JP2004277456A - フタロシアニン化合物、インク、インクジェット記録方法および着色画像のオゾンガス耐性改良方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】光、熱、湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有する新規なフタロシアニン化合物、該化合物を用いたインク、特に光及び環境中のオゾンガスに対して堅牢性の高い画像を形成することができるインク、インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法及び形成画像保存性改良方法を提供すること。
【解決手段】スルホニル基またはスルフィニル基を有し、イオン性親水性基及びヘテロ環基を少なくとも1つ有するフタロシアニン化合物。
該フタロシアニン化合物を含むインク、及び該インクによる画像形成、インクジェット記録方法。
【選択図】 なし
【解決手段】スルホニル基またはスルフィニル基を有し、イオン性親水性基及びヘテロ環基を少なくとも1つ有するフタロシアニン化合物。
該フタロシアニン化合物を含むインク、及び該インクによる画像形成、インクジェット記録方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶解性が改良され、堅牢性に優れた新規なフタロシアニン化合物及び該フタロシアニン化合物を含むインク、特にインクジェット記録用インク、インクジェット記録方法、並びに形成した着色画像のオゾンガス耐性改良方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、画像記録材料としては、特にカラー画像を形成するための材料が主流であり、具体的には、インクジェット方式の記録材料、感熱転写方式の記録材料、電子写真方式の記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等が盛んに利用されている。また、撮影機器ではCCDなどの撮像素子において、ディスプレーではLCDやPDPにおいて、カラー画像を記録・再現するためにカラーフィルターが使用されている。
これらのカラー画像記録材料やカラーフィルターでは、フルカラー画像を再現あるいは記録するために、いわゆる加法混色法や減法混色法の3原色の色素(染料や顔料)が使用されているが、好ましい色再現域を実現出来る吸収特性を有し、且つさまざまな使用条件に耐えうる堅牢な色素がないのが実状であり、改善が強く望まれている。
【0003】
インクジェット記録方法は、材料費が安価であること、高速記録が可能なこと、記録時の騒音が少ないこと、更にカラー記録が容易であることから、急速に普及し、更に発展しつつある。
インクジェット記録方法には、連続的に液滴を飛翔させるコンティニュアス方式と画像情報信号に応じて液滴を飛翔させるオンデマンド方式が有り、その吐出方式にはピエゾ素子により圧力を加えて液滴を吐出させる方式、熱によりインク中に気泡を発生させて液滴を吐出させる方式、超音波を用いた方式、あるいは静電力により液滴を吸引吐出させる方式がある。
また、インクジェット記録用インクとしては、水性インク、油性インク、あるいは固体(溶融型)インクが用いられる。
【0004】
このようなインクジェット記録用インクに用いられる色素に対しては、溶剤に対する溶解性あるいは分散性が良好なこと、高濃度記録が可能であること、色相が良好であること、光、熱、環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)に対して堅牢であること、水や薬品に対する堅牢性に優れていること、受像材料に対して定着性が良く滲みにくいこと、インクとしての保存性に優れていること、毒性がないこと、純度が高いこと、更には、安価に入手できることが要求されている。
【0005】
しかしながら、これらの要求を高いレベルで満たす色素を捜し求めることは、極めて難しい。特に、良好なシアン色相を有し、光,湿度,熱に対して堅牢であること、中でも多孔質の白色無機顔料粒子を含有するインク受容層を有する受像材料上に印字する際には、環境中のオゾンなどの酸化性ガスに対して堅牢であることが強く望まれている。
【0006】
このようなインクジェット記録用インクに用いられるシアンの色素骨格としてはフタロシアニン系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系などがあり、フタロシアニン系が代表的である。
最も広範囲に報告され、利用されている代表的な色素であるフタロシアニン染料は、以下の▲1▼〜▲6▼で分類されるフタロシアニン化合物である。
【0007】
▲1▼Direct Blue 86又はDirect Blue 87等の銅フタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO3Na)m:m=1〜4の混合物〕。なお、上式中及び以後本明細書中に用いる「Pc」は、フタロシアニン骨格を意味する。
【0008】
▲2▼Direct Blue 199および特開昭62−190273号、特開昭63−28690号、特開昭63−306075号、特開昭63−306076号、特開平2−131983号、特開平3−122171号、特開平3−200883号、特開平7−138511号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO3Na)m(SO2NH2)n:m+n=1〜4の混合物〕。
【0009】
▲3▼特開昭63−210175号、特開昭63−37176号、特開昭63−304071号、特開平5−171085号、WO00/08102号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(CO2H)m(CONR1R2)n:m+n=0〜4の数〕。
【0010】
▲4▼特開昭59−30874号、特開平1−126381号、特開平1−190770号、特開平6−16982号、特開平7−82499号、特開平8−34942号、特開平8−60053号、特開平8−113745号、特開平8−310116号、特開平10−140063号、特開平10−298463号、特開平11−29729号、特開平11−320921号等の各公報、EP173476A2号、EP468649A1号、EP559309A2号、EP596383A1号、DE3411476号、US6086955号、WO99/13009号、GB2341868A号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO3H)m(SO2NR1R2)n:m+n=0〜4の数、且つ、m≠0〕。
【0011】
▲5▼特開昭60−208365号、特開昭61−2772号、特開平6−57653号、特開平8−60052号、特開平8−295819号、特開平10−130517号、特開平11−72614号、特表平11−515047号、特表平11−515048号等の各公報、EP196901A2号、WO95/29208号、WO98/49239号、WO98/49240号、WO99/50363号、WO99/67334号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO3H)l(SO2NH2)m(SO2NR1R2)n:l+m+n=0〜4の数〕。
【0012】
▲6▼特開昭59−22967号、特開昭61−185576号、特開平1−95093号、特開平3−195783号、EP649881A1号、WO00/08101号、WO00/08103号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO2NR1R2)n:n=1〜5の数〕。
【0013】
現在一般に広く用いられているDirect Blue 87又はDirectBlue 199に代表され、また前記公報等にも記載があるフタロシアニン染料は、マゼンタやイエローに比べ耐光性に優れるという特徴があるものの、染料の溶解性に起因する問題が生じやすく、例えば、製造時に溶解不良が発生して製造トラブルとなったり、製品保存時や使用時に不溶物が析出して問題を起こすことも多い。特に先に述べたインクジェット記録においては、染料の析出により印字ヘッドの目詰まりや吐出不良を引き起こし、印字画像の著しい劣化を引き起こすなどの問題がある。
また、昨今環境問題として取りあげられることの多いオゾン等の酸化性ガスによっても褪色しやすく、印字濃度が大きく低下してしまうことが大きな問題となっている。
【0014】
現在、インクジェット記録は使用分野が急拡大しており、一般家庭、SOHO、業務分野等で今後ますます広く使用されるようになると、様々な使用条件や使用環境にさらされる結果、シアン染料の溶解性不良に起因するトラブルが発生したり、光や環境中の活性ガスに曝されて印字画像の褪色が問題となる場合が多くなる。したがって、特に良好な色相を有し、光堅牢性および環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)堅牢性に優れ、高い溶解性を有したシアン染料及びシアンインクがますます強く望まれている。
しかしながら、これらの要求を高いレベルで満たすフタロシアニン染料及びそれを含むシアンインクを捜し求めることは、極めて難しい。
【0015】
これまで、耐オゾンガス性を付与したフタロシアニン染料としては、特開平3−103484号、特開平4−39365号、特開2000−303009号等の各公報が開示されているが、いずれも色相と光及び酸化性ガス堅牢性とを両立させるには至っていなかった。更に、耐オゾンガス性褪色改良方法として、特開2002−88279及び特開2002−97393が開示されているが、その到達性能は上記要求性能を高いレベルで解決するには至っていないのが現状である。故に、耐オゾンガス性に関して改善の指針となる色素の性質について報告された例は今までに無かった。
【0016】
また、一般に、フタロシアニン染料(化合物)は、WO00/17275、同00/08103、同00/08101、同98/41853、特開平10−36471号公報などに記載されているように、無置換のフタロシアニン化合物をスルホン化し、水溶性染料として使用する場合にはスルホン化した化合物のアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩としてそのまま使用し、油溶性染料に誘導する場合には、スルホン化後にスルホニルクロライド化、アミド化反応を経て合成したものを使用することができる。
この場合、スルホン化がフタロシアニン核のどの位置でも起こり得る上にスルホン化される個数も制御が困難である。従って、このような反応条件でスルホ基を導入した場合には、生成物に導入されたスルホ基の位置と個数は特定できず、必ず置換基の個数や置換位置の異なる混合物を与える。
そして、その混合物の中には、溶解性が低い成分、例えばフタロシアニン核に対してゼロあるいは1つしかスルホン化されていない成分が混入することとなり、水溶性染料として使用する場合溶解性が不十分となり易く、溶解性の改善が望まれている。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の第一の目的は、三原色の色素として色再現性に優れた吸収特性を有し、且つ光、熱、湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有し、溶解性に優れた新規なフタロシアニン化合物を提供することである。
【0018】
本発明の第二の目的は、インク保存安定性および目詰まり回復性に優れ、良好な色相を有し、更に光及び環境中の活性ガス、特にオゾンガスに対して、堅牢性の高い画像を形成することが可能で、様々な環境条件下で使用されても記録安定性の高い、インク、インクジェット記録用インク、該インクジェット記録用インクからなる、インクジェット記録用インクセット、前記インクジェット記録用インクを用いたインクジェット記録方法、及び前記インクジェット記録用インクを収容する容器等に使用する際に極めて有効なフタロシアニン化合物を提供することである。
また、本発明の他の目的として、光及び活性ガスに対して堅牢性の高い画像を形成することのできるインク、インクジェット記録用インク、及びインクジェット記録方法を提供すること、並びに形成画像の保存性改良、特ににオゾンガス耐性の改良方法を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、良好な色相と溶解性を有し、且つ光堅牢性及びガス堅牢性(特に、オゾンガス堅牢性)の高いフタロシアニン化合物を詳細に検討したところ、従来知られていない、特定の構造のフタロシアニン化合物により、前記課題を高いレベルで解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
【0020】
即ち、
<1> 下記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物。
【0021】
【化9】
【0022】
【化10】
【0023】
一般式(I)中;
Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
Pcは、一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表す。
X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に、−SO−R1および−SO2−R2から選ばれる置換基を表し、且つ、フタロシアニン核中の4つのベンゼン環{一般式(II)中のA、B、C、D}の各々に、X1、X2、X3、X4のいずれかが少なくとも1個以上存在する。R1およびR2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。但し、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有し、且つ、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つは、5〜8員の含窒素へテロ環基(縮合環を有していてもよい)を置換基として有する。
kは1≦k<8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表し、mは0≦m≦7の数を表し、nは0≦m≦7の数を表す。但し、4≦k+l+m+n≦8を満たす。
一般式(II)中;
Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7、Y8はそれぞれ独立に、水素原子または一価の置換基を表す。この一価の置換基は、さらに置換基を有していてもよい。
【0024】
<2> 前記X1、X2、X3、X4の少なくとも1つが、下記一般式(III)、(IV)または(V)で表される含窒素へテロ環基を置換基として有することを特徴とする上記<1>に記載のフタロシアニン化合物。
【0025】
【化11】
【0026】
【化12】
【0027】
【化13】
【0028】
各式中;
Zは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、−Cl、−NR3R4、−SR5、または−OR5を表す。
Jは、水素原子、−Cl、−SR6、または−OR6を表す。
Eは、−Cl、または−CNを表す。
R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R3、R4は互いに結合して含窒素5員または6員環を形成してもよい。
【0029】
<3> 前記一般式(II)で表されるフタロシアニン核が、下記一般式(VI)であることを特徴とする上記<1>または<2>に記載のフタロシアニン化合物。
【0030】
【化14】
【0031】
<4> 前記一般式(VI)で表されるフタロシアニン核が、下記一般式(VII)であることを特徴とする上記<3>に記載のフタロシアニン化合物。
【0032】
【化15】
【0033】
<5> 前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物が、下記一般式(VIII)であることを特徴とする上記<1>〜<4>のいずれかに記載のフタロシアニン化合物。
【0034】
【化16】
【0035】
一般式(VIII)中;
Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
Pcは、上記<1>に記載の一般式(II)、上記<4>に記載の一般式(VI)または上記<5>に記載の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核を表す。
L1、L2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレン、置換もしくは無置換のナフチレン、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
Z1、Z2はそれぞれ独立に、−NR7R8、−SR9、または−OR9を表し、Gはイオン性親水性基を表す。R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R7、R8は互いに結合して含窒素5員または6員環を形成してもよい。
kは1≦k≦8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。
【0036】
<6> 上記<1>〜<5>のいずれかに記載のフタロシアニン化合物を含有することを特徴とするインク。
<7> インクジェット記録に用いられることを特徴とする上記<6>に記載のインク。
<8> 支持体上に、白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有する受像材料上に、上記<7>に記載のインクを用いて画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
<9> 上記<7>に記載のインクを用いて画像形成することを特徴とする着色画像のオゾンガス耐性改良方法。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
[フタロシアニン化合物]
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法は、例えば、溶解性基もしくはその前駆体を予め導入したフタロニトリル(o−フタロニトリル)または溶解性基もしくはその前駆体を予め導入したフタル酸誘導体(以下、置換フタロニトリル、置換フタル酸ジアミド、置換フタルイミド、置換フタル酸およびその塩、置換無水フタル酸を「フタル酸誘導体」という)と、金属誘導体とを反応させてフタロシアニン化合物を製造する方法を用いることができる。この製造方法は、原料であるフタル酸誘導体に溶解性基もしくはその前駆体を予め導入させるので、得られるフタロシアニン化合物の構造中に、例えば4つのベンゼン環に漏れなく溶解性基もしくはその前駆体を導入したり、望みの溶解性基を特定の数だけ導入することができる。
【0038】
さらには後述するように、電子吸引性の溶解性基を導入することで酸化電位を高く(貴に)調整できる。このため、三原色の色素として色再現性に優れた吸収特性を有し、且つ光、熱、湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有し、溶解性に優れたフタロシアニン化合物を製造することができる。
【0039】
また、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法では、前記溶解性基又はその前駆体が異なっている、2種類以上のフタル酸誘導体を用いることもできる。
この場合、使用したフタル酸誘導体の仕込み比率から決まる分布を持った、溶解性基の種類と結合様式が異なるフタロシアニン化合物となるため、さらに溶解性が向上する。よって、本発明はフタロシアニン化合物の溶解性改良方法をも提供する。
この結果、例えば、本発明のフタロシアニン化合物をインクジェット記録用インクに用いる場合、更に高いレベルで保存安定性および目詰まり回復性が向上した良好インクジェット記録用インクを提供することも可能となる。
【0040】
本発明で溶解性基とは、フタロシアニン化合物に溶解性を付与する置換基を意味する。溶解性基によりフタロシアニン化合物に水溶性を付与する場合には、親水性基を表す。
【0041】
親水性基としては、例えばイオン性親水性基もしくはイオン性親水性基を置換基として有する置換基が挙げられる。イオン性親水性基の例としては、スルホ基、カルボキシル基、ホスホノ基および4級アンモニウム基等が含まれる。中でも、カルボキシル基、ホスホノ基、およびスルホ基が好ましく、特にカルボキシル基、スルホ基が好ましい。カルボキシル基、ホスホノ基およびスルホ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)および有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジニウムイオン、テトラメチルホスホニウム)が含まれる。対イオンの中でもアルカリ金属塩が好ましく、特にリチウム塩は染料の溶解性を高めインク安定性を向上させるため特に好ましい。
【0042】
イオン性親水性基の数としては、フタロシアニン化合物1分子中少なくとも2個以上有するものが好ましく、特にスルホ基および/またはカルボキシル基を少なくとも2個以上有するものが特に好ましい。
【0043】
また、本発明で溶解性基の前駆体とは、フタロシアニン環を形成後、反応により溶解性基に変換され得る置換基を表す。このような置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、メルカプト基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルケニル基、イミド基等の反応性置換基、若しくは、それらを置換基として有する置換基等が挙げられる。
【0044】
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法において、原料となる溶解性基又はその前駆体を有するフタル酸誘導体として、好適には、下記一般式(IX)で表される、▲1▼置換フタロニトリル(下記化合物A)、▲2▼置換ジイミノイソインドリン(下記化合物B)、▲3▼置換フタル酸ジアミド(下記化合物C)、▲4▼置換フタルイミド(下記化合物D)、▲5▼置換フタル酸およびその塩(下記化合物E)、▲6▼置換無水フタル酸(下記化合物F)を用いることができる。
【0045】
溶解性基又はその前駆体を有するフタル酸誘導体(化合物A〜F)と、金属誘導体として下記一般式(X)で表される金属誘導体と反応させて、一般式(I)で表される本発明のフタロシアニン化合物を製造することができる。
原料となるフタル酸誘導体としての化合物A〜FにおけるX’が溶解性基の前駆体である場合、フタロシアニン環を形成後溶解性基に変換することで、本発明の一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物を製造することができる。
【0046】
【化17】
【0047】
【化18】
【0048】
【化19】
【0049】
前記一般式(IX)の化合物A〜Fにおいて、X’はX1、X2、X3、X4もしくはその前駆体であって、溶解性基もしくはその前駆体となる置換基を有していてもよい。
【0050】
前記一般式(X)において、Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物、もしくはハロゲン化物を表す。
Z’は、ハロゲン原子、酢酸陰イオン、アセチルアセトネート、酸素などの1価又は2価の配位子を表す。
dは、1〜4の整数を表す。
【0051】
原料となる前記一般式(IX)で表されるフタル酸誘導体(化合物A〜F)について更に説明する。
【0052】
化合物A〜Fにおいて、X’は−SO−R1、−SO2−R2が特に好ましく、その中でも−SO2−R1が最も好ましい。
【0053】
R1、R2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましい。
【0054】
R1およびR2が表す置換もしくは無置換のアルキル基としては、炭素原子数が1〜12のアルキル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルキル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。
置換基の例としては、後述のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0055】
R1およびR2が表す置換もしくは無置換のアリール基としては、炭素原子数が6〜12のアリール基が好ましい。
置換基の例としては、後述のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも染料の酸化電位を貴とし堅牢性を向上させるので電子吸引性基が特に好ましい。中でも、ハロゲン原子、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシル基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、スルファモイル基、カルバモイル基、スルホニル基、イミド基、アシル基、スルホ基、4級アンモニウム基好ましく、シアノ基、カルボキシル基、スルファモイル基、カルバモイル基、スルホニル基、イミド基、アシル基、スルホ基、4級アンモニウム基が更に好ましい。
【0056】
R1およびR2が表す置換もしくは無置換のヘテロ環基としては、5員または6員環のものが好ましく、それらは更に縮環していてもよい。また、芳香族ヘテロ環基であっても非芳香族ヘテロ環基であっても良い。
以下にR1およびR2で表されるヘテロ環基を、置換位置を省略してヘテロ環の形で例示するが、置換位置は限定されるものではなく、例えばピリジンであれば、2位、3位、4位で置換することが可能である。ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、キノキサリン、ピロール、インドール、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、ベンズオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾール、イソオキサゾール、ベンズイソオキサゾール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、チアゾリンなどが挙げられる。
中でも芳香族ヘテロ基が好ましく、その好ましい例を先と同様に例示すると、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾールが挙げられる。
置換基の例としては、後述のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。好ましい置換基は前記アリール基の置換基と、更に好ましい置換基は、前記アリール基の更に好ましい置換基とそれぞれ同じである。
【0057】
化合物A〜Fにおいて、aはX’の置換基数を表し、1〜4の整数である。bはYの置換基数を表し、a+b=4の関係を満たす整数を表す。好ましくはaは1又は2であり、さらに好ましくは1である。aが1又は2である場合、X’が置換する位置は、化合物A,C,D,Eでは4,5位、化合物B,Fでは5,6位(すなわち※印の位置、以降β位と呼ぶ)であることが好ましい。
【0058】
化合物A〜Fにおいて、Yは水素原子または一価の置換基を表す。この一価の置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基を挙げることができ、各々はさらに置換基を有していてもよい。
【0059】
中で特に好ましいものは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基であり、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。また、この一価の置換基が有する炭素原子の数は8未満であることが好ましい。
【0060】
なお、R1、R2およびYが更に置換基を有することが可能な基であるときは、以下に挙げたような置換基を更に有してもよい。
【0061】
炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖アルキル基、炭素数7〜18の直鎖または分岐鎖アラルキル基、炭素数2〜12の直鎖または分岐鎖アルケニル基、炭素数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキニル基、炭素数3〜12の直鎖または分岐鎖シクロアルキル基、炭素数3〜12の直鎖または分岐鎖シクロアルケニル基(以上の各基は分岐鎖を有するものが染料の溶解性およびインクの安定性を向上させる理由から好ましく、不斉炭素を有するものが特に好ましい。例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、2−メチルスルホニルエチル、3−フェノキシプロピル、トリフルオロメチル、シクロペンチル)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、アリール基(例えば、フェニル、4−t−ブチルフェニル、2,4−ジ−t−アミルフェニル)、ヘテロ環基(例えば、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシ基、アミノ基、アルキルオキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メタンスルホニルエトキシ)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、3−t−ブチルオキシカルバモイルフェノキシ、3−メトキシカルバモイル)、アシルアミノ基(例えば、アセトアミド、ベンズアミド、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド)、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルブチルアミノ)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ、2−クロロアニリノ)、ウレイド基(例えば、フェニルウレイド、メチルウレイド、N,N−ジブチルウレイド)、スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、オクチルチオ、2−フェノキシエチルチオ)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、2−ブトキシ−5−t−オクチルフェニルチオ、2−カルボキシフェニルチオ)、アルキルオキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド)、カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル、N,N−ジブチルカルバモイル)、スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジプロピルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、スルホニル基(例えば、メタンスルホニル、オクタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、トルエンスルホニル)、アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル)、ヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、アゾ基(例えば、フェニルアゾ、4−メトキシフェニルアゾ、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ)、カルバモイルオキシ基(例えば、N−メチルカルバモイルオキシ、N−フェニルカルバモイルオキシ)、シリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、ジブチルメチルシリルオキシ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、イミド基(例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、ヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、2,4−ジ−フェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ、2−ピリジルチオ)、スルフィニル基(例えば、3−フェノキシプロピルスルフィニル)、ホスホニル基(例えば、フェノキシホスホニル、オクチルオキシホスホニル、フェニルホスホニル)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル)、アシル基(例えば、アセチル、3−フェニルプロパノイル、ベンゾイル)、イオン性親水性基(例えば、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノ基および4級アンモニウム基)が挙げられる。
