JP2004215528A - ホスファチジルセリンの製造方法 - Google Patents

ホスファチジルセリンの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】大豆や卵黄などを由来とするリン脂質を原料とし、ホスホリパーゼDによるホスファチジル基転移反応によりホスファチジルセリンを製造するに際し、効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】ホスホリパーゼDのホスファチジル基転移反応を、従来の有機溶媒−水の二相系で行う方法ではなく、W/O型エマルジョン中で行うことにより、ホスファチジル基転移反応を著しく高め、リン脂質及びセリンを原料に、ホスファチジルセリンを高収率で得る製造方法により本課題を解決する。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホスファチジルセリンの効率的な製造方法に関する。より詳しくは、リン脂質及びセリンを基質としてホスファチジル基転移反応にてホスファチジルセリンを製造するに際し、ホスファチジル基転移反応がW/O型エマルジョンの状態下で行われることを特徴とするホスファチジルセリンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ホスファチジルセリンは、ヒトの脳に特に多く含まれるリン脂質である。また、動物、高等植物及び微生物に広く分布する酸性リン脂質であり、動物の形質膜においては、脂質二重膜の内側に局在しており、全リン脂質の10〜20%を占めている。ホスファチジルセリンは、動物体内で様々な機能を担っているが、とりわけ脳、神経系に対しての様々な作用が注目されている。その一例として、痴呆症患者を対象とした臨床試験において、ホスファチジルセリンの摂取で、その大部分に症状の改善が見られたと共に、副作用がほとんどなかったと報告されている。また、ホスファチジルセリンの摂取で、加齢に伴う記憶力低下が回復したという報告もある。こういった脳機能低下に対する効果の他にも、てんかん(散発性急性発作異常)の症状の緩和、ホルモン分泌の正常化、情緒安定作用などが知られている。このような知見から、近年、ホスファチジルセリンは、脳の機能を改善する食品素材「ブレインフード」として注目を集めている。
【0003】
ホスファチジルセリンは、従来は牛脳から抽出、製造されていたが、存在量が少なく高価な上、十分な量が取得できないことに加え、狂牛病やヤコブ病などの感染性の脳障害を引き起こす危険性が伴うため、牛脳に代わるホスファチジルセリンの供給源が求められてきた。そこで、有望とされるのが、ホスホリパーゼDが触媒する「ホスファチジル基転移反応」を利用して大豆や卵黄由来のリン脂質からホスファチジルセリンを生成する方法である。これは、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンなどを主体とするリン脂質がホスファチジル基の供与体となり、セリンが受容体となる。リン脂質及びセリンを基質に、ホスホリパーゼDによるホスファチジル基転移反応を行う場合、水相と有機溶媒相とからなる二相系で行われる方法が種々提案されてきた。即ち、主として酵素、反応受容体、pH緩衝液、無機塩等を含む水相と、主として親油性であるリン脂質等を含む有機溶媒相とを適宜に攪拌、混合して接触させる反応系が提案されてきた。(例えば、特許文献1、2参照。)
【0004】
このような酵素反応系において、ホスファチジル基転移反応を促進させる有機溶媒としては、ジイソプロピルエーテル、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、酢酸エチル、クロロホルム等またはこれらの混合溶媒が知られている。しかし、これらの有機溶媒は、ホスファチジル基転移反応を促進させる効果として、十分に満足できるものではなかった。
【0005】
一方、有機溶剤を使用しないO/W型の均一相反応系についても報告がなされているが、反応系に大量の水を必要とするために反応継続中にホスホリパーゼDの有する加水分解活性によって副反応生成物であるホスファチジン酸が生成する問題点があり、目的とするホスファチジルセリンの収率が低下すると共に分離精製を困難とする。
【0006】
