JP2004232053A - 耐疲労特性の優れたばね鋼線材と耐疲労特性の判定方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】熱延ままの線材或いはその伸線加工や熱処理後、さらにはばね加工後の線材いずれかの線材縦断面において、外表面から深さ方向Dmm×長さ15mm×両外表面側を1視野(1視野面積=D×15×2mm2、ここでDは2または線径(mm)の(2/5)の値のうち小さい方の値。)として、トータル10視野以上を調査し、厚み5μm以上の酸化物系介在物が存在した視野数の酸化物系介在物出現率が30%以下であることを特徴とする耐疲労特性の優れたばね用鋼線材。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般機械において緩衝或いはエネルギー蓄積のためのばね素材に用いる耐疲労性の優れたばね用鋼線材及びばね用鋼線材の耐疲労特性の判定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ばね用鋼線材は、自動車の懸架装置、エンジン弁ばねやタイヤスチールコード等に使用されているが、要求される性能の中で最も重要なものの一つに、繰り返し使用後の耐疲労性がある。
【0003】
特に、自動車等の輸送機械では、走行エネルギー低減のため、各部品の軽量化が進んでいる現状ではばねにおいても軽量化を図るため、耐疲労性をより向上させることが求められている。
【0004】
このような要請に応じるために、ばね用鋼の耐疲労性を向上させる技術として、従来は鋼材内部に存在する酸化物系介在物への応力集中による疲労破壊を防止するために介在物の低減や微細化手段等が提案されている。
【0005】
例えば、溶鋼処理のスラグ組成を適正範囲に制御することにより、酸化物介在物を微細化することにより耐疲労性を向上させた高Siばね用鋼の製造方法がある(例えば、特許文献1)。
【0006】
また、連続鋳造工程において、モールド内溶鋼をサンプリングし、該サンプルの酸化物系介在物の組成を分析し、鋳片を加熱圧延して線材を製造する際の温度を決定し、加熱圧延工程における酸化物系介在物からの硬質介在物の析出を防止することで硬質介在物起因の疲労破壊を防止方法がある(例えば、特許文献2)。
【0007】
しかしながら、いずれの技術も酸化物系介在物を微細化し、或いはその混入比率を減少する方向の技術であって、耐疲労特性が良好であるか否かを判定する技術は提案されていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】
特公平3−62769号公報
【特許文献2】
特開平6−218415号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上記現状に鑑み、鋼中の酸化物系介在物の存在状態を規制した耐疲労特性の優れたばね用鋼線材及びばね用線材の耐疲労特性の判定方法を提供することを課題とするものである。
【0010】
【課題を解決しようとする手段】
本発明者は、ばね用鋼線材の耐疲労特性を向上させることについて鋭意研究した結果、ばね用鋼線材中に存在する酸化物系介在物の形状及び分散状態を制御することで、ばね用鋼線材の耐疲労特性が向上できることを知見して、本発明を完成した。
【0011】
本発明の要旨は、次のとおりである。
【0012】
(1) 熱延ままの線材或いはその伸線加工や熱処理後、さらにはばね加工後の線材いずれかの線材縦断面において、外表面から深さ方向Dmm×長さ15mm×両外表面側を1視野(1視野面積=D×15×2mm2、ここでDは2または線径(mm)の(2/5)の値のうち小さい方の値。)として、トータル10視野以上を調査し、厚み5μm以上の酸化物系介在物が存在した視野数の酸化物系介在物出現率が30%以下であることを特徴とする耐疲労特性の優れたばね用鋼線材。
【0013】
(2)線材縦断面において、外表面から深さ方向Dmm×長さ15mm×両外表面側を1視野(1視野面積=D×15×2mm2、ここでDは2または線径(mm)の(2/5)の値のうち小さい方の値。)として、トータル10視野以上を調査し、厚み5μm以上の酸化物系介在物が存在した視野数の酸化物系介在物出現率によって、耐疲労特性を判定することを特徴とするばね用鋼線材の耐疲労特性の判定方法。
【0014】
(3)酸化物系介在物出現率が30%以下の場合に、耐疲労特性が良好と判定することを特徴とする上記(2)記載のばね用鋼線材の耐疲労特性の判定方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
鋼材内部に存在する硬質介在物への応力集中によって鋼材の疲労破壊が生じるので、その介在物を低減及び微細化して疲労破壊を防止できることは知られている。しかし、鋼材内部に硬質介在物が存在していても、疲労破壊を防止できる条件についてはこれまで明らかにされていない。
【0016】
