JP2004256887A - 含B高Cr耐熱鋼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.07〜0.13%、Cr:9.0〜10.5%、Mo:0.05〜2.0%、W:0.05〜4.0%、V:0.16〜0.24%、Nb:0.04〜0.08%、Co:1.0〜4.0%、B:0.001〜0.015%、N:0.014〜0.024%、所望によりさらにRe:1%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、所望により、不可避的不純物のうち、Si:0.1%以下、Mn:0.15%以下、Ni:0.2%以下を許容含有量とし、1072℃〜1088℃から焼入れを行う。
【効果】炭化物、炭窒化物、硼化物の析出量が少ない状態から焼き入れが行われ、クリープ破断強度が効果的に向上する。タービン部材に用いることで、蒸気条件の高温化が可能となり、発電効率の向上に寄与できる。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は火力発電プラントのタービンロータやタービンブレード、タービンディスク、ボルト等のタービン部材等に好適な含B高Cr耐熱鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
火力発電システムでは、発電効率を向上させるためにスチームタービンの蒸気温度を上昇させる傾向にあり、その結果、タービン材料に要求される高温特性も一層厳しいものとなっている。これまで、この用途に使用される材料として数多くの耐熱鋼が提案されている。その具体例として、例えば、特許文献1〜5に示されるものが挙げられる。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、形式的には本発明の製造方法に用いる鋼の成分範囲と重なる高Cr鋼が示されている。ただし、これら特許文献に示された具体例(実施例)の成分は、本発明に用いられる鋼の成分とは異なっている。そして、特許文献1、2に示される発明は、成分に関するものであり、製造方法に関する新規な提案はなされていない。その実施例においては、従来から高Cr鋼に対して適用されている1050℃の焼入れ加熱温度が示されている。
【0004】
また、特許文献3には、形式的には本発明の製造方法に用いる鋼の成分範囲と重なる高Cr鋼が示されている。ただし、特許文献3に示された具体例(実施例)の成分は、本発明に用いられる鋼の成分とは異なっている。なお、特許文献3では、新規な方法発明として、焼入れ後の焼き戻しに関して、550℃以上から630℃未満、630℃以上から680℃未満、680℃以上から770℃未満の温度域のうちから選ばれた少なくとも2種以上の温度において熱処理を施すと記載されている。焼入れ温度に関しては新規な提案はなされておらず、その実施例において1100℃および1120℃の2条件での焼入れ温度のみが示されている。
【0005】
特許文献4に示された鋼は、N含有量の範囲が0.025〜0.10%となっており、本発明で用いられる鋼の成分範囲とは、N量において相違がある。また、該特許文献4では焼入れ温度についての規定がされており、該焼入れ加熱温度は、1050〜1150℃という範囲で示されている。この特許文献4で焼入れ加熱温度を規定した理由としては、『TaおよびNbと、CおよびNは析出物を形成するが、焼入れ温度を1050℃未満にした場合、凝固時に析出した粗大な炭窒化物が熱処理後も残存し、クリープ破断強度の増加に対し、完全に有効には働き得ない。この粗大な炭窒化物を一旦固溶させ、微細な炭窒化物として高密度に析出させるためにはオーステナイト化がより進行する1050℃以上のオーステナイト化温度からの焼入れが必要になる。一方1150℃を超えるとδフェライトが析出する温度域に入り、かつ結晶粒径の大幅な粗大化を生じ靭性を低下させるため焼入れ温度範囲は1050℃〜1150℃が好ましい』と規定している。実施例においては、焼入れ温度として1100℃および1120℃のみが示されている。
【0006】
