JP2004308044A - 立毛人工皮革およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】新規な外観効果を持ったスエード調の立毛人工皮革を提供することであり、具体的には、経年使用に伴なって色調変化を演ずることができる人工皮革を提供すること。
【解決手段】極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理された繊維立毛人工皮革であって、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とする立毛人工皮革。
【選択図】図1
【解決手段】極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理された繊維立毛人工皮革であって、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とする立毛人工皮革。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸されたスエード調の繊維立毛人工皮革において、厚み方向に色調変化があることを特徴とする立毛人工皮革およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、スエード調の立毛人工皮革の染色物は均一に染色されていることを望まれる。すなわち、スエード調の立毛人工皮革は、本来、高級素材として位置づけられるものであり、立毛表面においては幅方向および長手方向に色調変化がなく、厚み方向についても経年使用により立毛が脱落したとしても、製品の色調変化が目立たないものが望まれてきたものである。
【0003】
これを達成するため、例えば均一でかつ堅牢な着色を有するベロア調人工皮革の製造方法が提案されているが(特許文献1)、このような基材改良によるアプローチが数多く提案されている。
【0004】
一方、ポリエステル系繊維における均染性を目的に染色助剤の提案がなされているが(特許文献2)、このような染色助剤についても数々の提案が成されており、数々の均染化の努力が重ねられている。
【0005】
他方これに反して立毛表面における色調変化を求めるケースも提案されてきており(特許文献3)、例えばメランジ調立毛人工皮革などといったような立毛表面における色調変化付与技術を挙げることができる。
【0006】
【特許文献1】特開昭54−147901号公報
【0007】
【特許文献2】特開昭55−1033378号公報
【0008】
【特許文献3】特開昭57−66190号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかるにこれら技術は単に立毛表面という平面的な部分における変化でしかないため、市場はこれに満足せず、新規な外観色調を求める声はいまだに大きいのが現状である。
【0010】
本発明の課題は、従来にない新規な外観色調を有するスエード調の立毛人工皮革とその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するために次の構成を有する。
【0012】
すなわち、極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理された繊維立毛人工皮革であって、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とするものである。
【0013】
また、色調変化を、人工皮革布帛に対して昇華捺染処理を行うことにより付与することを特徴とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
外観色調に対する飽くなき要望に応えるべく鋭意研究した結果、本発明を得るに至った。以下で発明の詳細について説明する。
【0015】
本発明の立毛人工皮革は、極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理され、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とするものである。ここで言う厚み方向に対しての色調変化について以下で説明する。
【0016】
本発明の人工皮革の断面を光学顕微鏡で観察すれば、その異色を提示している部分の厚みを判断することができる。例えば、その異色部分の厚みが立毛表面から0.1〜0.4mmの深さであることにより、望みの経年使用に伴う色調変化を呈する人工皮革とすることができる。この範囲について、異色部分の深度が小さ過ぎる場合は、経年早期に色調変化が現れるため実用上問題が出てくるため望ましくなく、また大きすぎると異色変化が発生しないから望ましくない。
【0017】
しかし、できるだけ少ない深度で表面近傍のみに異色部分を形成すれば、例えばデニムジーンズのような有彩色から無彩色への色調変化を早急に得ることができる。また、抄紙法による人工皮革や低濃度の高分子弾性体しか含浸されていない人工皮革については、毛羽脱落が比較的多いために、より深く異色部分を形成する必要がある。よって色調変化の深度はこの範囲に限定されるものではなく、基材の資質や目的とする使用状態に合わせて設定すべきものである。
【0018】
