JP2004270100A - ポリエステル原着繊維 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】特定のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリエステルポリマーであり、リン元素/チタン金属元素の含有量のモル比が1〜15であり、合計が繰り返し単位あたり10〜100ミリモル%であり、かつ着色剤を含有するポリエステル原着繊維。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル原着繊維に関し、更に詳しくは、良好な色調を有し、成形性に優れ、繊径斑の少ないポリエステル原着繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレンテレフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されており、特に産業資材の用途に関しては、高強度でモデュラスとタブネスの両立が図れる等の理由から優れた性能を有していることが知られている。
【0003】
このような繊維用のポリマーとして、例えばポリエチレンテレフタレートは、通常テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させて、テレフタル酸のエチレングリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させ、次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造されている。また、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートも上記と同様の方法によって製造されている。
【0004】
ところがこれらの重縮合反応段階で使用する触媒の種類によっては、反応速度および得られるポリエステルの品質が大きく左右されることはよく知られており、ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒性能を有し、かつ、色調の良好なポリエステルが得られるなどの理由から最も広く使用されている。
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒として使用した場合、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、ポリエステルに黒ずみや異物が発生しポリエステル原着糸、特に淡色や蛍光色の原着糸の場合、色のくすみや予定している色相にならないなどの問題点を有している。
【0006】
又、ポリエステルを長時間にわたって連続的に溶融紡糸すると、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生し、これが原因となって繊径の斑が発生し易くなり、該繊維の構造体の色相が変化する問題があるばかりでなく、紡糸、延伸工程において毛羽及び/又は断糸が生じる。特に繊維物性を最大限に活用しなければならない、産業用のポリエステル原着繊維においては上記欠点の解決が望まれていた。
【0007】
この問題を回避するため、該アンチモン化合物以外の重縮合触媒として、チタンテトラブトキシドのようなチタン化合物を用いることが提案されているが、このようなチタン化合物を使用した場合、熱的安定性が悪く、溶融時の劣化が激しい為に繊維の高タフネス化が難しい。また、得られたポリエステル自身が黄色く変色したものであり、繊維用途に使用したとき、得られた繊維の色調が悪化するという問題があった。さらに黄色く変色することにより経時的な色相安定性に劣るため、屋外で使用する産業資材用途では特に問題であった。
【0008】
このような問題を解決するために、チタン化合物とトリメリット酸とを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用触媒として使用すること(例えば、特許文献1参照)、チタン化合物と亜リン酸エステルとを反応させて得られた生成物をポリエステル製造用触媒として使用すること(例えば、特許文献2参照)が開示されている。確かに、これら方法によれば、ポリエステルの溶融熱安定性はある程度向上しているものの、その効果は不十分であり、また色調も改善が必要である。さらに、チタン化合物とリン化合物との錯体をポリエステル製造用触媒とすることが提案されていており(例えば、特許文献3参照)、この方法によっても溶融熱安定性もある程度は向上するものの、その効果は十分なものではなく、色調も改善が必要であるという問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特公昭59−46258号公報
【特許文献2】
特開昭58−38722号公報
【特許文献3】
特開平7−138354号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、良好な色調を有し、変退色性に優れ、繊径斑の少ないポリエステル原着繊維を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のポリエステル原着繊維は、ポリエステルポリマーから構成される原着繊維であって、該ポリエステルポリマーがチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであり、該チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、該リン化合物が下記一般式(III)で表される化合物であり、チタンとリンの含有濃度が下記数式(1)及び(2)を同時に満足し、かつ着色成分を含有することを特徴とする。
