JP2004272031A - 電子ビーム描画方法、母型の製造方法、母型、金型の製造方法、金型、光学素子及び電子ビーム描画装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】他工程にて蓄積した加工誤差を解消する補正を行い、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる電子ビーム描画方法を提供する。
【解決手段】例えば、被描画面(曲面部100a)の高さ位置の誤差δtが正の値となる場合には、その部分を描画する際のドーズ量Dmは、設計値通りのドーズ量D0よりも、誤差δt分を描画するだけ大きく調整する。また、誤差δtが負の値となる場合には、その部分を描画する際のドーズ量Dmは、設計値通りのドーズ量D0よりも、誤差δt分を描画するだけ小さく調整する。これにより、切削加工工程での加工誤差(母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差δt1)や、レジスト膜形成工程での加工誤差(母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差δt2)を解消して、所定の形状が得られる、即ち、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる。
【選択図】 図16
【解決手段】例えば、被描画面(曲面部100a)の高さ位置の誤差δtが正の値となる場合には、その部分を描画する際のドーズ量Dmは、設計値通りのドーズ量D0よりも、誤差δt分を描画するだけ大きく調整する。また、誤差δtが負の値となる場合には、その部分を描画する際のドーズ量Dmは、設計値通りのドーズ量D0よりも、誤差δt分を描画するだけ小さく調整する。これにより、切削加工工程での加工誤差(母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差δt1)や、レジスト膜形成工程での加工誤差(母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差δt2)を解消して、所定の形状が得られる、即ち、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる。
【選択図】 図16
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子ビームによる描画技術に関するものであり、特に被描画対象となる基材に対して、所定のパターン、例えば光学素子に対応する回折パターン等を描画する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、情報記録媒体としてCD、DVDなどが広く利用されており、これらの記録媒体から情報を読み取る読取装置などの精密機器には、多くの光学素子が使用されている。
【0003】
近年においては、これらの光学素子に要求されるスペックや性能が向上してきており、特に、DVDなどの記録媒体におけるピックアップレンズでは、記録密度の増加に対して、より精度の高い回折構造を形成することが要求されている。
具体的には、光の波長より小さいレベル、例えばnmレベルでの加工精度が求められている。
【0004】
ところで、これらの光学素子、例えば光レンズなどは、低コスト化並びに小型化の観点から、ガラス製の光レンズよりも樹脂製の光レンズを用いることが多く、このような樹脂製の光レンズは、一般の射出成形によって製造されている。
【0005】
従って、例えば光学機能面に回折構造などを有する光学素子を製造する際には、この光学素子を射出成形するための成形型に、予め、そのような回折構造を付与するための面を形成しておく必要がある。
【0006】
これまで、成形型は一般的な成形技術や加工技術の切削バイトによって加工されてきたが、そのような回折構造などの微細な形状を形成しようとすると、加工精度が劣るとともに、バイトの強度や寿命の点で限界があり、サブミクロンオーダー、或いは、それ以下のレベルでの精密な加工を行うことは困難である。
【0007】
そこで、母型となる基材に、そのような回折構造などの微細な形状を描画して、これを現像処理することで微細な形状を形成して母型を得て、この母型を用いて電鋳を行うことで、金型に微細な形状を転写形成して成形型を得ることが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002‐333722号公報
(段落〔0161〕‐〔0170〕、第13図)
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような製造工程においては、従来が切削加工工程のみを必要としたのに対して、素材を切削することで基材を得る切削加工工程と、基材上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、基材上のレジスト膜に微細な形状を描画する描画工程と、これを現像する現像工程と、これをエッチングして母型を得るエッチング工程と、母型を用いて電鋳を行う電鋳工程などが必要になり、工程数は1から6以上へと増加する。
【0010】
しかしながら、このように工程数が増加すると、各工程における加工誤差が蓄積して、その総合誤差は、下記式のようになる。
総合誤差=sqrt(p12+p22+p32+・・・+p62+・・・)
(pn:n工程における誤差)
【0011】
因みに、工程数が1の場合と6の場合とで比較を行うと、工程数が6の場合には、工程数が1の場合と同程度の総合誤差を維持するためには、各工程において要求される加工精度は、これまでの1/2〜1/3となる。
【0012】
ところが、ODレンズのような光学素子の場合には、描画工程においては、設計値に対して数十nm以内のレベルでの加工精度が求められるため、それ以上の精度を実現することは極めて困難な目標となる。
【0013】
従って、工程数の増加による加工誤差の蓄積を解消するべく、何れかの工程において、その誤差の補正を行う必要が生じることとなった。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、他の工程において蓄積された加工誤差を解消する補正を行って、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる電子ビーム描画方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基材に対して電子ビームを照射して走査することで、前記基材上に所定の回折構造を描画する電子ビーム描画方法であって、前記基材の表面の高さ分布の規定値からの誤差を測定する形状測定工程と、前記高さ分布の規定値からの誤差を補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整する描画調整工程と、前記調整された照射量に従って、電子ビームを照射して走査することで、前記個々の回折格子を描画する描画工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、基材に対して電子ビームを照射して走査することで、前記基材上に所定の回折構造を描画する電子ビーム描画方法であって、前記基材上に形成されたレジスト膜の膜厚分布の規定値からの誤差を測定する膜厚測定工程と、前記膜厚分布の規定値からの誤差を補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整する描画調整工程と、前記調整された照射量に従って、電子ビームを照射して走査することで、前記個々の回折格子を描画する描画工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。尚、以下においては、光学素子を得るまでの流れに沿って、母型の製造方法、電子ビーム描画方法、電子ビーム描画装置、金型の製造方法、光学素子の順に説明する。
【0018】
[母型の製造方法 第1部]
まず、母型の製造方法(第1部)について、図1に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0019】
<切削加工工程>
図1に示すように、まず、SiO2、ポリシリコン又はポリオレフィン等の樹脂材料からなる略半球型の形状を有する母型の素材110を、金属など導電性の素材からなる円盤状の基材111の中央開口111pに埋め込み、接着剤にて相対回転不能に固定して(図3(a)参照)、部材Eを得る(ステップS01)。
尚、部材Eは、本発明の「基材」に対応する。次に、治具(以下、ヤトイと呼ぶ)150の中央孔151を介して貫通させ、基材111のネジ孔111gに螺合させたボルト152により、基材111に対してヤトイ150を取り付けると共に、基材111に合マークMXとID番号NXを付与する(ステップS02)。
図4に示すように、このID番号NXは、取り付けたヤトイ150の個々に付された番号であり、それを特定するための情報として機能する。尚、本例では、基材111の外周面を接線方向に細い平面で切り取った溝111h内に、レーザー描画でID番号NXを刻設するようにしたが、印刷であっても良い。また、溝は、同一深さの全周溝であっても良い。また、基材111との位相を合わせるための合マークMXも、レーザー加工で刻設することができる。
【0020】
次に、不図示のコンピュータ内に構築されたプロセス管理データベース内に、この部材Eに対応づける形で、ヤトイのID番号NX、取付面(方向)、締め付けトルク、作業環境温度(雰囲気温度)等を記憶する(ステップS03)。その後、不図示の超精密旋盤(SPDT加工機)のチャックに、ヤトイ150を介して部材Eを取り付ける(ステップS04)。さらに、部材Eを回転させなから、ダイヤモンド工具により、基材111の外周面111fを切削加工することで超精密旋盤、例えば、SPDT(Single Point Diamond Turning)加工機の回転軸に対して精度良く形成し、又、母型の素材110の上面を、図3(b)に示すように切削加工し、母光学面(成形しようとする光学素子の光学曲面に相当)110aを形成し、且つ、基材111の上面に周溝111a(第1のマーク)を切削加工する(ステップS05)。この際、温度コントロールを実施しながら、送り量及び切込量を制御して、曲面の表面祖さ50nm乃至は20nmを得る。また、このとき、母光学面110aの光軸の位置は、その外形から確認することはできないが、同時に加工されることから母光学面110aと周溝111aとは、精度良く同軸に形成されることとなり、又、円筒面に形成された基材111の外周面111fも、光軸と精度良く同軸に形成される。ここで、周溝111aは、例えば、暗視野部(凹部に相当)と明視野部(凸部に相当)とからなる複数の溝から形成されてよく、暗視野部、明視野部を各々複数個有するとさらに好ましい(これは、ダイヤモンド工具の先端が凹凸を有するものであれば、容易に形成できる)。また、周溝111aの凹凸形状により、後述するごとく塗布されるレジスト飛散防止の堤防としても機能させることができる。
【0021】
さらに、不図示のコンピュータに構築したプロセス管理データベースに、部材Eの切削加工時の作業環境温度を記憶し、且つ、部材EをSPDT加工機から取り外し(ステップS06)、ボルト152を緩めて部材Eからヤトイ150を取り外す(ステップS07)。そして、目視で虹色に見えるダイヤモンド工具による加工痕(ツールマーク)を研磨して、虹色が見えなくなるまで研磨する。さらに、部材Eを、不図示のFIB(Focused Ion Beam)加工機のステージ上にセットする(ステップS08)。次に、FIB加工機のステージ上の部材Eにおける周溝111aを読み取り、例えばその内側エッジから母型の素材110の光軸の位置を決定し(ステップS09)、決定した光軸から等距離で3つ(4つ以上でも良い)の第2のマーク111bを、基材111上に描画する(図3(b)及び図5参照)(ステップS10)。ダイヤモンド工具により加工形成した周溝111aの幅は比較的広いため、これを用いて加工の基準とすることは、加工精度を低下させる恐れがあるが、FIB加工機は、幅が20nm程度の精度の高い線を形成できるため、例えば十字線を形成すると、20nm×20nmの微細なマークを形成することができ、それを加工の基準とすることで、より高精度な加工が可能となる。次に、部材EをFIB加工機のステージから取り外す(ステップS11)。細かい
【0022】
[電子ビーム描画方法 第1部]
続いて、電子ビーム描画方法(第1部)について、図1に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0023】
<形状測定工程>
図1に示すように、続いて、部材Eを後述する形状測定器(画像認識手段と記憶手段とを有する)にセットし(ステップS12)、形状測定器の画像認識手段を用いて、第2のマーク111bを検出する(ステップS13)。さらに、測定により得られた、若しくは、超精密旋盤に用いた母型の素材110の母光学面110aの3次元座標を、第2のマーク111bに基づく3次元座標に変換して、さらに、この第2のマーク111bに基づく3次元座標から、母型の素材110の母光学面110aの高さ位置に関する規定値、即ち、設計値からの誤差分布データを作成し、これらを記憶手段に記憶する(ステップS14)。このように、母光学面110aを新たな3次元座標で記憶し直すのは、後述する描画工程で電子ビーム描画を行う際に、母光学面110aの被描画面に対して電子ビームの焦点深度を合わせるために、電子銃と部材Eとの相対位置を調整する必要などがあるからである。尚、第2のマーク111bは、測定の際、測定データにかかる座標の基準点がどこなのかを作業者が視認するための位置認識のためのマークとして利用できる。その後、部材Eを形状測定器から取り外す(ステップS15)。
【0024】
(形状測定器)
ここで、形状測定器について、図6を参照しながら説明する。
【0025】
