JP2004270506A - ロータリ式シリンダ装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】無潤滑方式とし且つ摺動部の焼付き及び角部の摩耗を防止する。
【解決手段】回転シリンダ部材2とピストン保持部材5とを、ケーシング及びケース上蓋にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材5の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストン3,4が保持され、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5との相対回動によりピストン3,4自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによってシリンダ室23a〜23dに出入りすると共に、ケーシングに、シリンダ室23a〜23dに連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置であって、ピストン3,4を、カーボンナノファイバを含有した樹脂材料で形成するようにしている。
【選択図】 図3
【解決手段】回転シリンダ部材2とピストン保持部材5とを、ケーシング及びケース上蓋にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材5の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストン3,4が保持され、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5との相対回動によりピストン3,4自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによってシリンダ室23a〜23dに出入りすると共に、ケーシングに、シリンダ室23a〜23dに連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置であって、ピストン3,4を、カーボンナノファイバを含有した樹脂材料で形成するようにしている。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロータリ式シリンダ装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、ロータリ式シリンダ装置における摺動部分の材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンプレッサなどのシリンダ装置の摺動部における潤滑方式は、オイルなどの液体潤滑剤を用いた潤滑方式と、液体潤滑剤を用いない無潤滑方式(ドライ方式とも呼ばれる)とに大別される。
【0003】
潤滑方式では、オイル類を用いることで摺動面の潤滑を助け、シリンダやピストンの摩耗を防ぎ、またオイル類がシリンダとピストンの間に入ってシリンダ−ピストン間の空気漏れを防ぐシール材としての役割を果たす。潤滑方式におけるシリンダ及びピストンの構成材料としては、鋳鉄を用いるのが一般的である。更に、潤滑方式においては、摺動面への潤滑剤供給機構として、潤滑油の通路を設けたり、摺動面に保油用のディンプルを設けたりしている。
【0004】
一方、無潤滑方式では気密性を確保するために、ピストンリングやカップシールを用いている(特許文献1参照)。無潤滑方式におけるシリンダやピストンの構成材料としては、摺動摩擦抵抗の少ない材料、即ち摺動性の良い材料として、カーボン材料、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)が用いられている。また、材料強度や耐磨耗性を高めるために、ガラスファイバやカーボンファイバを含有した樹脂材料が用いられることもある。
【0005】
ところで、ロータリ式シリンダ装置として、特開2001−3701号公報に開示されたものが従来ある(特許文献2参照)。かかるロータリ式シリンダ装置101は、図31及び図32に示すように、円形形状の回転シリンダ部材102と、180度離れた2つの偏心した自転中心位置x1,x2にそれぞれピストン103,104を回動可能に保持しかつ回転シリンダ部材102の回転軸心oから偏心した位置を回転中心位置Xとして回転するピストン保持部材105と、回転シリンダ部材102及びピストン保持部材105の両回転部材をそれぞれ回転自在に支持するケーシング106と、を有している。
【0006】
回転シリンダ部材102にはシリンダ室123a〜123dが形成されている。支軸151を図示しないモータによって回転させると、ピストン保持部材105が回転し、ピストン103をシリンダ室123a,123bに沿って往復運動させながら、また、ピストン104をシリンダ室123c,123dに沿って往復運動させながら、回転中心位置Xまわりに回転させる。これにより、回転シリンダ部材102も回転し、吸込口161からシリンダ室123a〜123d内に吸い込んだ流体をピストン103,104によって加圧して吐出口162から吐出させる。
【0007】
【特許文献1】
昭63−126565号公報
【特許文献2】
特開2001−3701号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ロータリ式シリンダ装置を潤滑方式とした場合、次のような問題がある。即ち、吐出口から吐出される流体にオイル等の潤滑剤が不純物として混入してしまう。このため、当該不純物を除去するためのフィルタが別途必要となる。また、潤滑剤供給機構として潤滑油用通路や保油用ディンプルなどを設ける必要が生じる。
【0009】
一方、ロータリ式シリンダ装置を無潤滑方式とした場合にも、次のような問題がある。即ち、従来のピストンリングやカップシールは、断面が円形であるピストンに用いられるものであり、ピストンの断面が略矩形状を成すロータリ式シリンダ装置に適用することはできない。このため、無潤滑方式のロータリ式シリンダ装置を実現するためには、摺動する部品同士の角部分および壁面を寸法精度良く仕上げる必要がある。さもないと、圧縮流体が漏れてコンプレッサとしての効率が下がってしまう。特に低回転時には、圧縮流体の漏れが多く、吐出流体の圧力が上がらない。
【0010】
ところが、無潤滑方式のシリンダ装置で用いられていた従来のカーボン材料では、機械加工中にエッジ部が欠けてしまい易い。また、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂材料では、シリンダ装置の運転中にエッジ部が削れて、欠けたり丸まってしまう。また、カーボンファイバやガラスファイバを混合した樹脂材料では、これらの繊維がエッジ部にうまく行き渡らないためエッジ部が鋭角に仕上がらず、またエッジ部の強度が出ないためシリンダ装置の運転中にエッジ部が削れてしまう。また、繊維の影響で型に忠実な成形が困難で、ピストンとシリンダとの間に隙間を生じやすい。
【0011】
また、ロータリ式シリンダ装置を無潤滑方式とした場合には、高速回転時に摺動部分での発熱量が大きく、焼付きを起こし易くなる。焼付きを防止するためには、摩擦係数の小さい材料であることに加えて、放熱性の良い材料を選択する必要がある。放熱性改善の手段としては、熱伝導率の高いCu系金属材料やCu系金属材料と樹脂との複合材料が考えられるが、金属を含むことにより比重が大きくなるため、ロータリ式シリンダ装置の起動性が悪くなってしまう。
【0012】
そこで本発明は、機械的強度、加工性、摺動性、放熱性に優れた材料を摺動部分に用いた無潤滑方式のロータリ式シリンダ装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、回転軸心を中心として形成された空洞部に連通し、該空洞部を挟んで対向する少なくとも一対のシリンダ室を有する円形形状の回転シリンダ部材と、回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心位置を中心として回転するピストン保持部材とを、支持部材にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストンが保持され、回転シリンダ部材とピストン保持部材との相対回動によりピストン自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによって一対のシリンダ室の双方に出入りすると共に、支持部材に、シリンダ室に連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置において、ピストンと回転シリンダ部材との接触面の一方または双方を、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有した複合材料で形成するようにしている。
【0014】
したがって、カーボンファイバやガラスファイバが線径100μm程度もあるのに対して、カーボンナノチューブは線径が15nm以下、カーボンナノファイバは線径15nm〜0.2μm程度と極めて微細なので、型の角部分(エッジ部分)にまでカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが充填される。このため、エッジ部が鋭角に仕上った、型に忠実な寸法精度の良い成形品が得られ、気密性を向上させることができる。さらに、エッジ部分にまでカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが充填されるので、エッジ部分の強度が高くなり、摩耗が進み難くなる。さらに、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは摺動性に優れるのに加えて熱伝導性が銅の3〜5倍と高く、放熱性が極めて良いため、摺動部分での発熱を抑え、焼付きを防止できる。
【0015】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のロータリ式シリンダ装置において、複合材料は、樹脂材料をマトリックスとして、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有させたものとしている。この場合、樹脂材料をマトリックスとすることで、金属をマトリックスとした場合と比較して、耐食性が向上し、重量が軽くなるためロータリ式シリンダ装置の起動性が向上する、という利点が得られる。
【0016】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載のロータリ式シリンダ装置において、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブは、フッ素化されたものとしている。この場合、通常のカーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブと比べて摩擦係数を更に低くでき、摺動部分での発熱をより抑えることができる。
【0017】
また、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載のロータリ式シリンダ装置において、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブはカップスタック型であり、該カップスタック型の空洞部に潤滑油を含浸させたものとしている。従って、使用中に微量の潤滑油が徐々にしみ出てくるので、複合材料の摺動性を更に高めることができる。
【0018】
また、請求項5記載の発明は、回転軸心を中心として形成された空洞部に連通し、該空洞部を挟んで対向する少なくとも一対のシリンダ室を有する円形形状の回転シリンダ部材と、回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心位置を中心として回転するピストン保持部材とを、支持部材にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストンが保持され、回転シリンダ部材とピストン保持部材との相対回動によりピストン自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによって一対のシリンダ室の双方に出入りすると共に、支持部材に、シリンダ室に連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置において、ピストンと回転シリンダ部材との接触面の一方または双方に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を摺動面に対して垂直方向に配向させるようにしている。カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは、通常のカーボンファイバに比べて、折れ難く且つ柔軟性を有しているため、流体のシール性が高まる。しかも、摺動性に優れ、且つ熱伝導性が銅の3〜5倍と高く、放熱性が極めて良いため、摺動部分での発熱を抑え、焼付きを防止できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1から図3に本発明のロータリ式シリンダ装置の実施の一形態を示す。なお、本実施形態では、ロータリ式シリンダ装置を、例えばピストン保持部材に回転動作を与えることにより、吸込口から流体例えば気体を吸入し、吐出口から流体を排出する気体圧縮機(コンプレッサ)として説明するが、回転シリンダ部材に回転動作を与えることにより、吸込口から流体例えば気体を吸入し、吐出口から流体を排出する気体圧縮機としても良い。また、流体としては気体に限るものではなく、液体であっても良い。また、圧縮機に限るものではなく、真空ポンプであっても良い。
【0021】
このロータリ式シリンダ装置1は、回転軸心を中心として形成された空洞部に連通し、該空洞部を挟んで対向する少なくとも一対のシリンダ室を有する円形形状の回転シリンダ部材2と、回転シリンダ部材2の回転軸心から偏心した回転中心位置を中心として回転するピストン保持部材5とを、支持部材にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材5の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストン3,4が保持され、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5との相対回動によりピストン3,4自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによって一対のシリンダ室の双方に出入りすると共に、支持部材に、シリンダ室に連なる吸込口61及び吐出口62を備える装置であって、ピストン3,4と回転シリンダ部材2との接触面の一方または双方を、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有した複合材料で形成するようにしている。
【0022】
本実施形態の複合材料(コンポジット)は、例えば樹脂材料をマトリックス(母相)として、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有したものとしている。樹脂材料をマトリックスとすることで、金属をマトリックスとした場合と比較して、耐食性が向上し、重量が軽くなるためロータリ式シリンダ装置の起動性が向上する、という利点が得られる。但し、場合によっては金属材料(例えば軽量で機械的性質に優れるアルミニウム合金)などをマトリックスとしても良い。
【0023】
マトリックスとなる樹脂材料は、特に限定されるものではないが、耐熱性に優れるPPS(ポリフェニレンサルファイド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、LCP(液晶樹脂)などや、摺動性に優れるポリアミド(ナイロン)、PE(ポリエチレン)、POM(ポリアセタール)などの利用が好ましい。例えば本実施形態では、PPSをベース樹脂として用いている。
【0024】