【0013】
【化6】
【0014】
【化7】
【0015】
【化8】
【0016】
【数2】
【0017】
さらに、固有粘度が0.8〜1.2であることや、強度が7.0〜8.5cN/dtexであって伸度が12〜23%であること、ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0018】
また、別の本発明である繊維構造物は、上記のポリエステル原着繊維を用いることを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル原着繊維は、ポリエステルポリマーから構成されており、該ポリエステルポリマーはチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーである。
【0020】
そして本発明で用いられるチタン化合物成分は、下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分である。
【0021】
この本発明で用いられる、重縮合反応に触媒として用いられるチタン化合物成分は、最終製品の触媒に起因する異物を低減する観点から、ポリマー中に可溶なチタン化合物であることが必要であり、該チタン化合物成分としては、下記一般式(I)で表される化合物、若しくは一般式(II)で表される化合物と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物である必要がある。
【0022】
【化9】
【0023】
【化10】
【0024】
ここで、一般式(I)で表されるチタンアルコキシドとしては、具体的にはテトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタン、オクタアルキルトリチタネート、及びヘキサアルキルジチタネートなどが好ましく用いられる。
【0025】
また、本発明の該チタンアルコキシドと反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物が好ましく用いられる。
【0026】
上記チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸又はその無水物の一部または全部を溶解し、この混合液にチタンアルコキシドを滴下し、0〜200℃の温度で少なくとも30分間、好ましくは30〜150℃の温度で40〜90分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力については特に制限はなく、常圧で十分である。なお、芳香族多価カルボン酸またはその無水物を溶解させる溶媒としては、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン及びキシレン等から所望に応じていずれを用いることもできる。
【0027】
ここで、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応モル比には特に限定はないが、チタンアルコキシドの割合が高すぎると、得られるポリエステルの色調が悪化したり、軟化点が低下したりすることがあり、逆にチタンアルコキシドの割合が低すぎると重縮合反応が進みにくくなることがある。このため、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応モル比は、2/1〜2/5の範囲内とすることが好ましい。
【0028】
本発明で用いられる重縮合用の触媒系は、上記のチタン化合物成分と、下記一般式(III)により表されるリン化合物とを含むものであり、両者の未反応混合物から実質的になるものである。
【0029】
【化11】
【0030】
上記一般式(III)のリン化合物(ホスホネート化合物)としては、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボエトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボプロトキシフェニルメタンホスホン酸、カルボブトキシフェニルメタンホスホン酸等のホスホン酸誘導体のジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類、ジブチルエステル類等から選ばれることが好ましい。
【0031】
上記のホスホネート化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較して、チタン化合物との反応が比較的緩やかに進行するので、反応中における、チタン化合物の触媒活性持続時間が長く、結果として該チタン化合物のポリエステルへの添加量を少なくすることができる。また、一般式(III)のリン化合物を含む触媒系に多量に安定剤を添加しても、得られるポリエステルの熱安定性を低下させることがなく、その色調を不良化することが無い。
【0032】
本発明では、上記のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒が、下記数式(1)及び(2)を同時に満足するものである必要がある。
【0033】
【数3】
【0034】
