JP2004190063A - 耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度鋼板およびその製造法 - Google Patents
耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度鋼板およびその製造法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.08〜0.25%,Si:0.6〜2.5%,Mn:1.2〜2.5%,P:0.015%以下,S:0.005%以下,Cu:0.015〜0.150%,sol.Al:0.001〜2.5%,N:0.008%以下,Ti:0(無添加)〜0.06%,Nb:0(無添加)〜0.06%,Ni:0(無添加)〜2.0%,Mo:0(無添加)〜2.0%,Cr:0(無添加)〜2.0%,Co:0(無添加)〜1.0%であり、Cu/S≧5を満たすようにCuとSの含有量が調整され、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度鋼板。特に、Si+sol.Al≧0.7であり、金属組織において残留γ相を5体積%以上含み、かつ引張強さTS(N/mm2)と伸びEL(%)の積が20000以上となる鋼板。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に自動車ボディー用に好適な、耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度鋼板、およびその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車ボディー用の鋼板には、高強度・高延性であることの他、耐食性が良好であり、かつスポット溶接性に優れることが望まれる。従来、これらの特性のいくつかを具備したものが種々開発されているが、コスト低減との兼ね合いもあり、その全てを満足できるレベルに向上させることは容易ではない。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、C:0.05〜0.15%,Si:0.5〜2.5%,Mn:0.5〜3%を基本成分とする鋼を熱延後、熱延板組織に応じた加熱温度で焼鈍することにより、強度延性特性に優れた残留γタイプの鋼板を製造する技術が開示されている。また、特許文献2には、C,Si,Mn,P,Al含有量を特定の限定式を用いて制限することにより溶接性を改善した高強度鋼板が開示されている。しかし、これらの高張力冷延鋼板は自動車用鋼板をターゲットにしているにもかかわらず、母材(溶接部以外の鋼板素地)の耐食性改善には特に配慮がされていない。したがって、耐食性の改善が課題として残されている。
【0004】
一方、本発明者らは、特許文献3においてC,Si,Mn含有鋼をベースとしてP,Cuを複合添加することにより母材の耐食性を改善した低降伏比型高張力冷延鋼板を製造する方法を開示した。しかし、鋼中のPはスポット溶接性を劣化させるという問題がある。このため、この鋼板においてはスポット溶接性の改善が望まれている。また、加工性についても一層の向上が望まれる。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−125488号公報
【特許文献2】
特開平11−279682号公報
【特許文献3】
特開平5−140652号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このように、高強度鋼板において、母材の耐食性とスポット溶接性を同時に向上させることは容易ではなく、実用的な解決手段は未だ見出されていない。本発明はこのような現状に鑑み、母材の耐食性とスポット溶接性を安定して同時に改善する技術であって、特にコスト低減にも寄与しうるものを提供し、さらに自動車ボディー用鋼板に好適な優れた強度・延性バランスを呈するものを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この目的達成のために発明者らは、高強度鋼板の耐食性改善を低コストで実現できる手法が残されていないか、詳細に検討した。ただし、高強度鋼板の耐食性改善元素として周知であるPについては、スポット溶接性を確保する観点から、添加するわけにはいかないので工夫を要するところであった。他方、特に自動車ボディー用途を意図した場合、強度・延性バランスを高レベルに引き上げる手法についても検討する必要があった。種々研究の結果、発明者らは以下の知見を見出すに至った。
