができた(図9−A)。ピーク出現時間が大きく変わらないにもかかわらず図9−Aのほうが濃縮および分離がよいのは、過渡的等速電気泳動前濃縮の原理のところでも述べたように過渡的等速電気状態の実現によりEOFのミスマッチが抑制されているためと考えられる。
【0166】
また、このことはキャピラリー204に充填してピークを全分離できる試料のプラグ長の限界を、キャピラリー有効長の3%(スタッキングのみ使用時)から5%まで増大させられたことを意味する。さらに試料を充填すると分離の場が狭くなった。これは、希薄な試料をキャピラリー204内に充填する以上試料プラグ部分のEOFの増大が避けられないためと考えられる。S/N=3に対応するErのLLDCは、40ppbと見積もられた。
【0167】
この例の場合にも、スタッキングの場合と同様に、リーディング液と試料との境界で試料の濃縮が起こるので、キャピラリー長さ方向の吸光度の経時変化を追跡することにより試料濃縮が飽和に達した時点を知ることができる。
【0168】
3−3 過渡的等速電気泳動を用いるときの試料溶液(S)、リーディング(L)およびターミナル(T)電解液の充填順序変更
従来、等速電気泳動において電解液系は、図8のように試料の前方にリーディング電解液を充填し、試料の後方にターミナル電解液を充填するという電解液配置で行われてきた。図8で説明した過渡的等速電気泳動の原理を考えると、電圧を印加するとまずスタッキングが起こるのであるから希薄な試料を用いる場合は必ずしもリーディング電解液を試料の前方に充填する必要はない。
【0169】
図10は、電解液充填順序を変えた場合の効果を示す模式図である。図10に示すように試料の後方にリーディング電解液を充填し、電圧印加時にこの液もスタッキングさせれば試料プラグと泳動バッファーの界面で図8と同様の過渡的等速電気泳動状態が実現できる。
【0170】
(実験条件)
図27に、電解液充填順序を変えた場合の実験条件を示す。試料注入には落差法を用い、試料、リーディング電解液、ターミナル電解液の順にキャピラリー204に充填し、その後電圧を印加した。
【0171】
(結果と考察)
図11は、電解液充填順序を変えた場合の効果を示すフェログラムである。
図11−Bは、電解液充填順序を変えた場合のエレクトロフェログラムである。図11−Bに示すように、試料の後方にリーディングおよびターミナル電解液を充填する方法により、スタッキングのみでは全分離が達成されない場合(900s充填:試料プラグ長はキャピラリー有効長の5%、図11−C)でも、Laのピークは消えているが他のピークの全分離を達成できていることがわかる。なお、Laのピークは、リーディング電解液の充填量を減らせば確認できる。したがって、本手法は、従来知られている過渡的等速電気泳動前濃縮における電解液系の充填モードと同様な効果があると言える。また、試料の後方に電解液系を充填することの応用として、リーディング電解液とターミナル電解液を混合しても同様の効果がある。実際に実験を行ったところ、図11−Aに示すように図11−Bと同様の結果が得られた。試料の後方にリーディング電解液を充填する方法の利点として、リーディング電解液のpH調整が必要ないということがあげられる。従来の充填方法では、リーディング電解液のpHやカウンターイオンの選択が重要であったが、本手法では例えば、KClなどをリーディング電解液としてそのまま使用でき、その選択がより簡便である。また、リーディング電解液とターミナル電解液を試料後方に充填する方法は、電解液充填のステップが一つ減らせるのでより簡便であるといえる。キャピラリー204内に充填できる試料のプラグ長は、従来法と同じく5%程度である。過渡的等速電気泳動前濃縮がスタッキングより濃度感度の点で優ることはわかったが、最適な濃縮と分離を得るためのリーディング電解液やターミナル電解液の種類、濃度、キャピラリー204内への導入量の最適化が必要である。
【0172】
3−4 試料組成に基づく過渡的等速電気泳動前濃縮
以上の考察から結局、試料プラグ部分の浸透流速度を抑えなければ多量の試料を導入できないと考えられたので、試料にリーディング電解液相当の役割をはたす物質(15mM酢酸アンモニウム)を混合し試料組成に基づく過渡的等速電気泳動を行った。
【0173】
(実験条件)
