JP2004221196A - 高耐食性永久磁石およびその製造方法 - Google Patents

高耐食性永久磁石およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】苛酷環境下においても高耐食性を発揮する希土類系永久磁石およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の高耐食性永久磁石は、珪酸リチウムと樹脂を構成成分とし、樹脂が0.1重量%〜50重量%の含量で均一分散した樹脂分散被膜を、希土類系永久磁石の表面に形成した金属を構成成分とする被膜を介して、または、さらにその表面に積層形成した化成処理被膜を介して、有することを特徴とする。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、苛酷環境下においても高耐食性を発揮する希土類系永久磁石およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Nd−Fe−B系永久磁石に代表されるR−Fe−B系永久磁石やSm−Fe−N系永久磁石に代表されるR−Fe−N系永久磁石などの希土類系永久磁石は、資源的に豊富で安価な材料が用いられ、かつ、高い磁気特性を有していることから、特にR−Fe−B系永久磁石は、今日様々な分野で使用されている。
しかしながら、希土類系永久磁石は、反応性の高い希土類金属:Rを含むため、大気中で酸化腐食されやすく、何の表面処理をも行わずに使用した場合には、わずかな酸やアルカリや水分などの存在によって表面から腐食が進行して錆が発生し、それに伴って、磁石特性の劣化やばらつきを招く。さらに、錆が発生した磁石を磁気回路などの装置に組み込んだ場合、錆が飛散して周辺部品を汚染する恐れがある。
従って、希土類系永久磁石の表面に耐食性被膜としてアルミニウムや亜鉛を構成成分とする被膜を形成する方法が古くから知られている。
【0003】
アルミニウムや亜鉛は、希土類系永久磁石に対して犠牲防食作用を有するのでこれらの金属を構成成分とする被膜は耐食性被膜として価値がある。しかしながら、例えば、アルミニウム被膜や亜鉛被膜を気相めっき法によって希土類系永久磁石の表面に形成した場合、わずかではあるがピンホールが被膜中に生成することがあるので、ピンホールを通して酸やアルカリや水分などの腐食成分が磁石の表面に到達し、磁石が腐食するといった現象が起こる。また、これらの金属がその犠牲防食作用を発揮することで溶出したり白錆を発生したりした場合、溶出成分や白錆成分が希土類系永久磁石の使用環境によっては汚染物質になるといった問題がある。
そこで、アルミニウム被膜や亜鉛被膜が有する以上のような問題を解消する方法として、例えば、下記の特許文献1や特許文献2において、アルミニウム被膜の表面に化成処理被膜を形成する方法や、アルミニウム被膜や亜鉛被膜の表面に金属酸化物被膜を形成する方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−150216号公報
【特許文献2】
特開2000−232011号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特許文献1や特許文献2において提案された方法は、アルミニウム被膜や亜鉛被膜が有する以上のような問題を解消する方法として評価することができるものである。しかしながら、昨今において要求される、希土類系永久磁石への過酷環境下における高耐食性付与の観点からはより優れた方法が待ち望まれている。
そこで本発明は、苛酷環境下においても高耐食性を発揮する希土類系永久磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の点に鑑みて種々の検討を行った結果、希土類系永久磁石の表面にアルミニウム被膜を介して形成した化成処理被膜の表面に、さらに、珪酸リチウムを構成成分とする被膜中に所定量の樹脂が均一分散した被膜を形成することで、磁石の耐食性を大幅に向上することができることを知見した。また、希土類系永久磁石の表面に形成したアルミニウム被膜の表面にこのような被膜を直接形成した場合でも、磁石の耐食性を大幅に向上することができることを知見した。