本発明の人工皮革において、好ましくは、JIS L 1096−E法(マーチンデール法)に準じて、12kPaの押圧荷重にて20000回の摩擦を実施した後、摩擦を実施した表面と、摩擦する前の同一サンプルの表面において比較した場合、両者間で色が相違しているものであることが好ましいものである。その変退色はJIS L 0804−変退色用グレースケールに準じて測定することが可能で、摩擦前後でグレースケールの差が1級以上であることが望みの色調変化を得るために好ましいものである。
【0019】
これについてさらに図1にて説明する。図1は、マーチンデール試験を実施した後の人工皮革サンプルの状態例を示した概観平面モデル図である。このうち1の部分は摩擦を行った部分であり、2の部分はその周辺に位置する摩擦を行っていないブランクの部分である。
【0020】
この2点間の色調変化が1級以上であれば経年変化によって色調変化を与えうる人工皮革であることを確認することができる。例えば、表面が濃色に染められ内層で淡色に変化する場合は、非摩擦部分がグレースケールで4級であるものが、摩擦部分では3級以下となれば良く、表面が淡色に染められ内層で濃色となるものであれば、非摩擦部分がグレースケールで2級であるものが、摩擦部分では3級以上となればよいのである。
【0021】
また、厚み方向に対する色調変化は以下の4つのパターンが存在する。それらについて経年使用に伴う効果と合わせて以下で順に説明する。
【0022】
第1番目には、人工皮革の厚み方向全体に対する染色が施され、さらに表面立毛部側に偏った染色が施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、表面立毛側の染色カラーから厚み方向全体に対する染色カラーへ変化をもたらす。
【0023】
なお、本発明において、「偏った染色がされている」とは、人工皮革の立毛部または非立毛部に対して重点的に施された染色状態であることを示す。その結果、得られた人工皮革の色相・彩度・明度は、厚味方向で非均一なものとなる。
【0024】
第2番目には、人工皮革の厚み方向全体に対する染色が施され、さらに非立毛部側に偏った染色が施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、厚み方向全体染色カラーから非立毛面側に施された染色カラーへ変化をもたらす。
【0025】
これら2つのパターンについては、全体染色カラーと立毛表面もしくは裏面染色カラーとの間で、色相・彩度・明度をよく吟味し、人間が認識可能なカラー選択をする必要がある。またそれにより、目的にかなった経年使用に伴う色相変化を得ることが可能となるのである。
【0026】
第3番目には、人工皮革の表面立毛部側に対する偏った染色のみが施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、表面立毛部の染色カラーから繊維と高分子弾性体による色調へ変化をもたらす。繊維と高分子弾性体が白色を呈していればその色になるというわけである。
【0027】
第4番目には、人工皮革の非立毛側に対する偏った染色のみが施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、繊維と高分子弾性体によっての色調から非立毛側に偏った染色カラーへ変化をもたらす。
【0028】
本発明の立毛人工皮革を構成する極細繊維の繊度は、0.0001dtex以上、0.9dtex以下であることが好ましい。極細短繊維の繊度が0.9dtexより高いと、表面タッチがざらつき、外観が低品位となるため好ましくない。また、繊度が0.0001dtexより低いと、繊維強度が低くなり、毛羽落ちが増加したり、染色における発色性低下の問題もあるため好ましくない。
【0029】
本発明の立毛人工皮革の厚みは0.6mm以上、1.5mm以下であることが望ましい。さらに好適には0.6mm以上、1.2mm以下であることが望ましい。すなわち、これら厚みに対する好ましい範囲は、厚みが薄すぎる場合は厚み方向の色調変化構造を効果的に成すことが難しく、また、厚すぎる場合は立毛裏面からの色調変化が表面側から遠くなりすぎるためやはり効果的でなくなるものであり、本発明の所期の効果をより良好に発揮する上で最適な厚みが存在するものである。
【0030】
本発明の立毛人工皮革は、前述の如くに、表面もしくは裏面に偏った染色が施されていることが実際的で好ましいものである。
【0031】
これを実現するためは捺染処理を利用することが好適であり、例えば、ローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染、真空昇華捺染などを利用することが可能である。この中では昇華捺染、特に真空昇華捺染法を利用することが最も好適である。これは昇華捺染、特に真空昇華捺染を適用することで、染色表面から内部にかけて徐々に染着染料の量が低下していく構造を成すことが可能となり、このため本発明の経年使用に伴う色調変化を演ずるのに最適となるからである。
【0032】
本発明の立毛人工皮革は、厚み方向全体が染色されていても良い。
【0033】
