JP2004241131A - 電界放出型二端子装置 - Google Patents
電界放出型二端子装置 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004241131A JP2004241131A JP2003025748A JP2003025748A JP2004241131A JP 2004241131 A JP2004241131 A JP 2004241131A JP 2003025748 A JP2003025748 A JP 2003025748A JP 2003025748 A JP2003025748 A JP 2003025748A JP 2004241131 A JP2004241131 A JP 2004241131A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- electron emission
- emission source
- region
- constant insulating
- dielectric constant
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Withdrawn
Links
Images
Landscapes
- Cold Cathode And The Manufacture (AREA)
- Electrodes For Cathode-Ray Tubes (AREA)
- Cathode-Ray Tubes And Fluorescent Screens For Display (AREA)
Abstract
【課題】アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を容易に低下させることができる電界放出型二端子装置を提供する。
【解決手段】電子放出源2の少なくとも尖端部2aには、高誘電率絶縁領域5が形成される。アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域5に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板1および電子放出源2に存する電子が高誘電率絶縁領域5に接している電子放出源2の尖端部2aに引き寄せられる。したがって、電子放出源2の尖端部2aに引き寄せられた電子により、電子放出源2から高誘電率絶縁領域5および真空領域8に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上昇する。
【選択図】 図1
【解決手段】電子放出源2の少なくとも尖端部2aには、高誘電率絶縁領域5が形成される。アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域5に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板1および電子放出源2に存する電子が高誘電率絶縁領域5に接している電子放出源2の尖端部2aに引き寄せられる。したがって、電子放出源2の尖端部2aに引き寄せられた電子により、電子放出源2から高誘電率絶縁領域5および真空領域8に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上昇する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電界放出型表示装置(FED)等の平面型画像表示装置に利用される電界放出型の冷陰極および陽極を有する二端子装置、特に、冷陰極として尖端部を有する電子放出源を有する電界放出型二端子装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図7は従来の電界放出型二端子装置の概略断面図である。また、図8は図7の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。電界放出型表示装置(FED)に代表されるフラットディスプレイパネルの冷陰極素子として、図7に示すように、陰極基板1上に形成された尖端部2aを有する電子放出源2と当該電子放出源2の周囲に形成された電子の放出を制御するための制御電極4とを具備した冷陰極素子をアレイ状に並べ、陽極基板7へ電子を放出する二端子装置が知られている。
【0003】
図7に示すような二端子装置において、陰極基板1と制御電極4とに電圧を印可すると、電子放出源2の電子は、トンネル効果により真空領域8に飛び出した後、陽極基板7に達する。このとき、陽極基板7までの間に蛍光体を設置すると、飛び出した電子の衝突により当該蛍光体を発光させることができる。
【0004】
ここで、トンネル効果は、図8に示すように、電子が電子放出源2であるn形半導体(金属でもよい)のフェルミ準位EFから真空領域8の真空準位による障壁をすり抜けて飛び出す現象である。トンネル効果が起きる確率を増やすためには、真空準位とフェルミ準位EFとのエネルギー差を示す仕事関数φ0ができるだけ小さいこと、換言すれば、電子放出源2のフェルミ準位EFにおける障壁幅W0ができるだけ狭いことが好ましい。このためには、電子放出源2における電界の強さを強くすることが必要である。そこで、電子放出源2と陽極基板7との間の電圧(アノード電圧)を高くする方法がある。
【0005】
しかしながら、アノード電圧として高い電圧が印加されると、電子放出源2および陽極基板7間の絶縁層3の絶縁性に影響を与え、陰極基板1および電子放出源2の安定性に影響を与えるため、アノード電圧は、できるだけ低いことが好ましい。
【0006】
そこで、電子放出源2の端部を尖鋭にして当該尖端部2aにおける電界を強くすることにより、アノード電圧を上昇させることなく、より低い閾値電圧でより多くの電子をトンネルさせる技術が公知である。そして、閾値電圧をより低くするため、電子放出源2の端部をより尖鋭にし、高再現性を達成するための冷陰極の製造方法等が公知になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平4−94033号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、電子放出源2の端部をより尖鋭にするには限界があり、高度な加工技術が必要となる問題があった。このような高度な加工技術を要するとコスト増になる。一方、特に、フラットディスプレイパネルには素子の微細化が必要であるため、電子放出源2も非常に微細に形成しなければならず、さらに低い閾値電圧を達成する必要がある。したがって、電子放出源2の高精度・高再現性の要求はさらに高くなり、従来の電界放出型二端子装置では、このような要求に応え得ることが困難な場合も生じてきた。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するべくなされたもので、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を容易に低下させることができる電界放出型二端子装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る電界放出型二端子装置は、陰極基板と、前記陰極基板上に形成された尖端部を有する電子放出源と、前記陰極基板上に形成され、前記電子放出源の周囲を間隙を有して取り囲む絶縁層と、前記絶縁層上に前記陰極基板および電子放出源に接することなく形成され、前記電子放出源からの電子の放出を制御する制御電極と、前記陰極基板、前記電子放出源および前記制御電極に接することなく形成された陽極基板とを具備する電界放出型二端子装置であって、前記電子放出源の少なくとも前記尖端部に、高誘電率絶縁領域が形成されたものである。
