JP2004180501A - ステロール脂肪酸エステル含有組成物およびその製造方法 - Google Patents

ステロール脂肪酸エステル含有組成物およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】食用油に所定の濃度以上配合され、かつ配合された食用油を低温保存したときに、白濁などを生じないステロール脂肪酸エステル含有組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロールと、5重量%以下の長鎖飽和脂肪酸を含有する脂肪酸および/または中鎖脂肪酸、全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下であるグリセリドおよび/または中鎖脂肪酸グリセリド、あるいは長鎖脂肪酸含有油または該油に由来する脂肪酸などで代表される脂肪酸あるいはグリセリドとを反応させることにより得られる。このステロール脂肪酸エステル含有組成物を、ステロールに換算して2重量%以上となるように食用油に配合し、5℃で24時間放置しても、食用油は澄明な状態が維持される。
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、食用油あるいは食用加工油に、濁り、沈殿などを生じることがなく、安定に配合されるステロール脂肪酸エステル含有組成物、およびその製造方法、並びにこのステロール脂肪酸エステル含有組成物を含有する食用油あるいは食用加工油に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステロールの血中コレステロール値を低減させる機能が注目されており、食用油あるいは食用加工油(例えば、ジグリセロールなどを主体とする食用油)に、ステロールあるいはステロールを主体とするステロール/ステロール脂肪酸エステル混合物を添加した油脂製品(例えば、てんぷら油、サラダ油、ドレッシング、マーガリン等)が販売されている。
【0003】
しかし、遊離のステロールは融点が高く、食用油には溶解しにくいという問題があり、遊離ステロールが2重量%前後食用油脂中に含まれると、溶解できなかった遊離ステロールが浮遊、沈殿して食用油に濁りを生じ、外見が悪くなるばかりでなく、ドレッシング、マヨネーズなどの乳化を要する食品に用いた場合に、乳化しにくくなるなどの問題が生じる。
【0004】
他方、ステロール脂肪酸エステルは、ステロールに比べると融点が低いため、ステロールの代替品として、食用油、食用加工油への使用が検討されている。一般に、食用に供されるステロール脂肪酸エステルは、植物油の製造工程で生じるステロールを脂肪酸でエステル化する、あるいはステロール脂肪酸エステルを回収することによって製造されている。しかし、この植物油に由来するステロール脂肪酸エステルは、純品として精製することが困難で、ステロール脂肪酸エステル含有組成物として供給されている。このようなステロール脂肪酸エステル含有組成物を、食用油あるいは食用加工油にステロールに換算して2重量%程度の濃度で添加し、冷蔵庫で一夜保存すると、食用油に沈殿あるいは白濁が生じ、油の外見上不都合が生じるだけでなく、乳化に際して、不都合が生じる。
【0005】
この問題を検討するため、高純度のステロールを出発原料とし、リパーゼを触媒として脂肪酸でエステル化し、高純度のステロール脂肪酸エステルを製造する方法が開示されている(特許文献1)。しかし、出発原料の高純度ステロールは高価であり、製造されたステロール脂肪酸エステルはステロールより高価となる。さらに、高純度のステロール脂肪酸エステルであっても、2重量%以上食用油に溶解した場合に、白濁が生じるなど、根本的な解決には至っていない。
【0006】
上記の通り、ステロール脂肪酸エステル含有組成物は、植物油の製造工程で生じる副産物から製造される場合が多い(特許文献2〜7)。このような方法として、ビタミン類、ステロール、脂肪酸、中性脂質、炭化水素などを含む混合物を、水を含む反応系でリパーゼ処理し、中性脂質の加水分解と同時にステロールを脂肪酸でエステル化してステロール脂肪酸エステルに変換した後、ステロール脂肪酸エステルを蒸留残渣として回収し、ステロール脂肪酸エステル含有組成物を分離精製する方法が知られている(特許文献2、3、4および7)。しかし、このように精製された高純度のステロール脂肪酸エステルを、食用油あるいは食用加工油に添加し、保存したときに食用油あるいは食用加工油に白濁、沈殿が生じるため、食用油に添加するには、まだ改良の余地がある。
【0007】
【特許文献1】
特公平5−33712号公報
【特許文献2】
特開2000−302777号公報
【特許文献3】
特開2002−153296号公報
【特許文献4】
特開2002−233396号公報
【特許文献5】
特開2002−171993号公報
【特許文献6】
特開2002−233397号公報
【特許文献7】
特開2002−233398号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、食用油、食用加工油などに添加したときに白濁、沈殿を生じることがないステロール脂肪酸エステル含有組成物が望まれている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、高純度のステロール脂肪酸エステルであっても、ステロールに換算して2重量%以上食用油に溶解した場合に、白濁が生じる原因について検討した結果、ステロール−長鎖飽和脂肪酸エステルが食用油中に所定量以上存在すると、冷蔵保存した場合に白濁することを見出した。この結果を基に、食用油、食用加工油に大量に添加しても白濁(曇り)や沈澱を生じさせないステロール脂肪酸エステル含有組成物を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、ステロール脂肪酸エステル含有組成物であって、該組成物をステロールに換算して2.0重量%の濃度となるように食用油中に溶解し、かつ、5℃で24時間放置した場合に、該食用油の澄明な状態が維持され得る、ステロール脂肪酸エステル含有組成物を提供する。
【0011】
本発明は、また、ステロール−長鎖不飽和脂肪酸エステルを主成分とし、ステロール−長鎖飽和脂肪酸エステルを含有するステロール脂肪酸エステル含有組成物であって、該組成物中のステロール−長鎖飽和脂肪酸エステル量が、ステロール−長鎖不飽和脂肪酸エステルとステロール−長鎖飽和脂肪酸エステルとの合計量の5重量%以下である、ステロール脂肪酸エステル含有組成物を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、前記いずれかのステロール脂肪酸含有組成物を含有する食用油または食用加工油であって、ステロール脂肪酸エステルをステロールに換算して2.0重量%以上含有し、かつ、5℃で24時間放置した場合に、該食用油または食用加工油の澄明な状態が維持され得る、食用油または食用加工油を提供する。
【0013】
本発明は、また、ステロール脂肪酸エステル含有組成物を含有する食用油または食用加工油であって、ステロール脂肪酸エステルをステロールに換算して2.0重量%以上含有し、かつステロール長鎖飽和脂肪酸エステルを0.5重量%以下の量で含有する食用油または食用加工油を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、ステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法であって、ステロールと、全脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下である脂肪酸および/または中鎖脂肪酸とを反応させて、ステロール脂肪酸エステルを生成させる工程;を含む、方法を提供する。
【0015】
本発明は、さらに、ステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法であって、ステロールと、全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下であるグリセリドおよび/または中鎖脂肪酸グリセリドとを反応させて、ステロール脂肪酸エステルを生成させる工程;を含む、方法を提供する。
【0016】
本発明は、また、ステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法であって、
