JP2004217977A - 非晶質窒化炭素膜及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】(1)真空槽で基材をメタンガスプラズマ中に浸し、プラズマ中の正イオンを基材に照射し、表層にイオン注入層を形成する、(2)炭化水素と窒素の混合ガスを真空槽に導入し、プラズマを生成させ、それらのラジカルを堆積させるとともに、基材に負電圧を印加し、正イオンを加速して基材に照射する、(3)その際に、高電圧正パルス(0.5〜15kV)を基材に印加し、プラズマ中の電子を基材に照射することにより、表層のみをパルス的に活性化、及び高温状態にする、(4)上記により、基材に炭化水素及び窒素のラジカル及びイオンを堆積させ、高導電性の非晶質窒化炭素膜を形成した高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体を製造する、ことからなる上記複合体の製造方法、及びその製品。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非晶質の窒化炭素膜の形成方法、及び非晶質窒化炭素膜−基材複合体の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、基材に、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を形成して成る高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体を製造する方法、及び該方法により作製した複合体に関するものである。本発明は、燃料電池用セパレータ他、各種電極、スイッチ接点など複雑形状を有する導電性基材に、高導電性、高耐食性、及び高密着性の非晶質窒化炭素膜を形成する方法、及びその製品を提供するものとして有用である。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば、燃料電池のセパレータ(バイポーラ板)の材料としては、電解質膜が強酸性であるため、また、良好な導電性が必要であるため、多くの場合、ガス不浸透性の炭素板が使われている。その表面には、ガス流路を形成するための溝加工が施される。従来、この材料としては、黒鉛の塊から切り出した板を使っていたが、コストの低減のために、手間のかかる機械加工を必要としない樹脂モールドカーボン、及び膨張化黒鉛基材のガス不浸透性炭素膜を、加圧成型で溝やマニホールドを形成する方法、また、炭素に樹脂やピッチを加え、成形し、焼成/炭化して、炭素・炭素複合材料とする方法、が検討されている。この他に、チタンやステンレスなどの金属や金属と炭素の複合材料も検討されている。
【0003】
しかし、金属は、燃料電池の材料として使う場合、その表面が腐食されやすく、接触抵抗が増加する傾向があり、そのため、表面を貴金属でメッキするなどの対策が必要とされている。また、ステンレスなどの金属材料に非晶質炭素(DLC)膜をコーティングする方法も提案されている。これらの材料を基材にコーティングする方法としては、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、カーボン塗装などがあるが、いずれも密着性、着き回り性、電気伝導性などが充分でなく、使用できない、という問題がある。また、非晶質炭素膜を高温にして炭化する方法は、基材を800℃以上に加熱する必要があり、基材の熱変形などのために適用できない、という問題がある。一方、例えば、燃料電池セパレート板においては、溝などを有する複雑形状を有する金属薄板上に電気導電性、及び耐食性に優れた炭素材料をコーティングする技術が要求されている。
【0004】
従来、非晶質窒化炭素膜を製造する方法及び装置として、例えばレーザーアブレーションを用いた方法(特許文献1参照) 、グラファイト電極と窒素ガスのピンチプラズマを利用した方法(特許文献2参照) 、プラズマ化学的気相成長法及びイオンビーム堆積法を用いた方法(特許文献3参照) 、炭素蒸気と窒素イオンビームを組み合わせた方法(特許文献4参照) 、高周波マグネトロンスパッタリングを用いた方法(特許文献5参照) 、などが提案されている。しかしながら、これらの先行技術は、例えば、電気導電性、耐食性及び密着性の点で更に改善すること、低温(基材温度300℃以下) で高導電性のコーティング膜を形成する方法を開発することが強く要請されていた。しかしながら、これらの先行技術は、例えば、電気導電性、密着性等の面で未だ実用化の域に達しておらず、当該技術分野では、電気導電性、耐食性及び密着性の点で更に改善すること、低温(300℃以下)で非晶質炭素膜の高導電性膜を形成する方法を開発すること、が強く要請されていた。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−229124号公報
【特許文献2】
特開2001−59156号公報
【特許文献3】
特開2000−285437号公報
