JP2004193058A - 有機電界発光素子 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発光層が有機物からなる有機発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機発光素子はRGB各色において数百cd/m2の初期輝度で10000時間以上の半減寿命が達成され、実用化段階を迎えつつある。しかしながら、有機発光素子をTVモニタなどのディスプレイへ応用する場合にはさらなる長寿命化が要求される。
【0003】
電子輸送層および発光層のホスト材料にトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いた有機発光素子の輝度低下を伴う劣化は、Alq3層に注入された正孔によって不安定なAlq3カチオンが形成されることが主要因であると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
そこで、Alq3カチオン形成を抑制する目的から、発光層にAlq3 と正孔輸送性材料の混合物層を用いることにより輝度低下を抑制し耐久性を向上させる方法が開示されている(特許文献1、2)。
【0005】
この方法により、80℃程度までの高温下での駆動においても輝度低下が抑制され長寿命化が図られた。また、発光層として正孔輸送性材料とその他の電子輸送性材料とを組合わせた混合層を用いた有機発光素子もすでに知られている。(特許文献3,4,5)
特許文献6には、混合層中に設けられた2層以上の発光層として、特定のクマリン誘導体、特定のキナクリドン誘導体またはスチリル系化合物を用いる有機発光素子についても開示されている。特に、この文献には、混合層を用いることの効果として、発光層の電子耐性、正孔耐性が飛躍的に向上することが述べられている。
【0006】
一方、化学式(3)で表されるα-NPDは、1996年にKodakのVanSlikeらによって、これを用いた素子が従来の有機発光素子に比べて耐久性が向上することが報告されて以来、広く一般的に用いられている材料である(非特許文献2)。このα-NPDのガラス転移温度は95℃程度であるため、100℃以上の高温下では保存や駆動に対する耐久性が著しく低下する。特許文献2では、正孔輸送層としてα-NPDを用いた実施例が記載されている。
【化3】
【0007】
このα-NPDを正孔輸送層にではなく、発光層中に電子輸送材料と混合させて用いた場合には、100℃以下の耐久性が向上するが、120℃というさらなる高温では著しい劣化を示すことがわかった(本実施例2、図2参照)。
【0008】
有機発光素子を車載ディスプレイとして応用する場合、真夏の車内のダッシュボード付近は100℃程度の高温に達することもあるから、80℃程度の高温耐久性では十分ではなく、100℃以上の高温耐久性を有することが望まれる。
【0009】
【非特許文献1】Aziz, et al., Science 283(1999)1900
【非特許文献2】VanSlike et al., Appl. Phys. Lett. 69(1996)2160
【特許文献1】米国特許第6,392,250号
【特許文献2】特開2002-43063号公報
【特許文献3】特開平10-106748号公報
【特許文献4】特開2000-133453号公報
【特許文献5】特開2000-3787号公報
【特許文献6】国際特許公開98/08360号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、100℃を超える高温耐久性を有する有機発光素子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、
本発明の構成1は、正孔輸送層、有機発光層および電子輸送層を備える有機発光素子であって、前記正孔輸送層に化学式(1)で表されるテトラアリールジアミンもしくはその誘導体を含有し、かつ、前記有機発光層の全てあるいは一部を正孔輸送性化合物と電子輸送性化合物とを混合してなる混合物とする。
【0012】
【化4】
ここで、式中、Ar1、Ar2およびAr3は、それぞれアリール基または芳香族ヘテロ環基を表す。
【0013】
本発明の構成2は、本発明の構成1において、前記混合物中の正孔輸送性材料を化学式(2)で表される有機化合物もしくはその誘導体とする。
【0014】
【化5】
ここで、式中、Ar1は、アリール基または芳香族ヘテロ環基を表す。
【0015】
さらに、本発明の構成2において、前記正孔輸送性化合物が、前記混合物中に混合物全体の1〜10vol%含有されている。
【0016】
本発明の構成3は、本発明の構成1において、前記混合物中の正孔輸送性材料が前記正孔輸送層に含有される正孔輸送性化合物と同一の化合物とする。
【0017】
さらに、本発明の構成3において、前記正孔輸送性化合物が前記混合物中に混合物全体の1〜5vol%含有されている。
【0018】
本発明により、高温耐久性が向上する理由は次のように考えられる。
【0019】
電子輸送性化合物と正孔輸送性化合物とを混合することにより、それぞれの材料が分散され電子輸送性化合物および正孔輸送性化合物の結晶化が抑制され、高温耐久性が顕著に向上する。
【0020】
特に、有機発光素子を構成する材料の中では、正孔輸送性化合物のガラス転移温度が最も低いことが多く、この場合、混合する正孔輸送性化合物の混合する割合を混合物全体の10vol%以下と少なくすることで分散の度合いが高まり、高温耐久性向上の効果は著しい。
【0021】
また、同時に、発光層がバイポーラ性となることにより、電子輸送性化合物が正孔を受け取り不安定なカチオンを形成することや、また、その反対に正孔輸送性化合物が電子を受取り不安定なアニオンを形成することが抑制され、電子輸送性化合物の正孔耐性および正孔輸送性化合物の電子耐性が向上する。これにより、駆動寿命が著しく向上する。
また、化学式(1)で表される三級アミンの4量体は、化学式(2)で表される2量体に比べて、ガラス転移温度が高くなることが知られている。従って、化学式(1)で表される有機化合物を有機発光素子の構成材料に用いることで、有機発光素子の高温での駆動耐久性や保存耐久性が向上する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について更に詳細に説明する。
(実施形態1)
