JP2004261751A - 水素化分解用触媒およびそれを用いる水素化分解方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ヒドロキシアパタイトに、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムおよびイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を担持してなる貴金属担持ヒドロキシアパタイトからなる水素化分解用触媒。該触媒を使用する有機化合物からなる基質の水素化分解方法。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は有機化合物の水素化分解用触媒及び水素化分解方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から有機合成、とりわけファインケミカルの分野においては、各種の水素化分解反応が用いられている。例えば、炭素−酸素結合、炭素−窒素結合、炭素−硫黄結合、或いは炭素−ハロゲン結合を含んだ基質が触媒の存在下で分子状の水素や水素供与体からの水素移行による水素化分解反応によって分解される。分子内の反応し易い官能基を予め保護試薬との反応で保護しておき分子内の他の官能基の反応を進めた後、この保護基を脱離させ元の官能基を再生させる脱保護反応として、水素化分解は広汎に用いられる反応である。従来からアミノ酸やペプチドの合成においては、アミノ基の保護基として9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc−基と略す)やベンジルオキシカルボニル基(以下、Z−基と略す)等が用いられてきた。例えば、予めアミノ基をクロロベンジルフォルメート(Z−試薬)との反応でZ−化して保護した上で分子内の他の官能基を反応させた後、Z−基を脱保護して目的のアミノ基含有化合物が合成される(T.W. Greene, P.G.M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, John Wiley and Sons, Inc., New York, 3rd ed., 1999)。
【0003】
Fmoc−基やZ−基の脱保護は、一般に、貴金属触媒による水素化分解、或いは酸触媒又は塩基触媒による加水分解によって行われる。脱離反応に要求される性能は、1)低コスト、2)迅速性、3)選択性、4)温和な反応条件、及び5)広汎な基質への適用性、であるが、酸触媒、塩基触媒による加水分解では加水分解に敏感な他の官能基も攻撃を受ける可能性が有った。
【0004】
水素化分解反応においては一般に、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の貴金属元素が、貴金属ブラックや、酸化物、水酸化物の形で、あるいはカーボン、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、硫酸バリウム等の多孔質担体に担持された担持触媒として用いられるが、反応性は基質の構造に依存し、一般に相当多量の貴金属が必要であった。
【0005】
他方、我々の知る限り、これまで水素化分解用触媒として貴金属担持ヒドロキシアパタイトが有用に用いられたとの報告は無く、わずかに、最近ルテニウム或いはパラジウム担持ヒドロキシアパタイトが分子状の酸素を用いるアルコール類のアルデヒドまたはケトンへの酸化反応に、或いはパラジウム担持ヒドロキシアパタイトがアリールハライドとオレフィンの炭素−炭素結合反応(ヘック反応)あるいはアリールハライドとアリールボロン酸との炭素−炭素結合反応(スズキ反応)の触媒になるとの報告が有るのみである(特開2001−246262、特開2002−275116、及びk.Mori等,J.Am. Chem Soc., 2002, 124, 11572)。これらの文献には、貴金属担持ヒドロキシアパタイトの水素化分解活性に関しては何も教示されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した従来公知の水素化分解用触媒は、実用的に適用できる基質に制約があった。即ち、基質の構造によっては温和な反応条件下での触媒の活性が不十分で、反応を定量的に進めることが困難なため残った未反応物と生成物を分離する後工程が必要となったり、反応転化率を上げるために高温・高圧が必要となり好ましくない副反応が起こるといった欠点があった。特に、分子内に複数の官能基を持つ複雑な構造の基質や立体的に嵩高い構造の基質の水素化分解は、従来の触媒では反応が進行し難いという問題があった。例えば、パラジウム触媒を用いるZ−基の水素化分解は、嵩高い化合物では難しいとされてきた(M.Bodanszky等、J. Am. Chem. Soc., 1967, 89, 6753)。