これについては、捺染と浸染を以下のように組み合わせることで実施することができる。すなわち、浸染処理で厚み方向全体に染色した後、表面もしくは裏面に対して捺染処理を施すことで望みの厚み方向に色調変化のある人工皮革を得ることができる。なお、これら捺染と浸染の順序は適宜選択することが可能である。また、厚み方向全体を染色するためには浸染処理が好適であり、ジッガー染色機、液流染色機を用いた液中染色処理や連続染色機を用いたサーモゾル染色処理などを用いることができる。中でも、風合い等の品位面から液流染色機を用いることが望ましい。
【0034】
本発明において、さらに深い色調変化を望むのであれば、その染色回数、特に捺染処理回数を増やすことにより、さまざまな色調を呈する人工皮革を得ることが可能となる。
【0035】
本発明において、染色処理については各段階において還元洗浄処理を行っても良く、適宜染色助剤を用いたり、柔軟処理等の後加工を施すことに制限はない。
【0036】
以上に説明したように、本発明の人工皮革は、例えば以下のような加工法により製造することが可能なものである。
【0037】
すなわち、例えば、ポリスチレンを海成分・ポリエステルを島成分とする複合繊維を海島紡糸法により紡糸し、捲縮付与・カット処理にて短繊維とし、この短繊維をカーディングマシン、クロスラッパーを用いてウェッブシートとした後、ニードルパンチングなどによる繊維絡合処理を行うことによって得られたフェルトに、繊維極細化処理、高分子弾性体付与し、更に厚さを1/2などにするスライスを行い、さらにバフィングすることなどにより人工皮革基布とする。
【0038】
得られた基布について、液流染色機で厚み方向全体に対する染色および還元洗浄の処理を行い、テンターで乾燥セットする。その後、昇華捺染装置で表面立毛部側を捺染することにより、表面立毛部側に偏った染色を施し、液流染色機で還元洗浄、テンターで乾燥セットを施すことにより目的の人工皮革を得ることができる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分としてポリスチレンからなる成分比80/20、島数16の2成分系海島型複合繊維を溶融紡糸法にて作り、延伸、捲縮付与、カット処理を行うことにより、島繊度0.2dtexの海島型複合繊維を得た。この原綿を用い、カーディングおよびクロスラッパーにて繊維積層ウェブとし、2000本/cm2 のニードルパンチを施すことにより目付650g/m2 の短繊維よりなるフェルトを作製した。かくして得られたシートを極細化し、ポリウレタンをシート重量に対し32%付与したものを、スライス後起毛処理し、厚み0.85mmの基材(人工皮革原反布帛)を得た。
【0040】
本基材を用い、液流染色機を使用した常法で、分散染料にて黄色に液中染色した後、その立毛表面にブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。本加工後の厚みは1.0mmであった。また製品立毛表面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、0.4mmまでブルーの染色が確認できた。
【0041】
そのサンプルをJIS−1096−E法に準じて、荷重12kPa、20000回のマーチンデール摩擦処理を施した。その摩擦後の摩擦部分と未摩擦部分の間でJIS L 0804−変退色用グレースケールに準じて変退色を測定すると摩擦前4級/摩擦後3級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は緑味をおび、未摩擦部はブルーであるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例2
実施例1と同様の基材に対し、立毛表面側からブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。その立毛表面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にて観察したところ、0.4mmまでブルーの染色が確認できた。
【0042】
本サンプルに対し実施例1同様の摩擦処理を施し、変退色を測定したところ、摩擦前4級/摩擦後2.5級であり、グレースケールの差が1.5級であった。摩擦部は水色味を帯び、未摩擦部はブルーであるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例3
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分としてポリスチレンからなる成分比55/45、島数32の2成分系海島型複合繊維を溶融紡糸法にて作り、延伸、捲縮付与、カット処理を行うことにより、島繊度0.04dtexの海島型複合繊維を得た。この原綿を用い、カーディングおよびクロスラッパーにて繊維積層ウェブとし、2000本/cm2 のニードルパンチを施すことにより目付600g/m2 の短繊維よりなるフェルトを作製した。かくして得られたシートを極細化し、ポリウレタンをシート重量に対し27%付与したものを、スライス後起毛処理し、厚み0.45mmの基材を得た。本基材を用い、液流染色機を使用した常法で、分散染料にて黄色に液中染色した後、その立毛裏面側からブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。
【0043】
本加工後の製品厚みは0.6mmであった。また製品立毛表面は黄色、裏面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、裏面から0.3mmまでブルー系の染色が確認できた。