正孔輸送層に化学式(1)で表されるテトラアリールジアミンもしくはその誘導体を用い、発光層にα-NPDとAlq3の混合物層を用いる。混合物中のα-NPDの混合割合は混合物全体の10vol%以下とするのがよい。10vol%を超える時はかえって耐熱性が低下する。また、1vol%より少ないときは混合の効果がない。
【0023】
発光層として混合物を用いると、混合物中でα-NPDが分散していることにより高温においても凝集・結晶化が進行しにくくなり、発光層の高温耐久性が向上する。しかし、混合割合が大きい場合にはその分散の程度が小さくなり、ガラス転移温度を著しく越えた温度においては凝集・結晶化が生じやすくなる。また、本実施形態は、少なくとも2種類の正孔輸送性材料を用いていることから、生産設備や生産工程における負荷が大きくなる場合もある。
(実施形態2)
生産設備や生産工程における負荷を避けるため、正孔輸送性材料としては1種類の化合物を用いるのみで、100℃を越える高温下での耐久性向上という効果を有する有機発光素子を実現できる。すなわち、正孔輸送層が化学式(1)で表されるテトラアリールジアミンもしくはその誘導体により形成され、かつ、発光層の少なくとも一部を正孔輸送層の正孔輸送性材料と同じ化合物および、電子輸送性材料との混合物とする。この場合、耐久性向上のためには、混合物への正孔輸送性材料の混合割合は混合物全体の1vol%以上5vol%以下がよい。5vol%を超える時は発光効率が低下し、室温における寿命も短くなってしまう。また、1vol%より少ないときは混合の効果がない。
(実施形態3)
混合する正孔輸送性材料の他の例として化学式(4)に代表されるテトラアリールジアミン誘導体がある。発光層混合物中の正孔輸送性材料の混合割合は混合物全体の1vol%以上5vol%以下がよく、2.5vol%が好適である。5vol%を超える時は発光効率が低下し、室温における寿命も短くなってしまう。また、1vol%より少ないときは混合の効果がない。
【0024】
【化6】
【0025】
(実施形態4)
正孔輸送層には化学式(4)の正孔輸送性材料とし、発光層に混合する正孔輸送性材料はα-NPDとすることも可能である。発光層混合物中のα-NPDの混合割合は混合物全体の1vol%以上10vol%以下がよく、8vol%が好適である。10vol%を超える時はかえって耐熱性が低下する。また、1vol%より少ないときは混合の効果がない。
【0026】
混合割合が10vol%を超える場合には、105℃の雰囲気温度下で混合物層を用いない素子に比べて長い半減寿命を有し、駆動可能ではあるものの、120℃の雰囲気温度下での駆動は困難であった。混合割合が10vol%以下の素子は120℃でも駆動できた。
【0027】
【実施例】
次に、上記実施形態の具体例を実施例として説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
ITOの透明電極が予め形成されているガラス基板上に、真空蒸着(真空度: 3×10-7Torr)により、銅フタロシアニン(CuPc)の正孔注入層を10nm、正孔輸送層として化学式(1)で表される有機化合物の一つとして化学式(4)で表される有機化合物(TPTE)を50nm堆積した。その後、発光層として化学式(3)で表される有機化合物α-NPDと電子輸送性材料であるAlq3と緑色発光色素であるジメチルキナクリドン化学式(5)を同時に蒸着し混合物層を形成した。混合物層の混合比はα-NPDが混合物全体の8 vol%、Alq3が92 vol%、ジメチルキナクリドンが1 vol%であり、混合物層の膜厚は20nmとした。
【0028】
【化7】
【0029】
さらに、電子輸送層としてAlq3を40nm蒸着した。さらにこの後、LiFを0.5nm、Alを150nm蒸着し金属電極を形成し、素子部を作製した。この素子部が形成されたものを、高真空排気したチャンバーに搬送し、チャンバー内を窒素置換した後、エポキシ樹脂を用いて金属製の封止キャップの端部をガラス基板上に接着し密封した。図1に作製した素子の断面構造を示す。素子の1画素の発光面積は2.5×2.5mmである。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、690cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、1080時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、219時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度、および、120℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、それぞれ142時間、および、102時間の半減寿命であった。結果を図3に示す。
(実施例2)
α-NPDが 50 vol%、Alq3が50 vol%、ジメチルキナクリドンが1 vol%と、発光層である混合物層中の混合割合のみが異なる、実施例1と同じ構造の素子を作製した。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、320cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、624時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、115時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、70時間の半減寿命であった。一方、120℃の雰囲気温度下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、21時間の半減寿命であった。結果を図3に示す。
(実施例3)
