JP2004324462A - 流体機械 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】スラスト受け機構17の偏心質量MSX、MSYの平均値であるMS(ave)を求め、これと同じ値の偏心質量を、シャフト11に対し旋回スクロール14と反対方向にあるカウンタウェイト24等にに付加する。そして、静バランスを最適なものにするために付加した偏心質量MS(ave)とスラスト受け機構17の回転軸に沿って求めた距離をと偏心質量MS(ave)との積で求められる偏心質量を後部バランスウエイト25や前部バランスウエイト26に付加する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は流体機械に関するもので、スクロール型圧縮機に適用して有効である。
【0002】
【従来の技術】
従来のスクロール型圧縮機では、釣り合い錘にて旋回スクロールに発生する遠心力を相殺することにより、振動及び騒音の低減を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特許3399380号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特許文献1に記載の発明では、スラスト受け機構にて旋回スクロールに作用する圧縮反力を受ける構造となっているが、スラスト受け機構を構成する保持器は、旋回スクロールの旋回運動に連動して回転軸と直交する方向に往復運動するので、スラスト受け機構でも不釣り合い量が発生する。
【0005】
したがって、特許文献1に記載の発明のごとく、旋回スクロールに発生する遠心力を相殺するのみでは、振動及び騒音を十分に低減することができない。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、第1には、従来と異なる新規な流体機械を提供し、第2には、流体機械の振動及び騒音を十分に低減することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、ハウジング(9)と、ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、固定部材(13)に対して旋回することにより、作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、旋回部材(Ro)の旋回に伴って発生する不釣り合い量を相殺する釣り合い錘(24〜26)とを備え、釣り合い錘(24〜26)の偏心質量は、旋回部材(Ro)の偏心質量及びスラスト受け機構(17)の偏心質量に基づいて決定されていることを特徴とする。
【0008】
これにより、流体機械の振動及び騒音を十分に低減することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、ハウジング(9)と、ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、固定部材(13)に対して旋回することにより、作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、旋回部材(Ro)の旋回に伴って発生する不釣り合い量を相殺する釣り合い錘(24〜26)とを備え、釣り合い錘(24〜26)の偏心質量は、旋回部材(Ro)の偏心質量にスラスト受け機構(17)の平均偏心質量を加えた値に基づいて決定されていることを特徴とする。
【0010】
これにより、流体機械の振動及び騒音を十分に低減することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、ハウジング(9)と、ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、固定部材(13)に対して旋回することにより、作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、旋回部材(Ro)の旋回に伴って発生する不釣り合い量を相殺する釣り合い錘(24〜26)とを備え、釣り合い錘(24〜26)の偏心質量は、スラスト受け機構(17)の平均偏心質量に、回転軸(11)の平行な方向における釣り合い錘(24〜26)の重心位置とスラスト受け機構(17)の重心位置との距離(L6)を乗した値と旋回部材(Ro)の偏心質量との和に基づいて決定されていることを特徴とする。
【0012】
これにより、流体機械の振動及び騒音を十分に低減することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、スラスト受け機構(17)は、一の方向に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体(17a)と、一の方向と異なる他の方向に回転可能に保持された略円柱状の第2転動体(17b)と有して構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5に記載の発明では、ハウジング(9)と、ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、固定部材(13)に対して旋回することにより、作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、一の方向に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体(17a)、及び一の方向と異なる他の方向に回転可能に保持された略円柱状の第2転動体(17b)を有して構成されて旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、旋回部材(Ro)の旋回に伴って回転軸(11)に作用する遠心力と反対向きの力を回転軸(11)に作用させるカウンタウェイト(24)と、回転軸(11)を傾けるモーメントと反対向きのモーメントを回転軸(11)に作用させるバランスウェイト(25、26)とを備え、カウンタウェイト(24)の偏心質量は、旋回部材(Ro)の偏心質量及びスラスト受け機構(17)の偏心質量に基づいて決定されていることを特徴とする。
