JP2004313038A - 哺乳動物のes細胞由来樹状細胞の産生方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】哺乳動物の胚性幹細胞(ES細胞)を、マクロファージを分化させる能力のあるサイトカインを産生しないストローマ細胞と共培養する第一工程、次いで上記共培養した細胞を上記ストローマ細胞とコロニー刺激因子の存在下で培養する第二工程、および更に第二工程を経た培養細胞をストローマ細胞が存在せず、コロニー刺激因子が存在する培養液で培養する第三工程からなる方法。
【選択図】なし
Description
【産業上の技術分野】
本発明は、樹状細胞の産生方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、哺乳動物、特にマウス胚性幹細胞(ES細胞)に対して、これを人工的に樹状細胞に分化させることにより、樹状細胞を産生する方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
種々の難治性疾患を含む自己免疫疾患、および社会的にも大きな問題となっているアレルギー疾患の根本的な治療のためには、個体の免疫反応を抗原特異的に制御する手法の開発が望まれる。また、悪性腫瘍に対する免疫療法を有効性の高いものとするためには、特定の抗原に対する細胞傷害性T細胞の反応を強力に賦活する方法の開発が不可欠である。このために、生体内で免疫応答の制御に中心的な役割を果たしている樹状細胞の機能を研究し、その機能強化をはかることが必要である。
【0003】
樹状細胞は、抗原タンパク質を貪食し、ペプチドに分解した後、そのペプチドをMHC(主要組織適合抗原)との複合体としてT細胞に提示してT細胞を刺激する(抗原提示)。樹状細胞は、生体内において抗原提示能力が最も高い細胞である。樹状細胞は、抗原提示によりT細胞を抗原特異的に活性化する一方で、自己抗原に反応性を有するT細胞の機能を抑制し、免疫学的な自己寛容の維持にも関与している。このように、樹状細胞は、生体内において免疫応答を制御する中心的な役割を果たしている。
【0004】
樹状細胞は、生理的には骨髄中で血液幹細胞から分化、産生される。骨髄中の血液幹細胞は、増殖因子の存在により樹状細胞以外に、赤血球、血小板、好中球、好酸球、好塩基球、マクロファージ等に分化する。
【0005】
ES細胞から、血液細胞を得る技術は公知である。例えば、ストローマ細胞を用いて、ES細胞から樹状細胞、顆粒球、赤血球、Bリンパ球、血小板等を含む各種血液細胞を発生させる方法が知られている。この方法は、これまでに造血機構の基礎的研究において、種々の分子や細胞の機能解析に応用されている。
【0006】
樹状細胞の遺伝子を改変することにより、その機能を人工的に修飾した樹状細胞を生体に投与し、免疫応答を抗原特異的に制御できる可能性がある。樹状細胞あるいは骨髄中の血液幹細胞の遺伝子改変を行なう方法として、ウイルスベクターなどを用いる方法が考えられるが、遺伝子導入効率、発現の安定性、ベクターシステムの安全性などの問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、ES細胞から効率的に樹状細胞を産生する方法について検討した結果、本発明に到達した。本発明の目的は、第一に、ES細胞から樹状細胞を安定的に産生する方法を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、T細胞刺激活性の優れた樹状細胞を製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、哺乳動物のES細胞を、マクロファージを分化させる能力のあるサイトカインを産生しない骨髄由来ストローマ細胞と共培養する第一工程、次いで上記共培養した細胞を上記ストローマ細胞とコロニー刺激因子の存在下で培養する第二工程、および更に第二工程を経た培養細胞をストローマ細胞が存在せず、コロニー刺激因子が存在する培養液で培養する第三工程とを含むことを特徴とする樹状細胞の産生方法である。
【0009】
マクロファージを分化させる能力のあるサイトカインとは、M−CSFである。
【0010】