【特許文献4】
特開平11−209868号公報
【特許文献5】
特開平11−238684号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の諸問題を抜本的に解決することを可能とする新しい技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、基材表面のミキシング層の形成工程、炭化水素及び窒素のプラズマの生成と正イオンの基材への照射工程、及び高電圧正パルスの基材への印加とプラズマ中の電子の基材への照射工程を組み合わせてそれらの処理条件を調整することにより、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、基材に低温(300℃以下)で、優れた電気導電性(接触抵抗10mΩ/cm2 以下)を有する非晶質窒化炭素薄膜を形成する方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、金属製基材との密着性に優れた非晶質窒化炭素薄膜の製造方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、燃料電池用セパレータ等溝加工を施した(複雑形状の)金属薄板上へ、高密着性、高電気電導性、及び高耐食性の非晶質窒化炭素膜をコーティングする方法を提供することを目的とするものである。
更に、本発明は、複雑形状の基材に、電気伝導性、耐食性、及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を低コストで、効率良く生産する方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)導電性基材に、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を形成する方法であって、
(a)真空槽で基材をメタンガスプラズマ中に浸し、プラズマ中の正イオンを基材に照射し、表層にイオン注入層を形成する、
(b)炭化水素と窒素の混合ガスを真空槽に導入し、プラズマを生成させ、炭化水素及び窒素のラジカルを基材表面に堆積させるとともに、基材に、負電圧を印加し、正イオンを加速して基材に照射する、
(c)その際に、正高電圧パルス(好適には0.5〜15kV)を基材に印加し、プラズマ中の電子を基材に照射することによって、表層のみをパルス的に活性化、及び高温状態にする、
(d)上記(a)〜(c)により、基材に炭化水素及び窒素のラジカル及びイオンを堆積させ、高導電性の非晶質窒化炭素膜を形成する、
ことを特徴とする非晶質窒化炭素膜の形成方法。
(2)導電性基材に、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を形成して成る高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体を製造する方法であって、
(a)真空槽で基材をメタンガスプラズマ中に浸し、プラズマ中の正イオンを基材に照射し、表層にイオン注入層を形成する、
(b)炭化水素と窒素の混合ガスを真空槽に導入し、プラズマを生成させ、炭化水素及び窒素のラジカルを基材表面に堆積させるとともに、基材に、負電圧を印加し、正イオンを加速して基材に照射する、
(c)その際に、正高電圧パルス(好適には0.5〜15kV)を基材に印加し、プラズマ中の電子を基材に照射することによって、表層のみをパルス的に活性化、及び高温状態にする、
(d)上記(a)〜(c)により、基材に炭化水素及び窒素のラジカル及びイオンを堆積させ、高導電性の非晶質窒化炭素膜を形成した高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体を製造する、
ことを特徴とする高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体の製造方法。
(3)基材が、複雑形状を任意に有する金属薄板である前記(1)又は(2)記載の方法。
(4)基材が、複雑形状を有する電極である前記(3)記載の方法。
(5)基材が、複雑形状を有するスイッチ接点である前記(3)記載の方法。
(6)前記(2)から(5)からのいずれかに記載の方法により製造された、基材に、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を堆積してなる、高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体。
(7)前記(6)記載の複合体を構成要素として含む電極又はスイッチ接点用高導電性部材。
