JP2004292958A - ポリベンザゾール繊維 - Google Patents

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Hirotaka Murase
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Toru Kitagawa
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Abstract

【課題】高温でかつ高湿度下に長時間暴露されることがあっても強度低下が小さい、耐熱性でかつ高耐湿性のポリベンザゾール繊維を提供する。
【解決手段】繊維断面の中心から糸表面までの距離をrとし、中心からr/2の距離までで囲まれる部分における単位断面積当たりのリン量をWP1、r/2の距離からrの距離までで囲まれる部分における単位断面積当たりのリン量をWP2としたときに、WP1/WP2≦1であることを特徴とするポリベンザゾール繊維であり、該ポリベンザゾール繊維は、熱分解温度が200℃以上の高耐熱性でかつ鉱酸に溶解する有機化合物が繊維中に含有されてなることが好ましい。
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特性が改善されたポリベンザゾール繊維に関し、さらに詳しくは高温かつ高湿度下に暴露されたときに優れた耐久性を有するポリベンザゾール繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高強度、高耐熱性を有する繊維として、ポリベンゾオキサゾール若しくはポリベンゾチアゾールまたはこれらのコポリマーから構成されるポリベンザゾール繊維が知られている。
【0003】
通常、ポリベンザゾール繊維は、上記ポリマーやコポリマーと酸溶媒を含むドープを紡糸口金より押し出した後、凝固性流体(水、または水と無機酸の混合液)中に浸漬して凝固させ、さらに水洗浴中で徹底的に洗浄し大部分の溶媒を除去した後、無機塩基の水溶液槽を通り、糸中に抽出されずに残っている酸を中和した後、乾燥することによって得られる。通常、酸溶媒としてリン酸が、無機塩基として水酸化ナトリウムが、それぞれ使用される(例えば、特許文献1など参照)。
この様にして製造されるポリベンザゾール繊維は上記に記載した通り、強度などの力学特性に優れ、かつ耐熱性も高いため、種々の用途に使用されているが、近年、さらに性能の向上が望まれており、特に、高温かつ高湿度下に長時間暴露された場合であっても強度を充分に維持することができるポリベンザゾール繊維が強く望まれている。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第5,034,250号明細書(実施例など)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温でかつ高湿度下に長時間暴露されることがあっても強度低下が小さい、すなわち、高温高湿下での物性低下が小さいポリベンザゾール繊維を提供しようとすることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記に示す通常の方法で製造したポリベンザゾール繊維では、糸中に抽出されずに残った酸は、糸断面内における分布が糸断面の中心近傍に局在化してしまうのに対して、熱分解温度が200℃以上の高耐熱性でかつ鉱酸に溶解する有機化合物をポリベンザゾール繊維中に含ませること、あるいは、分子構造中に−N=及び/又はNH−基を有する有機化合物をポリベンザゾール繊維中に含ませることにより、糸中に抽出されずに残った酸は、糸断面内における分布が均一分布になるかあるいは中心近傍に局在化せずに糸表面近傍に局在化することを見出し、その結果、高温でかつ高湿度下に長時間暴露された場合であっても強度低下が起こりにくくなることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0007】
すなわち本発明は、下記の構成からなる。
1.繊維断面の中心から糸表面までの距離をrとし、中心からr/2の距離までで囲まれる部分における単位断面積当たりのリン量をWP1、r/2の距離からrの距離までで囲まれる部分における単位断面積当たりのリン量をWP2としたときに、WP1/WP2≦1であることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
2.熱分解温度が200℃以上の高耐熱性でかつ鉱酸に溶解する有機化合物を繊維中に含有されてなることを特徴とする上記1記載のポリベンザゾール繊維。
3.繊維中に含有される有機化合物が、分子構造中に−N=及び/又はNH−基を有することを特徴とする上記2記載のポリベンザゾール繊維。
4.繊維中に含有される有機化合物が、ペリノン及び/又はペリレン系有機顔料であることを特徴とする上記2記載のポリベンザゾール繊維。
5.繊維中に含有される有機化合物が、フタロシアニン系有機顔料であることを特徴とする上記2記載のポリベンザゾール繊維。