【0062】
前記一般式(IX)で表される本発明のフタル酸誘導体(化合物A〜F)の中でも、下記一般式(XI)で表される構造のフタル酸誘導体(化合物G〜L)が更に好ましい。
以下、一般式(XI)について説明する。
【0063】
【化20】
【0064】
一般式(XI)において、X’は、−SO−R1または−SO2−R2から選ばれる置換基を表す。その中でも−SO2−R2が最も好ましい。
【0065】
前記化合物G〜L中のR1、R2はそれぞれ独立に、前記化合物A〜F中の置換基R1、R2と同義であり、好ましい例も同様である。
前化合物G〜L中のaは、X’の置換基数を表し、1〜2の整数であり、1であることが特に好ましい。
【0066】
以下に、本発明のフタロシアニン化合物の原料として用いられるフタル酸誘導体の具体例を示す。
【0067】
置換フタロニトリル(化合物AまたはG)の具体例としては、4−スルホフタロニトリル、4−(3−スルホプロピルスルホニル)フタロニトリル、4,5−ビス(3−スルホプロピルスルホニル)フタロニトリルが挙げられる。
【0068】
置換ジイミノイソインドリン(化合物BまたはH)の具体例としては、3−アミノ−1−イミノ−1H−イソインドール−5−スルホン酸が挙げられる。
【0069】
置換フタル酸ジアミド(化合物CまたはI)の具体例としては、4−(4−スルホブチルスルホニル)フタル酸ジアミドが挙げられる。
【0070】
置換フタルイミド(化合物DまたはJ)の具体例としては、4−(3−カルボキシプロピルスルホニル)フタルイミドが挙げられる。
【0071】
置換フタル酸およびその塩(化合物EまたはK)の具体例としては、4−スルホフタル酸、4−(3−スルホプロピルスルホニル)フタル酸が挙げられる。
【0072】
置換無水フタル酸(化合物FまたはL)の具体例としては、4−スルホ無水フタル酸が挙げられる。
【0073】
次に、金属誘導体{一般式(X)で表される金属誘導体}を説明する。
【0074】
【化21】
【0075】
一般式(X)において、Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物、もしくはハロゲン化物を表す。
【0076】
金属原子としては、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi等が挙げられる。中でも、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
酸化物としては、VO、GeO等が挙げられる。
水酸化物としては、Si(OH)2、Cr(OH)2、Sn(OH)2等が挙げられる。
ハロゲン化物としては、AlCl、SiCl2、VCl、VCl2、VOCl、FeCl、GaCl、ZrCl等が挙げられる。
Z’はハロゲン原子、酢酸陰イオン、アセチルアセトネート、酸素などの1価又は2価の配位子を示し、dは1〜4の整数である。
【0077】
金属誘導体{一般式(X)で表される金属誘導体}の具体例としては、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Pt、Pb等のハロゲン化物、カルボン酸誘導体、硫酸塩、硝酸塩、カルボニル化合物、酸化物、錯体等が挙げられる。さらに具体的には、塩化銅、臭化銅、沃化銅、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、塩化コバルト、臭化コバルト、酢酸コバルト、塩化鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アルミニウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、アセチルアセトンマンガン、塩化マンガン、塩化鉛、酢酸鉛、塩化インジウム、塩化チタン、塩化スズ等が挙げられる。
【0078】
続いて、前記一般式(I)及び(II)で表されるフタロシアン化合物について説明する。
本発明の前記一般式(I)及び(II)で表されるフタロシアニン化合物は、フタロシアニン化合物それ自体以外に、その塩及びその水和物を含む。
【0079】
前記一般式(I)において、Mは、前記一般式(X)中のMと同義であり、好ましい例も同様である。
【0080】
前記一般式(I)において、X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に、−SO−R1または−SO2−R2から選ばれる置換基を表し、且つ、フタロシアニン核中の4つのベンゼン環{一般式(II)中のA、B、C、D}の各々に、X1、X2、X3、X4のいずれかが少なくとも1個以上存在する。
更に詳しくは、X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に−SO2−R2が最も好ましい。
但し、X1、X2、X3、X4がすべて同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、且つ、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。
【0081】
また、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つは、5〜8員の含窒素へテロ環基またはその縮合環を置換基として有する。
更に詳しくは、5〜8員の含窒素へテロ環(その縮合環)は、それぞれ5〜6員含窒素ヘテロ環(その縮合環)が好ましく、更に好ましい例をヘテロ環の置換位置を限定せずに挙げると、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンゾイソチアゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、チアジアゾール、ピロール、ベンゾピロール、インドール、イソオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、s−トリアジン、1,2,4−トリアジンであり、より好ましくはイミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンゾイソチアゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、チアジアゾール、ピロール、ベンゾピロール、インドール、イソオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、s−トリアジンであり、その中でもピリジン、ピリミジン、s−トリアジンが最も好ましい。
【0082】
上記好ましい含窒素へテロ環基の中でも特に、下記一般式(III)、(IV)または(V)で示される含窒素へテロ環基が好ましい。
【0083】
【化22】
【0084】
【化23】
【0085】
【化24】
【0086】
前記一般式(III)、(IV)または(V)中の各式において、Zは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、−Cl、−NR3R4、−SR5、または−OR5を表す。
Jは、水素原子、−Cl、Z、−SR6、または−OR6を表す。
Eは、−Cl、または−CNを表す。
R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R3、R4は互いに結合して含窒素5員、6員環を形成してもよい。
【0087】
中でも、各式中、Zは、−NR3R4、−OR5が好ましく、その中でも−NR3R4、−OHが好ましい。
Jは、水素原子、Z、−SR6、−OR6が好ましく、特に水素原子、Zが好ましく、水素原子が最も好ましい。
Eは、−CNが好ましい。
【0088】
R3、R4は、中でも、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
R3、R4は、互いに結合して含窒素5員、6員環を形成する場合は、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましく、モルホリノ基が特に好ましい。
【0089】
R5、R6は、中でも、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、イオン性親水性基及び水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0090】
R3、R4、R5、R6が表す置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基の例は、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のR1、R2の例と同義であり、好ましい例も同様である。
【0091】
R3、R4、R5、R6が表す置換もしくは無置換のアルケニル基としては、炭素原子数が2〜12のアルケニル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルケニル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。
置換基の例としては、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0092】
R3、R4、R5、R6が表す置換もしくは無置換のアラルキル基としては、炭素原子数が7〜18のアラルキル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルキル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。
置換基の例としては、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0093】
前記一般式(I)において、R1、R2は、それぞれ独立に、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のR1、R2と同義であり、好ましい例も同様である。
【0094】
前記一般式(I)において、kは1≦k<8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表し、mは0≦m≦7の数を表し、nは0≦m≦7の数を表す。但し、4≦k+l+m+n≦8を満たす。
【0095】
更に、kが1≦k<8の数を表し、lが0≦l≦7の数を表し、mが0≦m≦7の数を表し、n=0が好ましく、特に、kが1≦k≦8の数を表し、lが0≦l≦7の数を表し、m=n=0がより好ましく、中でもkが1≦k≦4の数を表し、lが0≦l<4の数を表し(但し、k+l=4を満たす)、m=n=0が最も好ましい。
【0096】
前記一般式(I)において、Pcは、前記一般式(II)で表されるフタロシアニン核であり、好ましくは前記一般式(VI)で表されるフタロシアニン核であり、特に好ましくは前記一般式(VII)で表されるフタロシアニン核である。前記一般式(II)、(VI)において、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7、Y8はそれぞれ独立に、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のYと同義であり、好ましい例も同様である。
【0097】
本発明のフタロシアニン化合物において、上記の最も好ましいフタル酸誘導体、すなわちa=1で溶解性基もしくはその前駆体を有する置換基がβ位(前記化合物A,C,D,Eでは4,5位、B,Fでは5,6位)に置換し、Yが水素原子、MがCuであるものから調製される銅フタロシアニン化合物は、単一のフタル酸誘導体を使用して合成する場合には、以下の一般式(XII)で表される。
【0098】
一般式(XII): Cu−Pc−(X1) ;(k=4)
【0099】
2種類の異なるフタル酸誘導体を使用して合成する場合には、以下の一般式(XIII)で表される。
【0100】
一般式(XIII): Cu−Pc−(X1)k(X2)l ;(k+l=4)
【0101】
3種類の異なるフタル酸誘導体を使用して合成する場合には、以下の一般式(XIV)で表される。
【0102】
一般式(XIV): Cu−Pc−(X1)k(X2)l(X3)m ;(k+l+m=4)
【0103】
4種類の異なるフタル酸誘導体を使用して合成する場合には、以下の一般式(XV)で表される。
【0104】
一般式(XV): Cu−Pc−(X1)k(X2)l(X3)m(X4)n ;(k+l+m+n=4)
【0105】
前記一般式(XII)〜(XV)において、Cu−Pcは銅フタロシアニン母核を表し、k、l、m、nは仕込み比率(当量)を表す総和が4となる0以上の数字をそれぞれ表し、X1、X2、X3、X4は、β位に置換した互いに異なる置換基をあらわす。
【0106】
前記一般式(XIII)〜(XV)で表される銅フタロシアニン化合物を製造する際に使用する、2種類以上の溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体(化合物A〜F、好ましくはG〜L)の好ましい仕込み比率を、例えば、2種類のフタル酸誘導体を用いてフタロシアニン染料混合物を合成する場合について説明する。
【0107】
一方のフタル酸誘導体の当量をk、他方のフタル酸誘導体の当量をlとすると、好ましいk、lの範囲は、1≦k<4,0<l<4、且つ、k+l=4を満たす実数である。
更に、好ましいk、lの範囲は、1≦k<4、0<l≦3、且つ、k+l=4を満たす実数であり、1≦k≦2、0<l≦2、且つ、k+l=4を満たす実数が特に好ましい。
【0108】
3種類のフタル酸誘導体を用いてフタロシアニン染料混合物を製造する場合については、1番目のフタル酸誘導体の当量をk、2番目のフタル酸誘導体の当量をl、3番目のフタル酸誘導体の当量をmとすると、好ましいk、l、mの範囲は、1≦k<4、0<l<4、0<m<4、且つ、k+l+m=4を満たす実数である。
【0109】
4種類のフタル酸誘導体を用いてフタロシアニン染料を製造する場合については、1番目のフタル酸誘導体の当量をk、2番目のフタル酸誘導体の当量をl、3番目のフタル酸誘導体の当量をm、4番目のフタル酸誘導体の当量をnとすると、好ましいk、l、m、nの範囲は、1≦k<4、0<l<4、0<m<4、0<n<4、且つ、k+l+m+n=4を満たす実数である。
【0110】
前記一般式(XIII)〜(XV)で表される銅フタロシアニン化合物を製造する際に使用する、溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体((化合物A〜F、好ましくはG〜L)の好ましい仕込み種類は、2〜4種類の溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体(化合物A〜F、好ましくはG〜L)を用いて合成するのが好ましく、更には2〜3種類の溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体(化合物A〜F、好ましくはG〜L)を用いて合成するのが好ましく、その中でも2種類の溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体(化合物A〜F、好ましくはG〜L)を用いて合成するのが特に好ましい。つまり、前記一般式(XIII)〜(XV)で表される銅フタロシアニン化合物の中でも、一般式(XIII)または(XIV)で表される銅フタロシアニン化合物が好ましく、一般式(XIII)で表される銅フタロシアニン化合物が特に好ましい。
【0111】
以上纏めると、前記一般式(I)、及び前記一般式(II)、(VI)または(VII)で表され、前記一般式(III)、(IV)、または(V)で表される置換基を有するフタロシアニン化合物として特に好ましい組み合わせは、
(イ)X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立に、−SO−R1または−SO2−R2を表し、特に−SO2−R2が最も好ましい。但し、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つは、上記一般式(III)、(IV)または(V)で示される基を置換基として有しており、特に一般式(III)または(V)で示される基を置換基として有する場合が好ましく、その中でも一般式(III)で示される基を置換基として有する場合が最も好ましい。
【0112】
(ロ)R1は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましく、その中でもイオン性親水性基及びまたは水酸基を置換基として有する置換アルキル基が最も好ましい。
【0113】
(ハ)R2は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、更に、置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましい。
【0114】
(ニ)Zは、−Cl、−NR3R4、−SR5、−OR5を表し、特に−NR3R4、−OR5が好ましく、その中でも−OR5が好ましい。
【0115】
(ホ)Jは、水素原子、−Cl、Z、−SR6、−OR6を表し、その中でも水素原子、Z、−SR6、−OR6が好ましく、特に水素原子、Zが好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0116】
(ヘ)Eは、−Cl、−CNを表し、その中でも−CNが好ましい。
【0117】
(ト)R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
R3、R4は互いに結合して含窒素5員、6員環を形成する場合は、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましく、モルホリノ基が特に好ましい。
【0118】
(チ)R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0119】
(リ)Pcは、(k+l+m+n)価の一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表し、特に、(k+l)価の一般式(VI)で表されるフタロシアニン核が好ましく、その中でも(k+l)価の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核が最も好ましい。
【0120】
(ヌ)Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7及びY8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、特に水素原子が最も好ましい。
【0121】
(ル)Mとしては、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0122】
上記(イ)〜(ル)に加えて、更に、
(オ)フタロシアニン化合物の平均分子量(フタル酸誘導体の仕込み比率から決まる分子量分布を持つ)は750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0123】
また、前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物中には、フタロシアニン核1単位あたりイオン性親水性基を少なくとも1個以上有し、特にイオン性親水性基がスルホ基であるのが好ましい、その中でもスルホ基を2個以上有するものが最も好ましい。
フタロシアニン核1単位あたり少なくとも1つ以上のイオン性親水性基を有しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好である。
【0124】
本発明の前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0125】
本発明の前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、下記一般式(XVI)で表される構造のフタロシアニン化合物が更に好ましい。
以下、一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物について説明する。
本発明の下記一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物は、フタロシアニン化合物それ自体以外に、その塩及びその水和物を含む。
【0126】
【化25】
【0127】
前記一般式(XVI)においてPcは、前記一般式(II)、一般式(VI)または一般式(VII)で表されるフタロシアニン核を表す。
【0128】
前記一般式(XVI)においてM、X1、X2は、それぞれ独立に前記一般式(I)中のM、X1、X2と同義であり、好ましい例も同様である。
【0129】
前記一般式(XVI)において、kは1≦k≦8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。
更に、その中でも、kが1≦k≦4の数を表し、lが0≦l<4の数を表し、且つk+l=4を満たすのが好ましく、特にkが1≦k≦3の数を表し、lが1≦l≦3の数を表し、且つk+l=4を満たすのが最も好ましい。
【0130】
以上纏めると、前記一般式(XVI)、及び前記一般式(II)、(VI)または(VII)で表され、前記一般式(III)、(IV)または(V)で表される置換基を有するフタロシアニン化合物として特に好ましい組み合わせは、
(イ)X1及びX2は、それぞれ独立に、−SO−R1または−SO2−R2を表し、特に−SO2−R2が最も好ましい。但し、X1、X2の少なくとも1つは、上記一般式(III)、(IV)または(V)で示される基を置換基として有しており、特に一般式(III)または(V)で示される基を置換基として有する場合が好ましく、その中でも一般式(III)で示される基を置換基として有する場合が最も好ましい。
【0131】
(ロ)R1は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましく、その中でもイオン性親水性基及びまたは水酸基を置換基として有する置換アルキル基が最も好ましい。
【0132】
(ハ)R2は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、更に、置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましい。
【0133】
(ニ)Zは、−Cl、−NR3R4、−SR5、−OR5を表し、特に−NR3R4、−OR5が好ましく、その中でも−OR5が好ましい。
【0134】
(ホ)Jは、水素原子、−Cl、Z、−SR6、−OR6を表し、その中でも水素原子、Z、−SR6、−OR6が好ましく、特に水素原子、Zが好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0135】
(ヘ)Eは、−Cl、−CNを表し、その中でも−CNが好ましい。
【0136】
(ト)R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
R3、R4は互いに結合して含窒素5員、6員環を形成する場合は、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましく、モルホリノ基が特に好ましい。
【0137】
(チ)R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0138】
(リ)Pcは、(k+l+m+n)価の一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表し、特に、(k+l)価の一般式(VI)で表されるフタロシアニン核が好ましく、その中でも(k+l)価の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核が最も好ましい。
【0139】
(ヌ)Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7及びY8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、特に水素原子が最も好ましい。
【0140】
(ル)Mとしては、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0141】
上記(イ)〜(ル)に加えて、更に、
(オ)フタロシアニン化合物の平均分子量(フタル酸誘導体の仕込み比率から決まる分子量分布を持つ)は750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0142】
また、前記一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物中には、フタロシアニン核1単位あたりイオン性親水性基を少なくとも1個以上有し、特にイオン性親水性基がスルホ基であるのが好ましい、その中でもスルホ基を2個以上有するものが最も好ましい。
フタロシアニン核1単位あたり少なくとも1つ以上のイオン性親水性基を有しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好である。
【0143】
本発明の前記一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0144】
本発明の前記一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、下記一般式(VIII)で表される構造のフタロシアニン化合物が更に好ましい。
以下、一般式(VIII)で表されるフタロシアニン化合物について説明する。
本発明の下記一般式(VIII)で表されるフタロシアニン化合物は、フタロシアニン化合物それ自体以外に、その塩及びその水和物を含む。
【0145】
【化26】
【0146】
前記一般式(VIII)においてPcは、(k+l)価の前記一般式(II)、一般式(VI)または一般式(VII)で表されるフタロシアニン核を表す。
【0147】
前記一般式(VIII)においてMは、前記一般式(I)中のMと同義であり、好ましい例も同様である。
【0148】
前記一般式(VIII)において、L1、L2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレン、置換もしくは無置換のナフチレン、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
Z1、Z2はそれぞれ独立に、−NR7R8、−SR9、または−OR9を表し、Gはイオン性親水性基を表す。R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R7、R8は互いに結合して含窒素5員または6員環を形成してもよい。
kは1≦k≦8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。
【0149】
前記一般式(VIII)において、L1、L2はそれぞれ独立に、好ましくは、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレンであり、その中でも置換もしくは無置換のアルキレンが特に好ましい。
更に詳しくは、炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖アルキレン基{例えば、直鎖アルキレンの場合は−(CH2)n−:n=1〜18の整数を表す}が好ましく、特に炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖アルキレン基が好ましく、その中でも炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖アルキレン基が好ましい。
【0150】
前記一般式(VIII)において、Z1、Z2はそれぞれ独立に、前記一般式(III)中のZと同義であり、好ましい例も同様である。
【0151】
前記一般式(VIII)においてR10は、前記一般式(III)、(IV)、(V)中のR3〜R6と同義であり、好ましい例も同様である。
【0152】
前記一般式(VIII)において、Gが表すイオン性親水性基は、前記一般式(IX)中の置換基の説明で例示したイオン性親水性基の例と同義であり、好ましい例も同様である。
【0153】
前記一般式(VIII)において、kが1≦k≦4の数を表し、lが0≦l<4の数を表し、且つk+l=4を満たすのが好ましく、特にkが1≦k≦3の数を表し、lが1≦l≦3の数を表し、且つk+l=4を満たすのが最も好ましい。
【0154】
以上纏めると、前記一般式(VIII)、及び前記一般式(II)、(VI)または(VII)で表されるフタロシアニン化合物として特に好ましい組み合わせは、
(イ)L1及びL2が、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレン、置換もしくは無置換のナフチレン、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、好ましくは、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレンであり、その中でも置換もしくは無置換のアルキレンが特に好ましい。更に詳しくは、炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖アルキレン基{例えば、直鎖アルキレンの場合は−(CH2)n−:n=1〜18の整数を表す}が好ましく、特に炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖アルキレン基が好ましく、その中でも炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖アルキレン基が好ましい。