図6に示すように、測定器200は、第1のレーザー測長器201、第2のレーザー測長器202、ピンホール205、ピンホール206、第1の受光部203及び第2の受光部204などを有し、さらに、これらの測定結果を算出するための不図示の測定算出部、測定結果を記憶する記憶部、各種制御系を備えた不図示の制御手段などを含み構成される。
【0026】
このような構成において、第1のレーザー測長器201から部材Eに対して第1の光ビームS1を照射し、母型の素材110の平坦部110bで反射される第1の光ビームS1をピンホール205を介して第1の受光部203により受光して、第1の光強度分布を検出する。
【0027】
この際に、第1の光ビームS1は、母型の素材110の平坦部110bにて反射されるため、第1の強度分布に基づき、母型の素材110の平坦部110b上の(高さ)位置が測定算出されることになる。
【0028】
さらに第2のレーザー測長器202から第1の光ビームS1と異なる方向から部材Eに対して第2の光ビームS2を照射し、母型の素材110の母光学面110aを透過する第2の光ビームS2をピンホール206を介して第2の受光部204により受光して、第2の光強度分布を検出する。
【0029】
この場合、第2の光ビームS2は、母型の素材110の母光学面110a上を透過することとなるので、第2の強度分布に基づき、母型の素材110の平坦部より突出する母光学面110a上の(高さ)位置が測定算出されることになる。尚、この母型の素材110の母光学面110a上の(高さ)位置の測定算出の原理については、後述する電子ビーム描画装置の測定器の処で説明する。
【0030】
[母型の製造方法 第2部]
続いて、母型の製造方法(第2部)について、図1及び図2に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0031】
<レジスト膜形成工程>
図1に戻って、次に、第2のマーク111b上に保護テープ113を貼り付ける(図3(c)参照)(ステップS16)。この保護テープ113は、後加工で母型の素材110上に塗布されるレジストLが、第2のマーク111bに付着しないようにするためのものである。これは、レジストLが第2のマーク111bに付着すると、加工の基準として読み取りが不適切になるためである。尚、保護テープによる保護は、図3(c)で示され、1つの第2のマーク111bのみ保護する場合を示しているが、他の第2のマーク111bについても同様である。さらに、部材Eを不図示のスピンコータにセットし(ステップS17)、レジストLを母型の素材110上に流下させながら被レジスト塗布基材を回転するプレスピンを実施し(ステップS18)、その後、レジストLの流下を停止して被レジスト塗布基材を回転させる本スピンを実施し、レジストLの被膜を行う(図3(d)参照)(ステップS19)。プレスピンと本スピンとを分けることにより、複雑な曲面である母光学面110aに、均一な膜厚のレジストLを被膜させることが可能となる。ここで、レジストLは、加熱又は紫外線等によって硬化する高分子の樹脂材料が用いられており、電子ビームによって与えられたエネルギー量に応じて分子間の結合が切れ分解される特性を有している(分解された部分は後述する現像液によって除去される)。
【0032】
その後、部材Eをスピンコータから取り外し(ステップS20)、部材Eに対してベーキング(加熱)処理を施すことで、レジストLの被膜を安定させる(ステップS21)。この際の温度は、ほぼ170℃で、ほぼ20分間加熱する。さらに、保護テープ113を剥がす(ステップS22)。係る状態の部材Eが、図3(d)に示されている。
【0033】
[電子ビーム描画方法 第2部]
続いて、電子ビーム描画方法(第2部)について、図2に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0034】
<膜厚測定工程>
図2に示すように、さらに、部材Eを不図示の膜厚測定器(画像認識手段と記憶手段とを有する)にセットし(ステップS23)、膜厚測定器の画像認識手段を用いて、第2のマーク111bを検出する(ステップS24)。さらに、母型の素材110の母光学面110aに塗布されたレジストLの膜厚分布を、第2のマーク1011bに基づく膜厚分布に変換して、さらに、この第2のマーク111bに基づく膜厚分布から、規定値、即ち、得ようとする膜厚値からの誤差分布データを作成し、これらを記憶手段に記憶する(ステップS25)。このように、第2のマーク111bに基づくレジストLの膜厚の規定値からの誤差分布データを作成することで、これを、上述した形状測定器での母型の素材110の母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差分布データと対応付けることができる。その後、部材Eを膜厚測定器から取り外す(ステップS26)。
【0035】
<描画調整工程>
さらに、部材Eを、後述する電子ビーム描画装置の3次元ステージにセットし(ステップS27)、測定器(走査型電子顕微鏡(SEM):電子ビーム描画装置に付属していると好ましい)を介して部材Eの第2のマーク111bを検出し(ステップS28)、その検出結果と、入力部より入力される形状測定器200及び膜厚測定器からの測定情報、具体的には、部材Eの形状データ、即ち、母光学面110aの3次元座標と、母光学面110aに塗布されたレジストLの膜厚分布とから求められる母光学面110aの被描画面(レジストLの膜表面)の形状とから、母光学面110aの被描画面に描画する所定の描画パターンに関する形状データを作成する(ステップS29)。因みに、母光学面110aの被描画面の形状は、部材Eの第2のマーク111bの検出と共に、測定器により測定しても良い。
【0036】
さらに、所定の描画パターンを構成する回折輪帯を描画する際の電子ビームの照射量、即ち、ドーズ量を調整する。具体的には、入力部より入力される形状測定器200及び膜厚測定器からの測定情報、具体的には、部材Eの形状データ、即ち、母光学面110aの3次元座標と、母光学面110aに塗布されたレジストLの膜厚分布とから母光学面110aの被描画面(レジストLの膜表面)の形状を求め、さらに、各々の誤差分布データ(母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差分布データ、母光学面110aに塗布されたレジストLの膜厚の規定値からの誤差分布データ)に基づいて、所定の形状が得られるようにドーズ量を調整する(ステップS30)。尚、この描画調整工程の詳細については、後述する(描画調整工程の詳細)の処で説明する。
【0037】
<描画工程>
さらに、求めた被描画面の形状に所定の描画パターンを描画するべく、被描画面に電子ビームの焦点が合うように3次元ステージを移動させて、電子ビーム(図3(d)参照)を所定のドーズ量(補正された後のドーズ量)になるよう照射して、母光学面110a上のレジストLの膜に所定の描画パターン、例えば回折構造に対応する個々の回折格子、例えば回折輪帯を描画する(ステップS31)。
【0038】
(描画装置の構成)
ここで、電子ビーム描画装置の全体構成について、図7を参照しながら説明する。尚、以下においては、母型の素材110の母光学面110a上にレジストLの膜が形成された部材Eは、基材100に対応するものとする。
【0039】
図7に示すように、電子ビーム描画装置1は、大電流で高解像度の電子線プローブを形成して高速に描画対象の基材100上を走査するものであり、高解像度の電子線プローブを形成し、電子ビームを生成してターゲットに対してビーム照射を行う電子銃2と、この電子銃2からの電子ビームを通過させるスリット3と、スリット3を通過する電子ビームの基材100に対する焦点位置を制御するための電子レンズ4と、電子ビームが出射される経路上に配設されたアパーチャー5と、電子ビームを偏向させることでターゲットである基材100上の走査位置等を制御する偏向器6と、偏向を補正する補正用コイル7と、を含み構成される。これらの各部は、鏡筒8内に配設されて電子ビーム出射時には真空状態に維持される。尚、電子銃2は、本発明の「電子ビーム照射手段」に対応する。また、偏向器6は、本発明の「走査手段」に対応する。
【0040】
さらに、電子ビーム描画装置1は、描画対象となる基材100を載置するための載置台であるXYZステージ9と、このXYZステージ9上の載置位置に基材100を搬送するための搬送手段であるローダ10と、XYZステージ9上の基材100の表面の基準点を測定するための測定手段である測定装置11と、XYZステージ9を駆動するための駆動手段であるステージ駆動装置12と、ローダを駆動するためのローダ駆動装置13と、鏡筒8内及びXYZステージ9を含む筐体14内を真空となるように排気を行う真空排気装置15と、これらの制御を司る制御手段である制御回路20と、を含み構成される。
【0041】
尚、電子レンズ4は、高さ方向に沿って複数箇所に離間して設置される各コイル4a、4b、4cの各々の電流値によって電子的なレンズが複数生成されることで各々制御され、電子ビームの焦点位置が制御される。
【0042】
測定装置11は、基材100に対してレーザーを照射することで基材100を測定するレーザー測長器11aと、レーザー測長器11aにて発光されたレーザー光が基材100を反射し当該反射光を受光する受光部11bと、を含み構成される。尚、この詳細については後述する。
【0043】
ステージ駆動装置12は、XYZステージ9をX方向に駆動するX方向駆動機構と、Y方向に駆動するY方向駆動機構と、Z方向(電子ビームの進行方向)に駆動するZ方向駆動機構と、θ方向に駆動するθ方向駆動機構と、を含み構成される。これにより、XYZステージ9を3次元的に動作させたり、アライメントを行うことができる。
【0044】
制御回路20は、電子銃2に電源を供給するための電子銃電源部21と、この電子銃電源部21での電流、電圧などを調整制御する電子銃制御部22と、電子レンズ4(複数の各電子的なレンズを各々)を動作させるためのレンズ電源部23と、このレンズ電源部23での各電子レンズに対応する各電流を調整制御するレンズ制御部24と、を含み構成される。
【0045】
さらに、制御回路20は、補正用コイル7を制御するためのコイル制御部25と、偏向器6にて成形方向の偏向を行うと共に、主走査方向及び副走査方向の偏向を行うための偏向部26と、偏向部26を制御するためにデジタル信号をアナログ信号に変換制御するD/A変換器27と、を含み構成される。
【0046】
さらに、制御回路20は、偏向器6における位置誤差を補正する、即ち、位置誤差補正信号などをD/A変換器27に対して供給して位置誤差補正を促す、或いは、コイル制御部25に対して当該信号を供給することで、補正用コイル7にて位置誤差補正を行う位置誤差補正回路28と、これら位置誤差補正回路28並びにD/A変換器27を制御して電子ビームの電界を制御する電界制御手段である電界制御回路29と、描画パターンなどを基材100に対応して生成するためのパターン発生回路30と、を含み構成される。
【0047】
さらに、制御回路20は、レーザー測長器11aを上下左右に移動させることによるレーザー照射位置の移動及びレーザー照射角の角度等の駆動制御を行うレーザー駆動制御回路31と、レーザー測長器11aでのレーザー照射光の出力(レーザーの光強度)を調整制御するためのレーザー出力制御回路32と、受光部11bでの受光結果に基づき、測定結果を算出するための測定算出部33と、を含み構成される。
【0048】
さらに、制御回路20は、ステージ駆動装置12を制御するためのステージ制御回路34と、ローダ駆動装置13を制御するローダ制御回路35と、上述のレーザー駆動回路31、レーザー出力制御回路32、測定算出部33、ステージ制御回路34、ローダ制御回路35を制御する機構制御回路36と、真空排気装置15の真空排気を制御する真空排気制御回路37と、上述した形状測定装置や膜厚測定装置からの測定情報を入力するための測定情報入力部38と、入力された測定情報やその他の情報を記憶するための記憶手段であるメモリ39と、各種制御を行うための制御プログラムを記憶したプログラムメモリ40と、これらの各部の制御を司る例えばCPUなどにより構成された制御部41と、を含み構成される。尚、測定情報入力部38は、本発明の「形状情報取得手段」及び「膜厚情報取得手段」に対応する。
【0049】
(描画処理)
このような構成を有する電子ビーム描画装置1において、ローダ10によって搬送された基材100がXYZステージ9上に載置されると、真空排気装置15によって鏡筒8及び筐体14内の空気やダストなどを排気した後、電子銃2から電子ビームが照射される。
【0050】
電子銃2から照射された電子ビームは、電子レンズ4を介して偏向器6により偏向され、偏向された電子ビームB(以下、この電子レンズ4を通過後の偏向制御された電子ビームに関してのみ「電子ビームB」と符号を付与することがある)は、XYZステージ9上の基材100の表面、例えば曲面部(曲面)100上の描画位置に対して照射されることで描画が行われる。
【0051】
この際に、測定装置11によって、基材100上の描画位置(描画位置のうち少なくとも高さ位置)、若しくは、後述するような基準点の位置が測定され、制御回路20は、当該測定結果に基づき、電子レンズ4のコイル4a、4b、4cなどに流れる各電流値などを調整制御して、電子ビームBの焦点位置を制御し、当該焦点位置が前記描画位置となるように移動制御される。
【0052】
尚、図8に示すように、電子ビームは、深い焦点深度FZを有しているが、電子レンズ4の幅Dに対して絞り込まれた電子ビームBは、ほぼ一定の太さのビームウエストBWを形成し、このビームウエストBWの範囲の電子ビーム進行方向における長さが、ここでいう焦点深度FZに相当する。焦点位置は、このビームウエストBWの電子ビーム進行方向における位置であり、ここではビームウエストBWの電子ビーム進行方向における中央位置とする。
【0053】
或いは、測定結果に基づき、制御回路20は、ステージ駆動装置12を制御することにより、電子ビームBの焦点位置が描画位置となるようにXYZステージ9を移動させる。