図28に、試料組成に基づく過渡的等速電気泳動における実験条件を示す。試料充填時間は、1300s、3600s、5400sである。ハーゲンポアシューレの式から試料充填体積は、278、770、1160nl、試料プラグ長は63、176、624mm、キャピラリー有効長(87.7cm)に対する試料プラグ長の割合はそれぞれ7%、20%、30%であった。
【0174】
(結果と考察)
図12は、リーディング電解液相当の物質を試料組成に混入させた場合の過渡的等速電気泳動を示すフェログラムである。図12−D、Eは、それぞれ試料をキャピラリー有効長の7%充填した場合に、従来の過渡的等速電気泳動とスタッキングを適用したときに得られたフェログラムである。過渡的等速電気泳動を利用したときの充填できる試料のプラグ長の限界が5%であったことを考えると当然であるが、浸透流速度の増大により分離ウィンドウが狭くなっている。図12−Cに示すように、同じプラグ長でも15mMの酢酸を添加することで全分離を達成することができた。さらにプラグ長を20%まで長くしても全分離が達成できた(図12−B)。このとき、S/N=3に対応するErのLLDCは17ppbと見積もられた。これ以上試料を導入すると、EOFが増大し全分離不可能となった(図12−A)が、更なる最適化により感度向上の可能性がある。
【0175】
3−5 電気的試料注入(EKI)−EKI時の試料濃度と試料導入量の関係
電気的試料注入(EKI)は、試料バイアルと泳動バッファーバイアルの間に電圧を印加することによって行われる。EKIによる注入では、試料は各試料固有の移動度とEOFのポンプ作用の両方によってキャピラリー204内に導入される。EKIの特徴として一般に導入される試料の量が個々の試料の移動度に依存することがあげられる。すなわち、移動度の高いイオンは、移動度の低いイオンよりも多量に導入されるのでイオン種による注入量の違いが生じる。また、試料マトリックスの伝導度が高いときなどは、マトリックス成分がEKI時に流れる電気量のほとんどを担うので、目的とする試料成分の導入量が減少するという課題がある。
【0176】
しかしながら、河川水のようなマトリックス成分の少ない希薄な試料を取り扱うときには、次の二点によりキャピラリー204内への大量試料導入が期待できる。
▲1▼泳動バッファーと試料界面での連続的なスタッキング。
▲2▼大量試料導入と同様の効果(圧力差による試料導入では導入される試料体積の限界は1μL程度であるが、試料バイアルには100μL程度の試料を入れられる)。
本例では、EKIによる検出濃度感度向上とEKIの適用できる試料の条件について確認する。
【0177】
図29に、試料濃度に対する試料導入量の変化を調べるための実験条件を示す。使用する支持電解液と印加電圧を固定すれば、あるEKI時間に流れる電気量は一定であると考えられる。したがって、試料濃度が高くなると、EKIによりキャピラリー204内に導入される試料量はある一定値に収束すると考えられる。このことを確認するためにイットリウム塩化物を試料とし、図29に示す実験条件とし、濃度を2ppbから3000ppmまで変化させて試料濃度に対して試料導入量がどのように変化するか調べた。
【0178】
図13および図14に、イットリウム(Y)濃度変化に対するエレクトロフェログラムを示す。図13は、濃度変化2ppb〜2ppmに対するエレクトロフェログラムであり、図14は、濃度変化2ppm〜2000ppmに対するエレクトロフェログラムである。なお、試料注入時間(EKI時間)は200sである。また、図15および図16に、イットリウム(Y)濃度(単位ppb、ppm)とイットリウムピーク面積の関係を示す。なお、図15および図16には、EKI時間が200s(図中の▲)の他に、300s、100sの場合(図中の●、■)についても示している。
【0179】
図15および16より、2ppbから2ppm程度までは濃度とイットリウムピークの面積の間に直線性があるが、10ppm、20ppmと試料濃度が高くなると直線性が失われ、100ppmから300ppmまでは面積の増加が見られなかった。100ppmの試料と1000ppmの試料では、試料バイアルに入っている試料の絶対量は10倍違うにもかかわらず、1000ppmの試料は100ppmの試料の10倍入っていない。これは、EKI時に流れる電流量が一定であることを考えれば予想通りの結果である。図16には落差法で試料注入を行った結果も1000、2000、3000ppmの試料に対して同時に示しているが(図中の×印)、3000ppmの試料に対しては200秒間EKIを行ったときよりも落差法で試料を注入した方が多く入っている。なお、本実施の形態におけるキャピラリー電気泳動方法では、所定成分の吸光度ピーク面積の直線性を判断することで試料注入量が飽和していないかを判断し、EKIによる試料注入の効果が得られるように制御されている。