カーボンナノチューブは、線径が15nm以下、長さが1μm程度のものが好ましく、単層タイプまたは多層タイプ或いはカップスタック型といった形態は特に限定はされない。また、カーボンナノファイバは、線径が15nm〜0.1μm程度、長さが20μm程度のものが好ましい。また、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバを構成する分子にフッ素が付加したフッ素化カーボンナノチューブまたはフッ素化カーボンナノファイバも、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバと比較して摩擦係数が低いので、好適である。カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバの両方をベース樹脂に含めるものとしても良いが、どちらか一方のみを含めるものであっても良い。
【0025】
例えば本実施形態では、PPS90質量%に対して、線径0.1μmで長さ20μmのカーボンナノファイバを10質量%混合するようにしている。そして、この混合樹脂を用いて射出成形をし、機械加工仕上げを行なって、ピストン3,4を作製するようにしている。
【0026】
一方、ピストン3,4と接触する回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5、支持部材としてのケーシング6は、例えばアルミニウム材料で作製し且つ少なくともピストン3,4と接触する面は、陽極酸化処理と封孔処理(いわゆるアルマイト処理)またはアルマイト処理に加えてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)処理などを施し、耐摩耗性や摺動性を改善するようにしている。尚、アルミニウム材料に無電解Niメッキ、無電解Ni−SiO2複合メッキ、無電解Ni−PTFE複合メッキなどを施しても良い。この場合も、耐摩耗性や摺動性を改善することができる。
【0027】
ピストン3,4のみを上述した複合材料で作製する場合、必要となるカーボンナノチューブやカーボンナノファイバの量も低減されるため、コストを抑えることができる。尚、ピストン3,4の全部を上述した複合材料で作製するものに限らず、ピストン3,4における他部材(ケーシング6、回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5)との接触面のみを上述した複合材料を用いて構成するようにしても良い。また、ピストン3,4と接触するケーシング6、回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5、保持軸52,53の全部または少なくともピストン3,4と接触する面を、上述した複合材料を用いて構成するようにしても良い。また、ケーシング6と回転シリンダ部材2との接触面の一方または双方を、上述した複合材料を用いて構成するようにしても良い。また、ケース上蓋95とピストン保持部材5との接触面の一方または双方を、上述した複合材料を用いて構成するようにしても良い。
【0028】
次に、本実施形態におけるロータリ式シリンダ装置の構成の一例について更に詳述する。このロータリ式シリンダ装置1は、円形形状の回転シリンダ部材2と、180度離れた2つの偏心した自転中心位置x1,x2にそれぞれピストン3,4を回動可能に保持しかつ回転シリンダ部材2の回転軸心oから偏心した位置を回転中心位置Xとして回転するピストン保持部材5と、回転シリンダ部材2及びピストン保持部材5の両回転部材をそれぞれ回転自在に支持する支持部材としてのケーシング6及びケース上蓋95と、を有している。
【0029】
回転シリンダ部材2は、所定の厚みを有する円形形状で形成されており、ケーシング6の内部空間に回転自在に配置されている。この回転シリンダ部材2の一側面には、センタ軸21が一体成形されている。センタ軸21は、ケーシング6の底壁6bに設けられた孔6cに嵌め込まれたシリンダラジアル軸受70によって回転自在に支持されている。また、回転シリンダ部材2とケーシング6との間には、シリンダスラスト軸受85が配置されている。これらのため、回転シリンダ部材2は、センタ軸21を回転中心としてケーシング6内で回転可能となっている。なお、回転シリンダ部材2には、シリンダスラスト軸受85のリテーナを位置決めするリング201が、その対向位置に固定されている。
【0030】
シリンダラジアル軸受70は、例えばボールベアリングである。ただし、ボールベアリングに限るものではなく、ニードルベアリング等の転がり軸受であっても良く、さらには滑り軸受であっても良い。また、シリンダスラスト軸受85は、例えばニードルベアリングである。ただし、ニードルベアリングに限るものではなく、ボールベアリング等の転がり軸受であっても良く、さらには滑り軸受であっても良い。
【0031】
回転シリンダ部材2の他側面には、4つの扇状の台部25を利用して形成された十字状の空間が設置されている。この十字状の空間は、空洞部22と4つのシリンダ室23a〜23dとから構成されている。すなわち、回転シリンダ部材2の他側面には、回転軸心oを中心として所定の広さを備えかつ底面を有する空洞部22が形成されている。そして、この空洞部22内の回転軸心oを中心として放射状に、4つの断面矩形のシリンダ室23a〜23dが設けられている。すなわち、シリンダ室23a〜23dは、ピストン保持部材5側が開放され、他の3方の面が全て平面で形成されており、長手方向の一端側は空洞部22に連通している。
【0032】
なお、これらのシリンダ室23a〜23d内には、後述するようにピストン保持部材5に保持されたピストン3,4が嵌まり込むようになっており、各シリンダ室23a〜23dの3方の各平面部分が、4方の外面を平面で形成されたピストン3,4の3方の各平面部分との接触面となっている。すなわち、シリンダ室23a〜23dのピストン3,4との対向面及びこれに対するピストン3,4側の対向面は、互いに平面で形成され、これらの平面同士が接触面となっている。このように各ピストン3,4と各シリンダ室23a〜23dとの接触面が平面同士で形成されるため、接触面積が大きくなっている。そのため、各ピストン3,4が各シリンダ室23a〜23d内に嵌まり込むことによって形成している各空間から、接触面を伝って他の空間へ気体が漏れ出すことを防止するようにしている。
【0033】
なお、上述したように形成されたシリンダ室23a〜23dの長手方向の他端側は、回転シリンダ部材2の外周面2aに開放されている。そのため、各シリンダ室23a〜23dは、後述するケーシング6に形成された吸込口61及び吐出口62に連通可能となっている。
【0034】
なお、上述した各シリンダ室23a〜23dのうちの2つのシリンダ室23a,23bは、180度の位置に配置されており、ピストン3にとって、それぞれ空洞部22を挟んで対向する一対の部材となっている。そして、後述するように、ピストン保持部材5の回転により、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5とが相対回動すると、ピストン3が空洞部22を経てシリンダ室23a,23b間を見た目上の往復直線運動し、シリンダ室23a,23b内の双方に出入りするようになっている。
【0035】
また、残りの2つのシリンダ室23cと23dも、180度の位置に配置されており、ピストン4にとって、それぞれ空洞部22を挟んで対向する一対の部材となっている。そして、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5とが相対回転すると、ピストン4が空洞部22を経てシリンダ室23c,23d間を見た目上の往復直線運動し、シリンダ室23c,23d内の双方に出入りするようになっている。
【0036】
なお、空洞部22及び十字に配置された直線状のシリンダ室23a〜23dによって形成された十字状の空間に連通するように、細い十字溝が回転シリンダ部材2に形成されている。この細い十字溝は、ピストン3を一対のシリンダ室23a,23b間において見た目上の往復直線運動をより安定的にするための直線状のガイド溝24aと、ピストン4を一対のシリンダ室23c,23d間において往復直線運動をより安定的にするための直線状のガイド溝24bとが十字状に交差することによって形成されている。
【0037】
ロータリ式シリンダ装置1は予圧手段202を有しており、回転シリンダ部材2のスラスト方向に予圧をかけている。予圧手段202を図4に示す。予圧手段202は、例えば皿ばね(以下、皿ばね202という)である。本実施形態では、予圧手段202として、例えば6枚の皿ばね202を有している。回転シリンダ部材2のセンタ軸21をシリンダラジアル軸受70に嵌め込んで突出させ、その突出部分に座金203と6枚の皿ばね202を通している。そして、2枚の座金204,205をセンタ軸21の端面に当ててボルト206によって留めている。皿ばね202の弾性力が回転シリンダ部材2をケーシング6に向けて引っ張るので、即ち回転シリンダ部材2は予圧でシリンダスラスト軸受85に当接するので、シリンダラジアル軸受70のがた付きを抑えることができる。このため、回転シリンダ部材2のセンタリングが容易になり、回転する装置としての信頼性を高めることができる。また、ロータリ式シリンダ装置1の運転により回転シリンダ部材2に吐出口側から径方向の圧力が作用し、この圧力が回転シリンダ部材2を傾け中心ずれをしようとするが、回転シリンダ部材2に予圧をかけておくことで回転シリンダ部材2の傾きを抑えることができ、回転シリンダ部材2を安定回転させることができ、回転する装置としての信頼性をより一層高めることができる。
【0038】
図5に皿ばね202を示す。皿ばね202に多数の孔202aを形成し、変形し易い形状にしている。また、皿ばね202を薄板で形成し、複数枚積層して配置している。これらのため、皿ばね202全体としてのばね定数が小さくなり、安定したスラスト荷重を得ることができる。なお、座金204はスラスト荷重調整用の座金で、枚数を増減することで皿ばね202による予圧力の大きさを調整する。
【0039】
一方、ピストン保持部材5は、回転シリンダ部材2の外径よりも小さい外径を有する円形形状で形成されている。このピストン保持部材5の回転中心位置Xには、支軸51の一端が挿入され、丸断面のキー207によって周方向の相対回転は制限され且つ軸方向の相対移動は許容される。なお、このピストン保持部材5の回転中心位置Xは、上述の回転シリンダ部材2の回転軸心oから偏心した位置に設けられている(図2)。支軸51は、例えば電動モータ等の駆動源(以下、モータという)72の出力軸である。モータ72の側板72aはケース上蓋95に取り付けられている。支軸51はモータ72の軸受部材8に回転自在に支持されている。
【0040】
なお、ピストン保持部材5とケース上蓋95の間には、スラスト軸受96が配置されている。ピストン保持部材5には、スラスト軸受96のリテーナを位置決めするリング208が、その対向位置に固定されている。スラスト軸受96は、例えばニードルベアリングである。ただし、ニードルベアリングに限るものではなく、ボールベアリング等の転がり軸受であっても良く、さらには滑り軸受であっても良い。さらに、スラスト軸受96を省略しても良い。
【0041】
ピストン保持部材5の支軸51が挿入されている面(背面5a)と反対側の面には、ピストン3を自転可能に保持する保持軸52と、ピストン4を自転可能に保持する保持軸53とが立設固定されている。そして、保持軸52には、ピストン3がシリンダ室23a,23bを含む直線状の溝、すなわちガイド溝24a内の所定の部位に嵌まり込んだ状態で遊嵌されている。
【0042】
ピストン3は、見かけ上の往復直線運動時における前後の面31,31が若干丸みを有するように形成されているが、他の4面、すなわちシリンダ室23a,23b内に嵌まり込んだ状態における上面32、底面33及び両側面34,34が平面に形成されている。すなわち、ピストン3は、略長方体のブロック形状を有している。そして、平面に形成された各面のうちの上面32を除く底面33と両側面34,34は、ピストン3がシリンダ室23a,23b内に嵌まり込んだ際のシリンダ室23a,23bとの接触面となる。また、ピストン3の中心部分には、保持軸52に遊嵌されるための孔3aが設けられている。さらに、ピストン3の底部分には、上述したガイド用溝24aに嵌まり込む凸片3bが設けられている。
【0043】
一方、保持軸53には、ピストン4がシリンダ室23c,23dを含む直線状の溝、すなわちガイド溝24b内の所定の位置に嵌まり込んだ状態で遊嵌されている。ピストン4もピストン3と同様、見かけ上の往復直線運動時における前後の面41,41が若干丸みを有するように形成されているが、他の4面、すなわちシリンダ室23c,23d内に嵌まり込んだ状態における上面42、底面43及び両側面44,44が平面に形成されている。すなわち、ピストン4も、ピストン3と同様、略長方体のブロック形状を有している。そして、平面に形成された各面のうちの上面42を除く底面43と両側面44,44は、ピストン4がシリンダ室23c,23d内に嵌まり込んだ際のシリンダ室23c,23dとの接触面となる。また、ピストン4の中心部分には、保持軸53に遊嵌されるための孔4aが設けられている。さらに、ピストン4の底部分には、上述したガイド用溝24bに嵌まり込む凸片4bが設けられている。
【0044】
例えば本実施形態のピストン3,4では、弾性を有する鍔部209を備えるようにしている。したがって、シリンダ室23a〜23d内の流体の圧力が上昇すると、この圧力によって鍔部209が拡がりピストン3,4の周囲の隙間をシールする。このため、たとえピストン3,4の周囲に隙間があったとしても、この隙間からの流体の漏れが防止される。
【0045】
ここで、図6に示すように、ピストン3,4を中駒210と表皮膜211より構成するようにしても良い。図6の例では、鍔部209は表皮膜211に形成されている。この場合、例えば中駒210をポーラスな空隙を有する例えばAlカーボン又はCu等の粉末焼結体とし、表皮膜211を上述したカーボンナノファイバ含有PPS樹脂の膜とする。中駒210の表面に表皮膜211をアウトサートすることで、これらは一体的に成形される。中駒210がポーラスな粉末焼結体であるため、表皮膜211は成形時にその圧力で中駒210の空隙部に入り込み、アンカー効果で中駒210の表面に強固に結合される。このため、表皮膜211は、通常の使用では剥がれることがない。このことは、孔3aの内周面の表皮膜211についても同様である。
【0046】
図7〜図9に中駒210を示す。中駒210には、孔210aの他、アウトサート用の位置決め孔210bが型抜き方向に設けられている。位置決め孔210bは、例えば4箇所に設けられている。アウトサート成形時に位置決め孔210bに段付けピン212(図6)を上下から挿入することで、成形型から中駒210を浮かして支持することができ、中駒210の周囲に表皮膜211となる樹脂を充填することができる。即ち、中駒210は、段付けピン212の段部212aに当接する部分と位置決め孔210b内の部分以外は、表皮膜211により均一に覆われている。なお、段付けピン212の段部212aは、例えば図30に示す形状にしても良い。
【0047】
本実施形態では、前後の面31,31、41,41の3辺に、当該3辺に沿ってスリット213を形成することで、弾性を有する鍔部209を形成している。ただし、鍔部209を3辺に形成する必要はなく、少なくとも上下の辺のどちらか一方と左右の辺のどちらか一方に鍔部209を形成すれば良い。また、鍔部209を4辺に形成しても良い。鍔部209はシリンダ室23a〜23d内の圧力を受けて拡がる。
【0048】
ロータリ式シリンダ装置1の運転時には運転発熱により各構成部品は発熱し膨張する。図6の例では、回転シリンダ部材2とピストン3,4の表被膜211及び中駒210の線膨張率は異なるが、表被膜211の肉厚と中駒210の寸法でピストン3,4の線膨張率を適正化できる。また、鍔部209の拡がり具合によって線膨張率の差を吸収することができる。即ち、表皮膜211の肉厚と中駒210の寸法で材料の線膨張率を適正化するのと同様の効果が得られる。
【0049】
ケーシング6の周壁6aには、外部の気体をケーシング6内に吸い込むための吸込口61と、ケーシング6内に吸い込んだ気体を外部へ吐出するための吐出口62とが形成されている。
【0050】
吸込口61は、ケーシング6の周壁6aの内面に形成されたスリット61aと、このスリット61aとケーシング6の外部とを連通させる連通孔61bと、この連通孔61bのケーシング6の外面側に接続される吸気管61cとから構成されている。そして、スリット61aは、回転シリンダ部材2が回転すると、各シリンダ室23a〜23dとそれぞれ連なるようになっている。
【0051】