【0015】
これにより、流体機械の振動及び騒音を十分に低減することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、ハウジング(9)と、ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、固定部材(13)に対して旋回することにより、作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、一の方向に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体(17a)、及び一の方向と異なる他の方向に回転可能に保持された略円柱状の第2転動体(17b)を有して構成されて旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、旋回部材(Ro)の旋回に伴って回転軸(11)に作用する遠心力と反対向きの力を回転軸(11)に作用させるカウンタウェイト(24)と、回転軸(11)を傾けるモーメントと反対向きのモーメントを回転軸(11)に作用させるバランスウェイト(25、26)とを備え、バランスウェイト(25、26)の偏心質量は、旋回部材(Ro)の偏心質量及びスラスト受け機構(17)の偏心質量に基づいて決定されていることを特徴とする。
【0017】
これにより、流体機械の振動及び騒音を十分に低減することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、ハウジング(9)と、ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、固定部材(13)に対して旋回することにより、作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、一の方向に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体(17a)、及び一の方向と異なる他の方向に回転可能に保持された略円柱状の第2転動体(17b)を有して構成されて旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、旋回部材(Ro)の旋回に伴って回転軸(11)に作用する遠心力と反対向きの力を回転軸(11)に作用させるカウンタウェイト(24)と、回転軸(11)を傾けるモーメントと反対向きのモーメントを回転軸(11)に作用させるバランスウェイト(25、26)とを備え、カウンタウェイト(24)の偏心質量及びバランスウェイト(25、26)の偏心質量は、旋回部材(Ro)の偏心質量及びスラスト受け機構(17)の偏心質量に基づいて決定されていることを特徴とする。
【0019】
これにより、流体機械の振動及び騒音を十分に低減することができる。
【0020】
因みに、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【0021】
【発明の実施の形態】
本実施形態は、本発明に係る流体機械を蒸気圧縮式冷凍機用の圧縮機に適用したものであり、図2は本実施形態に係る圧縮機1の軸方向断面図である。
【0022】
なお、蒸気圧縮式冷凍機は、冷媒を吸入圧縮する圧縮機1、圧縮機1から吐出する高圧冷媒を冷却する放熱器、放熱器から流出する冷媒を減圧する減圧器、及び減圧器にて減圧された低圧の液相冷媒を蒸発させて冷凍能力を発生させる蒸発器等から構成され、低温側の熱を高温側に移動させるものである。
【0023】
因みに、本実施形態に係る蒸気圧縮式冷凍機では、冷媒を二酸化炭素とするとともに、熱負荷が大きいときに圧縮機1の吐出圧、つまり放熱器内の圧力を冷媒の臨界圧力以上まで加圧している。
【0024】
次に、本実施形態に係る圧縮機1の構造を図1に基づいて述べる。
【0025】
圧縮機1は、冷媒を吸入圧縮するスクロール型圧縮機構2と、このスクロール型圧縮機構2を駆動する電動モータ(本実施形態では、DCブラシレスモータ)3とが一体となった密閉型圧縮機である。
【0026】
ここで、電動モータ3の概略について述べる。
【0027】
フロントハウジング4はアルミニウム合金製のモータハウジングであり、固定子鉄心5は、けい素鋼板等の磁性材料からなるヨークであり、この固定子鉄心5はフロントハウジング4に対して固定されている。コイル6は固定子鉄心5に巻き付けられた巻線であり、この巻線6及び固定子鉄心5等からステータコイル7が構成されている。
【0028】
また、ロータ8はステータコイル7内で回転する回転子であり、このロータ8は複数個の永久磁石8a、並びにフロントハウジング4及びミドルハウジング9に軸受10を介して回転可能に支持されたシャフト11等から構成されている。
【0029】
なお、端子12はステータコイル7(巻線6)に電力を供給する端子であり、これらの端子12は、図示しないモータ駆動回路に接続されている。
【0030】
