JP2004268088A - 狭開先溶接装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】狭開先壁のアンダーカットや融合不良等の不具合の発生を防止しながら狭開先倣い制御を実現できる狭開先溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接ワイヤ6の先端と母材3との間に形成されるアーク7の揺動の溶接ワイヤオシレータ11の揺動からの位相遅れ、即ち、ずれ周期Xを計算式X=60LZ/v(L:溶接ワイヤオシレータ11の垂直位置とアーク7の垂直位置との間の距離、Z:溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期、v:溶接ワイヤ6の送給速度)で演算し、ずれ周期Xに基づいてアークの現在の揺動位置を求め、アークの現在の揺動位置と溶接電流または溶接電圧の値を対応付けて、アーク7の揺動周期の左右の半周期分の溶接電流または溶接電圧の波形積分値をそれぞれ演算し、両者の差が常に一定になるようにアーク揺動中心制御軸Uの左右位置を制御するようにした。
【選択図】 図1
【解決手段】溶接ワイヤ6の先端と母材3との間に形成されるアーク7の揺動の溶接ワイヤオシレータ11の揺動からの位相遅れ、即ち、ずれ周期Xを計算式X=60LZ/v(L:溶接ワイヤオシレータ11の垂直位置とアーク7の垂直位置との間の距離、Z:溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期、v:溶接ワイヤ6の送給速度)で演算し、ずれ周期Xに基づいてアークの現在の揺動位置を求め、アークの現在の揺動位置と溶接電流または溶接電圧の値を対応付けて、アーク7の揺動周期の左右の半周期分の溶接電流または溶接電圧の波形積分値をそれぞれ演算し、両者の差が常に一定になるようにアーク揺動中心制御軸Uの左右位置を制御するようにした。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は溶接心線(以下、溶接ワイヤと称する)にワイヤオシレート(揺動)により波状塑性変形を与えて、この変形により溶接チップの先端から突出した溶接ワイヤの先端がアーク溶接中に狭開先の壁面間を揺動しつつ溶融するように構成した狭開先溶接装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
発電用ボイラの一部を構成する配管、例えば過熱蒸気管、再熱蒸気管、ボイラ給水管等は、熱交換器である過熱器で過熱された高温、高圧の蒸気をボイラからタービンに送り、タービンを駆動し終わった蒸気を再びボイラで再過熱し、再度タービンに送り、ボイラに予め加圧、加温した給水を送る機能を担っており、高温、高圧蒸気または給水に耐え得る材料で形成しなければならないため、大径の厚肉管で構成されている。
【0003】
即ち、これらの配管には高耐圧性が要求され、特にボイラの起動、停止時等には低温から高温にまで及ぶ大きな温度変化環境下に曝されるため、熱伸縮量が大きく、応力が集中し易い溶接継手等の溶接接続箇所においては、溶接品質が高度で強度の高いことが要求される。そしてこれら配管は大径の厚肉管で構成されているため、その溶接作業は数時間に及ぶ連続作業となる。
【0004】
一般的なGMA(ガスシールドメタルアーク)溶接における溶接位置の倣いは開先内の倣いを採用している場合が多い。ウイービング(揺動)溶接においては、例えば下記の特許文献1には、定電圧または定電流特性の電源を用いて、溶接電極を開先幅方向に揺動させながら溶接を行うアーク溶接方法において、溶接電極の揺動半周期毎に得られる溶接電流、アーク電圧またはトーチ高さの移動変位の何れか一つの波形面積の値の差が常に一定の値となるように溶接電極を揺動させながら溶接を行い、多層盛溶接の基本となる片寄りビードを形成させながら、電極の揺動中心を常に開先幅方向の所定位置に置きつつ溶接を行うようにした発明が開示されている。
【0005】
図7はGMA溶接における開先内での溶接ワイヤ揺動状況を示す説明図である。(a)はアーク揺動中心制御軸Uが汎用の開先4′内の中心にある場合、(b)はアーク揺動中心制御軸Uが汎用の開先4′内で左にずれた場合を示している。同図に示すように、汎用の溶接トーチ1′は汎用の開先4′内でアーク揺動中心制御軸Uにより開先中心の倣い制御が、トーチ高さ制御軸Vにより溶接ワイヤ突出し長さを一定にするための倣い制御が行われる。溶接電流と溶接ワイヤ位置との関係を求め、例えば、開先4′内の溶接トーチ1′の左端位置での溶接電流値と右端位置での溶接電流値との差が最小になるように制御することにより、開先中心の倣い制御を行うことができる。
【0006】
また、消耗電極を高速で回転させて溶接を行う回転アーク溶接方法では、例えば下記の特許文献2に、回転するアークの電流または電圧を検出して、これを電極の回転中心に対して左側半周期と右側半周期とに分割して各々平滑化し、それらの出力差分値が零になるように溶接電極を開先幅方向に位置修正しながら溶接を行うようにした発明が開示されている。
【0007】
一方、狭開先GMA溶接では、例えば下記の特許文献3に、コンタクトチップに被溶接材の対向面に直交する方向に細長い断面形状をもつノズル孔を開けておき、このノズル孔に溶接ワイヤを送り込む直前に溶接ワイヤに波状の塑性変形を与え、この波状変形に戻ろうとする波状弾性を保たせた儘ノズル孔中を移動させてノズル端より開先内に送り出すようにした波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方法の発明が開示されている。
【0008】