6.繊維中に含有される有機化合物が、キナクリドン系有機顔料であることを特徴とする上記2記載のポリベンザゾール繊維。
7.繊維の破断強度が1GPa以上であることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に係るポリベンザゾール繊維とは、ポリベンザゾールポリマーよりなる繊維をいい、ポリベンザゾール(以下、PBZともいう)とは、ポリベンゾオキサゾール(以下、PBOともいう)、ポリベンゾチアゾール(以下、PBTともいう)、またはポリベンズイミダゾール(以下、PBIともいう)から選ばれる1種以上のポリマーをいう。本発明においてPBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいい、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要は無い。さらにPBOは、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)や芳香族基に結合された複数のオキサゾール環の単位からなるポリマーが広く含まれる。同様の考え方は、PBTやPBIにも適用される。また、PBO、PBT及び、またはPBIの混合物、PBO、PBT及びPBIのブロックもしくはランダムコポリマー等のような二つまたはそれ以上のポリベンザゾールポリマーの混合物、コポリマー、ブロックポリマーも含まれる。
【0009】
PBZポリマーに含まれる構造単位としては、好ましくは鉱酸中、特定濃度で液晶を形成するライオトロピック液晶ポリマーから選択される。当該ポリマーは構造式(a)〜(f)に記載されているモノマー単位から成る。
【0010】
【化1】
Figure 2004292958
【0011】
ポリベンザゾール繊維は、PBZポリマーを含有するドープより製造されるが、当該ドープを調製するための好適な溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解しうる非酸化性の酸が挙げられる。好適な非酸化性の酸の例としては、ポリリン酸、メタンスルホン酸および高濃度の硫酸あるいはそれらの混合物が挙げられる。中でもポリリン酸及びメタンスルホン酸が好ましく、特に好ましくはポリリン酸である。
【0012】
ドープ中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7質量%であり、より好ましくは少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも14質量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を越えることはない。
【0013】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書(1985.8.6)、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書(1988.9.22)、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書(1989.7.11)またはGregoryらの米国特許第5,089,591号明細書(1992.2.18)に記載されている。要約すると、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0014】
このようにして得られるドープを紡糸口金から押し出し、空間で引き伸ばしてフィラメントに形成される。好適な製造法は先に述べた参考文献や米国特許第5,034,250号明細書に記載されている。紡糸口金を出たドープは紡糸口金と洗浄バス間の空間に入る。この空間は一般にエアギャップと呼ばれているが、空気である必要はない。この空間は、溶媒を除去すること無く、かつ、ドープと反応しない溶媒で満たされている必要があり、例えば空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等が挙げられる。
【0015】
紡糸後のフィラメントは、過度の延伸を避けるために洗浄され溶媒の一部が除去される。そして、更に洗浄され、適宜水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム等の無機塩基で中和され、ほとんどの溶媒は除去される。ここでいう洗浄とは、ポリベンザゾールポリマーを溶解している鉱酸に対し相溶性であり、ポリベンザゾールポリマーに対して溶媒とならない液体に繊維またはフィラメントを接触させ、ドープから酸溶媒を除去することである。好適な洗浄液体としては、水や水と酸溶媒との混合物がある。フィラメントは、好ましくは残留鉱酸濃度が8000ppm以下、更に好ましくは5000ppm以下に洗浄される。その後、フィラメントは、乾燥、熱処理、巻き取り等が必要に応じて行われる。
【0016】
本発明における熱分解温度が200℃以上の高耐熱性を有し鉱酸に溶解する有機化合物としては、重合時あるいはポリマードープ中に添加して紡糸後も繊維中に残るものであればよく、身近な具体例としては、有機顔料が挙げられる。
