JP2004190055A - アルミニウム表面窒化方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】アルミニウム基材表面の酸化膜を除去し、高濃度の窒素プラズマを使って厚い窒化アルミニウム層を形成するアルミニウム窒化処理方法を提供する。
【解決手段】低電圧大電流の電子ビームで反応室3にプラズマを生成する電子ビーム励起プラズマ(EBEP)装置を用いて、アルミニウム含有金属材料5を反応室内の試料台34にセットして真空にし、水素ガスを導入して加速電子ビームで水素プラズマを発生させて金属材料の表面をクリーニングし、次いで窒素ガスを含む反応ガスに置換して加速電子ビームで反応プラズマを発生させ、金属材料にバイアス電圧を印加してスパッタリングしながら窒化反応を起こすことによって、金属材料表面にアルミニウム窒化膜を形成する。
【選択図】 図1
【解決手段】低電圧大電流の電子ビームで反応室3にプラズマを生成する電子ビーム励起プラズマ(EBEP)装置を用いて、アルミニウム含有金属材料5を反応室内の試料台34にセットして真空にし、水素ガスを導入して加速電子ビームで水素プラズマを発生させて金属材料の表面をクリーニングし、次いで窒素ガスを含む反応ガスに置換して加速電子ビームで反応プラズマを発生させ、金属材料にバイアス電圧を印加してスパッタリングしながら窒化反応を起こすことによって、金属材料表面にアルミニウム窒化膜を形成する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金の表面に硬質のアルミニウム窒化膜を従来より厚く形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウムは軽く加工性に優れるため、多くの分野で軽量化を目的とする材料転換が進められている。しかし、アルミニウムは軟らかく耐摩耗性に劣るため、摺動部など厳しい摩擦摩耗環境では使用できない。そのため、アルミニウムの表面に、硬い窒化アルミニウムを形成する表面硬化処理法が検討されてきた。
しかし、アルミニウムは基材表面に緻密な酸化膜が形成されイオン窒化を阻害するため、簡単には効果的な表面窒化処理をすることができない。
【0003】
そこで、たとえば、特許文献1には、真空中で希ガスと窒素を含有するプロセスガス雰囲気内でアルミニウムまたはアルミニウム珪素をターゲットとしてスパッタリングし、気相中の窒素と反応して生成する窒化アルミニウムを保護対象とする材料の表面に析出させることにより、硬質の窒化層を形成する方法が開示されている。
特許文献1の方法は、特にX線無定形の窒化層を形成させることを目的とし、アルゴンに別種の希ガスであるネオン、クリプトン、キセノンを1種以上加えて、アルゴン対別種の希ガスの割合が2:1〜100:1にした希ガスを用いて、この希ガスに窒素を僅かに加えて、希ガスと窒素の割合が2:1〜100:1になるようにしたプロセスガスを10−2Pa程度の高真空下で使用することを特徴とする。
この方法によれば、1nm/s程度の速度で膜が形成されるが、高い真空の下で窒素原子や窒素ラジカルが少ないプロセスガスから膜形成を行わせるため、厚さが0.1〜1000nm程度の薄い膜を製造する場合に特に有利であり、より厚い保護層を必要とする場合には適用しにくい。
【0004】
また、新井透らは非特許文献1により、窒素プラズマによるアルミニウムやアルミニウム合金のイオン窒化法として、1.33×10−3Paの真空下で、初めに表面をアルゴンイオンでスッパッタリングした後に、窒素プラズマにより450℃〜500℃で窒化処理をすると、ビッカース硬度Hv1000〜1600の硬質の窒化アルミニウム膜が得られることを示している。
しかし、新井らの方法では数時間の窒化処理で5〜10μm程度の厚さの窒化膜しか得られていない。
【0005】
さらに、非特許文献2には、電子サイクロトロン共鳴(ECR)で発生する窒素プラズマを使用し、アルミニウムに負のバイアス電圧を印加して、2層構造の窒化層を形成する方法が記載されている。
開示の方法によると、マイクロ波と磁場の相互作用でプラズマ密度が最も高くなるECRポイントにアルミニウム試料を置いて−300Vのバイアスを印加し、5.2×10−2Paの窒素圧下で900秒処理すると、アルミニウム試料の表面にビッカース硬度Hv1400の窒化アルミニウム層を形成することができる。
【0006】
従来技術では、アルミニウム表面に窒素プラズマを入射させていたので窒化アルミニウム層は10〜20nm程度の厚さにしかならなかったが、開示された方法ではECRポイントを利用することにより、1000倍もの厚さにすることができるようになった。
しかし、処理中はアルミニウムの表面が熱で溶融するため長時間の処理ができない。また、窒素プラズマの濃度がまだ足らず窒化アルミニウム層を十分成長させることができない。結局、900秒の処理で15μm程度の層を形成させることができる程度となる。
【0007】
【特許文献1】
特開平01−252766号公報
【非特許文献1】
新井透他、アルミニウムとアルミニウム合金のイオン窒化(T.Arai,H.Fujita,&H.Tachikawa”ION NITRIDING OF ALUMINUM AND ALUMINUM ALLOYS”) Proc. 1st Int. conf.on ’Ion Nitriding’, Cleaveland, OH, 1986, ASM International/NAMSA, 37−41
【非特許文献2】
サーフィス・アンド・コーティングス・テクノロジー第86−87回(Surface and coatings Technology 86−87),1996年 予稿集 p.622−627