【0011】
本発明に係る電界放出型二端子装置においては、陰極基板と制御電極とが絶縁層により絶縁されている。また、陰極基板上には、尖端部を有する電子放出源が形成されている。真空中で陰極基板と陽極基板との間に電圧(アノード電圧)が所定閾値以上印加されると電子放出源の尖端部近傍においてトンネル効果が生じ、電子が真空領域をすり抜けて飛び出す。
【0012】
ここで、電子放出源の少なくとも尖端部には、高誘電率絶縁領域が形成される。高誘電率絶縁領域とは、五酸化タンタル(Ta2O5)やアルミナ(Al2O3)等の高誘電率を有する物質(一般に、high−K絶縁膜とも呼ばれる)により形成された領域をいう。
【0013】
アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板および電子放出源に存する電子が高誘電率絶縁領域に接している電子放出源の尖端部に引き寄せられる。
【0014】
ここで、高誘電率絶縁領域のバンドギャップは、一般にhigh−K絶縁物に属さない絶縁物のバンドギャップに比べて小さいことが知られている。このため、電子放出源を半導体により形成した場合であっても、電子放出源と高誘電率絶縁領域とのエネルギーギャップが小さいため、当該エネルギーギャップの影響を強く受けることなく(高誘電率絶縁領域が新たな障壁となることなく)電子放出源の尖端部における電子密度を高めることができる。
【0015】
したがって、電子放出源の尖端部に引き寄せられた電子により、電子放出源から高誘電率絶縁領域および真空領域に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0016】
また、一般に、静電容量は誘電率に比例し膜厚に反比例する。よって、高誘電率絶縁領域は、その高い誘電率により、膜厚の誤差が形成された高誘電率絶縁領域が陰極−陽極間の静電容量にとってそれほど問題とはならない。このため、電子放出源に高誘電率絶縁領域を膜状に形成する場合、形成する高誘電率絶縁膜の膜厚制御を高精度にすることなく、安定して高い静電容量を得ることができる。したがって、電子放出のための閾値電圧を低下させることができる電界放出型二端子装置を容易に形成することができる。
【0017】
好ましくは、前記電子放出源は、半導体で形成され、前記高誘電率絶縁領域の上に、前記電子放出源の電子親和力より低い仕事関数を有する金属領域がさらに形成されるように構成される。
【0018】
この場合、高誘電率絶縁領域上に形成された金属領域は、半導体により形成された電子放出源より仕事関数が小さいため、真空準位とのエネルギー差が小さいこととなる。すなわち、アノード電圧印加時に、電子は、金属領域におけるフェルミ準位から飛び出すこととなり、同じアノード電圧下でトンネル確率が増大することとなる。
【0019】
さらに、半導体である電子放出源と金属領域との間が、高誘電率絶縁領域により絶縁されることとなるため、当該高誘電率絶縁領域の上面(金属領域との境界面)と下面(電子放出源との境界面)との間に電位差(すなわち、エネルギー差)が生じる。この電位差が生じることにより、電子放出源におけるフェルミ準位に対する金属領域におけるフェルミ準位は、実効的に低下するため、電子のトンネル確率がさらに増大することとなる。
【0020】
したがって、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧をさらに下げることができる。また、この場合においても電子放出源上に形成した高誘電率絶縁領域と同様に、金属領域の膜厚制御を高精度にすることなく、安定した電界放出効果を得ることができる。
【0021】
また、本発明に係る他の電界放出型二端子装置は、陰極基板と、前記陰極基板上に形成された尖端部を有する電子放出源と、前記陰極基板上に形成され、前記電子放出源の周囲を間隙を有して取り囲む絶縁層と、前記絶縁層上に前記陰極基板および電子放出源に接することなく形成され、前記電子放出源からの電子の放出を制御する制御電極と前記陰極基板、前記電子放出源および前記制御電極に接することなく形成されたを具備する電界放出型二端子装置であって、前記電子放出源は、半導体で形成され、前記電子放出源の少なくとも前記尖端部に、前記電子放出源の電子親和力より低い仕事関数を有する金属による金属領域が形成され、前記金属による領域の上に、高誘電率絶縁領域がさらに形成されたものである。
【0022】
この場合、半導体により形成された電子放出源上に形成された金属領域は、電子放出源より仕事関数が小さいため、真空準位とのエネルギー差が小さいこととなる。すなわち、電子は、金属領域におけるフェルミ準位から飛び出すこととなるため、同じアノード電圧下でトンネル確率が増大することとなる。
【0023】
さらに、アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板、電子放出源および金属領域に存する電子が高誘電率絶縁領域に接している電子放出源の尖端部上の金属領域に引き寄せられる。
【0024】
したがって、電子放出源の尖端部上の金属領域に引き寄せられた電子により、電子放出源および金属領域から高誘電率絶縁領域および真空領域に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。まず、第1実施形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る電界放出型二端子装置の概略断面図である。また、図2は図1の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。
【0026】
本実施形態に係る電界放出型二端子装置は、図1に示すように、陰極基板1と、前記陰極基板1上に形成された尖端部2aを有する電子放出源2と、前記陰極基板1上に形成され、前記電子放出源2の周囲を間隙を有して取り囲む絶縁層3と、前記絶縁層3上に前記陰極基板1および電子放出源2に接することなく形成され、前記電子放出源2からの電子の放出を制御する制御電極4とを具備する。そして、前記電子放出源2の少なくとも前記尖端部2aに、高誘電率絶縁領域5が形成されている。さらに、制御電極4上に絶縁層3を挟んで陽極基板7が形成されており、陰極基板1と陽極基板7との間は、真空領域8となっている。
【0027】
図1に示す電界放出型二端子装置においては、陰極基板1と制御電極4とが絶縁層3により絶縁されている。また、陰極基板1上には、尖端部2aを有する電子放出源2が形成されている。本実施の形態において、陰極基板1および電子放出源2は、高濃度n形のシリコン半導体(高濃度n+Si)により形成されている。