また、O/W型均一相系の問題点の解決法として、原料リン脂質を有機溶剤に溶解し、その中にホスホリパーゼDを含む水相を逆ミセル状態(W/O型エマルジョン)に混合して反応させる方法(例えば、特許文献1参照。)も提案されているが、水分含有率が低下するためにホスファチジン酸の生成は抑制されるものの、目的とするホスファチジルセリンの生成量は理論値の20%程度と低レベルとなり、W/O状態を調製するに際して複雑な乳化処理を要求する。
【0007】
【特許文献1】
特公平7−16426号公報(第2−3頁)
【特許文献2】
特開平9−173092号公報(第4−5頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、大豆や卵黄などを由来とするリン脂質を原料とし、ホスホリパーゼDによるホスファチジル基転移反応によりホスファチジルセリンを製造するに際し、効率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ホスホリパーゼDによるホスファチジル基転移反応をW/O型エマルジョン中で行わせることにより、従来の有機溶媒‐水の二相系で行われる方法に比べ著しく高い収率でホスファチジルセリンを生成することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、ホスホリパーゼDのホスファチジル基転移反応を、従来の有機溶媒−水の二相系で行う方法ではなく、W/O型エマルジョン中で行うことにより、ホスファチジル基転移反応を著しく高め、リン脂質及びセリンを原料に、ホスファチジルセリンを高収率で得る製造方法である。
【0011】
本発明に用いられるリン脂質とは、天然物からの抽出物、または該抽出物を精製したもの、または合成のリン脂質などを用いても構わない。具体的に原料となる天然物は、大豆、菜種、シソ、エゴマ、鶏卵、マグロ、イカ、イワシ、カツオ、アサクサノリ、スピルリナ、海産クロレラ、モルティエレラ属に属する微生物菌体などが挙げられ、これらの種子や組織から常法により抽出、精製したリン脂質を用いることができる。中でも、大豆レシチン、菜種レシチン、卵黄レシチンは工業的にも入手しやすく好適である。また、目的とするホスファチジルセリンの構成脂肪酸としてドコサヘキサエン酸を必要とする場合は、例えばドコサヘキサエン酸強化鶏卵黄より抽出した卵黄レシチンを用いることが好ましい。
【0012】
本発明におけるセリンは、原料として用いるセリンの起源は問わず、D−セリンおよびL−セリンを使用できるが、生体内代謝の点からはL−セリンが好適である。
【0013】
本発明におけるホスホリパーゼDは、ホスファチジル基転移活性を有するものであれば良く、その起源は問わない。具体的には、キャベツ、ニンジン、米糠などの植物由来、放線菌、細菌、カビなどの微生物由来、動物由来のホスホリパーゼDなど何れも使用することが出来る。中でも、Streptomyces属に属する微生物由来のホスホリパーゼDが好適である。ホスホリパーゼDは、上記の動植物や菌体より抽出・精製されたものが好適であるが、ホスホリパーゼDを含む上記微生物の培養液をそのまま使用することも出来る。
【0014】
本発明におけるDHAとは、n−3系の炭素数22、6つの二重結合を有する高度不飽和脂肪酸の一種である。生体内において偏った分布をしており、脳灰白質部(Sastry, 1985)、網膜(Anderson et al., 1974)、神経、心臓、精子、母乳(Crawford et al., 1976)に特異的に含まれる。多くはリン脂質を構成する脂肪酸として存在し、その中でも特にホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンに多く結合し細胞膜を形成している(Tinoco, 1982)。1970年代後半より、n−3系高度不飽和脂肪酸摂取量の多いイヌイットの間では虚血性疾患の発症率が少ないことが報告され(Dyerberg et al., 1978)、魚油に多く含有される脂肪酸であるEPAやDHAの研究が開始された。その結果、DHAやEPAが人体において重要な成分であることが明らかになった。DHAの生理作用には学習能向上作用(記憶力増強作用)、網膜反射能向上作用(視力低下抑制作用)、制ガン作用(特に大腸ガン、乳ガン、肺ガン)、血中脂質(コレステロール、中性脂質)低下作用、抗血栓作用(血小板凝集能抑制作用)、抗アレルギー作用、抗炎症作用、抗糖尿病作用(血糖値低下作用)などが挙げられる(丸山、1992)。生体内で生理作用を発現させる為にはリン脂質に結合したものを摂取することが有効である。