次に、スクロール型圧縮機構2について述べる。
【0031】
シェル13はミドルハウジング9に固定されてミドルハウジング9と共に空間を構成する固定部材であり、このシェル13のうちミドルハウジング9側には、ミドルハウジング9側に向けて突出する渦巻状の歯部13aが形成されている。
【0032】
また、ミドルハウジング9とシェル13との間には、シェル13の歯部13aに接触して作動室Vを構成する渦巻状の歯部14aが形成された旋回スクロール14が配設されており、この旋回スクロール14が、シェル13、つまり固定スクロール13に対して旋回することにより、作動室Vの体積を拡大縮小させて流体、つまり圧縮性流体を吸入圧縮する。
【0033】
また、旋回スクロール14は、その略中央に形成されたボス部14bにてシャフト11の一端側(紙面右側)に形成されたクランク部11aに、シェル型(内輪を持たないタイプ)の針状コロ軸受(ニードルベアリング)15を介して連結されている。
【0034】
そして、クランク部11aは、シャフト11の回転中心から径外方側に偏心した位置に形成されているため、シャフト11が回転すると、旋回スクロール14は、シャフト11周りに旋回(回転)運動する。
【0035】
因みに、ブッシング16は、旋回スクロール14をクランク部11aに対して摺動可能に連結し、両歯部13a、14a間の接触面圧を増大させる従動クランク機構を構成するものであり、このブッシング16は、旋回スクロール14に作用する圧縮反力のうち旋回方向の力によって旋回スクロール14をクランク部11aに対して微小変位させて両歯部13a、14a間の接触面圧を増大させている。
【0036】
ところで、スラスト受け機構17は、旋回スクロール14に作用する圧縮反力のうち旋回スクロール14の旋回方向と直交する方向、つまりシャフト11の長手方向と平行な方向のであるスラスト力を受けるとともに、旋回スクロール14を旋回可能に支持するスラストベアリングである。
【0037】
このスラスト受け機構17は、図2に示すように、一の方向(紙面上下方向)に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体17aと、その一の方向と直交する方向(紙面左右方向)に回転可能に保持された第2転動体17bとを有して構成されている。
【0038】
ここで、略円柱状とは、完全な円柱状は勿論、第1、2転動体17a、17bの軸方向両端側に丸みが形成された(クラウニング処理がされた)ものも含む意味である。
【0039】
そして、第1保持器17cは第1転動体17aを保持する保持手段であり、第2保持器17dは第2転動体17bを保持する保持手段であり、各転動体17a、17bは、各保持器17c、17dの第1、2保持溝17e、17fに収納配置されている。
【0040】
第1レース板17gは、第1保持器17cと旋回スクロール14との間に配設されて第1転動体17aと接触する環状の金属板であり、第2レース板17hは、第2保持器17dとミドルハウジング9の間に配設されて第2転動体17bと接触する環状の金属板であり、第3レース板17jは、両保持器17c、17dとの間に配設されて第1、2転動体17a、17bに接触する環状の金属板である。
【0041】
また、第3レース板17jには、各転動体17a、17bの回転方向、つまり第3レース板17jの径方向に向けて延びる長穴17k、17mが形成されており、これらの長穴17k、17mは、第3レース板17jの円周方向に90°づつずれている。
【0042】
また、第1保持器17cのうち第3レース板17jの長穴17kに対応する部位には、長穴17kな同様な長穴17nが設けられ、第2保持器17dのうち第3レース板17jの長穴17mに対応する部位には、長穴17mな同様な長穴17pが設けられている。
【0043】
そして、旋回スクロール14に装着された2本のピン17qが、第1レース板17g及び第1保持器17cの長穴17nを貫通して第3レース板17kも長穴17kに到達し、ミドルハウジング9に装着された2本のピン17rが、第2レース板17h及び第2保持器17dの長穴17pを貫通して第3レース板17kも長穴17mに到達している。
【0044】
因みに、第1、2転動体17a、17bは、表面硬さがHRC59〜64となるように熱処理が施された高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ)製であり、第1〜3レース板17g、17h、17jは、表面硬さがHRC59〜64となるように熱処理が施された高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ)製であり、第1、2保持器17c、17dは、樹脂又は金属製である。
【0045】
このため、旋回スクロール14は、第1保持器17c及び第1レース板17gと一体的に第3レース板17jに対して第1転動体17aの回転方向、つまり長穴17mの長径方向のみに変位する。
【0046】
一方、第3レース板17jは、ミドルハウジング9に対して第2点動体17bの回転方向(長穴17kの長径方向)に変位することができるので、旋回スクロール14は、クランク部11aに対して自転することなく、ミドルハウジング9(シェル13)に対して自在に平行移動することができる。
【0047】
ところで、図1中、自転防止用ピン18は、旋回スクロール14が旋回する際に、旋回スクロール14がクランク部11a周りに回転(自転)することを防止する自転防止用手段である。このため、シャフト11が回転すると、旋回スクロール14は、クランク部11a周りに回転(自転)することなく、シャフト11の回転中心に対して旋回(公転)する。