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、複雑な或いは嵩高い構造の基質に対しても高活性で且つ副反応が無く選択性の高い水素化分解反応用触媒を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意、検討を重ねた結果、特定組成のヒドロキシアパタイトに、貴金属元素を担持した触媒が上記課題を解決しうる優れた水素化分解用触媒であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、一般式(1):
Ca10−Z(HPO4)z(PO4)6−Z(OH)2−Z・nH2O
[式中、Zは0≦Z≦1の数、nは0〜2.5の数]
で表されるヒドロキシアパタイトと、これに担持されたパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の貴金属元素とを有してなる基質有機化合物の水素化分解用触媒を提供する。
【0010】
更に本発明は、その好ましい実施の形態として、基質有機化合物の炭素−ヘテロ原子結合の水素化分解用触媒を提供し、更に好ましくはヘテロ原子が窒素である炭素−窒素結合の水素化分解用触媒を提供する。特に好適にはアミノ基の脱保護のための水素化分解用触媒を提供し、更に好適にはアミノ基に結合したFmoc‐基やZ‐基等のN‐保護基の水素化分解用触媒を提供する。
【0011】
また、本発明は上記触媒の存在下、基質有機化合物に分子状水素を接触させる、該基質有機化合物の水素化分解方法を提供する。
【0012】
とりわけその好ましい実施形態として上記水素化分解が炭素−窒素結合である水素化分解方法を提供する。なかんずくアミノ基の脱保護である水素化分解方法を提供する。更に好ましくは、上記アミノ基の保護基がZ−基である水素化分解方法を提供する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の水素化分解用触媒(以下、「触媒」という)は、一般式(1):
Ca10−Z(HPO4)z(PO4)6−Z(OH)2−Z・nH2O
[ここで、Zは0≦Z≦1の数、nは0〜2.5の数]
で表されるヒドロキシアパタイトに、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、およびイリジウムからなる群から選ばれる貴金属元素の一種または二種以上を担持して調製される。
【0014】
上記ヒドロキシアパタイトは、蒸発乾固法、固相反応法、水熱合成法、沈殿反応法、加水分解法等、公知の方法で製造できる。例えば、燐酸水素アンモニウムの水溶液にアンモニア水を添加してpHを11に調整し、この溶液にアンモニア水でpHを予め11に調整した1.67倍モル、又は1.50倍モルの硝酸カルシウム水溶液を添加し熟成後、生じた沈殿を濾過、洗浄、乾燥して、上記式(1)におけるZ=0のヒドロキシアパタイト Ca10(PO4)6(OH)2・nH2O、又はZ=1のヒドロキシアパタイトCa9(HPO4)(PO4)5(OH)・nH2Oが得られる。
【0015】
上記ヒドロキシアパタイトの物性は限定されないが、好ましくはBET比表面積が10〜150m2/g、更に好ましくは20〜100m2/gで、結晶子サイズが1〜200nm、更に好ましくは5〜100nmのものが使用できる。
【0016】
次いで、上記式(1)のヒドロキシアパタイトに、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウムから選ばれる貴金属元素の一種または二種以上を担持させる。好ましくはパラジウム、白金であり、更に好ましくはパラジウムである。パラジウムを主成分とし、これに、少量の他の貴金属を組み合わせて使用することも出来る。ヒドロキシアパタイトヘの貴金属の担持量は、特に制限は無いが、通常0.01〜40質量%、好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは0.2〜10質量%である。
【0017】
