JP2004205246A - シミの状況分析方法およびシミに対する効能評価方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】表皮部位の正常部とシミ部とサンプルを採取し、それぞれについて、NT−3、ADAM9またはHB−EGFを検出する試験を行い、これらの検出量を指標として、シミの程度、原因、進行状況、改善状況などの様々な状況を分析する。また、評価対象となる物質を、各指標を検出可能な被試験細胞に投与した後、NT−3、ADAM9またはHB−EGFを検出する試験を行い、これらの検出量を指標として、評価対象物質のシミに対する効能を評価する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シミの状況を分析する方法、シミに対する効能を評価する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒトをはじめとする全ての生体は、回りの環境から影響を受けている。しかし、ほ乳類等の高等動物は、生命を維持するために必要な各器官への環境からの影響を極力小さくするための器官を持っている。それが皮膚であり、特に紫外線等光線に対しての防御として表皮基底層上の色素細胞(メラノサイト)にて合成されるメラニン色素が表皮細胞へ伝達され細胞内の核の上に集まり遺伝情報であるDNAを紫外線による損傷から防御している。従って、メラニン色素は紫外線による防御機構として重要な役割を担っている。メラノサイトでのメラニン生成は、紫外線に直接暴露される以外にも、酸化的刺激や炎症反応により活性化される。メラニン色素が必要以上に過剰産生されると、表皮内または真皮層に沈着して、シミの原因となる。
【0003】
メラニン色素は上記のように重要な役割を担う一方、メラニン色素の沈着は肌色を黒ずませ、シミに繋がることから美容上は好ましくない場合が多い。このような状況の下、さまざまなシミ改善剤あるいは美白剤等が開発されている。従来のシミ改善剤あるいは美白剤等として用いられている物質にはメラニンの生成を抑制することによりシミの改善等を図るものが多数知られている。
【0004】
シミの予防法に関しては、紫外線からの防御、メラニン生成の阻害、メラニンの排泄促進などについて研究が進められている(例えば、非特許文献1)。また、多細胞生物における細胞増殖因子としてHB−EGF(ヘパリン結合性EGF様増殖因子)の研究などがなされている(例えば、非特許文献2)。また、NT−3の発現量増加はメラノサイトの増加、集積に作用することを示唆する報告がある(例えば、非特許文献3)。また、HB−EGFの発現を誘導して表皮部位のターンオーバーを亢進することについては特許文献1に記載がある。なお、ターンオーバーとは、基底層での細胞分裂から角質層の脱離に至る表皮部位における細胞層の置き換わりのことをいう。
【0005】
しかし、シミの原因は複雑で多岐にわたると考えられており、シミの生成機構などについて明確に解明されているわけではない。より優れたシミの予防・改善方法あるいは予防・改善剤を開発するためには、シミに関する機構をより詳細に究明することが求められていた。
【0006】
【特許文献1】
国際公開第01/45697号パンフレット
【非特許文献1】
シミの予防:現在の美白剤のストラテジー;香粧会誌 Vol.24No.1(2000) p21−28
【非特許文献2】
Heparin−binding EGF like growthfactor: a juxtacrine growth factor:Ryo Iwamoto, Eisuke Mekada,Cytokine & Growth Factor Reviews 11(2000)335−344
【非特許文献3】
The trk Family of Receptors Mediates Nerve Growth Factor and Neurotrophin−3 Effects in Melanocytes, Yaar et.al J. Clin Invest 1994 Oct;94(4);1550−1562
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような状況の下、本発明はシミの予防・改善等に寄与する手段を提供することを課題とする。より具体的には、本発明は、シミの状況を的確に分析する方法を提供することを課題する。さらに、本発明は、シミに対する効能を有する物質を的確に見いだし、その作用・効能を的確に把握できる効能評価方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、シミの原因について詳細に研究したところ、従来表皮部位においては存在しないと考えられていた物質が実は表皮部位に存在しており、シミ部と正常部とで発現量に大きな違いを生じていることを見いだした。さらに本発明者らは、従来知られていなかったシミの生成機構を解明し、かかる知見に基づいて本発明を完成させた。すなわち、本発明は次の通りである。