【0054】
基材100と電子ビームBの焦点位置の相対的な移動制御は、電子ビームBの焦点位置の制御、XYZステージ9の制御の何れか一方の制御によって行っても、双方を利用して行ってもよいが、電子ビームBの制御において電子レンズ4の調整を行う場合は、電子ビームBの偏向の変化による誤差を補正する必要があるため、XYZステージ9の移動制御により行うことが好ましい。
【0055】
(測定装置)
ここで、測定装置11について、図9を参照しながら説明する。図9に示すように、測定装置11は、より詳細には、レーザー測長器11aを構成する第1のレーザー測長器11aa及び第2のレーザー測長器11abと、受光部11bを構成する第1の受光部11ba及び第2の受光部11bbなどを有している。
【0056】
このような構成において、第1のレーザー測長器11aaにより電子ビームと交差する方向から基材100に対して第1の光ビームS1を照射し、基材100の平坦部100bで反射される第1の光ビームS1の受光によって、第1の光強度分布が検出される。
【0057】
この際に、第1の光ビームS1は、基材100の平坦部100bにて反射されるため、第1の強度分布に基づき、基材100の平坦部100b上の(高さ)位置が測定算出されることになる。尚、ここで高さ位置とは、Z方向、即ち電子ビームBの進行方向における位置を示す。
【0058】
さらに第2のレーザー測長器11abによって、第1の光ビームS1と異なる電子ビームとほぼ直交する方向から基材100に対して第2の光ビームS2を照射し、基材100を透過する第2の光ビームS2が第2の受光部11bbに含まれるピンホール11cを介して受光されることによって、第2の光強度分布が検出される。
【0059】
この場合、図10(A)〜(C)に示すように、第2の光ビームS2は、基材100の曲面部100a上を透過することとなるので、第2の強度分布に基づき、基材100の平坦部100bより突出する曲面部100a上の(高さ)位置が測定算出されることになる。
【0060】
より詳細には、図10(A)〜(C)に示すように、第2の光ビームS2がXY基準座標系における曲面部100a上のある位置(x、y)の特定の高さを透過すると、この位置(x、y)において、第2の光ビームS2が曲面部100aの曲面にて当たることにより散乱光SS1、SS2が生じ、この散乱光分の光強度が弱まることとなる。このようにして、第2の受光部11bbにて検出された第2の光強度分布に基づき、曲面部100a上の(高さ)位置が測定算出される。
【0061】
この算出の際には、第2の受光部11bbの信号出力は、図11に示す特性図のような、信号出力Opと基材100の高さとの相関関係を有するので、制御回路20のメモリ39などにこの特性、即ち、相関関係を示した相関テーブルを予め格納しておくことにより、第2の受光部11bbでの信号出力Opに基づき、基材の高さ位置を算出することができる。
【0062】
そして、この基材100の高さ位置を、例えば描画位置として、電子ビームの焦点位置の調整が行われ描画が行われることとなる。
【0063】
(描画位置算出の原理の概要)
次に、当該電子ビーム描画装置1における描画位置算出の原理について説明する。
【0064】
基材100は、図12(A)、(B)に示すように、平坦部100bと、この平坦部100bより突出形成された曲面をなす曲面部100aと、を含み構成される。この曲面部100aの曲面は、球面に限らず、非球面などの他のあらゆる高さ方向に変化を有する自由曲面であってよい。
【0065】
上述したように、基材100においては、XYZステージ9上に載置される前に、形状測定器200により第2のマーク111b、例えば3個の基準点P00、P01、P02の位置を測定しておく。これにより、例えば、基準点P00とP01によりX軸、基準点P00とP02によりY軸が定義され、3次元座標系における第1の基準座標系が算出される。ここで、第1の基準座標系における高さ位置をHo(x、y)(第1の高さ位置)とする。これにより、基材2の高さ位置分布、及び、その設計値からの誤差分布の算出を行うことができる。
【0066】
一方、基材100をXYZステージ9上に載置した後にも、同様の測定を行う。即ち、図12(A)に示すように、基材100上の第2のマーク111b、例えば3個の基準点P10、P11、P12を決定して、測定装置11を用いて、この位置を測定しておく。これによって、例えば、基準点P10とP11によりX軸、基準点P10とP12によりY軸が定義され、3次元座標系における第2の基準座標系が算出される。
【0067】
さらに、これら基準点P00、P01、P02と、P10、P11、P12により、第1の基準座標系を第2の基準座標系に変換するための座標変換行列を算出して、この座標変換行列を利用して、第2の基準座標系における前記Ho(x、y)に対応する高さ位置Hp(x、y)(第2の高さ位置)を算出して、この位置を最適フォーカス位置、即ち、描画位置として電子ビームの焦点位置が制御される。
【0068】
具体的には、図12(C)に示すように、電子ビームの焦点深度FZ(ビームウエストBW=ビーム径の最も細い所)の焦点位置を、3次元基準座標系における単位空間の1フィールド(m=1)内の描画位置に調整制御する。
【0069】
そして、図12(C)に示すように、例えば1フィールド内をY方向にシフトしつつ順次X方向に走査することにより、1フィールド内の描画が行われることとなる。さらに、1フィールド内において、描画されていない領域があれば、当該領域についても、上述の焦点位置の制御を行いつつZ方向に移動し、同様の走査による描画処理を行うこととなる。
【0070】
次に、1フィールド内の描画が行われた後、他のフィールド、例えばm=2のフィールド、m=3のフィールドにおいても、上述同様に、測定や描画位置の算出を行いつつ描画処理がリアルタイムで行われることとなる。このようにして、描画されるべき描画領域について全ての描画が終了すると、基材2の表面における描画処理が終了することとなる。
【0071】
尚、上述したような各種演算処理、測定処理、制御処理などの処理を行う処理プログラムは、プログラムメモリ40に予め制御プログラムとして格納されている。
【0072】
(制御系)
次に、当該電子ビーム描画装置1における制御系の構成について、図13を参照しつつ説明する。
【0073】
図13に示すように、メモリ39には、形状記憶テーブル39aが格納されており、この形状記憶テーブル39aには、描画パターンを構成する形状、例えばブレーズを描画する際の電子ビームの各走査位置に対応するドーズ分布を予め定義したドーズ分布情報39aaや、同じく、ブレーズの各走査位置に対応するビーム径を予め定義したビーム径情報39abや、上述した形状測定装置や膜厚測定装置からの測定情報、具体的には、基材100を構成する母型の素材110の母光学面110aの形状データと、母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚分布データ、さらには、各々の誤差分布データ(母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差分布データ、母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差分布データ)からなる補正演算情報39acや、その他の情報39bが含まれている。
【0074】
また、プログラムメモリ40には、制御部41が、後述する処理を行うための処理プログラム40aや、補正演算情報39acに基づいて描画パターンを構成する回折格子を描画する際のドーズ量、例えば、ブレーズ輪帯を描画する際のドーズ量を調整するための補正演算プログラム40bや、その他の処理プログラム40cが格納されている。
【0075】
このような構成において、制御部41は、処理プログラム40aに従って、メモリ39の形状記憶テーブル39aに格納されるドーズ分布情報39aaと、ビーム径情報39abとに基づいて、描画パターンを構成する形状、例えば図14(A)に示すブレーズ300の各走査位置に対応するドーズ量を算出すると共に、プローブ電流、走査ピッチ及び電子ビームBの径を算出する。
【0076】
また、パターン発生回路30は、描画パターンとしての回折構造の形状データ、例えば図14(B)に示すブレーズ輪帯300a(ブレーズ300による輪帯)の形状データを作成する。
【0077】
さらに、制御部41は、補正演算プログラム40bに従って、メモリ39の形状記憶テーブル39aに格納される補正演算情報39acに基づいて、後述するように、描画パターンを構成する回折格子、例えば図14(B)に示すブレーズ輪帯300aを描画する際のドーズ量を調整する。
【0078】
ところで、ドーズ量は、単位面積当たりに照射される電子ビームの延べ照射量であり、上述のドーズ量の調整は、制御部41からの指示の下、電子銃制御部22が電子銃電源部21を制御して、電子銃2に供給される電力の電流値や電圧値などを調整することにより行われる。或いは、制御部41からの指示の下、電界制御回路29がD/A変換器27を制御して、偏向器6の偏向により走査される電子ビームBの走査速度を調整することにより行われる。或いは、これら双方の調整により行われる。尚、制御部41は、本発明の「描画調整手段」に対応する。
【0079】
さらに、制御部170は、算出したプローブ電流、走査ピッチ及び電子ビームBの径に基づいて、電子銃制御部22、電界制御回路29及びレンズ制御部24などの制御を行う。これにより、描画を行う際のプローブ電流、走査ピッチ及び電子ビームBの径が適切化され、所定の描画パターンとしての回折構造が描画される。尚、制御部170は、本発明の「制御手段」に対応する。
【0080】
(描画調整工程の詳細)
ここで、上述した制御部41によるドーズ量の調整処理の詳細について説明する。
【0081】
制御部41は、まず、メモリ39の形状記憶テーブル39aに格納される補正演算情報39ac、即ち、母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差分布データδt1(r、θ)と、母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差分布データδt2(r、θ)とに基づいて、これらの和となる被描画面、即ち、曲面部100aの規定値からの誤差分布データδt(r、θ)を作成する。ここで、r:基材100の中心からの距離、θ:基材100の基準線からの角度位置である(図14(B)参照)。
【0082】
制御部41は、次に、この曲面部100a表面の高さ位置の規定値からの誤差分布データδt(r、θ)に基づいて、補正演算プログラム40bに従って、以下に説明する演算処理を行うことで、曲面部100aに回折格子を描画する際のドーズ量、即ち、この誤差分布を補正するドーズ量Dmを算出する。
【0083】
ところで、曲面部100aに描画する回折格子、例えば図14(A)に示すブレーズ300の現像進行量(現像処理により除去される部分の量)を、設計値よりも、例えば10nmだけ増加させるのに必要なドーズ量Dt(Bd)と、そのドーズを与える部分の曲面部100a表面からの深さ(設計深さ)X(Bd)との関係をグラフに表すと、図15に示すようになる。
【0084】
図15に示すように、一般に、曲面部100aに描画するブレーズの現像進行量を増加させるのに必要なドーズ量Dt(Bd)は、ドーズを与える部分の曲面部100a表面からの深さXが増すにつれて小さくなる傾向にある。しかしながら、このような関係は、回折格子の種別毎に異なるため、それらに関するデータは、予めメモリ39の形状記憶テーブル39aに補正演算情報39acとして記憶する。
【0085】
ここで、補正後のドーズ量Dm(r、θ)を、このドーズ量Dt(Bd)を用いて表すと、以下のようになる。
Dm(r、θ)=D0(r、θ)+(δt(r、θ)/10)×Dt(Bd)・・・(式1)
ここで、D0:設計値通りのドーズ量である。
【0086】
即ち、制御部41は、補正演算プログラム40bに従って、曲面部100aの高さ位置の規定値からの誤差分布δt(r、θ)を算出して、これを(式1)に代入することで、回折格子を描画する際のドーズ量を、設計値通りのドーズ量D0から、その誤差分だけ加減して、補正後のドーズ量Dm(r、θ)を算出する。
【0087】
従って、例えば図14(B)に示すように、基材100の任意のラインrn(n=1、2、3…)におけるラジアル方向の位置rにおいて、曲面部100aの高さ位置に規定値からの誤差δtが生じている場合には、設計値通りのドーズ量D0に替わって、(式1)にて算出された補正後のドーズ量Dm(r、θ)にて、その位置の回折輪帯300aを描画することとすれば、設計値通りの形状を得ることができる描画を行うことができる。
【0088】
この際、例えば図16に示すように、基材100のラジアル方向の位置rにおける曲面部100aの高さ位置の規定値からの誤差δt(δt1+δt2)が0よりも大きく、即ち、正の値となる場合には、その部分を描画する補正後のドーズ量Dmは、設計値通りのドーズ量D0よりも、その誤差分δtを描画するだけ大きくなるように調整される。逆に、0よりも小さく、即ち、負の値となる場合には、その部分を描画する補正後のドーズ量Dmは、設計値通りのドーズ量D0よりも、その誤差分δtを描画するだけ小さくなるように調整される。ここで、t1:母光学面110aの高さ位置の設計値、t2:母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値である。
【0089】
このようにしてドーズ量を調整することで、上述した切削加工工程における加工誤差(母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差δt1)と、レジスト膜形成工程における加工誤差(母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差δt2)を解消して、所定の回折構造及びこれを構成する回折格子(例えば、ブレーズ輪帯300a及びブレーズ300)を得る、即ち、所定の光学的性能を得ることができる描画を行うことができる。