図8は、従来の狭開先GMA溶接装置の要部の斜視図である。この溶接装置は、細径の溶接ワイヤ6を送給する過程で、溶接ワイヤオシレータ11によって溶接ワイヤ6に大きな波形変形を与え、溶接ワイヤ6が溶接トーチ1を通過した後、給電チップ2の先端から溶接ワイヤ6の曲がり癖の復元力によって溶接ワイヤ6を自動的に揺動させることにより、溶接部21のアークが狭開先4の側壁面へ到達し得るようになり、十分な溶け込みが得られるようにしたものである。
【0009】
ところで、前述の一般的GMA溶接では溶接ワイヤのアークが発生している先端の左右位置を容易に判定できるのに対し、波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方法では溶接電流を検出することはできるが、溶接ワイヤのアークが発生している先端の左右位置を容易に判定することができず、従って、一般的GMA溶接で行われているような、溶接電流と溶接ワイヤのアークとの関係に基付く開先中心の倣い制御を行うことができない。
【0010】
このような問題点を解消する方策として、例えば下記の特許文献4には、溶接ワイヤを成形歯車で屈曲形状に塑性変形させた後、開先内に送り出すことにより、発生したアークを開先壁方向に振動させるようにした屈曲式溶接ワイヤ送給における開先倣い制御方法において、時間軸に対する電流または電圧の波形の隣接するサイクル毎の積分値の差を求めて、この差が減少する方向に溶接ワイヤのアーク揺動中心位置を補正するようにした発明が開示されている。
【0011】
【特許文献1】
特開昭58−112661号公報
【0012】
【特許文献2】
特開昭57−91877号公報
【0013】
【特許文献3】
特公昭54−450号公報
【0014】
【特許文献4】
特開平5−146877号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、屈曲式溶接ワイヤ送給の開先溶接方法ではアークの揺動振動数が4〜15Hzと速く、溶接ワイヤの先端が開先内で揺動する際には、一つの溶融プールで左右の壁の溶融が進行するので、電流または電圧の波形に基付く開先倣い制御を有効に実現できる。しかし、波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方法の場合は、溶接ワイヤの先端が開先内で大きな振幅で揺動するので、アークの揺動振動数が0.5〜1.5Hzと遅く、アークが左右に揺動するに連れて溶融プールがそれに追随して一緒に移動するため、溶接トーチを狭い狭開先内で移動させて上述の開先倣い制御を実行しようとすると、揺動サイクルが遅いことによる開先壁のアンダーカットが生じたり、一方、反対側の壁面では融合不良が発生する等の不具合発生の要因となり、非常に危険な状態になる。
【0016】
本発明は従来技術におけるかかる問題点を解消すべく為されたものであり、狭開先壁のアンダーカットや融合不良等の不具合の発生を防止しながら狭開先倣い制御を実現できる狭開先溶接装置を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するために、溶接ワイヤの先端に形成されるアークの揺動の揺動手段の揺動からの位相遅れを演算し、該位相遅れに基づいてアークの現在の揺動位置を求め、該揺動位置と検出手段が検出した溶接電流または溶接電圧の値を対応付けて、アークの揺動中心の正規の中心位置からのずれ方向を判定する判定手段を有したものであり、判定手段は好ましくは、揺動手段とアークとの間の溶接ワイヤの送給距離と揺動手段の揺動周期との積を演算し、該積に対する心線送給手段の送給速度の商を演算することによりアークの揺動の揺動手段の揺動からの位相遅れを演算するようにしたものである。
【0018】
さらには、狭開先の対向する壁面に近い側のアーク揺動の半周期分のそれぞれの溶接電流または溶接電圧の積分値を求め、判定手段が判定したずれ方向と反対側に溶接ヘッドを移動させることにより二つの積分値の差が常に一定になるように制御する制御手段を有し、制御手段は好ましくは、溶接電流または溶接電圧のアーク揺動の1周期分の積分値を求め、溶接ヘッドに支持した前記細管と母材との距離を調整して、前記積分値が常に予め設定した設定値に一致させることにより、アーク揺動振幅を一定に制御するようにしたものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を詳細に説明する。図1は本発明の実施例に係る狭開先GMA溶接装置の全体構成を示す構成図、図2はそのアークセンサ制御のシステム図である。これらの図において、3は被溶接部材となる母材、7は溶接ワイヤ(溶接ワイヤ)6の先端部に発生したアーク、12は溶接装置の動作を制御する制御装置、13は母材3と溶接ワイヤ6との間に溶接電流を供給する溶接電源、14は溶接電流を検出する電流検出器、15は溶接トーチ1の上端を支持してアーク揺動中心制御軸Uおよびトーチ高さ制御軸V方向にそれぞれ移動可能な溶接ヘッド、16は溶接ワイヤ6を溶接トーチ1内に送り込む溶接ワイヤ送給ローラ、17は母材3と溶接ワイヤ6との間に印加される溶接電圧および電流検出器14で検出された溶接電流を増幅する直流増幅器、18は直流増幅器17から出力された溶接電圧および溶接電流のアナログ値をデジタル値に変換するA/D変換器、19は制御装置12の要部を成す制御コンピュータである。
なお、直流増幅器17、A/D変換器18および制御コンピュータ19は制御装置12に内蔵されている。また、従来例と同一または同一と見做せる個所には同一の符号を付し、その重複する説明を省略する。
【0020】
溶接作業開始信号を受信すると、制御コンピュータ19は溶接ワイヤ送給ローラ16を回転させて溶接ワイヤ6を溶接トーチ1内に送り込むと共に揺動モーターを回転させて溶接ワイヤオシレータ11を溶接ワイヤ揺動制御軸W方向(左右方向)に大きく揺動させると共に、溶接電源13を起動させる。これにより、溶接ワイヤ6は大きな波形変形を起こして溶接トーチ1の細長いチューブの中を通過し、溶接トーチ1の先端の給電チップ2から突出する際に曲がり癖の復元力によって自動的に左右に大きく揺動する。こうして、溶接ワイヤ6の先端と狭開先4の側壁面との間にアーク7が発生して十分な溶け込みが得られる。溶接ワイヤ6の先端の揺動に連れて、形成されたアーク7も狭開先4内を左右に大きく揺動する。