【0155】
(ロ)Z1、Z2はそれぞれ独立に、−Cl、−NR3R4、−SR5、−OR5を表し、特に−NR3R4、−OR5が好ましく、その中でも−OR5が好ましい。
【0156】
(ハ)R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
R3、R4は互いに結合して含窒素5員、6員環を形成する場合は、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましく、モルホリノ基が特に好ましい。
【0157】
(ニ)R5は水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0158】
(ホ)R10は、前記のR5と同義であり、好ましい例も同様である。
【0159】
(ヘ)Gが表すイオン性親水性基は、スルホ基、カルボキシル基、ホスホノ基および4級アンモニウム基が好ましく、中でもスルホ基、カルボキシル基、およびホスホノ基が好ましく、特にスルホ基、カルボキシル基が好ましい。スルホ基、カルボキシル基およびホスホノ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)および有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジニウムイオン、テトラメチルホスホニウム)が含まれる。対イオンの中でもアルカリ金属塩が好ましく、特にリチウム塩は染料の溶解性を高めインク安定性を向上させるため特に好ましい。
【0160】
(ト)Pcは、(k+l)価の一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表し、特に(k+l)価の一般式(VI)で表されるフタロシアニン核が好ましく、その中でも(k+l)価の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核が最も好ましい。
【0161】
(チ)Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7及びY8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、特に水素原子が最も好ましい。
【0162】
(リ)Mとしては、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0163】
上記(イ)〜(リ)に加えて、更に、
(ヌ)フタロシアニン化合物の平均分子量(フタル酸誘導体の仕込み比率から決まる分子量分布を持つ)は750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0164】
また、前記一般式(VIII)で表されるフタロシアニン化合物中には、フタロシアニン核1単位あたりイオン性親水性基を少なくとも1個以上有し、特にイオン性親水性基がスルホ基であるのが好ましい、その中でもスルホ基を2個以上有するものが最も好ましい。
フタロシアニン核1単位あたり少なくとも1つ以上のイオン性親水性基を有しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好である。
【0165】
本発明の前記一般式(VIII)で表されるフタロシアニン化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0166】
次に、本発明のフタロシアニン化合物の構造と性能の相関について、画像形成用インクに特に好適な(1)フタロシアニン化合物の酸化電位、(2)フタロシアニン化合物の構造的な特徴について;(1)と(2)に分けて説明する。
【0167】
(1)フタロシアニン化合物の酸化電位:
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法において、前記フタル酸誘導体の溶解性基もしくはその前駆体であるX’や置換基Yとして、電子吸引性の大きな置換基を選択することで、得られるフタロシアニン化合物の酸化電位を高く(貴に)調整でき、オゾンや一重項酸素などの活性ガス(例えば酸化性ガス)に対して反応性をより抑制することが可能となり、活性ガスに対して耐性を持つ色素を得ることができる。
【0168】
このような電子吸引性を示す尺度として、ハメットの置換基定数σp値(以下、単に「σp値」という)を用いることができ、溶解性基のσp値が0.40以上であることが好ましく、より好ましくは0.45以上であり、さらに好ましくは0.50以上である。但し、溶解性基のσp値が0.40以上の場合、得られるフタロシアニン化合物(原料であるフタル酸誘導体も含む)にはスルホ基は含まない、または、フタロシアニン化合物におけるフタロシアニン核(ベンゼン環構造:原料であるフタル酸誘導体の場合、そのベンゼン環構造)に直接スルホ基が結合することはない。スルホ基を有する場合は必ずフタロシアニン核に連結基を介して結合してなる。
【0169】
なお、得られるフタロシアニン化合物が、その構造中のフタロシアニン核(ベンゼン環構造)に水素原子以外の複数の置換基(溶解性基も含む)を有する場合、置換基(溶解性基も含む)のσp値の総和が0.50以上であることが好ましく、より好ましくは0.55以上であり、さらに好ましくは0.60以上である。
【0170】
ここで、ハメットの置換基定数σp値について若干説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版、1979年(Mc Graw−Hill)や「化学の領域」増刊、122号、96〜103頁、1979年(南光堂)に詳しい。
【0171】
このように、溶解性基として、電子吸引性の大きな置換基を導入した結果、酸化電位が貴なフタロシアニン化合物を得ることができるが、その酸化電位としては、1.0V(vs SCE)よりも貴であることが好ましい。酸化電位は貴であるほど好ましく、酸化電位が1.1V(vs SCE)よりも貴であることがより好ましく、1.15V(vs SCE)より貴であることが最も好ましい。
【0172】
この酸化電位の値(Eox)は当業者が容易に測定することができる。この方法に関しては、例えばP.Delahay著”New InstrumentalMethods in Electrochemistry”(1954年 Interscience Publishers社刊)やA.J.Bard他著”Electrochemical Methods”(1980年 JohnWiley&Sons社刊)、藤嶋昭他著”電気化学測定法”(1984年 技報堂出版社刊)に記載されている。
【0173】
酸化電位の測定に用いる支持電解質や溶媒は、被験試料の酸化電位や溶解性により適当なものを選ぶことができる。用いることができる支持電解質や溶媒については藤嶋昭他著”電気化学測定法”(1984年 技報堂出版社刊)101〜118ページに記載がある。
本発明では、酸化電位は、過塩素酸テトラプロピルアンモニウムを支持電解質として含むジメチルホルムアミド中に、被験試料を1×10−4〜1×10−6モル/リットル溶解して、直流ポーラログラフィーを用いて、作用極として炭素(GC)電極、対極として白金電極、参照極としてSCE(飽和カロメル電極)に対する値として測定する。この値は、液間電位差や試料溶液の液抵抗などの影響で、数10ミルボルト程度偏位することがあるが、標準試料(例えばハイドロキノン)を入れて電位の再現性を保証することができる。
【0174】
本発明のフタロシアニン化合物では、いずれも酸化電位が1.0V(vs SCE)よりも貴であり、この物性値を有することがインクとして用いた時に形成画像の堅牢性向上に非常に重要であることが見出された。
すなわち、本発明の目的の一つである形成画像の保存性改良(耐光性・耐オゾンガス性等)を達成する手段として、溶解性基として電子吸引性の置換基を導入することは極めて重要な構造上の特徴(フタロシアニン化合物の酸化電位を支配する)である。
【0175】
(2)本発明の一般式(I)、及び一般式(II)、(VI)または(VII)で表されるフタロシアニン化合物は、下記一般式(XVII)で説明するとβ−位置換型(2及び/または3位、6及び/または7位、10及び/または11位、14及び/または15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)にあたる。
【0176】
本発明のフタロシアニン化合物を染料としてインクに用いる際には、安定性、色相等の性能に、上記β−位置換型(2及び/または3位、6及び/または7位、10及び/または11位、14及び/または15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)に由来する会合体が有効に機能する。フタロシアニン化合物の会合体とは、2分子以上のフタロシアニン分子が会合体を形成したものをいう。
本発明である前記フタロシアニン化合物の会合体を利用することにより、単分子分散状態よりも光や熱及び酸化性ガス(特にオゾンガス)に対する安定性が著しく向上することが見出された。
更に、会合体を形成することで形成画像のスペクトル特性(シアン色相:画像形成材料用シアン染料として優れた吸収特性)が著しく良化し、且つ、各種被記録材差(例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等)に起因する紙依存性が極めて小さい{色相(色再現性)良好・耐水性向上;例えば、強固な会合体により、存在状態または媒染状態の差が小さいことに起因する}ことも見出された。
【0177】
尚、染料が会合しているか否かは、例えば Wright,J.D.著(江口太郎訳)「分子結晶」(化学同人)で説明されているように、吸収スペクトルにおける吸収極大(λmax)のシフトから容易に判断することができ、一般的には、長波側にシフトするJ会合体、短波側にシフトするH会合体の2つに分類される。本発明のフタロシアニン化合物では、吸収極大が短波側にシフトすることで会合体の形成が確認され、本発明のインクではこの会合体を利用している。
【0178】
更に、本発明のフタロシアニン化合物に少なくとも1つ、5〜8員の含窒素へテロ環基、好ましくは上記一般式(III)〜(V)で示される基を、置換基として導入する場合、極めて効率良く会合体を形成(会合状態を促進)することが見出された。
故に、本発明のフタロシアニン化合物、すなわち、特定の置換基(前記した−SO−R1及び/または−SO2−R2:各R1、R2の少なくとも1つは5〜8員の含窒素へテロ環基、好ましくは上記一般式(III)〜(V)で示される基を置換基として有する)を特定の位置(β−位置換型)に特定の数、フタロシアニン母核に導入した構造上の特徴を有するフタロシアニン化合物が、会合状態を促進して形成画像の堅牢性と色相において最も好ましい構造であることを見出すに至った。
【0179】
すなわち、本発明のフタロシアニン化合物が特定の置換基を有するβ−位置換型である点は、本発明の目的の一つである(1)形成画像の保存性改良を達成し、および、もう一つの目的である(2)形成画像が極めて良好なスペクトル特性(シアン色相:画像形成材料用シアン染料として優れた吸収特性)を有し、且つ、(3)各種被記録材(例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等)差に起因する紙依存性が小さい;(1)〜(3)を満足させるための極めて重要な構造上の特徴(フタロシアニン化合物の会合性促進を支配する)である。
【0180】
なお、本明細書において、オゾンガス耐性と称しているのは、オゾンガスに対する耐性を代表させて称しているのであって、オゾンガス以外の酸化性雰囲気に対する耐性をも含んでいる。すなわち、上記の本発明に係る一般式(I)で示されるフタロシアニン化合物は、自動車の排気ガスに多い窒素酸化物、火力発電所や工場の排気に多い硫黄酸化物、これらが太陽光によって光化学的にラジカル連鎖反応して生じたオゾンガスや酸素−窒素や酸素−水素ラジカルに富む光化学スモッグ、美容院などの特殊な薬液を使用する場所から発生する過酸化水素ラジカルなど、一般環境中に存在する酸化性ガスに対する耐性が強いことが特徴である。したがって、屋外広告や、鉄道施設内の案内など画像の酸化劣化が画像寿命を制約している場合には、本発明に係るフタロシアニン化合物を画像形成材料として用いることによって、酸化性雰囲気耐性、すなわち、いわゆるオゾンガス耐性を向上させることができる。
【0181】
次に、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法おける、フタル酸誘導体と金属誘導体との合成条件について詳細に説明する。
【0182】
フタル酸誘導体と金属誘導体との使用量の比率は、モル比(金属誘導体:フタル酸誘導体)で1:3〜1:6が好ましく、特に1:4が好ましい。
【0183】
フタル酸誘導体と金属誘導体との反応は、通常、溶媒の存在下に行われる。溶媒としては、沸点80℃以上、好ましくは130℃以上の有機溶媒が用いられる。例えばn−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、スルフォラン、ニトロベンゼン、キノリン、尿素等がある。溶媒の使用量はフタル酸誘導体の1〜100質量倍であることが好ましく、より好ましくは1.5〜20質量倍である。
【0184】
フタル酸誘導体と金属誘導体との反応は、触媒の存在下で行われてもよい。触媒としては1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)或いはモリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。触媒の使用量はフタル酸誘導体1モルに対して、0.1〜10倍モルであることが好ましく、より好ましくは0.5〜2倍モルである。
【0185】
フタル酸誘導体と金属誘導体との反応は、70〜300℃の反応温度の範囲にて行なわれることが好ましく、より好ましくは70〜200℃の反応温度の範囲、さらに好ましくは90〜180℃の反応温度の範囲である。この反応温度が70℃未満であると反応速度が極端に遅くなることがあり、一方300℃を超えると得られるフタロシアニン化合物の分解が起こる可能性がある。
【0186】
また、反応時間は2〜20時間の範囲が好ましく、より好ましくは3〜15時間の範囲、さらに好ましくは4〜10時間の範囲である。この反応時間が2時間未満であると未反応原料が多く存在してしまうことがあり、一方20時間を超えと得られるフタロシアニン化合物の分解が起こる可能性がある。
【0187】
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法においては、これらの反応によって得られる生成物(フタロシアニン化合物)は通常の有機合成反応の後処理方法に従って処理した後、精製してあるいは精製せずに供することができる。
すなわち、例えば、反応系から遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶、カラムクロマトグラフィー(例えば、ゲルパーメーションクロマトグラフィ(SEPHADEXTMLH−20:Pharmacia製)等にて精製する操作を単独、又は組み合わせて行ない、供することができる。
【0188】
また、反応終了後、反応溶媒を留去して、あるいは留去せずに水、又は氷にあけ、中和して又は中和せずに遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶、カラムクロマトグラフィー等にて精製する操作を単独に、又は組み合わせて行なった後、供することもできる。
【0189】
一般に、インクジェット記録用インク組成物として種々のフタロシアニン化合物を使用することが知られている。下記一般式(XVII)で表されるフタロシアニン化合物は、その合成時において不可避的に置換基Rn(n=1〜16)の置換位置(R1:1位〜R16:16位とここで定義する)異性体を含む場合があるが、これら置換位置異性体は互いに区別することなく同一誘導体として見なしている場合が多い。また、Rの置換基に異性体が含まれる場合も、これらを区別することなく、同一のフタロシアニン化合物として見なしている場合が多い。
【0190】
【化27】
【0191】
本明細書中で定義するフタロシアニン化合物において構造が異なる場合とは、一般式(XVII)で説明すると、置換基Rn(n=1〜16)の構成原子種が異なる場合、置換基Rnの数が異なる場合または置換基Rnの位置が異なる場合の何れかである。
【0192】
本発明において、上記一般式(XVII)で表されるフタロシアニン化合物の構造が異なる(特に、置換位置)誘導体を以下の三種類に分類して定義する。
・β−位置換型:(2及び/または3位、6及び/または7位、10及び/または11位、14及び/または15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)
・α−位置換型:(1及び/または4位、5及び/または8位、9及び/または12位、13及び/または16位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)
・α,β−位混合置換型:(1〜16位に規則性なく、特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)
【0193】
本明細書中において、構造が異なる(特に、置換位置)フタロシアニン誘導体を説明する場合、上記(1)β−位置換型、(2)α−位置換型、(3)α,β−位混合置換型を使用する。
【0194】
前述した方法により得られる本発明の前記一般式(I)または(VIII)で表されるフタロシアニン化合物は、通常、G1、G2、G3、G4の各置換基の導入位置(導入位置はβ位であることは共通)における異性体である下記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物の混合物となっている。
【0195】
【化28】
【0196】
すなわち、上記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物は、β−位置換型(2及び/または3位、6及び/または7位、10及び/または11位、14及び/または15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)であり、α−位置換型(1及び/または4位、5及び/または8位、9及び/または12位、13及び/または16位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)及びα,β−位混合置換型(1〜16位に規則性なく、特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)とは全く構造の異なる(特定の置換基の導入位置が異なる)化合物であり、本発明のフタロシアニン化合物がβ−位置換型であることは、本発明の目的を達成する手段として極めて重要な構造上の特徴である。
【0197】
本発明の課題を解決した原因は詳細には不明ではあるが、溶解性基がβ位にのみ導入された誘導体は、その他のものと比較して色相・光堅牢性・オゾンガス耐性等において圧倒的に優れている傾向にある。
詳しくは、▲1▼良好な分光吸収特性(β位に特定の溶解性基導入によるフタロシアニン化合物の会合状態が促進されることによる);▲2▼高い画像堅牢性(高酸化電位と強固な会合状態の促進により、例えば、フタロシアニン化合物と親電子試薬であるオゾンガスとの酸化反応による褪色が抑制される);▲3▼インク組成物への高い溶解性;▲4▼良好なインク液経時安定性付与;を有する本発明のフタロシアニン化合物が、特定の溶解基を特定の置換位置(β位)に特定の数だけ選択的に導入による、すなわち、高酸化電位で且つ完全β−位置換型フタロシアニン化合物の強固な会合体を形成し且つ特定の溶解性基が目的の数だけ選択的に導入可能により達成したものと考えられる。
【0198】
この場合、前記フタル酸誘導体としては、溶解性基もしくはその前駆体であるX’として電子吸引性の大きな置換基を、Yは水素原子であるものを選択する方が合成上好ましい。
【0199】
これらの特定の置換基による構造上の特徴によってもたらされる色相・光堅牢性・オゾンガス耐性等の向上効果並び着色組成物(インク)に対する要求特性の付与は、前記先行技術から全く予想することができないものであった。
【0200】
以下、本発明のフタロシアニン化合物{一般式(I)または(VIII)、及び一般式(II)、(VI)または(VII)で表され、一般式(III)、(IV)または(V)で表される置換基を有するフタロシアニン化合物}の具体例(例示化合物1〜140)を挙げるが、本発明は、これら具体例に限定されるわけではない。
【0201】
下記表1〜表4中、一般式(XVIII)は、(k)価のフタロシアニン核(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を有するフタロシアニン化合物を表す。
Rは、R1を表し、tは1〜2の数を表す。
kは4≦k≦8の数を表す。
【0202】
【化29】
【0203】
【表1】
【0204】
【表2】
【0205】
【表3】
【0206】
【表4】
【0207】
下記表5〜表6中、一般式(XIX)は、(k+l)価のフタロシアニン核(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を有するフタロシアニン化合物を表す。
Rは、R1および/またはR2を表し、tは1〜2の数を表す。
kは0<k<8の数を表し、lは0<l<8の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。
【0208】
【化30】
【0209】
【表5】
【0210】
【表6】
【0211】
下記表7中、一般式(XX)は、(k+l+m)価のフタロシアニン核(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を有するフタロシアニン化合物を表す。
Rは、R1、R2またはR3の少なくとも1つを表し、tは1〜2の数を表す。
kは0<k<8の数を表し、lは0<l<8の数を表し、mは0<m<8の数を表す。但し、4≦k+l+m≦8を満たす。
【0212】
【化31】
【0213】
【表7】
【0214】
下記表8中、一般式(XXI)は、(k+l+m+n)価のフタロシアニン核(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を有するフタロシアニン化合物表す。
Rは、R1、R2、R3またはR4の少なくとも1つを表し、tは1〜2の数を表す。
kは0<k<8の数を表し、lは0<l<8の数を表し、mは0<m<8の数を表し、nは0<n<8の数を表す。但し、4≦k+l+m+n≦8を満たす。
【0215】
【化32】
【0216】
【表8】
【0217】
従来フタロシアニン誘導体は、特定の置換基の導入位置(場合によっては導入数)が異なる異性体の混合物として用いられており、本発明の化合物(一般式(I)または(VIII)、及び一般式(II)、(VI)または(VII)で表され、一般式(III)、(IV)または(V)で表される置換基を有する化合物:特定の置換基を特定の位置に特定の数選択的に導入された特定の構造のフタロシアニン化合物)は、従来分離して認識されていない特定の構造の新規な化合物であり、その特定の構造が及ぼす性能は、高機能性を付与したインクジェット用染料及び該染料合成中間体として極めて有用である。(特定の置換基の導入位置異性体を混合した系すなわち従来のフタロシアニン化合物では、目的とする高いレベルの性能を発現不可能である)
【0218】
更に詳しくは、本発明のフタロシアニン化合物の用途としては、画像、特にカラー画像を形成するための材料が挙げられ、具体的には、インクジェット記録用記録材料(インク)を初めとして、感熱転写型画像記録材料、感圧記録材料、電子写真方式を用いる記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等であり、好ましくはインクジェット記録用記録材料(インク)、感熱転写型画像記録材料、電子写真方式を用いる記録材料であり、更に好ましくはインクジェット記録用記録材料(インク)である。また、米国特許4808501号、特開平6−35182号公報などに記載されているLCDやCCDなどの固体撮像素子で用いられているカラーフィルター、各種繊維の染色のための染色液にも適用できる。本発明のフタロシアニン化合物は、その用途に適した溶解性、熱移動性などの物性を、置換基により調整して使用することができる。
【0219】
[インクジェット記録用インク]
次に、本発明のインク、特にインクジェット記録用として好適に用いることができるインクジェット記録用インクについて説明する。
インクジェット記録用インクは、親油性媒体や水性媒体中に前記フタロシアニン化合物を溶解及び/又は分散させることによって作製することができる。好ましくは、水性媒体を用いたインクである。
必要に応じてその他の添加剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有される。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水溶性インクの場合にはインク液に直接添加する。油溶性染料を分散物の形で用いる場合には、染料分散物の調製後分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相または水相に添加してもよい。
【0220】
乾燥防止剤はインクジェット記録方式に用いるノズルのインク噴射口において該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する目的で好適に使用される。
乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。具体的な例としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチルー2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体が挙げられる。これらのうちグリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールがより好ましい。また上記の乾燥防止剤は単独で用いても良いし2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤はインク中に10〜50質量%含有することが好ましい。
【0221】
浸透促進剤は、インクジェット用インクを紙により良く浸透させる目的で好適に使用される。浸透促進剤としてはエタノール、イソプロパノール、ブタノール,ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を用いることができる。これらはインク中に5〜30質量%含有すれば通常充分な効果があり、印字の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲で使用するのが好ましい。
【0222】
紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。紫外線吸収剤としては特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号明細書等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0223】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。前記褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。より具体的にはリサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を使用することができる。
【0224】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンおよびその塩等が挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0225】
pH調整剤としては前記中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。前記pH調整剤はインクジェット記録用インクの保存安定性を向上させる目的で、該インクジェット記録用インクがpH6〜10と夏用に添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0226】
表面張力調整剤としてはノニオン、カチオンあるいはアニオン界面活性剤が挙げられる。なお、本発明のインクジェット用インクの表面張力は25〜70mN/mが好ましい。さらに25〜60mN/mが好ましい。また本発明のインクジェット記録用インクの粘度は30mPa・s以下が好ましい。更に20mPa・s以下に調整することがより好ましい。界面活性剤の例としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。更に、特開昭59−157,636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも使うことができる。
【0227】
消泡剤としては、フッ素系、シリコーン系化合物やEDTAに代表されるキレート剤等も必要に応じて使用することができる。
【0228】
本発明のフタロシアニン化合物を水性媒体に分散させる場合は、特開平11−286637号、特願平2000−78491号、同2000−80259号、同2000−62370号等の各公報に記載されるように、色素と油溶性ポリマーとを含有する着色微粒子を水性媒体に分散したり、特願平2000−78454号、同2000−78491号、同2000−203856号,同2000−203857号の各明細書のように高沸点有機溶媒に溶解した本発明の化合物を水性媒体中に分散することが好ましい。本発明の化合物を水性媒体に分散させる場合の具体的な方法,使用する油溶性ポリマー、高沸点有機溶剤、添加剤及びそれらの使用量は、上記特許公報等に記載されたものを好ましく使用することができる。あるいは、前記フタロシアニン化合物を固体のまま微粒子状態に分散してもよい。分散時には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。分散装置としては、簡単なスターラーやインペラー攪拌方式、インライン攪拌方式、ミル方式(例えば、コロイドミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテーターミル等)、超音波方式、高圧乳化分散方式(高圧ホモジナイザー;具体的な市販装置としてはゴーリンホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、DeBEE2000等)を使用することができる。上記のインクジェット記録用インクの調製方法については、先述の特許以外にも特開平5−148436号、同5−295312号、同7−97541号、同7−82515号、同7−118584号、特開平11−286637号、特願2000−87539号の各公報に詳細が記載されていて、本発明のインクジェット記録用インクの調製にも利用できる。
【0229】
水性媒体は、水を主成分とし、所望により、水混和性有機溶剤を添加した混合物を用いることができる。前記水混和性有機溶剤の例には、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。尚、前記水混和性有機溶剤は、二種類以上を併用してもよい。
