JP2004215591A - ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼを強化させた微生物による異種タンパク質の生産方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】異種タンパク質を可溶化した状態で、かつ正常な立体構造を保持した状態で発現させうる技術を提供する。
【解決手段】ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼであるSurAタンパク質の発現を強化させた微生物を用いて異種タンパク質を生産する。
【選択図】図1
【解決手段】ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼであるSurAタンパク質の発現を強化させた微生物を用いて異種タンパク質を生産する。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はSurAタンパク質の発現を強化させた微生物を用いることを特徴とする異種タンパク質の分泌生産方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
真核生物由来のタンパク質は多くがその分子内にジスルフィド結合を有する。ジスルフィド結合はそのタンパク質の高次構造を保持するのに働くため、これが正しく形成されないとタンパク質が正しい立体構造とならずタンパク質固有の活性が発揮されないことが多い。このようなジスルフィド結合を有するタンパク質を大腸菌で発現させる場合、細胞質ではなく、ペリプラズムへ分泌発現させるのが一般的である。なぜなら大腸菌の細胞質内は強い還元状態にあるのに対し、ペリプラズムはジスルフィド結合の形成にとって好ましい酸化状態にあるからである。さらにペリプラズムへの分泌発現は、夾雑タンパク質が少なく精製が容易であることや、分泌の際にシグナルペプチドが切除されることに伴ってN末端にあるメチオニンが除去されるといった利点も期待される。過去にジスルフィド結合を有するタンパク質を大腸菌のペリプラズムへ分泌発現させるという試みは数多く報告されている。しかしながらそれらの分泌発現効率はタンパク質毎にまちまちであり、とりわけジスルフィド結合を多数含むタンパク質の場合、その分泌発現効率は極端に低くなる。
【0003】
大腸菌においてジスルフィド結合が形成されるメカニズムについては、近年かなり明らかにされてきた。そのメカニズムの概要を模式的に図1に示す。ペリプラズムに局在する分泌タンパク質は、N末端にシグナルペプチドを持つ前駆体として細胞質内で生合成されるが、この段階で立体構造を形成してしまうと内膜を透過できなくなる。よって細胞質内に存在する分子シャペロンが分泌タンパク質に結合することにより、立体構造が形成されない状態に維持しながら内膜まで輸送する。内膜には一連のSecファミリータンパク質が局在し、これがポンプのような働きをしながら、タンパク質をペリプラズム内へと送り込む。なおシグナルペプチドは内膜を透過する過程で切除される。ペリプラズムにはジスルフィドイソメラーゼ(Dsb)やペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ(PPIase)といった、ジスルフィド結合形成に関わる因子が存在し、ペリプラズムという酸化的環境下において、ジスルフィド結合形成が起こる。
【0004】
特にDsbタンパク質の機能については解明が進んでおり、そのジスルフィド結合形成機構の概要は以下の通りである。ペリプラズムに分泌されてきたタンパク質に対して、まずDsbAがジスルフィド結合を形成させる。しかしこの段階でのジスルフィド結合形成は必ずしも正確ではないため、引き続きDsbCが誤った結合箇所につき、正しく架け替えを行う。尚DsbBとDsbDはそれぞれDsbAとDsbCの再活性化を担当する。一方PPIaseはペリプラズムに分泌されてきたタンパク質の中のシス型プロリンをトランス型へ変換する酵素である。ペプチド結合しているプロリンは通常トランス型であるが、例外的にシス型をとる場合があり、PPIaseはプロリンの異性体変換を触媒してタンパク質の高次構造を正しい配置に導くと考えられている。なお大腸菌のPPIaseとしては、SurA、FkpA、PpiAの3種が知られており、このうちSurAとFkpAについてはPPIase活性以外にシャペロン活性も併せ持つことが報告されている〔Webb, HM., J. Biol. Chem., 276, 45622−45627(2001)、Behrens, S., EMBO J., 20, 285−294(2001)、Ramm, K., J. Biol. Chem., 275, 17103−17113(2000)、Ramm, K.,J. Mol. Biol., 310, 485−498(2001)〕。
【0005】
ジスルフィド結合を持つタンパク質の分泌発現効率を向上させる試みとしては、これまでにDsbタンパク質の利用がいくつか試みられている。例えば、Qiuらは組織プラスミノーゲンアクチベーターの発現においてDsbCを共発現させることにより、活性型のタンパク質の発現量が向上したと報告している〔Qiu, JI., Appl. Environ. Microbiol., 64, 4891−4896(1998)〕。また、黒川らは異種タンパク質の生産性向上のためにDsbA、DsbB、DsbCおよびDsbDを共発現する方法を開示し、ヒト神経成長因子−βと西洋ワサビペルオキシダーゼの発現において、全タンパク質中に占めるペリプラズムへの分泌発現タンパク質の割合が上昇したと報告している〔特開2000−83670公報〕。
【0006】
一方PPIaseについては、これらを共発現させることによってジスルフィド結合を持つタンパク質の分泌発現効率を向上させる試みはほとんどなされていない。
【0007】
【特許文献1】特開2000−83670公報
【0008】
【非特許文献1】Webb, HM., J. Biol. Chem., 276, 45622−45627(2001)
【0009】
【非特許文献2】Behrens, S., EMBO J., 20, 285−294(2001)
【0010】
【非特許文献3】Ramm, K., J. Biol. Chem., 275, 17103−17113(2000)
【0011】
【非特許文献4】Ramm, K.,J. Mol. Biol., 310, 485−498(2001)
【0012】
【非特許文献5】Qiu, JI., Appl. Environ. Microbiol., 64, 4891−4896(1998)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、異種タンパク質、とりわけ分子内にジスルフィド結合を2つ以上持つために分泌発現が困難なタンパク質を、可溶化状態かつ正しい高次構造を保ったまま発現させうる、SurAの共発現を利用した分泌発現方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはジスルフィド結合形成に関与する因子の中でこれまで共発現による試みがなされていなかったPPIaseに着目し、異種タンパク質、とりわけジスルフィド結合を持つために分泌発現が困難なタンパク質の分泌発現におけるPPIaseタンパク質の共発現効果を解析した結果、特にSurAによって顕著に分泌発現効率が向上することを見出した。さらにその効果は、従来技術であるDsbCタンパク質の共発現によって分泌発現効率がほとんど改善されない異種タンパク質に対しても見られた。
【0015】
このように本発明はその存在が知られてはいたものの、微生物による異種タンパク質の発現に対する効果は未知であったSurAの効果について初めて実証し、明らかにしたものである。
【0016】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]異種タンパク質を微生物のペリプラズムまたは培養培地に分泌させる方法であって、該微生物細胞中でSurAタンパク質の発現を強化させることを特徴とする方法。