ステロールと、全構成脂肪酸中に長鎖飽和脂肪酸を7.5重量%以下の量含有する油、または該油に由来する脂肪酸とを、長鎖不飽和脂肪酸を優先的にエステル化反応あるいはエステル交換反応によりステロールに転移するリパーゼの存在下、エステル化率が85%以下となるように反応させ、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル量が、ステロール長鎖不飽和脂肪酸エステルとステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの合計量の5重量%以下であるステロール脂肪酸エステルを生成させる工程;を含む方法を提供する。
【0017】
好ましい実施態様においては、前記リパーゼが、キャンディダ(Candida)属、またはシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物に由来するリパーゼである。
【0018】
好ましい実施態様においては、前記ステロールが、植物油脱臭留出物に由来する粗ステロールであり、さらに、得られたステロール脂肪酸エステルを蒸留・精製する工程を含む。
【0019】
好ましい実施態様においては、得られたステロール脂肪酸エステルを直接加温して溶解するか、または溶媒に加温溶解し、次いで、徐冷して、沈殿を生じさせる工程;および該沈殿物を回収して、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル量を低下させる工程を含む。
【0020】
別の本発明は、ステロール長鎖不飽和脂肪酸エステルおよびステロール長鎖飽和脂肪酸エステルを含有する画分を直接加温して溶解するか、または溶媒に加温溶解する工程;徐冷し、沈殿を生じさせる工程;および、該沈殿物を回収する工程;を含む、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル量がステロール長鎖不飽和脂肪酸エステルとステロール長鎖飽和脂肪酸エステルとの合計量の5重量%以下であるステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法を提供する。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明で使用される食用油は、5℃で冷蔵保存しても、白濁、沈澱などを生じない油をいい、例えば、大豆油、菜種油、パーム分別油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、ゴマ油、コメ油、アマニ油などが挙げられる。食用加工油とは、食用油には一般に含まれていない他の成分(例えばジグリセリド、中鎖脂肪酸を含む油)を含む油、あるいは食用油の成分の一部をこの成分で置き換えた油をいう。
【0022】
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロール−長鎖不飽和脂肪酸エステルを主成分とし、ステロール−長鎖飽和脂肪酸エステル、その他の物質が含まれる。ここで長鎖脂肪酸というときは、C14〜24の脂肪酸をいう。本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含量が5重量%以下であることが好ましい。4重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることがさらに好ましい。ステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含量が5重量%以下であれば、ステロール脂肪酸エステルをステロールに換算して6重量%以上となるように配合し、冷蔵保存(5℃、24時間)しても、食用油の澄明な状態を維持し得る。ステロール長鎖飽和脂肪酸エステルは融点が高いため、0.5重量%を超えて食用油等に含有されると、冷蔵保存したときに、食用油等に白濁が生じるなど澄明な状態が維持されないと考えられる。
【0023】
ここで、「澄明な状態を維持する」とは、5℃で24時間放置したときに食用油(あるいは食用加工油)に、白濁あるいは沈殿(以下、白濁等という)が生じないことを意味する。
【0024】
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物中に、ステロール脂肪酸エステルは10重量%以上含まれる。好ましくは20重量%以上、50重量%以上、あるいは70重量%以上含まれる。食用油等に添加する観点からは、組成物中にステロール脂肪酸エステルが80重量%以上含まれることが好ましく、90重量%以上含まれることがより好ましく、95重量%以上〜100%未満含まれることがさらに好ましい。
【0025】
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロール脂肪酸エステルが実質的に100%である場合を含む。ステロール脂肪酸エステル以外の成分としては、例えば、ステロール脂肪酸エステル製造の材料(例えば、植物油の製造工程で得られる粗ステロール)に由来する、ステロール脂肪酸エステルと分離できなかった成分が挙げられる。また、用途を考慮して、ステロール脂肪酸エステル以外の成分として、食用油、食用加工油などを用いてもよい(例えば、ステロール脂肪酸エステルに食用油、食用加工油などを配合してもよい)。
【0026】
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物を、食用油等にステロール脂肪酸エステルが3.0重量%(ステロールに換算して2.0重量%)となるように溶解し、5℃で24時間放置しても、本発明の組成物が配合された食用油等は澄明な状態を維持し得る。好ましいステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロール脂肪酸エステルが5.0重量%(ステロールに換算して3.0重量%)、あるいは6.0重量%(ステロールに換算して3.7重量%)となるように食用油等に溶解し、同条件で放置しても、この食用油等が澄明な状態を維持し得るような、組成物である。従来のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、約3重量%以上のステロール脂肪酸エステルが含まれるように食用油等に配合すると澄明な状態が維持できなかった。
【0027】
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロール脂肪酸エステルが3.0重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらには20重量%以上、必要に応じて50重量%以上となるように食用油等に配合される。なお、配合に際しては、配合によって得られる食用油等に含まれるステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの総量が0.5重量%以下、好ましくは0.4重量%以下となるようにすることが、澄明な状態を維持するために好ましい。
【0028】
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロールと脂肪酸とのエステル化反応あるいはエステル交換反応、あるいはステロールとグリセリドのエステル交換反応を利用することによって製造することができる。なお、以下、脂肪酸というときは、遊離脂肪酸および/または脂肪酸エステルを意味し、また、グリセリドというときは、トリグリセリド、ジグリセリドおよび/またはモノグリセリドを意味する場合がある。
【0029】
(ステロール脂肪酸エステルの製造に用いるステロール)
本発明に用いられるステロールには、特に制限はなく、精製された市販のステロールを用いても良い。あるいは、植物油脱臭留出物に由来する粗ステロールを用いてもよい。植物油脱臭留出物に由来する粗ステロールは、従来廃棄されており、これを利用することは、資源の有効利用と廃棄物の減少(環境汚染の低下)につながる。
【0030】
粗ステロールの原料となる植物油脱臭留出物は、植物油を精製する工程中、例えば、133〜700 Pa、220〜260℃などの条件下で行う脱臭工程から留出してくる副産物である。好ましい油としては、大豆油、菜種油、ヒマワリ油、パーム油、綿実油、コメ油などが挙げられるが、これらに限定されない。この植物油脱臭留出物中には、ビタミン類(トコフェロール、トコトリエノールなど)、ステロール、遊離脂肪酸、モノ、ジ、トリグリセリド、炭化水素、ステロール脂肪酸エステルなどが含まれている。
【0031】
植物油脱臭留出物を、例えば1.33〜26.66Pa(0.01〜0.2mmHg)、180〜280℃の条件で分子蒸留に供すると、遊離脂肪酸、ステロール、トコフェロール(および/またはトコトリエノール)、および炭化水素類を主成分とする、分子量250〜500の化合物で構成される低沸点物質を含有する留分が得られる。この留分を、粗ステロール画分(1)として、本発明に用いることができる。