また、吐出口62は、吸込口61のスリット61aから離れた位置に形成されたスリット62aと、このスリット62aとケーシング6の外部とを連通させる連通孔62bと、この連通孔62bのケーシング6の外面側に接続される排気管62cとから構成されている。そして、スリット62aは、回転シリンダ部材2が回転すると、各シリンダ室23a〜23dとそれぞれ連なるようになっている。また、スリット62aは、シリンダ室23d内の圧力が十分に上昇した後に各シリンダ室23a〜23dに連通する位置に形成されている。即ち、シリンダ室23a〜23d内の圧力が所要圧力になるタイミングで当該シリンダ室23a〜23dが吐出口62に連通する。
【0052】
支持部材としてのケーシング6には、回転シリンダ部材2のケーシング6に対する軸方向の組み上がり精度を確保する第1の塑性変形する調整手段214が設けられている。図10〜図13に、第1の塑性変形する調整手段214を示す。第1の塑性変形する調整手段214は、例えば環状のリブ(以下、リブ214という)で、ケーシング6内の底面にシリンダスラスト軸受85と同心円状に設けられている。リブ214の横断面形状は、例えば三角形状を成している。ロータリ式シリンダ装置1を組み立てる場合、ケーシング6内にシリンダスラスト軸受85を入れリブ214に載せる。そして、シリンダスラスト軸受85に回転シリンダ部材2を載せる。この状態のリブ214の様子を図13(a)に示す。また、この状態では回転シリンダ部材2はケーシング6の縁から軸方向に若干(距離d1)突出している(図14(a))。
【0053】
そして、ケーシング6の底面を受けながら回転シリンダ部材2の他側面を加圧することで、図13(b)に示すように、リブ214が潰れて回転シリンダ部材2を所定位置まで押し込むことができる(図14(b))。即ち、リブ214を塑性変形させながら回転シリンダ部材2を所定の高さ、例えば回転シリンダ部材2の縁の高さがケーシング6の縁の高さから若干(距離d3)低い位置まで押し込むことで、たとえ回転シリンダ部材2やケーシング6等の軸方向加工寸法に誤差があったとしても、回転シリンダ部材2の軸方向の位置出しを正確に行うことができ、回転シリンダ部材2の軸方向の精度を確保することができる。このため、回転シリンダ部材2やケーシング6の加工精度をある程度ラフにすることができ、調整要素が減少し、組み付けが容易になり、製造コストを低減することができる。
【0054】
また、支持部材としてのケース上蓋95には、ピストン保持部材5のケース上蓋95に対する軸方向の組み上がり精度を確保する第2の塑性変形する調整手段215が設けられている。図15及び図16に、第2の現合調整手段215を示す。第2の現合調整手段215は、例えば環状のリブ(以下、リブ215という)で、ケース上蓋95内の底面に設けられている。リブ215の横断面形状は、例えば三角形状を成している。ロータリ式シリンダ装置1を組み立てる場合、ケース上蓋95内にピストン保持部材5を入れた状態、即ち、図16(a)に示すようにリブ215を潰していない状態では、ピストン保持部材5はケーシング6の縁からスラスト方向に若干(距離d2)突出している(図17(a))。
【0055】
そして、ケース上蓋95を受けながらピストン保持部材5を押し込むことで、図16(b)に示すように、リブ215が潰れてピストン保持部材5を所定位置まで押し込むことができる(図17(b))。即ち、リブ215を塑性変形させながらピストン保持部材5を所定の高さ、例えばピストン保持部材5の縁の高さがケース上蓋95の縁の高さから若干(距離d4)低い位置まで押し込むことで、たとえピストン保持部材5やケース上蓋95等の加工寸法に誤差があったとしても、ピストン保持部材5の軸方向の位置出しを正確に行うことができ、ピストン保持部材5の軸方向の精度を確保することができる。このため、ピストン保持部材5やケース上蓋95の加工精度をある程度ラフにすることができ、調整要素が減少し、組み付けが容易になり、製造コストを低減することができる。
【0056】
ロータリ式シリンダ装置1は、気体循環による冷却手段を備えている。本実施形態では、冷却手段として、主に回転シリンダ部材2を冷却する第1の冷却手段216と、主にピストン保持部材5を冷却する第2の冷却手段217を備えている。ただし、第1及び第2の冷却手段216,217のうちいずれか一方を省略しても良く、両方の冷却手段216,217を省略しても良い。
【0057】
第1の冷却手段216は、図18〜図21に示すように、ケーシング6の底壁6bに設けられた内側通路218と、回転シリンダ部材2の一側面(背面2d)に設けられた放射状通路219と、ケーシング6の周壁6aに設けられた外側通路220より構成されている。内側通路218は、シリンダラジアル軸受70の周囲に等間隔で複数形成されている。放射状通路219は、回転シリンダ部材2の背面2dに放射状に多数形成された溝219aと、溝219aを塞ぐように配置されたシリンダスラスト軸受85とで形成されている。また、外側通路220は周壁6aに等間隔で複数形成されている。
【0058】
回転シリンダ部材2が回転すると、遠心力によって放射状通路219内に中心から外側に向かう空気の流れが発生する。即ち、放射状通路219の中心側の圧力が低くなり、外側の圧力が高くなるので、ケーシング6の外の空気が内側通路218を通ってケーシング6内に流入し、放射状通路219の内側から放射状通路219を外側に向けて移動した後、外側通路220からケーシング6の外へと流出する。回転シリンダ部材2が回転し、ピストン3,4がシリンダ室23a〜23d内を相対的に往復運動することで、摩擦や圧縮仕事により発熱し、回転シリンダ部材2等は加熱される。この熱を内側通路218→放射状通路219→外側通路220へと流れる空気によって除去することができる。即ち、第1の冷却手段216によってケーシング6内を冷却することができ、回転シリンダ部材2やピストン3,4等の熱膨張を抑えることができる。このため、性能の良い圧縮機を提供することができる。
【0059】
このように、第1の冷却手段216では、ケーシング6内に空気を循環させてケーシング6内の冷却を行うため、例えばケーシング6の表面に放熱用のフィンを設けてケーシング6の表面に伝わった熱を放出する方式の冷却手段に比べて、効率よく冷却を行うことができる。むろん、ケーシング6に放熱フィンを設けてもかまわない。
【0060】
なお、本実施形態では、回転シリンダ部材2をある程度肉厚にし、外周面2aの軸方向の長さ寸法をある程度長くすることでシール性を確保し、気体が回転シリンダ部材2の背面2dに回り込むことの防止を図っている。しかしながら、気体は加圧されるので、加圧された気体が回転シリンダ部材2の背面2dに回り込むことがある。回転シリンダ部材2の背面2dに回り込んだ気体は、冷却用の空気と一緒にケーシング6の外に放出される。即ち、回転シリンダ部材2の背面2dの冷却用空気はベアリングを通過するため潤滑グリース等の臭いがついた気体となるが、吐出口62から吐出させる気体とは別に処理することができる。吐出空気にはグリス等の臭いが混入しない。
【0061】
第2の冷却手段217は、図18,図22〜図24に示すように、ケース上蓋95の周壁95aに設けられた流入通路221と、ケース上蓋95とモータ72の間の空隙通路222と、ピストン保持部材5の背面(モータ72側の面)5aに設けられた放射状通路223と、ケース上蓋95の周壁95aに設けられた流出通路224より構成されている。流入通路221は、例えば1箇所に設けられている。放射状通路223は、ピストン保持部材5の背面5aに放射状に多数形成された溝223aと、溝223aを塞ぐように配置されたスラスト軸受96とで形成されている。また、流出通路224は、例えば3箇所に2本ずつ設けられている。なお、図3では、ピストン保持部材5について溝223aの記載を省略している。
【0062】
ピストン保持部材5が回転すると、遠心力によって放射状通路223内に中心から外側に向かう空気の流れが発生する。即ち、放射状通路223の中心側の圧力が低くなり、外側の圧力が高くなるので、ケース上蓋95の外の空気が流入通路221と空隙通路222を通って放射状通路223の内側に流入し、放射状通路223を外側に向けて移動した後、流出通路224からケース上蓋95の外へと流出する。ピストン保持部材5が回転し、ピストン3,4がシリンダ室23a〜23d内を往復運動することで、摩擦や圧縮仕事により発熱し、ピストン保持部材5等は加熱される。この熱を流入通路221→空隙通路222→放射状通路223→流出通路224へと流れる空気によって除去することができる。即ち、第2の冷却手段217によってケース上蓋95内を冷却することができ、ピストン保持部材5やピストン3,4等の熱膨張を抑えることができる。このため、性能の良い圧縮機を提供することができる。
【0063】
このように、第2の冷却手段217では、ケース上蓋95内に空気を循環させてケース上蓋95内の冷却を行うため、例えばケース上蓋95の表面に放熱用のフィンを設けてケース上蓋95の表面に伝わった熱を放出する方式の冷却手段に比べて、効率よく冷却を行うことができる。むろん、ケース上蓋95に放熱フィンを設けても良い。
【0064】
なお、本実施形態では、ピストン保持部材5の厚さをある程度厚くし、外周面5bの軸方向の長さ寸法をある程度長くすることでシール性を確保し、気体のピストン保持部材5の背面5aへの漏れ防止を図っている。しかしながら、気体は加圧されるので、加圧された気体がピストン保持部材5の背面5aに回り込むことがある。ピストン保持部材5の背面5aに回り込んだ気体は、冷却用の空気と一緒にケース上蓋95の外に放出される。即ち、ピストン保持部材5の背面5aの冷却用空気はベアリングを通過するため潤滑グリース等の臭いがついた気体となるが、吐出口62から吐出させる気体とは別に処理することができる。吐出空気にはグリス等の臭いが混入しない。なお、図18〜図20、図22、図23、図25〜図28において、斜線で塗りつぶした矢印は空気の流れを示している。
【0065】
ロータリ式シリンダ装置1は、回転シリンダ部材2と支持部材であるケーシング6の対向面の少なくともいずれか一方、及びピストン保持部材5と支持部材であるケース上蓋95の対向面の少なくともいずれか一方に非金属の塗膜を形成している。本実施形態では、回転シリンダ部材2の面2a(外周面)と面2b、及びピストン保持部材5の面5b(外周面)に非金属の塗膜を形成している。この塗膜に、上述したカーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバの一方または双方を含んだ材料を用いても良い。
【0066】
つまり、ケーシング6とケース上蓋95はそれぞれ同軸加工し、それぞれの軸芯と各同軸部位の同軸度と位置の精度を確保している。ケーシング6とケース上蓋95は例えばアルミ製であり、表面に陽極酸化処理と封孔処理(いわゆるアルマイト処理)を施している。これにより、ケーシング6とケース上蓋95の両摺動面に非金属の塗膜を形成している。また、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5を同軸加工し、それぞれの軸芯と各同軸部位の同軸度と位置の精度を確保している。回転シリンダ部材2とピストン保持部材5は例えばアルミ製であり、表面に硫酸浴を用いて硬質の陽極酸化被膜を生成し、この被膜の多孔層にフッ化炭化水素重合体の水性分散液を含浸させる処理(いわゆるタフラム処理)を施している。これにより、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5の対向面に非金属の塗膜を形成している。さらに、回転シリンダ部材2の外周面及びピストン保持部材5の外周面にフッ素樹脂塗装を行うと共に、規定寸法に仕上げ、ケーシング6の内周面又はケース上蓋95の内周面との間のクリアランスを確保している。
【0067】
上述したように構成されたロータリ式シリンダ装置1は、ピストン保持部材5がモータ72により等角速度の回転運動を行うと、ピストン3,4が周回動作をし、この動作に伴って回転シリンダ部材2も等角速度運動を行うようになっている。この動作によって、圧縮動作を行うものとなっている(図25〜図28)。なお、図25〜図28の(a)〜(c)は、回転シリンダ部材2の回転角にして15度おきに示したものである。図25(c)に続く動作は図26(a)である。また、図27(c)に続く動作は図28(a)である。
【0068】
例えば、シリンダ室23dに着目して説明する。図25(a)の状態では、ピストン4は、回転シリンダ部材2のシリンダ室23d内の最外周端部まで進出した(押し進められた)状態となっている。シリンダ室23dは吸込口61のスリット61aと吐出口62のスリット62aのいずれにも対向していない。即ち、吸込口61と吐出口62のいずれも閉口している。
【0069】
この状態より回転シリンダ部材2が回転すると、シリンダ室23dが吸込口61のスリット61aに対向し、吸込口61が開口する(図25(b))。このとき、ピストン4は空洞部22に向けて移動しており、吸込口61の開口によりシリンダ室23d内に気体を吸入する。そして、シリンダ室23dが吸込口61のスリット61aから外れるまで、即ち吸込口61が閉口するまで、気体を吸入し続ける(図25(c)→図26(a)→(b)→(c))。
【0070】
図26(c)の状態より、回転シリンダ部材2が195度回転した状態を図27(a)示す。図27(a)の状態から圧縮行程が開始される。即ち、空洞部22の位置からピストン4がシリンダ室23d内に進入するので、シリンダ室23d内の気体が圧縮される(図27(a)→(b)→(c))。そして、シリンダ室23dが吐出口62のスリット62aに対向すると(図28(a))、吐出口62が開口し、シリンダ室23d内の加圧気体が吐出される。回転シリンダ部材2の回転によりピストン4は最外周端部に向けて進出するので、シリンダ室23d内の加圧気体は吐出口62に吐出される(図28(a)→(b)→(c))。この後、図25(a)の状態に戻る。
【0071】
ここで、吐出口62のスリット62aは、シリンダ室23d内の圧力が十分に上昇した後にシリンダ室23dに連通する位置に形成されているので、シリンダ室23d内の圧力を十分に上昇させた後に吐出口62から吐出させることができる。本実施形態では、シリンダ室23d内の圧力が吐出口62内の圧力と等しくなった時に、シリンダ室23dが吐出口62に連通する。このため、効率良い圧縮仕事ができ、消費電力を低く抑えることができる。また、吐出口62に逆止弁を設ける必要もなくなる。
【0072】
以上の動作は、他のシリンダ室23a〜23cとピストン3,4についても同様に行われる。そして、回転シリンダ部材2の回転に伴い、各シリンダ室23a〜23dからの気体の吐出が繰り返し行われるので、ロータリ式シリンダ装置1が圧縮機として機能する。
【0073】
ロータリ式シリンダ装置1の運転によりピストン3,4がシリンダ室23a〜23d内を進むと、その進行方向の空間の圧力は上昇する。この圧力がピストン3,4に設けられた鍔部209の弾性力よりも大きくなると、鍔部209が変形し拡がる。拡がった鍔部209は回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5、ケース上蓋95に接触し、これらの間をシールする。したがって、たとえピストン3,4の周囲に隙間があったとしても、シール性を確実に確保することができる。なお、上昇していたシリンダ室23a〜23d内の圧力が低下すると、鍔部209はその弾性力により基の形状に復帰する。
【0074】
ロータリ式シリンダ装置1では、ピストン3,4に鍔部209を設けると共に、回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5に非金属の塗装を形成しているので、液体シール材を使わなくともピストン3,4のシール性を確保することができる。このため、液体を使用しないドライ運転が可能となり、液体シール材を使用した場合に比べるとシール抵抗の影響を受けないため消費電力を抑えることができる。
【0075】
また、ドライ運転できるため、液体シール材を使用する場合のように液体シール用の付帯機器が不要になり、コンパクトで簡易な圧縮空気を得られるシステムとなる。
【0076】
そして、材料強度や耐磨耗性の改善のために従来用いられていたカーボンファイバやガラスファイバは線径が100μm程度もあるのに対して、ピストン3,4に用いられるカーボンナノチューブは線径が15nm以下、カーボンナノファイバは線径15nm〜0.2μm程度と極めて微細なので、成形金型の角部分(エッジ部分)にまでカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが充填される。このため、エッジ部が鋭角に仕上った、金型に忠実な寸法精度の良い成形品が得られ、ピストン3,4とシリンダ室23a〜23dとの間に隙間が生じてしまうことを防止できる。これより、圧縮流体が漏れ難く、効率の良いコンプレッサを得ることができる。さらに、エッジ部分にまでカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが充填されるので、エッジ部分の強度が高くなり、摩耗が進み難くなる。従って、長時間の使用でも最大圧力は減少せず、コンプレッサの効率は下がらない。