【0090】
図2に戻って、このようにして、電子ビーム描画装置1にて描画後、3次元ステージ9より部材Eを取り外す(ステップS32)。
【0091】
[母型の製造方法 第3部]
続いて、母型の製造方法(第3部)について、図2に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0092】
<現像工程>
図2に示すように、さらに、不図示の現像装置によって、部材Eの現像処理を行って、輪帯形状のレジストを得る(ステップS33)。尚、同一点における電子ビームの照射時間を長くすれば、それだけレジストの除去量は増大するため、上述した描画工程においては、電子ビームの照射位置と照射時間(ドーズ量)を調整することで、ブレーズの輪帯になるよう、レジストを残すことができる。
【0093】
<エッチング工程>
さらに、不図示のエッチング装置によって、部材Eのエッチング処理を行って、母型の素材110の母光学面110aの表面を彫り込んでブレーズ状の輪帯110b(実際より誇張されて描かれている)を形成する(図3(e)参照)(ステップS34)。
【0094】
ここまでの工程により、部材Eは母型として完成される。
【0095】
[金型の製造方法]
次に、金型の製造方法について、図2に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0096】
<電鋳工程>
図2に示すように、さらに、スルファミン酸ニッケル浴中に、表面を活性処理した母型、即ち、部材Eを浸し、基材111と外部の電極114との間に電流を流すことで、電鋳120を成長させる(図3(f)参照)(ステップS35)。
このとき、基材111の外周面111fに絶縁剤を塗布することで、絶縁剤が塗布された部分の電鋳形成を抑制できる。電鋳120は、その成長の過程で、母光学面110aに精度良く対応した光学面転写面120aと、輪帯110bに精度良く対応した輪帯転写面120bとを形成する。
【0097】
その後、不図示のコンピュータに構築されているデータベースを、処理中の部材Eに対応するヤトイ150のID番号NXに基づいて検索し、得られた(即ち、切削加工工程で使用された)ヤトイ150を、所定の取り付け条件で部材E(基材111)に取り付ける(ステップS36)。この所定の取り付け条件とは、第1の工程の取り付け条件であり、具体的には、合マークMXを合致させ基材111とヤトイ150との位相を合わせること、読み出した締め付け時作業環境温度(第1の工程時の作業環境温度)に対して±1.0度の作業環境温度とすること、読み出した締め付けトルク(切削加工工程時の締め付けトルク)で締め付けを行うこと、同じボルト152を用いて取り付けることをいう。
【0098】
さらに、不図示のコンピュータに構築されているデータベースに記憶された、処理中の部材Eの切削時作業環境温度にした上で、基材111の外周面111fを基準として、部材Eと電鋳120とヤトイ150とを一体で、SPDT加工機の回転軸と部材Eの光軸とを一致させるようにしてチャックに取り付け、電鋳120の外周面120cを切削加工する(図3(g)参照)(ステップS37)。
【0099】
加えて、図3(g)に示すように、電鋳120に、裏打ち部材との位置決め部としてのピン孔120d(中央)及びネジ孔120eを加工する。尚、ピン孔120dの代わりに円筒軸を形成しても良い。加工後に、部材Eと電鋳120とヤトイ150とを一体で、SPDT加工機から取り外す。
【0100】
さらに、電鋳120を、以下に述べるように裏打ち部材と一体化することで、可動コア130を形成する(ステップS38)。
【0101】
図17は、部材Eを取り付けた状態で示す可動コア130の断面図である。図17において、可動コア130は、先端(図で右側)に配置した電鋳120と、後端(図で左側)に配置した押圧部136と、その間に配置された摺動部材135とから構成される。摺動部材135及び押圧部136が裏打ち部材となる。
【0102】
電鋳120は、そのピン孔120dに、円筒状の摺動部材135の端面中央から突出したピン部135aを係合させることで、摺動部材135と所定の関係で位置決めされ、さらに、摺動部材135を軸線に平行に貫通する2つのボルト孔135bに挿通したボルト137を、ネジ孔120eに螺合させることで、電鋳120は摺動部材135に取り付けられる。
【0103】
摺動部材135は、ピン部135aの設けられた端面(図で右端)に対向する端面(図で左端)の中央に突出して形成されたネジ軸135cを、略円筒状の押圧部136の端部に形成されたネジ孔136aに螺合させることで、押圧部136に対して所定の位置関係で取り付けられる。図17において、摺動部材135の外周面135eは、電鋳120及び押圧部136のフランジ部136b以外の部分の外周面よりも大径となっている。裏打ち部材としての摺動部材135及び押圧部136を取り付けた後、SPDT加工機のチャックにヤトイ150を取り付けるようにする(ステップS39)。
【0104】
さらに、不図示のコンピュータに構築されているデータベースから、処理中の部材Eの切削時作業環境温度にした上で、基材111の外周面111fを基準として、摺動部材135と押圧部136の外周面を仕上げる(ステップS40)。
このため、ヤトイ150を基材111より一旦取り外したにもかかわらず、母型110の同心円パターン(輪帯110b)中心と、金型摺動部外形中心との同軸度を1μm以内に収めることができる。さらに、押圧部136の端面を切削加工し、全長を規定値に収める(ステップS41)。
【0105】
その後、図17の矢印Xで示す位置でカットすることにより、摺動部材135及び押圧部136に取り付けられた電鋳120から、部材Eとヤトイ150を脱型する(ステップS42)。さらに、電鋳120と基材210を脱型後、可動コア130の先端の電鋳120を仕上げて、光学素子成形用金型を得る(ステップS43)。
【0106】
ここまでの工程により。光学素子成形用金型が製作される。
【0107】
[光学素子の製造]
図18は、このようにして形成された可動コア130を用いて光学素子を成形する状態を示す図である。図18において、光学面転写面141aを有する光学素子成形用金型141を保持する保持部142は、可動側キャビティ143に固定されている。可動側キャビティ143は、小開口143aと、それに同軸な大開口143bとを有している。可動側キャビティ143内に可動コア130を挿入したときに、摺動部材135の外周面135eが、小開口143aの内周面と摺動し、押圧部136のフランジ部136bの外周面136dが、大開口143bの内周面と摺動する。かかる2つの摺動部によって案内されることで、可動側キャビティ143に対して、大きく傾くことなく可動コア130は軸線方向に移動可能となる。
【0108】
光学素子成形用金型141、電鋳120の間に溶融した樹脂を射出し、可動コア130を矢印方向に加圧することで、光学素子OEが成形される。本実施の形態によれば、母型の素材110から精度良く転写形成された光学素子成形用金型としての電鋳120を用いることで、光学素子OEの光学面には、電鋳120の光学面転写面120aが転写形成され、且つ、輪帯転写面120bに対応した回折輪帯が光軸に同心的に精度よく形成されることとなる。
【0109】
ここまでの工程により。光学素子が製作される。
【0110】
尚、以上のようにして光学素子成形用金型を加工する場合、電鋳120に、第2のマーク111bに対応する突起(不図示)が転写形成されているため、これを加工の基準として用いることで、その外周面等の精度の良い加工を行うこともできる。
【0111】
以上に説明したように、本実施の形態における電子ビーム描画方法によれば、切削加工工程やレジスト膜形成工程において蓄積された加工誤差を解消する補正を行って、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる。
【0112】
尚、本発明に係る基材の描画方法、及び電子ビーム描画装置ついては、その特定の実施の形態に従って説明してきたが、当業者は、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく本発明の本文に記述した実施の形態に対して種々の変形が可能である。
【0113】
例えば、形状測定器200や膜厚測定器からの測定情報は、電子ビーム描画装置1の測定情報入力部158から入力される他、制御回路20と接続される不図示のネットワークを介してデータ転送されて、メモリ39などに格納されることにしても良い。
【0114】
また、部材Eの形状測定、即ち、母型の素材110の母光学面110aの3次元座標の測定は、形状測定器200によらず、電子ビーム描画装置1の測定器11によって行うことにしても良い。
【0115】
また、部材Eの形状測定後に、直ちに電子ビーム描画装置1により描画を行って、母型の素材110の母光学面110aの高さ位置の誤差を補正することにしても良い。
【0116】
また、部材Eの形状測定を行わず、部材Eにレジストを塗布した後、レジスト膜の膜厚測定のみを行って、母型の素材110の母光学面110aの高さ位置の誤差を補正することにしても良い。
【0117】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る電子ビーム描画方法によれば、他の工程において蓄積した加工誤差を解消する補正を行って、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態における母型の製造方法、電子ビーム描画方法及び金型の製造方法を構成する工程を示すフローチャートである。
【図2】本実施の形態における母型の製造方法、電子ビーム描画方法及び金型の製造方法を構成する工程を示すフローチャートである。
【図3】図1及び図2に示す主要な工程において、処理される母型の素材と電極部材の組立体、即ち、部材Eを示す断面図である。
【図4】ヤトイを取り付けた部材Eの斜視図である。
【図5】図4に示す部材Eの上面図である。
【図6】形状測定器の全体構成を示す説明図である。
【図7】電子ビーム描画装置の全体構成を示す説明図である。
【図8】電子ビームのビームウエストを説明するための説明図である。
【図9】測定装置の全体構成を説明するための説明図である。
【図10】測定装置の測定原理を説明するための説明図である。
【図11】信号出力と基材の高さとの関係を示す特性図である。
【図12】同図(A)(B)は、電子ビーム描画装置により描画される基材を示す説明図であり、同図(C)は、電子ビーム描画装置の描画原理を説明するための説明図である。
【図13】電子ビーム描画装置の制御系の構成を示す説明図である。
【図14】基材の被描画面の形状誤差に応じてドーズ量が調整される過程を説明するための説明図である。
【図15】基材の被描画面の現像進行度を所定量だけ多くするのに必要なドーズ量と、そのドーズを与える部分の基材の被描画面からの深さとの関係を表す説明図である。
【図16】基材の被描画面の形状誤差と回折輪帯を描画する補正後のドーズ量との関係を説明するための説明図である。
【図17】可動コアの断面図である。
【図18】可動コアを用いて光学素子を成形する状態を示す図である。
【符号の説明】
100 基材
100a 曲面部
300 ブレーズ
Dm 補正後のドーズ量
D0 設計値通りのドーズ量
r ラジアル方向における位置
t1 母光学面の高さ位置の設計値
t2 母光学面に塗布されたレジストの膜厚の規定値
δt 被描画面(曲面部)の高さ位置の誤差
δt1 母光学面の高さ位置の設計値からの誤差
δt2 母光学面に塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子ビームによる描画技術に関するものであり、特に被描画対象となる基材に対して、所定のパターン、例えば光学素子に対応する回折パターン等を描画する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、情報記録媒体としてCD、DVDなどが広く利用されており、これらの記録媒体から情報を読み取る読取装置などの精密機器には、多くの光学素子が使用されている。
【0003】
近年においては、これらの光学素子に要求されるスペックや性能が向上してきており、特に、DVDなどの記録媒体におけるピックアップレンズでは、記録密度の増加に対して、より精度の高い回折構造を形成することが要求されている。
具体的には、光の波長より小さいレベル、例えばnmレベルでの加工精度が求められている。
【0004】
ところで、これらの光学素子、例えば光レンズなどは、低コスト化並びに小型化の観点から、ガラス製の光レンズよりも樹脂製の光レンズを用いることが多く、このような樹脂製の光レンズは、一般の射出成形によって製造されている。
【0005】
従って、例えば光学機能面に回折構造などを有する光学素子を製造する際には、この光学素子を射出成形するための成形型に、予め、そのような回折構造を付与するための面を形成しておく必要がある。
【0006】
これまで、成形型は一般的な成形技術や加工技術の切削バイトによって加工されてきたが、そのような回折構造などの微細な形状を形成しようとすると、加工精度が劣るとともに、バイトの強度や寿命の点で限界があり、サブミクロンオーダー、或いは、それ以下のレベルでの精密な加工を行うことは困難である。
【0007】
そこで、母型となる基材に、そのような回折構造などの微細な形状を描画して、これを現像処理することで微細な形状を形成して母型を得て、この母型を用いて電鋳を行うことで、金型に微細な形状を転写形成して成形型を得ることが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002‐333722号公報
(段落〔0161〕‐〔0170〕、第13図)
