JP2004251336A - 電気式ディスクブレーキの摩擦パッドの交換方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】制御装置72の制御により電動モータ15を作動させ、ピストン38を移動して、一対の摩擦パッド3、4をディスクロータ1に押圧摺動させて制動を行う電気式ディスクブレーキ71の摩擦パッド3、4の交換方法を、車両停止検出手段75により車両停止が検出され、且つ整備用の信号線を短絡させて、制御装置72に整備中である事を認識させた状態で、ブレーキペダル74によりピストンの後退要求操作が行われた場合に、この操作に伴って制御装置72の制御により電動モータ15を逆転作動させて、ピストン38を摩擦パッド3、4の交換が可能な位置に戻す工程とする。
【選択図】 図1
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車や自動二輪車等の各種車両に搭載され、電動モータの作動によりピストンを移動させ、ディスクロータに摩擦パッドを押圧摺動して制動を行う電気式ディスクブレーキの摩擦パッドの交換方法に係るものであり、該摩擦パッドの交換を容易に行う事を目的とするものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】特開2000−27907号公報
【0003】
従来、自動車や自動二輪車等の各種車両に於いて、上記特許文献1の発明の如く、ディスクロータを挟んで一対の摩擦パッドを対向配置し、電動モータを正転作動させて、ピストンを摩擦パッド方向に前進させる事で、摩擦パッドをディスクロータに押圧摺動させて制動を行う電動式ディスクブレーキが存在した。この制動時の良好な応答性を得るため、ディスクロータと摩擦パッドとの間には、所定距離のクリアランスが確保されている。また、このクリアランスの確保により、非制動時のブレーキの引摺りも抑制可能としている。
【0004】
そして、制動により摩擦パッドやディスクロータに摩耗等を生じると、この摩耗長さ分ピストンを前進させ、摩擦パッドをディスクロータに近接させて配置する事で、摩擦パッドとディスクロータとの適切なクリアランスを常に確保しようとしている。そのため、摩耗の進行した摩擦パッドでは、ディスクロータとピストンとの間隔が狭くなり、摩擦パッドの交換を行う場合、このピストンとディスクロータとの狭い間隔には新しい摩擦パッドを取り付ける事ができない。また、車両の停止中は、特にパーキング機構を設けたもの等では、摩擦パッドによるディスクロータの押圧状態が保持され、摩擦パッドにクランプ力が作用しているので、古い摩擦パッドの取り外しも容易ではない。そのため、摩擦パッドの交換時は、ピストンを後退させて、該ピストンとディスクロータとの間に、摩擦パッドが容易に交換可能な間隔を確保するとともに、摩擦パッドへのクランプ力を解除する必要があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術の電気式ディスクブレーキは、車両の停車中はピストンの進退動を制御する電動モータを作動する事ができず、作業者がボールねじナット等を手動操作で何度も回動させてピストンを後退させる必要があり、作業効率が悪かった。更に、摩擦パッドの交換後には、先に外した部品やカバー等を再装着する等の手間もあった。
【0006】
本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、電気式ディスクブレーキの摩擦パッドの交換時に、手動操作でピストンを後退させるような煩わしい手間や、摩擦パッド交換のための特別な装置や機構等を必要とする事がなく、既存のブレーキペダル等による簡単なコマンド操作で、ピストンの後退要求を制御装置に指令可能とする。この指令により制御装置にて電動モータを逆転作動させて、摩擦パッドの交換が可能な位置にピストンを容易に戻す事を可能とするものである。このピストンの戻し操作により、ディスクロータとピストンとの間に、摩擦パッドの脱着が容易となる間隔を確保するとともに、摩擦パッドのクランプ力を解除して、摩擦パッドの交換を容易に行おうとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述の如き課題を解決するため、ディスクロータを挟んで一対の摩擦パッドを対向配置し、ブレーキペダルの踏み込みにより制御装置からの制御にて電動モータを作動させ、ピストンを摩擦パッド方向に移動して、一対の摩擦パッドをディスクロータに押圧摺動させて制動を行う電気式ディスクブレーキに於いて、車両が停止状態である事を検出する車両停止検出手段により車両停止中が検出され、且つ整備用の信号線を短絡させて、制御装置に整備中である事を認識させた状態で、ブレーキペダルによりピストンの後退要求操作が行われた場合に、この操作に伴って制御装置の制御により電動モータを逆転作動させて、ピストンを摩擦パッドの交換が可能な位置に戻す工程から成るものである。