本サンプルに対し実施例1と同様の摩擦処理/変退色測定を実施したところ、摩擦前2.5級/摩擦後3.5級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は黄緑味を帯び、表面は黄味であるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例4
実施例3の基材に対し、立毛裏面側からブルーの昇華捺染処理のみを施した。立毛面は白色、裏面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、裏面から0.3mmまでブルーの染色が確認できた。本サンプルに対し実施例1と同様の摩擦処理/変退色測定を実施したところ、摩擦前1級/摩擦後2級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は水色味を帯び、未摩擦部は白色であるという新規な色調感が感じられるものであった。
比較例1
実施例1の基材に対しブルーにて液中染色を施した。染色後は表面も裏面もブルーを呈していた。本サンプルに対し、実施例1と同様の摩擦処理/変退色測定を実施したところ、グレースケールの差はほとんどなく摩擦前後とも青味であり、新味のない品位変化であった。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、経年変化に伴って色調変化するという新規な外観効果を持った立毛人工皮革を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、マーチンデール試験を実施した後の人工皮革サンプルの状態例を示した概観平面モデル図である。
【符号の説明】
1:摩擦した部分
2:摩擦されていない部分(周辺部)
【発明の属する技術分野】
本発明は、極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸されたスエード調の繊維立毛人工皮革において、厚み方向に色調変化があることを特徴とする立毛人工皮革およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、スエード調の立毛人工皮革の染色物は均一に染色されていることを望まれる。すなわち、スエード調の立毛人工皮革は、本来、高級素材として位置づけられるものであり、立毛表面においては幅方向および長手方向に色調変化がなく、厚み方向についても経年使用により立毛が脱落したとしても、製品の色調変化が目立たないものが望まれてきたものである。
【0003】
これを達成するため、例えば均一でかつ堅牢な着色を有するベロア調人工皮革の製造方法が提案されているが(特許文献1)、このような基材改良によるアプローチが数多く提案されている。
【0004】
一方、ポリエステル系繊維における均染性を目的に染色助剤の提案がなされているが(特許文献2)、このような染色助剤についても数々の提案が成されており、数々の均染化の努力が重ねられている。
【0005】
他方これに反して立毛表面における色調変化を求めるケースも提案されてきており(特許文献3)、例えばメランジ調立毛人工皮革などといったような立毛表面における色調変化付与技術を挙げることができる。
【0006】
【特許文献1】特開昭54−147901号公報
【0007】
【特許文献2】特開昭55−1033378号公報
【0008】
【特許文献3】特開昭57−66190号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかるにこれら技術は単に立毛表面という平面的な部分における変化でしかないため、市場はこれに満足せず、新規な外観色調を求める声はいまだに大きいのが現状である。
【0010】
本発明の課題は、従来にない新規な外観色調を有するスエード調の立毛人工皮革とその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するために次の構成を有する。
【0012】
すなわち、極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理された繊維立毛人工皮革であって、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とするものである。
【0013】
また、色調変化を、人工皮革布帛に対して昇華捺染処理を行うことにより付与することを特徴とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
外観色調に対する飽くなき要望に応えるべく鋭意研究した結果、本発明を得るに至った。以下で発明の詳細について説明する。
【0015】
本発明の立毛人工皮革は、極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理され、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とするものである。ここで言う厚み方向に対しての色調変化について以下で説明する。
【0016】