【0077】
また、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは摺動性に優れているのに加えて熱伝導性が銅の3〜5倍と高く、放熱性が極めて良いため、摺動部分での発熱が小さく、またピストン3,4が摺動する際の摩擦音振動を小さくできる。
【0078】
また、構成部品の重量が、金属製材料または金属粉末を充填した樹脂材料と比べて軽くなるので、慣性が小さくなり起動性が改善され、ピストン3,4が摺動する際の振動も小さくなる。また、金属を用いないことで耐食性の改善がされ、ロータリ式シリンダ装置1を、水分を多く含む気体や腐食性ガスのコンプレッサとしても利用することができる。
【0079】
また、無潤滑方式(ドライ方式)であるので、吐出口62から吐出される流体にオイル等の潤滑剤が不純物として混入してしまうことが回避され、不純物の少ない圧縮流体が得られる。このため、不純物を除去するためのフィルタ(オイルミストフィルタなど)をコンプレッサの周辺機器として設ける必要がない。また、潤滑剤供給機構として潤滑油用通路や保油用ディンプルなどを設ける必要もない。これらは、ロータリ式シリンダ装置1の一層の小型化およびコスト低減に寄与する。
【0080】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、ピストン3,4または回転シリンダ部材2の摺動面を構成する複合材料は、樹脂材料をマトリックスとするものに限定されず、アルミニウムなどの軽金属に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を混合するものとしても良い。この場合も、機械的強度、加工性、摺動性、放熱性に優れた複合材料を得ることができる。また、マトリックスとなる樹脂材料は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)に限定されず、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、LCP(液晶樹脂)などの耐熱性樹脂や、ポリアミド(ナイロン)、POM(ポリアセタール)、PE(ポリエチレン)などの摺動性良好な樹脂材料でも良い。
【0081】
また、上述の実施形態では、ピストン3,4の材料にカーボンナノファイバを混合した樹脂複合材料を用いたが、ピストン3,4と接触するケーシング6、回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5の全部または少なくともピストンと接触する面をこの樹脂複合材料で形成しても良い。
【0082】
また、ピストン3,4または回転シリンダ部材2の接触面を構成する複合材料は、例えば潤滑剤を含むものであっても良い。例えば、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブをカップスタック型とし、このカップスタック型の芯となる空洞部分に潤滑油を含浸させたものを用いても良い。或いは、マトリクスとなる樹脂に、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブに加えて、固体潤滑剤(例えばPTFE、MoS2(二硫化モリブデン)、WS2(二硫化タングステン)、BN(ボロンナイトライド)など)を添加しても良い。この場合、更に摺動性を高めることができる。
【0083】
また、複合材料によりピストン3,4または回転シリンダ部材2の摺動面を形成するものに限られず、ピストン3,4と回転シリンダ部材2との接触面の一方または双方に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を摺動面に対して垂直方向に配向させるようにしても良い。カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは、通常のカーボンファイバに比べて、折れ難く柔軟性を有しているため、流体のシール性を高めることができる。また、アルミニウム合金などの金属材料で作製したピストンの表面に、カーボンナノファイバを混入した有機樹脂塗料を塗布し、この塗料を硬化させた後、上記塗料の表面を切削加工するようにしても良い。
【0084】
また、カーボンナノファイバやカーボンナノチューブ以外のナノカーボン材料(例えばカーボンナノホーン、ツェッペリン、フラーレンなど)であっても、機械的強度、摺動性、熱伝導性に優れるものであれば、用いても良い。これらのナノカーボン材料も微細であることから型の角部分(エッジ部分)にまで充填することができ、且つ機械的強度、摺動性、熱伝導性に優れるものであれば、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0085】
なお、上述の説明では、ケース上蓋95とモータ72の側板72aを別体としていたが、例えば図29に示すように、ケース上蓋95とモータ72の側板72aを一体化しても良い。なお、この場合には第2の冷却手段217の空隙通路222を省略し、流入通路221によって空気を放射状通路223の中心側に導くようにすることが好ましい。
【0086】
また、上述の説明では、第1及び第2の塑性変形する調整手段214,215は横断面形状が三角形のリブであったが、リブの横断面形状は三角形に限るものではなく、適切な荷重で潰れ易ければ、作り易いその他の形状でも良い。
【0087】
また、ロータリ式シリンダ装置1の冷却効果をより高めるために、モータ72の出力軸(支軸)51をピストン保持部材5とは逆側に延長し、この延長部分にファンを付加しても良く、あるいは回転シリンダ部材2のセンタ軸21をケーシング6の外側に延長し、この延長部分にファンを付加しても良い。
【0088】
また、上述の説明では、本発明を圧縮機に適用していたが、真空ポンプに適用しても良い。なお、真空ポンプの場合は圧縮機とは入出力が逆の動作になる。つまり、圧縮機では吐出口62からの圧縮空気を利用し、吸込口61は大気圧である。真空ポンプでは吐出口62は大気圧開放し、吸込口61にタンク等を付加し負圧を利用する。
【0089】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、請求項1記載のロータリ式シリンダ装置によれば、ピストンと回転シリンダ部材との接触面の一方または双方を、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有した複合材料で形成しているので、カーボンファイバやガラスファイバと比較して極微細なカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが成形金型の角部分(エッジ部分)にまで充填され、エッジ部を鋭角とでき且つエッジ部を高強度とできる。これにより、ピストンとシリンダ室との間に隙間が生じてしまうことを防止でき、圧縮流体が漏れ難く、効率の良いコンプレッサを得ることができる。また、エッジ部分の摩耗が進み難くなり、長時間の使用でも最大圧力が減少しない高効率を維持できるコンプレッサを実現できる。更に、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは摺動性に優れるのに加えて熱伝導性が高く放熱性が良いため、摺動部分での発熱を抑え、焼付きを防止できる。
【0090】
また、無潤滑方式(ドライ方式)とできるので、吐出口から吐出される流体にオイル等の潤滑剤が不純物として混入してしまうことが回避され、不純物の少ない圧縮流体が得られる。このため、不純物を除去するためのフィルタを周辺機器として設ける必要がない。また、潤滑剤供給機構として潤滑油用通路や保油用ディンプルなどを設ける必要もない。これらは、ロータリ式シリンダ装置の一層の小型化およびコスト低減に寄与する。
【0091】
さらに、請求項2記載のロータリ式シリンダ装置によれば、複合材料は、樹脂材料をマトリックスとして、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有させたものとしているので、金属をマトリックスとした場合と比較して、耐食性が向上する。このため、ロータリ式シリンダ装置を、水分を多く含む気体や腐食性ガスのコンプレッサとしても利用することができる。また、金属をマトリックスとした場合と比較して、重量が軽くなるためロータリ式シリンダ装置の起動性が向上し、ピストン摺動時の振動も小さくなる。
【0092】
さらに、請求項3記載のロータリ式シリンダ装置では、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブは、フッ素化されたものとしているので、摩擦係数が低くなり、従って摺動抵抗が小さくなり、摺動部分での発熱をより抑えることができる。
【0093】
さらに、請求項4記載のロータリ式シリンダ装置では、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブはカップスタック型であり、該カップスタック型の空洞部に潤滑油を含浸させたものとしているので、使用中に微量の潤滑油が徐々にしみ出て、複合材料の摺動性を更に高めることができる。
【0094】
また、請求項5記載のロータリ式シリンダ装置では、ピストンと回転シリンダ部材との接触面の一方または双方に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を摺動面に対して垂直方向に配向させるようにしており、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは通常のカーボンファイバに比べて折れ難く且つ柔軟性を有しているので、流体のシール性が高めることができる。しかも、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは摺動性に優れるのに加えて熱伝導性が高く放熱性が良いため、摺動部分での発熱を抑え、焼付きを防止できる。また、無潤滑方式(ドライ方式)とできるので、吐出口から吐出される流体にオイル等の潤滑剤が不純物として混入してしまうことが回避され、不純物の少ない圧縮流体が得られる。このため、不純物を除去するためのフィルタを周辺機器として設ける必要がない。また、潤滑剤供給機構として潤滑油用通路や保油用ディンプルなどを設ける必要もない。これらは、ロータリ式シリンダ装置の一層の小型化およびコスト低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したロータリ式シリンダ装置の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のロータリ式シリンダ装置のケース上蓋とピストン保持部材を取り外した状態の平面図である。
【図3】図1のロータリ式シリンダ装置の回転シリンダ部材とピストンとピストン保持部材を示す分解斜視図である。
【図4】回転シリンダ部材にスラスト方向の予圧をかける構造を分解して示す断面図である。
【図5】予圧手段である皿ばねの斜視図である。
【図6】ピストンを一部切り欠いて示す斜視図である。
【図7】ピストンの中駒を示す平面図である。
【図8】ピストンの中駒を示す側面図である。
【図9】ピストンの中駒を示す正面図である。
【図10】ケーシングを一部切り欠いて示す斜視図である。
【図11】図10に円Aで示す部分を拡大して示す斜視図である。
【図12】第1の塑性変形する調整手段を示す断面図である。
【図13】図12に円Bで示す部分を拡大して示し、(a)はケーシングに対して回転シリンダ部材を押し込む前の状態を示す断面図、(b)はケーシングに対して回転シリンダ部材を所定位置まで押し込んだ状態を示す断面図である。
【図14】図12に円Cで示す部分を拡大して示し、(a)はケーシングに対して回転シリンダ部材を押し込む前の状態を示す断面図、(b)はケーシングに対して回転シリンダ部材を所定位置まで押し込んだ状態を示す断面図である。
【図15】第2の塑性変形する調整手段を示す断面図である。
【図16】図15に円Dで示す部分を拡大して示し、(a)はケース上蓋に対してピストン保持部材を押し込む前の状態を示す断面図、(b)はケース上蓋に対してピストン保持部材を所定位置まで押し込んだ状態を示す断面図である。
【図17】図15に円Eで示す部分を拡大して示し、(a)はケース上蓋に対してピストン保持部材を押し込む前の状態を示す断面図、(b)はケース上蓋に対してピストン保持部材を所定位置まで押し込んだ状態を示す断面図である。
【図18】第1及び第2の冷却手段の空気の流れを示す断面図である。
【図19】第1の冷却手段を示すケーシングの底面図である。
【図20】回転シリンダ部材の背面図である。
【図21】回転シリンダ部材を背面側からみた斜視図である。
【図22】第2の冷却手段を示すケース上蓋の正面図である。
【図23】ピストン保持部材の背面図である。
【図24】ピストン保持部材を背面側からみた斜視図である。
【図25】ロータリ式シリンダ装置の作動原理を説明するための図で、(a)は一方のピストンが空洞部を横切り、他方のピストンがシリンダ室の最奥部にまで進入した状態を示す図、(b)は(a)の状態から回転シリンダ部材の回転角で15度だけ回転した状態を示す図、(c)は(b)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図である。
【図26】ロータリ式シリンダ装置の作動原理を説明するための図で、(a)は図25(c)の状態から回転シリンダ部材の回転角で15度だけ回転した状態を示す図、(b)は(a)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図、(c)は(b)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図である。
【図27】ロータリ式シリンダ装置の作動原理を説明するための図で、(a)は図26(c)の状態から回転シリンダ部材の回転角で195度だけ回転した状態を示す図、(b)は(a)の状態から回転シリンダ部材の回転角で15度だけ回転した状態を示す図、(c)は(b)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図である。
【図28】ロータリ式シリンダ装置の作動原理を説明するための図で、(a)は図27(c)の状態から回転シリンダ部材の回転角で15度だけ回転した状態を示す図、(b)は(a)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図、(c)は(b)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図である。
【図29】本発明を適用したロータリ式シリンダ装置の第2の実施形態を示す断面図である。
【図30】ピストンの他の実施形態を一部切り欠いて示す斜視図である。
【図31】従来のロータリ式シリンダ装置を示す断面図である。
【図32】従来のロータリ式シリンダ装置を示し、ケース上蓋とピストン保持部材を取り外した状態の平面図である。
【符号の説明】
1 ロータリ式シリンダ装置
2 回転シリンダ部材
2a (回転シリンダ部材の)外周面
3,4 ピストン
5 ピストン保持部材
6 ケーシング(支持部材)
22 空洞部
23a〜23d シリンダ室
61 吸込口
62 吐出口
209 鍔部
214 第1の現合調整手段
215 第2の現合調整手段
216 第1の冷却手段
217 第2の冷却手段
o 回転軸心
X (回転軸心から)偏心した回転中心位置
x1,x2 (ピストン保持部材の)偏心した自転中心位置
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロータリ式シリンダ装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、ロータリ式シリンダ装置における摺動部分の材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンプレッサなどのシリンダ装置の摺動部における潤滑方式は、オイルなどの液体潤滑剤を用いた潤滑方式と、液体潤滑剤を用いない無潤滑方式(ドライ方式とも呼ばれる)とに大別される。
【0003】