【0048】
また、リアハウジング19は、シェル13と共に作動室Vから吐出する冷媒を平滑化する吐出室20を構成するものであり、このリアハウジング19は、シェル13と共にボルト21にてミドルハウジング9に固定されている。
【0049】
また、吐出ポート22はシュル(固定スクロール)13の略中心部に位置する作動室Vと吐出室20とを連通させる連通口であり、この吐出ポート22のうち吐出室20側には、吐出室20に吐出した冷媒が作動室Vに逆流することを防止するリード弁状の吐出弁(図示せず)及び吐出弁の最大開度を規制するストッパ23が設けられている。
【0050】
カウンタウェイト24は、シャフト11の中心線周りに回転(旋回)する部材、つまり旋回スクロール14に加えて旋回スクロール14と一体的に回転するコロ軸受15、第1レース板17g及びピン17q等からなる旋回部材Roの旋回に伴ってシャフト11に作用する不釣り合い量である遠心力と反対向きの力をシャフト11に作用させる釣り合い錘の一種であり、このカウンタウェイト24の重心は、シャフト11の中心線を挟んで旋回部材Roと反対側、つまり旋回部材Roから旋回方向に180°ずれた側に位置する。
【0051】
後部バランスウエイト25は、シャフト11の中心線を挟んで旋回部材Roと反対側であって、旋回部材Ro側のロータ8の端部、つまりロータ8の端部のうち旋回部材Roから近い側に設けられた釣り合い錘の一種である。
【0052】
前部バランスウエイト26は、シャフト11の中心線を挟んで旋回部材Roと同じ側であって、ロータ8の端部のうち後部バランスウエイト25と反対側、つまりロータ8の端部のうち旋回部材Roから遠い側に設けられた釣り合い錘の一種である。
【0053】
そして、後部バランスウエイト25及び前部バランスウエイト26により、シャフト11を傾けるモーメント(以下、このモーメントを傾転モーメントと呼ぶ。)と反対向きのモーメントをシャフト11に作用させて圧縮機1の可動部で発生する動的不釣り合いを相殺する。
【0054】
次に、スラスト受け機構17の概略作動を述べる。
【0055】
図3は図1の第1実施例におけるの旋回スクロール14の位置、すなわち、旋回スクロール14の位置が紙面上方向、すなはちY方向に偏心した時のスラスト受け機構17の各部材の位置関係を表しており、この状態をシャフト回転角θが0°と呼ぶ。
【0056】
この場合、旋回スクロール14に装着されているピン17q及び第1レース板17gは、旋回スクロール14と共に紙面上方向に公転半径r、つまりクランク部11aの中心線とシャフト11の中心線との距離だけ移動し、第1レース板17gと第3レース板17jに挟み込まれている第1保持器17cは、第1転動体17aと共に公転半径の半分である1/2r移動する。
【0057】
このとき、第2保持器17d、第2転動体17b、及び第3レース板17jは、ミドルハウジング9に装着されているピン17rにより、長穴17p及び長穴17kの短径方向、つまり上下方向の往復運動が規制されるため移動しない。
【0058】
また、図4に示すように、図3の状態からシャフト11が90°回転したとき、つまりシャフト回転角が90°のときでは、旋回スクロール14に装着されたピン17qにより第1レース板17g、第1保持器17c、第3レース板17jが旋回スクロール14と共にX軸方向に公転半径rだけ移動する。このとき、第2保持器17dと第2転動体17bは転動と共に公転半径の半分である1/2rだけX軸方向に移動する。
【0059】
したがって、スラスト受け機構17においては、旋回スクロール14の公転旋回に伴って第1保持器17c及び第1転動体17aは、図3、4におけるY軸方向に1/2rの片振幅で往復運動しながらX軸方向に片振幅rで往復運動し、一方、第2保持器17dは片振幅1/2rで往復運動する事がわかる。
【0060】
次に、カウンタウェイト24、後部バランスウエイト25及び前部バランスウエイト26の選定方法について述べる。
【0061】
先ず、従来と同様に、旋回部材Roのみに着目してカウンタウェイト24の偏心質量MC、後部バランスウエイト25の偏心質量MB1及び前部バランスウエイト26の偏心質量MB2を求め、その後、スラスト受け機構17を考慮してMC、MB1及びMB2に対して負荷すべき偏心質量を求める。
【0062】
なお、偏心質量とは、回転する部材の重心Gと回転中心との距離rと回転する部材の質量との積で定義される。
【0063】
図5は旋回部材Roのみに着目した場合における慣性力(遠心力)の状態を示す図であり、Grは旋回部材Roの重心を意味し、Gcはカウンタウェイト24の重心を意味し、GB1が後部バランスウエイト25の重心を意味し、GB2は前部バランスウエイト26の重心を意味する。
【0064】
そして、カウンタウェイト24の偏心質量MCを適切な大きさとすることにより旋回部材Roの旋回運動に伴う慣性力(遠心力)Frを打ち消して静的に釣り合わせる。具体的には、下記の数式1に示すように、カウンタウェイト24等に発生する慣性力の和が0となるようにする。
【0065】
【数1】
(MR+MB2)−(MC+MB1)=0
また、下記の数式2に示すように、任意の点周りのモーメントの和を0とすることにより動的に釣り合わせる。なお、図5では、軸受10の位置を支点としたモーメントを表している。
【0066】
【数2】
(L1・MR−L2・MC)−(L4・MB2−L3・MB1)=0
図6はシャフト回転角が0°の場合における旋回部材Ro及びスラスト受け機構17に作用する慣性力(遠心力)の状態を示す図であり、図7はシャフト回転角が90°の場合における旋回部材Ro及びスラスト受け機構17に作用する慣性力(遠心力)の状態を示す図である。
