JP2004313951A - 保護層形成材の塗布方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ロボットの先端部にエンドエフェクタとしてローラ機構部34を設ける。ローラ48の軸心と直交する方向である軸心Cを中心として回転するスラスト回転機構69を設ける。車両14の開口部14dを画成する縁部15に対してローラ48の軸線を鋭角に設定して剥離性保護層として作用する液状の保護層形成材を塗布材管路22から供給して車両の表面に保護層形成材を塗付する。
【選択図】図14
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗装が終了した車両の開口部を画成する縁部に保護層形成材を塗布する保護層形成材の塗布方法に関し、特に、乾燥後に剥離性保護層として作用する液状の保護層形成材をサンルーフ孔の如き開口部の近傍の車両表面に塗布する保護層形成材の塗布方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車両は、製造後にユーザに手渡されるまでに屋外ストックヤードで保管されたり、トレーラ、船等で搬送されることが多い。この間、車両は粉塵、金属粉、塩分、油分、酸、直射日光等に曝されることから、長時間の保管および搬送の間には、車両の外表面における複数の塗装層のうち表面層の品質が侵されるおそれがある。このような事態を防ぐため、車両出荷前の段階において塗装部に剥離性保護層を形成させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
剥離性保護層は液状ラップ材である保護層形成材(ストリッパブルペイントとも呼ばれる)を塗布して乾燥させることにより形成され、塗装部を保護することができる。また、除去する際には容易に剥離させることができるとともに、通常の保管時には自然に剥離してしまうことがない。
【0004】
剥離性保護層が乾燥する前の保護層形成材を塗布する工程では、ローラに保護層形成材を付着させて、複数の作業者がローラを転がして保護層形成材の塗布を行っている。
【0005】
このような作業の自動化を図り、作業者の負担を軽減させるとともに塗布品質を均一化させるために、ボディ上に保護層形成材を抽出した後、エアを吹き付けることによって保護層形成材を広げる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法によれば保護層形成材の塗布工程における作業の多くが自動化され、作業者の負担を軽減するとともに、タクトタイムを向上させることができて好適である。
【0006】
また、車両を生産する工場では、組み立て作業においてボディを傷つけることがないようにスクラッチカバーと呼ばれる樹脂製のカバーを仮付けすることがある。スクラッチカバーは、例えば、ボディの前方横面に仮付けされ、出荷前に外される。スクラッチカバーは車種毎に違う形状のものを用意する必要があり、さらに搬送ラインにおける日々の生産台数に応じて多数用意する必要がある。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−89697号公報(段落[0022]〜[0027])
【特許文献2】
特開平8−173882号公報(図1)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記の特許文献2で開示されている方法では、保護層形成材の広がり具合が必ずしも均一ではなく、また、保護層形成材が飛散することを防ぐために、ルーフのサンルーフ孔の如き開口部近傍の車両表面には適用し難い。従って、前記開口部近傍の車両表面に対する保護層形成材の塗布処理は一部を人手作業に頼っており、作業者の負担となるとともに、作業者の熟練度によって塗布品質にばらつきが発生する。
【0009】