【0028】
真空領域8中で陰極基板1と陽極基板7との間に電圧(アノード電圧)が所定閾値以上印加されると、電子放出源2の尖端部2a近傍においてトンネル効果が生じ、電子が真空領域8をすり抜けて陽極基板7に向けて飛び出す。このとき、陽極基板7までの間に蛍光体を設置すると、飛び出した電子の衝突により当該蛍光体を発光させることができる。
【0029】
ここで、トンネル効果は、図2に示すように、電子が電子放出源2であるn形半導体のフェルミ準位EFから真空領域8の真空準位による障壁をすり抜けるものである。トンネル効果が起きる確率を増やすためには、フェルミ準位EFと真空準位とのエネルギー差を示す仕事関数φ0ができるだけ小さいこと、換言すれば、電子放出源2のフェルミ準位EFにおける真空領域8による障壁幅W0ができるだけ狭いことが好ましい。このため、本実施の形態においては、電子放出源2の少なくとも尖端部2aには、高誘電率絶縁領域5が形成される。
【0030】
高誘電率絶縁領域5とは、五酸化タンタル(Ta2O5)やアルミナ(Al2O3)等の高誘電率を有する物質(一般に、high−K絶縁膜とも呼ばれる)により形成された領域をいう。高誘電率絶縁領域5は、スパッタ法やCVD法により電子放出源2上に形成される。なお、図1においては、電子放出源2上に均一膜厚の高誘電率絶縁膜が形成されているが、トンネル効果の生じる部分のほとんどは、トンネル確率の高い(すなわち、電界が最も強く、電子の最も集まり易い)電子放出源2の尖端部2aであるため、少なくとも電子放出源2の尖端部2aに形成されれば、必ずしも電子放出源2上の全域に形成されていなくてよい。
【0031】
アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域5に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板1および電子放出源2に存する電子が高誘電率絶縁領域5に接している電子放出源2の尖端部2aに引き寄せられる。
【0032】
すなわち、図2に示すように、高誘電率絶縁領域5が形成されていない場合の仕事関数φ0に対し、高誘電率絶縁領域5が形成されることによって仕事関数φ1は実効的に減少し、したがって、真空領域8による障壁幅W1も高誘電率絶縁領域5が形成されていない場合の障壁幅W0に比して減少することとなる。
【0033】
また、高誘電率絶縁領域5のバンドギャップは、一般にhigh−K絶縁物に属さない絶縁物のバンドギャップに比べて小さいことが知られている。このため、図2に示されるように、電子放出源2に対する高誘電率絶縁領域5のエネルギー障壁が小さい(例えば、Siの伝導帯のエネルギー準位ECに対するTa2O5のエネルギー障壁高さは0.2〜0.3eV程度)。このため、電子放出源2と高誘電率絶縁領域5とのエネルギーギャップの影響を強く受けることなく(高誘電率絶縁領域5が新たな障壁となることなく)電子放出源2の尖端部2aにおける電子密度を高めることができる。
【0034】
以上より、電子放出源2の尖端部2aに引き寄せられた電子により、電子放出源2から高誘電率絶縁領域5および真空領域8に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0035】
また、一般に、静電容量は誘電率に比例し膜厚に反比例する。よって、高誘電率絶縁領域5は、その高い誘電率(真空の比誘電率1に対して、例えば、Ta2O5の比誘電率は25)により、膜厚の誤差が、形成された高誘電率絶縁領域5が陰極−陽極間の静電容量にとってそれほど問題とはならない。このため、電子放出源2に高誘電率絶縁領域5を膜状に形成する場合、形成する高誘電率絶縁膜の膜厚制御を高精度にすることなく、安定して高い静電容量を得ることができる。したがって、電子放出のための閾値電圧を低下させることができる電界放出型二端子装置を容易に形成することができる。
【0036】
なお、本実施の形態においては、陰極基板1および電子放出源2にn形半導体である高濃度n+Siを用いたが、金属を用いてもよく、また、陰極基板1と電子放出源2とを異なる金属により形成してもよい。また、高誘電率絶縁領域5は、前述のように電子放出源2とのエネルギー障壁の小ささ等を考慮して適宜選択可能である。
【0037】
次に、第2実施形態について説明する。図3は本発明の第2実施形態に係る電界放出型二端子装置の概略断面図である。また、図4は図3の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0038】
本実施形態が第1実施形態と異なるのは、前記電子放出源2は、前記高誘電率絶縁領域5の上に、前記電子放出源2の電子親和力より低い仕事関数を有する金属による金属領域6がさらに形成されるように構成されることである。
【0039】
金属領域6は、高誘電率絶縁領域5と同様に、スパッタ法やCVD法により高誘電率絶縁領域5上に形成される他、蒸着によっても形成可能である。なお、図4においては、金属領域6においても高誘電率絶縁領域5上に均一膜厚の金属膜が形成されているが、これについても同様に、少なくとも電子放出源2の尖端部2a上に形成された高誘電率絶縁領域5上に形成されれば、高誘電率絶縁領域5上の全域に形成されていなくてもよい。
【0040】
ここで、金属領域6の金属は、電子放出源2の電子親和力より低い仕事関数を有すればよいが、高誘電率絶縁領域5の材質との接着性や金属自体の安定性等も考慮して適宜選択することが好ましい。例えば、電子放出源2がSi(電子親和力χ=4.15eV)、高誘電率絶縁領域5がTa2O5である場合、金属領域6には、セシウム(Cs:仕事関数φ2=2.1eV)を用いることが好ましい。
【0041】
図4に示すように、高誘電率絶縁領域5上に形成された金属領域6は、半導体により形成された電子放出源2の電子親和力(真空準位と電子放出源2の伝導帯の底のエネルギー準位ECとのエネルギー差)より仕事関数(真空準位とフェルミ準位EFmとのエネルギー差)が小さい(仕事関数φ2)。このため、アノード電圧印加時に、電子は、金属領域6におけるフェルミ準位EFmから飛び出すこととなり、結果的に同じアノード電圧下でトンネル確率が増大することとなる。
【0042】
さらに、半導体である電子放出源2と金属領域6との間が、高誘電率絶縁領域5により絶縁されることとなるため、当該高誘電率絶縁領域5の上面(金属領域6との境界面)と下面(電子放出源2との境界面)との間に電位差(すなわち、エネルギー差)が生じる。このことは、図4においてトンネル領域である障壁幅W2が図2における障壁幅W1に比して減少することによって示されている。この電位差が生じることにより、電子放出源2における仕事関数φ1に対して陰極基板2から見た実質的な仕事関数φ3は、実効的にさらに低下することとなる。
【0043】
したがって、真空領域8の障壁幅W2も金属領域6が形成されていない場合の障壁幅W0,W1に比して減少することとなる。したがって、電子のトンネル確率がさらに増大することとなる。
