JP2004219485A - 電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体、画像形成方法、画像形成装置ならびに画像形成装置用プロセスカートリッジ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の電子写真感光体の製造方法においては、感光層用塗工液を、循環装置を備えた浸漬塗工装置の循環系に投入して電子写真感光体を製造する方法において、該感光層用塗工液としてCuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶をバインダー樹脂と共に有機溶媒中で分散して得られた分散液を用い、該分散液を有効孔径が3μm以下のフィルターにて一次濾過してから塗工装置の循環系に投入し、更に該浸漬塗工装置の循環系内で有効孔径10μm以下のフィルターで該分散液を二次濾過する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真感光体の製造方法、該製造方法を用いて作製した電子写真感光体、該感光体を使用した画像形成方法、画像形成装置、画像形成装置用プロセスカートリッジに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子写真方式を用いた情報処理システム機の発展は目覚ましいものがある。特に情報をデジタル信号に変換して、光によって情報記録を行なう光プリンターは、そのプリント品質、信頼性において向上が著しい。このデジタル記録技術はプリンターのみならず通常の複写機にも応用され、所謂デジタル複写機が開発されている。また、従来のアナログ複写にこのデジタル記録技術を搭載した複写機は、種々様々な情報処理機能が付加されるため、今後その需要性が益々高まっていくと予想される。
【0003】
前記情報記録を行なう光プリンターの光源としては現在のところ小型で安価で信頼性の高い半導体レーザー(LD)や発光ダイオード(LED)が多く使われている。現在よく使われているLEDの発光波長は660nmであり、LDの発光波長域は近赤外光領域にある。このため可視光領域から近赤外光領域に高い感度を有する電子写真感光体の開発が望まれている。
【0004】
かかる電子写真感光体の感光波長域は感光体に使用される顔料(即ち、電荷発生物質)の感光波長域によってほぼ決まってしまう。そのため従来から、各種アゾ顔料、多環キノン系顔料、三方晶形セレン、各種フタロシアニン顔料等多くの電荷発生物質が開発されている。それらの内、特開平3−35064号公報、特開平3−35245号公報、特開平3−37669号公報、特開平3−269064号公報、特開平7−319179号公報等に記載されているチタニルフタロシアニン(以下、TiOPcともいう。)は600〜800nmの長波長光に対して高感度を示すため、光源がLEDやLDである電子写真プリンターやデジタル複写機用の感光体用材料として極めて重要かつ有用である。
【0005】
一方、カールソンプロセスおよび類似プロセスにおいて繰り返し使用される電子写真感光体の条件としては、感度、受容電位、電位保持性、電位安定性、残留電位、分光特性等に代表される静電特性が優れていることが要求される。とりわけ、高感度感光体についてはくり返し使用による帯電性の低下と残留電位の上昇が、感光体の寿命特性を支配するということが多くの感光体で経験的に知られており、前記チタニルフタロシアニンもこの例外ではない。したがって、チタニルフタロシアニンを用いた感光体の繰り返し使用による安定性は未だ充分とは言えず、その技術の完成が熱望されていた。
【0006】
チタニルフタロシアニン(顔料)の基本構造は次の一般式(XI)で表わされる。
【化1】
(XI)式中、X1、X2、X3、X4は各々独立に各種ハロゲン原子を表わし、n、m、l、kは各々独立的に0〜4の数字を表わす。
【0007】
チタニルフタロシアニン(TiOPc)の合成法や電子写真特性に関する文献としては、例えば特開昭57−148745号公報、特開昭59−36254号公報、特開昭59−44054号公報、特開昭59−31965号公報、特開昭61−239248号公報、特開昭62−67094号公報などが挙げられる。また、TiOPcには種々の結晶型が知られており、特開昭59−49544号公報、特開昭59−41616959号公報、特開昭61−239248号公報、特開昭62−67094号公報、特開昭63−366号公報、特開昭63−116158号公報、特開昭63−196067号公報、特開昭64−17066号公報、特開平2−8256号公報、特開平3−255456号公報、特開平11−5919号公報、特開2001−19871号公報(特許文献1)等に各々結晶型の異なるTiOPcが記載されている。
【0008】
これらのうち、特開昭64−17066号公報、特開平2−8256号公報、特開平11−5919号公報、特開2001−19871号公報(特許文献1)等に記載されるCuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニンは、非常に高感度であり、780nmのレーザーダイオード(LD)を露光光源とする電子写真装置に使用される感光体として極めて有用である。
中でも、特開2001−19871号公報(特許文献1)に記載されるCuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有し、かつ最も低角側の回折ピークとして7.3°にピークを有し、7.4〜9.4°の範囲にピークを有さないチタニルフタロシアニン結晶は、これを電荷発生物質に用いた感光体において、繰り返し使用による帯電性の低下が極めて少なく、非常に有用であることが知られている。
【0009】
しかしながら、該CuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニンは、結晶型としては準安定状態にあり、熱エネルギーや機械的なストレスにより、他の結晶型に転移しやすいという問題点を有している。チタニルフタロシアニンにおいては、この結晶型が特異的に高感度を示すことが知られており、前述のように結晶の一部が他の結晶型に転移してしまうと、特有の光感度が発現されなくなってしまう。このようにストレス等により結晶型が変化してしまう現象は、結晶多型である有機結晶には観察されることではある。しかしながら、チタニルフタロシアニン以外のフタロシアニン類では、このような結晶型の変化により光感度が非常に大きく変わってしまうという現象は見い出だされてはいない。この違いは、ブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶が類い希なる高感度を示し、またこの結晶が別の結晶へ結晶転移した場合の光感度のギャップの大きさを表わす結果であり、過去に知られてきた他のフタロシアニン類や別の有機電荷発生材料の常識(結晶転移してもそれほど大きな特性の変化がないこと)が通用しないことを顕著に表わすものである。
【0010】
このため、上述の結晶型を有するチタニルフタロシアニン結晶を用いた分散液を作製する際には、他の有機材料を用いた公知技術のように、過剰の分散エネルギーを与えることにより、一次粒子レベルもしくはそれ以下まで分散を継続するという手法を適用することができずに、顔料粒子の小粒径化および粗大粒子の除去を困難にしていた。
【0011】
一方、現在のデジタル複写機やデジタルプリンターには、画像書き込み光にLDやLEDを用いているが、通常の出力画像においては印字部の面積が高々10%程度であるため、LDやLEDの寿命(光源の劣化)、感光体の光疲労を考慮して、印字部に画像光を書き込み反転現像することにより、画像出力するネガ・ポジ現像が主流である。ネガ・ポジ現像の場合、画像光が書き込まれない部分は地肌(白地)になるものであるが、使用する感光体によっては初期状態から、あるいは繰り返し使用により、本来白地であるはずの地肌に微少な点欠陥が発生し、画像全体がややグレーがかった画像になってしまうことがある(これを地肌汚れと呼ぶ)。また、原稿にはない地肌部での点欠陥(先の地肌汚れよりもやや大きい:黒ポチと呼ばれる)が発生することがあり、図面における点、英文原稿におけるピリオド、カンマなどと見間違えられることがあり、画像としては致命的な欠陥であると言える。
【0012】
このような欠陥は主に感光体の局部的な電位リークに基づく現象であることがほとんどであり、感光体の耐圧性の向上、帯電均一性の向上、電位保持均一性の向上が主たる課題になっている。
【0013】
本発明者がこの現象について鋭意検討を重ねた結果、以下のことが判った。
電子写真装置における現像後、転写前の状態で感光体を停止することにより、上述の点欠陥が発生する部位を特定した。点欠陥が発生する部位に対応する感光体表面にはトナー粒子が現像されているが、その部位を光学顕微鏡を用いて注意深く観察したところ、そのほとんどに対応して電荷発生層中の電荷発生物質のやや大きめの粒子(以下、粗大粒子と呼ぶ場合がある)に基づく欠陥が観察された。したがって、上述の点欠陥は感光体動作における帯電印加時の電位リークが、この粗大粒子を起点として起こっていると考えられる。この電位リークが感光体非画像部(光書き込みを行なっていない地肌部)で起こることにより、表面電位が局部的に低下し、そこにトナーが現像されることにより、画像上、点欠陥として現れてしまうものである。このことから、これら電荷発生物質の粗大粒子を完全に取り除かないと、前記画像欠陥を防止することができないことが判った。
【0014】
これまでに知られているチタニルフタロシアニン等を用いた分散液、あるいは感光体においては、粒子の平均粒径の大きさが重要であると考えられてきた。このため、従来は平均粒子サイズをコントロールすることで、分散液の安定性(沈降性等)の向上、極端な塗膜欠陥の防止、光感度特性の安定化(高感度化)を制御してきた。しかしながら、上述した画像上の微少欠陥に関しては、完全には理解しきれていなかった。
本発明者が、分散液の更なる観察により、微小欠陥に関して検討した結果、上記現象は次のように理解された。通常、平均粒子サイズを測定するような方法においては、極端に大きな粒子が数%以上も存在するような場合には、その存在が検出できる。これに対し、極端に大きな粒子が全体の1%以下程度のような微量になってくると、その測定は検出限界以下になってしまう。その結果として、平均粒子サイズの測定だけでは粗大粒子の存在が検出されずに、上述のような微小欠陥に関する取扱いを困難にしていた。
【0015】
図1および2に、分散条件を固定して分散時間だけを変更した2種類の分散液の状態を観察した写真を示す。図1は同一条件における分散時間の短い分散液の写真であり、図2は同一条件における分散時間の長い写真である。図1と図2を比較すると、分散時間の短い図1は、分散時間の長い図2と比較して、粗大粒子が残っている様子が観測される。図1中の黒い粒が粗大粒子である。この2種類の分散液の平均粒径並びに粒度分布を公知の方法に従って、市販の粒度分布測定装置(堀場製作所製:超遠心式自動粒度分布測定装置、CAPA700)により測定した。その結果を図3に示す。図3における「A」が図1に示す分散液に対応し、「B」が図2に示す分散液に対応する。両者を比較すると、粒度分布に関してはほとんど差が認められない。また、両者の平均粒径値は、「A」が0.29μm、「B」が0.28μmであり、測定誤差を加味した上では、両者に全くの差異が認められなかった。
【0016】
したがって、公知の平均粒径(粒子サイズ)の規定だけでは、微量な粗大粒子の残存を検出できずに、昨今の高解像度のネガ・ポジ現像には対応できていないことが理解される。この微量な粗大粒子の存在は、塗工液を顕微鏡レベルで観察することにより、初めて認識できたものである。
【0017】
上述の状況は、前記特開2001−19871号公報(特許文献1)に記載されているチタニルフタロシアニンを用いた感光体でも同様であり、非常に微量の粗大粒子の存在が、黒ポチを誘発しており、静電的に非常に耐久性の高い上記材料の実力を十分に引き出されていない。この現象は、昨今の書き込み光の高解像度化により著しく顕著になり、またタンデム方式のフルカラー装置においても大きな問題となる。しかしながら、この粗大粒子を分散条件の改良で行おうとすると、他の結晶型の転移など副作用が生み出されていた。
【0018】
このような粗大粒子を取り除く方法として、大きく2つの方法が考えられる。
1つは、結晶型の安定な材料を用い分散時間を非常に長くすることで、分散と凝集の平衡状態の領域まで持っていき、最も細かい領域で使用することである。この場合、分散前の粒子サイズの細かい材料を用いることが有効である。例えば、特開昭62−275272号公報、特開昭62−229253号公報、特開昭63−18361号公報などに開示されている。これらは、非結晶性のチタニルフタロシアニンやバナジルフタロシアニンを電荷発生材料に用いるものであるが、これらの材料はアシッドペースティング法などにより、分散操作を行なう前の一次粒子径が0.1μm以下のものである。したがって、分散に際しては過剰のストレスを与えることなく分散粒径の細かい(粒度分布の狭い)分散液を容易に作製できるものである。これに対して、本発明で使用する特定の結晶型を有するチタニルフタロシアニン結晶は、上述の非結晶性チタニルフタロシアニンを結晶変換することにより得るものであり、結晶変換と同時に結晶成長が平行して進むので、得られる結晶の一次粒子は細かくても0.3〜0.4μm程度になってしまう。
【0019】
また、このような結晶性の材料は、非結晶性の材料に比べて粒子間の凝集力が強く、仮に一次粒子が細かくても粗大粒子を生成しやすい状態になっている。このため、前記公報記載のように単純な方法では、非常に細かい粒子径を有する分散液を作製することは困難である。また、分散の平衡状態まで持っていこうとした場合には、所望の結晶型から別の結晶型への結晶転移を起こしやすいため、分散に際しても過剰のストレスをかけることができない。実際、本発明で使用する結晶型を有する材料は、分散時間の延長あるいは分散条件での高シェア化により、先の図2のような分散状態を作り上げようとすると、結晶型の転移が起こってしまう。
【0020】
もう1つの方法は、粗大粒子を何らかの方法で取り除こうとするものである。
例えば、特開平3−221963号公報には分散液を遠心分離し、更に濾過処理を行なう方法が記載されている。しかしながら、通常感光体の製造方法として使用されている浸漬塗工方法は、非常に大量の塗工液を必要とすることから、遠心分離操作は煩雑であり、実使用上大きな問題となる。
また類似の別の技術として、特開平11−38652号公報(特許文献2)には、分散液中に混入する不純物除去を目的として、分散操作直後に濾過操作をする旨の記載がなされている。しかしながら、分散液中の顔料粒子を適当な分布を有するサイズにまで分散しておかないと、フィルターの目詰まりの問題、また顔料粒子が選択的に濾過されるため、塗工液中の顔料/樹脂比が異なってしまい、ひいては感光体の静電特性に影響を与えてしまうものであった。
【0021】