【0180】
図16に示した落差法(25mm×650s)で1000ppmのイットリウム試料を充填したときのピーク面積を基準にして、2ppbから3000ppmまでの各濃度の試料に対し、落差法で試料を充填したときのピーク面積を比例関係から算出することができる。
【0181】
図17は、落差法によるピーク面積に対するEKIによるピーク面積の比(A)と濃度の関係を示す図である。図17に示す結果は、上述の比例関係から算出した値に対し、EKIを200秒間行ったときの各濃度のピーク面積値が何倍になるか計算した結果である。なお、落差法によるイットリウムのピーク面積に対するEKIによるイットリウムピーク面積の倍率をAとした。図17より、2ppmの時のA=200倍からA値は小さくなり始め、10ppmでA=100倍、20ppmでA=70倍、1000ppmでA=2倍となりEKIの効果が小さくなっていくことがわかる。
【0182】
以上のことから、EKIは低濃度試料をキャピラリー204内に大量に充填するのに有効な方法であることがわかる。この場合には、キャピラリー長さ方向の吸光度測定から、試料濃縮の飽和時点を検出することは難しい。すなわち、試料はEKIによって次々と導入されてくるので、吸光度ピークが飽和することなくいつまでも成長するからである。従って、この場合の試料注入限界を知るには、あらかじめ試料導入時間を設定しておき吸光度ピーク面積の成長の直線性を参考にしながら判定するのが望ましい。すなわち、あらかじめ設定した試料導入時間内に直線性が保たれている場合にはその時間まで導入を続け、時間内に直線性がなくなった場合には、その時点で導入をうち切る等の工夫が必要である。なお、以上の方法以外にも、試料注入限界を知るための適宜の方法をとることができる。
【0183】
3−6 電気的試料注入(EKI)−希薄希土類試料へのEKIの適用
図30に、希薄希土類試料へのEKIの適用についての実験条件を示す。図18は、希土類試料へのEKI適用時のフェログラムである。図18は、希薄希土類試料へのEKIの適用について、200ppbの試料について図30に示す条件で実験した結果である。比較対象として、加圧法による試料注入を使用した場合に、現段階で濃度感度がよい試料組成に基づく過渡的等速電気泳動によるエレクトロフェログラムを併せて示した(図18−D)。
【0184】
図18−Cに示すように、加圧法による試料導入を用いた場合(図18−D)と比べてEKIにより大量に試料が導入されることが確認された。さらに試料注入時間を長くすると、さらに大量に試料が導入されることが確認された(図18−A、B)。このことより、濃度感度向上にEKIが有効であることがわかる。
【0185】
3−7 EKIの適用範囲−試料のpHが試料導入量に与える影響
上述のスタッキングについての説明でも書いたように、試料マトリックスの伝導度が高い場合、目的成分のキャピラリー204への大量導入は期待できないと考えられる。そこで、目的成分以外のものが試料に入っている場合として、pHが異なる試料に対してEKIを適用したときに、導入される試料量がどのように変化するか調べた。
【0186】
図31に、試料のpHが試料導入量に与える影響についての実験条件を示す。実験として、試料のpHを2〜7まで変化させてEKIを行った。EKI時間は20秒に固定した。pH2の試料は、100mMHClを100μL(pH7)試料に10μL添加する方法で調整した。他の試料も同様な操作で調整した。
【0187】
図19は、EKI時にサンプルpHが目的試料の導入量に与える影響を示すフェログラムである。図19に示す結果は、図31(a)および(b)の条件に対する実験結果である。pHが低くなるにつれて試料導入量が少なくなり、pH2(図19−D)では試料ピークを確認することができなかった。これは試料へのHClの添加により試料成分の伝導度が高くなり、泳動バッファーと試料界面での連続的なスタッキングが起こりにくくなったこと、および、より多く存在するHClがEKI時に流れる電気量のほとんどを担ったためと考えられる。
