JP2004236642A - 昆虫細胞のゲノムに外来dnaを導入するための方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】昆虫細胞への遺伝子導入にピギーバックトランスポゼースタンパク質を用いることで、組換え効率の向上、活性のあるトランスポゾンが自然界へ拡散する危険性を排除する。
【解決手段】以下の2つを細胞に導入する工程を含む、昆虫細胞に外来DNAを導入するための方法。
(a) ピギーバック(piggyBac)トランスポゾンの逆位反復配列間に外来DNAの付与されたDNA(b) 逆位反復配列に対し活性のある、大腸菌により生産されたピギーバックトランスポゼースタンパク質
この方法により、組換え効率の向上、活性のあるトランスポゾンが自然界へ拡散する危険性を排除することができる。
【選択図】なし
【解決手段】以下の2つを細胞に導入する工程を含む、昆虫細胞に外来DNAを導入するための方法。
(a) ピギーバック(piggyBac)トランスポゾンの逆位反復配列間に外来DNAの付与されたDNA(b) 逆位反復配列に対し活性のある、大腸菌により生産されたピギーバックトランスポゼースタンパク質
この方法により、組換え効率の向上、活性のあるトランスポゾンが自然界へ拡散する危険性を排除することができる。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はトランスポゼースの機能を利用した、昆虫細胞に外来DNAを付与するための方法に属する。
【0002】
【従来の技術】
真核・原核生物由来のある種のDNA因子は、別の遺伝子座へと転移することができる。一般にこうした転移因子はトランスポゾンと呼ばれている。トランスポゾンは転移の機構により二つのクラスに分類されている。RNAを介し逆転写酵素を用いて転移するクラス1と、その他のトランスポゾンが分類されるクラス2である。現在昆虫において知られている主なクラス2トランスポゾンとしてP因子、ミノス(Minos)、マリナー(mariner)、ピギーバック(piggyBac)などがあり、こうしたクラス2トランスポゾンの持つ転移能力を利用して、ゲノムに外来のDNA物質を導入するための研究が進められてきた(非特許文献1)。
【0003】
1997年、米国農務省らによりTrichoplusia ni由来トランスポゾンであるピギーバックを利用した、2種類のDNAを用いる遺伝子導入システムに関する特許が登録された(特許文献1)。
【0004】
2000年、この技術を用いて産業上重要な昆虫であるカイコガ(Bombyx mori)ゲノムにクラゲ緑色蛍光タンパク質遺伝子を、効率約2%で導入した報告がなされた(非特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】
米国特許6218185号公報
【非特許文献1】
インセクト バイオケミストリー アンド モレキュラー バイオロジー(Insect Biochemistry and Molecular Biology) 31,111−128,2001
【非特許文献2】
ネイチャー バイオテクノロジー(Nature biotechnology) 18,81−84,2000
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
米国農務省らによる特許(米国特許6218185号公報)ではピギーバックトランスポゾンの逆位反復配列に対して活性のあるトランスポゼースをコードするDNAを用いる必要がある。ここでの問題点として、活性のあるトランスポゼース遺伝子が自然界に広がる危険性が指摘されている(バイオサイエンスとインダストリー59,853−856,2001)。ショウジョウバエの場合、自然突然変異の大半はトランスポゾンによる遺伝子の変化により引き起こされると考えられており、こうした変異原性ゆえに、活性のあるトランスポゾンを持つ個体は淘汰されていく方向に選択圧がかかる。例えば昆虫の代表的なトランスポゾンであるマリナー様因子は、ヒトをはじめとした動物や植物にも見出され、真核生物すべてに分布していることが分かってきたが、自然界で実際に活性を有していたものはたった一つであった(ジェネティックス(Genetics) 128,311−318,1991)。このことは活性のあるマリナー様因子が生物に何らかの害を及ぼす存在であったことを示唆している。すなわち従来の米国農務省らによる遺伝子導入技術では、自然界にはほとんど存在しない活性のあるトランスポゾンをコードする遺伝子がゲノムに組み込まれ、自然界へと広がる危険性があった。なおカイコ卵に導入した外来遺伝子がゲノムに組み込まれた例としては、1996年の報告(Appl. Entomol. Zool. 31,587−596,1996)がある。
【0007】
2000年に報告されたカイコガ(Bombyx mori)ゲノムへのクラゲ緑色蛍光タンパク質遺伝子の導入技術では(ネイチャー バイオテクノロジー(Nature biotechnology)18,81−84,2000)、遺伝子組換え個体が得られる頻度が約2%と低いといった問題点があった。これは遺伝子組換え効率の鍵となる細胞内でのトランスポゼースタンパク質の発現量をコントロールすることができないことが一因と考えられる。この効率の低さのため、従来は遺伝子組換え個体を得るために1000個以上のカイコ卵へマイクロインジェクションを行うといった労力が必要であった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記課題すなわち低組換え効率、活性のあるトランスポゾンをコードする遺伝子が染色体に組み込まれて自然界へと広がる危険性を共に解決できる手法を鋭意検討した結果、大腸菌より発現させたピギーバックトランスポゼースタンパク質を用いる手法により、課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の2つ、「(a) ピギーバック(piggyBac)トランスポゾンの逆位反復配列間に外来DNAの付与されたDNA (b) 逆位反復配列に対し活性のある、大腸菌により生産されたピギーバックトランスポゼースタンパク質」を細胞に導入することを特徴とする、昆虫細胞に外来DNAを導入するための方法、および1〜30個のアミノ酸を付与した組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
まず本発明における昆虫とは特に限定されるものではないが、好ましくは鱗翅目昆虫、より好ましくはカイコガ(Bombyx mori)由来細胞、さらに好ましくはカイコガ(Bombyx mori)の卵に含まれる細胞である。
【0011】
ピギーバックトランスポゾンとは両端に13塩基対の逆位配列と、内部に約2.1k塩基対のORFを有する転位因子である。本発明において使用されるピギーバックトランスポゾンをクローニングする方法に特に制限はない。既知の遺伝子情報に基づき、PCR(polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝領域を増幅取得する方法、既知の遺伝子情報に基づきゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性や酵素活性を指標としてクローニングする方法などが挙げられる。本発明においては、これらの遺伝子は、遺伝的多形性などによる変異型も含む。なお、遺伝的多形性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものをいう。好ましくはTrichoplusia ni cell line TN−368、Autographa californica NPV(AcNPV)、Galleria mellonea NPV(GmMNPV)由来のピギーバックトランスポゾンを用いることができる。更に好ましくはGmMNPV由来ピギーバックの一部を持つプラスミドpHA3PIGやp3E1.2(Nature biotechnology 18,81−84,2000)が用いられる。
【0012】
また本発明で昆虫細胞に導入する外来DNAとしては特に限定されるものではなく、外来遺伝子配列のいかなるものでも良く、タンパク質をコードしていない領域であっても良い。好ましくはタンパク質をコードする領域である。また外来遺伝子はその発現を制御できるように設計されており、通常は昆虫細胞内で発現するプロモーターを上流に、任意のポリA付加配列を下流に連結した構造を持つ。さらにプロモーターとの間に任意の遺伝子由来シグナル配列などを連結しても良く、ポリA付加配列との間にも任意の遺伝子配列を連結しても良い。また人工的に設計、合成された遺伝子配列を連結することもできる。プロモーターについて、特に限定されるものではなく、どのような生物由来であっても昆虫細胞内で発現するプロモーターであればよい。また人工的に合成、変化させたものであっても構わない。好ましくは3xP3プロモーター(Insect Biochemistry and MolecularBiology 31,1137−1143,2001)やアクチンプロモーター、転写因子プロモーター、コリオンプロモーター、キューティクルタンパクプロモーター、抗菌タンパク・ペプチドプロモーター、貯蔵タンパクプロモーター、ビテロジェニンプロモーター、バキュロウイルスのポリヘドリンプロモーターなどが挙げられる。またカイコ絹糸腺で特異的にタンパク質の発現を誘導するように工夫されたプロモーターを用いても良い。例えば、フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、p25プロモーター、セリシンプロモーターなどのカイコ絹糸腺タンパク質のプロモーターが挙げられる。更に好ましくはアクチンプロモーターが用いられる。