一方、前述のような非常に光感度を示す有機顔料は、ほぼ例外なく非常に凝集力が大きい。これは、有機顔料が一般的に単量体で存在せず、会合体を形成してはじめて光キャリア発生を示すからである。この現象の詳細の全ては明らかではないが、分子間の水素結合等により最低でも数千の分子が会合し、一次粒子を形成して、有機顔料の最低単位が形成されている。またこれら一次粒子は更に高度な会合を生じて、二次粒子を形成することで有機顔料を形成する。有機顔料の粉体を観察すれば明らかであるが、合成後の合成液中の有機顔料粒子を取り出して、その粒子サイズを観察すると、ほとんどの場合、長径でサブミクロンのオーダーである。これをだんだん乾固していくと次第に二次粒子を形成するようになり、最終的に乾燥した粉体の状態では、ミリオーダーの固まりとして取り出される。この固まりは、二次粒子(および一次粒子)の集合体であり、機械的な剪断力等により、サブミリオーダーの大きさに粉砕することが出来る。
【0022】
前記地肌汚れや黒ポチ等の欠陥を防止するためには、このような有機顔料粉体を各種の分散方法により、最低でも1μm以下の粒子サイズの分散液にしなければならない。しかし、分散液中に含まれる電荷発生物質(顔料)粒子同士は、粒子間のクーロン反発による分散安定性とビヒクルとの親和性の悪さ(例えば塗れ性の悪さなど)による凝集性が同時に混在し、分散と凝集の平衡状態を保って存在している。しかしながら、顔料粒子の比重はビヒクルの比重より大きいため、分散液を静置保管を行うと顔料粒子は必ず沈降する。これを防ぐために、ビヒクル中にバインダー樹脂を用い、ビヒクルの粘度を上昇させることにより沈降速度を低下させるなどの手段が用いられる。ところが、浸漬塗工法においては、塗膜の膜厚は塗工液の粘度のべき乗に比例して大きくなるため、感光層(特に電荷発生層)のような薄膜を形成する場合には、自ずと粘度の上限があり、必ずしも有効な手段ではない。
【0023】
また、粒子の沈降を防ぐ手段として、塗工液を循環する方法も用いられる。これは浸漬塗工を行う際に塗工層内の液面を一定にすること、塗工1回ごとに新しい液を供給できること等の効果も加わり、浸漬塗工法では一般的に用いられている技術である。しかしながら、この方法においても循環系内でコーナーのような部分において循環が不十分な箇所(液溜まり部)が発生したり、塗工中には循環を停止しなければならない(循環装置の振動により塗膜欠陥を生じる場合がある。特に薄膜の場合にはこの問題は顕著である)といった事情があり、粒子の凝集を完全に防げるものではない。
【0024】
更に、本発明で用いるチタニルフタロシアニン結晶は結晶多型の顔料であり、前述のように物理的・熱的なストレスによって他の結晶型に容易に結晶転移してしまうものである。このため、循環装置においても分散液を循環させるためのポンプ等の循環用部材の出力を大きくすることには限界があるので、循環流量そのものを大きくすることは出来ない。このため、前述のような凝集を循環の作用だけによって解決することは困難を極める。また、結晶転移した顔料粒子は一般的に結晶成長したものであり、粒子サイズが大きくなっている。従って、結晶転移をさせてしまうことは、結晶型を変化させてしまうだけでなく、凝集物の存在量も多くしてしまうことになる。
【0025】
更に、循環系の中に適当な濾過装置を設けて、生成した凝集物を取り除いてしまう方法も存在する。しかしながら、凝集物の生成量があまり多い場合には、濾過装置での圧損が大きく、循環用部材への負荷が大きく、最悪の場合には循環そのものが不可能になる。また、一般的にはビヒクル中にはバインダー樹脂が併用されるが、濾過されるほとんどの物質が顔料粒子の凝集物であるため、凝集物の生成量が多い場合には、分散液の組成をも変化させてしまう。本願のように、電子写真感光体にこの分散液を使用する場合には、顔料/バインダー樹脂比というものが感光体の特性を大きく変化させるものであり、単純に凝集物を取り除いて行った場合には、製造される感光体の静電特性が安定しなくなり、感光体の製造そのものが不安定になってしまう。
【0026】
以上の点から、一般的には塗工装置内の分散液の状態を確認したり、製造される感光体の特性、塗膜状態などを確認した上で、これらの特性が確保できなくなった時点を分散液の寿命として、塗工装置内の分散液を交換する等の方法により、製造を継続しているものであった。
【0027】
従来は以上説明したように、チタニルフタロシアニン(CuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニン)を用いた感光体を、簡便な方法で長期間、安定して製造できる手段がなかった。
【0028】
【特許文献1】
特開2001−19871号公報
【特許文献2】
特開平11−38652号公報
【0029】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、長期間にわたる浸漬塗工方法においても、分散安定性および結晶安定性に富み、分散液の寿命を長くし、感光層のような薄膜が形成されても、塗工に際して塗膜欠陥の少ない電子写真感光体の製造方法を提供することにある。本発明の別の目的は、前記従来技術の欠点を改善し、非常に高感度であり、ネガ・ポジ現像を使用した高速デジタル複写機、デジタルプリンターに搭載が可能で、初期および繰り返し使用後にも地汚れ・黒ポチ等の画像欠陥が少なく、安定した画像出力が可能な電子写真感光体を提供することにある。更に本発明の別の目的は、ネガ・ポジ現像を使用し、高速印字が可能で、初期および繰り返し使用後にも異常画像の少ない、安定した画像を得ることのできる電子写真方法、電子写真装置、電子写真用プロセスカートリッジを提供することにある。
【0030】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、地汚れ・黒ポチといったネガ・ポジ現像に致命的な画像欠陥に着目し、上記課題を解決すべく、欠陥部の感光体中の塗膜状態と画像欠陥部の対応に関して鋭意検討を行ない、感光体中の塗膜を特定の方法によりコントロールすることで、上記欠陥を限りなく減少させることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、以下に示す電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体、画像形成方法、画像形成装置ならびに画像形成装置用プロセスカートリッジが提供される。
〔1〕感光層用塗工液を、循環装置を備えた浸漬塗工装置の循環系に投入して電子写真感光体を製造する方法において、該感光層用塗工液としてCuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶をバインダー樹脂と共に有機溶媒中で分散して得られた分散液を用い、該分散液を有効孔径が3μm以下のフィルターにて一次濾過してから塗工装置の循環系に投入し、更に該浸漬塗工装置の循環系内で有効孔径10μm以下のフィルターで該分散液を二次濾過することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
〔2〕該分散液中に含有されるチタニルフタロシアニン結晶粒子の体積平均粒子径が0.3μm以下であり、その標準偏差が0.2μm以下であり、かつ該分散液中に1μm以上の粗大粒子が存在しないように一次濾過してから塗工装置の循環系に投入することを特徴とする前記〔1〕に記載の電子写真感光体の製造方法。
〔3〕該チタニルフタロシアニン結晶粒子の体積平均粒径が0.3μm以下で、その標準偏差が0.2μm以下になるまで分散を行なってから、一次濾過することを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の電子写真感光体の製造方法。
〔4〕メディア径が0.5mm以下の分散メディアを用いて分散を行うことを特徴とする前記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
〔5〕該チタニルフタロシアニン結晶が、CuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、更に9.4°、9.6°、24.0°に主要なピークを有し、かつ最も低角側の回折ピークとして7.3°にピークを有し、7.4〜9.4°の範囲にピークを有さないことを特徴とする前記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の分散液の電子写真感光体の製造方法。
〔6〕該チタニルフタロシアニン結晶が、更に26.3°にピークを有さないことを特徴とする前記〔5〕に記載の電子写真感光体の製造方法。
〔7〕導電性支持体上に、少なくとも電荷発生層、電荷輸送層を積層した電子写真感光体であって、該電荷発生層を前記〔1〕乃至〔6〕の何れかに記載の製造方法にて形成したことを特徴とする電子写真感光体。
〔8〕該電荷輸送層が、高分子電荷輸送物質を含有することを特徴とする前記〔7〕に記載の電子写真感光体。
〔9〕該電荷輸送層上に保護層を積層したことを特徴とする前記〔7〕又は〔8〕に記載の電子写真感光体。
〔10〕該保護層が、比抵抗1010Ω・cm以上の無機顔料又は金属酸化物を含有することを特徴とする前記〔9〕に記載の電子写真感光体
〔11〕該金属酸化物が、比抵抗1010Ω・cm以上のアルミナ、酸化チタン、シリカのいずれかであることを特徴とする前記〔10〕記載の電子写真感光体
〔12〕該金属酸化物が、比抵抗1010Ω・cm以上のα−アルミナであることを特徴とする前記〔10〕記載の電子写真感光体。
〔13〕該保護層が、高分子電荷輸送物質を含有することを特徴とする前記〔9〕乃至〔12〕のいずれかに記載の電子写真感光体。
〔14〕該電子写真感光体の導電性支持体表面が、陽極酸化皮膜処理されたものであることを特徴とする前記〔7〕乃至〔13〕のいずれかに記載の電子写真感光体。
〔15〕前記〔7〕乃至〔14〕のいずれかに記載の電子写真感光体に、少なくとも帯電、画像露光、現像、転写を繰り返し行なうことを特徴とする画像形成方法。
〔16〕帯電手段、画像露光手段、現像手段、転写手段、および前記〔7〕乃至〔14〕のいずれかに記載の電子写真感光体を有する画像形成要素を、少なくとも具備してなることを特徴とする画像形成装置。
〔17〕該画像形成要素を複数配列したことを特徴とする前記〔16〕に記載の画像形成装置。
〔18〕該帯電手段が帯電部材を感光体に接触もしくは近接配置したものであることを特徴とする前記〔16〕又は〔17〕に記載の画像形成装置。
〔19〕該帯電部材と感光体間の空隙が200μm以下であることを特徴とする前記〔18〕に記載の画像形成装置。
〔20〕該帯電手段が直流成分に交流成分を重畳することにより、感光体を帯電することを特徴とする前記〔18〕又は〔19〕に記載の画像形成装置。
〔21〕前記〔7〕乃至〔14〕のいずれかに記載の電子写真感光体を少なくとも具備してなることを特徴とする画像形成装置用プロセスカートリッジ。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明の電子写真感光体の製造方法においては、感光層用塗工液を、循環装置を備えた浸漬塗工装置の循環系に投入して電子写真感光体を製造する。かかる電子写真感光体の製造方法は従来から公知であるが、本発明においては、特定のチタニルフタロシアニン結晶をバインダー樹脂と共に有機溶媒中で分散して得られた分散液を、特定のフィルターにて一次濾過してから塗工装置の循環系に投入することと、更に該浸漬塗工装置の循環系内で有効孔径10μm以下のフィルターで該分散液を二次濾過することに特徴がある。
【0032】
まず、本発明で用いる特定の分散液について説明する。該特定の分散液は以下のように作製される。
まず、電荷発生物質として特定のチタニルフタロシアニン結晶を合成する。該特定のチタニルフタロシアニン結晶は、CuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶(以下、単にチタニルフタロシアニン結晶(A)ともいう。)であり、好ましくは更に9.4°、9.6°、24.0°に主要なピークを有し、かつ最も低角側の回折ピークとして7.3°にピークを有し、7.4〜9.4°の範囲にピークを有さないチタニルフタロシアニン結晶(以下、単にチタニルフタロシアニン結晶(B)ともいう。)であり、より好ましくは、更に26.3°にピークを有さないチタニルフタロシアニン結晶(以下、単にチタニルフタロシアニン結晶(C)ともいう。)である。これらのチタニルフタロシアニン結晶は公知の電荷発生物質であるから、公知の方法により合成することができる。
【0033】
次に、チタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)について詳しく説明する。
チタニルフタロシアニン結晶(A)は、Y型チタニルフタロシアニンとも呼ばれ、27.2°に最大回折ピークを有することを特徴とする結晶である。この結晶型は、非常に高いキャリア発生能を有するものであり、電子写真感光体用の電荷発生物質として、極めて有用なものである(特開昭64−17066号公報、特開平2−8256号公報、特開平11−5919号公報等に開示されている)。これら公報に記載された結晶の最低角ピークは、7.5°に存在するものであり、後述のチタニルフタロシアニン結晶(B)とはX線回折スペクトルにて区別されるものである。この結晶を電荷発生物質として用いた感光体は、繰り返し使用における帯電性の安定化に課題があり、この点においてこの材料の特性を生かし切れずにいた。
【0034】
これに対し、チタニルフタロシアニン結晶(B)は、最大ピークが27.2°に存在する点ではチタニルフタロシアニン結晶(A)と同じであるが、最低角側のピークが7.3°に存在する点で異なる。これらX線回折スペクトルの違いについては、後述の測定例にて証明される。両者の違いを結晶工学的に説明することは困難であるが、少なくとも結晶状態が違うことはX線回折スペクトルから明らかである。この結晶を用いた感光体は、チタニルフタロシアニン結晶(A)の高いキャリア発生能を維持したまま、繰り返し使用における帯電安定性を付与したものであり、材料としての性質も明らかに異なるものである。
【0035】
チタニルフタロシアニン結晶(C)は、チタニルフタロシアニン結晶(B)をX線回折スペクトルのピークから更に特定されたものである。前述の如く、最大ピークが27.2°に存在するチタニルフタロシアニン結晶は、ストレスにより26.3°に最大ピークを有する結晶に転移する。チタニルフタロシアニン結晶(B)にこの結晶が混入すると、光感度が低下するといった欠点を生じるようになり、チタニルフタロシアニン結晶(C)のように、26.3°のピークを全く有さない結晶状態が最も好ましい。チタニルフタロシアニン結晶(B)とチタニルフタロシアニン結晶(C)との違いは、両者のX線回折スペクトルを測定することにより容易に区別できる。
【0036】
上記公知の方法により合成されたチタニルフタロシアニン結晶(A)又は/及び(B)又は/及び(C)をバインダー樹脂と共に有機溶媒中に分散して分散液を作成する。この際、チタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)は特定の結晶型を維持している場合に良好な特性を示すものであるから、分散操作によって結晶型が変化してしまわないようにすることが肝心である。即ち、チタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)は、熱エネルギーや機械的なシェアにより、他の結晶型へ結晶転移しやすいため、注意が必要である。分散装置としては、ビーズミル、ボールミル、アトライター、サンドミル、超音波等を用いることができるが、分散効率、結晶転移の少なさを考慮すると、循環方式のビーズミルの使用が最も好ましい。