このような作業者の作業を軽減し、かつ、作業の品質を均一にするためには産業用のロボットを適用することが検討されるが、ロボットに装着可能であって、しかも保護層形成材を塗布するための適当なローラおよびその保持装置は提案されていない。特に、ルーフのサンルーフ孔の如き開口部近傍の車両表面に対してロボットを用いて保護層形成材を塗布しようとするとき、ローラの一部が開口部の内部に臨んで転動することにより車両内部に対して保護層形成材が液垂れすることが懸念される。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、車両の表面に保護層形成材を塗布する工程をさらに自動化し、ローラを車両の表面の形状に応じて常に密着させ、しかも、サンルーフ孔の如き開口部近傍の車両表面であっても保護層形成材を液垂れもなく適切に塗布することを可能にする保護層形成材の塗布方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、車両の搬送ラインの近傍に設けられ、ティーチング動作可能なロボットを介してローラ機構部を前記車両の開口部を画成する縁部近傍に押圧し、前記ローラ機構部に設けられたローラを回転させ、前記ローラに供給され、乾燥後に剥離性保護層として作用する液状の保護層形成材を前記車両の表面に塗布する際に、前記ロボットにより前記縁部の延在方向に対し前記ローラの軸線を鋭角に設定し、前記ローラを前記縁部に沿って移動せしめることにより前記開口部近傍の車両表面に保護層形成材を塗布することを特徴とする。
【0012】
前記の方法によれば、ローラを縁部に対し鋭角に設定して該ローラによる塗布を進めると車両表面に押圧されるローラの部位が徐々に少なくなり、すなわち、開口部に臨む部位が反対に多くなる。この結果、押圧されているローラの一端側から押圧されていない他端側へと保護層形成材が該ローラ内を移動してもそれを十分に吸収して液垂れを惹起することが回避される。
【0013】
さらに、本発明は、車両の搬送ラインの近傍に設けられ、ティーチング動作可能なロボットを介してローラ機構部を前記車両の開口部を画成する縁部近傍に押圧し、前記ローラ機構部に設けられたローラを回転させ、前記ローラに供給され、乾燥後に剥離性保護層として作用する液状の保護層形成材を前記車両の表面に塗布する際に、前記ロボットにより前記ローラの一方の端部側を車両の表面側に押圧し他方の端部側を前記開口部側で浮かせるように傾斜させて、前記ローラを前記縁部に沿って移動せしめることにより前記開口部近傍の車両表面に保護層形成材を塗布することを特徴とする。
【0014】
この発明によればローラの他端部側がその一端部側よりも浮き上がって縁部に押圧されるために該ローラに含まれている保護層形成材が他端部側へと一層その内部を移動し易くなり且つ液垂れも回避される。
【0015】
さらに、本発明では保護層形成材をアクリル系コポリマ剤を主成分とすることを特徴とする。
【0016】
このようにすれば、車両に対する保護層形成材を迅速且つ容易に塗布することが可能となり、さらに剥離し易いという利点もある。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る保護層形成材の塗布装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図1〜図15を参照しながら説明する。
【0018】
図1および図2に示すように、本実施の形態に係る保護層形成材の塗布装置10は、自動車の搬送ライン12に設けられ、塗装の終了した車両14に対して保護層形成材を塗布するものである。塗布装置10は、産業用ロボットである3台のロボット16a、16b、16cと、システム全体の制御を行う制御部18と、保護層形成材が収容されたタンク20と、該タンク20から各ロボット16a、16b、16cに連通する塗布材管路22と、水供給源24からロボット16a、16b、16cへ水を供給する水管路26とを有する。ロボット16a、16b、16cはそれぞれ制御部18に接続されたロボットコントローラ28a、28b、28cによって制御される。
【0019】
ロボット16aおよび16cは、搬送ライン12における車両14の進行方向左手側に設けられ、ロボット16bは、進行方向右手側に備えられている。また、ロボット16aは進行方向前方、ロボット16bは進行方向の中程、ロボット16cは進行方向後方に備えられている。ロボット16a、16b、16cは搬送ライン12と平行なスライドレール30上を移動可能である。
【0020】