【0013】
そのほかプロモーター以外に用いられる遺伝子配列については、シグナル配列、ポリA配列や、その他遺伝子の発現を制御する配列などが挙げられる。これらは特定のものに限定されず、目的タンパク質の発現に適したものを選択することができる。例えば、目的タンパク質のシグナル配列やポリA配列など目的タンパク質由来のもの、宿主となるカイコなど昆虫タンパク質のシグナル配列、ポリA配列が挙げられる。または、SV40ポリAやウシ成長ホルモンポリAなどの一般的にタンパク質の発現に実績のあるものなどが挙げられる。好ましくはSV40ポリAが用いられる。
【0014】
本発明において使用されるピギーバックトランスポゼースタンパク質を得る方法に特に制限はないが、例えば、ピギーバックトランスポゼースタンパク質の細胞内での量が上昇した組換え細胞などを適当な培地で培養し、増殖した菌体を回収し、当該菌体を破砕すればよい。
【0015】
組換え細胞としては、微生物、動物、植物、または昆虫由来のものが好ましく使用できる。例えば動物を用いる場合、マウス、ラットやそれらの培養細胞などが用いられる。植物を用いる場合、例えばシロイヌナズナ、タバコやそれらの培養細胞が用いられる。また、昆虫を用いる場合、例えばカイコやその培養細胞などが用いられる。また、微生物を用いる場合、例えば、大腸菌などが用いられる。
【0016】
また、ピギーバックトランスポゼースタンパク質を複数種組み合わせて使用しても良い。
【0017】
ピギーバックトランスポゼースタンパク質を得るために、組換え細胞を培養する方法に特に制限はないが、例えば微生物を培養する場合、使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他有機成分を含有する培地が用いられる。例えば、大腸菌の場合しばしばLB培地が用いられる。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、各種アミノ酸、ビタミンB1等のビタミン類、RNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。それらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0018】
培養条件にも特に制限はなく、例えば大腸菌の場合、好気条件下で16〜72時間程度実施するのが良く、培養温度は25℃〜45℃に、特に好ましくは37℃に、培養pHは5〜8に、特に好ましくはpH7に制御するのがよい。なおpH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0019】
増殖した組換え細胞は、遠心分離等により培養液から回収することができる。回収した組換え細胞から細胞破砕液を調製するには、通常の方法が用いられる。すなわち、組換え細胞を超音波処理、ダイノミル、フレンチプレス等の方法にて破砕し、遠心分離により細胞残渣を除去することにより細胞破砕液が得られる。
【0020】
細胞破砕液からピギーバックトランスポゼースタンパク質を精製するには、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、等電点沈殿、熱処理、pH処理、等酵素の精製に通常用いられる手法が適宜組み合わされて用いられる。また封入体など不溶性画分からの精製には尿素やグアニジン、界面活性剤のような変性剤で封入体をアンフォールディングした後、透析あるい は希釈により変性剤を除去し、リフォールディング(再生)させる方法を用いることができる。
【0021】
本発明では、ピギーバックトランスポゼースタンパク質はピギーバックトランスポゼースタンパク質の細胞内での量が上昇した組換え細胞から調製されたものが好ましく使用できる。細胞内でピギーバックトランスポゼースタンパク質の量を上昇させる方法に特に制限はない。具体的には、遺伝子の転写調節領域の改良、遺伝子のコピー数の増加、蛋白への翻訳の効率化などが挙げられる。
【0022】
転写調節領域の改良とは、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることをいう。例えば、プロモーターに変異を導入することによってプロモーター強化を行い、下流にある遺伝子の転写量を増加させることができる。プロモーターに変異を導入する以外にも、宿主内で強力に発現するプロモーターを導入しても良い。例えば大腸菌においては、lac、tac、trpなどのプロモーターが挙げられる。また、エンハンサーを新たに導入することによって遺伝子の転写量を増加させることができる。染色体DNAのプロモーター等の遺伝子導入については、例えば特開平1−215280号公報に記載されている。
【0023】
遺伝子のコピー数の上昇は、具体的には、遺伝子を多コピー型のベクターに接続して組換えDNAを作製し、該組換えDNAを宿主細胞に保持させることにより達成することができる。ここでベクターとは、プラスミドやファージ等広く用いられているものを含むが、これら以外にも、トランソポゾン(Berg,D.E and Berg.C.M., Bio/Technol.,vol.1,P.417(1983))やMuファージ(特開平2−109985号公報)も含む。遺伝子を相同組換え用プラスミド等を用いた方法で染色体に組み込んでコピー数を上昇させることも可能である。
【0024】
タンパク質の翻訳効率を上昇させる方法としては、例えば原核生物においてはSD配列(Shine, J. and Dalgarno, L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 71, 1342−1346 (1974))、真核生物では Kozak のコンセンサス配列(Kozak, M., Nuc. Acids Res., Vol.15,p.8125−8148(1987))を導入、改変することや、使用コドンの最適化(特開昭59−125895)などが挙げられる。
【0025】
ピギーバックトランスポゼースタンパク質の活性を上昇させる手段としては、酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、酵素そのものの活性を上昇させることも挙げられる。
【0026】
遺伝子に変異を生じさせるには、部位特異的変異法(Kramer,W. and frita,H.J., Methods in Enzymology,vol.154,P.350(1987))リコンビナントPCR法(PCR Technology,Stockton Press(1989))、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法がある。
【0027】
上記の方法を用い、ピギーバックトランスポゼースタンパク質の量もしくは活性が上昇した組換え細胞の培養およびそれからのピギーバックトランスポゼースタンパク質の調製法は、上記にピギーバックトランスポゼースタンパク質の取得について説明したようにして行うことができる。ピギーバックトランスポゼースタンパク質の細胞内での量が上昇した組換え細胞を用いることによって、容易かつ有利にピギーバックトランスポゼースタンパク質を調製することができる。
【0028】
本発明において使用されるピギーバックトランスポゼースタンパク質は、ピギーバックトランスポゼースタンパク質を有する休止細胞、その細胞破砕液などが使用できるが、細胞破砕液が好ましい。
【0029】
さらに、部分的に精製したピギーバックトランスポゼースタンパク質を作用させることにより昆虫細胞への負荷を抑制することができ、より高効率で遺伝子組換え個体が得られる。さらに好ましくは単離精製したピギーバックトランスポゼースタンパク質を作用させることである。ピギーバックトランスポゼースタンパク質を部分的に精製、または単離精製することで、昆虫細胞への負荷を抑制することができる。
【0030】
一般的に酵素というものは本来あるべきアミノ酸配列で自然界に存在するため、人工的にアミノ酸配列を付与もしくは欠如させると酵素の活性を失うことが多い。しかし本発明においてピギーバックトランスポゼースタンパク質に1から30個のアミノ酸配列を付与したタンパク質が好ましく使用できる。ここで、付与するものはN末端の6から10個のヒスチジン残基が好ましい。このように、アミノ酸を付与することで、ピギーバックトランスポゼースタンパク質の精製を簡便にできるようにすることができる。1から30個のアミノ酸を付与する方法に特に制限はない。例えばピギーバックトランスポゼースタンパク質遺伝子に付与したいアミノ酸配列に相当する塩基配列を遺伝子工学的手法を用い、組み換えればよい。用いる遺伝子工学的手法に特に制限はないが。好ましくはPCR法やDNA断片同士の連結による方法がある。また精製された1から30個のアミノ酸配列が付与されたピギーバックトランスポゼースタンパク質を、トロンビンやファクターXaなどのプロテアーゼで処理し、付与したアミノ酸の一部を除去しても良い。