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、基材表面に形成される緻密な酸化膜を適切に除去すると共に、より高い濃度の窒素プラズマを使って、より厚い窒化アルミニウム層を表面に形成するアルミニウム窒化処理方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のアルミニウム表面窒化方法は、放電室で不活性ガスのプラズマを発生させて、そのプラズマから電子ビームを引き出し、加速室で電子ビームの電子を加速して反応室に入射させて、加速した電子ビームのエネルギで反応室に充填したガスをプラズマ化して試料と反応させる電子ビーム励起プラズマ(EBEP)装置を用いることを特徴とする。
【0010】
本発明のアルミニウム表面窒化方法では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属材料をバイアス電源と接続した反応室内の電極にセットして真空にして、初めに反応室に水素ガスを導入して加速電子ビームで水素プラズマを発生させて金属材料の表面をクリーニングし、次いで窒素ガスを含む反応ガスに置換して加速電子ビームで反応プラズマを発生させ、金属材料にバイアス電圧を印加してスパッタリングしながら窒化反応を起こすことによって、金属材料表面にアルミニウム窒化膜を形成する。
【0011】
本発明のアルミニウム表面窒化方法によれば、電子ビーム励起プラズマ装置において低電圧で大電流の電子ビームを利用して発生させる高濃度の反応ガスプラズマによりスパッタリングしながら窒化処理するので、酸化膜を除去して厚い窒化層を形成することができる。
従来のグロー放電などでは、エネルギー分布が窒素の解離断面積が小さい領域にしかなかったため、窒素を解離する効率が低かったが、電子ビーム励起プラズマ(EBEP)では、加速電圧を50〜150Vに設定して電子を直接加速することにより、窒素の解離断面積が最も大きい領域である50〜150eVのエネルギーを電子に与えて、高効率で窒素ガスを解離し高密度の窒素ラジカルを生成させることができる。EBEPでは、直流グロー放電に比べて100倍以上の窒素ラジカルやプラズマを生成する能力がある。
【0012】
また、バイアス電圧として、100ボルト以上500ボルト以下の負の電圧を印加することが好ましい。
アルミニウム表面は極めて酸化しやすく、酸化膜が生成すると化学反応を阻害しアルミニウム表面の窒化反応も進行しない。そこで、アルミニウム基板にバイアス電圧をかけることにより、反応ガス内のイオンによるスパッタリングを行い、表面に形成された酸化膜を効果的に剥離させることができる。
バイアス電圧が−100ボルト以下であるときは、スパッタリング力が弱くてアルミニウム酸化膜を実質的に破壊することができない。一方、−500ボルト以上では、イオン衝撃により試料が加熱されてアルミニウムの表面が溶融して、適切な窒化処理を行うことができなくなる。
【0013】
また、反応ガスとして、アルゴンガスを窒素ガスに対して0.1から0.6の割合で含むようなガスを用いることにより、より効率的な窒化反応を行うことができる。
スパッタリング作用は窒素プラズマよりアルゴンプラズマの方が有効である一方、窒化反応の原料となる窒素プラズマの濃度が高くないと窒化反応が効率よく進行しない。
したがって、窒素ガスのみのときには窒化層の成長速度が遅く、アルゴンガスの混入比を増加させると成長が早くなる。そこで、試験により両者の濃度が適当な範囲を確認したところ、アルゴンガスが窒素ガスに対して0.1から0.6の範囲にあることが好ましいことが判明した。
なお、アルゴンを窒素に対して0.3以上混入したときは、窒化層の形成速度はむしろ遅くなる。一方、アルゴン窒素比が0.3より小さいと、窒化層表面にアルミニウムが混入して硬さが低下する傾向がある。窒化層の目的を勘案して適当な混合比を選択することができる。
【0014】
また、スパッタリングおよび窒化反応は、バイアス電圧を印加した状態で同時に進行させることが好ましい。
初めにスパッタリングして全ての酸化膜を除去し、その後に窒化反応を行うより、両者を同時に進行させる方が効率がよいからである。この理由は明確でないが、スパッタリングによって放出されるアルミニウム粒子が気相中で窒化して堆積する、さらに、反応室に残留する酸素ガスとアルミニウムが反応し形成される表面酸化膜を除去しながら窒化が進行する、という2つのメカニズムが存在するためと考えられる。
【0015】
本発明のアルミニウム表面窒化方法により形成される窒化アルミニウム層は、バイアス電圧印加時間の平方根に比例して厚くなることが分かっている。本方法によると、初めにスパッタリングにより表面酸化膜が部分的に破壊されると、その部分から窒化アルミニウムが厚さ方向に柱状組織となって成長し始め、やがて表面全体の酸化膜が除去されて窒化アルミニウムの柱状組織で覆われることにより、窒化アルミニウム層が形成される。このとき、バイアス電圧とアルゴン比を大きくして、例えばバイアス電圧を−250V、アルゴンの対窒素比を0.5に選択すると、表面まで緻密で硬い窒化アルミニウム層を形成することができる。
【0016】
実際に加速電圧80V、加速電流10A、反応室圧力0.6Paで、5400秒処理することにより、ビッカース硬度Hv1000以上の硬質膜をアルミニウム基板表面に100μm以上の厚さで形成させることができた。
このように、本発明のアルミニウム表面窒化方法により、軽く熱伝導率が大きいアルミ素材に厚さのある硬質表面層を形成して、摺動部など摩擦摩耗の激しい条件で使用できるようにすることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、電子ビーム励起プラズマ(EBEP)の高密度窒素ラジカルを利用して、アルミニウムやアルミニウム合金の表面窒化を効率よく行うようにしたものである。以下、実施例により、本発明のアルミニウム表面窒化方法を詳細に説明する。
【0018】
図1は本実施例のアルミニウム表面窒化方法を実施する電子ビーム励起プラズマ(EBEP)装置の概念図、図2はアルミニウム窒化工程のフロー図、図3は窒素の解離断面積とEBEP装置の関係を説明するグラフ、図4はアルミニウム窒化工程におけるバイアス電圧と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係を示すグラフ、図5はアルゴン濃度と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係を示すグラフ、図6は反応時間と窒化アルミニウム層の厚さの関係を表すグラフ、図7は本実施例の方法で得られた表面窒化膜の内部の硬度分布図、図8は本実施例の方法で得られた表面窒化膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【0019】