塗布材管路22の途中にはポンプ32が設けられており、タンク20から保護層形成材を吸い上げてロボット16a、16b、16cへ供給する。また、タンク20および塗布材管路22は、図示しないヒータと温度計とによって温度制御されており、保護層形成材を適温に保っている。ロボット16a、16b、16cの先端部には、それぞれ塗布材管路22によって保護層形成材が供給されるローラ機構部34が設けられている。
【0021】
保護層形成材の材料は、アクリル系コポリマ剤を主成分とするものであって、好ましくは、ガラス転移温度の異なる2種のアクリル系コポリマ部分を有するものであるとよい。具体的には、例えば、前記の特許文献1で示されている保護層形成材を用いるとよい。また、保護層形成材は、水との混合割合および温度の変化によって粘度を調整することができ、しかも、乾燥すると車両14に密着して粉塵、金属粉、塩分、油分、酸、直射日光等から車両14の塗装部を化学的および物理的に保護することができる。さらに、車両14をユーザに納品の際等で除去するときには、容易に剥離させることができる。
【0022】
図3に示すように、ロボット16a、16b、16cは、例えば、産業用の多関節型のロボットであり、ベース部40と、該ベース部40を基準にして順に、第1アーム42、第2アーム44および第3アーム46とを有し、該第3アーム46の先端にローラ機構部34が設けられている。ローラ機構部34は、第3アーム46に対して着脱自在であり、所謂、エンドエフェクタとして作用する。第1アーム42はベース部40に対して水平および垂直に回動可能な軸J1、J2によって回動可能である。第2アーム44は第1アーム42と軸J3で回動可能に連結されている。第2アーム44は軸J4によって捻れ回転が可能になっている。第3アーム46は第2アーム44と軸J5で回動可能に連結されている。第3アーム46は軸J6によって捻れ回転が可能になっている。
【0023】
このような6軸構成のロボット16a、16b、16cの動作によって、先端部に接続されたローラ機構部34は車両14の近傍における任意の位置に移動可能であって、かつ、任意の向きに設定可能である。換言すれば、ローラ機構部34は6自由度の移動が可能である。ロボット16a、16b、16cは、回転動作以外にも伸縮動作、平行リンク動作等の動作部を有するものであってもよい。
【0024】
図4〜図6に示すように、ローラ機構部34は、第3アーム46の先端部に取り付けられており、円筒形状で保護層形成材を吸収して蓄えることのできる材質のローラ48と、ロボット16aの第3アーム46に対する取付部であるスラスト回転機構69とを有する。該スラスト回転機構69は、第3アーム46に対する取付部材70と、該取付部材70に対してベアリング72を介して回転自在に支持されているスラスト回転部材74と、該スラスト回転部材74の下に取り付けられたベース部76とを有する。
【0025】
また、ローラ機構部34は、ベース部76の両端部に設けられた空気圧シリンダ78および80と、ベース部76の略下端の揺動軸82に揺動自在に軸支された揺動部材84と、ローラ48を保持するホルダ86と揺動部材84とを接続するホルダ接続部88とを有する。ローラ48は揺動軸82を中心として、径方向に揺動自在である。揺動部材84は、上方に延在する2つの上方延在部84aを有し、該上方延在部84aの略上端には、揺動軸82と平行なピン90が設けられている。ピン90は揺動軸82より上方に設定されている。さらに、ローラ機構部34は、前記空気圧シリンダ78および80のロッド78aおよびロッド80aから力を受けて、前記揺動軸82を中心として回転する2つのピン押圧部材92および94を有する。ピン押圧部材92の押圧面92aは、ロッド78aが縮退するとき図6における前記ピン90の左面を押圧し、ピン押圧部材94の押圧面94aは、ロッド80aが縮退するとき図6における前記ピン90の右面を押圧する。
【0026】
2つの上方延在部84aの間には、ベース部76から下方に延在する2つの下方延在部76aが配置され、該2つの下方延在部76aの間に押圧面92aおよび94a(図6参照)が配置されている。
【0027】