【0031】
本発明における昆虫細胞へのDNA・ピギーバックトランスポゼースタンパク質導入方法に関しては、安定にゲノムに組み込まれ、発現し、交配により子孫にも安定に伝わる導入方法であれば良い。細胞への導入方法としては昆虫の細胞にマイクロインジェクションする方法、遺伝子銃を用いる方法、エレクトロポレーションによる方法、リポソームを用いる方法などを用いることができるが、好ましくは昆虫卵にマイクロインジェクションする方法が、更に好ましくはカイコガ(Bombyx mori)卵にマイクロインジェクションする方法が用いられる。ここで卵にマイクロインジェクションを行う場合、卵中の細胞に直接導入する必要はなく、卵中に導入しさえすればよい。
【0032】
またインジェクションを行う卵についてはDNA・ピギーバックトランスポゼースタンパク質導入後、発生・分化が進めば良く、導入の時期については特に制限はないが、好ましくは細胞数の少ない状態にある産卵後1時間以上から8時間以内の卵が望ましい。
【0033】
昆虫細胞へ導入するDNA・ピギーバックトランスポゼースタンパク質濃度について、安定にゲノムに組み込まれ、発現し、交配により子孫にも安定に伝わればよいが、DNA濃度を約100〜300μg/ml、ピギーバックトランスポゼースタンパク質濃度を約1.3〜4.1μg/mlとすることにより良好な形質転換結果が得られる。この時、導入するDNAに対して、ピギーバックトランスポゼースタンパク質をモル比で2〜20倍とすることが好ましい。
【0034】
さらに、昆虫細胞へ導入するDNA・ピギーバックトランスポゼースタンパク質溶液には、細胞の生育、発生、分化に悪影響を及ぼすことがなければ、含有する成分に特に制限はないが、好ましくはDNAやタンパク質を安定させるために緩衝液が用いられる。またDNAやタンパク質の安定化、転移活性増大のために、グリセロールやBSA、プロテアーゼ阻害剤、GTP等のdNTP、マグネシウムイオンやマンガンなど金属イオン、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどが適宜組み合わせて用いられる。
【0035】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0036】
実施例1 ピギーバックトランスポゼースタンパク質の調製
(1)ピギーバックトランスポゼース遺伝子のクローニングおよび発現ベクターの作製
米国農務省らによる特許(米国特許6218185号公報)で開示されているピギーバックトランスポゼース遺伝子の塩基配列を参考に、オリゴヌクレオチドプライマーを合成した。プライマーの端には後の遺伝子操作のために制限酵素切断部位を付加した。
【0037】
プライマー1(配列番号3)ccatgggccatcatcatcatcatcatcatcatcatcacagcagcggccatatcgaaggtcgtcatatgggatgttctttagacgatgagとプライマー2(配列番号4)ggatccttagtcagtccagaaacaactttggcの2種類のプライマーを用い、プラスミドpHA3PIG(Nature biotechnology 18,81−84,2000)をテンプレートとして用いたPCRにより取得した。PCRは0.2mlのミクロ遠心チューブを用い、テンプレートDNAを10ng、各プライマーを20pmol、20mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、2.5mM KCl、100μg/mlゼラチン、50μM各dNTP、2単位 LATaqDNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)となるように各試薬を加え、全量を50μlとした。DNAの変性条件を94℃、30秒、プライマーのアニーリング条件を55℃、30秒、DNAプライマーの伸長反応条件を72℃、3分の各条件でBioRad社のサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた。これらの反応液を1%アガロースゲルにて電気泳動し、約1.8kbpのDNA断片を常法に従って抽出、調整した。これらのDNA断片をポリヌクレオチドキナーゼ(宝酒造(株)製)によりリン酸化した後、HincIIで切断後脱リン酸化処理したpUC19ベクターに宝酒造(株)のDNAライゲーションキットVer.2を用いて16℃、終夜反応を行い、連結した。これらを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体にPCR断片が挿入されていることを、得られたコロニーを前述と同じ条件でPCRすることによって確認し、PCR断片の挿入されたプラスミドを常法によって調整した。これらのプラスミドをシークエンスすることにより、得られた断片がそれぞれの遺伝子の塩基配列であることを確認した。
【0038】
この大腸菌からプラスミドを回収し、NcoI、及びBamHIで消化し、得られた2.1kbのNcoI/BamHI断片を、予めNcoI、及びBamHIで消化しておいたpTV118N(宝酒造(株)製)のNcoI/BamHI間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTV−piggyと命名した(図1)。このプラスミドを導入した大腸菌を培養することで、ピギーバックトランスポゼースタンパク質のN末端アミノ酸配列に10個のヒスジチン残基が付加された分子量約69kDaの組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を生産することができる。
【0039】
(2)組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質の産生
pTV−piggyでE.coli BL21株をアンピシリン耐性に形質転換し、得られた形質転換体をBL21−piggy株と命名した。
【0040】
次にBL21−piggy株で組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を産生させた。まず、BL21−piggy株をそれぞれ50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含んだ滅菌LB培地(Sambrook, J. et al., 2001、Molecular Cloning 3rd. edition, Cold Spring Harbor Lab. Press)(LB−amp培地)5mlに1白金耳植菌し、37℃で24時間振とうして前培養を行った。
【0041】
この前培養液をLB−amp培地50mlに全量植菌し、37℃、振幅30cmで、180rpmの条件下で3時間培養した後に1mM IPTG(isopropyl−1−thio−β−D−galactoside)添加し、更に4時間培養した。対照実験として、BL21をpTV118Nで形質転換した形質転換体を対照として用い同様の培養を行った。こうして得られた菌体を集め、5mlのTBS緩衝液(宝酒造製)に再懸濁後、超音波破砕および遠心分離により細胞破砕液を調製した。この細胞破砕液をSDS−PAGEで分画し、Penta−His Antibody抗体(QIAGEN社製)でウエスタンブロッティングを行った結果、BL21−piggy株由来の細胞破砕液のみから、分子量約69kDaの組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を検出した。
【0042】
(3)組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質の精製
この組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質は、N末端アミノ酸配列に10個のヒスチジン残基があることこから、ニッケルイオンとの相互作用を利用した精製を行った。
【0043】