特許文献5では、形式的には本発明の製造方法に用いる鋼の成分範囲と重なる高Cr鋼が示されている。ただし、これら特許文献に示された具体例(実施例)の成分は、本発明に用いられる鋼の成分とは異なっている。該特許文献5では、焼入れ温度について規定されており、その焼入れ加熱温度は1050〜1150℃という範囲で示されている。この特許文献5で焼入れ加熱温度を限定した理由としては、『Nbは焼入れ温度を1050℃未満の焼入れ温度にした場合、凝固時に析出した粗大な炭窒化物が熱処理後も残存し、クリープ破断強度の増加に対し、完全に有効には働き得ない。この粗大な炭窒化物を一旦固溶させ、微細な炭窒化物として高密度に析出させるためにはオーステナイト化がより進行する1050℃以上のオーステナイト化温度からの焼入れが必要になる。一方、1150℃を超えるとδフェライトが析出する温度域に入り、かつ結晶粒径の大幅な粗大化を生じ靭性を低下させるため焼入れ温度範囲は1050℃〜1150℃が好ましい』と示されている。なお、実施例においては、焼入れ温度1090℃のみが示されている。
【0007】
さらに、非特許文献1に示された鋼は、Cr:8.94〜8.99、N:0.0016〜0.0034と規定されており、本願発明で用いる鋼とは異なる組成が示されている。また、1050℃、1080℃から焼入れを行なった場合、未固溶の硼化物が多量に存在するため、1150℃まで昇温して硼化物を固溶した後、焼入れを行なうとクリープ強度が向上することが述べられている。
【0008】
上述したように、焼入れ温度に対する考え方としては、凝固時に析出した粗大なNbの炭窒化物の残存を固溶させるために、焼入れ温度として1050℃以上に加熱することと、δフェライトの観点から1150℃以上に加熱しないことが知られている。また、鋼種は異なるが、1050℃、1080℃では硼化物が存在し、1150℃加熱によって硼化物が固溶することが知られている。
【0009】
【特許文献1】
特開平4−147948号公報
【特許文献2】
特開平8−3697号公報
【特許文献3】
特開平6−306550号公報
【特許文献4】
特開平7−34202号公報
【特許文献5】
特許第2948324号明細書
【非特許文献1】
Horiuchiら,”Improved Utilization of Added B in 9Cr Heat Resistant Steels Containing W”,ISIJ International, Vol.42(2002), Supplement, pp.S67−S71
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、硼化物を固溶させた状態で焼入れを行なうことは、クリープ強度に対して有効に寄与するBの効果を発揮させる上で、重要である。後述するように、Bは高応力短時間側のクリープ強度も向上させる効果を有するが、特に低応力長時間側におけるクリープ強度を向上させる効果に優れており、クリープ強化に有効に寄与することができるBの析出・固溶状態を制御することが、低応力長時間側におけるクリープ強度の付与に対して非常に有効である。しかし、これまで知られている知見からは、焼入れ加熱時に硼化物を固溶させるためには、1150℃まで加熱しなければならず、結晶粒粗大化やδフェライト生成問題に起因した靭性低下、クリープ延性低下、および、クリープ切欠弱化が懸念される。
【0011】
ここで、本発明者達の地道な基礎研究の積み重ねにより、『焼入れ温度に昇温する際に、M23C6型炭化物の固溶が起こり、M23C6の固溶と並行してさらに高温までMX型炭窒化物の固溶が起こる。さらに昇温すると、炭化物、炭窒化物を構成していて母材中に不足していた強硼化物形成元素が母材中に多量に排出されるため硼化物の析出が起こり、さらなる高温化に伴い硼化物が固溶する。』ことを新たな知見として得ることができた。ここで、M23C6型炭化物を構成する元素はFe、Cr、W、Mo、C、Bであり、MX型炭窒化物を構成する元素はNb、V、C、Nであり、硼化物を構成する元素は、Nb、V、W、Mo、Cr、Bである。