[2]該異種タンパク質が哺乳動物由来である[1]に記載の方法。
[3]該異種タンパク質がジスルフィド結合を有するタンパク質である[1]又は[2]に記載の方法。
[4]該微生物が細菌である[1]〜[3]の何れか一項に記載の方法。
[5]該微生物が大腸菌である[4]に記載の方法。
[6]該微生物をSurAタンパク質をコードするDNAおよび該異種タンパク質をコードするDNAを含むベクターで形質転換する[1]に記載の方法。
[7]SurAタンパク質をコードするDNAを含むベクターと該異種タンパク質をコードするDNAを含むベクターの2種類の異なるベクターを形質転換に用い、それらベクターは互いに和合性を示す[6]に記載の方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明において異種タンパク質とは、微生物が本来有しているタンパク質以外のタンパク質を指し、既存の大腸菌分泌発現系では発現効率の低いタンパク質であればいかなるタンパク質でも対象となる。代表的なものとして、哺乳動物由来のものが例示でき、特にジスルフィド結合を持つ異種タンパク質は本発明の効果が顕著に現れるが故に好適に使用される。すなわち異種タンパク質がジスルフィド結合を有する場合には、ジスルフィド結合の正しい形成が促進され、正しい立体構造を持った異種タンパク質をさらに効率よく得ることができる。
【0018】
とはいえ、ここで本発明でいう異種タンパク質には、ジスルフィド結合を含まないものも包含される。なぜなら、SurAに見られる上記効果はPPIase活性のみによるものでなく、シャペロン活性との相乗効果であると推定され、その効果はジスルフィド結合を持たないタンパク質にも及ぶことが期待されるからである。
【0019】
本発明における微生物としては、SurAタンパク質の発現の強化が可能であればいかなる微生物も採用可能であるが、発現プラスミドの導入および培養の容易性の点を考慮すれば細菌が好適である。また、ペリプラズム画分の取得が容易で目的タンパク質の精製に有利という点から大腸菌の使用が好ましいが、枯草菌のようにペリプラズムを持たず、発現させたタンパク質が培地中に分泌されるような微生物も使用可能である。微生物が大腸菌である場合、生産されたタンパク質の分解を最小限に抑えるために、いくつかのタンパク質分解酵素が欠損した大腸菌の使用はなお望ましい。例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手できる株としてSF103(ATCC番号55100)、SF110(ATCC番号55101)、SF120(ATCC番号55099)などが挙げられる。
【0020】
本発明においてSurAタンパク質とは、1990年にTormoらによって初めて見出され、SurAと命名された大腸菌由来の蛋白質〔Tormo, A., J. Bacteriol., 172, 4339−4347 (1990)〕と同様の機能を有する蛋白質の総称を意味し、本発明において微生物中で異種タンパク質とともに共発現させられるものである。本発明のSurAタンパク質としては大腸菌由来のタンパク質が好ましいものとして例示できるが、同様の機能を有するものであればその起源は特に限定されるものではない。前記SurAのアミノ酸配列は、本発明に見られる効果が保持されている限りにおいて、1残基以上のアミノ酸に置換、欠失または挿入といった変異が導入された配列であっても良い。代表的なアミノ酸配列として、大腸菌由来のSurAのアミノ酸配列を配列表中の配列番号2に示す。
【0021】
本発明において前記SurAタンパク質をコードするDNAとはSurA遺伝子を意味し、代表的な大腸菌のSurA遺伝子の塩基配列は、配列表の配列番号1に記載のとおりであるが、本発明に見られる効果が保持されている限りにおいて、1塩基以上の塩基に置換、欠失または挿入といった変異が導入された配列であっても本発明にいうSurA遺伝子の範疇に含まれる。SurA遺伝子を取得する方法に限定はないが、例えば大腸菌由来のSurA遺伝子のジェノミックDNAを鋳型とし、目的遺伝子の増幅が可能な配列を持つプライマー対を用いたPolymerase chain reaction(PCR)法が簡便である。
【0022】
本発明において微生物細胞中でSurAタンパク質の発現を強化させるとは、
上記微生物が元来持っている発現レベルを超えてSurAを過剰に発現させることを意味する。SurAの発現が強化された微生物が得られる限りにおいてSurAを過剰発現させる手段に限定はなく、例えば突然変異誘発処理によって微生物の遺伝子に変化を与え、SurAタンパク質の発現量が向上した突然変異体を選択する方法が挙げられる。また望ましくは上記微生物をSurA遺伝子を含むベクター(SurA発現プラスミド)で形質転換し、該SurAタンパク質を発現させる方法が用いられる。SurA遺伝子を含むベクター(SurA発現プラスミド)および上記異種タンパク質をコードするDNAを含むベクター(異種タンパク質の発現プラスミド)で形質転換し、該SurAタンパク質と該異種タンパク質を発現させる方法において、SurA遺伝子と該異種タンパク質をコードするDNAが単一のベクターに含まれても良いし、SurA遺伝子を含むベクターと該異種タンパク質をコードするDNAを含むベクターの2種類の異なるベクターを形質転換に用いてもよい。但し後者の場合にはそれらベクターが互いに和合性を示すことが望ましい。本発明においてはかかる手段によりSurA遺伝子の発現を強化することにより、微生物が元来持っているレベルを超えてSurAを過剰に発現させる事が可能となり、もって正しい立体構造を保持した可溶化された目的異種タンパク質を効率的に生産する事が可能になる。
【0023】
SurA発現プラスミドを、異種タンパク質の発現プラスミドと共に大腸菌に導入する方法としては通常の方法が使用できる。例えば塩化カルシウム法、塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法が挙げられる。目的の形質転換体のスクリーニングは、発現プラスミドに組み込んだ選択マーカーに応じた薬剤耐性によって行うことができる。
【0024】
本発明でSurAタンパク質を発現させる場合には、その発現時期を制御できるという理由から誘導プロモーターを用いることが好ましく、さらに異種発現タンパク質を発現させる場合にも、上記とは異なる誘導発現プロモーターを用いることが望ましい。なぜならこれによって、両者の誘導発現が互いに独立して制御可能となるからである。誘導プロモーターを含む発現ベクターはイソプロピル−チオ−β−D−ガラクトピラノシド誘導型のpTrc99Aやアラビノース誘導型のpBAD/gIIIAなどが一般に入手できる。 尚、プロモーターの下流に構造遺伝子を繋ぐ際には、構造遺伝子の上流の約10塩基上流付近にリボソーム結合配列(シャインダルガルノ配列)を配置することが望ましい。
【0025】
本発明において培養培地とは、微生物を生存又は増殖させるための重要な栄養素を含んだ液体を意味し、該微生物を増殖させうるものであれば特に限定されない。具体的には培養されるべき上記微生物に適した培養培地が選ばれ、例えば大腸菌の培養培地として一般に用いられるものとして、Luria Bertani培地が挙げられる。
【0026】
本発明において異種タンパク質をペリプラズムに分泌させる方法とは、該異種タンパク質をコードするDNAを発現ベクターへ挿入する際に、その上流へシグナルペプチドをコードするDNAを連結させ、アミノ末端にシグナルペプチドが結合した形で該異種タンパク質を発現させることにより、ペリプラズムに異種タンパク質を移行、蓄積させることを意味する。その際、異種タンパク質に連結するシグナルペプチドは、異種タンパク質をペリプラズムに分泌させるという目的に有効であれば特に制限はない。例えばOmpA、OmpT、MalE、中性プロテアーゼなどのシグナルペプチドが使用できる。
【0027】
形質転換体の培養条件は宿主として用いた菌により異なるので、その条件は特に限定されない。宿主菌に応じて培養温度、培養時間、培養密度などを設定し、目的異種タンパク質がより多く発現する条件を選ぶことができる。誘導条件についても誘導時間、誘導物質の添加量、添加の時期を設定し、同様に条件を選ぶことができる。