コロニー刺激因子は、GM−CSFである必要がある。
【0011】
第三工程で産生した樹状細胞は、更にTNF,あるいはインターロイキン類の存在下に培養する第四工程を含むことが好ましい。
【0012】
インターロイキン類は、インターロイキン4である必要がある。
【0013】
導入する遺伝子は、プラスミドで行われることが好ましい。
【0014】
遺伝子の導入は、電気穿孔法により行われることが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
発明の実施の形態につき説明する。
【0016】
本発明の方法は、哺乳動物のES細胞を、骨髄ストローマ細胞と共培養し、次いで上記共培養した細胞をストローマ細胞とGM−CSFの存在下で培養し、更にストローマ細胞が存在せず、GM−CSFが存在する培養液で培養するという3つの工程からなる。
【0017】
本発明の方法における第一工程について説明する。本発明では、まず哺乳動物のES細胞を、マクロファージの分化に関与するサイトカイン(M−CSF)を産生しないストローマ細胞と共培養する。
【0018】
本明細書では、哺乳動物のES細胞として、マウスのES細胞を用いた例につき説明する。なお、本発明における哺乳動物は、マウスに限定されず、ヒト、さる、犬、猫、ぶた、牛、馬、羊、山羊、うさぎ、ラット等を対象としうる。
【0019】
本発明で用いるES細胞(Embryonic Stem Cell)は、胚性幹細胞とも呼ばれ、公知の如く、受精卵から胚に発達する段階、具体的には胚盤胞内の内部細胞塊を取り出して培養処理をした細胞である。ES細胞はどの哺乳動物からも作成が可能と考えられている。
【0020】
本発明で着床細胞として使用するストローマ細胞(フィーダー細胞)は、器官などで、その機能を担う細胞や組織を取り巻き支持する細胞で、機能を担う細胞の分化や機能発現を誘導・促進する細胞である。本発明では、ストローマ細胞としては、血液幹細胞からリンパ球や赤血球を分化誘導する働きをもつ骨髄から採取したストローマ細胞を用いることが好ましい。マウスのフィーダー細胞としては、PA6、OP9またはST2が知られている。PA6とST2はマクロファージの分化に関与するサイトカイン(M−CSF)を産生する。本発明では、M−CSFを産生しないストローマ細胞、OP9を用いることが好ましい。なお、OP9は、マクロファージコロニー増殖因子(M−CSF)欠損op/opマウス由来の骨髄ストローマ細胞ラインである。TT2は多くの変異マウス系統の作製にもちいられている。また、遺伝子トラッププロジェクトを行なうための宿主細胞として使用されている。
【0021】
血液細胞を分化させる能力のあるサイトカイン類とは、例えば、SCF(幹細胞増殖因子)、IL(インターロイキン)−3、GM−SCF(顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子)、M−CSF(マクロファージコロニー刺激因子)、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、エリトロポエチン等をいう。本発明の第一工程では、特にM−CSFを産生しないストローマ細胞を用いることが好ましい。
【0022】
ES細胞を培養するための培養液としては、通常はNa、Mg、Ca等の金属イオンを含んだ生理食塩水に各種アミノ酸、例えばL−Arg, L−Cys, L−Gln, L−His、及び各種ビタミン、例えば葉酸、パントテン酸、ニコチンアミド、ピリドキサール、リボフラビン等を含んだ培養液、好ましくはイーグルのMEM培養液あるいはダルベッコ改良イーグル培養液(DMEM)培養液としてバイオフルイド社から入手できる培養液等を用いることができる。これらの中では、ダルベッコ改良イーグル培養液(DMEM)を好ましく用いることができる。本発明の第一工程と第二工程においては、α必須培養液(α−MEM)に牛胎児血清を20%の濃度で加えたものを用いる必要がある。
【0023】
本発明で、上記培養液を入れて培養するための容器としては、各種の動物細胞培養のための市販の容器を用いることができる。このような容器として、本発明の第一工程と第二工程においては組織培養用コーティングがなされたプラスチック製培養容器を用いることが好ましい。市販品として入手可能なプラスチック製培養容器を使用直前にゼラチンでコーティングした後に、培養に用いることが好ましい。