【0012】
また、これら炭化物、炭窒化物の固溶温度は鋼中に添加した合金元素量によって変動する。前述した非特許文献1で報告されている硼化物が1050℃、1080℃で多量に検出されたのは、特にNの添加量が少なかったため、炭窒化物が早期に固溶して硼化物の形成される温度が低温へシフトしたことに起因するものとするのが妥当と考えられる。最適な焼入れ温度は、特にMX型炭窒化物の固溶温度と密接な関係があり、MX型炭窒化物を構成するNb、V、C、Nの添加量が増加するほどMX型炭窒化物の固溶温度は上昇する傾向にある。さらに、本発明者達のグループによって報告されている、東ら,鉄と鋼,86(2000),pp.667−673,”高Crフェライト系耐熱鋼のオーステナイト化と再結晶挙動に及ぼすBの影響”にあるように、BもMX型炭窒化物の固溶温度を上昇させる効果がある。
【0013】
これらの知見から、クリープ強度を向上させると同時に、靭性、クリープ延性、クリープ切り欠き弱化などの問題を発生させないためには、焼入れ加熱の際に以下の点に留意する必要がある。
(1)M23C6型炭化物の析出量を少なくする
(2)MX型炭窒化物の析出量を少なくする
(3)硼化物の析出量を少なくする
(4)結晶粒の粗大化を抑制する
(5)δフェライトの析出を防止する
本発明は、上記の(1)〜(5)を同時に満足することが可能な最適な焼入れ温度が適用できるようになるものであり、この最適で、ごく限られた焼入れ温度を適用することにより、特に低応力長時間側のクリープ強度が向上するとともに、靭性、クリープ延性、クリープ切欠強化に優れた材料を提供することを目的とするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため第一の発明の耐熱鋼の製造方法は、質量%で、C:0.07〜0.13%、Cr:9.0〜10.5%、Mo:0.05〜2.0%、W:0.05〜4.0%、V:0.16〜0.24%、Nb:0.04〜0.08%、Co:1.0〜4.0%、B:0.001〜0.015%、N:0.014〜0.024%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、1072℃〜1088℃の温度域に加熱して焼入れが行なわれることを特徴とする。
【0015】
第二の発明の耐熱鋼の製造方法は、質量%で、C:0.07〜0.13%、Cr:9.0〜10.5%、Mo:0.05〜2.0%、W:0.05〜4.0%、V:0.16〜0.24%、Nb:0.04〜0.08%、Co:1.0〜4.0%、B:0.001〜0.015%、N:0.014〜0.024%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、次式で計算される加熱温度TQ(℃):TQ=920+(10+15[Nb%]+4[V%])×(13+(6[C%]+16[N%])×(0.8+[B%]))から焼入れが行なわれることを特徴とする。
【0016】
第三の発明の耐熱鋼の製造方法は、上記第一、あるいは第二の発明において、M23C6型炭化物の析出量が体積%で0.2%以下で、MX型炭窒化物の析出量が体積%で0.06%以下で、かつ、硼化物の体積%が0.4%以下の状態にある加熱温度から焼入れされることを特徴とする。
【0017】
第四の発明の耐熱鋼の製造方法は、上記第一、第二、あるいは第三の発明において、焼入れ後の旧γ粒径が400μm以下であることを特徴とする。
【0018】
第五の発明の耐熱鋼の製造方法は、上記第一、第二、第三、あるいは第四の発明において、成分として質量%で、さらにRe:1%以下を含有することを特徴とする。
【0019】
第六の発明の耐熱鋼の製造方法は、上記第一、第二、第三、第四、あるいは第五の発明において、前記成分組成中の不可避的不純物のうち、Si:0.1%以下、Mn:0.15%以下、Ni:0.2%以下を許容含有量とすることを特徴とする。
【0020】
【作用】
以下に本発明の耐熱鋼の製造方法における成分、焼入れ加熱温度、未固溶析出物量、および、旧γ結晶粒径の限定理由について説明する。
【0021】