ITOの透明電極が予め形成されているガラス基板上に、真空蒸着(真空度: 3×10-7Torr)により、銅フタロシアニン(CuPc)の正孔注入層を10nm、正孔輸送層として化学式(1)で表される有機化合物の一つとして化学式(4)で表される有機化合物(TPTE)を50nm堆積した。その後、発光層として、正孔輸送層を形成した正孔輸送性材料と同じ化学式(4)で表される有機化合物と電子輸送性材料であるAlq3と緑色発光色素であるジメチルキナクリドン化学式(5)を同時に蒸着し混合物層を形成した。混合物層の混合比は化学式(4)で表される化合物が混合物全体の5 vol%、Alq3が95 vol%、ジメチルキナクリドンが1 vol%であり、混合物層の膜厚は20nmとした。さらに、電子輸送層としてAlq3を40nm蒸着した。さらにこの後、LiFを0.5nm、Alを150nm蒸着し金属電極を形成し、素子部を作製した。この素子部が形成されたものを、高真空排気したチャンバーに搬送し、チャンバー内を窒素置換した後、エポキシ樹脂を用いて金属製の封止キャップの端部をガラス基板上に接着し密封した。素子の1画素の発光面積は2.5×2.5mmである。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、620cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、596時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、138時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度、および、120℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、それぞれ98時間、および、68時間の半減寿命であった。結果を図4に示す。
(実施例4)
混合物層への化学式(4)の化合物の混合比が混合物全体の2.5vol%である以外は、実施例3と同様の素子構成の素子を同様の工程により作製した。この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、620cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、715時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、156時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度、および、120℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、それぞれ113時間、および、79時間の半減寿命であった。結果を図4に示す。
(比較例1)
「発光層に混合物層を用いない緑色発光素子」
正孔輸送層として化学式(4)で表される有機化合物を50nm堆積し、発光層としてAlq3にジメチルキナクリドンを1vol%ドープした、発光層が混合物層でない以外は実施例1,2,3と同様の構成の素子を同様の工程により作製した。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、780cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、406時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、70時間の半減寿命であった。さらに、105℃および120℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、それぞれ52時間および38時間の半減寿命であった。結果を図3に示す。
(比較例2)
「特許文献2と類似の素子構造の素子」
正孔輸送層としてα-NPDを50nm堆積し、発光層としてα-NPDを50vol%、Alq3を50vol%、ジメチルキナクリドンを1vol%混合した混合物層を20nm堆積した、正孔輸送層がα-NPDからなる以外は実施例1,2,3と同様の構成の素子を同様の工程により作製した。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、566cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、489時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、78時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、4時間の半減寿命であった。結果を図3に示す。
(比較例3)
混合物層における化学式(4)の化合物の混合割合が50vol%と多い以外は、実施例3の素子と同じ構成の素子を同じ工程にて作製した。
【0030】
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、140cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、135時間の半減寿命であった。結果を図4に示す。
(比較例4)
混合物層における化学式(4)の化合物の混合割合が10vol%とした以外は、実施例3の素子と同じ構成の素子を同じ工程にて作製した。この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、315cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、209時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、59時間の半減寿命であった。結果を図4に示す。
(実施例1〜4の効果)
以上の実施例、比較例の結果を用いて本発明の内容を再度説明する。
【0031】
比較例1は、発光層に混合物層を用いてはいないが、正孔輸送層に高いガラス転移温度(Tg)を有する化学式(3)の化合物を用いており、本実施例の効果を判断するための標準素子とする。これは、図2のアレニウスプロットにおいて室温から120℃の高温まで半減寿命が直線に乗っており、熱的な劣化反応加速はあるものの著しい劣化は示さず比較的高温耐久性を有する素子だからである。
図3に実施例1,2および比較例1,2の各素子の11mA/cm2通電時の発光輝度と各温度での半減寿命を示す。図2に実施例1,2および比較例1の素子の半減寿命をアレニウスプロットしたものを示す。
実施例1の素子は、標準素子である比較例1の素子に比べて、発光効率(11mA/cm2通電時の輝度)はわずかに低下しているものの、半減寿命はいずれの温度においても2〜3倍程度長くなっており耐久性の向上が認められる。実施例2の素子は、発光効率が比較例1の半分以下になっているものの、105℃までは比較例1の素子より長寿命化しており、混合物層を用いることの耐久性向上の効果が認められる。
【0032】