そこで、本発明者はばね鋼線材の耐疲労特性向上のため、疲労破壊の起因となる硬質介在物の存在状態について研究した。
【0017】
その結果、熱延ままの線材或いは伸線加工や熱処理後、さらにばね加工後の線材のいずれの線材においても、疲労特性が劣化する原因となるのは、鋼材中に存在する酸化物系介在物が破壊の起点となること、そして、ばね応力が立つ表層から最大2mmの範囲内に存在する酸化物系介在物の影響が重要であることを見出した。
【0018】
酸化物系介在物としては、CaO、Al2O3、SiO2、MgO等を主成分とするものである。鋼の精錬工程では造滓剤の添加を伴う溶鋼処理が行われるので、酸化物系介在物は鋼中に不可避的に混入することとなる。
【0019】
本発明者は、ばね鋼線材中に存在する酸化物系介在物の大きさが疲労特性に及ぼす影響について調査解析した。その結果、ばね鋼線材中に厚さ5μm以上の酸化物系介在物が存在すると、疲労破壊に大きな影響があり、その存在に許容できる限界があることを見出した。
【0020】
即ち、図1に示すように、ばね鋼線材1のサンプル縦断面において、線材長手方向(L)断面の表層から深さ方向Dmm、長さ15mmの部分の上下2箇所を1視野(1視野面積=D×15×2mm2、ここでDは2または線径(mm)の(2/5)の値のうち小さい方の値。)として、トータルで10視野以上を顕微鏡(倍率:400倍)で調査した。そして、厚み5μm以上の酸化物系介在物の出現率を式(1)にしたがって求めた。
【0021】
厚み5μm以上の酸化物系介在物出現率は次式(1)のとおり定義した。
介在物出現率(%)=〔(厚み5μm以上の介在物が存在した視野数)/(全調査視野数)〕×100 ・ ・ ・(1)
【0022】
直径が4.5mmφのばね鋼線材を用い、D=1.8mmとし上記に従い酸化物系介在物出現率を求めると共に、回転曲げ疲労試験として中村式回転曲げ疲労試験(試験応力:850Mpa)を施した。
【0023】
なお、Dを最大2mmとする理由は前述のとおりであるが、2または線径(mm)の(2/5)の値のうち小さい方の値とした理由は、使用される鋼材の線径が5mm未満の場合、表層部から厚み方向に線径(mm)の(2/5)の範囲から2mmの範囲に存在する介在物に比べ、その範囲より表層側に存在する介在物の分布状態が疲労寿命を強く左右するため、介在物の厚み方向の評価範囲を線径(mm)の(2/5)より表層側の範囲とした。
【0024】
図2に酸化物系介在物出現率(%)と回転曲げ疲労試験寿命(回)との関係を示す。
【0025】
図2に示すように、測定された厚み5μm以上の酸化物系介在物の出現率が高いほど、これらの介在物が破壊起点となり疲労破壊しやすいため、ばね鋼線材の疲労寿命は低下する。そして、回転曲げ疲労試験寿命(回)が1×108回以上とするには、介在物出現率30%以下にすればよいことが分かった。
【0026】
したがって、本発明では、ばね用鋼線材の縦断面において、外表面側の両箇所(上下2箇所)の表面から深さ方向Dmm(ここでDは2または線径(mm)の(2/5)の値のうち小さい方の値)×長さ15mmを1視野(1視野面積=D×15×2mm2)として、トータル10視野以上を調査し、厚み5μm以上の酸化物系介在物が存在した視野数の酸化物系介在物出現率によって、ばね用鋼線材の耐疲労特性が判定でき、耐疲労特性に優れたばね用鋼線材はその酸化物系介在物出現率が30%以下の場合であるので、これらの点を限定した。
【0027】
次に、本発明のばね用鋼線材の製造方法について説明する。
【0028】
本発明でのばね用鋼線材は、JISで規定されるばね用鋼を使用することができる。例えば、質量%でC:0.50〜0.80%、Si:0.50〜2.50%、Mn:0.30〜1.50%を含有し、他に合金成分としてCr、Mo、V、Nb、Cu、Ni、B、Ti、Te、Sb、Se等を含有するばね用鋼や、C:0.6〜1.0%、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.1〜0.9%を含有する公知のスチールタイヤコード用鋼等を使用することができる。これらの鋼材についてはP、S、Pbその他不純物元素を材質に大きなダメージを与えない範囲含んでも構わない。
【0029】
ばね用鋼線材中に存在する酸化物系介在物は、通常CaO、Al2O3、SiO2、MgO等を主成分とする組成となっている。この酸化物系介在物がばね鋼線材中に5μm未満の厚みで存在させるためには、酸化物組成を制御して延性を改善し、圧延工程での圧下により分断微細化できるようにすればよい。即ち、CaO−Al2O3−SiO2系状態図及びCaO−SiO2−MgO系状態図で融点が1400℃以下の低融点組成に制御する。次いで、少なくとも線材圧延前に鋳片や鋼片等の圧延用鋼材を加熱する際、酸化物系介在物の組成に応じ適正な加熱条件を選択し、加熱終了時点で酸化物系介在物を十分軟質化させた後に熱間圧延することによって、鋼線材中に酸化物系介在物を5μm未満の厚みで存在させることが可能となる。
【0030】
【実施例】
以下、実施例に基いて本発明を詳細に説明する。