C:0.07〜0.13%
Cは合金元素と結合してM23C6型炭化物やMX型炭窒化物を形成し、クリープ強度を向上させる上で不可欠な元素であり、さらに、δフェライトの析出を抑制する効果を有する。しかし、過剰に添加させると炭化物の粗大化が起こりやすくなり、クリープ強度が低下するため、0.07%〜0.13%に限定する。好ましくは、下限を0.09%、上限を0.11%に限定する。
【0022】
Cr:9.0〜10.5%
Crは耐酸化性および高温耐食性を高め、さらに合金中に固溶するとともにM23C6型炭化物を形成して高温クリープ強度を高めるために不可欠の元素であり、最低9.0%必要である。一方、10.5%を超えると長時間クリープ強度の著しい低下を引き起こし、また、δフェライトを生成してクリープ強度および靭性を低下させるので、9.0〜10.5%に限定した。同様の理由で、好ましくは、下限を9.2%、上限を10.0%未満に限定し、さらにより好ましくは、下限を9.4%、上限を9.8%に限定する。
【0023】
Mo:0.05〜2.0%
Moは合金中に固溶して高温強度を高めるとともに、M23C6型炭化物を形成して高温クリープ強度を向上させる。また、焼き戻し脆化の抑制にも寄与する元素であり、最低0.05%必要である。一方、2%を超えるとδフェライトを生成してクリープ強度および靭性を低下させるので、0.05〜2.0%に限定する。なお、同様の理由で、好ましくは下限を0.2%、上限を1.0%、より好ましくは下限を0.5%、上限を0.8%に限定する。
【0024】
W:0.05〜4.0%
WはM23C6型炭化物の凝集、粗大化を抑制し、また合金中に固溶してマトリックスを固溶強化するので高温強度の向上に有効であり、最低0.05%必要である。一方、4%を越えるとδフェライトやラーベス相を生成しやすくなり、高温強度や靭性を低下させるので、0.05〜4%に限定する。なお、同様の理由で、好ましくは0.5〜3%、より好ましくは、下限を1.0%、上限を2.0%未満、さらに好ましくは、下限を1.5%、上限を1.8%に限定する。
【0025】
V:0.16〜0.24%
Vは微細なMX型炭窒化物を形成し、クリープ強度を向上させるのに有効な元素である。また、Vで構成されるMX型炭窒化物は焼入れ加熱時のγ結晶粒の粗大化を抑制させる効果を有している。これら効果を得るために、最低0.16%を必要とする。一方、0.24%を超えると、MX型炭窒化物の析出量を増加させ、凝集粗大化を促進する上、さらに、MX型炭窒化物の固溶温度を上昇させるため、未固溶炭窒化物を固溶させるに必要な焼入れ加熱温度を上昇させる必要があるが、焼入れ加熱温度の上昇に伴いγ結晶粒径も粗大化してしまう。そのため、0.16〜0.24%に限定する。なお、同様の理由で、好ましくは下限を0.18%、上限を0.22%に限定する。
【0026】
Nb:0.04〜0.08%
Nbは微細なMX型炭窒化物を形成し、クリープ強度を向上させるのに有効な元素である。また、Nbで構成されるMX型炭窒化物は焼入れ加熱時のγ結晶粒の粗大化を抑制する効果を有している。これら効果を得るために、最低0.04%を必要とする。一方、0.08%を超えると、MX型炭窒化物の析出量を増加させ、凝集粗大化を促進する上、さらに、MX型炭窒化物の固溶温度を上昇させるため、未固溶炭窒化物を固溶させるに必要な焼入れ加熱温度を上昇させる必要があるが、焼入れ加熱温度の上昇に伴いγ結晶粒径も粗大化してしまう。さらに、大型鋼塊の造塊時に、粗大な共晶炭窒化物を形成し、延靭性を低下させる。そのため、0.04〜0.08%に限定する。なお、同様の理由で、好ましくは下限を0.05%、上限を0.07%に限定する。
【0027】
Co:1.0〜4.0%
Coはδフェライトの生成を抑制し、高温強度を向上させる。δフェライトの生成を防止するためには1.0%以上の含有が必要であるが、一方、4.0%を超えて含有させるとクリープ強度が低下し、さらにコストが上昇するので1.0〜4.0%に限定する。なお、同様の理由で、好ましくは下限を1.5%、上限を3.5%、より好ましくは、下限を2.0%、上限を3.0%未満に限定する。