【0044】
したがって、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧をさらに下げることができる。また、この場合においても電子放出源上に形成した高誘電率絶縁領域5と同様に、金属領域6の膜厚制御を高精度にすることなく、安定した電界放出効果を得ることができる。
【0045】
なお、高誘電率絶縁領域5と金属領域6とを入れ替えて形成してもよい。すなわち、半導体で形成された電子放出源2の少なくとも尖端部2aに、前記電子放出源2の電子親和力より低い仕事関数を有する金属による金属領域6が形成され、前記金属による金属領域6の上に、高誘電率絶縁領域5がさらに形成されてもよい。
【0046】
この場合においても、半導体により形成された電子放出源2上に形成された金属領域6は、電子放出源より仕事関数が小さいため、真空準位とのエネルギー差が小さいこととなる。すなわち、電子は、金属領域6におけるフェルミ準位EFmから飛び出すこととなるため、同じアノード電圧下でトンネル確率が増大することとなる。
【0047】
さらに、アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域5に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板1、電子放出源2および金属領域6に存する電子が高誘電率絶縁領域5に接している電子放出源2の尖端部2a上の金属領域6に引き寄せられる。
【0048】
したがって、電子放出源2の尖端部2a上の金属領域6に引き寄せられた電子により、電子放出源2および金属領域6から高誘電率絶縁領域5および真空領域8に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0049】
なお、第2実施形態においては、電子放出源2が半導体である場合について説明したが、電子放出源2が金属であっても同様の効果を得ることができる。この場合、電子放出源2の金属の仕事関数より小さい仕事関数を有する金属領域6を形成すれば、同様の効果を得ることができる。
【0050】
【実施例】
以下に、第1実施形態の構成と従来の構成との比較実験の結果を示す。図5は実施例における電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【0051】
図5に示すようなサイズの二端子装置を形成し、アノード電圧Vを印加していくことにより、放出される(陽極基板7に到達する)電子の数および閾値電圧を放出電流密度Iとして測定した。なお、図5において制御電極4は省略してある。
【0052】
陰極基板1および電子放出源2には、高濃度n形シリコン(n+Si)を用い、高誘電率絶縁領域5には、五酸化タンタル(Ta2O5)を用いた。高誘電率絶縁領域5は、電子放出源2上の全域に膜状に形成し、その膜厚を10nmとした。また、比較例としての従来の構成の二端子装置は、図5において高誘電率絶縁領域5の部分まで電子放出源2である(すなわち、電子放出源2の高さが100nmである)二端子装置を用いて測定した。
【0053】
図6は図5の素子における電圧−電流特性を示す図である。横軸がアノード電圧に印可する印加電圧V[V]を、縦軸が陽極基板7に到達した放出電流密度I[Acm−2]をそれぞれ示している。そして、三角プロットが実施例を、丸プロットが従来例をそれぞれ示している。
【0054】
図6に示されるように、実施例においては、閾値電圧Vth1がVth1=90Vとなり、従来例においては、閾値電圧Vth0がVth0=100Vとなった。したがって、実施例の二端子装置を用いることにより、比較例より低い電圧で電子を放出させることができた。
【0055】
【発明の効果】
本発明に係る電界放出型二端子装置によれば、電子放出源の尖端部に引き寄せられた電子により、電子放出源から高誘電率絶縁領域および真空領域に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0056】
また、高誘電率絶縁領域は、膜厚依存が無視できるほどの高い誘電率を有するため、電子放出源に高誘電率絶縁領域を膜状に形成する場合、形成する高誘電率絶縁膜の膜厚制御を高精度にすることなく、安定して高い静電容量を得ることができる。したがって、電子放出のための閾値電圧を低下させることができる電界放出型二端子装置を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【図2】図1の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【図4】図3の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。
【図5】第1実施例における電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【図6】図5の二端子装置における電圧−電流特性を示す図である。
【図7】従来の電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【図8】図7の電子放出源近傍におけるエネルギーバンド構造を示す図である。
【符号の説明】
1 陰極基板
2 電子放出源
3 絶縁膜
4 制御電極
5 高誘電率絶縁領域
6 金属領域
7 陽極基板
【発明の属する技術分野】
本発明は電界放出型表示装置(FED)等の平面型画像表示装置に利用される電界放出型の冷陰極および陽極を有する二端子装置、特に、冷陰極として尖端部を有する電子放出源を有する電界放出型二端子装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図7は従来の電界放出型二端子装置の概略断面図である。また、図8は図7の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。電界放出型表示装置(FED)に代表されるフラットディスプレイパネルの冷陰極素子として、図7に示すように、陰極基板1上に形成された尖端部2aを有する電子放出源2と当該電子放出源2の周囲に形成された電子の放出を制御するための制御電極4とを具備した冷陰極素子をアレイ状に並べ、陽極基板7へ電子を放出する二端子装置が知られている。
【0003】
図7に示すような二端子装置において、陰極基板1と制御電極4とに電圧を印可すると、電子放出源2の電子は、トンネル効果により真空領域8に飛び出した後、陽極基板7に達する。このとき、陽極基板7までの間に蛍光体を設置すると、飛び出した電子の衝突により当該蛍光体を発光させることができる。
【0004】
ここで、トンネル効果は、図8に示すように、電子が電子放出源2であるn形半導体(金属でもよい)のフェルミ準位EFから真空領域8の真空準位による障壁をすり抜けて飛び出す現象である。トンネル効果が起きる確率を増やすためには、真空準位とフェルミ準位EFとのエネルギー差を示す仕事関数φ0ができるだけ小さいこと、換言すれば、電子放出源2のフェルミ準位EFにおける障壁幅W0ができるだけ狭いことが好ましい。このためには、電子放出源2における電界の強さを強くすることが必要である。そこで、電子放出源2と陽極基板7との間の電圧(アノード電圧)を高くする方法がある。