【0230】
本発明のインクジェット記録用インク100質量部中は、前記フタロシアニン化合物を0.2質量部以上10質量部以下含有するのが好ましい。また、本発明のインクジェット用インクには、前記フタロシアニン化合物とともに、他の色素を併用してもよい。2種類以上の色素を併用する場合は、色素の含有量の合計が前記範囲となっているのが好ましい。
【0231】
本発明のインクジェット記録用インクは、粘度が40cp以下であるのが好ましい。また、その表面張力は20mN/m以上70mN/m以下であるのが好ましい。粘度及び表面張力は、種々の添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、防黴剤、防錆剤、分散剤及び界面活性剤を添加することによって、調整できる。
【0232】
本発明のインクジェット記録用インクは、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。
【0233】
前記イエロー色調インクに適用できるイエロー染料としては、任意のものを使用することが出来る。例えばカップリング成分(以降カプラー成分と呼ぶ)としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロンやピリドン等のようなヘテロ環類、開鎖型活性メチレン化合物類、などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分として開鎖型活性メチレン化合物類などを有するアゾメチン染料;例えばベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料;例えばナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料などがあり、これ以外の染料種としてはキノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。
【0234】
前記マゼンタ色調インクに適用できるマゼンタ染料としては、任意のものを使用することが出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類などを有するアゾメチン染料;例えばアリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、シアニン染料、オキソノール染料などのようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料、例えばナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン染料、例えばジオキサジン染料等のような縮合多環染料等を挙げることができる。
【0235】
前記シアン色調インクに適用できるシアン染料としては、任意のものを使用する事が出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、ピロロトリアゾールのようなヘテロ環類などを有するアゾメチン染料;シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料などのようなポリメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料;フタロシアニン染料;アントラキノン染料;インジゴ・チオインジゴ染料などを挙げることができる。
【0236】
前記の各染料は、クロモフォアの一部が解離して初めてイエロー、マゼンタ、シアンの各色を呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであってもよいし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであってもよい。
また、前記ブラック色調インクに適用できる黒色材としては、ジスアゾ、トリスアゾ、テトラアゾ染料のほか、カーボンブラックの分散体を挙げることができる。
【0237】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、前記インクジェット記録用インクにエネルギーを供与して、公知の受像材料、即ち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載されているインクジェット専用紙、フイルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に画像を形成する。
【0238】
画像を形成する際に、光沢性や耐水性を与えたり耐候性を改善する目的からポリマー微粒子分散物(ポリマーラテックスともいう)を併用してもよい。ポリマーラテックスを受像材料に付与する時期については、着色剤を付与する前であっても,後であっても、また同時であってもよく、したがって添加する場所も受像紙中であっても、インク中であってもよく、あるいはポリマーラテックス単独の液状物として使用しても良い。具体的には、特願2000−363090号、同2000−315231号、同2000−354380号、同2000−343944号、同2000−268952号、同2000−299465号、同2000−297365号等の各明細書に記載された方法を好ましく用いることが出きる。
【0239】
以下に、本発明のインクを用いてインクジェットプリントをするのに用いられる記録紙及び記録フィルムについて説明する。
記録紙及び記録フィルムにおける支持体は、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等からなり、必要に応じて従来公知の顔料、バインダー、サイズ剤、定着剤、カチオン剤、紙力増強剤等の添加剤を混合し、長網抄紙機、円網抄紙機等の各種装置で製造されたもの等が使用可能である。これらの支持体の他に合成紙、プラスチックフィルムシートのいずれであってもよく、支持体の厚みは10〜250μm、坪量は10〜250g/m2が望ましい。
支持体には、そのままインク受容層及びバックコート層を設けてもよいし、デンプン、ポリビニルアルコール等でサイズプレスやアンカーコート層を設けた後、インク受容層及びバックコー卜層を設けてもよい。更に支持体には、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置により平坦化処理を行ってもよい。本発明では支持体として、両面をポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブテン及びそれらのコポリマー)でラミネートした紙及びプラスチックフィルムがより好ましく用いられる。
ポリオレフィン中に、白色顔料(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛)又は色味付け染料(例えば、コバルトブルー、群青、酸化ネオジウム)を添加することが好ましい。
【0240】
支持体上に設けられるインク受容層には、顔料や水性バインダーが含有される。顔料としては、白色顔料が好ましく、白色顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等の白色無機顔料、スチレン系ピグメント、アクリル系ピグメント、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。インク受容層に含有される白色顔料としては、多孔性無機顔料が好ましく、特に細孔面積が大きい合成非晶質シリカ等が好適である。合成非晶質シリカは、乾式製造法によって得られる無水珪酸及び湿式製造法によって得られる含水珪酸のいずれも使用可能であるが、特に含水珪酸を使用することが望ましい。
【0241】
インク受容層に含有される水性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド誘導体等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。これらの水性バインダーは単独又は2種以上併用して用いることができる。本発明においては、これらの中でも特にポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールが顔料に対する付着性、インク受容層の耐剥離性の点で好適である。
インク受容層は、顔料及び水性結着剤の他に媒染剤、耐水化剤、耐光性向上剤、界面活性剤、その他の添加剤を含有することができる。
【0242】
インク受容層中に添加する媒染剤は、不動化されていることが好ましい。そのためには、ポリマー媒染剤が好ましく用いられる。
ポリマー媒染剤については、特開昭48−28325号、同54−74430号、同54−124726号、同55−22766号、同55−142339号、同60−23850号、同60−23851号、同60−23852号、同60−23853号、同60−57836号、同60−60643号、同60−118834号、同60−122940号、同60−122941号、同60−122942号、同60−235134号、特開平1−161236号の各公報、米国特許2484430号、同2548564号、同3148061号、同3309690号、同4115124号、同4124386号、同4193800号、同4273853号、同4282305号、同4450224号の各明細書に記載がある。特開平1−161236号公報の212〜215頁に記載のポリマー媒染剤を含有する受像材料が特に好ましい。同公報記載のポリマー媒染剤を用いると、優れた画質の画像が得られ、かつ画像の耐光性が改善される。
【0243】
耐水化剤は、画像の耐水化に有効であり、これらの耐水化剤としては、特にカチオン樹脂が望ましい。このようなカチオン樹脂としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、カチオンポリアクリルアミド、コロイダルシリカ等が挙げられ、これらのカチオン樹脂の中で特にポリアミドポリアミンエピクロルヒドリンが好適である。これらのカチオン樹脂の含有量は、インク受容層の全固形分に対して1〜15質量%が好ましく、特に3〜10質量%であることが好ましい。
【0244】
耐光性向上剤としては、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、ヒンダーアミン系酸化防止剤、ベンゾフェノン等のベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの中で特に硫酸亜鉛が好適である。
【0245】
界面活性剤は、塗布助剤、剥離性改良剤、スベリ性改良剤あるいは帯電防止剤として機能する。界面活性剤については、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載がある。界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。有機フルオロ化合物の例には、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例えば、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例えば、四フッ化エチレン樹脂)が含まれる。有機フルオロ化合物については、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭61−20994号、同62−135826号の各公報に記載がある。その他のインク受容層に添加される添加剤としては、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、pH調整剤、マット剤、硬膜剤等が挙げられる。なお、インク受容層は1層でも2層でもよい。
【0246】
記録紙及び記録フィルムには、バックコート層を設けることもでき、この層に添加可能な成分としては、白色顔料、水性バインダー、その他の成分が挙げられる。バックコート層に含有される白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬べーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント,ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。
【0247】
バックコート層に含有される水性バインダーとしては、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。バックコート層に含有されるその他の成分としては、消泡剤、抑泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
【0248】
インクジェット記録紙及び記録フィルムの構成層(バックコート層を含む)には、ポリマーラテックスを添加してもよい。ポリマーラテックスは、寸度安定化、カール防止、接着防止、膜のひび割れ防止のような膜物性改良の目的で使用される。ポリマーラテックスについては、特開昭62−245258号、同62−1316648号、同62−110066号の各公報に記載がある。ガラス転移温度が低い(40℃以下の)ポリマーラテックスを媒染剤を含む層に添加すると、層のひび割れやカールを防止することができる。また、ガラス転移温度が高いポリマーラテックスをバックコート層に添加しても、カールを防止することができる。
【0249】
本発明のインクは、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して、放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等に用いられる。インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0250】
【実施例】
[合成例]
以下、実施例に本発明のフタロシアニン化合物の合成法を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0251】
本発明の代表的なフタロシアニン化合物は、例えば下記合成ルートから誘導することができる。以下の実施例において、λmaxは吸収極大波長であり、εmaxは吸収極大波長におけるモル吸光係数を意味する。
【0252】
【化33】
【0253】
合成例:例示化合物122の合成
化合物1の合成
窒素気流下、4−ニトロフタロニトリル(東京化成)50gを240mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、内温20℃で攪拌しているところへ、63.5gの3−メルカプト−プロパン−スルホン酸ナトリウム(アルドリッチ)を添加した。続いて、内温20℃で攪拌しているところへ、33.7gの無水炭酸ナトリウムを徐々に加えた。反応液を攪拌しながら、30℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。20℃まで冷却した後、反応液をヌッチェでろ過し、ろ液を1470mLの20%塩化リチウム水溶液にあけて晶析し、引き続き室温で30分間撹拌して、析出した粗結晶をヌッチェでろ過し、300mLのイソプロパノール洗浄し、乾燥した後、75.3gの化合物1を得た。1H−NMR(DMSO−d6),δ値TMS基準:1.9〜2.0(2H,t);2.5〜2.6(2H,m);3.2〜3.3(2H,t);7.75〜7.85(1H,d);7.93〜8.03(1H,d);8.05〜8.13(1H,s)
【0254】
化合物2の合成
72gの化合物1を5mLの酢酸と120mLのH2Oに溶解し、内温20℃で攪拌しているところへ、1.5gNa2WO4・2H2Oを添加した後、氷浴中、内温10℃まで冷却した。引き続き、60mLの過酸化水素水(30%)を発熱に注意しながら徐々に滴下した。内温15〜20℃で30分間撹拌した後に、反応液を内温60℃まで加温して、同温度で1時間撹拌した。20℃まで冷却した後、反応液に50mLのイソプロパノールを注入し、引き続き同温度で25gの塩化リチウムを添加した後30分間撹拌した。析出した結晶をヌッチェでろ過し、200mLのイソプロパノールで洗浄し、乾燥した後75.1gの化合物2を得た。1H−NMR(DMSO−d6),δ値TMS基準:1.81〜1.91(2H,m);2.29〜2.54(2H,t);3.62〜3.672H,t);8.07〜8.16(1H,d);8.30〜8.36(1H,d);8.66(1H,s)
【0255】
化合物3の合成
75gの化合物2を300mLのアセトニトリルに懸濁し、内温20℃で攪拌しているところへ、220mLのPOCl3を滴下した。引き続き、内温を80℃まで昇温して同温度で90分間撹拌した。次に、反応液を内温20℃まで冷却し、2000mLの氷水に反応液を内温30℃以上にならないように注入して晶析した。析出した結晶をヌッチェでろ過し、2000mLのH2Oで洗浄後、1000mLのイソプロパノールで洗浄し、乾燥した後72.8gの化合物3を得た。1H−NMR(DMSO−d6),δ値TMS基準:1.81〜1.91(2H,m);2.49〜2.54(2H,t);3.62〜3.74(2H,t);8.07〜8.16(1H,d);8.36〜8.49(1H,d);8.66〜8.67(2H,s)
【0256】
化合物4の合成
20gの化合物3を200mLのアセトニトリルに内温35℃で添加して溶解し、引き続き、25gの化合物α/125mLのH2O溶液を、内温10℃で滴下した。次に、撹拌しながら内温20℃まで昇温し同温度で1時間撹拌した。次に、5mLのピリジンを内温が30℃を超えない速度で滴下し、引き続き内温を50℃まで昇温して、同温度で1時間撹拌した。次に、同温度で34gの塩化リチウム/1000mLのイソプロパノール溶液を滴下し、引き続き同温度で1時間撹拌した後、室温まで徐冷した。析出した結晶をヌッチェでろ過し、1000mLのイソプロパノールで洗浄し、乾燥後18.5gの化合物4を得た。
【0257】
化合物122の合成
10gの化合物2と6.3gの化合物4を1.5mLの酢酸と100mLのエチレングリコール混合溶液に内温110℃で溶解させた。引き続き、内温80℃に冷却後、1.5gの酢酸リチウム、1.3gの塩化第二銅(無水)を添加し、内温を90℃まで加温した。同温度で3時間攪拌後、内温で、27.8mLの濃塩酸を滴下した。続いて、同温度で1時間撹拌した後、内温を60℃まで冷却し、15.0gの塩化リチウムを加え、同温度で300mLのイソプロパノールを滴下し晶析した。次に、内温を30℃まで冷却後、晶析物をろ過し、300mLのイソプロパノールで洗浄を行った。乾燥した10.0gの粗結晶を90mLのイオン交換水に溶解後、50℃で2.5N−LiOHaq.をpH10.5になるまで添加した。引き続き、同温度で水溶液をゴミ取りろ過し、ろ液を内温90℃まで昇温し、同温度で30分攪拌後、400mLのイソプロパノールを滴下して晶析した。懸濁液を室温まで冷却後、析出物を吸引ろ過し、300mLのイソプロパノールで洗浄を行い、80℃で30時間乾燥した。収量7.5g 回収率75%。溶液吸収(H2O):λmax=620.0nm,εmax=55000。
【0258】
[実施例1]
下記の成分に脱イオン水を加え1リッターとした後、30〜40℃で加熱しながら1時時間撹拌した。その後KOH 10mol/LにてpH=9に調製し、平均孔径0.25μmのミクロフィルターで減圧濾過しシアン用インク液を調製した。
【0259】
インク液Aの組成:
本発明のフタロシアニン化合物(例示化合物101) 6.80g
ジエチレングリコール 10.65g
グリセリン 14.70g
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 12.70g
トリエタノールアミン 0.65g
オルフィンE1010 0.9g
【0260】
フタロシアニン化合物を、下記表9に示すように変更した以外は、インク液Aの調製と同様にして、インク液B〜E、比較用のインク液として、以下の化合物を用いてインク液101、102、103、104を調整した。
【0261】
【化34】
【0262】
【化35】
【0263】
【化36】
【0264】
【化37】
【0265】
染料を変更する場合は、添加量がインク液Aに用いた染料に対して等モルとなるように使用した。染料を2種以上併用する場合は等モルずつ使用した。
【0266】
(画像記録及び評価)
以上の各実施例(インク液A〜E)及び比較例(インク液101〜104)のインクジェット用インクについて、下記評価を行った。その結果を表9に示した。
なお、表9において、「色調」、「紙依存性」、「耐水性」及び「耐光性」は、各インクジェット用インクを、インクジェットプリンター(EPSON(株)社製;PM−700C)でフォト光沢紙(EPSON社製PM写真紙<光沢>(KA420PSK、EPSON)に画像を記録した後で評価したものである。
【0267】
<色調>
フォト光沢紙に形成した画像を、390〜730nm領域のインターバル10nmによる反射スペクトルをGRETAG SPM100−II(GRETAG社製)を用いて測色し、これをCIE(国際照明委員会) L*a*b*色空間系に基づいて、a*、b*を算出した。
JNC(社団法人日本印刷産業機械工業会)のJAPAN Colour (日本印刷産業連合会のメンバー21社から提供された、各社の校正刷りのベタパッチを測色し、その平均値に対して色差(ΔE)が最小になるように、Japan Colour Ink SF−90及びJapan Paperを使用して印刷したときの色)の標準シアンのカラーサンプルと比較してシアンとして好ましい色調を下記のように定義した。
L* : 53.6±0.2の範囲において、
○: a*(−35.9±6の範囲)、及び、b*(−50.4±6の範囲)
△: a*、b*の一方のみ(上記○で定義した好ましい領域)
×: a*、b*のいずれも(上記○で定義した好ましい領域外)
ここで、参考に用いた JAPAN Colorの標準シアンのカラーサンプルの測色値を以下に示す。
L*: 53.6±0.2
a*:−37.4±0.2
b*:−50.2±0.2
ΔE: 0.4(0.1〜0.7)
(1)印刷機:マンローランドR−704, インキ:Japan Colour
SF−90,用紙:特菱アート
(2)測色 :測色計;X−rite 938, 0/45,D50,2deg.,black backing
【0268】
<紙依存性>
フォト光沢紙に形成した画像と、別途にプロフェショナルフォトペーパーPR101(CANON社製;QBJPRA4)に形成した画像との色調を比較し、両画像間の差が小さい場合をA(良好)、両画像間の差が大きい場合をB(不良)として、二段階で評価した。
【0269】
<耐水性>
画像を形成したフォト光沢紙を、1時間室温乾燥した後、10秒間脱イオン水に浸漬し、室温にて自然乾燥させ、滲みを観察した。滲みが無いものをA、滲みが僅かに生じたものをB、滲みが多いものをCとして、三段階で評価した。
【0270】
<耐光性>
前記画像を形成したフォト光沢紙に、ウェザーメーター(アトラスC.I65)を用いて、キセノン光(85000lx)を14日間照射し、キセノン照射前後の画像濃度を反射濃度計(X−Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。なお、前記反射濃度は、1、1.5及び2.0の3点で測定した。
何れの濃度でも色素残存率が70%以上の場合をA、1又は2点が70%未満をB、全ての濃度で70%未満の場合をCとして、三段階で評価した。
【0271】
<暗熱保存性>
前記画像を形成したフォト光沢紙を、80℃−15%RHの条件下で14日間試料を保存し、保存前後の画像濃度を反射濃度計(X−Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。色素残存率について反射濃度が1,1.5,2の3点にて評価し、いずれの濃度でも色素残存率が90%以上の場合をA、2点が90%未満の場合をB、全ての濃度で90%未満の場合をCとした。
【0272】
<耐オゾンガス性>
シーメンス型オゾナイザーの二重ガラス管内に乾燥空気を通しながら、5kV交流電圧を印加し、これを用いてオゾンガス濃度が0.5±0.1ppm、室温、暗所に設定されたボックス内に、前記画像を形成したフォト光沢紙を14日間放置し、オゾンガス下放置前後の画像濃度を反射濃度計(X−Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。なお、前記反射濃度は、1、1.5及び2.0の3点で測定した。ボックス内のオゾンガス濃度は、APPLICS製オゾンガスモニター(モデル:OZG−EM−01)を用いて設定した。
何れの濃度でも色素残存率が70%以上の場合をA、1又は2点が70%未満をB、全ての濃度で70%未満の場合をCとして、三段階で評価した。
【0273】
<インク保存安定性>
インクについて保存安定性および目詰まり回復性の試験を実施することで染料の溶解性を評価した。インク保存安定性は、インク液A〜Eをポリエチレン製容器に入れ、−15℃条件下24時間保存後、引き続き、60℃の条件下で24時間保存する;−15℃(24hr.)⇒60℃(24hr.)の繰り返しを10サイクル繰り返して、保存前後の不溶物析出の有無を調べ、下記基準で評価した。
[判定基準]
経時後の記録液を試験管にとり目視で観察した。
○:不溶分が全く認められない状態である。
△:不溶分が少量認められる状態である。
×:不溶分が目立ち、実用レベルでない状態である。
【0274】
<目詰まり回復性>
プリンターに各インクを充填し、キャップをしない状態で40℃の環境に1ヶ月間放置し、放置後、全ノズルが正常吐出するまでに要するクリーニングの動作回数から、下記基準で評価した。
[判定基準]
A;クリーニング2回以内で復帰する。
B;クリーニング3〜5回で復帰する。
C;クリーニング6回以上で復帰する。
NG;復帰しない。
【0275】
<溶解度>
蒸留水5mlに対して、染料を混合させ、マグネティックスターラーで30分間攪拌した。攪拌後、染料が溶媒に完溶したかどうかを確認した。評価は、以下に示されるように定義し、3段階で行った
○:染料0.5gが溶媒5mlに完溶する
△:染料0.5gは完溶しないが、染料0.1gでは溶媒5mlに完溶する
×:染料0.1gが溶媒5mlに完溶しない
【0276】
<酸化電位:Eox>
実施例・比較例で用いたフタロシアニン染料(混合物)の酸化電位の値は、以下の条件で測定した。
フタロシアニン染料を10.0mgから25.0mgの範囲で秤量し、0.1mol・dm−3の過塩素酸テトラプロピルアンモニウムを支持電解質として含むN,N−ジメチルホルムアミド 5mlから15ml(色素の濃度は約0.001mol・dm−3)で直流ポーラログラフィーにより測定した。ポーラログラフィ装置には、作用極として炭素(GC)電極を、対極として回転白金電極を用いて、酸化側(貴側)に掃引して得た酸化波を直線近似してそのピーク値との交点と残余電流値との交点の中点を酸化電位の値(vs SCE)とした。
【0277】
【表9】
【0278】
表9から明らかなように、本発明のインクジェット用インクは色調に優れ、紙依存性が小さく、耐水性、耐光性、耐熱性および耐オゾン性に優れるものであった。特に耐光性、耐熱性および耐オゾン性等の画像保存性に優れることは明らかである。
また、本発明の調製法によるインク液は、厳しい保存条件に曝されても低溶解成分の析出による印字の悪化が無く、インク保存安定性、および目詰まり回復性に優れる事が判った。
【0279】
[実施例2]
実施例1で作製した同じインクを用いて、実施例1の同機にて画像を富士写真フイルム製インクジェットペーパーフォト光沢紙EXにプリントし、実施例1と同様な評価を行ったところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0280】
[実施例3]
実施例1で作製した同じインクを、インクジェットプリンターBJ−F850(CANON社製)のカートリッジに詰め、同機にて同社のフォト光沢紙GP−301に画像をプリントし、実施例1と同様な評価を行ったところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0281】
[実施例4]
実施例1の試験方法を、下記の環境試験方法に変更した以外は、実施例1と同じ操作を用いて試験を行なった。すなわち、自動車の排気ガスなどの酸化性ガスと太陽光の照射を受ける屋外環境をシミュレートした酸化性ガス耐性試験方法として、 H.Iwano, et al; Journal of Imaging Science and Technology ,38巻、140−142(1944)に記載の相対湿度80%、過酸化水素濃度120ppm、蛍光灯照射チャンバーを用いた酸化耐性試験方法を用いて試験した。試験の結果は、実施例1と同様の結果であった。
【0282】
【発明の効果】
本発明によれば、三原色の色素として色再現性に優れた吸収特性を有し、且つ光,熱,湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有する新規なフタロシアニン化合物が提供される。さらに、色相と堅牢性に優れた着色画像や着色材料を与える、インクジェットなどの印刷用のインク、感熱転写型画像形成材料におけるインクシート、電子写真用のトナー、LCD、PDPやCCDで用いられるカラーフィルター用着色組成物、各種繊維の染色の為の染色液などの各種着色組成物を提供することができる。
特に、本発明のフタロシアニン化合物の使用により、良好な色相を有し、熱、水、光及び環境中の活性ガス、特にオゾンガスに対して堅牢性の高い画像を形成することができる、インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法及び形成画像保存性改良方法が提供される。
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶解性が改良され、堅牢性に優れた新規なフタロシアニン化合物及び該フタロシアニン化合物を含むインク、特にインクジェット記録用インク、インクジェット記録方法、並びに形成した着色画像のオゾンガス耐性改良方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、画像記録材料としては、特にカラー画像を形成するための材料が主流であり、具体的には、インクジェット方式の記録材料、感熱転写方式の記録材料、電子写真方式の記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等が盛んに利用されている。また、撮影機器ではCCDなどの撮像素子において、ディスプレーではLCDやPDPにおいて、カラー画像を記録・再現するためにカラーフィルターが使用されている。
これらのカラー画像記録材料やカラーフィルターでは、フルカラー画像を再現あるいは記録するために、いわゆる加法混色法や減法混色法の3原色の色素(染料や顔料)が使用されているが、好ましい色再現域を実現出来る吸収特性を有し、且つさまざまな使用条件に耐えうる堅牢な色素がないのが実状であり、改善が強く望まれている。
【0003】
インクジェット記録方法は、材料費が安価であること、高速記録が可能なこと、記録時の騒音が少ないこと、更にカラー記録が容易であることから、急速に普及し、更に発展しつつある。
インクジェット記録方法には、連続的に液滴を飛翔させるコンティニュアス方式と画像情報信号に応じて液滴を飛翔させるオンデマンド方式が有り、その吐出方式にはピエゾ素子により圧力を加えて液滴を吐出させる方式、熱によりインク中に気泡を発生させて液滴を吐出させる方式、超音波を用いた方式、あるいは静電力により液滴を吸引吐出させる方式がある。