本実施例のアルミニウム表面窒化方法は、図1に示したEBEP装置により実施することができる。
EBEP装置では、放電室1においてフィラメント11により加熱されたカソード12から電子が放出され、アノード電極13との間で放電を維持する。放電室1にはマスフローコントローラ14を介してアルゴンガスが導入され、放電プラズマ41を生成する。
放電プラズマ41から電子が加速室2に引き出されて、アノード電極13と加速電極21の間に加速電源23で発生する加速電圧が印加され、コイル22で形成される磁場によって集束されて電子ビーム42となり、反応室3に入射する。
【0020】
通常の電子銃が数kVの高電圧で数100mA程度の電子流が得られるに過ぎないのに対して、EBEP装置は、50〜150Vの低電圧で10A以上の大電流の電子ビームを引き出すことができる。
また、電子は、加速室2で印加される加速電圧により直接加速されて対応するエネルギを持つようになる。
反応室3に入射した電子ビームは、反応室内の気体分子と衝突し、分子を励起・電離・解離して電子ビーム励起プラズマ(EBEP)43を生成する。
【0021】
反応室3には、パイレックス(登録商標名)などの耐熱強化ガラス管31が設けられ、図外の真空ポンプに接続されて真空空間を確保し、後端に側壁33を備えて、電気的に接地されている。また、内部に試料台34が設けられ、バイアス電源35に接続されている。さらに、耐熱強化ガラス管31内にそれぞれマスフローコントローラ36を介して水素ガス、窒素ガス、アルゴンガスが供給されるようになっている。なお、試料台34にはヒータ37が設けられている。
【0022】
アルミニウムあるいはアルミニウム合金などの金属材料を窒化処理するときは、図2に説明するように、表面処理を施す金属材料5を反応室3の試料台34に載せて準備した上で、EBEP装置を真空に引く(S0)。次に、反応室に水素ガスを供給して電子ビームを導入し、水素プラズマを発生させて、金属材料5の表面を30分など、所定時間クリーニングする間にヒータ37で加熱して510℃など、所定の反応温度まで昇温する(S1)。
その後、反応室3内の真空を維持しながら、反応ガスを窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスに置換する(S2)。この際の反応室3内の圧力は0.6Pa程度として、従来の窒化方法と比較すると低真空で反応ガス濃度が高い状態にして反応効率を向上させることができる。
【0023】
図3は、窒素の解離断面積を電子エネルギについてプロットしたグラフに、本実施例で使用するEBEPで発生する電子のエネルギ分布例と従来のグロー放電で得られる電子のエネルギ分布を、それぞれ実線と点線でプロットした図面である。
図3から分かるように、グロー放電の電子エネルギー分布は窒素の解離断面積と重なる部分が少ないので、グロー放電で窒素プラズマを発生させる方法では、十分高い濃度のプラズマが得られなかった。しかし、EBEPであれば、加速電圧を窒素の解離断面積が大きくなる50〜150eVの範囲内の例えば80Vなどに選択することにより100倍以上も濃い高濃度窒素プラズマを得て、窒素ガスの励起・電離・解離を極めて効率的に行うことができる。
【0024】
反応ガスをプラズマ化すると共に試料台34にバイアス電源35で発生するバイアス電圧を印加すると、プラズマ中の荷電粒子が材料表面をスパッタリングして酸化膜を除去する過程と窒化反応が同時に起こって、材料の表面を窒化アルミニウム膜で覆うようになる(S3)。
窒素よりアルゴンの方がスパッタリング効果が大きいので、反応ガスとして窒素とアルゴンの混合ガスを利用するが、アルゴンの割合が大きくなりすぎると一旦形成された窒化アルミニウム層がスパッタリングにより削減されて窒化層の成長が抑制されるので、適当なバイアス電圧とアルゴン・窒素配合が存在する。
【0025】
図4は、アルゴンガスの対窒素ガス比を0.125に固定したときのバイアス電圧と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係をプロットしたものである。
試料台34に印加する負のバイアス電圧が100Vより小さければ表面の窒化が部分的にしか進まないが、150V程度からは表面全体が窒化アルミニウム膜で覆われるようになり、バイアス電圧が増加すると窒化アルミニウム層の厚さが電圧値に対してほぼリニアに増加するが、500V以上ではイオン衝撃による加熱が大きくなりすぎてアルミニウムの表面が溶融し始めるので適当でない。
【0026】
図5は、バイアス電圧をマイナス200V印加した状態でアルゴン濃度を変化させて試験して窒化アルミニウム膜の厚さに対する影響を調べた結果を示すものである。横軸に窒素ガスに対するアルゴンガスの体積比をとり、3600秒窒化反応させた後における窒化アルミニウム層の厚さを縦軸にプロットしてある。この図から、窒素のみでは窒化膜の成長は遅く、アルゴン比がある程度大きくなければ窒化膜の成長が早くならないことが分かる。また、アルゴン比が大きくなるにつれて窒化膜の成長が鈍化する。
したがって、結局、アルゴンガスの窒素ガスに対する割合が、0.1から0.6の範囲内であることが好ましく、アルゴン対窒素比が1:8から1:3の範囲で特に良好な窒化結果を得ることができることが判明した。
【0027】
金属表面部分の断面を種々の段階において走査型電子顕微鏡で観察した結果から考察すると、窒化アルミニウム層の成長過程はほぼ以下のような変遷を辿ると考えられる。
バイアス電圧を印加し始めて2分ぐらい経つとスパッタリングにより基材表面の酸化膜が除去された部分に窒化アルミニウムの突起が散在して多数発生し始める。窒化アルミニウムの突起の数は徐々に増加し、5分くらい経過すると基材表面のほぼ全面が窒化アルミニウム層で覆われるようになる。また、窒化アルミニウムの突起はそれぞれ表面に垂直な方向に柱状に発達していく。
