JP2004242738A - 軟式野球用バット - Google Patents
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Abstract
【解決手段】打撃部7の芯材7aの外周囲の少なくとも90°の範囲にわたって連続的に粘弾性体を積層して形成した粘弾性層2を備えた軟式野球用バットに関する。粘弾性層2の厚さdは2mm以上に設定され、粘弾性層2を構成する粘弾性体は、20℃、角周波数ω=100Hzにおける損失弾性率の値が0.2MPa以下で、かつ、貯蔵弾性率の値が1.4MPa以下であることを特徴とする。以上の構成により、打撃時の変形が大きい軟式ボールの重心移動を抑制し、軟式野球において打ち損じを低減することができる。
【選択図】 図7
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は軟式野球用バットの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
野球バットの打撃性能を向上させたものとして、たとえば、バットの打撃部に弾性体を設けることにより、反発特性および耐久性を高めたバットが知られている(特許文献1参照)。また、バットの打撃部に突起を設けることにより反発特性を向上させたバットが知られている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−126144号公報 (第2−3頁、第1−2図)
【特許文献2】
特開2001−120699号公報 (第2−5頁、第1図)
【0004】
しかし、これらのバットはいずれも、本発明が解決しようとする打ち損じを低減させることに関しては何ら有用な効果を発揮し得ない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、軟式野球では硬式野球に比べ得点の少ない試合が多い。これは打撃時のボール変形が大きいことに起因し、打撃してもボールが前方へ飛びにくいためヒットになりにくく、結果的に得点につながらないケースが多いからである。つまり、ボールがバットに当たってもフライやファウルチップになりやすく、特に、ピッチャーの球速が速い程その傾向が大きい。
【0006】
ところで、バットには長手方向にいわゆるスイートエリアがあり、この中心でボールを打撃した場合に、打球の球速が最も速い(飛距離が最も大きい)ことが一般に知られている。しかし、同じスイートエリアであっても、バットの軸線(以下、「バット軸」という)から大きくズレた位置でボールを打撃すると、フライやゴロになり易い。ここで、スイートエリアの中でもバット軸からズレて打撃しても打球が前方に飛ぶ領域を「円周方向スイートエリア」という。
この「円周方向スイートエリア」の範囲が硬式野球と軟式野球とでは異なる。つまり、比較的硬いボールを使用する硬式野球では、前記「円周方向スイートエリア」が広く、一方、比較的柔らかいボールを使用する軟式野球では、前記「円周方向スイートエリア」が狭い(ほぼバット軸上にしかない)。
【0007】
したがって、硬式野球と軟式野球とでは打撃のメカニズムが異なる。しかし、軟式野球の打撃のメカニズムに着目して、打ち損じを低減させるための軟式野球用バットは未だ開発されていない。
【0008】
本発明はこの問題に鑑みてなされたもので、打ち損じの少ない軟式野球用バットを提供することを目的とする。
【0009】
【発明の原理】
以下、本発明の構成の説明に先だって、本発明の原理を、本発明者が行った実験に基づいて説明する。
打撃メカニズム検証実験▲1▼
ボール速度120Km/hr に加速した硬式ボールおよび軟式ボールのそれぞれを、概ね垂直に立設した鋼鉄製の剛体板に水平方向から入射させて衝突させる実験を行い、硬式野球と軟式野球との打撃のメカニズムの違いを検証した。その結果、以下の3つの事項を発見した。
(1) 硬式ボールは衝突時の変形が小さいが、軟式ボールは衝突時の変形が非常に大きい。
(2) 硬式ボールに比べ、軟式ボールの接触時間は長い(硬式ボールの約3倍)。
(3) 硬式ボールは接触終了後すぐに元の球状に復元しているが、軟式ボールは接触終了後も若干の間、変形が持続している。
【0010】
打撃メカニズム検証実験▲2▼