【0015】
本発明におけるW/O型エマルジョン状態下における反応とは、油中水滴型エマルジョン中での反応で、油相中にホスホリパーゼD水溶液が分散した系での反応である。しかし、基質であるリン脂質とホスホリパーゼD水溶液は、混合するだけでは、安定なエマルジョンを形成せず、界面活性剤の添加が必要となる。
【0016】
本発明における界面活性剤とは、リン脂質を含む油相及びホスホリパーゼDを含む水相が安定なW/O型エマルジョンを形成するものであれば良い。具体的には、リシノール酸、ポリグリセリンポリリシノレート、有機酸モノグリセリド、HLB7以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、HLB7以下のショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。リシノール酸、ポリグリセリンポリリシノレートは好適に用いられ、もっとも好ましいのはリシノール酸である。
【0017】
本発明に用いる界面活性剤は、脱脂精製する際に用いるアセトン相へ移行し、目的とするホスファチジルセリンの画分から除去される。
【0018】
脱脂残渣画分に含まれるホスファチジルセリンは、ヘキサン/エタノール混液で抽出することで高純度のホスファチジルセリンとして回収される。
以下に、本発明の実施例を挙げて詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
【実施例】
リン脂質の組成分析は棒状薄層クロマトグラフィーで行った。棒状薄層クロマトグラフィーによる分析は、棒状薄層(CHROMAROD−S、ヤトロン(株)製)に分析サンプルをスポットし、展開溶媒(クロロホルム:メタノール:酢酸=40:15:6)で展開した後、Iatroscan MK−5(ヤトロン(株)製)により行った。Iatroscan MK−5の検出条件は、Gasflow:H0.16L/min,Air2.0L/min,Scanning speed 30sec/scanで行った。Iatroscan MK−5の分析結果は、面積%であり、これを各成分の濃度とした。以下の記載において、%はとくに断らない限り面積%である。また、界面活性剤にリシノール酸を使用する場合、リシノール酸のIatroscanのピークがホスファチジン酸のピークと重なるため、まず、一次展開し、リシノール酸だけを上げた後、原点から35mmを残して焼き、改めて上述の展開溶媒で二次展開を行う手法をとった。一次展開溶媒としては、(n−ヘキサン:ジエチルエーテル=1:1)を使用した。
【0020】
標品として、ホスファチジルコリン(卵黄製、和光純薬工業(株))ホスファチジルセリン溶液(和光純薬工業(株))ホスファチジン酸(和光純薬工業(株))を使用した。
【0021】
また、ホスホリパーゼDは、Streptomyces antibiotics由来のホスホリパーゼDを使用した。
【0022】
実施例1
ドコサヘキサエン酸(以下DHAとする)高含有卵黄レシチン909mgとリシノール酸270mgを50℃でよく混合し、次にL−セリン2800mgを加え、さらに混合し、ホスホリパーゼD(以下PLDとする。30U/ml)を1ml添加し、マグネチックスターラーバーを用いて400rpmで撹拌させながら、50℃で2.5時間反応を行った。反応物から15.3mgを取り、1N HCl 100μlを加え、反応を止め、次いで、クロロホルム/メタノール(2/1)溶液を200μlを加え、ボルテックスミキサーで混合後、10000rpmで遠心分離を行い、下層を回収した。これを分析サンプルとして上述の方法にてリン脂質の分析を行い、結果、ホスファチジルセリン(以下、PSと略す)が理論上の約80%の非常に高い収率で得られた。
【0023】
実施例2
精製大豆レシチン909mgとポリグリセリンポリリシノレート270mgを50℃でよく混合し、次にL−セリン2800mgを加え、さらに混合し、PLD(30U/ml)1mlを添加し、マグネチックスターラーバーを用いて400rpmで撹拌させながら、50℃で2.5時間反応を行った。反応物から15.3mgを取り、1N HCl 100μlを加え、反応を止め、次いでクロロホルム/メタノール(2/1)溶液を200μlを加え、ボルテックスミキサーで混合後、10000rpmで遠心分離を行い、下層を回収した。これを分析サンプルとして上述の方法にてリン脂質の分析を行い、結果としてPSが理論上の約80%と非常に高い収率で得られた。