【0028】
酸化膜の除去は部分による時間差が生じるので、窒化アルミニウム層の表面は高低差が数μmの凹凸状になっている。
なお、一旦緻密な窒化アルミニウム層が形成された後、窒素プラズマのみで自然に任せて成長させると、窒化アルミニウム層表面には針状組織が形成され、表面層に多くの隙間ができるためビッカース硬度もHv200〜300程度と、表面部分の硬さが十分でない。
これに対して、窒化反応中もバイアス電圧を印加しスパッタリングを継続したものでは、表面に形成される針状組織をスパッタリングで除去するため、柱状組織の部分が成長して、緻密な表面を持った窒化アルミニウム層が形成される。
【0029】
バイアス電圧や反応ガス組成と濃度を変化させずに窒化処理をすると、窒化アルミニウム層の厚さは所定の時間以降は経過時間の平方根に比例して増加する。図6は、負のバイアス電圧を250V、アルゴン対窒素を0.5としたときのバイアス電圧印加時間の平方根を横軸にして、形成された窒化アルミニウム層の厚さを縦軸にプロットしたものである。
したがって、必要な窒化層厚を知れば必要な反応時間を算定することができる。
所定時間窒化反応を継続させて材料表面が所定厚さの窒化膜で覆われれば、冷却装置を稼働させて冷却する(S4)。
【0030】
たとえば、A5652(Al−2.5%Mg)を対象として、厚い窒化アルミニウム表面層を形成するときには、加速電圧80V、加速電流10A、反応室圧力0.6Pa、バイアス電圧−250V、アルゴン対窒素体積比0.5、温度783K(510℃)、処理時間5400秒の条件でEBEP窒化を行うと、図7に示すような層内硬度分布を有し、層厚がほぼ100μmに達する、ほぼ均一な厚さの窒化アルミニウム層を持つようになる。図7は、横軸に表面からの深度、縦軸にビッカース硬度を取って、窒化処理後の材料の表面付近の硬度分布を示したものである。
【0031】
図7によると、ビッカース硬度が表層でHv1300あり、アルミニウム合金基材表面までHv1300以上の硬度を維持するような、105μmの硬化層を形成していることが分かる。この表面窒化処理層の表層は緻密で表面粗さは小さい。
また、図8は、走査型電子顕微鏡による断面部の写真である。図は下端部にアルミニウム合金基板(substrate)が写っており、その上に厚さ約100μmまで成長した窒化アルミニウム層(AlN)、最上部にガラス繊維強化フェノールの層(resin)が表れている。走査型電子顕微鏡写真を見ても、窒化アルミニウム層が均質に成長していることが分かる。
【0032】
本実施例のアルミニウム表面窒化方法は、電子ビーム励起プラズマ(EBEP)の高密度窒素ラジカルを利用するので、従来の方法ではせいぜい10μm程度の厚さにしかならなかったアルミニウムやアルミニウム合金の表面窒化膜を100μm程度まで効率よく行うことができる。また、スパッタリングを作用させながら窒化膜の形成を行うので、窒化膜表層まで高い硬度を持った保護膜が得られる。さらに、複雑に関連するプロセス諸元の組み合わせについて好適な条件を選択したので、好ましい硬度と表面粗さを備えた窒化膜を形成させることができるようになった。
【0033】
なお、上記実施例では、EBEP装置の具体的構成を説明しているが、EBEP装置はこの形式に限られず、各種のEBEP装置が利用できることはいうまでもない。さらに、窒化層の成長速度は、反応ガス濃度や反応温度などに影響を受けるものであって、具体的な数値は試験の便宜に基づいて選択されたプロセス条件の下で測定された結果でしかなく、別の条件を選択して別の結果を得ても、本発明の技術的思想を越えるものでないことはいうまでもない。
また、スパッタリングを活発に行うためアルゴンガスを利用したが、窒素ガスよりスパッタリング活性が強ければ一定の効果があるので、他の不活性ガスをアルゴンガスに代えてあるいはアルゴンガスに加えて利用してもよい。
【0034】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明のアルミニウム表面窒化方法により、従来得られていた硬化膜と比較すると桁違いの厚さを持つ改質膜をアルミニウム基材表面に形成することができるので、アルミニウムあるいはアルミニウム合金材料を利用する対象を大いに拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施例に係るアルミニウム表面窒化方法を実施する電子ビーム励起プラズマ(EBEP)装置の概念図である。
【図2】本実施例におけるアルミニウム窒化工程のフロー図である。
【図3】窒素の解離断面積とEBEP装置の関係を説明するグラフである。
【図4】本実施例におけるバイアス電圧と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【図5】本実施例におけるアルゴン濃度と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【図6】本実施例における反応時間と窒化アルミニウム層の厚さの関係を表すグラフである。
【図7】本実施例の方法で得られた表面窒化膜の内部の硬度分布図である。
【図8】本実施例の方法で得られた表面窒化膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 放電室
11 フィラメント
12 カソード
13 アノード電極
14 マスフローコントローラ
2 加速室
21 加速電極
22 コイル
23 加速電源
3 反応室
31 耐熱強化ガラス管
33 側壁
34 試料台
35 バイアス電源
36 マスフローコントローラ
37 ヒータ
41 放電プラズマ
42 電子ビーム
43 電子ビーム励起プラズマ
5 アルミニウム含有金属材料