(8)燃料電池用セパレータである前記(7)記載の高導電性部材。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、前述のように、主に、基材に、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を形成して成る高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体を製造する方法であって、(a)真空槽で基材をメタンガスプラズマ中に浸し、プラズマ中の正イオンを基材に照射し、表層にイオン注入層を形成する、(b)炭化水素と窒素の混合ガスを真空槽に導入し、プラズマを生成させ、これらのラジカルを基材に堆積させるとともに、基材に、負電圧を印加し、正イオンを加速して基材に照射する、(c)その際に、正高電圧パルスを基材に印加し、プラズマ中の電子を基材に照射することにより、表層のみをパルス的に活性化、及び高温状態にする、(d)上記(a)〜(c)により、基材に炭化水素及び窒素のラジカル及びイオンを堆積させ、高導電性の非晶質窒化炭素膜を形成した高導電性の非晶質窒化炭素膜−基材複合体を製造する、ことを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、まず、メタンプラズマ中に置いた基材に、負高電圧パルスを印加することによって、基材の全方向からメタンイオン照射を行い、イオン注入によって、炭素原子の分散した導電性皮膜を形成する。次に、トルエンなど分子量の大きい炭化水素及び窒素ガスを同時的に真空槽に導入し、高周波放電、グロー放電などによって、これらのプラズマを生成し、基材に、負電圧を印加し、正イオンを基材に照射する。この際に、高電圧正パルスを基材に印加し、プラズマ中の電子を基材に照射することによって、表層のみをパルス的に活性化、及び高温状態にし、基材の温度を上昇させることなく、炭化水素及び窒素プラズマを堆積させる。本発明は、これらの工程を有機的に組み合わせることにより、例えば、複雑形状の基材に、高導電性、高耐食性、及び高密着性の非晶質窒化炭素膜を形成することができる。
【0011】
本発明において、プラズマの生成は、好適には、例えば、グロー放電、高周波放電(RF)、電子サイクロトン共鳴(ECR)放電、及びこれらの組み合わせによるパルスプラズマ生成により行うことができるが、これらに制限されるものではなく、あらゆる方法及び装置を用いることが可能である。また、本発明では、炭化水素化合物CxHyのプラズマ放電によるイオンを用いた非晶質炭素の堆積(デポジション)による膜形成が行われるが、上記炭化水素化合物CxHyとして、x=1〜10、y=2〜22の炭化水素が好適に用いられる。
【0012】
本発明において、メタンガスプラズマからの炭素イオンによる表層へのイオン注入層の形成のための条件は、好適には、例えば、ガス条件として、ガス種はメタン、ガス流量は5〜10sccm、真空度(プロセス時)は2〜5×10−4Torr程度、パルス印加条件として、正パルスは、電圧1〜3kV、周波数1kHz、パルス幅5マイクロ秒、負パルスは、電圧20kV、周波数0.5〜2kHz、パルス幅2〜10マイクロ秒、処理時間は約30分が例示される。しかし、これらの条件は、これらに制限されるものではなく、製品の種類、及び処理目的等に応じて、適宜、変更することができる。
【0013】
次に、高導電性の非晶質窒化炭素膜の形成のための条件は、好適には、例えば、ガス条件として、ガス種はトルエン及び窒素ガス、ガス流量は、それぞれ、2〜4sccm、3〜10sccm、真空度(プロセス時)は2〜4×10−4Torr程度、パルス印加条件として、正パルスは、電圧2〜6kV、周波数1〜3kHz、パルス幅2〜10マイクロ秒、負パルスは、電圧1〜20kV、周波数0.5〜3kHz、パルス幅5マイクロ秒、処理時間は約30分が例示される。しかし、これらの条件は、これらに制限されるものではなく、製品の種類、及び処理目的等に応じて、適宜、変更することができる。また、本発明では、プラズマ点火を容易にするために、高周波電源を用いて高周波放電(例えば、13.56MHz)を行うことができる。
【0014】
本発明で使用される装置の一例を、図1に示す。本発明では、例えば、図1に示されるように、試料容器1(真空槽)、真空ポンプ2、メタン、炭化水素化合物及び窒素3、ガス流量計4、高周波電源5、メインバルブ6、高電圧パルス電源7、電流導入端子8、試料9(基材)、熱電対温度計、制御ユニット、及びパソコンから構成される装置が用いられる。この場合、高周波プラズマを用いない場合は、高周波電源5を省略することができる。しかし、これらに制限されるものではなく、同効の機能を有する手段及び装置であれば同様に使用することができる。
【0015】
次に、まず、前処理(ミキシング層形成)工程について説明する。試料容器1を真空ポンプ2を用いて、例えば、1×10−4Torr以下まで排気した後、メタンガス3をガス流量計4を通して試料容器に導入し、高周波電源5の電源を入れ、試料容器のガス圧を、例えば、3×10−2Torr程度に真空ポンプ2のメインバルブ6を用いて調整する。メタンプラズマが点火した段階で、試料容器1のガス圧が、例えば、5×10−4Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を用いて調整し、高電圧パルス電源7の電源を入れ、電流導入端子8を通して負パルス電圧を試料9(基材)に印加する。これにより、メタンイオンによって試料表面は照射され、イオン注入によるミキシング層の形成が行われる。