【0008】
▲1▼Pとの複合添加で耐食性改善に寄与することが知られているCuについては、これを単独で添加した場合であっても、耐食性改善効果を奏することが明らかになった。
▲2▼この場合、Pを不純物レベルに低減することで、単独添加するCuはむしろ0.015〜0.150%、あるいは特に0.015〜0.050%未満という微量添加で十分に耐食性改善効果を発現することがわかった。
▲3▼ただし、Cu微量添加による耐食性改善効果を得るには、S含有量を0.005質量%以下に低減すること、およびCu/S比を少なくとも5以上に調整することが必要である。
▲4▼また、Cuにはスポット溶接性を改善する効果のあることも確かめられた。
▲5▼Siとsol.Alの含有量を一定以上に高めた鋼板と、適切な熱処理の組み合わせにより、加工性を大幅に改善した高強度鋼板が提供できることが判明した。
▲6▼酸洗等により鋼板の極表層の酸化膜を除去するとスポット溶接性がさらに向上することが確認された。
【0009】
本発明は、以上の知見に基づいて完成したものである。すなわち、上記目的は、質量%で、C:0.08〜0.25%,Si:0.6〜2.5%,Mn:1.2〜2.5%,P:0.015%以下,S:0.005%以下,Cu:0.015〜0.150%,sol.Al:0.001〜2.5%,N:0.008%以下,Ti:0(無添加)〜0.06%好ましくは0.005〜0.06%,Nb:0(無添加)〜0.06%好ましくは0.005〜0.06%,Ni:0(無添加)〜2.0%,Mo:0(無添加)〜2.0%,Cr:0(無添加)〜2.0%,Co:0(無添加)〜1.0%であり、下記(1)式を満たすようにCuとSの含有量が調整され、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度鋼板によって達成される。
Cu/S≧5 ……(1)
【0010】
ここで、Ti,Nb,Ni,Mo,Cr,Coの下限を0%(無添加)としたのは、これらの元素はC,P,S,N等とは異なり、通常の製鋼プロセスにおいては添加しない限り含有量はゼロ(測定限界以下)となるので、無添加の場合を含む点を明確にするためである。
(1)式の元素記号の箇所には、質量%で表された各元素の含有量の値が代入される。
【0011】
また、上記組成の鋼板であって、特に下記(2)式を満たすようにSiとsol.Alを含み、金属組織において残留γ(オーステナイト)相を5体積%以上含み、かつ引張強さTS(N/mm2)と伸びEL(%)が下記(3)式を満たすものを提供する。
Si+sol.Al≧0.7 ……(2)
TS×EL≧20000 ……(3)
これは特に強度・延性バランスを改善したものである。
【0012】
これらの鋼板の製造法として、上記組成の鋼板に750〜900℃で40〜180秒保持する熱処理を施す方法を提供する。
また、特に上記(2)式を満たすようにSiとAlを含有する鋼板に「750〜900℃で40〜180秒保持→550〜700℃の温度T1まで冷却速度2〜20℃/秒で冷却→T1から350〜460℃の温度T2まで冷却速度30℃/秒以上で冷却→350〜460℃で60〜600秒保持→室温まで冷却」のヒートパターンを有する熱処理を施すことにより、鋼板中に残留γ相を5体積%以上含有させ、引張強さTS(N/mm2)と伸びEL(%)が下記(3)式を満たす強度・延性バランスを付与する方法を提供する。
【0013】
さらに、上記熱処理後に、酸洗または研磨を施して表層部の酸化膜を除去する製造法、あるいはその後さらに、圧延率1.5%以下の調質圧延を施す製造法を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を特定するための事項について説明する。
Cは、高強度化に寄与するとともに、延性改善に有効な残留γ相を確保する上で重要である。その効果を十分得るために0.08質量%以上含有させる。しかし、0.25質量%を超えるとスポット溶接性が大幅に劣化する。
【0015】
