JP2004189021A - エアバッグ用ガス発生器 - Google Patents
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Abstract
【課題】作動性が良く、ＮＯｘ生成量が低減されたエアバッグ用ガス発生器の提供。
【解決手段】第２点火器３２の火炎が直上に進行し、伝火薬３６を着火燃焼するとき、第２燃焼室２５と連通する伝火孔４６は、前記火炎の進行方向とは正対していないので、伝火薬３６の全体が燃焼された後、大きな着火エネルギーが伝火孔４６から第２燃焼室２５内に放出される。
【選択図】 図１
【解決手段】第２点火器３２の火炎が直上に進行し、伝火薬３６を着火燃焼するとき、第２燃焼室２５と連通する伝火孔４６は、前記火炎の進行方向とは正対していないので、伝火薬３６の全体が燃焼された後、大きな着火エネルギーが伝火孔４６から第２燃焼室２５内に放出される。
【選択図】 図１
Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、衝撃から乗員を保護するエアバッグ用ガス発生器に関する。
【０００２】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
自動車に搭載されるエアバッグシステムに組み込むエアバッグ用ガス発生器に対しては、乗員保護の観点から、様々な要求がなされる。この要求としては、搭載対象となる車両の通常の耐用年数である１０年以上もの間、確実に作動できること等が挙げられる。
【０００３】
ガス発生器の小型化のためには、クーラント・フィルタを疎構造にできる、燃焼温度の低いガス発生剤を使用することが望ましい。一方、作動の確実性を確保する観点からは、ガス発生剤の着火性及び燃焼性が良いことが挙げられる。
【０００４】
しかし、燃焼温度の低いガス発生剤は、一般的な傾向として着火性も良くないため、有害ガスの発生を低減化することと、作動の確実性を確保するため、ガス発生剤の着火性及び燃焼性を向上させることは、相反する技術的課題である。
【０００５】
本発明の関連する先行技術としては、特開平１０−３２４２１９号公報が知られている。
【０００６】
本発明は、作動時において、ＮＯｘ等の有害ガスの発生量を低減化すると共に、ガス発生剤の燃焼性を改善して、作動の確実性も確保できる、エアバッグ用ガス発生器を提供することを課題とする。
【０００７】
【課題を解決するための手段】
請求項１の発明は、課題の解決手段として、ガス排出孔を有するハウジング、衝撃によって作動する第１及び第２点火手段、及び着火燃焼して燃焼ガスを発生するガス発生剤が収容された第１及び第２燃焼室を含むエアバッグ用ガス発生器であり、
第１点火手段は、第１点火手段室内に第１点火器と第１伝火薬を有し、第１点火手段室内の第１伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第１燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第２点火手段は、第２点火手段室内に第２点火器と第２伝火薬を有し、第２点火手段室内の第２伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第２燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第１及び第２点火器がハウジングの半径方向に並列配置され、第１及び第２燃焼室がハウジング内に同心円状に配置されており、
第１及び第２点火器が作動して生じる火炎の進行方向と、第１及び第２点火手段室から生じた着火エネルギーを第１及び第２燃焼室に導くための連通孔の位置が正対していない、エアバッグ用ガス発生器を提供する。なお、本発明でいう着火エネルギーは、伝火薬の燃焼により生じた火炎、高温の燃焼ガス等である。
【０００８】
第１及び第２点火器が作動して生じる火炎の進行方向と、上記連通孔の位置が正対していると、点火器の作動によって発生した火炎が直接連通孔から点火手段室外に放出される量が多くなり、点火手段室内の火回りが悪くなるため、伝火薬の着火が十分ではなくなる。
【０００９】
そこで、請求項１の発明のとおり、火炎の進行方向と連通孔の位置を正対させないようにすることで、点火手段室内における火回りが良くなるため、伝火薬の着火性が向上される。
【００１０】
請求項２の発明は、課題の他の解決手段として、ガス排出孔を有するハウジング、衝撃によって作動する第１及び第２点火手段、及び着火燃焼して燃焼ガスを発生するガス発生剤が収容された第１及び第２燃焼室を含むエアバッグ用ガス発生器であり、
第１点火手段は、第１点火手段室内に第１点火器と第１伝火薬を有し、第１点火手段室内の第１伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第１燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第２点火手段は、第２点火手段室内に第２点火器と第２伝火薬を有し、第２点火手段室内の第２伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第２燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第１及び第２点火器がハウジングの半径方向に並列配置され、第１及び第２伝火薬がハウジング軸方向に上下配置され、第１及び第２燃焼室がハウジング内に同心円状に配置されており、
第１及び第２点火器が作動して生じる火炎の進行方向と、第１及び第２点火手段室から生じた着火エネルギーを第１及び第２燃焼室に導くための連通孔の位置が正対していない、エアバッグ用ガス発生器を提供する。
【００１１】
請求項２の発明では、第１及び第２点火器、第１及び第２伝火薬、及び第１及び第２燃焼室の配置状態が相互に関連づけられているため、請求項１と同様の作用がなされると共に、ガス発生器全体をより小型化することができる。
【００１２】
上記発明では、第１点火手段室から生じた着火エネルギーはハウジング半径方向に放出された後、ハウジング軸方向に進行し、第２点火手段室から生じた着火エネルギーはハウジング軸方向に放出されることが好ましい。
【００１３】
このように着火エネルギーの放出方向が規制された場合、燃焼室内における着火エネルギーの回りが良くなるため、ガス発生剤の着火性が向上される。
【００１４】
請求項１、２の発明は、ガス発生剤として燃焼温度が低いもの、例えば１０００〜１７００℃の範囲のものを使用したときに好適である。
【００１５】