ここで、(P/Ti)は1以上15以下であるが、2以上15以下であることが好ましく、さらには10以下であることが好ましい。この(P/Ti)が1未満の場合、ポリエステルの色相が黄味を帯びたものであり、好ましくない。また、(P/Ti)が15を越えるとポリエステルの重縮合反応性が大幅に低下し、目的とするポリエステルを得ることが困難となる。この(P/Ti)の適正範囲は通常の金属触媒系よりも狭いことが特徴的であるが、適正範囲にある場合、本発明のような従来にない効果を得ることができる。
【0035】
一方、(Ti+P)は10以上100以下であるが、20以上70以下であることがより好ましい。(Ti+P)が10に満たない場合は、製糸プロセスにおける生産性が大きく低下し、満足な性能が得られなくなる。また、(Ti+P)が100を越える場合には、触媒に起因する異物が少量ではあるが発生し好ましくない。
【0036】
上記式中、Tiの量としては2〜15ミリモル%程度が適当である。本発明で用いられているポリエステルポリマーは、上記のチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであるが、本発明においては、芳香族ジカルボキシレートエステルが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなるジエステルであることが好ましい。
【0037】
ここで芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸を主とすることが好ましい。より具体的には、テレフタル酸が全芳香族ジカルボン酸を基準として70モル%以上を占めていることが好ましく、さらには該テレフタル酸は、全芳香族ジカルボン酸を基準として80モル%以上を占めていることが好ましい。ここでテレフタル酸以外の好ましい芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等を挙げることができる。
【0038】
もう一方の脂肪族グリコールとしては、アルキレングリコールであることが好ましく、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコールを用いることができるが、特にエチレングリコールであることが好ましい。
【0039】
本発明ではポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであることが特に好ましい。ここでポリエステルが、テレフタル酸とエチレングリコールからなるエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルであることも好ましい。ここで「主たる」とは該エチレンテレフタレート繰り返し単位がポリエステル中の全繰り返し単位を基準として70モル%以上を占めていることをいう。
【0040】
また本発明で用いるポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなる主たる繰り返し単位以外に、酸成分またはジオール成分としてポリエステルを構成する成分を共重合した、共重合ポリエステルとしてもよい。
【0041】
共重合する成分としては、酸成分として、上記の芳香族ジカルボン酸はもちろん、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などの二官能性カルボン酸成分又はそのエステル形成性誘導体を原料として使用することができる。また、共重合するジオール成分としては上記の脂肪族ジオールはもちろん、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。
【0042】
さらに、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を原料として共重合させ使用することができる。
これらは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明においては、上記のような芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールからなる芳香族ジカルボキシレートエステルが用いられるが、この芳香族ジカルボキシレートエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとのジエステル化反応により得ることもできるし、あるいは芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルと脂肪族グリコールとのエステル交換反応により得ることもできる。ただし、芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルを原料とし、エステル交換反応を経由する方法とした方が、芳香族ジカルボン酸を原料としジエステル化反応させる方法に比較し、重縮合反応中に安定剤として添加したリン化合物の飛散が少ないという利点がある。
【0044】
さらに、チタン化合物の一部及び/又は全量をエステル交換反応開始前に添加し、エステル交換反応触媒と重縮合反応触媒との二つの触媒として兼用させることが好ましい。このようにすることにより、最終的にポリエステル中のチタン化合物の含有量を低減することができる。ポリエチレンテレフタレートの例で、さらに具体的に述べると、テレフタル酸を主とする芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を、下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド、及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むチタン化合物成分の存在下に行い、このエステル交換反応により得られた、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとのジエステルを含有する反応混合物に、更に下記一般式(III)により表されるリン化合物を添加し、これらの存在下に重縮合することが好ましい。