まず、10mlのキレーティング セファロース ファースト フロー(Chilating Sepharose Fast Flow)担体(アマシャム バイオサイエンス社製)を充填したカラムシステムを構築した。このカラムに50mlの50mM 硫酸ニッケル水溶液、50mlのTBS緩衝液の順で流した後、(2)と同様の方法で得られたBL21−piggy株の500ml培溶液由来の50ml細胞破砕液を流した。その後、100mlの5mM イミダゾールを含むTBS緩衝液、100mlの50mM イミダゾールを含むTBS緩衝液をこの順序で流した。更に50mlの600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液を流した。カラムに流した各々の緩衝液を(2)と同様の方法でウエスタンブロッティングを行ったところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液のみに約69kDaタンパク質を検出した。また、カラムに流した各々の緩衝液をSDS−PAGEし、クマシーブリリアントブルーで染色たところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液から、約69kDaの単一バンドを検出し、この精製タンパク質は組換えピギーバックトランスポゼースタンパク質であることを確認した。
【0044】
実施例2遺伝子導入用プラスミドの作製
遺伝子導入用プラスミドには、トランスポゾンpiggyBacの一対の逆向き反復配列の間に,カイコアクチンプロモーター(A3プロモーター)制御下に発現するCycle3 GFP遺伝子構造を含むプラスミドpigA3Cy3GFPを用いた。
【0045】
すなわち、米国特許第6218185号に開示されるプラスミドp3E1.2よりtransposaseをコードする領域を取り除き、その部分にA3プロモーターおよびアクチン遺伝子の一部(GenBank登録番号U49854の塩基番号1764〜2595番目)さらにその下流にタンパク質翻訳フレームを合わせたかたちでCT−GFP Fusion TOPO TA Expression kit(Invitrogen社製)由来のCycle3 GFP遺伝子およびBGHポリA配列を連結した遺伝子構造を挿入したベクターがpigA3Cy3GFPである。
【0046】
pigA3Cy3GFPの作製は以下の手法により行った。まず、A3プロモーターおよびアクチン遺伝子の一部(GenBank登録番号U49854の塩基番号1764〜2595番目)をBombyx mori genomic DNAを鋳型に、プライマー5(配列番号5)とプライマー6(配列番号6)の2種類のプライマーを用いたPCRにより取得した。PCRはLA−TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造(株))を用いて、添付の方法に従い、94℃、15秒、55℃、30秒、72℃、60秒の条件で30サイクル行った。約800bpの遺伝子断片を抽出、精製した後、pcDNA3.1/CT−GFP−TOPO(Invitrogen社製)に宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.2を用いて16℃、終夜反応を行い、連結した。これらを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体にPCR断片が挿入されていることを、得られたコロニーを前述と同じ条件でPCRすることによって確認し、PCR断片の挿入されたプラスミドを常法によって調整した。これらのプラスミドをシークエンスすることにより、挿入された断片がそれぞれの遺伝子の塩基配列であることを確認した。
【0047】
そのプラスミドを鋳型にさらに、プライマー7(配列番号7)とプライマー8(配列番号8)の2種類のプライマーを用いて、PCRを行った。PCRはLA−Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造(株))を用いて、添付の方法に従い、94℃、15秒、55℃、30秒、72℃、120秒の条件で30サイクル行い、約1.8kbpの遺伝子断片を抽出、精製した。この遺伝子断片(配列番号9)をBgl II、Hpa I処理したものと、Bgl II、Hpa Iで切断したp3E1.2とを上記と同様の方法で、連結し、pigA3Cy3GFPを得た。
【0048】
実施例3 遺伝子組換えカイコの作製
pigA3Cy3GFPとピギーバックトランスポゼースタンパク質を、DNA濃度を約200μg/ml、ピギーバックトランスポゼースタンパク質濃度を約2.7μg/ml(モル比1:10)含んだ0.5mMリン酸バッファー(pH7.0)−5mM KCl溶液を調整し、3〜20nlを産卵後4時間以内のカイコ卵500個に対してマイクロインジェクションした。なお、対照実験としてピギーバックトランスポゼースタンパク質を含まない溶液を導入した。
【0049】
そのカイコ卵より孵化した幼虫を飼育し、得られた成虫(G0)を群内で掛け合わせ得られた次世代(G1)をCycle3 GFPタンパク質の蛍光を観察することにより、Cycle3 GFP遺伝子が染色体へ導入されたカイコをスクリーニングした。その結果、ピギーバックトランスポゾンを導入した時にのみ、遺伝子組換えカイコが得られた。またその効率(蛍光を発する個体を生じた蛾数/交配蛾数)は約6%であった。
【0050】
本実験を再度行ったところ、再現性良く約6%の効率で遺伝子組換えカイコが得られた。これらの結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例4 遺伝子組換えカイコの解析
導入した遺伝子が確実にカイコ染色体に組み込まれていることをサザンブロッティング法により解析した。カイコ染色体は以下の手法により調製した。Cycle3GFPタンパク質の蛍光が観察されたカイコを5齢3日目に解剖し、後部絹糸腺組織を取り出した。1×SSCで洗浄した後、DNA 抽出バッファー(50mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA pH8.0, 100mM NaCl)200μlを加えた。プロテイネース K(final 200μg/ml)を加えて組織をグラインダーで充分すりつぶし、更にDNA 抽出バッファーを350μl、10%SDS 60μlを加え混合後、50℃ 2時間保温した。Tris−HCl飽和フェノール pH8.0 500μlを加え10min混合後、10,000rpm 5分 4℃にて遠心分離し上清を回収した。上清に等量のフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を加え混合後、遠心分離した。再度フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコールを加え、遠心分離後上清を回収した。等量のクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)を加え混合後、遠心分離した上清に再度クロロホルム・イソアミルアルコールを加え、遠心分離後上清を回収した。得られた上清に1/10量の3M 酢酸ナトリウム溶液(pH5.2)を加え混合し、更に2.5倍量の冷エタノールを加え−80℃にて30分静置後、15,000rpm 10分 4℃にて遠心分離し染色体DNAを沈殿させた。70%エタノールでDNAの沈殿を洗浄した後、風乾させた。RNase入り滅菌水で100μg/mlとなるように溶解、希釈し染色体 DNA溶液を調製した。
【0053】
カイコ染色体DNA約10μgを制限酵素処理したサンプルを1%アガロースゲルを用いて電気泳動後、DNAをメンブレンに転写させた。プローブとしてCycle3 GFP遺伝子を用い、Gene Images CDP−Star labelling and detection system (アマシャムファルマシア)による化学発光により検出した。その結果調べた5頭のカイコ全てでCycle3 GFP遺伝子が染色体に組み込まれていることが確認された。
【0054】
【発明の効果】
ピギーバックトランスポゼースタンパク質を用いる手法により、外来DNAを昆虫細胞のゲノムに導入することが可能となった。この新手法により、従来の低組換え効率、活性のあるトランスポゾンをコードする遺伝子が染色体に組み込まれて自然界へと広がる危険性といった課題を解決することができる。
【0055】
【配列表】
【発明の属する技術分野】
本発明はトランスポゼースの機能を利用した、昆虫細胞に外来DNAを付与するための方法に属する。
【0002】
【従来の技術】
真核・原核生物由来のある種のDNA因子は、別の遺伝子座へと転移することができる。一般にこうした転移因子はトランスポゾンと呼ばれている。トランスポゾンは転移の機構により二つのクラスに分類されている。RNAを介し逆転写酵素を用いて転移するクラス1と、その他のトランスポゾンが分類されるクラス2である。現在昆虫において知られている主なクラス2トランスポゾンとしてP因子、ミノス(Minos)、マリナー(mariner)、ピギーバック(piggyBac)などがあり、こうしたクラス2トランスポゾンの持つ転移能力を利用して、ゲノムに外来のDNA物質を導入するための研究が進められてきた(非特許文献1)。
【0003】
1997年、米国農務省らによりTrichoplusia ni由来トランスポゾンであるピギーバックを利用した、2種類のDNAを用いる遺伝子導入システムに関する特許が登録された(特許文献1)。
【0004】