【0009】
〔1〕複数箇所の表皮部位についてNT−3を検出し、それぞれのNT−3の検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
〔2〕経時的に表皮部位のNT−3を検出し、それぞれのNT−3の検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
〔3〕複数箇所の表皮部位についてADAM9を検出し、それぞれのADAM9の検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
〔4〕経時的に表皮部位のADAM9を検出し、それぞれのADAM9の検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
〔5〕複数箇所の表皮部位についてHB−EGFを検出し、それぞれのHB−EGFの検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
〔6〕経時的に表皮部位のHB−EGFを検出し、それぞれのHB−EGFの検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
〔7〕被試験細胞に評価対象化合物を投与し、前記被試験細胞におけるNT−3を検出し、NT−3の検出量を指標として、評価対象化合物のシミに対する効能を評価する、効能評価方法。
〔8〕NT−3を経時的に検出し、検出量の経時変化を指標とする、前記〔7〕に記載の効能評価方法。
〔9〕被試験細胞に評価対象化合物を投与し、前記被試験細胞におけるADAM9を検出し、ADAM9の検出量を指標として、評価対象化合物のシミに対する効能を評価する、効能評価方法。
〔10〕ADAM9を経時的に検出し、検出量の経時変化を指標とする、前記〔9〕に記載の効能評価方法。
【0010】
「NT−3」とは、neurotrophin−3である。「ADAM9」とは、a disintegrin and metalloproteinase9である。「HB−EGF」とは、heparin−binding EGF−like growth factorであり、ヘパリン結合性EGF様増殖因子ともいう。「EGF」とは、epidermal growth factorであり、上皮増殖因子ともいう。
【0011】
皮膚の構造は、一般的には「表皮(広義)」、「真皮」、「皮下組織」の3つに大別され、「表皮(広義)」には「角質層」、「表皮(狭義)」、「基底層」が含まれる。本明細書においては広義の「表皮」について「表皮部位」といい、狭義の「表皮」を単に「表皮」という。
【0012】
なお、医学的見地からは、シミは肝斑、老人性色素斑などに分類され、ソバカスは雀卵斑などと詳細に分類される場合があるが、本明細書において「シミ」という場合、これらの詳細な分類にはよらず、メラニンなどの色素が沈着または停滞した色素斑を広く含む意味として用いる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明者らの研究により、NT−3、ADAM9、HB−EGFが、表皮部位の正常部とシミ部とで発現量に顕著な差が生じていることを見いだされた。具体的には、NT−3は正常部に比べシミ部のほうが顕著に増えることが認められる。ADAM9は、正常部に比べシミ部のほうが顕著に減少することが認められる。また、HB−EGFは、正常部に比べシミ部のほうが顕著に減少することが認められる。皮膚の表皮部位における正常部とシミ部とで、NT−3、ADAM9、HB−EGFの発現に顕著な違いが生じていることは、本発明者らが初めて見いだしたものである。
【0014】
また、NT−3、ADAM9、HB−EGF、メラノサイト、ケラチノサイトなどの関連から、シミの形成・停滞には図1に示すような生体反応機構が介在することが推定された。すなわち、NT−3が増加することにより2種の生体反応機構に影響が生じるものと推定される。その一方は、NT−3が増加するとメラノサイトが増加し、これによりメラニンの生成が増え、シミ形成に至るルートである。すなわち、メラニンの過剰生成がシミの原因となるルートである。もう一つは、NT−3が増加し、ADAM9が減少し、HB−EGFが減少して、ケラチノサイト分裂が低下し、表皮部位におけるターンオーバーが遅延するルートである。ターンオーバーが遅くなることにより、シミの排泄が円滑に進まず、シミが停滞しやすくなる。従来、メラニン抑制作用を有する物質を投与してもシミの改善が十分満足のいく結果とならない場合があったが、上記の機構からすると、単にシミの新たな生成を抑制するだけではなく、表皮部位のターンオーバーを促進する系についても改善しなければシミの改善が困難となる場合があることが、機構上の観点から明らかとなった。すなわち、シミを予防・改善、特に改善を図る場合には、上記の2つの系について適切な分析と対処が行われることがより望ましいことが明らかとなった。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づく、所定の物質を検出してシミの状況を的確に分析する方法、所定の評価対象物質のシミに対する効能を的確に評価する方法である。以下、それぞれ順に説明する。