【0037】
この際、チタニルフタロシアニン結晶(A)又は/及び(B)又は/及び(C)は可能な限り小粒径化されていることが好ましく、更に粒度分布が狭い方が好ましいため、できる限り細かい分散メディアを使用することが望ましい。具体的には、分散メディアのメディア径が0.5mm以下であることが好ましい。メディア径が0.5mmを超える場合は、チタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)の平均粒径が小さくなりにくい傾向があり、たとえ平均粒径が小さくなっても粒度分布が広がってしまう等の不具合を生じる虞がある。一方、メディア径が小さくなりすぎると、分散エネルギーを伝えにくくなったり、メディアの摩耗が大きくなる等の問題が生じるため、0.1mm以上であることが好ましい。
【0038】
本発明においては、上記チタニルフタロシアニン結晶(A)又は/及び(B)又は/及び(C)を有機溶媒中に分散して分散液を作成する際、その初期状態(分散を何段階かに分けて行なう場合には一次分散)より、チタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)と共にバインダー樹脂を共存させておく。このようにすると、該特定結晶型のチタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)は、溶媒と共に存在するだけで結晶型の転移が起こりやすいものであるが、バインダー樹脂を共存させる(ビヒクルとして、溶媒中にバインダー樹脂を溶解させた状態にする)ことにより、この結晶転移速度を極端に低下できる。具体的には、チタニルフタロシアニン結晶粒子を有機溶媒中に分散させた段階で、チタニルフタロシアニン結晶粒子の体積平均粒径が0.3μm以下で、その標準偏差が0.2μm以下になっていることが好ましい。
【0039】
本発明方法において用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミド、ポリビニルベンザール、ポリエステル、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース系樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。中でも、ポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアセタールは良好に使用され、特にアセチル化度が4mol%以上のポリビニルアセタール(ブチラール)は良好に使用される。バインダー樹脂の量は、チタニルフタロシアニン結晶粒子(電荷発生物質)100重量部に対し0〜500重量部、好ましくは10〜300重量部が適当である。
【0040】
また、方法において用いられる有機溶媒としては、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルセルソルブ、酢酸エチル、酢酸メチル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、モノクロロベンゼン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、リグロイン等が挙げられるが、特にケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒が挙げられる。
【0041】
前記のように条件を決定し、慎重に分散を行なっても本発明に使用するチタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)には更なる課題が残される。それは、粒子サイズと結晶安定性のトレード・オフの関係である。即ち、チタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)の分散は適当なメディアを使用することにより実施されるが、その分散はメディア同士あるいはチタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)からなる粒子とメディアの衝突によって行なわれる。したがって、どの様な分散方法を用いても粗大粒子の残存は可能性として存在する。通常はこれを避けるため、平均粒径が目的とする粒径に達するのに必要な時間より、分散時間を長くすることにより、粗大粒子の残存をなるべく減らそうとする。これは、分散液中の平均粒径を分散時間に対してプロットすれば明らかなように、平均粒径は、粗大粒子の残存を減らすのに必要な時間よりも短い時間で所定の値に到達するが、この段階では粗大粒子が残存していることによるものである。即ち、粗大粒子の存在を減らすためには、平均粒径から導き出される時間より、更に長い分散時間が必要となる。
【0042】
このような長時間にわたって分散する方法は、結晶型が安定した電荷発生物質(顔料)に対して使用できるものであるが、本発明に使用するような結晶安定性の乏しいチタニルフタロシアニン結晶を用いた場合には、過剰な分散エネルギーをチタニルフタロシアニン結晶に与えることができずに、粗大粒子が残存した状態で分散を終了させるか、あるいは結晶転移を覚悟した上で、粗大粒子がなくなる状態まで分散を行なうかの何れかの選択を迫られることになる。いずれの選択肢を選択した場合にも、チタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)本来の特性を活かしきることができないので、従来の感光体は何らかの不具合を抱えたまま製造されてきた。
【0043】
本発明は、この問題点を解決し、チタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)の結晶転移を起さずに、粗大粒子を残存させないことを成し遂げたものである。すなわち、本発明においては、分散する際に結晶転移が起こらない程度の最適分散エネルギーを与え、分散を行なった後、所定サイズ以上の粗大粒子を適当なフィルター等を用いて一次濾過することにより除去することにより、前記問題点を解決することに成功した。
【0044】
上記結晶転移が起こらない程度の最適分散エネルギーとは、分散液におけるチタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)からなる粒子の平均粒径が、本発明おいて所望される顔料粒子の1次粒子のレベルに到達する最低のエネルギーを指すものである。本発明で使用する特定の結晶型を有するチタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)の合成後の1次粒子サイズは、概ね0.2〜0.3μm程度であり、目的とする分散液中の平均粒径が0.3μm以下であるから、合成後の1次粒子サイズは必要な1次粒子サイズに到達していることになる。この程度のエネルギーは粒子凝集の粉砕エネルギーとして消費されるため、結晶転移に繋がるものではない。しかしながら、小粒径化されていない粗大粒子を粉砕するために、これ以上のエネルギーを与えることは、結晶転移を起させる方向に働くため、好ましくない。かかる要因を考慮し、本発明おいては次に説明するように、有効孔径が3μm以下のフィルターにて濾過することにより、粉砕エネルギーを与えることなく粗大粒子が取り除く方法を採用した。
【0045】
分散液を濾過するフィルターは、除去したい粗大粒子のサイズによって異なるものであるが、本発明者の検討によれば、600dpi程度の解像度を必要とする電子写真装置で使用される感光体としては、3μm以上の粗大粒子の存在が画像に対して影響を及ぼす。したがって、有効孔径が3μm以下のフィルターを使用する必要があり、1μm以下の有効孔径を有するフィルターを使用することが好ましい。この有効孔径は、細かいほど粗大粒子の除去に効果があるが、あまり細かすぎると、必要な顔料粒子そのものも濾過されてしまうため、細かすぎることは好ましくない。また、細かすぎる場合には、濾過に時間がかかる、フィルターが目詰まりを起こす、ポンプ等を使用して送液する場合には負荷がかかりすぎる等の問題を生じる。なお、ここで使用されるフィルターの材質は、当然のことながら濾過する分散液に使用される溶媒に対して耐性のあるものが使用される。
【0046】
また、上記濾過操作を有効にするためには、顔料粒子の平均粒径だけでなく、その分布が重要である。粒度分布が広い場合には、平均粒径がいくら小さくても濾過の効率が落ちたり、必要なチタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)の粒子を除去してしまうという問題が発生する。
【0047】
かかる理由により、分散液中に含有されるチタニルフタロシアニン結晶粒子の体積平均粒子径が0.3μm以下であり、その標準偏差が0.2μm以下であり、かつ該分散液中に1μm以上の粗大粒子が存在しないように一次濾過してから塗工装置の循環系に投入することが好ましい。このようにすると、粒度分布を充分に狭くできると共に結晶型を変化させることがないので、長期間にわたる浸漬塗工方法においても、分散安定性および結晶安定性に富み、寿命の長い分散液となり、塗工に際して塗膜欠陥の少ない電子写真感光体を製造することができる。従って、本発明方法においては、濾過前の分散液中のチタニルフタロシアニン結晶粒子の体積平均粒径が0.3μmを超える場合や、その標準偏差が0.2μmを超える場合は、分散液中のチタニルフタロシアニン結晶粒子の体積平均粒径が0.3μm以下で、その標準偏差が0.2μm以下になるまで分散を行ない、その後濾過を行なうことが好ましい。
【0048】
本発明におけるチタニルフタロシアニン結晶(A)、(B)、(C)の平均粒径とは、特別な記載のない限り、体積平均粒径であり、超遠心式自動粒度分布測定装置:CAPA−700(堀場製作所製)により、累積分布の50%に相当する粒子径(Median系)として算出されたものである。また、同時に標準偏差も測定される。
【0049】
次に、本発明の電子写真感光体の製造方法において用いる循環装置を備えた浸漬塗工装置(以下、塗工装置ともいう。)について説明する。
図4に代表的な循環方式の浸漬塗工装置の概略図を示す。ここで、1は塗工槽、2はフィルター、3は循環ポンプ、4は撹拌羽根、5はストレージタンク、6は撹拌モーター、7は導電性支持体、8は昇降機を表す。配管中の矢印は、循環される塗工液の流れる方向を示す。
【0050】
該塗工装置には、前述の有効孔径3μm以下のフィルターにて前もって濾過された分散液が投入される。ストレージタンク5では、浸漬塗工の際に蒸発した有機溶媒の追加や、図示しない保温用のジャケットによる液温の調整などが行われる。この際、撹拌モーター6により動作される撹拌羽根によりストレージタンク内が撹拌され、分散液が均一化される。
【0051】
ストレージタンク5内の分散液は循環ポンプ3によりフィルター2を経て、塗工槽1へと供給される。使用されるポンプとしては、分散液中の顔料粒子にストレスを与えない構造のものが良好に用いられる。ギヤポンプのように剪断力を与えて液を送液するタイプは好ましくなく、一軸偏芯ネジポンプのような剪断力がかからないタイプのポンプが好ましい。
【0052】
ポンプ3により送液された分散液はフィルター2を経て塗工槽1に供給されるが、分散液はフィルター2により二次濾過される。ここで用いられるフィルターは、有効孔径3μmで一度濾過された分散液を濾過するものであるが、前述のように循環装置中の分散液滞留部で発生した凝集物、あるいはわずかな結晶転移により発生した凝集物などを濾過する役割を担うものである。該フィルター2の有効孔径は10μm以下であり、好ましくは有効孔径5μm以下であり、その下限は1μmである。
【0053】
次に、かかる範囲の有効孔径のフィルターが好ましい理由、特にその下限が1μmに制限される理由を説明する。
一般的には有効孔径が細かいほど、凝集物等を濾過する機能は優れている。しかし、塗工装置に投入前の分散液濾過工程においては1パスの濾過であるのに対し、循環装置中においては連続循環濾過になるため、ポンプにはかなりの負荷がかかる。また、必要以上に細かい場合には、必要な顔料粒子を除去してしまう可能性があり、またそれを避けるために定期的なフィルター交換の頻度が非常に高くなるので、有効孔径が細かすぎるフィルターは感光体の製造には向かない。
【0054】
一方、600dpi程度の解像度を必要とする電子写真装置で使用される感光体としては、最低でも3μm以上の粗大粒子の存在は画像に対して影響を及ぼす。しかしながら、一次濾過における1パスの場合には有効孔径3μm以下のフィルターを使用するが、連続循環濾過の場合には、それほど細かくなくても効果が期待でき、前述のように有効孔径10μm以下(好ましくは5μm以下)のフィルターを用いることで所望される効果が発揮される。フィルターの有効孔径の下限側としては、先の循環塗工装置に投入する前の濾過工程で使用するフィルターの有効孔径よりも大きいものを使用した方が好ましいので、最も細かい場合でも1μm以上のフィルターを使用することが望ましい。これ以下の場合には、前述のような問題点が発生する。なお、ここで使用されるフィルターの材質は、当然のことながら濾過する分散液に使用される溶媒に対して耐性のあるものが使用される。
【0055】
次いで、フィルター2を通過した分散液は、塗工槽2に供給されるが、塗工槽容量を超えた分は、図4に示すように、塗工槽上端でオーバーフローし、ストレージタンク5に戻される。この循環のタイミングに関しては、感光体の塗工動作中を含めて、常に循環が行なわれていても構わないが、循環ポンプの振動等を拾い、塗膜欠陥を生じることがあるため、塗工を行っている最中には循環を停止することが好ましい。一方、支持体が下降状態にある場合には、むしろ循環させるることが、分散(塗工)液に浸漬された支持体表面近傍の分散液が均一化されるので望ましい。
尚、塗工を行っている最中とは、少なくとも導電性支持体が昇降機動作の範囲の下端に停止してから、支持体下端部が塗工槽上端を出るまでの間をいう。
【0056】
循環流量に関しては、ポンプの送液能力、循環系の圧力上昇程度等によって決定されるものであるが、支持体体積よりも大きい体積分の分散液を、塗工タクト間に送液出来るだけの循環流量を確保することが好ましい。このようにすると、塗工槽中の分散液が全て入れ替わることになり、前回塗工された分散液の履歴を残さないことになり、良好な塗膜を形成できるようになる。
【0057】
また、図示していないが、塗工槽1の上端には開閉式のフタを設けることが望ましい。本発明の浸漬塗工方法は基本的に開放系で塗工が行われるため、分散液中の有機溶媒の蒸発が発生する。このことは、循環により常に新しい液(濃度の低い)が供給されることにより、蒸発は促進される。有機溶媒の大気への拡散は、感光体製造のコストを増大させるだけでなく、地球環境への影響も問題になる。このため、開閉式のフタを設け、塗工タクトの間を含めた塗工されない期間はフタが閉じられていることが望ましい。
【0058】