【0032】
得られた粗ステロール画分(1)中には、約50重量%の遊離脂肪酸が含まれている。この遊離脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸含量が所望する含量以下であるなら、得られた粗ステロール画分(1)は、ステロール脂肪酸エステルの合成原料である長鎖脂肪酸とステロールが混合された液として、そのまま、酵素法あるいは化学法により、ステロール脂肪酸エステルを合成する反応に使用される。
【0033】
ステロール脂肪酸エステルの純度を高くするために、粗ステロール画分(1)から、さらに遊離脂肪酸を除去して、粗ステロール画分(2)を得、これをステロールの原料として使用することが、より好ましい。粗ステロール画分(1)から遊離脂肪酸を除去するには、分子蒸留が好ましく、その条件として、例えば、6.65〜66.65Pa(0.05〜0.5mmHg)、160〜250℃が挙げられる。粗ステロール画分(2)は遊離脂肪酸をほとんど含まず、ステロール、トコフェロール(または/およびトコトリエノール)、炭化水素類、グリセリドなどを含む、分子量350〜500の化合物で構成される。
【0034】
また、粗ステロール画分(1)あるいは(2)からトコフェロール(または/およびトコトリエノール)を除去して得られるステロール画分を粗ステロール画分(3)として用いることができる。粗ステロール画分(2)からのトコフェロール(および/またはトコトリエノール)の除去は、当業者が通常用いる方法(溶媒分別法、膜分離法、クロマトグラフィーなど)を用いて行うことができるが、好ましくは溶媒分別法により行われる。
【0035】
粗ステロール画分(2)を溶媒分別して、粗ステロール画分(3)を調製する場合、以下のような方法が例示される。粗ステロール画分(2)に対して、適切な量の溶媒(例えば、3〜10倍容量のエタノールあるいはメタノール)を加え、加温して、粗ステロール画分(2)を完全に溶解させた後、5〜−20℃まで徐冷する。ステロールと炭化水素類は沈殿するが、トコフェロール(および/またはトコトリエノール)は可溶性画分に移行する。ステロールを含む沈殿物は濾過、遠心分離などによって回収することができる。
【0036】
以上のような例示の方法で得られる、植物油脱臭留出物に由来する粗ステロール画分(1)〜(3)などが、ステロール脂肪酸エステルの合成に用いられる。
【0037】
(ステロール脂肪酸エステルの製造に用いる脂肪酸)
本発明に用いられる脂肪酸(遊離脂肪酸あるいは脂肪酸エステル)としては、長鎖飽和脂肪酸の含量が、全脂肪酸中、5重量%以下であることが好ましい。一般的に、長鎖不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸など)含量の高いサフラワー油、菜種油、アマニ油、オリーブ油、大豆油、綿実油、米油などの食用油(以下、まとめて長鎖脂肪酸含有油ということがある)は、長鎖飽和脂肪酸の含量が比較的低いというものの、長鎖飽和脂肪酸の含量は、全構成脂肪酸中の長鎖脂肪酸の5重量%を超える。そのため、これらの長鎖脂肪酸含有油を、例えば、化学法で加水分解し、グリセロールあるいはグリセリドを除くことによって得られる脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸の含量は、5重量%を超える。そこで、有機溶媒の存在および非存在下での低温分別法、蒸留法、尿素付加法、酵素法などの方法を、単独であるいは組み合わせて用いることにより、長鎖飽和脂肪酸の含量を5重量%以下、好ましくは3重量%以下にすることができる。
【0038】
原料である長鎖脂肪酸含有油のグリセリドの全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸の含量が5重量%を超える場合でも、酵素法を用いることにより、長鎖飽和脂肪酸の含量が5重量%以下の脂肪酸(遊離脂肪酸)を調製することができる。この酵素法は、リパーゼの基質特異性(脂肪酸特異性)を利用する。リパーゼには、グリセリドに結合している長鎖飽和脂肪酸と長鎖不飽和脂肪酸とを加水分解するに際して、長鎖飽和脂肪酸よりも、長鎖不飽和脂肪酸を遊離し易いリパーゼが存在する。このような基質特性を有するリパーゼであれば、起源を問わないで使用できる。例えば、キャンディダ(Candida)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属またはアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物などから得られるリパーゼが用いられる。中でも、キャンディダ(Candida)属あるいはゲオトリカム(Geotrichum)属に属する微生物から得られるリパーゼが好ましく用いられる。これらの酵素を触媒として長鎖脂肪酸含有油(原料油)を部分加水分解すると、長鎖不飽和脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸よりも容易に遊離されてくる。その結果、生じた脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸の含量は、原料油に含まれているグリセリドを構成する脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸の含量よりも低くなる。
【0039】
このリパーゼの基質特異性を利用する加水分解反応において、長鎖不飽和脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸よりも容易に遊離される。従って、加水分解率が低いほど、遊離脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸の相対的な量が低下するが、脂肪酸の回収率は低くなる。加水分解率は、酵素量、反応時間、反応温度、水分量、攪拌速度などによって変化するため適宜決定すればよい。加水分解率は85%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がさらに好ましい。
【0040】
リパーゼは反応混液1g当たり1〜5000単位(U)、好ましくは5〜500U添加し、遊離型酵素であっても固定化酵素であっても良い。なお、リパーゼ1Uとはオリーブ油を基質として用いた加水分解反応で、1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素量である。水分量は5〜90%、反応温度は10〜70℃が好ましい。反応時間は、操作性を考慮し2〜72時間が好ましい。この条件下で攪拌しながら反応を行い、加水分解率が85%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下になるような反応条件を設定すると、酵素の脂肪酸特異性が引き出され、原料油のグリセリドを構成する脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%を超えていた場合でも、脂肪酸画分中の長鎖飽和脂肪酸含量を5重量%以下とすることができる。
【0041】
(ステロール脂肪酸エステルの製造に用いるグリセリド)
また、全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下であるグリセリドを用いることもできる。このようなグリセリドは、例えば、有機溶媒の存在下、あるいは非存在下での低温分別法を採用し、長鎖飽和脂肪酸を含有するグリセリドを除くことによって得られる。あるいは、グリセリドを(完全に)加水分解した後、上記リパーゼの基質特異性(脂肪酸特異性)を利用して、エステル化あるいはエステル交換反応することにより、長鎖不飽和脂肪酸を優先的にグリセリドに取りこませることによっても得られる。エステル化率を85%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下になるような反応条件を設定すると、酵素の脂肪酸特異性が引き出され、原料油のグリセリドを構成する脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下とすることができる。
【0042】