比較例2は、正孔輸送層、発光層ともにα-NPDを用いた場合の例で、その他の構成は実施例2の素子と同じである。この場合、発光効率は著しく損なわれず、室温および85℃での半減寿命においては、比較例1の標準素子に比べて1〜2割増加したが、105℃においては極めて短い半減寿命であった。これは、正孔輸送層のα-NPDが105℃において凝集・結晶化を起こしたためであると考えられる。実施例2では、混合発光層中でα-NPDの凝集が生じ、120℃において極端に短い寿命を示したが、実施例1では、混合物層中へのα-NPDの混合量が少なく分散しているためにTgをはるかに越える高温においても凝集が生じなかった。
【0033】
以上の例から、正孔輸送層に化学式(1)で表される有機化合物を用いることの効果、及びα-NPDを発光層に混合する割合を混合物全体の10vol%以下にすることの効果が明らかである。
【0034】
図4に実施例3,4および比較例1,3,4の各素子の11mA/cm2通電時の発光輝度と各温度での半減寿命を示す。実施例3,4の素子は、比較例1の標準素子に比べて、発光効率も損なわれることなく、各温度での半減寿命が向上しており、特に、85℃〜120℃の高温においては標準素子のおよそ2倍の向上があることがわかる。また、実施例3と4では、後者においてより長い半減寿命が得られており、混合物層の化学式(4)の混合比は、2.5vol%とするのが好適であることがわかる。
【0035】
一方、比較例3,4では、実施例3と同様の素子構成であるが、混合物層中の化学式(4)の化合物の混合比が50vol%、10vol%と大きいことにより、比較例1の標準素子に比べて発光効率も著しく低下し、かつ、半減寿命も著しく低下してしまい、発光層を混合物層にすることの効果が発現しなかった。α-NPDでは、50vol%の混合比でも長寿命化の効果が発現したが、化学式(4)の化合物ではその効果が発現しなかった。この理由としては、α-NPDと化学式(4)のTPTEとでは、分子の大きさや形が大きく異なることから、Alq3との混合の仕方がかなり異なるためであると考えられる。すなわち、α-NPDは均一に分散するのに対して、TPTEはAlq3と均一な混合物層を形成しにくい。
上記の例から、ガラス転移温度が130℃と高い化学式(4)で表される正孔輸送性材料を正孔輸送層として用い、かつ、発光層にこの正孔輸送性材料と電子輸送性材料であるAlq3の混合物層を用いた素子の場合、高温耐久性の向上を図るためには正孔輸送性材料の混合割合を混合物全体の5vol%以下にする必要があり、2.5vol%とすることが好適である。
(実施例5)
「橙色発光素子における第1の実施形態の実施例」
ITOの透明電極が予め形成されているガラス基板上に、真空蒸着(真空度: 3×10-7Torr)により、正孔注入層(CuPc)を10nm、正孔輸送層として化学式(1)で表される有機化合物の一つとして化学式(4)で表される有機化合物(TPTE)を50nm堆積した。その後、発光層として化学式(3)で表される有機化合物α-NPDと電子輸送性材料であるAlq3と橙色発光色素である4−(ジシアノメチレン)−2−tert−ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルユロリジル−9−エニル)−4H−ピラン(DCJTB、化学式(6))を同時に蒸着し混合物層を形成した。
【0036】
【化8】
【0037】
混合物層の混合比はα-NPDが混合物全体の9vol%、Alq3が91vol%、DCJTBが0.7 vol%であり、混合物層の膜厚は40nmとした。さらに、電子輸送層としてAlq3を20nm蒸着した。さらにこの後、LiFを0.5nm、Alを150nm蒸着し金属電極を形成し、素子部を作製した。この素子部が形成されたものを、高真空排気したチャンバーに搬送し、チャンバー内を窒素置換した後、エポキシ樹脂を用いて金属製の封止キャップの端部をガラス基板上に接着し密封した。図1に作製した素子の断面構造を示す。素子の1画素の発光面積は2.5×2.5mmである。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、403cd/m2の橙色発光(CIE色度座標(0.60,0.39))を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、940時間の半減寿命であった。また、105℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、124時間の半減寿命であった。
【0038】
本実施例は発光色素に緑色発光色素であるキナクリドンを用いた場合に限定されるものではない。また、ここで示していない他の発光色素を用いた素子においても、その効果が発現することが、上記の例からも容易に推察される。また、本実施例では示していないが、用いる電子輸送性材料もAlq3に限定されるものではない。
(比較例5)
「発光層に混合物層を用いない橙色発光素子」
正孔輸送層として化学式(3)で表される有機化合物を50nm堆積し、発光層としてAlq3にDCJTBを0.7vol%ドープした、発光層が混合物層でない以外は実施例5と同様の構成の素子を同様の工程により作製した。この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、404cd/m2の橙色発光(CIE色度座標(0.60,0.39))を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、260時間の半減寿命であった。また、105℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、35時間の半減寿命であった。
【0039】
【発明の効果】
本発明によれば、発光効率を大きく損なうことなく、室温での駆動耐久性を向上させると共に100℃程度を越える高温下でも著しい劣化を示さない有機発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で作製した素子の断面構造を示す概略図。
【図2】実施例1,2、比較例1で作製した素子の半減寿命のアレニウスプロットを示す線図。
【図3】実施例1、2、比較例1、比較例2の素子を定電流駆動した時の輝度、半減寿命を示す数値図。
【図4】実施例3、4、比較例1、比較例3、比較例4の素子を定電流駆動した時の輝度、半減寿命を示す数値図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、発光層が有機物からなる有機発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機発光素子はRGB各色において数百cd/m2の初期輝度で10000時間以上の半減寿命が達成され、実用化段階を迎えつつある。しかしながら、有機発光素子をTVモニタなどのディスプレイへ応用する場合にはさらなる長寿命化が要求される。