また、インクジェット記録用インクとしては、水性インク、油性インク、あるいは固体(溶融型)インクが用いられる。
【0004】
このようなインクジェット記録用インクに用いられる色素に対しては、溶剤に対する溶解性あるいは分散性が良好なこと、高濃度記録が可能であること、色相が良好であること、光、熱、環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)に対して堅牢であること、水や薬品に対する堅牢性に優れていること、受像材料に対して定着性が良く滲みにくいこと、インクとしての保存性に優れていること、毒性がないこと、純度が高いこと、更には、安価に入手できることが要求されている。
【0005】
しかしながら、これらの要求を高いレベルで満たす色素を捜し求めることは、極めて難しい。特に、良好なシアン色相を有し、光,湿度,熱に対して堅牢であること、中でも多孔質の白色無機顔料粒子を含有するインク受容層を有する受像材料上に印字する際には、環境中のオゾンなどの酸化性ガスに対して堅牢であることが強く望まれている。
【0006】
このようなインクジェット記録用インクに用いられるシアンの色素骨格としてはフタロシアニン系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系などがあり、フタロシアニン系が代表的である。
最も広範囲に報告され、利用されている代表的な色素であるフタロシアニン染料は、以下の▲1▼〜▲6▼で分類されるフタロシアニン化合物である。
【0007】
▲1▼Direct Blue 86又はDirect Blue 87等の銅フタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO3Na)m:m=1〜4の混合物〕。なお、上式中及び以後本明細書中に用いる「Pc」は、フタロシアニン骨格を意味する。
【0008】
▲2▼Direct Blue 199および特開昭62−190273号、特開昭63−28690号、特開昭63−306075号、特開昭63−306076号、特開平2−131983号、特開平3−122171号、特開平3−200883号、特開平7−138511号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO3Na)m(SO2NH2)n:m+n=1〜4の混合物〕。
【0009】
▲3▼特開昭63−210175号、特開昭63−37176号、特開昭63−304071号、特開平5−171085号、WO00/08102号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(CO2H)m(CONR1R2)n:m+n=0〜4の数〕。
【0010】
▲4▼特開昭59−30874号、特開平1−126381号、特開平1−190770号、特開平6−16982号、特開平7−82499号、特開平8−34942号、特開平8−60053号、特開平8−113745号、特開平8−310116号、特開平10−140063号、特開平10−298463号、特開平11−29729号、特開平11−320921号等の各公報、EP173476A2号、EP468649A1号、EP559309A2号、EP596383A1号、DE3411476号、US6086955号、WO99/13009号、GB2341868A号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO3H)m(SO2NR1R2)n:m+n=0〜4の数、且つ、m≠0〕。
【0011】
▲5▼特開昭60−208365号、特開昭61−2772号、特開平6−57653号、特開平8−60052号、特開平8−295819号、特開平10−130517号、特開平11−72614号、特表平11−515047号、特表平11−515048号等の各公報、EP196901A2号、WO95/29208号、WO98/49239号、WO98/49240号、WO99/50363号、WO99/67334号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO3H)l(SO2NH2)m(SO2NR1R2)n:l+m+n=0〜4の数〕。
【0012】
▲6▼特開昭59−22967号、特開昭61−185576号、特開平1−95093号、特開平3−195783号、EP649881A1号、WO00/08101号、WO00/08103号等に記載のフタロシアニン染料〔例えば、Cu−Pc−(SO2NR1R2)n:n=1〜5の数〕。
【0013】
現在一般に広く用いられているDirect Blue 87又はDirectBlue 199に代表され、また前記公報等にも記載があるフタロシアニン染料は、マゼンタやイエローに比べ耐光性に優れるという特徴があるものの、染料の溶解性に起因する問題が生じやすく、例えば、製造時に溶解不良が発生して製造トラブルとなったり、製品保存時や使用時に不溶物が析出して問題を起こすことも多い。特に先に述べたインクジェット記録においては、染料の析出により印字ヘッドの目詰まりや吐出不良を引き起こし、印字画像の著しい劣化を引き起こすなどの問題がある。
また、昨今環境問題として取りあげられることの多いオゾン等の酸化性ガスによっても褪色しやすく、印字濃度が大きく低下してしまうことが大きな問題となっている。
【0014】
現在、インクジェット記録は使用分野が急拡大しており、一般家庭、SOHO、業務分野等で今後ますます広く使用されるようになると、様々な使用条件や使用環境にさらされる結果、シアン染料の溶解性不良に起因するトラブルが発生したり、光や環境中の活性ガスに曝されて印字画像の褪色が問題となる場合が多くなる。したがって、特に良好な色相を有し、光堅牢性および環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)堅牢性に優れ、高い溶解性を有したシアン染料及びシアンインクがますます強く望まれている。
しかしながら、これらの要求を高いレベルで満たすフタロシアニン染料及びそれを含むシアンインクを捜し求めることは、極めて難しい。
【0015】
これまで、耐オゾンガス性を付与したフタロシアニン染料としては、特開平3−103484号、特開平4−39365号、特開2000−303009号等の各公報が開示されているが、いずれも色相と光及び酸化性ガス堅牢性とを両立させるには至っていなかった。更に、耐オゾンガス性褪色改良方法として、特開2002−88279及び特開2002−97393が開示されているが、その到達性能は上記要求性能を高いレベルで解決するには至っていないのが現状である。故に、耐オゾンガス性に関して改善の指針となる色素の性質について報告された例は今までに無かった。
【0016】
また、一般に、フタロシアニン染料(化合物)は、WO00/17275、同00/08103、同00/08101、同98/41853、特開平10−36471号公報などに記載されているように、無置換のフタロシアニン化合物をスルホン化し、水溶性染料として使用する場合にはスルホン化した化合物のアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩としてそのまま使用し、油溶性染料に誘導する場合には、スルホン化後にスルホニルクロライド化、アミド化反応を経て合成したものを使用することができる。
この場合、スルホン化がフタロシアニン核のどの位置でも起こり得る上にスルホン化される個数も制御が困難である。従って、このような反応条件でスルホ基を導入した場合には、生成物に導入されたスルホ基の位置と個数は特定できず、必ず置換基の個数や置換位置の異なる混合物を与える。
そして、その混合物の中には、溶解性が低い成分、例えばフタロシアニン核に対してゼロあるいは1つしかスルホン化されていない成分が混入することとなり、水溶性染料として使用する場合溶解性が不十分となり易く、溶解性の改善が望まれている。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の第一の目的は、三原色の色素として色再現性に優れた吸収特性を有し、且つ光、熱、湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有し、溶解性に優れた新規なフタロシアニン化合物を提供することである。
【0018】
本発明の第二の目的は、インク保存安定性および目詰まり回復性に優れ、良好な色相を有し、更に光及び環境中の活性ガス、特にオゾンガスに対して、堅牢性の高い画像を形成することが可能で、様々な環境条件下で使用されても記録安定性の高い、インク、インクジェット記録用インク、該インクジェット記録用インクからなる、インクジェット記録用インクセット、前記インクジェット記録用インクを用いたインクジェット記録方法、及び前記インクジェット記録用インクを収容する容器等に使用する際に極めて有効なフタロシアニン化合物を提供することである。
また、本発明の他の目的として、光及び活性ガスに対して堅牢性の高い画像を形成することのできるインク、インクジェット記録用インク、及びインクジェット記録方法を提供すること、並びに形成画像の保存性改良、特ににオゾンガス耐性の改良方法を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、良好な色相と溶解性を有し、且つ光堅牢性及びガス堅牢性(特に、オゾンガス堅牢性)の高いフタロシアニン化合物を詳細に検討したところ、従来知られていない、特定の構造のフタロシアニン化合物により、前記課題を高いレベルで解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
【0020】
即ち、
<1> 下記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物。
【0021】
【化9】
【0022】
【化10】
【0023】
一般式(I)中;
Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
Pcは、一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表す。
X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に、−SO−R1および−SO2−R2から選ばれる置換基を表し、且つ、フタロシアニン核中の4つのベンゼン環{一般式(II)中のA、B、C、D}の各々に、X1、X2、X3、X4のいずれかが少なくとも1個以上存在する。R1およびR2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。但し、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有し、且つ、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つは、5〜8員の含窒素へテロ環基(縮合環を有していてもよい)を置換基として有する。
kは1≦k<8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表し、mは0≦m≦7の数を表し、nは0≦m≦7の数を表す。但し、4≦k+l+m+n≦8を満たす。
一般式(II)中;
Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7、Y8はそれぞれ独立に、水素原子または一価の置換基を表す。この一価の置換基は、さらに置換基を有していてもよい。
【0024】
<2> 前記X1、X2、X3、X4の少なくとも1つが、下記一般式(III)、(IV)または(V)で表される含窒素へテロ環基を置換基として有することを特徴とする上記<1>に記載のフタロシアニン化合物。
【0025】
【化11】
【0026】
【化12】
【0027】
【化13】
【0028】
各式中;
Zは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、−Cl、−NR3R4、−SR5、または−OR5を表す。
Jは、水素原子、−Cl、−SR6、または−OR6を表す。
Eは、−Cl、または−CNを表す。
R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R3、R4は互いに結合して含窒素5員または6員環を形成してもよい。
【0029】
<3> 前記一般式(II)で表されるフタロシアニン核が、下記一般式(VI)であることを特徴とする上記<1>または<2>に記載のフタロシアニン化合物。
【0030】
【化14】
【0031】
<4> 前記一般式(VI)で表されるフタロシアニン核が、下記一般式(VII)であることを特徴とする上記<3>に記載のフタロシアニン化合物。
【0032】
【化15】
【0033】
<5> 前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物が、下記一般式(VIII)であることを特徴とする上記<1>〜<4>のいずれかに記載のフタロシアニン化合物。
【0034】
【化16】
【0035】
一般式(VIII)中;
Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
Pcは、上記<1>に記載の一般式(II)、上記<4>に記載の一般式(VI)または上記<5>に記載の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核を表す。
L1、L2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレン、置換もしくは無置換のナフチレン、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
Z1、Z2はそれぞれ独立に、−NR7R8、−SR9、または−OR9を表し、Gはイオン性親水性基を表す。R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R7、R8は互いに結合して含窒素5員または6員環を形成してもよい。
kは1≦k≦8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。
【0036】
<6> 上記<1>〜<5>のいずれかに記載のフタロシアニン化合物を含有することを特徴とするインク。
<7> インクジェット記録に用いられることを特徴とする上記<6>に記載のインク。
<8> 支持体上に、白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有する受像材料上に、上記<7>に記載のインクを用いて画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
<9> 上記<7>に記載のインクを用いて画像形成することを特徴とする着色画像のオゾンガス耐性改良方法。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
[フタロシアニン化合物]
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法は、例えば、溶解性基もしくはその前駆体を予め導入したフタロニトリル(o−フタロニトリル)または溶解性基もしくはその前駆体を予め導入したフタル酸誘導体(以下、置換フタロニトリル、置換フタル酸ジアミド、置換フタルイミド、置換フタル酸およびその塩、置換無水フタル酸を「フタル酸誘導体」という)と、金属誘導体とを反応させてフタロシアニン化合物を製造する方法を用いることができる。この製造方法は、原料であるフタル酸誘導体に溶解性基もしくはその前駆体を予め導入させるので、得られるフタロシアニン化合物の構造中に、例えば4つのベンゼン環に漏れなく溶解性基もしくはその前駆体を導入したり、望みの溶解性基を特定の数だけ導入することができる。
【0038】
さらには後述するように、電子吸引性の溶解性基を導入することで酸化電位を高く(貴に)調整できる。このため、三原色の色素として色再現性に優れた吸収特性を有し、且つ光、熱、湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有し、溶解性に優れたフタロシアニン化合物を製造することができる。
【0039】
また、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法では、前記溶解性基又はその前駆体が異なっている、2種類以上のフタル酸誘導体を用いることもできる。
この場合、使用したフタル酸誘導体の仕込み比率から決まる分布を持った、溶解性基の種類と結合様式が異なるフタロシアニン化合物となるため、さらに溶解性が向上する。よって、本発明はフタロシアニン化合物の溶解性改良方法をも提供する。
この結果、例えば、本発明のフタロシアニン化合物をインクジェット記録用インクに用いる場合、更に高いレベルで保存安定性および目詰まり回復性が向上した良好インクジェット記録用インクを提供することも可能となる。
【0040】
本発明で溶解性基とは、フタロシアニン化合物に溶解性を付与する置換基を意味する。溶解性基によりフタロシアニン化合物に水溶性を付与する場合には、親水性基を表す。
【0041】
親水性基としては、例えばイオン性親水性基もしくはイオン性親水性基を置換基として有する置換基が挙げられる。イオン性親水性基の例としては、スルホ基、カルボキシル基、ホスホノ基および4級アンモニウム基等が含まれる。中でも、カルボキシル基、ホスホノ基、およびスルホ基が好ましく、特にカルボキシル基、スルホ基が好ましい。カルボキシル基、ホスホノ基およびスルホ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)および有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジニウムイオン、テトラメチルホスホニウム)が含まれる。対イオンの中でもアルカリ金属塩が好ましく、特にリチウム塩は染料の溶解性を高めインク安定性を向上させるため特に好ましい。
【0042】
イオン性親水性基の数としては、フタロシアニン化合物1分子中少なくとも2個以上有するものが好ましく、特にスルホ基および/またはカルボキシル基を少なくとも2個以上有するものが特に好ましい。
【0043】
また、本発明で溶解性基の前駆体とは、フタロシアニン環を形成後、反応により溶解性基に変換され得る置換基を表す。このような置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、メルカプト基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルケニル基、イミド基等の反応性置換基、若しくは、それらを置換基として有する置換基等が挙げられる。
【0044】
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法において、原料となる溶解性基又はその前駆体を有するフタル酸誘導体として、好適には、下記一般式(IX)で表される、▲1▼置換フタロニトリル(下記化合物A)、▲2▼置換ジイミノイソインドリン(下記化合物B)、▲3▼置換フタル酸ジアミド(下記化合物C)、▲4▼置換フタルイミド(下記化合物D)、▲5▼置換フタル酸およびその塩(下記化合物E)、▲6▼置換無水フタル酸(下記化合物F)を用いることができる。
【0045】
溶解性基又はその前駆体を有するフタル酸誘導体(化合物A〜F)と、金属誘導体として下記一般式(X)で表される金属誘導体と反応させて、一般式(I)で表される本発明のフタロシアニン化合物を製造することができる。
原料となるフタル酸誘導体としての化合物A〜FにおけるX’が溶解性基の前駆体である場合、フタロシアニン環を形成後溶解性基に変換することで、本発明の一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物を製造することができる。
【0046】
【化17】
【0047】
【化18】
【0048】
【化19】
【0049】
前記一般式(IX)の化合物A〜Fにおいて、X’はX1、X2、X3、X4もしくはその前駆体であって、溶解性基もしくはその前駆体となる置換基を有していてもよい。
【0050】
前記一般式(X)において、Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物、もしくはハロゲン化物を表す。
Z’は、ハロゲン原子、酢酸陰イオン、アセチルアセトネート、酸素などの1価又は2価の配位子を表す。
dは、1〜4の整数を表す。
【0051】
原料となる前記一般式(IX)で表されるフタル酸誘導体(化合物A〜F)について更に説明する。
【0052】
化合物A〜Fにおいて、X’は−SO−R1、−SO2−R2が特に好ましく、その中でも−SO2−R1が最も好ましい。
【0053】
R1、R2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましい。
【0054】
R1およびR2が表す置換もしくは無置換のアルキル基としては、炭素原子数が1〜12のアルキル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルキル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。
置換基の例としては、後述のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0055】
R1およびR2が表す置換もしくは無置換のアリール基としては、炭素原子数が6〜12のアリール基が好ましい。
置換基の例としては、後述のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも染料の酸化電位を貴とし堅牢性を向上させるので電子吸引性基が特に好ましい。中でも、ハロゲン原子、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシル基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、スルファモイル基、カルバモイル基、スルホニル基、イミド基、アシル基、スルホ基、4級アンモニウム基好ましく、シアノ基、カルボキシル基、スルファモイル基、カルバモイル基、スルホニル基、イミド基、アシル基、スルホ基、4級アンモニウム基が更に好ましい。
【0056】
R1およびR2が表す置換もしくは無置換のヘテロ環基としては、5員または6員環のものが好ましく、それらは更に縮環していてもよい。また、芳香族ヘテロ環基であっても非芳香族ヘテロ環基であっても良い。
以下にR1およびR2で表されるヘテロ環基を、置換位置を省略してヘテロ環の形で例示するが、置換位置は限定されるものではなく、例えばピリジンであれば、2位、3位、4位で置換することが可能である。ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、キノキサリン、ピロール、インドール、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、ベンズオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾール、イソオキサゾール、ベンズイソオキサゾール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、チアゾリンなどが挙げられる。
中でも芳香族ヘテロ基が好ましく、その好ましい例を先と同様に例示すると、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾールが挙げられる。
置換基の例としては、後述のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。好ましい置換基は前記アリール基の置換基と、更に好ましい置換基は、前記アリール基の更に好ましい置換基とそれぞれ同じである。
【0057】
化合物A〜Fにおいて、aはX’の置換基数を表し、1〜4の整数である。bはYの置換基数を表し、a+b=4の関係を満たす整数を表す。好ましくはaは1又は2であり、さらに好ましくは1である。aが1又は2である場合、X’が置換する位置は、化合物A,C,D,Eでは4,5位、化合物B,Fでは5,6位(すなわち※印の位置、以降β位と呼ぶ)であることが好ましい。
【0058】
化合物A〜Fにおいて、Yは水素原子または一価の置換基を表す。この一価の置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基を挙げることができ、各々はさらに置換基を有していてもよい。
【0059】
中で特に好ましいものは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基であり、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。また、この一価の置換基が有する炭素原子の数は8未満であることが好ましい。
【0060】
なお、R1、R2およびYが更に置換基を有することが可能な基であるときは、以下に挙げたような置換基を更に有してもよい。
【0061】
炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖アルキル基、炭素数7〜18の直鎖または分岐鎖アラルキル基、炭素数2〜12の直鎖または分岐鎖アルケニル基、炭素数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキニル基、炭素数3〜12の直鎖または分岐鎖シクロアルキル基、炭素数3〜12の直鎖または分岐鎖シクロアルケニル基(以上の各基は分岐鎖を有するものが染料の溶解性およびインクの安定性を向上させる理由から好ましく、不斉炭素を有するものが特に好ましい。例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、2−メチルスルホニルエチル、3−フェノキシプロピル、トリフルオロメチル、シクロペンチル)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、アリール基(例えば、フェニル、4−t−ブチルフェニル、2,4−ジ−t−アミルフェニル)、ヘテロ環基(例えば、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシ基、アミノ基、アルキルオキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メタンスルホニルエトキシ)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、3−t−ブチルオキシカルバモイルフェノキシ、3−メトキシカルバモイル)、アシルアミノ基(例えば、アセトアミド、ベンズアミド、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド)、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルブチルアミノ)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ、2−クロロアニリノ)、ウレイド基(例えば、フェニルウレイド、メチルウレイド、N,N−ジブチルウレイド)、スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、オクチルチオ、2−フェノキシエチルチオ)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、2−ブトキシ−5−t−オクチルフェニルチオ、2−カルボキシフェニルチオ)、アルキルオキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド)、カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル、N,N−ジブチルカルバモイル)、スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジプロピルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、スルホニル基(例えば、メタンスルホニル、オクタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、トルエンスルホニル)、アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル)、ヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、アゾ基(例えば、フェニルアゾ、4−メトキシフェニルアゾ、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ)、カルバモイルオキシ基(例えば、N−メチルカルバモイルオキシ、N−フェニルカルバモイルオキシ)、シリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、ジブチルメチルシリルオキシ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、イミド基(例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、ヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、2,4−ジ−フェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ、2−ピリジルチオ)、スルフィニル基(例えば、3−フェノキシプロピルスルフィニル)、ホスホニル基(例えば、フェノキシホスホニル、オクチルオキシホスホニル、フェニルホスホニル)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル)、アシル基(例えば、アセチル、3−フェニルプロパノイル、ベンゾイル)、イオン性親水性基(例えば、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノ基および4級アンモニウム基)が挙げられる。
【0062】
前記一般式(IX)で表される本発明のフタル酸誘導体(化合物A〜F)の中でも、下記一般式(XI)で表される構造のフタル酸誘導体(化合物G〜L)が更に好ましい。
以下、一般式(XI)について説明する。
【0063】
【化20】
【0064】
一般式(XI)において、X’は、−SO−R1または−SO2−R2から選ばれる置換基を表す。その中でも−SO2−R2が最も好ましい。
【0065】
前記化合物G〜L中のR1、R2はそれぞれ独立に、前記化合物A〜F中の置換基R1、R2と同義であり、好ましい例も同様である。
前化合物G〜L中のaは、X’の置換基数を表し、1〜2の整数であり、1であることが特に好ましい。
【0066】
以下に、本発明のフタロシアニン化合物の原料として用いられるフタル酸誘導体の具体例を示す。
【0067】
置換フタロニトリル(化合物AまたはG)の具体例としては、4−スルホフタロニトリル、4−(3−スルホプロピルスルホニル)フタロニトリル、4,5−ビス(3−スルホプロピルスルホニル)フタロニトリルが挙げられる。
【0068】
置換ジイミノイソインドリン(化合物BまたはH)の具体例としては、3−アミノ−1−イミノ−1H−イソインドール−5−スルホン酸が挙げられる。
【0069】
置換フタル酸ジアミド(化合物CまたはI)の具体例としては、4−(4−スルホブチルスルホニル)フタル酸ジアミドが挙げられる。