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金の表面に硬質のアルミニウム窒化膜を従来より厚く形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウムは軽く加工性に優れるため、多くの分野で軽量化を目的とする材料転換が進められている。しかし、アルミニウムは軟らかく耐摩耗性に劣るため、摺動部など厳しい摩擦摩耗環境では使用できない。そのため、アルミニウムの表面に、硬い窒化アルミニウムを形成する表面硬化処理法が検討されてきた。
しかし、アルミニウムは基材表面に緻密な酸化膜が形成されイオン窒化を阻害するため、簡単には効果的な表面窒化処理をすることができない。
【0003】
そこで、たとえば、特許文献1には、真空中で希ガスと窒素を含有するプロセスガス雰囲気内でアルミニウムまたはアルミニウム珪素をターゲットとしてスパッタリングし、気相中の窒素と反応して生成する窒化アルミニウムを保護対象とする材料の表面に析出させることにより、硬質の窒化層を形成する方法が開示されている。
特許文献1の方法は、特にX線無定形の窒化層を形成させることを目的とし、アルゴンに別種の希ガスであるネオン、クリプトン、キセノンを1種以上加えて、アルゴン対別種の希ガスの割合が2:1〜100:1にした希ガスを用いて、この希ガスに窒素を僅かに加えて、希ガスと窒素の割合が2:1〜100:1になるようにしたプロセスガスを10−2Pa程度の高真空下で使用することを特徴とする。
この方法によれば、1nm/s程度の速度で膜が形成されるが、高い真空の下で窒素原子や窒素ラジカルが少ないプロセスガスから膜形成を行わせるため、厚さが0.1〜1000nm程度の薄い膜を製造する場合に特に有利であり、より厚い保護層を必要とする場合には適用しにくい。
【0004】
また、新井透らは非特許文献1により、窒素プラズマによるアルミニウムやアルミニウム合金のイオン窒化法として、1.33×10−3Paの真空下で、初めに表面をアルゴンイオンでスッパッタリングした後に、窒素プラズマにより450℃〜500℃で窒化処理をすると、ビッカース硬度Hv1000〜1600の硬質の窒化アルミニウム膜が得られることを示している。
しかし、新井らの方法では数時間の窒化処理で5〜10μm程度の厚さの窒化膜しか得られていない。
【0005】
さらに、非特許文献2には、電子サイクロトロン共鳴(ECR)で発生する窒素プラズマを使用し、アルミニウムに負のバイアス電圧を印加して、2層構造の窒化層を形成する方法が記載されている。
開示の方法によると、マイクロ波と磁場の相互作用でプラズマ密度が最も高くなるECRポイントにアルミニウム試料を置いて−300Vのバイアスを印加し、5.2×10−2Paの窒素圧下で900秒処理すると、アルミニウム試料の表面にビッカース硬度Hv1400の窒化アルミニウム層を形成することができる。
【0006】
従来技術では、アルミニウム表面に窒素プラズマを入射させていたので窒化アルミニウム層は10〜20nm程度の厚さにしかならなかったが、開示された方法ではECRポイントを利用することにより、1000倍もの厚さにすることができるようになった。
しかし、処理中はアルミニウムの表面が熱で溶融するため長時間の処理ができない。また、窒素プラズマの濃度がまだ足らず窒化アルミニウム層を十分成長させることができない。結局、900秒の処理で15μm程度の層を形成させることができる程度となる。
【0007】
【特許文献1】
特開平01−252766号公報
【非特許文献1】
新井透他、アルミニウムとアルミニウム合金のイオン窒化(T.Arai,H.Fujita,&H.Tachikawa”ION NITRIDING OF ALUMINUM AND ALUMINUM ALLOYS”) Proc. 1st Int. conf.on ’Ion Nitriding’, Cleaveland, OH, 1986, ASM International/NAMSA, 37−41
【非特許文献2】
サーフィス・アンド・コーティングス・テクノロジー第86−87回(Surface and coatings Technology 86−87),1996年 予稿集 p.622−627
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、基材表面に形成される緻密な酸化膜を適切に除去すると共に、より高い濃度の窒素プラズマを使って、より厚い窒化アルミニウム層を表面に形成するアルミニウム窒化処理方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のアルミニウム表面窒化方法は、放電室で不活性ガスのプラズマを発生させて、そのプラズマから電子ビームを引き出し、加速室で電子ビームの電子を加速して反応室に入射させて、加速した電子ビームのエネルギで反応室に充填したガスをプラズマ化して試料と反応させる電子ビーム励起プラズマ(EBEP)装置を用いることを特徴とする。
【0010】
本発明のアルミニウム表面窒化方法では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属材料をバイアス電源と接続した反応室内の電極にセットして真空にして、初めに反応室に水素ガスを導入して加速電子ビームで水素プラズマを発生させて金属材料の表面をクリーニングし、次いで窒素ガスを含む反応ガスに置換して加速電子ビームで反応プラズマを発生させ、金属材料にバイアス電圧を印加してスパッタリングしながら窒化反応を起こすことによって、金属材料表面にアルミニウム窒化膜を形成する。
【0011】
本発明のアルミニウム表面窒化方法によれば、電子ビーム励起プラズマ装置において低電圧で大電流の電子ビームを利用して発生させる高濃度の反応ガスプラズマによりスパッタリングしながら窒化処理するので、酸化膜を除去して厚い窒化層を形成することができる。
従来のグロー放電などでは、エネルギー分布が窒素の解離断面積が小さい領域にしかなかったため、窒素を解離する効率が低かったが、電子ビーム励起プラズマ(EBEP)では、加速電圧を50〜150Vに設定して電子を直接加速することにより、窒素の解離断面積が最も大きい領域である50〜150eVのエネルギーを電子に与えて、高効率で窒素ガスを解離し高密度の窒素ラジカルを生成させることができる。EBEPでは、直流グロー放電に比べて100倍以上の窒素ラジカルやプラズマを生成する能力がある。