【0028】
異種タンパク質は、誘導発現後の培養が終了したのちの培養液、または菌体を集め、集めた菌体を適当な方法で破砕した液から分離することができる。菌と培養液の分離方法は通常の方法、たとえば遠心分離法、ろ過による分離などが選択できる。菌の破砕方法はフレンチプレス、ホモジナイザーによる物理的な破砕および浸透圧ショック法などいずれの方法も使用できる。得られた培養液または細胞破砕液に含まれる異種タンパク質の発現は一般的なタンパク質の解析方法、例えばウエスタンブロット法、Enzyme linked immuno sorbent assay(ELISA)などで確認することができる。さらに培養液または細胞破砕液からその異種タンパク質に応じた適当な方法、例えば塩析、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーなどにより目的タンパク質を分離精製することができる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕 SurA発現プラスミドの構築
▲1▼SurA遺伝子(フラグメントI)の取得
大腸菌W3110株[アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)、ATCC番号27325]ゲノムDNAから、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号3及び配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、SurA遺伝子を含むDNA断片フラグメントIを得た。
▲2▼SurA発現プラスミドの構築
大腸菌発現ベクターpTrc99A(ファルマシア社)を、制限酵素NdeI及びScaIで切断し、得られたDNA断片の末端をDNA BluntingKit(宝酒造社)にて平滑化した。上記反応液からアガロース電気泳動により長い方のDNA断片である約2600bpのフラグメントIIを回収した。同じく大腸菌発現ベクターpACYC184(ニッポンジーン社)を、制限酵素AvaI及びXmnIで切断し、得られたDNA断片の末端をDNA Blunting Kitにて平滑化した。上記反応液からアガロース電気泳動により短い方のDNA断片である約2300bpのフラグメントIIIを回収した。上述のフラグメントII、IIIを、DNA Ligation Kit(宝酒造社)を用いてライゲートし、Ptrcプロモーター、p15A由来複製開始点、テトラサイクリン耐性遺伝子を有する大腸菌発現ベクターpTrc15Aを構築した。
このpTrc15Aを、制限酵素NcoIで切断し、得られたDNA断片の末端をDNA Blunting Kitにて平滑化、さらに大腸菌由来Alkaline Phosphatase(宝酒造社)にて脱リン酸化処理を加えた。上記反応液からアガロース電気泳動により約4900bpのフラグメントIVを回収した。このフラグメントIVと、上述のフラグメントIを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、SurA発現プラスミドpTrc15A−SurAを構築した。
【0030】
〔参考例1〕 FkpA発現プラスミドの構築
▲1▼FkpA遺伝子(フラグメントV)の取得
大腸菌W3110株ゲノムDNAから、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号5及び配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、FkpA遺伝子を含むDNA断片フラグメントVを得た。
▲2▼FkpA発現プラスミドの構築
上記フラグメントVと、実施例1の▲2▼においてpTrc15Aより調製したフラグメントIVを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、FkpA発現プラスミドpTrc15A−FkpAを構築した。
【0031】
〔参考例2〕 PpiA発現プラスミドの構築
▲1▼PpiA遺伝子(フラグメントVI)の取得
大腸菌W3110株ゲノムDNAから、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番7及び配列番号8に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、PpiA遺伝子を含むDNA断片フラグメントVIを得た。
▲2▼PpiA発現プラスミドの構築
上記フラグメントVIと、実施例1の▲2▼においてpTrc15Aより調製したフラグメントIVを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、PpiA発現プラスミドpTrc15A−PpiAを構築した。
【0032】
〔参考例3〕 DsbC発現プラスミドの構築
▲1▼DsbC遺伝子(フラグメントVII)の取得
大腸菌W3110株ゲノムDNAから、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号9及び配列番号10に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、DsbC遺伝子を含むDNA断片フラグメントVIIを得た。
▲2▼DsbC発現プラスミドの構築
上記フラグメントVIIと、実施例1の▲2▼においてpTrc15Aより調製したフラグメントIVを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、DsbC発現プラスミドpTrc15A−DsbCを構築した。
【0033】
〔実施例2〕 Midkine発現プラスミドの構築
▲1▼Midkine遺伝子(フラグメントVIII)の取得
ヒト腎Total RNA[Human Total RNA PanelI(クロンテック社)]から、配列番号11に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた逆転写反応によりcDNAを調製し、さらに5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号11及び配列番号12に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、Midkine遺伝子を含むDNA断片フラグメントVIIIを得た。
▲2▼Midkine発現プラスミドの構築
大腸菌発現ベクターpBAD/gIIIA(インビトロジェン社)を、制限酵素NcoIで切断し、得られたDNA断片の末端をDNA Blunting Kitにて平滑化、さらに大腸菌由来Alkaline Phosphataseにて脱リン酸化処理を加えた。上記反応液からアガロース電気泳動により約4100bpのフラグメントIXを回収した。上記フラグメントIXとフラグメントVIIIを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、Midkine発現プラスミドpBAD−Midkineを構築した。
【0034】
〔実施例3〕 tPA発現プラスミドの構築
▲1▼tPA遺伝子(フラグメントX)の取得
ヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)発現プラスミドpSV−2(日本国特許第2585532)から、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号13及び配列番号14に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、tPA遺伝子を含むDNA断片フラグメントXを得た。
▲2▼tPA発現プラスミドの構築
上記フラグメントXと、実施例2の▲2▼においてpBAD/gIIIAより調製したフラグメントIXを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、tPA発現プラスミドpBAD−tPAを構築した。
【0035】
〔実施例4〕 SurA共発現Midkine分泌発現株の構築