2000年、この技術を用いて産業上重要な昆虫であるカイコガ(Bombyx mori)ゲノムにクラゲ緑色蛍光タンパク質遺伝子を、効率約2%で導入した報告がなされた(非特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】
米国特許6218185号公報
【非特許文献1】
インセクト バイオケミストリー アンド モレキュラー バイオロジー(Insect Biochemistry and Molecular Biology) 31,111−128,2001
【非特許文献2】
ネイチャー バイオテクノロジー(Nature biotechnology) 18,81−84,2000
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
米国農務省らによる特許(米国特許6218185号公報)ではピギーバックトランスポゾンの逆位反復配列に対して活性のあるトランスポゼースをコードするDNAを用いる必要がある。ここでの問題点として、活性のあるトランスポゼース遺伝子が自然界に広がる危険性が指摘されている(バイオサイエンスとインダストリー59,853−856,2001)。ショウジョウバエの場合、自然突然変異の大半はトランスポゾンによる遺伝子の変化により引き起こされると考えられており、こうした変異原性ゆえに、活性のあるトランスポゾンを持つ個体は淘汰されていく方向に選択圧がかかる。例えば昆虫の代表的なトランスポゾンであるマリナー様因子は、ヒトをはじめとした動物や植物にも見出され、真核生物すべてに分布していることが分かってきたが、自然界で実際に活性を有していたものはたった一つであった(ジェネティックス(Genetics) 128,311−318,1991)。このことは活性のあるマリナー様因子が生物に何らかの害を及ぼす存在であったことを示唆している。すなわち従来の米国農務省らによる遺伝子導入技術では、自然界にはほとんど存在しない活性のあるトランスポゾンをコードする遺伝子がゲノムに組み込まれ、自然界へと広がる危険性があった。なおカイコ卵に導入した外来遺伝子がゲノムに組み込まれた例としては、1996年の報告(Appl. Entomol. Zool. 31,587−596,1996)がある。
【0007】
2000年に報告されたカイコガ(Bombyx mori)ゲノムへのクラゲ緑色蛍光タンパク質遺伝子の導入技術では(ネイチャー バイオテクノロジー(Nature biotechnology)18,81−84,2000)、遺伝子組換え個体が得られる頻度が約2%と低いといった問題点があった。これは遺伝子組換え効率の鍵となる細胞内でのトランスポゼースタンパク質の発現量をコントロールすることができないことが一因と考えられる。この効率の低さのため、従来は遺伝子組換え個体を得るために1000個以上のカイコ卵へマイクロインジェクションを行うといった労力が必要であった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記課題すなわち低組換え効率、活性のあるトランスポゾンをコードする遺伝子が染色体に組み込まれて自然界へと広がる危険性を共に解決できる手法を鋭意検討した結果、大腸菌より発現させたピギーバックトランスポゼースタンパク質を用いる手法により、課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の2つ、「(a) ピギーバック(piggyBac)トランスポゾンの逆位反復配列間に外来DNAの付与されたDNA (b) 逆位反復配列に対し活性のある、大腸菌により生産されたピギーバックトランスポゼースタンパク質」を細胞に導入することを特徴とする、昆虫細胞に外来DNAを導入するための方法、および1〜30個のアミノ酸を付与した組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
まず本発明における昆虫とは特に限定されるものではないが、好ましくは鱗翅目昆虫、より好ましくはカイコガ(Bombyx mori)由来細胞、さらに好ましくはカイコガ(Bombyx mori)の卵に含まれる細胞である。
【0011】
ピギーバックトランスポゾンとは両端に13塩基対の逆位配列と、内部に約2.1k塩基対のORFを有する転位因子である。本発明において使用されるピギーバックトランスポゾンをクローニングする方法に特に制限はない。既知の遺伝子情報に基づき、PCR(polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝領域を増幅取得する方法、既知の遺伝子情報に基づきゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性や酵素活性を指標としてクローニングする方法などが挙げられる。本発明においては、これらの遺伝子は、遺伝的多形性などによる変異型も含む。なお、遺伝的多形性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものをいう。好ましくはTrichoplusia ni cell line TN−368、Autographa californica NPV(AcNPV)、Galleria mellonea NPV(GmMNPV)由来のピギーバックトランスポゾンを用いることができる。更に好ましくはGmMNPV由来ピギーバックの一部を持つプラスミドpHA3PIGやp3E1.2(Nature biotechnology 18,81−84,2000)が用いられる。
【0012】
また本発明で昆虫細胞に導入する外来DNAとしては特に限定されるものではなく、外来遺伝子配列のいかなるものでも良く、タンパク質をコードしていない領域であっても良い。好ましくはタンパク質をコードする領域である。また外来遺伝子はその発現を制御できるように設計されており、通常は昆虫細胞内で発現するプロモーターを上流に、任意のポリA付加配列を下流に連結した構造を持つ。さらにプロモーターとの間に任意の遺伝子由来シグナル配列などを連結しても良く、ポリA付加配列との間にも任意の遺伝子配列を連結しても良い。また人工的に設計、合成された遺伝子配列を連結することもできる。プロモーターについて、特に限定されるものではなく、どのような生物由来であっても昆虫細胞内で発現するプロモーターであればよい。また人工的に合成、変化させたものであっても構わない。好ましくは3xP3プロモーター(Insect Biochemistry and MolecularBiology 31,1137−1143,2001)やアクチンプロモーター、転写因子プロモーター、コリオンプロモーター、キューティクルタンパクプロモーター、抗菌タンパク・ペプチドプロモーター、貯蔵タンパクプロモーター、ビテロジェニンプロモーター、バキュロウイルスのポリヘドリンプロモーターなどが挙げられる。またカイコ絹糸腺で特異的にタンパク質の発現を誘導するように工夫されたプロモーターを用いても良い。例えば、フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、p25プロモーター、セリシンプロモーターなどのカイコ絹糸腺タンパク質のプロモーターが挙げられる。更に好ましくはアクチンプロモーターが用いられる。
【0013】
そのほかプロモーター以外に用いられる遺伝子配列については、シグナル配列、ポリA配列や、その他遺伝子の発現を制御する配列などが挙げられる。これらは特定のものに限定されず、目的タンパク質の発現に適したものを選択することができる。例えば、目的タンパク質のシグナル配列やポリA配列など目的タンパク質由来のもの、宿主となるカイコなど昆虫タンパク質のシグナル配列、ポリA配列が挙げられる。または、SV40ポリAやウシ成長ホルモンポリAなどの一般的にタンパク質の発現に実績のあるものなどが挙げられる。好ましくはSV40ポリAが用いられる。
【0014】
本発明において使用されるピギーバックトランスポゼースタンパク質を得る方法に特に制限はないが、例えば、ピギーバックトランスポゼースタンパク質の細胞内での量が上昇した組換え細胞などを適当な培地で培養し、増殖した菌体を回収し、当該菌体を破砕すればよい。
【0015】
組換え細胞としては、微生物、動物、植物、または昆虫由来のものが好ましく使用できる。例えば動物を用いる場合、マウス、ラットやそれらの培養細胞などが用いられる。植物を用いる場合、例えばシロイヌナズナ、タバコやそれらの培養細胞が用いられる。また、昆虫を用いる場合、例えばカイコやその培養細胞などが用いられる。また、微生物を用いる場合、例えば、大腸菌などが用いられる。
【0016】
また、ピギーバックトランスポゼースタンパク質を複数種組み合わせて使用しても良い。
【0017】
ピギーバックトランスポゼースタンパク質を得るために、組換え細胞を培養する方法に特に制限はないが、例えば微生物を培養する場合、使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他有機成分を含有する培地が用いられる。例えば、大腸菌の場合しばしばLB培地が用いられる。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、各種アミノ酸、ビタミンB1等のビタミン類、RNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。それらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0018】