【0012】
また、バイアス電圧として、100ボルト以上500ボルト以下の負の電圧を印加することが好ましい。
アルミニウム表面は極めて酸化しやすく、酸化膜が生成すると化学反応を阻害しアルミニウム表面の窒化反応も進行しない。そこで、アルミニウム基板にバイアス電圧をかけることにより、反応ガス内のイオンによるスパッタリングを行い、表面に形成された酸化膜を効果的に剥離させることができる。
バイアス電圧が−100ボルト以下であるときは、スパッタリング力が弱くてアルミニウム酸化膜を実質的に破壊することができない。一方、−500ボルト以上では、イオン衝撃により試料が加熱されてアルミニウムの表面が溶融して、適切な窒化処理を行うことができなくなる。
【0013】
また、反応ガスとして、アルゴンガスを窒素ガスに対して0.1から0.6の割合で含むようなガスを用いることにより、より効率的な窒化反応を行うことができる。
スパッタリング作用は窒素プラズマよりアルゴンプラズマの方が有効である一方、窒化反応の原料となる窒素プラズマの濃度が高くないと窒化反応が効率よく進行しない。
したがって、窒素ガスのみのときには窒化層の成長速度が遅く、アルゴンガスの混入比を増加させると成長が早くなる。そこで、試験により両者の濃度が適当な範囲を確認したところ、アルゴンガスが窒素ガスに対して0.1から0.6の範囲にあることが好ましいことが判明した。
なお、アルゴンを窒素に対して0.3以上混入したときは、窒化層の形成速度はむしろ遅くなる。一方、アルゴン窒素比が0.3より小さいと、窒化層表面にアルミニウムが混入して硬さが低下する傾向がある。窒化層の目的を勘案して適当な混合比を選択することができる。
【0014】
また、スパッタリングおよび窒化反応は、バイアス電圧を印加した状態で同時に進行させることが好ましい。
初めにスパッタリングして全ての酸化膜を除去し、その後に窒化反応を行うより、両者を同時に進行させる方が効率がよいからである。この理由は明確でないが、スパッタリングによって放出されるアルミニウム粒子が気相中で窒化して堆積する、さらに、反応室に残留する酸素ガスとアルミニウムが反応し形成される表面酸化膜を除去しながら窒化が進行する、という2つのメカニズムが存在するためと考えられる。
【0015】
本発明のアルミニウム表面窒化方法により形成される窒化アルミニウム層は、バイアス電圧印加時間の平方根に比例して厚くなることが分かっている。本方法によると、初めにスパッタリングにより表面酸化膜が部分的に破壊されると、その部分から窒化アルミニウムが厚さ方向に柱状組織となって成長し始め、やがて表面全体の酸化膜が除去されて窒化アルミニウムの柱状組織で覆われることにより、窒化アルミニウム層が形成される。このとき、バイアス電圧とアルゴン比を大きくして、例えばバイアス電圧を−250V、アルゴンの対窒素比を0.5に選択すると、表面まで緻密で硬い窒化アルミニウム層を形成することができる。
【0016】
実際に加速電圧80V、加速電流10A、反応室圧力0.6Paで、5400秒処理することにより、ビッカース硬度Hv1000以上の硬質膜をアルミニウム基板表面に100μm以上の厚さで形成させることができた。
このように、本発明のアルミニウム表面窒化方法により、軽く熱伝導率が大きいアルミ素材に厚さのある硬質表面層を形成して、摺動部など摩擦摩耗の激しい条件で使用できるようにすることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、電子ビーム励起プラズマ(EBEP)の高密度窒素ラジカルを利用して、アルミニウムやアルミニウム合金の表面窒化を効率よく行うようにしたものである。以下、実施例により、本発明のアルミニウム表面窒化方法を詳細に説明する。
【0018】
図1は本実施例のアルミニウム表面窒化方法を実施する電子ビーム励起プラズマ(EBEP)装置の概念図、図2はアルミニウム窒化工程のフロー図、図3は窒素の解離断面積とEBEP装置の関係を説明するグラフ、図4はアルミニウム窒化工程におけるバイアス電圧と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係を示すグラフ、図5はアルゴン濃度と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係を示すグラフ、図6は反応時間と窒化アルミニウム層の厚さの関係を表すグラフ、図7は本実施例の方法で得られた表面窒化膜の内部の硬度分布図、図8は本実施例の方法で得られた表面窒化膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【0019】
本実施例のアルミニウム表面窒化方法は、図1に示したEBEP装置により実施することができる。
EBEP装置では、放電室1においてフィラメント11により加熱されたカソード12から電子が放出され、アノード電極13との間で放電を維持する。放電室1にはマスフローコントローラ14を介してアルゴンガスが導入され、放電プラズマ41を生成する。
放電プラズマ41から電子が加速室2に引き出されて、アノード電極13と加速電極21の間に加速電源23で発生する加速電圧が印加され、コイル22で形成される磁場によって集束されて電子ビーム42となり、反応室3に入射する。
【0020】
通常の電子銃が数kVの高電圧で数100mA程度の電子流が得られるに過ぎないのに対して、EBEP装置は、50〜150Vの低電圧で10A以上の大電流の電子ビームを引き出すことができる。
また、電子は、加速室2で印加される加速電圧により直接加速されて対応するエネルギを持つようになる。
反応室3に入射した電子ビームは、反応室内の気体分子と衝突し、分子を励起・電離・解離して電子ビーム励起プラズマ(EBEP)43を生成する。
【0021】