▲1▼Midkine・SurA共発現大腸菌株の構築
大腸菌SF110株(ATCC番号55101)の培養菌体から、常法の塩化カルシウム法によりコンピテントセルを調製し、Midkine発現プラスミドpBAD−Midkine、及びSurA発現プラスミドpTrc15A−SurAの双方でコンピテントセルを形質転換し、Midkine・SurA共発現大腸菌株SF110/pBAD−Midkine+pTrc15A−SurAを構築した。
【0036】
〔参考例4〕FkpA、PpiA、DsbC共発現Midkine分泌発現株の構築
▲1▼Midkine・FkpA共発現大腸菌株の構築
実施例4のMidkine・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、Midkine・FkpA共発現大腸菌株SF110/pBAD−Midkine+pTrc15A−FkpAを構築した。
▲2▼Midkine・PpiA共発現大腸菌株の構築
実施例4のMidkine・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、Midkine・PpiA共発現大腸菌株SF110/pBAD−Midkine+pTrc15A−PpiAを構築した。
▲3▼Midkine・DsbC共発現大腸菌株の構築
実施例4のMidkine・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、Midkine・DsbC共発現大腸菌株SF110/pBAD−Midkine+pTrc15A−DsbCを構築した。
【0037】
〔実施例5〕 SurA共発現tPA分泌発現株の構築
▲1▼tPA・SurA共発現大腸菌株の構築
tPA発現プラスミドpBAD−tPA、及びSurA発現プラスミドpTrc15A−SurAの双方で実施例4において作製した大腸菌SF110コンピテントセルを形質転換し、tPA・SurA共発現大腸菌株SF110/pBAD−tPA+pTrc15A−SurAを構築した。
【0038】
〔参考例5〕 FkpA、PpiA、DsbC共発現tPA分泌発現株の構築
▲1▼tPA・FkpA共発現大腸菌株の構築
実施例5のtPA・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、tPA・FkpA共発現大腸菌株SF110/pBAD−tPA+pTrc15A−FkpAを構築した。
▲2▼tPA・PpiA共発現大腸菌株の構築
実施例5のtPA・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、tPA・PpiA共発現大腸菌株SF110/pBAD−tPA+pTrc15A−PpiAを構築した。
▲3▼tPA・DsbC共発現大腸菌株の構築
実施例5のtPA・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、tPA・DsbC共発現大腸菌株SF110/pBAD−tPA+pTrc15A−DsbCを構築した。
【0039】
〔実施例6〕 ペリプラズムへのMidkine、tPA発現のための培養
実施例4、実施例5、参考例4、参考例5で得られた各共発現菌を培養し、MidkineおよびtPAを発現させた。各菌体をLuria Bertani培地中37℃で培養し、イソプロピル−チオ−β−D−ガラクトピラノシドを2mMとなるように加えてSurA、FkpA、PpiA、DsbCを誘導した。次にアラビノースを0.2%となるように添加して3時間培養し、MidkineまたはtPAを誘導発現させた。培養液を遠心分離して上清を除き、得られた集菌体から浸透圧ショック法〔Nossal, NG., J. Biol. Chem., 241, 3055−3062(1966)〕によってペリプラズム液を調製した。同じ条件の菌は3本のフラスコで同時に培養してペリプラズム液を調製し、3本からの測定値を平均して発現量を求めることとした。
【0040】
〔実施例7〕 Midkineの発現に対する効果
実施例6の方法に従ってMidkine発現プラスミドとSurA、FkpA、PpiA、DsbC発現プラスミドとをそれぞれ組み合わせて共発現させた菌体を培養して得たペリプラズム液中の、Midkineの濃度をELISAによって測定した。Midkine ELISAは安東民衛著、単クローン抗体実験操作入門(講談社サイエンティフィク)記載の内容に従って次のように行った。
各菌株のペリプラズム液をELISA用プレートに入れてペリプラズム液中のMidkineを結合させた。100倍に希釈した抗ヒトMidkineヤギポリクローナル抗体(シグマ社)を反応させ、次に30000倍に希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヤギイムノグロブリンモノクローナル抗体(シグマ社)を分注して反応させた。p−ニトロフェニルリン酸(シグマ社)溶液を分注して発色させ、反応停止後波長450nmにおける吸光度を測定した。Midkine標準液から得られた検量線の式から、各ペリプラズム液に含まれるMidkineの濃度を求めた。
結果を図2に示す。Midkine発現プラスミドのみを導入したコントロールの菌に対して、SurAを共発現させた菌はMidkineの分泌発現量が6.8倍に、FkpAを共発現させた菌は3.2倍に、PpiAを共発現させた菌は2.6倍に増大し、発現に対する促進効果が認められた。DsbCを共発現させた菌は発現量が1.2倍であった。
【0041】
〔実施例8〕 tPAの発現に対する効果
実施例6の方法に従ってtPA発現プラスミドとSurA、FkpA、PpiA、DsbC発現プラスミドとをそれぞれ組み合わせて共発現させた菌体を培養して得たペリプラズム液中の、tPAの濃度を測定した。測定にはImulysetPA(バイオプールインターナショナル社)を使用した。測定結果を図3に示す。tPA発現プラスミドのみを導入したコントロールの菌に対して、DsbCを共発現させた菌はtPAの分泌発現量が4.8倍に増大し、発現に対する促進効果が認められた。SurAを共発現させた菌は発現量が1.6倍、FkpAを共発現させた菌は1.5倍となり、発現促進の傾向が認められた。PpiAの共発現はtPAの発現を促進しなかった。
【0042】
【発明の効果】
本発明により、ペリプラズム中に正しい高次構造と活性を保持した発現産物を効率よく得ることができるという優れた効果が奏される。すなわち本発明によれば、微生物を用いてSurAタンパク質の発現を強化させることによって、異種タンパク質を可溶化状態で、正常な立体構造を保持した状態で分泌発現させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】大腸菌によるタンパク質分泌発現における、PPIaseおよびDsbCタンパク質の大腸菌菌体内での作用を示す模式図である。図中、−SHはスルフヒドリル基を、S−Sはジスルフィド結合を表す。
【図2】PPIaseおよびDsbCタンパク質をMidkineと共に大腸菌に共発現させて培養したときの、Midkineのペリプラズム液への発現量を、コントロールとしてMidkineのみ発現させたときの発現量と比較したグラフである。相対発現量は3回の測定の平均値で示す。エラーバーは3回の測定の標準偏差を示す。
【図3】PPIaseおよびDsbCタンパク質をtissue plasminogen activator(tPA)と共に大腸菌に共発現させて培養したときの、tPAのペリプラズム液への発現量を、コントロールとしてtPAのみ発現させたときの発現量と比較したグラフである。相対発現量は3回の測定の平均値で示す。エラーバーは3回の測定の標準偏差を示す。
【配列表】
【発明の属する技術分野】
本発明はSurAタンパク質の発現を強化させた微生物を用いることを特徴とする異種タンパク質の分泌生産方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