【0067】
ここで、MSXはX軸方向におけるスラスト受け機構17の偏心質量であり、MSYはY軸方向におけるスラスト受け機構17の偏心質量であり、GSXはスラスト受け機構17を構成する部品のうちX軸方向に運動する部品に関する重心を示し、GSYはスラスト受け機構17を構成する部品のうちY軸方向に運動する部品に関する重心を示す。
【0068】
なお、スラスト受け機構17を構成する部品は、前述のごとく、シャフト11の回転とともにX軸方向及びY軸方向に往復運動するので、MSX、MSY、GSX及びGSYはシャフト11の回転とともに変化する。
【0069】
また、Z軸方向はシャフト11の平行な方向であり、Z軸方向、X軸方向及びY軸方向は互いに直交する方向である。
【0070】
因みに、MSX及びMSYは下記の数式で示される。
【0071】
【数3】
MSX=(m1+m2+m3)・r+(m4+m5)・1/2・r
MSY=(m2+m3)・1/2・r
但し、m1:第2レース板17jの質量
m2:第1転動体17aの質量
m3:第1保持器17cの質量
m4:第2保持器17dの質量
m5:第2転動体17bの質量
ここで、カウンタウェイト24等に追加する偏心質量をmcとすると、シャフト11に作用する慣性力の和Fは、下記の数式で示される。
【0072】
【数4】
F=ω2・{(MSX−mc)2×sin2ωt+(MSY−mc)2×cos2ωt}1/2
但し、ω:シャフト11の角速度(rad/sec)
t:時間(sec)
そして、数式4からも明らかなように、シャフト11に作用する慣性力の和Fはシャフト11の回転とともに変動し、その最小値Fminは以下のようになる。
【0073】
【数5】
Fmin=1/2・|MSX−MSY|・ω2
また、シャフト11に作用する慣性力の和Fが最小となる偏心質量mcは、MSXとMSYとの相加平均、つまり1/2・(MSX+MSY)となる。
【0074】
なお、以下、1/2・(MSX+MSY)をMS(ave)と表記する。
【0075】
次に、傾転モーメントについて述べる。
【0076】
MS(ave)はスラスト受け機構17に発生する慣性力を相殺するためにカウンタウェイト24に付加される偏心質量mcであるが、この偏心質量mcの存在により新たな傾転モーメントが発生する。
【0077】
そこで、後部バランスウエイト25に追加する偏心質量をmB1とし、前部バランスウエイト26に追加する偏心質量をmB2として、任意の点に関するモーメントの和を図8に基づいて考察する。
【0078】
偏心質量mB1、mB2に関するモーメントTCは下記の数式で示される。
【0079】
【数6】
TC=ω2・(L4・mB2−L3・mB1)
また、X平面内における傾転モーメントTX、及びY平面内における傾転モーメントTYは下記の数式で示される。
【0080】
【数7】
TX=ω2・sinωt・(L5・MSX−L2・MS(ave)−TC)
【0081】
【数8】
TY=ω2・cosωt・(L5・MSY−L2・MS(ave)−TC)
したがって、傾転モーメントの大きさTは、(TX2+TY2)1/2となり、MS(ave)−TC=TC’とすると、傾転モーメントの大きさTは下記の数式で示される。
【0082】
【数9】
T=ω2・{(L5・MSX−TC’)2・sin2ωt+(L5・MSY−TC’)2・cos2ωt}1/2
数式9からも明らかなように、傾転モーメントは0とすることはできない。そこで、傾転モーメントTの最大値が最小となるTC’を求めると、L5・MS(ave)となる。つまり、偏心質量mB1、mB2に関するモーメントTCがMS(ave)・(L5−L2)となるときに、傾転モーメントTの最大値が最小となる。
【0083】
なお、L5−L2、すなわちL6は、シャフト11の平行な方向における、カウンタウェイト24の重心位置とスラスト受け機構17の重心位置間の距離を示す。
【0084】
したがって、(L4・mB2−L3・mB1)=MS(ave)・(L5−L2)を満たすように偏心質量mB1、mB2を選定すれば、傾転モーメントを最小とすることができる。
【0085】
以上に述べたことをまとめると、先ず、スラスト受け機構17の偏心質量MSX、MSYの平均値であるMS(ave)を求め、これと同じ値の偏心質量を、シャフト11に対し旋回スクロール14と反対方向にあるカウンタウェイト24等にに付加する。
【0086】
そして、更に動バランスを最適なものにするには、静バランスを最適なものにするために付加した偏心質量MS(ave)とスラスト受け機構17の回転軸に沿って求めた距離をL6と偏心質量MS(ave)との積で求められる偏心質量を後部バランスウエイト25や前部バランスウエイト26に付加すればよい。
【0087】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、スクロール型圧縮機を例に本発明に係る圧縮機を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ローリングピストン(ロタスコ)型圧縮機等のその他の圧縮機にも適用することができる。
【0088】
また、上述の実施形態では、電動モータとスクロール型圧縮機構とが一体となった密閉型圧縮機であったが、駆動源である電動モータと圧縮機構とが別体となった開放型圧縮機であってもよい。
【0089】