【0003】
電子輸送層および発光層のホスト材料にトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いた有機発光素子の輝度低下を伴う劣化は、Alq3層に注入された正孔によって不安定なAlq3カチオンが形成されることが主要因であると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
そこで、Alq3カチオン形成を抑制する目的から、発光層にAlq3 と正孔輸送性材料の混合物層を用いることにより輝度低下を抑制し耐久性を向上させる方法が開示されている(特許文献1、2)。
【0005】
この方法により、80℃程度までの高温下での駆動においても輝度低下が抑制され長寿命化が図られた。また、発光層として正孔輸送性材料とその他の電子輸送性材料とを組合わせた混合層を用いた有機発光素子もすでに知られている。(特許文献3,4,5)
特許文献6には、混合層中に設けられた2層以上の発光層として、特定のクマリン誘導体、特定のキナクリドン誘導体またはスチリル系化合物を用いる有機発光素子についても開示されている。特に、この文献には、混合層を用いることの効果として、発光層の電子耐性、正孔耐性が飛躍的に向上することが述べられている。
【0006】
一方、化学式(3)で表されるα-NPDは、1996年にKodakのVanSlikeらによって、これを用いた素子が従来の有機発光素子に比べて耐久性が向上することが報告されて以来、広く一般的に用いられている材料である(非特許文献2)。このα-NPDのガラス転移温度は95℃程度であるため、100℃以上の高温下では保存や駆動に対する耐久性が著しく低下する。特許文献2では、正孔輸送層としてα-NPDを用いた実施例が記載されている。
【化3】
【0007】
このα-NPDを正孔輸送層にではなく、発光層中に電子輸送材料と混合させて用いた場合には、100℃以下の耐久性が向上するが、120℃というさらなる高温では著しい劣化を示すことがわかった(本実施例2、図2参照)。
【0008】
有機発光素子を車載ディスプレイとして応用する場合、真夏の車内のダッシュボード付近は100℃程度の高温に達することもあるから、80℃程度の高温耐久性では十分ではなく、100℃以上の高温耐久性を有することが望まれる。
【0009】
【非特許文献1】Aziz, et al., Science 283(1999)1900
【非特許文献2】VanSlike et al., Appl. Phys. Lett. 69(1996)2160
【特許文献1】米国特許第6,392,250号
【特許文献2】特開2002-43063号公報
【特許文献3】特開平10-106748号公報
【特許文献4】特開2000-133453号公報
【特許文献5】特開2000-3787号公報
【特許文献6】国際特許公開98/08360号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、100℃を超える高温耐久性を有する有機発光素子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、
本発明の構成1は、正孔輸送層、有機発光層および電子輸送層を備える有機発光素子であって、前記正孔輸送層に化学式(1)で表されるテトラアリールジアミンもしくはその誘導体を含有し、かつ、前記有機発光層の全てあるいは一部を正孔輸送性化合物と電子輸送性化合物とを混合してなる混合物とする。
【0012】
【化4】
ここで、式中、Ar1、Ar2およびAr3は、それぞれアリール基または芳香族ヘテロ環基を表す。
【0013】
本発明の構成2は、本発明の構成1において、前記混合物中の正孔輸送性材料を化学式(2)で表される有機化合物もしくはその誘導体とする。
【0014】
【化5】
ここで、式中、Ar1は、アリール基または芳香族ヘテロ環基を表す。
【0015】
さらに、本発明の構成2において、前記正孔輸送性化合物が、前記混合物中に混合物全体の1〜10vol%含有されている。
【0016】
本発明の構成3は、本発明の構成1において、前記混合物中の正孔輸送性材料が前記正孔輸送層に含有される正孔輸送性化合物と同一の化合物とする。
【0017】
さらに、本発明の構成3において、前記正孔輸送性化合物が前記混合物中に混合物全体の1〜5vol%含有されている。
【0018】
本発明により、高温耐久性が向上する理由は次のように考えられる。
【0019】
電子輸送性化合物と正孔輸送性化合物とを混合することにより、それぞれの材料が分散され電子輸送性化合物および正孔輸送性化合物の結晶化が抑制され、高温耐久性が顕著に向上する。
【0020】
特に、有機発光素子を構成する材料の中では、正孔輸送性化合物のガラス転移温度が最も低いことが多く、この場合、混合する正孔輸送性化合物の混合する割合を混合物全体の10vol%以下と少なくすることで分散の度合いが高まり、高温耐久性向上の効果は著しい。
【0021】
また、同時に、発光層がバイポーラ性となることにより、電子輸送性化合物が正孔を受け取り不安定なカチオンを形成することや、また、その反対に正孔輸送性化合物が電子を受取り不安定なアニオンを形成することが抑制され、電子輸送性化合物の正孔耐性および正孔輸送性化合物の電子耐性が向上する。これにより、駆動寿命が著しく向上する。
また、化学式(1)で表される三級アミンの4量体は、化学式(2)で表される2量体に比べて、ガラス転移温度が高くなることが知られている。従って、化学式(1)で表される有機化合物を有機発光素子の構成材料に用いることで、有機発光素子の高温での駆動耐久性や保存耐久性が向上する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について更に詳細に説明する。
(実施形態1)
正孔輸送層に化学式(1)で表されるテトラアリールジアミンもしくはその誘導体を用い、発光層にα-NPDとAlq3の混合物層を用いる。混合物中のα-NPDの混合割合は混合物全体の10vol%以下とするのがよい。10vol%を超える時はかえって耐熱性が低下する。また、1vol%より少ないときは混合の効果がない。
【0023】