【0021】
溶接トーチ1と母材3間に印加される溶接電源13の溶接電圧(トーチ電圧)および電流検出器14で検出された溶接電流は制御装置12の直流増幅器17に取り込まれ、増幅された後、A/D変換器18に取り込まれてデジタル信号に変換され、制御コンピュータ19に出力される。制御コンピュータ19は溶接電流および溶接電圧に基づいて溶接トーチ1の位置補正制御量を演算し、この位置補正制御量に従って制御モーターを回転させ、溶接ヘッド15をアーク揺動中心制御軸Uおよびトーチ高さ制御軸V方向にそれぞれ移動させる倣い制御を行う。
【0022】
この倣い制御の内容を具体例に基づいて説明する。図3はアーク揺動中心制御軸Uが中央位置と、それからずれた位置とにある場合の狭開先4の正面図、図4はアーク揺動中心制御軸Uが中央位置と、それからずれた位置とにある場合の溶接電流および溶接電圧の時間経過図である。これらの図において、(a)はアーク揺動中心制御軸Uが正しく狭開先4の中央に位置していた場合、(b)はアーク揺動中心制御軸Uが狭開先4の中央から左側に少しずれていた場合の例を示している。また、5は狭開先底である。
【0023】
本実施例のような波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方式であっても、溶接電流Iおよび溶接電圧Eの波形は図4(a),(a′),(b),(b′)に示すように、屈曲式溶接ワイヤ送給溶融方式の場合と同様に、溶接ワイヤ6の先端の揺動に連動して周期的に変動する。これは、狭開先底5の縦断面形状がU字型になるためであり、アーク揺動中心制御軸Uが正しく狭開先4の中央に位置していた場合は(a)、溶接ワイヤ6の先端の給電チップ2からの突出し長さが最も短くなる、アーク7の揺動左右端では溶接電流Iは最大値IL,IR、突出し長さが最も長くなるアーク7の狭開先底5の中央では最小値となる。一方、溶接電圧Eの値は逆に、アーク7の揺動左右端では最小値、アーク7の狭開先底5の中央では最大値となる(a′)。
【0024】
そして、アーク揺動中心制御軸Uが狭開先4の中央から左側に少しずれていた場合は(b)、溶接ワイヤ6の先端の給電チップ2からの揺動左端の突出し長さは図3(b)に示すように、(a)の場合よりも短くなるから、アーク7の溶接電流Iは(a)に示した最大値ILよりも大きな値になり、一方、アーク7の揺動右端の溶接電流Iは、溶接ワイヤ6の先端の給電チップ2からの突出し長さが図3(a)の場合よりも長くなるから、図4(a)に示した最大値ILよりも小さくなる。また、溶接電圧Eの値(b′)は溶接電流Iの波形をほぼ逆転した波形になっている。この場合に、アーク揺動中心制御軸Uの正しい位置を探すために、闇雲にさらにアーク揺動中心制御軸Uを左側にずらすと、前述のように左側壁の溶融が進み過ぎてアンダーカット状態になると共に右側壁近傍は融合不良になることがある。
【0025】
そこで、本実施例ではアーク7の揺動、即ち、溶接ワイヤ6の先端の揺動が溶接ワイヤオシレータ11の揺動と同期していることに着目して、溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置からアーク7の揺動位置を割り出すようにした。アーク7の揺動周期は溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期と一致しているが、溶接ワイヤオシレータ11の揺動により波形変形を起こした溶接ワイヤ6がアーク7の形成位置に到達するまでの時間に相当する位相遅れが生じる。この位相遅れをずれ周期と呼ぶことにすると、ずれ周期Xは次式で与えられる。
【0026】
X=60LZ/v ……(1)
但し、L:溶接ワイヤオシレータ11の垂直位置とアーク7の垂直位置との間の距離、Z:溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期、v:溶接ワイヤ6の送給速度 例えば、L=300mm,Z=1Hz,v=7000mm/min とすると、計算式(1)よりX=60×300×1/7000≒2.6となる。つまり、この場合はアーク7の揺動位置は溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置に対して、2.6ずれ周期だけ遅れて追随することになる。溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置は揺動モーターの回転回数から割り出せるから、求めた溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置に対して、2.6周期だけ遅らせた位置を演算することにより、アーク7の揺動位置を概略割り出すことができる。これにより、電流検出器14で検出された溶接電流Iまたは溶接電源13の溶接電圧Eの極大値または極小値は何の揺動位置に対応するのかを判定できるから、アーク揺動中心制御軸Uの正しい補正方向を知ることができる。
【0027】
なお、計算式(1)の導出の過程では溶接トーチ1の細長いチューブの中での溶接ワイヤ6の屈曲による誤差を無視する近似をしているので、正確な計算式とは言えないが、溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期Zが0.5〜1.5Hzのように、比較的ゆっくりした揺動の場合はアーク7の揺動位置が左右逆転する程の大きな誤差は生じず、アーク7の揺動は実際にはこの計算式によるずれ周期よりもやや遅れる傾向がある。そこで、アーク揺動時の右側半周期分と左側半周期分の溶接電流Iまたは溶接電圧Eの波形積分値の差が常に一定になるようにアーク揺動中心制御軸Uの左右位置、即ち、溶接ヘッド15の左右位置を波形積分値が大きい側から小さい側へ移動させるように調整すれば、波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方式における開先中心の倣い制御を実現できる。