【0028】
B:0.001〜0.015%
Bは本発明の中で重要な意味を持つ元素である。Bは微量添加でW、Nb、V、Crの拡散速度を抑制させる効果を有し、M23C6型炭化物、MX型炭窒化物の微細化および粗大化抑制に寄与して、クリープ強度が向上する。このクリープ強度向上とは、高応力短時間側でのクリープ破断時間の増加、低応力長時間側でのクリープ破断時間の増加、および、長時間側でのクリープ強度の著しい低下の抑制がなされることを意味する。よって、焼入れ加熱時に硼化物として未固溶に析出しているとクリープ強度を向上させる上で有効に働くB量が少なくなってしまうため、焼入れ加熱時に硼化物はできるだけ固溶していることが望ましく、0.001%以上の含有が必要である。一方、0.015%を越えて含有させると粗大なBNが生成してクリープ強度、延靭性を低下させるため、0.001〜0.015%に限定した。なお、同様の理由で、好ましくは、下限を0.003%、上限を0.012%に限定し、より好ましくは、下限を0.06%、上限を0.010%に限定する。
【0029】
N:0.014〜0.024%
NはNb、Vと結合してMX型炭窒化物を形成し、クリープ強度向上に欠かせない元素であり、0.014%以上の含有が必要である。一方、0.024%を越えて含有させると粗大なBNが生成してクリープ強度、延靭性を低下させ、また、長時間クリープ延性も低下してしまうので、0.014〜0.024%に限定した。なお、同様の理由で、好ましくは下限を0.016%、上限を0.020%に限定する。
【0030】
Re:1%以下
ReはM23C6型炭化物の粗大化を抑制してクリープ強度の向上に寄与するため、所望により添加する。さらに、M23C6型炭化物の成長速度を抑制して、低応力長時間側のクリープ強度の著しい低下を抑制する効果もある。しかし、1%を越える添加はその効果が飽和してしまい、さらにコストが上昇するため、上限を1%とした。なお、同様の理由で、好ましくは0.5%以下、より好ましくは、0.2%以下に限定する。なお、Reの添加においては、上記効果を十分に得るために、0.01%以上含有させるのが望ましい。
【0031】
Si:0.1%以下
Siは、脱酸剤として通常使用されるが、Si含有量が高いと、鋼塊内部の偏析が増加し、M23C6型炭化物の凝集粗大化を促進してクリープ強度を低下させるため、極力低減させることが望ましい。工業性などを考慮して0.1%以下に限定した。なお、同様の理由で、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下に限定する。
【0032】
Mn:0.15%以下
Mnは、溶解時の脱酸、脱硫剤として一般的に使用されている。しかし、Mn含有量が高いと、M23C6型炭化物の粗大化を促進してクリープ強度を低下させるとともに、焼き戻し脆化を促進して靭性を低下させるため、極力低減させることが望ましい。工業性などを考慮して、0.15%以下に限定した。なお、同様の理由で、好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.05%以下に限定する。
【0033】
Ni:0.2%以下
Niは、M23C6型炭化物、MX型炭窒化物の凝集粗大化を促進し、さらにラーベス相の形成を促進することによって、クリープ強度や延靭性を低下させるため、極力低減させることが望ましい。工業性などを考慮して、0.20%以下に限定した。なお、同様の理由で、好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.05%以下に限定する。
【0034】
焼入れ加熱温度:1072℃〜1088℃
焼入れ加熱温度は、M23C6型炭化物とMX型炭窒化物の未固溶析出量を少なくするために1072℃以上とする必要がある。一方、1088℃以上に加熱すると硼化物の析出量が増加してしまい、γ結晶粒の粗大化が促進されるため、1072〜1088℃に限定する。この温度範囲においては、炭化物、炭窒化物および硼化物の析出量が相対的に少なくなっている。なお、同様の理由で、好ましくは下限を1075℃、上限を1085℃に限定し、より好ましくは下限を1077℃、上限を1079℃に限定する。