発光層として混合物を用いると、混合物中でα-NPDが分散していることにより高温においても凝集・結晶化が進行しにくくなり、発光層の高温耐久性が向上する。しかし、混合割合が大きい場合にはその分散の程度が小さくなり、ガラス転移温度を著しく越えた温度においては凝集・結晶化が生じやすくなる。また、本実施形態は、少なくとも2種類の正孔輸送性材料を用いていることから、生産設備や生産工程における負荷が大きくなる場合もある。
(実施形態2)
生産設備や生産工程における負荷を避けるため、正孔輸送性材料としては1種類の化合物を用いるのみで、100℃を越える高温下での耐久性向上という効果を有する有機発光素子を実現できる。すなわち、正孔輸送層が化学式(1)で表されるテトラアリールジアミンもしくはその誘導体により形成され、かつ、発光層の少なくとも一部を正孔輸送層の正孔輸送性材料と同じ化合物および、電子輸送性材料との混合物とする。この場合、耐久性向上のためには、混合物への正孔輸送性材料の混合割合は混合物全体の1vol%以上5vol%以下がよい。5vol%を超える時は発光効率が低下し、室温における寿命も短くなってしまう。また、1vol%より少ないときは混合の効果がない。
(実施形態3)
混合する正孔輸送性材料の他の例として化学式(4)に代表されるテトラアリールジアミン誘導体がある。発光層混合物中の正孔輸送性材料の混合割合は混合物全体の1vol%以上5vol%以下がよく、2.5vol%が好適である。5vol%を超える時は発光効率が低下し、室温における寿命も短くなってしまう。また、1vol%より少ないときは混合の効果がない。
【0024】
【化6】
【0025】
(実施形態4)
正孔輸送層には化学式(4)の正孔輸送性材料とし、発光層に混合する正孔輸送性材料はα-NPDとすることも可能である。発光層混合物中のα-NPDの混合割合は混合物全体の1vol%以上10vol%以下がよく、8vol%が好適である。10vol%を超える時はかえって耐熱性が低下する。また、1vol%より少ないときは混合の効果がない。
【0026】
混合割合が10vol%を超える場合には、105℃の雰囲気温度下で混合物層を用いない素子に比べて長い半減寿命を有し、駆動可能ではあるものの、120℃の雰囲気温度下での駆動は困難であった。混合割合が10vol%以下の素子は120℃でも駆動できた。
【0027】
【実施例】
次に、上記実施形態の具体例を実施例として説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
ITOの透明電極が予め形成されているガラス基板上に、真空蒸着(真空度: 3×10-7Torr)により、銅フタロシアニン(CuPc)の正孔注入層を10nm、正孔輸送層として化学式(1)で表される有機化合物の一つとして化学式(4)で表される有機化合物(TPTE)を50nm堆積した。その後、発光層として化学式(3)で表される有機化合物α-NPDと電子輸送性材料であるAlq3と緑色発光色素であるジメチルキナクリドン化学式(5)を同時に蒸着し混合物層を形成した。混合物層の混合比はα-NPDが混合物全体の8 vol%、Alq3が92 vol%、ジメチルキナクリドンが1 vol%であり、混合物層の膜厚は20nmとした。
【0028】
【化7】
【0029】
さらに、電子輸送層としてAlq3を40nm蒸着した。さらにこの後、LiFを0.5nm、Alを150nm蒸着し金属電極を形成し、素子部を作製した。この素子部が形成されたものを、高真空排気したチャンバーに搬送し、チャンバー内を窒素置換した後、エポキシ樹脂を用いて金属製の封止キャップの端部をガラス基板上に接着し密封した。図1に作製した素子の断面構造を示す。素子の1画素の発光面積は2.5×2.5mmである。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、690cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、1080時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、219時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度、および、120℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、それぞれ142時間、および、102時間の半減寿命であった。結果を図3に示す。
(実施例2)
α-NPDが 50 vol%、Alq3が50 vol%、ジメチルキナクリドンが1 vol%と、発光層である混合物層中の混合割合のみが異なる、実施例1と同じ構造の素子を作製した。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、320cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、624時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、115時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、70時間の半減寿命であった。一方、120℃の雰囲気温度下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、21時間の半減寿命であった。結果を図3に示す。
(実施例3)
ITOの透明電極が予め形成されているガラス基板上に、真空蒸着(真空度: 3×10-7Torr)により、銅フタロシアニン(CuPc)の正孔注入層を10nm、正孔輸送層として化学式(1)で表される有機化合物の一つとして化学式(4)で表される有機化合物(TPTE)を50nm堆積した。その後、発光層として、正孔輸送層を形成した正孔輸送性材料と同じ化学式(4)で表される有機化合物と電子輸送性材料であるAlq3と緑色発光色素であるジメチルキナクリドン化学式(5)を同時に蒸着し混合物層を形成した。混合物層の混合比は化学式(4)で表される化合物が混合物全体の5 vol%、Alq3が95 vol%、ジメチルキナクリドンが1 vol%であり、混合物層の膜厚は20nmとした。さらに、電子輸送層としてAlq3を40nm蒸着した。さらにこの後、LiFを0.5nm、Alを150nm蒸着し金属電極を形成し、素子部を作製した。この素子部が形成されたものを、高真空排気したチャンバーに搬送し、チャンバー内を窒素置換した後、エポキシ樹脂を用いて金属製の封止キャップの端部をガラス基板上に接着し密封した。素子の1画素の発光面積は2.5×2.5mmである。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、620cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、596時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、138時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度、および、120℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、それぞれ98時間、および、68時間の半減寿命であった。結果を図4に示す。