Siは、延性をあまり劣化させずに高強度化を図るのに有効な元素である。また、炭化物の生成を抑制し、残留γ相を確保する上でも有効である。これらの効果を十分に得るためには0.6質量%以上の添加が必要である。特に、Siとsol.Alの合計量が0.7質量%以上となるようにしたとき、後述する多段階の熱処理を採用することで、残留γ相が5体積%以上の金属組織を安定して得ることができ、引張強さTS(N/mm2)×伸びEL(%)の値が20000以上という優れた強度・延性バランスが実現できる。ただし、Si含有量が2.5質量%を超えるとAc3変態点が上昇するので熱処理で残留γ相を十分生成させることが困難となり、延性向上は望めない。
【0016】
Mnは、高強度化に有効であるとともに、γ相を安定化させる作用によりパーライト変態を抑制する上でも有効である。その効果を十分に得るには1.2質量%以上の含有が必要である。しかし、2.5質量%を超えると熱処理の冷却過程でフェライト変態が大幅に延滞し、強度は高くなるものの延性劣化が大きくなる。
【0017】
Pは、高強度化および耐食性改善に有効な元素であり、特に耐食性に関してはCuと複合添加することで大きな改善効果が生じるとされる。一方、Pの弊害としては結晶粒界に偏析するために鋼材の靱性低下を招くことがよく知られているが、本発明ではこの一般的な弊害の他、特に、Pの存在が高強度鋼板のスポット溶接性を大きく劣化させる点に十分配慮する必要がある。発明者らの詳細な検討の結果、スポット溶接性を十分に確保するにはP含有量を0.015質量%以下に抑える必要があることがわかった。0.010質量%以下に低減することが一層好ましい。
【0018】
このようにPを低減したとき、PとCuの複合添加による耐食性向上効果が利用できないため、鋼板母材の耐食性低下が懸念された。ところが、後述するように、低S化と、S量に応じたCuの単独微量添加により、自動車ボディー用鋼板として十分使用できる良好な耐食性が安価に付与できることを見出したため、P低減による上記懸念は払拭された。
【0019】
Sは、耐食性およびスポット溶接性を劣化させるのでできるだけ低減することが望ましいが、0.005質量%程度までは許容できる。ただし、0.005質量%以下に低S化した場合であっても、後述するようにCu/Sが5未満である場合にはMnSが生成して耐食性が劣化する。
【0020】
Cuは、Pを低減した高強度鋼板において、微量添加により耐食性を改善する作用を呈する。従来、CuとPの複合添加が高強度鋼板の耐食性改善に非常に有効であるとされており、この手法を用いて耐食性を改善した鋼板が実用化されている。そして、PまたはCuのいずれかが不足する場合、十分な耐食性改善効果は得られないと考えられていた。ところが、発明者らの詳細な研究によれば、Pを0.015質量%以下に低減した高強度鋼板においては、ある一定の条件を満たせば、Cuの単独添加によって耐食性が改善できることがわかった。その条件とは、i) S含有量を0.005質量%以下に抑えること、およびii) Cu/S≧5となるようにCuを含有させること、である。
【0021】
上記i)ii)の条件を満たす場合、従来のP,Cu複合添加の場合よりも少ないCu添加量で耐食性が改善される。すなわち、0.015質量%という微量のCu添加で耐食性改善効果が発現する。一層安定した効果を得るには0.020質量%以上のCu含有が望ましい。Cu含有量の上限は0.150質量%程度とすればよい。これ以上多量にCuを添加しても耐食性改善効果は飽和し、コスト上昇を招く。好ましくは0.120質量%以下、さらに好ましくは0.050質量%未満の範囲でCuを含有させるのがよい。
また、Cuの単独微量添加はスポット溶接性の改善にも有効であることが確認された。
【0022】
このCu微量添加により発現する効果のメカニズムについてはまだ十分に解明されていないが、鋼中のCuはSをCuSの形で固定し、耐食性やスポット溶接性を阻害するMnSの生成を顕著に抑制しているのではないかと考えられる。
【0023】
Alは、一般的には脱酸剤として添加されるが、本発明ではSiとの相乗作用を利用して残留γ相を確保するためにも有効である。脱酸剤としての効果を得るには0.001質量%以上のsol.Al含有量を確保する必要がある。また、残留γ相を5体積%以上確保して優れた強度・延性バランスが実現するには、Siとsol.Alの合計量を0.7質量%とした上で後述の多段階熱処理を採用すればよい。ただし、sol.Alが2.5質量%を超えるとAc3変態点が高くなり焼鈍加熱時にγ量が十分に確保できないため、優れた強度・延性バランスが得られない。
【0024】
Nは、延性を劣化させるのでできるだけ低減することが望ましい。本発明では0.008質量%程度まで許容できる。
【0025】