【0008】
また、車両停止検出手段は、イグニッションスイッチがOFFである事及び/又は車輪速度が所定値以下である事を検出して車両停止中としても良い。
【0009】
【作用】
本発明は上述の如く構成したものであり、制御装置の制御により、電気式ディスクブレーキでは、摩擦パッドやディスクロータに摩耗を生じると、その摩耗長さ分、ピストンとともに摩擦パッドをディスクロータ方向に前進させて、摩擦パッドとディスクロータとの間に常に所定距離のクリアランスを確保可能としている。そのため、摩擦パッドの交換時には、ディスクロータとピストンとの間隔が摩耗前と比べて狭くなり、ピストンを後退させて、ディスクロータとピストンとの間に摩擦パッドを容易に交換可能な間隔を確保する必要がある。また、車両の停車中は、特にパーキング機構等を設けた電気式ディスクブレーキの場合には、摩擦パッドがディスクロータに押し付けられ、制動状態が保持されている。この制動状態では、摩擦パッドにクランプ力が作用し、古い摩擦パッドの取り外しも困難となる。そこで、本発明の摩擦パッドの交換方法を用いる事により、ピストンを摩擦パッドの交換が可能な位置に戻すとともに、摩擦パッドのクランプ力を解除し、摩擦パッドの交換を容易に行う事ができる。
【0010】
その手順を説明すると、摩擦パッド交換の作業者は、車両を停止しイグニッションスイッチをOFFとした状態で、整備用の信号線を短絡させて、制御装置に車両が整備中である事を認識させる。この整備用の信号線の短絡により制御装置に車両の整備中である事を認識させる手段として、サービスショートカプラ、サービスチェックカプラ、サービスメンテナンスカプラ、メンテナンスカプラ等を使用する事ができる。次に、作業者は、ブレーキペダルにより予め決められた所定のピストンの後退要求操作を行う。この所定の操作は、ピストンの後退要求を制御装置に伝達可能であれば何れの方法であっても良く、例えばブレーキペダルを5回踏み込む等により行う。
【0011】
上述の如く作業者が一連の操作を行うと、制御装置では、車両停止検出手段により車両停止中を検出し、且つ整備用の信号線が短絡され車両が整備中である事を認識した状態で、ブレーキペダルを5回連続して踏み込む等の所定のピストンの後退要求操作を検出すると、摩擦パッド交換要求が確定されたとして、電気式ディスクブレーキに対して電動モータの逆転作動の指令を出力する。尚、制御装置に於いて、車両が走行中と判断されたり、整備用の信号線が短絡されておらず、車両が整備中でないと認識された場合には、ブレーキペダルによりピストンの後退要求操作が行われた場合であっても、ピストンの後退動作は何等行われる事はなく、走行中や摩擦パッドの交換が不必要な場合等の誤作動を抑制可能である。
【0012】
そして、前記制御装置の制御により、電動モータが逆転作動する事で、ピストンが摩擦パッドからの離間方向に後退し、摩擦パッドの交換が可能な適宜の間隔が介在する位置に、ピストンを後退させる事ができる。このピストンの後退により、摩擦パッドにクランプ力が生じていた場合は、そのクランプ力が解除されるので、作業者は手作業により摩擦パッドの交換を容易に行う事ができる。
【0013】
また、車両停止検出手段は、車両が停止である事を検出可能であれば、従来公知の何れの手段で行っても良く、例えばイグニッションスイッチがOFFである事で車両停止中と判断しても良いし、車輪に車輪速センサ等を設置して、車輪速度が所定値以下である事を検出して車両停止中と判断しても良い。また、イグニッションスイッチがOFFで、且つ車輪速度が所定値以下である事を検出して車両停止中と判断するものであっても良い。
【0014】
また、電気式ディスクブレーキにパーキング機構を設けている場合は、上記摩擦パッドの交換処理工程に、パーキング機構を解除する工程や摩擦パッドの交換後にパーキング機構を再び作動させる工程を組み込んでも良い。また、摩擦パッドの交換後に、前記ピストンの後退要求操作とは別個の操作を行ったり、イグニッションスイッチをONとした後等に、摩擦パッドとディスクロータとのパッドクリアランス調整等を行っても良い。
【0015】
【実施例】