【0070】
置換フタルイミド(化合物DまたはJ)の具体例としては、4−(3−カルボキシプロピルスルホニル)フタルイミドが挙げられる。
【0071】
置換フタル酸およびその塩(化合物EまたはK)の具体例としては、4−スルホフタル酸、4−(3−スルホプロピルスルホニル)フタル酸が挙げられる。
【0072】
置換無水フタル酸(化合物FまたはL)の具体例としては、4−スルホ無水フタル酸が挙げられる。
【0073】
次に、金属誘導体{一般式(X)で表される金属誘導体}を説明する。
【0074】
【化21】
【0075】
一般式(X)において、Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物、もしくはハロゲン化物を表す。
【0076】
金属原子としては、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi等が挙げられる。中でも、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
酸化物としては、VO、GeO等が挙げられる。
水酸化物としては、Si(OH)2、Cr(OH)2、Sn(OH)2等が挙げられる。
ハロゲン化物としては、AlCl、SiCl2、VCl、VCl2、VOCl、FeCl、GaCl、ZrCl等が挙げられる。
Z’はハロゲン原子、酢酸陰イオン、アセチルアセトネート、酸素などの1価又は2価の配位子を示し、dは1〜4の整数である。
【0077】
金属誘導体{一般式(X)で表される金属誘導体}の具体例としては、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Pt、Pb等のハロゲン化物、カルボン酸誘導体、硫酸塩、硝酸塩、カルボニル化合物、酸化物、錯体等が挙げられる。さらに具体的には、塩化銅、臭化銅、沃化銅、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、塩化コバルト、臭化コバルト、酢酸コバルト、塩化鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アルミニウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、アセチルアセトンマンガン、塩化マンガン、塩化鉛、酢酸鉛、塩化インジウム、塩化チタン、塩化スズ等が挙げられる。
【0078】
続いて、前記一般式(I)及び(II)で表されるフタロシアン化合物について説明する。
本発明の前記一般式(I)及び(II)で表されるフタロシアニン化合物は、フタロシアニン化合物それ自体以外に、その塩及びその水和物を含む。
【0079】
前記一般式(I)において、Mは、前記一般式(X)中のMと同義であり、好ましい例も同様である。
【0080】
前記一般式(I)において、X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に、−SO−R1または−SO2−R2から選ばれる置換基を表し、且つ、フタロシアニン核中の4つのベンゼン環{一般式(II)中のA、B、C、D}の各々に、X1、X2、X3、X4のいずれかが少なくとも1個以上存在する。
更に詳しくは、X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に−SO2−R2が最も好ましい。
但し、X1、X2、X3、X4がすべて同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、且つ、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。
【0081】
また、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つは、5〜8員の含窒素へテロ環基またはその縮合環を置換基として有する。
更に詳しくは、5〜8員の含窒素へテロ環(その縮合環)は、それぞれ5〜6員含窒素ヘテロ環(その縮合環)が好ましく、更に好ましい例をヘテロ環の置換位置を限定せずに挙げると、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンゾイソチアゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、チアジアゾール、ピロール、ベンゾピロール、インドール、イソオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、s−トリアジン、1,2,4−トリアジンであり、より好ましくはイミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンゾイソチアゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、チアジアゾール、ピロール、ベンゾピロール、インドール、イソオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、s−トリアジンであり、その中でもピリジン、ピリミジン、s−トリアジンが最も好ましい。
【0082】
上記好ましい含窒素へテロ環基の中でも特に、下記一般式(III)、(IV)または(V)で示される含窒素へテロ環基が好ましい。
【0083】
【化22】
【0084】
【化23】
【0085】
【化24】
【0086】
前記一般式(III)、(IV)または(V)中の各式において、Zは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、−Cl、−NR3R4、−SR5、または−OR5を表す。
Jは、水素原子、−Cl、Z、−SR6、または−OR6を表す。
Eは、−Cl、または−CNを表す。
R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R3、R4は互いに結合して含窒素5員、6員環を形成してもよい。
【0087】
中でも、各式中、Zは、−NR3R4、−OR5が好ましく、その中でも−NR3R4、−OHが好ましい。
Jは、水素原子、Z、−SR6、−OR6が好ましく、特に水素原子、Zが好ましく、水素原子が最も好ましい。
Eは、−CNが好ましい。
【0088】
R3、R4は、中でも、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
R3、R4は、互いに結合して含窒素5員、6員環を形成する場合は、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましく、モルホリノ基が特に好ましい。
【0089】
R5、R6は、中でも、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、イオン性親水性基及び水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0090】
R3、R4、R5、R6が表す置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基の例は、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のR1、R2の例と同義であり、好ましい例も同様である。
【0091】
R3、R4、R5、R6が表す置換もしくは無置換のアルケニル基としては、炭素原子数が2〜12のアルケニル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルケニル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。
置換基の例としては、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0092】
R3、R4、R5、R6が表す置換もしくは無置換のアラルキル基としては、炭素原子数が7〜18のアラルキル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルキル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。
置換基の例としては、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のR1、R2およびYが更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0093】
前記一般式(I)において、R1、R2は、それぞれ独立に、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のR1、R2と同義であり、好ましい例も同様である。
【0094】
前記一般式(I)において、kは1≦k<8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表し、mは0≦m≦7の数を表し、nは0≦m≦7の数を表す。但し、4≦k+l+m+n≦8を満たす。
【0095】
更に、kが1≦k<8の数を表し、lが0≦l≦7の数を表し、mが0≦m≦7の数を表し、n=0が好ましく、特に、kが1≦k≦8の数を表し、lが0≦l≦7の数を表し、m=n=0がより好ましく、中でもkが1≦k≦4の数を表し、lが0≦l<4の数を表し(但し、k+l=4を満たす)、m=n=0が最も好ましい。
【0096】
前記一般式(I)において、Pcは、前記一般式(II)で表されるフタロシアニン核であり、好ましくは前記一般式(VI)で表されるフタロシアニン核であり、特に好ましくは前記一般式(VII)で表されるフタロシアニン核である。前記一般式(II)、(VI)において、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7、Y8はそれぞれ独立に、前記一般式(IX)中の化合物A〜F中のYと同義であり、好ましい例も同様である。
【0097】
本発明のフタロシアニン化合物において、上記の最も好ましいフタル酸誘導体、すなわちa=1で溶解性基もしくはその前駆体を有する置換基がβ位(前記化合物A,C,D,Eでは4,5位、B,Fでは5,6位)に置換し、Yが水素原子、MがCuであるものから調製される銅フタロシアニン化合物は、単一のフタル酸誘導体を使用して合成する場合には、以下の一般式(XII)で表される。
【0098】
一般式(XII): Cu−Pc−(X1) ;(k=4)
【0099】
2種類の異なるフタル酸誘導体を使用して合成する場合には、以下の一般式(XIII)で表される。
【0100】
一般式(XIII): Cu−Pc−(X1)k(X2)l ;(k+l=4)
【0101】
3種類の異なるフタル酸誘導体を使用して合成する場合には、以下の一般式(XIV)で表される。
【0102】
一般式(XIV): Cu−Pc−(X1)k(X2)l(X3)m ;(k+l+m=4)
【0103】
4種類の異なるフタル酸誘導体を使用して合成する場合には、以下の一般式(XV)で表される。
【0104】
一般式(XV): Cu−Pc−(X1)k(X2)l(X3)m(X4)n ;(k+l+m+n=4)
【0105】
前記一般式(XII)〜(XV)において、Cu−Pcは銅フタロシアニン母核を表し、k、l、m、nは仕込み比率(当量)を表す総和が4となる0以上の数字をそれぞれ表し、X1、X2、X3、X4は、β位に置換した互いに異なる置換基をあらわす。
【0106】
前記一般式(XIII)〜(XV)で表される銅フタロシアニン化合物を製造する際に使用する、2種類以上の溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体(化合物A〜F、好ましくはG〜L)の好ましい仕込み比率を、例えば、2種類のフタル酸誘導体を用いてフタロシアニン染料混合物を合成する場合について説明する。
【0107】
一方のフタル酸誘導体の当量をk、他方のフタル酸誘導体の当量をlとすると、好ましいk、lの範囲は、1≦k<4,0<l<4、且つ、k+l=4を満たす実数である。
更に、好ましいk、lの範囲は、1≦k<4、0<l≦3、且つ、k+l=4を満たす実数であり、1≦k≦2、0<l≦2、且つ、k+l=4を満たす実数が特に好ましい。
【0108】
3種類のフタル酸誘導体を用いてフタロシアニン染料混合物を製造する場合については、1番目のフタル酸誘導体の当量をk、2番目のフタル酸誘導体の当量をl、3番目のフタル酸誘導体の当量をmとすると、好ましいk、l、mの範囲は、1≦k<4、0<l<4、0<m<4、且つ、k+l+m=4を満たす実数である。
【0109】
4種類のフタル酸誘導体を用いてフタロシアニン染料を製造する場合については、1番目のフタル酸誘導体の当量をk、2番目のフタル酸誘導体の当量をl、3番目のフタル酸誘導体の当量をm、4番目のフタル酸誘導体の当量をnとすると、好ましいk、l、m、nの範囲は、1≦k<4、0<l<4、0<m<4、0<n<4、且つ、k+l+m+n=4を満たす実数である。
【0110】
前記一般式(XIII)〜(XV)で表される銅フタロシアニン化合物を製造する際に使用する、溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体((化合物A〜F、好ましくはG〜L)の好ましい仕込み種類は、2〜4種類の溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体(化合物A〜F、好ましくはG〜L)を用いて合成するのが好ましく、更には2〜3種類の溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体(化合物A〜F、好ましくはG〜L)を用いて合成するのが好ましく、その中でも2種類の溶解性基又はその前駆体が異なるフタル酸誘導体(化合物A〜F、好ましくはG〜L)を用いて合成するのが特に好ましい。つまり、前記一般式(XIII)〜(XV)で表される銅フタロシアニン化合物の中でも、一般式(XIII)または(XIV)で表される銅フタロシアニン化合物が好ましく、一般式(XIII)で表される銅フタロシアニン化合物が特に好ましい。
【0111】
以上纏めると、前記一般式(I)、及び前記一般式(II)、(VI)または(VII)で表され、前記一般式(III)、(IV)、または(V)で表される置換基を有するフタロシアニン化合物として特に好ましい組み合わせは、
(イ)X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立に、−SO−R1または−SO2−R2を表し、特に−SO2−R2が最も好ましい。但し、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つは、上記一般式(III)、(IV)または(V)で示される基を置換基として有しており、特に一般式(III)または(V)で示される基を置換基として有する場合が好ましく、その中でも一般式(III)で示される基を置換基として有する場合が最も好ましい。
【0112】
(ロ)R1は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましく、その中でもイオン性親水性基及びまたは水酸基を置換基として有する置換アルキル基が最も好ましい。
【0113】
(ハ)R2は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、更に、置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましい。
【0114】
(ニ)Zは、−Cl、−NR3R4、−SR5、−OR5を表し、特に−NR3R4、−OR5が好ましく、その中でも−OR5が好ましい。
【0115】
(ホ)Jは、水素原子、−Cl、Z、−SR6、−OR6を表し、その中でも水素原子、Z、−SR6、−OR6が好ましく、特に水素原子、Zが好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0116】
(ヘ)Eは、−Cl、−CNを表し、その中でも−CNが好ましい。
【0117】
(ト)R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
R3、R4は互いに結合して含窒素5員、6員環を形成する場合は、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましく、モルホリノ基が特に好ましい。
【0118】
(チ)R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0119】
(リ)Pcは、(k+l+m+n)価の一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表し、特に、(k+l)価の一般式(VI)で表されるフタロシアニン核が好ましく、その中でも(k+l)価の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核が最も好ましい。
【0120】
(ヌ)Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7及びY8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、特に水素原子が最も好ましい。
【0121】
(ル)Mとしては、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0122】
上記(イ)〜(ル)に加えて、更に、
(オ)フタロシアニン化合物の平均分子量(フタル酸誘導体の仕込み比率から決まる分子量分布を持つ)は750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0123】
また、前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物中には、フタロシアニン核1単位あたりイオン性親水性基を少なくとも1個以上有し、特にイオン性親水性基がスルホ基であるのが好ましい、その中でもスルホ基を2個以上有するものが最も好ましい。
フタロシアニン核1単位あたり少なくとも1つ以上のイオン性親水性基を有しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好である。
【0124】
本発明の前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0125】
本発明の前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、下記一般式(XVI)で表される構造のフタロシアニン化合物が更に好ましい。
以下、一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物について説明する。
本発明の下記一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物は、フタロシアニン化合物それ自体以外に、その塩及びその水和物を含む。
【0126】
【化25】
【0127】
前記一般式(XVI)においてPcは、前記一般式(II)、一般式(VI)または一般式(VII)で表されるフタロシアニン核を表す。
【0128】
前記一般式(XVI)においてM、X1、X2は、それぞれ独立に前記一般式(I)中のM、X1、X2と同義であり、好ましい例も同様である。
【0129】
前記一般式(XVI)において、kは1≦k≦8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。
更に、その中でも、kが1≦k≦4の数を表し、lが0≦l<4の数を表し、且つk+l=4を満たすのが好ましく、特にkが1≦k≦3の数を表し、lが1≦l≦3の数を表し、且つk+l=4を満たすのが最も好ましい。
【0130】
以上纏めると、前記一般式(XVI)、及び前記一般式(II)、(VI)または(VII)で表され、前記一般式(III)、(IV)または(V)で表される置換基を有するフタロシアニン化合物として特に好ましい組み合わせは、
(イ)X1及びX2は、それぞれ独立に、−SO−R1または−SO2−R2を表し、特に−SO2−R2が最も好ましい。但し、X1、X2の少なくとも1つは、上記一般式(III)、(IV)または(V)で示される基を置換基として有しており、特に一般式(III)または(V)で示される基を置換基として有する場合が好ましく、その中でも一般式(III)で示される基を置換基として有する場合が最も好ましい。
【0131】
(ロ)R1は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましく、その中でもイオン性親水性基及びまたは水酸基を置換基として有する置換アルキル基が最も好ましい。
【0132】
(ハ)R2は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、更に、置換アルキル基、置換アリール基、置換へテロ環基が好ましい。
【0133】
(ニ)Zは、−Cl、−NR3R4、−SR5、−OR5を表し、特に−NR3R4、−OR5が好ましく、その中でも−OR5が好ましい。
【0134】
(ホ)Jは、水素原子、−Cl、Z、−SR6、−OR6を表し、その中でも水素原子、Z、−SR6、−OR6が好ましく、特に水素原子、Zが好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0135】
(ヘ)Eは、−Cl、−CNを表し、その中でも−CNが好ましい。
【0136】
(ト)R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
R3、R4は互いに結合して含窒素5員、6員環を形成する場合は、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましく、モルホリノ基が特に好ましい。
【0137】
(チ)R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0138】
(リ)Pcは、(k+l+m+n)価の一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表し、特に、(k+l)価の一般式(VI)で表されるフタロシアニン核が好ましく、その中でも(k+l)価の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核が最も好ましい。
【0139】
(ヌ)Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7及びY8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、特に水素原子が最も好ましい。
【0140】
(ル)Mとしては、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0141】
上記(イ)〜(ル)に加えて、更に、
(オ)フタロシアニン化合物の平均分子量(フタル酸誘導体の仕込み比率から決まる分子量分布を持つ)は750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0142】
また、前記一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物中には、フタロシアニン核1単位あたりイオン性親水性基を少なくとも1個以上有し、特にイオン性親水性基がスルホ基であるのが好ましい、その中でもスルホ基を2個以上有するものが最も好ましい。
フタロシアニン核1単位あたり少なくとも1つ以上のイオン性親水性基を有しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好である。
【0143】
本発明の前記一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0144】
本発明の前記一般式(XVI)で表されるフタロシアニン化合物の中でも、下記一般式(VIII)で表される構造のフタロシアニン化合物が更に好ましい。
以下、一般式(VIII)で表されるフタロシアニン化合物について説明する。
本発明の下記一般式(VIII)で表されるフタロシアニン化合物は、フタロシアニン化合物それ自体以外に、その塩及びその水和物を含む。
【0145】
【化26】
【0146】
前記一般式(VIII)においてPcは、(k+l)価の前記一般式(II)、一般式(VI)または一般式(VII)で表されるフタロシアニン核を表す。
【0147】
前記一般式(VIII)においてMは、前記一般式(I)中のMと同義であり、好ましい例も同様である。
【0148】
前記一般式(VIII)において、L1、L2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレン、置換もしくは無置換のナフチレン、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
Z1、Z2はそれぞれ独立に、−NR7R8、−SR9、または−OR9を表し、Gはイオン性親水性基を表す。R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R7、R8は互いに結合して含窒素5員または6員環を形成してもよい。
kは1≦k≦8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。
【0149】
前記一般式(VIII)において、L1、L2はそれぞれ独立に、好ましくは、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレンであり、その中でも置換もしくは無置換のアルキレンが特に好ましい。
更に詳しくは、炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖アルキレン基{例えば、直鎖アルキレンの場合は−(CH2)n−:n=1〜18の整数を表す}が好ましく、特に炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖アルキレン基が好ましく、その中でも炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖アルキレン基が好ましい。
【0150】
前記一般式(VIII)において、Z1、Z2はそれぞれ独立に、前記一般式(III)中のZと同義であり、好ましい例も同様である。
【0151】
前記一般式(VIII)においてR10は、前記一般式(III)、(IV)、(V)中のR3〜R6と同義であり、好ましい例も同様である。
【0152】
前記一般式(VIII)において、Gが表すイオン性親水性基は、前記一般式(IX)中の置換基の説明で例示したイオン性親水性基の例と同義であり、好ましい例も同様である。
【0153】
前記一般式(VIII)において、kが1≦k≦4の数を表し、lが0≦l<4の数を表し、且つk+l=4を満たすのが好ましく、特にkが1≦k≦3の数を表し、lが1≦l≦3の数を表し、且つk+l=4を満たすのが最も好ましい。
【0154】
以上纏めると、前記一般式(VIII)、及び前記一般式(II)、(VI)または(VII)で表されるフタロシアニン化合物として特に好ましい組み合わせは、
(イ)L1及びL2が、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレン、置換もしくは無置換のナフチレン、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、好ましくは、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレンであり、その中でも置換もしくは無置換のアルキレンが特に好ましい。更に詳しくは、炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖アルキレン基{例えば、直鎖アルキレンの場合は−(CH2)n−:n=1〜18の整数を表す}が好ましく、特に炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖アルキレン基が好ましく、その中でも炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖アルキレン基が好ましい。
【0155】
(ロ)Z1、Z2はそれぞれ独立に、−Cl、−NR3R4、−SR5、−OR5を表し、特に−NR3R4、−OR5が好ましく、その中でも−OR5が好ましい。
【0156】
(ハ)R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
R3、R4は互いに結合して含窒素5員、6員環を形成する場合は、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましく、モルホリノ基が特に好ましい。
【0157】
(ニ)R5は水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、その中でも水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換アリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、またはイオン性親水性基もしくは水酸基を置換基として有する炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0158】
(ホ)R10は、前記のR5と同義であり、好ましい例も同様である。
【0159】
(ヘ)Gが表すイオン性親水性基は、スルホ基、カルボキシル基、ホスホノ基および4級アンモニウム基が好ましく、中でもスルホ基、カルボキシル基、およびホスホノ基が好ましく、特にスルホ基、カルボキシル基が好ましい。スルホ基、カルボキシル基およびホスホノ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)および有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジニウムイオン、テトラメチルホスホニウム)が含まれる。対イオンの中でもアルカリ金属塩が好ましく、特にリチウム塩は染料の溶解性を高めインク安定性を向上させるため特に好ましい。
【0160】
(ト)Pcは、(k+l)価の一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表し、特に(k+l)価の一般式(VI)で表されるフタロシアニン核が好ましく、その中でも(k+l)価の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核が最も好ましい。
【0161】
(チ)Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7及びY8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、特に水素原子が最も好ましい。
【0162】
(リ)Mとしては、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0163】
上記(イ)〜(リ)に加えて、更に、
(ヌ)フタロシアニン化合物の平均分子量(フタル酸誘導体の仕込み比率から決まる分子量分布を持つ)は750〜2500の範囲が好ましく、更に995〜2500の範囲の分子量が好ましく、その中でも995〜2000の範囲の分子量が好ましく、特に995〜1800の範囲の分子量が最も好ましい。