【0188】
図20は、サンプルpHとEKI時間の影響を示すフェログラムである。図19に示す結果は、図31(a)および(c)の条件に対する実験結果である。図20−Aに、pH2の試料のEKI時間を図19−Dでの時間(20sec)より10倍長くしたとき(200sec)のフェログラムを示す。図20−Cに、比較のために落差法で試料を500秒間充填し、スタッキングを用いたときに得られたフェログラムもあわせて示した。
【0189】
図20より明らかなように、EKI時間を20s(図20−B)から200s(図20−A)に長くすることによりピークの出現が確認された。しかしながら、ピーク強度は加圧法で試料をキャピラリー204に充填したときと同程度であり、試料注入法としてEKIがよりよいといえるものではない。また、図20−Aでは軽希土類(La〜Na)のピークが消えているが、これについては後述する。以上のことから、EKIは、マトリックス成分の少ない希薄な試料の濃度感度向上に有効であることが確認された。
【0190】
3−8 EKIによる希土類イオン15種の濃度感度向上
上述のように、EKIは試料中にイオン性マトリックスがほとんどない希薄な試料を、大量にキャピラリー204内に導入するのに有効であることが明らかとなった。また、希土類試料については、200ppbの試料に関して大きい強度のピークが確認された(図19−A〜C)。すなわち、EKIにより濃度感度を向上させるためには、EKI時間を長くすることが有効である。ここでは、さらに低濃度の20ppbの希土類試料に対して、EKIを適用しEKI時間を長くするとピーク強度および分離挙動がどのように変化するか調べた。
【0191】
図32に、EKI時間に対する試料ピークの分離挙動の実験条件を示す。また、図21に、EKI時間に対する試料ピークの分離挙動(エレクトロフェログラム)を示す。図21より、EKI時間を長くするにつれてピーク強度が強くなっていくことがわかる。しかしながら、図21−A、Bよりわかるように、EKI時間150s(図21−c)以上では、システムピークが出現し分離の場が狭くなっている。このシステムピークの出現は、EKI中にキャピラリー204内で発生する電気浸透流(EOF)により、薄い試料がキャピラリー204内に導入されたためと考えられる。したがって、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などを電解液に添加し、キャピラリー204内で発生するEOFを抑えることは試料のキャピラリー204内への大量導入に有効であると思われる。この場合、ピークの出現時間が遅くなると考えられるので、キャピラリー204を短くすることが必要であろう。
【0192】
また、EKI時間が長くなるにつれて、軽希土類(La〜Na)のピークがブロードとなるが、Sm以降の重希土類のピークはシャープさを保っている。EKI時間150s(図21−c)では、全希土類のピークを確認できるが、さらに低濃度の希土類試料をすべて検出するためには軽希土類の拡散を抑える必要がある。図21−cで最もピークの低いLaのピークに関してS/N=3として全希土類を検出できるLLDCは2.6ppbと見積もられた。
【0193】
3−9 本実施の形態に係るキャピラリー電気泳動方法による試料分析
以上、種々の条件について試験を実施し、試料のEKI注入および過渡的等速電気泳動が試料成分の濃縮に対して有効であり、濃縮された成分分離にはキャピラリー204内における過渡的等速電気泳動が有効であることがわかった。しかし、EKI注入時間をいたずらに長くすると試料注入量は飽和するとともに、分離過程においてもウィンドウが狭くなり、成分ピークの分離に対して不利になるだけでなく、感度向上もさほど期待できなくなることも判明した。
【0194】
図33に、本実施の形態に係るキャピラリー電気泳動方法による試料分析の実験条件を示す。EKIを200ppbの試料に適用し、現段階で濃度感度が最もよい試料組成で過渡的等速電気泳動を行い、得られたエレクトロフェログラムからウィンドウ部分のみを抽出し、実効移動度に変換してわかりやすく表示したフェログラムの例を示す。
【0195】