反応室3には、パイレックス(登録商標名)などの耐熱強化ガラス管31が設けられ、図外の真空ポンプに接続されて真空空間を確保し、後端に側壁33を備えて、電気的に接地されている。また、内部に試料台34が設けられ、バイアス電源35に接続されている。さらに、耐熱強化ガラス管31内にそれぞれマスフローコントローラ36を介して水素ガス、窒素ガス、アルゴンガスが供給されるようになっている。なお、試料台34にはヒータ37が設けられている。
【0022】
アルミニウムあるいはアルミニウム合金などの金属材料を窒化処理するときは、図2に説明するように、表面処理を施す金属材料5を反応室3の試料台34に載せて準備した上で、EBEP装置を真空に引く(S0)。次に、反応室に水素ガスを供給して電子ビームを導入し、水素プラズマを発生させて、金属材料5の表面を30分など、所定時間クリーニングする間にヒータ37で加熱して510℃など、所定の反応温度まで昇温する(S1)。
その後、反応室3内の真空を維持しながら、反応ガスを窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスに置換する(S2)。この際の反応室3内の圧力は0.6Pa程度として、従来の窒化方法と比較すると低真空で反応ガス濃度が高い状態にして反応効率を向上させることができる。
【0023】
図3は、窒素の解離断面積を電子エネルギについてプロットしたグラフに、本実施例で使用するEBEPで発生する電子のエネルギ分布例と従来のグロー放電で得られる電子のエネルギ分布を、それぞれ実線と点線でプロットした図面である。
図3から分かるように、グロー放電の電子エネルギー分布は窒素の解離断面積と重なる部分が少ないので、グロー放電で窒素プラズマを発生させる方法では、十分高い濃度のプラズマが得られなかった。しかし、EBEPであれば、加速電圧を窒素の解離断面積が大きくなる50〜150eVの範囲内の例えば80Vなどに選択することにより100倍以上も濃い高濃度窒素プラズマを得て、窒素ガスの励起・電離・解離を極めて効率的に行うことができる。
【0024】
反応ガスをプラズマ化すると共に試料台34にバイアス電源35で発生するバイアス電圧を印加すると、プラズマ中の荷電粒子が材料表面をスパッタリングして酸化膜を除去する過程と窒化反応が同時に起こって、材料の表面を窒化アルミニウム膜で覆うようになる(S3)。
窒素よりアルゴンの方がスパッタリング効果が大きいので、反応ガスとして窒素とアルゴンの混合ガスを利用するが、アルゴンの割合が大きくなりすぎると一旦形成された窒化アルミニウム層がスパッタリングにより削減されて窒化層の成長が抑制されるので、適当なバイアス電圧とアルゴン・窒素配合が存在する。
【0025】
図4は、アルゴンガスの対窒素ガス比を0.125に固定したときのバイアス電圧と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係をプロットしたものである。
試料台34に印加する負のバイアス電圧が100Vより小さければ表面の窒化が部分的にしか進まないが、150V程度からは表面全体が窒化アルミニウム膜で覆われるようになり、バイアス電圧が増加すると窒化アルミニウム層の厚さが電圧値に対してほぼリニアに増加するが、500V以上ではイオン衝撃による加熱が大きくなりすぎてアルミニウムの表面が溶融し始めるので適当でない。
【0026】
図5は、バイアス電圧をマイナス200V印加した状態でアルゴン濃度を変化させて試験して窒化アルミニウム膜の厚さに対する影響を調べた結果を示すものである。横軸に窒素ガスに対するアルゴンガスの体積比をとり、3600秒窒化反応させた後における窒化アルミニウム層の厚さを縦軸にプロットしてある。この図から、窒素のみでは窒化膜の成長は遅く、アルゴン比がある程度大きくなければ窒化膜の成長が早くならないことが分かる。また、アルゴン比が大きくなるにつれて窒化膜の成長が鈍化する。
したがって、結局、アルゴンガスの窒素ガスに対する割合が、0.1から0.6の範囲内であることが好ましく、アルゴン対窒素比が1:8から1:3の範囲で特に良好な窒化結果を得ることができることが判明した。
【0027】
金属表面部分の断面を種々の段階において走査型電子顕微鏡で観察した結果から考察すると、窒化アルミニウム層の成長過程はほぼ以下のような変遷を辿ると考えられる。
バイアス電圧を印加し始めて2分ぐらい経つとスパッタリングにより基材表面の酸化膜が除去された部分に窒化アルミニウムの突起が散在して多数発生し始める。窒化アルミニウムの突起の数は徐々に増加し、5分くらい経過すると基材表面のほぼ全面が窒化アルミニウム層で覆われるようになる。また、窒化アルミニウムの突起はそれぞれ表面に垂直な方向に柱状に発達していく。
【0028】
酸化膜の除去は部分による時間差が生じるので、窒化アルミニウム層の表面は高低差が数μmの凹凸状になっている。
なお、一旦緻密な窒化アルミニウム層が形成された後、窒素プラズマのみで自然に任せて成長させると、窒化アルミニウム層表面には針状組織が形成され、表面層に多くの隙間ができるためビッカース硬度もHv200〜300程度と、表面部分の硬さが十分でない。
これに対して、窒化反応中もバイアス電圧を印加しスパッタリングを継続したものでは、表面に形成される針状組織をスパッタリングで除去するため、柱状組織の部分が成長して、緻密な表面を持った窒化アルミニウム層が形成される。
【0029】
バイアス電圧や反応ガス組成と濃度を変化させずに窒化処理をすると、窒化アルミニウム層の厚さは所定の時間以降は経過時間の平方根に比例して増加する。図6は、負のバイアス電圧を250V、アルゴン対窒素を0.5としたときのバイアス電圧印加時間の平方根を横軸にして、形成された窒化アルミニウム層の厚さを縦軸にプロットしたものである。
したがって、必要な窒化層厚を知れば必要な反応時間を算定することができる。
所定時間窒化反応を継続させて材料表面が所定厚さの窒化膜で覆われれば、冷却装置を稼働させて冷却する(S4)。
【0030】