また、上述の実施形態では、二酸化炭素を冷媒とする蒸気圧縮式冷凍機用の圧縮機を適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、エチレン、エタン、酸化窒素等の超臨界域で使用する冷媒を用いるヒートポンプサイクル及び冷凍サイクル等は勿論、HFC134a(フロン)を冷媒とする蒸気圧縮式冷凍機用の圧縮機や液体ポンプ等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る圧縮機の断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るスラスト受け機構の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るスラスト受け機構のの説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係るスラスト受け機構のの説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る圧縮機に作用する力を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る圧縮機に作用する力を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る圧縮機に作用する力を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る圧縮機に作用する力を示す図である。
【符号の説明】
3…電動モータ、4…フロントハウジング、5…固定子鉄心、
6…コイル、7…ステータ、8…ロータ、9…ミドルハウジング、
13…シェル、14…旋回スクロール、17…スラスト受け機構、
24…カウンタウェイト、25…後部バランスウエイト、
26…前部バランスウエイト。
Claims (7)
- ハウジング(9)と、
前記ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、
前記固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、前記固定部材(13)に対して旋回することにより、前記作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、
前記旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち前記旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、前記旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて前記旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、
前記旋回部材(Ro)の旋回に伴って発生する不釣り合い量を相殺する釣り合い錘(24〜26)とを備え、
前記釣り合い錘(24〜26)の偏心質量は、前記旋回部材(Ro)の偏心質量及び前記スラスト受け機構(17)の偏心質量に基づいて決定されていることを特徴とする流体機械。 - ハウジング(9)と、
前記ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、
前記固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、前記固定部材(13)に対して旋回することにより、前記作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、
前記旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち前記旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、前記旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて前記旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、
前記旋回部材(Ro)の旋回に伴って発生する不釣り合い量を相殺する釣り合い錘(24〜26)とを備え、
前記釣り合い錘(24〜26)の偏心質量は、前記旋回部材(Ro)の偏心質量に前記スラスト受け機構(17)の平均偏心質量を加えた値に基づいて決定されていることを特徴とする流体機械。 - ハウジング(9)と、
前記ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、
前記固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、前記固定部材(13)に対して旋回することにより、前記作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、
前記旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち前記旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、前記旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて前記旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、
前記旋回部材(Ro)の旋回に伴って発生する不釣り合い量を相殺する釣り合い錘(24〜26)とを備え、