図22および図23は、本実施の形態の方法により試料を導入して検出したエレクトロフェログラムである。試料注入時間を増加させるにつれて吸光度感度は高くなっているが、等速電気泳動の分離ウィンドウは狭くなっている。本実施の形態では、リーディング液の吸光度が上昇する箇所から、感度を上げてフェログラムを抽出する。分離ウィンドウの部分のみを拡大して示すと、図23のようなフェログラムが得られる。この分離ウィンドウが終了すると、ターミナル液の吸光が始まるので、データのサンプリングを終える。試料注入時間が長いほど、分離ウィンドウの幅が狭くなっている。
【0196】
ここで、分離ウィンドウ内では、ベースラインが、例えば図19や図21に示しているようにうねりを生じるので、これを補正する。また、ピークの重なりによって各成分の分離が判定しにくくなるから、これらのデータの泳動時間を実効移動度に換算する。
【0197】
図24に、泳動時間を実効移動度に換算して得られた出力フェログラムを示す。このような処理を行うことにより、希薄な試料の成分を濃縮させ、高感度で検出でき、しかも未知物質の同定も直ちに行うことができるようになる。
【0198】
4.付記
本発明の過渡的等速電気泳動前濃縮付きキャピラリー電気泳動方法は、その各手順をコンピュータに実行させるためのキャピラリー電気泳動プログラム、キャピラリー電気泳動プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、キャピラリー電気泳動プログラムを含みコンピュータの内部メモリーにロード可能なプログラム製品、そのプログラムを含むサーバ等のコンピュータ、等により提供されることができる。
【0199】
【発明の効果】
本発明によると、簡便で高感度な分析が可能なキャピラリー電気泳動方法を提供することができる。また、本発明によると、低濃度試料のキャピラリー内への大量導入とオンライン前濃縮が可能なキャピラリー電気泳動方法を提供することができる。さらに、本発明は、注入する試料の濃縮限界を自動的に判断し、電気泳動分離および分析を自動で行うためのキャピラリー電気泳動方法を提供することができる。
【0200】
また、本発明によると次のような効果を提供することができる。
(1)EKIを使用した試料注入によって、従来法の数十倍の試料導入が可能である。すなわち、検出感度を数十倍に上げることが可能である。なお、この試料注入量はさらに上げることが可能で、1000倍程度まで上げることもできると見られている。
(2)キャピラリーゾーン出口での分取が可能である
(3)分取のみを目的とする泳動分離適用であれば、EKIによる試料注入量は更に増加させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】キャピラリーゾーン電気泳動装置。
【図2】試料分析のフローチャート。
【図3】試料充填のフローチャート。
【図4】分離ウィンドウデータ測定のフローチャート。
【図5】スタッキングの模式図。
【図6】スタッキング効果を用いたランタニドイオンのCZE分離におけるエレクトロフェログラム(1)。
【図7】スタッキング効果を用いたランタニドイオンのCZE分離におけるエレクトロフェログラム(2)。
【図8】過渡的等速電気泳動前濃縮の模式図。
【図9】過渡的等速電気泳動前濃縮の効果を示すフェログラム。
【図10】電解液充填順序を変えた場合の効果を示す模式図。
【図11】電解液充填順序を変えた場合の効果を示すフェログラム。
【図12】リーディング電解液相当の物質を試料組成に混入させた場合の過渡的等速電気泳動を示すフェログラム。
【図13】イットリウム(Y)濃度変化(2ppb〜2ppm)に対するエレクトロフェログラム。
【図14】イットリウム(Y)濃度変化(2ppm〜2000ppm)に対するエレクトロフェログラム。
【図15】イットリウム濃度(Y)とピーク面積の関係。
【図16】イットリウム濃度とピーク面積の関係。
【図17】落差法によるピーク面積に対するEKIによるピーク面積の比(A)と濃度の関係。
【図18】希土類試料へのEKI適用(200ppbの試料に適用した結果)時のフェログラム。
【図19】EKI時にサンプルpHが目的試料の導入量に与える影響を示すフェログラム。
【図20】サンプルpHとEKI時間の影響を示すフェログラム。
【図21】EKI時間に対する試料ピークの分離挙動。
【図22】本発明の方法により試料を導入して検出したエレクトロフェログラム。
【図23】ウィンドウ部分を拡大したフェログラム。