真核生物由来のタンパク質は多くがその分子内にジスルフィド結合を有する。ジスルフィド結合はそのタンパク質の高次構造を保持するのに働くため、これが正しく形成されないとタンパク質が正しい立体構造とならずタンパク質固有の活性が発揮されないことが多い。このようなジスルフィド結合を有するタンパク質を大腸菌で発現させる場合、細胞質ではなく、ペリプラズムへ分泌発現させるのが一般的である。なぜなら大腸菌の細胞質内は強い還元状態にあるのに対し、ペリプラズムはジスルフィド結合の形成にとって好ましい酸化状態にあるからである。さらにペリプラズムへの分泌発現は、夾雑タンパク質が少なく精製が容易であることや、分泌の際にシグナルペプチドが切除されることに伴ってN末端にあるメチオニンが除去されるといった利点も期待される。過去にジスルフィド結合を有するタンパク質を大腸菌のペリプラズムへ分泌発現させるという試みは数多く報告されている。しかしながらそれらの分泌発現効率はタンパク質毎にまちまちであり、とりわけジスルフィド結合を多数含むタンパク質の場合、その分泌発現効率は極端に低くなる。
【0003】
大腸菌においてジスルフィド結合が形成されるメカニズムについては、近年かなり明らかにされてきた。そのメカニズムの概要を模式的に図1に示す。ペリプラズムに局在する分泌タンパク質は、N末端にシグナルペプチドを持つ前駆体として細胞質内で生合成されるが、この段階で立体構造を形成してしまうと内膜を透過できなくなる。よって細胞質内に存在する分子シャペロンが分泌タンパク質に結合することにより、立体構造が形成されない状態に維持しながら内膜まで輸送する。内膜には一連のSecファミリータンパク質が局在し、これがポンプのような働きをしながら、タンパク質をペリプラズム内へと送り込む。なおシグナルペプチドは内膜を透過する過程で切除される。ペリプラズムにはジスルフィドイソメラーゼ(Dsb)やペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ(PPIase)といった、ジスルフィド結合形成に関わる因子が存在し、ペリプラズムという酸化的環境下において、ジスルフィド結合形成が起こる。
【0004】
特にDsbタンパク質の機能については解明が進んでおり、そのジスルフィド結合形成機構の概要は以下の通りである。ペリプラズムに分泌されてきたタンパク質に対して、まずDsbAがジスルフィド結合を形成させる。しかしこの段階でのジスルフィド結合形成は必ずしも正確ではないため、引き続きDsbCが誤った結合箇所につき、正しく架け替えを行う。尚DsbBとDsbDはそれぞれDsbAとDsbCの再活性化を担当する。一方PPIaseはペリプラズムに分泌されてきたタンパク質の中のシス型プロリンをトランス型へ変換する酵素である。ペプチド結合しているプロリンは通常トランス型であるが、例外的にシス型をとる場合があり、PPIaseはプロリンの異性体変換を触媒してタンパク質の高次構造を正しい配置に導くと考えられている。なお大腸菌のPPIaseとしては、SurA、FkpA、PpiAの3種が知られており、このうちSurAとFkpAについてはPPIase活性以外にシャペロン活性も併せ持つことが報告されている〔Webb, HM., J. Biol. Chem., 276, 45622−45627(2001)、Behrens, S., EMBO J., 20, 285−294(2001)、Ramm, K., J. Biol. Chem., 275, 17103−17113(2000)、Ramm, K.,J. Mol. Biol., 310, 485−498(2001)〕。
【0005】
ジスルフィド結合を持つタンパク質の分泌発現効率を向上させる試みとしては、これまでにDsbタンパク質の利用がいくつか試みられている。例えば、Qiuらは組織プラスミノーゲンアクチベーターの発現においてDsbCを共発現させることにより、活性型のタンパク質の発現量が向上したと報告している〔Qiu, JI., Appl. Environ. Microbiol., 64, 4891−4896(1998)〕。また、黒川らは異種タンパク質の生産性向上のためにDsbA、DsbB、DsbCおよびDsbDを共発現する方法を開示し、ヒト神経成長因子−βと西洋ワサビペルオキシダーゼの発現において、全タンパク質中に占めるペリプラズムへの分泌発現タンパク質の割合が上昇したと報告している〔特開2000−83670公報〕。
【0006】
一方PPIaseについては、これらを共発現させることによってジスルフィド結合を持つタンパク質の分泌発現効率を向上させる試みはほとんどなされていない。
【0007】
【特許文献1】特開2000−83670公報
【0008】
【非特許文献1】Webb, HM., J. Biol. Chem., 276, 45622−45627(2001)
【0009】
【非特許文献2】Behrens, S., EMBO J., 20, 285−294(2001)
【0010】
【非特許文献3】Ramm, K., J. Biol. Chem., 275, 17103−17113(2000)
【0011】
【非特許文献4】Ramm, K.,J. Mol. Biol., 310, 485−498(2001)
【0012】
【非特許文献5】Qiu, JI., Appl. Environ. Microbiol., 64, 4891−4896(1998)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、異種タンパク質、とりわけ分子内にジスルフィド結合を2つ以上持つために分泌発現が困難なタンパク質を、可溶化状態かつ正しい高次構造を保ったまま発現させうる、SurAの共発現を利用した分泌発現方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはジスルフィド結合形成に関与する因子の中でこれまで共発現による試みがなされていなかったPPIaseに着目し、異種タンパク質、とりわけジスルフィド結合を持つために分泌発現が困難なタンパク質の分泌発現におけるPPIaseタンパク質の共発現効果を解析した結果、特にSurAによって顕著に分泌発現効率が向上することを見出した。さらにその効果は、従来技術であるDsbCタンパク質の共発現によって分泌発現効率がほとんど改善されない異種タンパク質に対しても見られた。
【0015】
このように本発明はその存在が知られてはいたものの、微生物による異種タンパク質の発現に対する効果は未知であったSurAの効果について初めて実証し、明らかにしたものである。
【0016】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]異種タンパク質を微生物のペリプラズムまたは培養培地に分泌させる方法であって、該微生物細胞中でSurAタンパク質の発現を強化させることを特徴とする方法。
[2]該異種タンパク質が哺乳動物由来である[1]に記載の方法。
[3]該異種タンパク質がジスルフィド結合を有するタンパク質である[1]又は[2]に記載の方法。
[4]該微生物が細菌である[1]〜[3]の何れか一項に記載の方法。
[5]該微生物が大腸菌である[4]に記載の方法。
[6]該微生物をSurAタンパク質をコードするDNAおよび該異種タンパク質をコードするDNAを含むベクターで形質転換する[1]に記載の方法。
[7]SurAタンパク質をコードするDNAを含むベクターと該異種タンパク質をコードするDNAを含むベクターの2種類の異なるベクターを形質転換に用い、それらベクターは互いに和合性を示す[6]に記載の方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明において異種タンパク質とは、微生物が本来有しているタンパク質以外のタンパク質を指し、既存の大腸菌分泌発現系では発現効率の低いタンパク質であればいかなるタンパク質でも対象となる。代表的なものとして、哺乳動物由来のものが例示でき、特にジスルフィド結合を持つ異種タンパク質は本発明の効果が顕著に現れるが故に好適に使用される。すなわち異種タンパク質がジスルフィド結合を有する場合には、ジスルフィド結合の正しい形成が促進され、正しい立体構造を持った異種タンパク質をさらに効率よく得ることができる。
【0018】