【0007】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、本発明の高耐食性永久磁石は、請求項1記載の通り、珪酸リチウムと樹脂を構成成分とし、樹脂が0.1重量%〜50重量%の含量で均一分散した樹脂分散被膜を、希土類系永久磁石の表面に形成した金属を構成成分とする被膜を介して、または、さらにその表面に積層形成した化成処理被膜を介して、有することを特徴とする。
また、請求項2記載の高耐食性永久磁石は、請求項1記載の高耐食性永久磁石において、樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
また、請求項3記載の高耐食性永久磁石は、請求項2記載の高耐食性永久磁石において、熱可塑性樹脂がソープフリー水溶性エマルジョン樹脂であることを特徴とする。
また、請求項4記載の高耐食性永久磁石は、請求項2または3記載の高耐食性永久磁石において、熱可塑性樹脂がアクリルスチレン樹脂であることを特徴とする。
また、請求項5記載の高耐食性永久磁石は、請求項1乃至4のいずれかに記載の高耐食性永久磁石において、さらに珪酸ナトリウムを樹脂分散被膜の構成成分とすることを特徴とする。
また、請求項6記載の高耐食性永久磁石は、請求項5記載の高耐食性永久磁石において、樹脂分散被膜中におけるナトリウム含量が10重量%以下であることを特徴とする。
また、請求項7記載の高耐食性永久磁石は、請求項1乃至6のいずれかに記載の高耐食性永久磁石において、樹脂分散被膜の付着量が0.01g/m〜5.0g/mであることを特徴とする。
また、請求項8記載の高耐食性永久磁石は、請求項1乃至7のいずれかに記載の高耐食性永久磁石において、金属を構成成分とする被膜が気相めっき法で形成された金属被膜であることを特徴とする。
また、請求項9記載の高耐食性永久磁石は、請求項8記載の高耐食性永久磁石において、金属被膜がアルミニウム被膜であることを特徴とする。
また、請求項10記載の高耐食性永久磁石は、請求項1乃至7のいずれかに記載の高耐食性永久磁石において、金属を構成成分とする被膜が亜鉛微粒子分散珪酸被膜であることを特徴とする。
また、請求項11記載の高耐食性永久磁石は、請求項1乃至10のいずれかに記載の高耐食性永久磁石において、化成処理被膜が構成元素としてジルコニウム、リン、酸素およびフッ素を含有する被膜であることを特徴とする。
また、本発明の高耐食性永久磁石の製造方法は、請求項12記載の通り、希土類系永久磁石の表面に、金属を構成成分とする被膜を形成する工程と、場合によっては、さらにその表面に化成処理被膜を積層形成する工程と、ソープフリー水溶性エマルジョン樹脂を珪酸リチウム水溶液に分散させることで樹脂を0.1重量%〜5重量%、珪酸リチウムを2重量%〜30重量%含むように調製した処理液をその表面に塗装した後、加熱乾燥する工程を少なくとも含んでなることを特徴とする。
また、請求項13記載の製造方法は、請求項12記載の製造方法において、処理液中にさらに珪酸ナトリウムを含むことを特徴とする。
また、請求項14記載の製造方法は、請求項13記載の製造方法において、処理液中におけるナトリウム含量が1重量%以下であることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の高耐食性永久磁石は、珪酸リチウムと樹脂を構成成分とし、樹脂が0.1重量%〜50重量%の含量で均一分散した樹脂分散被膜を、希土類系永久磁石の表面に形成した金属を構成成分とする被膜を介して、または、さらにその表面に積層形成した化成処理被膜を介して、有することを特徴とするものである。
【0009】
希土類系永久磁石の表面に形成する金属を構成成分とする被膜としては、例えば、気相めっき法によって形成されるアルミニウム被膜や亜鉛被膜などの金属被膜や、亜鉛微粒子分散珪酸被膜などのような公知の被膜が挙げられる。
【0010】