【0024】
本発明の第一工程において、培養するための温度は、37℃である。また、培養時間は通常4〜7日、好ましくは4〜6日の範囲である。
【0025】
上記第一工程で培養したES細胞を、次いで、第二工程に移し、ストローマ細胞とコロニー刺激因子(GM−CSF)の存在下で培養する。この第二工程で用いるストローマ細胞は、第一工程と同じ種類(OP9)のものを使用することが必要である。
【0026】
本発明の産生方法の第二工程で用いるコロニー刺激因子とは、上記サイトカイン類の1つで、例えば、SCF(幹細胞増殖因子)、GM−SCF(顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子)、M−CSF(マクロファージコロニー刺激因子)、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、等をいう。本発明の第二工程では、特にGM−CSFを用いる。GM−CSFは2.5ng/mlから20ng/mlの範囲の量で配合することが好ましい。
【0027】
ES細胞を培養するための培養液および培養容器は、前述の第一工程で説明したものを同様に使用することができる。また、培養温度としては37℃でなければならない。また、培養時間は通常4〜7日、好ましくは4〜6日の範囲である。この第二工程により、形状が球形あるいは一部不規則な浮遊細胞が現れる。
【0028】
第二工程を経て得られた浮遊細胞を、更に第三工程として、ストローマ細胞が存在せず、GM−CSFが存在する培養液で培養する。
【0029】
第三工程でのES細胞を培養するための培養液は、RPMI−1640培養液に牛胎児血清を10%の濃度で加えたものを用いる。培養容器はまた、細菌培養用プラスチック製培養皿を用いる。また、および培養温度としては第一、第二工程と同様の条件を取りうる。培養期間は、7日から15日である。この第三工程により、形態学上は不規則かつ突起を有し、また、T細胞刺激活性を有する細胞が産生される。
【0030】
以上の工程からなる本発明の樹状細胞の産生方法によれば、ES細胞から樹状細胞を選択的に、かつ効率よく産生することができる。ここで産生された樹状細胞は、抗原蛋白を貪食した後、分解したペプチドをT細胞に提示することによりT細胞を強く刺激する活性を有している。
【0031】
本発明の方法では、上記第一〜第三工程を経て製造された樹状細胞を、更に樹状細胞刺激に関与するサイトカイン類の存在下に培養すること(以下「第四工程」という)により、T細胞刺激性の向上した樹状細胞(成熟樹状細胞)を産生することができる。
【0032】
本発明で対象とするT細胞は、MHCクラスI分子上に提示された抗原ペプチドを認識するキラーT細胞(Tc)およびMHCクラスII分子上に提示された抗原ペプチドを認識するTヘルパー細胞(Th)である。Th細胞は、樹状細胞から抗原を提示されて活性化すると、各種のサイトカインを産生し、それによりB細胞やマクロファージを活性化させる。Th細胞は更にTh1細胞とTh2細胞に分類される。
【0033】
樹状細胞成熟刺激活性のあるサイトカイン類としては、例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−10、IL−12,IFN(インターフェロン)−α、TNF(腫瘍壊死因子)−α、TNF−β等を挙げることができる。これらの中で、本発明による樹状細胞の成熟には、IL−4とTNF−αとが効果が優れる。サトカイン類は1ng/mlから10ng/mlの範囲の量で配合することが好ましい。
【0034】
本発明ではまた、樹状細胞を、更に樹状細胞の成熟刺激に関与するサイトカイン類の存在下に培養する際に、更にリポ多糖類(LPS)、および/または抗CD40モノクローナル抗体を培養液に添加することにより、T細胞刺激活性を更に増大させることができる。LPSは0.1〜10μg/ml程度配合することが好ましい。
【0035】
このような本第四工程により、ES細胞由来樹状細胞は、形態学的にも高いT細胞刺激能力の点からも完全に成熟した樹状細胞の様相を示すことができる。