TiおよびNbは、単独または複合で添加することにより金属組織を微細化させ、延性を劣化を伴わずに高強度化を図る上で有効な元素である。その効果を十分に得るには、Ti,Nbとも0.005質量%以上の含有量を確保することが好ましい。ただし、いずれも0.06質量%を超えると却って延性を劣化させるので、Ti,Nbの一方または双方を添加する場合は、両元素とも0.06質量%以下の範囲で行うことが望ましい。
【0026】
Ni,MoおよびCrは、耐食性を改善するとともに、焼入れ性を向上させて高強度化に有効に作用する。しかし、各元素とも2.0質量%を超えるとこれらの効果が飽和し、また製造コストの上昇を招くので、これらの元素を1種または2種以上添加する場合はいずれも2.0質量%以下の範囲で行うことが望ましい。なお、これらの元素の特に好ましい含有量範囲は、Ni,Mo,Crとも0.1〜2.0質量%である。
【0027】
Coは、焼入れ性を向上させるとともに、ベイナイト変態を促進して残留γ量を確保するのに有効な元素である。しかし、1.0質量%を超えて添加してもその効果が飽和するとともに製造コストの上昇を招くので、Coを添加する場合は1.0質量%以下の範囲で行うことが望ましい。なお、Coの特に好ましい含有量範囲は0.1〜1.0質量%である。
【0028】
本発明では、特に優れた強度・延性バランスを有する鋼板として、引張強さTS(N/mm2)と伸びEL(%)の値の積が20000以上となるもの、すなわち「TS×EL≧20000」を満たすものを提供する。このような鋼板は、構造物の製造において薄肉化による軽量化とデザイン設計の自由度向上をもたらすものであり、特に自動車ボディー用鋼板として好適な特性を有する。「TS×EL≧20000」の特性は、次の要件を満たす鋼板において実現できる。i) 各成分元素の含有量が上記の規定範囲にあること、ii) 「Si+sol.Al≧0.7」を満たすこと、iii) 残留γ相を5体積%以上含有すること。ここで、金属組織中、残留γ相以外の部分は実質的にフェライト,ベイナイトおよびマルテンサイトの1種以上の相からなる。
残留γ相の含有量上限は特に規定しないが、例えば15体積%以下、あるいは20体積%以下の範囲で「TS×EL≧20000」の良好な特性が得られることが確認されている。
【0029】
本発明の鋼板を製造するには、鋼板に750〜950℃で40〜180秒保持する熱処理を施す方法が採用できる。加熱保持温度が750℃未満の場合や保持時間(材料の均熱時間)が40秒未満の場合は加熱時に十分なγ量が確保できず、強度・延性が劣ってしまう。加熱保持温度が900℃を超えると板形状の劣化を招くとともに、大幅なコスト増となる。保持時間が180を超えると生産性が低下する。
【0030】
「TS×EL≧20000」を満たす鋼板を安定して製造するには、上記規定の成分組成を有する鋼のうち、特に「Si+sol.Al≧0.7」を満たす鋼を用いて、その鋼板に以下の▲1▼〜▲5▼の過程からなる多段階熱処理を施せばよい。
【0031】
▲1▼〔高温保持〕
750〜950℃で40〜180秒保持する過程。
これは高温でγ相を十分に生成させる過程であり、温度,加熱時間の限定理由は上で説明したとおりである。
【0032】
▲2▼〔前段冷却〕
高温保持温度から550〜700℃の温度T1まで冷却速度2〜20℃/秒で冷却する過程。
冷却速度が2℃/秒より遅いか、または前段冷却を終了する温度T1が550℃より低い場合は、フェライト変態量が多くなるためTS値が低くなる。逆に冷却速度が20℃/秒より速いか、またはT1が700℃より高い場合は、フェライト変態が十分に生じないためEL値が低くなる。これらいずれの場合も「TS×EL≧20000」を満たすことが困難である。
【0033】
▲3▼〔後段冷却〕
T1から350〜460℃の温度T2まで冷却速度30℃/秒以上で冷却する過程。
冷却速度が30℃/秒より遅い場合はフェライト・パーライト変態が進行し、残留γ相の生成量が減少するためEL値が低くなる。また、後段冷却を終了する温度T2が350℃より低い場合、および460℃より高い場合は、いずれもベイナイト変態が進行せず、残留γ相の生成量が減少するためEL値が低くなる。したがって、これらの場合は「TS×EL≧20000」を満たすことが困難である。
【0034】
▲4▼〔中温保持〕
350〜460℃で60〜600秒保持する過程。