【0028】
制御コンピュータ19によって実際に開先中心の倣い制御を実行するには、始めに、溶接ワイヤオシレータ11の垂直位置とアーク7の垂直位置との距離L、溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期Zおよび溶接ワイヤ6の送給速度vを予め入力しておく。これに従って、制御コンピュータ19は計算式(1)を演算してアーク揺動のずれ周期を求め、溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置からアーク7の揺動位置を判定する。次に、電流検出器14で検出された溶接電流Iまたは溶接電源13の溶接電圧Eを先に求めたアーク7の揺動位置に同期させ、アーク7の揺動周期の左右の半周期分の溶接電流Iまたは溶接電圧Eの波形積分値をそれぞれ演算し、両者の差が常に一定になるようにアーク揺動中心制御軸Uの左右位置を制御する。なお、アーク7の揺動位置の判定は溶接作業開始時に一度行えば良いが、定期的に行うようにすれば、より確実な開先中心の倣い制御を実現できる。
【0029】
制御コンピュータ19は上述のアーク揺動中心制御軸Uの正しい位置制御を行うと共に、トーチ高さ制御軸Vの上下位置の調整を行ってアーク揺動の正しい振り幅の制御も行っている。図5は溶接トーチ1の上下位置が正しい位置と異なる位置にある場合の狭開先4の正面図、図6はそれらの場合の溶接電流Iおよび溶接電圧Eの時間経過図である。(a)は溶接トーチ1の上下位置が高過ぎる場合、(b)は溶接トーチ1の上下位置が低過ぎる場合の具体例である。
【0030】
(a)のように、溶接トーチ1の位置が高過ぎる場合はアーク7の揺動振幅が大きくなると共に、狭開先4の中央部での溶接電流Iが著しく小さくなるので、最大値と最小値との差が大きくなり、1周期間の積分値も小さくなる。このように、アーク7が狭開先4の壁面に集中するため、該壁面の溶融が進み過ぎ、アンダーカットの発生等の不良原因となってしまう。
【0031】
一方、(b)のように、溶接トーチ1の位置が低過ぎる場合はアーク7の揺動振幅が小さくなると共に、狭開先4の中央部での溶接電流Iは端部でのものとあまり差がなくなるので、最大値と最小値との差は小さく、1周期間の積分値は大きくなる。このように、アーク7が狭開先4の壁面に到達し難くなるので、該壁面の溶融が進まず、融合不良の原因となってしまう。ここでは、溶接電流Iの波形の特徴に注目して述べたが、溶接電圧Eの波形の特徴は溶接電流Iの波形の特徴と丁度逆のものになる。
【0032】
そこで、本実施例では溶接トーチ1の上下位置と溶接電流I(または溶接電圧E)の1周期間の積分値の増減関係に着目してアーク揺動の振り幅制御を実現したものである。具体的には、制御コンピュータ19はアーク揺動1周期間の溶接電流Iの積分値を演算し、溶接トーチ1の正常高さ位置に対応した、予め入力された設定値と比較し、両者が一致するように、溶接ヘッド15のトーチ高さ制御軸V方向の位置を調整する制御を行う。これにより、アーク7の揺動振幅を常に一定に保持することができる。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1記載の発明によれば、アークの揺動の揺動手段の揺動からの位相遅れを演算し、該位相遅れに基づいてアークの現在の揺動位置を求め、該揺動位置と溶接電流または溶接電圧の値を対応付けて、アークの揺動中心の正規の中心位置からのずれ方向を判定するようにしたので、実際には検出困難なアークの現在の揺動位置を概略把握できるから、狭開先壁のアンダーカットや融合不良等の不具合の発生を防止しながら狭開先倣い制御を実現することができる。
【0034】
請求項2記載の発明によれば、狭開先の対向する壁面に近い側のアーク揺動の半周期分のそれぞれの溶接電流または溶接電圧の積分値を求め、ずれ方向と反対側に溶融ヘッドを移動させることにより二つの前記積分値の差が常に一定になるように制御したので、比較的容易に狭開先倣い制御を実現することができる。 請求項4記載の発明によれば、溶接電流または溶接電圧のアーク揺動の1周期分の積分値を求め、溶融ヘッドの溶接ワイヤの送給方向位置を調整して、前記積分値が常に予め設定した設定値に一致させることにより、アーク揺動振幅を一定に制御するようにしたので、アークの揺動振幅を常に一定に保持することにより、狭開先壁のアンダーカットや融合不良等の不具合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る狭開先GMA溶接装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】その狭開先GMA溶接装置のアークセンサ制御のシステム図である。
【図3】アーク揺動中心制御軸がそれぞれ異なる位置にある場合の狭開先の正面図である。
【図4】その狭開先GMA溶接装置の溶接時の溶接電流および溶接電圧の時間経過図である。
【図5】溶接トーチの上下位置がそれぞれ異なる位置にある場合の狭開先の正面図である。
【図6】その狭開先GMA溶接装置の溶接時の溶接電流および溶接電圧の時間経過図である。
【図7】従来例に係るGMA溶接における開先内での溶接ワイヤ揺動状況を示す説明図である。
【図8】従来例に係る狭開先GMA溶接装置の要部の斜視図である。
【符号の説明】
1 溶接トーチ
2 給電チップ
3 母材
4 狭開先
5 狭開先底
6 溶接ワイヤ
7 アーク
11 溶接ワイヤオシレータ
12 制御装置
13 溶接電源
14 電流検出器
15 溶接ヘッド
16 溶接ワイヤ送給ローラ
17 直流増幅器
18 A/D変換器
19 制御コンピュータ