【図24】泳動時間を実効移動度に換算して得られた出力フェログラム。
【図25】スタッキングにおける実験条件。
【図26】過渡的等速電気泳動前濃縮を適用した実験条件。
【図27】電解液充填順序を変えた場合の実験条件。
【図28】試料組成に基づく過渡的等速電気泳動における実験条件。
【図29】試料濃度に対する試料導入量の変化を調べるための実験条件。
【図30】希薄希土類試料へのEKIの適用についての実験条件。
【図31】試料のpHが試料導入量に与える影響についての実験条件。
【図32】EKI時間に対する試料ピークの分離挙動の実験条件。
【図33】キャピラリー電気泳動方法による試料分析の実験条件。
【図34】酢酸におけるpHと実効移動度との関係。
【図35】β−アラニンでの実効移動度とpHとの関係。
【図36】イオンの電気泳動と電流のモデルを示す図。
【図37】キャピラリーゾーン電気泳動法(CZE)の原理図。
【図38】等速電気泳動分離の原理図。
【符号の説明】
201 電源ユニット
202、202’ リザーバー
203 バイアル
204 キャピラリー
205 吸引ポンプ
206、206’ ターンテーブル
207、207’ 駆動部
210 吸光度検出部
215 検出器
220 コントローラ
221 プリアンプ
222 A/Dコンバータ
230 データ処理部
231 演算部
232 インタフェース
233 記憶部
234 表示部
235 出力部

Claims (15)

  1. 電気的試料注入により試料をキャピラリーに注入する試料注入時間を設定するステップと、
    キャピラリーへのリーディング電解液の充填と、設定された試料注入時間に応じた電気的試料注入による試料の充填と、ターミナル電解液の充填とを所定の順序で行うステップと、
    リーディング電解液、試料、ターミナル電解液の順に分離して電気泳動するように泳動電圧を付与するステップと、
    電気泳動した各電解液及び試料の吸光度及び泳動時間を測定するステップと、
    所定の吸光度感度で測定した吸光度が、予め定められたしきい値以上増加したことを判断することにより、吸光度感度を増加し、試料の分離ウィンドウの吸光度を示す分離ウィンドウデータの取得を開始するステップと、
    吸光度が予め定められたしきい値以上減少したことを判断することにより、分離ウィンドウデータの取得を終了するステップと、
    取得した分離ウィンドウデータと泳動時間とを対応させて記憶するステップと、
    分離ウィンドウデータ及び泳動時間に基づき、充填した試料の試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHが、測定感度が飽和状態となる条件で測定したか、又は、試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHについての予め定められた複数の条件で測定したかを判断するステップと、
    判断結果に応じて測定条件を変更し、分離ウィンドウデータとそれに対応する泳動時間を再度取得することを繰り返すためのステップと
    を含むキャピラリー電気泳動方法。
  2. 取得した泳動時間に基づき、実効移動度を算出するステップをさらに含む請求項1に記載のキャピラリー電気泳動方法。
  3. 予め定められた複数の測定条件で、複数回分離ウィンドウデータ及び泳動時間を測定し、濃度、pH及び試料注入時間のいずれか又は複数に基づき、吸光度ピークの絶対値、ピーク幅又はピーク面積が所定値範囲又は最大となる最適な測定条件と、分離ウィンドウデータ及び泳動時間を求めるステップをさらに含む請求項1又は2に記載のキャピラリー電気泳動方法。
  4. 前記判断するステップは、
    取得した分離ウィンドウデータ及び泳動時間に基づき、所定成分の吸光度ピークの絶対値、ピーク幅又は吸光度ピーク面積を算出するステップと、
    算出した吸光度ピークの絶対値、ピーク幅又は吸光度ピーク面積を、試料注入時間又は試料の濃度又は試料のpHに対応して蓄積するステップと、
    算出した、及び、以前の測定において算出され蓄積された吸光度ピークの絶対値、ピーク幅又は吸光度ピーク面積に基づき、試料注入時間又は試料の濃度又は試料のpHに対する吸光度ピークの絶対値、ピーク幅又は吸光度ピーク面積の変化を判断するステップと、
    該変化の判断結果に基づき、試料注入限界か判断するステップと