本発明の人工皮革の断面を光学顕微鏡で観察すれば、その異色を提示している部分の厚みを判断することができる。例えば、その異色部分の厚みが立毛表面から0.1〜0.4mmの深さであることにより、望みの経年使用に伴う色調変化を呈する人工皮革とすることができる。この範囲について、異色部分の深度が小さ過ぎる場合は、経年早期に色調変化が現れるため実用上問題が出てくるため望ましくなく、また大きすぎると異色変化が発生しないから望ましくない。
【0017】
しかし、できるだけ少ない深度で表面近傍のみに異色部分を形成すれば、例えばデニムジーンズのような有彩色から無彩色への色調変化を早急に得ることができる。また、抄紙法による人工皮革や低濃度の高分子弾性体しか含浸されていない人工皮革については、毛羽脱落が比較的多いために、より深く異色部分を形成する必要がある。よって色調変化の深度はこの範囲に限定されるものではなく、基材の資質や目的とする使用状態に合わせて設定すべきものである。
【0018】
本発明の人工皮革において、好ましくは、JIS L 1096−E法(マーチンデール法)に準じて、12kPaの押圧荷重にて20000回の摩擦を実施した後、摩擦を実施した表面と、摩擦する前の同一サンプルの表面において比較した場合、両者間で色が相違しているものであることが好ましいものである。その変退色はJIS L 0804−変退色用グレースケールに準じて測定することが可能で、摩擦前後でグレースケールの差が1級以上であることが望みの色調変化を得るために好ましいものである。
【0019】
これについてさらに図1にて説明する。図1は、マーチンデール試験を実施した後の人工皮革サンプルの状態例を示した概観平面モデル図である。このうち1の部分は摩擦を行った部分であり、2の部分はその周辺に位置する摩擦を行っていないブランクの部分である。
【0020】
この2点間の色調変化が1級以上であれば経年変化によって色調変化を与えうる人工皮革であることを確認することができる。例えば、表面が濃色に染められ内層で淡色に変化する場合は、非摩擦部分がグレースケールで4級であるものが、摩擦部分では3級以下となれば良く、表面が淡色に染められ内層で濃色となるものであれば、非摩擦部分がグレースケールで2級であるものが、摩擦部分では3級以上となればよいのである。
【0021】
また、厚み方向に対する色調変化は以下の4つのパターンが存在する。それらについて経年使用に伴う効果と合わせて以下で順に説明する。
【0022】
第1番目には、人工皮革の厚み方向全体に対する染色が施され、さらに表面立毛部側に偏った染色が施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、表面立毛側の染色カラーから厚み方向全体に対する染色カラーへ変化をもたらす。
【0023】
なお、本発明において、「偏った染色がされている」とは、人工皮革の立毛部または非立毛部に対して重点的に施された染色状態であることを示す。その結果、得られた人工皮革の色相・彩度・明度は、厚味方向で非均一なものとなる。
【0024】
第2番目には、人工皮革の厚み方向全体に対する染色が施され、さらに非立毛部側に偏った染色が施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、厚み方向全体染色カラーから非立毛面側に施された染色カラーへ変化をもたらす。
【0025】
これら2つのパターンについては、全体染色カラーと立毛表面もしくは裏面染色カラーとの間で、色相・彩度・明度をよく吟味し、人間が認識可能なカラー選択をする必要がある。またそれにより、目的にかなった経年使用に伴う色相変化を得ることが可能となるのである。
【0026】
第3番目には、人工皮革の表面立毛部側に対する偏った染色のみが施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、表面立毛部の染色カラーから繊維と高分子弾性体による色調へ変化をもたらす。繊維と高分子弾性体が白色を呈していればその色になるというわけである。
【0027】
第4番目には、人工皮革の非立毛側に対する偏った染色のみが施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、繊維と高分子弾性体によっての色調から非立毛側に偏った染色カラーへ変化をもたらす。
【0028】
本発明の立毛人工皮革を構成する極細繊維の繊度は、0.0001dtex以上、0.9dtex以下であることが好ましい。極細短繊維の繊度が0.9dtexより高いと、表面タッチがざらつき、外観が低品位となるため好ましくない。また、繊度が0.0001dtexより低いと、繊維強度が低くなり、毛羽落ちが増加したり、染色における発色性低下の問題もあるため好ましくない。
【0029】
本発明の立毛人工皮革の厚みは0.6mm以上、1.5mm以下であることが望ましい。さらに好適には0.6mm以上、1.2mm以下であることが望ましい。すなわち、これら厚みに対する好ましい範囲は、厚みが薄すぎる場合は厚み方向の色調変化構造を効果的に成すことが難しく、また、厚すぎる場合は立毛裏面からの色調変化が表面側から遠くなりすぎるためやはり効果的でなくなるものであり、本発明の所期の効果をより良好に発揮する上で最適な厚みが存在するものである。
【0030】
本発明の立毛人工皮革は、前述の如くに、表面もしくは裏面に偏った染色が施されていることが実際的で好ましいものである。
【0031】