本発明の電子写真感光体(以下、単に感光体ともいう。)は、前述した電子写真感光体の製造方法により製造されたものであり、導電性支持体上に、少なくとも電荷発生層、電荷輸送層が積層されている。次に、本発明の電子写真感光体について、図面を用いて説明する。
【0059】
図5は、本発明の電子写真感光体を表わす断面図であり、導電性支持体31上に、電荷発生物質を主成分とする電荷発生層35と電荷輸送物質を主成分とする電荷輸送層37とが設けられている。
図6は、本発明の電子写真感光体の別の構成例を示す断面図であり、電荷発生層35と電荷輸送層37の上に、保護層39が積層されている。
尚、本明細書においては、電荷発生層35と電荷輸送層37とをあわせたものを感光層ということがある。
【0060】
まず、本発明の感光体を構成する導電性支持体32について説明する。
導電性支持体31としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を、蒸着またはスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいは、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらを、押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理した管などを使用することができる。また、特開昭52−36016号公報に記載されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体31として用いることができる。
【0061】
また、これらの中でも陽極酸化皮膜処理を簡便に行なうことのできるアルミニウムからなる円筒状支持体が最も良好に使用できる。ここでいうアルミニウムとは、純アルミ系あるいはアルミニウム合金のいずれをも含むものである。具体的には、JIS1000番台、3000番台、6000番台のアルミニウムあるいはアルミニウム合金が最も適している。
【0062】
陽極酸化皮膜は各種金属、各種合金を電解質溶液中において陽極酸化処理したものであるが、中でもアルミニウムもしくはアルミニウム合金を電解質溶液中で陽極酸化処理を行なったアルマイトと呼ばれる被膜が本発明に用いる感光体には最も適している。特に、反転現像(ネガ・ポジ現像)に用いた際に発生する点欠陥(黒ポチ、地汚れ)を防止する点で優れている。
【0063】
陽極酸化処理は、クロム酸、硫酸、蓚酸、リン酸、硼酸、スルファミン酸などの酸性浴中において行なわれる。このうち、硫酸浴による処理が最も適している。一例を挙げると、硫酸濃度:10〜20%、浴温:5〜25℃、電流密度:1〜4A/dm2、電解電圧:5〜30V、処理時間:5〜60分程度の範囲で処理が行なわれるが、これに限定するものではない。
【0064】
このように作製される陽極酸化皮膜は、多孔質であり、また絶縁性が高いため、表面が非常に不安定な状態である。このため、作製後の経時変化が存在し、陽極酸化皮膜の物性値が変化しやすい。これを回避するため、陽極酸化皮膜を更に封孔処理することが望ましい。封孔処理には、フッ化ニッケルや酢酸ニッケルを含有する水溶液に陽極酸化皮膜を浸漬する方法、陽極酸化皮膜を沸騰水に浸漬する方法、加圧水蒸気により処理する方法などがある。このうち、酢酸ニッケルを含有する水溶液に浸漬する方法が最も好ましい。
【0065】
封孔処理に引き続き、陽極酸化皮膜の洗浄処理が行なわれる。これは、封孔処理により付着した金属塩等の過剰なものを除去することが主な目的である。これが支持体(陽極酸化皮膜)表面に過剰に残存すると、この上に形成する塗膜の品質に悪影響を与えるだけでなく、一般的に低抵抗成分が残ってしまうため、逆に地汚れの発生原因にもなってしまう。洗浄は純水1回の洗浄でも構わないが、通常は他段階の洗浄を行なう。この際、最終の洗浄液が可能な限りきれいな(脱イオンされた)ものであることが好ましい。また、他段階の洗浄工程のうち1工程に接触部材による物理的なこすり洗浄を施すことが望ましい。以上のようにして形成される陽極酸化皮膜の膜厚は、5〜15μm程度が望ましい。これより薄すぎる場合には陽極酸化皮膜としてのバリア性の効果が充分でなく、これより厚すぎる場合には電極としての時定数が大きくなりすぎて、残留電位の発生や感光体のレスポンスが低下する場合がある。
【0066】
この他、上記支持体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工したものも、本発明の導電性支持体31として用いることができる。この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、またアルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などが挙げられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂があげられる。このような導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
【0067】
さらに、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、ポリテトラフロロエチレン系フッ素樹脂などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性支持体31として良好に用いることができる。
【0068】
次に、本発明の感光体を構成する電荷発生層35について説明する。
電荷発生層35は、電荷発生材料として特定のX線回折スペクトルを示すチタニルフタロシアニン結晶を主成分とする層であり、有効孔径3μm以下のフィルターにて濾過処理を行い、その後、循環式浸漬塗工装置に投入され、有効孔径10μm以下のフィルターにて濾過を行った分散液を用いて形成される層である。
電荷発生層35は、前記チタニルフタロシアニン結晶を必要に応じてバインダ
ー樹脂とともに適当な溶剤中にボールミル、アトライター、サンドミル、超音波などを用いて分散し、これを導電性支持体上に塗布し、乾燥することにより形成される。
【0069】
必要に応じて電荷発生層35に用いられる結着樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミド、ポリビニルベンザール、ポリエステル、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース系樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。中でも、ポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアセタールは良好に使用され、特にアセチル化度が4mol%以上のポリビニルアセタール(ブチラール)は良好に使用される。結着樹脂の量は、電荷発生物質100重量部に対し0〜500重量部、好ましくは10〜300重量部が適当である。
【0070】
電荷発生層35には、上述した特定のチタニルフタロシアニン(TiOPc)の他にその他の電荷発生材料を併用することも可能であり、その代表として、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キナクリドン系顔料、キノン系縮合多環化合物、スクアリック酸系染料、他のフタロシアニン系顔料、ナフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩系染料等が挙げられ用いられる。このように他の電荷発生材料を併用する場合には、併用する電荷発生材料粒子も上述した特定粒度分布を有する平均粒径であることが重要である。
【0071】
ここで用いられる溶剤(有機溶媒)としては、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルセルソルブ、酢酸エチル、酢酸メチル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、モノクロロベンゼン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、リグロイン等が挙げられるが、特にケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒が良好に使用される。塗布液の塗工法としては、浸漬塗工法、スプレーコート、ビートコート、ノズルコート、スピナーコート、リングコート等の方法を用いることができる。
【0072】
電荷発生層35の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.1〜2μmである。
【0073】
次に、本発明の感光体を構成する電荷輸送層37について説明する。
電荷輸送層37は、電荷輸送物質および結着樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成できる。また、必要により可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤等を添加することもできる。
【0074】
電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。電荷輸送物質としては、例えばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ベンゾキノン誘導体等の電子受容性物質が挙げられる。
【0075】
正孔輸送物質としては、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ピレン−ホルムアルデヒド縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、ポリシラン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等その他公知の材料が挙げられる。これらの電荷輸送物質は単独、または2種以上混合して用いられる。
【0076】
本発明の感光体は、高速印字のデジタル複写機、デジタルプリンターに用いられるため、上述した電荷輸送物質の中でも高速移動度を有するものが有効に使用される。具体的には、感光体の実使用電界(概ね1×105V/cmのオーダー)における電荷輸送層の移動度が、1×10−5(cm2/Vsec)以上であれば、充分に本発明に使用する電荷発生物質の特性を引き出すことができる。
【0077】
電荷輸送層37を構成する結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアレート、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0078】
電荷輸送物質の量は結着樹脂100重量部に対し、20〜300重量部、好ましくは40〜150重量部が適当である。また、電荷輸送層の膜厚は5〜100μm程度とすることが好ましい。ここで用いられる溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトンなどが用いられる。
【0079】
また、電荷輸送層37には電荷輸送物質としての機能とバインダー樹脂の機能を持った高分子電荷輸送物質も良好に使用される。これら高分子電荷輸送物質から構成される電荷輸送層は耐摩耗性に優れたものである。耐摩耗性を向上させることは、繰り返し使用における感光体にかかる電界強度の上昇を低減し、本願発明の効果をより一層顕著にするものである。高分子電荷輸送物質としては、公知の材料が使用できるが、特に、トリアリールアミン構造を主鎖および/または側鎖に含むポリカーボネートが良好に用いられる。中でも、式(I)〜(X)で表わされる高分子電荷輸送物質が良好に用いられ、これらを以下に例示し、具体例を示す。
【0080】
【化2】
【0081】
(I)式中、R1、R2、R3はそれぞれ独立して置換もしくは無置換のアルキル基又はハロゲン原子、R4は水素原子又は置換もしくは無置換のアルキル基、R5、R6は置換もしくは無置換のアリール基、o、p、qはそれぞれ独立して0〜4の整数、k、jは組成を表わし、0.1≦k≦1、0≦j≦0.9、nは繰り返し単位数を表わし5〜5000の整数である。Xは脂肪族の2価基、環状脂肪族の2価基、または下記一般式(1)で表わされる2価基を表わす。
【0082】
【化3】
【0083】
(1)式中、R101、R102は各々独立して置換もしくは無置換のアルキル基、アリール基またはハロゲン原子を表わす。l、mは0〜4の整数、Yは単結合、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、−CO−O−Z−O−CO−(式中、Zは脂肪族の2価基を表わす。)または、下記一般式(2)を表す。
【0084】
【化4】
【0085】
(2)式中、aは1〜20の整数、bは1〜2000の整数、R103、R104は置換または無置換のアルキル基又はアリール基を表わす。)を表わす。ここで、R101とR102、R103とR104は、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0086】
【化5】
【0087】
(II)式中、R7、R8は置換もしくは無置換のアリール基、Ar1、Ar2、Ar8は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0088】
【化6】
【0089】
(III)式中、R9、R10は置換もしくは無置換のアリール基、Ar4、Ar5、Ar6は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0090】
【化7】
【0091】
(IV)式中、R11、R12は置換もしくは無置換のアリール基、Ar7、Ar8、Ar9は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0092】
【化8】
【0093】
(V)式中、R13、R14は置換もしくは無置換のアリール基、Ar10、Ar11、Ar12は同一又は異なるアリレン基、X1、X2は置換もしくは無置換のエチレン基、又は置換もしくは無置換のビニレン基を表わす。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0094】
【化9】
【0095】
(VI)式中、R15、R16、R17、R18は置換もしくは無置換のアリール基、Ar13、Ar14、Ar15、Ar16は同一又は異なるアリレン基、Y1、Y2、Y3は単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表わし同一であっても異なってもよい。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0096】
【化10】
【0097】
(VII)式中、R19、R20は水素原子、置換もしくは無置換のアリール基を表わし、R19とR20は環を形成していてもよい。Ar17、Ar18、Ar19は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0098】
【化11】
【0099】