【0005】
しかしながら、アノード電圧として高い電圧が印加されると、電子放出源2および陽極基板7間の絶縁層3の絶縁性に影響を与え、陰極基板1および電子放出源2の安定性に影響を与えるため、アノード電圧は、できるだけ低いことが好ましい。
【0006】
そこで、電子放出源2の端部を尖鋭にして当該尖端部2aにおける電界を強くすることにより、アノード電圧を上昇させることなく、より低い閾値電圧でより多くの電子をトンネルさせる技術が公知である。そして、閾値電圧をより低くするため、電子放出源2の端部をより尖鋭にし、高再現性を達成するための冷陰極の製造方法等が公知になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平4−94033号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、電子放出源2の端部をより尖鋭にするには限界があり、高度な加工技術が必要となる問題があった。このような高度な加工技術を要するとコスト増になる。一方、特に、フラットディスプレイパネルには素子の微細化が必要であるため、電子放出源2も非常に微細に形成しなければならず、さらに低い閾値電圧を達成する必要がある。したがって、電子放出源2の高精度・高再現性の要求はさらに高くなり、従来の電界放出型二端子装置では、このような要求に応え得ることが困難な場合も生じてきた。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するべくなされたもので、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を容易に低下させることができる電界放出型二端子装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る電界放出型二端子装置は、陰極基板と、前記陰極基板上に形成された尖端部を有する電子放出源と、前記陰極基板上に形成され、前記電子放出源の周囲を間隙を有して取り囲む絶縁層と、前記絶縁層上に前記陰極基板および電子放出源に接することなく形成され、前記電子放出源からの電子の放出を制御する制御電極と、前記陰極基板、前記電子放出源および前記制御電極に接することなく形成された陽極基板とを具備する電界放出型二端子装置であって、前記電子放出源の少なくとも前記尖端部に、高誘電率絶縁領域が形成されたものである。
【0011】
本発明に係る電界放出型二端子装置においては、陰極基板と制御電極とが絶縁層により絶縁されている。また、陰極基板上には、尖端部を有する電子放出源が形成されている。真空中で陰極基板と陽極基板との間に電圧(アノード電圧)が所定閾値以上印加されると電子放出源の尖端部近傍においてトンネル効果が生じ、電子が真空領域をすり抜けて飛び出す。
【0012】
ここで、電子放出源の少なくとも尖端部には、高誘電率絶縁領域が形成される。高誘電率絶縁領域とは、五酸化タンタル(Ta2O5)やアルミナ(Al2O3)等の高誘電率を有する物質(一般に、high−K絶縁膜とも呼ばれる)により形成された領域をいう。
【0013】
アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板および電子放出源に存する電子が高誘電率絶縁領域に接している電子放出源の尖端部に引き寄せられる。
【0014】
ここで、高誘電率絶縁領域のバンドギャップは、一般にhigh−K絶縁物に属さない絶縁物のバンドギャップに比べて小さいことが知られている。このため、電子放出源を半導体により形成した場合であっても、電子放出源と高誘電率絶縁領域とのエネルギーギャップが小さいため、当該エネルギーギャップの影響を強く受けることなく(高誘電率絶縁領域が新たな障壁となることなく)電子放出源の尖端部における電子密度を高めることができる。
【0015】
したがって、電子放出源の尖端部に引き寄せられた電子により、電子放出源から高誘電率絶縁領域および真空領域に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0016】
また、一般に、静電容量は誘電率に比例し膜厚に反比例する。よって、高誘電率絶縁領域は、その高い誘電率により、膜厚の誤差が形成された高誘電率絶縁領域が陰極−陽極間の静電容量にとってそれほど問題とはならない。このため、電子放出源に高誘電率絶縁領域を膜状に形成する場合、形成する高誘電率絶縁膜の膜厚制御を高精度にすることなく、安定して高い静電容量を得ることができる。したがって、電子放出のための閾値電圧を低下させることができる電界放出型二端子装置を容易に形成することができる。
【0017】
好ましくは、前記電子放出源は、半導体で形成され、前記高誘電率絶縁領域の上に、前記電子放出源の電子親和力より低い仕事関数を有する金属領域がさらに形成されるように構成される。
【0018】
この場合、高誘電率絶縁領域上に形成された金属領域は、半導体により形成された電子放出源より仕事関数が小さいため、真空準位とのエネルギー差が小さいこととなる。すなわち、アノード電圧印加時に、電子は、金属領域におけるフェルミ準位から飛び出すこととなり、同じアノード電圧下でトンネル確率が増大することとなる。
【0019】
さらに、半導体である電子放出源と金属領域との間が、高誘電率絶縁領域により絶縁されることとなるため、当該高誘電率絶縁領域の上面(金属領域との境界面)と下面(電子放出源との境界面)との間に電位差(すなわち、エネルギー差)が生じる。この電位差が生じることにより、電子放出源におけるフェルミ準位に対する金属領域におけるフェルミ準位は、実効的に低下するため、電子のトンネル確率がさらに増大することとなる。
【0020】
したがって、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧をさらに下げることができる。また、この場合においても電子放出源上に形成した高誘電率絶縁領域と同様に、金属領域の膜厚制御を高精度にすることなく、安定した電界放出効果を得ることができる。
【0021】
また、本発明に係る他の電界放出型二端子装置は、陰極基板と、前記陰極基板上に形成された尖端部を有する電子放出源と、前記陰極基板上に形成され、前記電子放出源の周囲を間隙を有して取り囲む絶縁層と、前記絶縁層上に前記陰極基板および電子放出源に接することなく形成され、前記電子放出源からの電子の放出を制御する制御電極と前記陰極基板、前記電子放出源および前記制御電極に接することなく形成されたを具備する電界放出型二端子装置であって、前記電子放出源は、半導体で形成され、前記電子放出源の少なくとも前記尖端部に、前記電子放出源の電子親和力より低い仕事関数を有する金属による金属領域が形成され、前記金属による領域の上に、高誘電率絶縁領域がさらに形成されたものである。
【0022】
この場合、半導体により形成された電子放出源上に形成された金属領域は、電子放出源より仕事関数が小さいため、真空準位とのエネルギー差が小さいこととなる。すなわち、電子は、金属領域におけるフェルミ準位から飛び出すこととなるため、同じアノード電圧下でトンネル確率が増大することとなる。