実際の打撃状態に近似した条件で打撃のメカニズムを検証するため、図1に示すように、ボールBの入射方向(水平方向)Xに対して、アルミで形成された剛体板3の表面3aの法線VL を30°傾けた状態で剛体板3を設けた。この剛体板3に対して、ボール速度120Km/hr に加速した軟式ボールを水平方向Xから入射させて衝突させた。図2(a)〜(d)は検証実験▲2▼における経時変化の概略を示す。
【0011】
図2(a)のように水平方向Xから入射させた軟式ボールBは、衝突時の変形が大きい点で垂直に衝突させた場合と同様であるが、その変形の挙動が異なることを見出した。つまり、角度をつけた場合の衝突では、図2(b)のようにボールBが剛体板3の表面3aに衝突して一旦偏平状になり、その後、図2(c)に示すように剛体板3の表面3aに沿って斜め上方にボールBの重心が移動する。そして、この重心の移動により、図2(d)のように反発後のボールBの反射角βは、反射の法則に反して入射角(30°)よりも大きな角度になる。そのため、ボールがバット軸からズレた打ち損じの場合、ボールが大きく変形してボールの重心が移動することにより、通常想定される反射角度とは異なる方向にボールが打ち出される現象を呈すると考えられる。
【0012】
以上の考察から、軟式野球において打ち損じを低減させるためには、打撃時のボールの変形に伴う重心移動をできるだけ抑えればよいと推定される。また、打ち損じが低減できたかどうかの効果を確認するには、前記打撃メカニズム検証実験▲2▼における反射角β(図1)を計測すればよいと考えられる。そこで、本発明者はバット打撃部の機械的性質により反射角βがどのように変化するかを調査するため、以下の実験を行った。
【0013】
反発実験▲1▼
実験には、前記アルミ製の剛体板3の表面3aにスチレン系エラストマーで構成される粘弾性層2を貼着したものに軟式ボールを衝突させた。その他の実験条件は前記検証実験▲2▼と同様に設定し、軟式ボールの衝突前後の状態をハイスピードカメラを用いて撮影し、その画像から飛出角度θを計測した。なお、実打撃における現象に近づけるため、前記反射角βに代えて、入射角30°と反射角βとを加算した前記飛出角度θを計測した。
【0014】
図2(e)〜(h)は、反発実験▲1▼における経時変化の概略を示す。
図2(e)に示すように、検証実験▲1▼と同様に水平方向Xから入射させた軟式ボールBは、検証実験▲1▼における剛体板3との衝突の場合とは異なり、図2(f)〜図2(g)のように、ボールBが概ね均一に変形すると共に、粘弾性層2が変形している。つまり、ボールBだけでなく粘弾性層2自身も変形し、ボールBの変形量が小さくなることでボールBの重心移動が抑制されると考えられる。実際、図2(d)に示す剛体板3との衝突の場合、飛出角度θの値は65°であるのに対し、図2(h)に示す粘弾性層2との衝突の場合、飛出角度θの値は約49°と著しく小さな値となった。
【0015】
一方、前記粘弾性層2を、EVA−C13(C13は、SRIS0101に基づくC硬度が約13度であることを示し、後述の硬度表示についても同硬度を適用する。)の発泡体で構成したところ、計測された飛出角度θは約65°(後述の比較例10参照)で、剛体板に比べ然程低下しなかった。このことから、粘弾性体のなかでも、ある特定の機械的性質を有する粘弾性体だけが飛出角度を低減することができると推察される。
【0016】
反発実験▲2▼
そこで、この推察の妥当性を明らかにするために、20℃での角周波数ω=100Hzにおける損失弾性率が互いに異なる種々の粘弾性体で構成した粘弾性層2について反発実験を行った。実験条件は前記反発実験▲1▼と同様に、ボール速度120Km/hr 、表面3aの法線VL がボールBの入射方向Xに対して30°傾いた状態(図1参照)とした。また、損失弾性率については、幅3mm・長さ30mm・厚さ2mmの短冊状の試料片を作製し、これを引張モード専用の治具に治具間距離20mmにて取り付けた後、以下のような測定条件で測定した。
測定機器:(株)レオロジー製 DVEスペクトラー
振動変位:20μm
荷重 :9.80665×10−2N(10gf)(静荷重一定)
測定方法:引張モード
なお、「20℃での角周波数ω=100Hzにおける損失弾性率」とした理由は、軟式野球が行われる際の一般的な温度が20℃であり、また、ボール速度120Km/hr の軟式ボールがバットへ衝突する際の接触時間が約5msecであることから算出した角周波数が100Hzであることによる。
測定の結果、得られた損失弾性率と飛出角度との関係を図3に示す。
【0017】