また、長鎖飽和脂肪酸を7.5重量%以下の量含有するグリセリドも、酵素(リパーゼ)の基質特異性(脂肪酸特異性)を利用する場合に、使用できる。このようなグリセリドと、長鎖不飽和脂肪酸を優先的にエステル化反応あるいはエステル交換反応によりステロールに転移するリパーゼの存在下、エステル化率が85%以下となるように反応させると、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル量が、ステロール長鎖不飽和脂肪酸エステルとステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの合計量の5重量%以下であるステロール脂肪酸エステルが生成される。例えば、菜種油、アマニ油など、グリセリド中の長鎖飽和脂肪酸含量が比較的低い油は、そのまま、酵素(リパーゼ)によるステロールとのエステル交換反応に原料として用いることができる。
【0043】
(ステロール脂肪酸エステルの製造に用いるその他の原料)
上記長鎖脂肪酸含有油の他に、中鎖脂肪酸(C8〜C12の飽和脂肪酸またはそのエステル)あるいは中鎖脂肪酸のグリセリドをステロール脂肪酸エステル製造の原料として用いることもできる。ステロール−中鎖脂肪酸エステルの融点は、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの融点より低いからである。したがって、中鎖脂肪酸あるいは中鎖脂肪酸のグリセリドをステロール脂肪酸エステル製造の原料として用いることもできる。さらに、長鎖脂肪酸含有油あるいはこの油に由来する脂肪酸を、中鎖脂肪酸あるいはそのグリセリドで希釈して、長鎖飽和脂肪酸の含量を5重量%以下にしたものも原料として用いられる。
【0044】
(ステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造)
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、上記ステロールと、上記(i)5重量%以下の長鎖飽和脂肪酸を含有する脂肪酸および/または中鎖脂肪酸、(ii)全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下であるグリセリドおよび/または中鎖脂肪酸グリセリド、あるいは、(iii) 全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%を超える長鎖脂肪酸含有油または該油に由来する脂肪酸などで代表されるグリセリドあるいは脂肪酸とを反応させることにより得られる。以下、本発明でステロールと反応させる(i)、(ii)の材料を総称して、「長鎖飽和脂肪酸の含有量が低い脂肪酸類」ということがある。
【0045】
ステロールと長鎖飽和脂肪酸の含有量が低い脂肪酸類との反応には、一般に化学法と酵素法があり、反応させる長鎖飽和脂肪酸の含有量が低い脂肪酸類の種類によって、適宜選択すればよい。
【0046】
化学法による場合は、エステル化あるいはエステル交換反応により、ステロール脂肪酸エステルが合成されると考えられる。化学法によるエステル化あるいはエステル交換反応としては、当業者が、通常使用する方法が適用される。例えば、ステロール量に対し、等モル〜10モル等量の長鎖飽和脂肪酸の含有量が低い脂肪酸類を加え、減圧下で窒素ガスを吹き込みながら、150〜300℃で攪拌しつつ、0.5〜24時間加温する。また、この反応においてアルカリ触媒(KOH、NaOH、Na−メチラート、Na−エチラートなどが好ましい)や金属触媒(SnO、ZnOなど)を用いると、反応温度を下げることができ、反応時間も短縮できる。この反応により、ステロール脂肪酸エステルが得られる。反応に用いた触媒は、中和後あるいはそのまま水洗、または助剤を加えて、濾過することにより除去される。
【0047】
酵素法は、例えば、リパーゼの存在下、ステロールと脂肪酸あるいはグリセリドとを反応させる(特許文献2参照)。用いるリパーゼはその起源を問わない。例えば、キャンディダ(Candida)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属またはアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物等に由来するリパーゼが好ましく用いられる。リパーゼによるステロールのエステル化あるいはエステル交換反応は、例えば、ステロールに、水、リパーゼ、および長鎖飽和脂肪酸の含有量が低い脂肪酸類を混合し、反応させることにより行われる。水は、反応に用いるステロール100重量部に対して、水を5〜70重量部、好ましくは10〜50重量部添加される。長鎖飽和脂肪酸の含有量が低い脂肪酸類は、ステロールに対して、等モル〜20モル等量、好ましくは2〜10モル等量添加される。添加するリパーゼの量は反応条件(反応温度、水分量、攪拌速度など)によって変化するため、適宜決定すればよい。リパーゼは、反応混液1g当たり5〜5000単位(U)、好ましくは10〜500Uとなるように添加することが好ましい。必要に応じて、ヘキサン、t-ブタノール、アセトン等の有機溶媒を添加して行ってもよい。反応は、10〜70℃、好ましくは20〜50℃で攪拌しながら行うことが好ましい。反応時間は酵素量、反応温度、脂肪酸量等によって変化するため特に規定できないが、2〜72時間が好ましい。この反応によりステロール脂肪酸エステルが得られる。
【0048】
化学法では、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比率がそのまま、生成するステロール脂肪酸エステルに反映される。これに対して、酵素法では、上記の通り、リパーゼの脂肪酸特異性を反映して、ステロールに、長鎖不飽和脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸よりも転移されやすいため、ステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含量が、原料に含まれている長鎖飽和脂肪酸の含量よりも低くなる。従って、酵素法が好ましく用いられる。
【0049】
以下、本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法を、代表的な、第1〜3方法を基に具体的に説明するが、本発明は、これらの方法に限定されない。
【0050】
第1方法はステロールと5重量%以下の長鎖飽和脂肪酸を含有する脂肪酸および/または中鎖脂肪酸とを反応させる方法である。この方法では、化学法、酵素法ともに用いられる。脂肪酸が遊離脂肪酸である場合はエステル化反応が行われ、脂肪酸エステルである場合は、エステル交換反応が行われる。酵素の基質特異性(脂肪酸特異性)を考慮すると、酵素法が好ましい。長鎖不飽和脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸よりも利用されやすいことから、エステル化において、得られるステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含有量は、化学法による場合よりも低下する。また、エステル交換反応においても、長鎖不飽和脂肪酸エステルの方が、長鎖飽和脂肪酸エステルよりもステロールに転移されやすいことから、ステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含有量が、化学法で得られるよりも、低下するからである。
【0051】
第2方法は、ステロールと全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下であるグリセリドおよび/または中鎖脂肪酸グリセリドとを反応させる方法である。この第2方法においても、化学法および酵素法のいずれの方法も使用できる。この反応においては、エステル交換反応が主に関与していると考えられる。酵素の基質特異性(脂肪酸特異性)を考慮すると、酵素法によるエステル交換反応が好ましい。グリセリドの構成脂肪酸中の長鎖不飽和脂肪酸が遊離されやすいこと、および、遊離した長鎖不飽和脂肪酸がステロールに転移されやすいことから、ステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含有量が、化学法で得られるよりも、低下するからである。
【0052】