【0016】
次に、非晶質窒化炭素膜の堆積工程について説明する。トルエン等の炭化水素ガス及び窒素ガス3をガス流量計4を通して試料容器に導入し、高周波電源の電源を入れ、試料容器のガス圧が、例えば、5×10−2Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を用いて調整する。ガスプラズマが点火した段階で、高電圧パルス電源7の電源を入れ、試料容器のガス圧を、例えば、2×10−4Torr程度に真空ポンプ2のメインバルブ6を用いて調整し、高電圧パルス電源7の正パルス電圧、負パルス電圧を試料1に印加する。これにより、試料(基材)表面にプラズマ電子による照射と、炭化水素及び窒素のラジカルの堆積とイオン照射がなされる。図2に基材に印加するパルス電圧、及びこれらのパルスによって基材に流れるパルス電流についてオシロスコープで測定した例を示す。
【0017】
次に、本発明の方法により作製された高導電性非晶質窒化炭素膜の特性について具体的に説明する。尚、ここでは、後記する実施例1に記載の方法と同様の方法で作製した非晶質窒化炭素膜について、その特性を測定した試験例を示す。
試験例
(1)耐食性試験
5%硫酸溶液について、耐食性試験(アノード分極測定)を行った。図3に、その結果を示す。図中、No.1は、未処理のSUS304について、No.2は、正パルスバイアスなしで作製した非晶質炭素(DLC)膜コーティング試料について、No.3は、非晶質窒化炭素コーティングした試料についての分極特性である。1〜1.5Vのあたりで、3桁近くアノード電流密度が減少しており、DLCに比べて耐食特性が向上していることが分かった。
【0018】
(2)接触抵抗測定
接触抵抗は、基板試料に断面積0.5cm2 のCu電極を一定圧力(10kgf)でプレスし、この両電極間の電気抵抗を測定して調べた。基板試料として、SUS304に非晶質窒化炭素膜を膜厚0.2μmで形成したものを用いた。表1に、正パルス電圧に依存する接触抵抗値を示す。尚、比較例として、窒素ガスを導入しない場合に形成されるDLC膜の値を表1に示す。
以上の結果から、本発明に係る非晶質窒化炭素膜は、DLC膜に比べて、接触抵抗が下がることが確認された。
【0019】
(3)電気抵抗測定
窒化炭素膜の電気抵抗率を4端子測定法により測定した。試料はいずれも0.2ミクロン厚さの窒化炭素をステンレス板(SUS304)にコーティングしたものを用いた。
電気抵抗率の正パルス電圧依存性及び成膜時の基材温度の値を表2に示す。
表2
正パルス電圧 電気抵抗率 基材温度
0 kV 1kΩ・cm 120 ℃
3.5 0.05 140
4.5 0.005 165
5.5 0.004 220
6.5 0.005 255
基材温度は、試料ホルダーに埋め込んだ熱電対温度計を用いて基材(0.1mm厚さ)の裏面から測定した。電気抵抗率が正パルス電圧4.5kV以上で著しく減少していることが分かる。また、その時の基材温度も300℃以下である。
【0020】
(4)窒化炭素膜組成の測定(RBS法)
窒化炭素膜の窒素と炭素の組成比を求めるために、1.8MeVHeイオンによるRBS法により、本方法を用いてカーボン基材上に作製した窒化炭素膜について測定した例を図4に示した。このスペクトルを解析することによって、C:N=88:12であることが分かった。
【0021】
(5)窒化炭素膜組成の測定(ERD法)
窒化炭素に含まれる水素の量を測定するために、2.8MeVHeイオンによるERD法により、本方法を用いてSi基板上に作製した膜について測定した例を図5に示す。このスペクトルを解析することによって、この場合、窒化炭素膜中の水素の量 H/(C+N)=0.19であることが分かった。
【0022】
(6)X線回折(GXRD法)
薄膜X線回折装置を用いてX線入射角度1度で、Si単結晶上に本発明の方法を用いて作製した窒化炭素膜についてX線回折測定を行った。その結果、図6に示されるように、どのようなピークも認められなかったことから、得られた窒化炭素膜は非晶質であることが確認された。
【0023】
(7)微小硬度測定
得られた窒化炭素膜について、ナノインデンターの圧子の押し込み深さと荷重の関係から、膜の微少硬度を測定した。膜の硬度は、11.93Gpaであり、通常の正パルスを用いない方法で作製した窒化炭素膜よりは幾分柔らかいが、金属よりはるかに高硬度であった。
【0024】
【作用】