図3において、実施例1〜5および比較例1〜3については、図5(a)に示すようにスチレン系エラストマーを用いた。また、実施例10、20ならびに比較例10、20については、図5(b)に示す特性を有する粘弾性体を用いた。各粘弾性体の厚さは4mmとした。
図3から分かるように、ボールの飛出角度θは損失弾性率の変化に大きく依存し、損失弾性率が小さくなるに従い飛出角度θが概ね小さくなる。
【0018】
しかし、たとえば、実施例3、10に着目すると、実施例1、2よりも損失弾性率が小さいにもかかわらず飛出角度θは大きくなっている。これは、損失弾性率と飛出角度θとの間に単純な相関関係があるのではなく、損失弾性率以外にも飛出角度θの変化に寄与する別のパラメータが存在することを示唆していると考えられる。そこで、本発明者は、衝突時のボールの重心移動を抑制するためには、衝突部に十分な「変形部分」を得る必要があると考え、前記別のパラメータとして粘弾性体の変形量の大きさ、すなわち、貯蔵弾性率に着目した。
【0019】
図4は貯蔵弾性率と飛出角度θとの関係を示す。また、図3および図4の結果をまとめたものを図5の図表(a)、(b)に示す。
図4から分かるように、損失弾性率と同様、ボールの飛出角度θは貯蔵弾性率の変化に依存し、貯蔵弾性率が小さくなるに従い飛出角度が概ね小さくなる。さらに、粘弾性体として発泡体を採用した実施例20、比較例10などから、発泡体では飛出角度θが大きくなる傾向が分かる。特に、図5(b)の実施例20に着目すると、実施例3、4と比較して貯蔵弾性率が同程度の値であるにもかかわらず、発泡体であるため損失弾性率が大きく、そのため、飛出角度が僅かながら60°を超えている。したがって、用いる粘弾性体は非発泡体であるのが好ましいことが分かる。
以上の結果から、本発明者は、粘弾性体の損失弾性率の値および貯蔵弾性率の値の双方がある特定の範囲内である場合、ボールの飛出角度を正反射の場合よりも低下させることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0020】
【発明の構成および実施の形態】
すなわち、本第1発明は、打撃部の芯材の外周囲の少なくとも90°の範囲にわたって連続的に粘弾性体を積層して形成した粘弾性層を備えた軟式野球用バットにおいて、前記粘弾性層の厚さが2mm以上に設定され、前記粘弾性体は、20℃、角周波数ω=100Hzにおける損失弾性率の値が0.2MPa以下で、かつ、貯蔵弾性率の値が1.4MPa以下であることを特徴とする。
【0021】
たとえば、図5(a)の実施例1〜5のように、損失弾性率の値が0.2MPa以下で、かつ、貯蔵弾性率の値が1.4MPa以下の粘弾性体は、全てボールの飛出角度が60°以下に低下している。一方、比較例1〜3のように、前記実施例1〜5と同様の材料を用いても、損失弾性率の値が0.2MPaを超え、かつ、貯蔵弾性率の値が1.4MPaを超えたものはボールの飛出角度が60°を超えており、また、双方の値が大きくなる程、飛出角度θが大きくなっている。なお、粘弾性体を打撃部に設けたバットは、前記特許文献1、2のように従来から存在していたが、軟式野球特有のメカニズムに着目し、打ち損じを低減させるための工夫がされたバットは存在していなかった。
【0022】
本発明において、「積層」とは、芯材に対して粘弾性体が積層されていることを意味し、粘弾性層自体は単層でもよいし、複数の層で形成されていてもよい。
【0023】
本発明において、前記粘弾性体の損失弾性率の値を0.2MPa以下とした理由は、前述したように、損失弾性率が0.2MPaを超えるとボールの飛出角度が60°を大きく超え、打ち損じを低減させることができないからである。しかし、図5(a)の実施例5の飛出角度が60°よりも若干小さい程度であることから、損失弾性率の値は0.17MPa以下に設定するのが好ましく、更に、実施例4に比べ実施例3の飛出角度が大きく低下していることから、損失弾性率の値は0.1MPa以下に設定するのがより好ましい。一方、実施例2の飛出角度約47.4°よりも実施例10の飛出角度が約51.1°と大きくなっていることから、損失弾性率が小さ過ぎると逆に飛出角度が大きくなると推定されるので、損失弾性率の値は0.04MPa〜0.1MPaに設定するのが最も好ましい。
【0024】