とはいえ、ここで本発明でいう異種タンパク質には、ジスルフィド結合を含まないものも包含される。なぜなら、SurAに見られる上記効果はPPIase活性のみによるものでなく、シャペロン活性との相乗効果であると推定され、その効果はジスルフィド結合を持たないタンパク質にも及ぶことが期待されるからである。
【0019】
本発明における微生物としては、SurAタンパク質の発現の強化が可能であればいかなる微生物も採用可能であるが、発現プラスミドの導入および培養の容易性の点を考慮すれば細菌が好適である。また、ペリプラズム画分の取得が容易で目的タンパク質の精製に有利という点から大腸菌の使用が好ましいが、枯草菌のようにペリプラズムを持たず、発現させたタンパク質が培地中に分泌されるような微生物も使用可能である。微生物が大腸菌である場合、生産されたタンパク質の分解を最小限に抑えるために、いくつかのタンパク質分解酵素が欠損した大腸菌の使用はなお望ましい。例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手できる株としてSF103(ATCC番号55100)、SF110(ATCC番号55101)、SF120(ATCC番号55099)などが挙げられる。
【0020】
本発明においてSurAタンパク質とは、1990年にTormoらによって初めて見出され、SurAと命名された大腸菌由来の蛋白質〔Tormo, A., J. Bacteriol., 172, 4339−4347 (1990)〕と同様の機能を有する蛋白質の総称を意味し、本発明において微生物中で異種タンパク質とともに共発現させられるものである。本発明のSurAタンパク質としては大腸菌由来のタンパク質が好ましいものとして例示できるが、同様の機能を有するものであればその起源は特に限定されるものではない。前記SurAのアミノ酸配列は、本発明に見られる効果が保持されている限りにおいて、1残基以上のアミノ酸に置換、欠失または挿入といった変異が導入された配列であっても良い。代表的なアミノ酸配列として、大腸菌由来のSurAのアミノ酸配列を配列表中の配列番号2に示す。
【0021】
本発明において前記SurAタンパク質をコードするDNAとはSurA遺伝子を意味し、代表的な大腸菌のSurA遺伝子の塩基配列は、配列表の配列番号1に記載のとおりであるが、本発明に見られる効果が保持されている限りにおいて、1塩基以上の塩基に置換、欠失または挿入といった変異が導入された配列であっても本発明にいうSurA遺伝子の範疇に含まれる。SurA遺伝子を取得する方法に限定はないが、例えば大腸菌由来のSurA遺伝子のジェノミックDNAを鋳型とし、目的遺伝子の増幅が可能な配列を持つプライマー対を用いたPolymerase chain reaction(PCR)法が簡便である。
【0022】
本発明において微生物細胞中でSurAタンパク質の発現を強化させるとは、
上記微生物が元来持っている発現レベルを超えてSurAを過剰に発現させることを意味する。SurAの発現が強化された微生物が得られる限りにおいてSurAを過剰発現させる手段に限定はなく、例えば突然変異誘発処理によって微生物の遺伝子に変化を与え、SurAタンパク質の発現量が向上した突然変異体を選択する方法が挙げられる。また望ましくは上記微生物をSurA遺伝子を含むベクター(SurA発現プラスミド)で形質転換し、該SurAタンパク質を発現させる方法が用いられる。SurA遺伝子を含むベクター(SurA発現プラスミド)および上記異種タンパク質をコードするDNAを含むベクター(異種タンパク質の発現プラスミド)で形質転換し、該SurAタンパク質と該異種タンパク質を発現させる方法において、SurA遺伝子と該異種タンパク質をコードするDNAが単一のベクターに含まれても良いし、SurA遺伝子を含むベクターと該異種タンパク質をコードするDNAを含むベクターの2種類の異なるベクターを形質転換に用いてもよい。但し後者の場合にはそれらベクターが互いに和合性を示すことが望ましい。本発明においてはかかる手段によりSurA遺伝子の発現を強化することにより、微生物が元来持っているレベルを超えてSurAを過剰に発現させる事が可能となり、もって正しい立体構造を保持した可溶化された目的異種タンパク質を効率的に生産する事が可能になる。
【0023】
SurA発現プラスミドを、異種タンパク質の発現プラスミドと共に大腸菌に導入する方法としては通常の方法が使用できる。例えば塩化カルシウム法、塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法が挙げられる。目的の形質転換体のスクリーニングは、発現プラスミドに組み込んだ選択マーカーに応じた薬剤耐性によって行うことができる。
【0024】
本発明でSurAタンパク質を発現させる場合には、その発現時期を制御できるという理由から誘導プロモーターを用いることが好ましく、さらに異種発現タンパク質を発現させる場合にも、上記とは異なる誘導発現プロモーターを用いることが望ましい。なぜならこれによって、両者の誘導発現が互いに独立して制御可能となるからである。誘導プロモーターを含む発現ベクターはイソプロピル−チオ−β−D−ガラクトピラノシド誘導型のpTrc99Aやアラビノース誘導型のpBAD/gIIIAなどが一般に入手できる。 尚、プロモーターの下流に構造遺伝子を繋ぐ際には、構造遺伝子の上流の約10塩基上流付近にリボソーム結合配列(シャインダルガルノ配列)を配置することが望ましい。
【0025】
本発明において培養培地とは、微生物を生存又は増殖させるための重要な栄養素を含んだ液体を意味し、該微生物を増殖させうるものであれば特に限定されない。具体的には培養されるべき上記微生物に適した培養培地が選ばれ、例えば大腸菌の培養培地として一般に用いられるものとして、Luria Bertani培地が挙げられる。
【0026】
本発明において異種タンパク質をペリプラズムに分泌させる方法とは、該異種タンパク質をコードするDNAを発現ベクターへ挿入する際に、その上流へシグナルペプチドをコードするDNAを連結させ、アミノ末端にシグナルペプチドが結合した形で該異種タンパク質を発現させることにより、ペリプラズムに異種タンパク質を移行、蓄積させることを意味する。その際、異種タンパク質に連結するシグナルペプチドは、異種タンパク質をペリプラズムに分泌させるという目的に有効であれば特に制限はない。例えばOmpA、OmpT、MalE、中性プロテアーゼなどのシグナルペプチドが使用できる。
【0027】
形質転換体の培養条件は宿主として用いた菌により異なるので、その条件は特に限定されない。宿主菌に応じて培養温度、培養時間、培養密度などを設定し、目的異種タンパク質がより多く発現する条件を選ぶことができる。誘導条件についても誘導時間、誘導物質の添加量、添加の時期を設定し、同様に条件を選ぶことができる。
【0028】
異種タンパク質は、誘導発現後の培養が終了したのちの培養液、または菌体を集め、集めた菌体を適当な方法で破砕した液から分離することができる。菌と培養液の分離方法は通常の方法、たとえば遠心分離法、ろ過による分離などが選択できる。菌の破砕方法はフレンチプレス、ホモジナイザーによる物理的な破砕および浸透圧ショック法などいずれの方法も使用できる。得られた培養液または細胞破砕液に含まれる異種タンパク質の発現は一般的なタンパク質の解析方法、例えばウエスタンブロット法、Enzyme linked immuno sorbent assay(ELISA)などで確認することができる。さらに培養液または細胞破砕液からその異種タンパク質に応じた適当な方法、例えば塩析、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーなどにより目的タンパク質を分離精製することができる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕 SurA発現プラスミドの構築
▲1▼SurA遺伝子(フラグメントI)の取得
大腸菌W3110株[アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)、ATCC番号27325]ゲノムDNAから、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号3及び配列番号4に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、SurA遺伝子を含むDNA断片フラグメントIを得た。