    を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のキャピラリー電気泳動方法。
  5. 前記繰り返すためのステップは、
    試料注入時間を所定時間大きく設定することで測定条件を変更し、
    該試料注入時間を用いて再度分離ウィンドウデータ及び泳動時間を取得する請求項1乃至4のいずれかに記載のキャピラリー電気泳動方法。
  6. 前記繰り返すためのステップは、
    充填する試料として異なる濃度又はpHの試料を指定することで測定条件を変更し、
    該指定した試料を用いて再度分離ウィンドウデータ及び泳動時間を取得する請求項1乃至4のいずれかに記載のキャピラリー電気泳動方法。
  7. 前記繰り返すためのステップは、
    pHを調整する物質又は浸透流速度を抑える物質を試料又は電解液に混合することで測定条件を変更し、
    該混合した試料又は電解液を用いて再度分離ウィンドウデータ及び泳動時間を取得する請求項1乃至4のいずれかに記載のキャピラリー電気泳動方法。
  8. 取得した分離ウィンドウデータから、所定の泳動時間間隔ごとのデータをサンプリングするステップと、
    該データに基づき分離ウィンドウデータのベースラインについて、近似多項式を求めるステップと、
    求めたベースラインの多項式に基づくベースラインの吸光度と、取得した分離ウィンドウデータの吸光度との差を求めることにより分離ウィンドウデータを補正するステップと
    をさらに含む請求項1乃至7のいずれかに記載のキャピラリー電気泳動方法。
  9. 前記充填するステップは、
    リーディング電解液、試料、ターミナル電解液の順に充填されるように、又は、試料、リーディング電解液、ターミナル電解液の順に充填されるように実行される請求項1乃至8のいずれかに記載のキャピラリー電気泳動方法。
  10. 前記充填するステップは、
    リーディング電解液の充填、及び、ターミナル電解液の充填において、リーディング電解液及びターミナル電解液の混合液を、試料の後方に充填する請求項1乃至9のいずれかに記載のキャピラリー電気泳動方法。
  11. 電気的試料注入により試料をキャピラリーに注入する試料注入時間を設定するステップと、
    キャピラリーへのリーディング電解液の充填と、設定された試料注入時間に応じた電気的試料注入による試料の充填と、ターミナル電解液の充填とを所定の順序で行うステップと、
    リーディング電解液、試料、ターミナル電解液の順に分離して電気泳動するように泳動電圧を付与するステップと、
    電気泳動した各電解液及び試料の吸光度及び泳動時間を測定するステップと、
    所定の吸光度感度で測定した吸光度が、予め定められたしきい値以上増加したことを判断することにより、吸光度感度を増加し、試料の分離ウィンドウの吸光度を示す分離ウィンドウデータの取得を開始するステップと、
    吸光度が予め定められたしきい値以上減少したことを判断することにより、分離ウィンドウデータの取得を終了するステップと、
    取得した分離ウィンドウデータと泳動時間とを対応させて記憶するステップと、
    分離ウィンドウデータ及び泳動時間に基づき、充填した試料の試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHが、測定感度が飽和状態となる条件で測定したか、又は、試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHについての予め定められた複数の条件で測定したかを判断するステップと、
    判断結果に応じて測定条件を変更し、分離ウィンドウデータとそれに対応する泳動時間を再度取得することを繰り返すためのステップと
    をコンピュータに実行させるためのキャピラリー電気泳動プログラム。
  12. 電気的試料注入により試料をキャピラリーに注入する試料注入時間を設定するステップと、
    キャピラリーへのリーディング電解液の充填と、設定された試料注入時間に応じた電気的試料注入による試料の充填と、ターミナル電解液の充填とを所定の順序で行うステップと、
    リーディング電解液、試料、ターミナル電解液の順に分離して電気泳動するように泳動電圧を付与するステップと、