【0023】
さらに、アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板、電子放出源および金属領域に存する電子が高誘電率絶縁領域に接している電子放出源の尖端部上の金属領域に引き寄せられる。
【0024】
したがって、電子放出源の尖端部上の金属領域に引き寄せられた電子により、電子放出源および金属領域から高誘電率絶縁領域および真空領域に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。まず、第1実施形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る電界放出型二端子装置の概略断面図である。また、図2は図1の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。
【0026】
本実施形態に係る電界放出型二端子装置は、図1に示すように、陰極基板1と、前記陰極基板1上に形成された尖端部2aを有する電子放出源2と、前記陰極基板1上に形成され、前記電子放出源2の周囲を間隙を有して取り囲む絶縁層3と、前記絶縁層3上に前記陰極基板1および電子放出源2に接することなく形成され、前記電子放出源2からの電子の放出を制御する制御電極4とを具備する。そして、前記電子放出源2の少なくとも前記尖端部2aに、高誘電率絶縁領域5が形成されている。さらに、制御電極4上に絶縁層3を挟んで陽極基板7が形成されており、陰極基板1と陽極基板7との間は、真空領域8となっている。
【0027】
図1に示す電界放出型二端子装置においては、陰極基板1と制御電極4とが絶縁層3により絶縁されている。また、陰極基板1上には、尖端部2aを有する電子放出源2が形成されている。本実施の形態において、陰極基板1および電子放出源2は、高濃度n形のシリコン半導体(高濃度n+Si)により形成されている。
【0028】
真空領域8中で陰極基板1と陽極基板7との間に電圧(アノード電圧)が所定閾値以上印加されると、電子放出源2の尖端部2a近傍においてトンネル効果が生じ、電子が真空領域8をすり抜けて陽極基板7に向けて飛び出す。このとき、陽極基板7までの間に蛍光体を設置すると、飛び出した電子の衝突により当該蛍光体を発光させることができる。
【0029】
ここで、トンネル効果は、図2に示すように、電子が電子放出源2であるn形半導体のフェルミ準位EFから真空領域8の真空準位による障壁をすり抜けるものである。トンネル効果が起きる確率を増やすためには、フェルミ準位EFと真空準位とのエネルギー差を示す仕事関数φ0ができるだけ小さいこと、換言すれば、電子放出源2のフェルミ準位EFにおける真空領域8による障壁幅W0ができるだけ狭いことが好ましい。このため、本実施の形態においては、電子放出源2の少なくとも尖端部2aには、高誘電率絶縁領域5が形成される。
【0030】
高誘電率絶縁領域5とは、五酸化タンタル(Ta2O5)やアルミナ(Al2O3)等の高誘電率を有する物質(一般に、high−K絶縁膜とも呼ばれる)により形成された領域をいう。高誘電率絶縁領域5は、スパッタ法やCVD法により電子放出源2上に形成される。なお、図1においては、電子放出源2上に均一膜厚の高誘電率絶縁膜が形成されているが、トンネル効果の生じる部分のほとんどは、トンネル確率の高い(すなわち、電界が最も強く、電子の最も集まり易い)電子放出源2の尖端部2aであるため、少なくとも電子放出源2の尖端部2aに形成されれば、必ずしも電子放出源2上の全域に形成されていなくてよい。
【0031】
アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域5に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板1および電子放出源2に存する電子が高誘電率絶縁領域5に接している電子放出源2の尖端部2aに引き寄せられる。
【0032】
すなわち、図2に示すように、高誘電率絶縁領域5が形成されていない場合の仕事関数φ0に対し、高誘電率絶縁領域5が形成されることによって仕事関数φ1は実効的に減少し、したがって、真空領域8による障壁幅W1も高誘電率絶縁領域5が形成されていない場合の障壁幅W0に比して減少することとなる。
【0033】
また、高誘電率絶縁領域5のバンドギャップは、一般にhigh−K絶縁物に属さない絶縁物のバンドギャップに比べて小さいことが知られている。このため、図2に示されるように、電子放出源2に対する高誘電率絶縁領域5のエネルギー障壁が小さい(例えば、Siの伝導帯のエネルギー準位ECに対するTa2O5のエネルギー障壁高さは0.2〜0.3eV程度)。このため、電子放出源2と高誘電率絶縁領域5とのエネルギーギャップの影響を強く受けることなく(高誘電率絶縁領域5が新たな障壁となることなく)電子放出源2の尖端部2aにおける電子密度を高めることができる。
【0034】
以上より、電子放出源2の尖端部2aに引き寄せられた電子により、電子放出源2から高誘電率絶縁領域5および真空領域8に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0035】
また、一般に、静電容量は誘電率に比例し膜厚に反比例する。よって、高誘電率絶縁領域5は、その高い誘電率(真空の比誘電率1に対して、例えば、Ta2O5の比誘電率は25)により、膜厚の誤差が、形成された高誘電率絶縁領域5が陰極−陽極間の静電容量にとってそれほど問題とはならない。このため、電子放出源2に高誘電率絶縁領域5を膜状に形成する場合、形成する高誘電率絶縁膜の膜厚制御を高精度にすることなく、安定して高い静電容量を得ることができる。したがって、電子放出のための閾値電圧を低下させることができる電界放出型二端子装置を容易に形成することができる。
【0036】
なお、本実施の形態においては、陰極基板1および電子放出源2にn形半導体である高濃度n+Siを用いたが、金属を用いてもよく、また、陰極基板1と電子放出源2とを異なる金属により形成してもよい。また、高誘電率絶縁領域5は、前述のように電子放出源2とのエネルギー障壁の小ささ等を考慮して適宜選択可能である。
【0037】
次に、第2実施形態について説明する。図3は本発明の第2実施形態に係る電界放出型二端子装置の概略断面図である。また、図4は図3の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0038】
本実施形態が第1実施形態と異なるのは、前記電子放出源2は、前記高誘電率絶縁領域5の上に、前記電子放出源2の電子親和力より低い仕事関数を有する金属による金属領域6がさらに形成されるように構成されることである。
【0039】
金属領域6は、高誘電率絶縁領域5と同様に、スパッタ法やCVD法により高誘電率絶縁領域5上に形成される他、蒸着によっても形成可能である。なお、図4においては、金属領域6においても高誘電率絶縁領域5上に均一膜厚の金属膜が形成されているが、これについても同様に、少なくとも電子放出源2の尖端部2a上に形成された高誘電率絶縁領域5上に形成されれば、高誘電率絶縁領域5上の全域に形成されていなくてもよい。