第１及び第２点火器が作動して発生した火炎の進行方向と、連通孔の位置が正対していると、点火器からの着火エネルギーが伝火薬全体を着火させる前に、連通孔から放出され、燃焼室内に流入するという事態が起こる。このとき、伝火薬の内、着火した部分から発生したエネルギー（火炎、高温ガス等）も連通孔から燃焼室に放出されるが、前記エネルギーは伝火薬の一部のみの燃焼によるものであるため、着火性の低い（燃焼温度の低い）ガス発生剤に対しては、着火エネルギー不足となる。従って、このように燃焼温度の低いガス発生剤を使用する際には、請求項１、２の発明のような連通孔配置にすることで、伝火薬着火による全エネルギーをガス発生剤に対して供給することができるので、ガス発生剤の着火燃焼性が向上される。
【００１６】
上記発明では、ハウジング内に内筒が配置され、内筒外に環状の第１燃焼室が設けられ、内筒内の下部側に２つの点火手段が設けられ、更に内筒内の上部側に第２燃焼室が設けられていることが好ましい。
【００１７】
上記発明では、第１燃焼室と第１点火手段室が内筒の下部に設けられた連通孔により連通され、第１燃焼室と第２燃焼室が内筒の上部に設けられた連通孔により連通されていることが好ましい。
【００１８】
上記発明では、第２燃焼室内に燃焼ガスの流れ方向を規制するためのリテーナが配置されており、前記リテーナは第２燃焼室の内壁との間に間隔をおいて配置されていることが好ましい。
【００１９】
リテーナと第２燃焼室の内壁との間に間隙が設けられることにより、第２燃焼室内の燃焼ガスの排出孔（第１燃焼室と第２燃焼室との連通孔）がガス発生剤により塞がれることが防止される。連通孔がガス発生剤で塞がれていると、燃焼初期には第２燃焼室内の内圧が過度に上昇し、連通孔を塞ぐガス発生剤が燃焼したとき、連通孔の開放により、急激に内圧が低下するため、安定した燃焼性が損なわれる恐れがある。
【００２０】
前記リテーナの周壁部には、第２燃焼室内のガスを排出する開口部が設けられており、前記開口部は、第２燃焼室内のガス発生剤の燃焼前には閉塞されていることが好ましい。
【００２１】
作動前にリテーナの開口部を閉塞することで、作動時において、第２燃焼室の内圧を適正な程度にまで高めることができ、その結果、ガス発生剤の初期燃焼性が向上される。
【００２２】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の実施の形態を説明する。図１は、本発明のエアバッグ用ガス発生器の軸方向への断面図である。なお、以下において、上又は下との上下関係を言うときは、図１を基準とする。また、軸方向というときはハウジングの軸方向の意味であり、半径方向というときはハウジングの半径方向の意味である。
【００２３】
ガス発生器１０は、ディフューザシェル１２と、ディフューザシェル１２と共に内部収容空間を形成するクロージャシェル１３とを接合してなるハウジング１１により、外殻容器が形成されている。ディフューザシェル１２とクロージャシェル１３とは、溶接部１４において溶接されている。図１中、他の黒塗り部分も溶接部を示す。
【００２４】
ディフューザシェル１２には、所要数のガス排出口１７、１８が設けられている。ガス排出口１７、１８は、同径でも異なる径でも良い。
【００２５】
ハウジング１１内には略円筒形状の内筒１５が配置されており、内筒１５の上端周縁がディフューザ１２の天井面１２ａに接合され、下端周縁がクロージャシェル１３の底面１３ａに接合されることで、内外空間が分離されている。
【００２６】
内筒１５は、上部（天井面１２ａ側）の内径が、下部（底面１３ａ側）の内径よりも大きくなるように、傾斜壁部１５ａにおいて半径方向に拡大されている。このように内筒１５の形状を図１のように設定することで、ガス発生器１０の高さを低くしたままで、内部空間の容積、特に第１燃焼室２０と第２燃焼室２５の容積比（例えば４／６〜９／１、好ましくは１／１〜８／２の範囲）を調整することができるので好ましい。
【００２７】
内筒１５の外側空間には、環状（又は筒状）の第１燃焼室２０が設けられ、図示していない第１ガス発生剤が収容されている。
【００２８】
内筒１５の上方空間には、第２ガス発生剤（図示せず）が収容された第２燃焼室２５が設けられ、下方空間には、２つの点火手段が収容された点火手段室が設けられている。
【００２９】
第１点火手段室には、第１点火器３１と第１伝火薬３５が配置され、第２点火手段室には、第２点火器３２と第２伝火薬３６が配置されている。第１点火器３１と第２点火器３２は、１つのカラー３３に固定され、半径方向に並列して取り付けられている。なお、ガス発生器１０を含むエアバッグモジュールを車両に取り付ける場合、第１点火器３１と第２点火器３２は、コネクタ及びリードワイヤを介して電源（バッテリー）に接続される。
【００３０】
内筒１５内の上下空間、即ち第２燃焼室２５と第１点火器３１と第２点火器３２との間は、スカート部４１と第２貫通孔５２を有する平板状隔壁４０で分離されている。平板状隔壁４０は、内筒１５の段欠き部１６に下側から嵌め込まれているので、第１点火器３１が作動したときでも、作動時の圧力により、上方に移動することが防止される。スカート部４１の内径は、点火器３２の点火部分の径とほぼ同一に設定されており、スカート部４１が点火部分に密着して包囲しているので、第２点火器３２の作動により生じた火炎は、第２貫通孔５２方向にのみ直進する。
【００３１】
このスカート部４１を有する平板状隔壁４０を配置することにより、第２燃焼室２５と２つの点火器間が分離され、第１点火器３１と第２点火器３２の間が分離されるため、第１点火器３１の作動により生じた着火エネルギー（火炎、燃焼ガス等）が、第２点火手段室内に侵入し、更に第２貫通孔５２を通って第２燃焼室２５内に侵入することが防止される。
【００３２】
第１点火器３１の直上には、アルミニウムカップに充填された第１伝火薬３５が配置されている。内筒１５の側壁下部に設けられた第１貫通孔５１は、第１燃焼室２０と第１点火手段室とを連通するものであり、第１伝火薬３５の中心とほぼ正対する位置に設けられており、第１点火器３１の作動により生じた火炎の進行方向と第１貫通孔５１とは正対していない。第１貫通孔５１には、アルミニウム又はステンレス製のシールテープ６０が内側から貼り付けられている。
【００３３】
このように第１貫通孔５１と第１伝火薬３５が互いに正対するように配置されていることにより、第１点火器３１の作動により、第１伝火薬３５の全体がほぼ均等に燃焼される。
【００３４】
更に、第１貫通孔５１が内筒１５の下部に設けられているため、第１伝火薬３５の燃焼により生じた着火エネルギーは、半径方向に放出された後、上方に向きを変えて流出するので、第１燃焼室２０内に収容された第１ガス発生剤全体の着火性が向上される。
【００３５】
図２により、第２伝火薬３６の配置状態を説明する。図２は、第２伝火薬３６の配置状態を示す平面図である。
【００３６】
第２点火器３２の上方であり、平板状隔壁４０上には、第２伝火薬３６が配置されている。第２伝火薬３６は、複数の伝火孔４６を有するアルミニウム製カップ４５内に充填されている。