担持方法は限定されないが、貴金属を出来る限り高分散状態でヒドロキシアパタイトに担持出来る製法が好ましい。例えば、ヒドロキシアパタイトを溶媒中にスラリーとして分散させ、該スラリーに、可溶性の貴金属の塩、錯化合物、又は有機金属錯体を溶液として添加し接触させ、吸着、イオン交換、又は配位子交換等でヒドロキシアパタイト担体の表面に結合、担持させる。
【0018】
貴金属の塩としては、例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート塩等が使用できる。錯化合物や有機金属錯体としては、パラジウムの場合、例えばテトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム、テトラブロモパラジウム(II)酸ナトリウム、テトラアンミンパラジウム(II)ジクロライド、ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロライド、ビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)ジクロライド、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(II)等が使用できる。白金の場合、例えばテトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、テトラアンミン白金(II)ジクロライド、ジクロロビス(トリフェニルフォスフィン)白金(II)、テトラキストリフェニルフォスフィン白金(0)等が使用できる。ルテニウムの場合、例えばヘキサクロロルテニウム(IV)酸カリウム、ルテニウム(VI)酸ナトリウム、ヘキサアンミンルテニウム(III)ブロミド、トリス(オキサラート)ルテニウム(III)酸カリウム、ドデカカルボニルトリルテニウム(0)、ジクロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ルテニウム(II)等を、使用することができる。ロジウムの場合、ヘキサクロロロジウム(III)酸アンモニウム、ヘキサアンミンロジウム(III)トリクロライド、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(I)、ジクロロテトラカルボニルニロジウム(I)、ドデカカルボニル四ロジウム(0)等を使用することができる。イリジウムの場合、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸ナトリウム、ヘキサクロロイリジウム(III)酸カリウム、クロロカルボニルビス(トリフェニルフォスフィン)イリジウム(I)等が、それぞれ使用できる。
【0019】
貴金属成分は担持後、予め水素等の還元剤で処理して金属状態に還元して使用してもよいが、未還元のまま単離して水素化分解反応に供することもできる。水素化分解の反応器中で基質との接触前に水素のみを供給して還元前処理し、引き続き水素化分解反応に供することもできる。一級又は二級アルコールを反応溶媒として用いる場合、基質との接触前に未還元の触媒をこれら溶媒と接触させ、アルコールの脱水素反応で生成する水素によって貴金属成分を還元して使用することもできる。
【0020】
本発明の触媒を用いる水素化分解反応において、水素化分解を受ける基質は、炭素−ヘテロ原子結合を含む有機化合物であり、ヘテロ原子として、窒素、酸素、硫黄、および塩素、臭素、沃素等のハロゲンを含む有機化合物であり、好ましくは、炭素−窒素結合、及び炭素−酸素結合であり、更に好ましくは炭素−窒素結合を含む有機化合物である。
【0021】
有機合成では、炭素−ヘテロ原子結合の水素化分解は、しばしば分子内の反応性の高い部位を他の部位への反応から保護する、保護−脱保護の目的で使用される。
【0022】
本発明の水素化分解触媒は、アミノ基の脱保護或いはアルコールの脱保護のための水素化分解に有効であり、とりわけアミノ基の脱保護のための水素化分解に有効である。
【0023】
本発明の触媒は、とりわけ、アミノ基の保護基としてのFmoc‐基やZ−基を窒素原子に結合させた炭素−窒素結合の水素化分解に高活性を示す。医薬、農薬、食品添加物の原料や中間体として重要なアミノ酸やペプチド、或いは機能性材料として注目されるアミノ基を末端に持つオリゴマーやデンドリマー等、アミノ基を含む化合物の合成に有効である。
【0024】