【0045】
【化12】
【0046】
【化13】
【0047】
【化14】
【0048】
なお、該エステル交換反応を行う場合には通常は常圧下で実施されるが、0.05〜0.20MPaの加圧下に実施すると、チタン化合物成分の触媒作用による反応が更に促進され、かつ副生物のジエチレングリコールが大量に発生することもないので、熱安定性などの特性が更に良好なものとなる。温度としては160〜260℃が好ましい。
【0049】
また、本発明において、芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸である場合には、ポリエステルの出発原料としてテレフタル酸及びテレフタル酸ジメチルが用いられるが、その場合にはポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られた回収テレフタル酸ジメチル又はこれを加水分解して得られる回収テレフタル酸を、ポリエステルを構成する全酸成分を基準として70重量%以上使用することもできる。この場合、前記ポリアルキレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、特に回収されたPETボトル、回収された繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、さらには、これら製品の製造工程において発生するポリマー屑などをポリエステル製造用原料源とする再生ポリエステルを用いることは、資源の有効活用の観点から好ましいことである。
【0050】
ここで、回収ポリアルキレンテレフタレートを解重合してテレフタル酸ジメチルを得る方法には特に制限はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。また、上記、回収された、テレフタル酸ジメチルからテレフタル酸を回収する方法にも特に制限はなく、従来方法のいずれを用いてもよい。
【0051】
本発明で用いる重縮合反応後のポリエステルは、固有粘度が0.40〜0.80であることが好ましく、さらには0.50〜0.70であることが好ましい。またこの重縮合後のポリエステルは、所望によりさらに固相重合することができる。固相重合は、公知である高温真空条件あるいは高温不活性ガス条件で行うことが可能であり、固相重合後のポリエステルの固有粘度は0.7〜1.1であることが好ましい。
【0052】
本発明の原着繊維は、着色剤を含有するものであるが、ここで用いられる着色剤としては、有機顔料、無機顔料、染料を組み合わせて所望の色相や明度になるように使用割合を調整すれば良い。特に好ましくは着色剤が顔料であることである。ポリエステルに含有する着色剤の添加量としては、好ましくは0.05〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%の範囲である。これ以下であると、色相が薄いため色相変動が起こり易くなる傾向にある。逆にこれ以上の場合は、毛羽が増え、繊維強度が低くなる傾向にあり、製造工程においても顔料自体が異物となり、断糸が多くなる傾向にある。
【0053】
着色剤を添加する方法としては、ポリエステル製造工程において添加する方法、ポリエステルチップと混合して溶融紡糸する方法、紡糸時の溶融ポリエステル中に直接添加する方法、着色剤を高濃度に含有するマスターバッチと、着色剤を含有しないベースポリマーとを混合溶融紡糸する方法など、従来公知の方法を適用することができ、なかでもマスターバッチを使用する方法が簡便で、操業安定性、生産コストの観点から特に好ましい。
【0054】
さらに本発明で用いるポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等を含んでいてもよく、特に艶消剤として酸化チタン、安定剤としての酸化防止剤は好ましく添加され、酸化チタンとしては、平均粒径が0.01〜2μmの酸化チタンを、最終的に得られるポリエステル組成物中に0.01〜10重量%含有させるように添加することが好ましい。
【0055】
また、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤が好ましいが、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は1重量%以下であることが好ましい。1重量%を越えると製糸時のスカムの原因となり得る他、1重量%を越えて添加しても溶融安定性向上の効果が飽和してしまう為好ましくない。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は0.005〜0.5重量%の範囲が更に好ましい。またこれらヒンダードフェノール系酸化防止とチオエーテル系二次酸化防止剤を併用して用いることも好ましく実施される。
【0056】