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような製造工程においては、従来が切削加工工程のみを必要としたのに対して、素材を切削することで基材を得る切削加工工程と、基材上にレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、基材上のレジスト膜に微細な形状を描画する描画工程と、これを現像する現像工程と、これをエッチングして母型を得るエッチング工程と、母型を用いて電鋳を行う電鋳工程などが必要になり、工程数は1から6以上へと増加する。
【0010】
しかしながら、このように工程数が増加すると、各工程における加工誤差が蓄積して、その総合誤差は、下記式のようになる。
総合誤差=sqrt(p12+p22+p32+・・・+p62+・・・)
(pn:n工程における誤差)
【0011】
因みに、工程数が1の場合と6の場合とで比較を行うと、工程数が6の場合には、工程数が1の場合と同程度の総合誤差を維持するためには、各工程において要求される加工精度は、これまでの1/2〜1/3となる。
【0012】
ところが、ODレンズのような光学素子の場合には、描画工程においては、設計値に対して数十nm以内のレベルでの加工精度が求められるため、それ以上の精度を実現することは極めて困難な目標となる。
【0013】
従って、工程数の増加による加工誤差の蓄積を解消するべく、何れかの工程において、その誤差の補正を行う必要が生じることとなった。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、他の工程において蓄積された加工誤差を解消する補正を行って、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる電子ビーム描画方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基材に対して電子ビームを照射して走査することで、前記基材上に所定の回折構造を描画する電子ビーム描画方法であって、前記基材の表面の高さ分布の規定値からの誤差を測定する形状測定工程と、前記高さ分布の規定値からの誤差を補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整する描画調整工程と、前記調整された照射量に従って、電子ビームを照射して走査することで、前記個々の回折格子を描画する描画工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、基材に対して電子ビームを照射して走査することで、前記基材上に所定の回折構造を描画する電子ビーム描画方法であって、前記基材上に形成されたレジスト膜の膜厚分布の規定値からの誤差を測定する膜厚測定工程と、前記膜厚分布の規定値からの誤差を補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整する描画調整工程と、前記調整された照射量に従って、電子ビームを照射して走査することで、前記個々の回折格子を描画する描画工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。尚、以下においては、光学素子を得るまでの流れに沿って、母型の製造方法、電子ビーム描画方法、電子ビーム描画装置、金型の製造方法、光学素子の順に説明する。
【0018】
[母型の製造方法 第1部]
まず、母型の製造方法(第1部)について、図1に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0019】
<切削加工工程>
図1に示すように、まず、SiO2、ポリシリコン又はポリオレフィン等の樹脂材料からなる略半球型の形状を有する母型の素材110を、金属など導電性の素材からなる円盤状の基材111の中央開口111pに埋め込み、接着剤にて相対回転不能に固定して(図3(a)参照)、部材Eを得る(ステップS01)。
尚、部材Eは、本発明の「基材」に対応する。次に、治具(以下、ヤトイと呼ぶ)150の中央孔151を介して貫通させ、基材111のネジ孔111gに螺合させたボルト152により、基材111に対してヤトイ150を取り付けると共に、基材111に合マークMXとID番号NXを付与する(ステップS02)。
図4に示すように、このID番号NXは、取り付けたヤトイ150の個々に付された番号であり、それを特定するための情報として機能する。尚、本例では、基材111の外周面を接線方向に細い平面で切り取った溝111h内に、レーザー描画でID番号NXを刻設するようにしたが、印刷であっても良い。また、溝は、同一深さの全周溝であっても良い。また、基材111との位相を合わせるための合マークMXも、レーザー加工で刻設することができる。
【0020】
次に、不図示のコンピュータ内に構築されたプロセス管理データベース内に、この部材Eに対応づける形で、ヤトイのID番号NX、取付面(方向)、締め付けトルク、作業環境温度(雰囲気温度)等を記憶する(ステップS03)。その後、不図示の超精密旋盤(SPDT加工機)のチャックに、ヤトイ150を介して部材Eを取り付ける(ステップS04)。さらに、部材Eを回転させなから、ダイヤモンド工具により、基材111の外周面111fを切削加工することで超精密旋盤、例えば、SPDT(Single Point Diamond Turning)加工機の回転軸に対して精度良く形成し、又、母型の素材110の上面を、図3(b)に示すように切削加工し、母光学面(成形しようとする光学素子の光学曲面に相当)110aを形成し、且つ、基材111の上面に周溝111a(第1のマーク)を切削加工する(ステップS05)。この際、温度コントロールを実施しながら、送り量及び切込量を制御して、曲面の表面祖さ50nm乃至は20nmを得る。また、このとき、母光学面110aの光軸の位置は、その外形から確認することはできないが、同時に加工されることから母光学面110aと周溝111aとは、精度良く同軸に形成されることとなり、又、円筒面に形成された基材111の外周面111fも、光軸と精度良く同軸に形成される。ここで、周溝111aは、例えば、暗視野部(凹部に相当)と明視野部(凸部に相当)とからなる複数の溝から形成されてよく、暗視野部、明視野部を各々複数個有するとさらに好ましい(これは、ダイヤモンド工具の先端が凹凸を有するものであれば、容易に形成できる)。また、周溝111aの凹凸形状により、後述するごとく塗布されるレジスト飛散防止の堤防としても機能させることができる。
【0021】
さらに、不図示のコンピュータに構築したプロセス管理データベースに、部材Eの切削加工時の作業環境温度を記憶し、且つ、部材EをSPDT加工機から取り外し(ステップS06)、ボルト152を緩めて部材Eからヤトイ150を取り外す(ステップS07)。そして、目視で虹色に見えるダイヤモンド工具による加工痕(ツールマーク)を研磨して、虹色が見えなくなるまで研磨する。さらに、部材Eを、不図示のFIB(Focused Ion Beam)加工機のステージ上にセットする(ステップS08)。次に、FIB加工機のステージ上の部材Eにおける周溝111aを読み取り、例えばその内側エッジから母型の素材110の光軸の位置を決定し(ステップS09)、決定した光軸から等距離で3つ(4つ以上でも良い)の第2のマーク111bを、基材111上に描画する(図3(b)及び図5参照)(ステップS10)。ダイヤモンド工具により加工形成した周溝111aの幅は比較的広いため、これを用いて加工の基準とすることは、加工精度を低下させる恐れがあるが、FIB加工機は、幅が20nm程度の精度の高い線を形成できるため、例えば十字線を形成すると、20nm×20nmの微細なマークを形成することができ、それを加工の基準とすることで、より高精度な加工が可能となる。次に、部材EをFIB加工機のステージから取り外す(ステップS11)。細かい
【0022】
[電子ビーム描画方法 第1部]
続いて、電子ビーム描画方法(第1部)について、図1に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0023】
<形状測定工程>
図1に示すように、続いて、部材Eを後述する形状測定器(画像認識手段と記憶手段とを有する)にセットし(ステップS12)、形状測定器の画像認識手段を用いて、第2のマーク111bを検出する(ステップS13)。さらに、測定により得られた、若しくは、超精密旋盤に用いた母型の素材110の母光学面110aの3次元座標を、第2のマーク111bに基づく3次元座標に変換して、さらに、この第2のマーク111bに基づく3次元座標から、母型の素材110の母光学面110aの高さ位置に関する規定値、即ち、設計値からの誤差分布データを作成し、これらを記憶手段に記憶する(ステップS14)。このように、母光学面110aを新たな3次元座標で記憶し直すのは、後述する描画工程で電子ビーム描画を行う際に、母光学面110aの被描画面に対して電子ビームの焦点深度を合わせるために、電子銃と部材Eとの相対位置を調整する必要などがあるからである。尚、第2のマーク111bは、測定の際、測定データにかかる座標の基準点がどこなのかを作業者が視認するための位置認識のためのマークとして利用できる。その後、部材Eを形状測定器から取り外す(ステップS15)。
【0024】
(形状測定器)
ここで、形状測定器について、図6を参照しながら説明する。
【0025】
図6に示すように、測定器200は、第1のレーザー測長器201、第2のレーザー測長器202、ピンホール205、ピンホール206、第1の受光部203及び第2の受光部204などを有し、さらに、これらの測定結果を算出するための不図示の測定算出部、測定結果を記憶する記憶部、各種制御系を備えた不図示の制御手段などを含み構成される。
【0026】
このような構成において、第1のレーザー測長器201から部材Eに対して第1の光ビームS1を照射し、母型の素材110の平坦部110bで反射される第1の光ビームS1をピンホール205を介して第1の受光部203により受光して、第1の光強度分布を検出する。
【0027】
この際に、第1の光ビームS1は、母型の素材110の平坦部110bにて反射されるため、第1の強度分布に基づき、母型の素材110の平坦部110b上の(高さ)位置が測定算出されることになる。
【0028】
さらに第2のレーザー測長器202から第1の光ビームS1と異なる方向から部材Eに対して第2の光ビームS2を照射し、母型の素材110の母光学面110aを透過する第2の光ビームS2をピンホール206を介して第2の受光部204により受光して、第2の光強度分布を検出する。
【0029】
この場合、第2の光ビームS2は、母型の素材110の母光学面110a上を透過することとなるので、第2の強度分布に基づき、母型の素材110の平坦部より突出する母光学面110a上の(高さ)位置が測定算出されることになる。尚、この母型の素材110の母光学面110a上の(高さ)位置の測定算出の原理については、後述する電子ビーム描画装置の測定器の処で説明する。
【0030】
[母型の製造方法 第2部]
続いて、母型の製造方法(第2部)について、図1及び図2に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0031】
<レジスト膜形成工程>
図1に戻って、次に、第2のマーク111b上に保護テープ113を貼り付ける(図3(c)参照)(ステップS16)。この保護テープ113は、後加工で母型の素材110上に塗布されるレジストLが、第2のマーク111bに付着しないようにするためのものである。これは、レジストLが第2のマーク111bに付着すると、加工の基準として読み取りが不適切になるためである。尚、保護テープによる保護は、図3(c)で示され、1つの第2のマーク111bのみ保護する場合を示しているが、他の第2のマーク111bについても同様である。さらに、部材Eを不図示のスピンコータにセットし(ステップS17)、レジストLを母型の素材110上に流下させながら被レジスト塗布基材を回転するプレスピンを実施し(ステップS18)、その後、レジストLの流下を停止して被レジスト塗布基材を回転させる本スピンを実施し、レジストLの被膜を行う(図3(d)参照)(ステップS19)。プレスピンと本スピンとを分けることにより、複雑な曲面である母光学面110aに、均一な膜厚のレジストLを被膜させることが可能となる。ここで、レジストLは、加熱又は紫外線等によって硬化する高分子の樹脂材料が用いられており、電子ビームによって与えられたエネルギー量に応じて分子間の結合が切れ分解される特性を有している(分解された部分は後述する現像液によって除去される)。
【0032】
その後、部材Eをスピンコータから取り外し(ステップS20)、部材Eに対してベーキング(加熱)処理を施すことで、レジストLの被膜を安定させる(ステップS21)。この際の温度は、ほぼ170℃で、ほぼ20分間加熱する。さらに、保護テープ113を剥がす(ステップS22)。係る状態の部材Eが、図3(d)に示されている。
【0033】
[電子ビーム描画方法 第2部]
続いて、電子ビーム描画方法(第2部)について、図2に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0034】
<膜厚測定工程>
図2に示すように、さらに、部材Eを不図示の膜厚測定器(画像認識手段と記憶手段とを有する)にセットし(ステップS23)、膜厚測定器の画像認識手段を用いて、第2のマーク111bを検出する(ステップS24)。さらに、母型の素材110の母光学面110aに塗布されたレジストLの膜厚分布を、第2のマーク1011bに基づく膜厚分布に変換して、さらに、この第2のマーク111bに基づく膜厚分布から、規定値、即ち、得ようとする膜厚値からの誤差分布データを作成し、これらを記憶手段に記憶する(ステップS25)。このように、第2のマーク111bに基づくレジストLの膜厚の規定値からの誤差分布データを作成することで、これを、上述した形状測定器での母型の素材110の母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差分布データと対応付けることができる。その後、部材Eを膜厚測定器から取り外す(ステップS26)。