この過程では、γ(オーステナイト)相からベイナイト相への変態が進行するとともに、γ相中にCが濃化して室温まで冷却してもγ相が残留できるようになる。保持温度が350℃より低いか、保持時間(均熱時間)が60秒より短い場合は、ベイナイト変態が十分に進行できず、その結果γ相中へのCの濃化が不十分となって残留γ量の低下を招く。逆に保持温度が460℃より高いか、保持時間が600より長い場合は、炭化物が析出するため残留γ量が低下する。したがって、これらの場合は「TS×EL≧20000」を満たすことが困難である。
【0035】
▲5▼〔最終冷却〕
中温保持温度から室温まで冷却する過程。
冷却速度を特に規定する必要はない。
【0036】
以上の熱処理を終えた鋼板には、酸洗を施して極表層の酸化膜を除去することが望ましい。これにより、スポット溶接性がさらに改善される。酸洗液の種類には特に制限はないが、例えば塩酸を用いる場合、液の濃度5〜12%,液温60〜110℃において、約2〜10秒程度の短時間処理で十分である。酸洗に代えて、研磨等の物理的手段を用いることもできる。
【0037】
また、上記熱処理を行った後、板形状修正のため最終的に圧延率1.5%以下の調質圧延を行うことができる。圧延率が1.5%を超えると延性の低下が大きくなるので「TS×EL≧20000」を満たすことが難しくなる。
【0038】
【実施例】
表1に示す化学組成の鋼を溶製し、通常の手法にて熱間圧延を行い、板厚2.4mmの熱延鋼板とした。その後、冷間圧延に供し、板厚1.0mmの冷延鋼板を得た。この冷延鋼板に種々の条件で熱処理を施し、その後、酸洗と調質圧延、または調質圧延のみを施した。酸洗は10%塩酸(90℃)に10秒間浸漬する条件で行った。熱処理→(酸洗)→調質圧延の工程は表2に示した処理A〜Eの条件で行った。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
得られた鋼板について、引張試験,残留γ量の測定,スポット溶接性試験,耐食性試験を行った。
引張試験は、JIS 5号引張試験片を用いて圧延方向と直角方向に行い、降伏応力YS(N/mm2),引張強さTS(N/mm2),伸びEL(%)を求めた。またTS×ELの値を計算した。TS×EL値が15000未満のものは特性不十分、20000以上のものは特に優れた強度・延性バランスを有していると評価した。また、TSが590N/mm2未満のものは強度不足であると評価した。
残留γ量は、鋼板の表面を約0.3mmまで化学研磨した面についてX線回折法により求めた。
【0042】
スポット溶接性は、下記の条件で同種の鋼板2枚をスポット溶接し(溶接点は1点)、十字引張試験を行って破断させ、十字引張強度の測定および破断状況の観察を行って評価した。十字引張試験は、JIS Z 3137(スポット溶接継手の引張試験方法)に準じて行った。
〔スポット溶接条件〕
・電極:先端径 6mm,元径 16mm
・加圧力:12kgf/mm2
・通電時間:10サイクル
・保持時間:50サイクル
・溶接電流:10000A
・電源周波数:60Hz
【0043】
十字引張強度については、5.0kN未満を不良、5.0kN以上を良好、5.6kN以上を非常に良好と判定した。破断状況については、ボタン破断したものを良好、ナゲット内破断したものを不良と判定した。ここで、ボタン破断とは破断が母材部または熱影響部で円形に生じたものであり、ナゲット内破断とは破断が円形には生じず、ナゲット内で不規則に生じたものである。
【0044】
耐食性は、「0.5%食塩水噴霧:35℃×2時間→温風乾燥:50℃×4時間→湿潤(RH≧95%):50℃×2時間」を1サイクルとする複合腐食試験を180サイクル実施し、試験後の鋼板表面における最大侵食深さが50mm以下のものを良好、50mmを超えるものを不良と判定した。
これらの結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3からわかるとおり、Pを低減し、Cu/S≧5となるようにCuを微量添加した本発明例の鋼板は、スポット溶接性と耐食性の両方に優れるものであった。そのうち、本発明で規定する多段階の熱処理を採用し、かつ最適な圧延率で調質圧延を行った処理AまたはDによるものは、TS×EL≧20000を満たし、優れた強度・延性バランスを有していた。さらにその中でも、酸洗により表面酸化膜を除去した処理Aによるものは、十字引張強度が非常に良好であり、スポット溶接性の更なる改善が図られた。
【0047】
【発明の効果】
本発明は、主として以下の効果を有する。
▲1▼高強度鋼板において母材の耐食性とスポット溶接性が安定して同時に改善される。