【発明の属する技術分野】
本発明は溶接心線(以下、溶接ワイヤと称する)にワイヤオシレート(揺動)により波状塑性変形を与えて、この変形により溶接チップの先端から突出した溶接ワイヤの先端がアーク溶接中に狭開先の壁面間を揺動しつつ溶融するように構成した狭開先溶接装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
発電用ボイラの一部を構成する配管、例えば過熱蒸気管、再熱蒸気管、ボイラ給水管等は、熱交換器である過熱器で過熱された高温、高圧の蒸気をボイラからタービンに送り、タービンを駆動し終わった蒸気を再びボイラで再過熱し、再度タービンに送り、ボイラに予め加圧、加温した給水を送る機能を担っており、高温、高圧蒸気または給水に耐え得る材料で形成しなければならないため、大径の厚肉管で構成されている。
【0003】
即ち、これらの配管には高耐圧性が要求され、特にボイラの起動、停止時等には低温から高温にまで及ぶ大きな温度変化環境下に曝されるため、熱伸縮量が大きく、応力が集中し易い溶接継手等の溶接接続箇所においては、溶接品質が高度で強度の高いことが要求される。そしてこれら配管は大径の厚肉管で構成されているため、その溶接作業は数時間に及ぶ連続作業となる。
【0004】
一般的なGMA(ガスシールドメタルアーク)溶接における溶接位置の倣いは開先内の倣いを採用している場合が多い。ウイービング(揺動)溶接においては、例えば下記の特許文献1には、定電圧または定電流特性の電源を用いて、溶接電極を開先幅方向に揺動させながら溶接を行うアーク溶接方法において、溶接電極の揺動半周期毎に得られる溶接電流、アーク電圧またはトーチ高さの移動変位の何れか一つの波形面積の値の差が常に一定の値となるように溶接電極を揺動させながら溶接を行い、多層盛溶接の基本となる片寄りビードを形成させながら、電極の揺動中心を常に開先幅方向の所定位置に置きつつ溶接を行うようにした発明が開示されている。
【0005】
図7はGMA溶接における開先内での溶接ワイヤ揺動状況を示す説明図である。(a)はアーク揺動中心制御軸Uが汎用の開先4′内の中心にある場合、(b)はアーク揺動中心制御軸Uが汎用の開先4′内で左にずれた場合を示している。同図に示すように、汎用の溶接トーチ1′は汎用の開先4′内でアーク揺動中心制御軸Uにより開先中心の倣い制御が、トーチ高さ制御軸Vにより溶接ワイヤ突出し長さを一定にするための倣い制御が行われる。溶接電流と溶接ワイヤ位置との関係を求め、例えば、開先4′内の溶接トーチ1′の左端位置での溶接電流値と右端位置での溶接電流値との差が最小になるように制御することにより、開先中心の倣い制御を行うことができる。
【0006】
また、消耗電極を高速で回転させて溶接を行う回転アーク溶接方法では、例えば下記の特許文献2に、回転するアークの電流または電圧を検出して、これを電極の回転中心に対して左側半周期と右側半周期とに分割して各々平滑化し、それらの出力差分値が零になるように溶接電極を開先幅方向に位置修正しながら溶接を行うようにした発明が開示されている。
【0007】
一方、狭開先GMA溶接では、例えば下記の特許文献3に、コンタクトチップに被溶接材の対向面に直交する方向に細長い断面形状をもつノズル孔を開けておき、このノズル孔に溶接ワイヤを送り込む直前に溶接ワイヤに波状の塑性変形を与え、この波状変形に戻ろうとする波状弾性を保たせた儘ノズル孔中を移動させてノズル端より開先内に送り出すようにした波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方法の発明が開示されている。
【0008】
図8は、従来の狭開先GMA溶接装置の要部の斜視図である。この溶接装置は、細径の溶接ワイヤ6を送給する過程で、溶接ワイヤオシレータ11によって溶接ワイヤ6に大きな波形変形を与え、溶接ワイヤ6が溶接トーチ1を通過した後、給電チップ2の先端から溶接ワイヤ6の曲がり癖の復元力によって溶接ワイヤ6を自動的に揺動させることにより、溶接部21のアークが狭開先4の側壁面へ到達し得るようになり、十分な溶け込みが得られるようにしたものである。
【0009】
ところで、前述の一般的GMA溶接では溶接ワイヤのアークが発生している先端の左右位置を容易に判定できるのに対し、波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方法では溶接電流を検出することはできるが、溶接ワイヤのアークが発生している先端の左右位置を容易に判定することができず、従って、一般的GMA溶接で行われているような、溶接電流と溶接ワイヤのアークとの関係に基付く開先中心の倣い制御を行うことができない。
【0010】
このような問題点を解消する方策として、例えば下記の特許文献4には、溶接ワイヤを成形歯車で屈曲形状に塑性変形させた後、開先内に送り出すことにより、発生したアークを開先壁方向に振動させるようにした屈曲式溶接ワイヤ送給における開先倣い制御方法において、時間軸に対する電流または電圧の波形の隣接するサイクル毎の積分値の差を求めて、この差が減少する方向に溶接ワイヤのアーク揺動中心位置を補正するようにした発明が開示されている。
【0011】
【特許文献1】
特開昭58−112661号公報
【0012】
【特許文献2】
特開昭57−91877号公報
【0013】
【特許文献3】
特公昭54−450号公報
【0014】
【特許文献4】