(VIII)式中、R21は置換もしくは無置換のアリール基、Ar20、Ar21、Ar22、Ar23は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0100】
【化12】
【0101】
(IX)式中、R22、R23、R24、R25は置換もしくは無置換のアリール基、Ar24、Ar25、Ar26、Ar27、Ar28は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0102】
【化13】
【0103】
(X)式中、R26、R27は置換もしくは無置換のアリール基、Ar29、Ar30、Ar31は同一又は異なるアリレン基を表わす。X、k、jおよびnは、式(I)の場合と同じである。
【0104】
また、電荷輸送層37に使用される高分子電荷輸送物質として、上述の高分子電荷輸送物質の他に、電荷輸送層の成膜時には電子供与性基を有するモノマーあるいはオリゴマーの状態で、成膜後に硬化反応あるいは架橋反応をさせることで、最終的に2次元あるいは3次元の架橋構造を有する重合体も含まれる。
【0105】
これら電子供与性基を有する重合体から構成される電荷輸送層37、あるいは架橋構造を有する重合体は耐摩耗性に優れたものである。通常、電子写真プロセスにおいては、帯電電位(未露光部電位)は一定であるため、繰り返し使用により感光体の表面層が摩耗すると、その分だけ感光体にかかる電界強度が高くなってしまう。この電界強度の上昇に伴い、地汚れの発生頻度が高くなるため、感光体の耐摩耗性が高いことは、地汚れに対して有利である。これら電子供与性基を有する重合体から構成される電荷輸送層37は、自身が高分子化合物であるため成膜性に優れ、低分子分散型高分子からなる電荷輸送層に比べ、電荷輸送部位を高密度に構成することが可能で電荷輸送性能に優れたものである。このため、高分子電荷輸送物質を用いた電荷輸送層37を有する感光体には高速応答性が期待できる。
【0106】
その他の電子供与性基を有する重合体としては、公知単量体の共重合体や、ブロック重合体、グラフト重合体、スターポリマーや、また、例えば特開平3−109406号公報、特開2000−206723号公報、特開2001−34001号公報等に記載されているような電子供与性基を有する架橋重合体などを用いることも可能である。この場合にも、先の移動度を満足できるような材料が有効に使用できる。
【0107】
本発明の感光体において電荷輸送層37中に可塑剤やレベリング剤を添加してもよい。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど一般の樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、結着樹脂に対して0〜30重量%程度が適当である。レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどのシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいは、オリゴマーが使用され、その使用量は結着樹脂に対して、0〜1重量%が適当である。
【0108】
本発明の感光体においては、導電性支持体41と感光層(電荷発生層35)との間に下引き層を設けることができる。下引き層は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂等が挙げられる。また、下引き層にはモアレ防止、残留電位の低減等のために酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物の微粉末顔料を加えてもよい。
【0109】
これらの下引き層は前述の電荷発生層35等の如く適当な溶媒、塗工法を用いて形成することができる。更に本発明の下引き層として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。この他、本発明の下引き層には、Al2O3を陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物やSiO2、SnO2、TiO2、ITO、CeO2等の無機物を真空薄膜作成法にて設けたものも良好に使用できる。この他にも公知のものを用いることができる。下引き層の膜厚は0〜5μmが適当である。
【0110】
本発明の感光体においては、感光層(電荷輸送層37)保護の目的で、保護層39が感光層(電荷輸送層37)の上に設けられることもある。保護層39に使用される材料としてはABS樹脂、ACS樹脂、オレフィン−ビニルモノマー共重合体、塩素化ポリエーテル、アリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリルスルホン、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリメチルベンテン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリスチレン、AS樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。中でも、ポリカーボネートもしくはポリアリレートが最も良好に使用できる。
【0111】
保護層39にはその他、耐摩耗性を向上する目的でポリテトラフルオロエチレンのような弗素樹脂、シリコーン樹脂、及びこれらの樹脂に酸化チタン、酸化錫、チタン酸カリウム、シリカ等の無機フィラー、また有機フィラーを分散したもの等を添加することができる。
【0112】
また、感光体の保護層39に用いられるフィラー材料のうち有機性フィラー材料としては、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、a−カーボン粉末等が挙げられ、無機性フィラー材料としては、銅、スズ、アルミニウム、インジウムなどの金属粉末、シリカ、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、アンチモンをドープした酸化錫、錫をドープした酸化インジウム等の金属酸化物、チタン酸カリウムなどの無機材料が挙げられる。特に、フィラーの硬度の点からは、この中でも無機材料を用いることが有利である。特に、シリカ、酸化チタン、アルミナが有効に使用できる。更に、この中でも六方ちょう密構造を有するα−アルミナが最も有効に使用できる。
【0113】
保護層39中のフィラー濃度は使用するフィラー種により、また感光体を使用する電子写真プロセス条件によっても異なるが、保護層39の最表層側において全固形分に対するフィラーの比で5重量%以上、好ましくは10重量%以上、50重量%以下、好ましくは30重量%以下程度が良好である。
【0114】
また、使用するフィラーの体積平均粒径は、0.1μm〜2μmの範囲が良好に使用され、好ましくは0.3μm〜1μmの範囲である。この場合、平均粒径が小さすぎると耐摩耗性が充分に発揮されず、大きすぎると塗膜の表面性が悪くなったり、塗膜そのものが形成できなかったりするからである。
【0115】
なお、本発明におけるフィラーの平均粒径とは、特別な記載のない限り体積平均粒径であり、超遠心式自動粒度分布測定装置:CAPA−700(堀場製作所製)により求めたものである。この際、累積分布の50%に相当する粒子径(Median系)として算出されたものである。また、同時に測定される各々の粒子の標準偏差が1μm以下であることが重要である。これ以上の標準偏差の値である場合には、粒度分布が広すぎて、本発明の効果が顕著に得られなくなってしまう場合がある。
【0116】
また、本発明で使用するフィラーのpHも解像度やフィラーの分散性に大きく影響する。その理由の一つとしては、フィラー、特に金属酸化物は製造時に塩酸等が残存することが考えられる。その残存量が多い場合には、画像ボケの発生は避けられず、またそれは残存量によってはフィラーの分散性にも影響を及ぼす場合がある。
もう一つの理由としては、フィラー、特に金属酸化物の表面における帯電性の違いによるものである。通常、液体中に分散している粒子はプラスあるいはマイナスに帯電しており、それを電気的に中性に保とうとして反対の電荷を持つイオンが集まり、そこで電気二重層が形成されることによって粒子の分散状態は安定化している。粒子から遠ざかるに従いその電位(ゼータ電位)は徐々に低くなり、粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位はゼロとなる。したがって、ゼータ電位の絶対値の増加によって粒子の反発力が高くなることによって安定性は高くなり、ゼロに近づくに従い凝集しやすく不安定になる。一方、系のpH値によってゼータ電位は大きく変動し、あるpH値において電位はゼロとなり等電点を持つことになる。したがって、系の等電点からできるだけ遠ざけて、ゼータ電位の絶対値を高めることによって分散系の安定化が図られることになる。
本発明においては、フィラーとしては前述の等電点におけるpHが、少なくとも5以上を示すものが画像ボケ抑制の点から好ましく、より塩基性を示すフィラーであるほどその効果が高くなる傾向があることが確認された。等電点におけるpHが高い塩基性を示すフィラーは、系が酸性であった方がゼータ電位はより高くなることにより、分散性及びその安定性は向上することになる。
【0117】
ここで、本発明におけるフィラーのpHは、ゼータ電位から等電点におけるpH値を記載した。この際、ゼータ電位の測定は、大塚電子(株)製レーザーゼータ電位計にて測定した。
【0118】
更に、画像ボケが発生しにくいフィラーとしては、電気絶縁性が高いフィラー(比抵抗が1010Ω・cm以上)が好ましく、フィラーのpHが5以上を示すものやフィラーの誘電率が5以上を示すものが特に有効に使用できる。また、pHが5以上のフィラーあるいは誘電率が5以上のフィラーを単独で使用することはもちろん、pHが5以下のフィラーとpHが5以上のフィラーとを2種類以上を混合したり、誘電率が5以下のフィラーと誘電率が5以上のフィラーとを2種類以上混合したりして用いることも可能である。また、これらのフィラーの中でも高い絶縁性を有し、熱安定性が高い上に、耐摩耗性が高い六方細密構造であるα型アルミナは、画像ボケの抑制や耐摩耗性の向上の点から特に有用である。
【0119】
本発明において使用するフィラーの比抵抗は以下のように定義される。フィラーのような粉体は、充填率によりその比抵抗値が異なるので、一定の条件下で測定する必要がある。本発明においては、特開平5−94049号公報の図1に示される装置、特開平5−113688号公報の図1に示される測定装置と同様の構成の装置を用いて、フィラーの比抵抗値を測定し、この値を用いた。測定装置において、電極面積は4.0cm2である。測定前に片側の電極に4kgの荷重を1分間かけ、電極間距離が4mmになるように試料量を調節する。測定の際は、上部電極の重量(1kg)の荷重状態で測定を行ない、印加電圧は100Vにて測定する。106Ω・cm以上の領域は、HIGH RESISTANCEMETER(横河ヒューレットパッカード製)、それ以下の領域についてはデジタルマルチメーター(フルーク製)により測定した。これにより得られた比抵抗値を本発明の云うところの比抵抗値と定義するものである。
【0120】
フィラーの誘電率は以下のように測定した。上述のような比抵抗の測定と同様なセルを用い、荷重をかけた後に、静電容量を測定し、これより誘電率を求めた。静電容量の測定は、誘電体損測定器(安藤電気製)を使用した。
【0121】
更に、これらのフィラーは、少なくとも一種の表面処理剤で表面処理させることが可能であり、そうすることがフィラーの分散性の面から好ましい。フィラーの分散性の低下は残留電位の上昇だけでなく、塗膜の透明性の低下や塗膜欠陥の発生、さらには耐摩耗性の低下をも引き起こすため、高耐久化あるいは高画質化を妨げる大きな問題に発展する可能性がある。表面処理剤としては、従来用いられている表面処理剤を使用することができるが、フィラーの絶縁性を維持できる表面処理剤が好ましい。例えば、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤、高級脂肪酸等、あるいはこれらとシランカップリング剤との混合処理や、Al2O3、TiO2、ZrO2、シリコーン、ステアリン酸アルミニウム等、あるいはそれらの混合処理がフィラーの分散性及び画像ボケの点からより好ましい。シランカップリング剤による処理は、画像ボケの影響が強くなるが、上記の表面処理剤とシランカップリング剤との混合処理を施すことによりその影響を抑制できる場合がある。表面処理量については、用いるフィラーの平均一次粒径によって異なるが、3〜30wt%が適しており、5〜20wt%がより好ましい。表面処理量がこれよりも少ないとフィラーの分散効果が得られず、また多すぎると残留電位の著しい上昇を引き起こす。これらフィラー材料は単独もしくは2種類以上混合して用いられる。フィラーの表面処理量に関しては、上述のようにフィラー量に対する使用する表面処理剤の重量比で定義される。
【0122】
これらフィラー材料は、適当な分散機を用いることにより分散できる。また、保護層39の透過率の点から使用するフィラーは1次粒子レベルまで分散され、凝集体が少ない方が好ましい。
【0123】
また、保護層39には残留電位低減、応答性改良のため、電荷輸送物質を含有しても良い。電荷輸送物質は、電荷輸送層の説明のところに記載した材料を用いることができる。電荷輸送物質として、低分子電荷輸送物質を用いる場合には、保護層39中における濃度傾斜を設けても構わない。耐摩耗性向上のため、表面側を低濃度にすることは有効な手段である。ここで云う濃度とは、保護層39を構成する全材料の総重量に対する低分子電荷輸送物質の重量の比を表わし、濃度傾斜とは上記重量比において表面側において濃度が低くなるような傾斜を設けることを示す。
【0124】
また、保護層39の形成に高分子電荷輸送物質を用いることは、感光体の耐久性を高める点で非常に有利である。保護層39のフィラー以外の成分を高分子だけで構成することにより、機械的な耐摩耗性を向上させるだけでなく、化学的な安定性を高めることも出来る。高分子は低分子に比べて化学的な反応性に乏しく、帯電部材から発生する酸化性ガスへの耐性、あるいは放電によるスパッタリング効果に対する耐性も高い。保護層39のように耐摩耗性の高い膜を表面に有する場合、繰り返し使用での画像ボケの問題が非常に顕著になる。これは、感光体表面に、酸化性ガスの吸着や低抵抗物質の付着(吸着)が起こるためであると考えられるが、上述のようにフィラー及び高分子成分だけから構成される保護層39を採用した場合には、吸着サイトが減少することになり、画像ボケに対して高い効果を示すものである。
【0125】
保護層39の形成法としては通常の塗布法が採用される。なお保護層39の厚さは0.1〜10μm程度が適当である。また、以上のほかに真空薄膜作成法にて形成したa−C、a−SiCなど公知の材料を保護層39として用いることができる。
【0126】
本発明の感光体においては感光層(電荷輸送層37)と保護層39との間に中間層を設けることも可能である。
中間層には、一般にバインダー樹脂を主成分として用いる。これら樹脂としては、ポリアミド、アルコール可溶性ナイロン、水溶性ポリビニルブチラール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。中間層の形成法としては、前述のごとく通常の塗布法が採用される。なお、中間層の厚さは0.05〜2μm程度が適当である。