以下、本発明の摩擦パッドの交換方法を実施する電気式ディスクブレーキの一実施例を、図面に於いて詳細に説明する。図1は、4つの各車輪に電気式ディスクブレーキを備えた自動車のシステム構成図である。図2は一実施例の電気式ディスクブレーキの横断面図である。図3は図4のA−A線断面図である。図4は図2のバックプレート付近の拡大断面図である。図5は本実施例の摩擦パッドの交換処理の工程を示すフローチャートである。図6は図5に於ける摩擦パッド交換モードの詳細フローチャートである。図7は図5に於けるパッドクリアランス調整モードの詳細フローチャートである。
【0016】
上記図1のシステム図に示す如く、4つの車輪(70)に各々設けた電気式ディスクブレーキ(71)は、摩擦パッドのクランプ力を検出する荷重センサ(48)、ピストンの移動量を検出する回転角センサ(19)、車輪(70)速度を検出する車輪速センサ(75)等を備え、これらのデータ等を基に車両に内蔵の制御装置(ECU)(72)により電気式ディスクブレーキ(71)の作動が制御されている。本発明の摩擦パッドの交換方法を実施するためのプログラムは、前記制御装置(72)に予め設定され、後述の車両停止検出手段により車両の停止中が検出され、且つ整備用の信号線を短絡させて、制御装置(72)に車両が整備中である事を認識させた状態で、作業者による予め決められた手動操作により処理が開始されるものである。また、本実施例では、ピストンを後退させて摩擦パッドを手動で交換する摩擦パッド交換モードと、その交換後の摩擦パッドのクリアランス調整モードを工程に組み込んでいる。
【0017】
上述の車両停止検出手段として、前記車輪速センサ(75)により車輪(70)速度が所定値以下となり、且つイグニッションスイッチがOFFである事を検出した場合に車両停止中であると判断している。また、制御装置(72)に車両の整備中を認識させる手段として、本実施例ではサービスチェック用カプラに、サービスショートカプラ(73)を接続して短絡させているが、他の異なる手段として、サービスチェックカプラ、サービスメンテナンスカプラ、メンテナンスカプラ等を使用する事もできる。
【0018】
上記制御装置(72)に於いて、前記車輪速センサ(75)により車輪(70)速度が所定値以下となり、イグニッションスイッチのOFFを検出する事で、車両が停止中であると判断された場合で、且つサービスショートカプラ(73)の短絡により車両が整備中である事が認識された状態で、ブレーキペダル(74)によりピストンの後退要求操作が行われた事を検出すると、摩擦パッドの交換モードが実行される。本実施例では、作業者によりブレーキペダル(74)の踏み込み動作が5回行われる事で、ピストンの後退要求が確定されたとしている。そして、制御装置(72)の制御により、ピストンは摩擦パッドの交換が可能な位置に移動され、特別な装置や機構や手動によるピストンの戻し作業を必要とせず、作業者による摩擦パッドの交換が容易に可能となる。また、この交換後に、作業者によりイグニッションスイッチONの操作が行われると、パッドクリアランス調整要求が確定され、制御装置(72)ではパッドクリアランス調整プログラムが実行される事で、ディスクロータと摩擦パッドとの間に適切なクリアランスが確保され、ブレーキの引摺りを抑制し、かつ良好な応答性を得る事を可能としている。
【0019】
上記電気式ディスクブレーキ(71)の一実施例を、図2〜図4にて説明すれば、(1)は自動車の車輪(70)に接続して一体に回動するディスクロータで、両側の摩擦面(2)に臨ませて、図2に示す如く、タイヤホイール(5)の内側に於いて、一対の摩擦パッド(3)(4)を配置している。また、前記ディスクロータ(1)に臨ませて、車両本体にブラケット(6)を固定し、この固定側からディスクロータ(1)の外周を跨いで反対側に掛けて突設したキャリパ支持腕(7)に、前記摩擦パッド(3)(4)を摺動可能に配置している。
【0020】
また、前記ブラケット(6)のキャリパ支持腕(7)に、摩擦パッド(3)(4)をディスクロータ(1)に押し付けるキャリパボディ(8)を、図3に示す如く、一対のスライドピン(9)を介して進退動可能に連結している。このキャリパボディ(8)は、図2に示す如く、ディスクロータ(1)を挟んで、一方の摩擦パッド(3)の背面に配置する作用部(10)と、他方の摩擦パッド(4)の背面に配置する反力爪(11)を設けた反作用部(12)と、ディスクロータ(1)の外周を跨いで作用部(10)及び反作用部(12)とを連結するブリッジ部(13)とで構成されている。
【0021】
そして、前記作用部(10)は、図2に示す如く、シリンダ(14)内に、ブラシレス型の電動モータ(15)と、摩擦パッド(3)(4)の押圧力を発生させる本発明のピストンとしてのボールねじ機構(16)と、このボールねじ機構(16)に電動モータ(15)の駆動力を減速して伝達する減速ギア機構(17)とを収納している。この減速ギア機構(17)は、電動モータ(15)の駆動力により回動可能な遊星腕(18)と、この遊星腕(18)に回動可能に軸支した遊星歯車(23)と、この遊星歯車(23)を回動させる太陽歯車(26)とから構成されている。