特開平5−146877号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、屈曲式溶接ワイヤ送給の開先溶接方法ではアークの揺動振動数が4〜15Hzと速く、溶接ワイヤの先端が開先内で揺動する際には、一つの溶融プールで左右の壁の溶融が進行するので、電流または電圧の波形に基付く開先倣い制御を有効に実現できる。しかし、波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方法の場合は、溶接ワイヤの先端が開先内で大きな振幅で揺動するので、アークの揺動振動数が0.5〜1.5Hzと遅く、アークが左右に揺動するに連れて溶融プールがそれに追随して一緒に移動するため、溶接トーチを狭い狭開先内で移動させて上述の開先倣い制御を実行しようとすると、揺動サイクルが遅いことによる開先壁のアンダーカットが生じたり、一方、反対側の壁面では融合不良が発生する等の不具合発生の要因となり、非常に危険な状態になる。
【0016】
本発明は従来技術におけるかかる問題点を解消すべく為されたものであり、狭開先壁のアンダーカットや融合不良等の不具合の発生を防止しながら狭開先倣い制御を実現できる狭開先溶接装置を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するために、溶接ワイヤの先端に形成されるアークの揺動の揺動手段の揺動からの位相遅れを演算し、該位相遅れに基づいてアークの現在の揺動位置を求め、該揺動位置と検出手段が検出した溶接電流または溶接電圧の値を対応付けて、アークの揺動中心の正規の中心位置からのずれ方向を判定する判定手段を有したものであり、判定手段は好ましくは、揺動手段とアークとの間の溶接ワイヤの送給距離と揺動手段の揺動周期との積を演算し、該積に対する心線送給手段の送給速度の商を演算することによりアークの揺動の揺動手段の揺動からの位相遅れを演算するようにしたものである。
【0018】
さらには、狭開先の対向する壁面に近い側のアーク揺動の半周期分のそれぞれの溶接電流または溶接電圧の積分値を求め、判定手段が判定したずれ方向と反対側に溶接ヘッドを移動させることにより二つの積分値の差が常に一定になるように制御する制御手段を有し、制御手段は好ましくは、溶接電流または溶接電圧のアーク揺動の1周期分の積分値を求め、溶接ヘッドに支持した前記細管と母材との距離を調整して、前記積分値が常に予め設定した設定値に一致させることにより、アーク揺動振幅を一定に制御するようにしたものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を詳細に説明する。図1は本発明の実施例に係る狭開先GMA溶接装置の全体構成を示す構成図、図2はそのアークセンサ制御のシステム図である。これらの図において、3は被溶接部材となる母材、7は溶接ワイヤ(溶接ワイヤ)6の先端部に発生したアーク、12は溶接装置の動作を制御する制御装置、13は母材3と溶接ワイヤ6との間に溶接電流を供給する溶接電源、14は溶接電流を検出する電流検出器、15は溶接トーチ1の上端を支持してアーク揺動中心制御軸Uおよびトーチ高さ制御軸V方向にそれぞれ移動可能な溶接ヘッド、16は溶接ワイヤ6を溶接トーチ1内に送り込む溶接ワイヤ送給ローラ、17は母材3と溶接ワイヤ6との間に印加される溶接電圧および電流検出器14で検出された溶接電流を増幅する直流増幅器、18は直流増幅器17から出力された溶接電圧および溶接電流のアナログ値をデジタル値に変換するA/D変換器、19は制御装置12の要部を成す制御コンピュータである。
なお、直流増幅器17、A/D変換器18および制御コンピュータ19は制御装置12に内蔵されている。また、従来例と同一または同一と見做せる個所には同一の符号を付し、その重複する説明を省略する。
【0020】
溶接作業開始信号を受信すると、制御コンピュータ19は溶接ワイヤ送給ローラ16を回転させて溶接ワイヤ6を溶接トーチ1内に送り込むと共に揺動モーターを回転させて溶接ワイヤオシレータ11を溶接ワイヤ揺動制御軸W方向(左右方向)に大きく揺動させると共に、溶接電源13を起動させる。これにより、溶接ワイヤ6は大きな波形変形を起こして溶接トーチ1の細長いチューブの中を通過し、溶接トーチ1の先端の給電チップ2から突出する際に曲がり癖の復元力によって自動的に左右に大きく揺動する。こうして、溶接ワイヤ6の先端と狭開先4の側壁面との間にアーク7が発生して十分な溶け込みが得られる。溶接ワイヤ6の先端の揺動に連れて、形成されたアーク7も狭開先4内を左右に大きく揺動する。
【0021】
溶接トーチ1と母材3間に印加される溶接電源13の溶接電圧(トーチ電圧)および電流検出器14で検出された溶接電流は制御装置12の直流増幅器17に取り込まれ、増幅された後、A/D変換器18に取り込まれてデジタル信号に変換され、制御コンピュータ19に出力される。制御コンピュータ19は溶接電流および溶接電圧に基づいて溶接トーチ1の位置補正制御量を演算し、この位置補正制御量に従って制御モーターを回転させ、溶接ヘッド15をアーク揺動中心制御軸Uおよびトーチ高さ制御軸V方向にそれぞれ移動させる倣い制御を行う。
【0022】
この倣い制御の内容を具体例に基づいて説明する。図3はアーク揺動中心制御軸Uが中央位置と、それからずれた位置とにある場合の狭開先4の正面図、図4はアーク揺動中心制御軸Uが中央位置と、それからずれた位置とにある場合の溶接電流および溶接電圧の時間経過図である。これらの図において、(a)はアーク揺動中心制御軸Uが正しく狭開先4の中央に位置していた場合、(b)はアーク揺動中心制御軸Uが狭開先4の中央から左側に少しずれていた場合の例を示している。また、5は狭開先底である。
【0023】
本実施例のような波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方式であっても、溶接電流Iおよび溶接電圧Eの波形は図4(a),(a′),(b),(b′)に示すように、屈曲式溶接ワイヤ送給溶融方式の場合と同様に、溶接ワイヤ6の先端の揺動に連動して周期的に変動する。これは、狭開先底5の縦断面形状がU字型になるためであり、アーク揺動中心制御軸Uが正しく狭開先4の中央に位置していた場合は(a)、溶接ワイヤ6の先端の給電チップ2からの突出し長さが最も短くなる、アーク7の揺動左右端では溶接電流Iは最大値IL,IR、突出し長さが最も長くなるアーク7の狭開先底5の中央では最小値となる。一方、溶接電圧Eの値は逆に、アーク7の揺動左右端では最小値、アーク7の狭開先底5の中央では最大値となる(a′)。