(実施例4)
混合物層への化学式(4)の化合物の混合比が混合物全体の2.5vol%である以外は、実施例3と同様の素子構成の素子を同様の工程により作製した。この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、620cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、715時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、156時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度、および、120℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、それぞれ113時間、および、79時間の半減寿命であった。結果を図4に示す。
(比較例1)
「発光層に混合物層を用いない緑色発光素子」
正孔輸送層として化学式(4)で表される有機化合物を50nm堆積し、発光層としてAlq3にジメチルキナクリドンを1vol%ドープした、発光層が混合物層でない以外は実施例1,2,3と同様の構成の素子を同様の工程により作製した。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、780cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、406時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、70時間の半減寿命であった。さらに、105℃および120℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、それぞれ52時間および38時間の半減寿命であった。結果を図3に示す。
(比較例2)
「特許文献2と類似の素子構造の素子」
正孔輸送層としてα-NPDを50nm堆積し、発光層としてα-NPDを50vol%、Alq3を50vol%、ジメチルキナクリドンを1vol%混合した混合物層を20nm堆積した、正孔輸送層がα-NPDからなる以外は実施例1,2,3と同様の構成の素子を同様の工程により作製した。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、566cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、489時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、78時間の半減寿命であった。さらに、105℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、4時間の半減寿命であった。結果を図3に示す。
(比較例3)
混合物層における化学式(4)の化合物の混合割合が50vol%と多い以外は、実施例3の素子と同じ構成の素子を同じ工程にて作製した。
【0030】
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、140cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、135時間の半減寿命であった。結果を図4に示す。
(比較例4)
混合物層における化学式(4)の化合物の混合割合が10vol%とした以外は、実施例3の素子と同じ構成の素子を同じ工程にて作製した。この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、315cd/m2の緑色発光を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、209時間の半減寿命であった。また、85℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、59時間の半減寿命であった。結果を図4に示す。
(実施例1〜4の効果)
以上の実施例、比較例の結果を用いて本発明の内容を再度説明する。
【0031】
比較例1は、発光層に混合物層を用いてはいないが、正孔輸送層に高いガラス転移温度(Tg)を有する化学式(3)の化合物を用いており、本実施例の効果を判断するための標準素子とする。これは、図2のアレニウスプロットにおいて室温から120℃の高温まで半減寿命が直線に乗っており、熱的な劣化反応加速はあるものの著しい劣化は示さず比較的高温耐久性を有する素子だからである。
図3に実施例1,2および比較例1,2の各素子の11mA/cm2通電時の発光輝度と各温度での半減寿命を示す。図2に実施例1,2および比較例1の素子の半減寿命をアレニウスプロットしたものを示す。
実施例1の素子は、標準素子である比較例1の素子に比べて、発光効率(11mA/cm2通電時の輝度)はわずかに低下しているものの、半減寿命はいずれの温度においても2〜3倍程度長くなっており耐久性の向上が認められる。実施例2の素子は、発光効率が比較例1の半分以下になっているものの、105℃までは比較例1の素子より長寿命化しており、混合物層を用いることの耐久性向上の効果が認められる。
【0032】
比較例2は、正孔輸送層、発光層ともにα-NPDを用いた場合の例で、その他の構成は実施例2の素子と同じである。この場合、発光効率は著しく損なわれず、室温および85℃での半減寿命においては、比較例1の標準素子に比べて1〜2割増加したが、105℃においては極めて短い半減寿命であった。これは、正孔輸送層のα-NPDが105℃において凝集・結晶化を起こしたためであると考えられる。実施例2では、混合発光層中でα-NPDの凝集が生じ、120℃において極端に短い寿命を示したが、実施例1では、混合物層中へのα-NPDの混合量が少なく分散しているためにTgをはるかに越える高温においても凝集が生じなかった。