本発明では、メタンガスプラズマによるミキシングによる前処理を行うが、メタンプラズマ中に基材を浸し、基材に負高電圧パルスを印加することによって、プラズマ中の正イオンを基材に全方向から照射し、それにより、電気導電性のミキシング層を形成する。次に、トルエンなど分子量の大きい炭化水素及び窒素ガスを真空槽に導入し、高周波放電、グロー放電などによって、これらのプラズマを生成しラジカルを基材表面に堆積させるとともに、基材に負電圧を印加し、正イオンを基材に照射する。この際に、正高電圧パルスを基材に印加し、プラズマ中の電子を基材に照射することによって、表層のみをパルス的に活性化、及び高温状態にするとともに、基材の温度上昇を炭化水素及び窒素のラジカルを堆積させイオン照射を行う。ちなみに、4keV電子の炭素中の飛程は、およそ0.1〜0.2ミクロンであり、ほとんど基材に達しないため、基材の温度上昇を防ぐことができる。これまで非晶質炭素膜内に取り込まれた窒素原子は、n型ドナーとして振る舞い、ドナー準位に束縛されていた電子が、効果的に伝導帯に励起されて、電気導電性が増すと考えられており、本発明の方法で作製した窒化炭素膜は、膜形成時に電子照射によりパルス的に高温状態にしていることから、効率的に窒素原子が非晶質炭素膜内にドープされるとともに、更に炭素原子間においては高温で堆積させているためグラファイト構造が優勢であることが予想されることなどから電気導電率が増加したものと考えることができる。
【0025】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
本実施例では、図1の装置を用いて、SUSにカーボン膜を形成した。
(1)前処理(ミキシング層形成)
試料容器1を、真空ポンプ2を用いて、1×10−4Torr以下まで排気した。次に、メタンガス(CH4 )3を、ガス流量計4を通して7sccmの流量で試料容器に導入した。次いで、高周波電源5の電源をONにし、試料容器のガス圧力が、おおよそ3×10−2Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を調整した。メタンガスプラズマが点火し、そこで、試料容器1のガス圧力が5×10−4Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を調整した。高電圧パルス電源7をONにし、電流導入端子8を通して、負パルス電圧(−20kV、1kHz)を試料9に印加した。これにより、メタンイオンによって試料表面は照射され、イオン注入によるミキシング層が形成された。30分後、高電圧パルス電源7、及び高周波電源5をOFFにし、メタンガスの供給を止めると共に、真空ポンプ2のメインバルブ6を完全に開き、試料容器1を排気した。
【0026】
(2)非晶質窒化炭素膜の堆積
次に、炭化水素ガス(CxHy)としてのトルエン(C7 H8 )と窒素ガス3をガス流量計4を通して、それぞれ、2sccm、5sccmの流量で試料容器に導入した。高周波電源をONにし、試料容器のガス圧力が、おおよそ5×10−2Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を調整した。ガスプラズマが点火し、そこで、高電圧パルス電源7をONにし、試料容器1のガス圧力が2×10−4Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を調整した。高電圧パルス電源7の正パルス電圧(3〜6kV、2〜3kHz)、負パルス電圧(1〜20kV、2〜3kHz)を試料1に印加した。これにより、基材表面にプラズマ電子による照射、及び炭化水素イオン及び窒素イオンが堆積された。適当な時間(15分〜2時間)の後、高電圧パルス電源7、及び高周波電源5をOFFにし、ガスの供給をとめた。
【0027】
実施例2
(1)前処理(ミキシング層形成)
本実施例では、図1の装置を用いて、基材に、高導電性非晶質窒化炭素膜を形成した。試料容器1を、真空ポンプ2を用いて、1×10−4Torr以下まで排気した。次に、メタンガス(CH4 )3を、ガス流量計4を通して7sccmの流量で試料容器1に導入した。次いで、高電圧パルス電源7の電源をONにし、正パルス(約2〜3kV、1kHz)を電流導入端子8を通して試料9に供給した。試料容器1のガス圧力が、おおよそ3×10−2Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を調整した。メタンガスプラズマを点火し、試料容器1のガス圧力が5×10−4Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を調整した。次いで、高電圧パルス電源7から、負パルス電圧(−20kV、1kHz)を試料9に印加した。これにより、メタンイオンによって試料表面は照射され、イオン注入によるミキシング層が形成された。30分後、高電圧パルス電源7をOFFにし、メタンガスの供給を止めると共に、真空ポンプ2のメインバルブ6を完全に開き、試料容器1を排気した。
【0028】
(2)非晶質窒化炭素膜の堆積