【0164】
また、前記一般式(VIII)で表されるフタロシアニン化合物中には、フタロシアニン核1単位あたりイオン性親水性基を少なくとも1個以上有し、特にイオン性親水性基がスルホ基であるのが好ましい、その中でもスルホ基を2個以上有するものが最も好ましい。
フタロシアニン核1単位あたり少なくとも1つ以上のイオン性親水性基を有しているので、水性媒体中に対する溶解性または分散性が良好である。
【0165】
本発明の前記一般式(VIII)で表されるフタロシアニン化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0166】
次に、本発明のフタロシアニン化合物の構造と性能の相関について、画像形成用インクに特に好適な(1)フタロシアニン化合物の酸化電位、(2)フタロシアニン化合物の構造的な特徴について;(1)と(2)に分けて説明する。
【0167】
(1)フタロシアニン化合物の酸化電位:
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法において、前記フタル酸誘導体の溶解性基もしくはその前駆体であるX’や置換基Yとして、電子吸引性の大きな置換基を選択することで、得られるフタロシアニン化合物の酸化電位を高く(貴に)調整でき、オゾンや一重項酸素などの活性ガス(例えば酸化性ガス)に対して反応性をより抑制することが可能となり、活性ガスに対して耐性を持つ色素を得ることができる。
【0168】
このような電子吸引性を示す尺度として、ハメットの置換基定数σp値(以下、単に「σp値」という)を用いることができ、溶解性基のσp値が0.40以上であることが好ましく、より好ましくは0.45以上であり、さらに好ましくは0.50以上である。但し、溶解性基のσp値が0.40以上の場合、得られるフタロシアニン化合物(原料であるフタル酸誘導体も含む)にはスルホ基は含まない、または、フタロシアニン化合物におけるフタロシアニン核(ベンゼン環構造:原料であるフタル酸誘導体の場合、そのベンゼン環構造)に直接スルホ基が結合することはない。スルホ基を有する場合は必ずフタロシアニン核に連結基を介して結合してなる。
【0169】
なお、得られるフタロシアニン化合物が、その構造中のフタロシアニン核(ベンゼン環構造)に水素原子以外の複数の置換基(溶解性基も含む)を有する場合、置換基(溶解性基も含む)のσp値の総和が0.50以上であることが好ましく、より好ましくは0.55以上であり、さらに好ましくは0.60以上である。
【0170】
ここで、ハメットの置換基定数σp値について若干説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版、1979年(Mc Graw−Hill)や「化学の領域」増刊、122号、96〜103頁、1979年(南光堂)に詳しい。
【0171】
このように、溶解性基として、電子吸引性の大きな置換基を導入した結果、酸化電位が貴なフタロシアニン化合物を得ることができるが、その酸化電位としては、1.0V(vs SCE)よりも貴であることが好ましい。酸化電位は貴であるほど好ましく、酸化電位が1.1V(vs SCE)よりも貴であることがより好ましく、1.15V(vs SCE)より貴であることが最も好ましい。
【0172】
この酸化電位の値(Eox)は当業者が容易に測定することができる。この方法に関しては、例えばP.Delahay著”New InstrumentalMethods in Electrochemistry”(1954年 Interscience Publishers社刊)やA.J.Bard他著”Electrochemical Methods”(1980年 JohnWiley&Sons社刊)、藤嶋昭他著”電気化学測定法”(1984年 技報堂出版社刊)に記載されている。
【0173】
酸化電位の測定に用いる支持電解質や溶媒は、被験試料の酸化電位や溶解性により適当なものを選ぶことができる。用いることができる支持電解質や溶媒については藤嶋昭他著”電気化学測定法”(1984年 技報堂出版社刊)101〜118ページに記載がある。
本発明では、酸化電位は、過塩素酸テトラプロピルアンモニウムを支持電解質として含むジメチルホルムアミド中に、被験試料を1×10−4〜1×10−6モル/リットル溶解して、直流ポーラログラフィーを用いて、作用極として炭素(GC)電極、対極として白金電極、参照極としてSCE(飽和カロメル電極)に対する値として測定する。この値は、液間電位差や試料溶液の液抵抗などの影響で、数10ミルボルト程度偏位することがあるが、標準試料(例えばハイドロキノン)を入れて電位の再現性を保証することができる。
【0174】
本発明のフタロシアニン化合物では、いずれも酸化電位が1.0V(vs SCE)よりも貴であり、この物性値を有することがインクとして用いた時に形成画像の堅牢性向上に非常に重要であることが見出された。
すなわち、本発明の目的の一つである形成画像の保存性改良(耐光性・耐オゾンガス性等)を達成する手段として、溶解性基として電子吸引性の置換基を導入することは極めて重要な構造上の特徴(フタロシアニン化合物の酸化電位を支配する)である。
【0175】
(2)本発明の一般式(I)、及び一般式(II)、(VI)または(VII)で表されるフタロシアニン化合物は、下記一般式(XVII)で説明するとβ−位置換型(2及び/または3位、6及び/または7位、10及び/または11位、14及び/または15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)にあたる。
【0176】
本発明のフタロシアニン化合物を染料としてインクに用いる際には、安定性、色相等の性能に、上記β−位置換型(2及び/または3位、6及び/または7位、10及び/または11位、14及び/または15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)に由来する会合体が有効に機能する。フタロシアニン化合物の会合体とは、2分子以上のフタロシアニン分子が会合体を形成したものをいう。
本発明である前記フタロシアニン化合物の会合体を利用することにより、単分子分散状態よりも光や熱及び酸化性ガス(特にオゾンガス)に対する安定性が著しく向上することが見出された。
更に、会合体を形成することで形成画像のスペクトル特性(シアン色相:画像形成材料用シアン染料として優れた吸収特性)が著しく良化し、且つ、各種被記録材差(例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等)に起因する紙依存性が極めて小さい{色相(色再現性)良好・耐水性向上;例えば、強固な会合体により、存在状態または媒染状態の差が小さいことに起因する}ことも見出された。
【0177】
尚、染料が会合しているか否かは、例えば Wright,J.D.著(江口太郎訳)「分子結晶」(化学同人)で説明されているように、吸収スペクトルにおける吸収極大(λmax)のシフトから容易に判断することができ、一般的には、長波側にシフトするJ会合体、短波側にシフトするH会合体の2つに分類される。本発明のフタロシアニン化合物では、吸収極大が短波側にシフトすることで会合体の形成が確認され、本発明のインクではこの会合体を利用している。
【0178】
更に、本発明のフタロシアニン化合物に少なくとも1つ、5〜8員の含窒素へテロ環基、好ましくは上記一般式(III)〜(V)で示される基を、置換基として導入する場合、極めて効率良く会合体を形成(会合状態を促進)することが見出された。
故に、本発明のフタロシアニン化合物、すなわち、特定の置換基(前記した−SO−R1及び/または−SO2−R2:各R1、R2の少なくとも1つは5〜8員の含窒素へテロ環基、好ましくは上記一般式(III)〜(V)で示される基を置換基として有する)を特定の位置(β−位置換型)に特定の数、フタロシアニン母核に導入した構造上の特徴を有するフタロシアニン化合物が、会合状態を促進して形成画像の堅牢性と色相において最も好ましい構造であることを見出すに至った。
【0179】
すなわち、本発明のフタロシアニン化合物が特定の置換基を有するβ−位置換型である点は、本発明の目的の一つである(1)形成画像の保存性改良を達成し、および、もう一つの目的である(2)形成画像が極めて良好なスペクトル特性(シアン色相:画像形成材料用シアン染料として優れた吸収特性)を有し、且つ、(3)各種被記録材(例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等)差に起因する紙依存性が小さい;(1)〜(3)を満足させるための極めて重要な構造上の特徴(フタロシアニン化合物の会合性促進を支配する)である。
【0180】
なお、本明細書において、オゾンガス耐性と称しているのは、オゾンガスに対する耐性を代表させて称しているのであって、オゾンガス以外の酸化性雰囲気に対する耐性をも含んでいる。すなわち、上記の本発明に係る一般式(I)で示されるフタロシアニン化合物は、自動車の排気ガスに多い窒素酸化物、火力発電所や工場の排気に多い硫黄酸化物、これらが太陽光によって光化学的にラジカル連鎖反応して生じたオゾンガスや酸素−窒素や酸素−水素ラジカルに富む光化学スモッグ、美容院などの特殊な薬液を使用する場所から発生する過酸化水素ラジカルなど、一般環境中に存在する酸化性ガスに対する耐性が強いことが特徴である。したがって、屋外広告や、鉄道施設内の案内など画像の酸化劣化が画像寿命を制約している場合には、本発明に係るフタロシアニン化合物を画像形成材料として用いることによって、酸化性雰囲気耐性、すなわち、いわゆるオゾンガス耐性を向上させることができる。
【0181】
次に、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法おける、フタル酸誘導体と金属誘導体との合成条件について詳細に説明する。
【0182】
フタル酸誘導体と金属誘導体との使用量の比率は、モル比(金属誘導体:フタル酸誘導体)で1:3〜1:6が好ましく、特に1:4が好ましい。
【0183】
フタル酸誘導体と金属誘導体との反応は、通常、溶媒の存在下に行われる。溶媒としては、沸点80℃以上、好ましくは130℃以上の有機溶媒が用いられる。例えばn−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、スルフォラン、ニトロベンゼン、キノリン、尿素等がある。溶媒の使用量はフタル酸誘導体の1〜100質量倍であることが好ましく、より好ましくは1.5〜20質量倍である。
【0184】
フタル酸誘導体と金属誘導体との反応は、触媒の存在下で行われてもよい。触媒としては1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)或いはモリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。触媒の使用量はフタル酸誘導体1モルに対して、0.1〜10倍モルであることが好ましく、より好ましくは0.5〜2倍モルである。
【0185】
フタル酸誘導体と金属誘導体との反応は、70〜300℃の反応温度の範囲にて行なわれることが好ましく、より好ましくは70〜200℃の反応温度の範囲、さらに好ましくは90〜180℃の反応温度の範囲である。この反応温度が70℃未満であると反応速度が極端に遅くなることがあり、一方300℃を超えると得られるフタロシアニン化合物の分解が起こる可能性がある。
【0186】
また、反応時間は2〜20時間の範囲が好ましく、より好ましくは3〜15時間の範囲、さらに好ましくは4〜10時間の範囲である。この反応時間が2時間未満であると未反応原料が多く存在してしまうことがあり、一方20時間を超えと得られるフタロシアニン化合物の分解が起こる可能性がある。
【0187】
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法においては、これらの反応によって得られる生成物(フタロシアニン化合物)は通常の有機合成反応の後処理方法に従って処理した後、精製してあるいは精製せずに供することができる。
すなわち、例えば、反応系から遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶、カラムクロマトグラフィー(例えば、ゲルパーメーションクロマトグラフィ(SEPHADEXTMLH−20:Pharmacia製)等にて精製する操作を単独、又は組み合わせて行ない、供することができる。
【0188】
また、反応終了後、反応溶媒を留去して、あるいは留去せずに水、又は氷にあけ、中和して又は中和せずに遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶、カラムクロマトグラフィー等にて精製する操作を単独に、又は組み合わせて行なった後、供することもできる。
【0189】
一般に、インクジェット記録用インク組成物として種々のフタロシアニン化合物を使用することが知られている。下記一般式(XVII)で表されるフタロシアニン化合物は、その合成時において不可避的に置換基Rn(n=1〜16)の置換位置(R1:1位〜R16:16位とここで定義する)異性体を含む場合があるが、これら置換位置異性体は互いに区別することなく同一誘導体として見なしている場合が多い。また、Rの置換基に異性体が含まれる場合も、これらを区別することなく、同一のフタロシアニン化合物として見なしている場合が多い。
【0190】
【化27】
【0191】
本明細書中で定義するフタロシアニン化合物において構造が異なる場合とは、一般式(XVII)で説明すると、置換基Rn(n=1〜16)の構成原子種が異なる場合、置換基Rnの数が異なる場合または置換基Rnの位置が異なる場合の何れかである。
【0192】
本発明において、上記一般式(XVII)で表されるフタロシアニン化合物の構造が異なる(特に、置換位置)誘導体を以下の三種類に分類して定義する。
・β−位置換型:(2及び/または3位、6及び/または7位、10及び/または11位、14及び/または15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)
・α−位置換型:(1及び/または4位、5及び/または8位、9及び/または12位、13及び/または16位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)
・α,β−位混合置換型:(1〜16位に規則性なく、特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)
【0193】
本明細書中において、構造が異なる(特に、置換位置)フタロシアニン誘導体を説明する場合、上記(1)β−位置換型、(2)α−位置換型、(3)α,β−位混合置換型を使用する。
【0194】
前述した方法により得られる本発明の前記一般式(I)または(VIII)で表されるフタロシアニン化合物は、通常、G1、G2、G3、G4の各置換基の導入位置(導入位置はβ位であることは共通)における異性体である下記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物の混合物となっている。
【0195】
【化28】
【0196】
すなわち、上記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物は、β−位置換型(2及び/または3位、6及び/または7位、10及び/または11位、14及び/または15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)であり、α−位置換型(1及び/または4位、5及び/または8位、9及び/または12位、13及び/または16位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)及びα,β−位混合置換型(1〜16位に規則性なく、特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)とは全く構造の異なる(特定の置換基の導入位置が異なる)化合物であり、本発明のフタロシアニン化合物がβ−位置換型であることは、本発明の目的を達成する手段として極めて重要な構造上の特徴である。
【0197】
本発明の課題を解決した原因は詳細には不明ではあるが、溶解性基がβ位にのみ導入された誘導体は、その他のものと比較して色相・光堅牢性・オゾンガス耐性等において圧倒的に優れている傾向にある。
詳しくは、▲1▼良好な分光吸収特性(β位に特定の溶解性基導入によるフタロシアニン化合物の会合状態が促進されることによる);▲2▼高い画像堅牢性(高酸化電位と強固な会合状態の促進により、例えば、フタロシアニン化合物と親電子試薬であるオゾンガスとの酸化反応による褪色が抑制される);▲3▼インク組成物への高い溶解性;▲4▼良好なインク液経時安定性付与;を有する本発明のフタロシアニン化合物が、特定の溶解基を特定の置換位置(β位)に特定の数だけ選択的に導入による、すなわち、高酸化電位で且つ完全β−位置換型フタロシアニン化合物の強固な会合体を形成し且つ特定の溶解性基が目的の数だけ選択的に導入可能により達成したものと考えられる。
【0198】
この場合、前記フタル酸誘導体としては、溶解性基もしくはその前駆体であるX’として電子吸引性の大きな置換基を、Yは水素原子であるものを選択する方が合成上好ましい。
【0199】
これらの特定の置換基による構造上の特徴によってもたらされる色相・光堅牢性・オゾンガス耐性等の向上効果並び着色組成物(インク)に対する要求特性の付与は、前記先行技術から全く予想することができないものであった。
【0200】
以下、本発明のフタロシアニン化合物{一般式(I)または(VIII)、及び一般式(II)、(VI)または(VII)で表され、一般式(III)、(IV)または(V)で表される置換基を有するフタロシアニン化合物}の具体例(例示化合物1〜140)を挙げるが、本発明は、これら具体例に限定されるわけではない。
【0201】
下記表1〜表4中、一般式(XVIII)は、(k)価のフタロシアニン核(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を有するフタロシアニン化合物を表す。
Rは、R1を表し、tは1〜2の数を表す。
kは4≦k≦8の数を表す。
【0202】
【化29】
【0203】
【表1】
【0204】
【表2】
【0205】
【表3】
【0206】
【表4】
【0207】
下記表5〜表6中、一般式(XIX)は、(k+l)価のフタロシアニン核(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を有するフタロシアニン化合物を表す。
Rは、R1および/またはR2を表し、tは1〜2の数を表す。
kは0<k<8の数を表し、lは0<l<8の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。
【0208】
【化30】
【0209】
【表5】
【0210】
【表6】
【0211】
下記表7中、一般式(XX)は、(k+l+m)価のフタロシアニン核(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を有するフタロシアニン化合物を表す。
Rは、R1、R2またはR3の少なくとも1つを表し、tは1〜2の数を表す。
kは0<k<8の数を表し、lは0<l<8の数を表し、mは0<m<8の数を表す。但し、4≦k+l+m≦8を満たす。
【0212】
【化31】
【0213】
【表7】
【0214】
下記表8中、一般式(XXI)は、(k+l+m+n)価のフタロシアニン核(置換基Rの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を有するフタロシアニン化合物表す。
Rは、R1、R2、R3またはR4の少なくとも1つを表し、tは1〜2の数を表す。
kは0<k<8の数を表し、lは0<l<8の数を表し、mは0<m<8の数を表し、nは0<n<8の数を表す。但し、4≦k+l+m+n≦8を満たす。
【0215】
【化32】
【0216】
【表8】
【0217】
従来フタロシアニン誘導体は、特定の置換基の導入位置(場合によっては導入数)が異なる異性体の混合物として用いられており、本発明の化合物(一般式(I)または(VIII)、及び一般式(II)、(VI)または(VII)で表され、一般式(III)、(IV)または(V)で表される置換基を有する化合物:特定の置換基を特定の位置に特定の数選択的に導入された特定の構造のフタロシアニン化合物)は、従来分離して認識されていない特定の構造の新規な化合物であり、その特定の構造が及ぼす性能は、高機能性を付与したインクジェット用染料及び該染料合成中間体として極めて有用である。(特定の置換基の導入位置異性体を混合した系すなわち従来のフタロシアニン化合物では、目的とする高いレベルの性能を発現不可能である)
【0218】
更に詳しくは、本発明のフタロシアニン化合物の用途としては、画像、特にカラー画像を形成するための材料が挙げられ、具体的には、インクジェット記録用記録材料(インク)を初めとして、感熱転写型画像記録材料、感圧記録材料、電子写真方式を用いる記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等であり、好ましくはインクジェット記録用記録材料(インク)、感熱転写型画像記録材料、電子写真方式を用いる記録材料であり、更に好ましくはインクジェット記録用記録材料(インク)である。また、米国特許4808501号、特開平6−35182号公報などに記載されているLCDやCCDなどの固体撮像素子で用いられているカラーフィルター、各種繊維の染色のための染色液にも適用できる。本発明のフタロシアニン化合物は、その用途に適した溶解性、熱移動性などの物性を、置換基により調整して使用することができる。
【0219】
[インクジェット記録用インク]
次に、本発明のインク、特にインクジェット記録用として好適に用いることができるインクジェット記録用インクについて説明する。
インクジェット記録用インクは、親油性媒体や水性媒体中に前記フタロシアニン化合物を溶解及び/又は分散させることによって作製することができる。好ましくは、水性媒体を用いたインクである。
必要に応じてその他の添加剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有される。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水溶性インクの場合にはインク液に直接添加する。油溶性染料を分散物の形で用いる場合には、染料分散物の調製後分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相または水相に添加してもよい。
【0220】
乾燥防止剤はインクジェット記録方式に用いるノズルのインク噴射口において該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する目的で好適に使用される。
乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。具体的な例としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチルー2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体が挙げられる。これらのうちグリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールがより好ましい。また上記の乾燥防止剤は単独で用いても良いし2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤はインク中に10〜50質量%含有することが好ましい。
【0221】
浸透促進剤は、インクジェット用インクを紙により良く浸透させる目的で好適に使用される。浸透促進剤としてはエタノール、イソプロパノール、ブタノール,ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を用いることができる。これらはインク中に5〜30質量%含有すれば通常充分な効果があり、印字の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲で使用するのが好ましい。
【0222】
紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。紫外線吸収剤としては特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号明細書等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0223】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。前記褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。より具体的にはリサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を使用することができる。
【0224】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンおよびその塩等が挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0225】
pH調整剤としては前記中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。前記pH調整剤はインクジェット記録用インクの保存安定性を向上させる目的で、該インクジェット記録用インクがpH6〜10と夏用に添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0226】
表面張力調整剤としてはノニオン、カチオンあるいはアニオン界面活性剤が挙げられる。なお、本発明のインクジェット用インクの表面張力は25〜70mN/mが好ましい。さらに25〜60mN/mが好ましい。また本発明のインクジェット記録用インクの粘度は30mPa・s以下が好ましい。更に20mPa・s以下に調整することがより好ましい。界面活性剤の例としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。更に、特開昭59−157,636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも使うことができる。
【0227】
消泡剤としては、フッ素系、シリコーン系化合物やEDTAに代表されるキレート剤等も必要に応じて使用することができる。
【0228】
本発明のフタロシアニン化合物を水性媒体に分散させる場合は、特開平11−286637号、特願平2000−78491号、同2000−80259号、同2000−62370号等の各公報に記載されるように、色素と油溶性ポリマーとを含有する着色微粒子を水性媒体に分散したり、特願平2000−78454号、同2000−78491号、同2000−203856号,同2000−203857号の各明細書のように高沸点有機溶媒に溶解した本発明の化合物を水性媒体中に分散することが好ましい。本発明の化合物を水性媒体に分散させる場合の具体的な方法,使用する油溶性ポリマー、高沸点有機溶剤、添加剤及びそれらの使用量は、上記特許公報等に記載されたものを好ましく使用することができる。あるいは、前記フタロシアニン化合物を固体のまま微粒子状態に分散してもよい。分散時には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。分散装置としては、簡単なスターラーやインペラー攪拌方式、インライン攪拌方式、ミル方式(例えば、コロイドミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテーターミル等)、超音波方式、高圧乳化分散方式(高圧ホモジナイザー;具体的な市販装置としてはゴーリンホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、DeBEE2000等)を使用することができる。上記のインクジェット記録用インクの調製方法については、先述の特許以外にも特開平5−148436号、同5−295312号、同7−97541号、同7−82515号、同7−118584号、特開平11−286637号、特願2000−87539号の各公報に詳細が記載されていて、本発明のインクジェット記録用インクの調製にも利用できる。
【0229】
水性媒体は、水を主成分とし、所望により、水混和性有機溶剤を添加した混合物を用いることができる。前記水混和性有機溶剤の例には、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。尚、前記水混和性有機溶剤は、二種類以上を併用してもよい。
【0230】
本発明のインクジェット記録用インク100質量部中は、前記フタロシアニン化合物を0.2質量部以上10質量部以下含有するのが好ましい。また、本発明のインクジェット用インクには、前記フタロシアニン化合物とともに、他の色素を併用してもよい。2種類以上の色素を併用する場合は、色素の含有量の合計が前記範囲となっているのが好ましい。
【0231】
本発明のインクジェット記録用インクは、粘度が40cp以下であるのが好ましい。また、その表面張力は20mN/m以上70mN/m以下であるのが好ましい。粘度及び表面張力は、種々の添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、防黴剤、防錆剤、分散剤及び界面活性剤を添加することによって、調整できる。
【0232】
本発明のインクジェット記録用インクは、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。
【0233】
前記イエロー色調インクに適用できるイエロー染料としては、任意のものを使用することが出来る。例えばカップリング成分(以降カプラー成分と呼ぶ)としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロンやピリドン等のようなヘテロ環類、開鎖型活性メチレン化合物類、などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分として開鎖型活性メチレン化合物類などを有するアゾメチン染料;例えばベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料;例えばナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料などがあり、これ以外の染料種としてはキノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。
【0234】
前記マゼンタ色調インクに適用できるマゼンタ染料としては、任意のものを使用することが出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類などを有するアゾメチン染料;例えばアリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、シアニン染料、オキソノール染料などのようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料、例えばナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン染料、例えばジオキサジン染料等のような縮合多環染料等を挙げることができる。
【0235】