    電気泳動した各電解液及び試料の吸光度及び泳動時間を測定するステップと、
    所定の吸光度感度で測定した吸光度が、予め定められたしきい値以上増加したことを判断することにより、吸光度感度を増加し、試料の分離ウィンドウの吸光度を示す分離ウィンドウデータの取得を開始するステップと、
    吸光度が予め定められたしきい値以上減少したことを判断することにより、分離ウィンドウデータの取得を終了するステップと、
    取得した分離ウィンドウデータと泳動時間とを対応させて記憶するステップと、
    分離ウィンドウデータ及び泳動時間に基づき、充填した試料の試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHが、測定感度が飽和状態となる条件で測定したか、又は、試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHについての予め定められた複数の条件で測定したかを判断するステップと、
    判断結果に応じて測定条件を変更し、分離ウィンドウデータとそれに対応する泳動時間を再度取得することを繰り返すためのステップと
    をコンピュータに実行させるためのキャピラリー電気泳動プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
  13. 被検物質を有する試料を含むバイアルと、
    リーディング電解液及びターミナル電解液をそれぞれ含む、又は、これらの混合液を含む複数のリザーバーと、
    電気泳動を行うためのキャピラリーと、
    電気的試料注入及び電気泳動をさせるための電源ユニットと、
    各電解液及び試料に含まれる物質の吸光度及び泳動時間を検出するための検出器と、
    前記バイアル、前記リザーバー、前記キャピラリー及び前記電源ユニットを制御する制御部と、
    キャピラリー電気泳動による泳動時間から被検物質の実効移動度を求めるための演算部と
    を備え、
    前記制御部は、
    電気的試料注入により試料を前記キャピラリーに注入する試料注入時間を設定する手段と、
    前記キャピラリーへのリーディング電解液の充填と、設定された試料注入時間に応じた電気的試料注入による試料の充填と、ターミナル電解液の充填とを所定の順序で行う手段と、
    リーディング電解液、試料、ターミナル電解液の順に分離して電気泳動するように泳動電圧を付与する手段と、
    電気泳動した各電解液及び試料の吸光度及び泳動時間を測定する手段と、
    所定の吸光度感度で測定した吸光度が、予め定められたしきい値以上増加したことを判断することにより、吸光度感度を増加し、試料の分離ウィンドウの吸光度を示す分離ウィンドウデータの取得を開始する手段と、
    吸光度が予め定められたしきい値以上減少したことを判断することにより、分離ウィンドウデータの取得を終了する手段と、
    分離ウィンドウデータ及び泳動時間に基づき、充填した試料の試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHが、測定感度が飽和状態となる条件で測定したか、又は、試料注入時間及び/又は試料濃度及び/又はpHについての予め定められた複数の条件で測定したかを判断する手段と、
    判断結果に応じて測定条件を変更し、分離ウィンドウデータとそれに対応する泳動時間を再度取得することを繰り返すための手段と、
    前記演算部は、
    取得した分離ウィンドウデータと泳動時間とを対応させて記憶する手段と、
    を有するキャピラリー電気泳動装置。
  14. 前記演算部は、取得した泳動時間に基づき実効移動度を算出する手段をさらに有する請求項13に記載のキャピラリー電気泳動装置。
  15. 前記制御部は、予め定められた複数の測定条件で、複数回分離ウィンドウデータ及び泳動時間を測定する手段と、
    前記演算部は、濃度、pH及び試料注入時間のいずれか又は複数に基づき、吸光度ピークの絶対値、ピーク幅又はピーク面積が所定値範囲又は最大となる最適な測定条件と、分離ウィンドウデータ及び泳動時間を求める手段と
    をさらに有する請求項13又は14に記載のキャピラリー電気泳動装置。
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