第3方法は、ステロールと、全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%を超える長鎖脂肪酸含有油あるいはこの長鎖脂肪酸含有油に由来する脂肪酸とを、長鎖不飽和脂肪酸を優先的にエステル化反応あるいはエステル交換反応によりステロールに転移するリパーゼの存在下、反応させる方法である。リパーゼとしては、キャンディダ(Candida)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属またはアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物に由来するリパーゼが好ましく使用される。最も好ましくは、キャンディダ(Candida)属、およびシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物に由来するリパーゼである。エステル交換率は、85%以下、好ましくは80%以下、さらに好ましくは75%以下となるような反応条件を設定することが、長鎖飽和脂肪酸を5重量%以下とするのに好ましい。この方法により、原料のグリセリドを構成する脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が、6〜7.5重量%程度である場合でも、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含量が5重量%以下のステロール脂肪酸エステルが得られる。
【0053】
(ステロール脂肪酸エステル含有組成物の精製)
上記方法により製造されたステロール脂肪酸エステル含有組成物は、そのまま食用油等に配合することもできる。しかし、一般的には、さらに精製される。粗ステロール、特に植物油脱臭留出物に由来する粗ステロール画分(1)〜(3)を用いて得られるステロール脂肪酸エステルは、さらに精製されることが好ましい。精製法に特に制限はなく、例えば、蒸留、溶媒分別、膜分離、各種のクロマトグラフィー、吸着、低温分別法などによって精製される。
【0054】
粗ステロール画分(1)および粗ステロール画分(2)は、上記の通り、分子量約500以下の化合物で構成されている。この粗ステロール画分(1)または(2)と、長鎖飽和脂肪酸含量の低い油脂類とを反応させた場合、反応液中に含まれる分子量500以上の化合物は、合成産物であるステロール脂肪酸エステルだけである。この点に着目すると、反応液からステロール脂肪酸エステルを精製するには、分子量(沸点)の差を利用した分子蒸留法が好ましい。例えば、1.33〜26.66Pa(0.01〜0.2mmHg)、180〜280℃の条件で蒸留すると、ステロール脂肪酸エステル以外の全化合物を蒸留留分として除去することができる。残渣画分に回収されたステロール脂肪酸エステルは、0.13〜0.67Pa(0.001〜0.005mmHg)、230〜280℃の条件で蒸留すると、留分に効率よく回収することができる。
【0055】
さらに、ステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステル含量が高い場合、低温分別法により、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル含量を低減することができる。低温分別法は、ステロール脂肪酸エステルを適切な温度に直接加熱する(すなわち、無溶媒系で加熱する)か、ステロール脂肪酸エステルを適切な溶媒、例えば、ヘキサン、アセトン、あるいはメタノール、エタノールなどの低級アルコール類に溶解し、適切な温度に加熱してステロール脂肪酸エステルを完全に溶解させた後、低温(10℃以下、好ましくは5℃以下)になるまで徐冷し、その低温で適切な時間静置する。静置後、沈殿物であるステロール脂肪酸エステルを濾過、膜分離などの方法で分離すると、ステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステル含量が低下する。
【0056】
低温分別法に用いる上記溶媒は、単独で用いてもよいし、混合溶媒として用いてもよい。例えば、ヘキサン:エタノール(1:2容量比)などが好ましく用いられる。
【0057】
この低温分別法は、精製ステロールあるいは植物油脱臭留出物に由来する粗ステロール画分から上記方法で合成したステロール脂肪酸エステルに対して適用されるだけでなく、植物油脱臭留出物から粗ステロール画分(1)を留去した蒸留残渣に含まれるステロール脂肪酸エステル含有画分に対しても行うことができる。
【0058】
この蒸留残渣であるステロール脂肪酸エステル画分には、ステロール脂肪酸エステルと中性脂質とが主成分として含まれるため、低温分別法を適用する場合、まず、中性脂質を除くことが好ましい。中性脂質の除去は、酵素法により、中性脂質をグリセロールと脂肪酸にほぼ完全に分解することにより行われる。得られた分解液をさらに蒸留することにより、ステロール脂肪酸エステルを回収する。このステロール脂肪酸エステル画分に上記低温分別法を適用することができ、ステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステル含量をさらに低下させることができる。
【0059】
上記の方法で得られたステロール脂肪酸エステル含有組成物は、食用油または食用加工油に、ステロールに換算して2.0重量%以上となるように溶解し、かつ、5℃で24時間放置したときに、該食用油または食用加工油の澄明な状態が維持され得る。
【0060】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、この実施例が本発明を限定しないことはいうまでもない。
【0061】
なお、実施例において、出発原料、反応生成物などの定量、定性分析は以下の方法によった。ステロール、ステロール脂肪酸エステル、脂肪酸、ジグリセリド、およびトリグリセリドはガスクロマトグラフィー、あるいはTLC/FIDアナライザーにより分析した。ガスクロマトグラフィーは、DB−1htキャピラリーカラム(J&W Scientific社;0.25mm×5m)を用い、120〜280℃は15℃/分で、280〜370℃は10℃/分でそれぞれ昇温し、370℃で1分間維持した。注入口および検出器(FID)の温度は380℃であった。
【0062】
調製例1: ステロールのリノール酸エステル(StLnA)の合成
ステロール(S−タイプ;純度97.8%;タマ生化学製)とリノール酸(純度95.1%;株式会社八代製)をモル比で1:6になるように混合した。この混液168gに水42mLを加え、得られた反応混液1g当たり200UのCandida rugosa由来のリパーゼ(リパーゼOF;名糖産業製)を300mL容量のナス型フラスコに入れ、30℃、500rpmで30時間攪拌しながらエステル化反応を行った(エステル化率:84.3%)。反応後、ステロールおよびステロール脂肪酸エステルをアルカリ条件下でヘキサン抽出した。得られたヘキサン抽出物をヘキサン/酢酸エチル(98:2 容量比)の混合溶媒を用いたシリカゲルクロマトグラフィーに供し、ステロールのリノール酸エステルを精製した(34.0g)。
【0063】
調製例2:ステロールのパルミチン酸エステル(StPA)の合成
ステロールとパルミチン酸(純度99%;東京化成製)をモル比で2:3になるように混合した。この混合物37gとNaOH75mgを100mL容量のナス型フラスコに入れ、235℃、12.0KPa、500rpmで5時間、さらに1.3KPaで3時間攪拌しながらエステル化反応を行った。反応後、40mLの水(90℃)で3回水洗した。回収した油分をヘキサンに溶かし、ヘキサン/酢酸エチル(98:2 容量比)の混合溶媒を用いたシリカゲルクロマトグラフィーを行ってステロールのパルミチン酸エステルを精製した(23.9g)。
【0064】
調製例3:菜種油の全構成脂肪酸の調製
菜種油2kgと水2kgを5L容量の4つ口フラスコに入れ、さらにキャンディダ・ルゴーサ(Candida rugosa)由来のリパーゼ(リパーゼOF;名糖産業製)を反応液に対して70U/gになるように加えた後、30℃、200rpmで攪拌しながら、24時間加水分解した(加水分解率;96.5%)。反応後、80℃まで加温して油層と水層に分離し、油層を回収した。得られた油層(1790g)は遠心式分子蒸留機(MS−150:日本車輌製)を用いて175℃、26.6Paで蒸留し、53gの留分1と1725gの残渣1に分画した。さらに残渣1を230℃、26.6Paで蒸留し、菜種脂肪酸を留分2として回収した(1549g;酸価201mgKOH/g)。蒸留残渣2は170gであった。蒸留精製した菜種脂肪酸中には5.8%の飽和脂肪酸(パルミチン酸4.0%;ステアリン酸1.8%)と94.2%の不飽和脂肪酸が含まれていた(長鎖飽和脂肪酸/(長鎖飽和脂肪酸+長鎖不飽和脂肪酸)×100=5.8)。
【0065】
調製例4:菜種油から飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸の調製