【0016】
(1)シミ状況分析方法
本発明のシミ状況分析方法では、表皮部位におけるNT−3等を検出する。検出の対象物としては、NT−3、ADAM9、HB−EGFが挙げられ、これらのうちの1種のみを検出して状況分析してもよいし、2種以上について検出して状況の分析を行ってもよい。
【0017】
NT−3等を検出する方法は、NT−3等について何らかの形態で量的に検出可能な方法であれば特に制限はない。検出量は、数値化して表してもよいし、顕微鏡写真などにおける染色された細胞組織の面積、濃さなどとして把握してもよい。NT−3、ADAM9、HB−EGFの検出は、例えば、それぞれについて特異的に染色する染色物質などのシグナル因子を用いてもよいし、また、それぞれに特異的に結合する抗体を調製し、当該抗体に、染色物質、蛍光物質、発光物質、放射性同位体など検出可能なシグナル因子を結合させて、抗体−シグナル因子複合体を調製し、当該複合体を、細胞組織サンプル(以下「サンプル」という)に接触させてシグナル因子を測定する方法などにより行うことができる。より具体的には、例えばABC抗体染色法により行うことができ、ABC抗体染色法は例えばベクター社ABCキット付属の標準プロトコールの記載に沿って行うことができる。
【0018】
また、さらに別の項目を検出してもよく、例えば、メラノサイトなどの検出を併せて行うことも好ましい形態である。メラノサイトは、例えば、メラノサイトに特異的なマーカーを染色することにより検出することができる。検出の程度は、シグナル因子に応じて測定される。メラノサイトに特異的なマーカーとしては、例えば、MART−1などが挙げられる。MART−1は、ABC抗体染色法により染色でき、染色された細胞の数、染色の濃さなどを顕微鏡下で観察して評価することができる。
【0019】
NT−3等を検出するに際しては、被験者、被験動物等の被検体からサンプルを採取する。サンプルの採取のやり方により、NT−3の検出量を指標として様々なシミの状況分析が可能である。状況分析の具体的な形態としては、例えばシミの重軽度などの程度およびその分布、原因の推定、シミの進行状況、シミの改善状況、シミ形成の予測、シミ形成の潜在性などが挙げられる。
【0020】
サンプル採取の方法を大きく2種に分類すると、空間的に異なる複数の箇所からサンプルを取得する形態と、経時的に異なる複数のサンプルを取得する形態とが挙げられる。「空間的に異なる」とは、複数の箇所、すなわち、位置・場所が異なることである。「経時的に異なる」とは、サンプルを採取する時間を変えることである。「複数」とは、少なくとも2箇所から採取すればよいことを意味し、同一被検体から採取することのみに限られるものではない。
【0021】
複数箇所からサンプルを採取するより具体的な形態について例示すると次のようなものが挙げられる。例えば、一つの実施形態としては、正常部およびシミ部の双方を採取し、各検出対象物について正常部とシミ部とで検出結果を対照させるようにする。NT−3の検出量を指標として正常部とシミ部とを対比することにより、正常部とシミ部との状況の相違に関する最も基本的なデータを取得することができる。正常部、シミ部について複数の被検体、複数のサンプルによる検出試験データを積み上げることにより、統計的な基準データを得ることもできる。なお、予め正常部でのデータまたはシミ部でのデータを取得しておくことも、結果として、複数箇所の表皮部位からサンプルを採取したことに含まれる。したがって、被検体からシミ部のサンプルを採取し、既知のデータと比較することも本発明の実施形態に含まれる。
【0022】
また、別の実施形態としては、同一被検体においてシミ部から正常部にかけて複数箇所、好ましくは3箇所以上のサンプルを採取し、シミ部から正常部にかけてのNT−3の分布状況を直線的または領域的に把握することにより、シミの軽度・重度など程度の差を直線的または領域的に分析することもできる。また、別の実施形態としては、シミ部内で複数箇所を採取してNT−3を検出する形態も挙げられる。シミ部内でのNT−3の検出量の差を判別し、シミ部内におけるシミの軽度または重度の差を分析する形態が挙げられる。また別の形態としては、予め集積したシミ部のデータと、特定の被験者から採取したサンプルについてのNT−3の検出量を比較し、その特定の被験者のシミが、重度のシミであるか軽度のシミであるかを客観的に分析することができる。さらに、外見上正常であってもNT−3の検出量からシミ化するおそれを予測できる場合もあり得る。
【0023】