【0036】
本発明の方法では、ES細胞として、抗原をコードする遺伝子を導入したES細胞を用いることができる。
【0037】
本発明における抗原とは、治療や診断の対象となる蛋白、あるいはペプチドであり、例えば各種細菌、各種ウイルス、これらを構成するタンパク、癌細胞に特異的に発現する蛋白(腫瘍抗原タンパク)、腫瘍抗原タンパクの一部であるペプチド等を挙げることができる。
【0038】
ES細胞へ抗原をコードする遺伝子を導入する方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、コードする遺伝子をそのままES細胞に導入する方法、あるいは、ベクターを用いる方法を挙げることができる。これらの方法のうちではベクターを用いる方法が遺伝子が導入され発現する効率が高いため、好ましい。
【0039】
遺伝子をES細胞内に挿入する方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、ウイルスベクターを用いる導入法等が知られている。これらの中では、エレクトロポレーション法がES細胞の分化性能を損なわないため、好ましい。
【0040】
ベクターとしては、ファージ、ウイルス、プラスミドを用いる方法が知られているが、本発明ではプラスミドを用いる方法が、目的とする遺伝子導入が容易であり安全性が高いため好ましい。
【0041】
ベクターに目的とする抗原遺伝子を挿入する方法は公知であり、例えば、エンハンサー、プロモーターとスプライシングシグナルの間に目的とする抗原蛋白のcDNAを組込む方法を用いることもできる。
【0042】
具体的な遺伝子導入・発現方法としては、βアクチンプロモータと内部リポソームエントリーサイト(IRES)−ピューロマイシンN−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現ベクターを用いる方法と、Cre−lox仲介標的遺伝子の蓄積を遺伝子トラップしたES細胞クローンに入れる方法の2つの方法が特に有効である。
【0043】
抗原をコードする遺伝子が導入されたES細胞は、上記の記載の方法と同様の方法により分化が誘導されて樹状細胞となる。本発明の遺伝子改変ES細胞から分化された樹状細胞は後述の実施例で示すように、極めて高い抗原特異的T細胞刺激活性を誘導する。
【0044】
【発明の効果】
本発明の方法で産生された樹状細胞は、抗原特異的なT細胞反応を強力に惹起できるため、抗腫瘍免疫療法および感染症治療に応用できる可能性がある。また、T細胞の免疫反応を抑制することもできるため、哺乳動物の免疫寛容を誘導し、自己免疫疾患あるいはアレルギー疾患を治療できる可能性がある。また、抗アレルギー剤や免疫抑制剤の開発の際の指標として使用できる可能性がある。また、本発明の方法は、免疫療法、特に自己免疫疾患の治療や樹状細胞の機能研究に応用できる。
【0045】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明につき説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0046】
【実施例1】
(第一工程)
ES細胞として、TT2ES細胞を用いた。ES細胞の樹状細胞への分化は図1のように行った。ES細胞を20%FCS(牛胎児血清)が補給されたαMEM(α必須培養液)に、1.5x104個/2mL培養液/ウエルの密度で懸濁させた。そして、6穴プレート中のOP9細胞層上にて培養した。3日後、培養液の半分を除去し、各ウエルに新しい培養液を加えた。
【0047】
(第二工程)
5日目に細胞を、燐酸緩衝生理食塩液(0.25%トリプシン/1mL EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)を用いてOP9細胞層から分離し回収した。そして、新しいOP9細胞層上にて再度培養を行なった。そして、20%FCSと GM−CSF(1000U/mL)とが補給されたαMEM中で培養した。この段階で、6ウエル培養プレート中の3ウエルから取り出された細胞を、培養プレート中の20mL培養液に懸濁し、150mmの培養皿に供給した。10日後(移植後5日目)、ピペッティングすることにより多くの丸く浮遊する細胞を観察した。(図1)。平均して4〜8x106個/150mm培養皿が認められた。これは、未分化のES細胞の数が100〜200倍増加したことを示す。これらの細胞は、ほとんどがCD11bを発現し、骨髄系細胞(ミエロイド)の系統に類似していた。