【0024】
比較例1
DHA高含有卵黄レシチンを超音波処理を行い水中に分散させ、濃度が16.5mg/mlになるよう調整した。この分散液9mlに4.3M L−セリン水溶液9mlを加え混合し、続いて1.0M酢酸緩衝液(pH5.6)1mlを加え混合し、続いてPLD(300U/ml)1mlを添加し、マグネチックスターラーバーを用いて400rpmで撹拌させながら、40℃で2.5時間反応を行った。反応物から15.3mgを取り、1N HCl 100μlを加え、反応を止め、次いで、クロロホルム/メタノール(2/1)溶液を200μlを加え、ボルテックスミキサーで混合後、10000rpmで遠心分離を行い、下層を回収した。これを分析サンプルとして上述の方法にてリン脂質の分析を行い、結果、PSの生成は理論上の約5%と非常に低い収率となった。
【0025】
比較例2
DHA高含有卵黄レシチン909mgを50℃に加温し、次にL−セリン2800mgを加え、さらに混合し、PLD(30U/ml)を1ml添加し、マグネチックスターラーバーを用いて400rpmで撹拌させながら、50℃で2.5時間反応を行った。反応物から15.3mgを取り、1N HCl 100μlを加え、反応を止め、次いで、クロロホルム/メタノール(2/1)溶液を200μlを加え、ボルテックスミキサーで混合後、10000rpmで遠心分離を行い、下層を回収した。これを分析サンプルとして上述の方法にてリン脂質の分析を行い、結果、PSの生成は理論上の約40%に留まった。
【0026】
比較例3
精製大豆レシチンを超音波処理を行い水中に分散させ、濃度が16.5mg/mlになるよう調整した。この分散液9mlに4.3M L−セリン水溶液9mlを加え混合し、続いて1.0M酢酸緩衝液(pH5.6)1mlを加え混合し、続いてPLD(30U/ml)1mlを添加し、マグネチックスターラーバーを用いて400rpmで撹拌させながら、40℃で2.5時間反応を行った。反応物から15.3mgを取り、1N HCl 100μlを加え、反応を止め、次いで、クロロホルム/メタノール(2/1)溶液を200μlを加え、ボルテックスミキサーで混合後、10000rpmで遠心分離を行い、下層を回収した。これを分析サンプルとして上述の方法にてリン脂質の分析を行い、結果、PSの生成は理論上の約5%と非常に低い収率となった。
【0027】
比較例4
精製大豆レシチン909mgを50℃に加温し、次にL−セリン2800mgを加え、さらに混合し、PLD(30U/ml)を1ml添加し、マグネチックスターラーバーを用いて400rpmで撹拌させながら、50℃で2.5時間反応を行った。反応物から15.3mgを取り、1N HCl 100μlを加え、反応を止め、次いで、クロロホルム/メタノール(2/1)溶液を200μlを加え、ボルテックスミキサーで混合後、10000rpmで遠心分離を行い、下層を回収した。これを分析サンプルとして上述の方法にてリン脂質の分析を行い、結果、PSの生成は理論上の約40%に留まった。
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、ホスホリパーゼDのホスファチジル基転移反応を、有機溶媒を用いることなく、W/O型エマルジョンの状態下で行うことにより、ホスファチジル基転移反応を著しく高め、リン脂質及びセリンを原料に、ホスファチジルセリンを高収率で製造することが可能である。

Claims (5)

  1. リン脂質及びセリンを基質としてホスファチジル基転移反応にてホスファチジルセリンを製造するに際し、ホスファチジル基転移反応がW/O型エマルジョン中で行われることを特徴とするホスファチジルセリンの製造方法。
  2. W/O型エマルジョンが1種以上の界面活性剤を含有する請求項1記載のホスファチジルセリンの製造方法。
  3. 界面活性剤がリシノール酸であることを特徴とする請求項2記載のホスファチジルセリンの製造方法。
  4. 請求項1記載のリン脂質の構成脂肪酸がドコサヘキサエン酸を有することを特徴とするホスファチジルセリンの製造方法。
  5. 請求項1〜4記載のホスファチジルセリンをアセトンで脱脂し、ヘキサン/エタノール混液で抽出することを特徴とするホスファチジルセリンの製造方法。
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