【0040】
ここで、金属領域6の金属は、電子放出源2の電子親和力より低い仕事関数を有すればよいが、高誘電率絶縁領域5の材質との接着性や金属自体の安定性等も考慮して適宜選択することが好ましい。例えば、電子放出源2がSi(電子親和力χ=4.15eV)、高誘電率絶縁領域5がTa2O5である場合、金属領域6には、セシウム(Cs:仕事関数φ2=2.1eV)を用いることが好ましい。
【0041】
図4に示すように、高誘電率絶縁領域5上に形成された金属領域6は、半導体により形成された電子放出源2の電子親和力(真空準位と電子放出源2の伝導帯の底のエネルギー準位ECとのエネルギー差)より仕事関数(真空準位とフェルミ準位EFmとのエネルギー差)が小さい(仕事関数φ2)。このため、アノード電圧印加時に、電子は、金属領域6におけるフェルミ準位EFmから飛び出すこととなり、結果的に同じアノード電圧下でトンネル確率が増大することとなる。
【0042】
さらに、半導体である電子放出源2と金属領域6との間が、高誘電率絶縁領域5により絶縁されることとなるため、当該高誘電率絶縁領域5の上面(金属領域6との境界面)と下面(電子放出源2との境界面)との間に電位差(すなわち、エネルギー差)が生じる。このことは、図4においてトンネル領域である障壁幅W2が図2における障壁幅W1に比して減少することによって示されている。この電位差が生じることにより、電子放出源2における仕事関数φ1に対して陰極基板2から見た実質的な仕事関数φ3は、実効的にさらに低下することとなる。
【0043】
したがって、真空領域8の障壁幅W2も金属領域6が形成されていない場合の障壁幅W0,W1に比して減少することとなる。したがって、電子のトンネル確率がさらに増大することとなる。
【0044】
したがって、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧をさらに下げることができる。また、この場合においても電子放出源上に形成した高誘電率絶縁領域5と同様に、金属領域6の膜厚制御を高精度にすることなく、安定した電界放出効果を得ることができる。
【0045】
なお、高誘電率絶縁領域5と金属領域6とを入れ替えて形成してもよい。すなわち、半導体で形成された電子放出源2の少なくとも尖端部2aに、前記電子放出源2の電子親和力より低い仕事関数を有する金属による金属領域6が形成され、前記金属による金属領域6の上に、高誘電率絶縁領域5がさらに形成されてもよい。
【0046】
この場合においても、半導体により形成された電子放出源2上に形成された金属領域6は、電子放出源より仕事関数が小さいため、真空準位とのエネルギー差が小さいこととなる。すなわち、電子は、金属領域6におけるフェルミ準位EFmから飛び出すこととなるため、同じアノード電圧下でトンネル確率が増大することとなる。
【0047】
さらに、アノード電圧が印加されることにより高誘電率絶縁領域5に電圧が印加されると、誘電分極が起こるため、陰極基板1、電子放出源2および金属領域6に存する電子が高誘電率絶縁領域5に接している電子放出源2の尖端部2a上の金属領域6に引き寄せられる。
【0048】
したがって、電子放出源2の尖端部2a上の金属領域6に引き寄せられた電子により、電子放出源2および金属領域6から高誘電率絶縁領域5および真空領域8に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0049】
なお、第2実施形態においては、電子放出源2が半導体である場合について説明したが、電子放出源2が金属であっても同様の効果を得ることができる。この場合、電子放出源2の金属の仕事関数より小さい仕事関数を有する金属領域6を形成すれば、同様の効果を得ることができる。
【0050】
【実施例】
以下に、第1実施形態の構成と従来の構成との比較実験の結果を示す。図5は実施例における電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【0051】
図5に示すようなサイズの二端子装置を形成し、アノード電圧Vを印加していくことにより、放出される(陽極基板7に到達する)電子の数および閾値電圧を放出電流密度Iとして測定した。なお、図5において制御電極4は省略してある。
【0052】
陰極基板1および電子放出源2には、高濃度n形シリコン(n+Si)を用い、高誘電率絶縁領域5には、五酸化タンタル(Ta2O5)を用いた。高誘電率絶縁領域5は、電子放出源2上の全域に膜状に形成し、その膜厚を10nmとした。また、比較例としての従来の構成の二端子装置は、図5において高誘電率絶縁領域5の部分まで電子放出源2である(すなわち、電子放出源2の高さが100nmである)二端子装置を用いて測定した。
【0053】
図6は図5の素子における電圧−電流特性を示す図である。横軸がアノード電圧に印可する印加電圧V[V]を、縦軸が陽極基板7に到達した放出電流密度I[Acm−2]をそれぞれ示している。そして、三角プロットが実施例を、丸プロットが従来例をそれぞれ示している。
【0054】
図6に示されるように、実施例においては、閾値電圧Vth1がVth1=90Vとなり、従来例においては、閾値電圧Vth0がVth0=100Vとなった。したがって、実施例の二端子装置を用いることにより、比較例より低い電圧で電子を放出させることができた。
【0055】
【発明の効果】
本発明に係る電界放出型二端子装置によれば、電子放出源の尖端部に引き寄せられた電子により、電子放出源から高誘電率絶縁領域および真空領域に飛び出すトンネル確率が上がり、放出電流密度が上がるため、アノード電圧を上昇させることなく、電子放出のための閾値電圧を下げることができる。
【0056】
また、高誘電率絶縁領域は、膜厚依存が無視できるほどの高い誘電率を有するため、電子放出源に高誘電率絶縁領域を膜状に形成する場合、形成する高誘電率絶縁膜の膜厚制御を高精度にすることなく、安定して高い静電容量を得ることができる。したがって、電子放出のための閾値電圧を低下させることができる電界放出型二端子装置を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【図2】図1の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【図4】図3の電子放出源近傍のエネルギーバンド構造を示す図である。
【図5】第1実施例における電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【図6】図5の二端子装置における電圧−電流特性を示す図である。
【図7】従来の電界放出型二端子装置の概略断面図である。
【図8】図7の電子放出源近傍におけるエネルギーバンド構造を示す図である。
【符号の説明】
1 陰極基板
2 電子放出源
3 絶縁膜
4 制御電極
5 高誘電率絶縁領域
6 金属領域
7 陽極基板
Claims (3)