次に、経時的に複数のサンプルを採取する形態例について説明する。経時的に複数回、NT−3等の検出を行うことにより、外見のみならず表皮部位内部の状態についての経時的な変化を判別し、シミの進行状況やシミの改善状況を分析することができる。例えば、経時的にNT−3が増加していることが確認されれば、シミの形成が進行状態にあることが推定される。逆にNT−3が減少していることが示されれば、シミは解消の方向に向かっているものと推定される。また、他の実施形態としては、シミの改善剤などを患者の皮膚に塗布し、その改善状況を経時的に分析するという形態などが例示される。
【0024】
また、複数箇所の検出と、経時的な複数回の検出とを組み合わせることにより、より詳細なシミの状況分析が可能である。
【0025】
さらに、NT−3等の検出量を指標とすることによりシミの原因に関する状況を分析することもできる。すなわち、NT−3が過剰であればメラニン生成過剰およびターンオーバーの遅延の双方が生じている蓋然性が高いことがわかる。ADAM9、HB−EGFが減少していれば、ターンオーバーが遅延している蓋然性が高いことがわかる。さらに別の検出対象物についても検出し、より詳細にシミの原因を分析してもよい。他の検出対象物としては例えば、メラノサイト、増殖細胞マーカーであるPCNA(proliferating cell nuclear antigen)、Ki67、cyclinなどが挙げられる。例えば、メラノサイトが過剰であれば、メラニンの生成過剰が生じている蓋然性が高いことがわかる。シミの形成・停滞に関する状況を的確に把握することにより、シミの予防・改善を図るための処置を的確に判断することが可能である。
【0026】
表皮部位からサンプルを採取する方法は、検出対象物や検出方法の種類に応じて定法に従って採取すればよく、好ましくはバイオプシーの手法に準じて採取する。
【0027】
(2)シミに対する効能評価方法
本発明の効能評価方法では、評価対象化合物を、被試験細胞に投与する。評価対象化合物は、シミに対する効能を評価しようとする対象となる化合物のことであり、試験者が任意に選択してよい。本発明の効能評価方法は新規なシミ改善・予防剤の開発に好適であり、評価対象化合物としては、シミ予防・改善剤の候補化合物となる化合物などが好適なものとして例示される。
【0028】
評価対象化合物を投与する被試験細胞は、NT−3、ADAM9の各試験対象物質を検出可能な細胞であれば特に限定はない。NT−3を指標とする場合に好適な細胞としては、NT−3を含有する細胞或いはNT−3を発現する細胞などが挙げられる。NT−3を含有する細胞或いはNT−3を発現する細胞としては、具体例としては、活性化T細胞、繊維芽細胞、神経由来の細胞群、メラノサイト、メラノーマ、NT−3を発現するように組み換えられた形質転換細胞、またNT−3の発現調節領域およびレポーター遺伝子が導入されレポーター遺伝子がコードするポリペプチドを発現する形質転換細胞などが好ましいものとして例示され、シミへの関与・影響が大きいと考えられることから、より好ましいものとしては、メラノサイト、メラノーマ、NT−3を発現する形質転換細胞などが例示され、特に好ましくはメラノサイト、メラノーマなどが例示される。レポーター遺伝子を組み込む例としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子などの検出可能な蛍光物質関連遺伝子等を導入した形質転換細胞などが例示される。形質転換体の作製などの分子生物学的な基本的手法については、BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY(1986);Sambrookら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)、細胞工学ハンドブック、黒木登志夫ら編、羊土社(1992)、新遺伝子工学ハンドブック改訂第3版、村松ら編、羊土社(1999)など、多くの標準的な実験マニュアルがある。
【0029】
ADAM9を指標とする場合に好適な被試験細胞としては、ADAM9を含有する細胞或いはADAM9を発現する細胞が挙げられる。ADAM9を含有する細胞或いはADAM9を発現する細胞の具体例としては、単球細胞、表皮細胞、ADAM9を発現するように組み換えられた形質転換細胞、またADAM9の発現調節領域およびレポーター遺伝子が導入されレポーター遺伝子がコードするポリペプチドを発現する形質転換細胞などが好ましいものとして例示され、より好ましいものとしてはシミへの関与・影響が大きいと考えられる表皮細胞、ADAM9を発現する形質転換細胞などが例示され、特に好ましくは表皮細胞などが例示される。形質転換細胞の作製については上記NT−3の場合同様の操作を行えばよい。
【0030】