該酸化防止剤のポリエステルへの添加方法は特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、またはエステル化反応終了後、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加する方法が挙げられる。
【0057】
本発明は、このようなポリエステルポリマーから構成される原着繊維である。繊維断面形状は特に規定する必要は無く、円形であっても異形であってもどちらでもよいが、中空部を含まない円形断面であることが好ましい。
【0058】
本発明のポリエステル原着繊維の、繊維で測定した固有粘度は、0.80〜1.20の範囲にあることが好ましい。特に、好ましくは0.85〜1.00の範囲である。固有粘度が0.80未満であると、繊維の強度が不足する傾向にある。他方、固有粘度が1.20を越えると、製造工程において紡糸・延伸工程での糸切れが多くなり、安定的に繊維を製造することが困難となる傾向にある。
【0059】
本発明のポリエステル原着繊維は、上記のポリエステルポリマーから構成される繊維であり、常法により繊維構造体を形成させ、該繊維構造体をシートベルト、座席シート等の車両用繊維、漁網、ロープ、ネット、コンテナバック等に代表される産業資材用繊維、カーペットなどの生活資材用繊維、及びその基布、各種織物、各種編物、短繊維不織布、長繊維不織布用、等の各種繊維用途に使用すれば、本発明の効果を顕著に発現させることができる。
【0060】
さらにこのような用途に適した本発明のポリエステル原着繊維は、繊維強度が7cN/dtex以上であることが好ましい。強度は高強力であるほど好ましいが、通常の範囲は、7.0〜8.5cN/dtex程度である。また、伸度は12〜23%であることが好ましい。
【0061】
また、本発明のポリエステル原着繊維は、繊維を繊維軸に対し直角に切断したときの繊維の直径の比が1.3以内であることが好ましい。1.3を超える場合には太さ変化に起因する色相の変化が観察される傾向にある。
【0062】
このような本発明のポリエステル原着繊維を製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知のポリエステルを溶融紡糸する方法を用いることができる。すなわち、固有粘度が0.9〜1.4のエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルチップと、あらかじめ着色剤をポリエステル中に均一分散させたマスターチップとをブレンドし、常法により紡糸口金から溶融吐出する。
【0063】
このとき、マスターチップ中のポリエステルに対する着色剤の添加量は、好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。またマスターチップのブレンド率は、マスターチップ中の顔料濃度に応じて所望の色彩が得られるよう適宜調整するが、通常はベースのポリエステルチップとマスターチップのブレンド率は、99.8:0.2〜90:10であることが好ましい。また酸化チタンはあらかじめ重合時にポリエステル中に添加することもできるが、その添加量を調整するためにはマスターチップ中に添加しておくのが好ましい。
【0064】
吐出された糸条は300〜2000m/分、好ましくは500〜1500m/分の引取速度で引取り、得られた未延伸糸は常法にしたがって4.0〜6.5倍に延伸する。ここで延伸倍率が4.0倍未満の場合には、産業用途に要求される強度を得ることが困難となり、一方延伸倍率が6.5倍を越える場合には延伸工程で断糸が頻発し、安定な生産が困難になる。なお延伸は、1段で行っても、2段以上に分けて多段で行ってもよい。また、紡糸工程と延伸工程とは連続して行ってもよく、紡糸後一旦巻き取ってから別工程で延伸してもよいが、生産性の観点からは前者の方法がより好ましい。また繊維断面形状は特に規定する必要は無く、円形であっても異形であってもどちらでもよいが、高強度とするためには円形であることが好ましい。
【0065】
また、もう一つの本発明は上記本発明のポリエステル高強度繊維を用いた繊維構造物である。さらには強力を活用するためには織編物であることが好ましく、産業資材用途に好ましく用いられる。
【0066】
このような本発明の織編物のうち、例えばスリングベルトウェビングは、経糸が上記のポリエステル原着糸で構成されているものである。具体的には、上記ポリエステル原着糸1000〜2000dtexの2本撚り合わせたもの100〜500本を経糸とし、常法にしたがって製織することにより得られる。かくして得られる本発明のスリングベルトウェビングは、さらに樹脂加工が施されてスリングベルトに加工される。
【0067】
また、例えば建築工事用メッシュシートなどの養生ネット類は、上記ポリエステル原着繊維を、例えばラッセル編機のフロントとバックに使用し、実質的にタテ編みされたネットを編網し、仕上げ熱処理により得ることができる。
【0068】
さらに例を上げれば、漁網の場合は、上記のポリエステル原着繊維を用いて編網することにより構成されたものであるが、具体的には、上記ポリエステル原着繊維を施撚して蛙又結節編網及び、無結節編網などに製網し次いでこれらの網を熱水または乾熱により、縦または緯方向に延伸するといった中間工程を経た後、仕上げ熱処理により規定の寸法、目合いにする事により製造され、ロープの場合は、上記ポリエステル原着繊維数本を撚り合わせてリングヤーンとし、このリングヤーンを更に任意の撚り数で撚り合わせロープを得、この得られたポリエステル原着ロープを温水に浸し、100℃まで昇温した後、数分維持し取り出してから乾燥することによりロープとすることができる。
【0069】