▲2▼SurA発現プラスミドの構築
大腸菌発現ベクターpTrc99A(ファルマシア社)を、制限酵素NdeI及びScaIで切断し、得られたDNA断片の末端をDNA BluntingKit(宝酒造社)にて平滑化した。上記反応液からアガロース電気泳動により長い方のDNA断片である約2600bpのフラグメントIIを回収した。同じく大腸菌発現ベクターpACYC184(ニッポンジーン社)を、制限酵素AvaI及びXmnIで切断し、得られたDNA断片の末端をDNA Blunting Kitにて平滑化した。上記反応液からアガロース電気泳動により短い方のDNA断片である約2300bpのフラグメントIIIを回収した。上述のフラグメントII、IIIを、DNA Ligation Kit(宝酒造社)を用いてライゲートし、Ptrcプロモーター、p15A由来複製開始点、テトラサイクリン耐性遺伝子を有する大腸菌発現ベクターpTrc15Aを構築した。
このpTrc15Aを、制限酵素NcoIで切断し、得られたDNA断片の末端をDNA Blunting Kitにて平滑化、さらに大腸菌由来Alkaline Phosphatase(宝酒造社)にて脱リン酸化処理を加えた。上記反応液からアガロース電気泳動により約4900bpのフラグメントIVを回収した。このフラグメントIVと、上述のフラグメントIを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、SurA発現プラスミドpTrc15A−SurAを構築した。
【0030】
〔参考例1〕 FkpA発現プラスミドの構築
▲1▼FkpA遺伝子(フラグメントV)の取得
大腸菌W3110株ゲノムDNAから、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号5及び配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、FkpA遺伝子を含むDNA断片フラグメントVを得た。
▲2▼FkpA発現プラスミドの構築
上記フラグメントVと、実施例1の▲2▼においてpTrc15Aより調製したフラグメントIVを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、FkpA発現プラスミドpTrc15A−FkpAを構築した。
【0031】
〔参考例2〕 PpiA発現プラスミドの構築
▲1▼PpiA遺伝子(フラグメントVI)の取得
大腸菌W3110株ゲノムDNAから、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番7及び配列番号8に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、PpiA遺伝子を含むDNA断片フラグメントVIを得た。
▲2▼PpiA発現プラスミドの構築
上記フラグメントVIと、実施例1の▲2▼においてpTrc15Aより調製したフラグメントIVを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、PpiA発現プラスミドpTrc15A−PpiAを構築した。
【0032】
〔参考例3〕 DsbC発現プラスミドの構築
▲1▼DsbC遺伝子(フラグメントVII)の取得
大腸菌W3110株ゲノムDNAから、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号9及び配列番号10に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、DsbC遺伝子を含むDNA断片フラグメントVIIを得た。
▲2▼DsbC発現プラスミドの構築
上記フラグメントVIIと、実施例1の▲2▼においてpTrc15Aより調製したフラグメントIVを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、DsbC発現プラスミドpTrc15A−DsbCを構築した。
【0033】
〔実施例2〕 Midkine発現プラスミドの構築
▲1▼Midkine遺伝子(フラグメントVIII)の取得
ヒト腎Total RNA[Human Total RNA PanelI(クロンテック社)]から、配列番号11に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた逆転写反応によりcDNAを調製し、さらに5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号11及び配列番号12に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、Midkine遺伝子を含むDNA断片フラグメントVIIIを得た。
▲2▼Midkine発現プラスミドの構築
大腸菌発現ベクターpBAD/gIIIA(インビトロジェン社)を、制限酵素NcoIで切断し、得られたDNA断片の末端をDNA Blunting Kitにて平滑化、さらに大腸菌由来Alkaline Phosphataseにて脱リン酸化処理を加えた。上記反応液からアガロース電気泳動により約4100bpのフラグメントIXを回収した。上記フラグメントIXとフラグメントVIIIを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、Midkine発現プラスミドpBAD−Midkineを構築した。
【0034】
〔実施例3〕 tPA発現プラスミドの構築
▲1▼tPA遺伝子(フラグメントX)の取得
ヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)発現プラスミドpSV−2(日本国特許第2585532)から、5´末端にリン酸化修飾を加えた配列番号13及び配列番号14に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより、tPA遺伝子を含むDNA断片フラグメントXを得た。
▲2▼tPA発現プラスミドの構築
上記フラグメントXと、実施例2の▲2▼においてpBAD/gIIIAより調製したフラグメントIXを、DNA Ligation Kitを用いてライゲートし、tPA発現プラスミドpBAD−tPAを構築した。
【0035】
〔実施例4〕 SurA共発現Midkine分泌発現株の構築
▲1▼Midkine・SurA共発現大腸菌株の構築
大腸菌SF110株(ATCC番号55101)の培養菌体から、常法の塩化カルシウム法によりコンピテントセルを調製し、Midkine発現プラスミドpBAD−Midkine、及びSurA発現プラスミドpTrc15A−SurAの双方でコンピテントセルを形質転換し、Midkine・SurA共発現大腸菌株SF110/pBAD−Midkine+pTrc15A−SurAを構築した。
【0036】
〔参考例4〕FkpA、PpiA、DsbC共発現Midkine分泌発現株の構築
▲1▼Midkine・FkpA共発現大腸菌株の構築
実施例4のMidkine・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、Midkine・FkpA共発現大腸菌株SF110/pBAD−Midkine+pTrc15A−FkpAを構築した。
▲2▼Midkine・PpiA共発現大腸菌株の構築
実施例4のMidkine・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、Midkine・PpiA共発現大腸菌株SF110/pBAD−Midkine+pTrc15A−PpiAを構築した。
▲3▼Midkine・DsbC共発現大腸菌株の構築
実施例4のMidkine・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、Midkine・DsbC共発現大腸菌株SF110/pBAD−Midkine+pTrc15A−DsbCを構築した。