【0048】
(第三工程)
この段階で、6ウエル培養プレート中の3ウエルから取り出された細胞(2.5x105個細胞/90mm皿)を、細菌培養用プラスチック製培養皿に移し、ストーマ細胞なしで、10%FCS、GM−CSF(500U/mL)と2MEが補給されたRPMI−1640培養液で培養した。17〜19日後、1.5〜2.5x105個細胞/90mm皿の浮遊、またはゆるく結合した細胞が現れた。この培養段階のES由来樹状細胞の細胞数は、未分化ES細胞の数の100〜200倍であった。
【0049】
この工程の後、いくつかの(<30%)細胞はマクロファージのように培養皿の表面に付着していた。浮遊細胞は大雑把に2つのタイプに別れた。1つは丸い形で大サイズの群、もう1つは、小サイズで突出部のある不規則な形状(図2)であった。加えて、後者のタイプの浮遊細胞の塊が17〜19日に観察された。
【0050】
(細胞表面分子解析)
フローサイトメータ(FACScan、ベクトン−ディキンソン社製、米国)を用いて細胞表面分子の解析を行なった。浮遊細胞はMHCクラスI、クラスII、CD80、CD86、DEC205及びCD11cに陽性であった(図3)。形態学及び細胞表面分子と機能から、突起をもった細胞をES細胞由来樹状細胞とした。ES細胞由来樹状細胞はF4/80とCD11bを発現しCD8αを発現せず、骨髄細胞(ミエロイド)系統の樹状細胞であることが示唆された。
【0051】
【比較例1】
(骨髄細胞からの樹状細胞の生成)
対照にマウス骨髄血液細胞から産生される樹状細胞を用いた。マウス骨髄細胞から産生される樹状細胞の生成は、報告されている方法を改良して行った。すなわち、マウス骨髄血液細胞を(C57BL/6xCBA)F1マウスから分離し、細菌培養用プラスチック製培養皿で(1.5x106個細胞/90mm皿)、10%FCS、GM−CSF(500U/ml)と2ME(50μM)が補給されたRPMI−1640培養液で培養した。培養液は5日毎に交換した。9〜12日後培養液の浮遊細胞をピペッティングすることにより回収した樹状細胞を骨髄細胞由来樹状細胞として機能試験に用いた。抗原提示能力の解析では、骨髄細胞由来樹状細胞にペプチド、OVAやPCCペプチドを加え、2回洗浄し、刺激細胞として用いた。
【0052】
(抗原提示能力評価)
ES細胞由来樹状細胞をPCC蛋白(50μg/ml、シグマ社)が添加された、あるいは添加されていない96ウエル平底培養プレート上で培養した。6時間後、2B4ハイブリドーマ細胞を加えた(5x104個細胞/ウエル)。さらに、24時間後、上澄み液(50μL/ウエル)を集めた。これを、別の96ウエル平底培養プレート中で培養しているIL−2依存の細胞株、CTLL−20(5x103個細胞/100μL/ウエル)に加えた。16時間後、3Hチミジンを加え、細胞を更に8時間培養した。CTLL−20の増殖に伴う3Hチミジンの染色体DNAへの取り込みを、β線測定用のシンチレーションカウンターを用いて測定した。
【0053】
(ES細胞由来樹状細胞による抗原の分解と提示)
抗原としてハトチトクロムC(PCC)を用いて、ES細胞由来樹状細胞の抗原提示機能の評価を行なった。ES細胞由来樹状細胞をPCCタンパク質の存在下で6時間培養し、T細胞ハイブリドーマへのPCCエピトープの提示能力を調べた。T細胞ハイブリドーマとしては、PCCエピトープを特異的に認識しIL−2を産生することが知られている2B4を用いた。2B4によるIL−2産生量を測定することによりPCCエピトープの提示能力を定量的に評価した。後述するように、ES細胞由来樹状細胞と骨髄細胞由来樹状細胞の抗原提示機能を、抗原蛋白の濃度と樹状細胞の数が異なる複数の条件のもとに比較することにより、ES細胞由来樹状細胞の抗原提示機能を評価した。図4に示したように、ES細胞由来樹状細胞の抗原提示高率は比較例である骨髄由来の樹状細胞より高いことが判明した。また、これらの結果は、ES細胞由来樹状細胞は溶解している抗原蛋白を捕らえ、分解し、ペプチドとしてMHCクラスII分子拘束性に提示する能力があることを示している。