また、被試験細胞は、シミを含む表皮などから採取してくることもできる。採取に当たっては、由来・採取部位などは限定されないが、ヒトのシミ部に由来することがシミ予防・改善剤の開発上は好適である。また、ヒトなどのシミ部に由来する培養細胞なども好適に用いることができる。この時、被試験細胞は単一細胞に限らず、複数種類の細胞を混合してもよい。また、細胞の培養法は単層培養系、重層培養系、および3次元培養系など特に制限することなく用いることができる。またこれに限らず、器官培養系を用いても構わない。さらに、被試験細胞とし得る細胞としては、培養色素細胞、培養表皮細胞、皮膚再構築モデルなどの市販品を用いてもよい。
【0031】
評価対象化合物を被試験細胞に添加し所定の時間が経過した後、NT−3等を検出する。添加量、添加回数、時間などの条件は、評価対象化合物の種類などに応じて適宜定めてよい。NT−3等の検出方法は、上記(1)と同様にして行うことができる。
【0032】
本発明の効能評価方法では、NT−3、ADAM9の検出量を指標として、評価対象化合物のシミに対する効能を評価する。NT−3等は、1種について検出してもよいし、複数の項目について検出してもよい。NT−3等を指標として評価する具体的な実施形態には様々なものがある。具体的な評価形態としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0033】
まずNT−3を検出する場合を例として説明する。一つの評価形態としては、評価対象化合物の投与前において、NT−3を含有する被試験細胞のNT−3を予め検出しておき、投与後の検出量と比較して評価する形態が挙げられる。評価対象化合物の投与後NT−3の検出量が減少した場合には、評価対象化合物がシミを予防または改善する効能を有することがわかる。また、別な評価形態としては、シミを有しない組織細胞におけるNT−3を検出しておきその検出量を正常値とし、評価対象化合物投与後のNT−3の検出量と比較して評価する形態が挙げられる。評価対象化合物の投与後NT−3の検出量が正常値に近づけば、その評価対象化合物がシミを予防または改善する効能を有することがわかる。さらに別の評価形態としては、NT−3を経時的に検出し、検出量の経時変化を指標とする形態が挙げられる。経時的に検出することにより、シミに対する作用の速さなどを評価することができ、即効性、持続性などの性質を評価することができる。さらに別の評価形態としては、他の物質、例えば、シミに対する効能が既に知られている物質等とNT−3の検出量を比較することにより、従来品等と比較して評価対象化合物の効能を評価することができる。
【0034】
ADAM9については、ADAM9の検出量の増減の関係と評価対象物質の効能評価の有無とが、NT−3の場合とは反対となる。すなわち、ADAM9の検出量が増加した場合に、評価対象物質がシミを予防または改善する効能を有することがわかる。この点を除き、ADAM9についても、上記NT−3の場合に準じた実施形態を採用することができる。
【0035】
また、HB−EGF、メラノサイト、メラニン、PCNAなどシミに関連する他の因子について検出し、その検出結果と共に評価対象物質の効能を評価することにより、より詳細な効能評価が可能である。
【0036】
本発明の評価方法は、従来とはまったく異なる指標を用いるものであり、複雑な機構により生じると考えられているシミに対する予防剤または改善剤などの開発をより的確に行うことが可能である。
【0037】
【実施例】
以下、本発明について具体的な実施例にそってより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
(1)シミ状況、原因の調査
シミの原因を調査するため、以下の方法によりヒト背中部におけるシミ組織を採取し、抗体染色法により評価した。
【0039】
(1−1)実験材料
インフォームドコンセントを行ったボランティアのうち、医師診断が老人性色素斑であった10名の背中より、シミ部および正常部の皮膚をそれぞれ3mmバイオプシーを用いて採取した。
【0040】
(1−2)実験方法
得られた皮膚組織を速やかにOCT樹脂(Optimal cutting temperature compound)包埋後、液体窒素で凍結し、凍結ブロックを作製した。この凍結ブロックをクリオスタットで薄切して5μmの凍結切片を作製した。凍結切片を20分間室温で風乾した後、アセトンまたは4%PFA(パラフォルムアルデヒド)により固定し、10分間100%エタノールに浸漬した後、ABC抗体染色法を行い、ペルオキシダーゼ発色により、下記(1−3)から(1−7)の各項目について試験を行い、シミの状況・原因を調査した。ABC抗体染色法は定法、例えばベクター社ABCキット付属の標準プロトコールの記載に従って行った。
【0041】
(1−3)MART−1染色によるメラノサイト数の測定
メラノサイト特異的マーカーであるMART−1を染色し、メラノサイト数の評価を行った。メラノサイトの測定は、一定長(1mm)に存在するメラノサイトの数を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
