JP2004323799A - ビニルエステル系共重合体の製造方法 - Google Patents

ビニルエステル系共重合体の製造方法 Download PDF

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光男 澤本
Masami Uegakito
正己 上垣外
Takeshi Ando
剛 安藤
Masayuki Wakioka
正幸 脇岡
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Abstract

【課題】ビニルエステル系共重合体を、その一次構造に関係する分子量および分子量分布を精密に制御しながら製造する方法を提供する。
【解決手段】遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)からなる制御ラジカル重合開始剤系の存在下で、ビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)を共重合させる。特に、遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)からなる重合開始剤系が、さらにルイス酸および塩基性化合物から選択される少なくとも1種の化合物(C)を含有することが好ましい。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一次構造を精密に制御しながらビニルエステル系共重合体を製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、特定の制御ラジカル重合開始剤系の存在下で、分子量および分子量分布を精密に制御しながらビニルエステル系共重合体を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ラジカル重合を利用したビニル系重合体の製造は、ポリ酢酸ビニルなどの各種重合体の製造方法として、古くから工業的規模で実施されている。従来の製造方法による場合、一連のラジカル重合反応における生長ラジカルは、再結合、不均化などの停止反応や連鎖移動などの副反応により不活性化してしまうため、得られるビニル系重合体の分子量分布は広く、また、重合体の分子量制御、重合体の分子末端の制御やブロック共重合体の合成は困難であった。
【0003】
これら従来の製造方法における技術的課題を解決する方策として、リビングラジカル重合が注目されている。リビングラジカル重合を用いれば、分子量、分子量分布および分子末端の制御などが可能になり、ブロック共重合体を得ることも可能になる。特にスチレン系単量体、アクリル酸エステル系単量体およびメタクリル酸エステル系単量体などについては多くの研究がなされており、その重合体の一次構造をある程度精密に制御できることが知られている。
【0004】
しかしながら、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体並びにエチレンなどのオレフィンは、連鎖移動定数が非常に大きいため、スチレン系単量体やメタクリル酸エステル系単量体に比較して連鎖移動が起こりやすく、さらには電子の共鳴安定化効果が低く生長ラジカルが非常に不安定であるため、副反応が起こりやすい。このため、これまではビニルエステル系単量体のリビングラジカル重合に成功した例は極めて少ない。また、エチレンなどのオレフィンを単独でリビングラジカル重合することに成功した例もない。
【0005】
ラジカル重合における重合体の一次構造の精密制御に関して、スチレン単量体については非特許文献1に、アクリル系単量体については非特許文献2に、鉄を中心金属とする遷移金属錯体および炭素−ヨウ素結合を有する有機ハロゲン化合物からなるラジカル重合開始剤系を用いることで、分子量分布の狭い重合体を得ることができるとの記載がある。しかし、これらの文献において、ビニルエステル系単量体とオレフィンとのリビングラジカル共重合についての報告はなされていない。
【0006】
これまでにビニルエステル系単量体のリビングラジカル重合に関しては、トリイソブチルアルミニウム、2,2’−ジピリジルおよび2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ化合物(TEMPO)の3成分系からなる重合開始剤系を用いる方法(非特許文献3)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)およびN,N−ジエチルジチオカルバメートの2成分からなる重合開始剤系を用いる方法(非特許文献4)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)およびヨウ素化合物の2成分からなる重合開始剤系を用いる方法(特許文献1)、ならびに鉄を中心金属とする遷移金属錯体および炭素−ヨウ素結合を有する有機ハロゲン化合物からなる重合開始剤系を用いる方法(非特許文献5)が提案されている。しかし、これらの文献において、ビニルエステル系単量体とオレフィンのリビングラジカル共重合についての報告はなされていない。
【0007】
【非特許文献1】
Macromolecules、2000年、第33巻、第3543頁
【非特許文献2】
Polymer Preprints, Japan、2001年、第50巻、第106頁
【非特許文献3】
Macromolecules、1998年、第31巻、第7133頁
【非特許文献4】
Macromolecular Rapid Communications、2000年、第21巻、第1035頁
【非特許文献5】
Macromolecules、2002年、第35巻、第330頁
【特許文献1】
特開平10−60021号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来の技術的課題を解決し、ビニルエステル系共重合体の一次構造を精密に制御しながら、すなわち、その分子量および分子量分布を精密に制御しながらビニルエステル系共重合体を製造する方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の遷移金属錯体および有機ハロゲン化合物からなる開始剤系の存在下で、ビニルエステル系単量体とオレフィンを重合させることにより、分子量分布の狭いビニルエステル系共重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)からなる重合開始剤系の存在下で、ビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)を重合させることを特徴とするビニルエステル系共重合体の製造方法を提供する。