【0037】
〔実施例5〕 SurA共発現tPA分泌発現株の構築
▲1▼tPA・SurA共発現大腸菌株の構築
tPA発現プラスミドpBAD−tPA、及びSurA発現プラスミドpTrc15A−SurAの双方で実施例4において作製した大腸菌SF110コンピテントセルを形質転換し、tPA・SurA共発現大腸菌株SF110/pBAD−tPA+pTrc15A−SurAを構築した。
【0038】
〔参考例5〕 FkpA、PpiA、DsbC共発現tPA分泌発現株の構築
▲1▼tPA・FkpA共発現大腸菌株の構築
実施例5のtPA・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、tPA・FkpA共発現大腸菌株SF110/pBAD−tPA+pTrc15A−FkpAを構築した。
▲2▼tPA・PpiA共発現大腸菌株の構築
実施例5のtPA・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、tPA・PpiA共発現大腸菌株SF110/pBAD−tPA+pTrc15A−PpiAを構築した。
▲3▼tPA・DsbC共発現大腸菌株の構築
実施例5のtPA・SurA共発現大腸菌株の構築方法に従い、tPA・DsbC共発現大腸菌株SF110/pBAD−tPA+pTrc15A−DsbCを構築した。
【0039】
〔実施例6〕 ペリプラズムへのMidkine、tPA発現のための培養
実施例4、実施例5、参考例4、参考例5で得られた各共発現菌を培養し、MidkineおよびtPAを発現させた。各菌体をLuria Bertani培地中37℃で培養し、イソプロピル−チオ−β−D−ガラクトピラノシドを2mMとなるように加えてSurA、FkpA、PpiA、DsbCを誘導した。次にアラビノースを0.2%となるように添加して3時間培養し、MidkineまたはtPAを誘導発現させた。培養液を遠心分離して上清を除き、得られた集菌体から浸透圧ショック法〔Nossal, NG., J. Biol. Chem., 241, 3055−3062(1966)〕によってペリプラズム液を調製した。同じ条件の菌は3本のフラスコで同時に培養してペリプラズム液を調製し、3本からの測定値を平均して発現量を求めることとした。
【0040】
〔実施例7〕 Midkineの発現に対する効果
実施例6の方法に従ってMidkine発現プラスミドとSurA、FkpA、PpiA、DsbC発現プラスミドとをそれぞれ組み合わせて共発現させた菌体を培養して得たペリプラズム液中の、Midkineの濃度をELISAによって測定した。Midkine ELISAは安東民衛著、単クローン抗体実験操作入門(講談社サイエンティフィク)記載の内容に従って次のように行った。
各菌株のペリプラズム液をELISA用プレートに入れてペリプラズム液中のMidkineを結合させた。100倍に希釈した抗ヒトMidkineヤギポリクローナル抗体(シグマ社)を反応させ、次に30000倍に希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヤギイムノグロブリンモノクローナル抗体(シグマ社)を分注して反応させた。p−ニトロフェニルリン酸(シグマ社)溶液を分注して発色させ、反応停止後波長450nmにおける吸光度を測定した。Midkine標準液から得られた検量線の式から、各ペリプラズム液に含まれるMidkineの濃度を求めた。
結果を図2に示す。Midkine発現プラスミドのみを導入したコントロールの菌に対して、SurAを共発現させた菌はMidkineの分泌発現量が6.8倍に、FkpAを共発現させた菌は3.2倍に、PpiAを共発現させた菌は2.6倍に増大し、発現に対する促進効果が認められた。DsbCを共発現させた菌は発現量が1.2倍であった。
【0041】
〔実施例8〕 tPAの発現に対する効果
実施例6の方法に従ってtPA発現プラスミドとSurA、FkpA、PpiA、DsbC発現プラスミドとをそれぞれ組み合わせて共発現させた菌体を培養して得たペリプラズム液中の、tPAの濃度を測定した。測定にはImulysetPA(バイオプールインターナショナル社)を使用した。測定結果を図3に示す。tPA発現プラスミドのみを導入したコントロールの菌に対して、DsbCを共発現させた菌はtPAの分泌発現量が4.8倍に増大し、発現に対する促進効果が認められた。SurAを共発現させた菌は発現量が1.6倍、FkpAを共発現させた菌は1.5倍となり、発現促進の傾向が認められた。PpiAの共発現はtPAの発現を促進しなかった。
【0042】
【発明の効果】
本発明により、ペリプラズム中に正しい高次構造と活性を保持した発現産物を効率よく得ることができるという優れた効果が奏される。すなわち本発明によれば、微生物を用いてSurAタンパク質の発現を強化させることによって、異種タンパク質を可溶化状態で、正常な立体構造を保持した状態で分泌発現させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】大腸菌によるタンパク質分泌発現における、PPIaseおよびDsbCタンパク質の大腸菌菌体内での作用を示す模式図である。図中、−SHはスルフヒドリル基を、S−Sはジスルフィド結合を表す。
【図2】PPIaseおよびDsbCタンパク質をMidkineと共に大腸菌に共発現させて培養したときの、Midkineのペリプラズム液への発現量を、コントロールとしてMidkineのみ発現させたときの発現量と比較したグラフである。相対発現量は3回の測定の平均値で示す。エラーバーは3回の測定の標準偏差を示す。
【図3】PPIaseおよびDsbCタンパク質をtissue plasminogen activator(tPA)と共に大腸菌に共発現させて培養したときの、tPAのペリプラズム液への発現量を、コントロールとしてtPAのみ発現させたときの発現量と比較したグラフである。相対発現量は3回の測定の平均値で示す。エラーバーは3回の測定の標準偏差を示す。
【配列表】
Claims (7)
- 異種タンパク質を微生物のペリプラズムまたは培養培地に分泌させる方法であって、該微生物細胞中でSurAタンパク質の発現を強化させることを特徴とする方法。
- 該異種タンパク質が哺乳動物由来である請求項1に記載の方法。
- 該異種タンパク質がジスルフィド結合を有するタンパク質である請求項1又は2に記載の方法。
- 該微生物が細菌である請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
- 該微生物が大腸菌である請求項4に記載の方法。
- 該微生物をSurAタンパク質をコードするDNAおよび該異種タンパク質をコードするDNAを含むベクターで形質転換する請求項1に記載の方法。
- SurAタンパク質をコードするDNAを含むベクターと該異種タンパク質をコードするDNAを含むベクターの2種類の異なるベクターを形質転換に用い、それらベクターは互いに和合性を示す請求項6に記載の方法。
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JP2003007745A JP2004215591A (ja) | 2003-01-16 | 2003-01-16 | ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼを強化させた微生物による異種タンパク質の生産方法 |
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WO2022045151A1 (ja) | 2020-08-24 | 2022-03-03 | 天野エンザイム株式会社 | 改変タンパク質の製造方法 |
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- 2003-01-16 JP JP2003007745A patent/JP2004215591A/ja active Pending
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