以上の結果からシミ部においては、メラノサイトの数が増加していることが明らかとなり、細胞数の増加に伴うメラニン合成増加が色素沈着の原因の一つであることが示された。
【0044】
(1−4)NT−3染色による発現細胞数の測定
NT−3を染色して、発現細胞数の評価を行った。発現細胞数の測定は一定長(1mm)に存在する染色細胞数とした。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
以上の結果により、NT−3の発現細胞が表皮内に存在すること、またシミ部で発現量が増加していることが明らかになった。NT−3は、これまで表皮内では発現しないとされてきたが、今回の検討によりその発現が確認された。また、NT−3の発現量増加は、Yaarらの報告(J Clin Invest 1994 Oct;94(4);1550−1562)によりメラノサイトの増加、集積に作用すると考えられるので、このようなNT−3のシミ部での増加がメラノサイトの増加を担っている可能性が非常に高いと考えられる。
【0047】
(1−5)PCNA染色による表皮分裂細胞数の評価
増殖細胞マーカーであるPCNAの染色により、表皮分裂細胞数の評価を行った。発現細胞数として一定長(1mm)の表皮中でのPCNA染色陽性細胞数を数えた。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
以上の結果より、PCNA発現細胞がシミ部で低下すること、すなわち、表皮細胞のターンオーバーがヒトのシミ部においては、細胞の増殖が周辺部に比較して低下していることがわかる。このことから、シミ部においてはメラノサイトの増加によりメラニン合成が増加しているだけでなく、表皮細胞の増殖の低下が生じ、メラニンが排泄されず滞留した状態が生じ得ることが示された。
【0050】
(1−6)HB−EGF発現レベル測定
HB−EGFの発現を染色により評価した。図2に正常部位およびシミ部位での発現状態を示す。
【0051】
図2に示されるように、シミ部でHB−EGFの染色性の明らかな低下が認められ、HB−EGFの発現レベルが低下することがわかった。このことからシミ部においてHB−EGFの発現レベルの低下により表皮細胞の増殖の低下が生じていることが推定された。
【0052】
(1−7)ADAM9発現レベル測定
表皮細胞のターンオーバーに関与していると考えられるADAM9の発現を染色により評価した。図3に正常部位およびシミ部位での発現状態を示す。
【0053】
図3に示されるように、シミ部においてADAM9の染色性の明らかな低下が認められ、HB−EGFの発現レベル低下のみでなく(上記(1−6))、その切断酵素であるADAM9の発現レベルもシミ部において低下していることが明らかとなった。ADAM9がHB−EGFの作用レベルを規定すると考えられるので、シミ部位におけるHB−EGFの発現低下はADAM9の低下により引き起こされると推察された。
【0054】
(2)NT−3添加によるADAM9の発現レベル測定
(2−1)実験材料
上記(1−1)と同じである。
【0055】
(2−2)実験方法
表皮細胞を、増殖因子としてBPE(牛脳下垂体)、インスリンを添加したMCDB153培地にて150×104個/mLに調製し、60mmプレート(ファルコン社製)に4mLずつ播種し、95%(V/V)空気−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で1日間静置培養した。
【0056】
培養上清を吸引除去し、最終濃度10ng/mL、100ng/mLのNT−3を含むMCDB153培地(含インシュリン)に培地交換した。このプレートを95%空気(V/V)−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で24時間静置培養した。QIAGEN社製のRNAキットにより総mRNAを抽出し、ノザンブロッティング解析により総mRNA当たりのADAM9の発現量およびG3PDH(glycel aldehyde-3-phosphate dehydrogenase)の発現量をそれぞれ調べ、対照サンプルに対する割合(%)で表示した。対照サンプルは、NT−3無添加としたものであり、この場合のそれぞれのmRNAの総mRNA発現量を100%とした。
【0057】
(2−3)結果
結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
本試験の結果からNT−3の添加によりADAM9の発現が抑制されたことがわかる。コントロールであるG3PDHのmRNA量が変化しないことから、NT−3によるmRNAの発現抑制作用がADAM9に特異的であることがわかる。このことから、シミ部におけるNT−3発現増加がADAM9の発現低下を引き起こし、HB−EGFの低下と表皮細胞の増殖低下を引き起こしたと推察された。