【0011】
特に、重合速度を増大させるために、遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)からなる重合開始剤系に、さらにルイス酸および塩基性化合物から選択される少なくとも1種の化合物(C)を含有させることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のビニルエステル系共重合体の製造方法においては、遷移金属錯体(A)、重合開始剤として有機ハロゲン化合物(B)、ならびに所望により活性化剤としてルイス酸および塩基性化合物から選択される少なくとも1種の化合物(C)からなる制御ラジカル重合開始剤系を用いて、ビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)をラジカル共重合する。
【0013】
本発明の製造方法において、重合開始剤系の必須成分の1つである遷移金属錯体(A)を構成する中心金属としては、周期律表における第6〜11族元素(日本化学会編「化学便覧基礎編I改訂第4版」(1993年)記載の周期律表による)が挙げられ、その中でも鉄、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、銅が好ましく、鉄がより好ましい。
【0014】
金属錯体は、錯体1分子当たりの中心金属原子数に応じて、錯体1分子当たりの中心金属原子が1個の単核錯体、錯体1分子当たりの中心金属原子が2個の2核錯体、錯体1分子当たりの中心金属原子が2個以上の多核錯体に分類される。本発明において、鉄を中心金属とする遷移金属錯体(A)としては、鉄を中心金属とする多核錯体が好ましく、鉄を中心金属とする2核錯体がより好ましい。
【0015】
本発明において、遷移金属錯体(A)を構成する配位子としては、シクロペンタジエニル、シクロヘキサジエン、シクロオクタテトラエン、カルボニル、アセチルアセトナート、ヨード、ブロモなどの配位子が挙げられ、中でもシクロペンタジエニル配位子が好ましい。本発明における遷移金属錯体(A)としては、シクロペンタジエニル配位子を有する遷移金属錯体が好ましく、シクロペンタジエニル配位子およびカルボニル配位子を有する遷移金属錯体がより好ましい。
【0016】
上記の遷移金属錯体を構成するシクロペンタジエニル配位子とは、下記の化学式(1)で示される構造を有する原子団である。
【0017】
【化1】
Figure 2004323799
【0018】
化学式(1)において、R〜Rは水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基などのアリールアルキル基;ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基;カルボキシル基;1級アミノ基;N−メチルアミノ基などの2級アミノ基;N,N−ジメチルアミノ基などの3級アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基;カルバモイル基などの置換基を表す。R〜Rは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシル基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アシル基、カルバモイル基などの官能基を有する炭化水素基であってもよい。また、R〜Rのうち、任意の2つ以上の基が連結して環状構造を形成していてもよい。遷移金属錯体1分子中にシクロペンタジエニル配位子が2個以上存在する場合、R〜Rは2個のシクロペンタジエニル配位子を連結する単結合または連結基であってもよい。そのような連結基としては、アルキレン基;オキシアルキレン基、エステル基、アミド基などの酸素原子および/または窒素原子を含む2価の連結基;ジアルキルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基などのリン原子を含む2価の連結基などが挙げられる。
【0019】
シクロペンタジエニル配位子を有し、鉄を中心金属とする遷移金属錯体の具体例としては、フェロセン、エチルフェロセン、n−ブチルフェロセン、tert−ブチルフェロセン、1,1’−ジメチルフェロセン、1,1’−ジエチルフェロセン、1,1’−ジイソプロピルフェロセン、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)アイロン、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)アイロン、ヒドロキシメチルフェロセン、α−ヒドロキシエチルフェロセン、アセチルフェロセン、1,1’−ジアセチルフェロセン、N,N−ジメチルアミノメチルフェロセン、α−(N,N−ジメチルアミノ)エチルフェロセン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,1’−ビス(ジイソプロピルホスフィノ)フェロセンなどが挙げられる。
【0020】
シクロペンタジエニル配位子およびカルボニル配位子を有し、鉄を中心金属とする遷移金属錯体の具体例としては、ジカルボニルシクロペンタジエニルアイロンダイマー、ジカルボニル(ペンタメチルシクロペンタジエニル)アイロンダイマー、ジカルボニルシクロペンタジエニルヨードアイロンなどが挙げられる。
【0021】
その他の配位子を有し、鉄を中心金属とする遷移金属錯体としては、アイロン(II)アセテート、アイロン(III)アセチルアセトナート、アイロン(II)ブロミド、アイロン(II)クロリド、アイロン(II)ヨード、アイロン(III)ブロミド、アイロン(III)クロリド、アイロン(II)フタロシアニン、シクロヘキサジエンアイロントリカルボニル、シクロオクタテトラエンアイロントリカルボニルなどが挙げられる。
【0022】