スラスト回転部材74には回転規制部材96が設けられており、該回転規制部材96の上面の凹部96aには、取付部材70から下に突出する小突起98が配置されている。小突起98の幅は凹部96aの幅よりやや小さく、この隙間の範囲においてスラスト回転部材74はスラスト方向に回転自在となっている。ここでいうスラスト方向とは、ローラ48自体の軸心と直交する方向であり、第3アーム46の軸心Cを中心とした回転方向である。取付部材70を第3アーム46に取り付けるためのボルト100を小突起98に兼用してもよい。
【0028】
ホルダ接続部88には、上部と下部で対向する2つのクランパ102および104が設けられている。これらのクランパ102および104はアルミパイプ106を保持しており、該アルミパイプ106により揺動部材84とホルダ86が連結されている。アルミパイプ106の表面には環状溝106aが設けられている。
【0029】
ローラ48の両端はホルダ86により回転自在に保持されており、塗布材管路22および水管路26と接続されるチューブ22aは、ホルダ86の一端部を介してローラ48の内部に連通している。ローラ48はホルダ86に対して着脱自在である。
【0030】
図7に示すように、ローラ48に保護層形成材を供給するための液圧および空圧の複合回路(供給機構部)150は、コンプレッサ152と、該コンプレッサ152の吐出部に接続されたエアタンク154と、空気圧の供給・遮断の切り換えを行う手動の空圧投入弁156と、制御部18から供給される電気信号によって2次側圧力を減少させるレギュレータ操作弁160と、該レギュレータ操作弁160の2次圧によってパイロット操作されて塗布材管路22の圧力を減少させるレギュレータ158とを有する。また、複合回路150は、レギュレータ158の2次側管路および水管路26が接続されたMCV(Material Control Valve、供給切換弁)162と、MCV162の2次側とローラ48との間に設けられたトリガー弁164とを有する。MCV162の内部には、塗布材管路22および水管路26の連通・遮断の切り換えを行う切換弁162a、162bが設けられており、該切換弁162a、162bの2次側は連通している。なお、図7の破線は空気圧管路を示す。
【0031】
MCV162、トリガー弁164およびレギュレータ操作弁160は、空気圧パイロット式に限らず電気ソレノイド等の駆動方式のものでもよい。
【0032】
複合回路150は、さらに、空圧投入弁156から供給される空気圧を切り換えることによって切換弁162a、162bをパイロット形式で操作するMCV切換電磁弁166と、トリガー弁164をパイロット操作するトリガー切換電磁弁168とを有する。MCV切換電磁弁166は制御部18から供給される電気信号によって、切換弁162a、162bのいずれか一方を連通させるとともに他方を遮断し、水と保護層形成材とを切り換えてトリガー弁164に供給する。
【0033】
トリガー切換電磁弁168は、制御部18から供給される電気信号によってトリガー弁164を連通・遮断状態に切り換えて、ローラ48に水または保護層形成材を供給する。
【0034】
塗布材管路22および水管路26の途中には、それぞれ手動の止め弁170、172が設けられている。通常、止め弁170および172は連通させておく。
【0035】
複合回路150において空気の排出口には、それぞれサイレンサ174が設けられており、排気音を低減させている。コンプレッサ152、ポンプ32および水供給源24には、過剰な圧力上昇を防止するリリーフ弁(図示せず)が設けられている。
【0036】
なお、複合回路150におけるコンプレッサ152、エアタンク154、水供給源24およびポンプ32は、各ロボット16a、16b、16cに共通であり、それ以外の機器は各ロボット16a、16b、16cに個別に備えられている。
【0037】
次に、このように構成される保護層形成材の塗布装置10を用いて、車両14に保護層形成材を塗布する方法について説明する。
【0038】
まず、予め、各ロボット16a、16b、16cに対して動作の教示を行う。ロボット16a、16b、16cに車両14のボンネット部14a(図1参照)、ルーフ中央部14bおよびルーフ後方部14cをそれぞれ分担させて、各担当部に保護層形成材を塗布させるように教示し、教示したティーチングデータは制御部18の所定の記録部に記録し、保持しておく。車両14がセダン型であるときには、ロボット16cはトランク部を分担する。なお、図中、参照符号14dは、サンルーフ用の開口部を示す。このサンルーフ用の開口部14d近傍のルーフに対して保護層形成材を塗布させるためのロボット16b、16cへの教示については後述する。