【0035】
<描画調整工程>
さらに、部材Eを、後述する電子ビーム描画装置の3次元ステージにセットし(ステップS27)、測定器(走査型電子顕微鏡(SEM):電子ビーム描画装置に付属していると好ましい)を介して部材Eの第2のマーク111bを検出し(ステップS28)、その検出結果と、入力部より入力される形状測定器200及び膜厚測定器からの測定情報、具体的には、部材Eの形状データ、即ち、母光学面110aの3次元座標と、母光学面110aに塗布されたレジストLの膜厚分布とから求められる母光学面110aの被描画面(レジストLの膜表面)の形状とから、母光学面110aの被描画面に描画する所定の描画パターンに関する形状データを作成する(ステップS29)。因みに、母光学面110aの被描画面の形状は、部材Eの第2のマーク111bの検出と共に、測定器により測定しても良い。
【0036】
さらに、所定の描画パターンを構成する回折輪帯を描画する際の電子ビームの照射量、即ち、ドーズ量を調整する。具体的には、入力部より入力される形状測定器200及び膜厚測定器からの測定情報、具体的には、部材Eの形状データ、即ち、母光学面110aの3次元座標と、母光学面110aに塗布されたレジストLの膜厚分布とから母光学面110aの被描画面(レジストLの膜表面)の形状を求め、さらに、各々の誤差分布データ(母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差分布データ、母光学面110aに塗布されたレジストLの膜厚の規定値からの誤差分布データ)に基づいて、所定の形状が得られるようにドーズ量を調整する(ステップS30)。尚、この描画調整工程の詳細については、後述する(描画調整工程の詳細)の処で説明する。
【0037】
<描画工程>
さらに、求めた被描画面の形状に所定の描画パターンを描画するべく、被描画面に電子ビームの焦点が合うように3次元ステージを移動させて、電子ビーム(図3(d)参照)を所定のドーズ量(補正された後のドーズ量)になるよう照射して、母光学面110a上のレジストLの膜に所定の描画パターン、例えば回折構造に対応する個々の回折格子、例えば回折輪帯を描画する(ステップS31)。
【0038】
(描画装置の構成)
ここで、電子ビーム描画装置の全体構成について、図7を参照しながら説明する。尚、以下においては、母型の素材110の母光学面110a上にレジストLの膜が形成された部材Eは、基材100に対応するものとする。
【0039】
図7に示すように、電子ビーム描画装置1は、大電流で高解像度の電子線プローブを形成して高速に描画対象の基材100上を走査するものであり、高解像度の電子線プローブを形成し、電子ビームを生成してターゲットに対してビーム照射を行う電子銃2と、この電子銃2からの電子ビームを通過させるスリット3と、スリット3を通過する電子ビームの基材100に対する焦点位置を制御するための電子レンズ4と、電子ビームが出射される経路上に配設されたアパーチャー5と、電子ビームを偏向させることでターゲットである基材100上の走査位置等を制御する偏向器6と、偏向を補正する補正用コイル7と、を含み構成される。これらの各部は、鏡筒8内に配設されて電子ビーム出射時には真空状態に維持される。尚、電子銃2は、本発明の「電子ビーム照射手段」に対応する。また、偏向器6は、本発明の「走査手段」に対応する。
【0040】
さらに、電子ビーム描画装置1は、描画対象となる基材100を載置するための載置台であるXYZステージ9と、このXYZステージ9上の載置位置に基材100を搬送するための搬送手段であるローダ10と、XYZステージ9上の基材100の表面の基準点を測定するための測定手段である測定装置11と、XYZステージ9を駆動するための駆動手段であるステージ駆動装置12と、ローダを駆動するためのローダ駆動装置13と、鏡筒8内及びXYZステージ9を含む筐体14内を真空となるように排気を行う真空排気装置15と、これらの制御を司る制御手段である制御回路20と、を含み構成される。
【0041】
尚、電子レンズ4は、高さ方向に沿って複数箇所に離間して設置される各コイル4a、4b、4cの各々の電流値によって電子的なレンズが複数生成されることで各々制御され、電子ビームの焦点位置が制御される。
【0042】
測定装置11は、基材100に対してレーザーを照射することで基材100を測定するレーザー測長器11aと、レーザー測長器11aにて発光されたレーザー光が基材100を反射し当該反射光を受光する受光部11bと、を含み構成される。尚、この詳細については後述する。
【0043】
ステージ駆動装置12は、XYZステージ9をX方向に駆動するX方向駆動機構と、Y方向に駆動するY方向駆動機構と、Z方向(電子ビームの進行方向)に駆動するZ方向駆動機構と、θ方向に駆動するθ方向駆動機構と、を含み構成される。これにより、XYZステージ9を3次元的に動作させたり、アライメントを行うことができる。
【0044】
制御回路20は、電子銃2に電源を供給するための電子銃電源部21と、この電子銃電源部21での電流、電圧などを調整制御する電子銃制御部22と、電子レンズ4(複数の各電子的なレンズを各々)を動作させるためのレンズ電源部23と、このレンズ電源部23での各電子レンズに対応する各電流を調整制御するレンズ制御部24と、を含み構成される。
【0045】
さらに、制御回路20は、補正用コイル7を制御するためのコイル制御部25と、偏向器6にて成形方向の偏向を行うと共に、主走査方向及び副走査方向の偏向を行うための偏向部26と、偏向部26を制御するためにデジタル信号をアナログ信号に変換制御するD/A変換器27と、を含み構成される。
【0046】
さらに、制御回路20は、偏向器6における位置誤差を補正する、即ち、位置誤差補正信号などをD/A変換器27に対して供給して位置誤差補正を促す、或いは、コイル制御部25に対して当該信号を供給することで、補正用コイル7にて位置誤差補正を行う位置誤差補正回路28と、これら位置誤差補正回路28並びにD/A変換器27を制御して電子ビームの電界を制御する電界制御手段である電界制御回路29と、描画パターンなどを基材100に対応して生成するためのパターン発生回路30と、を含み構成される。
【0047】
さらに、制御回路20は、レーザー測長器11aを上下左右に移動させることによるレーザー照射位置の移動及びレーザー照射角の角度等の駆動制御を行うレーザー駆動制御回路31と、レーザー測長器11aでのレーザー照射光の出力(レーザーの光強度)を調整制御するためのレーザー出力制御回路32と、受光部11bでの受光結果に基づき、測定結果を算出するための測定算出部33と、を含み構成される。
【0048】
さらに、制御回路20は、ステージ駆動装置12を制御するためのステージ制御回路34と、ローダ駆動装置13を制御するローダ制御回路35と、上述のレーザー駆動回路31、レーザー出力制御回路32、測定算出部33、ステージ制御回路34、ローダ制御回路35を制御する機構制御回路36と、真空排気装置15の真空排気を制御する真空排気制御回路37と、上述した形状測定装置や膜厚測定装置からの測定情報を入力するための測定情報入力部38と、入力された測定情報やその他の情報を記憶するための記憶手段であるメモリ39と、各種制御を行うための制御プログラムを記憶したプログラムメモリ40と、これらの各部の制御を司る例えばCPUなどにより構成された制御部41と、を含み構成される。尚、測定情報入力部38は、本発明の「形状情報取得手段」及び「膜厚情報取得手段」に対応する。
【0049】
(描画処理)
このような構成を有する電子ビーム描画装置1において、ローダ10によって搬送された基材100がXYZステージ9上に載置されると、真空排気装置15によって鏡筒8及び筐体14内の空気やダストなどを排気した後、電子銃2から電子ビームが照射される。
【0050】
電子銃2から照射された電子ビームは、電子レンズ4を介して偏向器6により偏向され、偏向された電子ビームB(以下、この電子レンズ4を通過後の偏向制御された電子ビームに関してのみ「電子ビームB」と符号を付与することがある)は、XYZステージ9上の基材100の表面、例えば曲面部(曲面)100上の描画位置に対して照射されることで描画が行われる。
【0051】
この際に、測定装置11によって、基材100上の描画位置(描画位置のうち少なくとも高さ位置)、若しくは、後述するような基準点の位置が測定され、制御回路20は、当該測定結果に基づき、電子レンズ4のコイル4a、4b、4cなどに流れる各電流値などを調整制御して、電子ビームBの焦点位置を制御し、当該焦点位置が前記描画位置となるように移動制御される。
【0052】
尚、図8に示すように、電子ビームは、深い焦点深度FZを有しているが、電子レンズ4の幅Dに対して絞り込まれた電子ビームBは、ほぼ一定の太さのビームウエストBWを形成し、このビームウエストBWの範囲の電子ビーム進行方向における長さが、ここでいう焦点深度FZに相当する。焦点位置は、このビームウエストBWの電子ビーム進行方向における位置であり、ここではビームウエストBWの電子ビーム進行方向における中央位置とする。
【0053】
或いは、測定結果に基づき、制御回路20は、ステージ駆動装置12を制御することにより、電子ビームBの焦点位置が描画位置となるようにXYZステージ9を移動させる。
【0054】
基材100と電子ビームBの焦点位置の相対的な移動制御は、電子ビームBの焦点位置の制御、XYZステージ9の制御の何れか一方の制御によって行っても、双方を利用して行ってもよいが、電子ビームBの制御において電子レンズ4の調整を行う場合は、電子ビームBの偏向の変化による誤差を補正する必要があるため、XYZステージ9の移動制御により行うことが好ましい。
【0055】
(測定装置)
ここで、測定装置11について、図9を参照しながら説明する。図9に示すように、測定装置11は、より詳細には、レーザー測長器11aを構成する第1のレーザー測長器11aa及び第2のレーザー測長器11abと、受光部11bを構成する第1の受光部11ba及び第2の受光部11bbなどを有している。
【0056】
このような構成において、第1のレーザー測長器11aaにより電子ビームと交差する方向から基材100に対して第1の光ビームS1を照射し、基材100の平坦部100bで反射される第1の光ビームS1の受光によって、第1の光強度分布が検出される。
【0057】
この際に、第1の光ビームS1は、基材100の平坦部100bにて反射されるため、第1の強度分布に基づき、基材100の平坦部100b上の(高さ)位置が測定算出されることになる。尚、ここで高さ位置とは、Z方向、即ち電子ビームBの進行方向における位置を示す。
【0058】
さらに第2のレーザー測長器11abによって、第1の光ビームS1と異なる電子ビームとほぼ直交する方向から基材100に対して第2の光ビームS2を照射し、基材100を透過する第2の光ビームS2が第2の受光部11bbに含まれるピンホール11cを介して受光されることによって、第2の光強度分布が検出される。
【0059】
この場合、図10(A)〜(C)に示すように、第2の光ビームS2は、基材100の曲面部100a上を透過することとなるので、第2の強度分布に基づき、基材100の平坦部100bより突出する曲面部100a上の(高さ)位置が測定算出されることになる。
【0060】
より詳細には、図10(A)〜(C)に示すように、第2の光ビームS2がXY基準座標系における曲面部100a上のある位置(x、y)の特定の高さを透過すると、この位置(x、y)において、第2の光ビームS2が曲面部100aの曲面にて当たることにより散乱光SS1、SS2が生じ、この散乱光分の光強度が弱まることとなる。このようにして、第2の受光部11bbにて検出された第2の光強度分布に基づき、曲面部100a上の(高さ)位置が測定算出される。
【0061】
この算出の際には、第2の受光部11bbの信号出力は、図11に示す特性図のような、信号出力Opと基材100の高さとの相関関係を有するので、制御回路20のメモリ39などにこの特性、即ち、相関関係を示した相関テーブルを予め格納しておくことにより、第2の受光部11bbでの信号出力Opに基づき、基材の高さ位置を算出することができる。
【0062】
そして、この基材100の高さ位置を、例えば描画位置として、電子ビームの焦点位置の調整が行われ描画が行われることとなる。
【0063】
(描画位置算出の原理の概要)
次に、当該電子ビーム描画装置1における描画位置算出の原理について説明する。
【0064】
基材100は、図12(A)、(B)に示すように、平坦部100bと、この平坦部100bより突出形成された曲面をなす曲面部100aと、を含み構成される。この曲面部100aの曲面は、球面に限らず、非球面などの他のあらゆる高さ方向に変化を有する自由曲面であってよい。
【0065】
上述したように、基材100においては、XYZステージ9上に載置される前に、形状測定器200により第2のマーク111b、例えば3個の基準点P00、P01、P02の位置を測定しておく。これにより、例えば、基準点P00とP01によりX軸、基準点P00とP02によりY軸が定義され、3次元座標系における第1の基準座標系が算出される。ここで、第1の基準座標系における高さ位置をHo(x、y)(第1の高さ位置)とする。これにより、基材2の高さ位置分布、及び、その設計値からの誤差分布の算出を行うことができる。
【0066】
一方、基材100をXYZステージ9上に載置した後にも、同様の測定を行う。即ち、図12(A)に示すように、基材100上の第2のマーク111b、例えば3個の基準点P10、P11、P12を決定して、測定装置11を用いて、この位置を測定しておく。これによって、例えば、基準点P10とP11によりX軸、基準点P10とP12によりY軸が定義され、3次元座標系における第2の基準座標系が算出される。
【0067】