これを実現するためは捺染処理を利用することが好適であり、例えば、ローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染、真空昇華捺染などを利用することが可能である。この中では昇華捺染、特に真空昇華捺染法を利用することが最も好適である。これは昇華捺染、特に真空昇華捺染を適用することで、染色表面から内部にかけて徐々に染着染料の量が低下していく構造を成すことが可能となり、このため本発明の経年使用に伴う色調変化を演ずるのに最適となるからである。
【0032】
本発明の立毛人工皮革は、厚み方向全体が染色されていても良い。
【0033】
これについては、捺染と浸染を以下のように組み合わせることで実施することができる。すなわち、浸染処理で厚み方向全体に染色した後、表面もしくは裏面に対して捺染処理を施すことで望みの厚み方向に色調変化のある人工皮革を得ることができる。なお、これら捺染と浸染の順序は適宜選択することが可能である。また、厚み方向全体を染色するためには浸染処理が好適であり、ジッガー染色機、液流染色機を用いた液中染色処理や連続染色機を用いたサーモゾル染色処理などを用いることができる。中でも、風合い等の品位面から液流染色機を用いることが望ましい。
【0034】
本発明において、さらに深い色調変化を望むのであれば、その染色回数、特に捺染処理回数を増やすことにより、さまざまな色調を呈する人工皮革を得ることが可能となる。
【0035】
本発明において、染色処理については各段階において還元洗浄処理を行っても良く、適宜染色助剤を用いたり、柔軟処理等の後加工を施すことに制限はない。
【0036】
以上に説明したように、本発明の人工皮革は、例えば以下のような加工法により製造することが可能なものである。
【0037】
すなわち、例えば、ポリスチレンを海成分・ポリエステルを島成分とする複合繊維を海島紡糸法により紡糸し、捲縮付与・カット処理にて短繊維とし、この短繊維をカーディングマシン、クロスラッパーを用いてウェッブシートとした後、ニードルパンチングなどによる繊維絡合処理を行うことによって得られたフェルトに、繊維極細化処理、高分子弾性体付与し、更に厚さを1/2などにするスライスを行い、さらにバフィングすることなどにより人工皮革基布とする。
【0038】
得られた基布について、液流染色機で厚み方向全体に対する染色および還元洗浄の処理を行い、テンターで乾燥セットする。その後、昇華捺染装置で表面立毛部側を捺染することにより、表面立毛部側に偏った染色を施し、液流染色機で還元洗浄、テンターで乾燥セットを施すことにより目的の人工皮革を得ることができる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分としてポリスチレンからなる成分比80/20、島数16の2成分系海島型複合繊維を溶融紡糸法にて作り、延伸、捲縮付与、カット処理を行うことにより、島繊度0.2dtexの海島型複合繊維を得た。この原綿を用い、カーディングおよびクロスラッパーにて繊維積層ウェブとし、2000本/cm2 のニードルパンチを施すことにより目付650g/m2 の短繊維よりなるフェルトを作製した。かくして得られたシートを極細化し、ポリウレタンをシート重量に対し32%付与したものを、スライス後起毛処理し、厚み0.85mmの基材(人工皮革原反布帛)を得た。
【0040】
本基材を用い、液流染色機を使用した常法で、分散染料にて黄色に液中染色した後、その立毛表面にブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。本加工後の厚みは1.0mmであった。また製品立毛表面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、0.4mmまでブルーの染色が確認できた。
【0041】
そのサンプルをJIS−1096−E法に準じて、荷重12kPa、20000回のマーチンデール摩擦処理を施した。その摩擦後の摩擦部分と未摩擦部分の間でJIS L 0804−変退色用グレースケールに準じて変退色を測定すると摩擦前4級/摩擦後3級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は緑味をおび、未摩擦部はブルーであるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例2
実施例1と同様の基材に対し、立毛表面側からブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。その立毛表面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にて観察したところ、0.4mmまでブルーの染色が確認できた。
【0042】
本サンプルに対し実施例1同様の摩擦処理を施し、変退色を測定したところ、摩擦前4級/摩擦後2.5級であり、グレースケールの差が1.5級であった。摩擦部は水色味を帯び、未摩擦部はブルーであるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例3