- 陰極基板と、前記陰極基板上に形成された尖端部を有する電子放出源と、前記陰極基板上に形成され、前記電子放出源の周囲を間隙を有して取り囲む絶縁層と、前記絶縁層上に前記陰極基板および電子放出源に接することなく形成され、前記電子放出源からの電子の放出を制御する制御電極と、前記陰極基板、前記電子放出源および前記制御電極に接することなく形成された陽極基板とを具備する電界放出型二端子装置であって、
前記電子放出源の少なくとも前記尖端部に、高誘電率絶縁領域が形成されたことを特徴とする電界放出型二端子装置。 - 前記電子放出源は、半導体で形成され、前記高誘電率絶縁領域の上に、前記電子放出源の電子親和力より低い仕事関数を有する金属による金属領域がさらに形成されたことを特徴とする請求項1記載の電界放出型二端子装置。
- 陰極基板と、前記陰極基板上に形成された尖端部を有する電子放出源と、前記陰極基板上に形成され、前記電子放出源の周囲を間隙を有して取り囲む絶縁層と、前記絶縁層上に前記陰極基板および電子放出源に接することなく形成され、前記電子放出源からの電子の放出を制御する制御電極と、陽極基板とを具備する電界放出型二端子装置であって、
前記電子放出源は、半導体で形成され、前記電子放出源の少なくとも前記尖端部に、前記電子放出源の電子親和力より低い仕事関数を有する金属による金属領域が形成され、
前記金属による領域の上に、高誘電率絶縁領域がさらに形成されたことを特徴とする電界放出型二端子装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003025748A JP2004241131A (ja) | 2003-02-03 | 2003-02-03 | 電界放出型二端子装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003025748A JP2004241131A (ja) | 2003-02-03 | 2003-02-03 | 電界放出型二端子装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004241131A true JP2004241131A (ja) | 2004-08-26 |
Family
ID=32953953
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003025748A Withdrawn JP2004241131A (ja) | 2003-02-03 | 2003-02-03 | 電界放出型二端子装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004241131A (ja) |
-
2003
- 2003-02-03 JP JP2003025748A patent/JP2004241131A/ja not_active Withdrawn
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US6204597B1 (en) | Field emission device having dielectric focusing layers | |
JP3235172B2 (ja) | 電界電子放出装置 | |
US7652418B2 (en) | Electronic emission device, electron emission display device having the same, and method of manufacturing the electron emission device | |
US5192240A (en) | Method of manufacturing a microelectronic vacuum device | |
US5445550A (en) | Lateral field emitter device and method of manufacturing same | |
US6630781B2 (en) | Insulated electrode structures for a display device | |
JP2005243641A (ja) | 電子放出素子とその製造方法 | |
US5719406A (en) | Field emission device having a charge bleed-off barrier | |
US5969467A (en) | Field emission cathode and cleaning method therefor | |
JP2006156388A (ja) | 電界放出表示装置 | |
JP2007035453A (ja) | 電子放出素子、及びそれを用いた電子放出型のセンサ、電気分解装置 | |
JPH0748346B2 (ja) | 電界放出冷陰極素子 | |
US6777169B2 (en) | Method of forming emitter tips for use in a field emission display | |
JP2004241131A (ja) | 電界放出型二端子装置 | |
JP2002520770A (ja) | 電界放射素子 | |
JP3079086B2 (ja) | 電界放射型電子源の製造方法 | |
JPH0652788A (ja) | 電界放出型電子源装置およびその製造方法 | |
US7443090B2 (en) | Surface-emission cathodes having cantilevered electrodes | |
JP2000090811A (ja) | 冷電子放出素子とその製造方法 | |
Chubun et al. | Field-emission characterization of the 10× 10 singly addressable double-gated polysilicon tip array | |
JP2004139762A (ja) | 電子放出素子 | |
JP2000268703A (ja) | 電界放出デバイス | |
JP3487230B2 (ja) | 電界放射型電子源およびその製造方法およびディスプレイ装置 | |
JP3539305B2 (ja) | 電界放射型電子源およびその製造方法 | |
JPH06223705A (ja) | 冷陰極素子 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
RD04 | Notification of resignation of power of attorney |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7424 Effective date: 20040623 |
|
A300 | Withdrawal of application because of no request for examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300 Effective date: 20060404 |