菜種油4kgと水1.2kgを攪拌翼付きリアクター(MDL−1001; 丸菱バイオエンジ製)に入れ、さらにリパーゼOFを反応液に対して20U/gになるように加えた後、30℃、200rpmで攪拌しながら12時間加水分解した(加水分解率73.7%)。反応後、80℃まで加温して油層と水層に分離し、油層を回収した。得られた油層(3679g)は、185℃、26.6Paで蒸留し、662gの留分1と2978gの残渣1に分画した。さらに残渣1を230℃、26.6Paで蒸留し、菜種油由来の飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸を留分2として回収した(1937g;酸価200mgKOH/g)。蒸留残渣2は1012gであった。蒸留精製した菜種脂肪酸中には3.5%の飽和脂肪酸(パルミチン酸2.5%;ステアリン酸1.0%)と96.5%の不飽和脂肪酸が含まれていた(長鎖飽和脂肪酸/(長鎖飽和脂肪酸+長鎖不飽和脂肪酸)×100=3.5)。
【0066】
この結果は、キャンディダ・ルゴーサ(Candida rugosa)由来のリパーゼの飽和脂肪酸に対する活性はC18不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸)に対する活性より低く、特にステアリン酸を認識しにくいことを示している。この性質を利用して加水分解率75%以下に抑えると、ステアリン酸含量は1.7〜1.0%まで減少させることができた。また、蒸留法と組合せることにより、パルミチン酸の含量を4.0〜2.5%まで減少させることができた。
【0067】
実施例1: ステロール脂肪酸エステルのサラダ油への溶解性におよぼすステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの影響
調製例1で合成したステロールのリノール酸エステル(StLnA)に、調製例2で合成したステロールのパルミチン酸エステル(StPA)を、0〜5重量%になるように加え、StLnA/StPA混合物(ステロール脂肪酸エステル含有組成物)を調製した。この組成物を菜種油に対して15重量%になるように添加し、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル(StPA)の含量が0.1〜0.75%となるように調製した。これを、5℃の冷蔵庫に放置し、経時的に2週間、観察した。この放置期間中に形成される白濁等を目視により観察し、その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
Figure 2004180501
【0069】
表1の結果からあきらかなように、菜種油中にステロール長鎖飽和脂肪酸エステル(StPA)が0.45重量%より少ない量含まれている場合、このステロール脂肪酸エステル含有組成物は完全に溶解し、1日目で白濁等が生じることはなかった。ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル(StPA)が0.45重量%では4日目に白濁等が観察され(表1(5))、0.375重量%では10日目に白濁等が観察された(表1(4))が、0.3重量%以下では、14日目でも白濁等は認められなかった(表1(1)〜(3))。他方、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル(StPA)として0.6重量%以上添加すると、ステロール脂肪酸エステル含有組成物は溶解するものの、24時間目までに白濁等が生じた(表1(6)〜(7))。この結果より、ステロール脂肪酸エステル含有組成物を菜種油に添加したときに観察される白濁等は、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステルに起因し、その含量が菜種油に対して0.5重量%以下であれば白濁等は発生しないことが分かった。
【0070】
比較例1:大豆油脱臭留出物由来の粗ステロール(粗ステロール画分(1))のエステル化によるステロール脂肪酸エステルの合成
大豆油脱臭留出物からトコフェロールを含む粗ステロール(粗ステロール画分(1))を、以下のように調製した。薄膜式分子蒸留機(Wiprene2−03型;神鋼パンテック製)を用い、大豆油脱臭留出物1kgを250℃、13.3Paで蒸留し、718gの留分1と、281gの残渣1に分画した。留分1には、遊離脂肪酸53.0重量%、ステロール14.3重量%、トコフェロール11.5重量%が含まれていた。
【0071】
この留分1に、水180mL、および反応液1g当たり100UのリパーゼOFを2L容量の4つ口フラスコに入れ、窒素気流下、35℃、200rpmで攪拌しながら48時間エステル化反応を行った。反応終了後、500mLの水を加えて90℃まで加温し、油分を回収した。回収した油分を250℃、2.7Paで分子蒸留し、トコフェロール、炭化水素、および未反応のステロールを留分として除去した。残渣中に含まれているステロール脂肪酸エステルは、285℃、0.4Paで蒸留し、留分として精製した(収量125g)。得られたステロール脂肪酸エステルの純度は93.2%で、ステロール脂肪酸エステルを構成している脂肪酸の内、長鎖飽和脂肪酸の含量は11.9重量%(パルミチン酸10.4重量%;ステアリン酸1.5重量%)であった。
【0072】
比較例2:大豆油脱臭留出物由来の粗ステロール(粗ステロール画分(2))と菜種油由来の脂肪酸を原料としたステロール脂肪酸エステルの合成(酵素法)
大豆油脱臭留出物からトコフェロールを含む粗ステロール(粗ステロール画分(2))を以下のようにして調製した。薄膜式分子蒸留機(Wiprene2−03型;神鋼パンテック製)を用い、大豆油脱臭留出物1kgを250℃、13.3Paで蒸留し、715gの留分1と、278gの残渣1に分画した。留分1に含まれている遊離脂肪酸を除去するために、留分1を、さらに200℃、13.3Paで蒸留し、425gの留分2と、280gの残渣2(遊離脂肪酸含量3.5重量%)に分画した。残渣2は36.9重量%のステロール、28.6重量%のトコフェロール、3.1重量%の部分グリセリド、および29.8重量%の未同定炭化水素類を含んでいた。
【0073】
残渣2の粗ステロール277g、調製例3で調製した菜種油由来の長鎖飽和脂肪酸5.8重量%の菜種油脂肪酸270g(ステロール量に対して4モル等量)、水137mL、および反応液1g当たり600UのリパーゼOFを2L容量の4つ口フラスコに入れ、窒素気流下、35℃、200rpmで攪拌しながら48時間エステル化反応を行った(ステロールのエステル化率87.8%)。反応後、500mLの水を加えて90℃まで加温し、油分を回収した。回収した油分を250℃、2.7Paで分子蒸留し、トコフェロール、炭化水素、および未反応の脂肪酸とステロールとを留分として除去した。残渣中に含まれているステロール脂肪酸エステルは、285℃、0.4Paで蒸留し、留分として精製した(収量113g)。得られたステロール脂肪酸エステルの純度は92.9%で、ステロール脂肪酸エステルを構成している脂肪酸の内、飽和脂肪酸の含量は6.2重量%(パルミチン酸5.1重量%;ステアリン酸1.1重量%)であった。
【0074】
実施例2:精製ステロールと菜種油由来の全脂肪酸を原料として合成したステロール脂肪酸エステル含有組成物(化学合成)
精製ステロール(S−タイプ;タマ生化学製)と調製例3で調製した菜種油由来の全脂肪酸をモル比で2:3に混合した。この混液400gとNaOH0.8gを2L容量の4つ口フラスコに入れ、窒素気流下、235℃、12.0KPa、200rpmで攪拌しながら5時間反応させた。さらに1.3KPaまで減圧度を高め、3時間攪拌しながらエステル化反応を行った(ステロールのエステル化率99.5%)。反応後、500mLの水(90℃)で3回水洗し、回収した油分を250℃、8.0Paで分子蒸留を行い、未反応の脂肪酸とステロールを留分として除去した。残渣中に含まれているステロール脂肪酸エステルは、285℃,0.4Paで蒸留し、留分として精製した(収量298g)。得られたステロール脂肪酸エステルの純度は94.5重量%で、ステロール脂肪酸エステルを構成している脂肪酸の内、飽和脂肪酸の含量は5.6重量%(パルミチン酸3.9重量%;ステアリン酸,1.7重量%)であった。
【0075】
実施例3:精製ステロールと菜種油由来で飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸を原料として合成したステロール脂肪酸エステル含有組成物(化学合成)
精製ステロール(S−タイプ;タマ生化学製)と調製例4で調製した菜種油由来の飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸を原料として用いた。ステロールと脂肪酸をモル比で2:3に混合した混液400gとNaOH0.8gを2L容量の4つ口フラスコに入れ、実施例2と同じ条件下でエステル化反応を行い(ステロールのエステル化率99.6%)、3回水洗後、分子蒸留によりステロール脂肪酸エステル含有組成物を精製した(収量294g)。得られたステロール脂肪酸エステルの純度は94.9重量%で、ステロール脂肪酸エステルを構成している脂肪酸の内、飽和脂肪酸の含量は3.5重量%(パルミチン酸2.4重量%、ステアリン酸1.1重量%)であった。