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分としてポリスチレンからなる成分比55/45、島数32の2成分系海島型複合繊維を溶融紡糸法にて作り、延伸、捲縮付与、カット処理を行うことにより、島繊度0.04dtexの海島型複合繊維を得た。この原綿を用い、カーディングおよびクロスラッパーにて繊維積層ウェブとし、2000本/cm2 のニードルパンチを施すことにより目付600g/m2 の短繊維よりなるフェルトを作製した。かくして得られたシートを極細化し、ポリウレタンをシート重量に対し27%付与したものを、スライス後起毛処理し、厚み0.45mmの基材を得た。本基材を用い、液流染色機を使用した常法で、分散染料にて黄色に液中染色した後、その立毛裏面側からブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。
【0043】
本加工後の製品厚みは0.6mmであった。また製品立毛表面は黄色、裏面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、裏面から0.3mmまでブルー系の染色が確認できた。
本サンプルに対し実施例1と同様の摩擦処理/変退色測定を実施したところ、摩擦前2.5級/摩擦後3.5級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は黄緑味を帯び、表面は黄味であるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例4
実施例3の基材に対し、立毛裏面側からブルーの昇華捺染処理のみを施した。立毛面は白色、裏面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、裏面から0.3mmまでブルーの染色が確認できた。本サンプルに対し実施例1と同様の摩擦処理/変退色測定を実施したところ、摩擦前1級/摩擦後2級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は水色味を帯び、未摩擦部は白色であるという新規な色調感が感じられるものであった。
比較例1
実施例1の基材に対しブルーにて液中染色を施した。染色後は表面も裏面もブルーを呈していた。本サンプルに対し、実施例1と同様の摩擦処理/変退色測定を実施したところ、グレースケールの差はほとんどなく摩擦前後とも青味であり、新味のない品位変化であった。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、経年変化に伴って色調変化するという新規な外観効果を持った立毛人工皮革を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、マーチンデール試験を実施した後の人工皮革サンプルの状態例を示した概観平面モデル図である。
【符号の説明】
1:摩擦した部分
2:摩擦されていない部分(周辺部)
Claims (10)
- 極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理された繊維立毛人工皮革であって、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とする立毛人工皮革。
- 表面立毛部側に偏った染色が施されていることを特徴とする請求項1記載の立毛人工皮革。
- 非立毛側に偏った染色が施されていることを特徴とする請求項1記載の立毛人工皮革。
- 厚み方向全体が染色されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の立毛人工皮革。
- 極細繊維の繊度が0.0001dtex以上、0.9dtex以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の立毛人工皮革。
- 繊維立毛人工皮革の厚みが0.4mm以上、1.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の立毛人工皮革。
- JIS L 1096−E法(マーチンデール法)に準じて、12kPaの押圧荷重にて20000回の摩擦を実施した後、摩擦を実施した部分と、摩擦する前の部分の変退色をJIS L 0804−変退色用グレースケールに準じて測定した場合、摩擦前後で変退色用グレースケールの差が1級以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の立毛人工皮革。
- 人工皮革布帛に対して、昇華捺染処理を施すことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の立毛人工皮革を製造する方法。
- 人工皮革布帛を浸染処理した後、更に昇華捺染処理を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の立毛人工皮革を製造する方法。
- 人工皮革布帛を昇華捺染処理した後、更に浸染処理を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の立毛人工皮革を製造する方法。
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2003
- 2003-04-04 JP JP2003101215A patent/JP2004308044A/ja active Pending
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