【0033】
以上の例から、正孔輸送層に化学式(1)で表される有機化合物を用いることの効果、及びα-NPDを発光層に混合する割合を混合物全体の10vol%以下にすることの効果が明らかである。
【0034】
図4に実施例3,4および比較例1,3,4の各素子の11mA/cm2通電時の発光輝度と各温度での半減寿命を示す。実施例3,4の素子は、比較例1の標準素子に比べて、発光効率も損なわれることなく、各温度での半減寿命が向上しており、特に、85℃〜120℃の高温においては標準素子のおよそ2倍の向上があることがわかる。また、実施例3と4では、後者においてより長い半減寿命が得られており、混合物層の化学式(4)の混合比は、2.5vol%とするのが好適であることがわかる。
【0035】
一方、比較例3,4では、実施例3と同様の素子構成であるが、混合物層中の化学式(4)の化合物の混合比が50vol%、10vol%と大きいことにより、比較例1の標準素子に比べて発光効率も著しく低下し、かつ、半減寿命も著しく低下してしまい、発光層を混合物層にすることの効果が発現しなかった。α-NPDでは、50vol%の混合比でも長寿命化の効果が発現したが、化学式(4)の化合物ではその効果が発現しなかった。この理由としては、α-NPDと化学式(4)のTPTEとでは、分子の大きさや形が大きく異なることから、Alq3との混合の仕方がかなり異なるためであると考えられる。すなわち、α-NPDは均一に分散するのに対して、TPTEはAlq3と均一な混合物層を形成しにくい。
上記の例から、ガラス転移温度が130℃と高い化学式(4)で表される正孔輸送性材料を正孔輸送層として用い、かつ、発光層にこの正孔輸送性材料と電子輸送性材料であるAlq3の混合物層を用いた素子の場合、高温耐久性の向上を図るためには正孔輸送性材料の混合割合を混合物全体の5vol%以下にする必要があり、2.5vol%とすることが好適である。
(実施例5)
「橙色発光素子における第1の実施形態の実施例」
ITOの透明電極が予め形成されているガラス基板上に、真空蒸着(真空度: 3×10-7Torr)により、正孔注入層(CuPc)を10nm、正孔輸送層として化学式(1)で表される有機化合物の一つとして化学式(4)で表される有機化合物(TPTE)を50nm堆積した。その後、発光層として化学式(3)で表される有機化合物α-NPDと電子輸送性材料であるAlq3と橙色発光色素である4−(ジシアノメチレン)−2−tert−ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルユロリジル−9−エニル)−4H−ピラン(DCJTB、化学式(6))を同時に蒸着し混合物層を形成した。
【0036】
【化8】
【0037】
混合物層の混合比はα-NPDが混合物全体の9vol%、Alq3が91vol%、DCJTBが0.7 vol%であり、混合物層の膜厚は40nmとした。さらに、電子輸送層としてAlq3を20nm蒸着した。さらにこの後、LiFを0.5nm、Alを150nm蒸着し金属電極を形成し、素子部を作製した。この素子部が形成されたものを、高真空排気したチャンバーに搬送し、チャンバー内を窒素置換した後、エポキシ樹脂を用いて金属製の封止キャップの端部をガラス基板上に接着し密封した。図1に作製した素子の断面構造を示す。素子の1画素の発光面積は2.5×2.5mmである。
この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、403cd/m2の橙色発光(CIE色度座標(0.60,0.39))を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、940時間の半減寿命であった。また、105℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、124時間の半減寿命であった。
【0038】
本実施例は発光色素に緑色発光色素であるキナクリドンを用いた場合に限定されるものではない。また、ここで示していない他の発光色素を用いた素子においても、その効果が発現することが、上記の例からも容易に推察される。また、本実施例では示していないが、用いる電子輸送性材料もAlq3に限定されるものではない。
(比較例5)
「発光層に混合物層を用いない橙色発光素子」
正孔輸送層として化学式(3)で表される有機化合物を50nm堆積し、発光層としてAlq3にDCJTBを0.7vol%ドープした、発光層が混合物層でない以外は実施例5と同様の構成の素子を同様の工程により作製した。この素子に11mA/cm2の直流電流を流したところ、404cd/m2の橙色発光(CIE色度座標(0.60,0.39))を得た。この素子を室温で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、260時間の半減寿命であった。また、105℃の雰囲気温度の下で初期輝度2400cd/m2にて直流定電流駆動を行い輝度の経時変化を測定したところ、35時間の半減寿命であった。
【0039】
【発明の効果】
本発明によれば、発光効率を大きく損なうことなく、室温での駆動耐久性を向上させると共に100℃程度を越える高温下でも著しい劣化を示さない有機発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で作製した素子の断面構造を示す概略図。
【図2】実施例1,2、比較例1で作製した素子の半減寿命のアレニウスプロットを示す線図。
【図3】実施例1、2、比較例1、比較例2の素子を定電流駆動した時の輝度、半減寿命を示す数値図。
【図4】実施例3、4、比較例1、比較例3、比較例4の素子を定電流駆動した時の輝度、半減寿命を示す数値図。
Claims (5)
- 前記正孔輸送性化合物が、前記混合物中に混合物全体の1〜10vol%含有されていることを特徴とする請求項1又は2記載の有機発光素子。
- 前記混合物中の正孔輸送性材料が前記正孔輸送層に含有される正孔輸送性化合物と同一の化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機発光素子。
- 前記正孔輸送性化合物が前記混合物中に混合物全体の1〜5vol%含有されていることを特徴とする請求項4記載の有機発光素子。
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