本発明において、遷移金属錯体(A)に用いられる鉄を中心金属とする2核錯体の中では、シクロペンタジエニル配位子を有する2核錯体が好ましく、シクロペンタジエニル配位子およびカルボニル配位子を有する2核錯体がより好ましく、ジカルボニルシクロペンタジエニルアイロンダイマーが特に好ましい。
【0023】
また、本発明の製造方法において、重合開始剤系のもう1つの必須成分として使用する有機ハロゲン化合物(B)は、重合開始剤として機能する。このような有機ハロゲン化合物としては、例えば、テトラクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロメタン、モノクロロエタン、トリクロロフェニルメタン、ジクロロジフェニルメタン、モノブロモメタン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードプロパン、ヨードブタン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、ヨードホルム、クロロヨードメタン、1,6−ジヨードヘキサンなどのハロゲン化炭化水素化合物;2,2,2−トリクロロアセトン、2,2−ジクロロアセトフェノンなどのα−ハロゲノカルボニル化合物;2,2,2−トリクロロ酢酸メチル、2,2−ジクロロ酢酸メチル、2−クロロプロパン酸メチル、2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチル、2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチル、2−ブロモ−プロパン酸エチル、2−ヨード−プロパン酸エチル、2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、2−ブロモ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、2−ヨード−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、1,2−ビス(2’−ブロモ−2’−メチルプロピオニルオキシ)エタン、1,2−ビス(2’−ヨード−2’−メチルプロピオニルオキシ)エタン、1,2−ビス(2’−ブロモプロピオニルオキシ)エタン、1,2−ビス(2’−ヨードプロピオニルオキシ)エタン、2−(2’−ブロモ−2’−メチルプロピオニルオキシ)エチルアルコール、2−(2’−ヨード−2’−メチルプロピオニルオキシ)エチルアルコールなどのα−ハロゲノカルボン酸エステル;ヨードアセトニトリル、ヨード酢酸、ヨードアセトアミドなどを挙げることができる。これらは1種単独で使用することもでき、あるいは2種以上を併用することもできる。これらの有機ハロゲン化合物の中でも、有機ヨウ素化合物が好ましく用いられ、2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルが特に好ましく用いられる。
【0024】
さらに、本発明の製造方法においては、上記の遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)からなる重合開始剤系に対して、任意成分としてルイス酸および塩基性化合物から選択される少なくとも1種の化合物(C)を添加することができる。この化合物(C)は、重合開始剤系において活性化剤として機能し、重合速度を向上させることができることから、本発明における重合開始剤系に対して好適に用いられる。
【0025】
上記の化合物(C)として使用されるルイス酸としては、例えば、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリ(sec−ブトキシド)、アルミニウムトリ(tert−ブトキシド)などのアルミニウムトリアルコキシド;ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウム、ビス(2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウムなどのビス(置換アリールオキシ)アルキルアルミニウム;トリス(2,6−ジフェニルフェノキシ)アルミニウムなどのトリス(置換アリールオキシ)アルミニウム;チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシドなどのチタンテトラアルコキシド;イッテルビウムテトライソプロポキシドなどのイッテルビウムテトラアルコキシドなどが挙げられる。これらは1種単独で使用することもでき、あるいは2種以上を併用することもできる。これらのルイス酸の中でも、アルミニウムトリアルコキシド、ビス(置換アリールオキシ)アルキルアルミニウム、トリス(置換アリールオキシ)アルミニウムなどのアルミニウム化合物が好ましく、アルミニウムトリアルコキシドがより好ましく、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリ(tert−ブトキシド)がさらに好ましく用いられ、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましく用いられる。
【0026】
また、上記の化合物(C)として使用される塩基性化合物としては、ホスフィン化合物、アミン化合物が好ましく用いられ、ホスフィン化合物がより好ましく用いられる。
【0027】
化合物(C)に用いられるホスフィン化合物としては、例えば、シクロヘキシルホスフィンなどの脂肪族第1級ホスフィン;ジエチルホスフィン、ジイソブチルホスフィン、ジ−tert−ブチルホスフィン、ジシクロペンチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィンなどの脂肪族第2級ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどの脂肪族第3級ホスフィン;ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、ビス(ジメチルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタンなどの脂肪族ポリホスフィン;フェニルホスフィンなどの芳香族第1級ホスフィン;ジフェニルホスフィン、ジ−p−トリルホスフィンなどの芳香族第2級ホスフィン;トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、p−トリルジフェニルホスフィン、トリ(1−ナフチル)ホスフィン、トリス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィンなどの芳香族第3級ホスフィン;2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフトール、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビフェニルなどの芳香族ポリホスフィン;ジフェニルホスフィノメタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサンなどのホスフィン化合物が挙げられる。