例えば、金属被膜としてアルミニウム被膜を形成するために採用することができる気相めっき法としては、真空蒸着法、イオンスパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。アルミニウム被膜は各方法における一般的な条件にて形成すればよいが、形成される被膜の緻密性、膜厚の均一性、被膜形成速度などの観点からは真空蒸着法やイオンプレーティング法を採用することが望ましい。なお、被膜形成前に希土類系永久磁石の表面に対し、洗浄、脱脂、スパッタリングなどの公知の清浄化処理を施してもよいことは言うまでもない。被膜形成時における磁石の温度は、200℃〜500℃に設定することが望ましい。該温度が200℃未満であると磁石の表面に対して優れた密着性を有する被膜が形成されない恐れがあり、500℃を越えると被膜形成後の冷却過程で被膜に亀裂が発生し、被膜が磁石の表面から剥離する恐れがあるからである。アルミニウム被膜の膜厚は、0.01μm未満であると優れた耐食性を発揮できない恐れがあり、50μmを越えると製造コストの上昇を招く恐れがあるだけでなく、磁石の有効体積が小さくなる恐れがあるので、0.01μm〜50μmが望ましいが、0.05μm〜25μmがより望ましい。形成されたアルミニウム被膜の耐食性を向上させるためにその表面に対してピーニングを施してもよい。
【0011】
亜鉛微粒子分散珪酸被膜としては、例えば、結着剤として珪酸バインダを用いたジンクリッチペイント(例えば日本ダクロシャムロック社の商品名:ジオメット)を希土類系永久磁石の表面に塗布した後、乾燥することで形成することができる被膜が挙げられる。亜鉛微粒子分散珪酸被膜の膜厚は、1μm未満であると優れた耐食性を発揮できない恐れがあり、50μmを越えると製造コストの上昇を招く恐れがあるだけでなく、磁石の有効体積が小さくなる恐れがあるので、1μm〜50μmが望ましいが、5μm〜15μmがより望ましい。
【0012】
珪酸リチウムと樹脂を構成成分とし、樹脂が0.1重量%〜50重量%の含量で均一分散した樹脂分散被膜は、以上のような希土類系永久磁石の表面に形成した金属を構成成分とする被膜の表面に形成することで、磁石の耐食性を大幅に向上することができるが、磁石の表面に形成した金属を構成成分とする被膜の表面にさらに化成処理被膜を積層形成し、その表面にこの樹脂分散被膜を形成することで、磁石の耐食性をより大幅に向上することができる。
【0013】
金属を構成成分とする被膜の表面に積層形成する化成処理被膜としては、例えば、上記の特許文献1に記載された構成元素としてジルコニウム、リン、酸素およびフッ素を含有する被膜などが挙げられる。このような被膜は、ジルコニウム化合物と、リン酸、縮合リン酸、フィチン酸、フィチン酸の加水分解物およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1種と、フッ素化合物を含有する処理液を、金属を構成成分とする被膜の表面に塗布し、加熱乾燥することによって形成することができる。このような処理液は、例えば、日本パーカライジング社製の商品名:パルコート3753や、パルコート3756MAおよびパルコート3756MBから調製することができる。例えば、このような化成処理被膜をアルミニウム被膜の表面に形成した場合、化成処理被膜は、アルミニウム被膜を介して希土類系永久磁石の表面に強固に密着しているので、膜厚が0.01μm以上であれば十分な耐食性が得られる。化成処理被膜の膜厚の上限は限定されるものではないが、磁石の十分な有効体積の確保や製造コストの観点などから、1μm以下が望ましいが、0.3μm以下がより望ましい。また、化成処理被膜中のジルコニウムの含有量は1m上に形成される被膜あたり0.1mg〜100mgであることが望ましく、リンの含有量は1m上に形成される被膜あたり0.1mg〜100mgであることが望ましく、酸素の含有量は1m上に形成される被膜あたり0.2mg〜300mgであることが望ましく、フッ素の含有量は1m上に形成される被膜あたり0.05mg〜100mgであることが望ましい。
【0014】
珪酸リチウムと樹脂を構成成分とし、樹脂が0.1重量%〜50重量%の含量で均一分散した樹脂分散被膜は、構成成分としてアルカリ珪酸塩の一つである珪酸リチウムを含む。珪酸リチウムを構成成分とする被膜は、一般式:LiO・nSiOで表される珪酸リチウムの水溶液から形成されるものであり、耐食性に優れるという特性を本質的に有する。前記一般式中におけるnはモル比(SiO/LiO)を意味し、本発明においては、通常、nが1.5〜10の範囲にあるものが使用される。
【0015】