【0060】
(3)フマル酸ジエステル誘導体添加時のNT−3の発現レベル測定
フマル酸ジエステル誘導体をヒト色素細胞に投与したときのNT−3発現量を次の方法により調べた。
【0061】
(3−1)実験材料
クラボウ社より販売されているヒト包皮由来の培養色素細胞(メラノサイト)を用いた。
【0062】
(3−2)実験方法
培養色素細胞を増殖因子としてBPE(牛脳下垂体)、インスリン、ハイドロコーチゾン、塩基性繊維芽細胞増殖因子、フォルボールエステルを添加したMCDB153培地にて450×103個/mLに調製し、10mmプレート(ファルコン社製)に10mLずつ播種し、95%(V/V)空気−5%(V/V)炭酸ガス雰囲気下、37℃で1日静置培養した。その後、培地をMCDB153(含インシュリン)に交換し、更に同じ条件で2日間静置培養した。
【0063】
培養上清を吸引除去し、最終濃度70μmol/Lのジメチルフマレートあるいは300μmol/Lのビス(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)フマレートを含むMCDB153培地(含インシュリン)に培地交換した。このプレートを95%(V/V)空気−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で24時間静置培養した。QIAGEN社製RNAキットにより総mRNAを抽出し、ノザンブロッティング解析により総mRNA当たりのADAM9の発現量およびG3PDHの発現量をそれぞれ調べ、対照サンプルに対する割合(%)で表示した。対照サンプルは、フマル酸ジエステル誘導体を無添加としたものであり、この場合のそれぞれのmRNAの総mRNA発現量を100%とした。
【0064】
(3−3)結果
結果を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
本試験の結果から、フマル酸ジエステル誘導体の添加によりNT−3の発現が抑制されたことがわかる。コントロールであるG3PDHのmRNA発現量が変化しないことから、フマル酸ジエステル誘導体によるmRNAの発現抑制作用がNT−3に特異的であることがわかる。
【0067】
また、上記のようにビス(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)フマレートおよびジメチルフマレートは、NT−3を抑制することから、メラニンの過剰生成の抑制および表皮部位のターンオーバーを促進し、シミの予防または改善剤とし得る可能性が示された。
【0068】
(4)フマル酸ジエステル誘導体添加時のHB−EGF発現レベル測定
フマル酸ジエステル誘導体を表皮細胞に投与したときのHB−EGF発現量を次の試験法により調べた。
【0069】
(4−1)実験材料
クラボウ社より販売されているヒト包皮由来の培養表皮細胞を用いた。
【0070】
(4−2)実験方法
表皮細胞を増殖因子としてBPE(牛脳下垂体)、インスリン、エタノールアミン、ホスホエタノールアミン、ハイドロコーチゾンを添加したMCDB153培地にて150×104個/mLに調製し、60mmプレート(ファルコン社製)に4mLずつ播種し、95%(V/V)空気−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で1日静置培養した。
【0071】
培養上清を吸引除去し、最終濃度70μmol/Lのジメチルフマレートあるいは300μmol/Lのビス(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)フマレートを含むMCDB153培地(含インシュリン)に培地交換した。このプレートを95%(V/V)空気−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で24時間静置培養した。QIAGEN社製RNAキットにより総mRNAを抽出し、ノザンブロッティング解析により総mRNA当たりのHB−EGFの発現量およびG3PDHの発現量をそれぞれ調べ、対照サンプルに対する割合(%)で表示した。対照サンプルは、フマル酸ジエステル誘導体を無添加としたものであり、この場合のそれぞれのmRNAの総mRNA発現量を100%とした。
【0072】
(4−3)結果
結果を表6に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
本試験の結果から、フマル酸ジエステル誘導体の添加により、HB−EGFの発現が誘導されたことがわかる。コントロールであるG3PDHのmRNA量が変化しないことから、フマル酸ジエステル誘導体によるmRNAの発現誘導作用がHB−EGFに特異的であることがわかる。
【0075】