これらは、1種単独で使用することもでき、あるいは2種以上を併用することもできる。中でもトリシクロヘキシルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフトールなどが好ましく用いられ、特にトリシクロヘキシルホスフィンが好ましく用いられる。
【0028】
化合物(C)に用いられるアミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミンなどの脂肪族第1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、tert−アミル−tert−ブチルアミンなどの脂肪族第2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミンなどの脂肪族第3級アミンなどの脂肪族アミン;N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどの脂肪族ポリアミン;アニリン、トルイジンなどの芳香族第1級アミン、ジフェニルアミンなどの芳香族第2級アミン、トリフェニルアミンなどの芳香族第3級アミンなどの芳香族アミンなどを挙げることができる。これらは、1種単独で使用することもでき、あるいは2種以上を併用することもできる。中でも、脂肪族アミンが好ましく、特にブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミンが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法において、遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)の系内における濃度は、本発明の効果が奏される限りにおいて特に限定されない。遷移金属錯体(A)の濃度は、好ましくは0.01〜100mmol(ミリモル)/L(リットル)であり、より好ましくは0.1〜60mmol/Lである。有機ハロゲン化合物(B)の濃度は、好ましくは0.1〜100mmol/Lであり、より好ましくは0.5〜80mmol/Lである。
【0030】
また、本発明の製造方法において、ルイス酸および塩基性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)の濃度は、遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)の濃度に対して適宜調整して使用することができ、好ましくは0.5〜100mmol/Lであり、より好ましくは1〜80mmol/Lである。
【0031】
本発明の製造方法において、制御ラジカル重合開始剤系を構成する遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)の割合については、必ずしも限定されるものではないが、遷移金属錯体(A)が少な過ぎると重合速度が遅くなる傾向にあり、遷移金属錯体(A)が多過ぎると副反応が生じやすく、得られる重合体の分子量分布が広くなる傾向にある。そのため、遷移金属錯体(A)と有機ハロゲン化合物(B)とのモル比((A)/(B))は、0.01〜2の範囲内にあることが好ましく、0.02〜1.9の範囲内にあることがより好ましく、0.03〜1.8の範囲内にあることがさらに好ましく、0.05〜1.5の範囲内にあることが特に好ましい。
【0032】
また、遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)からなる制御ラジカル重合開始剤系に、ルイス酸および塩基性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)を添加する場合、化合物(C)が少な過ぎると重合速度が遅くなる傾向にあり、化合物(C)が多過ぎると重合開始剤系の活性が高くなり過ぎて、副反応が生じやすく重合を制御しにくくなる傾向にある。そのため、化合物(C)と遷移金属錯体(A)とのモル比((C)/(A))は、0.2〜50の範囲内にあることが好ましく、0.3〜40の範囲内にあることがより好ましく、0.4〜30の範囲内にあることがさらに好ましく、0.5〜20の範囲内にあることが特に好ましい。
【0033】
本発明において使用する制御ラジカル重合開始剤系は、通常、使用直前に遷移金属錯体(A)、有機ハロゲン化合物(B)、ならびに必要に応じてルイス酸および塩基性化合物から選択される少なくとも1種の化合物(C)を混合することにより調製することができる。また、遷移金属錯体(A)、有機ハロゲン化合物(B)および上記化合物(C)をそれぞれ別々に保管しておき、重合反応系中にそれぞれ別々に添加し、重合反応系中で混合することにより、制御ラジカル重合開始剤系として機能するようにしてもよい。
【0034】
また、本発明において、重合に用いられるビニルエステル系単量体(D)としては、炭素数3〜20のビニルエステル系単量体が好ましく用いられる。炭素数3〜20のビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、ピバル酸ビニル、蟻酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、n−カプロン酸ビニル、イソカプロン酸ビニル、オクタン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種単独で使用することもでき、あるいは2種以上を併用することもできる。これらの中でも、酢酸ビニル、ピバル酸ビニルがより好ましく用いられ、酢酸ビニルが特に好ましく用いられる。