樹脂分散被膜は、アルカリ珪酸塩として珪酸リチウムのみを構成成分とするものであってもよいが、珪酸リチウムに加えてさらに珪酸ナトリウム(水ガラス)や珪酸カリウムや珪酸アンモニウムなどを構成成分とするものであってもよい。中でも珪酸ナトリウムを被膜の構成成分とすることで、被膜形成時の良好な造膜性を確保することが可能となる。また、珪酸ナトリウムを被膜の構成成分とすれば、被膜に外傷やクラックなどが存在していても、珪酸ナトリウムが水にわずかに溶解して当該部分に浸透固化し、自己修復的耐食作用を発揮する。珪酸ナトリウムを被膜の構成成分とする場合、被膜中のその含量はナトリウム含量として10重量%以下にすることが望ましく、5重量%以下にすることがより望ましい。10重量%を越えると形成される被膜の耐水性に悪影響を及ぼすことがあり、これに起因して被膜の劣化を招く恐れがあるからである。
【0016】
樹脂分散被膜の構成成分たる樹脂は熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。樹脂は樹脂分散被膜中に0.1重量%〜50重量%の含量で均一分散される。0.1重量%未満であると樹脂を均一分散させる効果が十分に発揮されないからである。一方、50重量%を越えると樹脂が表面凝集を起こしてしまい、早期に被膜の劣化が起こって希土類系永久磁石の表面に形成した金属を構成成分とする被膜や、金属を構成成分とする被膜の表面に積層形成した化成処理被膜の表面から被膜が剥離したりするからである。なお、樹脂分散被膜中に均一分散される樹脂の含量は、望ましくは1重量%〜30重量%であり、より望ましくは5重量%〜20重量%である。
【0017】
樹脂分散被膜は、例えば、珪酸リチウム水溶液に樹脂を分散させた処理液を調製し、この処理液を、磁石の表面に形成した金属を構成成分とする被膜や、金属を構成成分とする被膜の表面に積層形成した化成処理被膜の表面にスプレー塗装したり、処理液中に、表面に金属を構成成分とする被膜を有する磁石や金属を構成成分とする被膜を介して化成処理被膜を有する磁石を浸漬したりして浸漬塗装を行った後、60℃〜300℃の温度条件下で1分間〜120分間加熱乾燥することによって形成することができる。優れた性能を有する樹脂分散被膜を形成するためには、処理液中において樹脂を均一分散させることが肝要である。また、大量生産を念頭に置いた場合、調製される処理液は保存安定性に優れ、液寿命(ポットライフ)が長いことが理想である。以上の点に鑑みれば、珪酸リチウム水溶液に分散させる樹脂は、乳化剤(界面活性剤)が添加されていないソープフリー水溶性エマルジョン樹脂が望ましい。珪酸リチウム水溶液はアルカリ性を呈するので(pH10〜pH13:このようなpHは磁石腐食の問題を生じさせることがなく作業環境上の面においても望ましい)、樹脂を乳化剤(特にノニオン系界面活性剤)が添加された水溶性エマルジョン樹脂として分散させた場合、液中においてエマルジョン破壊が生じて樹脂のゲル化が起こることが多いため、樹脂が均一分散した処理液を調製することが困難となり、その結果、優れた性能を有する樹脂分散被膜を形成することができなくなる恐れがあるからである。また、このような処理液は当然のことながら以上のような現象に起因して液寿命の点においても劣るからである。
【0018】
本発明者らの検討によれば、熱可塑性樹脂としてアクリルスチレン樹脂をソープフリー水溶性エマルジョン樹脂として珪酸リチウム水溶液に分散させて調製した処理液は、処理液中におけるアクリルスチレン樹脂の均一分散性に優れるようである。従って、この処理液を使用して形成された樹脂分散被膜は、被膜中においてアクリルスチレン樹脂が均一分散し、優れた耐食性を発揮する。なお、アクリルスチレン樹脂とは、スチレンモノマーとアクリル酸エステルモノマーを重合することによって得られる樹脂を意味する。スチレンモノマーとしてはスチレンやα−メチルスチレンなどが使用され得る。アクリル酸エステルモノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが試用され得る。好適なアクリルスチレン樹脂としては、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチルなどがある。ソープフリー水溶性エマルジョンタイプのアクリルスチレン樹脂としては、例えば、旭化成工業社製の商品名:F−2000が好適に使用される。