潤滑方式では、オイル類を用いることで摺動面の潤滑を助け、シリンダやピストンの摩耗を防ぎ、またオイル類がシリンダとピストンの間に入ってシリンダ−ピストン間の空気漏れを防ぐシール材としての役割を果たす。潤滑方式におけるシリンダ及びピストンの構成材料としては、鋳鉄を用いるのが一般的である。更に、潤滑方式においては、摺動面への潤滑剤供給機構として、潤滑油の通路を設けたり、摺動面に保油用のディンプルを設けたりしている。
【0004】
一方、無潤滑方式では気密性を確保するために、ピストンリングやカップシールを用いている(特許文献1参照)。無潤滑方式におけるシリンダやピストンの構成材料としては、摺動摩擦抵抗の少ない材料、即ち摺動性の良い材料として、カーボン材料、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)が用いられている。また、材料強度や耐磨耗性を高めるために、ガラスファイバやカーボンファイバを含有した樹脂材料が用いられることもある。
【0005】
ところで、ロータリ式シリンダ装置として、特開2001−3701号公報に開示されたものが従来ある(特許文献2参照)。かかるロータリ式シリンダ装置101は、図31及び図32に示すように、円形形状の回転シリンダ部材102と、180度離れた2つの偏心した自転中心位置x1,x2にそれぞれピストン103,104を回動可能に保持しかつ回転シリンダ部材102の回転軸心oから偏心した位置を回転中心位置Xとして回転するピストン保持部材105と、回転シリンダ部材102及びピストン保持部材105の両回転部材をそれぞれ回転自在に支持するケーシング106と、を有している。
【0006】
回転シリンダ部材102にはシリンダ室123a〜123dが形成されている。支軸151を図示しないモータによって回転させると、ピストン保持部材105が回転し、ピストン103をシリンダ室123a,123bに沿って往復運動させながら、また、ピストン104をシリンダ室123c,123dに沿って往復運動させながら、回転中心位置Xまわりに回転させる。これにより、回転シリンダ部材102も回転し、吸込口161からシリンダ室123a〜123d内に吸い込んだ流体をピストン103,104によって加圧して吐出口162から吐出させる。
【0007】
【特許文献1】
昭63−126565号公報
【特許文献2】
特開2001−3701号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ロータリ式シリンダ装置を潤滑方式とした場合、次のような問題がある。即ち、吐出口から吐出される流体にオイル等の潤滑剤が不純物として混入してしまう。このため、当該不純物を除去するためのフィルタが別途必要となる。また、潤滑剤供給機構として潤滑油用通路や保油用ディンプルなどを設ける必要が生じる。
【0009】
一方、ロータリ式シリンダ装置を無潤滑方式とした場合にも、次のような問題がある。即ち、従来のピストンリングやカップシールは、断面が円形であるピストンに用いられるものであり、ピストンの断面が略矩形状を成すロータリ式シリンダ装置に適用することはできない。このため、無潤滑方式のロータリ式シリンダ装置を実現するためには、摺動する部品同士の角部分および壁面を寸法精度良く仕上げる必要がある。さもないと、圧縮流体が漏れてコンプレッサとしての効率が下がってしまう。特に低回転時には、圧縮流体の漏れが多く、吐出流体の圧力が上がらない。
【0010】
ところが、無潤滑方式のシリンダ装置で用いられていた従来のカーボン材料では、機械加工中にエッジ部が欠けてしまい易い。また、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂材料では、シリンダ装置の運転中にエッジ部が削れて、欠けたり丸まってしまう。また、カーボンファイバやガラスファイバを混合した樹脂材料では、これらの繊維がエッジ部にうまく行き渡らないためエッジ部が鋭角に仕上がらず、またエッジ部の強度が出ないためシリンダ装置の運転中にエッジ部が削れてしまう。また、繊維の影響で型に忠実な成形が困難で、ピストンとシリンダとの間に隙間を生じやすい。
【0011】
また、ロータリ式シリンダ装置を無潤滑方式とした場合には、高速回転時に摺動部分での発熱量が大きく、焼付きを起こし易くなる。焼付きを防止するためには、摩擦係数の小さい材料であることに加えて、放熱性の良い材料を選択する必要がある。放熱性改善の手段としては、熱伝導率の高いCu系金属材料やCu系金属材料と樹脂との複合材料が考えられるが、金属を含むことにより比重が大きくなるため、ロータリ式シリンダ装置の起動性が悪くなってしまう。
【0012】
そこで本発明は、機械的強度、加工性、摺動性、放熱性に優れた材料を摺動部分に用いた無潤滑方式のロータリ式シリンダ装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、回転軸心を中心として形成された空洞部に連通し、該空洞部を挟んで対向する少なくとも一対のシリンダ室を有する円形形状の回転シリンダ部材と、回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心位置を中心として回転するピストン保持部材とを、支持部材にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストンが保持され、回転シリンダ部材とピストン保持部材との相対回動によりピストン自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによって一対のシリンダ室の双方に出入りすると共に、支持部材に、シリンダ室に連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置において、ピストンと回転シリンダ部材との接触面の一方または双方を、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有した複合材料で形成するようにしている。
【0014】
したがって、カーボンファイバやガラスファイバが線径100μm程度もあるのに対して、カーボンナノチューブは線径が15nm以下、カーボンナノファイバは線径15nm〜0.2μm程度と極めて微細なので、型の角部分(エッジ部分)にまでカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが充填される。このため、エッジ部が鋭角に仕上った、型に忠実な寸法精度の良い成形品が得られ、気密性を向上させることができる。さらに、エッジ部分にまでカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが充填されるので、エッジ部分の強度が高くなり、摩耗が進み難くなる。さらに、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは摺動性に優れるのに加えて熱伝導性が銅の3〜5倍と高く、放熱性が極めて良いため、摺動部分での発熱を抑え、焼付きを防止できる。
【0015】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のロータリ式シリンダ装置において、複合材料は、樹脂材料をマトリックスとして、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有させたものとしている。この場合、樹脂材料をマトリックスとすることで、金属をマトリックスとした場合と比較して、耐食性が向上し、重量が軽くなるためロータリ式シリンダ装置の起動性が向上する、という利点が得られる。
【0016】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載のロータリ式シリンダ装置において、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブは、フッ素化されたものとしている。この場合、通常のカーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブと比べて摩擦係数を更に低くでき、摺動部分での発熱をより抑えることができる。
【0017】
また、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載のロータリ式シリンダ装置において、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブはカップスタック型であり、該カップスタック型の空洞部に潤滑油を含浸させたものとしている。従って、使用中に微量の潤滑油が徐々にしみ出てくるので、複合材料の摺動性を更に高めることができる。
【0018】
また、請求項5記載の発明は、回転軸心を中心として形成された空洞部に連通し、該空洞部を挟んで対向する少なくとも一対のシリンダ室を有する円形形状の回転シリンダ部材と、回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心位置を中心として回転するピストン保持部材とを、支持部材にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストンが保持され、回転シリンダ部材とピストン保持部材との相対回動によりピストン自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによって一対のシリンダ室の双方に出入りすると共に、支持部材に、シリンダ室に連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置において、ピストンと回転シリンダ部材との接触面の一方または双方に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を摺動面に対して垂直方向に配向させるようにしている。カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは、通常のカーボンファイバに比べて、折れ難く且つ柔軟性を有しているため、流体のシール性が高まる。しかも、摺動性に優れ、且つ熱伝導性が銅の3〜5倍と高く、放熱性が極めて良いため、摺動部分での発熱を抑え、焼付きを防止できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1から図3に本発明のロータリ式シリンダ装置の実施の一形態を示す。なお、本実施形態では、ロータリ式シリンダ装置を、例えばピストン保持部材に回転動作を与えることにより、吸込口から流体例えば気体を吸入し、吐出口から流体を排出する気体圧縮機(コンプレッサ)として説明するが、回転シリンダ部材に回転動作を与えることにより、吸込口から流体例えば気体を吸入し、吐出口から流体を排出する気体圧縮機としても良い。また、流体としては気体に限るものではなく、液体であっても良い。また、圧縮機に限るものではなく、真空ポンプであっても良い。
【0021】
このロータリ式シリンダ装置1は、回転軸心を中心として形成された空洞部に連通し、該空洞部を挟んで対向する少なくとも一対のシリンダ室を有する円形形状の回転シリンダ部材2と、回転シリンダ部材2の回転軸心から偏心した回転中心位置を中心として回転するピストン保持部材5とを、支持部材にそれぞれ回転自在に支持すると共に、ピストン保持部材5の回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストン3,4が保持され、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5との相対回動によりピストン3,4自体が自転中心位置を中心として回動しながらかつ回転中心位置を中心として回転することによって一対のシリンダ室の双方に出入りすると共に、支持部材に、シリンダ室に連なる吸込口61及び吐出口62を備える装置であって、ピストン3,4と回転シリンダ部材2との接触面の一方または双方を、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有した複合材料で形成するようにしている。
【0022】
本実施形態の複合材料(コンポジット)は、例えば樹脂材料をマトリックス(母相)として、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有したものとしている。樹脂材料をマトリックスとすることで、金属をマトリックスとした場合と比較して、耐食性が向上し、重量が軽くなるためロータリ式シリンダ装置の起動性が向上する、という利点が得られる。但し、場合によっては金属材料(例えば軽量で機械的性質に優れるアルミニウム合金)などをマトリックスとしても良い。
【0023】
マトリックスとなる樹脂材料は、特に限定されるものではないが、耐熱性に優れるPPS(ポリフェニレンサルファイド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、LCP(液晶樹脂)などや、摺動性に優れるポリアミド(ナイロン)、PE(ポリエチレン)、POM(ポリアセタール)などの利用が好ましい。例えば本実施形態では、PPSをベース樹脂として用いている。
【0024】
カーボンナノチューブは、線径が15nm以下、長さが1μm程度のものが好ましく、単層タイプまたは多層タイプ或いはカップスタック型といった形態は特に限定はされない。また、カーボンナノファイバは、線径が15nm〜0.1μm程度、長さが20μm程度のものが好ましい。また、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバを構成する分子にフッ素が付加したフッ素化カーボンナノチューブまたはフッ素化カーボンナノファイバも、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバと比較して摩擦係数が低いので、好適である。カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバの両方をベース樹脂に含めるものとしても良いが、どちらか一方のみを含めるものであっても良い。
【0025】
例えば本実施形態では、PPS90質量%に対して、線径0.1μmで長さ20μmのカーボンナノファイバを10質量%混合するようにしている。そして、この混合樹脂を用いて射出成形をし、機械加工仕上げを行なって、ピストン3,4を作製するようにしている。
【0026】
一方、ピストン3,4と接触する回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5、支持部材としてのケーシング6は、例えばアルミニウム材料で作製し且つ少なくともピストン3,4と接触する面は、陽極酸化処理と封孔処理(いわゆるアルマイト処理)またはアルマイト処理に加えてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)処理などを施し、耐摩耗性や摺動性を改善するようにしている。尚、アルミニウム材料に無電解Niメッキ、無電解Ni−SiO2複合メッキ、無電解Ni−PTFE複合メッキなどを施しても良い。この場合も、耐摩耗性や摺動性を改善することができる。
【0027】
ピストン3,4のみを上述した複合材料で作製する場合、必要となるカーボンナノチューブやカーボンナノファイバの量も低減されるため、コストを抑えることができる。尚、ピストン3,4の全部を上述した複合材料で作製するものに限らず、ピストン3,4における他部材(ケーシング6、回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5)との接触面のみを上述した複合材料を用いて構成するようにしても良い。また、ピストン3,4と接触するケーシング6、回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5、保持軸52,53の全部または少なくともピストン3,4と接触する面を、上述した複合材料を用いて構成するようにしても良い。また、ケーシング6と回転シリンダ部材2との接触面の一方または双方を、上述した複合材料を用いて構成するようにしても良い。また、ケース上蓋95とピストン保持部材5との接触面の一方または双方を、上述した複合材料を用いて構成するようにしても良い。
【0028】
次に、本実施形態におけるロータリ式シリンダ装置の構成の一例について更に詳述する。このロータリ式シリンダ装置1は、円形形状の回転シリンダ部材2と、180度離れた2つの偏心した自転中心位置x1,x2にそれぞれピストン3,4を回動可能に保持しかつ回転シリンダ部材2の回転軸心oから偏心した位置を回転中心位置Xとして回転するピストン保持部材5と、回転シリンダ部材2及びピストン保持部材5の両回転部材をそれぞれ回転自在に支持する支持部材としてのケーシング6及びケース上蓋95と、を有している。