培養条件にも特に制限はなく、例えば大腸菌の場合、好気条件下で16〜72時間程度実施するのが良く、培養温度は25℃〜45℃に、特に好ましくは37℃に、培養pHは5〜8に、特に好ましくはpH7に制御するのがよい。なおpH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0019】
増殖した組換え細胞は、遠心分離等により培養液から回収することができる。回収した組換え細胞から細胞破砕液を調製するには、通常の方法が用いられる。すなわち、組換え細胞を超音波処理、ダイノミル、フレンチプレス等の方法にて破砕し、遠心分離により細胞残渣を除去することにより細胞破砕液が得られる。
【0020】
細胞破砕液からピギーバックトランスポゼースタンパク質を精製するには、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、等電点沈殿、熱処理、pH処理、等酵素の精製に通常用いられる手法が適宜組み合わされて用いられる。また封入体など不溶性画分からの精製には尿素やグアニジン、界面活性剤のような変性剤で封入体をアンフォールディングした後、透析あるい は希釈により変性剤を除去し、リフォールディング(再生)させる方法を用いることができる。
【0021】
本発明では、ピギーバックトランスポゼースタンパク質はピギーバックトランスポゼースタンパク質の細胞内での量が上昇した組換え細胞から調製されたものが好ましく使用できる。細胞内でピギーバックトランスポゼースタンパク質の量を上昇させる方法に特に制限はない。具体的には、遺伝子の転写調節領域の改良、遺伝子のコピー数の増加、蛋白への翻訳の効率化などが挙げられる。
【0022】
転写調節領域の改良とは、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることをいう。例えば、プロモーターに変異を導入することによってプロモーター強化を行い、下流にある遺伝子の転写量を増加させることができる。プロモーターに変異を導入する以外にも、宿主内で強力に発現するプロモーターを導入しても良い。例えば大腸菌においては、lac、tac、trpなどのプロモーターが挙げられる。また、エンハンサーを新たに導入することによって遺伝子の転写量を増加させることができる。染色体DNAのプロモーター等の遺伝子導入については、例えば特開平1−215280号公報に記載されている。
【0023】
遺伝子のコピー数の上昇は、具体的には、遺伝子を多コピー型のベクターに接続して組換えDNAを作製し、該組換えDNAを宿主細胞に保持させることにより達成することができる。ここでベクターとは、プラスミドやファージ等広く用いられているものを含むが、これら以外にも、トランソポゾン(Berg,D.E and Berg.C.M., Bio/Technol.,vol.1,P.417(1983))やMuファージ(特開平2−109985号公報)も含む。遺伝子を相同組換え用プラスミド等を用いた方法で染色体に組み込んでコピー数を上昇させることも可能である。
【0024】
タンパク質の翻訳効率を上昇させる方法としては、例えば原核生物においてはSD配列(Shine, J. and Dalgarno, L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 71, 1342−1346 (1974))、真核生物では Kozak のコンセンサス配列(Kozak, M., Nuc. Acids Res., Vol.15,p.8125−8148(1987))を導入、改変することや、使用コドンの最適化(特開昭59−125895)などが挙げられる。
【0025】
ピギーバックトランスポゼースタンパク質の活性を上昇させる手段としては、酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、酵素そのものの活性を上昇させることも挙げられる。
【0026】
遺伝子に変異を生じさせるには、部位特異的変異法(Kramer,W. and frita,H.J., Methods in Enzymology,vol.154,P.350(1987))リコンビナントPCR法(PCR Technology,Stockton Press(1989))、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法がある。
【0027】
上記の方法を用い、ピギーバックトランスポゼースタンパク質の量もしくは活性が上昇した組換え細胞の培養およびそれからのピギーバックトランスポゼースタンパク質の調製法は、上記にピギーバックトランスポゼースタンパク質の取得について説明したようにして行うことができる。ピギーバックトランスポゼースタンパク質の細胞内での量が上昇した組換え細胞を用いることによって、容易かつ有利にピギーバックトランスポゼースタンパク質を調製することができる。
【0028】
本発明において使用されるピギーバックトランスポゼースタンパク質は、ピギーバックトランスポゼースタンパク質を有する休止細胞、その細胞破砕液などが使用できるが、細胞破砕液が好ましい。
【0029】
さらに、部分的に精製したピギーバックトランスポゼースタンパク質を作用させることにより昆虫細胞への負荷を抑制することができ、より高効率で遺伝子組換え個体が得られる。さらに好ましくは単離精製したピギーバックトランスポゼースタンパク質を作用させることである。ピギーバックトランスポゼースタンパク質を部分的に精製、または単離精製することで、昆虫細胞への負荷を抑制することができる。
【0030】
一般的に酵素というものは本来あるべきアミノ酸配列で自然界に存在するため、人工的にアミノ酸配列を付与もしくは欠如させると酵素の活性を失うことが多い。しかし本発明においてピギーバックトランスポゼースタンパク質に1から30個のアミノ酸配列を付与したタンパク質が好ましく使用できる。ここで、付与するものはN末端の6から10個のヒスチジン残基が好ましい。このように、アミノ酸を付与することで、ピギーバックトランスポゼースタンパク質の精製を簡便にできるようにすることができる。1から30個のアミノ酸を付与する方法に特に制限はない。例えばピギーバックトランスポゼースタンパク質遺伝子に付与したいアミノ酸配列に相当する塩基配列を遺伝子工学的手法を用い、組み換えればよい。用いる遺伝子工学的手法に特に制限はないが。好ましくはPCR法やDNA断片同士の連結による方法がある。また精製された1から30個のアミノ酸配列が付与されたピギーバックトランスポゼースタンパク質を、トロンビンやファクターXaなどのプロテアーゼで処理し、付与したアミノ酸の一部を除去しても良い。
【0031】
本発明における昆虫細胞へのDNA・ピギーバックトランスポゼースタンパク質導入方法に関しては、安定にゲノムに組み込まれ、発現し、交配により子孫にも安定に伝わる導入方法であれば良い。細胞への導入方法としては昆虫の細胞にマイクロインジェクションする方法、遺伝子銃を用いる方法、エレクトロポレーションによる方法、リポソームを用いる方法などを用いることができるが、好ましくは昆虫卵にマイクロインジェクションする方法が、更に好ましくはカイコガ(Bombyx mori)卵にマイクロインジェクションする方法が用いられる。ここで卵にマイクロインジェクションを行う場合、卵中の細胞に直接導入する必要はなく、卵中に導入しさえすればよい。
【0032】
またインジェクションを行う卵についてはDNA・ピギーバックトランスポゼースタンパク質導入後、発生・分化が進めば良く、導入の時期については特に制限はないが、好ましくは細胞数の少ない状態にある産卵後1時間以上から8時間以内の卵が望ましい。
【0033】
昆虫細胞へ導入するDNA・ピギーバックトランスポゼースタンパク質濃度について、安定にゲノムに組み込まれ、発現し、交配により子孫にも安定に伝わればよいが、DNA濃度を約100〜300μg/ml、ピギーバックトランスポゼースタンパク質濃度を約1.3〜4.1μg/mlとすることにより良好な形質転換結果が得られる。この時、導入するDNAに対して、ピギーバックトランスポゼースタンパク質をモル比で2〜20倍とすることが好ましい。
【0034】
さらに、昆虫細胞へ導入するDNA・ピギーバックトランスポゼースタンパク質溶液には、細胞の生育、発生、分化に悪影響を及ぼすことがなければ、含有する成分に特に制限はないが、好ましくはDNAやタンパク質を安定させるために緩衝液が用いられる。またDNAやタンパク質の安定化、転移活性増大のために、グリセロールやBSA、プロテアーゼ阻害剤、GTP等のdNTP、マグネシウムイオンやマンガンなど金属イオン、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどが適宜組み合わせて用いられる。