【0019】
優れた性能を有する樹脂分散被膜を形成するための好適な処理液としては、樹脂をソープフリー水溶性エマルジョン樹脂として0.1重量%〜5重量%、望ましくは0.5重量%〜3重量%含み、珪酸リチウムを2重量%〜30重量%含む処理液が挙げられ、この組成範囲内で被膜中に均一分散させる樹脂が所望含量となるように適宜調整することが望ましい。このような処理液は、水性処理液であるにもかかわらず濡れ性に優れることから、小型の希土類系永久磁石に対してはスプレータンブラー法(特開2001−210505号公報参照)にて金属を構成成分とする被膜や化成処理被膜の表面に塗布することが可能であり、塗布した後は素早く表面全体に広がって乾燥して樹脂分散被膜になるという特性を有する。また、金属を構成成分とする被膜や化成処理被膜の表面にピンホールなどの欠陥が存在する場合であっても、当該部分はこの処理液で充塞されて乾燥した後には樹脂分散被膜で封孔されることから、このような作用が希土類系永久磁石の耐食性を大幅に向上することに寄与しているものと推察される。なお、アルカリ珪酸塩としてさらに珪酸ナトリウムを処理液中に含ませる場合は、処理液中におけるナトリウム含量が1重量%以下となるようにすることが望ましい。
【0020】
樹脂分散被膜は、その付着量が0.01g/m以上(膜厚にして15nm程度以上)となるように形成することが望ましい。0.01g/mよりも少ないと耐食性被膜としての性能を十分に発揮できない恐れがあるからである。なお、付着量の上限は特段限定されるものではないが、付着量が多すぎると均一付着性の確保が困難になる恐れや被膜にクラックが生じる恐れがある。従って、以上の観点からは付着量の上限は5.0g/mとすることが望ましい。
【0021】
本発明に適用される希土類系永久磁石としては、例えば、R−Fe−B系永久磁石やR−Fe−N系永久磁石などの公知の希土類系永久磁石が挙げられる。中でも、R−Fe−B系永久磁石は、前述のように、磁気特性が高く、量産性や経済性に優れている上に、被膜との優れた密着性を有する点において望ましいものである。これらの希土類系永久磁石における希土類元素(R)は、Nd、Pr、Dy、Ho、Tb、Smのうち少なくとも1種、あるいはさらに、La、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb、Lu、Yのうち少なくとも1種を含むものが望ましい。
また、通常はRのうち1種をもって足りるが、実用上は2種以上の混合物(ミッシュメタルやジジムなど)を入手上の便宜などの理由によって使用することもできる。
さらに、Al、Ti、V、Cr、Mn、Bi、Nb、Ta、Mo、W、Sb、Ge、Sn、Zr、Ni、Si、Zn、Hf、Gaのうち少なくとも1種を添加することで、保磁力や減磁曲線の角型性の改善、製造性の改善、低価格化を図ることが可能となる。また、Feの一部をCoで置換することによって、得られる磁石の磁気特性を損なうことなしに温度特性を改善することができる。
なお、本発明に適用される希土類系永久磁石は、焼結磁石であってもボンド磁石であってもよい。
【0022】
なお、樹脂分散被膜の表面に、さらに別の被膜を積層形成してもよい。このような構成を採用することによって、希土類系永久磁石の表面に形成した積層被膜の特性を増強・補完したり、更なる機能性を付与したりすることができる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。なお、以下の実施例は、例えば、米国特許4770723号公報や米国特許4792368号公報に記載されているようにして、公知の鋳造インゴットを粉砕し、微粉砕後に成形、焼結、熱処理、表面加工を行うことによって得られた17Nd−1Pr−75Fe−7B組成(at%)の縦40mm×横20mm×高さ2mm寸法の平板状焼結磁石(以下、磁石体試験片と称する)を用いて行った。
【0024】
(実施例1)
工程A:
磁石体試験片に対し、真空容器内を1×10−4Pa以下に真空排気し、Arガス圧10Pa、バイアス電圧−400Vの条件下、35分間、スパッタリングを行い、表面を清浄化した。