本発明で用いる原着繊維は繊径斑が少ないために、このような繊維構造物においても色相斑の少ない品質に優れた製品となる。
【0070】
【実施例】
以下、本発明を更に下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により何等限定を受けるものではない。なお、固有粘度、強度、伸度色相、チタン、リン含有量、変退色度、及び紡糸口金に付着する異物の影響については、下記記載の方法により測定した。
【0071】
(1)固有粘度
ポリエステルポリマーの固有粘度は、35℃オルソクロロフェノール溶液にて、常法に従って35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0072】
(2)強度、伸度
繊維試料をJIS−L1013の方法により引張試験を行い、破断時の強度、伸度を測定した。
【0073】
(3)ベースポリマー色調(カラーL値及びカラーb値)
ベースポリマー試料は290℃、真空下で10分間溶融し、これをアルミニウム板上で厚さ3.0±1.0mmのプレートに成形後ただちに氷水中で急冷し、該プレートを160℃、1時間乾燥結晶化処理後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のカラーL値及びb値を、ミノルタ社製ハンター型色差計CR−200を用いて測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、b値はその値が大きいほど黄色味の度合いが大きいことを示す。
【0074】
(4)ポリエステル中のチタン、リン含有量:
粒状のポリエステルサンプルをアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平面を有する成型体に形成し、蛍光X線測定装置(理学電機工業株式会社製3270型)に供して、定量分析した。
【0075】
ただし、艶消し剤として酸化チタンを添加したポリマー中のチタン原子濃度については、サンプルをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、遠心分離機で前記溶液から酸化チタン粒子を沈降させ、傾斜法により上澄み液のみを回収し、溶剤を蒸発させて供試サンプルを調整し、このサンプルについて測定した。触媒化合物中のチタン金属濃度は、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。
【0076】
(5)繊維の色調(カラーL値及びカラーb値)
得られたポリエステル原着糸200本を60mm幅に表面の乱れが無いように並べて引き揃え、これをマクベスー2020型色彩色差計にて測定した。
【0077】
(6)変退色性
繊維構造体をフェードメーターで63℃、200時間処理後の変退色を測定した。5段階で評価し3以上が実用レベルである。
【0078】
(7)紡糸口金に発生する付着物の影響
ポリエステル原着繊維を繊維軸に対し直角に切断し、その断面直径のうち最大径と最小径の比を読み取る。紡糸経時で1日目、3日目、7日目の繊維径差を測定した。一般にこの比が1.3以内であれば、繊維構造体の色相に問題は無いが、1.3より大きい場合には色相に斑が観察される。
【0079】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部との混合物に、テトラ−n−ブチルチタネート0.005部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.030部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0080】
その後、反応生成物を重合容器に移し、290℃まで昇温し、26.67Pa以下の高真空にて重縮合反応を行って、固有粘度0.62、ジエチレングリコール量が1.5%であるポリエステルチップを得た。得られたチップを240℃の不活性ガス下にて、固相重合を行い固有粘度が1.03になるまで反応を実施し、ポリエステルベースチップとした。
【0081】
該ポリエステルベースチップに、スレン系赤色顔料10.0重量%、スレン系黄色顔料10重量%を含有させたマスターバッチを重量比で97:3となるようにブレンドした。このブレンドチップを常法により孔径0.5mmの円形紡糸孔を192個備えた紡糸口金を有する押出紡糸機を用いて295℃で溶融し、引取速度800m/分で紡糸し、未延伸糸を得た。得られた未延伸糸は、一旦巻き取る事無く延伸倍率5倍で延伸し、繊度1670dtex、強度8.0cN/dtex、伸度15.0%の赤色のポリエステル原着繊維を得た。
【0082】
該ポリエステル原着繊維を2本寄り合わせたもの200本を経糸とし、常法にしたがって製織することによりスリングベルトウェビングを得た。スリングベルトウェビングは、さらに樹脂加工を施しスリングベルトとした。
【0083】
ベースポリエステルの評価結果を表1に、繊維物性、繊維構造体の変退色度を表2に示す。
【0084】
[実施例2]
実施例1と同様の固有粘度1.03のポリエステルベースチップを得た。
該ポリエステルベースチップに、スレン系黄色顔料10重量%とシアニン系青色顔料15重量%、カーボンブラック1重量%の割合で含有させたマスターバッチを重量比で97:398:2となるようにブレンドした。
そして実施例1と同様に製糸し、繊度1670dtex、強度7.5cN/dtex、伸度18%の緑色のポリエステル原着繊維を得た。
【0085】