前記の耐熱性で、鉱酸に溶解する有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、染色レーキ、イソインドリノン類、イソインドリン類、ジオキサジン類、ペリノン及び/又はペリレン類、フタロシアニン類、キナクリドン類等が挙げられる。その中でも分子内に−N=及び/又はNH−基を有するものが好ましく、より好ましくはペリノン及び/又はペリレン類、フタロシアニン類、キナクリドン類である。
【0017】
ペリノン及び/又はペリレン類としては、ビスベンズイミダゾ[2,1−b:2’、1’−i]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリンー8,17−ジオン、ビスベンズイミダゾ[2,1−b:1’、2’−j]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリンー6,9−ジオン、2,9−ビス(p−メトキシベンジル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(p−エトキシベンジル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(3,5−ジメチルベンジル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(p−メトキシフェニル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(p−エトキシフェニル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(3,5−ジメチルフェニル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ジメチルアントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(4−フェニルアゾフェニル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、8,16−ピランスレンジオン等があげられる。
これらのペリノン類の1つまたは2つ以上の化合物の併用もあり得る。添加量はポリベンザゾールに対して0.01%〜20%、好ましくは0.1%〜10%である。
【0018】
フタロシアニン類としては、フタロシアニン骨格を有していればその中心に配位する金属の有無および原子種は問わない。これらの化合物の具体例としては、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32鉄、29H,31H−フタロシアニネート−N29,N30,N31,N32コバルト、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅、オキソ(29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32),(SP−5−12)チタニウム等があげられる。また、これらのフタロシアニン骨格が1個以上のハロゲン原子、メチル基、メトキシ基等の置換基を有していてもよい。
これらのフタロシアニン類の1つまたは2つ以上の化合物の併用もあり得る。添加量はポリベンザゾールに対して0.01%〜20%、好ましくは0.1%〜10%である。
【0019】
キナクリドン類としては、5,12−ジヒドロー2,9−ジメチルキノ[2,3−b]アクリジンー7,14−ジオン、5,12−ジヒドロキノ[2,3−b]アクリジンー7,14−ジオン、5,12−ジヒドロー2,9−ジクロロキノ[2,3−b]アクリジンー7,14−ジオン、5,12−ジヒドロー2,9−ジブロモキノ[2,3−b]アクリジンー7,14−ジオン等があげられる。
これらのキナクリドン類の1つまたは2つ以上の化合物の併用もあり得る。添加量はポリベンザゾールに対して0.01%〜20%、好ましくは0.1%〜10%である。
【0020】
また、ペリレン類、ペリノン類、フタロシアニン類およびキナクリドン類の2つまたは3つ以上の化合物の併用も可能である。
勿論本発明技術内容はこれらに限定されるものではない。
【0021】
これらの有機化合物を糸中に含有させる方法としては、特に限定されず、ポリベンザゾールの重合のいずれの段階または重合終了時のポリマードープの段階で含有させることができる。例えば、有機顔料をポリベンザゾールの原料を仕込む際に同時に仕込む方法、段階的または任意の昇温速度で温度を上げて反応させている任意の時点で添加する方法、また、重合反応終了時に反応系中に添加し、撹拌混合する方法が好ましい。
【0022】
本発明における繊維断面とは、繊維を繊維軸方向すなわち繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面をいう。繊維断面の中心から糸表面までの距離rは、繊維断面が円形の場合はその半径をいい、繊維断面が円形でない場合は繊維断面の中心と糸表面上の点を結んだ距離をいう。