【0054】
【実施例2】
実施例1で得られた樹状細胞を更にサイトカインで刺激した。すなわち、
実施例1の方法で10日以上培養したES細胞由来樹状細胞を、新しい細菌培養用プラスチック製培養皿に移し、GM−CSFが添加されず、10%FCSが添加されたRPMI−1640培養液で培養した。次の日、IL−4(10ng/mL)とTNF−α(5ng/mL)と、抗CD40抗体(10μg/mL、クロ−ン3/23)、またはIL−4、TNF−αとリポ多糖類(LPS:1μg/mL)を加えた。
【0055】
2〜3日後、細胞をピペットで採取し、機能と細胞形態学上の分析を行った(図5)。その結果、IL−4とTNF−αと抗CD40抗体、あるいは、IL−4とTNF−αとLPSの組み合わせが、ES細胞由来樹状細胞の成熟を顕著に増強させることが分かった。IL−4とTNF−αと抗CD40抗体の組合せで成熟させたES細胞由来樹状細胞のほとんどはクラスターを形成した。一方、IL−4とTNF−αとLPSの組み合わせでは、ほとんどクラスターを生成しなかった。これらの刺激により成熟したES細胞由来樹状細胞は高い水準でMHCクラスI、クラスII、CD80、CD86を発現した(図6)。また、IL−4とTNF−αとLPSの組み合わせで刺激したES細胞由来樹状細胞は処理前に発現がなかったCD40を細胞表面上に発現していた。一方、CD11cの発現量は変化なかった。更に処理前に発現していたF4/80とCD11bの発現量は低下した。
【0056】
【実施例3】
(リンパ球反応(MLR))
反応性T細胞として、脾臓の単核細胞をBalb/cマウスから準備した。T細胞をこれらの細胞から抗CD90抗体超磁気マイクロビーズ(ミルトニ バイオテック社、ドイツ)を用いて磁気細胞選択法で分離した。また、刺激細胞として成熟化したES細胞由来樹状細胞を用いた。このMLRの結果、刺激細胞の密度に依存して、反応性T細胞の強い増殖反応が認められた(図7)。この結果、成熟したES細胞由来樹状細胞が強いT細胞刺激活性を有していることが示された。
【0057】
【実施例4】
《IRES−ピューロマイシンN−アセチルトランスフェラーゼカセットを含む発現ベクターを用いたES細胞由来樹状細胞の遺伝子改変》
遺伝子改質ES細胞由来樹状細胞を作成するために、ES細胞に発現ベクターを導入し、遺伝子組み替えしたES細胞から樹状細胞を作成することを試みた。すなわちマウス胚由来繊維細胞(PEF)層上に保持されたTT2ES細胞を採取し、ダルベッコ改良イーグル培養液(DMEM)に2.5x107/mL懸濁した。そして、1x107細胞を4mmギャップのキュベット−200V、950μFの条件で電気穿孔法による遺伝子導入を行なった。
【0058】
【実施例5】
上記の遺伝子導入には、MHCクラスII分子上に高い効率でPCCエピトープを提示する効果のあるベクター、pCI−PCCを用いた。このベクターは、ヒトインバリアント鎖(li)のCLIP領域を抗原ペプチドPCCをコードするDNA断片に置換したものであり、ヒトインバリアント鎖とPCCエピトープの融合タンパク質をコードする。さらに、上記の融合タンパク質を効率良く発現させるために、β―アクチンプロモータとIRES細胞由来ピューロマイシンN−アセチルトランスフェラーゼカセット(pCAG−IP)とを含有する発現ベクター(pCAGIP)を用いた。pCAGIPにliPCC融合蛋白をコードするDNA断片を挿入したpCAGIP−CI−PCCを作成し(図8)、ES細胞にこのベクターを導入した。そして、ピューロマイシン耐性ES細胞クローンを単離し、樹状細胞へ分化させた。単離したES細胞の28クローン中24クローンが樹状細胞へ分化した後、ヒトliを発現した。図9では、そのうちの1クローンの樹状細胞へ分化した後のヒトliの発現を示している。対照として、遺伝子導入を行なっていないES細胞由来樹状細胞の解析結果を示す。
【0059】