本発明において、前記粘弾性体の貯蔵弾性率の値を1.4MPa以下とした理由は、前述したように、貯蔵弾性率が1.4MPaを超えるとボールの飛出角度が60°を大きく超え、打ち損じを低減させることができないからである。しかし、図5(a)の実施例5の飛出角度が約59.4°と60°に近い角度であることから、貯蔵弾性率の値は1.0MPa以下に設定するのが好ましく、更に、実施例4も同程度の飛出角度であることから、貯蔵弾性率の値は0.5MPa以下に設定するのがより好ましい。一方、実施例10の飛出角度が実施例1、2よりも大きくなっていることから、貯蔵弾性率の値は0.1MPa〜0.5MPaに設定するのが最も好ましい。
【0025】
ところで、図6(a)に示すように、ボールの飛出角度は粘弾性層の厚さにも依存する。図6(a)における各実施例12 、18 、112は、図5(a)の実施例1に対し、粘弾性層の厚さのみを変更し、当該厚さと飛出角度θとの関係を示す。この図から分かるように、粘弾性層の厚さは2mm以上に設定する必要があり、好ましくは4mm以上、より好ましくは5〜10mmに設定し、バットの実際の構造に照らすと、最も好ましくは6〜8mmに設定する。
【0026】
本第1発明において、上記のような機械的性質を有する粘弾性体として、たとえば、「セプトン」(登録商標、(株)クラレ製)のようなスチレン系エラストマー、シリコーン発泡体、ウレタンゲル、シリコーンゲル等を用いることができる。しかし、前述したように、粘弾性体の発泡体では飛出角度が大きくなると推定されるから、粘弾性体としては非発泡体を用いるのが好ましい。
【0027】
本第2発明は、打撃部の芯材の外周囲の少なくとも90°の範囲にわたって連続的に粘弾性体を積層して形成した粘弾性層を備えた軟式野球用バットにおいて、所定の厚さに積層された前記粘弾性層の表面が、横断面において放射方向に沿って多数切断されていることを特徴とする。
【0028】
本第3発明は、打撃部の芯材の外周囲の少なくとも90°の範囲にわたって連続的に粘弾性体を積層して形成した粘弾性層を備えた軟式野球用バットにおいて、所定の厚さに積層された前記粘弾性層の表面に、多数の切欠部が形成されていると共に前記切欠部間に非切欠部が形成されて、前記粘弾性層の横断面形状が歯車状に形成されており、打撃時にボールが数個の前記非切欠部に接するように前記多数の切欠部が設けられていることを特徴とする。
【0029】
これら第2および第3発明では、後に詳述するように、粘弾性層の表面が切断されて、または、粘弾性層の表面に複数の切欠部が設けられていることにより、ボールの打撃時に粘弾性層がズレて変形し易くなることで、第1発明と同様にボールの重心移動を抑制し、ボールの飛出角度を低下させる効果があると推定される。この推定の妥当性を検証する実験結果を図6(b)に示す。実験条件はボール速度35Km/hr 、その他の条件は前記反発実験▲2▼と同様である。図6(b)の結果から、粘弾性層の表面に切欠部を設けた場合、ボールの飛出角度がかなり低下していることが確認できる。なお、図6(b)のEVA−C58において飛出角度が著しく低下していることから、第2および第3発明においては、粘弾性体の損失弾性率および貯蔵弾性率の値が、それぞれ、0.2MPa以下および1.4MPa以下の範囲になくても前記第1発明に近似した効果が得られると推定される。
したがって、本第2および第3発明において、用いることのできる粘弾性体としては、前述した粘弾性体の他に、たとえば、EVA、EEA、ポリエチレン、ポリプロピレン、イソプレン、EPDM、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS、アイオノマー、ブタジエン系ラバー等やそれらの発泡体を用いることができる。
【0030】
つぎに、本発明の第1実施形態について説明する。
図7(a)に示すバット5は、たとえばアルミ製の中空バットで、打撃部7の長手方向Yに粘弾性層2を備えている。図7(b)に示すように、前記粘弾性層2は、打撃部7の芯材7aの外周面の360°の範囲にわたって連続的に粘弾性体を、前記芯材7aと同心円状に積層して形成されている。前記粘弾性層2の厚さdは少なくとも2mm以上に設定されている。前記粘弾性層2の外表面は、破損やハガレなどを防止するため薄い樹脂フィルム(粘弾性体の一種)などのカバー材9で被覆されている。
【0031】
前記粘弾性層2は、図7(c)に示すように、第1および第2粘弾性層2a、2bにより構成される多層構造としてもよい。この多層構造の場合、外側の第1粘弾性層2aは、損失弾性率が0.2MPa以下で、かつ、貯蔵弾性率が1.4MPa以下という好適条件を満たす粘弾性体で形成すると共に、該第1粘弾性層2aの厚さd1 を2mm以上に設定するのが好ましい。一方、内側の第2粘弾性層2bは、前記好適条件を満たす粘弾性体または前記好適条件を満たさない粘弾性体のいずれで構成してもよい。