さらに、これら基準点P00、P01、P02と、P10、P11、P12により、第1の基準座標系を第2の基準座標系に変換するための座標変換行列を算出して、この座標変換行列を利用して、第2の基準座標系における前記Ho(x、y)に対応する高さ位置Hp(x、y)(第2の高さ位置)を算出して、この位置を最適フォーカス位置、即ち、描画位置として電子ビームの焦点位置が制御される。
【0068】
具体的には、図12(C)に示すように、電子ビームの焦点深度FZ(ビームウエストBW=ビーム径の最も細い所)の焦点位置を、3次元基準座標系における単位空間の1フィールド(m=1)内の描画位置に調整制御する。
【0069】
そして、図12(C)に示すように、例えば1フィールド内をY方向にシフトしつつ順次X方向に走査することにより、1フィールド内の描画が行われることとなる。さらに、1フィールド内において、描画されていない領域があれば、当該領域についても、上述の焦点位置の制御を行いつつZ方向に移動し、同様の走査による描画処理を行うこととなる。
【0070】
次に、1フィールド内の描画が行われた後、他のフィールド、例えばm=2のフィールド、m=3のフィールドにおいても、上述同様に、測定や描画位置の算出を行いつつ描画処理がリアルタイムで行われることとなる。このようにして、描画されるべき描画領域について全ての描画が終了すると、基材2の表面における描画処理が終了することとなる。
【0071】
尚、上述したような各種演算処理、測定処理、制御処理などの処理を行う処理プログラムは、プログラムメモリ40に予め制御プログラムとして格納されている。
【0072】
(制御系)
次に、当該電子ビーム描画装置1における制御系の構成について、図13を参照しつつ説明する。
【0073】
図13に示すように、メモリ39には、形状記憶テーブル39aが格納されており、この形状記憶テーブル39aには、描画パターンを構成する形状、例えばブレーズを描画する際の電子ビームの各走査位置に対応するドーズ分布を予め定義したドーズ分布情報39aaや、同じく、ブレーズの各走査位置に対応するビーム径を予め定義したビーム径情報39abや、上述した形状測定装置や膜厚測定装置からの測定情報、具体的には、基材100を構成する母型の素材110の母光学面110aの形状データと、母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚分布データ、さらには、各々の誤差分布データ(母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差分布データ、母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差分布データ)からなる補正演算情報39acや、その他の情報39bが含まれている。
【0074】
また、プログラムメモリ40には、制御部41が、後述する処理を行うための処理プログラム40aや、補正演算情報39acに基づいて描画パターンを構成する回折格子を描画する際のドーズ量、例えば、ブレーズ輪帯を描画する際のドーズ量を調整するための補正演算プログラム40bや、その他の処理プログラム40cが格納されている。
【0075】
このような構成において、制御部41は、処理プログラム40aに従って、メモリ39の形状記憶テーブル39aに格納されるドーズ分布情報39aaと、ビーム径情報39abとに基づいて、描画パターンを構成する形状、例えば図14(A)に示すブレーズ300の各走査位置に対応するドーズ量を算出すると共に、プローブ電流、走査ピッチ及び電子ビームBの径を算出する。
【0076】
また、パターン発生回路30は、描画パターンとしての回折構造の形状データ、例えば図14(B)に示すブレーズ輪帯300a(ブレーズ300による輪帯)の形状データを作成する。
【0077】
さらに、制御部41は、補正演算プログラム40bに従って、メモリ39の形状記憶テーブル39aに格納される補正演算情報39acに基づいて、後述するように、描画パターンを構成する回折格子、例えば図14(B)に示すブレーズ輪帯300aを描画する際のドーズ量を調整する。
【0078】
ところで、ドーズ量は、単位面積当たりに照射される電子ビームの延べ照射量であり、上述のドーズ量の調整は、制御部41からの指示の下、電子銃制御部22が電子銃電源部21を制御して、電子銃2に供給される電力の電流値や電圧値などを調整することにより行われる。或いは、制御部41からの指示の下、電界制御回路29がD/A変換器27を制御して、偏向器6の偏向により走査される電子ビームBの走査速度を調整することにより行われる。或いは、これら双方の調整により行われる。尚、制御部41は、本発明の「描画調整手段」に対応する。
【0079】
さらに、制御部170は、算出したプローブ電流、走査ピッチ及び電子ビームBの径に基づいて、電子銃制御部22、電界制御回路29及びレンズ制御部24などの制御を行う。これにより、描画を行う際のプローブ電流、走査ピッチ及び電子ビームBの径が適切化され、所定の描画パターンとしての回折構造が描画される。尚、制御部170は、本発明の「制御手段」に対応する。
【0080】
(描画調整工程の詳細)
ここで、上述した制御部41によるドーズ量の調整処理の詳細について説明する。
【0081】
制御部41は、まず、メモリ39の形状記憶テーブル39aに格納される補正演算情報39ac、即ち、母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差分布データδt1(r、θ)と、母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差分布データδt2(r、θ)とに基づいて、これらの和となる被描画面、即ち、曲面部100aの規定値からの誤差分布データδt(r、θ)を作成する。ここで、r:基材100の中心からの距離、θ:基材100の基準線からの角度位置である(図14(B)参照)。
【0082】
制御部41は、次に、この曲面部100a表面の高さ位置の規定値からの誤差分布データδt(r、θ)に基づいて、補正演算プログラム40bに従って、以下に説明する演算処理を行うことで、曲面部100aに回折格子を描画する際のドーズ量、即ち、この誤差分布を補正するドーズ量Dmを算出する。
【0083】
ところで、曲面部100aに描画する回折格子、例えば図14(A)に示すブレーズ300の現像進行量(現像処理により除去される部分の量)を、設計値よりも、例えば10nmだけ増加させるのに必要なドーズ量Dt(Bd)と、そのドーズを与える部分の曲面部100a表面からの深さ(設計深さ)X(Bd)との関係をグラフに表すと、図15に示すようになる。
【0084】
図15に示すように、一般に、曲面部100aに描画するブレーズの現像進行量を増加させるのに必要なドーズ量Dt(Bd)は、ドーズを与える部分の曲面部100a表面からの深さXが増すにつれて小さくなる傾向にある。しかしながら、このような関係は、回折格子の種別毎に異なるため、それらに関するデータは、予めメモリ39の形状記憶テーブル39aに補正演算情報39acとして記憶する。
【0085】
ここで、補正後のドーズ量Dm(r、θ)を、このドーズ量Dt(Bd)を用いて表すと、以下のようになる。
Dm(r、θ)=D0(r、θ)+(δt(r、θ)/10)×Dt(Bd)・・・(式1)
ここで、D0:設計値通りのドーズ量である。
【0086】
即ち、制御部41は、補正演算プログラム40bに従って、曲面部100aの高さ位置の規定値からの誤差分布δt(r、θ)を算出して、これを(式1)に代入することで、回折格子を描画する際のドーズ量を、設計値通りのドーズ量D0から、その誤差分だけ加減して、補正後のドーズ量Dm(r、θ)を算出する。
【0087】
従って、例えば図14(B)に示すように、基材100の任意のラインrn(n=1、2、3…)におけるラジアル方向の位置rにおいて、曲面部100aの高さ位置に規定値からの誤差δtが生じている場合には、設計値通りのドーズ量D0に替わって、(式1)にて算出された補正後のドーズ量Dm(r、θ)にて、その位置の回折輪帯300aを描画することとすれば、設計値通りの形状を得ることができる描画を行うことができる。
【0088】
この際、例えば図16に示すように、基材100のラジアル方向の位置rにおける曲面部100aの高さ位置の規定値からの誤差δt(δt1+δt2)が0よりも大きく、即ち、正の値となる場合には、その部分を描画する補正後のドーズ量Dmは、設計値通りのドーズ量D0よりも、その誤差分δtを描画するだけ大きくなるように調整される。逆に、0よりも小さく、即ち、負の値となる場合には、その部分を描画する補正後のドーズ量Dmは、設計値通りのドーズ量D0よりも、その誤差分δtを描画するだけ小さくなるように調整される。ここで、t1:母光学面110aの高さ位置の設計値、t2:母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値である。
【0089】
このようにしてドーズ量を調整することで、上述した切削加工工程における加工誤差(母光学面110aの高さ位置の設計値からの誤差δt1)と、レジスト膜形成工程における加工誤差(母光学面110aに塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差δt2)を解消して、所定の回折構造及びこれを構成する回折格子(例えば、ブレーズ輪帯300a及びブレーズ300)を得る、即ち、所定の光学的性能を得ることができる描画を行うことができる。
【0090】
図2に戻って、このようにして、電子ビーム描画装置1にて描画後、3次元ステージ9より部材Eを取り外す(ステップS32)。
【0091】
[母型の製造方法 第3部]
続いて、母型の製造方法(第3部)について、図2に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0092】
<現像工程>
図2に示すように、さらに、不図示の現像装置によって、部材Eの現像処理を行って、輪帯形状のレジストを得る(ステップS33)。尚、同一点における電子ビームの照射時間を長くすれば、それだけレジストの除去量は増大するため、上述した描画工程においては、電子ビームの照射位置と照射時間(ドーズ量)を調整することで、ブレーズの輪帯になるよう、レジストを残すことができる。
【0093】
<エッチング工程>
さらに、不図示のエッチング装置によって、部材Eのエッチング処理を行って、母型の素材110の母光学面110aの表面を彫り込んでブレーズ状の輪帯110b(実際より誇張されて描かれている)を形成する(図3(e)参照)(ステップS34)。
【0094】
ここまでの工程により、部材Eは母型として完成される。
【0095】
[金型の製造方法]
次に、金型の製造方法について、図2に示すフローチャートの流れに沿って、図3を参照しつつ説明する。
【0096】
<電鋳工程>
図2に示すように、さらに、スルファミン酸ニッケル浴中に、表面を活性処理した母型、即ち、部材Eを浸し、基材111と外部の電極114との間に電流を流すことで、電鋳120を成長させる(図3(f)参照)(ステップS35)。
このとき、基材111の外周面111fに絶縁剤を塗布することで、絶縁剤が塗布された部分の電鋳形成を抑制できる。電鋳120は、その成長の過程で、母光学面110aに精度良く対応した光学面転写面120aと、輪帯110bに精度良く対応した輪帯転写面120bとを形成する。
【0097】
その後、不図示のコンピュータに構築されているデータベースを、処理中の部材Eに対応するヤトイ150のID番号NXに基づいて検索し、得られた(即ち、切削加工工程で使用された)ヤトイ150を、所定の取り付け条件で部材E(基材111)に取り付ける(ステップS36)。この所定の取り付け条件とは、第1の工程の取り付け条件であり、具体的には、合マークMXを合致させ基材111とヤトイ150との位相を合わせること、読み出した締め付け時作業環境温度(第1の工程時の作業環境温度)に対して±1.0度の作業環境温度とすること、読み出した締め付けトルク(切削加工工程時の締め付けトルク)で締め付けを行うこと、同じボルト152を用いて取り付けることをいう。
【0098】
さらに、不図示のコンピュータに構築されているデータベースに記憶された、処理中の部材Eの切削時作業環境温度にした上で、基材111の外周面111fを基準として、部材Eと電鋳120とヤトイ150とを一体で、SPDT加工機の回転軸と部材Eの光軸とを一致させるようにしてチャックに取り付け、電鋳120の外周面120cを切削加工する(図3(g)参照)(ステップS37)。
【0099】
加えて、図3(g)に示すように、電鋳120に、裏打ち部材との位置決め部としてのピン孔120d(中央)及びネジ孔120eを加工する。尚、ピン孔120dの代わりに円筒軸を形成しても良い。加工後に、部材Eと電鋳120とヤトイ150とを一体で、SPDT加工機から取り外す。
【0100】
さらに、電鋳120を、以下に述べるように裏打ち部材と一体化することで、可動コア130を形成する(ステップS38)。
【0101】
図17は、部材Eを取り付けた状態で示す可動コア130の断面図である。図17において、可動コア130は、先端(図で右側)に配置した電鋳120と、後端(図で左側)に配置した押圧部136と、その間に配置された摺動部材135とから構成される。摺動部材135及び押圧部136が裏打ち部材となる。
【0102】
電鋳120は、そのピン孔120dに、円筒状の摺動部材135の端面中央から突出したピン部135aを係合させることで、摺動部材135と所定の関係で位置決めされ、さらに、摺動部材135を軸線に平行に貫通する2つのボルト孔135bに挿通したボルト137を、ネジ孔120eに螺合させることで、電鋳120は摺動部材135に取り付けられる。
【0103】