【0022】
前記遊星腕(18)は、前記電動モータ(15)の回転子として作用するマグネット(39)を外周に配置した円筒状の円筒部(20)と、摩擦パッド(3)とは反対側の後部に設け、円筒部(20)よりも径大な径大部(21)とから成り、電動モータ(15)の駆動力により、軸受部(57)を介してシリンダ(14)内を回動可能としている。そして、径大部(21)の外周三ヶ所に、等間隔で遊星歯車(23)を回動可能に軸支し、図2、図3に示す如く、各遊星歯車(23)を、径大部(21)外周に開口した切欠部(22)から外部に突出させている。また、径大部(21)は、図3に示す如く、隣接する遊星歯車(23)間の外周を三角形状にカットして、遊星腕(18)の軽量化を図るとともに、後述の回転角センサ(19)のロータとしての使用を可能としている。
【0023】
また、遊星歯車(23)は、第1歯車部(24)と、この第1歯車部(24)よりも歯数の少ない第2歯車部(25)とを、軸方向の前後に分離して一体に形成し、前記第1歯車部(24)を、キャリパボディ(8)に回動不能に固定された太陽歯車(26)に噛合し、この太陽歯車(26)により遊星歯車(23)の回動を可能としている。
【0024】
また、上記太陽歯車(26)の固定は、図2、図4に示す如く、キャリパボディ(8)の後部に配置したバックプレート(27)に、等間隔で挿通穴(29)を複数開口し、各挿通穴(29)に挿通した固定ピン(28)を、太陽歯車(26)の背面に凹設した固定穴(30)に挿入する事により行っている。前記固定ピン(28)は、バックプレート(27)の装着孔(32)に装着したキャップ(33)にて頭部を押圧され、固定穴(30)への挿入状態が保たれている。そして、キャップ(33)を外すと、固定ピン(28)の頭部とバックプレート(27)間に装着した押圧発条(31)の付勢力により、固定ピン(28)が固定穴(30)から離脱し、太陽歯車(26)の固定が解除可能となる。
【0025】
そして、前記遊星腕(18)内に、軸受部(58)を介してボールねじ機構(16)のボールねじナット(34)を、回動可能で進退動不能に収納している。このボールねじナット(34)は、遊星腕(18)の径大部(21)側に配置した後端外周に、太陽歯車(26)よりも歯数の少ない減速歯車(35)を固定している。この減速歯車(35)を、前記遊星歯車(23)の第2歯車部(25)に噛合し、遊星歯車(23)の回動によってボールねじナット(34)の回動を可能としている。
【0026】
また、ボールねじナット(34)は、中央に設けたボール溝(36)に、複数のボール(37)を介してボールねじ軸(38)を進退動可能に螺着している。このボールねじ軸(38)は、ボールねじナット(34)の回転量に応じて摩擦パッド(3)方向に前進し、摩擦パッド(3)をディスクロータ(1)に押圧摺動可能としている。また、摩擦パッド(3)(4)のディスクロータ(1)への押圧を解除する際は、電動モータ(15)を逆転作動して、ボールねじ軸(38)を摩擦パッド(3)の離間方向に後退させるが、この後退の際は、ボールねじ軸(38)が太陽歯車(26)側の後端が、前記ボールねじナット(34)に接続した減速歯車(35)内面の突当部(52)に突き当たる事により、前記ボールねじ軸(38)の後退が停止され、ボールねじ軸(38)のストッパー機能を担っている。
【0027】
また、前記ボールねじ軸(38)は先端に、摩擦パッド(3)の押圧部材として、平板状のパッド押圧板(40)を互いに分離不能に接続している。このパッド押圧板(40)にて、摩擦パッド(3)を、広い面積で一部に押圧力を集中する事なく押圧して、ディスクロータ(1)に平行に押し付け可能としている。
【0028】
上記ボールねじ軸(38)とパッド押圧板(40)との接続は、図2に示す如く、ボールねじ軸(38)の内部を貫通形成して中空部(41)を設け、この中空部(41)内から、パッド押圧板(40)の背面に凹設した袋穴状の取付穴(43)に、取付ねじ(42)を螺着して行うものである。このような構成とする事により、パッド押圧板(40)とボールねじ軸(38)の接続部からのシリンダ(14)内への塵埃や水分の侵入も抑制している。また、このようにパッド押圧板(40)とボールねじ軸(38)との接続を、キャリパボディ(8)の後部側から行う事ができるので、組み付け性やメンテナンス性も向上するものである。
【0029】
また、上記パッド押圧板(40)の外周とシリンダ(14)の内周との間に、伸縮可能なダストシール(47)を接続して、シリンダ(14)の開口部(45)を閉塞し、シリンダ(14)内への塵埃や水分、小石等の侵入を抑制可能としている。