【0035】
さらに、本発明者達の鋭意研究の結果、MX型炭窒化物の未固溶析出量と硼化物の未固溶析出量は、添加された合金元素:Nb、V、C、N、B添加量から計算される次式で計算される温度TQ(℃)で焼入れ加熱された場合に最も未固溶析出量が減少することを見いだした。このため、TQをより好適な焼入れ加熱温度として提示する。
TQ=920+(10+15[Nb%]+4[V%])×(13+(6[C%]+16[N%])×(0.8+[B%]))
【0036】
未固溶析出物量:M23C6:0.2%以下、MX:0.06%以下、硼化物:0.4%以下
焼入れ加熱時に未固溶で存在するM23C6型炭化物、MX型炭窒化物、硼化物が少ないほど、焼入れの後に実施される焼き戻し時に微細に分散析出するM23C6型炭化物やMX型炭窒化物を多くでき、さらにクリープ強化に寄与するBを有効に利用できることによって、クリープ強度を向上させることができる。その効果を有効に利用するには、M23C6型炭化物の析出量が体積%で0.2%以下、MX型炭窒化物の析出量が体積%で0.06%以下、硼化物の体積%が0.4%以下になる焼入れ温度を上記温度範囲内において選定するのが望ましい。
【0037】
焼入れ後の旧γ粒径が400μm以下
焼入れ温度の上昇とともにM23C6型炭化物とMX型炭窒化物は固溶し、再結晶が進行する。さらに焼入れ温度を上昇させるとγ結晶粒径は増大する。焼入れ後の旧γ粒径が400μm以上の(JIS G 0551 鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法にて規定されている粒度番号0よりも粗い結晶粒径に相当する)場合、延靭性、クリープ延性が低下し、低応力長時間側でのクリープ切欠弱化が問題となるため、結晶粒径が400μm以下になる焼入れ温度を選定するのがより望ましい。
【0038】
【発明の実施の形態】
本発明で用いる含B高Cr耐熱鋼は、本発明で規定する組成を目標にして例えば常法により溶製することができ、本発明としては、その方法が特に限定されるものではない。例えば、Si、Mn、Niを十分に低減する場合には、必要に応じて真空溶解法等を選定することができる。
溶製された鋼塊は熱間鍛錬を行って焼き入れに供することができ、さらに熱間鍛錬と焼き入れの間に焼準等の熱処理を行うこともできる。上記焼準条件としては例えば1050〜1130℃の加熱条件を示すことができる。焼準後には、好適には焼き戻しを行う。該焼き戻しの条件としては、例えば650〜800℃で、2〜30時間の加熱条件を示すことができる。
上記により得られる耐熱鋼は、本発明の製造条件に従って焼き入れ処理がなされる。該焼き入れに際しての加熱手段や冷却手段は本発明としては特に限定されるものではなく、所望の加熱能および冷却能が得られる手段を適宜選定することができる。
上記焼き入れ処理後は、好適には焼き戻しを行う。該焼き戻しの条件としては、例えば550〜800℃で、2〜30時間の加熱条件を示すことができる。なお、焼き戻しは、多段により行うこともできる。
上記により調製された耐熱鋼は、タービンロータやタービン部材等の高温に晒される用途に好適に利用することができる。
【0039】
【実施例】
以下に本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明する。
表1に示す3種類の組成の50kg鋼塊を真空誘導加熱炉を用いて溶製し、1150℃で熱間鍛造によりロータ形状に成型し、さらに焼準(1100℃)、焼き戻し(700℃)を施した。
【0040】
【表1】
【0041】