【0024】
そして、アーク揺動中心制御軸Uが狭開先4の中央から左側に少しずれていた場合は(b)、溶接ワイヤ6の先端の給電チップ2からの揺動左端の突出し長さは図3(b)に示すように、(a)の場合よりも短くなるから、アーク7の溶接電流Iは(a)に示した最大値ILよりも大きな値になり、一方、アーク7の揺動右端の溶接電流Iは、溶接ワイヤ6の先端の給電チップ2からの突出し長さが図3(a)の場合よりも長くなるから、図4(a)に示した最大値ILよりも小さくなる。また、溶接電圧Eの値(b′)は溶接電流Iの波形をほぼ逆転した波形になっている。この場合に、アーク揺動中心制御軸Uの正しい位置を探すために、闇雲にさらにアーク揺動中心制御軸Uを左側にずらすと、前述のように左側壁の溶融が進み過ぎてアンダーカット状態になると共に右側壁近傍は融合不良になることがある。
【0025】
そこで、本実施例ではアーク7の揺動、即ち、溶接ワイヤ6の先端の揺動が溶接ワイヤオシレータ11の揺動と同期していることに着目して、溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置からアーク7の揺動位置を割り出すようにした。アーク7の揺動周期は溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期と一致しているが、溶接ワイヤオシレータ11の揺動により波形変形を起こした溶接ワイヤ6がアーク7の形成位置に到達するまでの時間に相当する位相遅れが生じる。この位相遅れをずれ周期と呼ぶことにすると、ずれ周期Xは次式で与えられる。
【0026】
X=60LZ/v ……(1)
但し、L:溶接ワイヤオシレータ11の垂直位置とアーク7の垂直位置との間の距離、Z:溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期、v:溶接ワイヤ6の送給速度 例えば、L=300mm,Z=1Hz,v=7000mm/min とすると、計算式(1)よりX=60×300×1/7000≒2.6となる。つまり、この場合はアーク7の揺動位置は溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置に対して、2.6ずれ周期だけ遅れて追随することになる。溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置は揺動モーターの回転回数から割り出せるから、求めた溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置に対して、2.6周期だけ遅らせた位置を演算することにより、アーク7の揺動位置を概略割り出すことができる。これにより、電流検出器14で検出された溶接電流Iまたは溶接電源13の溶接電圧Eの極大値または極小値は何の揺動位置に対応するのかを判定できるから、アーク揺動中心制御軸Uの正しい補正方向を知ることができる。
【0027】
なお、計算式(1)の導出の過程では溶接トーチ1の細長いチューブの中での溶接ワイヤ6の屈曲による誤差を無視する近似をしているので、正確な計算式とは言えないが、溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期Zが0.5〜1.5Hzのように、比較的ゆっくりした揺動の場合はアーク7の揺動位置が左右逆転する程の大きな誤差は生じず、アーク7の揺動は実際にはこの計算式によるずれ周期よりもやや遅れる傾向がある。そこで、アーク揺動時の右側半周期分と左側半周期分の溶接電流Iまたは溶接電圧Eの波形積分値の差が常に一定になるようにアーク揺動中心制御軸Uの左右位置、即ち、溶接ヘッド15の左右位置を波形積分値が大きい側から小さい側へ移動させるように調整すれば、波状溶接ワイヤ式狭開先溶接方式における開先中心の倣い制御を実現できる。
【0028】
制御コンピュータ19によって実際に開先中心の倣い制御を実行するには、始めに、溶接ワイヤオシレータ11の垂直位置とアーク7の垂直位置との距離L、溶接ワイヤオシレータ11の揺動周期Zおよび溶接ワイヤ6の送給速度vを予め入力しておく。これに従って、制御コンピュータ19は計算式(1)を演算してアーク揺動のずれ周期を求め、溶接ワイヤオシレータ11の揺動位置からアーク7の揺動位置を判定する。次に、電流検出器14で検出された溶接電流Iまたは溶接電源13の溶接電圧Eを先に求めたアーク7の揺動位置に同期させ、アーク7の揺動周期の左右の半周期分の溶接電流Iまたは溶接電圧Eの波形積分値をそれぞれ演算し、両者の差が常に一定になるようにアーク揺動中心制御軸Uの左右位置を制御する。なお、アーク7の揺動位置の判定は溶接作業開始時に一度行えば良いが、定期的に行うようにすれば、より確実な開先中心の倣い制御を実現できる。
【0029】
制御コンピュータ19は上述のアーク揺動中心制御軸Uの正しい位置制御を行うと共に、トーチ高さ制御軸Vの上下位置の調整を行ってアーク揺動の正しい振り幅の制御も行っている。図5は溶接トーチ1の上下位置が正しい位置と異なる位置にある場合の狭開先4の正面図、図6はそれらの場合の溶接電流Iおよび溶接電圧Eの時間経過図である。(a)は溶接トーチ1の上下位置が高過ぎる場合、(b)は溶接トーチ1の上下位置が低過ぎる場合の具体例である。
【0030】
(a)のように、溶接トーチ1の位置が高過ぎる場合はアーク7の揺動振幅が大きくなると共に、狭開先4の中央部での溶接電流Iが著しく小さくなるので、最大値と最小値との差が大きくなり、1周期間の積分値も小さくなる。このように、アーク7が狭開先4の壁面に集中するため、該壁面の溶融が進み過ぎ、アンダーカットの発生等の不良原因となってしまう。
【0031】