この工程により作製したPCCエピトープを提示するES細胞由来樹状細胞のPCC特異T細胞ハイブリドーマ2B4を刺激する能力を定量的に評価した。図10に示したように、liPPC発現ベクタ−が導入されているES細胞由来樹状細胞は、PCC(10μM)ペプチドを外来性に負荷しておいた骨髄細胞由来の樹状細胞よりもより強力にT細胞を刺激した。
【0060】
【実施例6】
遺伝子トラップESクローンにおいては、ES細胞の染色体の様々な部位にレポーター遺伝子として、lox−β−geo−loxカセットが導入されている。Cre発現ベクターを用いて、遺伝子トラップES細胞クローンのレポーター遺伝子を卵白アルブミン抗原(OVA)の遺伝子と置換するために、20μgのp6AOVAとpCAGGS−Creをトランスフェクションに用いた。この遺伝子置換により、β−geo配列が、OVAの遺伝子に置換される。トランスフェクションしたES細胞は、90mm培養皿上のPEF層上で培養し、3、5、7日に24時間毎にピュ−ロマイシン(2μg/ml)で選択した。薬剤耐性コロニーを9日目に24ウエル培養プレート上へ移した。さらに、遺伝子組み換えES細胞由来樹状細胞のクローンを樹状細胞に分化させた。
【0061】
分化の後、得られた樹状細胞によるOVAを特異的に認識するT細胞ハイブリドーマ(RF33.70)に対する刺激活性を調べることにより、OVAエピトープ提示能力を定量的に評価した。その結果、10クローンのうち9クローンが強いハイブリドーマ刺激活性を示し、OVAエピトープ提示能力を有していることが判明した。置換ベクターが導入されたESクローンから分化したES細胞由来樹状細胞によるOVAエピトープ提示能を解析した結果を図11に示す。遺伝子導入によりOVAを発現したES細胞由来樹状細胞は、1〜10μMのOVAペプチドを負荷した骨髄由来樹状細胞より優れたハイブリドーマ刺激活性を示した。以上の結果より、遺伝子トラップ法は、分化させた樹状細胞が導入された抗原遺伝子を高いレベルで発現する遺伝子改変ES細胞を効率的に得る方法として有効であることが明らかとなった。
【0062】
【実施例7】
(遺伝子改変されたES細胞由来樹状細胞のマウスへの注入による抗原特異性細胞傷害性T細胞の活性化)
OVA発現ベクターが導入されたES細胞由来樹状細胞の抗原特異性細胞傷害性T細胞の活性化能力を調べるために、OVA発現ベクター導入ES細胞由来樹状細胞あるいは、非導入ES細胞由来樹状細胞を、F1マウスに7日間隔で腹腔内に2回注入した。実施例2の方法によりIL−4、TNF−αそして、抗CD40mAb抗体とで刺激したES細胞由来樹状細胞を、マウスに注入した。(5x104個細胞/マウス)注入は2回7日間隔で行った。2回目の注入から7日後、マウスを屠殺し、脾臓細胞を分離した。脾臓細胞を溶血緩衝液(140mM NH4Cl、10mM HEPES[N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N‘−2−エタンスルフォン酸]、pH7.4)で1分処理し、洗浄し、IL−2(100U/ml)とOVAペピチド(0.1μM)が補給された45%RPMI/45%AIMV/10%牛血清、24ウエル培養プレートで培養した。(2.5x106個細胞/ウエル)
【0063】
(OVAペプチドを負荷したEL−4胸腺細胞を標的細胞とした細胞傷害活性の測定)
標的細胞として、C57BL/6マウスを起源とする胸腺腫細胞株であるEL−4をナトリウム[51Cr]−クロメート1時間、37℃でラベルし、10%FCSが補給されたRPMI−1640培養液で2回洗浄した。次いで、標的細胞を24ウエル培養プレートで、1x106個細胞/ウエルの密度で10μMのOVAペプチド添加、あるいは非添加下で3時間インキュベートした。次いで、これを回収し、10%FCS/RPMI−1640培養液で洗浄し、96−ウエル丸底培養プレートにて培養した。(5x103個細胞/ウエル)脾臓細胞由来の細胞傷害性T細胞(5x104個細胞/ウエル)を標的細胞に加え、37℃で4時間インキュベートした。インキュベートの終わりに、プレートを遠心分離し、上澄み液(50μL/ウエル)を収穫し、γカウンターで計測した。下記の計算式により特異的細胞傷害活性を計算した。
(実験放出値―自然放出値)/(最大放出値―自然放出値)X100