次に、Arガス圧1Pa、電圧1.5kV、磁石温度220℃の条件下、コーティング材料としてアルミニウムワイヤーを用い、アルミニウムワイヤーを加熱して蒸発させ、イオン化し、30分間、イオンプレーティング法にて、磁石体試験片の表面にアルミニウム被膜を形成し、放冷した。形成されたアルミニウム被膜の膜厚は12.8μmであった(n=3の平均値)。
その後、Nガスからなる加圧気体とともに、平均粒径120μm、モース硬度6の球状ガラスビーズ粉末を、噴射圧1.5kg/cmにて5分間、アルミニウム被膜の表面に対して噴射して、ショットピーニングを施した。
【0025】
工程B:
珪酸リチウム(LiO・nSiO:n=4.5)と珪酸ナトリウム(NaO・nSiO:n=3)を合計10重量%含むアルカリ珪酸塩水溶液(珪酸リチウムと珪酸ナトリウムは重量比が4:1であり、ナトリウム含量は0.4重量%)に、ソープフリー水溶性エマルジョンタイプのアクリルスチレン樹脂として商品名:F−2000(旭化成工業社製の熱可塑性樹脂)をアクリルスチレン樹脂として2.5重量%含むように添加し、スターラーにて混合攪拌することで、処理液を調製した(pHは約11)。
工程Aで得られた表面にアルミニウム被膜を有する磁石体試験片をエタノールで超音波洗浄した後、以上のようにして調製した処理液に浸漬し、その後、引き上げてエアワイピングを行い、200℃で20分間加熱乾燥して磁石体試験片の表面にアルミニウム被膜を介して樹脂分散被膜を形成した。形成された樹脂分散被膜の付着量は1.4g/m、樹脂含量は20重量%、ナトリウム含量は3.2重量%であった(いずれもn=3の平均値)。
以上のようにして得た、表面にアルミニウム被膜を介して樹脂分散被膜を有する磁石体試験片3個に対してJIS Z2371に記載の塩水噴霧試験を行ったところ、試験開始から100時間を経過しても発錆が観察されたものは存在しなかった。
【0026】
(比較例1)
実施例1の工程Aで得られた表面にアルミニウム被膜を有する磁石体試験片3個に対してJIS Z2371に記載の塩水噴霧試験を行ったところ、試験開始から24時間で全て発錆が観察された。
【0027】
(実施例2)
工程A:
実施例1の工程Aと同様にして磁石体試験片の表面にアルミニウム被膜を形成した。形成されたアルミニウム被膜の膜厚は11.2μmであった(n=3の平均値)。その後、実施例1の工程Aと同様にしてアルミニウム被膜の表面に対してショットピーニングを施した。
【0028】
工程B:
パルコート3756MAおよびパルコート3756MB(いずれも商品名・日本パーカライジング社製)各10gを水1リットルに溶解し、処理液とした。この処理液に工程Aで得られた表面にアルミニウム被膜を有する磁石体試験片を温浴50℃で1分30秒間浸漬した後、120℃で20分間加熱乾燥して磁石体試験片の表面にアルミニウム被膜を介して化成処理被膜を形成した。形成された化成処理被膜の膜厚は0.07μmであり、被膜中のジルコニウム含有量は16mg(1m上あたり)、リン含有量は11mg(同)、酸素含有量は50mg(同)、フッ素含有量は3mg(同)であった(いずれもn=3の平均値)。
【0029】
工程C:
実施例1の工程Bと同様にして化成処理被膜の表面に樹脂分散被膜を形成した。形成された樹脂分散被膜の付着量は1.4g/mであった(n=3の平均値)。
以上のようにして得た、表面にアルミニウム被膜とその表面に積層形成した化成処理被膜を介して樹脂分散被膜を有する磁石体試験片3個に対してJIS Z2371に記載の塩水噴霧試験を行ったところ、試験開始から200時間を経過しても発錆が観察されたものは存在しなかった。
【0030】
(比較例2)
実施例2の工程Aと工程Bで得られた表面にアルミニウム被膜を介して化成処理被膜を有する磁石体試験片3個に対してJIS Z2371に記載の塩水噴霧試験を行ったところ、試験開始から96時間で全て発錆が観察された。
【0031】
(実施例3)
工程A:
ジオメット720(商品名:日本ダクロシャムロック社製)にエタノールにて超音波洗浄(脱脂処理)してから15分間自然乾燥させた磁石体試験片を浸漬した。処理液から取り出した磁石体試験片を遠心乾燥機に収容し、300rpmにて30秒間振り切りすることで磁石体試験片の表面に付着している余分な処理液を除去した後、100℃×5分間大気中にて仮乾燥した。こうして表面に塗布した処理液を仮乾燥させた試験片を再度処理液に浸漬した。処理液から取り出した磁石体試験片の表面に付着している余分な処理液を上記と同様にして除去した後、320℃×10分間大気中にて熱処理を行うことで磁石体試験片の表面に亜鉛微粒子分散珪酸被膜を形成した。形成された亜鉛微粒子分散珪酸被膜の膜厚は10.3μmであった(n=3の平均値)。