【００３７】
アルミニウム製カップ４５は、内部に収容された第２伝火薬３６を保持するものであり、カップ４５の開口周縁には半径方向に延びるフランジ４５ａが形成され、カップ４５は、フランジ４５ａが段欠き部１６と平板状隔壁４０で上下から挟み付けられることで固定されている。このような固定構造であるため、第１及び第２伝火薬が燃焼する際にカップ４５が移動したり、外れたりすることが防止され、その結果、点火器３２からの火炎を第２伝火薬３６全体に確実に導くことができるので、第２伝火薬３６の着火性が向上される。
【００３８】
アルミニウム製カップ４５に設けられた複数の伝火孔４６は、第２点火器３２の作動により生じた火炎の進行方向（第２点火器３２の直上）とは正対していない。
【００３９】
このようにして伝火孔４６の位置を設定することにより、第２点火器３２が作動して生じた火炎が直上方向に進行したとき、前記火炎が伝火孔４６からそのまま放出されることがなく、先に第２伝火薬３６が着火燃焼され、第２伝火薬３６全体の燃焼により生じた着火エネルギーが伝火孔４６から第２燃焼室２５内に放出される。このため、第２燃焼室２５内に収容された第２ガス発生剤の燃焼性が向上される。
【００４０】
第２伝火薬３６が充填されたアルミニウム製カップ４６は、図３に示すように、第２点火器３２の直上部分に凸部４７を有するような形状にすることができる。このような凸部４７を設けることにより、第２伝火薬３６の充填量を増加させることができるので、第２ガス発生剤の着火性がより向上される。なお、この図３に示す形態であっても、図２に示すようにして、凸部４７を除く平面に伝火孔４６を設ける。
【００４１】
第２燃焼室２５内には、有底筒状のリテーナ５５が開口部側を下にした状態で嵌入され、側壁先端部５５ａにおいて第２燃焼室２５の内壁２５ａを押圧することで固定されている。リテーナ５５の側壁と第２燃焼室２５の内壁２５ａ間には、ガス流路が確保できる程度の間隙５７が設けられている。
【００４２】
リテーナ５５は、側壁部に複数の開口部（ノズル）５６を有しており、これらの開口部５６の軸方向の高さ位置は、内筒１５に設けられた第３貫通孔５３の高さ位置よりも上方になるように設定されている。
【００４３】
第３貫通孔５３は、外側からステンレス製のシールテープ５８により閉塞されており、開口部５６もアルミニウム又はステンレス製のシールテープ８０により内側から閉塞しても良い。開口部５６をシールテープ８０で閉塞したとき、２つの点火器の同時作動により、第１燃焼室２０と第２燃焼室２５が同時に燃焼を開始した場合において、第２燃焼室２５の内圧が一時的に高められるので、第２ガス発生剤の着火性が向上される。
【００４４】
リテーナ５５の側壁と第２燃焼室２５の内壁２５ａとの間に間隙５７が設けられていることにより、第３貫通孔５３が第２ガス発生剤により塞がれることが防止される。第３貫通孔５３が第２ガス発生剤で塞がれていると、燃焼初期には第２燃焼室２５内の内圧が過度に上昇し、第３貫通孔５３を塞ぐ第２ガス発生剤が燃焼したとき、第３貫通孔５３の開放により、急激に内圧が低下するため、安定した燃焼性が損なわれる恐れがある。
【００４５】
開口部５６と第３貫通孔５３の高さ位置を調整することにより、図１に示すとおり、第３貫通孔５３が第２燃焼室２５の下方側に設けられている場合であっても、第２ガス発生剤の燃焼により生じたガスは、第２燃焼室２５の上方側にある開口部５６を経た後、第３貫通孔５３から放出されるため、第２燃焼室２５内の全体への火回りが良くなり、第２ガス発生剤の燃焼性が向上される。
【００４６】
第３貫通孔５３の総開口面積は、開口部５６の総開口面積よりも小さく、更にガス排出孔１７、１８の総開口面積よりも小さくなるように設定されている。
【００４７】
第１点火器３１が先に作動し、第２点火器３２が遅れて作動するとき、即ち第１燃焼室２０内の第１ガス発生剤が先に燃焼して、第２燃焼室２５内の第２ガス発生剤が遅れて燃焼するとき、第２燃焼室２５内の圧力は第１燃焼室２０内の圧力よりも十分に高くなる。このため、上記のとおりに第３貫通孔５３の総開口面積を設定することにより、第２燃焼室２５からの燃焼ガスの流出速度が第３貫通孔５３により制御されることになるため、第２燃焼室２５内の燃焼時の内圧も第３貫通孔５３で制御されることになる。よって、第２燃焼室２５内の燃焼状態は、第３貫通孔５３により制御されることになる。なお、第１点火器３１と第２点火器３２が同時に作動する場合、第１燃焼室２０と第２燃焼室２５の圧力差は小さくなるため、依然として第２燃焼室２５の内圧の方が高くなるが、第３貫通孔５３による圧力制御の影響が小さくなる。
【００４８】
このようにして第３貫通孔５３で第２燃焼室２５の燃焼状態を制御することにより、次の作用効果が得られる。
【００４９】
自動車が低速で衝突したときのように、第１点火器３１のみを作動させ第１ガス発生剤のみを燃焼させたとき、残った第２ガス発生剤をそのままにしておくと、自動車の解体時に危険であるため、第１点火器３１の作動から１００ミリ秒程度遅れて第２点火器３２を作動させて第２ガス発生剤を着火燃焼させる場合がある。このような場合、第３貫通孔５３で第２燃焼室２５の燃焼状態が制御できるのであれば、第２ガス発生剤の着火燃焼性が向上され、ＮＯｘ等の有害ガスの発生も抑制されるので好ましい。その他、第２燃焼室２５からの燃焼ガスの発生時間を長くすることで、エアバッグの膨張持続時間を長くするような形態にも対応することができる。
【００５０】
第１燃焼室２０とハウジング１１の周壁（ディフューザシェル周壁１２ｂとクロージャシェル周壁１３ｂ）との間には、燃焼ガスから燃焼残渣を取り除くと共に、燃焼ガスを冷却するための筒状フィルタ６５が配置されている。
【００５１】
筒状フィルタ６５の内側には内側筒状遮蔽板６６が配置され、筒状フィルタ６５と内側筒状遮蔽板６６との間には間隙（第１間隙７１）が設けられている。なお、前記間隙に替えて、筒状フィルタ６５と接する部分（前記間隙と同程度の幅の部分）の内側筒状遮蔽板６６を疎構造にして、事実上、間隙を設けた場合と同様の状態にしても良い。
【００５２】
筒状フィルタ６５の外側には、筒状フィルタ６５の外周面に接した状態で外側筒状遮蔽板６７が配置されている。外側筒状遮蔽板６７とハウジング１１の周壁との間には、間隙（第２間隙７２）が設けられている。この第２間隙７２は、第１間隙７１の幅よりも広く設定することが好ましい。
【００５３】
内側筒状遮蔽板６６と外側筒状遮蔽板６７は、図１のとおり、筒状フィルタ６５の全面を覆うものではない。
【００５４】
内側筒状遮蔽板６６は、一端周縁部が底面１３ａに当接された状態で、筒状フィルタ６５の下部（筒状フィルタ６５の全高に対して１／２〜２／３程度の高さ範囲）を覆っている。但し、内側筒状遮蔽板６６によりフィルタ６５の全面を覆った上で、一部に複数の通気孔を設けることで、図１に示すものと同じような状態にしても良い。