【0031】
高炉からの溶銑に脱P、脱Sした後、溶銑を転炉で脱炭精錬し、その後取鍋へSi、Mn、Cr等を添加し、成分調整を行った。その後、取鍋溶鋼上にCaO−Al2O3−SiO2−MgO系スラグを形成させ、溶鋼中の酸化物組成を所定の組成に調整した。この後、タンディッシュで断気しながら連続鋳造法で350mm×560mm断面のブルーム鋳片に鋳造した。鋳片はその後復熱炉で1100〜1300℃で加熱後分塊圧延、鋼片圧延を経て162mm×162mm断面の鋼片に成形された。さらにこのようにして得られた鋼片を加熱、圧延して直径8mmの線材に加工した。線材は伸線加工を施し4mmφまで減面した。
【0032】
上記圧延線材及び伸線材から介在物評価用サンプルを20個採取して各サンプルから1視野ずつ、トータル20視野について酸化物系介在物の分布状況を評価すると共に伸線材より試験片を採取し、中村式回転曲げ疲労試験(試験応力:850MPa)を実施し、耐疲労特性を評価した。
【0033】
表1に試験材の組成を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表2には線材及び伸線材で評価した介在物の評価結果と中村式回転曲げ疲労試験で評価した疲労試験結果の関係を示す。線材及び伸線材での介在物評価で、厚み5μm以上の酸化物系介在物出現率の増加に伴い介在物起点での折損率が増加すると共に疲労寿命が低下し、酸化物系介在物出現率を30%以下に制御することで介在物起点での折損を大幅に低減し、疲労寿命を高位安定させることが可能となることが判る。
【0036】
【表2】
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、耐疲労特性を大幅に向上したばね用鋼線材が提供でき、また耐疲労特性を容易に判断することができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ばね鋼線材について、厚み5μm以下の酸化物系介在物の出現率を調査するサンプルの縦断面図を示す図である。
【図2】介在物出現率(%)と回転曲げ疲労試験寿命(回)との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 ばね鋼線材
Claims (3)
- 熱延ままの線材或いはその伸線加工や熱処理後、さらにはばね加工後の線材いずれかの線材縦断面において、外表面から深さ方向Dmm×長さ15mm×両外表面側を1視野(1視野面積=D×15×2mm2、ここでDは2または線径(mm)の(2/5)の値のうち小さい方の値。)として、トータル10視野以上を調査し、厚み5μm以上の酸化物系介在物が存在した視野数の酸化物系介在物出現率が30%以下であることを特徴とする耐疲労特性の優れたばね用鋼線材。
- 線材縦断面において、外表面から深さ方向Dmm×長さ15mm×両外表面側を1視野(1視野面積=D×15×2mm2、ここでDは2または線径(mm)の(2/5)の値のうち小さい方の値。)として、トータル10視野以上を調査し、厚み5μm以上の酸化物系介在物が存在した視野数の酸化物系介在物出現率によって、耐疲労特性を判定することを特徴とするばね用鋼線材の耐疲労特性の判定方法。
- 酸化物系介在物出現率が30%以下の場合に、耐疲労特性が良好と判定することを特徴とする請求項2記載のばね用鋼線材の耐疲労特性の判定方法。
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JP2003023553A JP2004232053A (ja) | 2003-01-31 | 2003-01-31 | 耐疲労特性の優れたばね鋼線材と耐疲労特性の判定方法 |
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Cited By (2)
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JP2009024245A (ja) * | 2007-07-23 | 2009-02-05 | Kobe Steel Ltd | 疲労特性に優れたばね用線材 |
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-
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- 2003-01-31 JP JP2003023553A patent/JP2004232053A/ja active Pending
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JP4694537B2 (ja) * | 2007-07-23 | 2011-06-08 | 株式会社神戸製鋼所 | 疲労特性に優れたばね用線材 |
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