自然放出値と最大放出値とは、各々、培養液中で放置した状態で細胞内より自然に遊離される放射活性値および1%トリトンx−100の存在下で標的細胞を完全に溶解させた状態で測定した値である。
【0064】
上記方法により、ES細胞由来樹状細胞を注入したマウスより分離し、さらに5日間培養を行なった脾臓細胞による、OVAペプチドを負荷されたEL−4胸腺細胞に対する細胞傷害活性を調べた。結果を図12に示す。OVAエピトープ特異性のある細胞傷害性T細胞が、OVA発現ES細胞由来樹状細胞により活性化され、OVA非発現ES細胞由来樹状細胞では活性化されなかったことを示す。これらのことはOVA抗原を発現するように遺伝子が操作されたES細胞由来樹状細胞が、生体内でOVA抗原特異性細胞傷害性T細胞を活性化する能力のあることを示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の実施例における第二工程の培養液中の浮遊細胞の顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明の実施例における第三工程の培養液中の浮遊細胞の顕微鏡写真である。
【図3】図3は、本発明の実施例における第三工程の培養液中の浮遊細胞の、細胞表面分子の発現を解析した結果を示した図である。
【図4】図4は、本発明の実施例におけるPCC蛋白質の存在下で培養したES細由来の樹状細胞の抗原提示機能の評価結果を示したグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例における第四工程で培養液中の浮遊細胞の顕微鏡写真である。
【図6】図6は、本発明の実施例における第四工程の培養液中の浮遊細胞の、細胞表面分子の発現を解析した結果を示した図である。
【図7】図7は、本発明の実施例における第四工程の培養液中の浮遊細胞によるT細胞刺激活性をMLRにより解析した結果のグラフである。
【図8】図8は、本発明の実施例でES細胞に導入する融合蛋白をコードするDNA断片の構造図である。
【図9】図9は、本発明の実施例における遺伝子組み換えES細胞由来の樹状細胞のヒトli分子の発現を示した図である。
【図10】図10は、本発明の実施例における遺伝子組み換えES細胞由来の樹状細胞の、PCC特異T細胞ハイブリドーマ刺激活性を示したグラフである。
【図11】図11は、本発明の実施例における遺伝子組み換えES細胞由来の樹状細胞の、OVAペプチド負荷EL−4胸腺細胞に対するT細胞の細胞障害性ハイブリドーマ刺激活性を示したグラフである。
【図12】図12は、ES細胞由来樹状細胞を注入したマウスより分離し、さらに5日間培養を行なった脾臓細胞による、OVAペプチドを負荷されたEL−4胸腺細胞に対する細胞傷害活性を調べた結果である。
Claims (8)
- 哺乳動物の胚性幹細胞(ES細胞)を、マクロファージを分化させる能力のあるサイトカインを産生しないストローマ細胞と共培養する第一工程、次いで上記共培養した細胞を上記ストローマ細胞とコロニー刺激因子の存在下で培養する第二工程、および更に第二工程を経た培養細胞をストローマ細胞が存在せず、コロニー刺激因子が存在する培養液で培養する第三工程とを含むことを特徴とする樹状細胞の産生方法。
- マクロファージを分化させる能力のあるサイトカイン類が、M−CSFであることを特徴とする請求項1記載の樹状細胞の産生方法。
- コロニー刺激因子が、GM−CSFであることを特徴とする請求項1〜2記載の樹状細胞の産生方法。
- 第三工程で産生した樹状細胞を、更にTNFあるいはインターロイキン類の存在下に培養する第四工程を含むことを特徴とする請求項1〜3記載の樹状細胞の産生方法。
- インターロイキン類が、インターロイキン4であることを特徴とする請求項4記載の樹状細胞の産生方法。
- ES細胞が、樹状細胞において人為的に発現させようとするタンパク質をコードする遺伝子を導入したES細胞であることを特徴とする請求項1〜5記載の樹状細胞の産生方法。
- 遺伝子の導入が、プラスミドで行われることを特徴とする請求項6記載の樹状細胞の産生方法。
- 遺伝子の導入が、電気穿孔法により行われることを特徴とする請求項6〜7記載の樹状細胞の産生方法。
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