【００５５】
外側筒状遮蔽板６７は、一端周縁部が天井面１２ａに当接された状態で、筒状フィルタ６５の上部（筒状フィルタ６５の全高に対して１／２〜２／３程度の高さ範囲）を覆っている。但し、外側筒状遮蔽板６７によりフィルタ６５の全面を覆った上で、一部に複数の通気孔を設けることで、図１に示すものと同じような状態にしても良い。
【００５６】
このようにしてフィルタ６５、内側筒状遮蔽板６６及び外側筒状遮蔽板６７を配置することにより、燃焼ガスの濾過（燃焼残渣の濾過）及び冷却作用がより向上される。第１燃焼室２０及び第２燃焼室２５で発生した燃焼ガスは、内側筒状遮蔽板６６で覆われていない部分から筒状フィルタ６５に侵入し、一部はそのまま筒状フィルタ６５内を軸方向に移動した後、第２間隙７２に至り、シールテープ（アルミニウム又はステンレス製）７５を破った後、ガス排出口１７、１８から排出される。そして、燃焼ガスの残部は第１間隙７１内を通って移動した後、筒状フィルタ６５内を半径方向に通過して第２間隙７２に至り、ガス排出口１７、１８から排出される。
【００５７】
なお、ガス排出口１７、１８を閉塞するシールテープ７５は、点火器の作動状況（一方のみの作動、両方同時の作動、時間差をおいた作動）により、同時に破裂したり、一部のみ破裂したりするように設定できる。
【００５８】
次に、図１、２により、エアバッグ用ガス発生器１０において、２つの点火器が時間差をおいて作動した場合の動作を説明する。
【００５９】
第１点火器３１の作動により、伝火薬３５が着火燃焼され、着火エネルギーはシールテープ６０を破り、第１貫通孔５１を通って、第１燃焼室２０内に放出される。このとき、着火エネルギーは軸方向に放出された後、第１燃焼室２０内を上方に移動するため、第１ガス発生剤の着火燃焼性が良い。なお、第３貫通孔５３は、ステンレス製シールテープ５８で閉塞されているため、第１燃焼室２０内の燃焼ガスは第２燃焼室２５内に流入することはない。
【００６０】
第１燃焼室２０で発生した燃焼ガスは、上記のとおり、内側筒状遮蔽板６６、筒状フィルタ６５、外側筒状遮蔽板６７の組み合わせ、更に第１間隙７１、第２間隙７２の作用により、シールテープ７５の一部又は全部を破裂させ、ガス排出孔１７、１８の一部又は全部から排出され、エアバッグを膨張させる。
【００６１】
僅かな時間差をおいて、第２点火器３２が作動する。このとき、火炎は第２貫通孔５２を通って直進するが、火炎の進行方向と伝火孔４６とは正対していないので、アルミニウム製カップ４５内に充填された第２伝火薬３６の全てが着火燃焼された後、着火エネルギーが伝火孔４６から第２燃焼室２５内に放出される。
【００６２】
着火エネルギーの侵入により、第２燃焼室２５内の第２ガス発生剤が着火燃焼されるが、上記のとおり、リテーナ５５の開口部５６と第３貫通孔５３の高さ位置が調整されているため、第２燃焼室２５全体への火回りが良く、第２ガス発生剤の着火燃焼性が良い。また、開口部５６をシールテープ８０で閉塞した場合、第２ガス発生剤の初期燃焼性が改善される。
【００６３】
第２燃焼室２５で発生したガスは、第３貫通孔５３から半径方向に放出され、第１燃焼室２０内に流入した後、筒状フィルタ６５を経て、ガス排出孔１７、１８から排出されて、エアバッグを更に膨張させる。
【００６４】
本発明のガス発生器１０では、第１伝火薬３５及び第２伝火薬３６として、伝火薬粉末とガス発生剤成型体との混合物を用いるか、又は第１伝火薬３５として前記混合物を用い、第２伝火薬３６として前記ガス発生剤成型体を用いることができる。前記ガス発生剤成型体は、燃焼時において、１．２モル／１００ｇ以上のガスを発生するものである。
【００６５】
伝火薬粉末としては、ボロン及び硝石の混合物を用いることができ、ガス発生剤成型体としては、第１及び第２ガス発生剤と同じものを使用できるが、それらよりも燃焼温度が高く、着火性の良いものが好ましい。
【００６６】
伝火薬粉末とガス発生剤成型体の質量比は、伝火薬粉末／ガス発生剤成型体＝２／８〜８／２が好ましく、３／７〜７／３がより好ましい。
【００６７】
燃焼室に収容するガス発生剤成型体は、燃焼温度が１０００〜１７００℃のものが好ましく、伝火薬として用いるガス発生剤成型体は、燃焼温度が１７００〜３０００℃のものが好ましい。
【００６８】
【発明の効果】
本発明のエアバッグ用ガス発生器は、ガス発生器の構造を改良したことにより、作動時においてＮＯｘ等の有害ガスの生成量を低減化する目的で、燃焼温度が低く、着火性の悪いガス発生剤を使用した場合であっても、燃焼温度が高く、着火性の良いガス発生剤を使用した場合と同様の着火性を確保できる。
【００６９】
このため、作動時におけるＮＯｘ生成量の低減と共に、作動の確実性を確保することができ、更にガス発生器の小型化も達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図１】エアバッグ用ガス発生器の軸方向への断面図。
【図２】図１における第２伝火薬の配置状態を説明するための概略平面図。
【図３】図２の別実施形態の概略断面図。
【符号の説明】
１０ エアバッグ用ガス発生器
１１ ハウジング
１５ 内筒
２０ 第１燃焼室
２５ 第２燃焼室
３１ 第１点火器
３２ 第２点火器
３５ 第１伝火薬
３６ 第２伝火薬
４５ アルミニウム製カップ
４６ 伝火孔
５２ 第２貫通孔
６５ フィルタ
【発明の属する技術分野】
本発明は、衝撃から乗員を保護するエアバッグ用ガス発生器に関する。
【０００２】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
自動車に搭載されるエアバッグシステムに組み込むエアバッグ用ガス発生器に対しては、乗員保護の観点から、様々な要求がなされる。この要求としては、搭載対象となる車両の通常の耐用年数である１０年以上もの間、確実に作動できること等が挙げられる。
【０００３】
ガス発生器の小型化のためには、クーラント・フィルタを疎構造にできる、燃焼温度の低いガス発生剤を使用することが望ましい。一方、作動の確実性を確保する観点からは、ガス発生剤の着火性及び燃焼性が良いことが挙げられる。
【０００４】
しかし、燃焼温度の低いガス発生剤は、一般的な傾向として着火性も良くないため、有害ガスの発生を低減化することと、作動の確実性を確保するため、ガス発生剤の着火性及び燃焼性を向上させることは、相反する技術的課題である。
【０００５】
本発明の関連する先行技術としては、特開平１０−３２４２１９号公報が知られている。
【０００６】
本発明は、作動時において、ＮＯｘ等の有害ガスの発生量を低減化すると共に、ガス発生剤の燃焼性を改善して、作動の確実性も確保できる、エアバッグ用ガス発生器を提供することを課題とする。
【０００７】
【課題を解決するための手段】