【0030】
また、図2に示す如く、ボールねじ軸(38)の先端に荷重センサ(48)を設けて、摩擦パッド(3)に掛かる荷重即ちクランプ力を検知し、その測定値を制御装置(72)に伝達可能としている。また、荷重センサ(48)と制御装置(72)とを接続するハーネス(50)を、図2、図4に示す如く、ボールねじ軸(38)の中空部(41)に挿通させている。そして、図2に示す如く、ハーネス(50)を引張り発条(51)にて引張り付勢し、弛み部分を常に中空部(41)に配置して、中空部(41)の外ではハーネス(50)が常に張った状態となるようにしている。
【0031】
このような構成とする事で、ボールねじ軸(38)が摩擦パッド(3)方向に前進して、ハーネス(50)に引張り力が加わっても、引張り発条(51)が伸張するので、ハーネス(50)が切断されたり、ボールねじ軸(38)の前進が阻害される事はない。また、ボールねじ軸(38)が後退すると、引張り発条(51)が復元収縮するので、ハーネス(50)が中空部(41)以外の位置で弛む事はなく、ハーネス(50)が部材間に絡まる等の不具合を抑制できる。
【0032】
また、キャリパボディ(8)には、遊星腕(18)の回転角を検出する回転角センサ(19)を設けている。この回転角センサ(19)で検出した回転角により、制御装置(72)では、ボールねじ軸(38)の移動量を演算したり、ブラシレス型の電動モータ(15)の駆動を制御している。
【0033】
上記回転角センサ(19)は、図2〜図4に示す如く、シリンダ(14)の内周面に、遊星腕(18)の三角形状の径大部(21)の外周に臨ませて、磁気コイルを円周状に配置してステータとし、遊星腕(18)の径大部(21)をロータとした構成である。この三角形状の径大部(21)が回転角センサ(19)の内周を回動する事により、波形の出力電圧を発生するので、遊星腕(18)の回転角を検知可能となるものである。このように、遊星腕(18)の径大部(21)をロータとして兼用できるので、遊星腕(18)とは別個に回転角センサ(19)用のロータを設ける必要がなく、部品点数や組み付け工数の増加を防ぐ事ができる。
【0034】
また、本実施例では、図2、図4に示す如く、遊星腕(18)の径大部(21)の後端面に臨ませて、バックプレート(27)に、パーキング機構のソレノイド(54)を設けている。そして、車両の駐車時に、摩擦パッド(3)(4)をディスクロータ(1)に押し付けて制動を行った状態でソレノイド(54)を作動すると、このソレノイド(54)に突設した係止ピン(55)が、遊星腕(18)の径大部(21)端面に設けた係止穴(56)に係合する。この係合により、遊星腕(18)が回動不能に固定され、パーキング時の電気式ディスクブレーキ(71)による制動を維持する事ができる。
【0035】
また、バックプレート(27)外周には、Oリング(60)を介して被覆カバー(44)を装着し、複数の固定ねじ(59)で固定している。この被覆カバー(44)により、ソレノイド(54)やバックプレート(27)、その他を外的衝撃から保護するとともに、シリンダ(14)内のバックプレート(27)側のシール性も高めている。
【0036】
また、キャリパボディ(8)は、電動モータ(15)の摩擦パッド(3)側と減速ギア機構(17)側で3分割可能に形成し、各パーツ間に、図2、図4に示す如く、キャリパボディ(8)よりも熱伝導率の低い断熱材製の断熱リング部材(46)を挿入配置している。この断熱リング部材(46)の断熱効果により、摩擦パッド(3)(4)の制動熱が、キャリパボディ(8)の外表面を介して電動モータ(15)や減速ギア機構(17)に伝達されたり、電動モータ(15)の駆動熱が、減速ギア機構(17)に伝達されるのを抑制する事ができる。
【0037】
尚、前記断熱リング部材(46)は、キャリパボディ(8)の本体を分割形成して、各パーツ間に挿入配置しているので、キャリパボディ(8)内部の部品に設ける場合と比較して、組み付けが容易であり、生産性に影響を与える事はない。また、分割形成によりキャリパボディ(8)の内部への各種部品の組み付け性やメンテナンス性も向上するものとなる。
【0038】
次に、上記電気式ディスクブレーキ(71)での制動の作用を説明する。車両の走行時にドライバがブレーキペダル(74)を踏み込んで制動操作を行うと、この踏み込み量に応じて電動モータ(15)が正転作動し、遊星腕(18)がシリンダ(14)内を回動する。この遊星腕(18)の回動により、径大部(21)に軸支され、太陽歯車(26)に第1歯車部(24)を噛合する遊星歯車(23)が、太陽歯車(26)の外周を回動する。この遊星歯車(23)の回動により、第2歯車部(25)に減速歯車(35)を噛合するボールねじナット(34)が回動される。