【0127】
前述したように、感光層(電荷輸送層)に高分子電荷輸送物質を使用したり、あるいは感光体の表面に保護層39を設けることは、各々の感光体の耐久性(耐摩耗性)を高めるだけでなく、後述するようなタンデム型フルカラー画像形成装置中で使用される場合には、モノクロ画像形成装置にはない新たな効果をも生み出すものである。
【0128】
フルカラーの画像の場合、様々な形態の画像が入力されるが、逆に定型的な画像も入力される場合がある。例えば、日本語の文書等における検印の存在などである。検印のようなものは通常、画像領域の端の方に位置され、また使用される色も限定される。また、フルカラー機もタンデム方式のものが主流になりつつあり、印刷速度が非常に向上してきた。このため、ビジネス文書の出力も多くなってきており、例えば会社のロゴを使用したような書式(書面)を出力するケースも増えている。このような場合には、特定の箇所にだけ印字が行われるため、感光体使用の偏りは一段と大きくなる。
【0129】
ランダムな画像が常に書き込まれているような状態においては、画像形成要素中の感光体には、平均的に画像書き込み、現像、転写が行なわれることになるが、上述のように特定の部分に数多くの画像形成が繰り返されたり、特定の画像形成要素ばかり使用された場合には、その耐久性のバランスを欠くことにつながる。このような状態で表面の耐久性(物理的・化学的・機械的)の小さな感光体が使用された場合には、この差が顕著になり、画像上の問題になりやすい。一方、感光体を高耐久化した場合には、このような局所的な変化量が小さく、結果的に画像上の欠陥として現われにくくなるため、高耐久化を実現すると共に、出力画像の安定性をも増すことになり、非常に有効である。
【0130】
次に、図面を用いて本発明の電子写真装置およびプロセスカートリッジを詳しく説明する。
図7は、本発明の電子写真プロセスおよび電子写真装置を説明するための概略図であり、下記するような変形例も本発明の範疇に属するものである。
図7において、感光体41は導電性支持体上にした特定の製造方法にて形成された電荷発生層と電荷輸送層が設けられてなる。帯電部材43、転写前チャージャ46、転写チャージャ49、分離チャージャ50、クリーニング前チャージャ52には、コロトロン、スコロトロン、固体帯電器(ソリッド・ステート・チャージャ)、帯電ローラを始めとする公知の手段が用いられる。
【0131】
帯電部材は、感光体41に対し接触もしくは近接配置したものが良好に用いられる。また、帯電部材により感光体に帯電を施す際、帯電部材に直流成分に交流成分を重畳した電界により感光体に帯電を与えることにより、帯電ムラを低減することが可能で効果的である。特に、後述のタンデム型のフルカラー画像形成装置においては、モノクロ画像形成装置の場合に発生する帯電ムラによるハーフトーン画像の濃度ムラの問題に加え、カラーバランス(色再現性)の低下という大きな問題につながる。直流成分に交流成分を重畳することにより、前記問題点は大きく改善されるものであるが、交流成分の条件(周波数、ピーク間電圧)が大きすぎる場合には、感光体へのハザードが大きくなり、感光体の劣化を早めてしまう場合がある。このため、交流成分の重畳は必要最低限にとどめるべきである。
【0132】
交流成分の周波数に関しては感光体線速等により変化するものであるが、3kHz以下、好ましくは2kHz以下が妥当である。ピーク間電圧に関しては、帯電部材への印加電圧と感光体への帯電電位の関係をプロットすると、電圧を印可しているにもかかわらず感光体が帯電しない領域があり、ある点から帯電が立ち上がる電位が認められる。この立ち上り電位の2倍程度がピーク間電圧としては最適な電位(通常、1200〜1500V程度)になる。しかしながら、感光体の帯電能が低かったり、線速が非常に大きい場合には、前記の如く立上り電位の2倍のピーク間電圧では不足する場合がある。逆に帯電性が良好な場合には、2倍以下でも充分に電位安定性を示すことがある。したがって、ピーク間電圧は立上り電位の3倍以下、好ましくは2倍以下が好ましい。ピーク間電圧を絶対値として書き直せば、3kV以下、好ましくは2kV以下、より好ましくは1.5kVで使用されることが望ましい。
【0133】
前記接触方式の帯電部材とは、感光体表面に帯電部材の表面が接触するタイプのものであり、帯電ローラ、帯電ブレード、帯電ブラシの形状がある。中でも帯電ローラや帯電ブラシが良好に使用される。
【0134】
また、前記近接配置した帯電部材とは、感光体表面と帯電部材表面の間に200μm以下の空隙(ギャップ)を有するように非接触状態で近接配置したタイプのものである。このギャップは、大きすぎた場合には帯電が不安定になりやすく、また小さすぎた場合には、感光体に残留したトナーが存在する場合に、帯電部材表面が汚染されてしまう可能性がある。したがって、ギャップは10〜200μm、好ましくは10〜100μmの範囲が適当である。空隙の距離から、コロトロン、スコロトロンに代表される公知のチャージ・ワイヤータイプの帯電器、接触方式の帯電ローラ、帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材とは区別されるものである。
【0135】
このような近接配置された帯電部材は、その表面が感光体表面と非接触状態で設置されるため、帯電部材表面へのトナー汚染が少ない、帯電部材表面の摩耗が少ない、帯電部材表面の物理的/化学的劣化が少ないといった利点を有し、帯電部材そのものの高耐久化も実現できるものである。接触帯電部材を使用して上記のような不具合が発生し、帯電部材の耐久性が低くなった場合、電子写真装置内での繰り返し使用において、帯電能力が低下したり、帯電が不均一になったりする。この帯電不良を回避するために、繰り返し使用においては帯電能力の低下にあわせて帯電部材への印加電圧を上昇させるなどの処置を施す。その場合には、感光体にかかる帯電によるハザードが大きくなり、結果として感光体の耐久性を低下させたり、異常画像の発生を生み出す。更に帯電部材への印加電圧上昇に伴って、帯電部材そのものの耐久性も低下させてしまう。しかしながら、非接触帯電部材を使用することにより、帯電部材の高耐久化に伴って、帯電部材の帯電能が安定することにより、帯電部材、感光体、ひいてはシステム全体の耐久性・安定性を向上させることになる。
【0136】
上記近接配置された帯電部材は、感光体表面との空隙を適切に制御できる機構のものであれば良い。例えば、感光体の回転軸と帯電部材の回転軸を機械的に固定して、適正ギャップを有するような配置にすれば良い。
中でも、帯電ローラの形状の帯電部材を用い、帯電部材の非画像形成部両端にギャップ形成部材を配置して、この部分のみを感光体表面に当接させ、画像形成領域を非接触配置させる方法、あるいは感光体非画像形成部両端ギャップ形成部材を配置して、この部分のみを帯電部材表面に当接させ画像形成領域を非接触配置させるような方法が、簡便な方法でギャップを安定して維持できる方法である。特に特開2002−148904号公報、特開2002−148905号公報に記載された方法は良好に使用できる。
帯電部材側にギャップ形成部材を配置した近接帯電機構の一例を図8に示す。
【0137】
転写手段には、一般に上記の帯電器が使用できるが、図7に示されるように転写チャージャ49と分離チャージャ50を併用したものが効果的である。
また、画像露光部44の光源にはLDもしくはLEDが用いられる。除電ランプ42等の光源には、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)などの発光物全般を用いることができる。そして、所望の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルター、バンドパスフィルター、近赤外カットフィルター、ダイクロイックフィルター、干渉フィルター、色温度変換フィルターなどの各種フィルターを用いることもできる。
かかる光源等は、図7に示される工程の他に光照射を併用した転写工程、除電工程、クリーニング工程、あるいは前露光などの工程を設けることにより、感光体に光が照射される。
【0138】
さて、現像ユニット45により感光体41上に現像されたトナーは、転写紙48に転写されるが、全部が転写されるわけではなく、感光体41上に残存するトナーも生ずる。
このようなトナーは、ファーブラシ53およびブレード54により、感光体より除去される。クリーニングは、クリーニングブラシだけで行なわれることもあり、クリーニングブラシにはファーブラシ、マグファーブラシを始めとする公知のものが用いられる。
【0139】
電子写真感光体に正(負)帯電を施し、画像露光を行なうと、感光体表面上には正(負)の静電潜像が形成される。これを負(正)極性のトナー(検電微粒子)で現像すれば、ポジ画像が得られるし、また正(負)極性のトナーで現像すれば、ネガ画像が得られる。
かかる現像手段には公知の方法が適用され、また、除電手段にも公知の方法が用いられる。
【0140】
図9には、本発明による電子写真装置の別の例を示す。感光体21は導電性支持体上に特定の製造方法にて形成された電荷発生層と電荷輸送層が設けられてなる。駆動ローラ22a、22bにより駆動され、帯電器23による帯電、光源24による像露光、現像(図示せず)、帯電器25を用いる転写、光源26によるクリーニング前露光、ブラシ27によるクリーニング、光源28による除電が繰返し行なわれる。図9においては、感光体21(勿論支持体が透光性である)に支持体側より画像露光の光照射が行なわれる。また、画像露光源24は、LDもしくはLEDが好ましく用いられる。
【0141】
以上の図示した電子写真装置は、本発明における実施形態を例示するものであって、もちろん他の実施形態も可能である。例えば、図9において感光層側よりクリーニング前露光を行なっているが、これは透光性支持体側から行なってもよいし、また、除電光の照射を支持体側から行なってもよい。
【0142】
一方、光照射工程は、像露光、クリーニング前露光、除電露光が図示されているが、他に転写前露光、像露光のプレ露光、およびその他公知の光照射工程を設けて感光体に光照射を行なうこともできる。
【0143】
以上に示すような画像形成手段は、複写装置、ファクシミリ、プリンター内に固定して組み込まれていてもよいが、プロセスカートリッジの形でそれら装置内に組み込まれてもよい。プロセスカートリッジとは、感光体を内蔵し、他に帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段、除電手段を含んだ1つの装置(部品)である。プロセスカートリッジの形状等は多く挙げられるが、一般的な例として、図10に示すものが挙げられる。感光体16は導電性支持体上に特定の製造方法にて形成された電荷発生層と電荷輸送層が設けられてなる。
【0144】
図11は、本発明のタンデム方式のフルカラー電子写真装置を説明するための概略図であり、下記するような変形例も本発明の範疇に属するものである。
図11において、符号1C、1M、1Y、1Kはドラム状の感光体であり、この感光体1C、1M、1Y、1Kは図中の矢印方向に回転し、その周りに少なくとも回転順に帯電部材2C、2M、2Y、2K、現像部材4C、4M、4Y、4K、クリーニング部材5C、5M、5Y、5Kが配置されている。帯電部材2C、2M、2Y、2Kは、感光体表面を均一に帯電するための帯電装置を構成する帯電部材である。この帯電部材2C、2M、2Y、2Kと現像部材4C、4M、4Y、4Kの間の感光体裏面側より、図示しない露光部材からのレーザー光3C、3M、3Y、3Kが照射され、感光体1C、1M、1Y、1Kに静電潜像が形成されるようになっている。そして、このような感光体1C、1M、1Y、1Kを中心とした4つの画像形成要素6C、6M、6Y、6Kが、転写材搬送手段である転写搬送ベルト10に沿って並置されている。転写搬送ベルト10は各画像形成ユニット6C、6M、6Y、6Kの現像部材4C、4M、4Y、4Kとクリーニング部材5C、5M、5Y、5Kの間で感光体1C、1M、1Y、1Kに当接しており、転写搬送ベルト10の感光体側の裏側に当たる面(裏面)には転写バイアスを印加するための転写ブラシ11C、11M、11Y、11Kが配置されている。各画像形成要素6C、6M、6Y、6Kは現像装置内部のトナーの色が異なることであり、その他は全て同様の構成となっている。
【0145】
図11に示す構成のカラー電子写真装置において、画像形成動作は次のようにして行なわれる。まず、各画像形成要素6C、6M、6Y、6Kにおいて、感光体1C、1M、1Y、1Kが矢印方向(感光体と連れ周り方向)に回転する帯電部材2C、2M、2Y、2Kにより帯電され、次に感光体の内側に配置された露光部(図示しない)でレーザー光3C、3M、3Y、3Kにより、作成する各色の画像に対応した静電潜像が形成される。
【0146】
次に現像部材4C、4M、4Y、4Kにより潜像を現像してトナー像が形成される。現像部材4C、4M、4Y、4Kは、それぞれC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)のトナーで現像を行なう現像部材で、4つの感光体1C、1M、1Y、1K上で作られた各色のトナー像は転写紙上で重ねられる。転写紙7は給紙コロ8によりトレイから送り出され、一対のレジストローラ9で一旦停止し、上記感光体上への画像形成とタイミングを合わせて転写搬送ベルト10に送られる。転写搬送ベルト10上に保持された転写紙7は搬送されて、各感光体1C、1M、1Y、1Kとの当接位置(転写部)で各色トナー像の転写が行なわれる。感光体上のトナー像は、転写ブラシ11C、11M、11Y、11Kに印加された転写バイアスと感光体1C、1M、1Y、1Kとの電位差から形成される電界により、転写紙7上に転写される。そして4つの転写部を通過して4色のトナー像が重ねられた記録紙7は定着装置12に搬送され、トナーが定着されて、図示しない排紙部に排紙される。また、転写部で転写されずに各感光体1C、1M、1Y、1K上に残った残留トナーは、クリーニング装置5C、5M、5Y、5Kで回収される。
【0147】
なお、図11の例では画像形成要素は転写紙搬送方向上流側から下流側に向けて、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の色の順で並んでいるが、この順番に限るものではなく、色順は任意に設定されるものである。また、黒色のみの原稿を作成する際には、黒色以外の画像形成要素6C、6M、6Yが停止するような機構を設けることは本発明において特に有効に利用できる。更に、図11において帯電部材は感光体と当接しているが、両者の間に適当なギャップ(10〜200μm程度)を設けることにより、両者の摩耗量が低減できると共に、帯電部材へのトナーフィルミングが少なくて済み良好に使用できる。
【0148】
以上に示すような画像形成手段は、複写装置、ファクシミリ、プリンター内に固定して組み込まれていてもよいが、各々の電子写真要素はプロセスカートリッジの形でそれら装置内に組み込まれてもよい。プロセスカートリッジとは、感光体を内蔵し、他に帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段、除電手段等を含んだ1つの装置(部品)である。