繊維断面の中心からr/2の距離までで囲まれる部分とは、繊維断面の中心と糸表面上の点を結んだ距離の中間部分を結んで作られた曲線の内側をいい、r/2の距離からrの距離までで囲まれる部分とは、繊維断面の中心と糸表面上の点を結んだ距離の中間部分を結んで作られた曲線の内側を除く部分をいう。
【0023】
(繊維断面内におけるリンの分布の評価方法)
繊維断面内におけるリンの分布は、日本電子製電子プローブマイクロアナライザJXA−8900RLを用いて、加速電圧15kV、照射電流20nAの条件で、繊維断面を少なくとも5000以上の領域に面積が等しくなるように等分割して各領域のX線強度を測定して評価した。具体的には測定倍率を3000倍とし、単糸断面を含む領域を200×200ピクセルで分割して各ピクセルのX線強度を測定した。X線収集時間は60msec/ピクセルとした。なお、分光結晶はTAPを用い、該結晶におけるリン、ナトリウムの発生Kα線の理論的な検出位置に分光結晶の位置を固定して測定を行った。
測定用試料は、単糸を互いが接触しない状態で、ルベアック812(ナカライテスク製)/ルベアックNMA(ナカライテスク製)/DMP30(TAAB製)=100/89/3の体積比で混合した樹脂で包埋し、60℃で20時間硬化させて試料ブロックを作製した。ウルトラミクロトーム(LKB製2088ULTROTOME V)を用いて繊維軸方向に垂直で平滑な断面が露出するようにブロックの先端をダイヤモンドナイフ(住友電工製SK2045)で切削した。測定面にカーボン蒸着膜を約200〜300Å厚で付与し、測定用試料とした。
【0024】
繊維断面の中心からr/2の距離までで囲まれる部分における単位断面積当たりのリン量WP1、r/2の距離からrの距離までで囲まれる部分における単位断面積当たりのリン量WP2は、それぞれ下式を用いて計算する。
WP1=TP1/S1
WP2=TP2/S2
TP1、TP2はそれぞれ、繊維断面の中心からr/2の距離までで囲まれる部分における上記に述べた方法で繊維断面内のリンの分布を評価して得られる各ピクセルのX線強度の総和、r/2の距離からrの距離までで囲まれる部分における上記に述べた方法で繊維断面内のリンの分布を評価して得られる各ピクセルのX線強度の総和、である。また、S1、S2はそれぞれ、繊維断面の中心からr/2の距離までで囲まれる部分のピクセル数、r/2の距離からrの距離までで囲まれる部分のピクセル数である。
【0025】
本発明に係るポリベンザゾール繊維の第一の特徴は、少なくとも紡糸後の糸中に前記の有機化合物を含んでいることであり、これにより、糸中で抽出されずに残っている酸の分布は、糸断面内で均一分布になるかあるいは中心近傍に局在化することなく糸表面近傍に局在化することになる。これは、PBZのミクロフィブリル間に存在する有機化合物が、糸中に抽出されずに残っている酸を糸中で容易に移動させることができる経路を作り出すためと考えられる。即ち、製造工程において、フィラメントから溶媒を抽出する段階、あるいは、フィラメントを乾燥する段階で、糸中に抽出されずに残っている酸が糸内で容易に移動することが可能となり、その結果、糸の中心近傍に取り残されることなく糸断面内で均一分布あるいは糸表面近傍に局在化することが可能になるものと考えられる。
本発明でいう有機化合物は、前記のごとく熱分解温度が200℃以上であり、鉱酸に溶解するものであり、好ましくはその分子構造中に−N=及び/又はNH−を有する有機顔料である。より好ましくは、ペリノン及び/又はペリレン類、フタロシアニン類またはキナクリドン類の有機顔料である。また、鉱酸とは、ポリベンザゾールの溶媒となる鉱酸であり、好ましくはメタンスルフォン酸またはポリリン酸である。本発明でいう有機化合物は、ポリベンザゾールポリマーの紡糸溶液(ポリマードープ)中では溶解しているが、紡出凝固したフィラメント中では析出することによって、ポリベンザゾール繊維中に含有することになる。
【0026】
本発明に係るポリベンザゾール繊維の第二の特徴は、高温かつ高湿度下に長時間暴露された場合であっても強度低下が起こりにくいことである。糸中に前記有機顔料などを含んでいない場合は、高温かつ高湿度下に暴露されてフィラメントが吸湿したとき、糸中に抽出されずに残っている酸が糸内で容易に動けないため、局所的に、特に糸断面の中心近傍に高濃度の酸の溶液が存在することになり、その結果、PBZ分子の酸による加水分解が加速されるのに対して、糸中に有機顔料などを含んでいる場合は、上記に示したように、PBZのミクロフィブリル間に存在する有機顔料などが、糸中に抽出されずに残っている酸を糸内で容易に移動させることができる経路を作り出す働きをするため、高温かつ高湿度下に暴露されてフィラメントが吸湿したとき、糸中に抽出されずに残っている酸が即座に糸中で非局在化し、その結果、PBZ分子が局所的に酸による加水分解を受けにくくなり、高温かつ高湿度下に長時間暴露された場合の強度低下を抑制することができると考えられる。
【0027】