【0076】
実施例2および3に示したように、化学法を採用したとき、非常に効率よくエステル化反応が進行する。また、合成されたステロール脂肪酸エステル中の構成脂肪酸の組成は、原料として用いた脂肪酸の組成と全く同じであった。
【0077】
実施例4: 精製ステロールと菜種油由来の全脂肪酸を原料として合成したステロール脂肪酸エステル(酵素法)
精製ステロール(S−タイプ;タマ生化学製)と調製例3で調製した菜種油由来の全脂肪酸をモル比で1:6に混合する。4つ口フラスコ(3L容量)にこの混液1kgと水250mLを混合し、リパーゼOFを反応混液1g当たり100Uになるように入れ、窒素気流下、35℃、200rpmで攪拌しながら48時間エステル化反応を行った(ステロールのエステル化率79.8%)。反応後、500mLの水を加えて90℃まで加温し、油分を回収した。回収した油分を250℃、2.7Paで分子蒸留し、未反応の脂肪酸とステロールを留分として除去した。残渣中に含まれているステロール脂肪酸エステルは、285℃,0.4Paで蒸留し、留分として精製した(収量223g)。得られたステロール脂肪酸エステル含有組成物中のステロール脂肪酸エステルの純度は94.1重量%で、ステロール脂肪酸エステルを構成している脂肪酸の内、飽和脂肪酸の含量は3.7重量%(パルミチン酸2.8重量%;ステアリン酸0.9重量%)であった。
【0078】
調製例4で示したように、リパーゼOF(C. rugosa由来)は、菜種油を構成している脂肪酸の内、飽和脂肪酸、特にステアリン酸を認識しにくい特徴を有している。この特徴は、脂肪酸とステロールとのエステル化反応においても観察された。ステロール脂肪酸エステルの合成率を80%程度に抑えることにより、原料脂肪酸中に存在した4.0重量%のパルミチン酸はステロール脂肪酸エステル中では2.8重量%まで減少し、また1.8重量%存在したステアリン酸はステロール脂肪酸エステル中では0.9重量%まで減少した。
【0079】
実施例5:精製ステロールと菜種油由来で飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸を原料として合成したステロール脂肪酸エステル含有組成物(酵素法)
精製ステロール(S−タイプ;タマ生化学製)と、調製例4で調製した菜種油由来の飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸を原料として用いた。ステロールと脂肪酸をモル比で1:6に混合した混液1kgに水250mLを加えて反応混液とし、反応混液1g当たり100UのリパーゼOFを2L容量の4つ口フラスコに入れ、実施例4と同じ条件でエステル化反応を行い(ステロールのエステル化率82.3%)、反応液から得られた油分から分子蒸留によりステロール脂肪酸エステルを精製した(収量234g)。得られたステロール脂肪酸エステル含有組成物中のステロール脂肪酸エステルの純度は93.9重量%で、ステロール脂肪酸エステルを構成している脂肪酸の内、飽和脂肪酸の含量は2.4重量%(パルミチン酸1.8重量%;ステアリン酸0.6重量%)であった。
【0080】
実施例4と同様に、リパーゼOFの脂肪酸特異性を利用して、ステロールのエステル化率を約80%に制御すると、原料脂肪酸中に含まれていた2.5重量%のパルミチン酸が、ステロール脂肪酸エステル中では1.8重量%まで減少し、1.0重量%含まれていたステアリン酸は0.6重量%まで減少した。以上の結果は、(1)リパーゼを触媒とした菜種油の加水分解を利用して遊離脂肪酸中の飽和脂肪酸含量を下げ、(2)沸点の差を利用した蒸留法によりパルミチン酸含量を下げ、さらに(3)ステロールと遊離脂肪酸とのエステル化反応にリパーゼを利用することにより、ステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含量を効率よく低下させることができることを示している。
【0081】
実施例6:大豆油脱臭留出物由来の粗ステロール(粗ステロール画分(2))と菜種油由来で飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸を原料としたステロール脂肪酸エステルの合成(酵素法)
大豆油脱臭留出物からトコフェロールを含む粗ステロール(粗ステロール画分(2))は以下のようにして調製した。薄膜式分子蒸留機(Wiprene2−03型;神鋼パンテック製)を用い、大豆油脱臭留出物1kgを250℃、13.3Paで蒸留し、714gの留分1と、280gの残渣1に分画した。留分1に含まれている遊離脂肪酸を除去するために、留分1を、さらに200℃、13.3Paで蒸留し、427gの留分2と、281gの残渣2(遊離脂肪酸含量2.2重量%)に分画した。残渣2は37.5重量%のステロール、28.1重量%のトコフェロール、1.3重量%の部分グリセリド、および30.9重量%の未同定炭化水素類を含んでいた。
【0082】
残渣2の粗ステロール277g、調製例4で調製した菜種油由来の飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸270g(ステロール量に対して4モル等量)、水137mL、および反応液1g当たり100UのリパーゼOFを2L容量の4つ口フラスコに入れ、窒素気流下、35℃、200rpmで攪拌しながら48時間エステル化反応を行った(ステロールのエステル化率82.9%)。反応後、500mLの水を加えて90℃まで加温し、油分を回収した。回収した油分を250℃、2.7Paで分子蒸留し、トコフェロール、炭化水素、および未反応の脂肪酸とステロールとを留分として除去した。残渣中に含まれているステロール脂肪酸エステルは、285℃、0.4Paで蒸留し、留分として精製した(収量114 g)。得られたステロール脂肪酸エステルの純度は93.8%で、ステロール脂肪酸エステルを構成している脂肪酸の内、飽和脂肪酸の含量は2.7重量%(パルミチン酸2.1重量%;ステアリン酸0.6重量%)であった。
【0083】
実施例7:大豆油脱臭留出物由来の粗ステロール(粗ステロール画分(3))と菜種油由来の飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸を原料としたステロール脂肪酸エステル含有組成物の合成(酵素法)
大豆油脱臭留出物からの粗ステロール画分(3)は、以下のようにして調製した。実施例6に記載した方法に従って、大豆油脱臭留出物1kgを250℃、13.3Paで蒸留し、723gの留分1と271gの残渣1に分画した。留分1に含まれている遊離脂肪酸を除去するために、これを200℃、13.3Paで蒸留し、442gの留分2と271gの残渣2(遊離脂肪酸含量1.9%)に分画した。この残渣2(265g)に1300mLのエタノールを加え、攪拌しながら−5℃まで冷却し、生成した沈殿物を濾過により回収した(収量279g;乾燥重量184g)。得られた沈殿物中のステロール含量は49.5重量%(乾燥重量換算)であり、トコフェロール、未同定炭化水素類、および部分グリセリドが混在していた。
【0084】
回収した粗ステロール279g、調製例4で調製した菜種油由来で飽和脂肪酸含量の低い脂肪酸247g(ステロール量に対して4モル等量)を2L容量の4つ口フラスコに入れ、100℃、1.3KPaで1時間攪拌しながらエタノールを除去した。次いで、水105mL(反応液に対して20%)、および反応液1g当たり100UのリパーゼOFを加え、窒素気流下、35℃、200rpmで攪拌しながら、48時間、エステル化反応を行った(ステロールのエステル化率,80.2%)。反応後、500mLの水を加えて90℃まで加温し、油分を回収した。回収した油分を250℃、2.7Paで分子蒸留し、未反応の脂肪酸とステロール、およびトコフェロール、炭化水素の混在物質を留分として除去した。残渣中に含まれているステロール脂肪酸エステルは、285℃、0.4Paで蒸留して留分として精製した(収量101g)。得られたステロール脂肪酸エステル含有組成物中のステロール脂肪酸エステルの純度は93.5%で、ステロール脂肪酸エステルを構成している脂肪酸の内、飽和脂肪酸の含量は2.5重量%(パルミチン酸1.8重量%;ステアリン酸0.7重量%)であった。
【0085】
実施例6と7より、ステロールと脂肪酸のエステル化反応に、リパーゼOFを触媒として用いると、反応系中に分子量が500以下の植物油脱臭留出物由来の化合物が含まれていても、エステル化反応は全く妨害されず、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル含量の低いステロール脂肪酸エステルを効率よく製造できることが分かった。