【0039】
そして、ボールねじ機構(16)の作用により、回動力がボールねじ軸(38)の前進力に変換され、パッド押圧板(40)を介して作用部(10)側の摩擦パッド(3)を押圧摺動し、ディスクロータ(1)に押し付ける。更に、ボールねじ軸(38)の前進の反力で、キャリパボディ(8)が後退し、反作用部(12)の反力爪(11)が、反作用部(12)側の摩擦パッド(4)を押圧摺動し、ディスクロータ(1)に押し付ける事により、制動が行われる。
【0040】
そして、ドライバがブレーキペダル(74)の踏み込みを解除すると、制御装置(72)の制御により電動モータ(15)が逆転作動して遊星腕(18)が逆回転し、遊星歯車(23)を介してボールねじナット(34)が、先の回転とは逆方向に回転するので、ボールねじ軸(38)が後退し、摩擦パッド(3)の押圧が解除される。また、このボールねじ軸(38)の後退の反力により、キャリパボディ(8)も復元方向に摺動し、反作用部(12)側の摩擦パッド(4)の押圧が解除されるので、制動が解除されるものである。
【0041】
次に、上記制動操作等により、摩擦パッド(3)(4)に摩耗等を生じた場合における、摩擦パッド(3)(4)の交換方法を図5〜図7に示すフローチャートを用いて説明する。まず、作業者は車両を停止させ、イグニッションスイッチをOFFとする。次に、作業者はサービスチェック用カプラにサービスショートカプラ(73)を接続して短絡させた後、ブレーキペダル(74)を5回の踏み込み操作して、制御装置(72)に摩擦パッド(3)(4)の交換要求を行う。
【0042】
そして、制御装置(72)では、図5に示す如く、車輪速センサ(75)にて車輪速度が所定値以下である事を検出し(ステップS100)、イグニッションスイッチがOFFである事を検出する事で(ステップS200)、車両の停止中を認識し、且つサービスショートカプラ(73)の短絡により車両が整備中である事を認識した状態で(ステップS300)、ブレーキペダル(74)の5回の踏み込みを検出して摩擦パッド交換要求が確定されると(ステップS400)、電気式ディスクブレーキ(71)に対して、ステップS500の摩擦パッド交換モードが実行される。
【0043】
また、上記S100〜S300の要件の何れか一つでも満たさなかった場合、即ち車輪(70)速度が所定値より速かったり、イグニッションスイッチがONであって車両走行中が検出された場合や、サービスショートカプラ(73)の短絡操作が行われておらず車両の整備中でないと認識された場合には、ブレーキペダル(74)による踏み込みが行われても、以降の摩擦パッド交換処理工程は何等実施される事はなく、通常のブレーキペダル(74)の踏み込みでのピストンの後退を防ぐ事ができる。また、S100〜S300の要件が全て揃った場合であっても、ブレーキペダル(74)の5回の踏み込みが行われない場合は、摩擦パッド交換処理が実施される事はない。
【0044】
上記S500の摩擦パッド交換処理の工程は、図6のフローチャートに示す如く、まずステップS501で、電気式ディスクブレーキ(71)にパーキング機構を設けている場合は、その解除作業を行う。本実施例の電気式ディスクブレーキ(71)では、図4に示す如く、ソレノイド(54)の係止ピン(55)と、遊星腕(18)の係止穴(56)との係合によるパーキング機構を設けている。従って、該係止ピン(55)の係止穴(56)への係合を解除する事によりパーキング機構が解除される。尚、パーキング機能を備えていない電気式ディスクブレーキ(71)の場合は、ステップS501をスキップする事ができる。
【0045】
次工程のステップS502では、制御装置(72)の制御により電動モータ(15)の逆転作動が開始される。この電動モータ(15)の逆転作動により、減速ギア機構(17)が制動の解除方向に回動されて、ボールねじ機構(16)のボールねじ軸(38)が減速歯車(35)方向に後退する。また、電動モータ(15)の逆転作動は、一定の低回転にて行うようにし、ボールねじ軸(38)が急激に後退する事がないようにする。そして、次のステップS503に示す如く、ピストンの戻しの限界が検出されると、ステップS504により電動モータ(15)の逆転作動が停止される。
【0046】