【0035】
本発明の製造方法において使用するオレフィン(E)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、4−エチル−1−ヘキセン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数が2〜20のオレフィンが挙げられる。これらは1種単独で使用することもでき、あるいは2種以上を併用することもできる。これらの中でも、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、4−エチル−1−ヘキセンなどの炭素数が2〜8のオレフィンが好ましく用いられ、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンなどの炭素数が2〜6のオレフィンがより好ましく用いられる。
【0036】
なお、本発明の製造方法において、本発明の効果を損なわない範囲で、ビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)と共に、それら以外の単量体を共重合することもできる。ビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)と共重合することのできる単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−クロロメチルスチレン、p−(2−クロロエチル)スチレンなどのスチレン系単量体などが挙げられる。
【0037】
本発明においては、遷移金属錯体(A)、重合開始剤として有機ハロゲン化合物(B)、ならびに活性化剤として任意成分であるルイス酸および塩基性化合物から選択される少なくとも1種の化合物(C)からなる制御ラジカル重合開始剤系の存在下で、上記のビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)をラジカル共重合させることにより、ビニルエステル系共重合体が得られる。上記ビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)は、重合系に対して、重合開始時に全量添加してもよく、重合の進行に伴い逐次添加してもよい。
【0038】
本発明の製造方法により得られるビニルエステル系共重合体の分子量は、小さすぎると重合体としての機能が発現しにくく、大きすぎると取り扱いが困難になることから、500〜500000(数平均分子量)であることが好ましく、1000〜200000(数平均分子量)であることがより好ましい。
【0039】
ここで、ビニルエステル系共重合体の分子量の調整は、上記制御ラジカル重合開始剤系に含有される有機ハロゲン化合物(B)の濃度を調整することにより行うことができる。具体的には、有機ハロゲン化合物(B)の濃度を増大させることにより、得られるビニルエステル系共重合体の分子量を小さくすることができ、逆に、有機ハロゲン化合物(B)の濃度を低減させることにより、得られるビニルエステル系共重合体の分子量を大きくすることができる。
【0040】
本発明の製造方法で利用する重合方法としては、従来公知の方法が使用可能であり、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。中でも、連鎖移動を少なくし、重合をより精密に制御するという観点から、ビニルエステル系単量体(D)の濃度およびオレフィン(E)の濃度が非常に高い溶液重合法、または塊状重合法が好適に用いられる。溶液重合法の場合は、重合反応系内のビニルエステル系単量体(D)の初期濃度が2mol(モル)/L(リットル)以上であることが好ましく、3mol/L以上であることがより好ましい。また、重合反応系内のオレフィン(E)の初期濃度が低すぎると、共重合体中におけるオレフィン(E)成分の含有量が低くなりやすい傾向にある。そのため、常温で液体であるオレフィンを用いる場合には、その濃度が0.3mol/L以上であることが好ましく、0.8mol/L以上であることがより好ましい。また、常温で気体であるオレフィンを用いる場合、その重合系内での圧力が0.01MPa以上であることが好ましく、0.05〜40MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0041】
溶液重合法を採用した場合、その溶媒として、アルコール、トルエン、ベンゼン、アニソール、酢酸エチルなどが挙げられる。特にビニルエステル系単量体(D)の重合時に、溶媒への連鎖移動定数が比較的小さく、共重合体の溶解性にも優れることから、アニソール、ベンゼンが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法において、重合反応開始に際しては、窒素のような不活性気体の雰囲気下、反応容器内でビニルエステル系単量体(D)、オレフィン(E)、溶媒、遷移金属錯体(A)、必要に応じてルイス酸および塩基性化合物から選択される少なくとも1種の化合物(C)ならびにガスクロマトグラフィー測定用の内部標準物質からなる混合物を調製し、これに有機ハロゲン化合物(B)を加えることが好ましい。また、オレフィン(E)として常温で気体であるオレフィンを用いる場合は、窒素のような不活性気体の雰囲気下、反応容器内でビニルエステル系単量体(D)、溶媒、遷移金属錯体(A)、必要に応じて上記化合物(C)ならびにガスクロマトグラフィー測定用の内部標準物質からなる混合物を調製し、これに有機ハロゲン化合物(B)を加えた後、不活性気体の雰囲気下からオレフィン雰囲気下に置換することが好ましい。そして、このようにして得られた混合物を、通常10〜120℃、好ましくは25〜100℃の範囲内の温度に加温することにより重合を開始させることができる。
【0043】
重合終了後、例えば、重合反応系を0℃以下、好ましくは−78℃程度に冷却して反応を停止させた後、得られた反応溶液をアニソールで希釈し、n−ヘキサン中に投入して重合体を沈澱させ、n−ヘキサンで数回洗浄した後、室温で減圧乾燥するか、または、反応を停止させた後、そのまま室温で減圧乾燥させることにより、目的物であるビニルエステル系共重合体が得られる。
【0044】