【0149】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明が実施例により制約を受けるものではない。なお、部はすべて重量部である。
まず、本発明におけるチタニルフタロシアニンの具体的な合成例を述べる。
【0150】
(合成例1)
1,3−ジイミノイソインドリン29.2gとスルホラン200mlを混合し、窒素気流下でチタニウムテトラブトキシド20.4gを滴下する。滴下終了後、徐々に180℃まで昇温し、反応温度を170℃〜180℃の間に保ちながら5時間撹拌して反応を行なった。反応終了後、放冷した後析出物を濾過し、クロロホルムで粉体が青色になるまで洗浄し、次にメタノールで数回洗浄し、さらに80℃の熱水で数回洗浄した後乾燥し、粗チタニルフタロシアニンを得た。粗チタニルフタロシアニンを20倍量の濃硫酸に溶解し、100倍量の氷水に撹拌しながら滴下し、析出した結晶を濾過し、次いで洗浄液が中性になるまで水洗を繰り返し、チタニルフタロシアニン顔料のウェットケーキを得た。
得られたウェットケーキ2gを塩化メチレン20gに投入し、4時間撹拌を行なった。これにメタノール100gを追加して、1時間撹拌を行なった後、濾過を行ない、乾燥して、本発明のチタニルフタロシアニン粉末を得た。
【0151】
得られたチタニルフタロシアニン粉末を、下記の条件によりX線回折スペクトル測定した。
X線管球 Cu 電圧 50kV 電流 30mA
走査速度 2°/分 走査範囲 3°〜40° 時定数 2秒
合成例1で作製された顔料のX線回折スペクトルを図12に示す。
【0152】
(合成例2)
特開平1−299874号(特許第2512081号)公報の実施例1に記載の方法に準じて、顔料を作製した。すなわち、先の合成例1で作製したウェットケーキを乾燥し、乾燥物1gをポリエチレングリコール50gに加え、100gのガラスビーズと共に、サンドミルを行なった。結晶転移後、希硫酸、水酸化アンモニウム水溶液で順次洗浄し、乾燥してチタニルフタロシアニンからなる顔料を得た。
【0153】
(合成例3)
特開平3−269064号(特許第2584682号)公報の製造例1に記載の方法に準じて、チタニルフタロシアニンからなる顔料を作製した。すなわち、先の合成例1で作製したウェットケーキを乾燥し、乾燥物1gをイオン交換水10gとモノクロルベンゼン1gの混合溶媒中で1時間撹拌(50℃)した後、メタノールとイオン交換水で洗浄し、乾燥して顔料を得た。
【0154】
(合成例4)
特開平2−8256号(特公平7−91486号)公報の製造例に記載の方法に準じて、チタニルフタロシアニンからなる顔料を作製した。すなわち、フタロジニトリル9.8gと1−クロロナフタレン75mlを撹拌混合し、窒素気流下で四塩化チタン2.2mlを滴下する。滴下終了後、徐々に200℃まで昇温し、反応温度を200℃〜220℃の間に保ちながら3時間撹拌して反応を行なった。反応終了後、放冷し130℃になったところ熱時ろ過し、次いで1−クロロナフタレンで粉体が青色になるまで洗浄、次にメタノールで数回洗浄し、さらに80℃の熱水で数回洗浄した後、乾燥し顔料を得た。
【0155】
(合成例5)
特開昭64−17066号(特公平7−97221号)公報の合成例1に記載の方法に準じて、チタニルフタロシアニンからなる顔料を作製した。すなわち、α型TiOPc5部を食塩10gおよびアセトフェノン5gと共にサンドグラインダーにて100℃にて10時間結晶変換処理を行なった。これをイオン交換水及びメタノールで洗浄し、希硫酸水溶液で精製し、イオン交換水で酸分がなくなるまで洗浄した後、乾燥して顔料を得た。
【0156】
(合成例6)
特開平11−5919号(特許第3003664号)公報の実施例1に記載の方法に準じて、チタニルフタロシアニンからなる顔料を作製した。すなわち、O−フタロジニトリル20.4部、四塩化チタン部7.6部をキノリン50部中で200℃にて2時間加熱反応後、水蒸気蒸留で溶媒を除き、2%塩化水溶液、続いて2%水酸化ナトリウム水溶液で精製し、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミドで洗浄後、乾燥し、チタニルフタロシアニンを得た。このチタニルフタロシアニン2部を5℃の98%硫酸40部の中に少しずつ溶解し、その混合物を約1時間、5℃以下の温度を保ちながら攪拌した。続いて硫酸溶液を高速攪拌した400部の氷水中に、ゆっくりと注入し、析出した結晶を濾過した。結晶を酸が残量しなくなるまで蒸留水で洗浄し、ウェットケーキを得る。そのケーキをTHF100部中で約5時間攪拌を行ない、ろ過、THFによる洗浄を行ない乾燥後、顔料を得た。
【0157】
(合成例7)
特開平3−255456号(特許第3005052号)公報の合成例2に記載の方法に準じて、チタニルフタロシアニンからなる顔料を作製した。すなわち、左記の合成例1で作製したウェットケーキ10部を塩化ナトリウム15部とジエチレングリコール7部に混合し、80℃の加熱下で自動乳鉢により60時間ミリング処理を行なった。次に、この処理品に含まれる塩化ナトリウムとジエチレングリコールを完全に除去するために充分な水洗を行なった。これを減圧乾燥した後にシクロヘキサノン200部と直径1mmのガラスビーズを加えて、30分間サンドミルにより処理を行ない、顔料を得た。
【0158】
以上の合成例2〜7で作製した顔料は、先程と同様の方法でX線回折スペクトルを測定し、それぞれの公報に記載のスペクトルと同様であることを確認した。表1にそれぞれのX線回折スペクトルと合成例1で得られた顔料のX線回折スペクトルのピーク位置の特徴を示す。
【0159】
【表1】
【0160】
(分散液の作製)
以上のように作製したチタニルフタロシアニンからなる顔料を以下の割合でバインダー樹脂および溶媒と混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズと共に分散を行なった。
合成例1〜7で作製した顔料 15部
ポリビニルブチラール(積水化学製:BX−1) 10部
2−ブタノン 300部
【0161】
各々について、堀場製作所:CAPA−700で平均粒径を測定しながら分散を行ない、標準偏差0.2μm以下、平均粒径が0.3μm以下になったところで分散を終了し、2−ブタノンを300部加えて希釈を行ないながら、ビーズミル装置より分散液を取り出した。希釈前の分散液をスライドガラスに塗布し、先程と同様なX線回折測定を行ない、分散後の顔料のX線回折スペクトルが合成後のものと違いがないことを確認した。更に各々の分散液について、アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−3−CS(有効孔径3μm)を用いて、濾過を行なった。濾過に際しては、ポンプを使用し、加圧状態で濾過を行なった。分散液の名称は、合成例番号に対応して合成例1〜7の順に、分散液1〜7とした。
【0162】
(分散液の作製2)
上述した分散液1〜7の作製において、フィルターによる濾過操作を行なわない以外は、同様に分散液1〜7の各々に対応する分散液8〜14を作製した。
【0163】
(分散液の作製3)
分散液1の作製における分散液の濾過に際して、フィルターの有効孔径を1μmのもの(アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−1−CS)に変更した以外は、分散液1と同様に分散液15を作製した。
【0164】
(分散液の作製4)
分散液1の作製において、使用した分散メディアを直径0.3μmのジルコニアビーズに変更した以外は、分散液1と同様に分散液16を作製した。
【0165】
(分散液の作製5)
分散液1の作製において、使用した分散メディアを直径0.8μmのジルコニアビーズに変更した以外は、分散液1と同様に分散液17を作製した。
【0166】
(分散液の作製6)
分散液1の作製において、平均粒径が0.4μmに到達したところで分散を停止し、分散液を作製した以外は、分散液1と同様に分散液18を作製した。
分散液18の作製においては、分散液の濾過に際して、フィルターでの圧損が大きく、濾過に非常に時間がかかった。
【0167】
(分散液の作製7)
分散液1の作製において、平均粒径が0.6μmに到達したところで分散を停止し、分散液を作製した以外は、分散液1と同様に分散液19を作製した。
分散液19の作製においては、分散液の濾過に際して、フィルターの目詰まりを生じて、全ての液を濾過することはできなかった。
【0168】
(実施例1〜12および比較例1〜7)
以上のように作製した分散液を、図4に示すような循環装置を兼ね備えた浸漬塗工装置の循環系に投入した。いずれも循環系に設置されたフィルターは、有効孔径5μmのもの(アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−5−CS)を用いた。これら分散液は、この循環塗工装置に入れたまま、2ヶ月間の循環保存テストを行った。
【0169】
初期(投入直後)および2ヶ月後に平均粒径およびその標準偏差を堀場製作所:CAPA700にて測定した。また、以下の様に電子写真感光体を作製し、感光体の電荷発生層の塗膜を、光学顕微鏡にて250倍のスケールで観察し、その際の粗大粒子の存在状態を確認した。結果を表2に示す。
【0170】
(感光体の作製)
直径100mmのアルミニウムシリンダー(JIS1050)上に下記組成の下引き層塗工液、電荷発生層塗工液、および電荷輸送層塗工液を、順次塗布・乾燥し、3.5μmの中間層、0.2μmの電荷発生層、25μmの電荷輸送層からなる電子写真感光体を作製した。
【0171】
下引き層塗工液
二酸化チタン粉末 400部
メラミン樹脂 65部
アルキッド樹脂 120部
2−ブタノン 400部
電荷発生層塗工液
前記のように作製した分散液1〜19
電荷輸送層塗工液
Z型ポリカーボネート 10部
下記構造式(3)の電荷輸送物質 7部
塩化メチレン 80部
【0172】
【化14】
【0173】
【表2】
【0174】
塗膜の状態の評価基準
1:目視でも、光学顕微鏡レベルでも塗膜中に粗大粒子がほとんど観察されない
2:目視では粗大粒子が観察されないが、光学顕微鏡レベルでわずかに観察されるレベル
3:目視でもわずかに粗大粒子が観察されるレベル
4:目視でも明らかに粗大粒子が観察されるレベル
【0175】
比較例1〜7においては、フィルターの目詰まりが大きく、循環に際してポンプの出力を非常に大きくしなければならなかった。比較例9においては、投入前の液ロスが大きく、循環試験を行うことが出来なかった。
【0176】
(実施例13)
実施例1における循環塗工槽に設置されたフィルターを有効孔径3μmのもの(アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−3−CS)に変更した以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0177】
(実施例14)
実施例1における循環塗工槽に設置されたフィルターを有効孔径10μmのもの(アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−10−CS)に変更した以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0178】
(比較例8)
実施例1における循環塗工槽に設置されたフィルターを有効孔径25μmのもの(アドバンテック社製、コットンワインドカートリッジフィルター、TCW−25−CS)に変更した以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0179】
(比較例9)
実施例1において、循環塗工槽にフィルターを設置しない以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0180】
以上の実施例13、14および比較例8、9の結果を実施例1の結果と併せて表3に示す。
【0181】
【表3】
【0182】
塗膜の状態の評価基準
1:目視でも、光学顕微鏡レベルでも塗膜中に粗大粒子がほとんど観察されない
2:目視では粗大粒子が観察されないが、光学顕微鏡レベルでわずかに観察されるレベル
3:目視でもわずかに粗大粒子が観察されるレベル
4:目視でも明らかに粗大粒子が観察されるレベル
【0183】
(感光体の評価)
以上のように循環装置投入直後および2ヶ月保存後に作製した感光体を図7に示す電子写真装置(書き込み光源は780nmのLD、帯電部材はスコロトロン・チャージャを使用)に装着し、3万枚の画像出力を行なった。この際の、初期及び3万枚目の白ベタ画像を出力し、地肌汚れの評価を行なった。
同時に、現像部における感光体の表面電位〔黒ベタ画像部および非画像部(地肌部)〕を測定するために、現像器が装着される位置に電位計がセットできるような治具を用いて、初期及び3万枚の画像出力後の感光体表面電位を測定した。なお、全ての感光体において初期の地肌電位が−900Vになるように印加電圧を設定し、以後のランニングにおいては、その印加電圧でランニングを継続した。結果を表4に示す。
【0184】
【表4】
【0185】
【表5】
【0186】
地汚れの評価基準
5:地汚れほとんどなし
4:わずかにあり
3:実使用限界レベル
2以下:実使用には耐えないレベル
【0187】
(実施例15)
実施例1における循環保存2ヶ月後の分散液を使用して、実施例1における電荷輸送層塗工液を以下の組成のものに変更した以外は、実施例1と同様に感光体を作製した。
【0188】
電荷輸送層塗工液
下記構造式(4)の高分子電荷輸送物質 10部
塩化メチレン 70部
【0189】
【化15】
【0190】
(実施例16)
実施例1における循環保存2ヶ月後の分散液を使用して、実施例1における電荷輸送層を22μmに変更し、下記組成の保護層塗工液を用いて、スプレー法にて塗布乾燥して、電荷輸送層上に3μmの保護層を設けた以外は、実施例1と同様に感光体を作製した。
【0191】
保護層塗工液
Z型ポリカーボネート 10部
下記構造式(3)の電荷輸送物質 7部
α−アルミナ微粒子 2部
(比抵抗:2.5x1012Ω・cm、平均一次粒径:0.5μm)
テトラヒドロフラン 80部
シクロヘキサノン 400部
【0192】
【化16】
【0193】
(実施例17)
実施例16の保護層塗工液を以下のものに変更した以外は、実施例16と同様に感光体を作製した。
保護層塗工液
Z型ポリカーボネート 10部
下記構造式(3)の電荷輸送物質 7部
シリカ微粉末 2部
(比抵抗:4x1013Ω・cm、平均一次粒径:0.3μm)
テトラヒドロフラン 80部
シクロヘキサノン 400部
【0194】
【化17】
【0195】
(実施例18)
実施例16の保護層塗工液を以下のものに変更した以外は、実施例16と同様に感光体を作製した。
保護層塗工液
Z型ポリカーボネート 10部
下記構造式(3)の電荷輸送物質 7部
酸化チタン微粒子 2部
(比抵抗:1.5x1010Ω・cm、平均一次粒径:0.5μm)
テトラヒドロフラン 80部
シクロヘキサノン 400部
【0196】
【化18】
【0197】
(実施例19)
実施例16の保護層塗工液を以下のものに変更した以外は、実施例16と同様に感光体を作製した。