上記S503におけるピストン即ちボールねじ軸(38)の戻しの限界の検出方法を説明する。まず、電動モータ(15)の逆転作動によりボールねじ軸(38)が後退し、この後退により、ボールねじ軸(38)が減速歯車(35)の突当部(52)に突き当たって、後退が停止される。このボールねじ軸(38)の後退の停止により、ボールねじナット(34)の回動やこれに係合する減速ギア機構(17)の回動も停止し、その結果電動モータ(15)の電流値が上昇する。この電流値の上昇を制御装置(72)が感知する事により、前記ピストンの戻しの限界を検出可能となり、電動モータ(15)の逆転作動の停止(ステップS504)が行われる。また、電動モータ(15)は、一定の低速度にて逆転させているので、ボールねじ軸(38)の突当部(52)への突当たり時の衝撃や、回動部品への剪断力等を小さくできるし、電動モータ(15)の過剰な電流値の上昇を抑える事ができ、部品の耐久性を向上させる事ができる。
【0047】
このようにボールねじ軸(38)を限界まで後退させると、作用部(10)側の摩擦パッド(3)に作用していたクランプ力が解除されるとともに、ボールねじ軸(38)とディスクロータ(1)との間に、摩耗の無い新しい摩擦パッド(3)を容易に装着可能な広い間隔が確保される。また、ボールねじ軸(38)の後退の反力で、キャリパボディ(8)が後退し、反作用部(12)側の摩擦パッド(4)のクランプ力も解除される。従って、一対の摩擦パッド(3)(4)を、人手で容易に取り外し、新しい製品と交換する事ができる(ステップS505)。
【0048】
上記摩擦パッド交換モード(ステップS500)が終了したら、図5に示す如く、ステップS600、S700を実行して、交換後の摩擦パッド(3)(4)のパッドクリアランス調整を行う。それには、作業者がサービスショートカプラ(73)を接続したままの状態でイグニッションスイッチONの操作を行うと、これを検出した制御装置(72)では、パッドクリアランス調整要求が確定され(ステップS600)、ステップS700のパッドクリアランス調整モードを実行する。
【0049】
このステップS700のパッドクリアランス調整モードでは、図7に示す如く、まずステップS701にて制御装置(72)は、電気式ディスクブレーキ(71)に対して、電動モータ(15)の正転作動を開始し、ボールねじ軸(38)を前進させて、一対の摩擦パッド(3)(4)をディスクロータ(1)に押圧摺動させる。この電動モータ(15)の正転作動時も、一定の低速度で作動させる事により、摩擦パッド(3)(4)に急激にクランプ力が加わらないようにする。また、電動モータ(15)の正転作動による摩擦パッド(3)(4)の押圧摺動は、該摩擦パッド(3)(4)に所定のクランプ力が生じるまで行う。
【0050】
上記クランプ力の検出は、荷重センサ(48)から出力されるデータを基に行い、ステップS702に示す如く、予め設定した所定のクランプ力を検出すると、制御装置(72)はステップS703において、電動モータ(15)の正転作動を停止するとともに今度は一定の低速度で電動モータ(15)の逆転作動を開始する。この電動モータ(15)の逆転作動により、ボールねじ軸(38)が後退し、摩擦パッド(3)(4)のクランプ力が徐々に低下していく。
【0051】
そして、制御装置(72)は、ステップS704で荷重センサ(48)によりクランプ力”0”を検出すると、次のステップS705の如く、このクランプ力”0”位置から更に、予め設定した回転数分、電動モータ(15)を逆転作動させ、ボールねじ軸(38)を一定距離後退させる。前記電動モータ(15)の回転数は、前記回転角センサ(19)にて検出される遊星腕(18)の回転角を基に算出される。そして、この所定の回転数分、電動モータ(15)を逆転作動が行われると、電動モータ(15)の作動が停止される(ステップS706)。
【0052】
上述のステップS704〜S706の処理工程で示す如く、摩擦パッド(3)(4)へのクランプ力が”0”となった位置から一定距離でボールねじ軸(38)を後退させる事により、摩擦パッド(3)(4)とディスクロータ(1)との間に、所定距離のクリアランスが確保され、ブレーキの引摺りを抑制する事が可能となるとともに、制動時には良好な応答性が得られるものとなる。また、この摩擦パッド(3)(4)の交換後のパッドクリアランス調整によるボールねじ軸(38)の位置を初期位置として、制動時及び制動解除時のボールねじ軸(38)の進退動が制御されたり、摩擦パッド(3)(4)やディスクロータ(1)に摩耗等を生じた際にボールねじ軸(38)を前進する等の調整が行われる。
【0053】