たとえば、A5652(Al−2.5%Mg)を対象として、厚い窒化アルミニウム表面層を形成するときには、加速電圧80V、加速電流10A、反応室圧力0.6Pa、バイアス電圧−250V、アルゴン対窒素体積比0.5、温度783K(510℃)、処理時間5400秒の条件でEBEP窒化を行うと、図7に示すような層内硬度分布を有し、層厚がほぼ100μmに達する、ほぼ均一な厚さの窒化アルミニウム層を持つようになる。図7は、横軸に表面からの深度、縦軸にビッカース硬度を取って、窒化処理後の材料の表面付近の硬度分布を示したものである。
【0031】
図7によると、ビッカース硬度が表層でHv1300あり、アルミニウム合金基材表面までHv1300以上の硬度を維持するような、105μmの硬化層を形成していることが分かる。この表面窒化処理層の表層は緻密で表面粗さは小さい。
また、図8は、走査型電子顕微鏡による断面部の写真である。図は下端部にアルミニウム合金基板(substrate)が写っており、その上に厚さ約100μmまで成長した窒化アルミニウム層(AlN)、最上部にガラス繊維強化フェノールの層(resin)が表れている。走査型電子顕微鏡写真を見ても、窒化アルミニウム層が均質に成長していることが分かる。
【0032】
本実施例のアルミニウム表面窒化方法は、電子ビーム励起プラズマ(EBEP)の高密度窒素ラジカルを利用するので、従来の方法ではせいぜい10μm程度の厚さにしかならなかったアルミニウムやアルミニウム合金の表面窒化膜を100μm程度まで効率よく行うことができる。また、スパッタリングを作用させながら窒化膜の形成を行うので、窒化膜表層まで高い硬度を持った保護膜が得られる。さらに、複雑に関連するプロセス諸元の組み合わせについて好適な条件を選択したので、好ましい硬度と表面粗さを備えた窒化膜を形成させることができるようになった。
【0033】
なお、上記実施例では、EBEP装置の具体的構成を説明しているが、EBEP装置はこの形式に限られず、各種のEBEP装置が利用できることはいうまでもない。さらに、窒化層の成長速度は、反応ガス濃度や反応温度などに影響を受けるものであって、具体的な数値は試験の便宜に基づいて選択されたプロセス条件の下で測定された結果でしかなく、別の条件を選択して別の結果を得ても、本発明の技術的思想を越えるものでないことはいうまでもない。
また、スパッタリングを活発に行うためアルゴンガスを利用したが、窒素ガスよりスパッタリング活性が強ければ一定の効果があるので、他の不活性ガスをアルゴンガスに代えてあるいはアルゴンガスに加えて利用してもよい。
【0034】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明のアルミニウム表面窒化方法により、従来得られていた硬化膜と比較すると桁違いの厚さを持つ改質膜をアルミニウム基材表面に形成することができるので、アルミニウムあるいはアルミニウム合金材料を利用する対象を大いに拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施例に係るアルミニウム表面窒化方法を実施する電子ビーム励起プラズマ(EBEP)装置の概念図である。
【図2】本実施例におけるアルミニウム窒化工程のフロー図である。
【図3】窒素の解離断面積とEBEP装置の関係を説明するグラフである。
【図4】本実施例におけるバイアス電圧と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【図5】本実施例におけるアルゴン濃度と窒化アルミニウム膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【図6】本実施例における反応時間と窒化アルミニウム層の厚さの関係を表すグラフである。
【図7】本実施例の方法で得られた表面窒化膜の内部の硬度分布図である。
【図8】本実施例の方法で得られた表面窒化膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 放電室
11 フィラメント
12 カソード
13 アノード電極
14 マスフローコントローラ
2 加速室
21 加速電極
22 コイル
23 加速電源
3 反応室
31 耐熱強化ガラス管
33 側壁
34 試料台
35 バイアス電源
36 マスフローコントローラ
37 ヒータ
41 放電プラズマ
42 電子ビーム
43 電子ビーム励起プラズマ
5 アルミニウム含有金属材料
Claims (5)
- 放電室で不活性ガスのプラズマを発生させて該プラズマから電子ビームを引き出し、加速室で該電子ビームの電子を加速して反応室に入射させて、該反応室に充填したガスをプラズマ化して試料と反応させる電子ビーム励起プラズマ装置において、前記反応室内に設けてバイアス電源と接続した電極にアルミニウムを含む金属材料をセットし、該反応室に水素ガスを導入して水素プラズマを発生させて該金属材料の表面をクリーニングし、次いで窒素ガスを含む反応ガスに置換して反応プラズマを発生させ、該金属材料にバイアス電圧を印加してスパッタリングおよび窒化反応を起こすことによって、該金属材料表面にアルミニウム窒化膜を形成することを特徴とするアルミニウム表面窒化方法。
- 前記加速室で印加する加速電圧が50ボルトから150ボルトの範囲にあることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム表面窒化方法。
- 前記バイアス電圧は、100ボルト以上500ボルト以下の負の電圧であることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム表面窒化方法。
- 前記反応ガスは、アルゴンガスを窒素ガスに対して0.1から0.6の割合で含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム表面窒化方法。
- 前記スパッタリングおよび窒化反応は、前記バイアス電圧を印加した状態で同時に進行させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のアルミニウム表面窒化方法。
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