保護層塗工液
Z型ポリカーボネート 10部
下記構造式(3)の電荷輸送物質 7部
酸化錫−酸化アンチモン粉末 2部
(比抵抗:106Ω・cm、平均1次粒径0.4μm)
テトラヒドロフラン 80部
シクロヘキサノン 400部
【0198】
【化19】
【0199】
(実施例20)
実施例16の保護層塗工液を以下のものに変更した以外は、実施例16と同様に感光体を作製した。
保護層塗工液
下記構造式(3)の高分子電荷輸送物質 17部
α−アルミナ微粒子 2部
(比抵抗:2.5x1012Ω・cm、平均一次粒径:0.5μm)
テトラヒドロフラン 80部
シクロヘキサノン 400部
【0200】
【化20】
【0201】
(実施例21)
実施例1における循環保存2ヶ月後の分散液を使用して、実施例1において、アルミニウムシリンダー(JIS1050)を以下の陽極酸化皮膜処理を行ない、次いで下引き層を設けずに、実施例1と同様に電荷発生層、電荷輸送層を設け、感光体を作製した。
【0202】
陽極酸化皮膜処理
支持体表面の鏡面研磨仕上げを行ない、脱脂洗浄、水洗浄を行なった後、液温20℃、硫酸15vol%の電解浴に浸し、電解電圧15Vにて30分間陽極酸化皮膜処理を行なった。更に、水洗浄を行なった後、7%の酢酸ニッケル水溶液(50℃)にて封孔処理を行なった。その後純水による洗浄を経て、6μmの陽極酸化皮膜が形成された支持体を得た。
【0203】
実施例15〜21で作製した電子写真感光体を、先の実施例1(2ヶ月後分散液の結果のみ)と同様の評価を行なった。加えて、3万枚の画像出力における感光体の摩耗量を測定した。結果を表5に示す。
【0204】
【表6】
使用した分散液はいずれも実施例1の分散液1を循環保存2ヶ月行ったものである。
【0205】
また、上の評価に加えて、初期及び3万枚後に1ドットのハーフトーン画像を出力し、画像評価を行った。結果を表6に示す。
【0206】
【表7】
【0207】
(実施例22)
実施例1における循環保存2ヶ月後の分散液を使用して、実施例1のアルミシリンダーを直径30mmのものに変え、実施例1と同じ組成の感光体を作製した。
この感光体を図9に示すような電子写真装置用プロセスカートリッジにセットし、電子写真装置に搭載した。以下のプロセス条件にて、連続20000枚の画像出力を行なった。
【0208】
評価は、初期及び20000枚後に、白ベタ画像とハーフトーン画像を出力し、評価に供した。
帯電条件:スコロトロン帯電
(地肌部の電位が−850Vになるように調整)
書き込み:780nmのLD(ポリゴン・ミラー使用)
【0209】
(実施例23)
実施例22における帯電部材を接触式の帯電ローラに変更し、下記の帯電条件に変更した以外は、実施例22と同様に評価を行なった。
帯電条件:DCバイアス −1570V
【0210】
(実施例24)
実施例22における帯電部材を図7に示すような近接帯電用ローラ(両端のギャップは100μm)に変更し、下記の帯電条件に変更した以外は実施例22と同様に評価を行なった。
帯電条件:DCバイアス −1570V
【0211】
(実施例25)
実施例22における帯電部材を図7に示すような近接帯電用ローラ(両端のギャップは250μm)に変更し、下記の帯電条件に変更した以外は実施例22と同様に評価を行なった。
帯電条件:DCバイアス −1570V
【0212】
(実施例26)
実施例22における帯電条件を以下のように変更した以外は、実施例22と同様に評価を行なった。
帯電条件:DCバイアス −850V、
ACバイアス 1.5kV(peak to peak)
周波数 1.5kHz
【0213】
(実施例27)
実施例24における帯電条件を以下のように変更した以外は、実施例24と同様に評価を行なった。
帯電条件:DCバイアス −850V、
ACバイアス 1.5kV(peak to peak)
周波数 1.5kHz
【0214】
以上の結果を表7に示す。なお、表中の白ベタ画像の評価は、先の表4と同様に地汚れランクで表わす。
【0215】
【表8】
【0216】
(実施例28)
実施例1における循環保存2ヶ月後の分散液を使用して、実施例1のアルミシリンダーを直径30mmのものに変え、実施例1と同じ組成の感光体を作製した。この感光体を図10に示すフルカラー電子写真装置に装着し、4つの画像形成要素は以下に示すプロセス条件にてフルカラー画像20000枚の画像評価を行なった。評価は、初期及び2万枚後の白ベタ画像、フルカラー画像を評価した。また、黒現像部での感光体画像部と非画像部の表面電位を実施例1と同様な方法で評価した。
帯電条件:DCバイアス −800V、
ACバイアス 1.5kV(peak to peak)
周波数 2.0kHz
帯電部材:実施例17に使用したものと同じ
書き込み:書き込み:780nmのLD(ポリゴン・ミラー使用)
【0217】
(実施例29)
実施例28における感光体において、電荷発生層塗工液として、循環保存2ヶ月後の分散液8を用いた以外は実施例28と同様に評価を行なった。
【0218】
実施例28、29の結果を表8に示す。
【0219】
【表9】
【0220】
本発明で使用するチタニルフタロシアニン結晶の特徴であるブラッグ角θの最低角ピークである7.3°について、公知材料の最低角7.5°と同一であるか否かについて検証した。
【0221】
(合成例8)
合成例1における結晶変換溶媒を塩化メチレンから2−ブタノンに変更した以外は、合成例1と同様に処理を行ない、チタニルフタロシアニン結晶を得た。
図12の場合と同様に、合成例8で作製したチタニルフタロシアニン結晶のXDスペクトルを測定した。これを図13に示す。図13より、合成例8で作製されたチタニルフタロシアニン結晶のXDスペクトルにおける最低角は、合成例1で作製されたチタニルフタロシアニンの最低角(7.3°)とは異なり、7.5°に存在することが判る。
【0222】
(測定例1)
合成例1で得られた顔料(最低角7.3°)に特開昭61−239248号公報に記載の顔料(最大回折ピークを7.5°に有する)と同様に作製したものを3重量%添加し、乳鉢で混合して、先程と同様にX線回折スペクトルを測定した。測定例1のX線回折スペクトルを図14に示す。
【0223】
(測定例2)
合成例8で得られた顔料(最低角7.5°)に特開昭61−239248号公報に記載の顔料(最大回折ピークを7.5°に有する)と同様に作製したものを3重量%添加し、乳鉢で混合して、先程と同様にX線回折スペクトルを測定した。測定例2のX線回折スペクトルを図15に示す。
【0224】
図14のスペクトルにおいては、低角側に7.3°と7.5°の2つの独立したピークが存在し、少なくとも7.3°と7.5°のピークは異なるものであることが判る。一方、図15のスペクトルにおいては、低角側のピークは7.5°のみに存在し、図14のスペクトルとは明らかに異なっている。
以上のことから、本願発明のチタニルフタロシアニン結晶における最低角ピークである7.3°は、公知のチタニルフタロシアニン結晶における7.5°のピークとは異なるものであることが判る。
【0225】
【発明の効果】
以上、詳細且つ具体的な説明により明らかなように、本発明によれば、特定の濾過処理を行い、かつ、これを特定の濾過装置を有する循環方式の浸漬塗工装置で使用することにより、長期にわたる浸漬塗工法による製造においても、分散安定性および結晶安定性に富み、塗工に際して塗膜欠陥の少ない製造方法が提供される。また、上述の方法において感光体を作製することによって、地汚れ・黒ポチ等の画像欠陥が少なく、安定した画像出力が可能な電子写真感光体が提供される。更に、ネガ・ポジ現像を使用し、高速印字が可能で、初期および繰り返し使用後にも異常画像の少ない、安定した画像を得ることのできる電子写真装置、および電子写真用プロセスカートリッジが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】顕微鏡で観察した分散液Aの観察写真(粗大粒子が残った状態)である。
【図2】顕微鏡で観察した分散液Bの観察写真(粗大粒子が残っていない状態)である。
【図3】図1と図2の分散液A、Bの粒度分布の比較を示す図である。
【図4】本発明の循環方式の浸漬塗工装置の概略図である。
【図5】本発明の電子写真感光体を表わす断面図である。
【図6】本発明の電子写真感光体の別の構成例を表わす断面図である。
【図7】本発明の電子写真プロセス及び電子写真装置を説明するための概略図である。
【図8】帯電部材側にギャップ形成部材を配置した近接帯電機構の一例を示す図である。
【図9】本発明による電子写真プロセスの別の例を示す図である。
【図10】プロセスカートリッジの形状の一般的な例を示す図である。
【図11】本発明のタンデム方式のフルカラー電子写真装置を説明するための概略図である。
【図12】合成例1で作製した顔料のX線回折スペクトルを示す図である。
【図13】合成例8で作製したチタニルフタロシアニン結晶のX線回折スペクトルを示す図である。
【図14】測定例1で作製した顔料のX線回折スペクトルを示す図である。
【図15】測定例2で作製した顔料のX線回折スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
1 塗工槽、2 フィルター、3 循環ポンプ、4 撹拌羽根
5 ストレージタンク、6 撹拌モーター、7 導電性支持体、8 昇降機
1C、1M、1Y、1K 感光体
2C、2M、2Y、2K 帯電部材
3C、3M、3Y、3K レーザー光
4C、4M、4Y、4K 現像部材
5C、5M、5Y、5K クリーニング部材
6C、6M、6Y、6K 画像形成要素
7 転写紙
8 給紙コロ
9 レジストローラ
10 転写搬送ベルト
11C、11M、11Y、11K 転写ブラシ
12 定着装置
16 感光体
17 帯電チャージャ
18 クリーニングブラシ
19 画像露光部
20 現像ローラ
21 感光体
22a 駆動ローラ
22b 駆動ローラ
23 帯電チャージャ
24 像露光源
25 転写チャージャ
26 クリーニング前露光
27 クリーニングブラシ
28 除電光源
29 感光体
30 帯電ローラ
31 ギャップ形成部材
32 金属シャフト
33 画像形成領域
34 非画像形成領域
35 電荷発生層
37 電荷輸送層
39 保護層
40 導電性支持体
41 感光体
42 除電ランプ
43 帯電チャージャ
44 画像露光部
45 現像ユニット
46 転写前チャージャ
47 レジストローラ
48 転写紙
49 転写チャージャ
50 分離チャージャ
51 分離爪
52 クリーニング前チャージャ
53 ファーブラシ
54 クリーニングブラシ
Claims (21)
- 感光層用塗工液を、循環装置を備えた浸漬塗工装置の循環系に投入して電子写真感光体を製造する方法において、該感光層用塗工液としてCuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶をバインダー樹脂と共に有機溶媒中で分散して得られた分散液を用い、該分散液を有効孔径が3μm以下のフィルターにて一次濾過してから塗工装置の循環系に投入し、更に該浸漬塗工装置の循環系内で有効孔径10μm以下のフィルターで該分散液を二次濾過することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
- 該分散液中に含有されるチタニルフタロシアニン結晶粒子の体積平均粒子径が0.3μm以下であり、その標準偏差が0.2μm以下であり、かつ該分散液中に1μm以上の粗大粒子が存在しないように一次濾過してから塗工装置の循環系に投入することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 該チタニルフタロシアニン結晶粒子の体積平均粒径が0.3μm以下で、その標準偏差が0.2μm以下になるまで分散を行なってから、一次濾過することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体の製造方法。
- メディア径が0.5mm以下の分散メディアを用いて分散を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
- 該チタニルフタロシアニン結晶が、CuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、更に9.4°、9.6°、24.0°に主要なピークを有し、かつ最も低角側の回折ピークとして7.3°にピークを有し、7.4〜9.4°の範囲にピークを有さないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
- 該チタニルフタロシアニン結晶が、更に26.3°にピークを有さないことを特徴とする請求項5に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 導電性支持体上に、少なくとも電荷発生層、電荷輸送層を積層した電子写真感光体であって、該電荷発生層を前記請求項1乃至6の何れかに記載の製造方法にて形成したことを特徴とする電子写真感光体。
- 該電荷輸送層が、高分子電荷輸送物質を含有することを特徴とする請求項7に記載の電子写真感光体。
- 該電荷輸送層上に保護層を積層したことを特徴とする請求項7又は8に記載の電子写真感光体。
- 該保護層が、比抵抗1010Ω・cm以上の無機顔料又は金属酸化物を含有することを特徴とする請求項9に記載の電子写真感光体。
- 該金属酸化物が、比抵抗1010Ω・cm以上のアルミナ、酸化チタン、シリカのいずれかであることを特徴とする請求項10に記載の電子写真感光体。
- 該金属酸化物が、比抵抗1010Ω・cm以上のα−アルミナであることを特徴とする請求項10に記載の電子写真感光体。
- 該保護層が、高分子電荷輸送物質を含有することを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載の電子写真感光体。
- 該電子写真感光体の導電性支持体表面が、陽極酸化皮膜処理されたものであることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の電子写真感光体。
- 請求項7乃至14のいずれかに記載の電子写真感光体に、少なくとも帯電、画像露光、現像、転写を繰り返し行なうことを特徴とする画像形成方法。
- 帯電手段、画像露光手段、現像手段、転写手段、および請求項7乃至14のいずれかに記載の電子写真感光体を有する画像形成要素を、少なくとも具備してなることを特徴とする画像形成装置。
- 該画像形成要素を複数配列したことを特徴とする請求項16に記載の画像形成装置。
- 該帯電手段が、帯電部材を感光体に接触もしくは近接配置したものであることを特徴とする請求項16又は17に記載の画像形成装置。
- 該帯電部材と感光体間の空隙が200μm以下であることを特徴とする請求項18に記載の画像形成装置。
- 該帯電手段が直流成分に交流成分を重畳することにより、感光体を帯電することを特徴とする請求項18又は19に記載の画像形成装置。
- 請求項7乃至14のいずれかに記載の電子写真感光体を少なくとも具備してなることを特徴とする画像形成装置用プロセスカートリッジ。
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