未固溶析出物の観点からの焼入れ温度の検証を行なうため、供試鋼1に対して、表2に示す各種焼入れ温度に加熱した後、焼入れを実施した。その焼入れ試材から抽出レプリカを採取し、未固溶析出物の同定と画像解析法による体積率の測定を実施して、焼入れ時に未固溶で存在した析出物を調査した。得られた結果を表2および図1に示す。表及び図に示すように焼入れ加熱温度の上昇とともに、未固溶M23C6炭化物量、および、未固溶MX炭窒化物量は減少し、逆に、硼化物が析出を開始し、さらに温度が上昇するとともに再び未固溶硼化物量が減少する傾向が認められ、体積%で未固溶M23C6量が0.2%以下、未固溶MX量が0.06%以下、未固溶硼化物量が0.4%以下を満たすことができる焼入れ加熱温度域が1072℃〜1088℃の間にあることが明確である。なお、焼入れ加熱温度を1130℃以上とした場合でも、未固溶M23C6量が0.2%以下、未固溶MX量が0.06%以下、未固溶硼化物量が0.4%以下を満たすことができるが、その点に関しては、結晶粒径との関係で、次に述べる。
【0042】
【表2】
【0043】
結晶粒の観点からの焼入れ温度の検証を行なうため、供試鋼1〜3に対して、各種焼入れ温度に加熱した後、焼入れを実施した。その焼入れ試材の旧γ粒径の測定を実施して、焼入れ時のγ粒径と焼入れ加熱温度との関係を調査した。得られた結果を表3および図2に示す。表及び図に示すように、焼入れ加熱温度の上昇とともに、γ結晶粒径は増大し、焼入れ加熱が1121℃よりも高温になると、結晶粒径が400μmを越えて粗大化してしまうため、焼入れ加熱温度の観点からは、1121℃以下に限定する必要があることが明確である。よって、未固溶M23C6量、未固溶MX量、未固溶硼化物量の観点と、γ結晶粒径の観点から、体積%で未固溶M23C6量が0.2%以下、未固溶MX量が0.06%以下、未固溶硼化物量が0.4%以下を満たすことができ、かつ、γ結晶粒径が400μm以下を同時に満足することができる焼入れ加熱温度域は1072℃〜1088℃の間にある。
【0044】
【表3】
【0045】
本発明により高いクリープ強度が得られることを確認するため、供試鋼1を用いて、次の条件で焼入れ加熱を行ない、さらに600℃で第一次焼き戻しを施し、さらに700℃で第二次焼き戻しを施した試材の666℃(1230゜F)でのクリープ強度を負荷応力を変えて比較した。
(1)最適焼入れ温度で焼入れた場合(本発明法:1077℃)
(2)最適焼入れ温度よりも未固溶M23C6量、および、未固溶MX量が多い低温側で焼き入れた場合(比較法:1050℃)
(3)最適焼入れ温度よりも未固溶硼化物量が多い高温側で焼き入れた場合(比較法:1110℃)
(4)最適焼入れ温度よりも未固溶M23C6量、未固溶MX量、未固溶硼化物量は少ないが、結晶粒が粗大な高温側で焼き入れた場合(比較法:1160℃)
【0046】
得られた結果を図3に示す。図に示すように、焼入れ加熱温度が高いほど、高応力側のクリープ破断時間は長い傾向にあるが、100MPa以下の低応力側でのクリープ破断時間は、本発明条件である1077℃の焼入れ加熱温度条件で最もクリープ破断時間が長くなる結果が得られた。
最適焼入れ温度(1077℃)で焼入れた(1)の場合には、特に低応力側で高いクリープ強度が得られる。最適焼入れ温度よりも未固溶M23C6量および未固溶MX量が多くなる低温側(1050℃)で焼き入れた(2)の場合には、高応力側から低応力側までクリープ強度は低い。最適焼入れ温度よりも未固溶硼化物量が多くなる高温側(1110℃)で焼き入れた(3)の場合には、127MPa以上の高応力側での破断時間は、最適焼入れ温度から焼き入れた場合よりも長いが、100MPa程度を境としてクリープ強度が逆転し、100MPa以下の低応力側では破断時間が短くなる。最適焼入れ温度よりも未固溶M23C6量、未固溶MX量、未固溶硼化物量は少ないが、結晶粒が粗大になる高温側(1160℃)で焼き入れた(4)の場合にも、上記(3)と同様に、127MPa以上の高応力側での破断時間は、最適焼入れ温度から焼き入れた場合よりも長いが、100MPa程度を境としてクリープ強度が逆転し、100MPa以下の低応力側では著しく破断時間が短くなる。