【0039】
ところで、ロボット16a、16b、16cによって保護層形成材が塗布された車両14は、搬送ライン12によって次工程へ搬送される。ロボット16a、16b、16cは、車両14と干渉することのない待機姿勢に待避して、つぎの車両14が搬入されるまで待機する。このとき、トリガー弁164を遮断させ保護層形成材の供給を停止させる。
【0040】
塗布された保護層形成材は、自然乾燥または送風しながら乾燥させて可剥離性保護層を形成し、車両14の塗装部を保護する。
【0041】
図8に示すように、ロボット16aの第3アーム46と車両14の表面との距離を適当に保ち、具体的には、平坦な箇所Paにおいて揺動部材84の傾斜角度をマイナス方向に角度θとなるように教示し、平坦な箇所Paから第3アーム46を車両14の表面に平行に移動させる。また、平坦な箇所Paから連続する面における浅い凹部500の箇所Pbにおいても、そのまま平坦な箇所Paにおける面と平行に移動させてよい。さらに、平坦な箇所Paから連続する面における低い凸部502の箇所Pcにおいても、そのまま平坦な箇所Paにおける面と平行に移動させてよい。このように、凹部500および凸部502は無視し、揺動部材84の傾斜角度を多少変化させるようにしてもよい。このように浅い凹部500や比較的低い凸部502も無視することによりロボット16aの動作教示が容易になる。
【0042】
保護層形成材を塗布する処理は、搬送ライン12において1台の車両14毎に設定されているタクトタイム内で終了するように教示を行う。
【0043】
次に、車両14に保護層形成材を塗布する際には、タンク20(図7参照)および塗布材管路22を所定のヒータによって適温に加温するとともに、コンプレッサ152、水供給源24およびポンプ32を動作させる。また、ロボット16a、16b、16cを車両14と干渉することのない位置で待機させ、空圧投入弁156を連通させる。
【0044】
次いで、塗装の終了した車両14を搬送ライン12によって搬入し、ロボット16a、16b、16cの近傍で停止させる。制御部18は、車両14が搬入されたことを搬送ライン12から供給される信号またはセンサ(図示せず)によって認識し、各ロボット16a、16b、16cを教示データに基づいて動作させる。
【0045】
このとき、制御部18はレギュレータ操作弁160(図7参照)を介してレギュレータ158を制御し、塗布材管路22を適当な圧力に制御する。また、制御部18は、MCV切換電磁弁166を介してMCV162を制御し、塗布材管路22を連通させるとともに水管路26を遮断する。さらに、制御部18はトリガー切換電磁弁168を操作することによってトリガー弁164を連通させる。このような制御部18の作用によって保護層形成材は、適当な圧力および適温に保たれた状態でローラ機構部34のローラ48に供給され、該ローラ48の表面に適量がしみ出る。
【0046】
次に、図8に示すように、ロボット16aを右方向へ移動させながら車両14の平面状の表面に保護層形成材を塗布する際には、ロッド80aが縮退する方向に比較的弱い力Faを発生するように右側の空気圧シリンダ80に空気を供給する。また、ロッド78aが延出するように左側の空気圧シリンダ78に空気を供給する。このようにすることにより、右側のピン押圧部材94の押圧面94aはピン90の右側面を比較的弱い力で押圧し、左側のピン押圧部材92の押圧面92aはピン90から離間する。
【0047】
従って、揺動部材84およびローラ48は、揺動軸82を中心として反時計方向の力を受けることになり、ローラ48が適当な押圧力で車両14の表面に押圧される。ローラ48の適用箇所や移動方法に応じて力Faを適宜調整するとよい。
【0048】
また、図9に示すように、ロボット16aを左方向に移動させながら車両14平面状の表面に保護層形成材を塗布する際には、ロッド78aが縮退する方向に比較的弱い力Faを発生するように左側の空気圧シリンダ78に空気を供給する。また、ロッド80aが延出するように右側の空気圧シリンダ80に空気を供給する。このようにすることにより、左側のピン押圧部材92の押圧面92aはピン90の左側面を比較的弱い力で押圧し、右側のピン押圧部材94の押圧面94aはピン90から離間する。