該ポリエステル原着繊維をラッセル編機のフロントとバックに使用し、網目15mmのネットを編網した後、塩化ビニール樹脂をネット重量に対し30重量%ディップ加工で付与し150℃で熱セットを行い、建築工事用メッシュシートを得た。
ベースポリエステルの評価結果を表1に、繊維物性、繊維構造体の変退色度を表2に併せて示す。
【0086】
[参考例]
トリメリット酸チタンの合成方法:
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応させて、その後、常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させ、析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥させて、目的とするチタン化合物を得た。
【0087】
[実施例3、4]
実施例1および2において、チタン化合物として、上記参考例の方法にて合成したトリメリット酸チタン0.005部に変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1及び表2に併せて示す。
【0088】
[比較例1、2]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部との混合物に、酢酸カルシウム一水和物0.064重量部を加圧反応が可能なステンレス製容器に仕込み、0.07MPaの加圧を行い140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、56重量%濃度のリン酸水溶液0.044重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0089】
その後、反応生成物を重合容器に移し、三酸化二アンチモンを表に示す量を添加して290℃まで昇温し、26.67Pa以下の高真空にて重縮合反応を行ってポリエステルを得た。
該ポリエステルを使用し、実施例1および2と同様に原着繊維を得、繊維構造体を製造した。結果を表1及び表2に併せて示す。
【0090】
[比較例3、4]
実施例1、2において、ポリマーへの各成分の添加量を表1に記載の通りに変更したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1、表2に併せて示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1から明らかなように、本発明のポリエステルポリマーは良好な色相が得られたが、チタン化合物に代えて三酸化二アンチモンを使用した場合(比較例1、2)はポリマーにくすみが見られL値が低い結果となった。また、ポリマー可溶性チタン化合物の添加量がチタン金属元素として本発明の範囲を外れる場合(比較例3、4)は、ポリマーが黄色味を帯びており、b値が高く色相が不良であった。
【0093】
【表2】
【0094】
表2から明らかなように、本発明のポリエステル原着繊維では、繊径斑が見られないが、比較例1、2では繊径斑が見られた。これは製造工程の紡糸時に口金吐出孔付近に異物が付着することに起因したものである。この繊径斑のため、繊維構造体の色相変化が生じている。
【0095】
原着繊維のカラーについても、比較例1、2ではくすみが生じたためL値の低いカラーとなり、比較例3、4では黄色味を帯びているためb値が高くなり、いずれの比較例も色相が不良であった。
【0096】
繊維構造体における変退色性についても、本発明のポリエステル原着繊維を用いた場合は変退色性が良好であるが、本発明の範囲外のチタン、リン含有量の場合は退色が大きい。
【0097】
【発明の効果】
本発明によれば、良好な色調を有し、変退色性に優れ、繊径斑の少ないポリエステル原着繊維を提供することができる。
Claims (6)
- ポリエステルポリマーから構成される繊維であって、該ポリエステルポリマーがチタン化合物成分とリン化合物とを含む触媒の存在下に芳香族ジカルボキシレートエステルを重縮合して得られるポリマーであり、該チタン化合物成分が下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシド及び下記一般式(I)で表されるチタンアルコキシドと下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物とを反応させた生成物からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む成分であり、該リン化合物が下記一般式(III)で表される化合物であり、チタンとリンの含有濃度が下記数式(1)及び(2)を同時に満足し、かつ着色成分を含有することを特徴とするポリエステル原着繊維。
- 固有粘度が0.8〜1.2である請求項1記載のポリエステル原着繊維。
- 強度が7.0〜8.5cN/dtexであって伸度が12〜23%である請求項1または請求項2に記載のポリエステル原着繊維。
- ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートである請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル原着繊維。
- 請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステル原着繊維を用いることを特徴とする繊維構造物。
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