本発明に係るポリベンザゾール繊維の第三の特徴は、糸中で有機顔料などが欠点となって繊維の初期強度が低下することも無く、良好に保持されることである。また、紡糸時の可紡性も良好であり、糸切れの無い良好な操業性が維持される。これは、添加した顔料などが、ポリマードープ中で均一に溶解しているためと推測される。前記有機化合物含有量が20質量%を超えると、フィラメント繊度の増加で初期の糸強度が低くなるため好ましくない。得られた繊維の破断強度は1GPa以上、好ましくは3GPa以上、更に好ましくは5GPa以上といった優れた強度のものとなる。
【0028】
【実施例】
以下に実例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0029】
(高温かつ高湿度下における強度低下の評価方法)
高温かつ高湿度下における強度低下の評価は、直径10cmの樹脂ボビンに繊維を巻き付けた状態で恒温恒湿器中、高温かつ高湿度保管処理した後、サンプルを取り出し、室温下で引張試験を実施、高温かつ高湿度保管処理前の強度に対する処理後の強度保持率で評価を行った。なお、高温高湿度下での保管試験にはヤマト科学社製Humidic Chamber 1G43Mを使用し、恒温恒湿器中に光が入らないよう完全に遮光して、80℃、相対湿度80%の条件下にて1000時間処理を実施した。
【0030】
強度保持率は、高温高湿度保管前後の引張強度を測定し、高温高湿度保管試験後の引張強度を高温高湿度保管試験前の引張強度で割って100を掛けて求めた。なお、引張強度の測定は、JIS−L1013に準じて引張試験機(島津製作所製、型式AG−50KNG)にて測定した。
【0031】
(フィラメント中の残留リン酸濃度、ナトリウム濃度の評価方法)
フィラメント中の残留リン濃度は、試料をペレット状に固めて蛍光X線測定装置(フィリップスPW1404/DY685)を用いて測定し、ナトリウム濃度は中性子活性化分析法で測定した。
【0032】
紡糸:フィラメント径が11.5μm、1.5デニールになるような条件で紡糸を行った。紡糸温度175℃で孔径0.18mm、孔数166のノズルからフィラメントを適当な位置で収束させてマルチフィラメントにするように配置された第1洗浄浴中に押し出した。紡糸ノズルと第1洗浄浴の間のエアギャップには、より均一な温度でフィラメントが引き伸ばされるようにクエンチチャンバーを設置した。エアギャップ長は20cmとした。60℃の空気中にフィラメントを紡出した。テークアップ速度を200m/分とし、紡糸延伸倍率を40とした。ポリベンザゾール繊維中の残留リン濃度が5000ppm以下になるまで水洗した。さらに、1%NaOH水溶液で5秒間中和した後20秒間水洗し、250℃で60秒間乾燥し、紡績用の油剤を付与した後、糸を糸管に巻き取った。
【0033】
(実施例1)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩334.5g,テレフタル酸260.8g,122%ポリリン酸2078.2gを60℃で30分間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で20時間、150℃で5時間、170℃で20時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が29dl/gのポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)ドープ2.0kgにビスベンズイミダゾ[2,1−b:2’、1’−i]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリン−8,17−ジオン15.2gを添加して撹拌混合した。その後、前述の方法により紡糸した。上記に述べた方法で得られた糸の繊維断面内におけるリンの分布の評価を行った。得られた糸の物性とリンの分布の評価結果を表1に示す。
【0034】
(実施例2)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩334.5g,テレフタル酸260.8g,122%ポリリン酸2078.2gを60℃で30分間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で20時間、150℃で5時間、170℃で20時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が30dl/gのポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)ドープ2.0kgに29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅15.2gを添加して撹拌混合した。その後、前述の方法により紡糸した。上記に述べた方法で得られた糸の繊維断面内におけるリンの分布の評価を行った。得られた糸の物性とリンの分布の評価結果を表1に示す。
【0035】
(実施例3)