本発明の製造方法は、基本的には上記重合反応系を制御ラジカル重合させるものである。上記重合反応系においては、有機ハロゲン化合物(B)中の炭素−ハロゲン結合が、遷移金属錯体(A)ならびに必要に応じてルイス酸および塩基性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)により活性化され、該炭素−ハロゲン結合中にビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)が挿入される形で重合が進行する。このような重合の進行形式は、上記重合反応系におけるビニルエステル系共重合体の生長末端の多くがハロゲン元素であるという事実からも支持されている。上記重合反応系においては、重合反応中の連鎖停止や連鎖移動反応が抑制され、これら副反応による共重合成分が生成することなく制御ラジカル重合が進行するため、重合率の増大にほぼ比例して共重合体の数平均分子量Mnが増大する。また、上記重合反応系で得られる共重合体の分子量分布は、従来のラジカル重合で得られる共重合体に比べて狭い。
【0045】
このように本発明の製造方法によれば、ビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)を制御ラジカル重合することができるため、分子量分布の狭いビニルエステル系共重合体を製造することが可能である。共重合体の分子量分布を、共重合体の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnで表したとき、本発明の製造方法によれば、Mw/Mnの値が1.1〜2.2の範囲内にある共重合体を製造することができ、さらにMw/Mnの値が1.1〜2.0の範囲内にある共重合体を製造することもできる。一般にMw/Mnの値は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0046】
また、重合がほぼ完了した上記重合反応系に、新たに同じビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)を添加すれば、Mw/Mnで表される分子量分布の値を保持したまま、重合率の増大にほぼ比例して数平均分子量Mnが増大した共重合体を得ることができる。さらに、重合がほぼ完了した重合反応系に、新たに種類の異なるビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)を添加した場合には、分子量分布の値を保持したまま、重合率の増大にほぼ比例して数平均分子量Mnが増大したランダムブロック共重合体を製造することも可能となる。
【0047】
また、上記重合反応系において、有機ハロゲン化合物(B)として官能基を有する化合物を用いることにより、目的物であるビニルエステル系共重合体の開始末端に官能基を導入することが可能である。また、生長末端のハロゲン元素の反応性を利用して、生長末端のハロゲン元素を他の官能基へ変換することも可能である。ビニルエステル系共重合体に導入された末端官能基は、マクロモノマーの合成、ランダムブロック共重合体の合成および架橋点などに利用することができる。
【0048】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、特に断りのない限り、操作は全て乾燥窒素ガス雰囲気下で行い、試薬類は容器から注射器により採取し、反応系に添加した。また、溶媒および単量体は、蒸留により精製し、さらに乾燥窒素ガスを吹き込んだものを用いた。
【0049】
ビニルエステル系単量体および常温で液体であるオレフィンの重合反応率は、反応混合液中の単量体の濃度をガスクロマトグラフィー(内部標準物質:n−オクタン)にて分析し、その分析値に基づき算出した。得られた重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)の値は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて次の条件にて測定し、ポリメタクリル酸メチル換算にて算出した。
カラム:昭和電工(株)製 ショーデックスK−805L(3本直列)
溶媒:クロロホルム
温度:40℃
検出器:RIおよびUV
流速:1mL/分
【0050】
参考例(2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルの製造)
Ar(アルゴン)置換した三口フラスコに、ヨウ化ナトリウム(和光純薬工業社製)122gを秤量して投入し、十分乾燥させた後、アセトン500mLを投入してヨウ化ナトリウムを溶解させ、得られた溶液に、2−ブロモイソ酪酸エチル(東京化成工業社製)25mLを添加し、Ar雰囲気下でジムロート冷却器を取り付け、攪拌下、65℃で24時間還流させた。
【0051】
得られた反応物をろ過した後、ろ液に蒸留水400mLおよびジエチルエーテル150mLを添加し、2L分液ロートを用いて有機層のみ抽出した。抽出操作を4回行った後、有機層をチオ硫酸ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、蒸留水にて各3回順次洗浄した後、有機層のみ抽出し、減圧乾燥した。得られた反応物を60℃、1.33×10Paの条件下で減圧蒸留して精製した後、減圧乾燥を行い、目的の2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルを得た。なお、最終生成物の2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルの同定は、H−NMR分析により行った。
【0052】
実施例1
溶媒のアニソールに対して、ジカルボニルシクロペンタジエニルアイロンダイマー(Aldrich社製)、アルミニウムトリイソプロポキシド(Aldrich社製)、酢酸ビニル(和光純薬工業社製)およびn−オクタン(和光純薬工業社製)を添加、混合した後、さらに2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルを添加し、均一になるように混合して、2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルの濃度が40mmol(ミリモル)/L、ジカルボニルシクロペンタジエニルアイロンダイマーの濃度が20mmol/L、アルミニウムトリイソプロポキサイドの濃度が20mmol/L、酢酸ビニルの濃度が8.0mol/L、n−オクタンの濃度が0.31mol/Lである重合反応溶液30mLを調製した。該重合反応溶液からガスクロマトグラフィー用に0.1mLを採取し、残りの重合反応溶液の全量29.9mLを、窒素置換した100mLオートクレーブに仕込んだ。次いで、このオートクレーブにエチレン(住友精化社製をそのまま使用)を系内圧力が0.7MPaになるまで充填し、オートクレーブを開放する充填−開放操作を5回繰り返した後、再度エチレンを導入し、系内圧力を0.7MPaにした。その後、60℃に加温して重合を開始させた。12時間反応させた後、重合反応溶液を−78℃に冷却して重合を停止させた。