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の含B高Cr耐熱鋼の製造方法によれば、質量%で、C:0.07〜0.13%、Cr:9.0〜10.5%、Mo:0.05〜2.0%、W:0.05〜4.0%、V:0.16〜0.24%、Nb:0.04〜0.08%、Co:1.0〜4.0%、B:0.001〜0.015%、N:0.014〜0.024%を含有し、所望によりさらにRe:1%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに所望により、不可避的不純物のうち、Si:0.1%以下、Mn:0.15%以下、Ni:0.2%以下を許容含有量とする成分組成を有し、1072℃〜1088℃の温度域に加熱して焼入れが行なわれるので、炭化物、炭窒化物、硼化物の析出量が少ない状態から焼き入れが行われ、クリープ破断強度に優れた耐熱鋼が得られる。
【0048】
本発明による製造法を適用した耐熱鋼を火力発電プラントの高温部材に用いることで、蒸気条件の高温化が可能となり、発電効率の向上に寄与することができ、地球温暖化の原因ガスである二酸化炭素の排出量を削減することが可能となる。また、クリープ強度が向上することにより、従来と同一の蒸気条件で使用される高温部材に用いた場合にも、高温部材の設計許容応力に対して大幅な安全率を付与できるため、プラントの安全性を著しく向上させることが可能である。また、火力発電プラントの高温部材以外の用途に対しても、高温特性に優れ、かつ、耐久性に優れた材料として提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における焼き入れ加熱温度と未固溶M23C6炭化物、MX炭窒化物、硼化物量を示すグラフである。
【図2】同じく、焼き入れ加熱温度とγ結晶粒径との関係を示すグラフである。
【図3】同じく、焼き入れ加熱温度に対する種々の負荷応力におけるクリープ破断時間を示すグラフである。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.07〜0.13%、Cr:9.0〜10.5%、Mo:0.05〜2.0%、W:0.05〜4.0%、V:0.16〜0.24%、Nb:0.04〜0.08%、Co:1.0〜4.0%、B:0.001〜0.015%、N:0.014〜0.024%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、1072℃〜1088℃の温度域に加熱して焼入れが行なわれることを特徴とする含B高Cr耐熱鋼の製造方法。
- 質量%で、C:0.07〜0.13%、Cr:9.0〜10.5%、Mo:0.05〜2.0%、W:0.05〜4.0%、V:0.16〜0.24%、Nb:0.04〜0.08%、Co:1.0〜4.0%、B:0.001〜0.015%、N:0.014〜0.024%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、次式で計算される加熱温度TQ(℃):TQ=920+(10+15[Nb%]+4[V%])×(13+(6[C%]+16[N%])×(0.8+[B%]))から焼入れが行なわれることを特徴とする含B高Cr耐熱鋼の製造方法。
- M23C6型炭化物の析出量が体積%で0.2%以下で、MX型炭窒化物の析出量が体積%で0.06%以下で、かつ、硼化物の体積%が0.4%以下の状態にある加熱温度から焼入れされることを特徴とする請求項1または2に記載の含B高Cr耐熱鋼の製造方法。
- 焼入れ後の旧γ粒径が400μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の含B高Cr耐熱鋼の製造方法。
- 成分として質量%で、さらにRe:1%以下を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の含B高Cr耐熱鋼の製造方法。
- 前記成分組成中の不可避的不純物のうち、Si:0.1%以下、Mn:0.15%以下、Ni:0.2%以下を許容含有量とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の含B高Cr耐熱鋼の製造方法。
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