本発明の触媒は、分子内に複数の官能基を持つ複雑な構造の基質や立体的に嵩高い構造の基質の水素化分解にも、比較的温和な反応条件で、高い活性を示す。また、分子内の他の官能基が影響を受けず目的の部位の水素化分解のみが起こるという意味での高い選択性をも示す。また、担体がカーボンのような可燃物でないため、従来の貴金属担持カーボン触媒のような空気中で有機物との接触による可燃性・発熱性の問題も無く取り扱いが容易である。
【0025】
水素化分解反応は回分式反応操作、半回分式反応操作、或いは連続式反応操作のいずれでも可能である。例えば、回分式反応操作では、溶媒に本発明の触媒を均一に分散させてスラリー化し、窒素パージで脱気後、水素ガスを供給しながら基質の溶液を添加して一定温度、一定水素圧で、攪拌しながら反応させ、所定の水素吸収量に達した後、攪拌を止め、内容物を濾過し濾液から溶媒を留去すれば、ほとんど定量的に目的とする水素化分解生成物を得ることが出来る。濾過により回収された触媒は溶剤で洗浄後、次の反応に再使用することが出来る。
【0026】
いずれの反応操作の場合でも、少なくとも2回、好ましくは10回以上再使用できる。反応中に活性金属の溶出は無く安定な触媒である。
【0027】
反応溶媒は制限されず、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、エチルアセテートのようなエステル、ジエチルエーテル、ジエトキシエタン、THF等のエーテル、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド、トルエン、トリフルオロトルエン、クロロフォルム、又はジクロロメタン等、慣用の溶媒から、目的反応を妨害せず基質の溶解度の高い溶媒を適宜選択し使用することが出来る。また反応性の高い官能基を含む基質の場合、液体アンモニア中の使用も可能である。
【0028】
反応温度に特に制約はなく、通常、マイナス50℃〜200℃、好ましくは0℃〜100℃であり、更に好ましくは室温℃〜60℃である。
【0029】
水素源としては、水素供与体からの水素移行や分子状水素を用いることが出来るが、好ましくは分子状水素が用いられる。水素圧に制約はないが、通常ゲージ圧0.05MPa〜10MPa、好ましくは0.1MPa〜1MPa、更に好ましくは0.1〜0.5MPaである。
【0030】
水素移行反応における水素供与体としては、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ヒドラジン、アンモニウムフォルメート、ヒドラジンモノフォルメート等公知のものを使用することが出来る。
【0031】
本発明の触媒を用いる水素化分解反応の反応時間に限定はなく、通常10分〜24時間であるが、1時間〜4時間で完結する場合が多く、従来の触媒の場合に要した反応時間より短縮される場合が多い。
【0032】
アミノ基の保護−脱保護は以下のように行う。保護すべきアミノ基を含んだ基質を、例えばクロロベンジルフォルメート(Z試薬)と反応させ、N−Z化する。基質の他の部位に対する反応をさせた後、得られたN−Z化基質を本発明の触媒の存在下、分子状水素と接触させ水素化分解すると、ほぼ定量的に、目的のアミンとZ基の分解生成物トルエン(気相ヘ抜けたCO2を除く)を得る。
【0033】
保護−脱保護されるアミノ酸としては広汎な種類のアミノ酸に適用できる。例えばN−Z化されたグリシン、アラニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、ロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシン、トリプトファン、トレオニン、チロシン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸等から、それぞれ対応するグリシン、アラニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、ロイシン、メチオニン、バリン、イソロイシン、トリプトファン、トレオニン、チロシン、ヒスチジン、アスパギン、グルタミン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸が、それぞれほぼ定量的に得られる。アミノ酸分子内に酸や塩基の攻撃を受けやすい官能基、例えば三級ブトキシカルボニル基や三級ブチルエステル基が共存しても、本発明の触媒による水素化分解反応では影響を受けず、N−Z基の水素化分解のみが進行する。