前記シアン色調インクに適用できるシアン染料としては、任意のものを使用する事が出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、ピロロトリアゾールのようなヘテロ環類などを有するアゾメチン染料;シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料などのようなポリメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料;フタロシアニン染料;アントラキノン染料;インジゴ・チオインジゴ染料などを挙げることができる。
【0236】
前記の各染料は、クロモフォアの一部が解離して初めてイエロー、マゼンタ、シアンの各色を呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであってもよいし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであってもよい。
また、前記ブラック色調インクに適用できる黒色材としては、ジスアゾ、トリスアゾ、テトラアゾ染料のほか、カーボンブラックの分散体を挙げることができる。
【0237】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、前記インクジェット記録用インクにエネルギーを供与して、公知の受像材料、即ち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載されているインクジェット専用紙、フイルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に画像を形成する。
【0238】
画像を形成する際に、光沢性や耐水性を与えたり耐候性を改善する目的からポリマー微粒子分散物(ポリマーラテックスともいう)を併用してもよい。ポリマーラテックスを受像材料に付与する時期については、着色剤を付与する前であっても,後であっても、また同時であってもよく、したがって添加する場所も受像紙中であっても、インク中であってもよく、あるいはポリマーラテックス単独の液状物として使用しても良い。具体的には、特願2000−363090号、同2000−315231号、同2000−354380号、同2000−343944号、同2000−268952号、同2000−299465号、同2000−297365号等の各明細書に記載された方法を好ましく用いることが出きる。
【0239】
以下に、本発明のインクを用いてインクジェットプリントをするのに用いられる記録紙及び記録フィルムについて説明する。
記録紙及び記録フィルムにおける支持体は、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等からなり、必要に応じて従来公知の顔料、バインダー、サイズ剤、定着剤、カチオン剤、紙力増強剤等の添加剤を混合し、長網抄紙機、円網抄紙機等の各種装置で製造されたもの等が使用可能である。これらの支持体の他に合成紙、プラスチックフィルムシートのいずれであってもよく、支持体の厚みは10〜250μm、坪量は10〜250g/m2が望ましい。
支持体には、そのままインク受容層及びバックコート層を設けてもよいし、デンプン、ポリビニルアルコール等でサイズプレスやアンカーコート層を設けた後、インク受容層及びバックコー卜層を設けてもよい。更に支持体には、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置により平坦化処理を行ってもよい。本発明では支持体として、両面をポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブテン及びそれらのコポリマー)でラミネートした紙及びプラスチックフィルムがより好ましく用いられる。
ポリオレフィン中に、白色顔料(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛)又は色味付け染料(例えば、コバルトブルー、群青、酸化ネオジウム)を添加することが好ましい。
【0240】
支持体上に設けられるインク受容層には、顔料や水性バインダーが含有される。顔料としては、白色顔料が好ましく、白色顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等の白色無機顔料、スチレン系ピグメント、アクリル系ピグメント、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。インク受容層に含有される白色顔料としては、多孔性無機顔料が好ましく、特に細孔面積が大きい合成非晶質シリカ等が好適である。合成非晶質シリカは、乾式製造法によって得られる無水珪酸及び湿式製造法によって得られる含水珪酸のいずれも使用可能であるが、特に含水珪酸を使用することが望ましい。
【0241】
インク受容層に含有される水性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド誘導体等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。これらの水性バインダーは単独又は2種以上併用して用いることができる。本発明においては、これらの中でも特にポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールが顔料に対する付着性、インク受容層の耐剥離性の点で好適である。
インク受容層は、顔料及び水性結着剤の他に媒染剤、耐水化剤、耐光性向上剤、界面活性剤、その他の添加剤を含有することができる。
【0242】
インク受容層中に添加する媒染剤は、不動化されていることが好ましい。そのためには、ポリマー媒染剤が好ましく用いられる。
ポリマー媒染剤については、特開昭48−28325号、同54−74430号、同54−124726号、同55−22766号、同55−142339号、同60−23850号、同60−23851号、同60−23852号、同60−23853号、同60−57836号、同60−60643号、同60−118834号、同60−122940号、同60−122941号、同60−122942号、同60−235134号、特開平1−161236号の各公報、米国特許2484430号、同2548564号、同3148061号、同3309690号、同4115124号、同4124386号、同4193800号、同4273853号、同4282305号、同4450224号の各明細書に記載がある。特開平1−161236号公報の212〜215頁に記載のポリマー媒染剤を含有する受像材料が特に好ましい。同公報記載のポリマー媒染剤を用いると、優れた画質の画像が得られ、かつ画像の耐光性が改善される。
【0243】
耐水化剤は、画像の耐水化に有効であり、これらの耐水化剤としては、特にカチオン樹脂が望ましい。このようなカチオン樹脂としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、カチオンポリアクリルアミド、コロイダルシリカ等が挙げられ、これらのカチオン樹脂の中で特にポリアミドポリアミンエピクロルヒドリンが好適である。これらのカチオン樹脂の含有量は、インク受容層の全固形分に対して1〜15質量%が好ましく、特に3〜10質量%であることが好ましい。
【0244】
耐光性向上剤としては、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、ヒンダーアミン系酸化防止剤、ベンゾフェノン等のベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの中で特に硫酸亜鉛が好適である。
【0245】
界面活性剤は、塗布助剤、剥離性改良剤、スベリ性改良剤あるいは帯電防止剤として機能する。界面活性剤については、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載がある。界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。有機フルオロ化合物の例には、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例えば、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例えば、四フッ化エチレン樹脂)が含まれる。有機フルオロ化合物については、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭61−20994号、同62−135826号の各公報に記載がある。その他のインク受容層に添加される添加剤としては、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、pH調整剤、マット剤、硬膜剤等が挙げられる。なお、インク受容層は1層でも2層でもよい。
【0246】
記録紙及び記録フィルムには、バックコート層を設けることもでき、この層に添加可能な成分としては、白色顔料、水性バインダー、その他の成分が挙げられる。バックコート層に含有される白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬べーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント,ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。
【0247】
バックコート層に含有される水性バインダーとしては、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。バックコート層に含有されるその他の成分としては、消泡剤、抑泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
【0248】
インクジェット記録紙及び記録フィルムの構成層(バックコート層を含む)には、ポリマーラテックスを添加してもよい。ポリマーラテックスは、寸度安定化、カール防止、接着防止、膜のひび割れ防止のような膜物性改良の目的で使用される。ポリマーラテックスについては、特開昭62−245258号、同62−1316648号、同62−110066号の各公報に記載がある。ガラス転移温度が低い(40℃以下の)ポリマーラテックスを媒染剤を含む層に添加すると、層のひび割れやカールを防止することができる。また、ガラス転移温度が高いポリマーラテックスをバックコート層に添加しても、カールを防止することができる。
【0249】
本発明のインクは、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して、放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等に用いられる。インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0250】
【実施例】
[合成例]
以下、実施例に本発明のフタロシアニン化合物の合成法を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0251】
本発明の代表的なフタロシアニン化合物は、例えば下記合成ルートから誘導することができる。以下の実施例において、λmaxは吸収極大波長であり、εmaxは吸収極大波長におけるモル吸光係数を意味する。
【0252】
【化33】
【0253】
合成例:例示化合物122の合成
化合物1の合成
窒素気流下、4−ニトロフタロニトリル(東京化成)50gを240mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、内温20℃で攪拌しているところへ、63.5gの3−メルカプト−プロパン−スルホン酸ナトリウム(アルドリッチ)を添加した。続いて、内温20℃で攪拌しているところへ、33.7gの無水炭酸ナトリウムを徐々に加えた。反応液を攪拌しながら、30℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。20℃まで冷却した後、反応液をヌッチェでろ過し、ろ液を1470mLの20%塩化リチウム水溶液にあけて晶析し、引き続き室温で30分間撹拌して、析出した粗結晶をヌッチェでろ過し、300mLのイソプロパノール洗浄し、乾燥した後、75.3gの化合物1を得た。1H−NMR(DMSO−d6),δ値TMS基準:1.9〜2.0(2H,t);2.5〜2.6(2H,m);3.2〜3.3(2H,t);7.75〜7.85(1H,d);7.93〜8.03(1H,d);8.05〜8.13(1H,s)
【0254】
化合物2の合成
72gの化合物1を5mLの酢酸と120mLのH2Oに溶解し、内温20℃で攪拌しているところへ、1.5gNa2WO4・2H2Oを添加した後、氷浴中、内温10℃まで冷却した。引き続き、60mLの過酸化水素水(30%)を発熱に注意しながら徐々に滴下した。内温15〜20℃で30分間撹拌した後に、反応液を内温60℃まで加温して、同温度で1時間撹拌した。20℃まで冷却した後、反応液に50mLのイソプロパノールを注入し、引き続き同温度で25gの塩化リチウムを添加した後30分間撹拌した。析出した結晶をヌッチェでろ過し、200mLのイソプロパノールで洗浄し、乾燥した後75.1gの化合物2を得た。1H−NMR(DMSO−d6),δ値TMS基準:1.81〜1.91(2H,m);2.29〜2.54(2H,t);3.62〜3.672H,t);8.07〜8.16(1H,d);8.30〜8.36(1H,d);8.66(1H,s)
【0255】
化合物3の合成
75gの化合物2を300mLのアセトニトリルに懸濁し、内温20℃で攪拌しているところへ、220mLのPOCl3を滴下した。引き続き、内温を80℃まで昇温して同温度で90分間撹拌した。次に、反応液を内温20℃まで冷却し、2000mLの氷水に反応液を内温30℃以上にならないように注入して晶析した。析出した結晶をヌッチェでろ過し、2000mLのH2Oで洗浄後、1000mLのイソプロパノールで洗浄し、乾燥した後72.8gの化合物3を得た。1H−NMR(DMSO−d6),δ値TMS基準:1.81〜1.91(2H,m);2.49〜2.54(2H,t);3.62〜3.74(2H,t);8.07〜8.16(1H,d);8.36〜8.49(1H,d);8.66〜8.67(2H,s)
【0256】
化合物4の合成
20gの化合物3を200mLのアセトニトリルに内温35℃で添加して溶解し、引き続き、25gの化合物α/125mLのH2O溶液を、内温10℃で滴下した。次に、撹拌しながら内温20℃まで昇温し同温度で1時間撹拌した。次に、5mLのピリジンを内温が30℃を超えない速度で滴下し、引き続き内温を50℃まで昇温して、同温度で1時間撹拌した。次に、同温度で34gの塩化リチウム/1000mLのイソプロパノール溶液を滴下し、引き続き同温度で1時間撹拌した後、室温まで徐冷した。析出した結晶をヌッチェでろ過し、1000mLのイソプロパノールで洗浄し、乾燥後18.5gの化合物4を得た。
【0257】
化合物122の合成
10gの化合物2と6.3gの化合物4を1.5mLの酢酸と100mLのエチレングリコール混合溶液に内温110℃で溶解させた。引き続き、内温80℃に冷却後、1.5gの酢酸リチウム、1.3gの塩化第二銅(無水)を添加し、内温を90℃まで加温した。同温度で3時間攪拌後、内温で、27.8mLの濃塩酸を滴下した。続いて、同温度で1時間撹拌した後、内温を60℃まで冷却し、15.0gの塩化リチウムを加え、同温度で300mLのイソプロパノールを滴下し晶析した。次に、内温を30℃まで冷却後、晶析物をろ過し、300mLのイソプロパノールで洗浄を行った。乾燥した10.0gの粗結晶を90mLのイオン交換水に溶解後、50℃で2.5N−LiOHaq.をpH10.5になるまで添加した。引き続き、同温度で水溶液をゴミ取りろ過し、ろ液を内温90℃まで昇温し、同温度で30分攪拌後、400mLのイソプロパノールを滴下して晶析した。懸濁液を室温まで冷却後、析出物を吸引ろ過し、300mLのイソプロパノールで洗浄を行い、80℃で30時間乾燥した。収量7.5g 回収率75%。溶液吸収(H2O):λmax=620.0nm,εmax=55000。
【0258】
[実施例1]
下記の成分に脱イオン水を加え1リッターとした後、30〜40℃で加熱しながら1時時間撹拌した。その後KOH 10mol/LにてpH=9に調製し、平均孔径0.25μmのミクロフィルターで減圧濾過しシアン用インク液を調製した。
【0259】
インク液Aの組成:
本発明のフタロシアニン化合物(例示化合物101) 6.80g
ジエチレングリコール 10.65g
グリセリン 14.70g
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 12.70g
トリエタノールアミン 0.65g
オルフィンE1010 0.9g
【0260】
フタロシアニン化合物を、下記表9に示すように変更した以外は、インク液Aの調製と同様にして、インク液B〜E、比較用のインク液として、以下の化合物を用いてインク液101、102、103、104を調整した。
【0261】
【化34】
【0262】
【化35】
【0263】
【化36】
【0264】
【化37】
【0265】
染料を変更する場合は、添加量がインク液Aに用いた染料に対して等モルとなるように使用した。染料を2種以上併用する場合は等モルずつ使用した。
【0266】
(画像記録及び評価)
以上の各実施例(インク液A〜E)及び比較例(インク液101〜104)のインクジェット用インクについて、下記評価を行った。その結果を表9に示した。
なお、表9において、「色調」、「紙依存性」、「耐水性」及び「耐光性」は、各インクジェット用インクを、インクジェットプリンター(EPSON(株)社製;PM−700C)でフォト光沢紙(EPSON社製PM写真紙<光沢>(KA420PSK、EPSON)に画像を記録した後で評価したものである。
【0267】
<色調>
フォト光沢紙に形成した画像を、390〜730nm領域のインターバル10nmによる反射スペクトルをGRETAG SPM100−II(GRETAG社製)を用いて測色し、これをCIE(国際照明委員会) L*a*b*色空間系に基づいて、a*、b*を算出した。
JNC(社団法人日本印刷産業機械工業会)のJAPAN Colour (日本印刷産業連合会のメンバー21社から提供された、各社の校正刷りのベタパッチを測色し、その平均値に対して色差(ΔE)が最小になるように、Japan Colour Ink SF−90及びJapan Paperを使用して印刷したときの色)の標準シアンのカラーサンプルと比較してシアンとして好ましい色調を下記のように定義した。
L* : 53.6±0.2の範囲において、
○: a*(−35.9±6の範囲)、及び、b*(−50.4±6の範囲)
△: a*、b*の一方のみ(上記○で定義した好ましい領域)
×: a*、b*のいずれも(上記○で定義した好ましい領域外)
ここで、参考に用いた JAPAN Colorの標準シアンのカラーサンプルの測色値を以下に示す。
L*: 53.6±0.2
a*:−37.4±0.2
b*:−50.2±0.2
ΔE: 0.4(0.1〜0.7)
(1)印刷機:マンローランドR−704, インキ:Japan Colour
SF−90,用紙:特菱アート
(2)測色 :測色計;X−rite 938, 0/45,D50,2deg.,black backing
【0268】
<紙依存性>
フォト光沢紙に形成した画像と、別途にプロフェショナルフォトペーパーPR101(CANON社製;QBJPRA4)に形成した画像との色調を比較し、両画像間の差が小さい場合をA(良好)、両画像間の差が大きい場合をB(不良)として、二段階で評価した。
【0269】
<耐水性>
画像を形成したフォト光沢紙を、1時間室温乾燥した後、10秒間脱イオン水に浸漬し、室温にて自然乾燥させ、滲みを観察した。滲みが無いものをA、滲みが僅かに生じたものをB、滲みが多いものをCとして、三段階で評価した。
【0270】
<耐光性>
前記画像を形成したフォト光沢紙に、ウェザーメーター(アトラスC.I65)を用いて、キセノン光(85000lx)を14日間照射し、キセノン照射前後の画像濃度を反射濃度計(X−Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。なお、前記反射濃度は、1、1.5及び2.0の3点で測定した。
何れの濃度でも色素残存率が70%以上の場合をA、1又は2点が70%未満をB、全ての濃度で70%未満の場合をCとして、三段階で評価した。
【0271】
<暗熱保存性>
前記画像を形成したフォト光沢紙を、80℃−15%RHの条件下で14日間試料を保存し、保存前後の画像濃度を反射濃度計(X−Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。色素残存率について反射濃度が1,1.5,2の3点にて評価し、いずれの濃度でも色素残存率が90%以上の場合をA、2点が90%未満の場合をB、全ての濃度で90%未満の場合をCとした。
【0272】
<耐オゾンガス性>
シーメンス型オゾナイザーの二重ガラス管内に乾燥空気を通しながら、5kV交流電圧を印加し、これを用いてオゾンガス濃度が0.5±0.1ppm、室温、暗所に設定されたボックス内に、前記画像を形成したフォト光沢紙を14日間放置し、オゾンガス下放置前後の画像濃度を反射濃度計(X−Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。なお、前記反射濃度は、1、1.5及び2.0の3点で測定した。ボックス内のオゾンガス濃度は、APPLICS製オゾンガスモニター(モデル:OZG−EM−01)を用いて設定した。
何れの濃度でも色素残存率が70%以上の場合をA、1又は2点が70%未満をB、全ての濃度で70%未満の場合をCとして、三段階で評価した。
【0273】
<インク保存安定性>
インクについて保存安定性および目詰まり回復性の試験を実施することで染料の溶解性を評価した。インク保存安定性は、インク液A〜Eをポリエチレン製容器に入れ、−15℃条件下24時間保存後、引き続き、60℃の条件下で24時間保存する;−15℃(24hr.)⇒60℃(24hr.)の繰り返しを10サイクル繰り返して、保存前後の不溶物析出の有無を調べ、下記基準で評価した。
[判定基準]
経時後の記録液を試験管にとり目視で観察した。
○:不溶分が全く認められない状態である。
△:不溶分が少量認められる状態である。
×:不溶分が目立ち、実用レベルでない状態である。
【0274】
<目詰まり回復性>
プリンターに各インクを充填し、キャップをしない状態で40℃の環境に1ヶ月間放置し、放置後、全ノズルが正常吐出するまでに要するクリーニングの動作回数から、下記基準で評価した。
[判定基準]
A;クリーニング2回以内で復帰する。
B;クリーニング3〜5回で復帰する。
C;クリーニング6回以上で復帰する。
NG;復帰しない。
【0275】
<溶解度>
蒸留水5mlに対して、染料を混合させ、マグネティックスターラーで30分間攪拌した。攪拌後、染料が溶媒に完溶したかどうかを確認した。評価は、以下に示されるように定義し、3段階で行った
○:染料0.5gが溶媒5mlに完溶する
△:染料0.5gは完溶しないが、染料0.1gでは溶媒5mlに完溶する
×:染料0.1gが溶媒5mlに完溶しない
【0276】
<酸化電位:Eox>
実施例・比較例で用いたフタロシアニン染料(混合物)の酸化電位の値は、以下の条件で測定した。
フタロシアニン染料を10.0mgから25.0mgの範囲で秤量し、0.1mol・dm−3の過塩素酸テトラプロピルアンモニウムを支持電解質として含むN,N−ジメチルホルムアミド 5mlから15ml(色素の濃度は約0.001mol・dm−3)で直流ポーラログラフィーにより測定した。ポーラログラフィ装置には、作用極として炭素(GC)電極を、対極として回転白金電極を用いて、酸化側(貴側)に掃引して得た酸化波を直線近似してそのピーク値との交点と残余電流値との交点の中点を酸化電位の値(vs SCE)とした。
【0277】
【表9】
【0278】
表9から明らかなように、本発明のインクジェット用インクは色調に優れ、紙依存性が小さく、耐水性、耐光性、耐熱性および耐オゾン性に優れるものであった。特に耐光性、耐熱性および耐オゾン性等の画像保存性に優れることは明らかである。
また、本発明の調製法によるインク液は、厳しい保存条件に曝されても低溶解成分の析出による印字の悪化が無く、インク保存安定性、および目詰まり回復性に優れる事が判った。
【0279】
[実施例2]
実施例1で作製した同じインクを用いて、実施例1の同機にて画像を富士写真フイルム製インクジェットペーパーフォト光沢紙EXにプリントし、実施例1と同様な評価を行ったところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0280】
[実施例3]
実施例1で作製した同じインクを、インクジェットプリンターBJ−F850(CANON社製)のカートリッジに詰め、同機にて同社のフォト光沢紙GP−301に画像をプリントし、実施例1と同様な評価を行ったところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0281】
[実施例4]
実施例1の試験方法を、下記の環境試験方法に変更した以外は、実施例1と同じ操作を用いて試験を行なった。すなわち、自動車の排気ガスなどの酸化性ガスと太陽光の照射を受ける屋外環境をシミュレートした酸化性ガス耐性試験方法として、 H.Iwano, et al; Journal of Imaging Science and Technology ,38巻、140−142(1944)に記載の相対湿度80%、過酸化水素濃度120ppm、蛍光灯照射チャンバーを用いた酸化耐性試験方法を用いて試験した。試験の結果は、実施例1と同様の結果であった。
【0282】
【発明の効果】
本発明によれば、三原色の色素として色再現性に優れた吸収特性を有し、且つ光,熱,湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有する新規なフタロシアニン化合物が提供される。さらに、色相と堅牢性に優れた着色画像や着色材料を与える、インクジェットなどの印刷用のインク、感熱転写型画像形成材料におけるインクシート、電子写真用のトナー、LCD、PDPやCCDで用いられるカラーフィルター用着色組成物、各種繊維の染色の為の染色液などの各種着色組成物を提供することができる。
特に、本発明のフタロシアニン化合物の使用により、良好な色相を有し、熱、水、光及び環境中の活性ガス、特にオゾンガスに対して堅牢性の高い画像を形成することができる、インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法及び形成画像保存性改良方法が提供される。
Claims (9)
- 下記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物。
Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
Pcは、一般式(II)で表されるフタロシアニン核を表す。
X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に、−SO−R1および−SO2−R2から選ばれる置換基を表し、且つ、フタロシアニン核中の4つのベンゼン環{一般式(II)中のA、B、C、D}の各々に、X1、X2、X3、X4のいずれかが少なくとも1個以上存在する。R1およびR2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。但し、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有し、且つ、X1、X2、X3、X4の少なくとも1つは、5〜8員の含窒素へテロ環基(縮合環を有していてもよい)を置換基として有する。
kは1≦k<8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表し、mは0≦m≦7の数を表し、nは0≦m≦7の数を表す。但し、4≦k+l+m+n≦8を満たす。
一般式(II)中;
Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7、Y8はそれぞれ独立に、水素原子または一価の置換基を表す。 - 前記X1、X2、X3、X4の少なくとも1つが、下記一般式(III)、(IV)または(V)で表される含窒素へテロ環基を置換基として有することを特徴とする請求項1に記載のフタロシアニン化合物。
Zは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、−Cl、−NR3R4、−SR5、または−OR5を表す。
Jは、水素原子、−Cl、−SR6、または−OR6を表す。
Eは、−Cl、または−CNを表す。
R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R3、R4は互いに結合して含窒素5員または6員環を形成してもよい。 - 前記一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物が、下記一般式(VIII)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフタロシアニン化合物。
Mは、水素原子、金属原子、またはその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
Pcは、請求項1に記載の一般式(II)、請求項4に記載の一般式(VI)または請求項5に記載の一般式(VII)で表されるフタロシアニン核を表す。
L1、L2はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキレン、置換もしくは無置換のフェニレン、置換もしくは無置換のナフチレン、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
Z1、Z2はそれぞれ独立に、−NR7R8、−SR9、または−OR9を表し、Gはイオン性親水性基を表す。R7、R8、R9、R10はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。R7、R8は互いに結合して含窒素5員または6員環を形成してもよい。
kは1≦k≦8の数を表し、lは0≦l≦7の数を表す。但し、4≦k+l≦8を満たす。 - 請求項1〜5のいずれかに記載のフタロシアニン化合物を含有することを特徴とするインク。
- インクジェット記録に用いられることを特徴とする請求項6に記載のインク。
- 支持体上に、白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有する受像材料上に、請求項7に記載のインクを用いて画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
- 請求項7に記載のインクを用いて画像形成することを特徴とする着色画像のオゾンガス耐性改良方法。
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JP2003066929A JP2004277456A (ja) | 2003-03-12 | 2003-03-12 | フタロシアニン化合物、インク、インクジェット記録方法および着色画像のオゾンガス耐性改良方法 |
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