前記釣り合い錘(24〜26)の偏心質量は、前記スラスト受け機構(17)の平均偏心質量に、回転軸(11)の平行な方向における前記釣り合い錘(24〜26)の重心位置と前記スラスト受け機構(17)の重心位置との距離(L6)を乗した値と前記旋回部材(Ro)の偏心質量との和に基づいて決定されていることを特徴とする流体機械。 - 前記スラスト受け機構(17)は、一の方向に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体(17a)と、前記一の方向と異なる他の方向に回転可能に保持された略円柱状の第2転動体(17b)と有して構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の流体機械。
- ハウジング(9)と、
前記ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、
前記固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、前記固定部材(13)に対して旋回することにより、前記作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、
前記旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち前記旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、一の方向に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体(17a)、及び前記一の方向と異なる他の方向に回転可能に保持された略円柱状の第2転動体(17b)を有して構成されて前記旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて前記旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、
前記旋回部材(Ro)の旋回に伴って回転軸(11)に作用する遠心力と反対向きの力を前記回転軸(11)に作用させるカウンタウェイト(24)と、
前記回転軸(11)を傾けるモーメントと反対向きのモーメントを前記回転軸(11)に作用させるバランスウェイト(25、26)とを備え、
前記カウンタウェイト(24)の偏心質量は、前記旋回部材(Ro)の偏心質量及び前記スラスト受け機構(17)の偏心質量に基づいて決定されていることを特徴とする流体機械。 - ハウジング(9)と、
前記ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、
前記固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、前記固定部材(13)に対して旋回することにより、前記作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、
前記旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち前記旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、一の方向に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体(17a)、及び前記一の方向と異なる他の方向に回転可能に保持された略円柱状の第2転動体(17b)を有して構成されて前記旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて前記旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、
前記旋回部材(Ro)の旋回に伴って回転軸(11)に作用する遠心力と反対向きの力を前記回転軸(11)に作用させるカウンタウェイト(24)と、
前記回転軸(11)を傾けるモーメントと反対向きのモーメントを前記回転軸(11)に作用させるバランスウェイト(25、26)とを備え、
前記バランスウェイト(25、26)の偏心質量は、前記旋回部材(Ro)の偏心質量及び前記スラスト受け機構(17)の偏心質量に基づいて決定されていることを特徴とする流体機械。 - ハウジング(9)と、
前記ハウジング(9)に対して固定された固定部材(13)と、
前記固定部材(13)と共に流体を吸入圧縮する作動室(V)を構成し、前記固定部材(13)に対して旋回することにより、前記作動室(V)の体積を拡大縮小させる旋回部材(Ro)と、
前記旋回部材(Ro)に作用する圧縮反力のうち前記旋回部材(Ro)の旋回方向と直交するスラスト力を受けるとともに、一の方向に回転可能に保持された略円柱状の第1転動体(17a)、及び前記一の方向と異なる他の方向に回転可能に保持された略円柱状の第2転動体(17b)を有して構成されて前記旋回方向に往復運動する可動部材(17c、17d、17g、17h、17j)にて前記旋回部材(Ro)を旋回可能に支持するスラスト受け機構(17)と、
前記旋回部材(Ro)の旋回に伴って回転軸(11)に作用する遠心力と反対向きの力を前記回転軸(11)に作用させるカウンタウェイト(24)と、
前記回転軸(11)を傾けるモーメントと反対向きのモーメントを前記回転軸(11)に作用させるバランスウェイト(25、26)とを備え、
前記カウンタウェイト(24)の偏心質量及び前記バランスウェイト(25、26)の偏心質量は、前記旋回部材(Ro)の偏心質量及び前記スラスト受け機構(17)の偏心質量に基づいて決定されていることを特徴とする流体機械。
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