【0034】
また、アミノ酸のアミノ基が結合した炭素中心の立体配座(D体、L体)は本触媒による水素化分解反応において100%保持される。
【0035】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において基質として用いられた各種のN−Z−保護アミノ酸、同誘導体の構造を図1に示す。
【0036】
<参考例> ヒドロキシアパタイトの合成
リン酸アンモニウム40ミリモルを水150mLに溶解し30%アンモニア水溶液を加えてpHを11に調整し、この溶液に25℃にて激しく攪拌しながら、予め30%アンモニア水溶液でpHを11に調整した66.7ミリモルの硝酸カルシウム4水和物水溶液を滴下し、滴下終了後、90℃へ昇温し20分保持した後、放冷した。得られた結晶を濾過、洗浄し、110℃にて乾燥して、ヒドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2 (以下、HAPと略す)を得た。
このもののBET比表面積は45m2/g、X線回折でd=2.81の結晶子径は30nmであった。
【0037】
<実施例1>パラジウム担持ヒドロキシアパタイト触媒(触媒A)の製造
1.34ミリモルのビスベンゾニトリルパラジウムジクロライド錯体PdCl2(PhCN)2を750mLのアセトンに溶解させ、これに10gのヒドロキシアパタイト(HAP) 粉末を添加し、得られたスラリーを25℃で5時間攪拌した。スラリーを濾過し、濾取した固体をアセトンで洗浄し、真空下で乾燥し、10.1gの0.2%パラジウム担持ヒドロキシアパタイト触媒(Pd/HAP)を得た(触媒A)。
【0038】
<実施例2>パラジウム担持ヒドロキシアパタイト触媒(触媒B)の製造
9.50gのヒドロキシアパタイト(HAP) 粉末を500mLの脱イオン水に懸濁させ、攪拌しながら 9.4ミリモルの炭酸カリウムの20mL水溶液を添加した。これに 4.7ミリモルのテトラクロロパラジウム(II)酸カリウムの10mL水溶液を滴下し、滴下終了後60℃まで昇温し30分保持した。11.75ミリモルの蟻酸カリウム水溶液10mLを滴下し更に60℃で30分保持した。放冷後、濾過、洗浄し、90℃で16時間乾燥し、10.0gの5%パラジウム担持ヒドロキシアパタイト触媒(Pd/HAP)を得た(触媒B)。
【0039】
<実施例3>パラジウム−白金担持ヒドロキシアパタイト触媒(触媒C)の製造
実施例2において、4.7ミリモルのテトラクロロパラジウム(II)酸カリウム水溶液の代わりに、4.23ミリモルのテトラクロロパラジウム(II)酸カリウムと0.47ミリモルのテトラクロロ白金(II)酸カリウムの混合水溶液を用いた以外は実施例2と同様にして、10.0gの4.5%パラジウム−0.5%白金担持ヒドロキシアパタイト触媒(Pd−Pt/HAP)を得た(触媒C)。
【0040】
<実施例4>触媒BによるN‐Z‐L−プロリンの水素化分解
実施例2で得られた触媒Bの0.0085g(4.0マイクロモルPd)をパイレックス(登録商標)製回分式反応器に仕込み、真空排気後水素ガスを導入した。側管からメタノール1mLを添加し40℃にて30分間攪拌保持した。次いで1.0ミリモルのN‐Z‐L−プロリンのメタノール溶液4mLを側管から添加し、0.1Mpaの水素圧下、40℃で攪拌しながら1時間保持した。
【0041】
反応混合物を濾過し、固体をメタノール、次いでメタノールー水(1:1)混合溶媒で洗浄した。濾液と洗浄液の混合液を減圧下で蒸発させ、残査として0.99ミリモルのL−プロリン(収率99%)を得た。なお、反応後の濾液には着色は無くパラジウムの溶出は全く検知されなかった。
【0042】
<実施例5>触媒AによるN‐Z‐L−プロリンの水素化分解
実施例5において、触媒B の0.0085g(4.0マイクロモルPd)を用いる代わりに、実施例1で得られた触媒Aの 0.21g(4.0マイクロモルPd)を用いた以外は、実施例5と同様に反応させ0.99ミリモルのL−プロリン(収率99%)を得た。
【0043】
<実施例6>回収触媒による N‐Z‐L−プロリンの水素化分解
実施例4において、触媒Aの 0.21g(4.0マイクロモルPd)を用いる代わりに、実施例4の反応後の濾過・洗浄から回収された固体0.21gを用いた以外は、実施例4と同様に反応させ0.99ミリモルのL−プロリン(収率99%)を得た。このように本発明の触媒は使用条件下で安定であり回収再利用しても活性の低下は全くなかった。
【0044】