請求項１の発明は、課題の解決手段として、ガス排出孔を有するハウジング、衝撃によって作動する第１及び第２点火手段、及び着火燃焼して燃焼ガスを発生するガス発生剤が収容された第１及び第２燃焼室を含むエアバッグ用ガス発生器であり、
第１点火手段は、第１点火手段室内に第１点火器と第１伝火薬を有し、第１点火手段室内の第１伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第１燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第２点火手段は、第２点火手段室内に第２点火器と第２伝火薬を有し、第２点火手段室内の第２伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第２燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第１及び第２点火器がハウジングの半径方向に並列配置され、第１及び第２燃焼室がハウジング内に同心円状に配置されており、
第１及び第２点火器が作動して生じる火炎の進行方向と、第１及び第２点火手段室から生じた着火エネルギーを第１及び第２燃焼室に導くための連通孔の位置が正対していない、エアバッグ用ガス発生器を提供する。なお、本発明でいう着火エネルギーは、伝火薬の燃焼により生じた火炎、高温の燃焼ガス等である。
【０００８】
第１及び第２点火器が作動して生じる火炎の進行方向と、上記連通孔の位置が正対していると、点火器の作動によって発生した火炎が直接連通孔から点火手段室外に放出される量が多くなり、点火手段室内の火回りが悪くなるため、伝火薬の着火が十分ではなくなる。
【０００９】
そこで、請求項１の発明のとおり、火炎の進行方向と連通孔の位置を正対させないようにすることで、点火手段室内における火回りが良くなるため、伝火薬の着火性が向上される。
【００１０】
請求項２の発明は、課題の他の解決手段として、ガス排出孔を有するハウジング、衝撃によって作動する第１及び第２点火手段、及び着火燃焼して燃焼ガスを発生するガス発生剤が収容された第１及び第２燃焼室を含むエアバッグ用ガス発生器であり、
第１点火手段は、第１点火手段室内に第１点火器と第１伝火薬を有し、第１点火手段室内の第１伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第１燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第２点火手段は、第２点火手段室内に第２点火器と第２伝火薬を有し、第２点火手段室内の第２伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第２燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第１及び第２点火器がハウジングの半径方向に並列配置され、第１及び第２伝火薬がハウジング軸方向に上下配置され、第１及び第２燃焼室がハウジング内に同心円状に配置されており、
第１及び第２点火器が作動して生じる火炎の進行方向と、第１及び第２点火手段室から生じた着火エネルギーを第１及び第２燃焼室に導くための連通孔の位置が正対していない、エアバッグ用ガス発生器を提供する。
【００１１】
請求項２の発明では、第１及び第２点火器、第１及び第２伝火薬、及び第１及び第２燃焼室の配置状態が相互に関連づけられているため、請求項１と同様の作用がなされると共に、ガス発生器全体をより小型化することができる。
【００１２】
上記発明では、第１点火手段室から生じた着火エネルギーはハウジング半径方向に放出された後、ハウジング軸方向に進行し、第２点火手段室から生じた着火エネルギーはハウジング軸方向に放出されることが好ましい。
【００１３】
このように着火エネルギーの放出方向が規制された場合、燃焼室内における着火エネルギーの回りが良くなるため、ガス発生剤の着火性が向上される。
【００１４】
請求項１、２の発明は、ガス発生剤として燃焼温度が低いもの、例えば１０００〜１７００℃の範囲のものを使用したときに好適である。
【００１５】
第１及び第２点火器が作動して発生した火炎の進行方向と、連通孔の位置が正対していると、点火器からの着火エネルギーが伝火薬全体を着火させる前に、連通孔から放出され、燃焼室内に流入するという事態が起こる。このとき、伝火薬の内、着火した部分から発生したエネルギー（火炎、高温ガス等）も連通孔から燃焼室に放出されるが、前記エネルギーは伝火薬の一部のみの燃焼によるものであるため、着火性の低い（燃焼温度の低い）ガス発生剤に対しては、着火エネルギー不足となる。従って、このように燃焼温度の低いガス発生剤を使用する際には、請求項１、２の発明のような連通孔配置にすることで、伝火薬着火による全エネルギーをガス発生剤に対して供給することができるので、ガス発生剤の着火燃焼性が向上される。
【００１６】
上記発明では、ハウジング内に内筒が配置され、内筒外に環状の第１燃焼室が設けられ、内筒内の下部側に２つの点火手段が設けられ、更に内筒内の上部側に第２燃焼室が設けられていることが好ましい。
【００１７】
上記発明では、第１燃焼室と第１点火手段室が内筒の下部に設けられた連通孔により連通され、第１燃焼室と第２燃焼室が内筒の上部に設けられた連通孔により連通されていることが好ましい。
【００１８】
上記発明では、第２燃焼室内に燃焼ガスの流れ方向を規制するためのリテーナが配置されており、前記リテーナは第２燃焼室の内壁との間に間隔をおいて配置されていることが好ましい。
【００１９】
リテーナと第２燃焼室の内壁との間に間隙が設けられることにより、第２燃焼室内の燃焼ガスの排出孔（第１燃焼室と第２燃焼室との連通孔）がガス発生剤により塞がれることが防止される。連通孔がガス発生剤で塞がれていると、燃焼初期には第２燃焼室内の内圧が過度に上昇し、連通孔を塞ぐガス発生剤が燃焼したとき、連通孔の開放により、急激に内圧が低下するため、安定した燃焼性が損なわれる恐れがある。
【００２０】
前記リテーナの周壁部には、第２燃焼室内のガスを排出する開口部が設けられており、前記開口部は、第２燃焼室内のガス発生剤の燃焼前には閉塞されていることが好ましい。
【００２１】
作動前にリテーナの開口部を閉塞することで、作動時において、第２燃焼室の内圧を適正な程度にまで高めることができ、その結果、ガス発生剤の初期燃焼性が向上される。
【００２２】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の実施の形態を説明する。図１は、本発明のエアバッグ用ガス発生器の軸方向への断面図である。なお、以下において、上又は下との上下関係を言うときは、図１を基準とする。また、軸方向というときはハウジングの軸方向の意味であり、半径方向というときはハウジングの半径方向の意味である。