【0035】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0036】
実施例1 ピギーバックトランスポゼースタンパク質の調製
(1)ピギーバックトランスポゼース遺伝子のクローニングおよび発現ベクターの作製
米国農務省らによる特許(米国特許6218185号公報)で開示されているピギーバックトランスポゼース遺伝子の塩基配列を参考に、オリゴヌクレオチドプライマーを合成した。プライマーの端には後の遺伝子操作のために制限酵素切断部位を付加した。
【0037】
プライマー1(配列番号3)ccatgggccatcatcatcatcatcatcatcatcatcacagcagcggccatatcgaaggtcgtcatatgggatgttctttagacgatgagとプライマー2(配列番号4)ggatccttagtcagtccagaaacaactttggcの2種類のプライマーを用い、プラスミドpHA3PIG(Nature biotechnology 18,81−84,2000)をテンプレートとして用いたPCRにより取得した。PCRは0.2mlのミクロ遠心チューブを用い、テンプレートDNAを10ng、各プライマーを20pmol、20mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、2.5mM KCl、100μg/mlゼラチン、50μM各dNTP、2単位 LATaqDNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)となるように各試薬を加え、全量を50μlとした。DNAの変性条件を94℃、30秒、プライマーのアニーリング条件を55℃、30秒、DNAプライマーの伸長反応条件を72℃、3分の各条件でBioRad社のサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた。これらの反応液を1%アガロースゲルにて電気泳動し、約1.8kbpのDNA断片を常法に従って抽出、調整した。これらのDNA断片をポリヌクレオチドキナーゼ(宝酒造(株)製)によりリン酸化した後、HincIIで切断後脱リン酸化処理したpUC19ベクターに宝酒造(株)のDNAライゲーションキットVer.2を用いて16℃、終夜反応を行い、連結した。これらを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体にPCR断片が挿入されていることを、得られたコロニーを前述と同じ条件でPCRすることによって確認し、PCR断片の挿入されたプラスミドを常法によって調整した。これらのプラスミドをシークエンスすることにより、得られた断片がそれぞれの遺伝子の塩基配列であることを確認した。
【0038】
この大腸菌からプラスミドを回収し、NcoI、及びBamHIで消化し、得られた2.1kbのNcoI/BamHI断片を、予めNcoI、及びBamHIで消化しておいたpTV118N(宝酒造(株)製)のNcoI/BamHI間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTV−piggyと命名した(図1)。このプラスミドを導入した大腸菌を培養することで、ピギーバックトランスポゼースタンパク質のN末端アミノ酸配列に10個のヒスジチン残基が付加された分子量約69kDaの組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を生産することができる。
【0039】
(2)組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質の産生
pTV−piggyでE.coli BL21株をアンピシリン耐性に形質転換し、得られた形質転換体をBL21−piggy株と命名した。
【0040】
次にBL21−piggy株で組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を産生させた。まず、BL21−piggy株をそれぞれ50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含んだ滅菌LB培地(Sambrook, J. et al., 2001、Molecular Cloning 3rd. edition, Cold Spring Harbor Lab. Press)(LB−amp培地)5mlに1白金耳植菌し、37℃で24時間振とうして前培養を行った。
【0041】
この前培養液をLB−amp培地50mlに全量植菌し、37℃、振幅30cmで、180rpmの条件下で3時間培養した後に1mM IPTG(isopropyl−1−thio−β−D−galactoside)添加し、更に4時間培養した。対照実験として、BL21をpTV118Nで形質転換した形質転換体を対照として用い同様の培養を行った。こうして得られた菌体を集め、5mlのTBS緩衝液(宝酒造製)に再懸濁後、超音波破砕および遠心分離により細胞破砕液を調製した。この細胞破砕液をSDS−PAGEで分画し、Penta−His Antibody抗体(QIAGEN社製)でウエスタンブロッティングを行った結果、BL21−piggy株由来の細胞破砕液のみから、分子量約69kDaの組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を検出した。
【0042】
(3)組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質の精製
この組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質は、N末端アミノ酸配列に10個のヒスチジン残基があることこから、ニッケルイオンとの相互作用を利用した精製を行った。
【0043】
まず、10mlのキレーティング セファロース ファースト フロー(Chilating Sepharose Fast Flow)担体(アマシャム バイオサイエンス社製)を充填したカラムシステムを構築した。このカラムに50mlの50mM 硫酸ニッケル水溶液、50mlのTBS緩衝液の順で流した後、(2)と同様の方法で得られたBL21−piggy株の500ml培溶液由来の50ml細胞破砕液を流した。その後、100mlの5mM イミダゾールを含むTBS緩衝液、100mlの50mM イミダゾールを含むTBS緩衝液をこの順序で流した。更に50mlの600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液を流した。カラムに流した各々の緩衝液を(2)と同様の方法でウエスタンブロッティングを行ったところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液のみに約69kDaタンパク質を検出した。また、カラムに流した各々の緩衝液をSDS−PAGEし、クマシーブリリアントブルーで染色たところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液から、約69kDaの単一バンドを検出し、この精製タンパク質は組換えピギーバックトランスポゼースタンパク質であることを確認した。
【0044】
実施例2遺伝子導入用プラスミドの作製
遺伝子導入用プラスミドには、トランスポゾンpiggyBacの一対の逆向き反復配列の間に,カイコアクチンプロモーター(A3プロモーター)制御下に発現するCycle3 GFP遺伝子構造を含むプラスミドpigA3Cy3GFPを用いた。
【0045】
すなわち、米国特許第6218185号に開示されるプラスミドp3E1.2よりtransposaseをコードする領域を取り除き、その部分にA3プロモーターおよびアクチン遺伝子の一部(GenBank登録番号U49854の塩基番号1764〜2595番目)さらにその下流にタンパク質翻訳フレームを合わせたかたちでCT−GFP Fusion TOPO TA Expression kit(Invitrogen社製)由来のCycle3 GFP遺伝子およびBGHポリA配列を連結した遺伝子構造を挿入したベクターがpigA3Cy3GFPである。
【0046】
pigA3Cy3GFPの作製は以下の手法により行った。まず、A3プロモーターおよびアクチン遺伝子の一部(GenBank登録番号U49854の塩基番号1764〜2595番目)をBombyx mori genomic DNAを鋳型に、プライマー5(配列番号5)とプライマー6(配列番号6)の2種類のプライマーを用いたPCRにより取得した。PCRはLA−TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造(株))を用いて、添付の方法に従い、94℃、15秒、55℃、30秒、72℃、60秒の条件で30サイクル行った。約800bpの遺伝子断片を抽出、精製した後、pcDNA3.1/CT−GFP−TOPO(Invitrogen社製)に宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.2を用いて16℃、終夜反応を行い、連結した。これらを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体にPCR断片が挿入されていることを、得られたコロニーを前述と同じ条件でPCRすることによって確認し、PCR断片の挿入されたプラスミドを常法によって調整した。これらのプラスミドをシークエンスすることにより、挿入された断片がそれぞれの遺伝子の塩基配列であることを確認した。