【0086】
実施例8:低温分別法によるステロール脂肪酸エステルの精製
実施例6および7で得られた、ステロール画分を留去したそれぞれの残渣を併せて、出発原料として用いた(実施例6の残渣1:280g;実施例7の残渣1:265g)。この出発原料中には、38.5重量%のステロール脂肪酸エステル、47.3重量%の中性脂質、4.5重量%のステロール、0.9重量%のトコフェロール、0.4重量%の遊離脂肪酸、および8.4重量%の未同定炭化水素類が含まれていた。出発原料530g、水133mL、および反応液1g当たり100UのリパーゼOFを4つ口フラスコに入れ、35℃、200rpmで24時間、攪拌しながらインキュベートした。この反応中に中性脂質はほぼ完全に加水分解された。反応液から回収した油分を250℃、1.3Paで分子蒸留し、268gの留分と226gの残渣に分画した。得られた残渣からステロール脂肪酸エステルを精製するために、285℃、0.5Paで蒸留し、ステロール脂肪酸エステルを留分中に回収した(収量170g;純度93.1%)。得られたステロール脂肪酸エステル中の構成脂肪酸は16.9重量%のパルミチン酸、4.2重量%のステアリン酸、および78.9重量%の不飽和脂肪酸であった。このステロール脂肪酸エステルからステロール長鎖飽和脂肪酸エステルを除去するために、680mLのヘキサン/エタノール(1:2 容量比)を加えて50℃まで加温してステロール脂肪酸エステルを完全に溶解させた。溶解後、0℃まで徐冷し一夜放置した。生成した沈殿物を濾過により除去した後、脱溶媒して81gのステロール脂肪酸エステルを回収した。得られたステロール脂肪酸エステル含有組成物中のステロール脂肪酸エステルの純度は95.3%で、構成脂肪酸はパルミチン酸3.1重量%、ステアリン酸0.8重量%および不飽和脂肪酸96.1重量%であった。これより、飽和脂肪酸のステロール脂肪酸エステルを除去する方法として溶媒−低温分別法が効果的であることが分かった。
【0087】
実施例9:実施例2〜8で製造したステロール脂肪酸エステル含有組成物の菜種油に対する溶解性
実施例2〜8で製造したステロール脂肪酸エステル含有組成物を10重量%あるいは15重量%になるように菜種油に加え、これを、5℃の冷蔵庫に放置し、経時的に2週間、観察した。この放置期間中に形成される白濁等を目視により観察した。その結果を、各菜種油中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの含有量とともに、表2および表3に示す。表2はステロール脂肪酸エステル含有組成物を10重量%添加したときの結果であり、表3はステロール脂肪酸エステル含有組成物を15重量%添加したときの結果である。ステロール脂肪酸エステル含有組成物を10重量%添加した場合、いずれの菜種油にも、ステロール脂肪酸エステルは9重量%以上(ステロール換算で5.5重量%以上)含まれている。
【0088】
【表2】
Figure 2004180501
【0089】
【表3】
Figure 2004180501
【0090】
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロール脂肪酸エステルとして9重量%以上含有されても完全に溶解した。白濁等の形成は、菜種油中に存在するステロール長鎖飽和脂肪酸エステル含量と相関し、その含量を0.3重量%以下に抑えると、少なくとも5℃で2週間放置しても、白濁等は形成されないことが分かった。
【0091】
以上の結果より、ステロール脂肪酸エステル含有組成物を菜種油に溶解させ、低温で放置したときに発生してくる白濁等は、ステロール脂肪酸エステル含有組成物中に含まれている飽和脂肪酸のステロール脂肪酸エステルの含量に大きく影響されると結論した。
【0092】
【発明の効果】
本発明のステロール脂肪酸エステル含有組成物は、ステロール脂肪酸エステル中のステロール長鎖飽和脂肪酸エステル含量を低くすることによって、ステロールに換算して2重量%となるように食用油に溶解し、かつ、5℃で24時間放置しても白濁、あるいは沈殿を生じることはないため、ステロールよりも食用油脂に大量に添加され得、血中コレステロール値の低減効果がさらに発揮される。

Claims (12)

  1. ステロール脂肪酸エステル含有組成物であって、該組成物をステロールに換算して2.0重量%の濃度となるように食用油中に溶解し、かつ、5℃で24時間放置した場合に、該食用油の澄明な状態が維持され得る、ステロール脂肪酸エステル含有組成物。
  2. ステロール−長鎖不飽和脂肪酸エステルを主成分とし、ステロール−長鎖飽和脂肪酸エステルを含有するステロール脂肪酸エステル含有組成物であって、該組成物中のステロール−長鎖飽和脂肪酸エステル量が、ステロール−長鎖不飽和脂肪酸エステルとステロール−長鎖飽和脂肪酸エステルとの合計量の5重量%以下である、ステロール脂肪酸エステル含有組成物。
  3. 請求項1または2に記載のステロール脂肪酸エステル含有組成物を含有する食用油または食用加工油であって、ステロール脂肪酸エステルをステロールに換算して2.0重量%以上含有し、かつ、5℃で24時間放置した場合に、該食用油または食用加工油の澄明な状態が維持され得る、食用油または食用加工油。
  4. ステロール脂肪酸エステル含有組成物を含有する食用油または食用加工油であって、ステロール脂肪酸エステルをステロールに換算して2.0重量%以上含有し、かつステロール長鎖飽和脂肪酸エステルを0.5重量%以下の量で含有する食用油または食用加工油。
  5. ステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法であって、
    ステロールと、全脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下である脂肪酸および/または中鎖脂肪酸とを反応させて、ステロール脂肪酸エステルを生成させる工程;を含む、方法。
  6. ステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法であって、
    ステロールと、全構成脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸が5重量%以下であるグリセリドおよび/または中鎖脂肪酸グリセリドとを反応させて、ステロール脂肪酸エステルを生成させる工程;を含む、方法。
  7. ステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法であって、
    ステロールと、全構成脂肪酸中に長鎖飽和脂肪酸を7.5重量%以下の量含有する油、または該油に由来する脂肪酸とを、長鎖不飽和脂肪酸を優先的にエステル化反応あるいはエステル交換反応によりステロールに転移するリパーゼの存在下、エステル化率が85%以下となるように反応させ、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル量が、ステロール長鎖不飽和脂肪酸エステルとステロール長鎖飽和脂肪酸エステルの合計量の5重量%以下であるステロール脂肪酸エステルを生成させる工程;を含む、方法。
  8. 前記リパーゼが、キャンディダ(Candida)属、またはシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物に由来するリパーゼである、請求項7に記載の方法。
  9. 前記ステロールが、植物油脱臭留出物に由来する粗ステロールである、請求項5から8のいずれかの項に記載の方法。
  10. さらに、得られたステロール脂肪酸エステルを蒸留する工程を含む、請求項9に記載の方法。
  11. さらに、得られたステロール脂肪酸エステルを直接加温して溶解するか、または溶媒に加温溶解し、次いで、徐冷して、沈殿を生じさせる工程;および該沈殿物を回収して、ステロール長鎖飽和脂肪酸エステル量を低下させる工程を含む、請求項4から9のいずれかの項に記載の方法。
  12. ステロール−長鎖不飽和脂肪酸エステルおよびステロール−長鎖飽和脂肪酸エステルを含有する画分を直接加温して溶解するか、または溶媒に加温溶解する工程;徐冷し、沈殿を生じさせる工程;および、該沈殿物を回収する工程;を含む、ステロール−長鎖飽和脂肪酸エステル量がステロール−長鎖不飽和脂肪酸エステルとステロール−長鎖飽和脂肪酸エステルとの合計量の5重量%以下であるステロール脂肪酸エステル含有組成物の製造方法。
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