次に、電気式ディスクブレーキ(71)がパーキング機構付きの場合は、ステップS707のパーキング機構の作動を行う。このステップS707のパーキング機構の作動は、本実施例では電動モータ(15)を正転作動し、ボールねじ軸(38)を前進させ、所定のクランプ力を生じるまで摩擦パッド(3)(4)をディスクロータ(1)に押圧摺動させて行う。この摩擦パッド(3)(4)によるディスクロータ(1)の制動状態で、パーキング機構のソレノイド(54)を作動させると、係止ピン(55)が遊星腕(18)の端面に設けた係止穴(56)に係合する。この係合により、遊星腕(18)が回動不能に固定され、制動を維持する事ができる。また、前記パッドクリアランス調整により、ボールねじ軸(38)の初期位置が確定されているので、このパーキング機構の作動時の、ディスクロータ(1)への摩擦パッド(3)(4)の押圧動作を円滑に行う事ができる。
【0054】
上記全ての工程の実施により、本実施例の摩擦パッドの交換処理が完了する。本発明の摩擦パッドの交換方法では、従来の如く手動でボールねじナット(34)を回動させてピストン即ちボールねじ軸(38)を戻す手間がなく、制御装置(72)に摩擦パッド交換処理要求を出力するだけで、この制御装置(72)の制御により電動モータ(15)を逆転作動させて、ボールねじ軸(38)を摩擦パッド(3)(4)の交換が可能な位置に戻す事ができる。また、既存の機器の操作の組み合わせ、即ち車両が停止中の状態で、整備用の信号線を短絡させた後、ブレーキペダル(74)を5回踏み込む動作を行うだけで、摩擦パッド交換処理要求を制御装置(72)に出力する事ができ、摩擦パッド(3)(4)交換のための特別な装置等を必要とする事がなく、電気式ディスクブレーキ(71)等の装置の単純化や軽量化等が可能となる。
【0055】
このボールねじ軸(38)の後退により、ディスクロータ(1)とボールねじ軸(38)との間、及びディスクロータ(1)と反作用部(12)との間に、新しい摩擦パッド(3)(4)を容易に挿入可能な空間が確保されるし、特にパーキング機構等を設けて摩擦パッド(3)(4)にクランプ力を生じている場合は、そのクランプ力が解除され、摩擦パッド(3)(4)の交換作業を容易に行う事が可能となる。
【0056】
また、本発明は、図2〜図4に示す如き電気式ディスクブレーキに限らず、摩擦パッドを電動モータの作動で進退動する従来公知の何れの電気式ディスクブレーキでも実施する事ができる。
【0057】
【発明の効果】
本発明は上述の如く構成したものであるから、車両の停止中に、整備用の信号線を短絡させて制御装置に整備中である事を認識させた状態で、ブレーキペダルによりピストンの後退要求操作を行う事により、電動モータを逆転作動してピストンを後退させ、該ピストンを摩擦パッドの交換が可能な位置に後退させる事が可能となる。このピストンの後退により、摩擦パッドへのクランプ力を解除する事ができるとともに、ディスクロータとピストンとの間に、摩擦パッドの脱着を容易に可能な間隔を介在させる事ができる。また、ピストンを戻すための特別な装置を設ける必要がないし、手動でピストンを後退させるような煩わしい作業もなく、摩擦パッドの交換を容易に行う事ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の電気式ディスクブレーキを設けた車両のシステム構成図。
【図2】本発明の一実施例の電気式ディスクブレーキの横断面図。
【図3】図4のA−A線断面図で、太陽歯車の固定部材とハーネスとを省略したものである。
【図4】図2のバックプレート側の部分拡大断面図。
【図5】摩擦パッド交換処理の工程を示すフローチャート。
【図6】摩擦パッド交換モードのフローチャート。
【図7】パッドクリアランス調整モードのフローチャート。
【符号の説明】
1 ディスクロータ
3 摩擦パッド
4 摩擦パッド
15 電動モータ
38 ボールねじ軸(本発明のピストン)
72 制御装置
74 ブレーキペダル
75 車輪速センサ(本発明の車両停止検出手段)
Claims (2)
- ディスクロータを挟んで一対の摩擦パッドを対向配置し、ブレーキペダルの踏み込みにより制御装置からの制御にて電動モータを作動させ、ピストンを摩擦パッド方向に移動して、一対の摩擦パッドをディスクロータに押圧摺動させて制動を行う電気式ディスクブレーキに於いて、車両が停止状態である事を検出する車両停止検出手段により車両停止中が検出され、且つ整備用の信号線を短絡させて、制御装置に整備中である事を認識させた状態で、ブレーキペダルによりピストンの後退要求操作が行われた場合に、この操作に伴って制御装置の制御により電動モータを逆転作動させて、ピストンを摩擦パッドの交換が可能な位置に戻す事を特徴とする電気式ディスクブレーキの摩擦パッドの交換方法。
- 車両停止検出手段は、イグニッションスイッチがOFFである事及び/又は車輪速度が所定値以下である事を検出して車両停止中とする事を特徴とする請求項1の電気式ディスクブレーキの摩擦パッドの交換方法。
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