【0047】
そのプラスミドを鋳型にさらに、プライマー7(配列番号7)とプライマー8(配列番号8)の2種類のプライマーを用いて、PCRを行った。PCRはLA−Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造(株))を用いて、添付の方法に従い、94℃、15秒、55℃、30秒、72℃、120秒の条件で30サイクル行い、約1.8kbpの遺伝子断片を抽出、精製した。この遺伝子断片(配列番号9)をBgl II、Hpa I処理したものと、Bgl II、Hpa Iで切断したp3E1.2とを上記と同様の方法で、連結し、pigA3Cy3GFPを得た。
【0048】
実施例3 遺伝子組換えカイコの作製
pigA3Cy3GFPとピギーバックトランスポゼースタンパク質を、DNA濃度を約200μg/ml、ピギーバックトランスポゼースタンパク質濃度を約2.7μg/ml(モル比1:10)含んだ0.5mMリン酸バッファー(pH7.0)−5mM KCl溶液を調整し、3〜20nlを産卵後4時間以内のカイコ卵500個に対してマイクロインジェクションした。なお、対照実験としてピギーバックトランスポゼースタンパク質を含まない溶液を導入した。
【0049】
そのカイコ卵より孵化した幼虫を飼育し、得られた成虫(G0)を群内で掛け合わせ得られた次世代(G1)をCycle3 GFPタンパク質の蛍光を観察することにより、Cycle3 GFP遺伝子が染色体へ導入されたカイコをスクリーニングした。その結果、ピギーバックトランスポゾンを導入した時にのみ、遺伝子組換えカイコが得られた。またその効率(蛍光を発する個体を生じた蛾数/交配蛾数)は約6%であった。
【0050】
本実験を再度行ったところ、再現性良く約6%の効率で遺伝子組換えカイコが得られた。これらの結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例4 遺伝子組換えカイコの解析
導入した遺伝子が確実にカイコ染色体に組み込まれていることをサザンブロッティング法により解析した。カイコ染色体は以下の手法により調製した。Cycle3GFPタンパク質の蛍光が観察されたカイコを5齢3日目に解剖し、後部絹糸腺組織を取り出した。1×SSCで洗浄した後、DNA 抽出バッファー(50mM Tris−HCl pH8.0, 1mM EDTA pH8.0, 100mM NaCl)200μlを加えた。プロテイネース K(final 200μg/ml)を加えて組織をグラインダーで充分すりつぶし、更にDNA 抽出バッファーを350μl、10%SDS 60μlを加え混合後、50℃ 2時間保温した。Tris−HCl飽和フェノール pH8.0 500μlを加え10min混合後、10,000rpm 5分 4℃にて遠心分離し上清を回収した。上清に等量のフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を加え混合後、遠心分離した。再度フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコールを加え、遠心分離後上清を回収した。等量のクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)を加え混合後、遠心分離した上清に再度クロロホルム・イソアミルアルコールを加え、遠心分離後上清を回収した。得られた上清に1/10量の3M 酢酸ナトリウム溶液(pH5.2)を加え混合し、更に2.5倍量の冷エタノールを加え−80℃にて30分静置後、15,000rpm 10分 4℃にて遠心分離し染色体DNAを沈殿させた。70%エタノールでDNAの沈殿を洗浄した後、風乾させた。RNase入り滅菌水で100μg/mlとなるように溶解、希釈し染色体 DNA溶液を調製した。
【0053】
カイコ染色体DNA約10μgを制限酵素処理したサンプルを1%アガロースゲルを用いて電気泳動後、DNAをメンブレンに転写させた。プローブとしてCycle3 GFP遺伝子を用い、Gene Images CDP−Star labelling and detection system (アマシャムファルマシア)による化学発光により検出した。その結果調べた5頭のカイコ全てでCycle3 GFP遺伝子が染色体に組み込まれていることが確認された。
【0054】
【発明の効果】
ピギーバックトランスポゼースタンパク質を用いる手法により、外来DNAを昆虫細胞のゲノムに導入することが可能となった。この新手法により、従来の低組換え効率、活性のあるトランスポゾンをコードする遺伝子が染色体に組み込まれて自然界へと広がる危険性といった課題を解決することができる。
【0055】
【配列表】
Claims (11)
- 以下の(a)および(b)を細胞に導入することを特徴とする、昆虫細胞に外来DNAを導入するための方法。
(a) ピギーバック(piggyBac)トランスポゾンの逆位反復配列間に外来DNAが付与されたDNA
(b) 逆位反復配列に対し活性のある、大腸菌により生産されたピギーバックトランスポゼースタンパク質 - 昆虫細胞が鱗翅目昆虫由来であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 昆虫細胞がカイコガ(Bombyx mori)由来であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
- 昆虫細胞がカイコガ(Bombyx mori)由来の卵中に存在することを特徴とする請求項3に記載の方法。
- 細胞への導入方法がマイクロインジェクションによることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
- ピギーバックトランスポゼースタンパク質が単離精製されたものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
- 昆虫細胞に導入する(b) 逆位反復配列に対し活性のある、大腸菌により生産されたピギーバックトランスポゼースタンパク質が、配列番号1に記載したアミノ酸配列を持つピギーバックトランスポゼースタンパク質に1〜30個のアミノ酸を付与した組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
- 昆虫細胞に導入する(b) 逆位反復配列に対し活性のある、大腸菌により生産されたピギーバックトランスポゼースタンパク質が、末端に6〜12個のヒスチジン残基を付与した組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
- 1〜30個のアミノ酸を付与した組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質。
- 6〜12個のヒスチジン残基を付与した請求項9記載の組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質。
- 配列番号2に記載したアミノ酸配列を有する請求項10に記載の組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質。
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JP2003032306A JP2004236642A (ja) | 2003-02-10 | 2003-02-10 | 昆虫細胞のゲノムに外来dnaを導入するための方法 |
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Cited By (2)
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WO2008137114A1 (en) * | 2007-05-04 | 2008-11-13 | University Of Hawai'i | Methods and compositions for targeted delivery of gene therapeutic vectors |
CN101979597A (zh) * | 2010-10-12 | 2011-02-23 | 浙江大学 | 利用piggyBac转座子创制转绿色荧光蛋白基因叉尾斗鱼方法 |
-
2003
- 2003-02-10 JP JP2003032306A patent/JP2004236642A/ja active Pending
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