【0053】
得られた重合反応溶液中に存在する酢酸ビニルの重合率は18%であった。また、得られた重合反応溶液をアニソールで希釈した後、n−ヘキサン中に投入して重合体を沈澱させ、n−ヘキサンで数回洗浄した後、室温で減圧乾燥することにより酢酸ビニル−エチレン共重合体を得た。
【0054】
得られた酢酸ビニル−エチレン共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにて測定したところ、Mn=4600、Mw=8000、Mw/Mn=1.74であり、そのGPC曲線は単峰性であった。また、得られた共重合体中のエチレン単位の含有量は10mol%であった。
【0055】
実施例2
重合反応を開始して100時間後に重合反応を停止した以外は実施例1と同様に重合を行い、そして重合反応の結果を調べた。得られた重合反応溶液中に存在する酢酸ビニルの重合率は34%であった。また、得られた酢酸ビニル−エチレン共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにて測定したところ、Mn=9650、Mw=14700、Mw/Mn=1.52であり、そのGPC曲線は単峰性であった。また、得られた共重合体中のエチレン単位の含有量は11mol%であった。
【0056】
実施例1と実施例2を比較すれば明らかなように、単量体の重合率の増大に伴い、得られる共重合体の数平均分子量(Mn)が重合率にほぼ比例して増大し、分子量分布(Mw/Mn)の値はほぼ同じ値に保たれていることがわかる。
【0057】
実施例3
エチレン導入後の系内圧力を2.0MPaにした以外は実施例1と同様にして重合を開始させ、12時間反応させた後、重合反応溶液を−78℃に冷却して重合を停止させた。得られた重合反応溶液中に存在する酢酸ビニルの重合率は、17%であった。また、得られた酢酸ビニル−エチレン共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにて測定したところ、Mn=2220、Mw=3660、Mw/Mn=1.65であり、そのGPC曲線は単峰性であった。また、得られた共重合体中のエチレン単位の含有量は22mol%であった。
【0058】
実施例4
溶媒のアニソールに対して、ジカルボニルシクロペンタジエニルアイロンダイマー(Aldrich社製)、アルミニウムトリイソプロポキシド(Aldrich社製)、酢酸ビニル(和光純薬工業社製)、1−ヘキセン(和光純薬工業社製)およびn−オクタン(和光純薬工業社製)を添加、混合した後、さらに2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルを添加し、均一になるように混合して、2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルの濃度が40mmol/L、ジカルボニルシクロペンタジエニルアイロンダイマーの濃度が20mmol/L、アルミニウムトリイソプロポキシドの濃度が20mmol/L、酢酸ビニルの濃度が4.0mol/L、1−ヘキセンの濃度が3.0mol/L、n−オクタンの濃度が0.31mol/Lである重合反応溶液6.0mLを調製した。該重合反応溶液を0.6mLずつ試験管に分注・溶封し、60℃に加温して重合を開始させた。18時間反応させた後、上記試験管のうちの1つを−78℃に冷却して重合を停止させた。
【0059】
得られた重合反応溶液中に存在する酢酸ビニルの重合率は18%であり、1−ヘキセンの重合率は12%であった。また、得られた重合反応溶液を、そのまま室温で減圧乾燥させることにより目的物である酢酸ビニル−1−ヘキセン共重合体を得た。
【0060】
得られた酢酸ビニル−1−ヘキセン共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにて測定したところ、Mn=2390、Mw=3660、Mw/Mn=1.53であり、そのGPC曲線は単峰性であった。また、得られた共重合体中の1−ヘキセン単位の含有量は20mol%であった。
【0061】
実施例5
重合反応溶液を溶封した試験管の1つを、重合反応を開始してから100時間後に−78℃に冷却して重合反応を停止させた以外は、実施例4と同様に重合を行い、そして重合反応の結果を調べた。得られた重合反応溶液中に存在する酢酸ビニルの重合率は24%であり、1−ヘキセンの重合率は14%であった。また、得られた重合反応溶液を、そのまま室温で減圧乾燥させることにより目的物である酢酸ビニル−1−ヘキセン共重合体を得た。得られた酢酸ビニル−1−ヘキセン共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにて測定したところ、Mn=3170、Mw=5170、Mw/Mn=1.63であり、そのGPC曲線は単峰性であった。また、得られた共重合体中の1−ヘキセン単位の含有量は19mol%であった。
【0062】
実施例4と実施例5を比較すれば明らかなように、単量体の重合率の増大に伴い、得られる共重合体の数平均分子量(Mn)が重合率にほぼ比例して増大し、分子量分布(Mw/Mn)の値はほぼ同じ値に保たれていることがわかる。
【0063】
実施例6
アルミニウムイソプロポキシドに代えてトリシクロヘキシルホスフィンを用い、重合反応液中のトリシクロヘキシルホスフィンの濃度を40mmol/Lとした以外は、実施例1と同様の条件にて重合を開始させ、17時間反応させた後、重合溶液を−78℃に冷却して重合を停止させた。得られた重合反応溶液中に存在する酢酸ビニルの重合率は、48%であった。また、得られた酢酸ビニル−エチレン共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにて測定したところ、Mn=18400、Mw=36600、Mw/Mn=1.99であり、そのGPC曲線は単峰性であった。また、得られた共重合体中のエチレン単位の含有量は6mol%であった。