▲2▼自動車ボディー用鋼板に好適な優れた強度・延性バランスが得られる。
▲3▼特性改善のために添加するCu量は微量で済むためコスト低減が図れる。
Claims (8)
- 質量%で、C:0.08〜0.25%,Si:0.6〜2.5%,Mn:1.2〜2.5%,P:0.015%以下,S:0.005%以下,Cu:0.015〜0.150%,sol.Al:0.001〜2.5%,N:0.008%以下,Ti:0(無添加)〜0.06%,Nb:0(無添加)〜0.06%,Ni:0(無添加)〜2.0%,Mo:0(無添加)〜2.0%,Cr:0(無添加)〜2.0%,Co:0(無添加)〜1.0%であり、下記(1)式を満たすようにCuとSの含有量が調整され、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度鋼板。
Cu/S≧5 ……(1) - Ti:0.005〜0.06%,Nb:0.005〜0.06%の1種または2種を含有する請求項1に記載の鋼板。
- 下記(2)式を満たすようにSiとsol.Alを含み、金属組織において残留γ相を5体積%以上含み、かつ引張強さTS(N/mm2)と伸びEL(%)が下記(3)式を満たす請求項1または2に記載の鋼板。
Si+sol.Al≧0.7 ……(2)
TS×EL≧20000 ……(3) - 質量%で、C:0.08〜0.25%,Si:0.6〜2.5%,Mn:1.2〜2.5%,P:0.015%以下,S:0.005%以下,Cu:0.015〜0.150%,sol.Al:0.001〜2.5%,N:0.008%以下,Ti:0(無添加)〜0.06%,Nb:0(無添加)〜0.06%,Ni:0(無添加)〜2.0%,Mo:0(無添加)〜2.0%,Cr:0(無添加)〜2.0%,Co:0(無添加)〜1.0%であり、下記(1)式を満たすようにCuとSの含有量が調整され、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に、750〜900℃で40〜180秒保持する熱処理を施す、耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度鋼板の製造法。
Cu/S≧5 ……(1) - 質量%で、C:0.08〜0.25%,Si:0.6〜2.5%,Mn:1.2〜2.5%,P:0.015%以下,S:0.005%以下,Cu:0.015〜0.150%,sol.Al:0.001〜2.5%,N:0.008%以下,Ti:0(無添加)〜0.06%,Nb:0(無添加)〜0.06%,Ni:0(無添加)〜2.0%,Mo:0(無添加)〜2.0%,Cr:0(無添加)〜2.0%,Co:0(無添加)〜1.0%であり、下記(1)式を満たすようにCuとSの含有量が調整され、下記(2)式を満たすようにSiとsol.Alを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に、「750〜900℃で40〜180秒保持→550〜700℃の温度T1まで冷却速度2〜20℃/秒で冷却→T1から350〜460℃の温度T2まで冷却速度30℃/秒以上で冷却→350〜460℃で60〜600秒保持→室温まで冷却」のヒートパターンを有する熱処理を施すことにより、鋼板中に残留γ相を5体積%以上含有させ、引張強さTS(N/mm2)と伸びEL(%)が下記(3)式を満たす強度・延性バランスを付与する、耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度鋼板の製造法。
Cu/S≧5 ……(1)
Si+sol.Al≧0.7 ……(2)
TS×EL≧20000 ……(3) - 熱処理後に、酸洗または研磨を施して表層部の酸化膜を除去する請求項5または6に記載の製造法。
- 熱処理後に、圧延率1.5%以下の調質圧延を施す請求項5または6に記載の製造法。
- 熱処理後に、酸洗または研磨を施して表層部の酸化膜を除去したのち圧延率1.5%以下の調質圧延を施す請求項5または6に記載の製造法。
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JP2002356624A JP4087237B2 (ja) | 2002-12-09 | 2002-12-09 | 耐食性とスポット溶接性を改善した高加工性高強度冷延鋼板およびその製造法 |
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