【００２３】
ガス発生器１０は、ディフューザシェル１２と、ディフューザシェル１２と共に内部収容空間を形成するクロージャシェル１３とを接合してなるハウジング１１により、外殻容器が形成されている。ディフューザシェル１２とクロージャシェル１３とは、溶接部１４において溶接されている。図１中、他の黒塗り部分も溶接部を示す。
【００２４】
ディフューザシェル１２には、所要数のガス排出口１７、１８が設けられている。ガス排出口１７、１８は、同径でも異なる径でも良い。
【００２５】
ハウジング１１内には略円筒形状の内筒１５が配置されており、内筒１５の上端周縁がディフューザ１２の天井面１２ａに接合され、下端周縁がクロージャシェル１３の底面１３ａに接合されることで、内外空間が分離されている。
【００２６】
内筒１５は、上部（天井面１２ａ側）の内径が、下部（底面１３ａ側）の内径よりも大きくなるように、傾斜壁部１５ａにおいて半径方向に拡大されている。このように内筒１５の形状を図１のように設定することで、ガス発生器１０の高さを低くしたままで、内部空間の容積、特に第１燃焼室２０と第２燃焼室２５の容積比（例えば４／６〜９／１、好ましくは１／１〜８／２の範囲）を調整することができるので好ましい。
【００２７】
内筒１５の外側空間には、環状（又は筒状）の第１燃焼室２０が設けられ、図示していない第１ガス発生剤が収容されている。
【００２８】
内筒１５の上方空間には、第２ガス発生剤（図示せず）が収容された第２燃焼室２５が設けられ、下方空間には、２つの点火手段が収容された点火手段室が設けられている。
【００２９】
第１点火手段室には、第１点火器３１と第１伝火薬３５が配置され、第２点火手段室には、第２点火器３２と第２伝火薬３６が配置されている。第１点火器３１と第２点火器３２は、１つのカラー３３に固定され、半径方向に並列して取り付けられている。なお、ガス発生器１０を含むエアバッグモジュールを車両に取り付ける場合、第１点火器３１と第２点火器３２は、コネクタ及びリードワイヤを介して電源（バッテリー）に接続される。
【００３０】
内筒１５内の上下空間、即ち第２燃焼室２５と第１点火器３１と第２点火器３２との間は、スカート部４１と第２貫通孔５２を有する平板状隔壁４０で分離されている。平板状隔壁４０は、内筒１５の段欠き部１６に下側から嵌め込まれているので、第１点火器３１が作動したときでも、作動時の圧力により、上方に移動することが防止される。スカート部４１の内径は、点火器３２の点火部分の径とほぼ同一に設定されており、スカート部４１が点火部分に密着して包囲しているので、第２点火器３２の作動により生じた火炎は、第２貫通孔５２方向にのみ直進する。
【００３１】
このスカート部４１を有する平板状隔壁４０を配置することにより、第２燃焼室２５と２つの点火器間が分離され、第１点火器３１と第２点火器３２の間が分離されるため、第１点火器３１の作動により生じた着火エネルギー（火炎、燃焼ガス等）が、第２点火手段室内に侵入し、更に第２貫通孔５２を通って第２燃焼室２５内に侵入することが防止される。
【００３２】
第１点火器３１の直上には、アルミニウムカップに充填された第１伝火薬３５が配置されている。内筒１５の側壁下部に設けられた第１貫通孔５１は、第１燃焼室２０と第１点火手段室とを連通するものであり、第１伝火薬３５の中心とほぼ正対する位置に設けられており、第１点火器３１の作動により生じた火炎の進行方向と第１貫通孔５１とは正対していない。第１貫通孔５１には、アルミニウム又はステンレス製のシールテープ６０が内側から貼り付けられている。
【００３３】
このように第１貫通孔５１と第１伝火薬３５が互いに正対するように配置されていることにより、第１点火器３１の作動により、第１伝火薬３５の全体がほぼ均等に燃焼される。
【００３４】
更に、第１貫通孔５１が内筒１５の下部に設けられているため、第１伝火薬３５の燃焼により生じた着火エネルギーは、半径方向に放出された後、上方に向きを変えて流出するので、第１燃焼室２０内に収容された第１ガス発生剤全体の着火性が向上される。
【００３５】
図２により、第２伝火薬３６の配置状態を説明する。図２は、第２伝火薬３６の配置状態を示す平面図である。
【００３６】
第２点火器３２の上方であり、平板状隔壁４０上には、第２伝火薬３６が配置されている。第２伝火薬３６は、複数の伝火孔４６を有するアルミニウム製カップ４５内に充填されている。
【００３７】
アルミニウム製カップ４５は、内部に収容された第２伝火薬３６を保持するものであり、カップ４５の開口周縁には半径方向に延びるフランジ４５ａが形成され、カップ４５は、フランジ４５ａが段欠き部１６と平板状隔壁４０で上下から挟み付けられることで固定されている。このような固定構造であるため、第１及び第２伝火薬が燃焼する際にカップ４５が移動したり、外れたりすることが防止され、その結果、点火器３２からの火炎を第２伝火薬３６全体に確実に導くことができるので、第２伝火薬３６の着火性が向上される。
【００３８】
アルミニウム製カップ４５に設けられた複数の伝火孔４６は、第２点火器３２の作動により生じた火炎の進行方向（第２点火器３２の直上）とは正対していない。
【００３９】
このようにして伝火孔４６の位置を設定することにより、第２点火器３２が作動して生じた火炎が直上方向に進行したとき、前記火炎が伝火孔４６からそのまま放出されることがなく、先に第２伝火薬３６が着火燃焼され、第２伝火薬３６全体の燃焼により生じた着火エネルギーが伝火孔４６から第２燃焼室２５内に放出される。このため、第２燃焼室２５内に収容された第２ガス発生剤の燃焼性が向上される。
【００４０】
第２伝火薬３６が充填されたアルミニウム製カップ４６は、図３に示すように、第２点火器３２の直上部分に凸部４７を有するような形状にすることができる。このような凸部４７を設けることにより、第２伝火薬３６の充填量を増加させることができるので、第２ガス発生剤の着火性がより向上される。なお、この図３に示す形態であっても、図２に示すようにして、凸部４７を除く平面に伝火孔４６を設ける。
【００４１】
第２燃焼室２５内には、有底筒状のリテーナ５５が開口部側を下にした状態で嵌入され、側壁先端部５５ａにおいて第２燃焼室２５の内壁２５ａを押圧することで固定されている。リテーナ５５の側壁と第２燃焼室２５の内壁２５ａ間には、ガス流路が確保できる程度の間隙５７が設けられている。
【００４２】
リテーナ５５は、側壁部に複数の開口部（ノズル）５６を有しており、これらの開口部５６の軸方向の高さ位置は、内筒１５に設けられた第３貫通孔５３の高さ位置よりも上方になるように設定されている。
【００４３】