【0032】
前記第1および第2粘弾性層2a、2bの双方を前記好適条件を満たす粘弾性体で構成する場合には、前記第1および第2粘弾性層2a、2bの厚さの和(d1 +d2 )が2mm以上となるように設定してもよいし、各々の厚さd1 、d2 がそれぞれ2mm以上となるように設定してもよい。
また、前記外側の第1粘弾性層2aを前記好適条件を満たさない粘弾性体で構成する場合には、前記第2粘弾性層2bを前記好適条件を満たす粘弾性体で構成すると共に、前記第2粘弾性層2bの厚さd2 を2mm以上に設定する必要がある。
【0033】
前記粘弾性層2は必ずしも前記芯材7aの外周囲の全部にわたって連続的に形成する必要はなく、前記芯材7aの外周囲の一部の範囲で連続的に形成するようにしてもよい。たとえば、図7(d)のように、水平方向Xに対して打撃部7の上下方向に各々45°の範囲で連続的に、すなわち、前記芯材7aの外周囲の90°の範囲にわたって連続的に前記粘弾性層2を形成すれば、投球されたボールBに対し、粘弾性層2で打撃することができる。打撃時の投影面積を考慮すると、前記粘弾性層2の連続的な形成範囲としては、好ましくは120°、さらに好ましくは180°、最適には360°に設定する。
【0034】
つぎに、本発明の他の実施形態について説明するが、以下の実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明し、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0035】
図8(a)に示す第2実施形態では、所定の厚さに積層された粘弾性層2の表面が長手方向Yに沿って多数の切断線6により切断されている。図8(b)に示すように、前記切断線6は横断面において放射方向に沿って所定の深さで形成されている。粘弾性層2の表面に前記多数の切断線6が形成されていることにより、打撃部7に対して斜めにボールBが当たると、粘弾性層2が矢印で示すようにズレて変形することで、ボールの変形が小さくなりボールの重心移動を抑制できると推定される。したがって、ボールの飛出角度を低下させ、打ち損じを低減する効果があると推定される。
【0036】
なお、前記切断線6の深さは、図8(b)に示すように、前記粘弾性層2の厚さよりも小さな値とするのが好ましい。なお、前記切断線6は、各々、図8(a)のようにバット5の長手方向Yに連続的に形成してもよいし、不連続に形成してもよい。
【0037】
図9(a)の第3実施形態では、所定の厚さに積層された粘弾性層2の表面に、前記切断線6の代わりに多数の切欠部8aが形成されていると共に前記切欠部8a間に非切欠部8bが形成されている。これら複数の切欠部8aおよび非切欠部8bにより前記粘弾性層2の横断面形状は歯車状に形成されている。前記切欠部8aおよび非切欠部8bは、打撃時にボールが数個の前記非切欠部8bに接するように前記多数の切欠部8aが設けられている。
【0038】
図9(b)に示す第3実施形態の変形例では、前記多数の切欠部8aの各々に、前記粘弾性層2を形成している粘弾性体とは別の粘弾性体が充填され、充填層10を形成している。当該充填層10は、前記粘弾性層2よりも変形量の大きい、すなわち、貯蔵弾性率の小さい粘弾性体で構成するのが好ましい。
【0039】
なお、前記切断線6同士または前記切欠部8a同士のピッチ(間隔)は、大きく設定し過ぎるとボールに接する前記切断線6または前記切欠部8aの数が少なくなり十分な効果を発揮できないので、たとえば、2mm程度の小さな値に設定するのが好ましい。
【0040】
上述した第2および第3実施形態において、前記切断線6または前記切欠部8aの長手方向Y(図8(a))の形状は、図10(a)に示す直線形状の他、図10(b)のような矩形状または図10(c)のような波型状などを採用することができる。
また、上述した第2および第3実施形態においても、マークやデザインを施すために、薄い樹脂フィルム(粘弾性体の一種)などを被覆してもよい。
【0041】