一方、(b)のように、溶接トーチ1の位置が低過ぎる場合はアーク7の揺動振幅が小さくなると共に、狭開先4の中央部での溶接電流Iは端部でのものとあまり差がなくなるので、最大値と最小値との差は小さく、1周期間の積分値は大きくなる。このように、アーク7が狭開先4の壁面に到達し難くなるので、該壁面の溶融が進まず、融合不良の原因となってしまう。ここでは、溶接電流Iの波形の特徴に注目して述べたが、溶接電圧Eの波形の特徴は溶接電流Iの波形の特徴と丁度逆のものになる。
【0032】
そこで、本実施例では溶接トーチ1の上下位置と溶接電流I(または溶接電圧E)の1周期間の積分値の増減関係に着目してアーク揺動の振り幅制御を実現したものである。具体的には、制御コンピュータ19はアーク揺動1周期間の溶接電流Iの積分値を演算し、溶接トーチ1の正常高さ位置に対応した、予め入力された設定値と比較し、両者が一致するように、溶接ヘッド15のトーチ高さ制御軸V方向の位置を調整する制御を行う。これにより、アーク7の揺動振幅を常に一定に保持することができる。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1記載の発明によれば、アークの揺動の揺動手段の揺動からの位相遅れを演算し、該位相遅れに基づいてアークの現在の揺動位置を求め、該揺動位置と溶接電流または溶接電圧の値を対応付けて、アークの揺動中心の正規の中心位置からのずれ方向を判定するようにしたので、実際には検出困難なアークの現在の揺動位置を概略把握できるから、狭開先壁のアンダーカットや融合不良等の不具合の発生を防止しながら狭開先倣い制御を実現することができる。
【0034】
請求項2記載の発明によれば、狭開先の対向する壁面に近い側のアーク揺動の半周期分のそれぞれの溶接電流または溶接電圧の積分値を求め、ずれ方向と反対側に溶融ヘッドを移動させることにより二つの前記積分値の差が常に一定になるように制御したので、比較的容易に狭開先倣い制御を実現することができる。 請求項4記載の発明によれば、溶接電流または溶接電圧のアーク揺動の1周期分の積分値を求め、溶融ヘッドの溶接ワイヤの送給方向位置を調整して、前記積分値が常に予め設定した設定値に一致させることにより、アーク揺動振幅を一定に制御するようにしたので、アークの揺動振幅を常に一定に保持することにより、狭開先壁のアンダーカットや融合不良等の不具合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る狭開先GMA溶接装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】その狭開先GMA溶接装置のアークセンサ制御のシステム図である。
【図3】アーク揺動中心制御軸がそれぞれ異なる位置にある場合の狭開先の正面図である。
【図4】その狭開先GMA溶接装置の溶接時の溶接電流および溶接電圧の時間経過図である。
【図5】溶接トーチの上下位置がそれぞれ異なる位置にある場合の狭開先の正面図である。
【図6】その狭開先GMA溶接装置の溶接時の溶接電流および溶接電圧の時間経過図である。
【図7】従来例に係るGMA溶接における開先内での溶接ワイヤ揺動状況を示す説明図である。
【図8】従来例に係る狭開先GMA溶接装置の要部の斜視図である。
【符号の説明】
1 溶接トーチ
2 給電チップ
3 母材
4 狭開先
5 狭開先底
6 溶接ワイヤ
7 アーク
11 溶接ワイヤオシレータ
12 制御装置
13 溶接電源
14 電流検出器
15 溶接ヘッド
16 溶接ワイヤ送給ローラ
17 直流増幅器
18 A/D変換器
19 制御コンピュータ
Claims (4)
- 溶接心線を所定の送給速度で送給する心線送給手段と、前記溶接心線をその送給方向と略垂直方向に低周波数で周期的に揺動させて前記溶接心線に波状の塑性変形を起こさせる揺動手段と、前記溶接心線を嵌挿させて母材の狭開先内の溶接箇所に導く細管と、前記揺動手段と前記細管とを支持する溶接ヘッドと、前記溶接心線と前記母材との間に溶接電流を供給して両者の間にアークを発生させる溶接電源と、該溶接電源から前記溶接心線に供給される溶接電流または溶接電圧を検出する検出手段とを具え、前記細管の先端から突出した前記溶接心線の先端が曲がり癖の復元力により前記狭開先の対向する壁面間を揺動しつつ溶融するように構成した狭開先溶接装置において、
前記溶接心線の先端に形成されるアークの揺動の前記揺動手段の揺動からの位相遅れを演算し、該位相遅れに基づいてアークの現在の揺動位置を求め、該揺動位置と前記検出手段が検出した溶接電流または溶接電圧の値を対応付けて、アークの揺動中心の正規の中心位置からのずれ方向を判定する判定手段を有したことを特徴とする狭開先溶接装置。 - 狭開先の対向する壁面に近い側のアーク揺動の半周期分のそれぞれの溶接電流または溶接電圧の積分値を求め、判定手段が判定したずれ方向と反対側に溶接ヘッドを移動させることにより二つの前記積分値の差が常に一定になるように制御する制御手段を有したことを特徴とする請求項1記載の狭開先溶接装置。
- 判定手段は揺動手段とアークとの間の溶接心線の送給距離と前記揺動手段の揺動周期との積を演算し、該積に対する心線送給手段の送給速度の商を演算することによりアークの揺動の前記揺動手段の揺動からの位相遅れを演算するようにしたことを特徴とする請求項1記載の狭開先溶接装置。
- 制御手段は溶接電流または溶接電圧のアーク揺動の1周期分の積分値を求め、溶接ヘッドに支持した前記細管と母材との距離を調整して、前記積分値が常に予め設定した設定値に一致させることにより、アーク揺動振幅を一定に制御することを特徴とする請求項1記載の狭開先溶接装置。
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-
2003
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