第３貫通孔５３は、外側からステンレス製のシールテープ５８により閉塞されており、開口部５６もアルミニウム又はステンレス製のシールテープ８０により内側から閉塞しても良い。開口部５６をシールテープ８０で閉塞したとき、２つの点火器の同時作動により、第１燃焼室２０と第２燃焼室２５が同時に燃焼を開始した場合において、第２燃焼室２５の内圧が一時的に高められるので、第２ガス発生剤の着火性が向上される。
【００４４】
リテーナ５５の側壁と第２燃焼室２５の内壁２５ａとの間に間隙５７が設けられていることにより、第３貫通孔５３が第２ガス発生剤により塞がれることが防止される。第３貫通孔５３が第２ガス発生剤で塞がれていると、燃焼初期には第２燃焼室２５内の内圧が過度に上昇し、第３貫通孔５３を塞ぐ第２ガス発生剤が燃焼したとき、第３貫通孔５３の開放により、急激に内圧が低下するため、安定した燃焼性が損なわれる恐れがある。
【００４５】
開口部５６と第３貫通孔５３の高さ位置を調整することにより、図１に示すとおり、第３貫通孔５３が第２燃焼室２５の下方側に設けられている場合であっても、第２ガス発生剤の燃焼により生じたガスは、第２燃焼室２５の上方側にある開口部５６を経た後、第３貫通孔５３から放出されるため、第２燃焼室２５内の全体への火回りが良くなり、第２ガス発生剤の燃焼性が向上される。
【００４６】
第３貫通孔５３の総開口面積は、開口部５６の総開口面積よりも小さく、更にガス排出孔１７、１８の総開口面積よりも小さくなるように設定されている。
【００４７】
第１点火器３１が先に作動し、第２点火器３２が遅れて作動するとき、即ち第１燃焼室２０内の第１ガス発生剤が先に燃焼して、第２燃焼室２５内の第２ガス発生剤が遅れて燃焼するとき、第２燃焼室２５内の圧力は第１燃焼室２０内の圧力よりも十分に高くなる。このため、上記のとおりに第３貫通孔５３の総開口面積を設定することにより、第２燃焼室２５からの燃焼ガスの流出速度が第３貫通孔５３により制御されることになるため、第２燃焼室２５内の燃焼時の内圧も第３貫通孔５３で制御されることになる。よって、第２燃焼室２５内の燃焼状態は、第３貫通孔５３により制御されることになる。なお、第１点火器３１と第２点火器３２が同時に作動する場合、第１燃焼室２０と第２燃焼室２５の圧力差は小さくなるため、依然として第２燃焼室２５の内圧の方が高くなるが、第３貫通孔５３による圧力制御の影響が小さくなる。
【００４８】
このようにして第３貫通孔５３で第２燃焼室２５の燃焼状態を制御することにより、次の作用効果が得られる。
【００４９】
自動車が低速で衝突したときのように、第１点火器３１のみを作動させ第１ガス発生剤のみを燃焼させたとき、残った第２ガス発生剤をそのままにしておくと、自動車の解体時に危険であるため、第１点火器３１の作動から１００ミリ秒程度遅れて第２点火器３２を作動させて第２ガス発生剤を着火燃焼させる場合がある。このような場合、第３貫通孔５３で第２燃焼室２５の燃焼状態が制御できるのであれば、第２ガス発生剤の着火燃焼性が向上され、ＮＯｘ等の有害ガスの発生も抑制されるので好ましい。その他、第２燃焼室２５からの燃焼ガスの発生時間を長くすることで、エアバッグの膨張持続時間を長くするような形態にも対応することができる。
【００５０】
第１燃焼室２０とハウジング１１の周壁（ディフューザシェル周壁１２ｂとクロージャシェル周壁１３ｂ）との間には、燃焼ガスから燃焼残渣を取り除くと共に、燃焼ガスを冷却するための筒状フィルタ６５が配置されている。
【００５１】
筒状フィルタ６５の内側には内側筒状遮蔽板６６が配置され、筒状フィルタ６５と内側筒状遮蔽板６６との間には間隙（第１間隙７１）が設けられている。なお、前記間隙に替えて、筒状フィルタ６５と接する部分（前記間隙と同程度の幅の部分）の内側筒状遮蔽板６６を疎構造にして、事実上、間隙を設けた場合と同様の状態にしても良い。
【００５２】
筒状フィルタ６５の外側には、筒状フィルタ６５の外周面に接した状態で外側筒状遮蔽板６７が配置されている。外側筒状遮蔽板６７とハウジング１１の周壁との間には、間隙（第２間隙７２）が設けられている。この第２間隙７２は、第１間隙７１の幅よりも広く設定することが好ましい。
【００５３】
内側筒状遮蔽板６６と外側筒状遮蔽板６７は、図１のとおり、筒状フィルタ６５の全面を覆うものではない。
【００５４】
内側筒状遮蔽板６６は、一端周縁部が底面１３ａに当接された状態で、筒状フィルタ６５の下部（筒状フィルタ６５の全高に対して１／２〜２／３程度の高さ範囲）を覆っている。但し、内側筒状遮蔽板６６によりフィルタ６５の全面を覆った上で、一部に複数の通気孔を設けることで、図１に示すものと同じような状態にしても良い。
【００５５】
外側筒状遮蔽板６７は、一端周縁部が天井面１２ａに当接された状態で、筒状フィルタ６５の上部（筒状フィルタ６５の全高に対して１／２〜２／３程度の高さ範囲）を覆っている。但し、外側筒状遮蔽板６７によりフィルタ６５の全面を覆った上で、一部に複数の通気孔を設けることで、図１に示すものと同じような状態にしても良い。
【００５６】
このようにしてフィルタ６５、内側筒状遮蔽板６６及び外側筒状遮蔽板６７を配置することにより、燃焼ガスの濾過（燃焼残渣の濾過）及び冷却作用がより向上される。第１燃焼室２０及び第２燃焼室２５で発生した燃焼ガスは、内側筒状遮蔽板６６で覆われていない部分から筒状フィルタ６５に侵入し、一部はそのまま筒状フィルタ６５内を軸方向に移動した後、第２間隙７２に至り、シールテープ（アルミニウム又はステンレス製）７５を破った後、ガス排出口１７、１８から排出される。そして、燃焼ガスの残部は第１間隙７１内を通って移動した後、筒状フィルタ６５内を半径方向に通過して第２間隙７２に至り、ガス排出口１７、１８から排出される。
【００５７】
なお、ガス排出口１７、１８を閉塞するシールテープ７５は、点火器の作動状況（一方のみの作動、両方同時の作動、時間差をおいた作動）により、同時に破裂したり、一部のみ破裂したりするように設定できる。
【００５８】
次に、図１、２により、エアバッグ用ガス発生器１０において、２つの点火器が時間差をおいて作動した場合の動作を説明する。
【００５９】
第１点火器３１の作動により、伝火薬３５が着火燃焼され、着火エネルギーはシールテープ６０を破り、第１貫通孔５１を通って、第１燃焼室２０内に放出される。このとき、着火エネルギーは軸方向に放出された後、第１燃焼室２０内を上方に移動するため、第１ガス発生剤の着火燃焼性が良い。なお、第３貫通孔５３は、ステンレス製シールテープ５８で閉塞されているため、第１燃焼室２０内の燃焼ガスは第２燃焼室２５内に流入することはない。
【００６０】
第１燃焼室２０で発生した燃焼ガスは、上記のとおり、内側筒状遮蔽板６６、筒状フィルタ６５、外側筒状遮蔽板６７の組み合わせ、更に第１間隙７１、第２間隙７２の作用により、シールテープ７５の一部又は全部を破裂させ、ガス排出孔１７、１８の一部又は全部から排出され、エアバッグを膨張させる。
【００６１】