【0032】
工程B:
実施例1の工程Bと同様にして亜鉛微粒子分散珪酸被膜の表面に樹脂分散被膜を形成した。形成された樹脂分散被膜の付着量は1.3g/mであった(n=3の平均値)。
以上のようにして得た、表面に亜鉛微粒子分散珪酸被膜を介して樹脂分散被膜を有する磁石体試験片3個に対してJIS Z2371に記載の塩水噴霧試験を行ったところ、試験開始から1000時間を経過しても発錆が観察されたものは存在しなかった。
【0033】
(比較例3)
実施例3の工程Aで得られた表面に亜鉛微粒子分散珪酸被膜を有する磁石体試験片3個に対してJIS Z2371に記載の塩水噴霧試験を行ったところ、試験開始から800時間で全て発錆が観察された。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、苛酷環境下においても高耐食性を発揮する希土類系永久磁石およびその製造方法が提供される。

Claims (14)

  1. 珪酸リチウムと樹脂を構成成分とし、樹脂が0.1重量%〜50重量%の含量で均一分散した樹脂分散被膜を、希土類系永久磁石の表面に形成した金属を構成成分とする被膜を介して、または、さらにその表面に積層形成した化成処理被膜を介して、有することを特徴とする高耐食性永久磁石。
  2. 樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1記載の高耐食性永久磁石。
  3. 熱可塑性樹脂がソープフリー水溶性エマルジョン樹脂であることを特徴とする請求項2記載の高耐食性永久磁石。
  4. 熱可塑性樹脂がアクリルスチレン樹脂であることを特徴とする請求項2または3記載の高耐食性永久磁石。
  5. さらに珪酸ナトリウムを樹脂分散被膜の構成成分とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の高耐食性永久磁石。
  6. 樹脂分散被膜中におけるナトリウム含量が10重量%以下であることを特徴とする請求項5記載の高耐食性永久磁石。
  7. 樹脂分散被膜の付着量が0.01g/m〜5.0g/mであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の高耐食性永久磁石。
  8. 金属を構成成分とする被膜が気相めっき法で形成された金属被膜であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の高耐食性永久磁石。
  9. 金属被膜がアルミニウム被膜であることを特徴とする請求項8記載の高耐食性永久磁石。
  10. 金属を構成成分とする被膜が亜鉛微粒子分散珪酸被膜であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の高耐食性永久磁石。
  11. 化成処理被膜が構成元素としてジルコニウム、リン、酸素およびフッ素を含有する被膜であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の高耐食性永久磁石。
  12. 希土類系永久磁石の表面に、金属を構成成分とする被膜を形成する工程と、場合によっては、さらにその表面に化成処理被膜を積層形成する工程と、ソープフリー水溶性エマルジョン樹脂を珪酸リチウム水溶液に分散させることで樹脂を0.1重量%〜5重量%、珪酸リチウムを2重量%〜30重量%含むように調製した処理液をその表面に塗装した後、加熱乾燥する工程を少なくとも含んでなることを特徴とする高耐食性永久磁石の製造方法。
  13. 処理液中にさらに珪酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項12記載の製造方法。
  14. 処理液中におけるナトリウム含量が1重量%以下であることを特徴とする請求項13記載の製造方法。
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