次に、炭化水素ガス(CxHy)としてのトルエン(C7 H8 )と窒素ガスをガス流量計4を通して、2sccm、5sccmの流量で試料容器1に導入した。高電圧パルス電源7の電源をONにし、正パルス(約2〜3kV、2kHz)を電流導入端子8を通して試料1に供給した。試料容器1のガス圧力が、おおよそ5×10−2Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を調整した。その結果、ガスプラズマが点火し、そこで、高電圧パルス電源7をONにし、試料容器1のガス圧力が2×10−4Torr程度になるように真空ポンプ2のメインバルブ6を調整した。次に、高電圧パルス電源から正パルス電圧(3〜6kV、2〜3kHz)、負パルス電圧(1〜20kV、2〜3kHz)を試料1に印加した。これにより、基材表面にプラズマ電子による照射、及び炭化水素イオンと窒素イオンの堆積が起こった。適当な時間(15分〜2時間)の後、高電圧パルス電源7をOFFにし、ガスの供給を止めた。
【0029】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、非晶質窒化炭素膜の形成方法、及び非晶質窒化炭素膜−基材複合体の製造方法に係るものであり、本発明により、1)低温(300℃以下)で優れた非晶質窒化炭素膜を製造できる、2)金属製基材との密着性に優れた非晶質窒化炭素薄膜を製造できる、3)溝加工を施した(複雑形状の)金属薄板上へ、高密着性、高電気導電性、高耐食性の非晶質窒化炭素膜をコーティングする方法を提供できる、4)燃料電池セパレート板、スイッチ接点などの複雑形状をした部材に有用な非晶質窒化炭素膜−基材複合体を提供できる、5)それらの製品を提供できる、という格別の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】非晶質窒化炭素膜形成装置を示す。
【図2】パルス波形の例を示す。
【図3】耐食性試験によるアノード分極測定の結果を示す。
【図4】非晶質窒化炭素膜の組成(窒素/炭素)をRBS法で測定した結果を示す。
【図5】非晶質窒化炭素膜中の水素量をERD法で測定した結果を示す。
【図6】非晶質窒化炭素膜の薄膜X線回折装置を用いて測定したX線回折図を示す。
Claims (8)
- 導電性基材に、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を形成する方法であって、
(1)真空槽で基材をメタンガスプラズマ中に浸し、プラズマ中の正イオンを基材に照射し、表層にイオン注入層を形成する、
(2)炭化水素と窒素の混合ガスを真空槽に導入し、プラズマを生成させ、これらのラジカルを基材表面に堆積させるとともに、基材に、負電圧を印加し、正イオンを加速して基材に照射する、
(3)その際に、高電圧正パルスを基材に印加し、プラズマ中の電子を高エネルギーで基材に照射することによって、表層のみをパルス的に活性化、及び高温状態にする、
(4)上記(1)〜(3)により、基材に炭化水素及び窒素のラジカル及びイオンを堆積させ、高導電性の非晶質窒化炭素膜を形成する、
ことを特徴とする非晶質窒化炭素膜の形成方法。 - 導電性基材に、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を形成して成る高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体を製造する方法であって、
(1)真空槽で基材をメタンガスプラズマ中に浸し、プラズマ中の正イオンを基材に照射し、表層にイオン注入層を形成する、
(2)炭化水素と窒素の混合ガスを真空槽に導入し、プラズマを生成させ、これらのラジカルを基材表面に堆積させるとともに、基材に、負電圧を印加し、正イオンを加速して基材に照射する、
(3)その際に、高電圧正パルスを基材に印加し、プラズマ中の電子を高エネルギーで基材に照射することによって、表層のみをパルス的に活性化、及び高温状態にする、
(4)上記(1)〜(3)により、基材に炭化水素及び窒素のラジカル及びイオンを堆積させ、高導電性の非晶質窒化炭素膜を形成した高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体を製造する、
ことを特徴とする高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体の製造方法。 - 基材が、複雑形状を任意に有する金属薄板である請求項1又は2記載の方法。
- 基材が、複雑形状を有する電極である請求項3記載の方法。
- 基材が、複雑形状を有するスイッチ接点である請求項3記載の方法。
- 請求項2から5のいずれかに記載の方法により製造された、基材に、電気導電性、耐食性及び密着性に優れた非晶質窒化炭素膜を堆積してなる、高導電性非晶質窒化炭素膜−基材複合体。
- 請求項6記載の複合体を構成要素として含む電極又はスイッチ接点用高導電性部材。
- 燃料電池用セパレータである請求項7記載の高導電性部材。
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