【0064】
実施例7
重合反応を開始して66時間後に重合反応を停止した以外は、実施例6と同様に重合を行い、そして重合反応の結果を調べた。得られた重合反応溶液中に存在する酢酸ビニルの重合率は、65%であった。また、得られた酢酸ビニル−エチレン共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および分子量分布(Mw/Mn)をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにて測定したところ、Mn=21400、Mw=42400、Mw/Mn=1.98であり、そのGPC曲線は単峰性であった。また、得られた共重合体中のエチレン単位の含有量は7mol%であった。
【0065】
実施例6と実施例7を比較すれば明らかなように、単量体の重合率の増大に伴い、得られる共重合体の数平均分子量(Mn)が重合率にほぼ比例して増大し、分子量分布(Mw/Mn)の値はほぼ同じ値に保たれていることがわかる。
【0066】
比較例1
ジカルボニルシクロペンタジエニルアイロンダイマーを用いなかった以外は実施例1と同様にして重合を開始させ、40時間反応させた後、重合溶液を−78℃に冷却して重合を停止させたが、酢酸ビニルおよびエチレンはいずれも重合していなかった。
【0067】
実施例1と比較例1とを比較すれば明らかなように、比較例1では、本発明の製造方法における必須成分である遷移金属錯体(A)を欠いているため、全く重合反応が起こらなかった。
【0068】
比較例2
2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルを用いなかった以外は実施例1と同様にして重合を開始させ、40時間反応させた後、重合溶液を−78℃に冷却して重合を停止させたが、酢酸ビニルおよびエチレンはいずれも重合していなかった。
【0069】
実施例1と比較例2とを比較すれば明らかなように、比較例2では、本発明の製造方法における必須成分である有機ハロゲン化合物(B)を欠いているため、全く重合反応が起こらなかった。
【0070】
比較例1および2に対して実施例1〜7の場合には、遷移金属錯体(A)、有機ハロゲン化合物(B)、ならびにルイス酸および塩基性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)からなる制御ラジカル重合開始剤系が構成されているので、いずれの実施例の場合においても分子量分布が2.2以下という分子量分布の狭いビニルエステル系単量体とオレフィンとからなる共重合体が得られたことが分かる。
【0071】
【表1】
Figure 2004323799
【0072】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、ビニルエステル系共重合体を、その一次構造を精密に制御しながら、すなわち、その分子量および分子量分布を精密に制御しながら製造できる。

Claims (15)

  1. 遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)からなる重合開始剤系の存在下で、ビニルエステル系単量体(D)およびオレフィン(E)を重合させることを特徴とするビニルエステル系共重合体の製造方法。
  2. 遷移金属錯体(A)が、鉄を中心金属とする遷移金属錯体である請求項1に記載の製造方法。
  3. 遷移金属錯体(A)が、鉄を中心金属とする多核錯体である請求項1に記載の製造方法。
  4. 遷移金属錯体(A)が、鉄を中心金属とする2核錯体である請求項1に記載の製造方法。
  5. 遷移金属錯体(A)が、シクロペンタジエニル配位子を有し、鉄を中心金属とする遷移金属錯体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 遷移金属錯体(A)が、シクロペンタジエニル配位子およびカルボニル配位子を有し、鉄を中心金属とする遷移金属錯体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. 有機ハロゲン化合物(B)が、有機ヨウ素化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
  8. ビニルエステル系単量体(D)が、炭素数3〜20のビニルエステル系単量体である請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
  9. オレフィン(E)が、炭素数2〜8のオレフィンである請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
  10. 遷移金属錯体(A)および有機ハロゲン化合物(B)からなる重合開始剤系が、さらにルイス酸および塩基性化合物から選択される少なくとも1種の化合物(C)を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
  11. 化合物(C)が、金属アルコキシドから選択される少なくとも1種の化合物である請求項10記載の製造方法。
  12. 化合物(C)が、第3族、第4族または第13族の金属からなる金属アルコキシドから選択される少なくとも1種の化合物である請求項10に記載の製造方法。
  13. 化合物(C)が、ホスフィン化合物およびアミン化合物から選択される少なくとも1種の化合物である請求項10に記載の製造方法。
  14. 遷移金属錯体(A)が、ジカルボニルシクロペンタジエニルアイロンダイマーである請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
  15. ビニルエステル系共重合体の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnの値が、1.1〜2.2の範囲内である請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
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