【0049】
従って、揺動部材84およびローラ48は、揺動軸82を中心として時計方向の力を受けることになり、ローラ48が適当な押圧力で車両14の表面に押圧される。
【0050】
このように、ロボット16aの進行方向に応じて空気圧シリンダ78および80に供給する空気の流れの方向と圧力とを制御することにより、ローラ48を車両14の表面に対して適度に押圧することができる。つまり、ローラ48の自重を押圧力として有効に利用するとともに、該自重では不足の押圧力を空気圧シリンダ78または空気圧シリンダ80により補償することができる。
【0051】
これにより、ローラ48が空回りしたり、凹部500および凸部502を通過するときに飛び跳ねることがない。また、ローラ48から保護層形成材がしみ出しやすい。このとき、ローラ48は揺動軸82を中心として揺動可能であることから、比較的浅い凹部500および比較的低い凸部502に対しても確実に密着させて保護層形成材を塗布することができる。つまり、ローラ48が凹部500および凸部502を通過する際には、凹部500の深さおよび凸部502の高さに応じてロッド78aまたは80aが伸縮する。空気圧シリンダ78および80は、駆動流体として圧縮性に富む空気を用いていることから柔軟な動作が可能であり、外力の変動を吸収しやすい。
【0052】
また、不測の事態によりロボット16aの動作が所定の教示経路をやや外れて、第3アーム46が車両14の表面に近づいた場合においても、ローラ48は車両14の表面に対して昇降可能であるとともに、表面に対する押圧力は空気圧シリンダ78および80に供給される空気圧により制御されているので、車両14に過度な力が加わることがない。
【0053】
空気圧シリンダ78のロッド78aに連結されたピン押圧部材92と空気圧シリンダ80のロッド80aに連結されたピン押圧部材94は、ピン90を介して揺動部材84に対してそれぞれ対向する方向に押圧力を加えるので、揺動部材84が時計方向または反時計方向のいずれの方向に傾斜している場合にも適切に動作可能である。これにより、右方向および左方向のいずれの方向へも保護層形成材を塗布することができる。
【0054】
また、図10に示すように、空気圧シリンダ78のロッド78aおよび空気圧シリンダ80のロッド80aの双方を縮退するように作用させてもよい。例えば、ロボット16aを図10の右方向へ移動させる場合、ロッド80aが縮退する方向に比較的弱い力Faを発生させるとともに、ロッド78aが縮退する方向に非常に弱い力Fbを発生させる。力Faは力Fbより大きく設定し(Fa>Fb)、これらの力FaおよびFbを適切に設定することにより、ローラ48を車両14の表面に対して適切な力で押圧させることができる。
【0055】
さらに、図11に示すように、空気圧シリンダ78のロッド78aおよび空気圧シリンダ80のロッド80aの双方を延出するように作用させてもよい。このようにすると、ピン押圧部材92の押圧面92aと、前記ピン押圧部材94の押圧面94aの双方がピン90から離間し、揺動部材84に加わる力はなくなる。従って、ローラ48は自重だけで車両14の表面を押圧することとなる。特に、ローラ48が比較的重く車両14の表面に対する十分な押圧力を有する場合には、ロッド78aおよび80aの双方を延出させて揺動部材84を揺動自在とするとよい。
【0056】
次に、本実施の形態において車両に形成されたサンルーフ用の開口部14dを画成する縁部に保護層形成材を塗布する工程について、以下に説明する。
【0057】
一般的に前記開口部14dを画成する縁部に対して保護層形成材を塗布しようとする際、ローラ48はルーフ部分と開口部14dに跨って移送される。これを図12に示す。すなわち、ローラ48の一部が縁部15、例えば、ルーフ後方部14cと開口部14dにわたって保護層形成材を塗布しようとする場合(図12A参照)、ローラ48の一部はルーフ後方部14cに押圧されるために、この押圧される側48aに浸み込んでいる保護層形成材は前記押圧力によって開口部14d側、すなわち、押圧されていない側48bに浸透移動し、ついには前記開口部14d側で車両14内に滴下してしまう(図12B参照)。
【0058】