<実施例7>N‐Z‐L−アラニンの水素化分解
実施例5において、N‐Z‐L−プロリンの代わりにN‐Z‐L−アラニンを用い、反応時間1時間の代わりに反応時間1.5時間反応させた以外は、実施例5と同様に反応させ、反応後の濾液の蒸発残査から再結晶化で0.92ミリモルのL−アラニン(収率92%)を得た。
【0045】
<実施例8〜11>各種アミノ酸及びアミノ酸誘導体のN‐Z置換体の水素化分解
実施例5において、N‐Z‐L−プロリンを用い1時間反応させる代わりに、N‐Z‐L−グリシンを用い2時間(実施例8)、N‐Z‐L−セリンを用い3時間(実施例9)、Nα‐Z‐L−リシンを用い3時間(実施例10)、或いはN‐Z‐L−プロリン ターシャリーブチルエステルを用い1時間(実施例11)、それぞれ反応させた以外は、実施例5と同様にして、それぞれ94%、92%、93%、及び99%の単離収率で、対応するアミノ酸或いはその誘導体、即ちL−グリシン、L−セリン、L−リシン、及びL−プロリン ターシャリーブチルエステルを得た。
【0046】
<実施例12>N‐Z‐L−フェニルアラニンの水素化分解
実施例5において、触媒Aの0.21g(4マイクロモルPd)を用いN‐Z‐L−プロリンを1時間反応させる代わりに、触媒Aの0.3g(6マイクロモルPd)を用いN‐Z‐フェニルアラニンを3時間反応させた以外は、実施例5と同様に処理して、単離収率84%でL−アラニンを得た。
【0047】
<実施例13〜15>各種アミノ酸、アミノ酸誘導体のZ基置換体の水素化分解
実施例5において、1.0ミリモルのN−Z−L−プロリンのメタノール溶液4.0mLを添加し1時間反応させる代わりに、1.0ミリモルのN2‐Z‐N6‐ターシャリーブトキシカルボニル‐L−リシンのメタノール溶液9mLを添加し3時間(実施例13)、1.0ミリモルのN2,N6‐ビスZ‐L−リシンのメタノール溶液9mLを添加し12時間(実施例14)、或いは1.0ミリモルのZ‐L−グルタミン酸 5‐ベンジルエステルのメタノール溶液9mLを添加し12時間(実施例15)、それぞれ反応させた以外は、実施例5と同様に処理して、それぞれ単離収率96%、88%、及び96%の、ターシャリーブトキシカルボニル‐L−リシン、L−リシン、及びL−グルタミン酸を得た。
【0048】
本発明の水素化分解は高収率を与えると同時に、Z−基以外の官能基ターシャリーブトキシ基やターシャリーブトキシカルボニル基は攻撃を受けず、選択性が高いことが判る。
【0049】
<比較例1〜4>各種従来触媒によるN‐Z‐L−アラニンの水素化分解
実施例7において、触媒Aの0.21g(4マイクロモルPd)を用いる代わりに、5%パラジウム担持カーボン触媒(和光純薬製)の0.008g(4マイクロモルPd)(比較例1)、0.5%パラジウム担持カーボン(エヌ・イー ケムキャット製)(比較例2)、0.5%パラジウム担持シリカ触媒(エヌ・イー ケムキャット製)(比較例3)、或いは0.5%パラジウム担持アルミナ触媒(エヌ・イー ケムキャット製)(比較例4)の、それぞれ0.08g(4マイクロモルPd)を用いたこと以外は、実施例7と同様に反応させた。それぞれの反応におけるL−アラニンの収率は、68%、67%、64%、及び60%と、実施例7のL−アラニンの収率92%に比べて、いずれも著しく低く、不満足な結果であった。
【0050】
実施例7および比較例1〜4におけるN‐Z‐L−アラニンの水素化分解反応は下記の反応式:
【0051】
【化1】
【0052】
で表される。これら実施例、比較例での条件および収率の結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
注:反応条件:N‐Z‐L−アラニン1.0mmol, 触媒A 0.004mmol Pd,、MeOH 5mL,40℃、1.5時間、0.1MPa水素雰囲気。
【0055】
また、実施例5〜15の条件の概略と収率を表2にまとめて示す。
【0056】
各種のN‐Z‐保護されたアミノ酸、アミノ酸誘導体の触媒Aによる水素化分解a)
【表2】
【0057】
注:
a)反応条件;基質1.0mmol, 触媒A 0.2g(0.004mmol Pd), MeOH 5mL, 40℃、0.1MPa H2
b)単離収率、 c)回収再使用触媒A、d)基質1.0mmol,触媒A 0.3g(0.006mmol Pd) MeOH 5mL, 40℃、0.1MPa H2、 e)基質1.0mmol,触媒A 0.2g(0.004mmol Pd) MeOH 10mL, 40℃、0.1MPa H2