【0029】
回転シリンダ部材2は、所定の厚みを有する円形形状で形成されており、ケーシング6の内部空間に回転自在に配置されている。この回転シリンダ部材2の一側面には、センタ軸21が一体成形されている。センタ軸21は、ケーシング6の底壁6bに設けられた孔6cに嵌め込まれたシリンダラジアル軸受70によって回転自在に支持されている。また、回転シリンダ部材2とケーシング6との間には、シリンダスラスト軸受85が配置されている。これらのため、回転シリンダ部材2は、センタ軸21を回転中心としてケーシング6内で回転可能となっている。なお、回転シリンダ部材2には、シリンダスラスト軸受85のリテーナを位置決めするリング201が、その対向位置に固定されている。
【0030】
シリンダラジアル軸受70は、例えばボールベアリングである。ただし、ボールベアリングに限るものではなく、ニードルベアリング等の転がり軸受であっても良く、さらには滑り軸受であっても良い。また、シリンダスラスト軸受85は、例えばニードルベアリングである。ただし、ニードルベアリングに限るものではなく、ボールベアリング等の転がり軸受であっても良く、さらには滑り軸受であっても良い。
【0031】
回転シリンダ部材2の他側面には、4つの扇状の台部25を利用して形成された十字状の空間が設置されている。この十字状の空間は、空洞部22と4つのシリンダ室23a〜23dとから構成されている。すなわち、回転シリンダ部材2の他側面には、回転軸心oを中心として所定の広さを備えかつ底面を有する空洞部22が形成されている。そして、この空洞部22内の回転軸心oを中心として放射状に、4つの断面矩形のシリンダ室23a〜23dが設けられている。すなわち、シリンダ室23a〜23dは、ピストン保持部材5側が開放され、他の3方の面が全て平面で形成されており、長手方向の一端側は空洞部22に連通している。
【0032】
なお、これらのシリンダ室23a〜23d内には、後述するようにピストン保持部材5に保持されたピストン3,4が嵌まり込むようになっており、各シリンダ室23a〜23dの3方の各平面部分が、4方の外面を平面で形成されたピストン3,4の3方の各平面部分との接触面となっている。すなわち、シリンダ室23a〜23dのピストン3,4との対向面及びこれに対するピストン3,4側の対向面は、互いに平面で形成され、これらの平面同士が接触面となっている。このように各ピストン3,4と各シリンダ室23a〜23dとの接触面が平面同士で形成されるため、接触面積が大きくなっている。そのため、各ピストン3,4が各シリンダ室23a〜23d内に嵌まり込むことによって形成している各空間から、接触面を伝って他の空間へ気体が漏れ出すことを防止するようにしている。
【0033】
なお、上述したように形成されたシリンダ室23a〜23dの長手方向の他端側は、回転シリンダ部材2の外周面2aに開放されている。そのため、各シリンダ室23a〜23dは、後述するケーシング6に形成された吸込口61及び吐出口62に連通可能となっている。
【0034】
なお、上述した各シリンダ室23a〜23dのうちの2つのシリンダ室23a,23bは、180度の位置に配置されており、ピストン3にとって、それぞれ空洞部22を挟んで対向する一対の部材となっている。そして、後述するように、ピストン保持部材5の回転により、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5とが相対回動すると、ピストン3が空洞部22を経てシリンダ室23a,23b間を見た目上の往復直線運動し、シリンダ室23a,23b内の双方に出入りするようになっている。
【0035】
また、残りの2つのシリンダ室23cと23dも、180度の位置に配置されており、ピストン4にとって、それぞれ空洞部22を挟んで対向する一対の部材となっている。そして、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5とが相対回転すると、ピストン4が空洞部22を経てシリンダ室23c,23d間を見た目上の往復直線運動し、シリンダ室23c,23d内の双方に出入りするようになっている。
【0036】
なお、空洞部22及び十字に配置された直線状のシリンダ室23a〜23dによって形成された十字状の空間に連通するように、細い十字溝が回転シリンダ部材2に形成されている。この細い十字溝は、ピストン3を一対のシリンダ室23a,23b間において見た目上の往復直線運動をより安定的にするための直線状のガイド溝24aと、ピストン4を一対のシリンダ室23c,23d間において往復直線運動をより安定的にするための直線状のガイド溝24bとが十字状に交差することによって形成されている。
【0037】
ロータリ式シリンダ装置1は予圧手段202を有しており、回転シリンダ部材2のスラスト方向に予圧をかけている。予圧手段202を図4に示す。予圧手段202は、例えば皿ばね(以下、皿ばね202という)である。本実施形態では、予圧手段202として、例えば6枚の皿ばね202を有している。回転シリンダ部材2のセンタ軸21をシリンダラジアル軸受70に嵌め込んで突出させ、その突出部分に座金203と6枚の皿ばね202を通している。そして、2枚の座金204,205をセンタ軸21の端面に当ててボルト206によって留めている。皿ばね202の弾性力が回転シリンダ部材2をケーシング6に向けて引っ張るので、即ち回転シリンダ部材2は予圧でシリンダスラスト軸受85に当接するので、シリンダラジアル軸受70のがた付きを抑えることができる。このため、回転シリンダ部材2のセンタリングが容易になり、回転する装置としての信頼性を高めることができる。また、ロータリ式シリンダ装置1の運転により回転シリンダ部材2に吐出口側から径方向の圧力が作用し、この圧力が回転シリンダ部材2を傾け中心ずれをしようとするが、回転シリンダ部材2に予圧をかけておくことで回転シリンダ部材2の傾きを抑えることができ、回転シリンダ部材2を安定回転させることができ、回転する装置としての信頼性をより一層高めることができる。
【0038】
図5に皿ばね202を示す。皿ばね202に多数の孔202aを形成し、変形し易い形状にしている。また、皿ばね202を薄板で形成し、複数枚積層して配置している。これらのため、皿ばね202全体としてのばね定数が小さくなり、安定したスラスト荷重を得ることができる。なお、座金204はスラスト荷重調整用の座金で、枚数を増減することで皿ばね202による予圧力の大きさを調整する。
【0039】
一方、ピストン保持部材5は、回転シリンダ部材2の外径よりも小さい外径を有する円形形状で形成されている。このピストン保持部材5の回転中心位置Xには、支軸51の一端が挿入され、丸断面のキー207によって周方向の相対回転は制限され且つ軸方向の相対移動は許容される。なお、このピストン保持部材5の回転中心位置Xは、上述の回転シリンダ部材2の回転軸心oから偏心した位置に設けられている(図2)。支軸51は、例えば電動モータ等の駆動源(以下、モータという)72の出力軸である。モータ72の側板72aはケース上蓋95に取り付けられている。支軸51はモータ72の軸受部材8に回転自在に支持されている。
【0040】
なお、ピストン保持部材5とケース上蓋95の間には、スラスト軸受96が配置されている。ピストン保持部材5には、スラスト軸受96のリテーナを位置決めするリング208が、その対向位置に固定されている。スラスト軸受96は、例えばニードルベアリングである。ただし、ニードルベアリングに限るものではなく、ボールベアリング等の転がり軸受であっても良く、さらには滑り軸受であっても良い。さらに、スラスト軸受96を省略しても良い。
【0041】
ピストン保持部材5の支軸51が挿入されている面(背面5a)と反対側の面には、ピストン3を自転可能に保持する保持軸52と、ピストン4を自転可能に保持する保持軸53とが立設固定されている。そして、保持軸52には、ピストン3がシリンダ室23a,23bを含む直線状の溝、すなわちガイド溝24a内の所定の部位に嵌まり込んだ状態で遊嵌されている。
【0042】
ピストン3は、見かけ上の往復直線運動時における前後の面31,31が若干丸みを有するように形成されているが、他の4面、すなわちシリンダ室23a,23b内に嵌まり込んだ状態における上面32、底面33及び両側面34,34が平面に形成されている。すなわち、ピストン3は、略長方体のブロック形状を有している。そして、平面に形成された各面のうちの上面32を除く底面33と両側面34,34は、ピストン3がシリンダ室23a,23b内に嵌まり込んだ際のシリンダ室23a,23bとの接触面となる。また、ピストン3の中心部分には、保持軸52に遊嵌されるための孔3aが設けられている。さらに、ピストン3の底部分には、上述したガイド用溝24aに嵌まり込む凸片3bが設けられている。
【0043】
一方、保持軸53には、ピストン4がシリンダ室23c,23dを含む直線状の溝、すなわちガイド溝24b内の所定の位置に嵌まり込んだ状態で遊嵌されている。ピストン4もピストン3と同様、見かけ上の往復直線運動時における前後の面41,41が若干丸みを有するように形成されているが、他の4面、すなわちシリンダ室23c,23d内に嵌まり込んだ状態における上面42、底面43及び両側面44,44が平面に形成されている。すなわち、ピストン4も、ピストン3と同様、略長方体のブロック形状を有している。そして、平面に形成された各面のうちの上面42を除く底面43と両側面44,44は、ピストン4がシリンダ室23c,23d内に嵌まり込んだ際のシリンダ室23c,23dとの接触面となる。また、ピストン4の中心部分には、保持軸53に遊嵌されるための孔4aが設けられている。さらに、ピストン4の底部分には、上述したガイド用溝24bに嵌まり込む凸片4bが設けられている。
【0044】
例えば本実施形態のピストン3,4では、弾性を有する鍔部209を備えるようにしている。したがって、シリンダ室23a〜23d内の流体の圧力が上昇すると、この圧力によって鍔部209が拡がりピストン3,4の周囲の隙間をシールする。このため、たとえピストン3,4の周囲に隙間があったとしても、この隙間からの流体の漏れが防止される。
【0045】
ここで、図6に示すように、ピストン3,4を中駒210と表皮膜211より構成するようにしても良い。図6の例では、鍔部209は表皮膜211に形成されている。この場合、例えば中駒210をポーラスな空隙を有する例えばAlカーボン又はCu等の粉末焼結体とし、表皮膜211を上述したカーボンナノファイバ含有PPS樹脂の膜とする。中駒210の表面に表皮膜211をアウトサートすることで、これらは一体的に成形される。中駒210がポーラスな粉末焼結体であるため、表皮膜211は成形時にその圧力で中駒210の空隙部に入り込み、アンカー効果で中駒210の表面に強固に結合される。このため、表皮膜211は、通常の使用では剥がれることがない。このことは、孔3aの内周面の表皮膜211についても同様である。
【0046】
図7〜図9に中駒210を示す。中駒210には、孔210aの他、アウトサート用の位置決め孔210bが型抜き方向に設けられている。位置決め孔210bは、例えば4箇所に設けられている。アウトサート成形時に位置決め孔210bに段付けピン212(図6)を上下から挿入することで、成形型から中駒210を浮かして支持することができ、中駒210の周囲に表皮膜211となる樹脂を充填することができる。即ち、中駒210は、段付けピン212の段部212aに当接する部分と位置決め孔210b内の部分以外は、表皮膜211により均一に覆われている。なお、段付けピン212の段部212aは、例えば図30に示す形状にしても良い。
【0047】
本実施形態では、前後の面31,31、41,41の3辺に、当該3辺に沿ってスリット213を形成することで、弾性を有する鍔部209を形成している。ただし、鍔部209を3辺に形成する必要はなく、少なくとも上下の辺のどちらか一方と左右の辺のどちらか一方に鍔部209を形成すれば良い。また、鍔部209を4辺に形成しても良い。鍔部209はシリンダ室23a〜23d内の圧力を受けて拡がる。
【0048】
ロータリ式シリンダ装置1の運転時には運転発熱により各構成部品は発熱し膨張する。図6の例では、回転シリンダ部材2とピストン3,4の表被膜211及び中駒210の線膨張率は異なるが、表被膜211の肉厚と中駒210の寸法でピストン3,4の線膨張率を適正化できる。また、鍔部209の拡がり具合によって線膨張率の差を吸収することができる。即ち、表皮膜211の肉厚と中駒210の寸法で材料の線膨張率を適正化するのと同様の効果が得られる。
【0049】
ケーシング6の周壁6aには、外部の気体をケーシング6内に吸い込むための吸込口61と、ケーシング6内に吸い込んだ気体を外部へ吐出するための吐出口62とが形成されている。
【0050】
吸込口61は、ケーシング6の周壁6aの内面に形成されたスリット61aと、このスリット61aとケーシング6の外部とを連通させる連通孔61bと、この連通孔61bのケーシング6の外面側に接続される吸気管61cとから構成されている。そして、スリット61aは、回転シリンダ部材2が回転すると、各シリンダ室23a〜23dとそれぞれ連なるようになっている。
【0051】
また、吐出口62は、吸込口61のスリット61aから離れた位置に形成されたスリット62aと、このスリット62aとケーシング6の外部とを連通させる連通孔62bと、この連通孔62bのケーシング6の外面側に接続される排気管62cとから構成されている。そして、スリット62aは、回転シリンダ部材2が回転すると、各シリンダ室23a〜23dとそれぞれ連なるようになっている。また、スリット62aは、シリンダ室23d内の圧力が十分に上昇した後に各シリンダ室23a〜23dに連通する位置に形成されている。即ち、シリンダ室23a〜23d内の圧力が所要圧力になるタイミングで当該シリンダ室23a〜23dが吐出口62に連通する。
【0052】
支持部材としてのケーシング6には、回転シリンダ部材2のケーシング6に対する軸方向の組み上がり精度を確保する第1の塑性変形する調整手段214が設けられている。図10〜図13に、第1の塑性変形する調整手段214を示す。第1の塑性変形する調整手段214は、例えば環状のリブ(以下、リブ214という)で、ケーシング6内の底面にシリンダスラスト軸受85と同心円状に設けられている。リブ214の横断面形状は、例えば三角形状を成している。ロータリ式シリンダ装置1を組み立てる場合、ケーシング6内にシリンダスラスト軸受85を入れリブ214に載せる。そして、シリンダスラスト軸受85に回転シリンダ部材2を載せる。この状態のリブ214の様子を図13(a)に示す。また、この状態では回転シリンダ部材2はケーシング6の縁から軸方向に若干(距離d1)突出している(図14(a))。
【0053】
そして、ケーシング6の底面を受けながら回転シリンダ部材2の他側面を加圧することで、図13(b)に示すように、リブ214が潰れて回転シリンダ部材2を所定位置まで押し込むことができる(図14(b))。即ち、リブ214を塑性変形させながら回転シリンダ部材2を所定の高さ、例えば回転シリンダ部材2の縁の高さがケーシング6の縁の高さから若干(距離d3)低い位置まで押し込むことで、たとえ回転シリンダ部材2やケーシング6等の軸方向加工寸法に誤差があったとしても、回転シリンダ部材2の軸方向の位置出しを正確に行うことができ、回転シリンダ部材2の軸方向の精度を確保することができる。このため、回転シリンダ部材2やケーシング6の加工精度をある程度ラフにすることができ、調整要素が減少し、組み付けが容易になり、製造コストを低減することができる。
【0054】
また、支持部材としてのケース上蓋95には、ピストン保持部材5のケース上蓋95に対する軸方向の組み上がり精度を確保する第2の塑性変形する調整手段215が設けられている。図15及び図16に、第2の現合調整手段215を示す。第2の現合調整手段215は、例えば環状のリブ(以下、リブ215という)で、ケース上蓋95内の底面に設けられている。リブ215の横断面形状は、例えば三角形状を成している。ロータリ式シリンダ装置1を組み立てる場合、ケース上蓋95内にピストン保持部材5を入れた状態、即ち、図16(a)に示すようにリブ215を潰していない状態では、ピストン保持部材5はケーシング6の縁からスラスト方向に若干(距離d2)突出している(図17(a))。
【0055】