このような不都合を克服しようとして、図13Aに示すように、縁部15に対して所定角度傾斜させてローラ48を徐々に離間するように移送しながら保護層形成材を塗布することが考えられる。すなわち、縁部15の延在方向に対してローラ48の軸線を鈍角に設定して矢印に示すようにローラ48をルーフ後方部14c上で転動させる。しかしながら、このようにすると、ローラ48のルーフ後方部14cに押圧される側48aが徐々に多くなり、すなわち、開口部14dに臨む部位、換言すれば、押圧されていない側48bが徐々に少なくなる。この結果、ローラ48のルーフ後方部14cに押圧される側48aから浸み込んでくる保護層形成材は、押圧されていない側48bの領域が減少してくるために前記押圧されていない側48bに充満し、遂には車両14の内部に滴下するに至る(図13B参照)。
【0059】
本実施の形態はかかる不都合を回避するためのものであって、縁部15の延在方向に対してローラ48の軸線が鋭角となるように設定し(図14A参照)、保護層形成材を含む前記ローラ48を転動させる。この結果、図14Aおよび図14Bに矢印で示すように、ローラ48が縁部15に沿って移動するに従って、ローラ48の開口部14dに臨む領域が増大する。すなわち、ルーフ後方部14cに押圧されない側48bが増加し、その部分は押圧されている側から浸透してくる保護層形成材を十分に吸収することができる。このため、保護層形成材は車両14内に滴下することはない。
【0060】
なお、この場合、図15に示すように、ルーフ後方部14cの表面において、ローラ48の開口部14dに臨む側を3°〜4°高くするように傾斜させると、一層保護層形成材の浸透受容量が高まり好適である。
【0061】
ローラ48を前記のように縁部15に沿って鋭角に設定して移動するようにロボット16bと16cとがティーチングされる。具体的にはスラスト回転部材74を介してローラ48を縁部15に対して鋭角となるように設定すればよい。
【0062】
以上のように、本実施の形態に係る保護層形成材の塗布装置10では、ローラ48を備えるローラ機構部34をロボット16a、16b、16cで操作するとともに、前記ローラ48に保護層形成材を供給することにより、保護層形成材を塗布する工程を自動化し、塗布品質を均一化することができる。
【0063】
また、ローラ機構部34は、ローラ48を車両14の表面に押圧させるとともに、凹凸に応じてローラ48を受動的に昇降させる機能を有するので、ローラ48を車両14の外表面に密着させ、保護層形成材を適切に塗布することができる。
【0064】
また、自動化によって作業者が保護層形成材を塗布する工程がなくなることから、工程数を減少させて生産効率を向上させることができる。さらに、作業者用の空調設備を省略することができ、従って、空調に要する電力の低減により省エネルギ化を図ることができ、耐環境性を向上させることができるとともに工場の操業コストが低減化される。
【0065】
さらに、保護層形成材により形成される剥離性保護層は、車両14の出荷後において塗装部を保護することができる一方、工場内においても塗装部を保護することができスクラッチカバーの代用となる。従って、車種毎に違う形状の多数のスクラッチカバーを省略することができる。
【0066】
車両14のバンパには着色されていて塗装が不要のものがあるが、保護層形成材はこのようなバンパ等の塗装部以外の箇所に塗布してもよい。
【0067】
本発明に係る保護層形成材の塗布装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0069】
すなわち、車両の外表面に保護層形成材を塗布する工程をさらに自動化させるとともに、ローラを常に車両の表面形状および塗布面積に対応させるように密着させ、保護層形成材を確実に塗布するという効果を達成することができる。
【0070】
また、保護層形成材の材料としてアクリル系コポリマ剤を用いることによって、車両をより一層保護することができ、しかも除去するときには剥がしやすい。
【0071】