つぎに、本発明の効果を明瞭にするために、実際の打撃実験の結果を図11に示す。この実験では、野球経験者である5名の被験者イ〜ホに従来の金属バットおよび前記実施例2の粘弾性体を用いた本発明のバットのそれぞれについて、ピッチングマシンから発射されるボール速度100Km/hr の軟式ボールを連続20回ずつ打撃した際の打ち損じの本数をカウントした。カウントの際は、ピッチャーフライ、キャッチャーフライ、ファウルチップなどの明らかに打ち損じであるものの本数をカウントし、空振りはカウントから除外した。なお、心理的な影響を除去するため被験者イ〜ホには、実験内容を伝えなかった。
【0042】
図11の結果から、被験者イ〜ホのいずれについても従来のバットと本発明のバットとの間に明らかに有意差が認められ、本発明のバットは打ち損じを低減できることが分かる。
【0043】
ところで、本発明の技術的思想は軟式野球バットに限らず、比較的柔らかいボールを打撃する他の打撃具についても適用することができる。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、第1発明によれば、打撃部の芯材のまわりに粘弾性層を備えた軟式野球用バットにおいて、粘弾性層の厚さ、損失弾性率および貯蔵弾性率の値を適正な値に設定することで、ボールの重心移動を抑制することができるから打ち損じを低減するバットが得られる。
【0045】
また、第2および第3発明によれば、粘弾性層の表面に切断線ないしは切欠部を形成することで、粘弾性層が変形し易くなる。したがって、第1発明と近似した効果を備えたバットを提供することができる上、粘弾性層を構成する材料の選択の幅を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】打撃メカニズム検証実験および反発実験の方法を示す概略図である。
【図2】剛体板および粘弾性層の各々について、ボールの衝突前後の状態の経時変化を示す側面図である。
【図3】損失弾性率と飛出角度との関係を示すグラフである。
【図4】貯蔵弾性率と飛出角度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例および比較例の反発実験の結果を示す図表である。
【図6】(a)は粘弾性層の厚さと飛出角度との関係を示すグラフ、(b)は第2または第3発明の効果を検証するための実験の結果を示す図表である。
【図7】(a)は本発明の第1実施形態にかかるバットを示す斜視図、(b)は同打撃部の断面図、(c)および(d)は同変形例を示す断面図である。
【図8】(a)は本発明の第2実施形態にかかるバットを示す斜視図、(b)は同打撃部の断面図である。
【図9】(a)は第3実施形態にかかる打撃部の断面図、(b)は同変形例を示す断面図である。
【図10】第2実施形態ないし第3実施形態にかかる粘弾性層の構造例を示す斜視図である。
【図11】打撃実験の結果を示す図表である。
【符号の説明】
2:粘弾性層
5:バット
7:打撃部
7a:芯材
d:粘弾性層の厚さ
Claims (5)
- 打撃部の芯材の外周囲の少なくとも90°の範囲にわたって連続的に粘弾性体を積層して形成した粘弾性層を備えた軟式野球用バットにおいて、
前記粘弾性層の厚さが2mm以上に設定され、
前記粘弾性体は、20℃、角周波数ω=100Hzにおける損失弾性率の値が0.2MPa以下で、かつ、貯蔵弾性率の値が1.4MPa以下であることを特徴とする軟式野球用バット。 - 請求項1において、
前記粘弾性層を形成する粘弾性体が非発泡体である軟式野球用バット。 - 打撃部の芯材の外周囲の少なくとも90°の範囲にわたって連続的に粘弾性体を積層して形成した粘弾性層を備えた軟式野球用バットにおいて、
所定の厚さに積層された前記粘弾性層の表面が、横断面において放射方向に沿って多数切断されていることを特徴とする軟式野球用バット。 - 打撃部の芯材の外周囲の少なくとも90°の範囲にわたって連続的に粘弾性体を積層して形成した粘弾性層を備えた軟式野球用バットにおいて、
所定の厚さに積層された前記粘弾性層の表面に、多数の切欠部が形成されていると共に前記切欠部間に非切欠部が形成されて、前記粘弾性層の横断面形状が歯車状に形成されており、
打撃時にボールが数個の前記非切欠部に接するように前記多数の切欠部が設けられていることを特徴とする軟式野球用バット。 - 請求項4において、
前記粘弾性層を形成する粘弾性体とは別の粘弾性体が前記切欠部に充填された軟式野球用バット。
Priority Applications (1)
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