そして、ケース上蓋95を受けながらピストン保持部材5を押し込むことで、図16(b)に示すように、リブ215が潰れてピストン保持部材5を所定位置まで押し込むことができる(図17(b))。即ち、リブ215を塑性変形させながらピストン保持部材5を所定の高さ、例えばピストン保持部材5の縁の高さがケース上蓋95の縁の高さから若干(距離d4)低い位置まで押し込むことで、たとえピストン保持部材5やケース上蓋95等の加工寸法に誤差があったとしても、ピストン保持部材5の軸方向の位置出しを正確に行うことができ、ピストン保持部材5の軸方向の精度を確保することができる。このため、ピストン保持部材5やケース上蓋95の加工精度をある程度ラフにすることができ、調整要素が減少し、組み付けが容易になり、製造コストを低減することができる。
【0056】
ロータリ式シリンダ装置1は、気体循環による冷却手段を備えている。本実施形態では、冷却手段として、主に回転シリンダ部材2を冷却する第1の冷却手段216と、主にピストン保持部材5を冷却する第2の冷却手段217を備えている。ただし、第1及び第2の冷却手段216,217のうちいずれか一方を省略しても良く、両方の冷却手段216,217を省略しても良い。
【0057】
第1の冷却手段216は、図18〜図21に示すように、ケーシング6の底壁6bに設けられた内側通路218と、回転シリンダ部材2の一側面(背面2d)に設けられた放射状通路219と、ケーシング6の周壁6aに設けられた外側通路220より構成されている。内側通路218は、シリンダラジアル軸受70の周囲に等間隔で複数形成されている。放射状通路219は、回転シリンダ部材2の背面2dに放射状に多数形成された溝219aと、溝219aを塞ぐように配置されたシリンダスラスト軸受85とで形成されている。また、外側通路220は周壁6aに等間隔で複数形成されている。
【0058】
回転シリンダ部材2が回転すると、遠心力によって放射状通路219内に中心から外側に向かう空気の流れが発生する。即ち、放射状通路219の中心側の圧力が低くなり、外側の圧力が高くなるので、ケーシング6の外の空気が内側通路218を通ってケーシング6内に流入し、放射状通路219の内側から放射状通路219を外側に向けて移動した後、外側通路220からケーシング6の外へと流出する。回転シリンダ部材2が回転し、ピストン3,4がシリンダ室23a〜23d内を相対的に往復運動することで、摩擦や圧縮仕事により発熱し、回転シリンダ部材2等は加熱される。この熱を内側通路218→放射状通路219→外側通路220へと流れる空気によって除去することができる。即ち、第1の冷却手段216によってケーシング6内を冷却することができ、回転シリンダ部材2やピストン3,4等の熱膨張を抑えることができる。このため、性能の良い圧縮機を提供することができる。
【0059】
このように、第1の冷却手段216では、ケーシング6内に空気を循環させてケーシング6内の冷却を行うため、例えばケーシング6の表面に放熱用のフィンを設けてケーシング6の表面に伝わった熱を放出する方式の冷却手段に比べて、効率よく冷却を行うことができる。むろん、ケーシング6に放熱フィンを設けてもかまわない。
【0060】
なお、本実施形態では、回転シリンダ部材2をある程度肉厚にし、外周面2aの軸方向の長さ寸法をある程度長くすることでシール性を確保し、気体が回転シリンダ部材2の背面2dに回り込むことの防止を図っている。しかしながら、気体は加圧されるので、加圧された気体が回転シリンダ部材2の背面2dに回り込むことがある。回転シリンダ部材2の背面2dに回り込んだ気体は、冷却用の空気と一緒にケーシング6の外に放出される。即ち、回転シリンダ部材2の背面2dの冷却用空気はベアリングを通過するため潤滑グリース等の臭いがついた気体となるが、吐出口62から吐出させる気体とは別に処理することができる。吐出空気にはグリス等の臭いが混入しない。
【0061】
第2の冷却手段217は、図18,図22〜図24に示すように、ケース上蓋95の周壁95aに設けられた流入通路221と、ケース上蓋95とモータ72の間の空隙通路222と、ピストン保持部材5の背面(モータ72側の面)5aに設けられた放射状通路223と、ケース上蓋95の周壁95aに設けられた流出通路224より構成されている。流入通路221は、例えば1箇所に設けられている。放射状通路223は、ピストン保持部材5の背面5aに放射状に多数形成された溝223aと、溝223aを塞ぐように配置されたスラスト軸受96とで形成されている。また、流出通路224は、例えば3箇所に2本ずつ設けられている。なお、図3では、ピストン保持部材5について溝223aの記載を省略している。
【0062】
ピストン保持部材5が回転すると、遠心力によって放射状通路223内に中心から外側に向かう空気の流れが発生する。即ち、放射状通路223の中心側の圧力が低くなり、外側の圧力が高くなるので、ケース上蓋95の外の空気が流入通路221と空隙通路222を通って放射状通路223の内側に流入し、放射状通路223を外側に向けて移動した後、流出通路224からケース上蓋95の外へと流出する。ピストン保持部材5が回転し、ピストン3,4がシリンダ室23a〜23d内を往復運動することで、摩擦や圧縮仕事により発熱し、ピストン保持部材5等は加熱される。この熱を流入通路221→空隙通路222→放射状通路223→流出通路224へと流れる空気によって除去することができる。即ち、第2の冷却手段217によってケース上蓋95内を冷却することができ、ピストン保持部材5やピストン3,4等の熱膨張を抑えることができる。このため、性能の良い圧縮機を提供することができる。
【0063】
このように、第2の冷却手段217では、ケース上蓋95内に空気を循環させてケース上蓋95内の冷却を行うため、例えばケース上蓋95の表面に放熱用のフィンを設けてケース上蓋95の表面に伝わった熱を放出する方式の冷却手段に比べて、効率よく冷却を行うことができる。むろん、ケース上蓋95に放熱フィンを設けても良い。
【0064】
なお、本実施形態では、ピストン保持部材5の厚さをある程度厚くし、外周面5bの軸方向の長さ寸法をある程度長くすることでシール性を確保し、気体のピストン保持部材5の背面5aへの漏れ防止を図っている。しかしながら、気体は加圧されるので、加圧された気体がピストン保持部材5の背面5aに回り込むことがある。ピストン保持部材5の背面5aに回り込んだ気体は、冷却用の空気と一緒にケース上蓋95の外に放出される。即ち、ピストン保持部材5の背面5aの冷却用空気はベアリングを通過するため潤滑グリース等の臭いがついた気体となるが、吐出口62から吐出させる気体とは別に処理することができる。吐出空気にはグリス等の臭いが混入しない。なお、図18〜図20、図22、図23、図25〜図28において、斜線で塗りつぶした矢印は空気の流れを示している。
【0065】
ロータリ式シリンダ装置1は、回転シリンダ部材2と支持部材であるケーシング6の対向面の少なくともいずれか一方、及びピストン保持部材5と支持部材であるケース上蓋95の対向面の少なくともいずれか一方に非金属の塗膜を形成している。本実施形態では、回転シリンダ部材2の面2a(外周面)と面2b、及びピストン保持部材5の面5b(外周面)に非金属の塗膜を形成している。この塗膜に、上述したカーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバの一方または双方を含んだ材料を用いても良い。
【0066】
つまり、ケーシング6とケース上蓋95はそれぞれ同軸加工し、それぞれの軸芯と各同軸部位の同軸度と位置の精度を確保している。ケーシング6とケース上蓋95は例えばアルミ製であり、表面に陽極酸化処理と封孔処理(いわゆるアルマイト処理)を施している。これにより、ケーシング6とケース上蓋95の両摺動面に非金属の塗膜を形成している。また、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5を同軸加工し、それぞれの軸芯と各同軸部位の同軸度と位置の精度を確保している。回転シリンダ部材2とピストン保持部材5は例えばアルミ製であり、表面に硫酸浴を用いて硬質の陽極酸化被膜を生成し、この被膜の多孔層にフッ化炭化水素重合体の水性分散液を含浸させる処理(いわゆるタフラム処理)を施している。これにより、回転シリンダ部材2とピストン保持部材5の対向面に非金属の塗膜を形成している。さらに、回転シリンダ部材2の外周面及びピストン保持部材5の外周面にフッ素樹脂塗装を行うと共に、規定寸法に仕上げ、ケーシング6の内周面又はケース上蓋95の内周面との間のクリアランスを確保している。
【0067】
上述したように構成されたロータリ式シリンダ装置1は、ピストン保持部材5がモータ72により等角速度の回転運動を行うと、ピストン3,4が周回動作をし、この動作に伴って回転シリンダ部材2も等角速度運動を行うようになっている。この動作によって、圧縮動作を行うものとなっている(図25〜図28)。なお、図25〜図28の(a)〜(c)は、回転シリンダ部材2の回転角にして15度おきに示したものである。図25(c)に続く動作は図26(a)である。また、図27(c)に続く動作は図28(a)である。
【0068】
例えば、シリンダ室23dに着目して説明する。図25(a)の状態では、ピストン4は、回転シリンダ部材2のシリンダ室23d内の最外周端部まで進出した(押し進められた)状態となっている。シリンダ室23dは吸込口61のスリット61aと吐出口62のスリット62aのいずれにも対向していない。即ち、吸込口61と吐出口62のいずれも閉口している。
【0069】
この状態より回転シリンダ部材2が回転すると、シリンダ室23dが吸込口61のスリット61aに対向し、吸込口61が開口する(図25(b))。このとき、ピストン4は空洞部22に向けて移動しており、吸込口61の開口によりシリンダ室23d内に気体を吸入する。そして、シリンダ室23dが吸込口61のスリット61aから外れるまで、即ち吸込口61が閉口するまで、気体を吸入し続ける(図25(c)→図26(a)→(b)→(c))。
【0070】
図26(c)の状態より、回転シリンダ部材2が195度回転した状態を図27(a)示す。図27(a)の状態から圧縮行程が開始される。即ち、空洞部22の位置からピストン4がシリンダ室23d内に進入するので、シリンダ室23d内の気体が圧縮される(図27(a)→(b)→(c))。そして、シリンダ室23dが吐出口62のスリット62aに対向すると(図28(a))、吐出口62が開口し、シリンダ室23d内の加圧気体が吐出される。回転シリンダ部材2の回転によりピストン4は最外周端部に向けて進出するので、シリンダ室23d内の加圧気体は吐出口62に吐出される(図28(a)→(b)→(c))。この後、図25(a)の状態に戻る。
【0071】
ここで、吐出口62のスリット62aは、シリンダ室23d内の圧力が十分に上昇した後にシリンダ室23dに連通する位置に形成されているので、シリンダ室23d内の圧力を十分に上昇させた後に吐出口62から吐出させることができる。本実施形態では、シリンダ室23d内の圧力が吐出口62内の圧力と等しくなった時に、シリンダ室23dが吐出口62に連通する。このため、効率良い圧縮仕事ができ、消費電力を低く抑えることができる。また、吐出口62に逆止弁を設ける必要もなくなる。
【0072】
以上の動作は、他のシリンダ室23a〜23cとピストン3,4についても同様に行われる。そして、回転シリンダ部材2の回転に伴い、各シリンダ室23a〜23dからの気体の吐出が繰り返し行われるので、ロータリ式シリンダ装置1が圧縮機として機能する。
【0073】
ロータリ式シリンダ装置1の運転によりピストン3,4がシリンダ室23a〜23d内を進むと、その進行方向の空間の圧力は上昇する。この圧力がピストン3,4に設けられた鍔部209の弾性力よりも大きくなると、鍔部209が変形し拡がる。拡がった鍔部209は回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5、ケース上蓋95に接触し、これらの間をシールする。したがって、たとえピストン3,4の周囲に隙間があったとしても、シール性を確実に確保することができる。なお、上昇していたシリンダ室23a〜23d内の圧力が低下すると、鍔部209はその弾性力により基の形状に復帰する。
【0074】
ロータリ式シリンダ装置1では、ピストン3,4に鍔部209を設けると共に、回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5に非金属の塗装を形成しているので、液体シール材を使わなくともピストン3,4のシール性を確保することができる。このため、液体を使用しないドライ運転が可能となり、液体シール材を使用した場合に比べるとシール抵抗の影響を受けないため消費電力を抑えることができる。
【0075】
また、ドライ運転できるため、液体シール材を使用する場合のように液体シール用の付帯機器が不要になり、コンパクトで簡易な圧縮空気を得られるシステムとなる。
【0076】
そして、材料強度や耐磨耗性の改善のために従来用いられていたカーボンファイバやガラスファイバは線径が100μm程度もあるのに対して、ピストン3,4に用いられるカーボンナノチューブは線径が15nm以下、カーボンナノファイバは線径15nm〜0.2μm程度と極めて微細なので、成形金型の角部分(エッジ部分)にまでカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが充填される。このため、エッジ部が鋭角に仕上った、金型に忠実な寸法精度の良い成形品が得られ、ピストン3,4とシリンダ室23a〜23dとの間に隙間が生じてしまうことを防止できる。これより、圧縮流体が漏れ難く、効率の良いコンプレッサを得ることができる。さらに、エッジ部分にまでカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが充填されるので、エッジ部分の強度が高くなり、摩耗が進み難くなる。従って、長時間の使用でも最大圧力は減少せず、コンプレッサの効率は下がらない。
【0077】
また、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは摺動性に優れているのに加えて熱伝導性が銅の3〜5倍と高く、放熱性が極めて良いため、摺動部分での発熱が小さく、またピストン3,4が摺動する際の摩擦音振動を小さくできる。
【0078】
また、構成部品の重量が、金属製材料または金属粉末を充填した樹脂材料と比べて軽くなるので、慣性が小さくなり起動性が改善され、ピストン3,4が摺動する際の振動も小さくなる。また、金属を用いないことで耐食性の改善がされ、ロータリ式シリンダ装置1を、水分を多く含む気体や腐食性ガスのコンプレッサとしても利用することができる。
【0079】
また、無潤滑方式(ドライ方式)であるので、吐出口62から吐出される流体にオイル等の潤滑剤が不純物として混入してしまうことが回避され、不純物の少ない圧縮流体が得られる。このため、不純物を除去するためのフィルタ(オイルミストフィルタなど)をコンプレッサの周辺機器として設ける必要がない。また、潤滑剤供給機構として潤滑油用通路や保油用ディンプルなどを設ける必要もない。これらは、ロータリ式シリンダ装置1の一層の小型化およびコスト低減に寄与する。
【0080】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、ピストン3,4または回転シリンダ部材2の摺動面を構成する複合材料は、樹脂材料をマトリックスとするものに限定されず、アルミニウムなどの軽金属に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を混合するものとしても良い。この場合も、機械的強度、加工性、摺動性、放熱性に優れた複合材料を得ることができる。また、マトリックスとなる樹脂材料は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)に限定されず、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、LCP(液晶樹脂)などの耐熱性樹脂や、ポリアミド(ナイロン)、POM(ポリアセタール)、PE(ポリエチレン)などの摺動性良好な樹脂材料でも良い。
【0081】
また、上述の実施形態では、ピストン3,4の材料にカーボンナノファイバを混合した樹脂複合材料を用いたが、ピストン3,4と接触するケーシング6、回転シリンダ部材2、ピストン保持部材5の全部または少なくともピストンと接触する面をこの樹脂複合材料で形成しても良い。
【0082】