さらに、本発明によれば、車両の開口部を画成する縁部に保護層形成材を塗布する場合でも、前記縁部の延在方向に対してローラの軸線を鋭角に設定したので、塗布途上でローラ内を移動して浸透する保護層形成材が車両の内部に滴下することはない。これによって、前記滴下に伴って惹起する清掃作業を行う必要もなく、全体として保護層形成材の塗布工程の簡略化と製造コストの低廉化を図るという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る保護層形成材の塗布装置の斜視図である。
【図2】本実施の形態に係る保護層形成材の塗布装置の正面図である。
【図3】ロボットおよび該ロボットに設けられたローラ機構部の斜視図である。
【図4】ローラ機構部の拡大斜視図である。
【図5】ローラ機構部の一部断面拡大正面図である。
【図6】ローラ機構部の一部断面拡大側面図である。
【図7】液圧および空圧の複合回路を示す回路図である。
【図8】ローラ機構部を有するロボットを右方向へ動作させる際の、ロボットと車両の表面との位置関係を示す模式図である。
【図9】ローラ機構部を有するロボットを左方向へ動作させる際の、ロボットと車両の表面との位置関係を示す模式図である。
【図10】ローラ機構部における左右の空気圧シリンダのロッドをそれぞれ縮退させながら保護層形成材を塗布する際の、ロボットと車両の表面との位置関係を示す模式図である。
【図11】ローラ機構部における左右の空気圧シリンダのロッドをそれぞれ延出させながら保護層形成材を塗布する際の、ロボットと車両の表面との位置関係を示す模式図である。
【図12】図12Aは、ルーフの開口部を画成する縁部に沿ってローラを移動させて保護層形成材を塗布する場合の斜視説明図であり、図12Bは、図12Aに示すローラと開口部との関係を示す模式的縦断面図である。
【図13】図13Aは、ルーフの開口部を画成する縁部の延在方向に対してローラを鈍角に設定し、保護層形成材を塗布する場合の平面概略説明図であり、図13Bは、図13Aに示すローラと開口部との関係を示す模式的縦断面図である。
【図14】図14Aは、ルーフの開口部を画成する縁部の延在方向に対してローラを鋭角に設定し、保護層形成材を塗布する場合の平面概略説明図であり、図14Bは、図14Aに示すローラと開口部との関係を示す模式的縦断面図である。
【図15】ルーフの開口部を画成する縁部においてローラをルーフ側へと傾斜させて保護層形成材を塗布する場合の模式的縦断面図である。
【符号の説明】
10…塗布装置 12…搬送ライン
14…車両 15…縁部
16a、16b、16c…ロボット 18…制御部
20…タンク 22…塗布材管路
26…水管路 30…スライドレール
32…ポンプ 34…ローラ機構部
48…ローラ 69…スラスト回転機構
70…取付部材 72…ベアリング
74…スラスト回転部材 78、80…空気圧シリンダ
78a、80a…ロッド 82…揺動軸
84…揺動部材 86…ホルダ
90…ピン 92、94…ピン押圧部材
92a、94a…押圧面 96…回転規制部材
Claims (3)
- 車両の搬送ラインの近傍に設けられ、ティーチング動作可能なロボットを介してローラ機構部を前記車両の開口部を画成する縁部近傍に押圧し、前記ローラ機構部に設けられたローラを回転させ、前記ローラに供給され、乾燥後に剥離性保護層として作用する液状の保護層形成材を前記車両の表面に塗布する際に、前記ロボットにより前記縁部の延在方向に対し前記ローラの軸線を鋭角に設定し、前記ローラを前記縁部に沿って移動せしめることにより前記開口部近傍の車両表面に保護層形成材を塗布することを特徴とする保護層形成材の塗布方法。
- 車両の搬送ラインの近傍に設けられ、ティーチング動作可能なロボットを介してローラ機構部を前記車両の開口部を画成する縁部近傍に押圧し、前記ローラ機構部に設けられたローラを回転させ、前記ローラに供給され、乾燥後に剥離性保護層として作用する液状の保護層形成材を前記車両の表面に塗布する際に、前記ロボットにより前記ローラの一方の端部側を車両の表面側に押圧し他方の端部側を前記開口部側で浮かせるように傾斜させて、前記ローラを前記縁部に沿って移動せしめることにより前記開口部近傍の車両表面に保護層形成材を塗布することを特徴とする保護層形成材の塗布方法。
- 請求項1または2記載の方法において、前記保護層形成材はアクリル系コポリマ剤を主成分とすることを特徴とする保護層形成材の塗布方法。
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