僅かな時間差をおいて、第２点火器３２が作動する。このとき、火炎は第２貫通孔５２を通って直進するが、火炎の進行方向と伝火孔４６とは正対していないので、アルミニウム製カップ４５内に充填された第２伝火薬３６の全てが着火燃焼された後、着火エネルギーが伝火孔４６から第２燃焼室２５内に放出される。
【００６２】
着火エネルギーの侵入により、第２燃焼室２５内の第２ガス発生剤が着火燃焼されるが、上記のとおり、リテーナ５５の開口部５６と第３貫通孔５３の高さ位置が調整されているため、第２燃焼室２５全体への火回りが良く、第２ガス発生剤の着火燃焼性が良い。また、開口部５６をシールテープ８０で閉塞した場合、第２ガス発生剤の初期燃焼性が改善される。
【００６３】
第２燃焼室２５で発生したガスは、第３貫通孔５３から半径方向に放出され、第１燃焼室２０内に流入した後、筒状フィルタ６５を経て、ガス排出孔１７、１８から排出されて、エアバッグを更に膨張させる。
【００６４】
本発明のガス発生器１０では、第１伝火薬３５及び第２伝火薬３６として、伝火薬粉末とガス発生剤成型体との混合物を用いるか、又は第１伝火薬３５として前記混合物を用い、第２伝火薬３６として前記ガス発生剤成型体を用いることができる。前記ガス発生剤成型体は、燃焼時において、１．２モル／１００ｇ以上のガスを発生するものである。
【００６５】
伝火薬粉末としては、ボロン及び硝石の混合物を用いることができ、ガス発生剤成型体としては、第１及び第２ガス発生剤と同じものを使用できるが、それらよりも燃焼温度が高く、着火性の良いものが好ましい。
【００６６】
伝火薬粉末とガス発生剤成型体の質量比は、伝火薬粉末／ガス発生剤成型体＝２／８〜８／２が好ましく、３／７〜７／３がより好ましい。
【００６７】
燃焼室に収容するガス発生剤成型体は、燃焼温度が１０００〜１７００℃のものが好ましく、伝火薬として用いるガス発生剤成型体は、燃焼温度が１７００〜３０００℃のものが好ましい。
【００６８】
【発明の効果】
本発明のエアバッグ用ガス発生器は、ガス発生器の構造を改良したことにより、作動時においてＮＯｘ等の有害ガスの生成量を低減化する目的で、燃焼温度が低く、着火性の悪いガス発生剤を使用した場合であっても、燃焼温度が高く、着火性の良いガス発生剤を使用した場合と同様の着火性を確保できる。
【００６９】
このため、作動時におけるＮＯｘ生成量の低減と共に、作動の確実性を確保することができ、更にガス発生器の小型化も達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図１】エアバッグ用ガス発生器の軸方向への断面図。
【図２】図１における第２伝火薬の配置状態を説明するための概略平面図。
【図３】図２の別実施形態の概略断面図。
【符号の説明】
１０ エアバッグ用ガス発生器
１１ ハウジング
１５ 内筒
２０ 第１燃焼室
２５ 第２燃焼室
３１ 第１点火器
３２ 第２点火器
３５ 第１伝火薬
３６ 第２伝火薬
４５ アルミニウム製カップ
４６ 伝火孔
５２ 第２貫通孔
６５ フィルタ
Claims (8)
- ガス排出孔を有するハウジング、衝撃によって作動する第１及び第２点火手段、及び着火燃焼して燃焼ガスを発生するガス発生剤が収容された第１及び第２燃焼室を含むエアバッグ用ガス発生器であり、
第１点火手段は、第１点火手段室内に第１点火器と第１伝火薬を有し、第１点火手段室内の第１伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第１燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第２点火手段は、第２点火手段室内に第２点火器と第２伝火薬を有し、第２点火手段室内の第２伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第２燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第１及び第２点火器がハウジングの半径方向に並列配置され、第１及び第２燃焼室がハウジング内に同心円状に配置されており、
第１及び第２点火器が作動して生じる火炎の進行方向と、第１及び第２点火手段室から生じた着火エネルギーを第１及び第２燃焼室に導くための連通孔の位置が正対していない、エアバッグ用ガス発生器。 - ガス排出孔を有するハウジング、衝撃によって作動する第１及び第２点火手段、及び着火燃焼して燃焼ガスを発生するガス発生剤が収容された第１及び第２燃焼室を含むエアバッグ用ガス発生器であり、
第１点火手段は、第１点火手段室内に第１点火器と第１伝火薬を有し、第１点火手段室内の第１伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第１燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第２点火手段は、第２点火手段室内に第２点火器と第２伝火薬を有し、第２点火手段室内の第２伝火薬の燃焼による着火エネルギーにより第２燃焼室内のガス発生剤が着火燃焼され、
第１及び第２点火器がハウジングの半径方向に並列配置され、第１及び第２伝火薬がハウジング軸方向に上下配置され、第１及び第２燃焼室がハウジング内に同心円状に配置されており、
第１及び第２点火器が作動して生じる火炎の進行方向と、第１及び第２点火手段室から生じた着火エネルギーを第１及び第２燃焼室に導くための連通孔の位置が正対していない、エアバッグ用ガス発生器。 - 第１点火手段室から生じた着火エネルギーはハウジング半径方向に放出された後、ハウジング軸方向に進行し、第２点火手段室から生じた着火エネルギーはハウジング軸方向に放出される、請求項１又は２記載のエアバッグ用ガス発生器。
- ハウジング内に内筒が配置され、内筒外に環状の第１燃焼室が設けられ、内筒内の下部側に２つの点火手段が設けられ、更に内筒内の上部側に第２燃焼室が設けられている、請求項１〜３のいずれかに記載のエアバッグ用ガス発生器。
- 第１燃焼室と第１点火手段室が内筒の下部に設けられた連通孔により連通され、第１燃焼室と第２燃焼室が内筒の上部に設けられた連通孔により連通されている、請求項１〜４のいずれかに記載のエアバッグ用ガス発生器。
- 第２燃焼室内に燃焼ガスの流れ方向を規制するためのリテーナが配置されており、前記リテーナは第２燃焼室の内壁との間に間隔をおいて配置されている、請求項１〜５のいずれかに記載のエアバッグ用ガス発生器。
- 前記リテーナの周壁部には、第２燃焼室内のガスを排出する開口部が設けられており、前記開口部は、第２燃焼室内のガス発生剤の燃焼前には閉塞されている、請求項６記載のエアバッグ用ガス発生器。
- ガス発生剤の燃焼温度が１０００〜１７００℃である、請求項１又は２記載のエアバッグ用ガス発生器。
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