また、ピストン3,4または回転シリンダ部材2の接触面を構成する複合材料は、例えば潤滑剤を含むものであっても良い。例えば、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブをカップスタック型とし、このカップスタック型の芯となる空洞部分に潤滑油を含浸させたものを用いても良い。或いは、マトリクスとなる樹脂に、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブに加えて、固体潤滑剤(例えばPTFE、MoS2(二硫化モリブデン)、WS2(二硫化タングステン)、BN(ボロンナイトライド)など)を添加しても良い。この場合、更に摺動性を高めることができる。
【0083】
また、複合材料によりピストン3,4または回転シリンダ部材2の摺動面を形成するものに限られず、ピストン3,4と回転シリンダ部材2との接触面の一方または双方に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を摺動面に対して垂直方向に配向させるようにしても良い。カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは、通常のカーボンファイバに比べて、折れ難く柔軟性を有しているため、流体のシール性を高めることができる。また、アルミニウム合金などの金属材料で作製したピストンの表面に、カーボンナノファイバを混入した有機樹脂塗料を塗布し、この塗料を硬化させた後、上記塗料の表面を切削加工するようにしても良い。
【0084】
また、カーボンナノファイバやカーボンナノチューブ以外のナノカーボン材料(例えばカーボンナノホーン、ツェッペリン、フラーレンなど)であっても、機械的強度、摺動性、熱伝導性に優れるものであれば、用いても良い。これらのナノカーボン材料も微細であることから型の角部分(エッジ部分)にまで充填することができ、且つ機械的強度、摺動性、熱伝導性に優れるものであれば、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0085】
なお、上述の説明では、ケース上蓋95とモータ72の側板72aを別体としていたが、例えば図29に示すように、ケース上蓋95とモータ72の側板72aを一体化しても良い。なお、この場合には第2の冷却手段217の空隙通路222を省略し、流入通路221によって空気を放射状通路223の中心側に導くようにすることが好ましい。
【0086】
また、上述の説明では、第1及び第2の塑性変形する調整手段214,215は横断面形状が三角形のリブであったが、リブの横断面形状は三角形に限るものではなく、適切な荷重で潰れ易ければ、作り易いその他の形状でも良い。
【0087】
また、ロータリ式シリンダ装置1の冷却効果をより高めるために、モータ72の出力軸(支軸)51をピストン保持部材5とは逆側に延長し、この延長部分にファンを付加しても良く、あるいは回転シリンダ部材2のセンタ軸21をケーシング6の外側に延長し、この延長部分にファンを付加しても良い。
【0088】
また、上述の説明では、本発明を圧縮機に適用していたが、真空ポンプに適用しても良い。なお、真空ポンプの場合は圧縮機とは入出力が逆の動作になる。つまり、圧縮機では吐出口62からの圧縮空気を利用し、吸込口61は大気圧である。真空ポンプでは吐出口62は大気圧開放し、吸込口61にタンク等を付加し負圧を利用する。
【0089】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、請求項1記載のロータリ式シリンダ装置によれば、ピストンと回転シリンダ部材との接触面の一方または双方を、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有した複合材料で形成しているので、カーボンファイバやガラスファイバと比較して極微細なカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが成形金型の角部分(エッジ部分)にまで充填され、エッジ部を鋭角とでき且つエッジ部を高強度とできる。これにより、ピストンとシリンダ室との間に隙間が生じてしまうことを防止でき、圧縮流体が漏れ難く、効率の良いコンプレッサを得ることができる。また、エッジ部分の摩耗が進み難くなり、長時間の使用でも最大圧力が減少しない高効率を維持できるコンプレッサを実現できる。更に、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは摺動性に優れるのに加えて熱伝導性が高く放熱性が良いため、摺動部分での発熱を抑え、焼付きを防止できる。
【0090】
また、無潤滑方式(ドライ方式)とできるので、吐出口から吐出される流体にオイル等の潤滑剤が不純物として混入してしまうことが回避され、不純物の少ない圧縮流体が得られる。このため、不純物を除去するためのフィルタを周辺機器として設ける必要がない。また、潤滑剤供給機構として潤滑油用通路や保油用ディンプルなどを設ける必要もない。これらは、ロータリ式シリンダ装置の一層の小型化およびコスト低減に寄与する。
【0091】
さらに、請求項2記載のロータリ式シリンダ装置によれば、複合材料は、樹脂材料をマトリックスとして、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有させたものとしているので、金属をマトリックスとした場合と比較して、耐食性が向上する。このため、ロータリ式シリンダ装置を、水分を多く含む気体や腐食性ガスのコンプレッサとしても利用することができる。また、金属をマトリックスとした場合と比較して、重量が軽くなるためロータリ式シリンダ装置の起動性が向上し、ピストン摺動時の振動も小さくなる。
【0092】
さらに、請求項3記載のロータリ式シリンダ装置では、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブは、フッ素化されたものとしているので、摩擦係数が低くなり、従って摺動抵抗が小さくなり、摺動部分での発熱をより抑えることができる。
【0093】
さらに、請求項4記載のロータリ式シリンダ装置では、カーボンナノファイバまたはカーボンナノチューブはカップスタック型であり、該カップスタック型の空洞部に潤滑油を含浸させたものとしているので、使用中に微量の潤滑油が徐々にしみ出て、複合材料の摺動性を更に高めることができる。
【0094】
また、請求項5記載のロータリ式シリンダ装置では、ピストンと回転シリンダ部材との接触面の一方または双方に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を摺動面に対して垂直方向に配向させるようにしており、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは通常のカーボンファイバに比べて折れ難く且つ柔軟性を有しているので、流体のシール性が高めることができる。しかも、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは摺動性に優れるのに加えて熱伝導性が高く放熱性が良いため、摺動部分での発熱を抑え、焼付きを防止できる。また、無潤滑方式(ドライ方式)とできるので、吐出口から吐出される流体にオイル等の潤滑剤が不純物として混入してしまうことが回避され、不純物の少ない圧縮流体が得られる。このため、不純物を除去するためのフィルタを周辺機器として設ける必要がない。また、潤滑剤供給機構として潤滑油用通路や保油用ディンプルなどを設ける必要もない。これらは、ロータリ式シリンダ装置の一層の小型化およびコスト低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したロータリ式シリンダ装置の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のロータリ式シリンダ装置のケース上蓋とピストン保持部材を取り外した状態の平面図である。
【図3】図1のロータリ式シリンダ装置の回転シリンダ部材とピストンとピストン保持部材を示す分解斜視図である。
【図4】回転シリンダ部材にスラスト方向の予圧をかける構造を分解して示す断面図である。
【図5】予圧手段である皿ばねの斜視図である。
【図6】ピストンを一部切り欠いて示す斜視図である。
【図7】ピストンの中駒を示す平面図である。
【図8】ピストンの中駒を示す側面図である。
【図9】ピストンの中駒を示す正面図である。
【図10】ケーシングを一部切り欠いて示す斜視図である。
【図11】図10に円Aで示す部分を拡大して示す斜視図である。
【図12】第1の塑性変形する調整手段を示す断面図である。
【図13】図12に円Bで示す部分を拡大して示し、(a)はケーシングに対して回転シリンダ部材を押し込む前の状態を示す断面図、(b)はケーシングに対して回転シリンダ部材を所定位置まで押し込んだ状態を示す断面図である。
【図14】図12に円Cで示す部分を拡大して示し、(a)はケーシングに対して回転シリンダ部材を押し込む前の状態を示す断面図、(b)はケーシングに対して回転シリンダ部材を所定位置まで押し込んだ状態を示す断面図である。
【図15】第2の塑性変形する調整手段を示す断面図である。
【図16】図15に円Dで示す部分を拡大して示し、(a)はケース上蓋に対してピストン保持部材を押し込む前の状態を示す断面図、(b)はケース上蓋に対してピストン保持部材を所定位置まで押し込んだ状態を示す断面図である。
【図17】図15に円Eで示す部分を拡大して示し、(a)はケース上蓋に対してピストン保持部材を押し込む前の状態を示す断面図、(b)はケース上蓋に対してピストン保持部材を所定位置まで押し込んだ状態を示す断面図である。
【図18】第1及び第2の冷却手段の空気の流れを示す断面図である。
【図19】第1の冷却手段を示すケーシングの底面図である。
【図20】回転シリンダ部材の背面図である。
【図21】回転シリンダ部材を背面側からみた斜視図である。
【図22】第2の冷却手段を示すケース上蓋の正面図である。
【図23】ピストン保持部材の背面図である。
【図24】ピストン保持部材を背面側からみた斜視図である。
【図25】ロータリ式シリンダ装置の作動原理を説明するための図で、(a)は一方のピストンが空洞部を横切り、他方のピストンがシリンダ室の最奥部にまで進入した状態を示す図、(b)は(a)の状態から回転シリンダ部材の回転角で15度だけ回転した状態を示す図、(c)は(b)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図である。
【図26】ロータリ式シリンダ装置の作動原理を説明するための図で、(a)は図25(c)の状態から回転シリンダ部材の回転角で15度だけ回転した状態を示す図、(b)は(a)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図、(c)は(b)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図である。
【図27】ロータリ式シリンダ装置の作動原理を説明するための図で、(a)は図26(c)の状態から回転シリンダ部材の回転角で195度だけ回転した状態を示す図、(b)は(a)の状態から回転シリンダ部材の回転角で15度だけ回転した状態を示す図、(c)は(b)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図である。
【図28】ロータリ式シリンダ装置の作動原理を説明するための図で、(a)は図27(c)の状態から回転シリンダ部材の回転角で15度だけ回転した状態を示す図、(b)は(a)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図、(c)は(b)の状態から回転シリンダ部材の回転角で更に15度だけ回転した状態を示す図である。
【図29】本発明を適用したロータリ式シリンダ装置の第2の実施形態を示す断面図である。
【図30】ピストンの他の実施形態を一部切り欠いて示す斜視図である。
【図31】従来のロータリ式シリンダ装置を示す断面図である。
【図32】従来のロータリ式シリンダ装置を示し、ケース上蓋とピストン保持部材を取り外した状態の平面図である。
【符号の説明】
1 ロータリ式シリンダ装置
2 回転シリンダ部材
2a (回転シリンダ部材の)外周面
3,4 ピストン
5 ピストン保持部材
6 ケーシング(支持部材)
22 空洞部
23a〜23d シリンダ室
61 吸込口
62 吐出口
209 鍔部
214 第1の現合調整手段
215 第2の現合調整手段
216 第1の冷却手段
217 第2の冷却手段
o 回転軸心
X (回転軸心から)偏心した回転中心位置
x1,x2 (ピストン保持部材の)偏心した自転中心位置
Claims (5)
- 回転軸心を中心として形成された空洞部に連通し、該空洞部を挟んで対向する少なくとも一対のシリンダ室を有する円形形状の回転シリンダ部材と、上記回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心位置を中心として回転するピストン保持部材とを、支持部材にそれぞれ回転自在に支持すると共に、上記ピストン保持部材の上記回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストンが保持され、上記回転シリンダ部材と上記ピストン保持部材との相対回動により上記ピストン自体が上記自転中心位置を中心として回動しながらかつ上記回転中心位置を中心として回転することによって上記一対のシリンダ室の双方に出入りすると共に、上記支持部材に、上記シリンダ室に連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置において、前記ピストンと前記回転シリンダ部材との接触面の一方または双方が、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有した複合材料で形成されていることを特徴とするロータリ式シリンダ装置。
- 前記複合材料は、樹脂材料をマトリックスとして、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を含有させたものであることを特徴とする請求項1記載のロータリ式シリンダ装置。
- 前記カーボンナノファイバまたは前記カーボンナノチューブは、フッ素化されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のロータリ式シリンダ装置。
- 前記カーボンナノファイバまたは前記カーボンナノチューブはカップスタック型であり、該カップスタック型の空洞部に潤滑油を含浸させたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のロータリ式シリンダ装置。
- 回転軸心を中心として形成された空洞部に連通し、該空洞部を挟んで対向する少なくとも一対のシリンダ室を有する円形形状の回転シリンダ部材と、上記回転シリンダ部材の回転軸心から偏心した回転中心位置を中心として回転するピストン保持部材とを、支持部材にそれぞれ回転自在に支持すると共に、上記ピストン保持部材の上記回転中心位置から偏心した自転中心位置には、その位置を中心として回動可能にピストンが保持され、上記回転シリンダ部材と上記ピストン保持部材との相対回動により上記ピストン自体が上記自転中心位置を中心として回動しながらかつ上記回転中心位置を中心として回転することによって上記一対のシリンダ室の双方に出入りすると共に、上記支持部材に、上記シリンダ室に連なる吸込口及び吐出口を備えたロータリ式シリンダ装置において、前記ピストンと前記回転シリンダ部材との接触面の一方または双方に、カーボンナノファイバとカーボンナノチューブの一方または双方を摺動面に対して垂直方向に配向させたことを特徴とするロータリ式シリンダ装置。
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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RU196656U1 (ru) * | 2019-09-26 | 2020-03-11 | Александр Николаевич Киченков | Роторный компрессор |
RU219883U1 (ru) * | 2023-01-09 | 2023-08-11 | Александр Николаевич Киченков | Радиальный насос |
-
2003
- 2003-03-06 JP JP2003060470A patent/JP2004270506A/ja active Pending
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