また、上記のようにビス(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)フマレートおよびジメチルフマレートは、HB−EGFの発現量を増加させることから、少なくとも表皮部位のターンオーバーを促進し、シミの予防または改善剤とし得る可能性が示された。
【0076】
(5)フマル酸ジエステル誘導体添加時のADAM9発現レベル測定
フマル酸ジエステル誘導体を表皮細胞に投与したときのADAM9の発現量を次の方法で調べた。
(5−1)実験材料
クラボウ社より販売されているヒト包皮由来の培養表皮細胞を用いた。
【0077】
(5−2)実験方法
表皮細胞を、増殖因子としてBPE(牛脳下垂体)、インスリン、エタノールアミン、ホスホエタノールアミン、ハイドロコーチゾンを添加したMCDB153培地にて150×104個/mLに調製し、60mmプレート(ファルコン社製)に4mLずつ播種し、95%空気(V/V)−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で1日静置培養した。
【0078】
培養上清を吸引除去し、最終濃度70μmol/Lのジメチルフマレートを含むMCDB153培地(含インシュリン)に培地交換した。このプレートを95%(V/V)空気−5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で1日静置培養した。QIAGEN社製RNAキットにより総mRNAを抽出し、ノザンブロッティング解析により総mRNA当たりのADAM9の発現量およびG3PDHの発現量をそれぞれ調べ、対照サンプルに対する割合(%)で表示した。対照サンプルは、フマル酸ジエステル誘導体を無添加としたものであり、この場合のそれぞれのmRNAの総mRNA発現量を100%とした。
【0079】
(5−3)結果
結果を表7に示す。
【0080】
【表7】
【0081】
本試験の結果から、フマル酸ジエステル誘導体の添加によりADAM9の発現が誘導されたことがわかる。コントロールであるG3PDHのmRNA量が変化しないことから、フマル酸ジエステル誘導体によるmRNAの発現誘導作用がADAM9に特異的であることがわかる。
【0082】
また、上記のようにフマル酸誘導体は、ADAM9の発現量を増加させることから、少なくとも表皮部位のターンオーバーを促進し、シミの予防または改善剤とし得る可能性が示された。
【0083】
【発明の効果】
本発明によれば、シミの様々な状況を把握することができる。また、本発明によれば、シミに対する効能を有する物質を的確に見いだし、その作用・効能を的確に把握できる効能評価方法が提供される。本発明によりシミの予防・改善の処方のための貴重な情報を得ることができる。また本発明は、シミの予防・改善方法もしくは予防・改善剤の開発等にも大きく貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】シミの生成機構を示す図である。
【図2】HB−EGFの発現を示す図である。
【図3】ADAM9の発現を示す図である。
Claims (10)
- 複数箇所の表皮部位についてNT−3を検出し、それぞれのNT−3の検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
- 経時的に表皮部位のNT−3を検出し、それぞれのNT−3の検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
- 複数箇所の表皮部位についてADAM9を検出し、それぞれのADAM9の検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
- 経時的に表皮部位のADAM9を検出し、それぞれのADAM9の検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
- 複数箇所の表皮部位についてHB−EGFを検出し、それぞれのHB−EGFの検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
- 経時的に表皮部位のHB−EGFを検出し、それぞれのHB−EGFの検出量を指標とし、表皮部位におけるシミの状況を分析する、シミの状況分析方法。
- 被試験細胞に評価対象化合物を投与し、前記被試験細胞におけるNT−3を検出し、NT−3の検出量を指標として、評価対象化合物のシミに対する効能を評価する、効能評価方法。
- NT−3を経時的に検出し、検出量の経時変化を指標とする、請求項7に記載の効能評価方法。
- 被試験細胞に評価対象化合物を投与し、前記被試験細胞におけるADAM9を検出し、ADAM9の検出量を指標として、評価対象化合物のシミに対する効能を評価する、効能評価方法。
- ADAM9を経時的に検出し、検出量の経時変化を指標とする、請求項9に記載の効能評価方法。
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