摺動部材135は、ピン部135aの設けられた端面(図で右端)に対向する端面(図で左端)の中央に突出して形成されたネジ軸135cを、略円筒状の押圧部136の端部に形成されたネジ孔136aに螺合させることで、押圧部136に対して所定の位置関係で取り付けられる。図17において、摺動部材135の外周面135eは、電鋳120及び押圧部136のフランジ部136b以外の部分の外周面よりも大径となっている。裏打ち部材としての摺動部材135及び押圧部136を取り付けた後、SPDT加工機のチャックにヤトイ150を取り付けるようにする(ステップS39)。
【0104】
さらに、不図示のコンピュータに構築されているデータベースから、処理中の部材Eの切削時作業環境温度にした上で、基材111の外周面111fを基準として、摺動部材135と押圧部136の外周面を仕上げる(ステップS40)。
このため、ヤトイ150を基材111より一旦取り外したにもかかわらず、母型110の同心円パターン(輪帯110b)中心と、金型摺動部外形中心との同軸度を1μm以内に収めることができる。さらに、押圧部136の端面を切削加工し、全長を規定値に収める(ステップS41)。
【0105】
その後、図17の矢印Xで示す位置でカットすることにより、摺動部材135及び押圧部136に取り付けられた電鋳120から、部材Eとヤトイ150を脱型する(ステップS42)。さらに、電鋳120と基材210を脱型後、可動コア130の先端の電鋳120を仕上げて、光学素子成形用金型を得る(ステップS43)。
【0106】
ここまでの工程により。光学素子成形用金型が製作される。
【0107】
[光学素子の製造]
図18は、このようにして形成された可動コア130を用いて光学素子を成形する状態を示す図である。図18において、光学面転写面141aを有する光学素子成形用金型141を保持する保持部142は、可動側キャビティ143に固定されている。可動側キャビティ143は、小開口143aと、それに同軸な大開口143bとを有している。可動側キャビティ143内に可動コア130を挿入したときに、摺動部材135の外周面135eが、小開口143aの内周面と摺動し、押圧部136のフランジ部136bの外周面136dが、大開口143bの内周面と摺動する。かかる2つの摺動部によって案内されることで、可動側キャビティ143に対して、大きく傾くことなく可動コア130は軸線方向に移動可能となる。
【0108】
光学素子成形用金型141、電鋳120の間に溶融した樹脂を射出し、可動コア130を矢印方向に加圧することで、光学素子OEが成形される。本実施の形態によれば、母型の素材110から精度良く転写形成された光学素子成形用金型としての電鋳120を用いることで、光学素子OEの光学面には、電鋳120の光学面転写面120aが転写形成され、且つ、輪帯転写面120bに対応した回折輪帯が光軸に同心的に精度よく形成されることとなる。
【0109】
ここまでの工程により。光学素子が製作される。
【0110】
尚、以上のようにして光学素子成形用金型を加工する場合、電鋳120に、第2のマーク111bに対応する突起(不図示)が転写形成されているため、これを加工の基準として用いることで、その外周面等の精度の良い加工を行うこともできる。
【0111】
以上に説明したように、本実施の形態における電子ビーム描画方法によれば、切削加工工程やレジスト膜形成工程において蓄積された加工誤差を解消する補正を行って、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる。
【0112】
尚、本発明に係る基材の描画方法、及び電子ビーム描画装置ついては、その特定の実施の形態に従って説明してきたが、当業者は、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく本発明の本文に記述した実施の形態に対して種々の変形が可能である。
【0113】
例えば、形状測定器200や膜厚測定器からの測定情報は、電子ビーム描画装置1の測定情報入力部158から入力される他、制御回路20と接続される不図示のネットワークを介してデータ転送されて、メモリ39などに格納されることにしても良い。
【0114】
また、部材Eの形状測定、即ち、母型の素材110の母光学面110aの3次元座標の測定は、形状測定器200によらず、電子ビーム描画装置1の測定器11によって行うことにしても良い。
【0115】
また、部材Eの形状測定後に、直ちに電子ビーム描画装置1により描画を行って、母型の素材110の母光学面110aの高さ位置の誤差を補正することにしても良い。
【0116】
また、部材Eの形状測定を行わず、部材Eにレジストを塗布した後、レジスト膜の膜厚測定のみを行って、母型の素材110の母光学面110aの高さ位置の誤差を補正することにしても良い。
【0117】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る電子ビーム描画方法によれば、他の工程において蓄積した加工誤差を解消する補正を行って、所定の光学的性能が得られる回折構造を描画することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態における母型の製造方法、電子ビーム描画方法及び金型の製造方法を構成する工程を示すフローチャートである。
【図2】本実施の形態における母型の製造方法、電子ビーム描画方法及び金型の製造方法を構成する工程を示すフローチャートである。
【図3】図1及び図2に示す主要な工程において、処理される母型の素材と電極部材の組立体、即ち、部材Eを示す断面図である。
【図4】ヤトイを取り付けた部材Eの斜視図である。
【図5】図4に示す部材Eの上面図である。
【図6】形状測定器の全体構成を示す説明図である。
【図7】電子ビーム描画装置の全体構成を示す説明図である。
【図8】電子ビームのビームウエストを説明するための説明図である。
【図9】測定装置の全体構成を説明するための説明図である。
【図10】測定装置の測定原理を説明するための説明図である。
【図11】信号出力と基材の高さとの関係を示す特性図である。
【図12】同図(A)(B)は、電子ビーム描画装置により描画される基材を示す説明図であり、同図(C)は、電子ビーム描画装置の描画原理を説明するための説明図である。
【図13】電子ビーム描画装置の制御系の構成を示す説明図である。
【図14】基材の被描画面の形状誤差に応じてドーズ量が調整される過程を説明するための説明図である。
【図15】基材の被描画面の現像進行度を所定量だけ多くするのに必要なドーズ量と、そのドーズを与える部分の基材の被描画面からの深さとの関係を表す説明図である。
【図16】基材の被描画面の形状誤差と回折輪帯を描画する補正後のドーズ量との関係を説明するための説明図である。
【図17】可動コアの断面図である。
【図18】可動コアを用いて光学素子を成形する状態を示す図である。
【符号の説明】
100 基材
100a 曲面部
300 ブレーズ
Dm 補正後のドーズ量
D0 設計値通りのドーズ量
r ラジアル方向における位置
t1 母光学面の高さ位置の設計値
t2 母光学面に塗布されたレジストの膜厚の規定値
δt 被描画面(曲面部)の高さ位置の誤差
δt1 母光学面の高さ位置の設計値からの誤差
δt2 母光学面に塗布されたレジストの膜厚の規定値からの誤差
Claims (17)
- 基材に対して電子ビームを照射して走査することで、前記基材上に所定の回折構造を描画する電子ビーム描画方法であって、
前記基材の表面の高さ分布の規定値からの誤差を測定する形状測定工程と、
前記高さ分布の規定値からの誤差を補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整する描画調整工程と、
前記調整された照射量に従って、電子ビームを照射して走査することで、前記個々の回折格子を描画する描画工程と、を含むことを特徴とする電子ビーム描画方法。 - 前記基材上に形成されたレジスト膜の膜厚分布の規定値からの誤差を測定する膜厚測定工程を、さらに含み、
前記描画調整工程では、前記高さ分布の規定値からの誤差と、前記膜厚分布の規定値からの誤差とを補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整することを特徴とする請求項1記載の電子ビーム描画方法。 - 基材に対して電子ビームを照射して走査することで、前記基材上に所定の回折構造を描画する電子ビーム描画方法であって、
前記基材上に形成されたレジスト膜の膜厚分布の規定値からの誤差を測定する膜厚測定工程と、
前記膜厚分布の規定値からの誤差を補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整する描画調整工程と、
前記調整された照射量に従って、電子ビームを照射して走査することで、前記個々の回折格子を描画する描画工程と、を含むことを特徴とする電子ビーム描画方法。 - 前記描画調整工程では、前記誤差の符号が正となる場合には、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を、前記誤差分を描画するのに相当するだけ大きく調整し、前記誤差の符号が負となる場合には、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を、前記誤差分を描画するのに相当するだけ小さく調整することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の電子ビーム描画方法。
- 前記基材の被描画面は、曲面形状を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の電子ビーム描画方法。
- 請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の電子ビーム描画方法によって描画された基材を用いて、光学素子を成形するための金型の母型を製造する母型の製造方法であって、
素材を切削加工することで前記基材を得る切削加工工程を含むことを特徴とする母型の製造方法。 - 請求項2乃至請求項5の何れか一項に記載の電子ビーム描画方法によって描画された基材を用いて、光学素子を成形するための金型の母型を製造する母型の製造方法であって、
前記基材上に前記レジスト膜を形成するレジスト膜形成工程を含むことを特徴とする母型の製造方法。 - 前記描画工程で描画された基材上のレジスト膜を現像処理して、所定の回折構造を有する母型を得る現像工程を含むことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の母型の製造方法。
- 前記現像工程で現像された基材をエッチング処理するエッチング工程を、さらに含むことを特徴とする請求項8記載の母型の製造方法。
- 請求項6乃至請求項9の何れか一項に記載の母型の製造方法によって製造されたことを特徴とする母型。
- 請求項10記載の母型を用いて電鋳処理を行い、前記母型上の前記所定の構造が転写された金型を得ることを特徴とする金型の製造方法。
- 請求項11記載の金型の製造方法によって製造されたことを特徴とする金型。
- 請求項12記載の金型によって成形されたことを特徴とする光学素子。
- 基材に対して電子ビームを走査することで、前記基材上に所定の回折構造を描画する電子ビーム描画装置であって、
前記基材に対して電子ビームを照射するための電子ビーム照射手段と、
前記電子ビーム照射手段から照射される電子ビームを偏向させることで走査する電子ビーム走査手段と、
前記基材の表面の高さ分布の規定値からの誤差を取得する形状情報取得手段と、
前記高さ分布の規定値からの誤差を補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整する描画調整手段と、
前記電子ビーム照射手段及び/又は前記電子ビーム走査手段を制御することで、前記調整された照射量に従って電子ビームを照射して走査して、前記個々の回折格子を描画する制御手段と、を含むことを特徴とする電子ビーム描画装置。 - 前記基材上に形成されたレジスト膜の膜厚分布の規定値からの誤差を取得する膜厚情報取得手段を、さらに含み、
前記描画調整手段は、前記高さ分布の規定値からの誤差と、前記膜厚分布の規定値からの誤差とを補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整することを特徴とする請求項14記載の電子ビーム描画装置。 - 基材に対して電子ビームを走査することで、前記基材上に所定の回折構造を描画する電子ビーム描画装置であって、
前記基材に対して電子ビームを照射するための電子ビーム照射手段と、
前記電子ビーム照射手段から照射される電子ビームを偏向させることで走査する電子ビーム走査手段と、
前記基材上に形成されたレジスト膜の膜厚分布の規定値からの誤差を取得する膜厚情報取得手段と、
前記膜厚分布の規定値からの誤差を補正するように、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を調整する描画調整手段と、
前記電子ビーム照射手段及び/又は前記電子ビーム走査手段を制御することで、前記調整された照射量に従って電子ビームを照射して走査して、前記個々の回折格子を描画する制御手段と、を含むことを特徴とする電子ビーム描画装置。 - 前記描画調整手段は、前記誤差の符号が正となる場合には、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を、前記誤差分を描画するのに相当するだけ大きく調整し、前記誤差の符号が負となる場合には、前記個々の回折格子を描画する電子ビームの照射量を、前記誤差分を描画するのに相当するだけ小さく調整することを特徴とする請求項14乃至請求項16の何れか一項に記載の電子ビーム描画装置。
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JP2003064444A JP2004272031A (ja) | 2003-03-11 | 2003-03-11 | 電子ビーム描画方法、母型の製造方法、母型、金型の製造方法、金型、光学素子及び電子ビーム描画装置 |
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