窒素気流下、122%ポリリン酸2165.5g中に4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩334.5g,テレフタル酸252.7gを添加して60℃で30分間撹拌した後、ゆっくりと昇温して120℃で3.5時間、135℃で20時間、150℃で5時間反応せしめた。さらにこのオリゴマードープにテレフタル酸5.6gと29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅19.2gを116%ポリリン酸74.4gに添加した分散液を加えた後、170℃で5時間、200℃で10時間反応せしめた。30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が26dl/gのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールのポリマードープを前述の方法により紡糸した。上記に述べた方法で得られた糸の繊維断面内におけるリンの分布の評価を行った。得られた糸の物性とリンの分布の評価結果を表1に示す。
【0036】
(実施例4)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩334.5g,テレフタル酸260.8g,5,12−ジヒドロ−2,9−ジメチルキノ[2,3−b]アクリジン−7,14−ジオン19.4g,122%ポリリン酸2078.2gを60℃で30分間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で20時間、150℃で5時間、170℃で20時間反応せしめた。30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が24dl/gのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールのポリマードープを前述の方法により紡糸した。上記に述べた方法で得られた糸の繊維断面内におけるリンの分布の評価を行った。得られた糸の物性とリンの分布の評価結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩334.5g,テレフタル酸260.8g,122%ポリリン酸2078.2gを60℃で30分間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で20時間、150℃で5時間、170℃で20時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が30dl/gのポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)ドープ2.0kgを用いて、前述の方法により紡糸した。上記に述べた方法で得られた糸の繊維断面内におけるリンの分布の評価を行った。得られた糸の物性とリンの分布の評価結果を表1に示す。
【0038】
以上の結果を表1にまとめる。表1より明らかなように、比較例と比べ、実施例のポリベンザゾール繊維は、高温高湿度下での強度低下が小さく、高温でかつ高湿度下に長時間暴露された場合であっても強度を充分に維持することができることがわかる。
【0039】
【表1】
Figure 2004292958
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、高温高湿度下での強度低下が小さく、高耐熱、高耐湿性のポリベンザゾール繊維を提供することが可能である。このため、産業用資材としての実用性がより高くなり、利用分野の拡大効果が絶大である。即ち、ケーブル、電線や光ファイバー等のテンションメンバー、ロープ、等の緊張材、耐弾材等の耐衝撃用部材、手袋等の耐切創用部材、ベルト、タイヤ、靴底、ロープ、ホース、等のゴム補強材など、広範にわたる用途に使用可能である。

Claims (7)

  1. 繊維断面の中心から糸表面までの距離をrとし、中心からr/2の距離までで囲まれる部分における単位断面積当たりのリン量をWP1、r/2の距離からrの距離までで囲まれる部分における単位断面積当たりのリン量をWP2としたときに、WP1/WP2≦1であることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
  2. 熱分解温度が200℃以上の高耐熱性でかつ鉱酸に溶解する有機化合物が繊維中に含有されてなることを特徴とする請求項1記載のポリベンザゾール繊維。
  3. 繊維中に含有される有機化合物が、分子構造中に−N=及び/又はNH−基を有することを特徴とする請求項2記載のポリベンザゾール繊維。
  4. 繊維中に含有される有機化合物が、ペリノン及び/又はペリレン系有機顔料であることを特徴とする請求項2記載のポリベンザゾール繊維。
  5. 繊維中に含有される有機化合物が、フタロシアニン系有機顔料であることを特徴とする請求項2記載のポリベンザゾール繊維。
  6. 繊維中に含有される有機化合物が、キナクリドン系有機顔料であることを特徴とする請求項2記載のポリベンザゾール繊維。
  7. 繊維の破断強度が1GPa以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維。
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