【0058】
<実施例16>コアがZ−基で保護されたポリ(アミドーアミン)デンドリマーの水素化分解
コアがZ−基で保護されたポリ(アミドーアミン)デンドリマー(図2に構造式Iで示す)は文献記載の製法で製造した(K. Aoiら、Polym. J., 1999, 30, 1071)。
【0059】
実施例5において、触媒Aの0.21g(4マイクロモルPd)を用いる代わりに、同触媒の0.1g(2マイクロモルPd)を用い、1.0ミリモルのN‐Z‐L−プロリンの代わりに0.06ミリモルの上記Z−デンドリマーを用い、反応時間1.5時間の代わりに24時間とした以外は、実施例5と同様に反応させ、Z−基の脱離したデンドリマー(図2に構造式IIで示す)を99%の収率で得た。
【0060】
<比較例5>従来触媒によるデンドリマーの水素化分解
実施例16において、触媒Aの0.21g(4マイクロモルPd)を用いる代わりに、5%パラジウム担持カーボン触媒の0.0036g(2マイクロモルPd)を用いた以外は、実施例16と同様に24時間反応させたが、水素化分解反応は殆ど進まず、Z−基の脱離した生成物の収量はトレース量であった。
【0061】
このように本発明の触媒は、デンドリマーのような嵩高い基質に対して従来触媒では殆ど困難であった水素化分解を温和な条件下で定量的に進め、実用的価値は極めて高いと言える。
【0062】
<実施例17>N−フェニルベンジルアミンの水素化分解
実施例4において、 触媒Bの0.008g(4マイクロモルPd)を用いてZ−L−プロリンを反応温度40℃で1時間反応させる代わりに、触媒Cの0.008g(3.6マイクロモルPd‐0.4マイクロモルPt)を用いてN−フェニルベンジルアミンを反応温度50℃で6時間反応させた以外は実施例4と同様に処理した。反応後の濾液をガスクロで分析し、アニリンとトルエンがそれぞれ99%の収率で得られた。このように本発明の触媒はZ−基以外にベンジル基の脱離にも有効であった。
【0063】
【発明の効果】
本発明の貴金属担持ヒドロキシアパタイト触媒は温和な条件下で有機化合物の水素化分解に高い活性を発揮する。特に炭素−窒素結合の水素化分解、とりわけZ−基の脱保護に極めて有効であり、従来困難であった分子内に多数の官能基を有する複雑な構造の基質や立体的に嵩高い基質の水素化分解がほとんど定量的に進行する為、未反応物を反応生成物から分ける分離操作を省くことが出来る。また温和な条件で反応が進行するため副反応が無く分子内の他の官能基が攻撃されない。アミノ酸やペプチドを用いる医薬品・食品分野や、アミノ化デンドリマーと言った高機能性ファィンケミカルズ分野の高価な基質の有機合成に極めて有効な手段を提供する。本発明の水素化分解用触媒は製造が容易であり、反応後の分離回収も容易である。また、回収された触媒は再使用されても活性低下が無く貴金属成分の溶出も無い事から、経済的上のメリットは極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に用いられた各種のN−Z−保護アミノ酸、同誘導体の構造式を示す。
【図2】本発明の実施例に用いられたコア‐N−Z−保護ポリ(アミドアミン)デンドリマーの構造式とその水素化分解反応のスキームを示す。
Claims (7)
- 一般式(1):
Ca10−Z(HPO4)z(PO4)6−Z(OH)2−Z・nH2O
[式中、Zは0≦Z≦1の数、nは0〜2.5の数]
で表されるヒドロキシアパタイトと、これに担持されたパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の貴金属元素とを有してなる基質有機化合物の水素化分解用触媒。 - ヒドロキシアパタイトへの貴金属担持量が0.01〜40質量%である請求項1に記載の触媒。
- 請求項1または2に記載の触媒の存在下、基質有機化合物に分子状水素を接触させる、基質有機化合物の水素化分解方法。
- 前記基質有機化合物が炭素−ヘテロ原子結合を有し、該炭素ーヘテロ原子結合を水素化分解する請求項3に記載の方法。
- 炭素−ヘテロ原子結合が、炭素−窒素結合である請求項3または4記載の方法。
- 炭素−窒素結合の水素化分解がアミノ基の保護基の脱離である請求項3,4または5記載の方法。
- 前記のアミノ基の保護基がベンジルオキシカルボニル基である請求項3,4,5または6記載の方法。
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